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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】筒型リニアモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20220308BHJP
   H02K 41/02 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
H02K41/03 A
H02K41/02 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018079343
(22)【出願日】2018-04-17
(65)【公開番号】P2019187211
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】加納 善明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩介
(72)【発明者】
【氏名】袴田 眞一郎
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-163407(JP,A)
【文献】特開平06-070533(JP,A)
【文献】特開2002-291209(JP,A)
【文献】特開2004-007884(JP,A)
【文献】国際公開第2016/189659(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0076159(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
H02K 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のコアと、U相、V相およびW相の三相の巻線と、前記コアの外周に設けられて一相の巻線のみが装着される複数の環状の一相スロットと、前記コアの外周に設けられて二相の巻線が装着される複数の環状の二相スロットと、前記二相スロット内に挿入されて各相の巻線の間に介装される絶縁膜とを有する電機子と、
筒状であって内方に前記電機子が軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁とを備え、
前記二相スロットの容積は、前記一相スロットの容積よりも大きい
ことを特徴とする筒型リニアモータ。
【請求項2】
前記二相スロットの軸方向幅は、深さが同一であって前記一相スロットの軸方向幅よりも大きい
ことを特徴とする請求項1に記載の筒型リニアモータ。
【請求項3】
前記二相スロットの容積は、前記一相スロットの容積よりも前記絶縁膜の体積と二相の巻線を前記二相スロットに巻回する際の線占積率低下分の体積とを加算した容積分だけ大きい
ことを特徴とする請求項1または2に記載の筒型リニアモータ。
【請求項4】
前記一相スロットおよび前記二相スロットの断面形状は台形である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の筒型リニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒型リニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
筒型リニアモータは、たとえば、筒状のヨークとヨークの外周に軸方向に並べて配置される複数のティースを備えたコアとティース間のスロットに装着されるU相、V相およびW相の巻線を有する電機子と、電機子の外周に設けられた円筒形のベースと軸方向にS極とN極とが交互に並ぶようにベースの内周に取付けられた複数の永久磁石とでなる可動子とを備えるものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
このように構成された筒型リニアモータでは、電機子のU相、V相およびW相の巻線へ適宜通電すると、可動子の永久磁石が吸引されて可動子が電機子に対して軸方向へ駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-253130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記筒型リニアモータの電機子では、環状のスロットがヨークの外周に設けられている。このような電機子のスロットに三相の巻線を装着する場合、全スロットに一相のみの巻線を巻回するのではなく、界磁の極数とスロット数の設定によって、一相のみの巻線が装着されるスロットと二相の巻線が装着されるスロットとが混在する場合がある。
【0006】
二相の巻線が装着されるスロットでは、スロットの中央に挿入される絶縁膜を挟んで異なる相の巻線が装着されるとともに引き出し線数が増えるので、一相のみの巻線が装着されるスロットに比して線占積率が低下する。よって、従来の筒型リニアモータには、推力が低下するという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、一相スロットと二相スロットとが混在する電機子を備えていても推力を向上できる筒型リニアモータの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の筒型リニアモータは、筒状のコアとU相、V相およびW相の三相の巻線と、コアの外周に設けられて一相の巻線のみが装着される複数の環状の一相スロットと、コアの外周に設けられて二相の巻線が装着される複数の環状の二相スロットと、二相スロット内に挿入されて各相の巻線の間に介装される絶縁膜とを有する電機子と、筒状であって内方に電機子が軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁とを備え、二相スロットの容積を一相スロットの容積よりも大きくしている。
【0009】
このように構成された筒型リニアモータでは、二相スロットの容積を一相スロットの容積よりも大きくしているので、絶縁膜の存在や巻線の引出線数の影響で線占積率が低下する二相スロットにおいて巻線の収容量を多くできる。
【0010】
また、一相スロットと二相スロットの深さを同一にして、二相スロットの軸方向幅を一相スロットの軸方向幅よりも大きくして二相スロットの容積を一相スロットの容積よりも大きくしてもよい。このように筒型リニアモータを構成すると、二相スロットにおける巻線の収容量を多くしつつも巻線界磁との距離が遠くならないので、筒型リニアモータの推力向上効果が高くなる。
【0011】
さらに、二相スロットの容積を一相スロットの容積よりも絶縁膜の体積と二相の巻線を二相スロットに巻回する際の線占積率低下分の体積とを加算した容積分だけ大きくするようにしてもよい。このようにすると、二相スロットの容積の増大が最小限に留められるので、コアにおける磁路断面積を確保しやすくなり、コアの大型化を免れる。
【0012】
また、一相スロットおよび二相スロットの断面形状を台形とする場合には、各スロットにおける線占積率を向上できるので、筒型リニアモータの推力をより一層向上できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の筒型リニアモータによれば、一相スロットと二相スロットとが混在する電機子を備えていても推力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施の形態における筒型リニアモータの縦断面図である。
図2】一実施の形態の筒型リニアモータのティース部分の縦断面図である。
図3】主磁極の永久磁石の軸方向長さL1で副磁極の永久磁石の軸方向長さL2を割った値と筒型リニアモータの推力との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における筒型リニアモータ1は、図1に示すように、筒状のコア3とコア3の外周に設けられたスロット3c,3dに装着される巻線5とを有する電機子2と、筒状であって内方に電機子2が軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁6とを備えて構成されている、
以下、筒型リニアモータ1の各部について詳細に説明する。電機子2は、コア3と巻線5とを備えて構成されている。コア3は、円筒状のヨーク3aと、環状であってヨーク3aの外周に軸方向に間隔を空けて設けられる複数のティース3bと、ティース3b,3b間に設けたスロット3c,3dとを備えて構成されて可動子とされている。
【0016】
ヨーク3aは、前述の通り円筒状であって、その横断面積は、コア3の軸線J(図2参照)を中心として円筒でティース3bの内周から外周までのどこを切っても、ティース3bを前記円筒で切断した際にできる断面の面積以上となるように肉厚が確保されている。
【0017】
本実施の形態では、図1および図2に示すように、ヨーク3aの外周に10個のティース3bが、軸方向に等間隔に並べて設けられており、ティース3b,3b間に巻線5が装着される環状溝でなるスロット3c,3dが形成されている。また、各ティース3bは、環状であって、コア3の両端に配置されたティース3bを除いて、軸方向において内周端の幅より外周端の幅が狭い等脚台形状とされており、軸方向で両側の側面が外周端に対して等角度で傾斜するテーパ面とされている。なお、末端のティース3bを除いた他のティース3bをコア3の軸線Jを含む面で切断した断面において、ティース3bの側面とコア3の軸線Jに直交する直交面Oとでなす内角θは、6度から12度の範囲となる角度に設定されている。なお、末端のティース3bは、図2に示すように、末端のティース3b以外の他のティース3bをコア3の軸線Jに直交する面で半分に切り落とした断面形状とされている。このように、各ティース3bの断面形状は、内周端の幅より外周端の幅が狭い台形状とされている。
【0018】
また、本実施の形態では、図1中で隣り合うティース3b,3b同士の間には、環状溝でなるスロット3c,3dが合計で9個設けられている。スロット3c,3dは、コア3の周方向に沿って複数設けられており、コア3の外周に軸方向に等ピッチで並べて設けられている。また、スロット3c,3dの断面形状は、底に向かうほど先細りとなる台形となっている。そして、このスロット3c,3dには、巻線5が巻き回されて装着されている。巻線5は、U相、V相およびW相の三相巻線とされている。9個のスロット3c,3dには、図1中左側から順に、W相とU相、U相、U相、U相とV相、V相、V相、V相とW相、W相、W相の巻線5が装着されている。よって、図1中左から1番目、4番目および7番目のスロット3cは、二相スロット3cとされており、異なる二相の巻線5が装着される。この二相スロット3c以外のスロット3dは、一相スロット3dとされており、一相のみの巻線5が装着される。
【0019】
また、図2において、二相スロット3c内であって、異なる二相の巻線5,5の間には絶縁膜Fが介装されており、異なる二相の巻線5,5が互いに導通しないようになっている。そして、二相スロット3cの容積は、一相スロット3dの容積よりも大きくしてある。具体的には、一相スロット3dと二相スロット3cの深さを同一にする一方、二相スロット3cの軸方向幅W1を、一相スロット3dの軸方向幅W2よりも大きくしてある。つまり、二相スロット3cと一相スロット3dをコア3の軸線を中心とする同一直径の円筒で切断した際の切断面における各スロット3c,3dの軸方向幅を見ると、二相スロット3cの方が一相スロット3dよりも広くなっている。
【0020】
二相スロット3cでは、二つの異なる相の巻線5を装着するため、絶縁膜Fを収容しなければならない。また、二相スロット3cに装着される巻線5を外部電源や他の一相スロット3dの同相の巻線5に接続するための引出線が4本必要であり、一相の巻線5のみが装着される一相スロット3dに比較して二相スロット3cでは断面積に対する巻線5の占める割合である線占積率が低下する。よって、本実施の形態では、二相スロット3cの容積は、一相スロット3dの容積に比して絶縁膜Fの体積と異なる二相の巻線5を同一スロットに装着するために生じる線占積率の低下分の体積を加算した容積だけ大きくしてある。
【0021】
このように二相スロット3cの容積を一相スロット3dの容積よりも大きくすると、二相スロット3cにおける巻線5の収容量を一相スロット3dにおける巻線5の収容量と同等にできる。
【0022】
また、各スロット3c,3dの断面形状が台形となっているので、断面矩形のスロットに比して効率よく巻線5をスロット3c,3dへ装着でき線占積率を向上でき、筒型リニアモータ1の推力も向上できる。
【0023】
そして、このように構成された電機子2は、出力軸である非磁性体で形成されたロッド11の外周に装着されている。具体的には、電機子2は、その図1中で左端と右端とがロッド11に固定される環状のスライダ12,13によって保持されて、ロッド11に固定されている。
【0024】
他方、固定子Sは、本実施の形態では、円筒状の非磁性体で形成されるアウターチューブ7と、アウターチューブ7内に挿入される円筒状の軟磁性体で形成されるバックヨーク8と、バックヨーク8内に挿入されてバックヨーク8との間に環状隙間を形成する円筒状の非磁性体のインナーチューブ9と、バックヨーク8とインナーチューブ9との間の環状隙間に軸方向に交互に積層されて挿入される環状の主磁極の永久磁石10aと環状の副磁極の永久磁石10bとを備えた界磁6とで構成されている。なお、図1中で主磁極の永久磁石10aと副磁極の永久磁石10bに記載されている三角の印は、着磁方向を示しており、主磁極の永久磁石10aの着磁方向は径方向となっており、副磁極の永久磁石10bの着磁方向は軸方向となっている。主磁極の永久磁石10aと副磁極の永久磁石10bは、ハルバッハ配列で配置されており、界磁6の内周側では、軸方向にS極とN極が交互に現れるように配置されている。
【0025】
また、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1は、副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2よりも長くなっており、本実施の形態では、0.2≦L2/L1≦0.5を満たすように、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2が設定されている。主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1を長くすればコア3との間の主磁極の永久磁石10aとの間の磁気抵抗を小さくできコア3へ作用させる磁界を大きくできるので筒型リニアモータ1の推力を向上できる。
【0026】
また、本発明の筒型リニアモータ1では、永久磁石10a,10bの外周にバックヨーク8を設けている。バックヨーク8を設けない場合、副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2が短くなると主磁極の永久磁石10aの軸方向中央部分における磁石外部の磁気抵抗が増大し、界磁磁束が小さくなるため、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1を長くする際の筒型リニアモータ1の推力向上度合が小さくなる。これに対して、永久磁石10a,10bの外周にバックヨーク8を設けると、磁気抵抗の低い磁路を確保できるので副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2の短縮に起因する磁気抵抗の増大が抑制される。よって、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1を副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2よりも長くするとともに永久磁石10a,10bの外周に筒状のバックヨーク8を設けると筒型リニアモータ1の推力を大きく向上させ得る。バックヨーク8の肉厚は、主磁極の永久磁石10aの外部磁気抵抗の増大を抑制に適する肉厚に設定されればよい。
【0027】
なお、副磁極の永久磁石10bは、主磁極の永久磁石10aより高い保磁力を有する永久磁石とされている。永久磁石における残留磁束密度と保磁力は、互いに密接に関係しており、一般的に残留磁束密度を高めると保磁力は低くなり、保磁力を高めると残留磁束密度が低くなるという、互いに背反する関係にある。ハルバッハ配列では、副磁極の永久磁石10bには減磁方向に大きな磁界が印加されるため、副磁極の永久磁石10bの保磁力を高くして減磁を抑制し、大きな磁界をコア3に作用させ得るようにしている。対して、コア3に対して作用する磁界の強さは、主磁極の永久磁石10aの磁力線数に左右される。そのため、主磁極の永久磁石10aに高い残留磁束密度の永久磁石を使用して大きな磁界をコア3に作用させるようにしている。本実施の形態では、副磁極の永久磁石10bを主磁極の永久磁石10aよりも保磁力を高くするのに際して、副磁極の永久磁石10bの材料を主磁極の永久磁石10aの材料よりも保磁力が高い材料としている。よって、材料の選定によって、主磁極の永久磁石10aと副磁極の永久磁石10bの組合せを簡単に実現できる。なお、本実施の形態では、主磁極の永久磁石10aは、ネオジム、鉄、ボロンを主成分とする残留磁束密度が高い材料で構成され、副磁極の永久磁石10bは、前記材料にジスプロシウムやテリビウム等の重希土類元素の添加量を増やした減磁しにくい磁石で構成されている。
【0028】
また、固定子Sの内周側には、コア3が挿入されており、界磁6は、コア3に磁界を作用させている。なお、界磁6は、コア3の可動範囲に対して磁界を作用させればよいので、コア3の可動範囲に応じて永久磁石10a,10bの設置範囲を決定すればよい。したがって、アウターチューブ7とインナーチューブ9との環状隙間のうち、コア3に対向し得ない範囲には、永久磁石10a,10bを設置しなくともよい。なお、バックヨーク8の長さは、永久磁石10a,10bを積層した長さと等しい長さとされており、永久磁石10a,10bがコア3のストローク範囲外に磁界を作用させて推力低下を招かないように配慮されている。
【0029】
また、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の図1中左端はキャップ14によって閉塞されており、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の図1中右端は環状のヘッドキャップ15によって閉塞されている。また、インナーチューブ9の内周には、スライダ12,13が摺接しており、スライダ12,13によって電機子2はロッド11とともに界磁6に対して偏心せずに軸方向へスムーズに移動できる。
【0030】
このように電機子2が界磁6内に挿入されると各コア3が界磁6における8つ磁極に対向するので、筒型リニアモータ1は、8極9スロットのリニアモータとされている。よって、本実施の形態では、界磁6における磁極ピッチを9で割り切れる値とすれば、コア3における巻線ピッチの値において小数点以下が循環小数とならないので設計が容易となる。巻線ピッチが循環小数を持つ値とならないためには、コア3が対向する磁極数とコア3のスロット数によって決定され、磁極ピッチが磁極数とスロット数の最大公約数でスロット数を割った値の倍数となっていればよい。
【0031】
戻って、インナーチューブ9は、コア3の外周と各永久磁石10a,10bの内周との間のギャップを形成するとともに、スライダ12,13と協働してコア3の軸方向移動を案内する役割を果たしている。なお、インナーチューブ9は、非磁性体で形成されればよいが、合成樹脂で形成されると筒型リニアモータ1の推力密度向上効果が高くなる。インナーチューブ9を非磁性体の金属で製造すると、電機子2が軸方向へ移動する際にインナーチューブ9の内部に渦電流が生じて、電機子2の移動を妨げる力が発生してしまう。これに対して、インナーチューブ9を合成樹脂とすれば渦電流が生じないので筒型リニアモータ1の推力をより効果的に向上できるとともに、筒型リニアモータ1の質量を低減できる。なお、インナーチューブ9を合成樹脂とする場合、フッ素樹脂で製造すればスライダ12,13との間の摩擦および摩耗を低減できる。また、インナーチューブ9を他の合成樹脂で形成してもよく、また、摩擦および摩耗を低減するべく他の合成樹脂で形成されたインナーチューブ9の内周をフッ素樹脂でコーティングしてもよい。
【0032】
なお、キャップ14には、巻線5に接続されるケーブルCを外部の図示しない電源に接続するコネクタ14aを備えており、外部電源から巻線5へ通電できるようになっている。また、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の軸方向長さは、コア3の軸方向長さよりも長く、コア3は、界磁6内の軸方向長さの範囲で図1中左右へストロークできる。
【0033】
そして、たとえば、巻線5の界磁6に対する電気角をセンシングし、前記電気角に基づいて通電位相切換を行うとともにPWM制御により、各巻線5の電流量を制御すれば、筒型リニアモータ1における推力と電機子2の移動方向とを制御できる。なお、前述の制御方法は、一例でありこれに限られない。このように、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、電機子2が可動子であり、界磁6は固定子Sに装着されている。また、電機子2と界磁6とを軸方向に相対変位させる外力が作用する場合、巻線5への通電、あるいは、巻線5に発生する誘導起電力によって、前記相対変位を抑制する推力を発生させて筒型リニアモータ1に前記外力による機器の振動や運動をダンピングさせ得るし、外力から電力を生むエネルギ回生も可能である。
【0034】
以上のように、本発明の筒型リニアモータ1は、筒状のコア3とU相、V相およびW相の三相の巻線5とを有し、コア3の外周に設けられて一相の巻線5のみが装着される複数の環状の一相スロット3dと、コア3の外周に設けられて二相の巻線5が装着される複数の環状の二相スロット3cと、二相スロット3c内に挿入されて各相の巻線5の間に介装される絶縁膜Fとを有する電機子2と、筒状であって内方に電機子2が軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁6とを備え、二相スロット3cの容積を一相スロット3dの容積よりも大きくしている。
【0035】
このように構成された筒型リニアモータ1では、二相スロット3cの容積を一相スロット3dの容積よりも大きくしているので、絶縁膜Fの存在や巻線5の引出線数の影響で線占積率が低下する二相スロット3cにおいて巻線5の収容量を多くできる。よって、二相スロット3cの巻線5の収容量を一相スロット3dにおける巻線5の収容量に近づけえるので、筒型リニアモータ1の推力を向上できる。
【0036】
また、二相スロット3cの軸方向幅W1を一相スロット3dの軸方向幅W2よりも大きくして二相スロット3cの容積を一相スロット3dの容積よりも大きくしてもよい。このように筒型リニアモータ1を構成すると、二相スロット3cにおける巻線5の収容量を多くしつつも巻線5界磁6との距離が遠くならないので、筒型リニアモータ1の推力向上効果が高くなる。
【0037】
なお、二相スロット3cの深さを一相スロット3dの深さよりも深くして二相スロット3cの容積を一相スロット3dの容積よりも大きくしてもよい。このようにすると、二相スロット3cの底側の巻線5と界磁6との距離が遠ざかる。よって、二相スロット3cの深さを一相スロット3dの深さよりも深くする場合、筒型リニアモータ1の推力を向上できるが、二相スロット3cの軸方向幅W1を一相スロット3dの軸方向幅W2よりも大きくして容積を大きくする場合に比較して推力向上度合が低くなる。
【0038】
さらに、二相スロット3cの容積を一相スロット3dの容積よりも絶縁膜Fの体積と二相の巻線5を二相スロット3cに巻回する際の線占積率低下分の体積とを加算した容積分だけ大きくするようにしてもよい。このようにすると、二相スロット3cの容積の増大が最小限に留められるので、コア3における磁路断面積を確保しやすくなり、コア3の大型化を免れる。
【0039】
また、一相スロット3dおよび二相スロット3cの断面形状を台形とする場合には、各スロット3c,3dにおける線占積率を向上できるので、筒型リニアモータ1の推力をより一層向上できる。
【0040】
なお、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、界磁6がハルバッハ配列にて軸方向に交互に並べられる径方向に着磁された主磁極の永久磁石10aと軸方向に着磁された副磁極の永久磁石10bと、永久磁石10a,10bの外周に配置される筒状のバックヨーク8とを有し、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1は副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2よりも長い。
【0041】
このように筒型リニアモータ1が構成されると、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1を長くして、主磁極の永久磁石10aとコア3との間の磁気抵抗を小さくできるとともに、副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2を短くしてもバックヨーク8を設けているので磁気抵抗の増大を抑制でき、コア3へ作用させる磁界を大きくできる。
【0042】
よって、本実施の形態の筒型リニアモータ1によれば、副磁極の永久磁石10bの減磁を抑制しつつも主磁極の永久磁石10aとコア3との間の磁気抵抗を小さくでき効果的に推力を向上できる。
【0043】
なお、副磁極の永久磁石10bが主磁極の永久磁石10aよりも高い保磁力を有していれば、大きな磁界が印加される副磁極の永久磁石10bの減磁を抑制しつつも主磁極の永久磁石10aに高い残留磁束密度の永久磁石を利用できる。
【0044】
また、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1を副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2よりも長くすれば、界磁6はコア3に大きな磁界を作用させ得るが、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2に最適な関係がある。図3に主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1で副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2を割った値と筒型リニアモータ1の推力との関係を示す。発明者らは、鋭意研究した結果、図3に示すように、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2が0.15≦L2/L1≦0.6を満たすように設定されれば、L2/L1の値を理想的な値に設定した際の推力に対して95%以上の推力を確保できることを知見した。
【0045】
よって、筒型リニアモータ1における主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2を0.15≦L2/L1≦0.6を満たすように設定すれば、推力を一層向上できる。さらに、図3から理解できるように、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2が0.2≦L2/L1≦0.5を満たすように設定されれば、L2/L1の値を理想的な値に設定した際の推力に対して98%以上の推力を確保できるので筒型リニアモータ1の推力をより効果的に向上できる。
【0046】
さらに、本実施の形態の筒型リニアモータ1にあっては、ティース3bの断面形状は、内周端の幅より外周端の幅が狭い台形状とされているので、ティース3bの断面形状を矩形とする場合に比較して、内周端における磁路断面積が広くなる。よって、このように構成された筒型リニアモータ1では、大きな磁路断面積を確保しやすくなり、巻線5を通電した際の磁気飽和を抑制でき、より大きな磁場を発生できるからより大きな推力を発生できる。なお、推力の向上のためには、ティース3bの断面形状を台形とするとよいが、断面形状を矩形としてもよいし、他の形状としてもよい。
【0047】
なお、発明者らの研究によって、ティース3bの断面における側面と直交面Oとでなす内角θが6度から12度の範囲にあると、良好な質量推力密度が得られることが分かった。ここで、質量推力密度とは、前述の構成の筒型リニアモータ1の最大推力を質量で割った数値であり、質量推力密度が良化すれば、筒型リニアモータ1の質量当たりの推力が大きくなる。よって、ティース3bの断面における側面と直交面Oとでなす内角θが6度から12度の範囲にある筒型リニアモータ1では、大きな質量推力密度が得られる。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1・・・筒型リニアモータ、2・・・電機子、3・・・コア、3c・・・二相スロット、3d・・・一相スロット、5・・・巻線、6・・・界磁、F・・・絶縁膜
図1
図2
図3