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特許7036110樹脂組成物、樹脂シート、樹脂硬化物、樹脂基板、及び積層基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂シート、樹脂硬化物、樹脂基板、及び積層基板
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20220308BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20220308BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20220308BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20220308BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/38
C08K5/49
C08J5/24 CFC
B32B27/38
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019509211
(86)(22)【出願日】2018-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2018009788
(87)【国際公開番号】W WO2018180470
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2017071088
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017070032
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】榎本 啓二
(72)【発明者】
【氏名】山下 正晃
(72)【発明者】
【氏名】首藤 広志
(72)【発明者】
【氏名】杉山 強
(72)【発明者】
【氏名】原井 智之
(72)【発明者】
【氏名】清水 豊
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-219251(JP,A)
【文献】特開2016-210971(JP,A)
【文献】特開昭60-219222(JP,A)
【文献】特表2014-520903(JP,A)
【文献】特開昭62-252986(JP,A)
【文献】特開2017-039842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C08G59/00- 59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物を含む主剤と硬化剤と無機粒子とを含む樹脂組成物であって、前記硬化剤は、一分子中における全炭素原子数に対する芳香環を構成する炭素原子数の比率が85%以上である芳香族化合物を含み、前記芳香族化合物は、リン化合物を含み、前記無機粒子の含有量は溶剤以外の成分の合計を基準として40~75体積%であり、前記無機粒子は、窒化ホウ素粒子と前記窒化ホウ素粒子とは異なる粒子を含み、前記窒化ホウ素粒子の含有量は溶剤以外の成分の合計を基準として3~35体積%である樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族化合物は、一分子中におけるベンゼン環の個数が4~6個である多環芳香族化合物である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族化合物は、下記一般式(1)で表されるトリフェニルベンゼン化合物を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【化1】
(上記一般式(1)中、R~R15は、それぞれ独立に水素原子、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基を示し、R~R15の少なくとも一つは、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基である。)
【請求項4】
前記芳香族化合物は、下記一般式(2)~(4)の何れかで表されるリン化合物を含む、請求項1~3の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【化2】
(上記一般式(2)中、Xは、上記式(2-1)又は(2-2)である。)
(上記一般式(3)中、X2、は、それぞれ独立に水素原子又は水酸基を示し、Xは、水素原子、水酸基、フェニル基、上記式(3-1)~(3-4)の何れかである。)
(上記一般式(4)中、X5~は、それぞれ独立に水素原子又は水酸基を示し、X5~の少なくとも一つは、水酸基である。)
【請求項5】
エポキシ化合物と硬化剤と無機粒子とを含む樹脂組成物であって、
前記硬化剤は、下記一般式(9)及び一般式(10)の少なくとも一方のリン化合物と、下記一般式(11)で表される芳香族化合物と、を含み、
溶剤以外の有機成分の合計100質量部に対する前記リン化合物の含有量が8質量部以上である、樹脂組成物。
【化3】
(上記一般式(9)中、X~X20は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基又はヒドロキシ基を示し、X~X12の少なくとも一つはヒドロキシ基である。)
(上記一般式(10)中、X21~X35は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基又はヒドロキシ基を示し、X21~X35の少なくとも一つはヒドロキシ基である。)
(上記一般式(11)中、R25~R39は、それぞれ独立に水素原子、水酸基又はアミノ基を示し、R25~R39の少なくとも一つは水酸基又はアミノ基である。)
【請求項6】
前記有機成分の合計100質量部に対するリン元素の含有量が0.8質量部以上である、
請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記有機成分の合計100質量部に対する前記リン化合物の含有量が8~20質量部である、請求項又はに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記芳香族化合物が1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン及び1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベンゼンの少なくとも一方を含み、前記硬化剤の総量に対する1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン及び1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベンゼンの合計含有量が15質量%以上である、請求項のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形して得られる樹脂シート。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む樹脂硬化物。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む樹脂基板。
【請求項12】
複数の樹脂基板が積層されている積層基板であって、前記複数の樹脂基板の少なくとも一つは、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む積層基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物、樹脂シート、樹脂硬化物、樹脂基板、及び積層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の動力の電力化、半導体の高集積化、LED照明の普及に伴って、接着剤、注型材、封止材、成形材、積層基板及び複合基板等に用いられる有機絶縁材は、優れた放熱性を有することが求められている。有機絶縁材の放熱性を向上するためには、熱伝導率を高くすることが有効である。高い熱伝導率を有する有機絶縁材としては、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物を含む樹脂組成物の硬化物が知られている。
【0003】
上述のような樹脂組成物には、放熱性向上のために酸化マグネシウム等の無機充填材を配合することが試みられている。例えば、特許文献1では、熱硬化性樹脂と、所定の体積平均粒子径及び粒子径分布を有する無機充填材とを含有するプリント配線板用の樹脂組成物、並びに、当該樹脂組成物を用いたプリプレグが提案されている。上述のようなプリプレグ及び樹脂組成物には、難燃性を改善するために、無機充填材とともにリン化合物を配合することが試みられている。特許文献2では、水酸化アルミニウムとリンを含有する硬化剤を配合することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-3260号公報
【文献】特開2012-12591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂組成物は、接着剤、樹脂シート及び積層基板等、種々の用途に用いられる。例えば、プリント基板用のプリプレグとなる樹脂シートに用いられる樹脂組成物は、ガラスクロスを有する樹脂基板、及び、さらに内層回路を有する積層基板を形成する際、ガラスクロスの隙間及び内層回路の凹部に速やかに充填される必要がある。このため、樹脂組成物は充填性に優れることが求められる。また、樹脂硬化物は有機絶縁材として用いられるものであるが、高温環境下で使用されると、硬化物表面での微小放電の繰り返しによって炭化導電路が形成され、絶縁破壊に至るトラッキング現象が生じる場合がある。また、同様にガラスクロスを有する樹脂基板、及び、さらに内層回路を有する積層基板を形成する際、放熱性と難燃性を有する必要がある。これらの特性を向上するために、無機充填剤を配合することが有効であるものの、無機充填材は樹脂組成物における他の成分よりも比重が大きいために沈降し易い。このため、分散の不均一性に起因して、樹脂組成物及び硬化物の品質がばらついてしまうことが懸念される。
【0006】
そこで、本発明は、一つの側面において、放熱性と耐トラッキング性に優れる樹脂硬化物、樹脂基板及び積層基板を形成することが可能であり、且つ充填性に優れる樹脂組成物並びに樹脂シートを提供することを目的とする。本発明は、別の側面において、上記樹脂組成物又は樹脂シートを用いることによって、放熱性及び耐トラッキング性に優れる樹脂硬化物、樹脂基板並びに積層基板を提供することを目的とする。また、本発明は、一つの側面において、放熱性と難燃性に優れる樹脂硬化物、樹脂基板及び積層基板を形成することが可能であり、且つ分散性に優れる樹脂組成物並びに樹脂シートを提供することを目的とする。本発明は、別の側面において、上記樹脂組成物又は樹脂シートを用いることによって、放熱性及び難燃性に優れる樹脂硬化物、樹脂基板並びに積層基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一つの側面において、エポキシ化合物を含む主剤と硬化剤と無機粒子とを含む樹脂組成物であって、硬化剤は、一分子中における全炭素原子数に対する芳香環を構成する炭素原子数の比率が85%以上である芳香族化合物を含み、無機粒子の含有量は溶剤以外の成分の合計を基準として40~75体積%であり、無機粒子は、窒化ホウ素粒子と窒化ホウ素粒子とは異なる粒子を含み、窒化ホウ素粒子の含有量は溶剤以外の成分の合計を基準として3~35体積%である、樹脂組成物を提供する。
【0008】
上記樹脂組成物は、一分子中における全炭素原子数に対する芳香環を構成する炭素原子数の比率が85%以上である芳香族化合物を含む硬化剤を含有する。このような硬化剤を含む樹脂組成物は、π-πスタッキングによって芳香環同士が重なりやすくなり、分子の格子振動が散乱し難くなる。このため、このような樹脂組成物の硬化物は、高い熱伝導率を有する。
【0009】
ここで、芳香族化合物に含まれる芳香環は、容易に炭化する傾向にあるため、耐トラッキング性が損なわれることが懸念される。しかしながら、上記樹脂組成物は、無機粒子として窒化ホウ素粒子を所定量含んでいる。窒化ホウ素のπ電子は、芳香族化合物に含まれている芳香環のπ電子との相互作用(π-πスタッキング)により、窒化ホウ素粒子と芳香族化合物間の放熱性を向上する作用、及び、芳香環の構造の安定化作用を有するものと考えられる。芳香環の構造の安定化は、炭化を抑制して耐トラッキング性を向上することに寄与するものと推察される。
【0010】
なお、樹脂組成物における窒化ホウ素粒子の割合が過剰になると、樹脂組成物の粘度が上昇して充填性が損なわれることが懸念される。そこで、本発明の樹脂組成物は、無機粒子として窒化ホウ素粒子とは異なる無機粒子を含有することによって、優れた放熱性と耐トラッキング性を維持しつつ、樹脂組成物の粘度を調整することができる。すなわち、窒化ホウ素粒子と窒化ホウ素粒子とは異なる無機粒子を含有することによって、樹脂組成物の充填性と、硬化物の放熱性及び耐トラッキング性の全ての特性を高水準にすることができる。以上の作用によって、充填性に優れるとともに、放熱性と耐トラッキング性に優れる樹脂硬化物、樹脂基板及び積層基板を形成することが可能な樹脂組成物を提供することができるものと推察している。ただし、充填性、放熱性及耐トラッキング性向上の作用機序は、上述のものに限定されない。
【0011】
硬化剤に含まれる上記芳香族化合物は、一分子中におけるベンゼン環の個数が4~6個である多環芳香族化合物であることが好ましい。これによって、樹脂組成物の粘度上昇を抑制しつつ熱伝導率を一層向上することができる。したがって、放熱性と充填性に一層優れる樹脂組成物とすることができる。
【0012】
硬化剤に含まれる上記芳香族化合物は、下記一般式(1)で表されるトリフェニルベンゼン化合物を含んでもよい。これによって、放熱性と充填性と耐トラッキング性の三つの特性を一層高水準にすることができる。下記一般式(1)中、R~R15は、それぞれ独立に水素原子、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基を示し、R~R15の少なくとも一つは、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基である。
【化1】
【0013】
硬化剤に含まれる上記芳香族化合物は、リン化合物を含むことが好ましい。これによって、樹脂組成物の難燃性が向上し、耐トラッキング性が一層向上することができる。
【0014】
前記芳香族化合物は、下記一般式(2)、(3)又は(4)で表されるリン化合物を含むことが好ましい。これによって、樹脂組成物の難燃性が向上し、耐トラッキング性が一層向上することができる。
【化2】
[上記一般式(2)中、Xは、上記式(2-1)又は(2-2)である。]
[上記一般式(3)中、X2、は、それぞれ独立に水素原子又は水酸基を示し、Xは、水素原子、水酸基、フェニル基、上記式(3-1)~(3-4)の何れかである。]
[上記一般式(4)中、X5~は、それぞれ独立に水素原子又は水酸基を示し、X5~の少なくとも一つは、水酸基である。]
【0015】
本発明は、別の側面において、上記樹脂組成物を成形して得られる樹脂シートを提供する。この樹脂シートは、充填性に優れるとともに、放熱性と耐トラッキング性に優れる樹脂硬化物、樹脂基板及び積層基板を形成することができる。
【0016】
本発明は、さらに別の側面において、上記樹脂組成物の硬化物を含む樹脂硬化物を提供する。この樹脂硬化物は、上記樹脂組成物の硬化物を含むため、放熱性及び耐トラッキング性に優れる。
【0017】
本発明は、さらに別の側面において、上記樹脂組成物の硬化物を含む樹脂基板を提供する。この樹脂基板は、上記樹脂組成物の硬化物を含むため、放熱性及び耐トラッキング性に優れる。
【0018】
本発明は、さらに別の側面において、複数の樹脂基板が積層されている積層基板であって、複数の樹脂基板の少なくとも一つは、上記樹脂組成物の硬化物を含む積層基板を提供する。この積層基板は、上記樹脂組成物の硬化物を含む樹脂基板を備えるため、放熱性及び耐トラッキング性に優れる。
【0019】
本発明は、一つの側面において、エポキシ化合物と硬化剤と無機粒子とを含む樹脂組成物であって、硬化剤は、下記一般式(9)及び一般式(10)の少なくとも一方のリン化合物と、下記一般式(11)で表される芳香族化合物と、を含み、溶剤以外の有機成分の合計100質量部に対するリン化合物の含有量が8質量部以上である、樹脂組成物を提供する。
【0020】
【化3】
[上記一般式(9)中、X~X20は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基又はヒドロキシ基を示し、X~X12の少なくとも一つはヒドロキシ基である。]
[上記一般式(10)中、X21~X35は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基又はヒドロキシ基を示し、X21~X27の少なくとも一つはヒドロキシ基である。]
[上記一般式(11)中、R25~R39は、それぞれ独立に水素原子、水酸基、又はアミノ基を示し、R25~R39の少なくとも一つは水酸基又はアミノ基である。]
【0021】
上記樹脂組成物は、一般式(9)及び一般式(10)の少なくとも一方のリン化合物を所定量含有することから難燃性に優れる。また、一般式(11)で表される芳香族化合物は、π-πスタッキングによってベンゼン環同士が重なりやすく、ベンゼン環間の間隔を小さくすることができる。このため、硬化物の密度が高くなり、熱伝導率を高くすることができる。また、分子の格子振動の散乱が抑制されることも熱伝導率の向上に寄与すると考えられる。このため、この芳香族化合物を含有する樹脂組成物の硬化物は、高い熱伝導率を有し放熱性に優れる。
【0022】
そして、上記リン化合物は、溶剤に難溶であり、樹脂組成物中に固形分として含まれる。このため、樹脂組成物中に含まれる無機粒子の沈降を抑制することができる。したがって、樹脂組成物の分散性を向上し、樹脂組成物を成形して得られる樹脂シート及び硬化物の均一性を向上することができる。
【0023】
上記樹脂組成物において、上記有機成分の合計100質量部に対するリン元素の含有量が0.8質量部以上であってもよい。このような範囲でリン元素を含有することによって、一層難燃性に優れる硬化物を形成することができる。
【0024】
上記樹脂組成物において、上記有機成分の合計100質量部に対するリン化合物の含有量が8~20質量部であってもよい。これによって、難燃性と放熱性を十分に高い水準で両立することができる。
【0025】
上記芳香族化合物が1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン及び1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベンゼンの少なくとも一方を含み、硬化剤の総量に対する1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン及び1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベンゼンの合計含有量が15質量%以上であることが好ましい。これによって、熱伝導率を一層高くして、さらに放熱性に優れる硬化物を形成することができる。
【0026】
本発明は、別の側面において、上記樹脂組成物を成形して得られる樹脂シートを提供する。この樹脂シートは、分散性に優れる樹脂組成物を成形して得られることから、均一性に優れる。また、放熱性と難燃性に優れる樹脂硬化物、樹脂基板及び積層基板を形成することができる。
【0027】
本発明は、さらに別の側面において、上記樹脂組成物の硬化物を含む樹脂硬化物を提供する。この樹脂硬化物は、上記樹脂組成物の硬化物を含むため、放熱性及び難燃性に優れる。
【0028】
本発明は、さらに別の側面において、上記樹脂組成物の硬化物を含む樹脂基板を提供する。この樹脂基板は、上記樹脂組成物の硬化物を含むため、放熱性及び難燃性に優れる。
【0029】
本発明は、さらに別の側面において、複数の樹脂基板が積層されている積層基板であって、複数の樹脂基板の少なくとも一つは、上記樹脂組成物の硬化物を含む積層基板を提供する。この積層基板は、上記樹脂組成物の硬化物を含む樹脂基板を備えるため、放熱性及び難燃性に優れる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、一つの側面において、放熱性と耐トラッキング性に優れる樹脂硬化物、樹脂基板及び積層基板を形成することが可能であり、且つ充填性に優れる樹脂組成物並びに樹脂シートを提供することができる。本発明は、別の側面において、上記樹脂組成物又は樹脂シートを用いることによって、放熱性及び耐トラッキング性に優れる樹脂硬化物、樹脂基板並びに積層基板を提供することができる。また本発明は、一つの側面において、放熱性と難燃性に優れる樹脂硬化物、樹脂基板及び積層基板を形成することが可能であり、且つ分散性に優れる樹脂組成物並びに均一性に優れる樹脂シートを提供することができる。本発明は、別の側面において、上記樹脂組成物又は樹脂シートを用いることによって、放熱性及び難燃性に優れる樹脂硬化物、樹脂基板並びに積層基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、樹脂シート及び樹脂基板の斜視図である。
図2図2は、図1の樹脂シート及び樹脂基板のII-II線断面図である。
図3図3は、積層基板の斜視図である。
図4図4は、図3の積層基板のIV-IV線断面図である。
図5図5は、実施例1の粘度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(第1の実施形態)
以下、場合により図面を参照して、本発明の請求項1~4、10~13に係る第1の実施形態を以下に説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0033】
本実施形態の樹脂組成物は、エポキシ化合物を含む主剤と硬化剤と無機粒子とを含む。ここで主剤は、硬化剤によって重合反応して硬化剤とともに硬化物を形成する成分である。エポキシ化合物としては、グリシジルエーテル類、グリシジルエステル類、及びグリシジルアミン類等が挙げられる。これらのうち一種のエポキシ化合物を単独で、又は複数のエポキシ化合物を組み合わせてもよい。一層高い熱伝導率を得る観点から、エポキシ化合物は、分子内にビフェニル骨格又はターフェニル骨格等、ベンゼン環を2つ以上有するメソゲン骨格を有することが好ましい。このようなエポキシ化合物を含有することによって、硬化剤に含まれる芳香族化合物とともに、ベンゼン環の積み重なり性を向上することができる。ベンゼン環の積み重なり性を向上することによって、硬化物において熱伝導率の低下の要因となるフォノンの散乱を一層抑制することができる。これによって、熱伝導率を一層高くして放熱性をさらに向上することができる。
【0034】
エポキシ化合物は、一分子中にビフェニル骨格と2個以上のエポキシ基とを有するグリシジルエーテル類(例えば、ビフェニルグリシジルエーテル、テトラメチルビフェニルグリシジルエーテルのようにビフェニル骨格を有するもの)、及び、ターフェニル骨格のようなメソゲン骨格を有するグリシジルエーテル類を含むことが好ましい。
【0035】
硬化剤は、一分子中における、全炭素原子数に対する芳香環を構成する炭素原子数の比率が85%以上である芳香族化合物を含む。このような芳香族化合物を含む硬化剤は、π-πスタッキングによって芳香環同士が重なりやすくなり、分子の格子振動の散乱を抑制することができる。このため、このような樹脂組成物の硬化物は、高い熱伝導率を有すると考えられる。熱伝導率を一層向上する観点から、一分子中における、全炭素原子数に対する芳香環を構成する炭素原子数の比率は、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0036】
硬化剤に含まれる芳香族化合物は、一分子中におけるベンゼン環の個数が4~6個である多環芳香族化合物を含むことが好ましい。これによって、樹脂組成物の粘度上昇を抑制しつつ熱伝導率を一層向上することができる。したがって、放熱性と充填性に一層優れる樹脂組成物とすることができる。
【0037】
硬化剤に含まれる芳香族化合物は、下記一般式(1)で表されるトリフェニルベンゼン化合物を含んでもよい。これによって、放熱性と充填性と耐トラッキング性の三つの特性を一層高水準にすることができる。下記一般式(1)中、R~R15は、それぞれ独立に水素原子、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基を示し、R~R15の少なくとも一つは、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基である。すなわち、一般式(1)で表されるトリフェニルベンゼン化合物は、1,3,5-トリフェニルベンゼンの誘導体である。
【0038】
【化4】
【0039】
硬化剤に含まれる芳香族化合物は、リン化合物を含むことが好ましい。これによって、樹脂組成物の難燃性を一層向上することができる。したがって、耐トラッキング性に一層優れる樹脂組成物とすることができる。
【0040】
硬化剤に含まれる芳香族化合物は、下記一般式(2)~(4)の何れかで表されるリン化合物を含むことが好ましい。これによって、樹脂組成物の難燃性を一層向上することができる。したがって、耐トラッキング性に一層優れる樹脂組成物とすることができる。
【化5】
[上記一般式(2)中、Xは、上記式(2-1)又は(2-2)である。]
[上記一般式(3)中、X2、は、それぞれ独立に水素原子又は水酸基を示し、Xは、水素原子、水酸基、フェニル基、上記式(3-1)~(3-4)の何れかである。]
[上記一般式(4)中、X5~は、それぞれ独立に水素原子又は水酸基を示し、X5~の少なくとも一つは、水酸基である。]
【0041】
トリフェニルベンゼン化合物としては、1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベン、及び、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼンが挙げられる。1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベンゼンは、1分子中の3つのアミノ基の活性水素のそれぞれがエポキシ化合物のエポキシ基と反応することができる。これによって、硬化物において、架橋密度が高く強固な樹脂構造が形成される。したがって、放熱性及び難燃性を一層向上することができる。
【0042】
1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベンゼンと同じ主骨格を有する、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼンも、1分子中の3つの水酸基の活性水素のそれぞれがエポキシ化合物のエポキシ基と反応することができる。これによって、硬化物において、架橋密度が高く強固な樹脂構造が形成される。したがって、放熱性及び難燃性を一層向上することができる。
【0043】
硬化剤に含まれる芳香族化合物は、下記一般式(5)~(8)から選ばれる少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0044】
【化6】
[上記一般式(5)中、R16及びR17は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基を示し、R16及びR17の少なくとも一方は、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基である。]
[上記一般式(6)中、R18は、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基を示す。]
[上記一般式(7)中、R19及びR20は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基を示し、R19及びR20の少なくとも一方は水酸基、アミノ基又はカルボキシル基である。]
[上記一般式(8)中、R21、R22、R23及びR24は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基を示し、R21、R22、R23及びR24の少なくとも一つは、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基である。]
【0045】
樹脂組成物における硬化剤に含まれる芳香族化合物の含有割合は、エポキシ化合物100質量部に対して、芳香族化合物を30~500質量部含んでいてもよく、40~300質量部含んでいてもよい。このような含有割合にすることによって、硬化物の架橋密度を高くすることができる。
【0046】
無機粒子は、窒化ホウ素粒子と窒化ホウ素粒子とは異なる粒子(無機粒子)を含む。窒化ホウ素粒子は、六方晶窒化ホウ素粒子を含有してもよく、その外形は鱗片状であってもよい。
【0047】
窒化ホウ素粒子の含有量は、溶剤以外の成分の合計を基準として、3~35体積%であり、好ましくは3~30体積%である。溶剤以外の成分は、主剤、硬化剤、無機粒子及び硬化促進剤を含む。窒化ホウ素粒子の含有量が過剰になると、最低溶融粘度が高くなって優れた充填性が損なわれる傾向にある。一方、窒化ホウ素粒子の含有量が過少になると、芳香族化合物に含まれている芳香環のπ電子との相互作用(π-πスタッキング)が小さくなり、耐トラッキング性が損なわれる傾向にある。
【0048】
窒化ホウ素粒子とは異なる無機粒子としては、酸化マグネシウム粒子、アルミナ粒子、水酸化アルミニウム粒子、窒化アルミニウム粒子、酸化マグネシウム粒子及びシリカ粒子等が挙げられる。これらのうち、酸化マグネシウム粒子を含むことが好ましい。酸化マグネシウム粒子は他の無機粒子に比べて硬度が低いことから、例えば積層基板の加工性を向上することができる。なお、窒化ホウ素粒子とは異なる無機粒子は、一種に限定されず、二種以上を含有していてもよい。
【0049】
窒化ホウ素粒子と窒化ホウ素粒子とは異なる無機粒子の合計含有量は、主剤と硬化剤と無機粒子の合計を基準として、40~75体積%であり、好ましくは40~70体積%である。無機粒子の合計含有量が過剰になると、最低溶融粘度が高くなって優れた充填性が損なわれる傾向にある。一方、無機粒子の合計含有量が過少になると、優れた放熱性と耐トラッキング性が損なわれる傾向にある。
【0050】
樹脂組成物は、上述の成分以外の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、ホスフィン類及びイミダゾール(2-エチル-4-メチルイミダゾール等)類等の硬化促進剤(硬化触媒)、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤、ハロゲン及びリン化合物等の難燃剤、溶剤(希釈剤)、可塑剤、並びに滑剤等が挙げられる。また、アミン又は酸無水物等の芳香族化合物以外の硬化剤を含んでいてもよい。アミン又は酸無水物等の芳香族化合物以外の硬化剤の具体例としては、リンを含む芳香族化合物の硬化剤が挙げられる。樹脂組成物における硬化促進剤の含有量は、主剤と硬化剤の合計100質量部に対して、例えば0.1~5質量部である。樹脂組成物における溶剤の含有量は、主剤と硬化剤の合計100質量部に対して、例えば0~500質量部である。なお、上記任意成分のうち、常温(20℃)で固体のものは、樹脂組成物の固形分に含まれる。
【0051】
本実施形態の樹脂組成物は、最低溶融粘度が十分に低いことから充填性に優れる。また、本実施形態の樹脂組成物の硬化物は、高い熱伝導率を有することから放熱性にも優れる。さらにこの硬化物は、耐トラッキング性にも優れる。
【0052】
図1は、一実施形態に係る樹脂シートの斜視図である。樹脂シート12は、樹脂組成物を成形して得られるシートである。樹脂シート12は、樹脂組成物をそのまま含有していてもよく、Bステージ状態であってもよい。樹脂シート12は、樹脂組成物の硬化物を含有する樹脂基板の前駆体として用いることができる。
【0053】
図2は、図1のII-II線断面図である。すなわち、図2は、図1の樹脂シート12を厚さ方向に沿って切断したときの断面を示している。樹脂シート12は、芯材30と、芯材30に含浸されるとともに芯材30を被覆する樹脂成分22とを含有する。樹脂成分22は、樹脂組成物であってもよいし、樹脂組成物の半硬化物であってもよい。芯材30としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、天然繊維、及び、ポリエステル繊維又はポリアミド繊維等の合成繊維等から選ばれる少なくとも一種の繊維を含む織布及び不織布等が挙げられる。ただし、芯材30は、これらに限定されない。
【0054】
樹脂シート12は、次のようにして製造することができる。塗布又は浸漬等の手法によって芯材30に樹脂組成物を含浸させた後、加熱して樹脂組成物を乾燥する。これによって、樹脂組成物に含まれる溶剤が除去される。場合により、樹脂組成物の少なくとも一部は半硬化して樹脂成分22となり樹脂シート12が形成されてもよい。このときの加熱条件は、例えば、60~150℃で1~120分間程度であってもよく、70~120℃で3~90分間程度であってもよい。樹脂シート12は、樹脂組成物を含有する樹脂成分22で構成されていてもよく、Bステージ状態の樹脂成分22で構成されていてもよい。
【0055】
樹脂シート12をさらに高い温度の加熱条件で加熱すると、半硬化状態にある樹脂成分22の硬化がさらに進行して硬化物(熱硬化物)となる。これによって、硬化物20を含む樹脂基板10が得られる。このときの加熱条件は、例えば、100~250℃で1~300分間程度であってもよい。加熱は、必要に応じて加圧又は減圧下で行ってもよい。樹脂基板10は、芯材30と芯材30を被覆する硬化物20とを含む。別の幾つかの実施形態では、樹脂基板は樹脂組成物の硬化物のみで構成されていてもよい。
【0056】
樹脂硬化物は、上述のようにシート状に成形された樹脂シート12を加熱することによって製造してもよいし、例えば接着剤のように不定形の樹脂組成物を加熱することによって製造してもよい。樹脂シート12は、芯材30を有さずに、樹脂成分22のみで形成されていてもよい。また、樹脂シート12の表面上には、銅箔などの金属箔が積層されていてもよい。
【0057】
樹脂シート12は、上記樹脂組成物を成形して得られるものであることから、この樹脂シート12は、充填性に優れる。また、樹脂シート12を用いて、放熱性及び耐トラッキング性に優れる樹脂硬化物、樹脂基板及び積層基板を得ることができる。
【0058】
図3は、一実施形態に係る積層基板の斜視図である。図4は、図3のIV-IV線断面図である。すなわち、図4は、図3の積層基板50を積層方向に沿って切断したときの断面を示している。図3及び図4に示されるように、積層基板50は、硬化物20を含有する複数の樹脂基板10が積層されて構成されている。積層基板50は、例えば、複数枚の樹脂基板10又は樹脂シート12を重ね合わせた状態で、加熱及び/又は加圧することで積層基板100が得られる。加熱条件は、例えば、100~250℃で1~300分間程度である。加圧条件は、例えば、0.5~20MPa程度である。なお、加圧することは必須ではなく、減圧又は真空下で加熱してもよい。
【0059】
積層基板50に備えられる樹脂基板10は、芯材30と、芯材30を被覆する樹脂成分22とを含有する。積層基板50は、主面に金属層を有する金属張り積層板であってもよい。金属層には、各種公知のものを適宜選択して用いることができる。金属層は、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム等の金属板や金属箔であってもよい。金属層の厚みは、特に限定されず、例えば3~150μm程度である。積層基板は、金属張り積層板に、エッチング及び/又は穴開け加工を施したものであってもよい。
【0060】
樹脂基板10及び積層基板50は、上記樹脂組成物の硬化物を有することから、放熱性及び耐トラッキング性に優れる。
【0061】
以上、本発明の幾つかの実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されない。例えば、積層基板は、複数の樹脂基板の間に内層回路を有していてもよい。以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0062】
(実施例1~12、比較例1~6)
<樹脂組成物の調製>
主剤として以下のエポキシ化合物を準備した。全ての実施例及び比較例において、このエポキシ化合物を共通して用いた。
エポキシ化合物:YL-6121H(商品名、三菱化学株式会社製、エポキシ当量:175g/eq)
上記エポキシ化合物は、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂と4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂の約1:1の混合物である。
【0063】
硬化剤として、以下の硬化剤A~Jを準備した。
硬化剤Aは、下記式(A)で示される4,4’-ビフェニルジメタノールである。
硬化剤Bは、下記式(B)で示される2,6-ジフェニルフェノールである。
硬化剤Cは、下記式(C)で示される2,3’,4,5’,6-ペンタフェニル-3,4’-ビフェニルジアミンである。
硬化剤Dは、下記式(D)で示される1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼンである。
硬化剤Eは、下記式(E)で示されるN,N,N’,N’-テトラキス(4-アミノフェニル)ベンジジンである。
硬化剤Fは、下記式(F)で示されるα,α,α’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼンである。
硬化剤Gは、下記式(G)で示される1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼンである。
硬化剤Hは、下記式(H)で示される10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイドである。
硬化剤Iは、下記式(I)で示される[ビス(4-ヒドロキシフェニル)メチル]ジフェニルホスフィンオキシドである。
硬化剤Jは、下記式(J)で示されるトリス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィンである。
【化7】
【0064】
以下の市販の無機粒子A,B,Cを準備した。
無機粒子A:窒化ホウ素粒子(鱗片状、平均粒径:8μm)
無機粒子B:酸化マグネシウム粒子(平均粒径:50μm)
無機粒子C:アルミナ粒子(平均粒径:45μm)
【0065】
硬化促進剤として2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名:2E4MZ)を、溶剤としてメチルエチルケトンを、それぞれ準備した。上述の主剤、硬化剤A~Gのうちの一種、無機粒子A~Cの少なくとも一種、硬化促進剤及び溶剤を混合して各実施例及び各比較例の樹脂組成物を調製した。各実施例及び各比較例で用いた硬化剤及び無機粒子は表1に示す通りである。また各原材料の含有量は表1に示す通りである。
【0066】
表1には硬化促進剤及び溶剤を示していないが、各実施例及び各比較例において、エポキシ化合物と硬化剤の合計100質量部に対して、硬化促進剤を1質量部及び溶剤を94質量部配合した。
【0067】
<積層基板の作製>
厚さ0.1mmのガラス繊維織布を、各実施例及び各比較例で調製した樹脂組成物に含浸した。その後、100℃に加熱して乾燥し、メチルエチルケトンを除去して樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを6枚積層して、温度170℃及び圧力1MPaの条件で20分間の加熱加圧処理を行った。さらに、温度200℃及び圧力4MPaの条件で1時間の加熱加圧処理を行った。このように、2回の加熱加圧処理を行って、ガラス繊維織布とこれを覆う硬化物を有する厚さ1.0mmの積層基板を得た。
【0068】
<熱伝導性の評価>
各実施例及び各比較例の積層基板を直径10mm、厚み1.0mmの円盤状に加工して試験片を作製した。熱伝導率測定装置(アルバック理工株式会社製、装置名:レーザーフラッシュ法熱定数測定装置)を用いて、試験片の熱拡散係数α[m/s]を測定した。示差熱分析(DSC)によって、試験片の比熱C[J/(kg・K)]を測定した。このとき、サファイアを標準サンプルとして測定を行った。アルキメデス法によって、試験片の密度r(kg/m)を測定した。これらの測定値を用いて、下記式(2)によって熱伝導率λ[W/(m・K)]を算出した。結果を表1に示す。
【0069】
λ=α×C×r (2)
【0070】
<耐トラッキング性の評価>
JIS C2134に準拠して、以下の手順で耐トラッキング性を評価した。各実施例及び各比較例の積層基板を、縦×横×厚さ=20mm×20mm×1mmの直方体形状に加工して試験片を作製した。このような試験片を複数作製した。作製した試験片の表面に、先端が白金製であり、幅5mm、厚さ2mm、先端角30°の形状を有するのみ状の電極2本を接触させた。このとき、2本の電極の間隔は4.0±0.1mmとし、それぞれの電極の荷重は1±0.05Nとした。
【0071】
2本の電極間に所定の試験電圧(正弦波電圧)を印加した。試験電圧を印加した状態で試験片に電解液(塩化アンモニウム0.1±0.002質量%水溶液、抵抗率3.95±0.05Ω・m)を30±5秒間隔で50滴滴下した。2本の電極間に0.5A以上の電流が2秒間以上流れた試験片を、トラッキング現象が生じた(破壊した)と判断した。試験電圧は100~600Vの範囲内で25V刻みとした。それぞれの試験電圧において、n=5で試験を行い、5個の試験片の全てが破壊しない(トラッキング現象が生じない)最大電圧を求めた。結果を表1に示す。
【0072】
<最低溶融粘度の評価>
回転式レオメータ(サーモサイエンティフィック株式会社製、商品名:Rheo Stress 6000)を用いて、以下の手順で最低溶融粘度を測定した。各実施例及び各比較例の積層基板を円盤状(直径=20mm,厚さh=1.8mm)に加工して試験片を作製した。この試験片を、開始温度=100℃、昇温速度=2.5℃/分及び周波数=1Hzの条件で加熱しながら、下側のプレートに対して上側のプレートを、所定の速度で移動させて各温度における粘度を求めた。温度180℃まで測定を行って、温度による粘度変化を測定した。
【0073】
図5は、実施例1の粘度変化を示すグラフである。図5に示すとおり、下向き凸型の粘度カーブが得られた。これは、温度の上昇に伴って試験片が溶融して粘度が一旦低下し、その後、硬化反応の進行に応じて粘度が上昇したことを示している。図5に示すような粘度カーブにおいて、粘度の最低値を最低溶融粘度とした。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1中、「硬化剤」の欄の「比率」は、硬化剤A~Jの一分子中における全炭素原子数に対する芳香環を構成する炭素原子数の比率を示している。「硬化剤」の欄の「ベンゼン環の個数」は、硬化剤A~Jの一分子中におけるベンゼン環の個数を示している。「硬化剤」の欄の「含有量(質量部)」は、主剤(エポキシ化合物)100質量部に対する硬化剤の質量部を示している。第一無機粒子、第二無機粒子及び第三無機粒子の欄の「含有量(体積%)」は、主剤(エポキシ化合物)、硬化剤、第一無機粒子、第二無機粒子及び第三無機粒子並びに硬化促進剤の合計体積を基準とするそれぞれの無機粒子の体積割合を示している。
【0076】
表1に示すとおり、実施例1~12は、いずれも、熱伝導率が1.0W/(m・K)以上、最大電圧400V以上、且つ最低溶融粘度8000Pa・s以下であった。すなわち、実施例1~12は、放熱性、耐トラッキング性及び充填性の全ての特性を十分に高い水準で満足することが確認された。一方、比較例1~6は、熱伝導率、最大電圧及び最低溶融粘度の少なくとも一つの特性が実施例1~12よりも劣っていた。
【0077】
(第2の実施形態)
以下、場合により図面を参照して、本発明の請求項6~13に係る第2の実施形態を以下に説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0078】
本実施形態の樹脂組成物は、エポキシ化合物を含む主剤と硬化剤と無機粒子とを含む。ここで主剤は、硬化剤によって重合反応して硬化剤とともに硬化物を形成する成分である。エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、及びグリシジルアミン型等が挙げられる。これらのうち一種のエポキシ化合物を単独で、又は複数のエポキシ化合物を組み合わせて含んでもよい。エポキシ化合物のエポキシ当量は例えば100~1000g/eqであってもよい。
【0079】
一層高い熱伝導率を得る観点から、エポキシ化合物は、分子内にビフェニル骨格又はターフェニル骨格等、ベンゼン環を2つ以上有するメソゲン骨格を有することが好ましい。このようなエポキシ化合物を含有することによって、硬化剤に含まれる芳香族化合物とともに、ベンゼン環の積み重なり性を向上することができる。ベンゼン環の積み重なり性を向上することによって、硬化物において熱伝導率の低下の要因となるフォノンの散乱を一層抑制することができる。これによって、熱伝導率を一層高くして放熱性をさらに向上することができる。
【0080】
エポキシ化合物は一分子中にビフェニル骨格と2個以上のエポキシ基とを有するグリシジルエーテル類(例えばビフェニルグリシジルエーテル、テトラメチルビフェニルグリシジルエーテルのようにビフェニル骨格を有するもの)、及びターフェニル骨格のようなメソゲン骨格を有するグリシジルエーテル類を含んでいてもよい。エポキシ化合物はリンを含有するリン含有エポキシ化合物であってもよい。これによって難燃性を一層向上することができる。
【0081】
硬化剤は、下記一般式(9)及び一般式(10)の少なくとも一方のリン化合物と、一般式(11)で表される芳香族化合物を含む。
【化8】
【0082】
上記一般式(10)中、X21~X35は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基又はヒドロキシ基を示し、X21~X27の少なくとも一つはヒドロキシ基である。アルキル基は、例えば炭素数1~5である。X21~X27は、それぞれ独立に水素原子又はヒドロキシ基であることが好ましい。
【0083】
上記一般式(9)及び一般式(10)で表されるリン化合物は、リンを含有することから、難燃性の向上に寄与する。また、有機溶媒に難溶又は不溶であることから、樹脂組成物の分散性を向上する作用を有する。また、これらのリン化合物は、ビフェニル構造を有することから熱伝導率が比較的高い。
【0084】
上記一般式(9)及び一般式(10)で表されるリン化合物の融点は、250℃以上であることが好ましい。これによって、樹脂組成物を加熱した後も、分散性を良好に維持しながら熱硬化反応を進行させることができる。
【0085】
上記一般式(9)及び一般式(10)で表されるリン化合物の含有量は、溶剤以外の有機成分の合計100質量部に対して、8質量部以上であり、好ましくは10質量部以上である。上記リン化合物の含有量は、溶剤以外の有機成分の合計100質量部に対して、例えば30質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよい。これによって後述する芳香族化合物の含有量を確保して熱伝導率を十分に高くすることができる。なお本明細書における溶剤以外の有機成分には、主剤、硬化剤、及び任意成分(有機物)が該当する。一方、溶剤及び無機粒子等の無機物は上記有機成分には該当しない。
【0086】
上記一般式(11)中、R25~R39は夫々独立に水素原子、水酸基又はアミノ基を示し、R25~R39の少なくとも一つは水酸基又はアミノ基である。
【0087】
一般式(11)の芳香族化合物を含む硬化剤は、π-πスタッキングによって芳香環同士が重なりやすくなり、ベンゼン環間の間隔を小さくすることができる。このため、硬化物の密度が高くなり、熱伝導率を高くすることができる。また、分子の格子振動の散乱が抑制されることも熱伝導率の向上に寄与すると考えられる。このため、この芳香族化合物を含有する樹脂組成物の硬化物は、高い熱伝導率を有し放熱性に優れる。
【0088】
一般式(11)で表される芳香族化合物は、1,3,5-トリフェニルベンゼンの誘導体を含んでいてもよい。
【0089】
トリフェニルベンゼン誘導体としては、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン及び1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベンゼンが挙げられる。1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼンは、1分子中の3つの水酸基の活性水素のそれぞれがエポキシ化合物のエポキシ基と反応することができる。これによって、硬化物において、架橋密度が高く強固な樹脂構造が形成される。したがって、放熱性及び難燃性を一層向上することができる。1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベンゼンは、1分子中の3つのアミノ基の活性水素のそれぞれがエポキシ化合物のエポキシ基と反応することができる。これによって、硬化物において、架橋密度が高く強固な樹脂構造が形成される。したがって、放熱性及び難燃性を一層向上することができる。
【0090】
硬化剤は、上述のリン化合物及び芳香族化合物以外のものを含んでもよい。熱伝導率を十分に高くする観点から、硬化剤の総量に対する芳香族化合物の含有量は、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上である。一方、リン化合物の配合量を確保する観点から、硬化剤の総量に対する芳香族化合物の含有量は、例えば、80質量%以下であり、好ましくは70質量%以下である。硬化剤は、上述の含有範囲で1,3,5-トリス(4―ヒドロキシフェニル)ベンゼン及び/又は1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベンゼンを含んでもよい。これによって、放熱性を一層向上することができる。
【0091】
分散性及び難燃性を十分に高くする観点から、硬化剤の総量に対するリン化合物の含有量は、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上である。一方、芳香族化合物の配合量を確保する観点から、硬化剤の総量に対するリン化合物の含有量は、例えば、40質量%以下であり、好ましくは30質量%以下である。
【0092】
樹脂組成物におけるエポキシ化合物と硬化剤の含有割合は、エポキシ化合物100質量部に対して、硬化剤を10~100質量部含んでいてもよく、20~80質量部含んでいてもよい。このような含有割合にすることによって、硬化物の架橋密度を高くすることができる。
【0093】
樹脂組成物におけるリン元素の含有量は、エポキシ化合物と硬化剤の合計100質量部に対して0.8質量部以上であることが好ましく、1.3質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以上であることが更に好ましい。リン元素の含有量を高くすることによって難燃性を向上できる。
【0094】
無機粒子は、窒化ホウ素粒子、酸化マグネシウム粒子、アルミナ粒子、水酸化アルミニウム粒子、窒化アルミニウム粒子、及びシリカ粒子等が挙げられる。これらの一種を単独で又は二種以上を組みあわせて用いることができる。無機粒子の含有量は、エポキシ化合物と硬化剤の合計100質量部に対して、200~700質量部であり、好ましくは300~600質量部である。無機粒子の含有量が過剰になると、充填性が損なわれる傾向にある。一方、無機粒子の含有量が過少になると、耐トラッキング性が損なわれる傾向にある。無機粒子は、樹脂基板及び積層基板としたときの加工の容易性の観点から、酸化マグネシウム粒子を含有することが好ましい。
【0095】
市販のレーザ回折式粒度分布測定装置によって測定される無機粒子の体積基準の平均粒子径は、例えば1~100μmである。上記測定装置によって測定される無機粒子の粒度分布は、複数のピークを有していてもよい。これによって、無機粒子の含有量を増やすことができる。このように複数のピークを有する無機粒子は、例えば、平均粒径が互いに異なる2種以上の粒子を混合することによって得られる。
【0096】
樹脂組成物は、上述の成分以外の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、ホスフィン類及びイミダゾール(2-エチル-4-メチルイミダゾール等)類等の硬化促進剤(硬化触媒)、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤、ハロゲン等の難燃剤、溶剤(希釈剤)、可塑剤、並びに滑剤等が挙げられる。また、アミン又は酸無水物等の芳香族化合物以外の硬化剤を含んでいてもよい。樹脂組成物における硬化促進剤の含有量は、主剤と硬化剤の合計100質量部に対して、例えば0~5質量部である。樹脂組成物における溶剤の含有量は、主剤と硬化剤の合計100質量部に対して、例えば0~500質量部である。
【0097】
図1は、一実施形態に係る樹脂シートの斜視図である。樹脂シート12は、樹脂組成物を成形して得られるシートである。樹脂シート12は、樹脂組成物をそのまま含有していてもよく、Bステージ状態であってもよい。樹脂シート12は、樹脂組成物の硬化物を含有する樹脂基板の前駆体として用いることができる。
【0098】
図2は、図1のII-II線断面図である。すなわち、図2は樹脂シート12を厚さ方向に沿って切断したときの断面を示している。樹脂シート12は、芯材30と、芯材30に含浸されるとともに芯材30を被覆する樹脂成分22とを含有する。樹脂成分22は、樹脂組成物であってもよいし、樹脂組成物の半硬化物であってもよい。芯材30としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、天然繊維、及び、ポリエステル繊維又はポリアミド繊維等の合成繊維等から選ばれる少なくとも一種の繊維を含む織布及び不織布等が挙げられる。ただし、芯材30は、これらに限定されない。
【0099】
樹脂シート12は、次のようにして製造することができる。塗布又は浸漬等の手法によって芯材30に樹脂組成物を含浸させた後、加熱して樹脂組成物を乾燥する。これによって、樹脂組成物に含まれる有機溶媒が除去される。場合により、樹脂組成物の少なくとも一部は半硬化して樹脂成分22となり樹脂シート12が形成されてもよい。このときの加熱条件は、例えば、60~150℃で1~120分間程度であってもよく、70~120℃で3~90分間程度であってもよい。樹脂シート12は、樹脂組成物を含有する樹脂成分22で構成されていてもよく、Bステージ状態の樹脂成分22で構成されていてもよい。
【0100】
樹脂シート12をさらに高い温度の加熱条件で加熱すると、未硬化又は半硬化状態にある樹脂成分22の硬化がさらに進行して硬化物(熱硬化物)となる。これによって、硬化物20を含む樹脂基板10が得られる。このときの加熱条件は、例えば、100~250℃で1~300分間程度であってもよい。加熱は、必要に応じて加圧又は減圧下で行ってもよい。樹脂基板10は、芯材30と芯材30を被覆する硬化物20とを含む。別の幾つかの実施形態では、樹脂基板は樹脂組成物の硬化物のみで構成されていてもよい。
【0101】
樹脂硬化物は、上述のようにシート状に成形された樹脂シート12を加熱することによって製造してもよいし、例えば接着剤のように不定形の樹脂組成物を加熱することによって製造してもよい。樹脂シート12は、芯材30を有さずに、樹脂成分22のみで形成されていてもよい。また、樹脂シート12の表面上には、銅箔などの金属箔が積層されていてもよい。
【0102】
樹脂シート12は上記樹脂組成物を成形して得られるものであるため、この樹脂シート12は均一性に優れる。また樹脂シート12を用いて、放熱性及び難燃性に優れる樹脂硬化物、樹脂基板及び積層基板を得ることができる。
【0103】
図3は、一実施形態に係る積層基板の斜視図である。図4は、図3のIV-IV線断面図である。図4は、積層基板の積層方向に沿って切断したときの断面を示している。図3及び図4に示されるように、積層基板50は、硬化物20を含有する複数の樹脂基板10が積層されて構成されている。積層基板50は、例えば、複数枚の樹脂基板10又は樹脂シート12を重ね合わせた状態で、加熱及び/又は加圧することで積層基板100が得られる。加熱条件は、例えば、100~250℃で1~300分間程度である。加圧条件は、例えば、0.1~10MPa程度である。なお、加圧することは必須ではなく、減圧又は真空下で加熱してもよい。
【0104】
積層基板50に備えられる樹脂基板10は、芯材30と、芯材30を被覆する樹脂成分22とを含有する。積層基板50は、主面に金属層を有する金属張り積層板であってもよい。金属層には、各種公知のものを適宜選択して用いることができる。金属層は、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム等の金属板や金属箔であってもよい。金属層の厚みは、特に限定されず、例えば3~150μm程度である。積層基板は、金属張り積層板に、エッチング及び/又は穴開け加工を施したものであってもよい。
【0105】
樹脂基板10及び積層基板50は、上記樹脂組成物の硬化物を有することから、放熱性及び難燃性に優れる。また、品質のばらつきが小さく、品質の均一性に優れる。
【0106】
以上、本発明の幾つかの実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されない。例えば、積層基板は、複数の樹脂基板の間に内層回路を有していてもよい。以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0107】
(実施例13~22、比較例7~12)
<樹脂組成物の調製>
主剤として以下のエポキシ化合物を準備した。
エポキシ化合物A:市販品(商品名:YL-6121H、三菱化学株式会社製、エポキシ当量:175g/eq)
エポキシ化合物B:市販品(商品名:840-S、DIC株式会社製、エポキシ当量:185g/eq)
エポキシ化合物C:市販品(商品名:830-S、DIC株式会社製、エポキシ当量:173g/eq)
エポキシ化合物D:市販品(リン含有エポキシ化合物、リン含有率:5質量%、エポキシ当量:763g/eq)
【0108】
エポキシ化合物Aは、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂と4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂の約1:1の混合物である。エポキシ化合物Bは、ビスフェノールA型の液状エポキシ樹脂である。エポキシ化合物Cは、ビスフェノールF型の液状エポキシ樹脂である。エポキシ化合物Dは、リン含有エポキシ樹脂である。
【0109】
硬化剤として、以下の硬化剤K~Rを準備した。
硬化剤Kは、下記式(K)で示される10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイドである。(融点:250℃)
硬化剤Lは、下記式(L)で示される10-[2-(ジヒドロキシナフチル)]-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイドである。(融点:290℃)
硬化剤Mは、下記式(M)で示される1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼンである。
硬化剤Nは、下記式(N)で示される1,3,5-トリス(4-アミノフェニル)ベンゼンである。
硬化剤Oは、市販のノボラック型フェノール樹脂(DIC株式会社製、商品名:TD-2093)である。
硬化剤Pは下記式(P)で示される化合物である。
硬化剤Qは下記式(Q)で示される化合物である。
硬化剤Rは下記式(R)で示される化合物である。
【化9】
【0110】
以下の市販の無機粒子を準備した。
無機粒子A:酸化マグネシウム粒子(宇部マテリアルズ株式会社製、平均粒径:50μm)
無機粒子B:酸化マグネシウム粒子(宇部マテリアルズ株式会社製、平均粒径10μm)
【0111】
硬化促進剤として2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名:2E4MZ)を、溶剤としてメチルエチルケトンを、それぞれ準備した。上述の主剤、硬化剤K~Rのうちの少なくとも一種、無機粒子、硬化促進剤及び溶剤(メチルエチルケトン)を混合して各実施例及び各比較例の樹脂組成物を調製した。各実施例及び各比較例で用いた主剤及び硬化剤は表2に示すとおりである。また、主剤と硬化剤の合計100質量部に対する各原材料の含有量は、表2に示すとおりである。
【0112】
表2には無機粒子、硬化促進剤及び溶剤を示していないが、各実施例及び各比較例において主剤と硬化剤の合計100質量部に対して無機粒子A,Bを夫々150質量部、硬化促進剤を1質量部、溶剤を80質量部配合した。
【0113】
<分散性の評価>
各原材料を配合して、主剤、硬化剤、無機粒子、硬化促進剤及び溶剤を含む分散液からなる樹脂組成物を得た。この分散液を十分に撹拌した後、メスシリンダー(容量:30ml)に、分散液を高さが10cmになるように注ぎ入れた。1時間静置後、メスシリンダーの分散液中にガラス棒を入れて、ガラス棒の先端がメスシリンダーの内底に接触するか否かを調べた。接触する場合は、無機粒子の沈降が抑制されているものと評価した(評価A)。一方、接触しない場合は、無機粒子の沈降が抑制されていないものと評価した(評価B)。各実施例及び実施例の評価結果は表1に示すとおりであった。
【0114】
<積層基板の作製>
分散液からなる樹脂組成物を、離形フィルム上に塗布して、厚さ200μmの塗膜を得た。この塗膜を80℃に加熱して乾燥し、溶剤の含有量が1質量%の樹脂シートを調製した。この樹脂シートを、5枚積層して200℃で1時間加熱して、厚さ約1mmの積層基板を得た。
【0115】
<熱伝導性の評価>
作製した各実施例及び各比較例の積層基板を、直径10mmの円盤状に切り出して試験片を作製した。レーザフラッシュ法熱伝導率測定装置(アルバック理工株式会社製、装置名:TC-7000)を用いて、試験片の熱拡散係数α[m/s]を測定した。示差熱分析(DSC)によって、試験片の比熱C[J/(kg・K)]を測定した。このとき、サファイアを標準サンプルとして測定を行った。アルキメデス法によって、試験片の密度r(kg/m)を測定した。これらの測定値を用いて、下記式(3)によって熱伝導率λ[W/(m・K)]を算出した。結果を表2に示す。
【0116】
λ=α×C×r (3)
【0117】
<難燃性の評価>
作製した積層基板を、長さ125mm×幅13mmのサイズに切り出して試験片を作製した。UL94に規定する垂直試験法(UL94 V法)に準拠して、試験片の難燃性の試験を行った。そして、UL94に規定する評価基準(V-0、V-1、V-2)に基づいて評価を行った。UL94に規定する評価基準のV-0、V-1、V-2基準を満たすものを、それぞれ「V-0」、「V-1」、「V-2」と評価した。また、いずれの基準にも満たないものを「燃焼」と評価した。結果は表2に示すとおりであった。
【0118】
【表2】
【0119】
表2中、リン元素、リン化合物(硬化剤K及びL)並びに芳香族化合物(硬化剤M及びN)の含有量(質量部)は、樹脂組成物に含まれる溶剤以外の有機成分(主剤、硬化剤及び硬化促進剤)の合計100質量部に対する含有量を示す。表2中、硬化剤M、N、P、Q、Rの割合(質量%)は、硬化剤の総量を基準とする質量比率を示す。
【0120】
表2に示すとおり、実施例13~22は、分散性の評価が「A」であった。また、熱伝導率が2.5W/m・K以上且つ難燃性がV-1以上であり、放熱性に優れる硬化物を形成できることが確認された。一方、硬化剤として、芳香族化合物のみを用いた比較例7,10,11、及びリン化合物の含有量が低い比較例9,12は、分散性が悪かった。また、比較例7,9は、難燃性の評価も低かった。一方、硬化剤として、芳香族化合物を用いていない比較例8は、熱伝導率が低かった。
【符号の説明】
【0121】
10…樹脂基板、12…樹脂シート、20…硬化物、22…樹脂成分、30…芯材、50…積層基板。
図1
図2
図3
図4
図5