(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】車両ドアラッチ装置
(51)【国際特許分類】
E05B 85/26 20140101AFI20220308BHJP
E05B 79/08 20140101ALI20220308BHJP
【FI】
E05B85/26
E05B79/08
(21)【出願番号】P 2021079277
(22)【出願日】2021-05-07
(62)【分割の表示】P 2017248491の分割
【原出願日】2017-12-25
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000148896
【氏名又は名称】三井金属アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089934
【氏名又は名称】新関 淳一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100092945
【氏名又は名称】新関 千秋
(72)【発明者】
【氏名】石黒 克行
(72)【発明者】
【氏名】西島 広隆
(72)【発明者】
【氏名】覚前 卓也
(72)【発明者】
【氏名】大川 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】蕪木 誠
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-223034(JP,A)
【文献】特開2015-74976(JP,A)
【文献】特表2008-530407(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102009029041(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102007045228(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0012376(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0052336(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 85/26
E05B 79/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストライカ(18)と係合してアンラッチ位置からフルラッチ余剰回転位置まで回転可能のラッチ(13)と、ラチェット軸(16)により軸止され前記ラッチ(13)のフルラッチ係合部(13d)に対して対峙可能のラッチ係合位置と前記フルラッチ係合部(13d)に対して非係合となるラッチ離脱位置とに変位可能な爪部(15a)を備えたラチェット部材(15)とを有し;
前記ラッチ(13)に作用するラッチリターン力が前記ラッチ係合位置の前記ラチェット部材(15)に加わると、前記ラチェット部材(15)にはラッチ離脱方向のリリース分力(F2)が生じて前記ラチェット部材(15)は前記ラッチ係合位置から前記ラッチ離脱位置に押し出される構成とし;
前記ラチェット部材(15)の側方には、前記ラチェット部材(15)に当接することで前記リリース分力(F2)による前記ラチェット部材(15)の前記ラッチ係合位置から前記ラッチ離脱位置への変位を規制するブロック位置と、前記ラチェット部材(15)に対して離間して前記ラチェット部材(15)の前記ラッチ係合位置から前記ラッチ離脱位置への変位を許容する解放位置とにピン(22)を中心に変位可能なラチェット抑え(21)を設け;
前記ラチェット部材(15)には前記ラチェット抑え(21)が前記ブロック位置にある状態において連結軸(15b)を中心にラッチ離脱方向に回動可能なポールレバー(20)を設け;
前記ラチェット部材(15)は前記ラチェット軸(16)に軸止されるベースレバー(19)を備え、前記ポールレバー(20)は前記ベースレバー(19)に前記連結軸(15b)により軸止させ;
前記ベースレバー(19)は前記ラチェット抑え(21)のブロック面(21c)と当接する規制位置から前記リリース分力(F2)により非規制位置に回転可能とした車両ドアラッチ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ラチェット抑え(21)の前記ブロック面(21c)は前記ラチェット部材(15)の前記連結軸(15b)が前記リリース分力(F2)により移動する延長線上に位置させた車両ドアラッチ装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ラッチ(13)には前記フルラッチ係合部(13d)と並んで配置されるハーフラッチ係合部(13c)を設けた車両ドアラッチ装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項において、前記ラチェット抑え(21)は前記ピン(22)を中心とする円弧面を備えたブロック面(21c)と、前記ブロック面(21c)に連なり前記ピン(22)からの半径が徐々に短くなる傾斜カム面(21d)とを有する車両ドアラッチ装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項において、前記ラチェット抑え(21)には前記ラチェット抑え(21)を前記解放位置から前記ブロック位置に向けて付勢するカム付勢バネ(23)を設けた車両ドアラッチ装置。
【請求項6】
請求項5において、前記ラチェット抑え(21)は前記解放位置から前記ブロック位置に向けて前記カム付勢バネ(23)の弾力で復帰する際、前記ラチェット抑え(21)の傾斜カム面(21d)により前記ベースレバー(19)を非規制位置から規制位置に戻す車両ドアラッチ装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項において、前記ラチェット抑え(21)は手動リリース操作力により前記ブロック位置から前記解放位置または前記解放位置から前記ブロック位置に操作可能とした車両ドアラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ドアラッチ装置に関するものであり、特に、ラチェットをラッチから離脱させるのに必要なリリース操作力を低減させた車両ドアラッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の代表的な車両ドアラッチ装置では、アンラッチ位置からフルラッチ位置に回転したラッチにラチェットを係合させることで、ラッチのアンラッチ回転を阻碍して、車両ドアを閉扉状態(フルラッチ状態)に保持しており、また、開扉ハンドルからの手動リリース操作力若しくはパワーリリース機構からの電動リリース操作力により、ラチェットをラッチ離脱方向(反ラッチ係合方向)に回転させてラチェットをラッチから離脱させることで、ラッチのアンラッチ回転を許容し、車両ドアを開扉可能状態にしている。
【0003】
フルラッチ状態のラッチは、ラッチバネの弾力や、ドアと車体との間に設けられるシール部材の反発力によりアンラッチ方向に強く付勢されるため、ラチェットに強く圧接する。また、ラチェットはラチェットバネの弾力でラッチ係合方向に付勢される。ラッチがラチェットに圧接することで生じる摩擦力や、ラチェットバネの弾力は、リリース操作力に対する抵抗力として作用するため、開扉ハンドルの操作感の低下や、パワーリリース機構の大型化の要因となる。
【0004】
特許文献1には、ラチェットをラッチから離脱させるリリース操作力を低減させた車両ドアラッチ装置について開示されている。
図13は特許文献1のリリース操作力低減機構を示しており、ラッチAはラチェットBとの係合によりフルラッチ位置に保持され、ラチェットBは側方に設けたラチェット抑えCとの当接によりラッチ離脱方向への回転がブロックされている。
図13のフルラッチ状態では、ラッチAからラチェットBに伝達される圧力の多くは、ラチェットBのラチェット軸Dで支受されるが、圧力の一部はラチェットBをラッチ離脱方向に回転させるリリース分力EとしてラチェットBに作用している。
【0005】
このリリース分力Eは、ラチェットBとラッチAの係合状態を維持させる係合保持力、具体的には、ラッチAとラチェットB間に生じる摩擦力やラチェットBをラッチ係合方向に付勢するラチェットバネの弾力の合算力より強くなるように設定されている。このため、手動リリース操作力若しくは電動リリース操作力によりラチェット抑えCを時計回転させてラチェットBからラチェット抑えCを離脱させると、ラチェットBはリリース分力Eによりラッチ離脱方向に回転し、ラッチ係合位置からラッチ離脱位置に押し出され、ラッチAとラチェットBの係合は解除され、開扉可能状態となる。
【0006】
特許文献1の構成では、ラチェット抑えCとラチェットBとの間に生じる摩擦力が、リリース操作力に対する抵抗力として作用するが、この抵抗力は、従来装置におけるリリース操作力に対する抵抗力、即ち、ラッチがラチェットに圧接することで生じる摩擦力や、ラチェットバネの弾力からもたらされる抵抗力より相当に低減され、その分、リリース操作力も相当に低減できることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図13の構成では、手動リリース操作力若しくは電動リリース操作力によりラチェット抑えCを時計回転させてラチェットBからラチェット抑えCを離脱させないと、ラチェットBはラッチ離脱方向には回転できない。この構造上の制約により、従来のラッチAには、ラチェットBが係合する係合部Fを1カ所にしか設けることができなかった。
仮に、係合部Fに別の係合部、つまり、ハーフラッチ係合部を並設すると、ハーフラッチ係合部にラチェットBが係合したとき、ラチェット抑えCによりラッチから離脱不能に押さえ付けられているラチェットBは、ハーフラッチ係合部に対してメカニカルロック状態となり、通常操作では解除できず、手動リリース操作力若しくは電動リリース操作力によりラチェット抑えCを回転させる必要が生じてしまう。従って、ハーフラッチ係合部とフルラッチ係合部とが外周縁に並列されている典型的なラッチの使用が困難になっていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
よって、本発明は、ストライカ18と係合してアンラッチ位置からフルラッチ余剰回転位置まで回転可能のラッチ13と、ラチェット軸16により軸止され前記ラッチ13のフルラッチ係合部13dに対して対峙可能のラッチ係合位置と前記フルラッチ係合部13dに対して非係合となるラッチ離脱位置とに変位可能な爪部15aを備えたラチェット部材15とを有し;前記ラッチ13に作用するラッチリターン力が前記ラッチ係合位置の前記ラチェット部材15に加わると、前記ラチェット部材15にはラッチ離脱方向のリリース分力F2が生じて前記ラチェット部材15は前記ラッチ係合位置から前記ラッチ離脱位置に押し出される構成とし;前記ラチェット部材15の側方には、前記ラチェット部材15に当接することで前記リリース分力F2による前記ラチェット部材15の前記ラッチ係合位置から前記ラッチ離脱位置への変位を規制するブロック位置と、前記ラチェット部材15に対して離間して前記ラチェット部材15の前記ラッチ係合位置から前記ラッチ離脱位置への変位を許容する解放位置とにピン22を中心に変位可能なラチェット抑え21を設け;前記ラチェット部材15には前記ラチェット抑え21が前記ブロック位置にある状態において連結軸15bを中心にラッチ離脱方向に回動可能なポールレバー20を設け;前記ラチェット部材15は前記ラチェット軸16に軸止されるベースレバー19を備え、前記ポールレバー20は前記ベースレバー19に前記連結軸15bにより軸止させ;前記ベースレバー19は前記ラチェット抑え21のブロック面21cと当接する規制位置から前記リリース分力F2により非規制位置に回転可能とした車両ドアラッチ装置としたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1に掛かる発明では、ラチェット抑え21によりラチェット部材15のラッチ離脱位置への変位をブロックする構造において、ラチェット抑え21をブロック位置に保持したままでもラチェット部材15の爪部15aをラッチ13から離脱させることができる。また、ベースレバー19に対してポールレバー20を独立して変位させることができ、また、ベースレバー19の回転により爪部15aをラッチ13から容易に離脱させることができる。
本発明の請求項3に掛かる発明では、ラッチ13にはハーフラッチ係合部13cとフルラッチ係合部13dと並んで配置させることができる。
本発明の請求項4に掛かる発明では、ブロック面21cにより確実にラチェット部材15のラッチ離脱位置への変位をブロックでき、また、傾斜カム面21dにより容易にラチェット部材15を復帰させることができる。
本発明の請求項5に掛かる発明では、ラチェット抑え21をカム付勢バネ23で初期位置となるブロック位置に復帰させることができる。
本発明の請求項6に掛かる発明では、カム付勢バネ23の弾力でベースレバー19を非規制位置から規制位置に戻すことができる。
本発明の請求項7に掛かる発明では、ラチェット抑え21は手動リリース操作力により操作可能となるから、電気的操作が不能になっても、開扉操作および閉扉操作を行える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係わる車両ドアラッチ装置のアンラッチ状態(開扉状態)における正面図である。
【
図2】車両ドアラッチ装置のフルラッチ状態(閉扉状態)における正面図である。
【
図3】閉扉動作を示す説明図であり、Aはラッチがハーフラッチ位置まで回転した状態を示し、Bはラッチがフルラッチ位置まで回転した状態を示し、Cはラッチが余剰回転位置まで回転した状態を示し、Dはフルラッチ位置に戻ったラッチがラチェット部材に係合した状態を示している。
【
図4】開扉動作を示す説明図であり、Aはラチェット抑えがリリース回転した初期段階を示し、Bはラチェット部材が限界角度まで屈折した状態を示し、Cはラチェット部材がラッチから離脱した状態を示し、Dはラチェット抑えがリリース方向に最大回転した状態を示し、Eはラチェット抑えがブロック位置に復帰してラチェット部材がラッチの外周縁に当接した状態を示している。
【
図6】ラチェットバネを仮想線で付記したラチェット部材の縦断面図である。
【
図7】ラチェット部材のベースレバーの金属プレートの正面図である。
【
図8】ラチェット部材のポールレバーの金属プレートの正面図である。
【
図9】ラチェット抑えの金属プレートの正面図である。
【
図11】ラッチのハーフラッチ係合部にラチェット部材の爪部が係合したハーフラッチ状態を示す正面図である。
【
図12】ラチェット抑えとドアキーシリンダの連結手段を示す略図である。
【
図13】従来のリリース操作力低減機構を示した公知例図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、アンラッチ状態(開扉状態)の車両ドアラッチ装置10の正面を示しており、車両ドアラッチ装置10のベースプレート11には、ラッチ軸12によりラッチ13が軸止されている。ラッチ13はラッチバネ14(弾力方向を示す矢印による図示)により開扉方向(アンラッチ方向・反時計回転方向)に付勢されている。通常、ベースプレート11は車両ドア(図示なし)に固定される。
【0013】
ベースプレート11の下部側にはラチェット部材15がラチェット軸16により軸止される。ラチェット部材15はラチェットバネ17(弾力方向を示す矢印による図示)によりラッチ係合方向に付勢される。ラチェット部材15の爪部15aは、
図1のアンラッチ状態では、ラチェットバネ17の弾力によりラッチ13の外周縁13aに当接している。
【0014】
車両ドアが閉扉方向に移動すると、車体(図示ない)に固定されたストライカ18は、ベースプレート11に形成した水平方向のストライカ進入路11a内に相対的に進入して、ラッチ13のU型のストライカ係合溝13bに当接し、ラッチ13をラッチバネ14の弾力に抗して閉扉方向(フルラッチ方向・時計回転方向)に回転させる。ラッチ13には、典型的な周知のラッチと同様に、その外周縁にハーフラッチ係合部13cとフルラッチ係合部13dとが並設されている。
【0015】
ラッチ13は、通常、
図1のアンラッチ位置から、爪部15aがハーフラッチ係合部13cと係合可能となるハーフラッチ位置(
図3A)、および、爪部15aがフルラッチ係合部13dと係合可能となるフルラッチ位置(
図3B)を超えて、
図3Cの余剰回転位置まで回転する。
図3Cの状態では、爪部15aはラチェットバネ17の弾力でラッチ係合位置に変位する。
【0016】
ラッチ13は余剰回転位置まで回転した後、ラッチバネ14の弾力及びドアと車体との間に設けられるシール部材(図示省略)の反発力により、アンラッチ方向(反時計回転方向)に戻され、
図3Dのように、ラッチ係合位置にいる爪部15aにフルラッチ係合部13dが当接する。ラッチ13をアンラッチ方向に押し戻すこれらの力は、以下、「ラッチリターン力」若しくは「リターン力」と呼称する。
【0017】
ラッチ13のフルラッチ係合部13dからラチェット部材15の爪部15aに伝わるリターン力の多くは、後述するようにメイン分力F1としてラチェット軸16により支受されるが、リターン力の一部はリリース分力F2としてラチェット部材15をラッチ離脱方向(反ラッチ係合方向)に押し出す方向にも作用するように設定する。
【0018】
本発明のラチェット部材15は、
図5~8のように、ベースレバー19とポールレバー20とに分割形成する。ベースレバー19およびポールレバー20は、それぞれ構造体となる金属プレート19a、20aと、その樹脂カバー19b、20bとを備えたインサート成形品である。樹脂カバー19bは、
図3、
図4からは省略してある。
【0019】
ベースレバー19の基部はラチェット軸16に軸止し、ポールレバー20の基部は連結軸15bによりベースレバー19の先端部に軸止する。実施例では、連結軸15bはポールレバー20に一体形成し、連結軸15bは樹脂カバー19bに形成した軸孔19cに挿通させている。爪部15aはポールレバー20の金属プレート20aに形成している。
【0020】
ベースレバー19の金属プレート19aの先端部には二叉部19dを形成し、ポールレバー20の連結軸15bは二叉部19d内に臨ませる。ポールレバー20は二叉部19dとの間に形成したギャップ24(
図6参照)により、所定角度ベースレバー19に対して回転可能となる。
【0021】
ラチェットバネ17は、
図6のように、好適には、トーションコイルバネ製とし、中央のコイル部17aは連結軸15bの外周に配置し、一方のバネ脚部17bはラチェット軸16に当接させ、他方のバネ脚部17cはポールレバー20に当接させている。このバネ配置によれば、ラチェットバネ17の弾力はベースレバー19には殆ど作用せず、専ら、ポールレバー20を単独で連結軸15bを中心にラッチ係合方向へ付勢させることになる。
【0022】
ラチェット部材15は、その長さ方向の中間位置にベースレバー19とポールレバー20とを軸止する連結軸15bを配置しているため、ラチェット部材15にリリース分力F2が生じると、専ら、中間に位置する連結軸15bにラッチ離脱方向のリリース分力F2が作用して、ラチェット部材15は中折れ状態で屈折し、爪部15aはフルラッチ係合部13dから離脱する。このため、ラチェット部材15は、単独では、ラッチ13をフルラッチ位置に維持することはできないことになる。
【0023】
ラチェット部材15の側方近傍にはラチェット抑え21を配置する。ラチェット抑え21はラチェット部材15のラッチ離脱方向の変位をブロックすることで、ラッチ13とラチェット部材15との係合を保持する。ラチェット抑え21はピン22によりベースプレート11に軸止される。ラチェット抑え21は金属プレート21aと、その樹脂カバー21bとを備えたインサート成形品である。樹脂カバー21bは、
図3、
図4からは省略してある。
【0024】
ラチェット抑え21の金属プレート21aは回転カム体形状に形成され、外周にはピン22を中心とする円弧状のブロック面21cと、ブロック面21cに連なる傾斜カム面21dとを形成する。傾斜カム面21dはピン22からの半径が徐々に短くなるカム面である。ブロック面21cおよび傾斜カム面21dは、金属プレート19aの二叉部19dの一方の外壁19eと当接する。
【0025】
ラチェット抑え21は、
図1~
図3に示されたブロック位置と
図4Dに示された解放位置との間、回転可能である。ブロック位置はラチェット抑え21の初期位置となる。ラチェット抑え21は、好適には、カム付勢バネ23(弾力方向を示す矢印による図示)の弾力で解放位置からブロック位置に向けて付勢される。ラチェット抑え21には開扉ハンドルやドアキーシリンダ等からの手動リリース操作力若しくはパワーリリース機構からの電動リリース操作力が伝達されるように構成する。手動又は電動のリリース操作力によりラチェット抑え21はブロック位置から解放位置にリリース回転する。
【0026】
ラチェット抑え21は、リリース操作力を受けていないときはカム付勢バネ23の弾力で初期位置としてのブロック位置に保持される。ブロック位置では、ラチェット抑え21のブロック面21cは、ラチェット部材15の連結軸15bがリリース分力F2により移動する延長線上に位置する。
【0027】
図2の閉扉状態では、ベースレバー19の外壁19eはブロック位置のブロック面21cに当接している。このため、ラッチ13に作用するラッチリターン力が、フルラッチ係合部13dを介してラチェット部材15の爪部15aに伝わって、ラチェット部材15(特に、連結軸15b)にラッチ離脱方向に押し出すリリース分力F2が生じても、連結軸15bに作用するリリース分力F2の作用線上の外壁19eがブロック位置のブロック面21cと対峙・当接するため、連結軸15bはラッチ離脱方向に移動できず、そのまま保持される。このため、ラチェット部材15は中折れ状態にならず、爪部15aとフルラッチ係合部13dとの係合は維持され、閉扉状態が保たれる。外壁19eがブロック位置のブロック面21cに当接する位置がベースレバー19の規制位置となる。
【0028】
図2の閉扉状態において、ラチェット抑え21に手動リリース操作力若しくは電動リリース操作力が伝達されると、ラチェット抑え21はカム付勢バネ23の弾力に抗してリリース回転する。
図4はラチェット抑え21のリリース回転に伴うラチェット部材15の作動を詳細に示している。
【0029】
ラチェット抑え21がリリース回転すると、外壁19eが対峙・当接していたブロック面21cは、連結軸15bに作用するリリース分力F2の作用線上から逸れて、ベースレバー19(金属プレート19a)はラッチ離脱方向に回転して規制位置から非規制位置に変位可能となり、連結軸15bもリリース分力F2に沿ってラッチ離脱方向に移動可能となる。これにより、ラチェット部材15は中折れ状態に屈折し、爪部15aはフルラッチ係合部13dからラッチ離脱方向に弾き出され、
図4Dのようにラッチ13はアンラッチ回転し、開扉が行われる。ベースレバー19の非規制位置とは、連結軸15bをラッチ離脱方向に移動させラチェット部材15を中折れ状態に屈折させる位置となる。
【0030】
ラッチ13がアンラッチ回転した後、ラチェット抑え21に対する手動リリース操作力若しくは電動リリース操作力が切断されると、ラチェット抑え21はカム付勢バネ23の弾力により反リリース回転してブロック位置に復帰する。このとき、
図4Eのように、反リリース回転する傾斜カム面21dは外壁19eを押圧して、ベースレバー19を非規制位置からラッチ係合方向に押して規制位置に復帰させ、
図4Eのように、ラチェット部材15の爪部15aはラッチ13の外周縁13aに当接し、
図1のアンラッチ状態に復帰する。
【0031】
図1の開扉状態においても、ブロック位置のブロック面21cにベースレバー19の外壁19eは当接している。更に、ブロック面21cと外壁19eとの当接は、ラッチ13が
図3Cの余剰回転位置に至るまで継続する。この間、ポールレバー20は二叉部19dとの間のギャップ24により単独でラッチ係合方向に変位可能になっている。このため、
図3Aや
図3Bの状態でも、ポールレバー20はラチェットバネ17の弾力でラッチ係合位置へ変位可能となる。
【0032】
ラッチ13が
図3Aのハーフラッチ位置にあるときに、ポールレバー20がラチェットバネ17の弾力でラッチ係合位置へ変位して、
図11のように、ポールレバー20の爪部15aがハーフラッチ係合部13cに係合し、ハーフラッチ状態になることがある。このハーフラッチ状態でも、ラチェット抑え21はラチェット部材15をラッチ係合位置に保持しており、ラッチ13のアンラッチ回転は防止され、予期せぬ車両ドアの開扉を避けることができる。
【0033】
ハーフラッチ状態における爪部15aとハーフラッチ係合部13cとの係合は、ラッチ13をフルラッチ位置に向けて回転させることで解除できる。ラッチ13をフルラッチ位置に向けて押し出すと、ハーフラッチ係合部13cとフルラッチ係合部13dとの間に形成された連結斜面13eがポールレバー20に当接する。すると、ポールレバー20は二叉部19dとの間にギャップ24を備えているため、ベースレバー19を回転させることなく、単独で連結斜面13eとの当接によりラッチ離脱方向に押し出され、爪部15aはハーフラッチ係合部13cとの係合から、解除される。
【0034】
このため、ラチェット部材15のラッチ離脱方向への移動をラチェット抑え21により規制する構成においても、ラッチ13の外周にハーフラッチ係合部13cとハーフラッチ係合部13dとを並設することが可能となる。
【0035】
ラチェット抑え21をパワーリリース機構により回転させる構成を基本とする場合は、カム付勢バネ23を省略することも可能で、パワーリリース機構はラチェット抑え21をブロック位置から解放位置に回転させた後、解放位置からブロック位置に逆転させることになる。この制御ではリミットスイッチや当接ストッパーによる回転位置制御や、時間による回転位置制御を用いることが可能である。また、パワーリリース機構を使用する場合では、ラチェット抑え21をブロック位置から360度回転させて再度ブロック位置で停止させることも可能である。この構成では、回転が一方向となることで構造・制御の両面で利点が得られる。360度回転させる場合では、ラチェット抑え21にはベースレバー19から離間してベースレバー19を非規制位置に移動可能とする傾斜カム面21dの他に、ベースレバー19を押圧して規制位置に押し戻す追加の傾斜カム面を形成することになる。
【0036】
ラチェット抑え21をドアキーシリンダ25に連結する具体例は、
図12に示してある。
図12のように、ラチェット抑え21の樹脂カバー21bには円弧状のスロット21eを形成し、スロット21eをドアキーシリンダ25の回動リンク26にロッド27を介して連結する。ロッド27はスロット21eに対して長さ方向の中間に位置させ、両方向に所定のロストモーションを設定する。これにより、ラチェット抑え21はドアキーシリンダ25の影響を受けることなくブロック位置と解放位置とに回転可能となる。また、ドアキーシリンダ25により回動リンク26を中立位置から解放回転又は戻し回転させてから中立位置に復帰させることで、ラチェット抑え21を解放位置又はブロック位置にそれぞれ変位させることができる。
【0037】
ラチェット抑え21に連結するパワーリリース機構のような電装品は、電気的トラブルを完全には避けることはできないので、ラチェット抑え21にはパワーリリース機構およびドアキーシリンダ25の双方を連結することが望ましい。これにより、パワーリリース機構が作動途中で作動不能になった場合でも、ドアキーシリンダ25を解放回転させることで、ラチェット抑え21を解放位置に移動させてラチェット部材15をラッチ離脱位置に変位させ、もって、ラッチ13を解放して車両ドアを開扉可能にできる。また、車両ドア開扉後には、ドアキーシリンダ25を戻し回転させることで、ラチェット抑え21を初期位置としてのブロック位置に戻せるので、再度の車両ドアの閉扉も安定して行える。
【0038】
以上において、ラチェット抑え21を
図2のブロック位置から解放位置に回転させる際に生じるラチェット部材15との間の摩擦力は、従来装置に比較して効果的に低減でき、ラチェット抑え21を回転させるリリース操作力の一層の低減が期待できる。
【0039】
ラッチ13のラッチリターン力は、フルラッチ係合部13dと爪部15aとの当接点から連結軸15bに外力P1として伝達され、連結軸15bからラチェット軸16に外力P2として伝達される。これら外力P1,P2を分解したものがメイン分力F1とリリース分力F2となる。
【0040】
爪部15aはフルラッチ係合部13dに対して、深い位置で係合したり、浅い位置で係合したりして、爪部15aの当接点は厳密に言えば、毎回ずれることになる。このような当接点のずれが生じると、連結軸15bに伝わる外力P1の方向や強さにもずれが生じ、外力P2にもずれが生じて、その結果、メイン分力F1とリリース分力F2にも変化が生じることになる。
【0041】
このような変化を回避するため、本発明の爪部15aは連結軸15bを中心とした円弧面に形成する。爪部15aを円弧面にすると、爪部15aとフルラッチ係合部13dとの噛み合い位置がずれても、外力P1は常に連結軸15bの軸芯に向かって作用するので、方向や強さは安定し、外力P2や、メイン分力F1およびリリース分力F2の変化を回避できる。そして、リリース分力F2が一定になるため、ラチェット抑え21とラチェット部材15との当接圧も一定となり、ラチェット部材15に対するラチェット抑え21のリリース操作力が安定する。
【0042】
なお、ラッチリターン力は、フルラッチ係合部13dおよびハーフラッチ係合部13cのいずれからでも、ラチェット部材15に伝達されるものであり、上記説明において、フルラッチ係合部13dと爪部15aとの関係のみに言及した箇所もあるが、ハーフラッチ係合部13cと爪部15aとの関係にも適用されるものである。
【符号の説明】
【0043】
10…車両ドアラッチ装置、11…ベースプレート、11a…ストライカ進入路、12…ラッチ軸、13…ラッチ、13a…外周縁、13b…ストライカ係合溝、13c…ハーフラッチ係合部、13d…フルラッチ係合部、13e…連結斜面、14…ラッチバネ、15…ラチェット部材、15a…爪部、15b…連結軸、16…ラチェット軸、17…ラチェットバネ、17a…コイル部、17b…バネ脚部、17c…バネ脚部、18…ストライカ、19…ベースレバー、19a…金属プレート、19b…樹脂カバー、19c…軸孔、19d…二叉部、19e…外壁、20…ポールレバー、20a…金属プレート、20b…樹脂カバー、21…ラチェット抑え、21a…金属プレート、21b…樹脂カバー、21c…ブロック面、21d…傾斜カム面、21e…スロット、22…ピン、23…カム付勢バネ、24…ギャップ、25…ドアキーシリンダ、26…回動リンク、27…ロッド、F1…メイン分力、F2…リリース分力、P1…外力、P2…外力。