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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】二酸化炭素濃縮装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/02 20060101AFI20220308BHJP
   B01D 53/06 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
A01G7/02
B01D53/06 100
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017194748
(22)【出願日】2017-10-05
(65)【公開番号】P2019062862
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390020215
【氏名又は名称】株式会社西部技研
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和行
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏志
(72)【発明者】
【氏名】古木 啓明
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-029864(JP,A)
【文献】特開2012-005943(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0175336(US,A1)
【文献】特開2006-187698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/02
B01D 53/00-53/96
A01G 9/18
B01J 20/00-20/34
F24F 3/00- 3/16
C01B 32/00-32/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素ガスの吸着能力を有する二酸化炭素吸着材を担持したハニカムロータを有し、前記ハニカムロータを吸着ゾーンとプレパージゾーンと再生ゾーンとパージゾーンに分割し、前記吸着ゾーンに処理対象空気の一部を通風することで、処理対象空気に含まれる二酸化炭素をロータ部分の二酸化炭素吸着材に吸着させて分離除去するようにし、前記処理対象空気の残りの一部をパージゾーンに通し、パージゾーンを通過した空気を再生ヒータで加熱して再生ゾーンに通し、前記再生ゾーンを通過した空気の一部を前記再生ヒータの前に戻し再生循環させ、前記再生循環している空気の一部をプレパージゾーンに通すようにしたことを特徴とする二酸化炭素濃縮装置。
【請求項2】
二酸化炭素ガスの吸着能力を有する二酸化炭素吸着材を担持したハニカムロータを有し、前記ハニカムロータを吸着ゾーンとプレパージゾーンと再生ゾーンの3つのゾーンに分割し、前記吸着ゾーンに処理対象空気の一部を通風することで、処理対象空気に含まれる二酸化炭素をロータ部分の二酸化炭素吸着材に吸着させて分離除去するようにし、前記処理対象空気の残りの一部を再生ヒータで加熱して再生ゾーンに通し、前記再生ゾーンを通過した空気をプレパージゾーンに通すようにしたことを特徴とする二酸化炭素濃縮装置。
【請求項3】
前記の二酸化炭素吸着材が、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムのメソ多孔体、酸化ジルコニウムのメソ多孔体、ゼオライト、活性炭、炭酸塩から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の二酸化炭素濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の二酸化炭素を濃縮し、植物ハウスや植物用温室に供給することで植物の育成促進を図るサーマルスイング法による二酸化炭素濃縮装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トマトやイチゴなどの植物工場や作物栽培ハウス等の作物生産用施設では、閉じた環境下にあるので、植物の光合成が進んでいくと室内の二酸化炭素濃度が次第に低下してくる。そこで、二酸化炭素の生ガスなどをチューブやダクトを使って葉の近くに局所的に施用して、大玉果収量及び商品果収量を多くする研究が行われている。
【0003】
園芸施設への二酸化炭素供給装置として、燃焼排ガス中の二酸化炭素を圧力スイング法により回収・濃縮して、昼間においてほとんど電力を使用せずに二酸化炭素を供給する特許文献1のような技術が開示されている。しかし、この装置では、排ガス中の窒素酸化物や硫黄酸化物を植物の成長に影響を及ぼさない濃度以下にする装置が必要で、濃縮した二酸化炭素を大気圧以上の圧力で貯蔵する装置も必要となり、装置が複雑になるという欠点がある。
【0004】
また、特許文献1の窒素酸化物や硫黄酸化物の問題を解決する技術として、燃焼排ガスと比較して窒素酸化物や硫黄酸化物の濃度が低い、室内空気の二酸化炭素を除去して排出し、ビニールハウスや植物工場などに濃縮した高濃度の二酸化炭素を供給する、ハニカムロータによるサーマルスイング法を使った二酸化炭素除去・濃縮装置として特許文献2のような技術が開示されている。しかし、この装置では、二酸化炭素吸収剤としてアミン担持固体吸収剤を使用しているため、吸収剤が熱劣化するので再生温度を摂氏60℃(以降、温度は全て「摂氏」とする)以下にする必要があり、低再生風量での二酸化炭素濃縮が出来ないので、濃縮する二酸化炭素の濃度を作物の成長を促す程度まで高くできないという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-16322号公報
【文献】特開2017-154063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記特許文献2での課題を解消するためになされたもので、140℃といった比較的高い再生温度でも吸着材が劣化せず、大気中から二酸化炭素を作物の成長を促す程度の濃度まで濃縮できる、サーマルスイング二酸化炭素回収濃縮装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、二酸化炭素を吸着するセリウムやジルコニウムを主成分とする金属酸化物やそのメソ多孔体、あるいは、13Xゼオライト、LSXゼオライト、活性炭、炭酸塩などを二酸化炭素吸着材として用いて二酸化炭素ガスを回収濃縮する技術に関するもので、二酸化炭素吸着材を担持したシートを加工した、ハニカムロータを用いた二酸化炭素ガス回収濃縮装置に関するものである。ハニカムロータは、吸着ゾーン、パージゾーン、再生ゾーン、プレパージゾーンの4区画に仕切られシールされたケーシング内を回転する。吸着ゾーンに外気の一部を導入し、空気中の二酸化炭素を吸着する。残りの外気はパージゾーンを通過して、再生ヒータで再生温度まで加熱され、再生ゾーンへ導入することにより吸着した二酸化炭素を脱着する。再生ゾーンを通過した空気はプレパージゾーンへ導入され、プレパージゾーンを通過した高濃度二酸化炭素の空気が供給空気として植物ハウスなどに供給するようにすることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の二酸化炭素濃縮装置は、高い再生温度でも劣化せず、二酸化炭素を吸着する二酸化炭素吸着ロータを用いて、植物ハウスなどの室内の二酸化炭素濃度を作物の成長を促す程度の濃度まで高めることができる。
【0009】
また、再生ゾーンを通過した空気ではなく、プレパージゾーンを通過した空気を供給空気とするため、再生ゾーンを通過した空気の熱回収をして二酸化炭素濃縮ロータの予熱を行ない、供給空気の温度を下げることができるため、燃焼式の二酸化炭素供給装置で起こりやすい植物への高温度障害も防止することができる。
【0010】
さらに、二酸化炭素ボンベからの生ガスを供給する場合に起こる、過度な二酸化炭素施用による植物への濃度障害も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は本発明の二酸化炭素濃縮装置の実施例1のフローの斜視図である。
図2図2は本発明の二酸化炭素濃縮装置の実施例2のフローの斜視図である。
図3図3は本発明の二酸化炭素濃縮装置の実施例3のフローの斜視図である。
図4図4は比較例1の二酸化炭素濃縮装置のフローの斜視図である。
図5図5は比較例2の二酸化炭素濃縮装置のフローの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ガラス繊維などの無機繊維シート等で出来たハニカムに、二酸化炭素を吸着するセリウムやジルコニウムを主成分とする金属酸化物やそのメソ多孔体、あるいは、13Xゼオライト、LSXゼオライト、活性炭、炭酸塩などを二酸化炭素吸着材として担時したロータを用い、ロータの回転方向に沿って吸着ゾーン、プレパージゾーン、再生ゾーン、パージゾーンを経て、再び吸着ゾーンに戻る構成にしている。
【0013】
吸着ゾーンに二酸化炭素を含む大気の一部を流してハニカムに二酸化炭素を吸着させる。二酸化炭素を吸着したハニカムはロータの回転によってプレパージゾーンに移動して、再生ゾーンを通過した高濃度の二酸化炭素を含む空気が導入され、ハニカムは導入された空気で加熱され、さらに脱着された二酸化炭素ガスを回収する。次にハニカムロータは脱着ゾーンからパージゾーンに回転し、大気の残りの一部で冷却されて再度吸着ゾーンに戻る。吸着ゾーンではハニカム流路に大気が流入して二酸化炭素ガスの吸着が始まる。
【実施例1】
【0014】
図1に本発明の二酸化炭素濃縮装置の実施例1のフロー斜視図を示す。二酸化炭素吸着ロータ4は、ガラス繊維等無機繊維主体のシートをコルゲート加工し、それを巻きつけてハニカムロータ化して、二酸化炭素吸着材として酸化セリウムの粒子をバインダーによって担持することによってロータを得る。
【0015】
前記二酸化炭素吸着ロータ3を搭載した二酸化炭素濃縮装置は吸着ゾーン4、パージゾーン5、再生ゾーン6、プレパージゾーン7が設けられ、二酸化炭素吸着ロータ3は、吸着ゾーン4から、プレパージゾーン7、再生ゾーン6、パージゾーン5を経て吸着ゾーン4に戻るように構成されている。
【0016】
大気を第一の送風機1で導入して、その一部を吸着ゾーン4に導入すると、ハニカムに担持した二酸化炭素吸着材に二酸化炭素が吸着された後、装置外に排気される。なお、吸着ゾーン4の前にプレクーラを設置する構成としてもよい。
【0017】
二酸化炭素を吸着したハニカムはロータの回転によってプレパージゾーン7に移動し、再生ゾーン6を通過した二酸化炭素濃度の高い空気が導入され、ハニカムの二酸化炭素吸着材に吸着された二酸化炭素が脱着され、更に二酸化炭素の濃度が高い空気となって、植物ハウスなどの供給先に供給される。
【0018】
大気の残りの一部はパージゾーン5に導入され、パージゾーン5を通過した空気は、再生ヒータ8で再生温度(140℃)まで加熱され再生ゾーン6に送られる。再生ゾーン6ではプレパージゾーン7で脱着されずにハニカムの二酸化炭素吸着材に残留している二酸化炭素ガスが脱着される。脱着が終わったハニカムはパージゾーン5に移動し大気で冷却され、再び吸着ゾーン4に戻ることで、連続的に二酸化炭素ガスの濃縮をすることが出来る。なお、ダンパ2とダンパ9は、各ゾーンの風量比が吸着:パージ:再生:プレパージ=5:1:1:1となるように風量調整が必要な場合に使用する。
【0019】
植物ハウスへ導入する二酸化炭素の温度は、植物が高温度障害を防止するためにも40℃以下が好ましい。本実施例1のように再生出口空気温度をプレパージゾーン7に通して降温することにより40℃以下にすることができる。プレパージを使わずに再生出口空気をそのまま使用すると、再生出口空気温度が60℃となり高温度障害を起こす危険性が高まる。また、プレパージゾーン7によって再生ゾーン6を通過した空気の熱回収を行ない、ハニカムの再生前の予熱にも寄与することができる。
【0020】
さらに、植物ハウスへの濃縮二酸化炭素供給方法で、葉の近くにチューブやダクトを張り巡らせて濃縮二酸化炭素を局所供給しても、濃縮二酸化炭素の濃度が2000ppm程度なので高濃度障害を防止することができる。
【実施例2】
【0021】
図2に本発明の二酸化炭素濃縮装置の実施例2のフロー斜視図を示す。実施例2では、装置構成は実施例1とほぼ同様となっているので重複する説明は省略する。図2の実施例2では、再生循環フロー(7)→(8)→(9)→(10)と再生循環フロー用の第二の送風機10を設けている。なお、各ゾーンの風量比は吸着:パージ:再生:プレパージ=8:1:5:1となるように風量調整する。
【0022】
実施例2の場合、植物ハウスへ供給する濃縮二酸化炭素の濃度を3000ppm程度にできるが、送風機を2台使用するため、実施例1より運転時の消費電力がやや高くなる。
【実施例3】
【0023】
図3に本発明の二酸化炭素濃縮装置の実施例3のフロー斜視図を示す。実施例3でも、装置構成は実施例1とほぼ同様となっているので重複する説明は省略する。図3の実施例3では、二酸化炭素吸着ロータ3のパージゾーン5を無くし、大気の一部を分岐して再生ヒータ8に導入するようにしている。なお、各ゾーンの風量比は吸着:再生:プレパージ=5:1:1となるように風量調整する。
【0024】
実施例3の場合、パージゾーンでの吸着材の冷却ができないため、再生ゾーン6から吸着ゾーン4に入った部分の二酸化炭素吸着性能が悪くなり、植物ハウスへ供給する濃縮二酸化炭素の濃度は、1500ppm程度になるが、それ程高い二酸化炭素濃度が要求されない場合などは、パージゾーンが無い分、装置構成や装置の制御が簡素化されイニシャルコストを低く抑えることができる。
【0025】
図4図5に比較例1、2として、これまで使用していたフローの斜視図を示す。図4の比較例1でも、装置構成は実施例1とほぼ同様となっているので重複する説明は省略する。図4の比較例1では、二酸化炭素吸着ロータ3のプレパージゾーン7を無くし、再生ゾーン6を通過した再生出口空気を植物ハウスなど供給先に供給するようにしている。なお、各ゾーンの風量比は吸着:パージ:再生=5:1:1となるように風量調整する。
【0026】
比較例1の場合、プレパージゾーンがなく再生ゾーンだけでは二酸化炭素の脱着が不十分になるため、植物ハウスへ供給する濃縮二酸化炭素の濃度を800ppm程度にしかできない。また、プレパージゾーンがないため、再生出口温度が60℃と高くなる。
【0027】
図5の比較例2では、二酸化炭素吸着ロータ3には、吸着ゾーン4、再生ゾーン6、冷却ゾーン11が設けられ、二酸化炭素吸着ロータ3は、吸着ゾーン4から、再生ゾーン6、冷却ゾーン11を経て吸着ゾーン4に戻るように構成されている。
【0028】
大気を第一の送風機1で吸着ゾーン4に導入すると、ハニカムに担持した二酸化炭素吸着材に二酸化炭素が吸着された後、インタークーラ12に導入される。インタークーラ12を通過した空気は第三の送風機13によって冷却ゾーン11に送られ、冷却ゾーン11を通過した空気の一部は分岐され装置外に排気され、残りの一部はインタークーラ12に戻される。
【0029】
二酸化炭素を吸着したハニカムはロータの回転によって再生ゾーン6に移動し、第二の送風機10によって再生循環されて、再生ヒータ8を通過した二酸化炭素濃度の高い空気が導入され、ハニカムの二酸化炭素吸着材に吸着された二酸化炭素が脱着され、更に二酸化炭素の濃度が高い空気となって、第四の送風機14によって二酸化炭素が再生ゾーン6で脱着された二酸化炭素分の風量で植物ハウスなどの供給先に供給される。なお、第二の送風機10の前に外気OAを取り込むダンパ付きのダクトを設けて(図示せず)、再生風量を増やすような構成としてもよい。なお、比較例2もプレパージゾーンがないため、再生出口温度が60℃と高くなる。
【0030】
なお、各ゾーンの風量比が吸着:冷却:再生=2:5:3となるように風量調整を行なう。
【0031】
表1に外形φ200mm、幅200mmの二酸化炭素吸着ロータで試験した場合の実施例と比較例について、供給空気の二酸化炭素濃度(回収CO2濃度)、空気温度(回収CO2温度)、供給風量(回収CO2流量)、時間当たりの二酸化炭素回収量(回収CO2量)、二酸化炭素1kg当たりのランニングコスト(ランニングコスト)の比較表を示す。液化炭酸ガスボンベ(30kg充填)で二酸化炭素生ガスを供給しようとすると二酸化炭素1kg当たりの単価が約250円となるので、本発明の実施例では、それと同等かそれ以下のランニングコストで植物ハウスなどへの高濃度二酸化炭素を供給することが可能となった。また、供給する二酸化炭素濃度と給気温度も植物の育成に適した条件にすることも可能である。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の二酸化炭素濃縮装置は、植物の育成に適した二酸化炭素濃度の空気を適温で供給することができるため、植物工場やビニールハウスなどに適用できる。
【符号の説明】
【0033】
1 第一の送風機
2 ダンパ
3 二酸化炭素吸着ロータ
4 吸着ゾーン
5 パージゾーン
6 再生ゾーン
7 プレパージゾーン
8 再生ヒータ
9 ダンパ
10 第二の送風機
11 冷却ゾーン
12 インタークーラ
13 第三の送風機
14 第四の送風機
図1
図2
図3
図4
図5