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  • 特許-遮炎性織物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】遮炎性織物
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/513 20210101AFI20220308BHJP
   D03D 15/267 20210101ALI20220308BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20220308BHJP
   D03D 15/567 20210101ALI20220308BHJP
【FI】
D03D15/513
D03D15/267
D03D15/283
D03D15/567
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018516201
(86)(22)【出願日】2017-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2017035047
(87)【国際公開番号】W WO2018066438
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2016197071
(32)【優先日】2016-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原田 大
(72)【発明者】
【氏名】土倉 弘至
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/102090(WO,A1)
【文献】特開2015-229805(JP,A)
【文献】特開2007-092209(JP,A)
【文献】特開2017-201063(JP,A)
【文献】特開2014-159666(JP,A)
【文献】サンバーナー,東邦テキスタイル株式会社[オンライン],[検索日 2017.12.07]インターネット:<URL:http://www.tohotextile.co.jp/material/sumburner.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D03D1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温収縮率が3%以下の非溶融繊維Aと、JIS K 7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上でありかつ融点が非溶融繊維Aの発火温度よりも低い融点を有する熱可塑性繊維Bとを、経糸および緯糸に含む織物であって、前記非溶融繊維Aが、耐炎化繊維、メタアラミド系繊維、ガラス繊維およびこれらの混合物の群から選択され、前記熱可塑性繊維Bが、ポリフェニレンサルファイド樹脂からなる繊維であり、該経糸および緯糸の破断伸度が5%よりも大きく、かつ、織物の完全組織における投影面積において、前記非溶融繊維Aの面積率が10%以上かつ前記熱可塑性繊維Bの面積率が5%以上かつJIS L 1096-A法(2010年)に準拠する厚さが0.08mm以上である遮炎性織物。
【請求項2】
前記非溶融繊維Aおよび前記熱可塑性繊維B以外の繊維Cを織物の完全組織における投影面積の面積率で20%以下含有する請求項1に記載の遮炎性織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮炎性織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、難燃性が求められる用途では、ポリエステル、ナイロン、セルロース系繊維に難燃効果のある薬剤を原糸段階で練りこむ方法や後加工で付与する方法が採用されてきた。
【0003】
難燃剤としては、ハロゲン系やリン系が一般的に用いられるが、近年では、環境規制により、ハロゲン系薬剤からリン系薬剤への置き換えが進んでいる。しかし、リン系薬剤では、従来のハロゲン系薬剤の難燃効果に及ばないものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
そこで、より高い難燃性を付与する方法として、高い難燃性を有したポリマーを複合する方法がある。例えば、炭化型難燃ポリマーのメタアラミドと難燃処理したポリエステルおよびモダクリル繊維の複合体(特許文献1)や、メタアラミドとPPSの複合体(特許文献2)、あるいは、耐炎化糸と難燃処理したポリエステルの複合体(特許文献3)などが知られている。
【文献】特開平11-293542号公報
【文献】特開平01-272836号公報
【文献】特開2005-334525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の難燃性能は、JISに規定されたLOI値や、消防法に定められた防炎規格によるものであって、いずれも着火源や加熱時間が規格化された条件下での性能であり、実際の火災のように長時間炎に晒された際の延焼防止に際して、十分とはいえなかった。長時間の延焼防止効果を付与するためには、難燃素材の厚みを十分に厚くしたり、あるいは不燃性の無機材料との複合化を余儀なくされ、そのために風合いが大きく損なわれ、柔軟性が乏しくなるほか、曲面上への施工性が低下するといった問題点を有していた。
【0006】
特許文献1記載の方法では、柔軟性があり、さらにLOI値も高く難燃性に優れているものの、メタアラミドは温度上昇によって急激に収縮・硬化してしまうため、局所的に応力集中が発生してテキスタイル形態を保つことができず、長時間炎を遮断する性能に欠ける。
【0007】
また、特許文献2では、メタアラミドとPPSを複合することで耐薬品性に優れ、LOI値も高いことが開示されているが、糸状での評価であり、長時間炎を遮断するためのテキスタイル形態について、記載されていない。また、かかる技術をそのまま用いてテキスタイル形態としても長時間炎を遮断する性能において十分とはいえない。
【0008】
さらに、特許文献3では、耐炎化糸と難燃ポリエステルの織物が開示されているが、経糸は難燃ポリエステルであるため、難燃性は示すものの、長時間の接炎によって織物構造が崩壊してしまい、炎を遮断する性能に欠ける。
【0009】
本発明は、このような従来の難燃性布帛の有する課題に鑑みてなされたものであって、高い遮炎性を備えた遮炎性織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の遮炎性織物は上記課題を解決するため、次の構成を有する。すなわち、
高温収縮率が3%以下の非溶融繊維Aと、JIS K 7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上でありかつ融点が非溶融繊維Aの発火温度よりも低い融点を有する熱可塑性繊維Bとを、経糸および緯糸に含む織物であって、前記非溶融繊維Aが、耐炎化繊維、メタアラミド系繊維、ガラス繊維およびこれらの混合物の群から選択され、前記熱可塑性繊維Bが、ポリフェニレンサルファイド樹脂からなる繊維であり、該経糸および緯糸の破断伸度が5%よりも大きく、かつ、織物の完全組織における投影面積において、前記非溶融繊維Aの面積率が10%以上かつ前記熱可塑性繊維Bの面積率が5%以上かつJIS L 1096-A法(2010年)に準拠する厚さが0.08mm以上である遮炎性織物、である。
【0011】
本発明の遮炎性織物は、前記非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維B以外の繊維Cを織物の完全組織における投影面積の面積率で20%以下含有することが好ましい。
【0012】
本発明の遮炎性織物においては、前記非溶融繊維Aが、耐炎化繊維、メタアラミド系繊維、ガラス繊維およびこれらの混合物の群から選択され
【0013】
本発明の遮炎性織物においては、前記熱可塑性繊維Bが、ポリフェニレンサルファイド樹脂からなる繊維であ
【発明の効果】
【0014】
本発明の遮炎性織物は、上記の構成を備えることにより、高い遮炎性を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】遮炎性を評価するための燃焼試験を説明するための図である。
図2】織物の完全組織およびそれぞれの繊維の投影面積を説明するための平織物の完全組織の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明について説明する。
【0017】
《高温収縮率》
本発明において高温収縮率とは、不織布の原料となる繊維を標準状態(20℃、相対湿度65%)中で12時間放置後、0.1cN/dtexの張力を与えて原長Lを測定し、その繊維に対して荷重を付加せずに290℃の乾熱雰囲気に30分間暴露し、標準状態(20℃、相対湿度65%)中で十分冷却したうえで、さらに繊維に対して0.1cN/dtexの張力を与えて長さLを測定し、LおよびLから以下の式で求められる数値である。
【0018】
高温収縮率=〔(L-L)/L〕×100(%)
本発明の遮炎性織物において、非溶融繊維Aの高温収縮率は3%以下である。炎が近づき熱が加わると熱可塑性繊維が溶融し、溶融した熱可塑性繊維が非溶融繊維(骨材)の表面に沿って薄膜状に広がる。さらに温度が上がると、やがて、両繊維は炭化するが、非溶融繊維の高温収縮率が3%を超えると、高温となった接炎部近辺は収縮しやすく、また、炎の接していない低温部と高温度部の間で生じた熱応力による織物の破断が生じやすいので、長時間炎を遮断することができない。この点で、高温収縮率は低く、織物を構成する糸の破断伸度は高い方が好ましいが、縮まずとも熱によって大幅に膨張しても織物構造が崩れ、その部分から炎が貫通する原因となるので、高温収縮率は-5%以上であることが好ましい。なかでも高温収縮率が0~2%であることが好ましい。
【0019】
《LOI値》
LOI値は、窒素と酸素の混合気体において、物質の燃焼を持続させるのに必要な最小酸素量の容積百分率であり、LOI値が高いほど燃え難いと言える。そこで、本発明の遮炎性織物の熱可塑性繊維BのJIS K 7201-2(2007年)に準拠するLOI値は25以上である。熱可塑性繊維BのLOI値が25に満たないと、熱可塑性繊維は燃えやすく、火源を離しても消火しにくく、延焼を防ぐことができない。LOI値は高い方が好ましいが、現実に入手可能な物質のLOI値の上限は65程度である。
【0020】
《発火温度》
発火温度は、JIS K 7193(2010年)に準拠した方法で測定した自然発火温度である。
【0021】
《融点》
融点は、JIS K 7121(2012年)に準拠した方法で測定した値である。10℃/分で加熱した際の融解ピーク温度の値をいう。
【0022】
《糸の破断伸度》
糸の破断伸度は、JIS L 1095(2010年)に準拠した方法で測定したものをいう。具体的には、0.2cN/dtexの初荷重を加えて、つかみ間隔200mm、引張速度100%歪/分の条件で引張試験を行ない、糸が破断した時点の伸度とする。50回試験をおこない、掴み部分で破断したものを除いたものの平均値を採用する。
【0023】
本発明の遮炎性織物を構成する経糸および緯糸の破断伸度は5%以上である。経糸および緯糸の破断伸度が5%に満たないと、接炎している高温部と炎の接していない低温部との間で生じた熱応力による織物の破断が生じやすいので、長時間炎を遮断することができず、張力をかけて施工することは不可能である。
【0024】
《非溶融繊維A》
本発明において、非溶融繊維Aとは炎にさらされた際に液化せず、繊維形状を保つ繊維をいい、700℃の温度で液化および発火しないものが好ましく、800℃以上の温度で液化および発火しないものがさらに好ましい。上記高温収縮率が本発明で規定する範囲にある非溶融繊維として、例えば、耐炎化繊維、メタアラミド系繊維およびガラス繊維を挙げることができる。耐炎化繊維は、アクリロニトリル系、ピッチ系、セルロース系、フェノール系繊維等から選択される繊維を原料として耐炎化処理を行った繊維である。これらは単独で使用しても2種類以上を同時に使用してもよい。なかでも、高温収縮率が低くかつ、後述する熱可塑性繊維Bが接炎時に形成する皮膜による酸素遮断効果によって、炭素化が進行し、高温下での耐熱性がさらに向上する耐炎化繊維が好ましく、各種の耐炎化繊維の中で比重が小さく柔軟で難燃性に優れる繊維としてアクリロニトリル系耐炎化繊維がより好ましく用いられ、かかる耐炎化繊維は前駆体としてのアクリル系繊維を高温の空気中で加熱、酸化することによって得られる。市販品としては、後記する実施例および比較例で使用した、Zoltek社製耐炎化繊維“PYRON”(登録商標)の他、東邦テナックス(株)“パイロメックス”(Pyromex)(登録商標)等が挙げられる。また、一般にメタアラミド系繊維は高温収縮率が高く、本発明で規定する高温収縮率を満たさないが、高温収縮率を抑制処理することにより本発明の高温収縮率の範囲内としたメタアラミド系繊維であれば、好ましく使用することができる。さらに、一般にガラス繊維は破断伸度が小さく、本発明で規定する破断伸度の範囲を満たさないが、紡績糸として用いたり、異素材と複合することで織物を構成する糸として本発明の破断伸度内としたガラス繊維であれば、好ましく用いることができる。
【0025】
また本発明で好ましく用いられる非溶融繊維は、非溶融繊維単独あるいは異素材と複合する方法で用いられ、フィラメント、ステープルのいずれの形態であってもよい。ステープルを紡績して用いる場合には、繊維長は30~60mmの範囲内にあることが好ましく、38~51mmの範囲内にあることがより好ましい。繊維長が38~51mmの範囲内であれば、一般的な紡績工程で紡績糸とすることが可能であり、異素材と混紡することが容易である。また、非溶融繊維の単繊維の太さについても、特に限定されるものではないが、紡績工程の通過性の点から、単繊維繊度は0.1~10dtexの範囲内にあるものが好ましい。
【0026】
《熱可塑性繊維B》
本発明で用いる熱可塑性繊維Bは、前記LOI値が25以上であり、かつ融点が非溶融繊維Aの発火温度よりも低い融点を有する。熱可塑性繊維BのLOI値が25に満たないと、空気中での燃焼を抑制できず、ポリマーが炭化しにくい。熱可塑性繊維Bの融点が非溶融繊維Aの発火温度以上であると、溶融したポリマーが非溶融繊維Aの表面および繊維間で皮膜を形成する前に発してしまうので、遮炎効果は期待できない。熱可塑性繊維Bの融点は、非溶融繊維Aの発火温度よりも200℃以上低いことが好ましく、300℃以上低いことがさらに好ましい。具体的には、熱可塑性繊維Bは、ポリフェニレンサルファイド樹脂で構成される繊維であるOI値の高さおよび融点の範囲および入手の容易さの点から、リフェニレンサルファイド繊維(以下、PPS繊維ともいう)とするものである。
【0027】
また本発明で用いられる熱可塑性繊維Bは、フィラメント、ステープルのいずれの形態であってもよい。ステープルを紡績して用いる場合には、繊維長は30~60mmの範囲内にあることが好ましく、38~51mmの範囲内にあることがより好ましい。繊維長が38~51mmの範囲内であれば、一般的な紡績工程で紡績糸とすることが可能であり、異素材と混紡することが容易である。また、熱可塑性繊維Bの単繊維の太さについても、特に限定されるものではないが、紡績工程の通過性の点から、単繊維繊度は0.1~10dtexの範囲内にあるものが好ましい。
【0028】
フィラメントとして用いる場合の総繊度、紡績糸とする場合の番手としては特に制限はなく、本発明の規定を満たす範囲であればよく、所望の厚さを考慮して適宜選択すればよい。
【0029】
本発明用いられるPPS繊維は、ポリマー構成単位が-(C-S)-を主な構造単位とする重合体からなる合成繊維である。これらPPS重合体の代表例としては、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPPS重合体としては、ポリマーの主要構造単位として、-(C-S)-で表されるp-フェニレン単位を、好ましくは90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが望ましい。質量の観点からは、p-フェニレン単位を80質量%、さらには90質量%以上含有するポリフェニレンスルフィドが望ましい。
【0030】
また本発明用いられるPPS繊維は、PPS繊維単独あるいは異素材と複合する方法で用いられ、フィラメント、ステープルのいずれの形態であってもよい。ステープルを紡績して用いる場合には、繊維長は30~60mmの範囲内にあることが好ましく、38~51mmの範囲内にあることがより好ましい。繊維長が38~51mmの範囲内であれば、一般的な紡績工程で紡績糸とすることが可能であり、異素材と混紡することが容易である。また、PPSの単繊維の太さについても、特に限定されるものではないが、紡績工程の通過性の点から、単繊維繊度は0.1~10dtexの範囲内にあるものが好ましい。
【0031】
本発明で用いられるPPS繊維の製造方法は、上述のフェニレンサルファイド構造単位を有するポリマーをその融点以上で溶融し、紡糸口金から紡出することにより繊維状にする方法が好ましい。紡出された繊維は、そのままでは未延伸のPPS繊維である。未延伸のPPS繊維は、その大部分が非晶構造であり、破断伸度は高い。一方、このような繊維は熱による寸法安定性が乏しいので、紡出に続いて熱延伸して配向させ、繊維の強力と熱寸法安定性を向上させた延伸糸が市販されている。PPS繊維としては、“トルコン”(登録商標)(東レ(株)製)、“プロコン”(登録商標)(東洋紡(株)製)など、複数のものが流通している。
【0032】
本発明においては、本発明の範囲を満たす範囲で上記未延伸のPPS繊維と延伸糸を併用することができる。
【0033】
《非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維B以外の繊維C》
非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維B以外の繊維Cを、編物に特定の性能をさらに付加するために含有させてもよい。例えば、編物の吸湿性や吸水性を向上させるために、ビニロン繊維、熱可塑性繊維B以外のポリエステル繊維、ナイロン繊維等を用いてもよい。また、ストレッチ性を付与するために、スパンデックス繊維を用いてもよい。スパンデックス繊維の例としては、東レオペロンテックス(株)の“ライクラ”(登録商標)、旭化成株式会社の“ロイカ“(登録商標)、ヒョスンコーポレーションの“クレオラ“(登録商標)等が挙げられる。繊維Cの含有量は本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、遮炎性織物の完全組織における投影面積において、前記非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維B以外の繊維Cの面積率が20%以下であるのが好ましく、10%以下であるのがより好ましい。
【0034】
本発明の織物の厚さはJIS L 1096(2010年)に準拠する方法で測定したもので、0.08mm以上である。織物の厚さは0.3mm以上であることが好ましい。織物の厚さが0.08mmに満たないと、十分な遮炎性能を得ることができない。
【0035】
本発明の織物の密度は、特に制限はなく、要求される遮炎性能によって適宜選択され、密度が小さいと空気層が増加することで断熱性が向上するが、扱いやすさと目標とする遮炎性が得られる範囲であればよい。
【0036】
本発明の織物に用いる糸の形態として、紡績糸、フィラメント糸のいずれも用いることができる。
【0037】
紡績糸の場合には、非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維Bそれぞれを紡績糸としても良いし、本発明の範囲内で非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維Bを所定の割合で混紡しても良い。繊維同士の絡合性を十分得るためには、繊維のけん縮数は7個/2.54cm以上であることが好ましいが、けん縮数が多すぎると梳綿機によってスライバーとする工程の通過性が悪くなるため、30個/2.54cm未満であることが好ましい。非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維Bを混紡する場合には、いずれも同じ長さの短繊維を用いることが、より均一な紡績糸を得ることができるので好ましい。なお同じ長さは厳密に同じでなくてもよく、非溶融繊維Aの長さに対し±5%程度の差異があってもよい。かかる観点から、非溶融繊維の繊維長も、溶融繊維の繊維長も繊維長は30~60mmの範囲内にあることが好ましく、38~51mmの範囲内にあることがより好ましい。混紡糸は、例えば、まず開繊装置を用いて均一に混合し、次いで、梳綿機によってスライバーとし、練条機で延伸し、粗紡、精紡する工程を経ることで得られる。得られた紡績糸を複数本撚合わせても良い。
【0038】
フィラメントの場合には、非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維Bのそれぞれの仮撚り加工糸、あるいはエア混繊や複合仮撚りなどの方法により非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維Bを複合したものを用いることができる。
【0039】
本発明の織物は、上記で得られた紡績糸あるいはフィラメント糸を用いて、エアージェット織機、ウォータージェット織機、レピア織機、プロジェクタイル織機、シャトル織機などを使用して製織する。経糸の準備工程において、経糸糊付けを行ってもよいし、糊付け無しでもよいが、耐炎化糸繊維を含んだ糸を用いる場合には、耐炎化糸の製織時の毛羽立ちを抑制するために、糊付けをおこなうことが好ましい。織物組織は、風合いや意匠性に合わせて平織り、綾織り、繻子織りやそれらの変化組織を選択すればよい。さらに、二重織りなどの多重織り組織としてもよい。
【0040】
《面積率》
織物を構成する糸および織り構造は、織物の完全組織における投影面積において、前記非溶融繊維Aの面積率が10%以上かつ前記熱可塑性繊維Bの面積率が5%である。非溶融繊維Aの面積率が10%に満たないと、骨材としての機能が不十分となる。非溶融繊維Aの面積率は15%以上であるのが好ましい。熱可塑性繊維Bの面積率が5%に満たないと、骨材の非溶融繊維の間に熱可塑性繊維が膜状に十分広がらなくなる。熱可塑性繊維Bの面積率は10%以上であるのが好ましい。
【0041】
以下、面積率の算出法について説明する。
【0042】
ここで、織物の完全組織とは、その織物を構成する最小の繰返し単位のことをいう。織物を構成する糸の綿番手をNとし、糸の断面が円形であるとみなして換算すると、糸の密度がρ(g/cm)のとき、糸の直径D(cm)は、次式で算出される。繊維の密度ρは、ASTM D4018-11に準拠する方法で測定した。
【0043】
D=0.08673/{(N×ρ)1/2
ここで、織物を構成する糸が2種類の繊維αと繊維βの複合体である場合には、糸の密度ρ´は、それぞれの繊維の密度をραおよびρβ、重量混率をWtαおよびWtβとしたとき、次式で算出される。
【0044】
ρ´=(ρα×Wtα)+(ρβ×Wtβ
ただし、Wtα+Wtβ=1である。
【0045】
例えば、平織り組織の場合には、経糸、緯糸ともに2本ずつで表現される。図2は織物の完全組織およびそれぞれの繊維の投影面積を説明するための平織物の完全組織の概念図である。経糸の糸密度をn(本/インチ(2.54cm))、緯糸の糸密度をn(本/インチ(2.54cm))としたとき、織物の完全組織のタテ方向の長さ21およびヨコ方向の長さ22は、それぞれ(2.54×2)/n(cm)および(2.54×2)/n(cm)となり、織物の完全組織の投影面積Sは、次式で算出される。
【0046】
S={(2.54×2)/n}×{(2.54×2)/n}(cm
織物を構成する糸の断面を円形と仮定し、製織による糸の変形はないと仮定すると、織物を構成する糸の投影直径はDとなる。経糸の直径と緯糸の直径をそれぞれDおよびDとすると、経糸および緯糸が織物の完全組織中に占める面積SおよびSは、それぞれ、次式、次次式で算出される。
【0047】
=2×[{(2.54×2×D)/n}-(D×D)]
=2×[{(2.54×2×D)/n}-(D×D)]
織物を構成する糸は2種類の繊維αと繊維βから成っており、それぞれの重量混率がWtα、Wtβであるので、織物を構成する糸中に含まれる繊維αと繊維βが占める体積VαとVβには次の関係が成り立つ。
【0048】
(ρα×Vα):(ρβ×Vβ)=Wtα:Wtβ
つまり、
(Vα/Vβ)=(ρβ×Wtα)/(ρα×Wtβ
ここで、2種類の繊維が複合されている形態に関わらず、本発明の遮炎性織物に接炎した際に熱可塑性繊維Bは溶融して織物表面を被覆するため、本発明においては織物を構成する糸表面をそれぞれの繊維が占める面積比(Sα/Sβ)はそれぞれの繊維が占める体積の比(Vα/Vβ)と等しいとみなし、織物を構成する糸の投影面積に、それぞれの繊維が占める面積比を乗じることで、各繊維の投影面積を算出するものとする。
【0049】
経糸の繊維αと繊維βの重量混率をWtα1およびWtβ1、緯糸の繊維αと繊維βの重量混率をWtα2およびWtβ2としたときの、経糸中に繊維αと繊維βが占める面積比を(Sα1/Sβ1)、緯糸中に繊維αと繊維βが締める面積比を(Sα2/Sβ2)とすると、織物の完全組織中に占める繊維αおよび繊維βの投影面積SαおよびSβは、それぞれ、次式、次次式で算出される。
【0050】
α=S×{Sα1/(Sα1+Sβ1)}+S×{Sα2/(Sα2+Sβ2)}
β=S×{Sβ1/(Sα1+Sβ1)}+S×{Sβ2/(Sα2+Sβ2)}
織物の完全組織の投影面積はSであるので、繊維αが占める面積比率Pαおよび繊維βが占める面積比率Pβは、それぞれ、次式、次次式で算出される。
【0051】
α(%)=(Sα/S)×100
β(%)=(Sβ/S)×100
織物を構成する糸に含まれる繊維が3種類以上の場合も、それぞれの繊維の重量混率から以上と同様の手順で計算することができる。また平織以外の織組織の場合も上記の考え方に準じて計算することができる。なお二重織りなどの多重織り組織の場合には、炎があたる面の投影面積で算出する。
【0052】
製織後、通常の方法で糊抜き、精練を実施後、テンターを用いて所定の幅および密度に熱セットしてもよいし、生機のまま使用してもよい。セット温度は高温収縮率を抑制する効果が得られる温度がよく、好ましくは160~240℃、より好ましくは190~230℃である。
【0053】
熱セットと同時あるいは、熱セット後に別工程で本発明の効果を損なわない範囲で耐摩耗性改善や風合い改善の目的等で樹脂加工をおこなってもよい。樹脂加工は、用いる樹脂の種類に応じて、織物を樹脂槽に浸漬させたのちパッダーで絞り、乾燥、固着させるパッドドライキュア法と、蒸気槽中で樹脂を反応、固着させるパッドスチーム法のいずれかを選択することができる。
【0054】
かくして得られる本発明の遮炎性織物は遮炎性に優れ、火災の延焼効果に優れるので、難燃性が要求される衣料材、壁材、床材、天井材、被覆材などに使用するのに好適であって、特に、耐火防護服や、自動車や航空機などのウレタンシート材の延焼防止被覆材およびベッドマットレスの延焼防止で使用するのに好適に使用することができる。
【実施例
【0055】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、様々な変形や修正が可能である。なお、本実施例で用いる各種特性の測定方法は、以下のとおりである。
【0056】
[目付]
JIS L 1096(2010年)に準拠して測定し、1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0057】
[厚さ]
JIS L 1096(2010年)に準拠して、測定した。
【0058】
[LOI値]
LOI値は、JIS K 7201-2(2007年)に準拠して、測定した。
【0059】
[遮炎性評価]
JIS L 1091(繊維製品の燃焼性試験方法、1999年)のA-1法(45゜ミクロバーナ法)に準じた方法で着火し、以下のとおり遮炎性を評価した。図1に示すように、火炎長さLが45mmであるミクロバーナ1を垂直方向に立て、水平面に対して45度の角度で試験体2を配置し、試験体2に対して厚さthが2mmのスペーサー3を介して燃焼体4を配置して燃焼する試験で遮炎性を評価した。燃焼体4には含有水分率を均一とするために標準状態で24時間放置した、GEヘルスケア・ジャパン株式会社が販売する定性ろ紙グレード2(1002)を用い、ミクロバーナ1に着火してから燃焼体4が引火するまでの時間を秒単位で測定した。なお、接炎3分以内で燃焼体4に引火した場合は、「遮炎性無し」とし、不可とする。3分以上炎にさらされても燃焼体4に引火しない場合を「遮炎性能有り」とするが、遮炎時間は長ければ長いほどよく、3分以上20分未満を良、20分以上を優とした。
【0060】
次に、以下の実施例および比較例における用語について説明する。
【0061】
《PPS繊維の延伸糸》
延伸されたPPS繊維として、単繊維繊度2.2dtex(直径14μm)、カット長51mmの東レ(株)製“トルコン”(登録商標)、品番S371を用いた。このPPS繊維のLOI値は34、融点は284℃である。
【0062】
《ポリエステル繊維の延伸糸》
延伸されたポリエステル繊維として、単繊維繊度2.2dtex(直径14μm)のポリエチレンテレフタレート繊維である東レ(株)製“テトロン”(登録商標)、品番T9615を51mmにカットして用いた。このポリエステル繊維のLOI値は22、融点は256℃である。
【0063】
《耐炎化糸》
1.7dtexのZoltek社製耐炎化繊維“PYRON”(登録商標)を51mmにカットしたものを用いた。“PYRON”(登録商標)の高温収縮率は1.6%であった。JIS K 7193(2010年)に準拠した方法で加熱したところ、800℃でも発火は認められず、発火温度は800℃以上である。
【0064】
[実施例1]
(紡績)
PPS繊維の延伸糸および耐炎化糸を開繊機によって混合し、次いで混打綿機によって更に混合し、次いで梳綿機に通じてスライバーとした。得られたスライバーの重量は、310ゲレン/6ヤード(1ゲレン=1/7000ポンド)(20.09g/5.46m)であった。次いで練条機でトータルドラフトを8 倍に設定して延伸し、290ゲレン/6ヤード(18.79g/5.46m)のスライバーとした。次いで粗紡機で0.55T/2.54cmに加撚して7.4 倍に延伸し、250ゲレン/6ヤード(16.20g/5.46m)の粗糸を得た。次いで精紡機で16.4T/2.54cmに加撚してトータルドラフト30倍に延伸して加撚し、綿番手で30番の紡績糸を得た。得られた紡績糸をダブルツイスターで64.7T/2.54cmで上撚をかけ、30番双糸とした。紡績糸のPPS繊維の延伸糸と耐炎化糸の重量混率は、60対40であった。紡績糸の引張強度は2.2cN/dtex、引張伸度は18%であった。
【0065】
(製織)
得られた紡績糸を、レピア織機で経50本/インチ(2.54cm)、緯50本/インチ(2.54cm)の平織りで製織した。
【0066】
(精練・熱セット)
界面活性剤を含む80℃の温水中で、20分間精練をおこなったのち、130℃のテンターで乾燥させ、さらに230℃のテンターで熱セットをおこなった。熱セット後の織物の糸密度は、経52本/インチ(2.54cm)、緯51本/インチ(2.54cm)であった。また織物の厚さは0.570mmであった。分解糸の強伸度を測定したところ、引張強度は1.7cN/dtex、引張伸度は16%であった。
【0067】
(遮炎性評価)
本織物の遮炎評価では30分間、燃焼体に引火することが無く、十分な遮炎性を有していた。
【0068】
[実施例2]
実施例1に記載の紡績糸を用い、経20本/インチ(2.54cm)、緯20本/インチ(2.54cm)で製織し、実施例1と同様の条件で精錬・熱セットをおこなうことで、経22本/インチ(2.54cm)、緯21本/インチ(2.54cm)の織物を得た。また、織物の厚さは0.432mmであった。分解糸の強伸度を測定したところ、引張強度は1.8cN/dtex、引張伸度は18%であった。本織物の遮炎評価では10分間、燃焼体に引火することが無く、十分な遮炎性を有していた。
【0069】
[実施例3]
実施例1で、紡績糸のPPSと耐炎化糸の混率を20対80にした以外は同様の条件でおこなった。得られた紡績糸の引張強度は1.9cN/dtex、引張伸度は15%であった。精錬・熱セット後の織物の糸密度は、経51本/インチ(2.54cm)、緯51本/インチ(2.54cm)であった。また織物の厚さは0.640mmであった。分解糸の強伸度を測定したところ、引張強度は1.5cN/dtex、引張伸度は12%であった。本織物の遮炎評価では30分間、燃焼体に引火することが無く、十分な遮炎性を有していた。
【0070】
[実施例4]
実施例1で、紡績糸のPPSと耐炎化糸の混率を80対20にした以外は同様の条件でおこなった。得られた紡績糸の引張強度は2.3cN/dtex、引張伸度は20%であった。精錬・熱セット後の織物の糸密度は、経52本/インチ(2.54cm)、緯51本/インチ(2.54cm)であった。また織物の厚さは0.560mmであった。分解糸の強伸度を測定したところ、引張強度は2.0cN/dtex、引張伸度は16%であった。本織物の遮炎評価では20分間、燃焼体に引火することが無く、十分な遮炎性を有していた。
【0071】
[実施例5]
実施例1で、紡績糸にPPSと耐炎化糸以外にさらにポリエステル繊維の延伸糸を混紡し、混率を60対20対20にした以外は同様の条件でおこなった。得られた紡績糸の引張強度は2.2cN/dtex、引張伸度は21%であった。精錬・熱セット後の織物の糸密度は、経51本/インチ(2.54cm)、緯52本/インチ(2.54cm)であった。また織物の厚さは0.580mmであった。分解糸の強伸度を測定したところ、引張強度は1.8cN/dtex、引張伸度は18%であった。本織物の遮炎評価では20分間、燃焼体に引火することが無く、十分な遮炎性を有していた。
【0072】
[実施例6]
実施例1と同様の方法で、ポリエステル繊維の延伸糸の30番手紡績糸を作製し、それを2本撚り合わせて双糸とした。実施例1のPPS繊維の延伸糸と耐炎化糸の重量混率が60対40の混紡糸を経糸に、緯糸は、ポリエステル繊維の延伸糸の紡績糸と、PPS繊維の延伸糸と耐炎化糸の混紡糸を1本ずつ交互に打ち込んだ織物を作製し、実施例1と同じ手順で精錬・熱セットした。熱セット後の織物の糸密度は、経50本/インチ(2.54cm)、緯49本/インチ(2.54cm)であった。また織物の厚さは0.510mmであった。分解糸の強伸度を測定したところ、引張強度は1.8cN/dtex、引張伸度は17%であった。本織物の遮炎評価では15分間、燃焼体に引火することが無く、十分な遮炎性を有していた。
【0073】
[実施例7]
実施例1で、紡績糸にPPSと耐炎化糸以外にさらにポリエステル繊維の延伸糸およびダイワボウレーヨン(株)レーヨンDFGを混紡し、混率をPPS20対耐炎化糸20対ポリエステル30対難燃レーヨン30にした以外は同様の条件でおこなった。得られた紡績糸の引張強度は2.2cN/dtex、引張伸度は20%であった。精錬・熱セット後の織物の糸密度は、経50本/インチ(2.54cm)、緯50本/インチ(2.54cm)であった。また織物の厚さは0.570mmであった。分解糸の強伸度を測定したところ、引張強度は1.6cN/dtex、引張伸度は15%であった。本織物の遮炎評価では15分間、燃焼体に引火することが無く、十分な遮炎性を有していた。
【0074】
[実施例8]
実施例1に記載の紡績糸を用い、経50本/インチ(2.54cm)、緯50本/インチ(2.54cm)で2/1綾織で製織し、実施例1と同様の条件で精錬・熱セットをおこなうことで、経50本/インチ(2.54cm)、緯50本/インチ(2.54cm)の織物を得た。また、織物の厚さは0.610mmであった。分解糸の強伸度を測定したところ、引張強度は1.9cN/dtex、引張伸度は18%であった。本織物の遮炎評価では30分間、燃焼体に引火することが無く、十分な遮炎性を有していた。
【0075】
[比較例1]
実施例1と同様の方法で、PPSと耐炎化糸の混率が90対10の30番手紡績糸を作製した。得られた紡績糸の引張強度は2.3cN/dtex、引張伸度は21%であった。それを2本撚り合わせて双糸とした。経50本/インチ(2.54cm)、緯50本/インチ(2.54cm)で製織し、実施例1と同様の条件で精錬・熱セットをおこなうことで、経51本/インチ(2.54cm)、緯51本/インチ(2.54cm)の織物を得た。また、織物の厚さは0.560mmであった。分解糸の強伸度を測定したところ、引張強度は2.0cN/dtex、引張伸度は17%であった。本織物で遮炎評価をおこなったところ、耐炎化糸の面積比率が小さすぎ、接炎時にPPSが耐炎化糸間で被膜を形成することができずに炎が2分後に貫通し、燃焼体に引火した。
【0076】
[比較例2]
実施例1と同様の方法で、PPSと耐炎化糸の混率が5対95の30番手紡績糸を作製した。得られた紡績糸の引張強度は1.7cN/dtex、引張伸度は12%であった。それを2本撚り合わせて双糸とした。経50本/インチ(2.54cm)、緯50本/インチ(2.54cm)で製織し、実施例1と同様の条件で精錬・熱セットをおこなうことで、経51本/インチ(2.54cm)、緯50本/インチ(2.54cm)の織物を得た。また、織物の厚さは0.590mmであった。分解糸の強伸度を測定したところ、引張強度は1.3cN/dtex、引張伸度は12%であった。本織物で遮炎評価をおこなったところ、PPSの面積比率が小さすぎるため、耐炎化糸間に十分に被膜を形成することができず、接炎によって徐々に耐炎化糸が細くなり、接炎2分30秒後に燃焼体に引火した。
【0077】
[比較例3]
実施例1に記載の紡績糸を用い、経15本/インチ(2.54cm)、緯15本/インチ(2.54cm)で製織し、実施例1と同様の条件で精錬・熱セットをおこなうことで、経15本/インチ(2.54cm)、緯16本/インチ(2.54cm)の織物を得た。また、織物の厚さは0.405mmであった。分解糸の強伸度を測定したところ、引張強度は1.8cN/dtex、引張伸度は18%であった。本織物で遮炎評価をおこなったところ、耐炎化糸の面積比率が小さすぎ、接炎時にPPSが耐炎化糸間で被膜を形成することができずに炎が1分30秒後に貫通し、燃焼体に引火した。
【0078】
[比較例4]
実施例1で、紡績糸にPPSと耐炎化糸以外にさらにポリエステル繊維の延伸糸を混紡し、混率を45対15体40にした以外は同様の条件でおこなった。得られた紡績糸の引張強度は2.1cN/dtex、引張伸度は18%であった。精錬・熱セット後の織物の糸密度は、経51本/インチ(2.54cm)、緯50本/インチ(2.54cm)であった。また織物の厚さは0.530mmであった。分解糸の強伸度を測定したところ、引張強度は1.9cN/dtex、引張伸度は16%であった。本織物で遮炎評価をおこなったところ、耐炎化糸の面積比率が小さすぎるため、接炎時に織物が大幅に収縮し、また、溶融したポリエステル繊維の延伸糸が十分に皮膜化することができずに炎が1分30秒で貫通し、燃焼体に引火した。
【0079】
下記の表1および表2に実施例1~6および比較例1~4の非溶融繊維Aの面積率、前記非溶融繊維Aの発火温度よりも低い融点を有する熱可塑性繊維Bの面積率、その他繊維Cの面積率、織物の厚さおよび遮炎性評価結果をまとめて示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、火災の延焼防止に有効で、難燃性が要求される衣料材、壁材、床材、天井材、被覆材などに使用するのに好適であって、特に、耐火防護服や、自動車や航空機などのウレタンシート材の延焼防止被覆材およびベッドマットレスの延焼防止で使用するのに好適である。
【符号の説明】
【0083】
1 ミクロバーナ
2 試験体
3 スペーサー
4 燃焼体
21 織物の完全組織のタテ方向の長さ
22 織物の完全組織のヨコ方向の長さ
D1 経糸の直径
D2 緯糸の直径
図1
図2