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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】薄膜トランジスタおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/786 20060101AFI20220308BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20220308BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20220308BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20220308BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20220308BHJP
   C01G 15/00 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
H01L29/78 617T
H01L29/78 618B
H01L29/78 617V
H01L29/78 618A
H01L21/368 Z
H01L21/316 G
C01G25/00
C01G15/00 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018545783
(86)(22)【出願日】2017-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2017038087
(87)【国際公開番号】W WO2018074608
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2016207118
(32)【優先日】2016-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 達也
(72)【発明者】
【氏名】李 金望
(72)【発明者】
【氏名】小山 浩晃
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-060962(JP,A)
【文献】国際公開第2007/023612(WO,A1)
【文献】特開2013-115162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/786
H01L 21/336
H01L 21/368
H01L 21/316
C01G 25/00
C01G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート電極、ゲート絶縁層、および酸化物半導体層をこの順で備える、薄膜トランジスタであって、
前記ゲート絶縁層は、
セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物(i)から形成されており、
前記酸化物半導体層は、インジウム(In)を含む酸化物、インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物、およびインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)とを含む酸化物の群から選択される酸化物から形成されていることを特徴とする、薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記ゲート絶縁層において、前記群から選択される金属元素とジルコニウム(Zr)との原子数比が、前記群から選択される金属元素の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が0.8~10であることを特徴とする、請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記ゲート絶縁層は、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ホルミウム(Ho)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物から形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
請求項1に記載の薄膜トランジスタの製造方法であって、
ゲート電極の上にゲート絶縁膜形成溶液を塗布して、ゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜を、酸素を含む環境下で加熱して、ゲート絶縁層を形成する工程と、
前記ゲート絶縁層の上に酸化物半導体膜形成溶液を塗布して、酸化物半導体膜を形成する工程と、
前記酸化物半導体膜を加熱して、酸化物半導体層を形成する工程と、
を含み、
前記ゲート絶縁膜形成溶液は、
セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)とを含む溶液(i)であり、
前記酸化物半導体膜形成溶液は、インジウム(In)、インジウム(In)と錫(Sn)、インジウム(In)と亜鉛(Zn)、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)、インジウム(In)とガリウム(Ga)、およびインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)からなる群から選択される金属元素と、酸化剤とを含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項5】
前記酸化剤が、硝酸、硝酸塩、過酸化物、および過塩素酸塩からなる群から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ゲート絶縁膜形成溶液において、前記群から選択される金属元素とジルコニウム(Zr)との原子数比が、前記群から選択される金属元素の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が0.8~10であることを特徴とする、請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ゲート絶縁層を形成する工程におけるゲート絶縁膜の加熱が、80~170℃、次いで、170~300℃、その後、300~500℃で行われることを特徴とする、請求項4から6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記酸化物半導体層を形成する工程における酸化物半導体膜の加熱が、170~300℃で行われることを特徴とする、請求項4から7のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薄膜トランジスタおよび薄膜トランジスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ駆動用素子等に用いることを目的とした薄膜トランジスタ(以下、TFTとも称する)の研究が盛んに行われている。そのような研究の中で、複合酸化物をゲート絶縁層またはチャネルに用いるTFTがいくつか報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゲート電極とチャネルとの間に、ランタンとジルコニウムとからなる酸化物またはランタンとタンタルとからなる酸化物であるゲート絶縁層を備える薄膜トランジスタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-60962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の薄膜トランジスタは、その電気特性として高い電界効果移動度を有しているものの、その他の特性、例えば、ヒステリシスについて改善の余地がある。
【0006】
したがって、本開示の目的は、良好なトランジスタ特性、特に電界効果移動度が高く、ヒステリシスも良好である薄膜トランジスタおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の薄膜トランジスタは、ゲート電極、ゲート絶縁層、および酸化物半導体層をこの順で備え、前記ゲート絶縁層は、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物(i)から形成されているか、または、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物(ii)から形成されており、前記酸化物半導体層は、インジウム(In)を含む酸化物、インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物、およびインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)とを含む酸化物の群から選択される酸化物から形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、上記の本開示の薄膜トランジスタの製造方法は、ゲート電極の上にゲート絶縁膜形成溶液を塗布して、ゲート絶縁膜を形成する工程と、前記ゲート絶縁膜を、酸素を含む環境下で加熱して、ゲート絶縁層を形成する工程と、前記ゲート絶縁層の上に酸化物半導体膜形成溶液を塗布して、酸化物半導体膜を形成する工程と、前記酸化物半導体膜を加熱して、酸化物半導体層を形成する工程とを含み、前記ゲート絶縁膜形成溶液は、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)とを含む溶液(i)であるか、またはハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む溶液(ii)であり、前記酸化物半導体膜形成溶液は、インジウム(In)、インジウム(In)と錫(Sn)、インジウム(In)と亜鉛(Zn)、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とガリウム(Ga)、およびインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)からなる群から選択される金属元素と、酸化剤とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示の薄膜トランジスタは、良好な電気特性、特に、良好な電界効果移動度およびヒステリシスを兼ね備えている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の薄膜トランジスタの一実施形態を概略的に示す断面図である。
図2図1に示す薄膜トランジスタの製造方法の各工程を順次示す断面図であり、(a)は、基板の上にゲート電極を形成する工程、(b)は、ゲート電極の上にゲート絶縁膜を形成する工程、(c)は、(b)で形成したゲート絶縁膜を加熱して、ゲート絶縁層を形成する工程、(d)は、ゲート絶縁層の上に酸化物半導体膜を形成する工程、(e)は、(d)で形成した酸化物半導体膜を加熱して、酸化物半導体層を形成する工程、(f)は、酸化物半導体層の上にソース電極およびドレイン電極を形成する工程、(g)は、酸化物半導体層の一部、ソース電極、およびドレイン電極の上にレジスト膜を形成する工程、(h)は、(g)で作製したレジスト膜を備える積層体をエッチングすることにより薄膜トランジスタを得る工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の説明において適宜図面を参照するが、図面に記載された態様は本発明の例示であり、本発明はこれらの図面に記載された態様に制限されない。なお、各図において、同様の、または類似した機能を発揮する構成要素には同一、または類似の参照符号を付し、重複する説明を省略することがある。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。さらに、本明細書において、「~」とは、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0012】
<薄膜トランジスタ>
本発明の一実施形態の薄膜トランジスタは、ゲート電極、ゲート絶縁層、および酸化物半導体層をこの順で備える。ここで、ゲート絶縁層は、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物(i)から形成されているか、または、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物(ii)から形成されている。酸化物半導体層は、インジウム(In)を含む酸化物、インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物、およびインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)とを含む酸化物の群から選択される酸化物から形成されている。
【0013】
図1は、本発明の薄膜トランジスタの一実施の形態を概略的に示す断面図である。同図に示す薄膜トランジスタ10は、基板12上に、ゲート電極14、ゲート絶縁層16、酸化物半導体層18、ならびにソース電極32およびドレイン電極34をこの順で備える。
【0014】
図1に示す薄膜トランジスタ10は、ボトムゲート構造で示されているが、本発明はこの構造に限定されない。例えば、トップゲート構造などその他の構造であってもよい。また、図面を簡略化するため、各電極からの引き出し電極のパターニングについては図示していない。
【0015】
以下、図1に示す薄膜トランジスタ10の構成要素について説明する。
【0016】
(基板)
基板12としては、公知の薄膜トランジスタにおいて用いられている基板を適用できる。
【0017】
基板12の例としては、高耐熱ガラス、SiO2/Si基板(シリコン基板上に酸化シリコン膜を形成した基板)、アルミナ(Al23)基板、STO(SrTiO)基板、Si基板の表面にSiO2層及びTi層を介してSTO(SrTiO)層を形成した絶縁性基板、半導体基板(例えば、Si基板、SiC基板、Ge基板)が含まれる。
【0018】
(ゲート電極)
ゲート電極14は、公知の薄膜トランジスタに用いられているゲート電極を採用することができる。ゲート電極14の材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、チタン、アルミニウム、モリブデン、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、タングステン、などの高融点金属、又はその合金等の金属材料、あるいは、インジウム錫酸化物(ITO)又は酸化ルテニウム(RuO2)を用いることができる。
【0019】
(ゲート絶縁層)
ゲート絶縁層16は、特定の金属元素と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物(i)から形成されている。ここで、ジルコニウム(Zr)を用いる代わりに、タンタル(Ta)を用いてもよい。
【0020】
特定の金属元素は、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素である。
【0021】
「特定の金属元素と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物(i)」とは、典型的には、特定の金属元素およびジルコニウム(Zr)を主成分として含む酸化物を意図しているが、当該酸化物に、不純物(例えば、原料に由来する不純物)が含まれていてもよい。良好なトランジスタ性能を得るためには、酸化物中の炭素および水素以外の不純物の含有量は、0.2質量%以下であることが好ましい。
【0022】
ゲート絶縁層16における特定の金属元素とジルコニウム(Zr)との原子数比は、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、特定の金属元素の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数は0.8~10であることが好ましく、2.3~9であることがより好ましい。本開示において、原子数比は、ラザフォード後方散乱分光法(RBS法)を用いて、元素分析を行うことにより求めることができる。
【0023】
ゲート絶縁層16は、上記の酸化物(i)ではなく、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物(ii)から形成されていてもよい。
【0024】
「ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物(ii)」とは、典型的には、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を主成分として含む酸化物を意図しているが、当該酸化物に、不純物(例えば、原料に由来する不純物)が含まれていてもよい。良好なトランジスタ性能を得るためには、酸化物中の炭素および水素以外の不純物の含有量は、0.2質量%以下であることが好ましい。
【0025】
ゲート絶縁層16における炭素(C)の含有率は、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、0.5atom%~15.0atom%であることが好ましい。また、ゲート絶縁層16中の水素(H)の含有率は、1atom%~20.0atom%であることが好ましい。
【0026】
炭素(C)と水素(H)の含有率については、National Electrostatics Corporation 製 Pelletron 3SDHを用いて、ラザフォード後方散乱分光法(Rutherford Backscattering Spectrometry:RBS分析法)、水素前方散乱分析法(Hydrogen Forward scattering Spectrometry:HFS分析法)、及び核反応解析法(Nuclear Reaction Analysis:NRA分析法)を用いて元素分析を行うことにより求めることができる。
【0027】
ゲート絶縁層16の厚みは、特に制限するわけではないが、リークを抑えながら動作電圧を下げる観点から、50nm~500nmであることが好ましい。
【0028】
(酸化物半導体層)
酸化物半導体層18は、インジウム(In)を含む酸化物、インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物、およびインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)とを含む酸化物の群から選択される酸化物から形成されている。
【0029】
「インジウム(In)を含む酸化物」とは、典型的には、インジウム(In)を主成分として含む酸化物を意図しているが、当該酸化物に、不純物(例えば、原料に由来する不純物)が含まれていてもよい。良好なトランジスタ性能を得るためには、酸化物中の炭素および水素以外の不純物の含有量は、0.2質量%以下であることが好ましい。酸化物半導体層18における炭素(C)の含有率は、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、0.5atom%~15.0atom%であることが好ましい。また、酸化物半導体層18中の水素(H)の含有率は、1atom%~20.0atom%であることが好ましい。インジウム(In)を含む酸化物以外の他の5種類の酸化物についても同様のことが当てはまる。
【0030】
インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)と錫(Sn)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、錫(Sn)の原子数を0.005~0.03とすることが好ましい。
【0031】
インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)と亜鉛(Zn)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、亜鉛(Zn)の原子数を0.1~1.0とすることが好ましい。
【0032】
インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、ジルコニウム(Zr)の原子数を0.005~0.03、亜鉛(Zn)の原子数を0.1~1.0とすることが好ましい。
【0033】
インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)とガリウム(Ga)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、ガリウム(Ga)を0.1~1.2とすることが好ましい。
【0034】
インジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)を含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、亜鉛(Zn)を0.1~1.0、ガリウム(Ga)を0.1~1.2とすることが好ましい。
【0035】
酸化物半導体層18の厚みは、特に制限するわけではないが、十分な動作電流を確保し、かつ、薄膜化を実現させる観点から、10nm~100nmであることが好ましい。
【0036】
(ソース電極およびドレイン電極)
ソース電極32およびドレイン電極34は、公知の薄膜トランジスタに用いられているソース電極32およびドレイン電極34を採用することができる。ソース電極32およびドレイン電極34の材料としては、制限するわけではないが、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)又は酸化ルテニウム(RuO2)を用いることができる。
【0037】
以上説明したように、薄膜トランジスタ10は、特定の希土類金属元素と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物(i)から形成されているか、または、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物(ii)から形成されているゲート絶縁層16を含む。また、薄膜トランジスタ10は、インジウム(In)を含む特定の酸化物から形成されている酸化物半導体層18を含む。これにより、本開示の薄膜トランジスタ10は、良好な電気特性、特に、良好な電界効果移動度およびヒステリシスを兼ね備える。
【0038】
次に、本発明の一実施形態の薄膜トランジスタ10の製造方法を説明する。
【0039】
<薄膜トランジスタの製造方法>
図2は、図1に示す薄膜トランジスタ10の製造方法の一例であって、その各工程を順次示す断面図であり、(a)は、基板12の上にゲート電極14を形成する工程、(b)は、ゲート電極14の上にゲート絶縁膜16’を形成する工程、(c)は、(b)で形成したゲート絶縁膜16’を備える積層体20’を加熱して、ゲート絶縁層16を形成する工程、(d)は、ゲート絶縁層16の上に酸化物半導体膜18’を形成する工程、(e)は、(d)で形成した酸化物半導体膜18’を備える積層体30’を加熱して、酸化物半導体層18を形成する工程、(f)は、酸化物半導体層18の上にソース電極32およびドレイン電極34を形成する工程、(g)は、酸化物半導体層18の一部、ソース電極32、およびドレイン電極34の上にレジスト膜36を形成する工程、(h)は、薄膜トランジスタ10を得る工程を示す。以下に、図2(a)~(h)にそれぞれ対応している工程(a)~(h)について詳述する。
【0040】
(工程(a))
本工程は、基板12の上にゲート電極14を形成する工程である(図2(a))。
【0041】
基板12は、洗浄したものを使用することが好ましく、その洗浄方法としては、酸素ガスを用いたプラズマアッシングなど既知のいかなる方法を採用することができる。
【0042】
ゲート電極14の形成方法としては、真空蒸着法(例えば、スパッタリング法)など既知のいかなる方法を採用することができる。
【0043】
(工程(b))
本工程は、ゲート電極14の上にゲート絶縁膜形成溶液を塗布して、ゲート絶縁膜16’を形成する工程である(図2(b))。
【0044】
ゲート絶縁膜形成溶液の塗布方法としては、制限するわけではないが、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、ノズルコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷、反転オフセット印刷など公知の方法を用いることができる。
【0045】
ゲート絶縁膜形成溶液は、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、およびイットリウム(Y)からなる群から選択される金属元素と、ジルコニウム(Zr)とを含む溶液(i)であるか、またはハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む溶液(ii)である。
【0046】
ゲート絶縁膜形成溶液は、例えば、以下のように調製することができる。
【0047】
ゲート絶縁膜形成溶液中に含まれる金属元素が1種類の場合には、所定の金属化合物を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)の溶液を作製することができる。ゲート絶縁膜形成溶液中に含まれる金属元素が2種以上の場合には、金属元素毎に、当該金属元素を含む溶液を作製した後、当該各溶液を、金属元素が所望の原子数比を有するように、所定量で混合し、ゲート絶縁膜形成溶液を調製することができる。或いは、金属元素が所望の原子数比となるように、2種以上の金属化合物を溶媒に加えて、溶解させて、ゲート絶縁膜形成溶液を調製してもよい。なお、溶液を調製する際に、適宜、精製、例えば、フィルターによるろ過を行ってもよい。また、金属化合物を溶媒に溶解する際に、適宜加熱してもよい。
【0048】
金属化合物の例としては、当該金属の酢酸塩、硝酸塩、塩化物、またはアルコキシド(例えば、イソプロポキシド、ブトキシド、エトキシド、メトキシエトキシド)を挙げることができる。ここで、金属は、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、またはアルミニウム(Al)から選択される金属元素である。
【0049】
金属化合物を溶解する溶媒は、特に制限するわけではないが、例えば、プロピオン酸、酢酸、オクチル酸、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノールの群から選択される溶媒を採用することができる。
【0050】
ゲート絶縁膜形成溶液をスピンコート法により塗布する場合には、ローターの回転数および回転時間は、膜厚等により適宜設定すればよい。
【0051】
ゲート絶縁膜形成溶液として溶液(i)を用いる場合であって、ジルコニウムの代わりにタンタルを用いる場合には、上記の説明において、ジルコニウムをタンタルに置き換えて読むことができるものとする。
【0052】
(工程(c))
本工程は、工程(b)で形成したゲート絶縁膜16’を備える積層体20’を加熱して、ゲート絶縁層16を形成する工程である(図2(c))。
【0053】
積層体20’の加熱は、大気中など酸素を含む環境下、まず、80~170℃で加熱する初期加熱、次いで、170~300℃で加熱する予備焼成、その後、300~500℃で加熱する本焼成の3段階で行うことが好ましい。このように、3段階で加熱を行うのは、初期加熱によりゲート絶縁膜16’に含まれる溶媒を蒸発させ、予備焼成により有機成分を部分的に分解し、さらに、本焼成により完全に固体化をさせるためである。この結果、ムラの少ない均一なゲート絶縁層16を再現良く形成することができる。
【0054】
ゲート絶縁層16の膜厚を厚くする場合には、工程(b)のゲート絶縁膜16’を形成する工程と、上記の初期加熱および予備焼成との一連の操作を複数回繰り返せばよい。
【0055】
積層体20’の加熱方法は、特に制限するわけではないが、例えば、ヒーターの加熱面に、基板12の面が接触するように積層体20’を設置して行うことができる。
【0056】
(工程(d))
本工程は、ゲート絶縁層16の上に酸化物半導体膜形成溶液を塗布して、酸化物半導体膜18’を形成する工程である(図2(d))。
【0057】
酸化物半導体膜形成溶液の塗布方法としては、制限するわけではないが、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、ノズルコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷、反転オフセット印刷など公知の方法を用いることができる。
【0058】
酸化物半導体膜形成溶液は、インジウム(In)、インジウム(In)と錫(Sn)、インジウム(In)と亜鉛(Zn)、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)、インジウム(In)とガリウム(Ga)、およびインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)からなる群から選択される金属元素と、酸化剤とを含む。酸化物半導体膜形成溶液は、例えば、以下のように調製することができる。
【0059】
インジウム(In)を含む酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物および場合により酸化剤を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)溶液を作製する。
【0060】
インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物および錫(Sn)化合物、ならびに場合により酸化剤を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/錫(Sn)溶液を作製する。
【0061】
インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物および亜鉛(Zn)化合物、ならびに場合により酸化剤を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/亜鉛(Zn)溶液を作製する。
【0062】
インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物、ジルコニウム(Zr)化合物および亜鉛(Zn)化合物、ならびに場合により酸化剤を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/ジルコニウム(Zr)/亜鉛(Zn)溶液を作製する。
【0063】
インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物およびガリウム(Ga)化合物、ならびに場合により酸化剤を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/ガリウム(Ga)溶液を作製する。
【0064】
インジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)とを含む酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物、亜鉛(Zn)化合物、およびガリウム(Ga)化合物、ならびに場合により酸化剤を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/亜鉛(Zn)/ガリウム(Ga)溶液を作製する。
【0065】
インジウム(In)化合物の例としては、硝酸インジウム、インジウムアセチルアセトナート、酢酸インジウム、塩化インジウム、またはインジウムアルコキシド(例えば、インジウムイソプロポキシド、インジウムブトキシド、インジウムエトキシド、インジウムメトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0066】
錫(Sn)化合物の例としては、塩化錫、硝酸錫、酢酸錫、または錫アルコキシド(例えば、錫イソプロポキシド、錫ブトキシド、錫エトキシド、錫メトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0067】
亜鉛(Zn)化合物の例としては、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、または亜鉛アルコキシド(例えば、亜鉛イソプロポキシド、亜鉛ブトキシド、亜鉛エトキシド、亜鉛メトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0068】
ジルコニウム化合物の例としては、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、またはジルコニウムアルコキシド(例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムメトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0069】
ガリウム(Ga)化合物の例としては、硝酸ガリウム、塩化ガリウム、酢酸ガリウム、ガリウムアセチルアセトナートまたはガリウムアルコキシド(ガリウムメトキシド、ガリウムエトキシド、ガリウムプロポキシド、ガリウムブトキシド)等を挙げることができる。
【0070】
酸化物半導体膜形成溶液に使用する溶媒は、例えば、2-メトキシエタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノールの群から選択されるアルコール溶媒、または、酢酸、プロピオン酸、オクチル酸の群から選択されるカルボン酸の溶媒を採用することができる。
【0071】
酸化物半導体膜形成溶液は、酸化剤を含んでいる。酸化剤の例としては、硝酸、硝酸塩、過酸化物、または過塩素酸塩を挙げることができる。ここで、例えば、酸化物半導体膜形成溶液調製時に、インジウム(In)化合物として硝酸インジウムを用いる場合には、それ自体が硝酸塩であるため、別途、酸化剤を加える必要はない。
【0072】
また、酸化物半導体膜形成溶液は、当該溶液の焼成温度および焼成の強さを調整するために助焼成剤を含んでいてもよい。助焼成剤の例としては、アセチルアセトン、尿素、または酢酸アンモニウムを挙げることができる。
【0073】
酸化物半導体膜形成溶液を調製する際、溶媒に溶質を加えて、適宜加熱してもよい。
【0074】
酸化物半導体膜形成溶液をスピンコート法により塗布する場合には、ローターの回転数および回転時間は、膜厚等により適宜設定すればよい。
【0075】
(工程(e))
本工程は、工程(d)で形成した酸化物半導体膜18’を備える積層体30’を加熱して、酸化物半導体膜18’から酸化物半導体層18を形成する工程である(図2(e))。
【0076】
まず、積層体30’の本焼成前に、大気中など酸素を含む環境下、積層体30’を、80~170℃で初期加熱することが好ましい。これは、初期加熱により酸化物半導体膜18’に含まれる溶媒を蒸発させるためである。その後、170~300℃で加熱する本焼成で行うことにより、有機成分を分解し、酸化物半導体膜18’を完全に固体化をさせる。この結果、ムラの少ない均一な酸化物半導体層18を再現良く形成することができる。また、酸化物半導体膜を構成する材料等によっては、本焼成の工程を2段階で実施することにより、良好な特性が得られる場合がある。焼成工程を2段階で実施する場合には、積層体30’を170~300℃で焼成した後、300~500℃で焼成することができる。このように、焼成の工程を1段階または2段階で実施することができる。各段階における積層体30’の焼成時間は、用いる材料等により適宜設定すればよい。
【0077】
積層体30’の加熱方法は、特に制限するわけではないが、例えば、ヒーターの加熱面に、基板12の面が接触するように積層体30’を設置して行うことができる。
【0078】
以上の積層体30’の加熱により、ゲート絶縁層16の上に酸化物半導体層18を形成することができる。
【0079】
(工程(f))
本工程は、酸化物半導体層18の上にソース電極32およびドレイン電極34を形成する工程である(図2(f))。
【0080】
ソース電極32およびドレイン電極34の形成としては、リフトオフ法など既知のいかなる方法を採用することができる。
【0081】
リフトオフ法にて形成する場合、以下の手順で行うことができる。
【0082】
酸化物半導体層18上に、フォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜を形成し、酸化物半導体層18およびレジスト膜の上に、スパッタリング法などにより、金属層を形成する。その後、レジスト膜を除去することにより、酸化物半導体層18の上にソース電極32およびドレイン電極34を形成することができる。
【0083】
レジスト膜の材料としては、通常用いられているリフトオフ層の材料、例えば、ロームアンドハース社製LOL2000および東京応化工業社製TSMR8900を用いることができる。
【0084】
金属層が、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)により形成されている場合には、ITO層ターゲット材として、5質量%の酸化錫(SnO2)を含有するITOを用いることができる。また、金属層が、例えば、酸化ルテニウム(RuO2)により形成されている場合には、ターゲット材として、酸化ルテニウム(RuO2)を用いることができる。
【0085】
(工程(g))
本工程は、酸化物半導体層18の一部、ソース電極32、およびドレイン電極34の上にレジスト膜36を形成する工程(図2(g))である。
【0086】
レジスト膜36は、例えば、フォトリソグラフィー法などの公知の方法により、パターニングして形成することができる。
【0087】
レジスト膜36の材料としては、通常用いられているレジスト材料、例えば、東京応化工業社製OMR85などを用いることができる。
【0088】
(工程(h))
本工程は、工程(g)で形成したレジスト膜36を備える積層体40をエッチングすることにより、レジスト膜36で覆われていない酸化物半導体層18を除去して、薄膜トランジスタ10を得る工程(図2(h))である。
【0089】
エッチングとしては、例えば、ITO用エッチャント(関東化学株式会社製ITOシリーズ)などのエッチャントを用いるウェットエッチング法またはアルゴンプラズマによるドライエッチング法を用いることができる。
【0090】
酸化物半導体層の素子分離(工程(h))後には、ソース電極32およびドレイン電極34と酸化物半導体層18との密着性向上のため、薄膜トランジスタ10をポストアニール処理することが好ましい。ポストアニールはホットプレートなどの加熱手段を用いて、200℃以上、10分以上の熱処理により実施することが好ましい。さらに高温で追加のポストアニールを実施してもよく、実施する温度は、酸化物半導体層18、またはゲート絶縁層16の組み合わせによって適宜設定すればよい。
【0091】
以上、図2を参照した薄膜トランジスタ10の製造方法では、酸化物半導体層18の形成において、溶液法を適用しているが、当該溶液法の代わりに、真空蒸着、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの乾式成膜法を適用してもよく、また、フォトリソグラフィーなどの各種形成方法により成膜してもよい。さらに、ゲート絶縁層および酸化物半導体層は、インプリント法にて形成してもよい。
【0092】
以上のとおり、本発明の一実施形態の薄膜トランジスタにおいて、ゲート絶縁層および酸化物半導体層を溶液法にて形成することも可能である。このため、従来の真空蒸着法で必要とされる大型の装置が不要となり、さらに従来法と比較し、複雑な形状、大面積での成膜が容易となる。したがって、低コスト化および高量産性の実現が可能となる。
【実施例
【0093】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に制限されるものではない。
【0094】
<薄膜トランジスタの製造>
(実施例1)
まず、洗浄したSiウェハ基板上に、スパッタリング法により、チタン/白金(Ti/Pt)層からなるゲート電極を形成した。次いで、チタン/白金(Ti/Pt)層が成膜された基板表面を、酸素ガスを用いたプラズマアッシングにより洗浄した。
【0095】
次に、ゲート電極層上に、スピンコート法(回転数2000rpm、回転時間25秒間)により、ゲート絶縁膜形成溶液を塗布し、ゲート絶縁膜を形成した。なお、ゲート絶縁膜形成溶液は、以下のように調製した。まず、プロピオン酸に、セリウム(Ce)の酢酸塩を溶解し、これを、110℃、回転数1000rpmで30分間、撹拌して、0.2mol/kgのセリウム溶液を調製した。次いで、プロピオン酸に、ジルコニウムブトキシドを溶解し、これを、110℃、回転数1000rpmで30分間、撹拌して、0.2mol/kgのジルコニウム溶液を調製した。調製した各溶液を、セリウムとジルコニウムとの原子数比が1:1となるように混合し、その後0.2umのPTFEフィルターでろ過を行うことにより、ゲート絶縁膜形成溶液を得た。
【0096】
次いで、ゲート絶縁膜を形成した積層体を、150℃に設定されたホットプレート上に15秒間静置、加熱した後、250℃に温度を上昇させて5分間加熱して、ゲート絶縁膜を加熱、乾燥した。以上に実施したスピンコート法によるゲート絶縁膜の形成と、加熱、乾燥との一連の操作を5回繰り返した。その後、得られた積層体をITO-02(関東化学株式会社製のITO用エッチャント)にてウェットエッチングして、測定用ゲート電極出しを行い、次いで、400℃に設定されたホットプレート上で20分間焼成して、ゲート絶縁層を形成した。ゲート絶縁層の厚みは、125nmであった。
【0097】
その後、ゲート絶縁層上に、スピンコート法(回転数3000rpm、回転時間30秒間)により、酸化物半導体膜形成溶液を塗布し、得られた積層体を、150℃に設定されたホットプレート上に30秒間静置、加熱した後、250℃に温度を上昇させて30分間加熱することにより酸化物半導体層を形成した。酸化物半導体層の厚みは、15nmであった。なお、酸化物半導体膜形成溶液としては、2-メトキシエタノールに、硝酸インジウム、金属(インジウム)と同モル量のアセチルアセトンおよび酢酸アンモニウムを加え、110℃、回転数1000rpmで30分間、撹拌して調製した0.2mol/kgのインジウム溶液を使用した。
【0098】
続いて、酸化物半導体層上に、リフトオフ法により、ソース電極およびドレイン電極を形成した。
【0099】
その後、素子分離(酸化物半導体層のパターニング)のため、フォトリソグラフィーによってレジスト膜を形成し、得られた積層体を、ITO-02(関東化学株式会社製のITO用エッチャント)を用いたウェットエッチングによりエッチングし、その後250℃のホットプレート上で20分ポストアニールを行い、薄膜トランジスタを作製した。
【0100】
(実施例2)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにプラセオジム(Pr)の酢酸塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0101】
(実施例3)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにネオジム(Nd)の酢酸塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0102】
(実施例4)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにサマリウム(Sm)の酢酸塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0103】
(実施例5)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにユウロピウム(Eu)の酢酸塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0104】
(実施例6)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにガドリニウム(Gd)の酢酸塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0105】
(実施例7)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにテルビウム(Tb)の酢酸塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0106】
(実施例8)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにジスプロシウム(Dy)の酢酸塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0107】
(実施例9)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにホルミウム(Ho)の酢酸塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0108】
(実施例10)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにエルビウム(Er)の酢酸塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0109】
(実施例11)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにツリウム(Tm)の酢酸塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0110】
(実施例12)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにイットリウム(Y)の酢酸塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0111】
(実施例13)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにユウロピウム(Eu)の酢酸塩を用い、ユウロピウムとジルコニウムの原子数比を3:7にした以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0112】
(実施例14)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにホルミウム(Ho)の酢酸塩を用い、ホルミウムとジルコニウムの原子数比を3:7にした以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0113】
(実施例15)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにイットリウム(Y)の酢酸塩を用い、イットリウムとジルコニウムの原子数比を3:7にした以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0114】
(実施例16)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにサマリウム(Sm)の酢酸塩を用い、サマリウムとジルコニウムの原子数比を3:7にした以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0115】
(実施例17)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにサマリウム(Sm)の酢酸塩を用い、サマリウムとジルコニウムの原子数比を1:9にした以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0116】
(実施例18)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにサマリウム(Sm)の酢酸塩を用い、サマリウムとジルコニウムの原子数比を3:7にし、酸化物半導体膜を、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物から形成した以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。なお、酸化物半導体膜形成溶液は、2-メトキシエタノールに、硝酸インジウムおよび硝酸亜鉛を、インジウム(In):亜鉛(Zn)の原子数比が2:1となるように加え、さらに金属(インジウム)と同モル量のアセチルアセトンおよび酢酸アンモニウムを加えて、実施例1と同様の攪拌処理により調製した。
【0117】
(実施例19)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにサマリウム(Sm)の酢酸塩を用い、サマリウムとジルコニウムの原子数比を3:7にし、酸化物半導体膜を、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物から形成した以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。なお、酸化物半導体膜形成溶液は、2-メトキシエタノールに、硝酸インジウム、硝酸亜鉛、および硝酸ジルコニウムを、インジウム(In):亜鉛(Zn):ジルコニウム(Zr)の原子数比が2:1:0.05となるように加え、さらに、金属(インジウム)と同モル量のアセチルアセトンおよび酢酸アンモニウムを加えて、実施例1と同様の攪拌処理により調製した。
【0118】
(比較例1)
ゲート絶縁膜形成溶液の調製時に、セリウム(Ce)の酢酸塩の代わりにランタン(La)の酢酸塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄膜トランジスタを作製した。
【0119】
<薄膜トランジスタの評価>
上記に製造した薄膜トランジスタに関し、ヒステリシス(Hys)、電界効果移動度(μ)、閾値電圧(Vth)、およびS値を測定して、そのトランジスタ特性を評価した。なお、これらのトランジスタ特性は、Semiconductor Parameter Analyzer(Agilent社製4155C)を用いて測定した。その測定結果を表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
表1に示すとおり、本発明の一実施形態の薄膜トランジスタは、ゲート絶縁層の材料としてLaを含む比較例1と比較し、ヒステリシス(Hys)、電界効果移動度(μ)、閾値電圧(Vth)、およびS値のいずれにおいても良好な結果が得られた。
【0122】
ヒステリシスについて言及すると、比較例1では、1.1(V)と高い値を示しているのに対し、実施例1~19においてはいずれも、1(V)よりも小さい値であった。
【0123】
また、ゲート絶縁層の材料としてSm(実施例4および実施例19)、Eu(実施例5)、Ho(実施例9および実施例14)、およびY(実施例12)を含む薄膜トランジスタは、酸化物半導体層の形成時における本焼成温度が250℃の低温であるにもかかわらず、0.4(V)以下のヒステリシスおよび200(cm2/Vs)を超える電界効果移動度を備えていた。
【0124】
さらに、本開示の薄膜トランジスタは、ゲート絶縁層および酸化物半導体層を溶液法で製造しているにもかかわらず、その電気特性が良好であった。また、酸化物半導体層の本焼成温度が250℃という低温の場合であっても、良好なトランジスタ特性、特に電界効果移動度が高く、ヒステリシスも良好である薄膜トランジスタを製造することができた。
【符号の説明】
【0125】
10 薄膜トランジスタ
12 基板
14 ゲート電極
16 ゲート絶縁層
16’ ゲート絶縁膜
18 酸化物半導体層
18’ 酸化物半導体膜
32 ソース電極
34 ドレイン電極
図1
図2