(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/19 20060101AFI20220308BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20220308BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B41J2/19
B41J2/18
B41J2/14 607
(21)【出願番号】P 2019523355
(86)(22)【出願日】2018-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2018011106
(87)【国際公開番号】W WO2018225333
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2020-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2017111994
(32)【優先日】2017-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【氏名又は名称】丸山 英一
(72)【発明者】
【氏名】倉持 裕介
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-087288(JP,A)
【文献】特開2015-107569(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190349(WO,A1)
【文献】特開2016-107418(JP,A)
【文献】特開2012-024934(JP,A)
【文献】米国特許第08915572(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが注入される少なくとも1つの圧力室と、
前記圧力室の圧力変動を生じさせる圧力発生手段と、
前記圧力室に連通し、該圧力室の圧力変動により該圧力室内から外部に吐出されるインクの流路となるノズルと、
前記ノズルよりも内方に該ノズルの近傍において連通し、該ノズルの近傍のインクを排出させる少なくとも1つの排出路と、
を備え、
前記ノズルよりも内方のインクの前記排出路に向かうインク流動の流速
を、該ノズルよりも内方のインク中に気泡が存在する場合に、
最大径の気泡の上昇速度の前記インク流動に対向する方向の成分よりも速
くして、前記インク中の気泡の全てを前記排出路へ排除するインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記圧力室に注入されるインクと該圧力室から前記排出路へ排出されるインクとの圧力差であるインク排出圧を調整して、前記ノズルよりも内方のインクの該排出路に向かう流動を生じさせる圧力調整手段を備える請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記圧力調整手段は、前記ノズルよりも内方のインクの密度に応じて、前記ノズル内のインクのメニスカスが維持される範囲で、前記インク排出圧を調整する請求項
2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記ノズルよりも内方のインク流動の流速V1は、以下のように求められ、
V1=(P1-P2)/(8πηL/Φ)〔m/s〕
P1:圧力室の入口の圧力〔Pa〕
P2:圧力室の出口の圧力(∵P1>P2)〔Pa〕
η:インク粘度〔Pa・s〕
L:圧力室の長さ〔m〕
Φ:等価流路断面積〔m
2〕
前記ノズルよりも内方のインク中に存在する気泡の上昇速度V0は、以下のように求められる請求項1
、2又は
3記載のインクジェットヘッド。
V0=|(Ps-Pw)gD
2/18η|〔m/s〕
Ps:空気密度(=1.21)〔kg/m
3〕
Pw:インク密度〔kg/m
3〕
g:重力加速度〔m/s
2〕
D:気泡径(≦ノズル22の直径)〔m〕
η:インク粘度〔Pa・s〕
【請求項5】
前記ノズルよりも内方のインク流動の方向の鉛直下方に対する傾斜角度をθとし、該ノズルよりも内方のインク中の気泡の上昇速度をV0としたとき、該上昇速度V0の前記インク流動に対向する方向の成分は、V0・cosθである請求項1
~4の何れかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記ノズルよりも内方のインク中に存在し得る気泡は、該ノズルよりも内方のインクを前記ノズルから吐出するときに該インク中に巻き込まれた気泡であって、その最大径は、前記ノズルの内径に等しい請求項1~5の何れかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記排出路内のインクの流速も、前記気泡の上昇速度の前記インク流動に対向する方向の成分よりも速い請求項1~6の何れかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記排出路は、流路抵抗が流路断面積に反比例する形状である請求項1~7の何れかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
請求項1~8の何れかに記載のインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドに移送されるインクが貯蔵されるインクタンクと、
前記インクタンク内のインクを、前記インクジェットヘッドにおいて前記圧力室が連通された共通インク室に移送する移送路と、
前記共通インク室に移送されたインクを回収する回収路とを備え、
前記圧力室から前記排出路へ排出されたインクは、前記回収路において、前記共通インク室から回収されたインクに合流されるインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッド及びインクジェット記録装置に関し、詳しくは、ノズル循環機構を備えたインクジェットヘッドにおいて、圧力室内の気泡を確実にノズル循環の経路に排出できるようにしたインクジェットヘッド及びこのインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なプリンタ(インクジェット記録装置)において用いられるインクジェットヘッドとして、シアーモード(エッジ(エンド)シュータ、サイドシュータ)型、ベンドモード型など各種のインクジェットヘッドが提案されている。
【0003】
これら各種のインクジェットヘッドにおいては、ノズル循環機構を備えたインクジェットヘッドが提案されている(特許文献1)。ノズル循環機構は、圧力室(インクチャネル)に注入されたインクを、記録媒体へのインクの吐出を行うノズルの近傍から排出させる機構である。ノズルの近傍から排出させたインクは、インクタンクに戻すことができる。ノズル循環機構を設ける目的は、圧力室内の気泡の除去、インク内粒子の沈降防止、初期導入時のインク廃棄量の低減、デキャップの防止などである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述のような、ノズル循環機構を備えたインクジェットヘッドにおいて、圧力室内の気泡が圧力室内のインク中を上昇する速度が速い場合には、この気泡をノズル循環の経路に確実には除去できない虞がある。除去できなかった気泡は、次にノズルからの吐出を行うときに、圧力室内のインクの流れによってノズルに達して、良好な吐出を阻害する虞がある。また、圧力室内のインク中に気泡が存在すると、圧力室内を加圧したときに、気泡の体積が縮小してしまうためにインクの圧力が十分に上がらず、正常な吐出ができない虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、ノズル循環機構を備えたインクジェットヘッドにおいて、圧力室内の気泡を確実にノズル循環の経路に排出できるようにしたインクジェットヘッド及びこのインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置を提供することを課題とする。
【0007】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0009】
1.
インクが注入される少なくとも1つの圧力室と、
前記圧力室の圧力変動を生じさせる圧力発生手段と、
前記圧力室に連通し、該圧力室の圧力変動により該圧力室内から外部に吐出されるインクの流路となるノズルと、
前記ノズルよりも内方に該ノズルの近傍において連通し、該ノズルの近傍のインクを排出させる少なくとも1つの排出路と、
を備え、
前記ノズルよりも内方のインクの前記排出路に向かうインク流動の流速は、該ノズルよりも内方のインク中に気泡が存在する場合に、該気泡の上昇速度の前記インク流動に対向する方向の成分よりも速いインクジェットヘッド。
2.
前記圧力室に注入されるインクと該圧力室から前記排出路へ排出されるインクとの圧力差であるインク排出圧を調整して、前記ノズルよりも内方のインクの該排出路に向かう流動を生じさせる圧力調整手段を備える前記1記載のインクジェットヘッド。
3.
前記ノズルよりも内方のインク流動の流速V1は、以下のように求められ、
V1=(P1-P2)/(8πηL/Φ)〔m/s〕
P1:圧力室の入口の圧力〔Pa〕
P2:圧力室の出口の圧力(∵P1>P2)〔Pa〕
η:インク粘度〔Pa・s〕
L:圧力室の長さ〔m〕
Φ:等価流路断面積〔m2〕
前記ノズルよりも内方のインク中に存在する気泡の上昇速度V0は、以下のように求められる前記1又は2記載のインクジェットヘッド。
V0=|(Ps-Pw)gD2/18η|〔m/s〕
Ps:空気密度(=1.21)〔kg/m3〕
Pw:インク密度〔kg/m3〕
g:重力加速度〔m/s2〕
D:気泡径(≦ノズル22の直径)〔m〕
η:インク粘度〔Pa・s〕
4.
前記ノズルよりも内方のインク流動の方向の鉛直下方に対する傾斜角度をθとし、該ノズルよりも内方のインク中の気泡の上昇速度をV0としたとき、該上昇速度V0の前記インク流動に対向する方向の成分は、V0・cosθである前記1、2又は3記載のインクジェットヘッド。
5.
前記圧力調整手段は、前記ノズルよりも内方のインクの密度に応じて、前記ノズル内のインクのメニスカスが維持される範囲で、前記インク排出圧を調整する前記2、3又は4記載のインクジェットヘッド。
6.
前記ノズルよりも内方のインク中に存在し得る気泡は、該ノズルよりも内方のインクを前記ノズルから吐出するときに該インク中に巻き込まれた気泡であって、その最大径は、前記ノズルの内径に等しい前記1~5の何れかに記載のインクジェットヘッド。
7.
前記排出路内のインクの流速も、前記気泡の上昇速度の前記インク流動に対向する方向の成分よりも速い前記1~6の何れかに記載のインクジェットヘッド。
8.
前記排出路は、流路抵抗が流路断面積に反比例する形状である前記1~7の何れかに記載のインクジェットヘッド。
9.
前記1~8の何れかに記載のインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドに移送されるインクが貯蔵されるインクタンクと、
前記インクタンク内のインクを、前記インクジェットヘッドにおいて前記圧力室が連通された共通インク室に移送する移送路と、
前記共通インク室に移送されたインクを回収する回収路とを備え、
前記圧力室から前記排出路へ排出されたインクは、前記回収路において、前記共通インク室から回収されたインクに合流されるインクジェット記録装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ノズル循環機構を備えたインクジェットヘッドにおいて、圧力室内の気泡を確実にノズル循環の経路に排出できるようにしたインクジェットヘッド及びこのインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るインクジェット記録装置の一例を示す要部概略構成図
【
図2】本発明に係るインクジェット記録装置におけるインクの流路を示す流路図
【
図3】本発明に係るインクジェットヘッドのヘッドチップ及びノズルプレートの斜視図
【
図6】
図1に示すインクジェットヘッドのインクチャネルの拡大断面図
【
図7】
図1に示すインクジェットヘッドが傾斜している状態のインクチャネルの拡大断面図
【
図8】
図1に示すインクジェットヘッドにおける流路抵抗を示す等価回路図
【
図9】本発明に係るインクジェットヘッド(サイドシュータ型)の要部を示す縦断面図
【
図10】本発明に係るインクジェットヘッド(MEMS型)の要部を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0013】
〔インクジェット記録装置〕
図1は、本発明に係るインクジェット記録装置100の一例を示す要部概略構成図であり、インクジェットヘッド1を一部断面で示している。
【0014】
インクジェット記録装置100は、搬送手段108によって一定方向(副走査方向)に搬送される記録媒体109上に、インクジェットヘッド1からインクを吐出してドットを形成して画像を記録する。いわゆるワンパス方式のインクジェット記録装置においては、インクジェットヘッド1は固定配置され、記録媒体109が搬送される過程で、ノズル22から記録媒体109に向けてインクを吐出し画像を記録する。また、いわゆるスキャン方式のインクジェット記録装置においては、インクジェットヘッド1は、キャリッジ機構107に搭載され、該キャリッジ機構107により主走査方向に往復移動される過程で、ノズル22から記録媒体109に向けてインクを吐出し画像を記録する。搬送手段108及びキャリッジ機構107は、制御部104によって駆動制御される。
【0015】
図1では、1つのインクジェットヘッド1のみを示しているが、一般にインクジェット記録装置100には、例えばイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)等の各色インク用の複数のインクジェットヘッド1が搭載される。本実施形態に示すインクジェット記録装置100においては、インクを貯蔵するインクタンク101とインクジェットヘッド1の共通インク室41とが、移送路となるインク移送管102及び回収路となるインク返送管103によって連通されている。
【0016】
このインクジェットヘッド1は、インクタンク101と共通インク室41とが高低差を有するように配置される。インクジェットヘッド1は、インクタンク101が共通インク室41よりも高い位置となるように配置される。この高低差により、インクタンク101内のインクは、共通インク室41内のインクよりも位置エネルギーが高いので、インク移送管102を介して共通インク室41側に流れる。
【0017】
インク移送管102の途中には、インクジェット記録装置100の制御部104によって駆動制御される移送ポンプ105aが設けられている。この移送ポンプ105aが駆動することにより、インクタンク101内のインクが、インク移送管102を介してインクジェットヘッド1に移送される。
【0018】
さらに、インク移送管102の途中には、移送側サブタンク111aが設けられている。移送側サブタンク111aは、インクジェットヘッド1に移送されるインクが一旦貯留されるバッファ空間として構成されている。この移送側サブタンク111aを介して、圧力調整手段を構成する移送圧力調整ポンプ110aにより、インク移送管102内のインクの圧力を調整することができる。移送圧力制御ポンプ110aは、インクジェットヘッド1内の制御部104aによって制御される。
【0019】
また、インク返送管103の途中には、制御部104によって駆動制御される返送ポンプ105bが設けられている。この返送ポンプ105bが駆動することにより、インクジェットヘッド1内のインクが、インク返送管103を介してインクタンク101に返送される。
【0020】
さらに、インク返送管103の途中には、返送側サブタンク111bが設けられている。返送側サブタンク111bは、インクジェットヘッド1から返送されてきたインクが一旦貯留されるバッファ空間として構成されている。この返送側サブタンク111bを介して、圧力調整手段を構成する返送圧力調整ポンプ110bにより、インク返送管103内のインクの圧力を調整することができる。返送圧力制御ポンプ110bは、インクジェットヘッド1内の制御部104aによって制御される。
【0021】
なお、圧力調整手段は、移送圧力調整ポンプ110a及び返送圧力調整ポンプ110bから構成されるものに限定されず、これらの何れかによって構成されるものであってもよい。
【0022】
インクタンク101は、格別限定されないが、タンクの底面に到達しない仕切り板101aによって、インク移送室101bとインク返送室101cとに仕切ることが好ましい。この場合、インク移送室101b内にインク移送管102の一端部を配置し、また、インク返送室101c内にインク返送管103の一端部を配置する。仕切り板101aは、インク返送室101cに返送されてきたインクに含まれる気泡が再度インク移送管102に流入しないように、インクを十分に脱気するために設けられる。気泡自体は浮力が高いので、気泡が仕切り板101aの下側を通過してインク移送室101bに流入することが抑制される。このような態様は、インクを循環使用する場合に好ましい態様である。
【0023】
〔インクジェットヘッド〕
次に、
図1に示した本発明に係るインクジェットヘッド1の構成について説明する。
【0024】
本発明は、例えばシアーモード(エッジ(エンド)シュータ、サイドシュータ)型、ベンドモード型、いわゆるMEMS型など各種のインクジェットヘッドに適用することができる。すなわち、本発明に係るインクジェットヘッドは、これら各種のインクジェットヘッドとして構成することができ、以下に述べる実施形態における方式のインクジェットヘッドに限定されない。
【0025】
本実施形態に示すインクジェットヘッド1は、シアーモードヘッド(エンドシュータ型)として構成したものである。この実施形態において、インクジェットヘッド1は、インク吐出面1Sを鉛直下方に向けて設置されている。ただし、本発明のインクジェットヘッド1の使用状態は、インク吐出面1Sを鉛直下方に向ける状態に限定されず、傾けた状態で使用してもよい。本明細書において、「上」及び「下」は、「鉛直上方」及び「鉛直下方」を意味し、
図1に示す使用状態の側面図における上側及び下側に対応する。
【0026】
インクジェットヘッド1は、
図1に示すように、共通インク室41を構成するインクマニホールド4と、このインクマニホールド4に接着された配線基板3と、配線基板3の下面部に接着されたヘッドチップ2と、ヘッドチップ2の下面部に接着されたノズルプレート21とを有して構成されている。
【0027】
インクマニホールド4は、合成樹脂材料等によって、下面部に開口部4aを有する横長の箱型に形成されている。このインクマニホールド4は、開口部4aを、下面部に接着された配線基板3によって塞がれている。インクマニホールド4の内部空間は、インクタンク101から移送されたインクが貯留される共通インク室41となる。配線基板3は、例えばガラス基板である。この配線基板3には、図示しない電源回路にFPC基板を介して接続される図示しない配線パターンが形成されている。
【0028】
図2は、このインクジェットヘッド1におけるインクの流路を示す流路図である。なお、
図2は、インクの排出路を示す流路図であるため、実際の高低差を表現していない。また、
図2では、ノズルプレート21は図示を省略している。
【0029】
共通インク室41には、
図1及び
図2に示すように、この共通インク室41内にインクを供給する流路となるインク供給管5aが連設されている。このインク供給管5aは、配線基板3から遠い側(上側)において、共通インク室41に連通されている。このインク供給管5aの上端側には、接続部7aが設けられている。この接続部7aは、インクジェット記録装置100側の接続部106aに着脱可能に接続される。インクジェット記録装置100側の接続部106aは、インク移送管102に連通している。これにより、インクジェットヘッド1は、インクタンク101からのインクの移送及び共通インク室41へのインクの供給が可能となる。
【0030】
また、共通インク室41には、この共通インク室41内からインクを回収する流路となるインク回収管5bが連設されている。このインク回収管5bは、配線基板3から遠い側(上側)において、共通インク室41に連通されている。このインク回収管5bの上端側には、接続部7bが設けられている。この接続部7bは、インクジェット記録装置100側の接続部106bに着脱可能に接続される。インクジェット記録装置100側の接続部106bは、インク返送管103に連通している。これにより、インクジェットヘッド1は、共通インク室41からのインクの回収及びインクタンク101へのインクの返送が可能となる。
【0031】
このインクジェットヘッド1において、インク供給管5aから、インク回収管5bの途中の後述するバッファ空間部6に至る流路が、主流路F1となる。
【0032】
インク供給管5aとインク回収管5bとは、共通インク室41の長手方向の両端部に離して配置することが好ましい。本実施形態におけるインク供給管5aは、インクマニホールド4の上面側における
図1中の左側の端部に配置され、また、インク回収管5bは、インクマニホールド4の上面側における
図1中の右側の端部に配置されている。これにより、インク供給管5aから共通インク室41に供給されたインクを、インク回収管5bに向けて、共通インク室41内の全体に亘って流すことができる。従って、共通インク室41内にインクが滞留する部位が形成されにくく、インク中の気泡をより効率良く排除することができる。
【0033】
図3は、本発明に係るインクジェットヘッド1のヘッドチップ2の斜視図である。
図4は、
図3に示すインクジェットヘッド1のヘッドチップ2の拡大断面図である。
【0034】
ヘッドチップ2には、
図3及び
図4に示すように、複数のインクチャネル(圧力室)23及び複数のダミーチャネル(擬似圧力室)25が形成されている。各インクチャネル23及び各ダミーチャネル25は、ヘッドチップ2の上面部から下面部に亘って穿設された透孔である。各インクチャネル23は、上方端が配線基板3に開設された注入孔31aを介して共通インク室41に連通している。各インクチャネル23には、インクタンク101内のインクの位置エネルギー及び移送ポンプ105aに起因し移送圧力調整ポンプ110aにより調整された圧力により、注入孔31aからインクが注入されて充填される。各インクチャネル23の下方端は、ノズル22を介して外方(下方)に連通している。このインクジェットヘッド1においては、ノズル22よりも内方は、インクチャネル23内となる。インクチャネル23とノズル22との間に連通路が存在する場合には、ノズル22よりも内方は、連通路内となる。各ダミーチャネル25は、上方端を配線基板3により閉蓋され、下方端をノズルプレート21により閉蓋されて、密閉された空気室となっている。各インクチャネル23及び各ダミーチャネル25は、一方向(
図3及び
図4中矢印X方向)に配列されてチャネル列を構成している。
【0035】
なお、チャネル列の数(列数)は、
図3及び
図4においては2列としているが、これに限定されず、3列又はそれ以上としてもよい。チャネル列の数(列数)を増やし、チャネル列の方向(X方向)に直交する方向に走査することにより、インクチャネル23間のピッチを狭めることなく、記録媒体上に形成するドット間のピッチを狭めることができる。
【0036】
各インクチャネル23の両壁部(インクチャネル23とダミーチャネル25との間の隔壁)は、
図4に示すように、圧力発生手段となる一対の圧電素子(駆動壁)24,24により構成されている。圧電素子24,24は、図示しない電源回路からFPC基板及び配線基板3の配線パターンを介して電圧を印加されることにより、せん断変形する。インクチャネル23の両壁部をなす圧電素子24、24がせん断変形することにより、インクチャネル23の圧力変動(膨張による減圧又は収縮による増圧)が生じる。インクチャネル23の圧力変動(減圧又は増圧)により、ノズル22よりも内方、すなわち、インクチャネル23内のインクに圧力が付与され、このインクがノズル22を介して吐出される。
【0037】
圧電素子24は、一つのインクチャネル23あたり2枚(一対)が設けられており、各インクチャネル23それぞれの両壁部をなしている。一のインクチャネル23の壁部を構成する圧電素子24,24と、隣接するインクチャネル23の壁部を構成する圧電素子24,24との間には空隙があり、この空隙がダミーチャネル25である。したがって、各インクチャネル23は、独立して駆動(減圧又は増圧)することができる。
【0038】
ダミーチャネル25は、少なくともインクチャネル23を挟んで両隣に位置し、隣接するインクチャネル23の容積変動に伴って容積変動を生ずる。この実施形態においては、インクチャネル23とダミーチャネル25とが1つずつ交互に配列されることにより、ダミーチャネル25が各インクチャネル23を挟んで両隣に位置する状態になっている。
【0039】
なお、このインクジェットヘッド1は、ダミーチャネル25を設けずに、隣接するインクチャネル23,23が1枚の駆動壁24を共用するように構成してもよい。この場合には、各インクチャネル23が独立して駆動(膨張又は収縮)することはできないので、いわゆる3サイクル駆動を行う。
【0040】
ヘッドチップ2に形成されるインクチャネル23は、その数は特に問わない。本実施形態に示すヘッドチップ2は、複数のインクチャネル23が、ヘッドチップ2の長手方向である
図3及び
図4中X方向に沿う複数列に配列されている。また、インクチャネル23内のインクに吐出圧力を付与する圧力発生手段の具体的な構成は問わず、公知の種々の構成を採用することができる。
【0041】
そして、ヘッドチップ2には、導入路425を形成してもよい。この導入路425は、各インクチャネル23及び各ダミーチャネル25が構成するチャネル列の一端側の該チャネル列の外側に位置して設けられる。この導入路425は、ヘッドチップ2の上面部から下面部に亘って穿設された透孔であり、横断面開口面積が、1つのインクチャネル23の横断面開口面積よりも大きくなっている。この導入路425は、上方端が配線基板3に開設された導入孔31cを介して共通インク室41に連通しており、インクタンク101内のインクの位置エネルギー及び移送ポンプ105aに起因し移送圧力調整ポンプ110aにより調整された圧力により、導入孔31cからインクが導入される。
【0042】
図5は、
図3に示すインクジェットヘッド1のノズルプレート21の平面図である。
【0043】
ヘッドチップ2の下面部に接着された平板状のノズルプレート21には、
図3~
図5に示すように、各インクチャネル23に対応された複数のノズル22が穿設されている。ノズル22は、インクチャネル23を外部(下方)に連通させる透孔である。各インクチャネル23内のインクは、圧電素子24の作用によって吐出圧力を付与され、ノズル22を通って外部(下方)の記録媒体に向けて吐出される。すなわち、ノズル22は、各インクチャネル23内から外部(下方)に吐出されるインクの流路となる。ノズルプレート21の下面部がインク吐出面1Sとなる。
【0044】
ノズルプレート21は、シリコン材料、ポリイミド樹脂材料又はその他の有機物材料、ステンレス、ニッケル又はその他の金属材料により形成することが好ましい。価格の点(安価であること)では、ステンレス、ポリイミド樹脂材料が優れており、加工の容易性では、ステンレス、ポリイミド樹脂材料が優れており、加工精度では、シリコン材料が優れており、化学的安定性では、ポリイミド樹脂材料が優れている。シリコン材料は硬質材料であるが、インクチャネル23の付近を薄く作成すれば、圧電素子24、24の駆動による隣接するインクチャネル23へのクロストークを防止することができる。
【0045】
図6は、
図1に示すインクジェットヘッドのインクチャネルの拡大断面図である。
【0046】
なお、
図6に示すように、共通インク室41内の各注入孔31aの近傍には、インクチャネル23内の圧力波が共通インク室41内のインクを介して他のインクチャネル23内に伝搬するクロストークを防止するための空気ダンパ46を設けてもよい。
【0047】
このインクジェットヘッド1は、
図6に示すように、インクチャネル23に注入されたインクをノズル22の近傍から排出させるノズル循環機構を備えている。ノズル22の近傍から排出させたインクは、インクタンク101に戻すことができる。各インクチャネル23には、
図3~
図6に示すように、それぞれ2本の個別インク排出路26a、26aが連通されている。個別インク排出路26a、26aは、インクチャネル23の横断面長手方向の両端部において、インクチャネル23に連通している。インクチャネル23の両端部近傍は、気泡が残留することが多い箇所であるため、個別インク排出路26a、26aをインクチャネル23の横断面長手方向の両端部に設けることは好ましい。なお、個別インク排出路26a、26aは、インクチャネル23の何れの箇所においてインクチャネル23に連通していてもよい。また、1個のインクチャネル23に対する個別インク排出路26aの本数は、増減してもよい。
【0048】
本実施形態において、個別インク排出路26a、26aは、ノズルプレート21の上面部にノズル22近傍を始端部として形成した流路形成溝28を、ヘッドチップ2の下面部によって閉蓋することにより構成されている。
【0049】
このように、個別インク排出路26a、26aを、ノズルプレート21の上面部に形成した流路形成溝28及びヘッドチップ2の下面部により構成し、インクチャネル23の下側に設けることにより、インクチャネル23の深さ方向の全体に渡るインクの流路を形成することができ、インクチャネル23の端部近傍に残留する気泡を良好に除去することができる。また、この場合、ノズルプレート21のみの加工によって個別インク排出路26a、26aを形成できるので、作製が容易である。
【0050】
導入路425を設けた場合には、この導入路425には、
図5に示すように、2本の導入溝425a、425aが連通される。導入溝425a、425aは、導入路425の両側部において導入路425に連通している。なお、導入溝425a、425aは、導入路425の何れの箇所において導入路425に連通していてもよい。また、1個の導入路425に対する導入溝425a、425aの本数は、増減してもよい。
【0051】
本実施形態において、導入溝425a、425aは、ノズルプレート21の上面部に導入路425近傍を始端部として形成され、ヘッドチップ2の下面部により閉蓋されて流路を構成している。
【0052】
このように、導入溝425a、425aをノズルプレート21の上面部に形成し、ヘッドチップ2の下面部とにより流路を構成することにより、ノズルプレート21のみの加工によって流路を形成できるので、作製が容易である。
【0053】
そして、
図3~
図6に示すように、ヘッドチップ2の下面部には、共通インク排出路421が形成されている。共通インク排出路421は、ヘッドチップ2の下面部に形成された溝とノズルプレート21の上面部に形成された溝422とが突き合わされることにより構成されている。このようにヘッドチップ2の下面部及びノズルプレート21の上面部の双方に形成した溝により共通インク排出路421を構成することにより、共通インク排出路421の横断面開口面積を拡げて流路抵抗を下げることができ、十分なインク流量を確保することができる。ヘッドチップ2の厚さ(高さ)はノズルプレート21の厚さよりも厚いので、共通インク排出路421を構成するヘッドチップ2の下面部の溝は、十分な深さとすることができる。
【0054】
共通インク排出路421は、チャネル列の方向(X方向)に形成された複数本の流路から構成されている。各インクチャネル23に連通した各個別インク排出路26a、26aは、共通インク排出路421に連通することにより合流している。各インクチャネル23内と共通インク排出路421内との間の圧力差により、各インクチャネル23から共通インク排出路421へのインクの流動が生じる。また、導入路425を設けた場合には、導入溝425a、425aは、共通インク排出路421に連通している。導入路425内と共通インク排出路421内との間の圧力差により、導入路425から共通インク排出路421へのインクの流動が生じる。そして、これら流動が合流して共通インク排出路421内のインク流動が生じる。
【0055】
共通インク排出路421は、所望の流路抵抗に設定するために、共通インク排出路421を構成する流路の本数や、その構造を適宜変更することができる。共通インク排出路421を構成する流路の本数は、流路抵抗の設定に応じて、適宜増減することができる。また、ヘッドチップ2の下面部の溝のみで十分なインク流量が確保できる場合には、ノズルプレート21の上面部に溝422を設けずに、ヘッドチップ2の下面部の溝をノズルプレート21の上面部により閉蓋して共通インク排出路421を構成してもよい。ヘッドチップ2の下面部の溝は、十分な深さとすることができるからである。なお、ノズルプレート21の上面部の溝422のみで十分なインク流量が確保できる場合には、ヘッドチップ2の下面部に溝を設けずに、ノズルプレート21の上面部の溝422をヘッドチップ2の下面部により閉蓋して共通インク排出路421を構成してもよい。
【0056】
図2~
図5に示すように、共通インク排出路421の他端側は、ヘッドチップ2に形成された排出チャネル424の下方端に連通されている。排出チャネル424は、各インクチャネル23及び各ダミーチャネル25が構成するチャネル列の他端側の該チャネル列の外側に位置して設けられている。なお、導入路425を設けた場合には、排出チャネル424の横断面開口面積は、導入路425の横断面開口面積の1.5倍~2倍程度となされている。排出チャネル424内のインク流量は、導入路425内のインク流量よりも、各インクチャネル23を経たインクが合流している分だけ多くなるので、流路抵抗を増大させないために排出チャネル424の横断面開口面積を大きくするのである。
【0057】
なお、導入路425は、複数のインクチャネル23と同一の構造の透孔から構成することもできる。すなわち、ヘッドチップ2の一端側に、印字領域から外れてインクチャネル23と同一の構造の透孔を複数作成し、これらの下にはノズル22を設けず個別インク排出路26aのみを設ければ、これら複数の透孔は、導入路として機能する。この場合には、複数の透孔の横断面積の合計を、前述した導入路425の横断面積に等しくすることが好ましい。この構成では、導入路を、インクチャネル23と同一の工程内容により各インクチャネル23の作成工程に連続した工程で作成することができ、作成が容易である。
【0058】
図1、
図2及び
図4に示すように、インクマニホールド4内には、排出チャネル424の上方に位置して、インク排出室412が設けられている。インク排出室412は、
図1及び
図4に示すように、インクマニホールド4内において、共通インク室41に隣接して設けられている。インク排出室412は、共通インク室41に対しては、隔壁45によって分離されている。隔壁45は、インクマニホールド4に一体的に形成することができる。
【0059】
このようにして、注入孔31aからインクチャネル23に流入されたインクの一部(ノズル22から吐出されないインク)は、個別インク排出路26a、26aから共通インク排出路421を経て、排出チャネル424に至り、配線基板3に形成された排出孔31bを通って、インク排出室412に至る。
【0060】
また、導入孔31cから導入路425に流入されたインクは、導入溝425a、425a及び共通インク排出路421を経て排出チャネル424に至り、排出孔31bを通ってインク排出室412に至る。
【0061】
このインクジェットヘッド1において、導入路425は、各インクチャネル23よりも、共通インク排出路421内のインク流動における上流側に位置していることが好ましい。導入路425を各インクチャネル23よりも共通インク排出路421内のインク流動における上流側に位置させると、共通インク排出路421の一端側(最上流部)におけるインク流量を多くすることができ、共通インク排出路421内及び各インクチャネル23内の気泡の除去やインク内粒子の沈降防止等をより確実に行うことができる。
【0062】
また、このインクジェットヘッド1においては、導入路425から共通インク排出路421への流動により、導入路425を設けない場合に比較して、共通インク排出路421内の流速が速められている。そのため、共通インク排出路421内のインクが十分な流速となされ、ノズル22からのインクの吐出が良好に行えて、かつ、共通インク排出路421内及び各インクチャネル23内の気泡の除去やインク内粒子の沈降防止等を確実に行うことができる。
【0063】
さらに、前述したように、導入路425の横断面開口面積を、1つのインクチャネル23の横断面開口面積よりも大きくした場合には、共通インク室41から導入路425を経て共通インク排出路421に至る流路の流路抵抗は、共通インク室41から1つのインクチャネル23を経て共通インク排出路421に至る流路の流路抵抗よりも小さい。したがって、導入路425から共通インク排出路421に至る流路の流量を、1つのインクチャネル23から共通インク排出路421に至る流路の流量よりも多くすることができる。そのため、共通インク排出路421の一端側(最上流部)におけるインク流量をより確実に多くすることができ、共通インク排出路421内及び各インクチャネル23内の気泡の除去やインク内粒子の沈降防止等をより確実に行うことができる。
【0064】
このインクジェットヘッド1においては、導入路425内及び各インクチャネル23内から共通インク排出路421を経てインク排出室412に至る流路が形成されているので、これらの流路抵抗の総和を考慮して、この条件においてノズル22からのメニスカスブレイクが生じないように、インクタンク101と共通インク室41との高低差、移送ポンプ105a及び返送ポンプ105bが与える圧力等の条件が決定される。また、各個別インク排出路26a、26aの流路抵抗の合計は、ノズル22からのメニスカスブレイクが生じないように、インクタンク101と共通インク室41との高低差、移送ポンプ105a及び返送ポンプ105bが与える圧力等の条件を勘案して規定される。各個別インク排出路26a、26aは、その流路抵抗の合計が既定値から外れない限りにおいて、適宜に開口面積及び長さを設定することができる。
【0065】
この実施形態においては、導入路425へのインクの流入は、各インクチャネル23への注入と同様に、共通インク室41から行われる。この態様は、各インクチャネル23及び導入路425をヘッドチップ2に並列的に形成するだけで実現できるので、作成が容易である。
【0066】
そして、
図1及び
図2に示すように、インク排出室412には、排出路連結部5dを介して、インク排出室412内からインクを排出する流路をなすインク排出管5cが接続されている。排出路連結部5dは、排出チャネル424の上方側に位置して、各インクチャネル23及び各ダミーチャネル25が構成するチャネル列の他端側の該チャネル列の外側に位置して設けられている。インク排出管5cの上端側は、インク回収管5bに合流している。インク回収管5bとインク排出管5cとは、合流箱61に接続されることによって合流している。
【0067】
合流箱61は、合成樹脂材料や金属材料から一体的に構成されており、内部にバッファ空間部6が形成されている。合流箱61の外面には、バッファ空間部6に至る第1乃至第3の開口部48a,48b,48cが形成されている。第1の開口部48aからバッファ空間部6を経て第3の開口部48cに至る流路は、インク回収管5bの中途部に介在されている。実装状態としては、インク回収管5bを中途部において上流側及び下流側に分け、上流側を第1の開口部48aに接続させ、下流側を第3の開口部48cに接続させることになる。そして、第2の開口部48bには、インク排出管5cを接続させる。
【0068】
このように、本実施形態に示すインクジェットヘッド1は、インク回収管5b及びインク排出管5cが合流箱61によって合流されているため、インクジェット記録装置100側の配管等との接続部位は、インク供給管5a(接続部7a)及びインク回収管5b(接続部7b)の2箇所のみで済む。従って、インクジェット記録装置100側の配管等との接続部位の数は、一般的なインクジェットヘッドに対して増加せず、接続作業が煩雑化することはない。すなわち、本実施形態のインクジェットヘッド1は、既設装置を設計変更する必要なく、接続部7a、7bの2箇所のみの接続によって交換及び設置が可能である。
【0069】
このインクジェットヘッド1において、導入路425及び個別インク排出路26a、26aから、共通インク排出路421、排出チャネル424、排出孔31b、インク排出室412及びインク排出管5cを経て、バッファ空間部6に至る流路が、排出路423となる。この排出路423は、導入路425及びインクチャネル23に連通し、これら導入路425及びインクチャネル23内のインクを排出させ、バッファ空間部6においてインク回収管5bに合流させる流路である。ただし、排出路423は、ノズル22近傍の個別インク排出路26a、26aからインクを排出するものであれば、その後の経路は何ら限定する必要はない。そして、導入孔31c及び各注入孔31aを経て、排出路423までが、副流路F2となる(
図2参照)。
【0070】
なお、排出路423は、チャネル列の一端側の該チャネル列の外側及び該チャネル列の他端側の該チャネル列の外側の両方に設けてもよい。この場合には、排出チャネル424及びインク排出室412をチャネル列の両方に設け、それぞれにインク排出管5cを接続する。これらインク排出管5cは、それぞれインク回収管5bに合流される。この場合には、導入路425を設ける場合には、チャネル列の中央位置に設けることが望ましい。
【0071】
排出路423は各インクチャネル23に対応した個別インク排出路26a、26aの全てを通過する流路として構成されているため、インクチャネル23の高密度化に伴い、排出路423全体の流路抵抗は大きくなっている。従って、インク排出管5cをインク回収管5bに合流させても、インク供給管5aからインク回収管5bを経る主流路F1の流量が多く、各注入孔31aから排出路423に至る副流路F2の流量が少ないために、これらが円滑に合流しないことが考えられる。このインクジェットヘッド1においては、主流路F1と副流路F2との合流(インク排出管5cとインク回収管5bとの合流)を、バッファ空間部6において行い、また、流量調整部材8を使用することにより、これら主流路F1及び副流路F2の流量が異なっても、円滑に合流させることができる。
【0072】
流量調整部材8は、インク回収管5b内に配置される円筒状部材であり、インク回収管5bの流路径を狭める。流量調整部材8は、主流路F1と副流路F2との流路抵抗の差に相当する圧力損失を、主流路F1に付与する。このインクジェットヘッド1においては、流量調整部材8により、主流路F1の流路抵抗と、副流路F2の流路抵抗とを均衡させることにより、インク供給管5a内のインク圧力p0によって、容易に主流路F1及び副流路F2の両方に均等にインクを流すことができる。
【0073】
上述のようなインクジェットヘッド1及びこれを備えたインクジェット記録装置100によれば、インク供給管5aからインクを供給するだけで、共通インク室41内の残留気泡を主流路F1を経てインク回収管5bから排出させるのみならず、ノズル22から引き込まれたインクチャネル23近傍の気泡をも、副流路F2を経てインク排出管5cから迅速に排出させることができる。よって、インクマニホールド4内の全体(共通インク室41内及びインクチャネル23の近傍)の残留気泡除去を効率的に行うことができる。また、沈降し易い粒子や顔料等が含まれているインクを使用する場合でも、画像記録中の個別インク排出路26a、26a及び共通インク排出路421における粒子や顔料等の沈降を効果的に抑制して、インクの濃度偏差を抑制することができる。
【0074】
〔気泡排出動作〕
このインクジェットヘッド1は、記録媒体へのインクの吐出を行いながら、また、吐出を行わないときにも、インクチャネル23内の気泡排出動作を行う。インクチャネル23内のインク中の気泡は、ノズル22からインクを吐出した後にノズル22から巻き込まれたものや、注入孔31aから注入されたインク中に混入していたものや、インクチャネル23内のインクの圧力が急激に低下したときにインク中に発生したもの等である。
【0075】
この気泡排出動作は、圧力調整手段(移送圧力調整ポンプ110a及び返送圧力調整ポンプ110b)により、
図6に示すように、注入孔31aからインクチャネル23に注入されるインクの圧力P1と、インクチャネル23から個別インク排出路26aへ排出されるインクの圧力P2との圧力差であるインク排出圧ΔPを調整することにより行う。インクチャネル23に注入されるインクの圧力P1は、インクチャネル23から排出されるインクの圧力P2よりも大きく、インク排出圧ΔPは、インクチャネル23内のインクが個別インク排出路26aに向かうインク流動を生じさせる。
【0076】
インク排出圧ΔPによるインク流動の流速をV1とする。インクチャネル23内のインク中に気泡Bが存在する場合には、気泡Bの上昇方向は鉛直上方である。インクチャネル23内のインク流動の流速V1は、気泡Bの上昇速度V0のインク流動に対向する方向の成分V2よりも速くなっている。インクジェットヘッド1に傾きがない場合(インク流動の方向及びインクの吐出方向が鉛直下方である場合)には、気泡Bの上昇速度V0のインク流動に対向する方向の成分V2は、上昇速度V0に等しい(V2=V0)。
【0077】
このインクジェットヘッド1においては、インク流動の流速V1が、気泡Bの速度成分V2よりも速いことにより、インクチャネル23内に気泡Bが残留することを防止することができる。インク流動の流速V1は、気泡Bの速度成分V2に対して、速くなるほど迅速に、気泡Bをインクチャネル23内から除去することができる。ただし、圧力調整手段は、ノズル22内のインクのメニスカスが維持される範囲で、インク排出圧ΔPを調整する。圧力調整手段は、インク流動の流速V1と気泡Bの速度成分V2との比率が、予め設定された所定の比率になるように、インク排出圧ΔPを調整することが好ましい。
【0078】
このインクジェットヘッド1においては、ノズル22からインクを吐出した後に、ノズル22から気泡Bが巻き込まれたとき等、インクチャネル23内のインク中に気泡Bが存在する場合にも、極めて短い時間内にインクチャネル23内から個別インク排出路26aに気泡Bを排出することができる。したがって、このインクジェットヘッド1は、気泡Bを原因とする吐出不良から迅速に復帰することができ、吐出不良により毀損され廃棄しなければならない印刷物を減らすことができる。
【0079】
図7は、
図1に示すインクジェットヘッドが傾斜している状態のインクチャネルの拡大断面図である。
【0080】
図7(a)に示すように、インクジェットヘッド1が傾斜しており、インクチャネル23内のインク流動方向の鉛直下方に対する傾斜角度がθであるときには、
図7(b)に示すように、気泡Bの上昇速度V0のインク流動に対向する方向の成分V2は、V0・cosθとなる。
【0081】
このインクジェットヘッド1においては、傾斜して使用されても、気泡Bの迅速な除去が可能である。このインクジェットヘッド1は、傾斜させた状態でも、傾斜のない状態と同等の気泡排除能力を発揮することができる。
【0082】
図8は、
図1に示すインクジェットヘッドにおける流路抵抗を示す等価回路図である。
【0083】
このインクジェットヘッド1においては、インクチャネル23内の流路抵抗Rと、排出路423の流路抵抗R´とは、
図8の等価回路に示すように、直列に接続された状態となっている。インクチャネル23内の流路抵抗Rは、ハーゲン・ポアズイユの法則により、以下のように求めることができる。
R=8πηL/(SΦ)
=8πηL/(abΦ)
=8πηL/(ab(d/2)
2π)
=8ηL/(ab{a
2b
2/(a+b)
2})
=8ηL(a+b)
2/(a
3b
3)〔Pa・s/m
3〕
η:インク粘度〔Pa・s〕(=〔Ns/m
2〕=〔kg/ms〕)
L:インクチャネルの長さ〔m〕
a,b:流路横断面の各辺の長さ〔m〕
S:流路断面積(=ab)〔m
2〕
d:等価直径(=4ab/2(a+b))〔m〕
Φ:等価流路断面積(=(d/2)
2π)〔m
2〕
【0084】
インクチャネル23内から排出路423に排出されるインクの量(排出流量)Q1は、以下のように求めることができる。
Q1=ΔP/(8πηL/(SΦ))
=(P1-P2)/(8πηL/(SΦ))〔m3/s〕
ΔP:インクチャネル23の入口(注入孔31a)の圧力P1と出口(個別インク排出路26a)の圧力P2(∵P1>P2)との差(=P1-P2)〔Pa〕
【0085】
インクチャネル23内におけるインク流動の速度(流速)V1は、以下のように求めることができる。
V1=Q1/S
=ΔP/(8πηL/Φ)〔m/s〕
【0086】
インクチャネル23内における気泡Bの上昇速度V0は、ストークスの式により、以下のように求めることができる。
V0=|(Ps-Pw)gD2/18η|〔m/s〕
∵絶対値にしないとマイナスになる。
Ps:空気密度(=1.21)〔kg/m3〕
Pw:インク密度〔kg/m3〕
g:重力加速度〔m/s2〕
D:気泡径(≦ノズル22の直径)〔m〕
【0087】
インクジェットヘッド1の傾き角がθであるとき、気泡Bの上昇速度V0のインク流動に対向する成分V2は、以下のように求めることができる。
V2=V0・cosθ〔m/s〕
【0088】
インクジェットヘッド1を傾斜させて使用する場合には、圧力調整手段は、インクジェットヘッド1の傾き角θに応じて、インク排出圧ΔPを変化させることが好ましい。圧力調整手段は、傾き角θに応じてインク排出圧ΔPを変化させることにより、傾き角θに依らず、インク流動の流速V1と気泡Bの速度成分V2との比率を予め設定された所定の比率にすることが好ましい。
【0089】
前述のように、インクチャネル23内における気泡Bの上昇速度V0は、インク密度Pwによって異なる。したがって、圧力調整手段は、インクチャネル23内のインク密度Pwに応じて、インク排出圧ΔPを変化させ、インク流動の流速V1と気泡Bの速度成分V2との比率を予め設定された所定の比率にすることが好ましい。インク密度Pwは、インクジェットヘッド1の仕様に適合されたインクであれば概ね一定の値であるので、使用するインクの種類に応じて予め設定しておいてよい。
【0090】
また、インク密度Pwは、インクジェットヘッド1内の温度によって変化するので、圧力調整手段は、インクジェットヘッド1内の温度に応じて、インク排出圧ΔPを変化させ、インク流動の流速V1と気泡Bの速度成分V2との比率を予め設定された所定の比率にすることが好ましい。インク密度Pwと温度との相関関係は、インクの仕様ごとに予めわかっているので、インク排出圧ΔPと温度との相関関係も予め設定しておくことができる。インクジェットヘッド1内の温度の情報は、インクジェットヘッド1内に設けた温度センサから得ることができる。
【0091】
このように、このインクジェットヘッド1は、使用するインクの密度Pwが異なる様々な仕様のインクジェットヘッドとして構成することができる。
【0092】
ところで、インクチャネル23内のインク中に存在し得る気泡Bは、インクをノズル22から吐出したときにインク中に巻き込まれてインクチャネル23内に浸入したものであるので、その最大径は、ノズル22の内径にほぼ等しい。そして、インクチャネル23内の気泡Bの上昇速度V0は、気泡径Dが大きくなるほど速くなる。したがって、このインクジェットヘッド1は、気泡径Dがノズル22の内径に等しい気泡Bが排出できるように、インク排出圧ΔPが設定され調整されることが好ましい。インク排出圧ΔPがこのように調整されることにより、インクチャネル23内の全ての気泡Bを迅速に排除することができる。
【0093】
また、このインクジェットヘッド1においては、排出路423内のインクの流速も、気泡Bの上昇速度V0のインク流動に対向する方向の成分V2よりも速いことが好ましい。
【0094】
排出路423内のインクの流速が、気泡Bの速度成分V2より速いことにより、インクチャネル23から排出された気泡Bを迅速にインクチャネル23から遠ざけることができ、高い気泡排除能力を実現することができる。
【0095】
排出路423内のインクの流速を速めるには、排出路423は、流路内から圧損を生じさせる形状を極力排除し、その流路抵抗が流路断面積に反比例する形状としておくことが好ましい。また、前述したように、インクチャネル23内の流路抵抗Rは、排出路423の流路抵抗R´と直列に接続された状態となっているので、排出路423の流路抵抗R´を低くしておけば、インク排出圧ΔPの調整により、インクチャネル23内のインク流動の流速を効率良く速めることができる。
【0096】
なお、インクジェットヘッド1内の各箇所におけるインク圧力は、インクの流路にT字分岐を設け、分岐させた先においてマノメータにより測定することができる。
【0097】
以上説明した実施形態のインクジェット記録装置100においては、インクジェットヘッド1とインクタンク101との間でインクを循環させているが、本発明はこれに限定されない。図示しないが、インク回収管5b及びインク排出管5cから流出したインクを、インクタンク101に戻さずに、廃インクタンクに排出させるように構成してもよい。
【0098】
〔インクジェットヘッドの他の実施形態〕
図9は、本発明に係るインクジェットヘッド(サイドシュータ型)の要部を示す縦断面図である。
図10は、本発明に係るインクジェットヘッド(MEMS型)の要部を示す縦断面図である。
【0099】
本発明は、前述したように、シアーモード型のインクジェットヘッド1に限定されることなく、
図9に示すサイドシュータ型のインクジェットヘッド10や、
図10に示すいわゆるMEMS型のインクジェットヘッド11など、各種のインクジェットヘッドに適用することができる。なお、
図1と同一符号の部位は同一構成の部位であるため、これらの説明は上記説明を援用し、ここでは省略する。
【0100】
サイドシュータ型のインクジェットヘッド10においては、
図9に示すように、インクチャネル23内のインク流動の方向が、ノズル22からのインクの吐出方向に対してほぼ直交する方向となっている。インクの吐出方向を鉛直下方とした場合には、インクチャネル23内のインク流動の方向は、水平方向となる。
【0101】
このインクジェットヘッド10においても、インクチャネル23内のインク流動の流速V1を、気泡Bの上昇速度V0よりも十分に速くしておくことにより、インクチャネル23内に気泡Bが残留することを防止することができる。
【0102】
なお、このインクジェットヘッド10においては、気泡Bの上昇速度V0のインク流動に対向する方向の成分V2は、V0・cos90°=0である。したがって、インク流動の流速V1は、気泡Bの速度成分V2=0よりも必ず速くなるが、上昇速度V0よりも速くしておかないと、気泡Bがインクチャネル23内の上方に移動してしまう虞がある。
【0103】
MEMS型のインクジェットヘッド11においては、
図10に示すように、基板3上に圧電素子24が配置されており、この基板3の下面側にインクチャネル23が構成されている。圧電素子24は、インクチャネル23の上面(天井面)に配置されており、駆動することにより、インクチャネル23の容積を変動させ、圧力変動を生じさせる。インクチャネル23の下面(底面)には、ノズル22へ連通路23aが形成されている。ノズル22は、連通路23aを介してインクチャネル23に連通し、インクチャネル23を外部(下方)に連通させている。インクジェットヘッド11の下面部がインク吐出面1Sとなる。各インクチャネル23内のインクは、圧電素子24の作用によって吐出圧力を付与され、ノズル22を通って外部の記録媒体に向けて(下方)に吐出される。
【0104】
インクチャネル23は、注入孔31aを介して共通インク室41に連通している。共通インク室41内のインクは、注入孔31aを介して、インクチャネル23に注入される。
【0105】
インクチャネル23からノズル22への連通路23aには、個別インク排出路26aが連通している。個別インク排出路26aは、共通インク排出路421に連通している。
【0106】
共通インク排出路421に至ったインクは、前述の実施形態と同様に、図示しないインク排出室に至り、インク排出管を経て、インク回収管に合流する。
【0107】
このインクジェットヘッド11においても、インクチャネル23内から個別インク排出路26aに向かうインク流動の流速V1を、ノズル22よりも内方(連通路23a内又はインクチャネル23内)の気泡Bの上昇速度V0のインク流動に対向する方向の成分V2よりも速くしておくことにより、連通路23a内及びインクチャネル23内に気泡Bが浸入し残留することを防止することができる。
【0108】
以上の説明においては、圧力調整手段を用いることにより、ノズルよりも内方のインクの排出路に向かうインク流動の流速を、該ノズルよりも内方のインク中に気泡が存在する場合に、該気泡の上昇速度のインク流動に対向する方向の成分よりも速くする態様について説明したが、これに限定されない。例えば、圧力発生手段である圧電素子24を用いてもよい。
【符号の説明】
【0109】
1:インクジェットヘッド(エンドシュータ型)
10:インクジェットヘッド(サイドシュータ型)
11:インクジェットヘッド(MEMS型)
2:ヘッドチップ
21:ノズルプレート
22:ノズル
23:インクチャネル
23a:連通路
24:圧電素子
25:ダミーチャネル
26a:個別インク排出路
28:流路形成溝
3:配線基板
31a:注入孔
31b:排出孔
31c:導入孔
4:インクマニホールド
41:共通インク室
412:インク排出室
421:共通インク排出路
422:溝
423:排出路
424:排出チャネル
425:導入路
425a:導入溝
45:隔壁
46:空気ダンパ
5a:インク供給管
5b:インク回収管
5c:インク排出管
5d:排出路連結部
6:バッファ空間部
61:合流箱
7a:接続部
7b:接続部
8:流量調整部材
F1:主流路
F2:副流路
100:インクジェット記録装置
101:インクタンク
102:インク移送管
103:インク返送管
104:制御部
104a:制御部
105a:移送ポンプ
105b:返送ポンプ
107:キャリッジ機構
108:搬送手段
109:記録媒体
110a:移送圧力制御ポンプ
110b:返送圧力制御ポンプ
111a:移送側サブタンク
111b:返送側サブタンク