IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

特許7036197フィールドフローフラクショネーション装置
<>
  • 特許-フィールドフローフラクショネーション装置 図1
  • 特許-フィールドフローフラクショネーション装置 図2
  • 特許-フィールドフローフラクショネーション装置 図3
  • 特許-フィールドフローフラクショネーション装置 図4
  • 特許-フィールドフローフラクショネーション装置 図5A
  • 特許-フィールドフローフラクショネーション装置 図5B
  • 特許-フィールドフローフラクショネーション装置 図5C
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】フィールドフローフラクショネーション装置
(51)【国際特許分類】
   B03B 5/62 20060101AFI20220308BHJP
   B03B 5/00 20060101ALI20220308BHJP
   G01N 1/04 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B03B5/62
B03B5/00 Z
G01N1/04 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020512996
(86)(22)【出願日】2018-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2018015241
(87)【国際公開番号】W WO2019198178
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】堀池 重吉
(72)【発明者】
【氏名】柳林 潤
(72)【発明者】
【氏名】老川 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】中矢 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】叶井 正樹
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/056166(WO,A1)
【文献】特開2008-000724(JP,A)
【文献】特開2008-200566(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0238571(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03B 1/00-13/06
G01N 1/00- 1/44
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に入口ポートと出口ポートが設けられ、キャリア流体が流れる空間をなす分離チャネルと、
前記入口ポートを介して前記分離チャネルにキャリア流体を供給するキャリア流体供給部と、
キャリア流体を通過させつつ分離対象の粒子を通過させない性質をもち、前記分離チャネルを画する壁面をなす分離膜と、
前記分離チャネルを流れるキャリア流体のうち前記分離膜を通過したキャリア流体が流れる空間をなし、前記分離膜を通過したキャリア流体を外部へ排出する排出ポートを有する廃液チャンバと、
前記排出ポートに接続され、前記排出ポートを介して前記廃液チャンバから排出されるキャリア流体の流量を予め設定された流量に調節することにより、前記分離チャネル内のキャリア流体が前記分離膜を通過することによって形成されるクロスフローの流量を調節するクロスフロー流量調節部と、
前記クロスフロー流量調節部に流入するキャリア流体の流量が前記分離膜を通過したキャリア流体の流量よりも大きくなるように、前記クロスフロー流量調節部よりも上流側に設定されたキャリア流体追加位置において、前記分離膜を通過したキャリア流体の流れに別のキャリア流体の流れを追加するキャリア流体追加部と、を備えたフィールドフローフラクショネーション装置。
【請求項2】
前記キャリア流体追加位置は、前記分離膜を通過したキャリア流体の流れ方向における前記分離膜と前記クロスフロー流量調節部との間の位置に設定されている、請求項1に記載のフィールドフローフラクショネーション装置。
【請求項3】
前記キャリア流体追加位置は、前記排出ポートと前記クロスフロー流量調節部との間に設定されている請求項に記載のフィールドフローフラクショネーション装置。
【請求項4】
前記キャリア流体追加位置は、前記廃液チャンバの前記排出ポートが設けられている位置とは反対側の位置に設定されている請求項に記載のフィールドフローフラクショネーション装置。
【請求項5】
前記分離チャネルの前記入口ポートとは別のキャリア流体供給位置に接続され、所定のタイミングで前記分離チャネルにキャリア流体を供給して、前記入口ポートからのキャリア流体の流れと対向するキャリア流体の流れを前記分離チャネル内に形成するフォーカスフロー形成部を備え、
前記フォーカスフロー形成部は前記キャリア流体追加部としての機能を有し、前記キャリア流体供給位置から前記分離チャネルにキャリア流体を供給するタイミングとは別のタイミングで、前記キャリア流体追加位置において前記分離膜を通過したキャリア流体の流れにキャリア流体の流れを供給するように構成されている請求項1に記載のフィールドフローフラクショネーション装置。
【請求項6】
前記フォーカスフロー形成部はキャリア流体を送液する送液ポンプを備え、前記送液ポンプが前記キャリア流体供給位置と前記キャリア流体追加位置に流路切替バルブを介して接続され、前記流路切替バルブの切替えによって、キャリア流体の供給先が前記キャリア流体供給位置と前記キャリア流体追加位置のいずれか一方に選択的に切り替えられるように構成されている請求項に記載のフィールドフローフラクショネーション装置。
【請求項7】
前記クロスフロー流量調節部はマスフローコントローラである請求項1からのいずれか一項に記載のフィールドフローフラクショネーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィールドフローフラクショネーション(Field-Flow)を利用して流体に含まれる微粒子を分離・分取するためのフィールドフローフラクショネーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液中に分散されている1nm~50μm程度の広い範囲の粒径の微粒子を分離して検出したり分取したりするための手法として、従来から、いわゆるクロスフロー方式のフィールドフローフラクショネーションが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
非対称チャネル構造を採用したクロスフロー方式のフィールドフローフラクショネーション装置は、サンプルを分離するための分離チャネルを有する。分離チャネルを形成する壁面の1つは、RC(再生セルロース)やPES(ポリエーテルスルホン)など細孔のある半透膜(分離膜ともいう)となっており、さらにその半透膜の外側にフリットと呼ばれる多孔質の平板が設けられている。この壁面をチャネル内に導入されたキャリア流体が通過することにより、分離チャネルの入口ポートから出口ポートへ流れる順方向の流れ(チャネルフロー)に対して垂直な方向の流れ(クロスフロー)が生じる。以下、分離チャネルにおいてフリットが設けられている壁面側を下側と定義する。
【0004】
分離チャネルには、チャネルフローに対向する流れ(フォーカスフロー)が必要に応じて形成される。分離チャネルの壁面をなす分離膜から通過したキャリア流体は、分離チャネルの出口ポートとは別の出口ポート(排出ポート)から排出される。フリットからの排出量は、排出ポート側に設けられたMFC(マスフローコントローラ)により制御される。
【0005】
サンプルは入口ポートからサンプルインジェクターを介して分離チャネル内に導入される。このとき、分離チャネル内では、入口ポートから供給されるキャリア流体によるチャネルフローと入口ポートとは別の出口ポート側のポートから供給されるキャリア流体による対向流(フォーカスフロー)が形成されており、分離チャネル内に導入されたサンプルはチャネルフローとフォーカスフローとの境界部分に収集される。これをフォーカシングという。
【0006】
フォーカシングにより、対向流の境界部分に収集されたサンプル粒子は、流体力学的半径の差により拡散係数の差が生じるので、拡散されやすいものほど分離チャネルの上側に集められる。これをリラクゼーションという。その後、フォーカスフローが停止され、分離チャネル内の流れがチャネルフローとクロスフローのみになると、ストークス流れにより、小さいサンプル粒子から順に出口ポートを介して分離チャネルから排出される。分離チャネルの出口ポートには、紫外線吸光度検出器などの検出器が接続されており、例えば紫外線領域(190nm~280nm)での吸光度が小さいサンプル粒子から順に検出器によって測定されることで、フラクトグラムが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-000724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、クロスフローの流量は、分離膜を通過したキャリア流体が流れる廃液チャンバからの排出流量を調節することによって制御される。この排出流量を制御する方法として能動的なポンプ方式と受動的なバルブ方式がある。フィールドフローフラクショネーション装置で要求されるクロスフロー流量は0-10mL/min程度である。そのため、バルブ方式を採用したフィールドフローフラクショネーション装置では、クロスフロー流量を制御するために、頻繁なキャリブレーションを必要としないコリオリ式流量計を備えた液体用マスフローコントローラが一般に使用されている。
【0009】
このようなフィールドフローフラクショネーション装置では、クロスフローの流量を一定にして運用する場合は少なく、通常は、溶出に時間のかかる微粒子や溶出困難な大きな微粒子を確実に排出するために、クロスフローの流量を極限にまで小さくするということが行なわれる。クロスフローの流量を小さくする場合、その流量制御はマスフローコントローラの性能に依存しており、連続的にクロスフローを低下させることができる流量下限は0mL/minよりも大きな値となる。
【0010】
液体用マスフローコントローラで制御することができる流量は、例えば液体用マスフローコントローラの前後の流量比が50:1に制限されている場合、フルスケールが5mL/minであれば0.1mL/minが下限となる。このようなマスフローコントローラで0.1mL/min未満に流量を制御しようとしても正確な流量制御を行なうことができないか、バルブが完全に閉じてクロスフロー流量が0mL/minになってしまうこともある。このように、クロスフローを低流量域において正確に制御できないと、分級可能な粒径レンジが狭くなってしまうという問題がある。
【0011】
また、分離膜からマスフローコントローラに至る系には無視できない流体抵抗とデッドボリュームが存在する。そのため、クロスフローを極低流量に制御しようとしてマスフローコントローラが完全に閉じてしまった場合、分離膜からマスフローコントローラまでの系内の圧力が上昇し、分離膜を介して分離チャネル側へ向かう方向、すなわちクロスフローとは逆方向にキャリア流体が逆流する現象が生じる。そうすると、分離チャネルの出口ポートからの溶出液の流量が上昇し、溶出液の流量制御の正確性が低下するという問題がある。
【0012】
この出口ポートにUV検出器や示差屈折率計などの検出器を接続している場合、線速度に応じて信号強度が変化するため、ベースラインドリフトが顕著に表れることとなる。ベースラインドリフトが安定化するまで次の分級操作を開始することができないため、フィールドフローフラクショネーション装置の効率的な運用の妨げとなる。
【0013】
図5Aは分級対象としてタンパク質の牛血清アルブミン(BSA)を使って分級したときの溶出データ(フラクトグラム)の一例であり、図5Bは同データを取得したときのクロスフロー流量(マスフローコントローラの指示値)を示すグラフであり、図5Cは同データを取得したときの廃液チャンバの下流側流路(排出流路)内の圧力値を示すグラフである。この測定では、溶媒(キャリア流体)として0.2M リン酸緩衝液を用いた。分離チャネルの流路高さは0.35mm、流路幅は21mm、流路長は266mmであった。また、分離膜として再生セルロース(Merck Millipore PLGC,MWCO 10kDa)を使用し、分離チャネルの出口ポートからの溶出液の流量を1mL/minに設定した。出口ポートにUV検出器を接続し、波長280nmでの吸光度を測定した。
【0014】
図5Aの破線円で囲われたピークAはシステムピークであり、試料とは無関係である。ピークBはBSAのピークである。クロスフロー流量を3.5mL/minから2mL/minに減少させる(図5C参照)と、排出流路内の圧力はPからPに上昇する(図5B参照)が、UV検出器のベースラインはほとんど変動していない(図5A参照)。しかし、クロスフロー流量を2mL/minから0mL/minにすると、排出流路内の圧力はPからPにさらに上昇する(図5B参照)。このとき、UV検出器の検出信号のベースラインドリフトが始まり、ゴーストCが生じる(図5A参照)。
【0015】
このように、廃液チャンバから排出されるキャリア流体の流量を制御するマスフローコントローラのバルブが閉じてクロスフロー流量が0mL/minに設定されてしまうと、廃液チャンバ側の圧力が分離チャネル側の圧力よりも上昇し、それによってキャリア流体の逆流が発生して検出器信号のベースラインドリフトが発生する。
【0016】
そこで、本発明は、廃液チャンバから排出されるキャリア流体の流量を極低領域においても正確に制御することができるようにして、上記のような問題の発生を防止することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係るフィールドフローフラクショネーション装置は、両端に入口ポートと出口ポートが設けられ、キャリア流体が流れる空間をなす分離チャネルと、前記入口ポートを介して前記分離チャネルにキャリア流体を供給するキャリア流体供給部と、キャリア流体を通過させつつ分離対象の粒子を通過させない性質をもち、前記分離チャネルを画する壁面をなす分離膜と、前記分離チャネルを流れるキャリア流体のうち前記分離膜を通過したキャリア流体が流れる空間をなし、前記分離膜を通過したキャリア流体を外部へ排出する排出ポートを有する廃液チャンバと、前記排出ポートに接続され、前記排出ポートを介して前記廃液チャンバから排出されるキャリア流体の流量を予め設定された流量に調節することにより、前記分離チャネル内のキャリア流体が前記分離膜を通過することによって形成されるクロスフローの流量を調節するクロスフロー流量調節部と、前記クロスフロー流量調節部に流入するキャリア流体の流量が前記分離膜を通過したキャリア流体の流量よりも大きくなるように、前記クロスフロー流量調節部よりも上流側に設定されたキャリア流体追加位置において、前記分離膜を通過したキャリア流体の流れに別のキャリア流体の流れを追加するキャリア流体追加部と、を備えている。
【0018】
分離膜を通過したキャリア流体の流れに別のキャリア流体の流れを追加するためのキャリア流体追加位置は、前記排出ポートと前記排出流路調節部との間に設定されていてもよい。
【0019】
また、キャリア流体追加位置は、廃液チャンバの排出ポートが設けられている位置とは反対側の位置に設定されていてもよい。
【0020】
フィールドフローフラクショネーション装置は、通常、分離チャネルの入口ポートとは別のキャリア流体供給位置に接続され、所定のタイミングで分離チャネルにキャリア流体を供給して、入口ポートからのキャリア流体の流れと対向するキャリア流体の流れを分離チャネル内に形成するフォーカスフロー形成部を備えている。かかるフォーカスフロー形成部が入口ポートから出口ポートに向かって流れるチャネルフローに対向してキャリア流体が流れるフォーカスフローを形成するタイミングは、分離チャネル内に分級対象の微粒子が導入された後である。フォーカシングにより、分離チャネル内に導入された分級対象の微粒子が所定の位置に集められる。なお、フォーカシングの際にフォーカスフローを形成するためのキャリア流体を分離チャネルに導入するためのキャリア流体供給位置は、入口ポートよりも出口ポート側の位置であって、出口ポートそのものであってもよいし出口ポートとは異なる位置であってもよい。
【0021】
本発明では、上記のフォーカスフロー形成部をキャリア流体追加部としても使用することができる。分離チャネル内にフォーカスフローを形成するのは、フォーカシングの際だけであり、フォーカシングが終了した後は、フォーカスフロー形成用のキャリア流体を分離チャネル内に供給する必要がない。したがって、フォーカシングが終了した後は、フォーカスフロー形成部によるキャリア流体供給機能をキャリア流体追加部として利用することができる。すなわち、フォーカスフロー形成部は、前記キャリア流体供給位置から前記分離チャネルにキャリア流体を供給するタイミングとは別のタイミングで、前記キャリア流体追加位置において前記分離膜を通過したキャリア流体の流れにキャリア流体の流れを供給するように構成することができる。
【0022】
フォーカスフロー形成部にキャリア流体追加部としての機能も備えさせる場合の具体的な構成として、フォーカスフロー形成部がキャリア流体を送液する送液ポンプを備え、その送液ポンプがキャリア流体供給位置とキャリア流体追加位置に流路切替バルブを介して接続され、該流路切替バルブの切替えによって、キャリア流体の供給先がキャリア流体供給位置とキャリア流体追加位置のいずれか一方に選択的に切り替えられるように構成されている例を挙げることができる。フォーカスフロー形成部をこのように構成することで、新たな送液ポンプ等を追加することなく、安価にかつ簡単な構成でキャリア流体追加部を実現することができる。
【0023】
本発明は、クロスフロー流量をポンプによって制御するポンプ方式及びバルブによって制御するバルブ方式のいずれに対しても適用することができるが、クロスフロー流量調節部としてマスフローコントローラを用いるバルブ方式に対し、特に有効である。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るフィールドフローフラクショネーション装置では、クロスフロー流量調節部に流入するキャリア流体の流量が分離膜を通過したキャリア流体の流量よりも大きくなるように、クロスフロー流量調節部よりも上流側に設定されたキャリア流体追加位置において、分離膜を通過したキャリア流体の流れに別のキャリア流体の流れを追加するキャリア流体追加部を備えているので、クロスフロー流量調節部に流入するキャリア流体の流量が分離膜を通過したキャリア流体の流量、すなわちクロスフロー流量よりも大きな流量にかさ上げされる。したがって、クロスフロー流量がクロスフロー流量調節部で制御可能な流量の下限よりも小さい流量にした場合でも、実際にクロスフロー流量調節部に流入するキャリア流体の流量をそれよりも大きな流量にすることができるため、クロスフロー流量をクロスフロー流量調節部で制御可能な流量の下限よりも小さい流量域で制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】フィールドフローフラクショネーション装置の一実施例を概略的に示す概略流路構成図である。
図2】同実施例のキャリア流体追加部の具体的な構成の一例を示す流路構成図である。
図3】フィールドフローフラクショネーション装置の他の実施例を概略的に示す概略流路構成図である。
図4】同実施例のキャリア流体追加部の具体的な構成の一例を示す流路構成図である。
図5A】フィールドフローフラクショネーション装置のフラクトグラムの一例を示すグラフである。
図5B】同データを取得したときのマスフローコントローラの指示値を示すグラフである。
図5C】同データを取得したときの廃液チャンバの下流側流路内の圧力値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、フィールドフローフラクショネーション装置の一実施例について、図面を用いて説明する。
【0027】
まず、図1を用いてこの実施例のフィールドフローフラクショネーション装置の構成について説明する。
【0028】
この実施例のフィールドフローフラクショネーション装置は、サンプル粒子を分離するための分離チャネル2を備え、その分離チャネル2に入口ポート4、出口ポート6、及び中間ポート8が通じている。入口ポート4は分離チャネル2の一端に通じており、出口ポート6は分離チャネル2の他端に通じている。中間ポート8は入口ポート4と出口ポート6の間に位置している。図示は省略されているが、分離チャネル2は、例えば複数の基板が積層されて構成されるブロックの内部に形成されており、各ポート4、6及び8はそのブロックに設けられた孔によって構成されている。
【0029】
分離チャネル2は略菱形の形状を有する。分離チャネル2の一端部と他端部は角部となっており、その平面形状における幅寸法は、一端側から他端側へ行くにしたがって一旦は広くなり、途中から他端へ行くにしたがって幅が狭くなっていき、他端部において収束している。
【0030】
入口ポート4には、容器18内に貯留されたキャリア流体を送液する送液ポンプ14が、流量計15及びサンプルインジェクション12を介して接続されている。送液ポンプ14及び流量計15は、分離チャネル2内に入口ポート4を介してキャリア流体を供給するキャリア流体供給部をなしている。分離対象であるサンプル粒子はサンプルインジェクション12を通じて注入され、送液ポンプ14によって送液されるキャリア流体とともに入口ポート4から分離チャネル2内に導入される。出口ポート6は検出器20に通じている。
【0031】
分離チャネル2内において、入口ポート4から出口ポート6へ向かう流体の流れを「チャネルフロー」と称する。このチャネルフローに平行な分離チャネル2の一壁面(図において下側の壁面)は、キャリア流体を通過させるがサンプル粒子を通過させない性質を有する分離膜10によって構成されている。分離チャネル2に導入されたキャリア流体の一部は分離膜10を通過するため、分離チャネル2内には、図において矢印で示されている方向、すなわちチャネルフローに直交する方向の流れが生じる。この流れを「クロスフロー」と称する。
【0032】
分離膜10を通過したキャリア流体は、分離チャネル2の下方に設けられた廃液チャンバ22を流れ、排出ポート24を通じて外部へ排出される。排出ポート24に接続された排出流路28上にマスフローコントローラ(MFC)26が設けられており、廃液チャンバ22から排出されるキャリア流体の流量がマスフローコントローラ26によって制御される。廃液チャンバ22から排出ポート24を通じて排出されるキャリア流体の流量は、分離チャネル2側から廃液チャンバ22側へ分離膜10を通過するキャリア流体の流量、すなわちクロスフロー流量に等しい。したがって、マスフローコントローラ26は、クロスフロー流量を調節するためのクロスフロー流量調節部をなしている。
【0033】
中間ポート8には、容器18からキャリア流体を送液する送液ポンプ16が流量計17を介して接続されている。送液ポンプ16は、入口ポート4へキャリア流体を供給する送液ポンプ14とは独立して設けられており、必要に応じて中間ポート8から分離チャネル2内にキャリア流体を所定流量で供給し、分離チャネル2内にチャネルフローと対向するフォーカスフローを形成する。すなわち、送液ポンプ16及び流量計17はフォーカスフロー形成部をなしている。
【0034】
この実施例では、入口ポート4と出口ポート6の間の位置に、フォーカスフロー形成用のキャリア流体を供給するためのキャリア流体供給位置が設定され、そのキャリア流体供給位置に中間ポート8が設けられている。ただし、キャリア流体供給位置は出口ポート6の位置と同じ位置に設定されてもよい。その場合、中間ポート8は不要である。出口ポート6の位置をキャリア流体供給位置とする場合には、分離チャネル2内でフォーカスフローを形成する際にのみ、出口ポート6からキャリア流体が供給されるように流路が構成される。
【0035】
廃液チャンバ22の排出ポート24に接続された排出流路28には、キャリア流体追加部30が接続されている。キャリア流体追加部30は、所望のタイミングでキャリア流体を一定流量で排出流路28に供給することができるように構成されている。キャリア流体追加部30からキャリア流体が供給されることで、排出ポート24から排出されたキャリア流体の流量、すなわちクロスフロー流量に別のキャリア流体の流れが追加され、マスフローコントローラ26を流れるキャリア流体の流量がクロスフロー流量よりも大きくなる。
【0036】
サンプル粒子の分級測定の際、入口ポート4を通じて分離チャネル2に供給されるキャリア流体の流量をM1、出口ポート6から出て検出器20を流れるキャリア流体の流量をM2、分離膜10を通過して分離チャネル2から廃液チャンバ22へ流れるキャリア流体の流量(クロスフロー流量)をM3とすると、これらの流量の関係は、
M1=M2+M3
となる。分級測定の際は、検出器20を流れる流体の流量M2(=M3-M1)が一定となるように送液ポンプ14の動作が制御される。クロスフロー流量M3はマスフローコントローラ26によって制御される。すなわち、送液ポンプ14は、マスフローコントローラ26による制御値と流量計15の測定値に基づいて、M3-M1が一定となるように制御される。
【0037】
ここで、この実施例において、マスフローコントローラ26を流れるキャリア流体の流量は、排出ポート24を通じて廃液チャンバ22から排出されるキャリア流体の流量、すなわちクロスフロー流量M3とキャリア流体追加部30から供給されるキャリア流体の流量M4の和(M3+M4)である。したがって、クロスフロー流量M3をマスフローコントローラ26で制御可能な流量の下限よりも小さい流量に設定した場合に、キャリア流体追加部30から供給されるキャリア流体の流量M4との和(M3+M4)がマスフローコントローラ26の制御可能な流量の下限を超えるようにすることで、クロスフロー流量M3を正確に制御することができる。
【0038】
この実施例のフィールドフローフラクショネーション装置によるサンプルの分離動作について説明する。
【0039】
サンプル粒子は、キャリア流体とともに入口ポート4を介して分離チャネル2内に導入される。このとき、分離チャネル2内には中間ポート8からもキャリア流体が供給されてフォーカスフローが形成されている。このフォーカスフローにより、入口ポート4から導入されたサンプル粒子は、入口ポート4からのキャリア流体の流れと中間ポート8からのキャリア流体の流れとの境界部分に収集(フォーカシング)される。分離チャネル内では、分離膜10を通過するキャリア流体の流れによるクロスフローも生じており、入口ポート4からのキャリア流体の流れと中間ポート8からのキャリア流体の流れとの境界部分においてサンプル粒子のリラクゼーションが行われる。
【0040】
フォーカシング及びリラクゼーションが終了した後、送液ポンプ16から分離チャネル2内へのキャリア流体の供給が停止され、フォーカスフローは形成されなくなる。分離チャネル2内では、入口ポート4から出口ポート6へ流れるキャリア流体によるチャネルフローと、分離膜10を通過するキャリア流体によるクロスフローが生じている。
【0041】
フォーカシング及びリラクゼーションが終了した後、検出器20を流れる流体流量が一定になるように、送液ポンプ14の動作速度が制御される。排出ポート24から排出されるキャリア流体の流量、すなわちクロスフローの流量は必ずしも一定ではなく、必要に応じてその流量が調節される。クロスフロー流量はマスフローコントローラ26によって制御されるが、クロスフロー流量を例えば0.1mL/min以下の極低流量域に制御する必要がある場合には、予めキャリア流体追加部30からキャリア流体を一定流量(例えば1mL/min)で供給し、マスフローコントローラ26を流れるキャリア流体の流量がマスフローコントローラ26で制御可能な流量の下限を下回らないように調節される。
【0042】
フォーカシング及びリラクゼーションによって所定位置に収集されたサンプル粒子は、クロスフローによる影響を受けながら出口ポート6側へ流れ、その影響が少ない粒子から順に検出器20に導入され、検出される。
【0043】
次に、図1のキャリア流体追加部30を実現するための流路構成の一例について図2を用いて説明する。
【0044】
分離チャネル2内においてフォーカスフローを形成するのは、サンプル粒子を所定位置に集めるフォーカシング(及びリラクゼーション)時のみである。したがって、フォーカシングが終了した後は、中間ポート8を通じて分離チャネル2内にキャリア流体を導入する必要がない。
【0045】
そこで、この例では、フォーカスフロー形成部をなす送液ポンプ16及び流量計17をキャリアガス追加部30としても使用するように構成されている。具体的には、流量計17の後段側に流路切替バルブ32を設け、この切替バルブ32の切替えによって送液ポンプ16が、中間ポート8へ通じるフォーカスフロー用流路34と排出流路28へ通じるキャリア流体追加流路36のいずれか一方の流路に選択的に接続されるように構成されている。このように構成することで、キャリア流体追加部30を実現するために別途送液ポンプや流量計を設ける必要がなくなり、安価にかつ簡単な構成でキャリア流体追加部30を実現することができる。
【0046】
なお、以上において説明した図1及び図2の実施例では、キャリア流体追加部30によってキャリア流体を追加するためのキャリア流体追加位置が、排出ポート24とマスフローコントローラ26との間の位置に設定されているが、図3に示されているように、キャリア流体追加位置は、廃液チャンバ22における排出ポート24とは反対側の位置に設定されていてもよい。
【0047】
分離膜10を通過したキャリア流体は廃液チャンバ22内を排出ポート24側へ流れるため、廃液チャンバ22内の排出ポート24とは反対側の領域ではキャリア流体が淀みやすく、デッドボリュームになりやすい。したがって、図3に示されているように、キャリア流体追加位置を廃液チャンバ22における排出ポート24とは反対側の位置に設定することで、廃液チャンバ22におけるキャリア流体が淀みやすい位置からキャリア流体を供給することができ、廃液チャンバ22におけるキャリア流体の淀みを解消することができる。
【0048】
このように、キャリア流体追加位置を廃液チャンバ22における排出ポート24とは反対側の位置に設定した場合でも、図1及び図2の実施例と同様に、マスフローコントローラ26を流れるキャリア流体の流量は、クロスフロー流量M3とキャリア流体追加部30によって供給されるキャリア流体の流量M4との和(M3+M4)となる。したがって、クロスフロー流量M3をマスフローコントローラ26で制御可能な流量の下限よりも小さな流量に設定した場合に、キャリア流体追加部30から供給されるキャリア流体の流量M4との和(M3+M4)がマスフローコントローラ26の制御可能な流量の下限を超えるようにすることで、クロスフロー流量M3を正確に制御することができる。
【0049】
この実施例のキャリア流体追加部30についても、図4に示されているように、フォーカスフロー形成部をなす送液ポンプ16及び流量計17によって実現することができる。図2の実施例ではキャリア流体追加用流路36が排出流路28に接続されていたが、図4の実施例ではキャリア流体追加用流路36が廃液チャンバ22内の排出ポート24とは反対側の位置に接続されている。
【符号の説明】
【0050】
2 分離チャネル
4 入口ポート
6 出口ポート
8 中間ポート
10 分離膜
12 サンプルインジェクション
14,16 送液ポンプ
15,17 流量計
18 キャリア流体用の容器
20 検出器
22 廃液チャンバ
24 排出ポート
26 マスフローコントローラ
28 排出流路
30 キャリア流体追加部
32 流路切替バルブ
34 フォーカスフロー形成用流路
36 キャリア流体追加用流路
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C