(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】化学蓄熱造粒体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/16 20060101AFI20220308BHJP
F28D 20/00 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
C09K5/16
F28D20/00 G
(21)【出願番号】P 2017057010
(22)【出願日】2017-03-23
【審査請求日】2020-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2016072404
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108764
【氏名又は名称】タテホ化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】劉 醇一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】岡田 翔太
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-162746(JP,A)
【文献】特開2013-112706(JP,A)
【文献】特開2009-186119(JP,A)
【文献】特開2013-216763(JP,A)
【文献】特開2007-309561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00-5/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムの複合酸化物、及びマグネシウムの複合水酸化物から選択される少なくとも1種のマグネシウム化合物、リチウム化合物、並びに多孔質構造をなす焼成炭化
物を主成分として構成される化学蓄熱造粒体であって、化学蓄熱造粒体中の炭素含有量が
26.4質量%であり、
前記マグネシウム複合酸化物又はマグネシウム複合水酸化物
が、前記化学蓄熱造粒体中のMg100mol%に対して、N
iを20mol%含有
し、ここでNi元素源は塩化物の形態であって、
前記リチウム化合物が、臭化物の形態であって、前記化学蓄熱造粒体中のMg100mol%に対して、Liを10mol%含有し、
前記多孔質構造をなす焼成炭化物が、フェノール樹脂及びメラミン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂の不活性雰囲気中の焼成物であることを特徴とする化学蓄熱造粒体。
【請求項2】
化学蓄熱造粒体を、80~99質量%の化学蓄熱造粒体が残る網目の大きさの篩を使用して、粒子径の小さい化学蓄熱造粒体を除去した後、直径15mmのナイロンボールが5個入っている500mLポリ容器に化学蓄熱造粒体を250mLまで入れ、回転台にて148rpmで2時間回した後、前述の粒子径の小さい化学蓄熱造粒体を除去するときに使用した篩を通過した量が40質量%以下である請求項
1記載の化学蓄熱造粒体。
【請求項3】
(A):Mg100mol%に対してN
i元素を
20mol%含むマグネシウムの複合水酸化物を用意する工程
、ここでNi元素源は塩化物の形態であって;
(B):工程(A)で用意したマグネシウムの複合水酸化物と、Mg100mol%に対して、
10mol%の
臭化リチウムと、マグネシウムの複合水酸化物100重量部に対して、
20重量部のフェノール樹脂及び7.3重量部のメラミン樹脂を混合する工程;
(C):工程(B)で得られたマグネシウムの複合水酸化物を含む混合物を、造粒する工程;
(D):工程(C)で得られたマグネシウムの複合水酸化物を含む造粒物を、分級する工程;及び
(E):工程(D)で用意したマグネシウムの複合水酸化物を含む混合物を、不活性雰囲気中で
600℃、
1時間焼成する工程;
を含み、
得られる化学蓄熱造粒体中の炭素含有量が
26.4質量%である、
化学蓄熱造粒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、100~350℃の低温域で脱水吸熱反応を起こし、かつ繰り返し耐性に優れる化学蓄熱造粒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出規制によって化石燃料の使用削減が求められており、各プロセスの省エネルギー化に加え、排熱の利用を進める必要がある。排熱の利用の手段としては、水を利用した100℃以下の温水蓄熱が知られている。しかし、温水蓄熱には、(1)放熱損失があるため長時間の蓄熱が不可能である、(2)顕熱量が小さいため大量の水が必要であり、蓄熱設備のコンパクト化が困難である、(3)出力温度が利用量に応じて非定常で、次第に降下する、等の問題がある。したがって、このような排熱の民生利用を進めるためには、より効率の高い蓄熱技術を開発する必要がある。
【0003】
効率の高い蓄熱技術として化学蓄熱法が挙げられる。化学蓄熱法は、物質の吸着、水和等の化学変化を伴うため、材料自体(水、溶融塩等)の潜熱や顕熱による蓄熱法に比べて単位質量当たりの蓄熱量が高くなる。化学蓄熱法としては、大気中の水蒸気の吸脱着による水蒸気吸脱着法、金属塩へのアンモニア吸収(アンミン錯体生成反応)、アルコール等の有機物の吸脱着による反応等が提案されている。環境への負荷や装置の簡便性を考慮すると、水蒸気吸脱着法が最も有利である。水蒸気吸脱着法に用いられる化学蓄熱材として、酸化マグネシウムが知られている。
【0004】
酸化マグネシウムは、100~300℃の低温域では実用的な蓄熱材として機能しない。これは、マグネシウムの水酸化物が、上記低温域では有効な脱水反応を起こさないためである。これらを解決するためにMgと、Ni、Co、Cu、及びAlからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属成分を複合化させ、100~300℃程度で蓄熱可能である化学蓄熱材が提案されている(特許文献1)。また、水酸化マグネシウムに塩化リチウムからなる吸湿性金属塩を添加することで、単位質量又は単位体積当たりの蓄熱量が高く、100~350℃程度で蓄熱可能である化学蓄熱材が提案されている(特許文献2)。さらに、水酸化カルシウムによる化学蓄熱材において、セピオライト等による骨格構造体を形成させることで、脱水反応時の化学蓄熱材層の凝集を抑制でき、脱水反応後に水和反応へ移行させたときに、水和反応を進行させることができ、脱水反応と水和反応の可逆性が保持されることが開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-309561号公報
【文献】特開2009-186119号公報
【文献】特開2009-256517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の技術では、粉体のまま化学蓄熱材として用いた場合、作動中における水和反応及び脱水反応の繰り返しにより、微粉化の後、凝集してしまい、反応面積が減少することで、蓄熱システムとしての反応性が低下するという問題があった。また、特許文献3に記載の化学蓄熱材は、セピオライト等による骨格構造体を形成させることで、脱水反応時の化学蓄熱材層の凝集を抑制しているが、骨格構造体の強度が弱く、化学蓄熱材層の凝集抑制が十分ではなかった。
【0007】
したがって、本発明は、100~350℃の低温域で脱水吸熱反応を起こし、かつ繰り返し耐性に優れた化学蓄熱体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者は、種々検討を重ねた結果、マグネシウムの酸化物、マグネシウムの水酸化物、マグネシウムの複合酸化物、及びマグネシウムの複合水酸化物から選択される少なくとも1種のマグネシウム化合物、リチウム化合物、カリウム化合物、及びナトリウム化合物から選択される少なくとも1種のアルカリ金属化合物、並びに炭素化合物を主成分として構成される化学蓄熱造粒体であって、化学蓄熱造粒体中の炭素含有量が12~35質量%であることを特徴とする化学蓄熱造粒体が、100~350℃の低温域で脱水吸熱反応を起こし、かつ十分な強度を有し繰り返し耐性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下の態様で優れた十分な強度を有し繰り返し耐性に優れる。
マグネシウムの酸化物、マグネシウムの水酸化物、マグネシウムの複合酸化物、及びマグネシウムの複合水酸化物から選択される少なくとも1種の化合物、リチウム化合物、カリウム化合物、及びナトリウム化合物から選択される少なくとも1種の化合物、並びに炭素化合物を主成分として構成される化学蓄熱造粒体であって、化学蓄熱造粒体中の炭素含有量が12~35質量%であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の化学蓄熱造粒体が、100~350℃の低温域で脱水吸熱反応を起こし、かつ十分な強度を有し繰り返し耐性に優れるのは、化学蓄熱造粒体中の炭素含有量を12~35質量%に制御した結果、従来技術に比して化学蓄熱造粒体の強度が高いためであり、サイクル試験測定結果(パス率)から明白である。したがって、蓄熱脱水・水和サイクルを繰り返したとしても、微粉化による凝集が抑えられ、蓄熱性能が低下しない化学蓄熱材が提供される。本発明では、前記マグネシウムの複合酸化物及びマグネシウムの複合水酸化物がMgに対してNi、Co、Cu、及びAlから選択される少なくとも1種の元素を1~40mol%含む広い範囲で100~350℃の低温域で脱水吸熱反応を起こし、かつ十分な強度を有し繰り返し耐性に優れる。また、前記化学蓄熱造粒体中のMgに対して、Li、K、及び/又はNaを0.1~50mol%含有する広い範囲で100~350℃の低温域で脱水吸熱反応を起こし、かつ十分な強度を有し繰り返し耐性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[化学蓄熱造粒体]
化学蓄熱造粒体は、マグネシウムの酸化物、マグネシウムの水酸化物、マグネシウムの複合酸化物、及びマグネシウムの複合水酸化物から選択される少なくとも1種の化合物、リチウム化合物、カリウム化合物、及びナトリウム化合物から選択される少なくとも1種の化合物、並びに炭素化合物を主成分として構成され、前記化学蓄熱造粒体中のMgに対して、Li、K、及び/又はNaを含有し、かつ化学蓄熱造粒体中の炭素含有量が12~35質量%である。
【0012】
ここで、マグネシウムの酸化物、マグネシウムの水酸化物、マグネシウムの複合酸化物、及びマグネシウムの複合水酸化物から選択される少なくとも1種の化合物としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム若しくはこれらの混合物、又はMgに対してNi、Co、Cu、及びAlからなる群から選択される少なくとも1種の元素を1~40mol%含むマグネシウムの複合酸化物、複合水酸化物若しくはこれらの混合物が挙げられる。
【0013】
リチウム化合物、カリウム化合物、及びナトリウム化合物としては、吸湿性を有し雰囲気中の水分を吸着し、又は対応する水和物を生成するものであればよく、任意の化合物を使用することができる。リチウム化合物、カリウム化合物、及びナトリウム化合物としては、上記要件を満たし、取り扱いが容易な塩化物、水酸化物、酸化物、臭化物、硝酸塩、又は硫酸塩であることが好ましい。リチウム化合物としては、ハロゲン化リチウム又は水酸化リチウムであることがより好ましく、塩化リチウム、臭化リチウム、又は水酸化リチウムであることがさらに好ましい。カリウム化合物としては、ハロゲン化カリウム又は水酸化カリウムであることがより好ましく、塩化カリウム、臭化カリウム、又は水酸化カリウムであることがさらに好ましい。ナトリウム化合物としては、ハロゲン化ナトリウム又は水酸化ナトリウムであることがより好ましく、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、又は水酸化ナトリウムであることがさらに好ましい。マグネシウムの酸化物、マグネシウムの水酸化物、マグネシウムの複合酸化物、及びマグネシウムの複合水酸化物から選択される少なくとも1種の化合物に、リチウム化合物、カリウム化合物、及びナトリウム化合物から選択される少なくとも1種の化合物を添加することにより、350℃未満の脱水吸熱温度を示し、当該温度は添加比率に応じて変化する。
【0014】
炭素化合物としては、水和・脱水温度域で変化しないものであればよく、高分子化合物を不活性雰囲気中で焼成した焼成炭化物及び無機炭素化合物等が使用できる。
【0015】
化学蓄熱造粒体は、化学蓄熱造粒体中の炭素含有量が12~35質量%であれば、化学蓄熱造粒体中のMgに対して、Li、K、及び/又はNaを0.1~50mol%の範囲で所定の効果を発揮するが、Li、K、及び/又はNaの含有量の範囲は2~45mol%であることが好ましく、3~30mol%であることがより好ましい。Li、K、及び/又はNaの含有量が0.1mol%未満である場合は、化学蓄熱造粒体中の炭素含有量が12~35質量%であっても脱水温度低温化の効果が得られず、50mol%を超える場合は、水酸化マグネシウム自体の脱水・水和反応を阻害し、単位質量又は単位体積あたりの蓄熱量が減少し、蓄熱性能が低下する。炭素含有量の範囲は13~33質量%であることが好ましく、14~30質量%であることがより好ましい。炭素含有量が12質量%未満の場合は、十分な強度をもつ骨格構造が得られず、35質量%を超える場合は、単位質量又は単位体積あたりの蓄熱量が減少し、蓄熱性能が低下する。
【0016】
化学蓄熱造粒体とは、単一又は多成分からなる粉末原料を、炭素成分を含む結合剤を用いて原料より大きな粒状に加工した後、不活性雰囲気中で炭化処理したものをいう。本発明の化学蓄熱造粒体は、結合剤として炭素化合物を構成する高分子化合物を使用し、造粒した後、炭化処理することにより得られる。化学蓄熱造粒体は、嵩密度が0.2~1.0g/cm3程度のペレット形状であればよい。本発明の化学蓄熱造粒体は、蓄熱材の強度が向上し、蓄熱脱水・水和サイクルを繰り返したとしても、微粉化による凝集が抑えられ、蓄熱性能が低下しない。
【0017】
化学蓄熱造粒体は、化学蓄熱材を含む混合物を、造粒機を使用して造粒し、炭化処理することにより製造することができる。造粒方法に限定はなく、乾式造粒又は湿式造粒を用いて行うことができる。湿式造粒を行った場合は、造粒後乾燥を行い、篩を通した後、炭化処理することによって化学蓄熱造粒体を得ることができる。化学蓄熱造粒体の粒子径は、化学蓄熱材として使用できる大きさであればよく、1~20mmが好ましい。粒子径が1mm未満である場合は、ケミカルヒートポンプシステムにおいて、水蒸気導入配管等に詰まって閉塞してしまう恐れがある。粒子径が20mmを超える場合は、水蒸気を通すために大きな細孔が必要となるが、その場合、化学蓄熱造粒体の強度が低下し、化学蓄熱造粒体が割れ易くなる。
【0018】
化学蓄熱造粒体中の炭素化合物は、多孔質構造をなすことが好ましい。多孔質構造とは、細孔が非常に沢山ある固体の構造であり、水蒸気を通す流路として機能する。多孔質体は、気孔率が10~80%程度であればよく、細孔は、反応効率の点から、化学蓄熱造粒体中にランダムに分散している構造が好ましい。
【0019】
化学蓄熱造粒体は、不活性雰囲気中で400~800℃で炭化処理することによって製造することでき、炭化することにより多孔質構造を形成する。焼成温度が400℃未満の場合は、炭素化合物を構成する高分子化合物が炭化せず、800℃を超える場合は、酸化マグネシウムの活性が低下し、水和反応性が低下する。炭素化合物を構成する高分子化合物は、炭化処理時に残炭率が高く及び/又は3次元構造になりやすい樹脂等の高分子化合物であればよい。炭素化合物を構成する高分子化合物としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂、又はセルロースのうちの1種類あるいは2種類以上を混合して用いることが好ましく、フェノール樹脂、メラミン樹脂、及びセルロースからなる群から選択される少なくとも1種の高分子化合物あることがより好ましい。
【0020】
より多孔質構造を形成しやすくするために、不活性雰囲気中、400~800℃で揮発しやすい高分子化合物をさらに添加してもよい。揮発しやすい高分子化合物としては、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、アマランサス澱粉等が好ましい。
【0021】
前記Mgに対してNi、Co、Cu、及びAlからなる群から選択される少なくとも1種の元素を1~40mol%含むマグネシウムの複合酸化物並びに複合水酸化物から選択される少なくとも1種の化合物からなる化学蓄熱造粒体は、特許文献1及び2に記載されている酸化マグネシウム/水系の化学蓄熱材の、以下のような可逆反応を利用したものである。
MgO+H2O⇔Mg(OH)2 △H=-81.2kJ/mol
【0022】
Co及びNiは△Hが50~60kJ/molとMgに比べて低く、Cu及びAlも同等の値を示すため、同等の作用効果を示す。Ni、Co、Cu、及びAlからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む複合マグネシウム化合物は、350℃未満の脱水吸熱温度を示し、当該温度は複合組成率に応じて変化する。元素としてはNi、Co、又はAlが好ましく、Ni又はCoがより好ましい。元素の含有量としては3~30mol%が好ましく、10~25mol%がより好ましい。元素の含有量が1mol%未満の場合は脱水温度低温化の効果が得られず、40mol%を超える場合は単位質量又は単位体積当たりの蓄熱量が低下する。
【0023】
前記Ni、Co、Cu、及びAlからなる群から選択される少なくとも1種の元素源は、水と混合可能であり取り扱いしやすい物であればよく、塩化物、水酸化物、酸化物、炭酸化物、硝酸塩、及び/又は硫酸塩を用いることができ、塩化物、硝酸塩、及び/又は硫酸塩であることが好ましく、塩化物であることがより好ましい。塩化物を用いた場合、水への溶解度が高く、ハンドリング性に富み、均一に分散させることが容易である。
【0024】
化学蓄熱造粒体を、80~99質量%の化学蓄熱造粒体が残る網目の大きさの篩を使用して、粒子径の小さい化学蓄熱造粒体を除去した後、直径15mmのナイロンボールが5個入っている500mLポリ容器に化学蓄熱造粒体を250mLまで入れ、回転台にて148rpmで2時間回転させた後、前述の粒子径の小さい化学蓄熱造粒体を除去するときに使用した篩を通過した量が40質量%以下であることが好ましい。通過量が40質量%を超える場合は、化学蓄熱造粒体の強度が不十分であり、蓄熱脱水・水和サイクルを繰り返すと、微粉化による凝集のため蓄熱性能が低下する。
【0025】
(化学蓄熱造粒体の製造方法)
化学蓄熱造粒体の製造方法は、
(A):マグネシウムの水酸化物、又はMgに対してNi、Co、Cu、及びAlからなる群から選択される少なくとも1種の元素を1~40mol%含むマグネシウム複合水酸化物を用意する工程;
(B):工程(A)で用意したマグネシウムの水酸化物又はマグネシウムの複合水酸化物と、Mgに対して、0.1~50mol%のリチウム化合物、カリウム化合物、及びナトリウム化合物から選択される少なくとも1種の化合物と、マグネシウムの水酸化物又はマグネシウムの複合水酸化物100重量部に対して、15~60重量部の炭素化合物を構成する高分子化合物を混合する工程;
(C):工程(B)で得られたマグネシウムの水酸化物又はマグネシウムの複合水酸化物を含む混合物を、造粒する工程;
(D):工程(C)で得られたマグネシウムの水酸化物又はマグネシウムの複合水酸化物を含む造粒物を、分級する工程;並びに
(E):工程(D)で用意したマグネシウムの水酸化物又はマグネシウムの複合水酸化物を含む混合物を、不活性雰囲気中で400~800℃、1~24時間焼成する工程;
を含む。
【0026】
工程(A)のマグネシウムの水酸化物を得る工程は、
濃度1~10mol/Lの塩化マグネシウム水溶液、及び1~18mol/Lの水酸化ナトリウム溶液又は水酸化カルシウム分散液を用意し、塩化マグネシウム水溶液と、反応率が80~150%の水酸化ナトリウム溶液又は水酸化カルシウム分散液を同時に投入して反応させて、水酸化マグネシウムスラリーを得、得られた水酸化マグネシウムスラリーを濾過、水洗、乾燥させて、マグネシウムの水酸化物を得る工程;
を含むのが好ましい。
【0027】
工程(A)マグネシウムの複合水酸化物を得る工程は、
濃度1~10mol/Lの塩化マグネシウム水溶液、濃度0.1~10mol/LのNi、Co、Cu、及びAlからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含む水溶液、及び1~18mol/Lの水酸化ナトリウム溶液又は水酸化カルシウム分散液を用意し、塩化マグネシウム水溶液と、Ni、Co、Cu、及びAlからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含む溶液を混合し、さらに反応率が80~150%の水酸化ナトリウム溶液又は水酸化カルシウム分散液を投入して反応させて、複合水酸化マグネシウムスラリーを得、得られた複合水酸化マグネシウムスラリーを濾過、水洗、乾燥させて、マグネシウムの複合水酸化物を得る工程;
を含むのが好ましい。
【0028】
工程(B)は、工程(A)で用意したマグネシウムの水酸化物又はマグネシウムの複合水酸化物と、Mgに対して、0.1~50mol%のリチウム化合物、カリウム化合物、及びナトリウム化合物から選択される少なくとも1種の化合物と、マグネシウムの水酸化物又はマグネシウムの複合水酸化物100重量部に対して、15~60重量部の炭素化合物を構成する高分子化合物を混合する工程であり、混合には万能混合攪拌機、リボンミキサー、スパルタンリューザー等を使用することができる。
【0029】
工程(C)は、工程(B)で得られたマグネシウムの水酸化物又はマグネシウムの複合水酸化物を含む混合物を、造粒する工程であり、造粒には湿式押出造粒機ドームグラン、ディスクペレッター、製丸機等を使用することができる。
【実施例】
【0030】
本発明は金属元素としてNi及びCoを、アルカリ金属としてLiを代表として実施例により造粒体の強度及び繰り返し耐性を具体的に説明するが、本発明は前記マグネシウムの複合酸化物及びマグネシウムの複合水酸化物がMgに対してNi、Co、Cu、及びAlから選択される少なくとも1種の元素を1~40mol%含む広い範囲で十分な強度を有し繰り返し耐性に優れる。また、前記化学蓄熱造粒体中のMgに対して、Li、K、及び/又はNaを0.1~50mol%含有する広い範囲で十分な強度を有し繰り返し耐性に優れる。よって、以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
[評価]
(1)Mg、Li、K、Na、Ni、Co、Cu、Alの質量測定方法
測定試料を、12Nの塩酸(試薬特級)及び過塩素酸(試薬特級)に加え加熱して完全に溶解させた後、ICP発光分光分析装置(PS3520 VDD 株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて測定した。
【0032】
(2)炭素含有量の測定方法
(1)において測定したMg、Li、K、Na、Ni、Co、Cu、Alに加えて、Fe、Ba、Ti、Zn、P、Si、Bの含有量を測定し、Li、K、Naについては使用した化合物換算で算出し、その他の元素は酸化物換算で算出し、化学蓄熱造粒体中にこれら化学成分とC以外は存在しないものと仮定して、100%からこれら化学成分値を減算することにより、炭素含有量(%)を算出した。
【0033】
(3)化学蓄熱造粒体の耐久性評価方法
化学蓄熱造粒体を120℃で12時間乾燥後、200g計量し、粒子径の小さい化学蓄熱造粒体を除去するために、篩上に80~99質量%が残る篩を使用して粒子径の小さい化学蓄熱造粒体を除去した。その後、粒子径の小さい化学蓄熱造粒体を除去した測定試料を500mLのポリ容器に250mLまで投入し、さらに容器へ直径15mmのナイロンボールを5個入れ、ポットミル回転台にて、148rpmで2時間回した。造粒体の粉化を調査するため、前述の粒子径の小さい化学蓄熱造粒体を除去するときに使用した篩を使用して、パスした測定試料の重量を測定し、パス率を算出した。
【0034】
(4)粒子径の測定方法
化学蓄熱造粒体の粒子径を、ノギスで20粒測定し、最小値及び最大値を除いて平均値を算出した。円筒形状の造粒体の直径を粒子径とした。
【0035】
(5)サイクル試験後の耐久性評価方法
化学蓄熱造粒体を30g計量した後、(i)350℃で80分保持し酸化物とし、(ii)140℃で40分放冷し、(iii)水蒸気流通下140℃で80分保持し水酸化物とし、(iv)140℃で40分乾燥した。(i)~(iv)までの工程を10サイクル実施した後、篩目開きが1mmの篩を使用し、パスした測定試料の重量を測定し、パス率を算出した。
【0036】
(化学蓄熱造粒体の製造)
[実施例1]
純度が98質量%の無水塩化マグネシウムを純水で溶解させ、Mgイオン濃度が2.0mol/Lになるように調整した塩化マグネシウム水溶液に、純度97質量%の塩化ニッケル溶液に純水を加え、Niイオン濃度が0.8mol/Lになるように調整した溶液を、Mgイオンに対して、Niイオンが20mol%になるように投入し混合溶液を作製した。
【0037】
作製した混合溶液に、試薬特級の水酸化ナトリウム溶液に純水を加え、濃度2.0mol/Lに調整した溶液を、ローラーポンプを用いて塩化マグネシウムに対する水酸化ナトリウムの反応率が90%になるように5mL/minで滴下を行い、300rpmで攪拌し、30℃で1時間反応させた。反応後の複合水酸化マグネシウムの分散液をろ過、水洗後、120℃で12時間乾燥を行い、複合水酸化マグネシウムを得た。
【0038】
得られた複合水酸化マグネシウムに、Mgに対して10mol%の塩化リチウム、複合水酸化マグネシウム100重量部に対して、粉体状のフェノール樹脂を20重量部、メラミン樹脂7.3重量部を純水で77%溶液になるように調整したメラミン樹脂溶液、及び純水240重量部を、万能混合攪拌機(ダルトン製 5DM-r型)の容器に投入し、公転数62rpm、自転数141rpmの条件で10分間攪拌し、複合水酸化マグネシウムを主成分とする混合物を得た。
【0039】
その後、粘土状となった混合物を、湿式押出造粒機ドームグラン(不二パウダル製 DG-L1型)のホッパーに少量ずつ投入し、スクリュー回転数40rpm、ドームダイ孔径が3.0mm、板厚が1.0mm、開口比22.7%の条件で造粒した。造粒後100℃で24時間乾燥し、篩を通して粒子径が約2~5mmの複合水酸化マグネシウムを主成分とする造粒体を得た。
【0040】
その後、得られた造粒体を雰囲気置換型電気炉(丸祥電器製 SPX1518-17V)にて窒素ガスを0.25L/minの流速で流しながら、600℃、1時間の条件で炭化処理を行い、炭素含有量が14.4質量%の化学蓄熱造粒体を得た。
【0041】
[実施例2]
塩化ニッケル水溶液を塩化コバルト水溶液に変えた以外は実施例1と同様の方法で製造し、炭素含有量が19.6質量%の化学蓄熱造粒体を得た。
【0042】
[実施例3]
Niを添加しない以外は、実施例1と同様の方法で製造し、炭素含有量が28.3質量%の化学蓄熱造粒体を得た。
【0043】
[実施例4]
Mgイオンに対して、Coイオンを5mol%とした以外は実施例1と同様の方法で製造し、炭素含有量が20.6質量%の化学蓄熱造粒体を得た。
【0044】
[実施例5]
複合水酸化マグネシウム100重量部に対して、粉体状のフェノール樹脂を50重量部とした以外は実施例4と同様の方法で製造し、炭素含有量が32.2質量%の化学蓄熱造粒体を得た。
【0045】
[実施例6]
複合水酸化マグネシウム100重量部に対して、粉体状のフェノール樹脂を10重量部とした以外は実施例4と同様の方法で製造し、炭素含有量が14.5質量%の化学蓄熱造粒体を得た。
【0046】
[実施例7]
メラミン樹脂の代わりにセルロースを用いた以外は実施例4と同様の方法で製造し、炭素含有量20.6質量%の化学蓄熱造粒体を得た。
【0047】
[実施例8]
塩化リチウムの代わりに臭化リチウムを用いた以外は実施例1と同様の方法で製造し、炭素含有量26.4質量%の化学蓄熱造粒体を得た。
【0048】
[比較例1]
フェノール樹脂及びメラミン樹脂の代わりにセピオライトを複合水酸化マグネシウム100重量部に対して、27.3重量部使用した以外は実施例3と同様の方法で製造し、化学蓄熱造粒体を得た。
【0049】
[比較例2]
炭素化合物を構成する高分子化合物を用いず、実施例3と同様の方法で製造したが、造粒体を形成できなかった。
【0050】
[比較例3]
複合水酸化マグネシウム100重量部に対して、粉体状のフェノール樹脂を5重量部とした以外は実施例4と同様の方法で製造し、炭素含有量10.9質量%の化学蓄熱造粒体を得た。
【0051】
[比較例4]
複合水酸化マグネシウム100重量部に対して、粉体状のフェノール樹脂を70重量部とした以外は実施例4と同様の方法で製造し、炭素含有量38.9質量%の化学蓄熱造粒体を得た。
【0052】
結果を表1にまとめる。
【0053】
【0054】
*1 判定は、化学蓄熱造粒体のうち、炭素を除く蓄熱可能な部分を蓄熱体とし、その含有量が65%以上の場合を○、65%未満の場合を×とした。65%を下回る場合、蓄熱容量が低下する。
*2 比較例1の蓄熱体含有量は、混合時に使用したセピオライトを減じて算出した。
【0055】
表1の結果からも明らかなように、本発明の化学蓄熱造粒体は、炭素化合物の代わりにセピオライトを用いたもの(比較例1)、及び炭素化合物を構成する高分子化合物を用いなかったもの(比較例2)と比較して、明らかに強度が高くなり、高強度の化学蓄熱造粒体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の蓄熱造粒体は、100~350℃の低温域で脱水吸熱反応を起こし、かつ高強度である。そのため、エンジンや燃料電池等から排出される排気ガスの熱を有効利用するのに適している。例えば、排気ガスの熱は、自動車の暖機運転の短縮、搭乗者のアメニティーの向上、燃費の改善及び排気ガス触媒の活性向上による排気ガスの低害化等に活用することができる。特に、エンジンの場合、運転による負荷が一定でなく排気出力も不安定であることから、排気熱の直接利用は必然的に非効率・不便を伴う。本発明のような化学蓄熱系によると、排気熱を一旦化学的に蓄熱し、熱需要に応じて熱出力することで、より理想的な排気熱利用が可能となる。