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特許7036425椎茸エキスの製造方法およびその椎茸エキスを含有する日持向上剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】椎茸エキスの製造方法およびその椎茸エキスを含有する日持向上剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 31/00 20160101AFI20220308BHJP
   A23L 3/3472 20060101ALI20220308BHJP
   A23B 4/20 20060101ALN20220308BHJP
   A23B 7/154 20060101ALN20220308BHJP
【FI】
A23L31/00
A23L3/3472
A23B4/20 Z
A23B7/154
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018036695
(22)【出願日】2018-03-01
(65)【公開番号】P2019149959
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100207136
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 有希
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
(72)【発明者】
【氏名】家中 可奈絵
(72)【発明者】
【氏名】松元 一頼
(72)【発明者】
【氏名】市岡 法隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 克幸
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-012953(JP,A)
【文献】特開2002-262819(JP,A)
【文献】特開平09-107910(JP,A)
【文献】特開2014-150726(JP,A)
【文献】特開2007-300859(JP,A)
【文献】特開昭52-057319(JP,A)
【文献】特開2014-223066(JP,A)
【文献】特開昭58-056655(JP,A)
【文献】特開2004-248531(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0100741(KR,A)
【文献】特開平7-250648(JP,A)
【文献】BA, Hoa Van et al.,Food Control,2017年,Vol.79,pp.109-118,DOI: 10.1016/j.foodcont.2017.03.034
【文献】KITZBERGER, C. S. G. et al.,Journal of Food Engineering,2007年,Vol.80, No.2,pp.631-638,DOI: 10.1016/j.jfoodeng.2006.06.013
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
A23L
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/FSTA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌用椎茸エキスの製造方法であって、
0℃より高くかつ20℃以下であるエタノール5~10v/v%のエタノール水溶液の溶媒中に椎茸を浸漬し、抽出を行う工程を含む、製造方法。
【請求項2】
前記溶媒が1℃~15℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記椎茸が乾燥椎茸である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥椎茸が20℃~85℃で乾燥された椎茸である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記抽出工程が5時間~72時間行われる、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記抽出工程により得られた溶液を濃縮する工程をさらに含む、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
抗菌用椎茸エキスおよび日持向上成分を含み、
該抗菌用椎茸エキスが、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法により得られた抗菌用椎茸エキスである、日持向上剤。
【請求項8】
前記抗菌用椎茸エキスが、適用される食品の重量に対して0.0025~0.1%の量で該食品に適用される、請求項7に記載の日持向上剤。
【請求項9】
前記日持向上成分が、酢酸ナトリウム、酢酸、グリシン、グリセリン脂肪酸エステル、酢酸カルシウム、チアミンラウリル硫酸塩、オレガノ抽出物、カンゾウ抽出物、クローブ抽出物、シソ抽出物、セイヨウワサビ抽出物、チャ抽出物、ブドウ果皮抽出物、プロポリス抽出物、モウソウチク抽出物、リゾチーム、カラシ抽出物、キトサン、酵素分解リンゴ抽出物、ショウガ抽出物、セージ抽出物、トウガラシ水性抽出物、ブドウ種子抽出物、モウソウチク乾留物、ユッカフォーム抽出物、ローズマリー抽出物および醸造酢からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項7または8に記載の日持向上剤。
【請求項10】
日持向上剤の製造方法であって、
請求項1から6のいずれかに記載の製造方法により製造した抗菌用椎茸エキスと、日持向上成分とを混合する工程を含む、製造方法。
【請求項11】
前記日持向上成分が、酢酸ナトリウム、酢酸、グリシン、グリセリン脂肪酸エステル、酢酸カルシウム、チアミンラウリル硫酸塩、オレガノ抽出物、カンゾウ抽出物、クローブ抽出物、シソ抽出物、セイヨウワサビ抽出物、チャ抽出物、ブドウ果皮抽出物、プロポリス抽出物、モウソウチク抽出物、リゾチーム、カラシ抽出物、キトサン、酵素分解リンゴ抽出物、ショウガ抽出物、セージ抽出物、トウガラシ水性抽出物、ブドウ種子抽出物、モソウチク乾留物、ユッカフォーム抽出物、ローズマリー抽出物および醸造酢からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌用の椎茸エキスの製造方法およびその椎茸エキスを含有する日持向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来食品の保存には、ポリリジンやしらこたん白抽出物などの保存料、または酢酸ナトリウム、グリシン、グリセリン脂肪酸エステル、チアミンラウリル硫酸塩、リゾチームなどの日持向上剤が用いられている。保存料については安全性に対する懸念が広まったことで、現在は日持向上剤の利用が多くなっている。しかし、従来の日持向上剤は保存料よりも微生物に対する静菌効果が弱いことから、保存料と同等の静菌効果を得るためには保存料よりも添加量を多くせざるを得ず、味覚に悪影響を及ぼし得る点が指摘されている。
【0003】
このように、従来、日持向上剤は、その味覚への影響からある一定量までしか食品に添加できないため、その静菌効果は限定的でしかなかった。したがって、極力味覚に影響を与えず、かつ良好な静菌効果を発揮する日持向上剤が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、味の影響が少なく、かつ良好な静菌効果を発揮する日持向上剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、抗菌用椎茸エキスの製造方法を提供し、この方法は、0℃より高くかつ20℃以下である水またはエタノール50v/v%以下のエタノール水溶液の溶媒中に椎茸を浸漬し、抽出を行う工程を含む。
【0006】
1つの実施形態では、上記溶媒は1℃~15℃である。
【0007】
1つの実施形態では、上記椎茸は乾燥椎茸である。
【0008】
1つの実施形態では、上記乾燥椎茸は、20℃~85℃で乾燥された椎茸である。
【0009】
1つの実施形態では、上記抽出工程は、5時間~72時間行われる。
【0010】
1つの実施形態では、上記製造方法は、上記抽出工程により得られた溶液を濃縮する工程をさらに含む。
【0011】
本発明はまた、抗菌用椎茸エキスおよび日持向上成分を含む、日持向上剤を提供する。
【0012】
1つの実施形態では、上記椎茸エキスが上記製造方法により製造される。
【0013】
1つの実施形態では、上記抗菌用椎茸エキスは、適用される食品の重量に対して0.0025~0.1%の量で該食品に適用される。
【0014】
1つの実施形態では、上記日持向上成分は、酢酸ナトリウム、酢酸、グリシン、グリセリン脂肪酸エステル、酢酸カルシウム、チアミンラウリル硫酸塩、オレガノ抽出物、カンゾウ抽出物、クローブ抽出物、シソ抽出物、セイヨウワサビ抽出物、チャ抽出物、ブドウ果皮抽出物、プロポリス抽出物、モウソウチク抽出物、リゾチーム、カラシ抽出物、キトサン、酵素分解リンゴ抽出物、ショウガ抽出物、セージ抽出物、トウガラシ水性抽出物、ブドウ種子抽出物、モウソウチク乾留物、ユッカフォーム抽出物、ローズマリー抽出物および醸造酢からなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0015】
本発明はさらに、日持向上剤の製造方法を提供し、この方法は、上記製造方法により製造した抗菌用椎茸エキスと、日持向上成分とを混合する工程を含む。
【0016】
1つの実施形態では、上記日持向上成分は、酢酸ナトリウム、酢酸、グリシン、グリセリン脂肪酸エステル、酢酸カルシウム、チアミンラウリル硫酸塩、オレガノ抽出物、カンゾウ抽出物、クローブ抽出物、シソ抽出物、セイヨウワサビ抽出物、チャ抽出物、ブドウ果皮抽出物、プロポリス抽出物、モウソウチク抽出物、リゾチーム、カラシ抽出物、キトサン、酵素分解リンゴ抽出物、ショウガ抽出物、セージ抽出物、トウガラシ水性抽出物、ブドウ種子抽出物、モウソウチク乾留物、ユッカフォーム抽出物、ローズマリー抽出物および醸造酢からなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0017】
本発明はさらに、食品の日持を向上させる方法を提供し、この方法は、
抗菌用椎茸エキスおよび日持向上成分を、適用される食品の重量に対して0.0025~0.1%:0.3~5%の量で該食品に適用する工程を含む。
【0018】
本発明はさらに、食品の日持を向上させる方法を提供し、この方法は、
抗菌用椎茸エキスおよび日持向上成分を0.01~0.5w/w%:0.5~5w/w%の濃度で含む浸漬液中に、該食品またはその原材料食物を浸漬する工程を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、多様な菌に抗菌性を発揮し得る椎茸エキスを製造することができる。さらに、本発明によれば、このような椎茸エキスを用いて、食品への味に極力影響を与えず、かつ良好な静菌効果を発揮する日持向上剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】椎茸エキスの各抽出時間におけるBrixの測定結果を示すグラフである。
図2】椎茸エキスを配合した日持向上剤で処理したボイルブロッコリーの官能評価の結果を示すグラフである。
図3】椎茸エキスを配合した日持向上剤で処理したボイルエビの官能評価の結果を示すグラフである。
図4】椎茸エキスを配合した日持向上剤で処理した味飯の官能評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(抗菌用椎茸エキスの製造)
本発明は、抗菌用椎茸エキスの製造方法を提供し、この方法は、0℃より高くかつ20℃以下である水またはエタノール50v/v%以下のエタノール水溶液の溶媒中に椎茸を浸漬し、抽出を行う工程(本明細書において「抽出工程」ともいう)を含む。
【0022】
抽出材料としての椎茸(Lentinula edodes)は、食用の椎茸であれば特に品種を問わない。品種として、光面椎茸または黒面椎茸が挙げられるがこれらに限定されない。
【0023】
食用の椎茸としては、例えば、シイタケ菌の子実体であって全形のもの、柄を除去したものまたは柄を除去し、もしくは除去しないでかさを薄切りにしたものなどが使用され得る。椎茸の全形、かさまたは柄をそのまま用いても、あるいは薄切りもしくは細かく切断したものが抽出材料として用いられ得る。食品材料として選別、切断した残余のものを使ってもよい。
【0024】
椎茸の子実体の大きさは、小さいほど好ましい。椎茸の子実体の大きさは、未切断の状態のものが、好ましくは、2cm(規格上最小サイズ)~5cm格子のメッシュを通過する大きさの椎茸である。より好ましくは、2cmメッシュ通過分の椎茸である。
【0025】
抽出材料として、生椎茸または乾燥椎茸が用いられ得る。好ましくは、乾燥椎茸が用いられる。乾燥椎茸は、生椎茸を所定条件下にて乾燥処理を施したもの(干したもの)をいい、乾燥処理にて乾燥したものであれば、その後吸湿されたものであってもよい。乾燥処理の温度は、例えば、20℃~85℃である。乾燥処理として、例えば、熱風乾燥、天日干しなどが挙げられる。併用(例えば、熱風乾燥と天日干しとの併用)であってもよい。乾燥処理時間は、乾燥温度に依存し得るが、例えば、10時間~4日間程度行われ得る。例えば、乾燥処理が熱風乾燥(例えば、35℃~85℃の熱風を用いる)のみの場合、処理時間は10~15時間程度、天日干し(例えば、20℃~35℃)のみの場合、処理時間は数日間であり得る。天日干しと熱風乾燥との併用の場合は、それぞれの処理時間が適宜設定され得る。
【0026】
抽出溶媒は、水またはエタノール50v/v%以下であるエタノール水溶液である。抽出溶媒として、水が好ましい。エタノール水溶液の濃度は、好ましくは、30v/v%以下、より好ましくは、20v/v%以下、なおより好ましくは、10v/v%以下である。
【0027】
抽出時の溶媒の温度は、0℃より高くかつ20℃以下の低温である。好ましくは、1℃~15℃である。抽出の間中、溶媒の温度は、上記の温度範囲内に保持することが好ましい。
【0028】
抽出時のpHは特に調節の必要なく、抽出がなされ得る。例えば、pHは中性(pH約6~約7)であり得る。
【0029】
抽出溶媒の量は、抽出する椎茸の重量に基づいて決定され得る。乾燥椎茸50gに対し、抽出溶媒の量は、例えば、500mL~2500mL、好ましくは、750mL~2000mL、より好ましくは1000mL~2000mLである。
【0030】
抽出工程における浸漬は、静置または撹拌下で行われ得る。抽出工程は、常圧下または加圧下のいずれでも行ってもよい。
【0031】
抽出時間は、抽出温度、抽出溶媒および抽出材料の椎茸の量、浸漬が静置または撹拌下であるかなどに依存し得るが、例えば、5~72時間、好ましくは7~60時間である。より好ましくは10~48時間である。例えば、水を用いた5℃での抽出の場合、開始後5~10時間までは顕著に抽出が進み、その後も緩やかに上昇し得るが、72時間を越えると抽出効率が低下し得る。抽出工程の間に生じた溶液を浸漬中の椎茸から分離して回収し、同じ椎茸に対し新たな抽出溶媒を添加して椎茸を浸漬させて、引き続き抽出を行い、この抽出工程の間に生じた溶液を回収し、各抽出工程で回収した溶液を併せてもよい。
【0032】
抽出工程によって得られた溶液をそのまま回収してもよく、または、上記抽出工程によって得られた溶液を椎茸から分離して回収し、さらに濃縮してもよい。例えば、上記抽出工程で生じた溶液を例えば20~70重量%(好ましくは50重量%)の固形分が得られるまで濃縮し得る。この濃縮の際の温度は50℃以下が好ましい。50℃を越えると、得られるエキスの抗菌性が低下し得る。
【0033】
「抗菌用椎茸エキス」とは、抗菌活性を有する椎茸エキスであって、例えば、上記製造方法における抽出工程で抽出された後、濃縮等によって溶媒を除去することにより得られ得る固形分をいう。本明細書中の「抗菌用椎茸エキス」の量は、この固形分を基準にしたものであり得る。例えば、抽出後の産物が固形分を含む液の形態である場合、食品の重量に対する「抗菌用椎茸エキス」の量とは、食品に添加される当該産物全体の重量ではなく、当該産物中の固形分の重量である。上記抽出工程後の溶液または濃縮後のものをスプレードライに供して粉末化してもよい。スプレードライは、例えば160℃にて瞬時に加熱することより行われる。スプレードライによる処理では、上記抽出の温度範囲の上限(20℃)を上回る高温(例えば、160℃)が付されるが、当該処理はエキスに対し瞬時になされるものであり、エキス内の有効成分を実質的に変化させるものではない。
【0034】
抗菌用椎茸エキスは、液状、ペースト状もしくは粉末状、これらの混合形態で利用することができる。液状のものは、抗菌用椎茸エキス固形分が、例えば、抽出溶媒等の溶媒中に溶解または懸濁したもの、または溶媒によって希釈したものなどであり得る。ペースト状のものは、抗菌用椎茸エキス固形分が溶媒などの液状材料と共存してペーストを形成したものであり得る。粉末状のものは、抗菌用椎茸エキス固形分が、例えば、上記のように粉末化されたものであり得る。例えば、椎茸エキス(固形分50%品)とは、椎茸エキス固形分を50重量%の割合で含有する物質(例えば、液状物、粉末状)をいう。抗菌用椎茸エキスは多様な菌に対し抗菌性を有する。抗菌用椎茸エキスは、例えば下記実施例に示すように、抗菌性評価に一般に用いられるあらゆる菌種(例えば、グラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌(カビ)および酵母)に対し、抗菌性を発揮し得る。
【0035】
(抗菌用椎茸エキス含有日持向上剤ならびに日持向上のための当該エキスの使用)
本発明はまた、抗菌用椎茸エキスと日持向上成分とを有効成分として含む、日持向上剤を提供する。椎茸エキスは、好ましくは、上記製造方法で製造された抗菌用椎茸エキスである。
【0036】
日持向上成分は、日持向上剤の有効成分(例えば、抗菌性を有する成分)として用いられる任意の成分が用いられ得る。日持向上成分は、日持向上剤の有効成分として公知の化学品、酵素または植物由来物質(例えば、抽出物または乾留物)であり得る。例えば、日持向上成分としては、酢酸ナトリウム、酢酸、グリシン、グリセリン脂肪酸エステル、酢酸カルシウム、チアミンラウリル硫酸塩、キトサンなどの化学品;リゾチームなどの酵素;ならびに植物由来物質について、抽出物としては、オレガノ抽出物、カンゾウ抽出物、クローブ抽出物、シソ抽出物、セイヨウワサビ抽出物、チャ抽出物、ブドウ果皮抽出物、プロポリス抽出物、モウソウチク抽出物、カラシ抽出物、酵素分解リンゴ抽出物、ショウガ抽出物、セージ抽出物、トウガラシ水性抽出物、ブドウ種子抽出物、ユッカフォーム抽出物、ローズマリー抽出物などの植物抽出物、およびモウソウチク乾留物などの植物乾留物が挙げられる。植物抽出物は、原料植物を水またはエタノール、あるいはこれらの混合を溶媒として抽出されたものであり得、植物乾留物は、原料植物を乾留して得られたものをいう。上記化学品、酵素および植物由来物質は、食品添加剤として市販されたものであり得る。また、上記化学品、酵素または植物由来物質を含有する食品も、日持向上成分として用いられ得る。このような食品としては、例えば、醸造酢(これは酢酸を含有し得る)が挙げられる。日持向上成分は、上記のような成分の任意の少なくとも2つの組合せであってもよい。日持向上成分としては、抗菌性を有しかつ食品に酸味および/または酸臭を与え得る成分(例えば、酢酸ナトリウム、酢酸、醸造酢など)であっても用いることができる。
【0037】
本発明はさらに、日持向上剤の製造方法を提供し、この製造方法は、上述したような製造方法により製造した抗菌用椎茸エキスと、上記日持向上成分とを混合する工程を含む。抗菌用椎茸エキスと日持向上成分とは、液状で混合もしくは当該混合後に例えばスプレードライによって粉末状とする、または各々粉末状にして混合するなど、混合の様式は問わない。日持向上剤は、抗菌用椎茸エキスと日持向上成分とを液剤、ペースト剤または固形剤の剤形で配合し得、必要に応じて、製剤化助剤および賦形剤などの食品添加製剤の製造上許容され得る成分をさらに含有してもよい。また、抗菌用椎茸エキスと日持向上成分とを食品への適用の直前に混合して、下述するように食品に適用するものであってもよい。
【0038】
抗菌用椎茸エキスを含有する日持向上剤は、当該日持向上剤の食品への適用時およびその後の保存の間が非加熱(例えば、1℃~50℃、好ましくは、5℃~25℃)であれば、非加熱の食品もしくは非加熱調理後の食品または加熱後もしくは加熱調理後の食品のいずれに対しても用いることができる。本明細書中の「食品」は、最終製品の形態の食品をいう。日持向上剤を適用される食品としては、惣菜類、カット野菜、野菜サラダ、ボイル後野菜、ボイル後魚介類(例えば、エビ、貝類)、ボイル後肉類、米飯類、冷蔵食品、冷凍食品などが挙げられる。食品の「原材料」として、食品の製造に通常用いられる食物(例えば、穀類(米、パン、麺等)、魚、肉、卵、乳製品、豆類、野菜、果物、きのこ等)、調味料(砂糖、塩、酢、醤油、味噌等)、食品添加剤などが挙げられる。
【0039】
日持向上剤の食品への適用には、種々の方法が採用され得る。例えば、日持向上剤が適用時に液状形態(例えば、溶液(例えば、水溶液)または懸濁液)である場合、日持向上剤を含む浴中に食品または食品の原材料食物を浸漬する、および/または日持向上剤で食品または食品の原材料食物を塗布もしくは噴霧する方法が採用され得る。例えば、日持向上剤が適用時に液状、ペースト状もしくは粉末状、これらの混合形態である場合、例えば、食品または食品の原材料食物に日持向上剤を添加し、必要に応じて混合または練り込みを行う方法が採用され得る。浸漬で日持向上剤を適用する場合、浸漬液が、抗菌用椎茸エキス:日持向上成分について、浸漬のための溶媒(例えば、水)中に、例えば0.01~0.5w/w%:0.5~5w/w%、好ましくは0.01~0.1w/w%:1~4w/w%の濃度となるように、日持向上剤が調製または使用され得る。浸漬液は、浸漬により日持向上剤を適用される食品または原材料食物の重量に対し、例えば、0.5~4倍量(好ましくは等倍量~2倍量)で用いられ、浴比が、例えば、1:0.5~4(好ましくは1:1~2)である。当該浸漬液において、抗菌用椎茸エキスが0.01w/w%未満であると、抗菌効果が充分に発揮し得なくなるおそれがある。抗菌用椎茸エキス自体の味の点で、0.5w/w%を超えないことが好ましい。浸漬処理の場合、浸漬温度は、例えば、0℃より高くかつ20℃以下であり、好ましくは、1℃~15℃であり、より好ましくは、5℃周辺であり、浸漬時間は、例えば、30分~120分、好ましくは、45分~90分、より好ましくは、約60分である。
【0040】
本発明の日持向上剤は、抗菌用椎茸エキス:日持向上成分を、日持向上成分の種類に依存し得るが、日持向上剤を適用する食品の重量(言い換えれば、未添加の食品の重量、または最終製品の食品から日持向上剤を除いた重量)に対し、それぞれが、例えば0.0025~0.1:0.3~5、好ましくは0.004~0.1:0.4~5、より好ましくは0.01~0.1:0.4~4の割合(重量基準)で適用されるように配合し得る。このような配合比で、日持向上剤は、抗菌効果および食品に対する味の影響の抑制効果をより効果的に発揮し得る。
【0041】
本発明の日持向上剤は、抗菌用椎茸エキスが、例えば、日持向上剤を適用する食品の重量に対し、例えば、0.0025%~0.1%、好ましくは、0.004%~0.1%、より好ましくは0.01%~0.1%の量となるように、食品に適用され得る。抗菌用椎茸エキスは、上記範囲内の適用量となるように日持向上剤に含有されて、日持向上と食品の味の悪影響の抑制とを、より効果的に発揮し得る。日持向上剤は、抗菌用椎茸エキスが上記範囲内の適用量となるように、希釈して使用されるように調製されてもよい。例えば、抗菌用椎茸エキス(固形分50%品)が用いられる場合、食品に適用される抗菌用椎茸エキス固形分の重量が上記量となるように、抗菌用椎茸エキス(固形分50%品)が食品に適用され得る。椎茸エキスは、椎茸の旨味または風味を付与する調味料用途では、未添加の食品の重量に対して0.2%~1.5%で添加されるのに対し、食品に対する上記範囲内の添加量は、この調味料用途の添加量と比べて低い量である。
【0042】
食品への抗菌用椎茸エキスの適用は、食品の製造の過程で、上記日持向上成分と併用して当該食品の原材料に添加されるものであってもよい。例えば、抗菌用椎茸エキスと日持向上成分との食品への添加量における重量比は、日持向上成分の種類に依存し得るが、添加前の食品の重量に対し、例えば0.0025%~0.1%:0.3%~5%、好ましくは0.004%~0.2%:0.4%~4%、より好ましくは0.01%~0.1%:0.4%~4%の割合(重量基準)の抗菌用椎茸エキス:日持向上成分にて食品に添加され得る。この添加時が非加熱状態である限り添加の順序は問わず、同時または順次のいずれでもよい。例えば、上記の抗菌用椎茸エキスと日持向上成分との食品への添加量における重量比は、上記の浸漬によって達成され得る。また、例えば、以下の実施例に示すように、味飯の製造において、抗菌用椎茸エキスが、醸造酢と併用して味飯の原材料に添加され、この添加は、例えば、室温、例えば、20~25℃でなされ得る。
【0043】
本発明の抗菌性椎茸エキス含有日持向上剤は、日持向上剤の有効成分(例えば、抗菌性を有する成分)に起因し得る苦味、酸味、甘味などの嫌味をマスキングする(例えば、低減または緩和する)とともに、多様な菌に対する抗菌性を発揮し得る。また、抗菌用椎茸エキスと日持向上成分との併用により、日持向上効果が例えば1~2日延長し得る。
【実施例
【0044】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0045】
(実施例1:乾燥椎茸抽出溶媒の検討)
(抽出方法)
エタノール各濃度(それぞれ0、5、10、20、30、50、70v/v%)の水溶液1000mLを調製し、これらの水(エタノール0v/v%の場合)またはエタノール水溶液を抽出のための溶媒として用いた。溶媒を5℃に調整し、乾燥椎茸(2cmメッシュ通過分。70℃で乾燥)50gを溶媒に浸るように入れて静置状態にて5℃で24時間置き、抽出を行った。抽出後、篩にて残渣と溶媒とを分離し、溶媒部分をエバポレーターにて固形分50重量%まで濃縮した。このようにして、溶媒中に椎茸エキス固形分が50重量%にて含まれる液状物が得られた(これを、椎茸エキス(固形分50%品)ともいう)。
【0046】
(抗菌活性評価方法)
MIC(最小発育阻止濃度)法にて抗菌活性を評価した。
【0047】
シャーレに椎茸エキス(固形分50%品)が下記のいずれかの濃度になるように、標準寒天培地液と混合し固めた。その後、以下に記載の各菌種の菌液10cfu/mLを、標準寒天培地上に10μL滴下し、35℃にて48時間培養した。培養後、コロニーの発生を目視観察し、コロニーの発生が観察されなかった椎茸エキス(固形分50%品)の濃度をMIC値として比較した。
【0048】
下記の菌種を用いた:
枯草菌(バチルス・サブチリス(Baccilus subtilis))
セレウス菌(バチルス・セレウス(Baccilus cereus))
ラクティス菌(ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis))
リューコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)
黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus))
大腸菌(エスケリキア・コリ)
ウィッカーラモマイセス・アノマラス(Wickerhamomyces anomalus)
【0049】
MIC値を求めるため、椎茸エキス(固形分50%品)を以下の濃度(w/w%)で含む培地を用いた:
0.0、0.1、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、1.2、1.4、1.8、2.0、2.5および3.0。
【0050】
(結果)
各抽出溶媒におけるMIC値測定結果を表1に示す。抽出溶媒のエタノール量を変えた場合、エタノール10v/v%以下では、水抽出(エタノール0v/v%)と同じ抗菌活性の強さを示した。エタノール20v/v%では、水抽出品よりも若干抗菌活性が弱くなり、50v/v%では大幅に抗菌活性が低下した。またエタノール70v/v%では抗菌活性は観察されなかった。
【0051】
【表1】
【0052】
(実施例2:乾燥椎茸抽出溶媒の検討)
(抽出方法)
抽出温度として5、10、15、20、25、40、50および60℃を用いた。水1000mLを各温度に調整し、乾燥椎茸50gを溶媒に浸るように入れて静置状態にて24時間置いたこと以外は、実施例1と同様に抽出操作を行った。
【0053】
(抗菌活性評価方法)
実施例1と同様に、MIC(最小発育阻止濃度)法にて抗菌活性を評価した。
【0054】
(結果)
各抽出温度におけるMIC値測定結果を表2に示す。抽出温度5~15℃が最も抗菌活性が強い結果となった。また、20℃から若干抗菌活性が弱くなり、60℃で抗菌活性が観察されなくなった。
【0055】
【表2】
【0056】
(実施例3:抽出時間の検討)
固形分抽出量の指標としてBrix値を用いて、抽出時間を検討した。予め5℃に冷却しておいた水4000mLに、乾燥椎茸を100g投入して軽く攪拌した。その後、72時間5℃にて静置抽出し、各時間でのBrixを測定した。
【0057】
図1は、各抽出時間におけるBrixの測定結果を示す。図1より抽出開始から10時間までは顕著にBrixが上昇し、その後は緩やかに上昇した。この結果より、効率的に抽出するには、24時間~72時間程度が適当であると考えられた。
【0058】
以下の実施例では、抽出溶媒として水(エタノール添加なし)、抽出温度5℃および抽出時間を24時間として、実施例1と同様に抽出操作を行って得た椎茸エキス(固形分50%品)を用いた。
【0059】
(実施例4:ボイルブロッコリーの日持向上効果)
本実施例では、ボイルブロッコリーに、椎茸エキスを日持向上剤A(配合は以下の通り(「%」は重量%である):酢酸ナトリウム80%、グリシン10%、クエン酸三ナトリウム7%およびクエン酸3%)と併用して添加した場合の日持向上効果を調べた。
【0060】
ブロッコリーを約8gにカットしてから沸騰水に投入し、湯が再沸騰後1分間ボイルした。更に火を消してから1分間置いた。その後、日持向上剤Aを2w/w%および椎茸エキス(固形分50%品)を0.05w/w%、0.10w/w%または0.20w/w%(椎茸エキス固形分換算では、0.025w/w%、0.05w/w%または0.10w/w%)となるよう水に溶解した浸漬液(ブロッコリー重量の2倍量)に、ブロッコリーを5℃にて60分間浸漬し、液切りした(本実施例中、これらを「椎茸エキス0.025w/w%併用区」、「椎茸エキス0.05w/w%併用区」、「椎茸エキス0.10w/w%併用区」と称した)。対照として、日持向上剤A単品添加区および無添加区(水浸漬)を設定した。
【0061】
液切り後のボイルブロッコリーに、枯草菌を10cfu/g植菌し、25℃で48時間保管した後に、菌数検査を実施した。菌数検査は、検査開始日からの菌数の経日変化にて評価し、菌数は標準寒天培地法で測定した。「0日目」には、日持向上剤を処理したブロッコリーに枯草菌を植菌した直後に、検査を実施した結果を示し、これは、初発菌数である。
【0062】
また、各日持向上剤を添加した4試験区において、液切り後のボイルブロッコリーについて、官能評価を実施し、酸味について評価した。官能評価は、当該技術分野の専門家10名にて酸味が弱い順に順位を付け、その順位を4段階の点数とした(最も酸味が弱い試験区が1位で1点、順次酸味が強くなるに従い、2点、3点とし、最も酸味の強い試験区が4点とした)。そして各専門家による評価点数の平均点を算出して比較した。
【0063】
菌数検査の結果を表3に示す。日持向上剤A単品使用および椎茸エキス0.025w/w%併用区では、3日目の菌数が10cfu/gを超えたが、2日目の菌数を比較すると、椎茸エキス0.025w/w%併用区は菌数が1オーダー低い結果となった。また椎茸エキス0.05w/w%併用区および椎茸エキス0.10w/w%併用区では、3日目の菌数が10cfu/gであり、日持向上剤A単品使用区よりも日持ちが向上していた。
【0064】
【表3】
【0065】
ボイルブロッコリーの官能評価の結果を図2に示す。日持向上剤A単品添加区よりも、椎茸エキス0.05w/w%併用区および椎茸エキス0.10w/w%併用区の酸味が顕著に少なかった。また、椎茸エキス0.025w/w%併用区の酸味についても、日持向上剤A単品添加区よりも少ない結果であった。
【0066】
(実施例5:ボイルエビの日持向上効果)
本実施例では、ボイルエビに、椎茸エキスを日持向上剤B(配合は以下の通り(「%」は重量%である):酢酸ナトリウム70%、グリシン20%およびクエン酸10%)と併用して添加した場合の日持向上効果を調べた。
【0067】
市販ボイルエビを水道水で洗浄した後、日持向上剤Bを3w/w%および椎茸エキス(固形分50%品)を0.05w/w%、0.10w/w%または0.20w/w%(椎茸エキス固形分換算では、0.025w/w%、0.05w/w%または0.10w/w%)となるよう水に溶解した浸漬液(ボイルエビ重量の等倍量)にボイルエビを5℃で60分間浸漬した(本実施例中、これらを「椎茸エキス0.025w/w%併用区」、「椎茸エキス0.05w/w%併用区」、「椎茸エキス0.10w/w%併用区」と称した)。対照として、日持向上剤B単品添加区および無添加区(水浸漬)を設定した。
【0068】
浸漬後、ラクティス菌またはウィッカーラモマイセス・アノマラスを10cfu/g植菌し、25℃にて保管し、実施例4と同様に菌数検査を実施した。無植菌のボイルエビについても同様に菌数検査を実施した。菌数検査について、無植菌のボイルエビはSPC培地で検査し、植菌区はそれぞれの選択培地にて検査を実施した。
【0069】
また各日持向上剤を添加した4試験区において、浸漬後のボイルエビについて、官能評価を実施し、酸味について評価した。官能評価は、当該技術分野の専門家10名にて酸味が弱い順に順位を付け、その順位を4段階の点数とした(最も酸味が弱い試験区が1位で1点、順次酸味が強くなるに従い、2点、3点とし、最も酸味の強い試験区が4点とした)。そして各専門家による評価点数の平均点を算出して比較した。
【0070】
無植菌のボイルエビの菌数検査の結果を表4に示す。日持向上剤Bに椎茸エキスを併用することで、保管1日目の菌数が日持向上剤B単品添加区よりも低い結果となった。
【0071】
【表4】
【0072】
ラクティス菌を植菌したボイルエビの菌数検査の結果を表5に示す。日持向上剤Bに椎茸エキスを併用することで、保管1日目の菌数が日持向上剤B単品添加区よりも低い結果となった。
【0073】
【表5】
【0074】
ウィッカーラモマイセス・アノマラスを植菌したボイルエビの菌数検査の結果を表6に示す。日持向上剤Bに椎茸エキスを併用することで、保管後の菌数が日持向上剤B単品添加区よりも低い結果となった。
【0075】
【表6】
【0076】
ボイルエビの官能評価の結果を図3に示す。椎茸エキスを配合することで、日持向上剤Bの酸味を軽減することができた。
【0077】
(実施例6:味飯の日持向上効果)
本実施例では、味飯に、椎茸エキスを醸造酢(酢酸9%含有)と併用して添加した場合の日持向上効果を調べた。
【0078】
生米100g:水140g:醤油10gの割合にて原料を混合し、そこに醸造酢を生米重量に対して1.0%にて加え、更に椎茸エキス(固形分50%品)を生米重量に対して0.02%または0.05%にて添加して炊飯し、味飯を得た。これにより、椎茸エキス(固形分50%品)および醸造酢は、最終の食品(味飯)の重量に対して0.008%または0.02%(椎茸エキス固形分換算では、0.004%または0.01%)、および0.4%にて添加された(本実施例中、これらを「椎茸エキス0.004%併用区」、「椎茸エキス0.01%併用区」と称した)。その後、枯草菌を10cfu/gにて植菌し、25℃にて保管し、実施例4と同様に菌数検査を実施した。対照として、醸造酢単品添加区および無添加区を設定した。
【0079】
また醸造酢単品添加区、椎茸エキス0.004%併用区および椎茸エキス0.01%併用区の3試験区において、炊飯後の味飯について、官能評価を実施し、酸味について評価した。官能評価は、当該技術分野の専門家10名にて酸味が弱い順に順位を付け、その順位を3段階の点数とした(最も酸味が弱い試験区が1位で1点、次に弱い試験区を2点とし、最も酸味の強い試験区を3点とした)そして各専門家による評価点数の平均点を算出して比較した。
【0080】
枯草菌を植菌した味飯の菌数検査の結果を表7に示す。椎茸エキスを醸造酢と併用することで、2日目の菌数が10cfu/gまたは10cfu/gであり、醸造酢単品添加よりも菌数の増大を抑えることができた。よって、椎茸エキスを醸造酢と併用すると、食品の保存日数に対する菌数の増大が抑えられ、当該食品の保存期間の延長、すなわち日持向上効果が見られた。
【0081】
【表7】
【0082】
味飯の官能評価結果を図4に示す。図4より、醸造酢に椎茸エキスを併用することで、醸造酢の酸味をマスキングすることができた。
【0083】
(実施例7:ポテトサラダの日持向上効果)
本実施例では、味飯に、椎茸エキスを日持向上剤Bと併用して添加した場合の日持向上効果を調べた。
【0084】
ジャガイモを45分間蒸し、皮をむいてから粗く潰した。玉葱をスライスし、30分程度水にさらした。人参を千切り、キュウリを輪切りにした。これらを表8に示した配合の通り混合し、さらにこれらの原材料の総重量(最終の食品(ポテトサラダ)の重量に対応する)に対し日持向上剤Bを1.0%および椎茸エキス(固形分50%品)を0.05%の量(椎茸エキス固形分換算すると、0.025%)となるように練り込みにより混ぜ込み、ポテトサラダを調製した(本実施例中、椎茸エキス0.025%併用区と称した)。対照として、日持向上剤B単品添加区(最終の食品(ポテトサラダ)の重量に対し1.0%にて添加)および無添加区を設定した。
【0085】
【表8】
【0086】
その後、調製したポテトサラダを30℃にて保管し、一般生菌数を標準寒天培養法にて経時的に測定した。ポテトサラダの菌数検査の結果を表9に示す。
【0087】
【表9】
【0088】
日持向上剤Bに椎茸エキスを併用することで、保管の2日目の菌数が、日持向上剤B単品添加よりも1オーダー菌数が低い結果となり、菌数の増大を抑えることができた。このように、ポテトサラダへの練り込みの場合においても椎茸エキス添加による静菌効果の向上が見られた。
【0089】
よって、本実施例においても、椎茸エキスを用いた食品(ポテトサラダ)の保存期間の延長、すなわち日持向上効果を確認することができた。
【0090】
(実施例8:椎茸エキス含有製剤の調製およびその日持向上効果の検討)
表10に示す配合の製剤(椎茸エキスおよび醸造酢を含有する製剤(調製例1)および表11に示す配合の製剤(椎茸エキスを含有せず、醸造酢を含有する製剤(調製例2)を、製剤の各成分を混合し、液剤として調製した。
【0091】
【表10】
【0092】
【表11】
【0093】
生米100g:水140g:醤油10gの割合にて原料を混合し、そこに調製例1の製剤または調製例2の製剤を生米重量に対して1.0%加えて炊飯し、味飯を得た。これにより、調製例1の製剤中で、椎茸エキス固形分は、最終の食品(味飯)の重量に対して0.01%にて添加された。対照としての無添加区では、製剤無添加であること以外は同様にして炊飯した。
【0094】
その後、調製例1の製剤添加区、調製例2の製剤添加区、および製剤無添加区の3試験区において、味飯に枯草菌を10cfu/gにて植菌し、25℃にて保管し、実施例4と同様に菌数検査を実施した。菌数の計測は10cfu/gを上回った時点で終了した。
【0095】
枯草菌を植菌した味飯の菌数検査の結果を表12に示す。無添加区が10cfu/gを上回ったのが保存1日目であるのに対し、調製例2の製剤添加区では保存2日目であり、日持向上効果が見られた。調製例1の製剤添加区では、保存2日目でも菌数が10~10cfu/g程度であり、調製例2の製剤添加区よりもさらに菌数の増大を抑えることができ、日持向上効果が見られた。よって、醸造酢含有製剤中に椎茸エキスをさらに配合することにより、椎茸エキス非含有の醸造酢含有製剤の菌数抑制効果をより促進することができた。椎茸エキスを含有する調製例1の製剤は、椎茸エキスを非含有の調製例2の製剤に比べて、食品の保存日数に対する菌数の増大が抑えられ、当該食品の保存期間の延長、すなわち日持向上効果が見られた。
【0096】
【表12】
【0097】
また、調製例1の製剤添加区および調製例2の製剤添加区において、味飯の酸味および酸臭を官能評価した。官能評価は、当該技術分野の専門家10名が、酸味および酸臭について、いずれの味飯の方が少ないかを判定した。官能評価の結果、10名中10名が、調製例1の製剤添加区において、調整剤2の製剤添加区よりも酸味酸臭が少ないと答えた。
【0098】
(実施例9:椎茸エキス含有製剤の調製およびその日持向上効果の検討)
椎茸エキスを、抽出溶媒として水(エタノール添加なし)、抽出温度5℃および抽出時間を24時間として、実施例1と同様に抽出操作を行った後、デキストリンと共にスプレードライ法により乾燥し、粉末として得た。得られた椎茸エキス粉末は50重量%にてデキストリンを含有した(当該粉末の50重量%が椎茸エキス固形分であり、椎茸エキス(固形分50%品)粉末が得られた)。
【0099】
表13に示す配合の製剤(椎茸エキスを含有する製剤(調製例3))および表14に示す配合の製剤(椎茸エキス非含有の製剤(調製例4))を、製剤の各成分を混合し、粉末剤として調製した。
【0100】
【表13】
【0101】
【表14】
【0102】
ブロッコリーを約8gにカットしてから沸騰水に投入し、湯が再沸騰後1分間ボイルした。更に火を消してから1分間置いた。その後、調製例3の製剤または調製例4の製剤を2w/w%(椎茸エキス固形分に換算すると、0.05w/w%)となるよう溶解した浸漬液(ブロッコリー重量の2倍量)に、ブロッコリーを5℃にて60分間浸漬し、液切りした。対照として、無添加区(水浸漬)を設定した。
【0103】
その後、調製例3の製剤添加区、調製例4の製剤添加区、および製剤無添加区の3試験区において、液切り後のボイルブロッコリーに枯草菌を10cfu/gにて植菌し、25℃にて保管し、実施例4と同様に菌数検査を実施した。
【0104】
枯草菌を植菌したボイルブロッコリーの菌数検査の結果を表15に示す。無添加区が10cfu/gを上回ったのが保存2日目であるのに対し、調製例4の製剤添加区においては保存3日目であり、日持向上効果が見られた。調製例3の製剤添加区では、保存1日目~3日目において調製例4の製剤添加区よりも菌数が1オーダー低く、そして保存3日目でも菌数が10cfu/gを下回った。このように、調製例3の製剤添加区では、調製例4の製剤添加区よりもさらに菌数の増大を抑えることができ、日持向上効果が見られた。よって、日持向上剤の一例である調整剤4の製剤中に椎茸エキスをさらに配合することにより、菌数抑制効果をより促進することができた。椎茸エキスを含有する調製例3の製剤は、椎茸エキスを非含有の調製例4の製剤に比べて、食品の保存日数に対する菌数の増大が抑えられ、当該食品の保存期間の延長、すなわち日持向上効果が見られた。
【0105】
【表15】
【0106】
また、調製例3の製剤添加区および調製例4の製剤添加区において、ボイルブロッコリーの酸味および酸臭を官能評価した。ボイルブロッコリーについて、官能評価を実施し、酸味について評価した。官能評価は、当該技術分野の専門家10名が、酸味および酸臭について、いずれのボイルブロッコリーの方が少ないかを判定した。官能評価の結果、10名中10名が調製例3の製剤添加区において、酸味酸臭が少ないと答えた。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、例えば、食品添加剤および食品の製造分野、ならびに食品加工分野において有用である。
図1
図2
図3
図4