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特許7036121蓄電システム、二次電池の容量推定装置、および、鉛蓄電池の容量推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】蓄電システム、二次電池の容量推定装置、および、鉛蓄電池の容量推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20220308BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20220308BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20220308BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20220308BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20220308BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20220308BHJP
   G01R 31/379 20190101ALI20220308BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220308BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20220308BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/385
G01R31/387
G01R31/388
G01R31/389
G01R31/382
G01R31/379
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/42 P
H02J7/00 Y
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019549842
(86)(22)【出願日】2018-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2018025286
(87)【国際公開番号】W WO2019087462
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2017209015
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】吉田 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】中西 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】杉江 一宏
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-007871(JP,A)
【文献】特開2015-108579(JP,A)
【文献】特開2005-274214(JP,A)
【文献】特開2002-107427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/392
G01R 31/385
G01R 31/387
G01R 31/388
G01R 31/389
G01R 31/382
G01R 31/379
H01M 10/48
H01M 10/42
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池と、前記鉛蓄電池からの電力によって作動する電動機と、報知部と、電池管理部と、を備える蓄電システムであって、
前記電池管理部は、
前記鉛蓄電池の開放電圧に基づき、前記開放電圧と相関する、前記鉛蓄電池の基準状態からの第1の劣化要因による第1の容量変化量を特定し、
前記第1の容量変化量と、前記鉛蓄電池の前記基準状態からの全体内部抵抗の変化量とに基づき、前記開放電圧と相関しない、前記鉛蓄電池の第2の劣化要因による第2の容量変化量を特定し、
前記第1の容量変化量と、前記第2の容量変化量とに基づき、前記鉛蓄電池の電池容量と前記基準状態からの電池容量の変化量との少なくとも1つを特定し、
前記報知部は、
前記電池管理部によって特定された前記電池容量と前記基準状態からの電池容量の変化量との少なくとも1つに応じた報知動作を実行する、蓄電システム。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電システムであって、
前記第1の劣化要因は、前記鉛蓄電池が備える負極におけるサルフェーションであり、
前記第2の劣化要因は、前記鉛蓄電池が備える格子体の腐食である、蓄電システム。
【請求項3】
二次電池の容量推定装置であって、
前記二次電池の開放電圧の値を特定する開放電圧特定部と、
前記開放電圧と相関する前記二次電池の第1の劣化要因による第1の容量と前記開放電圧との間の第1の相関関係と、特定された前記開放電圧の値とに基づき、前記二次電池の基準状態からの前記第1の容量の変化量を特定する第1の容量特定部と、
前記第1の容量と前記二次電池の第1の内部抵抗との間の第2の相関関係と、特定された前記第1の容量の変化量とに基づき、前記第1の劣化要因による前記第1の内部抵抗の変化量を特定する第1の内部抵抗特定部と、
前記二次電池の全体内部抵抗の変化量を特定する全体抵抗特定部と、
特定された前記全体内部抵抗の変化量から、特定された前記第1の内部抵抗の変化量を減算することにより、第2の内部抵抗の変化量を特定する第2の内部抵抗特定部と、
前記開放電圧と相関しない前記二次電池の第2の劣化要因による第2の容量と、前記第2の内部抵抗との間の第3の相関関係と、特定された前記第2の内部抵抗の変化量とに基づき、前記二次電池の前記基準状態からの前記第2の容量の変化量を特定する第2の容量特定部と、
特定された前記第1の容量の変化量と、特定された前記第2の容量の変化量と基づき、前記二次電池の電池容量を特定する第1の電池容量特定部と、
を備える、二次電池の容量推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の二次電池の容量推定装置であって、さらに、
前記二次電池の温度が所定温度以上であることと、前記二次電池の過充電電気量が基準量以上であることとの少なくとも1つを含む切替条件を満たすか否かを判断する条件判断部と、
前記切替条件を満たすと判断された場合、前記開放電圧を利用しない他の推定方法によって前記二次電池の電池容量を特定する第2の電池容量特定部と、
を備える、二次電池の容量推定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の二次電池の容量推定装置であって、さらに、
前記二次電池の電流と電圧とを取得する取得部と、
前記取得部に取得される前記電流と前記電圧とに基づき、前記二次電池の電流の値が基準値であるときの前記二次電池の電圧の値を、複数回、特定する電圧特定部と、を備え、
前記第2の電池容量特定部は、前記二次電池の電圧の変化傾向と前記二次電池の電池容量との間の第4の相関関係に基づき、特定された前記複数回の電圧の値における変化傾向に対応する前記二次電池の電池容量の値を特定する、二次電池の容量推定装置。
【請求項6】
鉛蓄電池の容量推定方法であって、
前記鉛蓄電池の開放電圧に基づき、前記開放電圧と相関する、前記鉛蓄電池の基準状態からの第1の劣化要因による第1の容量変化量を特定する工程と、
前記第1の容量変化量と、前記鉛蓄電池の前記基準状態からの全体内部抵抗の変化量とに基づき、前記開放電圧と相関しない、前記鉛蓄電池の第2の劣化要因による第2の容量変化量を特定する工程と、
前記第1の容量変化量と、前記第2の容量変化量とに基づき、前記鉛蓄電池の電池容量を特定する工程と、を含む、鉛蓄電池の容量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、蓄電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池が広く利用されている。二次電池は、例えば、自動車等の移動体に搭載され、電動機への電力供給源、エンジン始動時におけるスタータへの電力供給源や、ライト等の各種電装品への電力供給源として利用される。
【0003】
二次電池は、例えば長期使用されると劣化し、電池容量(放電可能な最大容量、または、満充電状態のときの容量)が低下する。そこで、従来から、二次電池の内部抵抗の値を検出し、検出した内部抵抗の値に基づき、二次電池の劣化度を判定する電池セル制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-185122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、移動体は、表示部を備えており、この表示部に、二次電池の電池残量に応じた表示パターンが表示される。一般に、電池残量に応じた表示パターンは、電池容量に対する現在の電池残量(残容量)の割合に応じて互いに異なるパターンで表示するものである。移動体の使用者は、表示部に表示された表示パターンを見て、二次電池の電池残量を把握し、二次電池の充電の要否を判断する。しかし、二次電池が劣化し、電池容量が低下すると、例えば、表示パターンが同じでも実際の電池残量が少なくなっており、充電を要するまでの時期が短くなっているなど、表示パターンから実際の電池残量を正確に把握することができなくなり、その結果、二次電池の充電の要否について誤判断の要因となる。以上のように、二次電池の劣化が進行した場合でも、二次電池の電池容量等を精度よく推定し、その推定結果に基づき、例えば使用者に二次電池の交換を促すなどの対応を行うことが好ましい。
【0006】
しかし、検出した内部抵抗の値のみに基づき二次電池の劣化度を判定する上述の電池セル制御装置では、二次電池の劣化度や電池容量を精度よく推定することができず、二次電池に対する適切な対応を行うことができないといった問題が生じる。
【0007】
本明細書では、二次電池の電池容量の推定精度を向上させることが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される蓄電システムは、鉛蓄電池と、前記鉛蓄電池からの電力によって作動する電動機と、報知部と、電池管理部と、を備える蓄電システムであって、前記電池管理部は、前記鉛蓄電池の開放電圧に基づき、前記開放電圧と相関する、前記鉛蓄電池の基準状態からの第1の劣化要因による第1の容量変化量を特定し、前記第1の容量変化量と、前記鉛蓄電池の前記基準状態からの全体内部抵抗の変化量とに基づき、前記開放電圧と相関しない、前記鉛蓄電池の第2の劣化要因による第2の容量変化量を特定し、前記第1の容量変化量と、前記第2の容量変化量とに基づき、前記鉛蓄電池の電池容量と前記基準状態からの電池容量の変化量との少なくとも1つを特定し、前記報知部は、前記電池管理部によって特定された前記電池容量と前記基準状態からの電池容量の変化量との少なくとも1つに応じた報知動作を実行する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態におけるゴルフカート60の構成を概略的に示す説明図である。
図2】ゴルフカート60の電気的構成を概略的に示す説明図である。
図3】BMU400の構成を概略的に示す説明図である。
図4】鉛蓄電池100の外観構成を示す斜視図である。
図5図4のV-Vの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。
図6図4のVI-VIの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。
図7】電池管理処理の流れを示すフローチャートである。
図8】鉛蓄電池100の各劣化要因と、開放電圧、内部抵抗および電池容量との関係を示す説明図である。
図9】第1の推定処理の流れを示すフローチャートである。
図10】各相関関係を示す説明図である。
図11】鉛蓄電池100の電圧の変化傾向と放電量との関係を示す説明図である。
図12】負荷への放電時の鉛蓄電池100の電圧変化を示す説明図である。
図13】第2の推定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
(1)本明細書に開示される蓄電システムは、鉛蓄電池と、前記鉛蓄電池からの電力によって作動する電動機と、報知部と、電池管理部と、を備える蓄電システムであって、前記電池管理部は、前記鉛蓄電池の開放電圧に基づき、前記開放電圧と相関する、前記鉛蓄電池の基準状態からの第1の劣化要因による第1の容量変化量を特定し、前記第1の容量変化量と、前記鉛蓄電池の前記基準状態からの全体内部抵抗の変化量とに基づき、前記開放電圧と相関しない、前記鉛蓄電池の第2の劣化要因による第2の容量変化量を特定し、前記第1の容量変化量と、前記第2の容量変化量とに基づき、前記鉛蓄電池の電池容量と前記基準状態からの電池容量の変化量との少なくとも1つを特定し、前記報知部は、前記電池管理部によって特定された前記電池容量と前記基準状態からの電池容量の変化量との少なくとも1つに応じた報知動作を実行する。
【0012】
本願発明者は、鋭意検討した結果、次の観点(a)(b)を新たに見出した。
(a)二次電池(特に鉛蓄電池)の劣化要因(電池容量の変動要因)は複数(例えば鉛蓄電池の場合、サルフェーションや格子腐食)あり、それら複数の劣化要因には、各劣化要因の進行に伴う二次電池の容量と内部抵抗との相関関係の変化特性が互いに異なる劣化要因が存在し、かつ、それらの劣化要因の進行度合いは、二次電池の使用環境等によって互いに異なる。
(b)二次電池の容量と内部抵抗との相関関係が互いに異なる劣化要因には、各劣化要因の進行に伴って変化する二次電池の容量(電池容量)が二次電池の開放電圧に相関するもの(以下、「相関要因」という)と、該開放電圧に相関しないもの(以下、「非相関要因」という)とがある。
【0013】
そこで、本蓄電システムでは、上記観点(a)に鑑み、鉛蓄電池の第1の劣化要因(相関要因)による第1の容量変化量と、第2の劣化要因(非相関要因)による第2の容量変化量とを個別に特定する。まず、電池管理部は、鉛蓄電池の開放電圧に基づき、開放電圧と相関する、基準状態(例えば鉛蓄電池が新品であるときの状態)からの第1の劣化要因による第1の容量変化量を特定する。次に、電池管理部は、第1の容量変化量と、鉛蓄電池の基準状態からの全体内部抵抗の変化量とに基づき、開放電圧と相関しない第2の劣化要因による第2の容量変化量を特定する。そして、電池管理部は、第1の容量変化量と、第2の容量変化量とに基づき、鉛蓄電池の電池容量と基準状態からの電池容量の変化量との少なくとも1つを特定する。報知部は、電池管理部によって特定された電池容量と基準状態からの電池容量の変化量との少なくとも1つに応じた報知動作を実行する。これにより、鉛蓄電池の電池容量が精度良く推定され、その電池容量に応じた適切な対応を行うことができる。
【0014】
(2)上記蓄電システムにおいて、前記第1の劣化要因は、前記鉛蓄電池が備える負極におけるサルフェーションであり、前記第2の劣化要因は、前記鉛蓄電池が備える格子体の腐食である構成としてもよい。本蓄電システムによれば、サルフェーションによる容量低下量と格子体の腐食による容量低下量とを個別に特定することにより、鉛蓄電池の電池容量を精度良く推定することができる。
【0015】
(3)本明細書に開示される二次電池の容量推定装置は、二次電池の容量推定装置であって、前記二次電池の開放電圧の値を特定する開放電圧特定部と、前記開放電圧と相関する前記二次電池の第1の劣化要因による第1の容量と前記開放電圧との間の第1の相関関係と、特定された前記開放電圧の値とに基づき、前記二次電池の基準状態からの前記第1の容量の変化量を特定する第1の容量特定部と、前記第1の容量と前記二次電池の第1の内部抵抗との間の第2の相関関係と、特定された前記第1の容量の変化量とに基づき、前記第1の劣化要因による前記第1の内部抵抗の変化量を特定する第1の内部抵抗特定部と、前記二次電池の全体内部抵抗の変化量を特定する全体抵抗特定部と、特定された前記全体内部抵抗の変化量から、特定された前記第1の内部抵抗の変化量を減算することにより、第2の内部抵抗の変化量を特定する第2の内部抵抗特定部と、前記開放電圧と相関しない前記二次電池の第2の劣化要因による第2の容量と、前記第2の内部抵抗との間の第3の相関関係と、特定された前記第2の内部抵抗の変化量とに基づき、前記二次電池の前記基準状態からの前記第2の容量の変化量を特定する第2の容量特定部と、特定された前記第1の容量の変化量と、特定された前記第2の容量の変化量と基づき、前記二次電池の電池容量を特定する第1の電池容量特定部と、を備える。
【0016】
本二次電池の容量推定装置では、まず、第1の劣化要因(相関要因)による二次電池の基準状態からの第1の容量の変化量を特定する。具体的には、開放電圧と相関する第1の容量と開放電圧との間の第1の相関関係に基づき、特定された開放電圧の値に対応する第1の容量の変化量を特定する。次に、第2の劣化要因(非相関要因)による二次電池の基準状態からの第2の容量の変化量を特定する。ここで、第2の容量と、第2の劣化要因の進行に伴う第2の内部抵抗とは相関するため、第2の内部抵抗の変化量を特定できれば、第2の容量の変化量を特定することができる。また、二次電池の基準状態からの全体内部抵抗の変化量には、第1の劣化要因の進行に伴う第1の内部抵抗の変化量と、第2の劣化要因の進行に伴う第2の内部抵抗の変化量とが含まれているが、全体内部抵抗の変化量だけから、第1の内部抵抗の変化量と第2の内部抵抗の変化量とを区別することはできない。
【0017】
そこで、本二次電池の容量推定装置では、上記観点(b)に鑑み、第1の劣化要因による第1の容量と、第1の劣化要因による第1の内部抵抗との第2の相関関係を利用する。具体的には、第2の相関関係と、特定された第1の容量の変化量とに基づき、第1の内部抵抗の変化量を特定する。また、二次電池の全体内部抵抗の変化量を特定する。そして、特定された全体内部抵抗の変化量から、特定された第1の内部抵抗の変化量を減算することにより、第2の内部抵抗の変化量を特定する。次に、第2の容量と第2の内部抵抗との間の第3の相関関係と、特定された第2の内部抵抗の変化量とに基づき、第2の容量の変化量を特定する。これにより、第1の劣化要因による第1の容量の変化量と、第2の劣化要因による第2の容量の変化量とを個別に特定することができる。そして、特定された第1の容量の変化量と、特定された第2の容量の変化量とに基づき、二次電池の電池容量を精度よく特定することができる。
【0018】
(4)上記二次電池の容量推定装置において、さらに、前記二次電池の温度が所定温度以上であることと、前記二次電池の過充電電気量が基準量以上であることとの少なくとも1つを含む切替条件を満たすか否かを判断する条件判断部と、前記切替条件を満たすと判断された場合、前記開放電圧を利用しない他の推定方法によって前記二次電池の電池容量を特定する第2の電池容量特定部と、を備える構成としてもよい。
【0019】
本二次電池の容量推定装置では、二次電池の温度が所定温度以上であることと、二次電池の過充電電気量が基準量以上であることとの少なくとも1つを含む切替条件を満たすと判断された場合、開放電圧を利用しない他の推定方法によって二次電池の電池容量を特定する。例えば、二次電池の温度上昇によって開放電圧に関する第1の相関関係が変動して、第1の電池容量特定部による二次電池の電池容量の推定精度が低下する場合がある。このような場合でも、本二次電池の容量推定装置によれば、開放電圧を利用しない他の推定方法が実行されるため、開放電圧に関する相関関係の変動に起因する二次電池の電池容量の推定精度の低下を抑制することができる。
【0020】
(5)上記二次電池の容量推定装置において、さらに、前記二次電池の電流と電圧とを取得する取得部と、前記取得部に取得される前記電流と前記電圧とに基づき、前記二次電池の電流の値が基準値であるときの前記二次電池の電圧の値を、複数回、特定する電圧特定部と、を備え、前記第2の電池容量特定部は、前記二次電池の電圧の変化傾向と前記二次電池の電池容量との間の第4の相関関係に基づき、特定された前記複数回の電圧の値における変化傾向に対応する前記二次電池の電池容量の値を特定する構成としてもよい。
【0021】
本二次電池の容量推定装置では、切替条件を満たすと判断された場合、取得される電流と電圧とに基づき、二次電池の電流の値が基準値であるときの二次電池の電圧の値を、複数回、特定する。次に、二次電池の電圧の変化傾向(傾き)と二次電池の電池容量との間の第4の相関関係に基づき、特定された複数回の電圧の値における変化傾向に対応する二次電池の電池容量の値を特定する。これにより、開放電圧に関する相関関係が変動した場合でも、二次電池の全体内部抵抗の値に基づき二次電池の電池容量を推定する従来の推定方法に比べて、二次電池の電池容量の値を精度よく推定することができる。
【0022】
(6)本明細書に開示される鉛蓄電池の容量推定方法は、鉛蓄電池の容量推定方法であって、前記鉛蓄電池の開放電圧に基づき、前記開放電圧と相関する、前記鉛蓄電池の基準状態からの第1の劣化要因による第1の容量変化量を特定する工程と、前記第1の容量変化量と、前記鉛蓄電池の前記基準状態からの全体内部抵抗の変化量とに基づき、前記開放電圧と相関しない、前記鉛蓄電池の第2の劣化要因による第2の容量変化量を特定する工程と、前記第1の容量変化量と、前記第2の容量変化量とに基づき、前記鉛蓄電池の電池容量を特定する工程と、を含む。
【0023】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、容量推定装置、容量推定方法、それらの装置または方法の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することが可能である。さらに、本明細書に開示される技術は、移動体が遠隔地から管理する管理装置(例えば工場内の集中管理装置や外部サーバなど)に適用されるとしてもよい。
【0024】
A.実施形態:
A-1.構成:
図1は、本実施形態におけるゴルフカート60の構成を概略的に示す説明図である。図1に示すように、ゴルフカート60は、バッテリとしての鉛蓄電池100と、電動機としての駆動モータ300と、鉛蓄電池100の状態を管理するBMU(Battery Management Unit)400と、操作部62と、を備える。ゴルフカート60は、鉛蓄電池100からの電力によって作動する駆動モータ300の動力によって走行する移動体であって、ゴルフ場における所定の道を自動運転により走行可能とされている。
【0025】
操作部62は、例えばゴルフカート60のハンドルの近傍に配置されている。図1に拡大して示すように、操作部62には、例えば液晶ディスプレイ等により構成され、各種の画像や情報を表示する表示部64が設けられており、表示部64には、鉛蓄電池100の電池残量に応じた表示パターン66が表示される。具体的には、表示部64の画面上における「F」は、鉛蓄電池100が満充電状態(例えば鉛蓄電池100の電圧が予め定められた電圧上限値以上である状態)を意味し、表示部64の画面上における「E」は、鉛蓄電池100が充電不足状態(例えば鉛蓄電池100の電圧が予め定められた電圧下限値以下である状態)を意味する。表示部64の画面上における互いに長さが異なる複数のバーは、鉛蓄電池100の電池容量(鉛蓄電池100の放電可能な最大容量、または、満充電状態のときの容量)に対する現在の容量(残容量)の割合(以下、「充電率」という)に応じて互いに異なるパターンで表示するものである。具体的には、鉛蓄電池100の充電率が低くなり充電不足状態に近くなるほど、「E」近傍のバーのみが点灯し、鉛蓄電池100の充電率が高くなり満充電状態に近くなるほど、「E」近傍のバーから「F」近傍のバーまで点灯する。
【0026】
これにより、ゴルフカート60の使用者は、表示部64に表示された表示パターン66を見れば、鉛蓄電池100の電池残量を感覚的に把握することができる。ゴルフカート60に備えられた鉛蓄電池100は、図示しない充電器によって充電可能とされている。このため、ゴルフカート60の使用者は、表示部64に表示された表示パターン66を見て、鉛蓄電池100が充電不足状態に近づいていると判断すれば、充電器によって鉛蓄電池100を充電することができる。ゴルフカート60のように、頻繁に充電が必要とされる移動体では、特に、電池容量の推定について高い精度が求められる。また、鉛蓄電池100は、他の二次電池に比べて重量が大きいため、ゴルフカート60のような移動体において安定走行のために搭載されることが多々ある。ゴルフカート60は、特許請求の範囲における蓄電システムに相当し、鉛蓄電池100は、特許請求の範囲における二次電池に相当し、BMU400は、特許請求の範囲における電池管理部、容量推定装置に相当し、表示部64は、特許請求の範囲における報知部に相当する。
【0027】
図2は、ゴルフカート60の電気的構成を概略的に示す説明図である。図2に示すように、ゴルフカート60は、上述の鉛蓄電池100、駆動モータ300およびBMU400以外に、電圧検出部450と、電流検出部460と、温度検出部470とを備える。鉛蓄電池100は、複数のセルCが直列接続された組電池である。
【0028】
(各検出部の構成)
電圧検出部450は、鉛蓄電池100に並列に接続されており、鉛蓄電池100の全体の電圧値に応じた検出結果を出力する。電流検出部460は、鉛蓄電池100に直列に接続されており、鉛蓄電池100に流れる電流(充放電電流)値に応じた検出結果を出力する。温度検出部470は、鉛蓄電池100の近傍に配置され、鉛蓄電池100の温度に応じた検出結果を出力する。
【0029】
(BMU400の構成)
図3は、BMU400の構成を概略的に示す説明図である。BMU400は、制御部410と、記憶部420と、入力部430と、インターフェース部440とを備える。これらの各部は、バスを介して互いに通信可能に接続されている。
【0030】
入力部430は、電圧検出部450と電流検出部460と温度検出部470とのそれぞれからの検出結果の入力を受け付ける。インターフェース部440は、例えば、LANインターフェースやUSBインターフェース等により構成され、有線または無線により他の装置(例えば、操作部62)との通信を行う。
【0031】
記憶部420は、例えばハードディスクドライブ(HDD)等により構成され、各種のプログラムやデータを記憶する。例えば、記憶部420には、後述する電池管理処理を実行するための電池管理プログラム421が格納されている。電池管理プログラム421は、例えば、CD-ROMやDVD-ROM、USBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体(図示しない)に格納された状態で提供され、BMU400にインストールすることにより記憶部420に格納される。また、記憶部420には、後述する各マップデータ422が格納されている。各マップデータ422はインターフェース部440を介してBMU400に入力され、記憶部420に格納される。
【0032】
制御部410は、例えばCPUやROM、RAM等により構成され、記憶部420から読み出したコンピュータプログラムを実行することにより、BMU400の動作を制御する。例えば、制御部410は、電池管理プログラム421を読み出して実行することにより、後述の電池管理処理を実行する処理部として機能する。具体的には、制御部410は、条件判断部510と、表示制御部520と、第1の推定処理部530と、第2の推定処理部540とを含む。また、第1の推定処理部530は、開放電圧特定部531と、サルフェーション容量特定部532と、サルフェーション抵抗特定部533と、全体抵抗特定部534と、格子腐食抵抗特定部535と、格子腐食容量特定部536と、第1の電池容量特定部537とを含む。また、第2の推定処理部540は、電流電圧取得部541と、電圧特定部542と、第2の電池容量特定部543とを含む。これら各部の機能については、後述の電池管理処理の説明の中で説明する。
【0033】
(鉛蓄電池100の構成)
図4は、鉛蓄電池100の外観構成を示す斜視図であり、図5は、図4のV-Vの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図であり、図6は、図4のVI-VIの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。なお、図5および図6では、便宜上、後述する極板群20の構成が分かりやすく示されるように、該構成が実際とは異なる形態で表現されている。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を「上方向」といい、Z軸負方向を「下方向」というものとするが、鉛蓄電池100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0034】
図4から図6に示すように、鉛蓄電池100は、筐体10と、正極側端子部30と、負極側端子部40と、複数の極板群20とを備える。以下では、正極側端子部30と負極側端子部40とを、まとめて「端子部30,40」ともいう。
【0035】
(筐体10の構成)
筐体10は、電槽12と、蓋14とを有する。電槽12は、上面に開口部を有する略直方体の容器であり、例えば合成樹脂により形成されている。蓋14は、電槽12の開口部を塞ぐように配置された部材であり、例えば合成樹脂により形成されている。蓋14の下面の周縁部分と電槽12の開口部の周縁部分とが例えば熱溶着によって接合されることにより、筐体10内に外部との気密が保たれた空間が形成されている。筐体10内の空間は、隔壁58によって、所定方向(本実施形態ではX軸方向)に並ぶ複数の(例えば6つの)セル室16に区画されている。以下では、複数のセル室16が並ぶ方向(X軸方向)を、「セル並び方向」という。
【0036】
筐体10内の各セル室16には、1つの極板群20が収容されている。そのため、例えば、筐体10内の空間が6つのセル室16に区画されている場合には、鉛蓄電池100は6つの極板群20を備える。また、筐体10内の各セル室16には、希硫酸を含む電解液18が収容されており、極板群20の全体が電解液18中に浸かっている。電解液18は、蓋14に設けられた注液口(図示せず)からセル室16内に注入される。
【0037】
(極板群20の構成)
極板群20は、複数の正極板210と、複数の負極板220と、セパレータ230とを備える。複数の正極板210および複数の負極板220は、正極板210と負極板220とが交互に並ぶように配置されている。以下では、正極板210と負極板220とを、まとめて「極板210,220」ともいう。
【0038】
正極板210は、正極集電体212と、正極集電体212に支持された正極活物質216とを有する。正極集電体212は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金により形成されている。また、正極集電体212は、その上端付近に、上方に突出する正極耳部214を有している。正極活物質216は、二酸化鉛を含んでいる。正極活物質216は、さらに公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0039】
負極板220は、負極集電体222と、負極集電体222に支持された負極活物質226とを有する。負極集電体222は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金により形成されている。また、負極集電体222は、その上端付近に、上方に突出する負極耳部224を有している。負極活物質226は、鉛を含んでいる。負極活物質226は、さらに公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0040】
セパレータ230は、絶縁性材料(例えば、ガラスや合成樹脂)により形成されている。セパレータ230は、互いに隣り合う正極板210と負極板220との間に介在するように配置されている。セパレータ230は、一体部材として構成されてもよいし、正極板210と負極板220との各組合せについて設けられた複数の部材の集合として構成されてもよい。
【0041】
極板群20を構成する複数の正極板210の正極耳部214は、例えば鉛または鉛合金により形成された正極側ストラップ52に接続されている。すなわち、複数の正極板210は、正極側ストラップ52を介して電気的に並列に接続されている。同様に、極板群20を構成する複数の負極板220の負極耳部224は、例えば鉛または鉛合金により形成された負極側ストラップ54に接続されている。すなわち、複数の負極板220は、負極側ストラップ54を介して電気的に並列に接続されている。以下では、正極側ストラップ52と負極側ストラップ54とを、まとめて「ストラップ52,54」ともいう。
【0042】
鉛蓄電池100において、一のセル室16に収容された負極側ストラップ54は、例えば鉛または鉛合金により形成された接続部材56を介して、該一のセル室16の一方側(例えばX軸正方向側)に隣り合う他のセル室16に収容された正極側ストラップ52に接続されている。また、該一のセル室16に収容された正極側ストラップ52は、接続部材56を介して、該一のセル室16の他方側(例えばX軸負方向側)に隣り合う他のセル室16に収容された負極側ストラップ54に接続されている。すなわち、鉛蓄電池100が備える複数の極板群20は、ストラップ52,54および接続部材56を介して電気的に直列に接続されている。なお、図5に示すように、セル並び方向の一方側(X軸負方向側)の端に位置するセル室16に収容された正極側ストラップ52は、接続部材56ではなく、後述する正極柱34に接続されている。また、図6に示すように、セル並び方向の他方側(X軸正方向側)の端に位置するセル室16に収容された負極側ストラップ54は、接続部材56ではなく、後述する負極柱44に接続されている。
【0043】
(端子部30,40の構成)
正極側端子部30は、筐体10におけるセル並び方向の一方側(X軸負方向側)の端部付近に配置されており、負極側端子部40は、筐体10におけるセル並び方向の他方側(X軸正方向側)の端部付近に配置されている。
【0044】
図5に示すように、正極側端子部30は、正極側ブッシング32と、正極柱34とを含む。正極側ブッシング32は、上下方向に貫通する孔が形成された略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極側ブッシング32の下側部分は、インサート成形により蓋14に埋設されており、正極側ブッシング32の上側部分は、蓋14の上面から上方に突出している。正極柱34は、略円柱形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極柱34は、正極側ブッシング32の孔に挿入されている。正極柱34の上端部は、正極側ブッシング32の上端部と略同じ位置に位置しており、例えば溶接により正極側ブッシング32に接合されている。正極柱34の下端部は、正極側ブッシング32の下端部より下方に突出し、さらに、蓋14の下面より下方に突出しており、上述したように、セル並び方向の一方側(X軸負方向側)の端に位置するセル室16に収容された正極側ストラップ52に接続されている。
【0045】
図6に示すように、負極側端子部40は、負極側ブッシング42と、負極柱44とを含む。負極側ブッシング42は、上下方向に貫通する孔が形成された略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。負極側ブッシング42の下側部分は、インサート成形により蓋14に埋設されており、負極側ブッシング42の上側部分は、蓋14の上面から上方に突出している。負極柱44は、略円柱形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。負極柱44は、負極側ブッシング42の孔に挿入されている。負極柱44の上端部は、負極側ブッシング42の上端部と略同じ位置に位置しており、例えば溶接により負極側ブッシング42に接合されている。負極柱44の下端部は、負極側ブッシング42の下端部より下方に突出し、さらに、蓋14の下面より下方に突出しており、上述したように、セル並び方向の他方側(X軸正方向側)の端に位置するセル室16に収容された負極側ストラップ54に接続されている。
【0046】
鉛蓄電池100の放電の際には、正極側端子部30の正極側ブッシング32および負極側端子部40の負極側ブッシング42に負荷(図示せず)が接続され、各極板群20の正極板210での反応(二酸化鉛から硫酸鉛が生ずる反応)および負極板220での反応(鉛(海綿状鉛)から硫酸鉛が生ずる反応)により生じた電力が該負荷に供給される。また、鉛蓄電池100の充電の際には、正極側端子部30の正極側ブッシング32および負極側端子部40の負極側ブッシング42に電源(図示せず)が接続され、該電源から供給される電力によって各極板群20の正極板210での反応(硫酸鉛から二酸化鉛が生ずる反応)および負極板220での反応(硫酸鉛から鉛(海綿状鉛)が生ずる反応)が起こり、鉛蓄電池100が充電される。
【0047】
A-2.電池管理処理:
次に、BMU400により実行される電池管理処理について説明する。電池管理処理は、鉛蓄電池100の電池容量を推定し、その推定された電池容量に応じた表示内容を表示部64に表示させる処理である。
【0048】
図7は、電池管理処理の流れを示すフローチャートである。まず、条件判断部510は、鉛蓄電池100の電池容量を推定すべき推定タイミングが到来したか否かを判断する(S110)。条件判断部510は、例えば、ゴルフカート60の駆動モータ300が停止した時点、または、充電器による鉛蓄電池100の充電完了時から、所定時間経過したことを条件に、推定タイミングが到来したと判断する。なお、条件判断部510は、電流検出部460からの検出結果に基づき、鉛蓄電池100に流れる電流が電流下限値以下になったと判断した場合に、駆動モータ300が停止したことを認識することができる。また、条件判断部510は、電圧検出部450からの検出結果に基づき、鉛蓄電池100の電圧値が上記電圧上限値以上になったと判断した場合や上述の充電器からの充電完了通知を受けた場合に、鉛蓄電池100が充電完了したことを認識することができる。
【0049】
推定タイミングが到来していないと判断された場合(S110:NO)、条件判断部510は、S110の判断を繰り返す。一方、推定タイミングが到来したと判断された場合(S110:YES)、条件判断部510は、切替条件を満たすか否かを判断する(S120)。ここで、切替条件は、後述の第1の推定処理に代えて、第2の推定処理を実行するための条件であり、具体的には、鉛蓄電池100の温度が所定温度以上であることと、鉛蓄電池100の過充電電気量が基準量以上であることとの少なくとも1つを含む。なお、条件判断部510は、温度検出部470からの検出結果に基づき、鉛蓄電池100の温度が所定温度以上になったことを認識することができる。また、条件判断部510は、電圧検出部450と電流検出部460との検出結果に基づき、鉛蓄電池100の過充電電気量が基準量以上になったことを認識することができる。
【0050】
切替条件を満たさないと判断された場合(S120:NO)、第1の推定処理部530は、第1の推定処理を実行し(S130)、切替条件を満たすと判断された場合(S120:YES)、第2の推定処理部540は、第2の推定処理を実行する(S140)。第1の推定処理および第2の推定処理の内容については、後述する。第1の推定処理または第2の推定処理が実行されると、表示制御部520は、第1の推定処理または第2の推定処理で推定された鉛蓄電池100の電池容量が劣化閾値未満であるか否かを判断する(S150)。鉛蓄電池100の電池容量が劣化閾値未満であると判断された場合(S150:YES)、エラー処理が実行される(S160)。具体的には、表示制御部520は、鉛蓄電池100の交換を促すための表示を表示部64に表示させる。例えば図1において表示部64の画面上に示されたバッテリのマークを点滅させる。エラー処理(S160)が実行されると、S110に戻る。一方、鉛蓄電池100の電池容量が劣化閾値未満でないと判断された場合(S150:NO)、エラー処理(S150)はスキップされ、S110に戻る。
【0051】
A-3.第1の推定処理:
次に、第1の推定処理について説明する。第1の推定処理は、鉛蓄電池100の劣化要因ごとに、該劣化要因の進行に伴う鉛蓄電池100の電池容量の低下量を個別に特定し、特定された劣化要因ごとの容量低下量に基づき、鉛蓄電池100の電池容量を推定する処理である。本実施形態における劣化要因は、鉛蓄電池100における負極板220に発生するサルフェーション(硫酸鉛の結晶化)と、鉛蓄電池100における正極集電体212や負極集電体222の腐食(例えば酸化腐食)(以下、「格子腐食」という)とである。
【0052】
(各劣化要因と、開放電圧、内部抵抗および電池容量との関係について)
図8は、鉛蓄電池100の各劣化要因(サルフェーション、格子腐食)と、開放電圧、内部抵抗および電池容量との関係を示す説明図である。図8の左側に示すように、鉛蓄電池100の劣化に伴う電池容量の低下量(図8における新品容量と劣化品容量との差)には、サルフェーションの進行に伴う鉛蓄電池100の新品時からの容量の低下量(以下、「サルフェーション容量低下量ΔCA」という)と、格子腐食の進行に伴う鉛蓄電池100の新品時からの容量の低下量(以下、「格子腐食容量低下量ΔCB」という)とが含まれる。図8の右側に示す内部抵抗および電池容量に関するグラフから分かるように、サルフェーションが進行すると、絶縁性の硫酸鉛が活物質中に留まることによって鉛蓄電池100の内部抵抗が増加し、また、反応に関与しない活物質が増加することによって鉛蓄電池100の電池容量が低下する。同様に、格子腐食が進行すると、正極集電体212(格子体)と正極活物質216等との間の電気抵抗が増加することによって鉛蓄電池100の内部抵抗が増加し、反応に関与しない活物質が増加することによって鉛蓄電池100の電池容量が低下する。但し、サルフェーションの進行に伴う鉛蓄電池100の内部抵抗と電池電圧との相関関係の変化特性と、格子腐食の進行に伴う鉛蓄電池100の内部抵抗と電池電圧との相関関係の変化特性とは互いに異なる。しかも、サルフェーションの進行度合いと格子腐食の進行度合いとは、鉛蓄電池100の使用環境等によって互いに異なる。従って、鉛蓄電池100の電池容量を精度良く推定するためには、サルフェーション容量低下量ΔCAと格子腐食容量低下量ΔCBとを個別に特定することが好ましい。
【0053】
また、図8の右側に示す開放電圧に関するグラフから分かるように、サルフェーションが進行すると、鉛蓄電池100の開放電圧は低下するが、格子腐食が進行しても、鉛蓄電池100の開放電圧は変化しない。このことは、サルフェーション容量低下量ΔCAは、開放電圧と相関するが、格子腐食容量低下量ΔCBは、開放電圧と相関しないことを意味する。その理由は、次のように考えられる。サルフェーションが発生すると、鉛蓄電池100を充電しても硫酸鉛が還元されないため、電解液18の濃度が低下し、これに伴って開放電圧が低下する。一方、格子腐食が発生しても、電解液18の濃度に影響がないため、開放電圧は変化しないからである。
【0054】
次に説明するように、第1の推定処理では、サルフェーション容量低下量ΔCAは開放電圧と相関するが、格子腐食容量低下量ΔCBは開放電圧と相関しない、ということを利用して、サルフェーション容量低下量ΔCAと格子腐食容量低下量ΔCBとを個別に特定する。なお、サルフェーションは、特許請求の範囲における第1の劣化要因に相当し、サルフェーション容量低下量ΔCAは、特許請求の範囲における第1の容量変化量に相当する。格子腐食は、特許請求の範囲における第2の劣化要因に相当し、格子腐食容量低下量ΔCBは、特許請求の範囲における第2の容量変化量に相当する。
【0055】
(第1の推定処理の内容について)
図9は、第1の推定処理の流れを示すフローチャートである。図10は、各相関関係を示す説明図である。図10(A)は、サルフェーションの進行に伴う鉛蓄電池100の開放電圧と放電量との間の第1の相関関係を示す。具体的には、同図(A)にプロットされた複数のドットは、サルフェーションの進行度合いが互いに異なり、かつ、格子腐食の進行度合いが互いにほとんど同じである複数の鉛蓄電池100について、鉛蓄電池100の開放電圧と満充電状態からの放電量との測定結果を示す。さらに、同図(A)には、複数の測定結果の近似線G1が示されている。また、図10(B)は、サルフェーションの進行に伴う鉛蓄電池100の内部抵抗と放電量との間の第2の相関関係を示す。具体的には、同図(B)にプロットされた複数のドットは、サルフェーションの進行度合いが互いに異なり、かつ、格子腐食の進行度合いが互いにほとんど同じである複数の鉛蓄電池100について、鉛蓄電池100の内部抵抗と満充電状態からの放電量との測定結果を示す。さらに、同図(B)には、複数の測定結果の近似線G2が示されている。また、図10(C)は、格子腐食の進行に伴う鉛蓄電池100の内部抵抗と放電量との間の第3の相関関係を示す。具体的には、同図(C)にプロットされた複数のドットは、格子腐食の進行度合いが互いに異なり、かつ、サルフェーションの進行度合いが互いにほとんど同じである複数の鉛蓄電池100について、鉛蓄電池100の内部抵抗と満充電状態からの放電量との測定結果を示す。さらに、同図(C)には、複数の測定結果の近似線G3が示されている。
【0056】
なお、図10(A)(B)に示す測定結果を得るには、鉛蓄電池100を充電不足状態にするための第1の試験条件下で充放電を行うことにより、鉛蓄電池100について主としてサルフェーションを進行させる。第1の試験条件は、次の通りである。
<第1の試験条件>
環境温度25℃の状況下で、次のサイクル1~3を、鉛蓄電池100の放電末期電圧が所定値になるまで繰り返す。
(サイクル1):第1の充放電試験を1回実施する。第1の充放電試験では、放電電流12Aで4時間(放電量48Ah)の定電流放電を行った後、充電電流60A以下、30A以上の定電流充電を開始し、それ以降、鉛蓄電池100の電圧が基準電圧(例えば14.4V)に達するごとに、充電電流値を12A,6A,3A,1.5Aと順次切り替えていき、その後、充電電流値を1.5Aに維持する。その後、第1の充放電試験における充電開始時点から1時間経過したときに、本第1の充放電試験が完了する。1回分の第1の充放電試験が完了すると、本サイクル1を終了し、サイクル2に移行する。
(サイクル2):第2の充放電試験を8回繰り返し実施する。第2の充放電試験では、放電電流12Aで3時間(放電量36Ah)の定電流放電を行った後、充電電流60A以下、30A以上の定電流充電を開始し、それ以降、鉛蓄電池100の電圧が上記基準電圧に達するごとに、充電電流値を12A,6A,3A,1.5Aと順次切り替えていき、その後、充電電流値を1.5Aに維持する。その後、第2の充放電試験における充電開始時点から1時間経過したときに、本第2の充放電試験が完了する。8回分の第2の充放電試験が完了すると、本サイクル2を終了し、サイクル3に移行する。
(サイクル3):第3の充放電試験を1回実施する。第3の充放電試験では、放電電流12Aで3時間(放電量36Ah)の定電流放電を行った後、充電電流12Aの定電流充電を開始し、それ以降、鉛蓄電池100の電圧が上記基準電圧に達するごとに、充電電流値を6A,3A,1.5Aと順次切り替えていき、その後、充電電流値を1.5Aに維持する。その後、第3の充放電試験において充電電流値を1.5Aに切り替えて鉛蓄電池100の電圧が上記基準電圧に達した時点から2.5時間経過したときに、第3の充放電試験が完了する。1回分の第3の充放電試験が完了すると、本サイクル3を終了し、サイクル1に戻る。
【0057】
また、図10(C)に示す測定結果を得るには、鉛蓄電池100を過充電状態にするための第2の試験条件下で充放電を行うことにより、鉛蓄電池100について主として格子腐食を進行させる。第2の試験条件は、次の通りである。
<第2の試験条件>
環境温度25℃の状況下で、次のサイクル4を、鉛蓄電池100の放電末期電圧が所定値になるまで繰り返す。
(サイクル4):第4の充放電試験を実施する。第4の充放電試験では、放電電流12Aで4時間(放電量48Ah)の定電流放電を行った後、充電電流12Aの定電流充電を開始し、それ以降、鉛蓄電池100の電圧が上記基準電圧に達するごとに、充電電流値を6A,3A,1.5Aと順次切り替えていき、その後、充電電流値を1.5Aに維持する。なお、第4の充放電試験において充電電流値を1.5Aに切り替えた時点から2.5時間経過した場合に、本サイクル4の1回分の実施が完了し、再度、サイクル4を繰り返す。
【0058】
(サルフェーション容量低下量ΔCAの特定について)
図9に示すように、第1の推定処理部530は、まず、サルフェーション容量低下量ΔCAを特定する(S210~S220)。具体的には、開放電圧特定部531は、鉛蓄電池100の開放電圧(OCV)の値を特定する(S210)。なお、第1の推定処理は、上述の推定タイミングが到来したこと(S110:YES)を条件に実行される。このため、この時点で、既に、ゴルフカート60の駆動モータ300が停止した時点、または、鉛蓄電池100の充電完了時から、所定時間だけ経過している。本実施形態では、この所定時間が、開放電圧を測定するのに十分な時間であるとして、第1の推定処理の実行時に、電圧検出部450からの検出結果に基づき、鉛蓄電池100の現時点の電圧値を、開放電圧の値とする。なお、駆動モータ300が停止した時点等において、鉛蓄電池100に暗電流が流れる場合には、鉛蓄電池100の現時点の電圧値に対して、暗電流の電流量に応じた補正処理を施した値を、開放電圧の値とすることが好ましい。なお、開放電圧の特定方法は、これ以外に、各種の公知の方法を採用することができる。
【0059】
次に、サルフェーション容量特定部532は、サルフェーション容量低下量ΔCAを特定する(S220)。具体的には、サルフェーション容量特定部532は、開放電圧特定部531によって特定された開放電圧の値と、図10(A)に示す第1の相関関係に関する情報とを用いて、サルフェーション容量低下量ΔCAを特定する。本実施形態では、第1の相関関係に関する情報として、同図(A)に示す複数の測定結果における開放電圧の値と放電量との対応関係を示す第1のマップデータ(ルックアップテーブル)を利用する。すなわち、サルフェーション容量特定部532は、第1のマップデータを参照して、開放電圧特定部531によって特定された開放電圧の値に対応する放電量を抽出し、新品時の開放電圧の初期値に対応する放電量と、今回抽出した放電量との差を、サルフェーション容量低下量ΔCAとする。なお、開放電圧の初期値は、予め記憶部420に記憶されていることが好ましい。また、第1の相関関係に関する情報として、近似線G1を示す関数(例えば一次関数や二次関数)を用いるとしてもよい。サルフェーション容量特定部532は、特許請求の範囲における第1の容量特定部に相当し、サルフェーション容量低下量ΔCAは、特許請求の範囲における第1の容量の変化量に相当する。
【0060】
(格子腐食容量低下量ΔCBの特定について)
第1の推定処理部530は、格子腐食容量低下量ΔCBを特定する(S230~S260)。具体的には、サルフェーション抵抗特定部533は、サルフェーションの進行に伴う鉛蓄電池100の新品時からの内部抵抗の増加量(以下、「サルフェーション抵抗増加量ΔRA」という)を特定する(S230)。具体的には、サルフェーション抵抗特定部533は、サルフェーション容量特定部532によって特定されたサルフェーション容量低下量ΔCAと、図10(B)に示す第2の相関関係に関する情報とを用いて、サルフェーション抵抗増加量ΔRAを特定する。本実施形態では、第2の相関関係に関する情報として、同図(B)に示す複数の測定結果における内部抵抗の値と放電量との対応関係を示す第2のマップデータを利用する。すなわち、サルフェーション抵抗特定部533は、第2のマップデータを参照して、サルフェーション容量特定部532によって抽出された放電量に対応する内部抵抗を抽出し、新品時の放電量の初期値に対応する内部抵抗の初期値と、今回抽出した内部抵抗の値との差を、サルフェーション抵抗増加量ΔRAとする。なお、放電量の初期値は、予め記憶部420に記憶されていることが好ましい。また、第2の相関関係に関する情報として、近似線G2を示す関数(例えば一次関数や二次関数)を用いるとしてもよい。サルフェーション抵抗特定部533は、特許請求の範囲における第1の内部抵抗特定部に相当し、サルフェーション抵抗増加量ΔRAは、特許請求の範囲における第1の内部抵抗の変化量に相当する。
【0061】
次に、全体抵抗特定部534は、鉛蓄電池100の全体内部抵抗増加量ΔRを特定する(S240)。具体的には、全体抵抗特定部534は、電圧検出部450からの検出結果と電流検出部460からの検出結果とに基づき、鉛蓄電池100の電圧の値を、鉛蓄電池100に流れる電流の値で除算することによって鉛蓄電池100の全体内部抵抗の値を算出する。そして、全体抵抗特定部534は、新品時の全体内部抵抗の初期値と、今回算出した全体内部抵抗の値との差を、全体内部抵抗増加量ΔRとする。なお、鉛蓄電池100の全体内部抵抗の特定方法は、これ以外に、各種の公知の方法を採用することができる。全体内部抵抗の初期値は、予め記憶部420に記憶されていることが好ましい。全体内部抵抗増加量ΔRは、特許請求の範囲における全体内部抵抗の変化量に相当する。
【0062】
次に、格子腐食抵抗特定部535は、格子腐食の進行に伴う鉛蓄電池100の新品時からの内部抵抗の増加量(以下、「格子腐食抵抗増加量ΔRB」という)を特定する(S250)。具体的には、格子腐食抵抗特定部535は、全体抵抗特定部534によって特定された全体内部抵抗増加量ΔRから、サルフェーション抵抗特定部533によって特定されたサルフェーション抵抗増加量ΔRAを減算することにより、格子腐食抵抗増加量ΔRB(=ΔR-ΔRA)を算出する。格子腐食抵抗特定部535は、特許請求の範囲における第2の内部抵抗特定部に相当し、格子腐食抵抗増加量ΔRBは、特許請求の範囲における第2の内部抵抗の変化量に相当する。
【0063】
次に、格子腐食容量特定部536は、格子腐食容量低下量ΔCBを特定する(S260)。具体的には、格子腐食容量特定部536は、格子腐食抵抗特定部535によって特定された格子腐食抵抗増加量ΔRBと、図10(C)に示す第3の相関関係に関する情報とを用いて、格子腐食容量低下量ΔCBを特定する。本実施形態では、第3の相関関係に関する情報として、同図(C)に示す複数の測定結果における内部抵抗の値と放電量との対応関係を示す第3のマップデータを利用する。すなわち、格子腐食容量特定部536は、第3のマップデータを参照して、新品時の内部抵抗の初期値に格子腐食抵抗増加量ΔRBを加算した値に対応する放電量を抽出し、新品時の内部抵抗の初期値に対応する放電量と、今回抽出した放電量との差を、格子腐食容量低下量ΔCBとする。なお、内部抵抗の初期値は、予め記憶部420に記憶されていることが好ましい。また、第3の相関関係に関する情報として、近似線G3を示す関数(例えば一次関数や二次関数)を用いるとしてもよい。格子腐食容量特定部536は、特許請求の範囲における第2の容量特定部に相当し、格子腐食容量低下量ΔCBは、特許請求の範囲における第2の容量の変化量に相当する。
【0064】
(電池容量の特定について)
次に、第1の電池容量特定部537は、サルフェーション容量特定部532によって特定されたサルフェーション容量低下量ΔCAと、格子腐食容量特定部536によって特定された格子腐食容量低下量ΔCBとに基づき、鉛蓄電池100の現在の電池容量を特定する。具体的には、第1の電池容量特定部537は、新品時の電池容量(放電量)の初期値から、サルフェーション容量低下量ΔCAと格子腐食容量低下量ΔCBとを減算することによって、鉛蓄電池100の現在の電池容量を特定する。なお、この第1の推定処理によれば、各劣化要因の進行度合いが互いに異なる複数(例えば10個)の鉛蓄電池100について、第1の推定処理による電池容量の推定値と、電池容量の実測値との誤差を10%以内とすることができた。
【0065】
A-4.第2の推定処理:
次に、第2の推定処理について説明する。第2の推定処理は、鉛蓄電池100に流れる電流の値が基準値であるときの鉛蓄電池100の電圧の変化傾向に基づき、鉛蓄電池100の電池容量を推定する処理である。基準値は、例えば、鉛蓄電池100の公称電流値である。
【0066】
(鉛蓄電池100の電圧の変化傾向と電池容量との関係について)
図11は、鉛蓄電池100の電圧の変化傾向と放電量との関係を示す説明図である。図11には、満充電状態からの放電量(電池容量)が互いに異なる鉛蓄電池100について、鉛蓄電池100に流れる電流の値が基準値である定電流状態で放電させたときの電圧の変化を示す放電カーブ(GB1~GB3)を示す。放電カーブGB1は、電池容量が最も多い鉛蓄電池100の放電カーブであり、放電カーブGB3は、電池容量が最も少ない鉛蓄電池100の放電カーブである。図11から分かるように、鉛蓄電池100の電圧の変化傾向(放電カーブの傾き)と、電池容量との間には相関関係がある。従って、この電圧の変化傾向と電池容量との間の第4の相関関係を利用することによって、鉛蓄電池100の電池容量を推定することができる。
【0067】
一方、図12は、負荷(駆動モータ300)への放電時の鉛蓄電池100の電圧変化を示す説明図である。図12に示すように、負荷への放電時(鉛蓄電池100の使用時)では、負荷の動作状態等によって鉛蓄電池100に流れる電流が変化し、それに伴って、鉛蓄電池100の電圧の波形GRが激しく変化していることが分かる。従って、鉛蓄電池100の使用時の実際の電圧変化をそのまま、上記定電流時の各放電カーブの傾き(以下、「参照傾き」という)と比較することはできない。そこで、次に説明するように、鉛蓄電池100の使用時の実際の電圧変化から、鉛蓄電池100の電流の値が基準値であるときの複数の電圧の値VTを特定し、その特定された複数の電圧の値VTの近似直線GAにおける変化傾向を、鉛蓄電池100の電圧の実際の変化傾向(以下、「実測傾き」という)とする。
【0068】
(第2の推定処理の内容について)
図13は、第2の推定処理の流れを示すフローチャートである。図13に示すように、電流電圧取得部541は、所定期間にわたって、電圧検出部450からの検出結果と電流検出部460からの検出結果とに基づき、鉛蓄電池100の電流の値と電圧の値とを取得する(S310)。これにより、電流電圧取得部541は、図12に示すような激しく変化する複数の電圧の値と、それら複数の電圧値に対応する電流の値とを取得する。電流電圧取得部541は、特許請求の範囲における取得部に相当する。
【0069】
次に、電圧特定部542は、電流電圧取得部541によって取得された複数の電圧の値から、電流の値が基準値であるときの複数の電圧の値VTを選別する(S320)。次に、第2の電池容量特定部543は、電圧特定部542によって選別された複数の電圧の値VTにおける実測傾きを特定する(S330)。
【0070】
次に、第2の電池容量特定部543は、推定可能条件を満たすか否かを判断する(S340)。推定可能条件は、第2の推定処理による電池容量の推定精度が所定レベル以上となるための条件である。推定可能条件は、鉛蓄電池100が所定の放電深度に到達したことを含む。第2の推定処理による電池容量の推定精度を所定レベル以上にするには、実測傾きの特定精度を所定レベル以上にする必要があり、実測傾きの特定精度を所定レベル以上にするには、放電深度が深いレベルまで放電された期間において電圧特定部542によって選別され電圧の値VTを取得する必要がある。すなわち、鉛蓄電池100が放電深度の浅い状態で充放電が繰り返される場合、実測傾きの特定精度が低いため、第2の推定処理を利用することができない。なお、鉛蓄電池100の放電深度を特定せずに、充電器による鉛蓄電池100の充電が開始されたことを認識した場合に、鉛蓄電池100が所定の放電深度に到達したとみなしてもよい。これは、鉛蓄電池100が放電深度の深い状態になった場合に限り充電器による充電がされる場合には有効である。
【0071】
推定可能条件を満たさないと判断された場合(S340:NO)、第2の推定処理部540は、S310に戻り、推定可能条件を満たすと判断された場合(S340:YES)、電池容量と参照傾きとの相関関係を示すマップテーブルを参照して、実測傾きに最も近い参照傾きに対応する放電量を抽出し、今回抽出した放電量を、鉛蓄電池100の現在の電池容量として特定する。なお、放電量の初期値と、今回抽出した放電量との差を、鉛蓄電池100の新品からの電池容量の変化量として特定することができる。
【0072】
A-5.第1の推定処理と第2の推定処理との使い分けについて:
以上説明したように、第1の推定処理によれば、劣化要因の進行に伴う鉛蓄電池100の電池容量の低下量を個別に特定することにより、鉛蓄電池100の電池容量を精度良く推定することができる。しかし、上述したように、第1の推定処理では、サルフェーションの進行に伴う開放電圧と電池容量との相関関係等を利用する。ここで、例えば、鉛蓄電池100の温度が所定温度以上になったり、鉛蓄電池100の過充電電気量が基準量以上になったりすると、電解液18の濃度が変動するため、サルフェーションの進行に伴う開放電圧と電池容量との相関関係が変動し、鉛蓄電池100の電池容量を精度良く推定することができなくなるおそれがある。
【0073】
そこで、上述したように、電池管理処理では、切替条件を満たさないと判断された場合(S120:NO)、第1の推定処理が実行され(S130)、切替条件を満たすと判断された場合(S120:YES)、第2の推定処理が実行されるようにしている(S140)。第2の推定処理では、サルフェーションの進行に伴う開放電圧と電池容量との相関関係等を利用しないため、該相関関係が変動することに起因して、鉛蓄電池100の電池容量の推定精度が低下することを抑制できる。但し、上述したように、鉛蓄電池100が放電深度の浅い状態で充放電が繰り返される場合、第2の推定処理を利用することができない。このため、鉛蓄電池100が放電深度の浅い状態で充放電が繰り返される可能性が高いゴルフカート60に適用された本実施形態では、第1の推定処理を優先的に行うようにしている。
【0074】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0075】
上記実施形態では、蓄電システムとして、ゴルフカート60を例示したが、これに限らず、例えば、遊園地を走行するゴーカートや、工場内を走行する運搬車などの移動体でもよし、所定の箇所に固定配置された装置でもよい。要するには、二次電池を備えるものであればよい。
【0076】
また、上記実施形態では、二次電池として、鉛蓄電池100を例示したが、これに限らず、リチウムイオン電池などでもよい。また、劣化要因は、サルフェーションや格子腐食に限らず、他の劣化要因でもよい。要するに、二次電池において、劣化要因の進行に伴う電池容量の変化量が開放電圧に相関するものと、劣化要因の進行に伴う電池容量の変化量が開放電圧に相関しないものとを利用すれば、これらの劣化要因による容量の変化量を個別に特定することにより、二次電池の電池容量を精度良く推定することができる。
【0077】
また、上記実施形態では、電池管理部、容量推定装置として、鉛蓄電池100の外部に配置されたBMU400を例示したが、これに限らず、例えば、二次電池に備えられた制御部でもよいし、移動体の外部のサーバ等に備えられ、移動体に備えられた二次電池(鉛蓄電池)の状態(劣化状態等)を遠隔で管理するとしてもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、鉛蓄電池100の全体の電池容量を推定したが、これに限らず、鉛蓄電池100に備えられるセルCについて個別に電池容量を推定するとしてもよい。また、鉛蓄電池100の電池容量ではなく、新品時からの電池容量の変化量(サルフェーション容量低下量ΔCAと格子腐食容量低下量ΔCBとの合算値)を特定してもよいし、さらには、鉛蓄電池100の電池容量と、新品時からの電池容量の変化量との両方を特定してもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、全体抵抗特定部534は、外部から鉛蓄電池100の電圧と電流とを取得して内部抵抗値を算出するとしたが、外部から鉛蓄電池100の内部抵抗値を取得するとしてもよい。また、上記実施形態において、第1の電池容量特定部537は、電池容量の初期値から、サルフェーション容量低下量ΔCAと格子腐食容量低下量ΔCBとを単純に減算するとしたが、鉛蓄電池100の個々の特性や周囲環境を考慮して、サルフェーション容量低下量ΔCAと格子腐食容量低下量ΔCBとの少なくとも一方に重み係数を乗算した後に、電池容量の初期値から減算してもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、基準状態として、鉛蓄電池100の新品時の状態としたが、これに限らず、鉛蓄電池100の使用開始から所定時間経過時の状態や、鉛蓄電池100の使用開始から充電回数が所定回数に到達した時の状態としてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、報知部として、表示部64を例示したが、これに限らず、スピーカ等の発音部や、外部装置に通信信号を出力する通信部などであるとしてもよい。
【0082】
上記実施形態において、第1の推定処理を常に実行し、第2の推定処理を実行しないとしてもよい。また、第2の推定処理の代わりに、二次電池の内部抵抗の値に基づき電池容量を推定する従来の推定処理を行うとしてもよい。さらに、第2の推定処理のみを単独で実行するとしても、従来の推定処理に比べて、二次電池の電池容量の推定精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0083】
10:筐体 12:電槽 14:蓋 16:セル室 18:電解液 20:極板群 30:正極側端子部 32:正極側ブッシング 34:正極柱 40:負極側端子部 42:負極側ブッシング 44:負極柱 52:正極側ストラップ 54:負極側ストラップ 56:接続部材 58:隔壁 60:ゴルフカート 62:操作部 64:表示部 66:表示パターン 100:鉛蓄電池 210:正極板 212:正極集電体 214:正極耳部 216:正極活物質 220:負極板 222:負極集電体 224:負極耳部 226:負極活物質 230:セパレータ 300:駆動モータ 400:BMU 410:制御部 420:記憶部 421:電池管理プログラム 422:マップデータ 430:入力部 440:インターフェース部 450:電圧検出部 460:電流検出部 470:温度検出部 510:条件判断部 520:表示制御部 530:推定処理部 531:開放電圧特定部 532:サルフェーション容量特定部 533:サルフェーション抵抗特定部 534:全体抵抗特定部 535:格子腐食抵抗特定部 536:格子腐食容量特定部 537:電池容量特定部 540:推定処理部 541:電流電圧取得部 542:電圧特定部 543:電池容量特定部 C:セル CA:サルフェーション容量低下量Δ CB:格子腐食容量低下量Δ G1~G3:近似線 GA:近似直線 GB1~GB3:放電カーブ GR:波形 ΔR:全体内部抵抗増加量 ΔRA:サルフェーション抵抗増加量 ΔRB:格子腐食抵抗増加量 VT:電圧の値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13