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  • 特許-複合スラリーの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】複合スラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/02 20060101AFI20220308BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220308BHJP
   C08J 3/215 20060101ALI20220308BHJP
   C01B 33/141 20060101ALI20220308BHJP
   C01B 33/145 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
C08L1/02
C08K3/36
C08J3/215 CEP
C01B33/141
C01B33/145
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017188614
(22)【出願日】2017-09-28
(65)【公開番号】P2019065086
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-09-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度科学技術振興機構 研究成果展開事業 マッチングプランナープログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237112
【氏名又は名称】富士シリシア化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000116622
【氏名又は名称】愛知県
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 睦弘
(72)【発明者】
【氏名】小川 光輝
(72)【発明者】
【氏名】上村 光浩
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 利雄
(72)【発明者】
【氏名】黒田 清
(72)【発明者】
【氏名】森川 豊
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅子
(72)【発明者】
【氏名】中尾 俊章
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-530946(JP,A)
【文献】特開2017-057284(JP,A)
【文献】特開2013-249448(JP,A)
【文献】国際公開第2016/043146(WO,A1)
【文献】特開2010-285573(JP,A)
【文献】特開2018-039897(JP,A)
【文献】特開2008-120673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 3/00-3/28、99/00
C01B 33/141、33/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースとシリカ粒子とを含む混合物を湿式粉砕装置に供給し、前記湿式粉砕装置を用いて前記セルロースを解繊して繊維径が100nm以下である小径セルロースを生成し、
前記小径セルロースと、前記シリカ粒子とを含み、前記小径セルロースの質量に対する前記シリカ粒子の質量比が0.25以上2.5以下である複合スラリーを製造する複合スラリーの製造方法。
【請求項2】
請求項に記載の複合スラリーの製造方法であって、
前記セルロースを解繊して前記小径セルロースを生成するとともに、前記シリカ粒子を微細化する複合スラリーの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合スラリーの製造方法であって、
前記湿式粉砕装置が高圧ジェットミルであり、
前記高圧ジェットミルにおける制御圧が150MPa以上である複合スラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は複合スラリー、複合材料、及び複合スラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂を主成分とする材料の物性を向上させるために、添加物を添加することが行われてきた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-183021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
添加物としてセルロースを添加することが考えられる。しかしながら、セルロースは、樹脂中での分散性が悪く、樹脂中で凝集し易い。セルロースが凝集すると、樹脂を主成分とする材料中でセルロースが偏在し、樹脂の不均質化が起こる。その場合、強度、透明性、平滑性等の物性は向上し難い。
【0005】
本開示の一局面は、物性の優れた複合材料の製造に使用することができる複合スラリー、複合材料、及び複合スラリーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面は、無機酸化物粒子と、繊維径が100nm以下であるセルロースと、を含む複合スラリーである。本開示の一局面である複合スラリーを用いれば、物性が優れた複合材料を製造できる。
【0007】
本開示の別の局面は、樹脂と、前記樹脂中に分散した無機酸化物粒子と、前記樹脂中に分散した、繊維径が100nm以下であるセルロースと、を含む複合材料である。本開示の別の局面である複合材料は、優れた物性を有する。
【0008】
本開示の別の局面は、セルロースを解繊又は変性することで、繊維径が100nm以下である小径セルロースを生成し、前記小径セルロースと、無機酸化物粒子とを含む複合スラリーを製造する複合スラリーの製造方法である。
【0009】
本開示の別の局面である複合スラリーの製造方法により製造した複合スラリーを用いれば、物性が優れた複合材料を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1Aは、基板1の表面1Aにセルロースの繊維3が分散して存在する状態を表す説明図であり、図1Bは、断面プロファイルにおける繊維径dを表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施形態を説明する。
1.複合スラリー
本開示の複合スラリーは、無機酸化物粒子と、繊維径が100nm以下であるセルロース(以下では小径セルロースとする)と、を含む。
【0012】
本開示の複合スラリーは、例えば、樹脂を含む複合材料の製造に使用できる。例えば、本開示の複合スラリーと、樹脂を含む成分とを混合し、固化することにより、樹脂を含む複合材料が得られる。この複合材料において、例えば、無機酸化物粒子と、小径セルロースとは、樹脂中に均一に分散している。そのため、複合材料は優れた物性を有する。優れた物性として、例えば、複合材料の強度が高いこと、複合材料の光透過性が高いこと、複合材料の面粗度が小さいこと等が挙げられる。
【0013】
無機酸化物粒子は、酸性酸化物粒子、塩基性酸化物粒子の何れでも良い。無機酸化物粒子として、例えば、シリカ粒子、酸化チタン粒子、酸化リチウム粒子、コランダム粒子、磁鉄鉱粒子等が挙げられる。特に水酸基を有する無機酸化物粒子が、セルロースと水素結合や脱水縮合反応による結合を起こしやすいため望ましい。
シリカ粒子として、例えば、多孔質シリカ粒子が挙げられる。多孔質シリカ粒子として、例えば、シリカゲル粒子が挙げられる。無機酸化物粒子の全てがシリカ粒子であってもよいし、無機酸化物粒子の一部がシリカ粒子であってもよい。
【0014】
シリカ粒子の平均粒径は、1nm以上、5μm以下であることが好ましく、50nm以上、5μm以下であることがより好ましく、100nm以上、5μm以下であることが特に好ましい。平均粒径がこれらの範囲内である場合、複合材料の物性が一層向上する。シリカ粒子の平均粒径の測定方法は以下のとおりである。1nm以上、1μm未満の範囲では、動的光散乱法による測定方法である。1μm以上、5μm以下の範囲では、レーザー回折&散乱法による測定方法である。
小径セルロースは、例えば、繊維径が100nmを超えるセルロースを解繊して生成することができる。
小径セルロースの繊維径は、3nm以上、100nm以下であることが好ましく、10nm以上、60nm以下であることがより好ましい。3nmは、小径セルロースの構造単位の最小値とされる値である。小径セルロースの繊維径が100nm以下である場合、可視光の波長において、複合材料の透明性が向上する。60nm以下である場合、複合材料の透明性が一層向上する。
セルロースを解繊する方法として、例えば、ディスパー等の分散装置、湿式粉砕装置を使用する方法等が挙げられ、湿式粉砕装置を使用する方法が好ましい。湿式粉砕装置として、例えば、ボールミル、ビーズミル、ハンマーミル、ロッドミル、カッターミル、石臼、グラインダー、ジェットミル等が挙げられる。ジェットミルとして、例えば、高圧ジェットミルが挙げられる。
なお、小径セルロースの原料として、植物、微生物及びホヤ等の動植物性のセルロースが望ましいが、キチン、キトサンのような多糖類でも構わない。また、小径セルロースの原料として、硫酸等の無機酸やTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル (2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-oxyl)等の触媒反応により処理を行ったセルロースや、他の化合物を縮合、重合したセルロースも使用できる。
【0015】
セルロースの繊維径の測定方法は以下のとおりである。セルロースを含む複合スラリーを平坦な基板に塗布、乾燥する。その結果、図1Aに示すように、基板1の表面1A上に、セルロースの繊維3が分散して存在するようになる。次に、表面1Aの原子間力顕微鏡(AFM)像を取得する。そのAFM像において、図1Aに示す、繊維の短手方向Xでの断面プロファイルを取得する。断面プロファイルの例を図1Bに示す。断面プロファイルにおいて、セルロースの繊維3の頂点Tと、基準面5との距離を繊維径dとする。基準面5は、セルロースの繊維3が存在しない部分における表面1Aを、セルロースの繊維3が存在する部分まで外挿した面である。上記の繊維径dを150箇所でそれぞれ測定し、それらの平均値をセルロースの繊維径とする。
【0016】
本開示の複合スラリーは分散媒を含む。無機酸化物粒子及び小径セルロースは、例えば、分散媒中に分散している。分散媒として、誘電率が大きいものが好ましく、特に分子内に水酸基を有するものが好ましい。この場合、複合スラリー中の無機酸化物粒子及び小径セルロースの分散安定性が向上するため、凝集や沈殿が生じにくくなり、複合材料の物性が一層向上する。分子内に水酸基を有する分散媒として、例えば、水、アルコール、エステル、ケトン、カーボネイト、有機酸、アルデヒド等が挙げられる。
【0017】
複合スラリーにおける無機酸化物粒子の濃度は、0.01~50質量%の範囲が好ましい。この範囲内である場合、複合スラリーの粘度が低いため、複合化、樹脂への分散が促進される。
スラリーにおける小径セルロースの濃度は、0.01~15質量%の範囲であるとさらに好ましい。この範囲内である場合、複合化、樹脂への分散がさらに促進される。
複合化とは、分散媒中の湿式状態において、セルロースを小径に解砕、分散して無機酸化物粒子との接触を強制的に起こさせることで、小径セルロースと無機酸化物粒子とを結合した状態にすることを意味する。
複合スラリーとは、小径セルロースと無機酸化物粒子とが分散媒中で水素結合や脱水縮合反応による結合を起こした状態にすることを意味する。樹脂への分散とは、複合スラリーを樹脂に混合、分散させることを意味する。
【0018】
小径セルロースの濃度に対する、無機酸化物粒子の濃度の比率は、0.01~100の範囲が好ましく、0.25~10の範囲であることがより好ましく、0.25~2.5の範囲であることが特に好ましい。この範囲内である場合、小径セルロースと無機酸化物粒子とが、水素結合や脱水縮合により複合化しやすくなる。
本開示の複合スラリーは、無機酸化物粒子及び小径セルロース以外の成分をさらに含んでいてもよい。
【0019】
2.複合材料
本開示の複合材料は、樹脂と、無機酸化物粒子と、小径セルロースと、を含む。無機酸化物粒子及び小径セルロースは、樹脂中に分散している。複合材料は優れた物性を有する。優れた物性として、例えば、複合材料の強度が高いこと、複合材料の光透過性が高いこと、複合材料の面粗度が小さいこと等が挙げられる。
【0020】
樹脂として、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマー、ゴム等の有機高分子が挙げられる。樹脂として、具体的には、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
無機酸化物粒子及び小径セルロースは、例えば、前記「1.複合スラリー」の項で述べたものである。
【0021】
複合材料に含まれる小径セルロースの質量を1質量部とした場合、複合材料に含まれる無機酸化物粒子の質量は、0.01~100質量部の範囲が好ましい。この範囲内である場合、樹脂中での小径セルロース及び無機酸化物粒子の分散性が良く、樹脂中で凝集しにくくなる。そのことにより、複合材料の強度、透明性、平滑性等の物性が一層向上する。
【0022】
本開示の複合材料は、例えば、本開示の複合スラリーと、樹脂を含む成分とを混合し、固化することにより、製造することができる。樹脂を含む成分として、例えば、樹脂エマルジョン、常温で又は加温により液体となる樹脂及び樹脂原料、並びに、加熱により粘度が低下する樹脂等が挙げられる。
【0023】
3.複合スラリーの製造方法
本開示の複合スラリーの製造方法では、セルロースを解繊又は変性することで、繊維径が100nm以下である小径セルロースを生成し、前記小径セルロースと、無機酸化物粒子とを含む複合スラリーを製造する。セルロースを解繊する方法として、例えば、湿式粉砕装置を用いる方法等が挙げられる。
本明細書において、解繊又は変性とは、機械的な解繊と、化学的な解繊とを含む。
【0024】
湿式粉砕装置、小径セルロース、及び無機酸化物粒子は、例えば、前記「1.複合スラリー」の項で述べたものである。
本開示の複合スラリーの製造方法では、例えば、セルロースと無機酸化物粒子とを含む混合物を湿式粉砕装置に供給し、セルロースを解繊して小径セルロースを生成することが好ましい。
この場合、例えば、先に小径化したセルロースと無機酸化物粒子とを含む混合物を湿式粉砕装置に供給しても、分散媒中で二次凝集した小径セルロースが解れることで、小径セルロースと無機酸化物粒子との複合スラリー化ができる。
例えば、セルロースを解繊して小径セルロースを生成するとともに、無機酸化物粒子を微細化することができる。この場合、小径セルロースと無機酸化物粒子との間に水素結合や脱水縮合による結合が生じるために、得られた複合スラリーを用いて製造した複合材料の物性を一層向上させることができる。
また、既に微細化された無機酸化物粒子や、平均粒径が1μm以上、5μm以下の無機酸化物粒子を湿式粉砕装置に供給してもよい。この場合、湿式粉砕装置において無機酸化物粒子の微細化が生じてもよいし、生じなくてもよい。
【0025】
本開示の複合スラリーの製造方法は、好ましくは湿式粉砕による製造方法である。湿式粉砕による製造方法で用いる湿式粉砕装置は、好ましくは高圧ジェットミルである。高圧ジェットミルにおける制御圧は、50MPa以上であることが好ましく、150MPa以上であることがより好ましい。この場合、小径セルロースと無機酸化物粒子との間の上記の結合が得られるとともに、小径セルロースの製造時間を短縮できる。
【0026】
4.実施例
(4-1)複合スラリーの製造
セルロース粉末と、微粉末状シリカゲルとを用意した。このセルロース粉末は、旭化成株式会社製の商品名:セオラス(登録商標)FD-101である。セルロース粉末の平均粒径は約40μmである。微粉末状シリカゲルは、富士シリシア化学株式会社製の商品名:サイリシア350である。微粉末状シリカゲルの平均粒径は3.9μmであり、比表面積は300m/gである。
【0027】
セルロース粉末と、微粉末状シリカゲルとを分散させた分散液を、高圧ジェットミルに供給した。分散液におけるセルロース粉末と微粉末状シリカゲルとの質量比は、1:0.25である。高圧ジェットミルは吉田機械興業社製の商品名:ナノヴェイタである。高圧ジェットミルの制御圧は150MPaである。
【0028】
高圧ジェットミルにより、セルロース粉末は解繊され、小径セルロースが生成した。また、微粉末状シリカゲルはさらに微細化された。その結果、微細化された微粉末状シリカゲルと、小径セルロースとを含む複合スラリーS1が得られた。小径セルロースの繊維径は10~20nmであった。微細化された微粉末状シリカゲルの平均粒径は160~175nmであった。
【0029】
また、高圧ジェットミルに供給する分散液におけるセルロース粉末と微粉末状シリカゲルとの質量比を変えることで、微粉末状シリカゲルと小径セルロースとの質量比が複合スラリーS1とは異なる複合スラリーS2~S5を製造した。複合スラリーS1~S5における微粉末状シリカゲルと小径セルロースとの質量比を表1に示す。
【0030】
【表1】
(4-2)複合材料の製造と評価(その1)
ウレタン樹脂エマルジョンと、複合スラリーS1~S5のいずれかとを混合し、混合物をシリコン容器に投入し、乾燥させることで、複合材料のフィルムを得た。複合材料は、ウレタン樹脂と、ウレタン樹脂中に分散した微粉末状シリカゲルと、ウレタン樹脂中に分散した小径セルロースとを含む。以下では、複合スラリーSiを用いて製造したフィルムを、フィルムFiとする。iは1~5のいずれかである。
【0031】
表2に、フィルムF1~F5における微粉末状シリカゲル及び小径セルロースの質量比を示す。質量比の単位は、フィルムの全質量を100とする質量%である。また、表2に、各フィルムの製造に使用した複合スラリーの種類も示す。
【0032】
【表2】
フィルムF1~F5の全光線透過率を測定した。その測定結果を上記表2に示す。フィルムF1~F5のいずれにおいても全光線透過率は高かった。
【0033】
比較例として、ウレタン樹脂に添加物を添加してフィルム(以下ではフィルムRとする)を製造した。添加物の種類及び配合量は様々に変化させた。フィルムRの厚さはフィルムF1~F5の厚さと同じである。そして、フィルムRの全光線透過率を測定した。表3に、フィルムRにおける添加物の種類及び配合量ごとに、全光線透過率の測定結果を示す。全光線透過率の単位は%である。
【0034】
【表3】
表3において、「未処理シリカ」は、高圧ジェットミルによる処理を行っていない微粉末状シリカゲルである。「処理シリカ」は、高圧ジェットミルによる処理を10回繰り返した微粉末状シリカゲルである。「処理シリカ」の平均粒径は1μm以下である。「未処理セルロース」は、高圧ジェットミルによる処理を行っていないセルロース粉末である。「処理セルロース」は、高圧ジェットミルによる処理を1回行ったセルロース粉末である。表3における添加量の単位は、フィルムの全質量を100とする質量%である。表3において、「no data」は、混合しても材料が均一にならないため、フィルムを形成できないことを意味する。
【0035】
フィルムRでは、添加物の配合量を増やすと、全光線透過率が急激に低下した。また、添加物として未処理セルロース又は処理セルロースを添加した場合は、樹脂と添加物との混合の際にゲルの形成が認められ、樹脂中での添加剤の分散性が悪かった。その結果、フィルムRの全光線透過率が顕著に低下した。
【0036】
以上の結果から、フィルムF1~F5は、フィルムRに比べて、全光線透過率が高いことが確認できた。
この理由は以下のように推測される。フィルムF1~F5は、微粉末状シリカゲルと、小径セルロースとを含む。微粉末状シリカゲルの表面には多数のシラノール基が存在する。小径セルロースは水酸基を有する。解繊され、セルロース繊維間の結合が切断されることにより、小径セルロースの表面積は大きくなり、水酸基は一層増加している。微粉末状シリカゲルと小径セルロースとが混合されたとき、シラノール基と水酸基との結合により、微粉末状シリカゲルの表面上に、小径セルロースが結合して複合微粒子が生成する。樹脂中において、複合微粒子は、セルロースのみが存在する場合よりも凝集しにくく、樹脂中に均一に分散する。その結果、フィルムF1~F5の全光線透過率が高くなる。
【0037】
(4-3)複合材料の製造と評価(その2)
ウレタン樹脂エマルジョンと、複合スラリーS3とを混合し、原料液を調製した。ガラス表面上に、フィルムアプリケーターを用いて原料液を塗布し、複合材料のフィルムF6を製造した。このフィルムF6における260μm角の領域の算術平均粗さRaを、レーザー顕微鏡を用いて測定した。算術平均粗さRaは14nmであった。
【0038】
また、フィルムF6から、幅10mm、厚さ1mmの試験体を作製した。引張試験機を用い、この試験体の最大引張荷重を測定した。引張試験機は、東京衡機製の小型卓上試験機である。最大引張り荷重は2600Nであった。
【0039】
比較例として、ウレタン樹脂に未処理セルロースを添加してフィルムR1を製造した。未処理セルロースの添加量は1質量%である。また、比較例として、ウレタン樹脂に未処理シリカを添加してフィルムR2を製造した。未処理シリカの添加量は1質量%である。添加量の単位は、フィルムの全質量を100とする質量%である。
【0040】
フィルムR1における260μm角の領域の算術平均粗さRaを測定した。算術平均粗さRaは332nmであった。フィルムR2における260μm角の領域の算術平均粗さRaを測定した。算術平均粗さRaは85nmであった。
【0041】
比較例として、ウレタン樹脂のみから成るフィルムR3を製造した。フィルムR3について、上記と同様の方法で最大引張荷重を測定した。最大引張り荷重は2160Nであった。
【0042】
以上の結果から、フィルムF6は、フィルムR1~R2に比べて、算術平均粗さRaが小さいことが確認できた。また、フィルムF6は、フィルムR3に比べて、最大引張り荷重が大きいことが確認できた。
【0043】
この理由は以下のように推測される。フィルムF6は、微粉末状シリカゲルと、小径セルロースとを含む。上述したとおり、微粉末状シリカゲルの表面上に、小径セルロースが結合して複合微粒子が生成する。複合微粒子は樹脂中に均一に分散する。その結果、フィルムF6の算術平均粗さRaが小さく、フィルムF6の最大引張り荷重が大きい。
【0044】
5.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0045】
(1)複合材料は、フィルム以外の形態を有していてもよい。フィルム以外の形態として、例えば、成形体、繊維等が挙げられる。複合材料は、例えば、塗料、レンズ材料、航空機や輸送機の材料、ロボット用材料、建築材料、家電製品の素材等であってもよい。航空機や輸送機の材料として、例えば、窓やライトカバー等が挙げられる。また、家電製品の素材として、例えば、タッチパネル、画面等が挙げられる。
(2)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0046】
(3)上述した複合スラリー、複合材料、複合スラリーの製造方法の他、当該複合材料を構成要素とする製品、複合材料の製造方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0047】
1…基板、1A…表面、3…繊維、5…基準面
図1