(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】IGFB3およびその受容体に関連する疾患の治療
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20220308BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220308BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220308BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220308BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2019523756
(86)(22)【出願日】2017-10-31
(86)【国際出願番号】 US2017059244
(87)【国際公開番号】W WO2018085252
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-10-22
(32)【優先日】2016-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】599170663
【氏名又は名称】バージニア コモンウェルス ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100156443
【氏名又は名称】松崎 隆
(72)【発明者】
【氏名】オウ、ヤングマン
(72)【発明者】
【氏名】ドズモロフ、ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】カイ、チン
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0286966(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/18
A61K 39/395
A61P 35/00 - 35/04
A61P 43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン様成長因子結合タンパク質3受容体(IGFBP-3R)に結合し活性化する抗体
であって、
配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、アミノ酸配列SASおよび配列番号33の相補性決定領域(CDR)を含む、抗体。
【請求項2】
前記抗体が、検出可能な標識を含むことを特徴とする、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
IGFBP-3Rを発現している癌の治療を必要とする患者において、IGFBP-3Rを発現している癌を治療するための医薬組成物であって、請求項1または2に記載の抗体の治療的有効量を含む、医薬組成物。
【請求項4】
前記癌が乳癌、結腸癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、肝臓癌、頭頸部癌、前立腺癌または液性腫瘍であることを特徴とする、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記液性腫瘍が白血病であることを特徴とする、請求項4に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、インスリン様成長因子結合タンパク質3(IGFBP-3)およびその受容体IGFBP-3Rに関連する疾患の治療法に関する。特に、本発明は、IGFBP-3Rアゴニストを用いる、癌を診断する方法ならびに、癌、メタボリックシンドロームおよび閉塞性呼吸障害を治療する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
2017年にはおよそ170万人の新たな癌患者が診断されるであろうと米国癌学会(American Cancer Society)は推定している。癌死亡率に関して、女性において、肺癌が癌死の最も大きな原因(25%)であり、乳癌(14%)および大腸癌(8%)がそれに続く。男性においては、肺癌(27%)、大腸癌(9%)および前立腺癌(8%)が癌死の主要原因である。これらの高い死亡率の癌の新しい療法が緊急に求められている。腫瘍治療薬の発見は、現在、腫瘍細胞を攻撃するための選択的かつ薬物アクセス可能な分子標的の大変深刻な不足に悩まされている。
【0003】
特に、米国癌学会によれば、米国の女性の約8人に1人(12%)は、その生涯において侵襲性乳癌(BC)を発症し、2016年には約40,000人の女性がBCにより死亡するであろうとされている。特に、薬物標的ER、PRおよびHER2の発現を欠くBCの異種亜型を構成するトリプルネガティブ乳癌(TNBC)は、すべてのBC診断例の15~20%を占めるが、なお不均衡な数の癌関連死に関与している1。TNBCは、ホルモン療法(例:タモキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬)または、HER2受容体を標的とする療法、例えばハーセプチン(トラスツズマブ)に反応を示さない。現在の治療法は主に化学療法および放射線療法に依存している。なぜなら、TNBCに対して具体的に認められた標的治療がないからである。化学療法および放射線療法に対する初期の反応にもかかわらず、多くの場合急速に耐性ができる。TNBCの生物学上の複雑さおよび、「従来の」治療標的の欠如を考慮すれば、新たな標的アプローチが緊急に求められている。
【0004】
肥満や座りがちな生活習慣が広まったため、かつ高齢化の結果として、メタボリックシンドロームはますます多くみられる深刻な健康状態である。例えばアメリカ合衆国において、集団の約34%がメタボリックシンドロームを抱えており、有病率は加齢とともに増加している。メタボリックシンドロームは、米国における50歳より上の集団の約60%が冒される。メタボリックシンドロームは、インスリン抵抗性、アテローム性心疾患(例:心疾患および脳卒中)および2型糖尿病を含むいくつかの消耗性疾患のリスク増加に関連している。これらの疾患の発症によって、苦しめられている人々のクオリティ・オブ・ライフに大きな悪影響が与えられ、すでに苦しい状態にある国の医療制度への負担が大きくなる。いくつかの治療は特定の症状に対して使用でき(例:高血圧に対する薬物など)、ライフスタイルの変化はプラス効果を持ち得るが、すべての患者が投薬に対して等しく良好に反応したり、ライフスタイルの変化の必要性に応えられるわけではない。メタボリックシンドロームを治療するための使用可能なさらなる薬剤を得ることは有益となろう。
【0005】
閉塞性呼吸障害(閉塞性肺疾患または気流閉塞としても知られる)は気道閉塞を特徴とする呼吸器疾患のカテゴリーである。慢性閉塞性肺疾患(COPD)および喘息を含むいくつかの疾患がこのカテゴリーに含まれる。これらの疾患の発生率は上昇している。例えば、世界の疾病負担研究(Global Burden of Disease Study)からの推定値によれば、COPDは、喫煙者も非喫煙者も苦しめるが、2013年では世界で3億人以上の人々を苦しめ、この疾患により1年で250,000人が死亡した。疾病負担およびその財務的影響は、例えば人口の高齢化によって増加すると予測される。2014年の時点では、世界で3億3千4百万の人々が喘息に罹患したと推定された。これは小児における最もよく見られる慢性疾患であり、その有病率もまた上昇している。症状を抑制するために使用可能な医薬はあるが、これらおよびその他のタイプの閉塞性呼吸障害を治療するためのさらなる改善方法および薬剤の提供が継続して求められている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の種々の特徴および利点は以下の発明の詳細な説明で述べるが、部分的にはその説明から自明であり、あるいは本発明の実施によって習得されるであろう。本発明は、明細書および添付請求項に具体的に記載されている組成物および方法によって実現、達成されるであろう。
【0007】
本開示は、極めて重要な抗腫瘍、抗炎症シグナル伝達カスケードであるIGFBP-3/IGFBP-3R軸について説明する。IGFBP-3およびその受容体であるIGFBP-3Rは、癌、メタボリックシンドローム、閉塞性呼吸障害および種々の炎症性疾患を含むいくつかの疾患に関与していることが見出された(IGFBP-3Rは「膜貫通タンパク質219」としても知られ、本明細書では「IGFBP-3R」および頭字語「TMEM219」は同義で使用されてもよい)。このような疾患に関して、いくつかの側面において、生成されるIGFBP-3のレベルは、IGFBP-3R(TMEM219)の十分な活性化を引き起こすには不十分であることが判定されている。したがって、本開示は天然リガンドIGFBP-3を代替する薬剤を提供する。本薬剤は、TMEM219に結合し活性化するTMEM219アゴニストであり、したがって、このような疾患および/または場合によってはこのような疾患の再発の症状を予防、治療または改善し、および/またはこのような疾患を患っている患者の予後(例:生存率、再発率、無病生存期間など)を改善するために用いることができる。一側面において、TMEM219アゴニストはモノクローナル抗体(mAb)である。このように、本開示は、癌(乳癌、結腸癌および肺癌を含む)、メタボリックシンドローム、閉塞性呼吸障害、炎症性疾患および関連疾患を治療するためのTMEM219アゴニストmAbの治療的使用について説明する。特に、TMEM219アゴニスト抗体は、これらの疾患を治療するための特有のメカニズムおよび標的特異性を有する新世代の治療薬を構成する。TMEM219アゴニストmAbは、正常な非疾患(例:非腫瘍)細胞に有害な悪影響(例:細胞損傷または細胞致死)を示さないので有利である。
【0008】
加えて、癌診断に関しては、腫瘍細胞におけるTMEM219の低発現レベルは、予後不良、例えば転移、再発および/または全生存可能性の低下のリスク増加を示すことが見出された。このように、所定の対応する基準値よりも低いTMEM219の発現レベルを有する患者には、一般的に積極的治療レジメンが推奨される。逆に、腫瘍細胞におけるTMEM219の高発現レベルを有する患者は、転移および再発リスクが低い、および/または生存可能性の高い比較的良好な予後を有する。したがって、副作用のほとんどない非積極的(したがって毒性の低い)治療レジメンが推奨される。
【0009】
TMEM219に結合し活性化するアゴニストを提供することが本開示の目的である。いくつかの側面において、アゴニストは小分子、ペプチド、ポリペプチドまたは抗体である。他の側面において、アゴニストは配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、アミノ酸配列ATS、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、アミノ酸配列SASおよび配列番号33からなる群から選択される少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)、またはこの少なくとも1つのCDRと少なくとも90%同一であるCDRを含む抗体である。さらなる側面において、抗体はi)配列番号2、配列番号6または配列番号10と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖(H鎖)、および/またはii)配列番号4、配列番号8または配列番号12と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖(L鎖)、を含む。さらなる側面において、i)重鎖は配列番号2と少なくとも90%同一であり、軽鎖は配列番号4と少なくとも90%同一であるか、ii)重鎖は配列番号6と少なくとも90%同一であり、軽鎖は配列番号8と少なくとも90%同一であるか、またはiii)重鎖は配列番号10と少なくとも90%同一であり、軽鎖は配列番号12と少なくとも90%同一である。いくつかの側面において、抗体は検出可能な標識を含む。
【0010】
本開示はまた、TMEM219を発現している癌の治療を必要とする患者において、TMEM219を発現している癌を治療する方法であって、TMEM219に結合し活性化するアゴニストの治療的有効量をその患者に投与することを含む方法を提供する。いくつかの側面において、アゴニストは小分子、ペプチド、ポリペプチドまたは抗体である。他の側面において、アゴニストは配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、アミノ酸配列ATS、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、アミノ酸配列SASおよび配列番号33からなる群から選択される少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)またはこの少なくとも1つのCDRと少なくとも90%同一であるCDRを含む抗体である。さらなる側面において、抗体はi)配列番号2、配列番号6または配列番号10と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖、および/またはii)配列番号4、配列番号8または配列番号12と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖、を含む。さらなる側面において、i)重鎖は配列番号2と少なくとも90%同一であり、軽鎖は配列番号4と少なくとも90%同一であるか、ii)重鎖は配列番号6と少なくとも90%同一であり、軽鎖は配列番号8と少なくとも90%同一であるか、またはiii)重鎖は配列番号10と少なくとも90%同一であり、軽鎖は配列番号12と少なくとも90%同一である。いくつかの側面において、癌は乳癌、結腸癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、肝臓癌または白血病である。
【0011】
本開示はまた、インスリン抵抗性の治療を必要とする患者においてインスリン抵抗性を治療する方法であって、TMEM219に結合し活性化するアゴニストの治療的有効量をその患者に投与することを含む方法を提供する。いくつかの側面において、アゴニストは小分子、ペプチド、ポリペプチドまたは抗体である。他の側面において、アゴニストは配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、アミノ酸配列ATS、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、アミノ酸配列SASおよび配列番号33からなる群から選択される少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)またはこの少なくとも1つのCDRと少なくとも90%同一であるCDRを含む抗体である。さらなる側面において、抗体はi)配列番号2、配列番号6または配列番号10と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖、および/またはii)配列番号4、配列番号8または配列番号12と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖、を含む。さらなる側面において、i)重鎖は配列番号2と少なくとも90%同一であり、軽鎖は配列番号4と少なくとも90%同一であるか、ii)重鎖は配列番号6と少なくとも90%同一であり、軽鎖は配列番号8と少なくとも90%同一であるか、またはiii)重鎖は配列番号10と少なくとも90%同一であり、軽鎖は配列番号12と少なくとも90%同一である。
【0012】
本開示はさらに、炎症性疾患の治療を必要とする患者において炎症性疾患を治療する方法であって、TMEM219に結合し活性化するアゴニストの治療的有効量をその患者に投与することを含む方法を提供する。いくつかの側面において、アゴニストは小分子、ペプチド、ポリペプチドまたは抗体である。他の側面において、アゴニストは配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、アミノ酸配列ATS、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、アミノ酸配列SASおよび配列番号33からなる群から選択される少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)またはこの少なくとも1つのCDRと少なくとも90%同一であるCDRを含む抗体である。さらなる側面において、抗体はi)配列番号2、配列番号6または配列番号10と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖、および/またはii)配列番号4、配列番号8または配列番号12と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖、を含む。さらなる側面において、i)重鎖は配列番号2と少なくとも90%同一であり、軽鎖は配列番号4と少なくとも90%同一であるか、ii)重鎖は配列番号6と少なくとも90%同一であり、軽鎖は配列番号8と少なくとも90%同一であるか、またはiii)重鎖は配列番号10と少なくとも90%同一であり、軽鎖は配列番号12と少なくとも90%同一である。いくつかの側面において、抗体は検出可能な標識を含む。いくつかの側面において、炎症性疾患は潰瘍性大腸炎、大腸炎、クローン病、アテローム性動脈硬化症、慢性消化性潰瘍、慢性閉塞性肺疾患、特発性肺線維症、結核、関節炎、慢性副鼻腔炎、喘息、肝炎、強直性脊椎炎、肝線維症、非アルコール性脂肪性肝炎または慢性歯周炎からなる群から選択される。さらなる側面において、関節炎は変形性関節症、関節リウマチ(RA)および乾癬性関節炎である。
【0013】
本開示はまた、癌を有する対象者の予後を判定し、それによって対象者を治療する方法であって、i)対象者からの腫瘍試料におけるTMEM219発現のレベルを測定し、ii)ステップi)で得られるTMEM219発現のレベルと、TMEM219発現の対応する参照レベルとを比較し、iii)TMEM219発現のレベルが、TMEM219発現の対応する参照レベルと同じであるか、または参照レベルよりも低い場合は、iv)患者の予後は不良であると判定して患者に積極的抗癌治療を行い、またはv)TMEM219発現のレベルが、TMEM219発現の対応する参照レベルよりも高い場合は、iv)患者の予後は良好であると判定して患者に非積極的抗癌治療を行う、ことを含む方法を提供する。いくつかの側面において、癌は乳癌、結腸癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、肝臓癌または白血病である。さらなる側面において、予後は患者における癌の再発のリスク、転移のリスク、患者の全生存期間および、患者に対する化学療法の有効性の予測の1以上を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】ヒト癌におけるIGFBP3およびTMEM219(IGFBP-3R)の遺伝子発現レベルを示す図である。CellX tool5を用いて、公表されている乳癌、大腸癌および肺癌の遺伝子発現データをTCGAから調べた。
【
図1B】ヒト癌におけるIGFBP3およびTMEM219(IGFBP-3R)の遺伝子発現レベルを示す図である。図は、Champions Oncology社(ハッケンサック、ニュージャージー州)によって提供されているChampions TumorGraft Databaseを用いた、肝細胞癌、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)、非小細胞肺癌(NSCLC)、大腸癌、卵巣癌、膵臓癌におけるTMEM219発現のRNA配列決定データ分析を示す。
【
図2】乳癌患者の生存率に対するTMEM219の高/低発現の影響を示す図である。KMプロット解析の評価は、TMEM219の高発現を有する乳癌患者群(n=423)とTMEM219の低発現を有する乳癌患者群(n=1237)と間の生存率の有意な差(P値=4.9E-6、HR=0.63、CI 0.52~0.77)を示している。
【
図3A】肺癌患者の生存率に対するIGFBP-3/IGFBP-3R発現の影響を示す図である。肺癌患者の生存率に対するTMEM219の高/低発現の影響をSynTargetツールおよび、GSE30219研究からのデータを用いて評価した。発現中央値に基づいて、TMEM219発現が高い群(n=162)と低い群(n=131)とに分類した。ログランクP値(P値=0.00108)を評価した。TMEM219低発現、IGFBP3低発現の場合を示す。
【
図3B】肺癌患者の生存率に対するIGFBP-3/IGFBP-3R発現の影響を示す図である。肺癌患者の生存率に対するTMEM219の高/低発現の影響をSynTargetツールおよび、GSE30219研究からのデータを用いて評価した。発現中央値に基づいて、TMEM219発現が高い群(n=162)と低い群(n=131)とに分類した。ログランクP値(P値=0.00108)を評価した。TMEM219高発現、IGFBP3高発現の場合を示す。
【
図3C】肺癌患者の生存率に対するIGFBP-3/IGFBP-3R発現の影響を示す図である。肺癌患者の生存率に対するTMEM219の高/低発現の影響をSynTargetツールおよび、GSE30219研究からのデータを用いて評価した。発現中央値に基づいて、TMEM219発現が高い群(n=162)と低い群(n=131)とに分類した。ログランクP値(P値=0.00108)を評価した。TMEM219高発現、TMEM219低発現の場合を示す。
【
図3D】肺癌患者の生存率に対するIGFBP-3/IGFBP-3R発現の影響を示す図である。肺癌患者の生存率に対するTMEM219の高/低発現の影響をSynTargetツールおよび、GSE30219研究からのデータを用いて評価した。発現中央値に基づいて、TMEM219発現が高い群(n=162)と低い群(n=131)とに分類した。ログランクP値(P値=0.00108)を評価した。IGFBP3高発現、IGFBP3低発現の場合を示す。
【
図4】細胞におけるTMEM219/IGFBP-3相互作用、腫瘍増殖のIGFBP-3誘発抑制の中枢経路、アポトーシスの誘導による腫瘍血管新生、転移および化学療法抵抗性ならびに癌細胞における腫瘍誘発NF B活性の抑制の模式図である。
【
図5A】TMEM219(IGFBP-3R)アゴニストmAb可変領域のヌクレオチドとアミノ酸配列を示す図である。mAb#245重鎖(配列番号
2)。
【
図5B】TMEM219(IGFBP-3R)アゴニストmAb可変領域のヌクレオチドとアミノ酸配列を示す図である。mAb#245軽鎖(配列番号
4)。
【
図5C】TMEM219(IGFBP-3R)アゴニストmAb可変領域のヌクレオチドとアミノ酸配列を示す図である。mAb#274重鎖(配列番号
6)。
【
図5D】TMEM219(IGFBP-3R)アゴニストmAb可変領域のヌクレオチドとアミノ酸配列を示す図である。mAb#274軽鎖(配列番号
8)。
【
図5E】TMEM219(IGFBP-3R)アゴニストmAb可変領域のヌクレオチドとアミノ酸配列を示す図である。TMEM219#274-hIgG1キメラ重鎖(配列番号
10)。
【
図5F】TMEM219(IGFBP-3R)アゴニストmAb可変領域のヌクレオチドとアミノ酸配列を示す図である。TMEM219#274-hIgG1キメラ軽鎖(配列番号
12)。
【
図6A】乳癌細胞におけるTMEM219アゴニストmAbの増殖抑制効果を示す図である。乳癌細胞におけるTMEM219発現を示す典型的なウエスタンイムノブロット(WIB)。
【
図6B】乳癌細胞におけるTMEM219アゴニストmAbの増殖抑制効果を示す図である。乳房細胞を集密度40%まで増殖させ、30nM IGFBP-3RアゴニストmAb#2(#274)を加えた1%FBS含有培地で3日間処理した。
【
図6C】乳癌細胞におけるTMEM219アゴニストmAbの増殖抑制効果を示す図である。異なる濃度のTMEM219アゴニストmAb#2(#274)で3日間乳癌細胞を同様に処理し、TC20自動細胞計数器を用いて生細胞を計数した(n=3、2連で)。MCF-10Aは正常乳腺上皮細胞であり、MCF-7、T47Dはエストロゲン応答性乳癌細胞であり、MDA-MB231、Hs578Tはトリプルネガティブ乳癌細胞である。
【
図7A】TMEM219を発現する生物発光MDA-MB-231細胞では見られるがTMEM219ノックダウンMDA231細胞では見られない、TMEM219アゴニストmAbの抗癌効果を示す図である。TMEM219 mAb#2(#274)での処理によって、カスパーゼ3の顕著な活性化、全PARPの減少、腫瘍で活性化されるNF-kBシグナル伝達の抑制が見られた。
【
図7B】TMEM219を発現する生物発光MDA-MB-231細胞では見られるがTMEM219ノックダウンMDA231細胞では見られない、TMEM219アゴニストmAbの抗癌効果を示す図である。TMEM219 mAb#2(#274)での処理によって細胞増殖抑制が見られた。
【
図7C】TMEM219を発現する生物発光MDA-MB-231細胞では見られるがTMEM219ノックダウンMDA231細胞では見られない、TMEM219アゴニストmAbの抗癌効果を示す図である。TMEM219#274-hIgG1キメラはMCF-7細胞溶解物中にTMEM219が検出される。
【
図7D】TMEM219を発現する生物発光MDA-MB-231細胞では見られるがTMEM219ノックダウンMDA231細胞では見られない、TMEM219アゴニストmAbの抗癌効果を示す図である。TMEM219#274-hIgG1キメラは、同様に、カスパーゼ3を活性化し、生物発光MDA-MB-231細胞における腫瘍で活性化されるNF-κBシグナル伝達を抑制する。
【
図7E】TMEM219を発現する生物発光MDA-MB-231細胞では見られるがTMEM219ノックダウンMDA231細胞では見られない、TMEM219アゴニストmAbの抗癌効果を示す図である。TMEM219のCRISPR-CAS9を用いたノックダウンは、TMEM219タンパク質発現の完全ノックダウン(上パネル、sgRNA-1およびsgRNA-2)および次のTMEM219アゴニストmAb#274誘発増殖抑制の消失をもたらした(下部パネル、sgRNA-1およびsgRNA-2)。
【
図7F】TMEM219を発現する生物発光MDA-MB-231細胞では見られるがTMEM219ノックダウンMDA231細胞では見られない、TMEM219アゴニストmAbの抗癌効果を示す図である。TMEM219 mAbの作用メカニズムを示す。TMEM219アゴニストmAbはTMEM219に特異的に結合し、ヒト癌においてカスパーゼ依存アポトーシスの誘導および、腫瘍で活性化されるNF-kBシグナル伝達経路の抑制によって抗腫瘍機能を発揮する。
【
図8A】生物発光同所性MDA231TNBCマウスにおけるTMEM219 mAbの抗腫瘍効果を示す図である。腫瘍細胞注入後15日目に、週に2回、1mg/kg体重の濃度でTMEM219 mAb#2(#274)を腹腔内投与した。TMEM219 mAb#2(#274)投与によって、腫瘍細胞注入後26日目および29日目に、それぞれ20%(p<0.05)および25%(p<0.01)までの腫瘍縮小が見られた。
【
図8B】生物発光同所性MDA231TNBCマウスにおけるTMEM219 mAbの抗腫瘍効果を示す図である。腫瘍細胞注入後15日目に、週に2回、1mg/kg体重の濃度でTMEM219 mAb#2(#274)を腹腔内投与した。TMEM219 mAb#2(#274)投与によって、TMEM219 mAbが投与されたマウスにおいて明白な体重変化および主要臓器における損傷は見られなかった。
【
図8C】生物発光同所性MDA231TNBCマウスにおけるTMEM219 mAbの抗腫瘍効果を示す図である。腫瘍細胞注入後15日目に、週に2回、1mg/kg体重の濃度でTMEM219 mAb#2(#274)を腹腔内投与した。TMEM219 mAb#2(#274)投与によって、腫瘍細胞注入後26日目および29日目に、それぞれ20%(p<0.05)および25%(p<0.01)までの腫瘍縮小が見られた。
【
図9A】PDX TNBCにおけるTMEM219を示す図である。PDX TNBC細胞におけるタンパク質レベルでのTMEM219の発現プロフィール。
【
図9B】PDX TNBCにおけるTMEM219を示す図である。PDX TNBC細胞におけるmRNAレベルでのTMEM219の発現プロフィール。
【
図9C】PDX TNBCにおけるTMEM219を示す図である。化学療法感受性細胞(WHIM30)および化学療法抵抗性細胞(WHIM2)におけるTMEM219発現の免疫組織化学染色。原倍率40倍。
【
図9D】PDX TNBCにおけるTMEM219を示す図である。化学療法感受性および化学療法抵抗性細胞PDX TNBC細胞におけるTMEM219アゴニストmAbの増殖抑制効果。細胞をmAb#2(#274)で3日間処理した。n=3、p/s:放射輝度(光子/秒)、***:p<0.001、対照:ビヒクル(マウスIgG 50nM)。
【
図10A】生物発光同所性WHIM30 PDX TNBCマウスにおけるTMEM219 mAbの抗腫瘍効果を示す図である。TMEM219 mAb#2投与によって、腫瘍細胞注入後30日目において29%までの腫瘍縮小が見られた。
【
図10B】生物発光同所性WHIM30 PDX TNBCマウスにおけるTMEM219 mAbの抗腫瘍効果を示す図である。TMEM219 mAbが投与されたマウスにおいて、明らかな体重も主要臓器における損傷も見られなかった。
【
図10C】生物発光同所性WHIM30 PDX TNBCマウスにおけるTMEM219 mAbの抗腫瘍効果を示す図である。マウスIgGが投与された対照と、TMEM219 mAbが投与された腫瘍との30日目の原発腫瘍サイズの比較を示す。マウスIgGまたはTMEM219 mAb#2は、腫瘍細胞注入後5日目に週に2回1mg/kg体重の濃度で腹腔内に投与した。
【
図10D】生物発光同所性WHIM30 PDX TNBCマウスにおけるTMEM219 mAbの抗腫瘍効果を示す図である。マウスIgGが投与された対照と、TMEM219 mAbが投与された腫瘍との30日目の原発腫瘍重量の比較を示す。マウスIgGまたはTMEM219 mAb#2は、腫瘍細胞注入後5日目に週に2回1mg/kg体重の濃度で腹腔内に投与した。
【
図11】正常肺上皮細胞およびNSCLC細胞におけるIGFBP-3/TMEM219軸を示す図である。TMEM219は、正常細胞および非小細胞肺癌細胞において同様なレベルで発現される。しかしながら、IGFBP-3の発現は、BEAS2B正常肺上皮細胞と比較して癌細胞において顕著に抑制されている。もっと驚くべきことは、IGFBP-3は、CSCC20細胞を除いて大部分のNSCLC細胞においてタンパク分解されていることである。
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図12A】肺癌細胞(BEAS2B-NNKA)には有するが正常肺上皮細胞(BEAS2B)には有さないTMEM219アゴニストmAbの増殖抑制効果を示す図である。集密度40%まで増殖させたNKA細胞を示す。
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図12B】肺癌細胞(BEAS2B-NNKA)には有するが正常肺上皮細胞(BEAS2B)には有さないTMEM219アゴニストmAbの増殖抑制効果を示す図である。1mM mAb#1(#245)で3日間処理した対照。
【
図12C】肺癌細胞(BEAS2B-NNKA)には有するが正常肺上皮細胞(BEAS2B)には有さないTMEM219アゴニストmAbの増殖抑制効果を示す図である。30nM mAb#(#274)で3日間処理した対照。
【
図12D】肺癌細胞(BEAS2B-NNKA)には有するが正常肺上皮細胞(BEAS2B)には有さないTMEM219アゴニストmAbの増殖抑制効果を示す図である。同様に、BEAS2B-NNKA肺癌を1~100nM TMEM219アゴニストmAb#2(#274)で3日間処理し、生細胞をTC20自動細胞計数器を用いて(n=3、2連で)計数した。
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図12E】肺癌細胞(BEAS2B-NNKA)には有するが正常肺上皮細胞(BEAS2B)には有さないTMEM219アゴニストmAbの増殖抑制効果を示す図である。同様に、正常肺上皮細胞を1~100nM TMEM219アゴニストmAb#2(#274)で3日間処理し、生細胞をTC20自動細胞計数器を用いて(n=3、2連で)計数した。
【
図13A】CACに対するAATの治療効果の可能性を示す図である。最後のDSSサイクル(77日目)後に3日毎に18日間AATで処理し、98日目に腫瘍を検査した。結腸組織における肉眼的変化。
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図13B】CACに対するAATの治療効果の可能性を示す図である。最後のDSSサイクル(77日目)後に3日毎に18日間AATで処理し、98日目に腫瘍を検査した。結腸組織における腫瘍発生率(* p<0.05、** p<0.01)。
【
図13C】CACに対するAATの治療効果の可能性を示す図である。最後のDSSサイクル(77日目)後に3日毎に18日間AATで処理し、98日目に腫瘍を検査した。組織をさらに処理してヘマトキシリン/エオジン染色を行った。原倍率は、それぞれ40倍、100倍。
【
図13D】CACに対するAATの治療効果の可能性を示す図である。最後のDSSサイクル(77日目)後に3日毎に18日間AATで処理し、98日目に腫瘍を検査した。組織をさらに処理してIHC染色を行った。原倍率は、それぞれ40倍、100倍。
【
図13E】CACに対するAATの治療効果の可能性を示す図である。最後のDSSサイクル(77日目)後に3日毎に18日間AATで処理し、98日目に腫瘍を検査した。AAT処理は、循環中のIGFBP-3タンパク質分解の顕著な抑制をもたらす。
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図14A】AOM/DSSマウスモデルにおける結腸炎関連結腸癌に対するTMEM219アゴニストmAb#2(#274)の抗腫瘍効果を示す図である。
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図14B】AOM/DSSマウスモデルにおける結腸炎関連結腸癌に対するTMEM219アゴニストmAb#2(#274)の抗腫瘍効果の作用メカニズムを示す図である。TMEM219 mAb#2(#274)は結腸癌の細胞増殖を抑制する。
【
図14C】AOM/DSSマウスモデルにおける結腸炎関連結腸癌に対するTMEM219アゴニストmAb#2(#274)の抗腫瘍効果の作用メカニズムを示す図である。TMEM219 mAb#1(#245)は、HT-29結腸癌細胞においてTNF-αで活性化された炎症性NF-κBシグナル伝達を抑制する。
【
図15A】HFDを与えたマウスにAATを投与することによって、インスリン感受性の上昇と、肝脂肪合成および内臓脂肪炎症の減少に伴うIGFBP-3タンパク質分解の減少をもたらすことを示す図である。AATの有り無しで毎週(60mg/体重(kg))7週間処理したHFDを与えたマウスにおけるインスリン耐性試験を示す。ITT前に、マウスを6時間絶食させた(1群あたりn=3)。
【
図15B】HFDを与えたマウスにAATを投与することによって、インスリン感受性の上昇と、肝脂肪合成および内臓脂肪炎症の減少に伴うIGFBP-3タンパク質分解の減少をもたらすことを示す図である。AATの有り無しの7週間処理での肝臓(A,C)および内臓脂肪(B,D)のHE染色。AAT処理は、脂肪肝の減少と、内臓脂肪への単球の侵入をもたらす。
【
図15C】HFDを与えたマウスにAATを投与することによって、インスリン感受性の上昇と、肝脂肪合成および内臓脂肪炎症の減少に伴うIGFBP-3タンパク質分解の減少をもたらすことを示す図である。AATの有り無しで7週間処理したHFDを与えたマウスにおける血清IGFBP-3タンパク質分解レベル(全IGFBP-3に対するIGFBP-3フラグメントの比)(* P<0.05)。
【
図16】TMEM219は、IGFBP-3誘発インスリン感受性改善機能を媒介することを示す図である。IGFBP-3アゴニストモノクローナルAb(#245および#274)は初期ヒト脂肪細胞におけるグルコース取り込みのTNF-a誘発抑制を抑制するが、非アゴニストmAb(C314)はそれを抑制しない(n=3、2連で、** p<0.01)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、IGFBP-3およびその受容体のIGFBP-3Rに関連する疾患、例えばIGFBP-3およびIGFBP-3Rの機能異常によって引き起こされる疾患および状態を治療するための治療薬およびそれらの使用方法を説明する。例えばIGFBP-3Rの活性化の欠如(例:IGFBP-3の産生または輸送の欠如)によって引き起こされる疾患の場合は、IGFBP-3Rに結合し活性化する薬剤(すなわちIGRBP-3Rアゴニスト)がIGFBP-3代替物として用いられる。このように、それらは癌、メタボリックシンドローム、閉塞性呼吸障害、特定の炎症性疾患および関連障害の症状を治療または改善するために用いられる。加えて、腫瘍細胞におけるIGFBP-3Rの発現レベルは癌患者の予後の指標として用いられ、低レベルは予後不良を示し、高レベルは比較的予後良好を示す。この種の評価により、医師は個々の患者に応じて推奨される癌治療レジメンを合わせることが可能になる。
【0016】
「IGFBP-3R」または「TMEM219」とは、ヒト「インスリン様成長因子結合タンパク質3」または「IGFBP-3」の受容体として機能するホモ・サピエンス(ヒト)タンパク質のことをいう。この受容体は、「膜貫通タンパク質219」としても知られ、TMEM219遺伝子(NCBIデータベースにおける遺伝子ID124446)によってコードされる。
【0017】
「アゴニスト」は、受容体に結合し、受容体を活性化して生物学的反応を引き起こす化学物質(化合物、物質など)を意味する。いくつかの側面において、アゴニストは、受容体「IGFBP-3R」に特異的に結合するモノクローナル抗体(mAb)である。結合によって、mAbは受容体を活性化する。すなわちその生物活性はアゴニストまたは天然リガンドが結合していない活性化レベルと比較して誘発されたり増強されたりする。
【0018】
化合物の「治療的有効量」は、疾患の少なくとも1つの症状を治療または予防または改善する(減らす)のに十分な量である。
【0019】
疾患を「治療」または「処置」するとは、治療を受けた人において、1以上の好ましくない疾患の症状が治療を受けていない人と比較してなくなる(すなわち患者が治癒する)か軽減する、および/または症状が存在する時間間隔が短くなる、および/または症状の発現が遅延することを意味する。
【0020】
「予防」または「防止」とは、それが現れる前に、例えば疾患、症状などの証拠が検出可能または測定可能になる前に、疾患または疾患の様相または症状の発症を止めるかまたは防ぐこと(撃退することなど)をいう。
【0021】
「VH CDR」とは、抗体の重鎖可変ドメインの相補性決定領域(CDR)のことをいう。「LH CDR」とは、抗体の軽鎖可変ドメインのCDRのことをいう。抗原受容体の可変ドメインのアミノ酸配列に関して非連続的に配置された3つのCDR(CDR1、CDR2およびCDR3)が存在する。抗原受容体は、一般的には、2つの可変ドメイン(2つの異なるポリペプチド鎖上、すなわち1つは重鎖上、1つは軽鎖上)で構成されるため、各抗原受容体に対して一括して接触することができる6つのCDRが存在する。1つの抗体分子は2つの抗原受容体を有し、したがって合計12のCDRが含むが、五量体IgM分子上では60のCDRが見られる。
【0022】
アゴニスト
本明細書に記載のアゴニストはIGFBP-3Rを活性化する。いくつかの側面において、このような分子は、例えば下記のIGFBP-3結合部位において特異的または選択的に受容体に結合する。アゴニストは、受容体に結合する多くの公知のタイプの分子、例えば小分子薬物、抗体などのいずれであってもよい。アゴニストまたはIGFBP-3であるモノクローナル抗体(mAb)およびその抗体に含まれるCDRが本明細書に開示されている。受容体にCDRを送達するためにmAbが用いられてもよい(すなわち抗体は、1以上のCDRと受容体結合部位との間の接触を媒介するために用いられてもよい)が、CDRの1以上を含む他の分子、例えば1以上のCDRを含むペプチドおよびポリペプチドもまたそのために用いられてもよい。このようなペプチドおよびポリペプチドは、タンパク質分解を減少させ、バイオアベイラビリティを増加するために、例えばペプチド鎖中に「非天然型」もしくは切断不可能なアミノ酸(例:Dアミノ酸、ノルロイシンノルバリン、オルニチン、s-ベンジルシステインなど)を含むことにより、またはN-アシル基、減少したペプチド結合などを組み込むことにより、COO-末端をアミド化することにより、環化、ペグ化もしくはグリコシル化などにより保護されてもよい。あるいは、アゴニストは、受容体結合部位に適合し、十分に結合して受容体を活性化する小分子薬物であってもよい。「小分子薬物」とは、低分子量(<900ダルトン)であり、1nm程度のサイズを有する有機化合物を意味する。このような小分子は、一般的には静電結合、水素結合および/またはファンデルワールス力/ロンドン分散力の1以上によって標的受容体と結合する。いくつかの側面において、抗体ではないアゴニストは、本明細書に記載のモノクローナル抗体に関して下記に示されている、アミノ酸配列がGLKGSSAGQL(配列番号13)であるIGFBP-3Rの残基116~125またはその残基内に結合する。
【0023】
いくつかの側面において、本発明の実施に用いられるIGFBP-3Rアゴニストは、IGFBP-3Rに特異的に結合し活性化するモノクローナル抗体(mAb)である。一般に、機能研究(
図6、
図12および
図14参照)は、ED
50(薬物を投与される細胞において測定される生物学的作用に関して最大効果の50%を引き起こす有効量)がおよそ20nMであることを示している。このように、mAbは、一般に約1~100nM、例えば約5~50nM、例えば約5、10、15、20、25、30、35、40、45もしくは50nMまたはそれ以上の範囲のED50を示す。
【0024】
mAbは、天然リガンドによって結合される残基と同じ残基に結合してもよいし、結合しなくてもよい。しかしながら、それらは受容体を十分に活性化するように結合する。いくつかの側面において、抗体は、リガンドIGFBP-3が結合する部位と同じ部位に結合する。結合の正確な位置がどこであれ、mAbは天然リガンド結合の欠如の代わりになり/それを埋め合わせ、結合すればそれらは受容体を活性化する。いくつかの側面において、mAbは例えばアクセス可能であり膜に覆われていないIGFBP-3Rの部分、例えばIGFBP-3Rの残基1~197に結合する。さらにまた、いくつかの側面において、mAbは、アミノ酸配列がGLKGSSAGQL(配列番号13)であるIGFBP-3Rの残基116~125またはその残基内に結合する。つまり、いくつかの側面において、mAbは配列番号13内の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8または9連続アミノ酸と結合するか、または配列番号13の全10アミノ酸に結合する。さらなる他の側面において、mAbは配列が連続的ではない1~9アミノ酸に結合する。すなわちこの配列内の1以上の(例えば約1~9の)アミノ酸はmAbに直接に結合しない。mAbに対する結合は一般に、例えば静電結合、水素結合および/またはファンデルワールス力/ロンドン分散力の1以上による非共有結合である。
【0025】
例示的なmAbが本明細書に記載されており、例示的なmAbの配列は
図5A~Fに示されている。本発明が、本明細書に開示された正確な配列を有するmAbの使用に限定されないことは当業者には明らかであろう。例えば、得られるmAbがIGFBP-3Rに結合し、IGFBP-3Rのアゴニストとして機能する能力を保持する限り、配列に保存的および/または非保存的アミノ酸置換を行ってもよい。このようなバリアントは一般に、本明細書に開示された配列に対して少なくとも約50%の一致を示し、例えば、開示された配列に対して少なくとも約50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の一致を示す。加えて、本明細書に記載の抗体の1以上の相補性決定領域(CDR)を含む抗体が設計され作製されてもよい。すなわち、それらは、本明細書に記載の少なくとも1つのパラトープまたは抗原結合領域(例:少なくとも1つのCDR)を含むが、異なる非CDR配列も含む。他の変異体は、限定するものではないが、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体、IGFBP-3R(例:ヒトIGFBP-3R)に結合する抗体フラグメント、Fab'、F(ab')2、F(ab')3、一価scFv、二価scFv、単一ドメイン抗体などを含む。抗体はIgG、IgMもしくはIgA抗体またはその抗原結合フラグメントであってもよい。加えて、抗体は、以下で詳細に説明されているように検出可能な標識で標識されてもよく、例えばグリコシル化などの別な方法で改変されてもよい。そのようなバリアントはすべて、そのバリアントがIGFBP-3Rに結合し、IGFBP-3Rのアゴニストとして機能する限りは本発明に含まれる。
【0026】
いくつかの側面において、アゴニストはTMEM219#245、TMEM219#274またはTMEM219#274-hIgG1キメラと呼ばれる抗体である。最後はTMEM219#274のヒトIgG1キメラである。これらの例示的な抗体の配列は
図5A~Fに示されており、表1~6はTMEM219#245、TMEM219#274およびTMEM219#274-hIgG1キメラの重鎖および軽鎖のCDR配列を示す。表に示した同一性(%)を算出するために、TMEM219#245は、重鎖CDRに関しては生殖系列IGHV9の遺伝子配列と比較し、軽鎖CDRに関してはIGKV9の遺伝子配列と比較したが、TMEM219#274の重鎖CDRおよび軽鎖CDRは、それぞれIGHV9およびIGKV6の遺伝子配列と比較した。TMEM219#274-hIgG1キメラのCDR配列とTMEM219#274のCDR配列とは同じであることに注意が必要である。抗体において、明確さが必要な場合、その抗体のCDRは第1、第2、第3などと呼ばれてもよいことにも注意が必要である。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【0027】
いくつかの側面において、抗体は、以下:(a)配列番号15と少なくとも90%同一であるVH CDR、(b)配列番号17と少なくとも90%同一であるVH CDR、(c)配列番号19と少なくとも90%同一であるVH CDR、(d)配列番号21のVL CDR1と少なくとも90%同一であるVL CDR、(e)配列番号23と少なくとも90%同一であるVL CDRおよび、(f)配列ATSと少なくとも90%同一であるVL CDR、に示す抗体TMEM219 mAb#1(#245)のCDRの1以上を含む。すなわち、配列は、示された配列と約90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%までも同一である。
【0028】
他の側面において、抗体は、以下:(a)配列番号25と少なくとも90%同一であるVH CDR、(b)配列番号27と少なくとも90%同一であるVH CDR、(c)配列番号29と少なくとも90%同一であるVH CDR、(d)配列番号31のVL CDR1と少なくとも90%同一であるVL CDR、(e)配列SASと少なくとも90%同一であるVL CDRおよび、(f)配列番号33と少なくとも90%同一であるVL CDR、に示す抗体TMEM219 mAb#2(#274)のCDRの1以上を含む。すなわち、配列は、示された配列と約90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%までも同一である。
【0029】
いくつかの側面において、抗体は、以下:(a)配列番号25と少なくとも90%同一であるVH CDR、(b)配列番号27と少なくとも90%同一であるVH CDR、(c)配列番号29と少なくとも90%同一であるVH CDR、(d)配列番号31のVL CDR1と少なくとも90%同一であるVL CDR、(e)配列SASと少なくとも90%同一であるVL CDRおよび、(f)配列番号33と少なくとも90%同一であるVL CDR、に示す抗体TMEM219#274-ヒトIgG1(#274-hIgG1)キメラのCDRの1以上を含む。すなわち、配列は、示された配列と約90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%までも同一である。
【0030】
本明細書に記載の方法に使用するための適切な抗体は、当該技術分野で公知の技術を用いてハイブリドーマから得られることは当業者には明らかであろう。あるいは、抗体は当該分野で周知の組換え技術、例えば細胞培養または細菌培養によって作製されてもよく、さらにはペプチド化学合成によって合成的に作製されてもよい。
【0031】
いくつかの側面において、抗体は癌などの疾患を治療するために用いられる。これらの側面において、抗体は他のエフェクター分子を含むように改変されてもよい。抗体に結合されることができるエフェクター分子の限定されない例は、毒素、治療用酵素、抗生物質、放射標識ヌクレオチドなどを含む。当該技術分野で公知のように、抗体をエフェクター分子に結合させるために連結分子を用いてもよい。このようなエフェクターは、治療される疾患が癌である場合に特に有用な場合がある。
【0032】
加えて、コード核酸は、例えば遺伝コードの重複性のため、
図5A~Fに示されたものと同一である必要はない。一般に、コード配列は、本明細書に記載の抗体を生成するが、特定の方法での産生、例えば植物細胞、哺乳動物細胞または細菌宿主細胞での産生のためにコドン最適化されてもよく、されなくてもよい。本発明に含まれる核酸は、限定するものではないがDNAおよびRNAを含み、本明細書に開示された配列に少なくとも約90%相同である(例:約90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%までも相同である)配列を含む。さらにまた、本発明は、コード核酸配列を含むベクター(プラスミド、コスミド、ウイルスベクターなど)ならびに、核酸配列および/またはベクターを含む細胞を含む。
【0033】
組成物
本発明はまた、本明細書に記載のアゴニスト(例:抗体)の1以上を含む組成物を含む。組成物中の成分は、それらが標識されていようといまいと、その抗体が診断法に用いられるか、治療法に用いられるかに応じて異なることは当業者には明らかであろう。
【0034】
治療法に用いられる場合、本明細書に記載の化合物は、一般に医薬組成物/製剤として送達(投与)される。本組成物は、一般に本明細書に記載の1以上の実質的に精製された抗体および、水性または油性であってもよい薬理学的に適切な(生理学的に適合性の)担体を含む。いくつかの側面において、このような組成物は溶液もしくは懸濁液または固形、(例:錠剤、丸薬、粉末剤)として調製される。乳化製剤と同様に、投与前に液体に添加される、溶液または懸濁液に適した固形(例:化合物の凍結乾燥形)もまた企図される。いくつかの側面において、液剤は水性または油性の懸濁液または溶液である。いくつかの側面において、活性成分は、薬学的に許容され活性成分と適合する賦形剤、例えば薬学的に許容される塩と混合される。適切な賦形剤は、例えば水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、またはその組み合わせを含む。加えて、本組成物は少量の補助剤、例えば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、防腐剤などを含んでもよい。組成物の経口剤を投与することが望まれる場合、種々の増粘剤、風味剤、希釈剤、乳化剤、分散助剤または結合剤などが添加される。本発明の組成物は、投与に適した形態の組成物を提供するために、任意のこのような追加の成分を含んでもよい。製剤中の抗体の最終量は様々であるが、一般に約1~99%である。本発明に使用するためのさらに他の適切な製剤は、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences、第22版(2012年版、Allen、Adejarem DesselleおよびFelton)に記載されている。
【0035】
薬学的に許容される担体として役立つことができる物質の例には、限定するものではないが、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(例:ヒト血清アルブミン)、緩衝物質(例:ツイン80、リン酸塩、グリシン、ソルビン酸またはソルビン酸カリウム)、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質(例:プロタミン硫酸塩、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウムまたは亜鉛塩)、コロイダルシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、羊毛脂、糖(例:ラクトース、グルコースおよびショ糖);デンプン(例:コーンスターチおよびポテトスターチ);セルロースおよびその誘導体(例:カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース);トラガント末;モルト;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えばカカオバターおよび座薬ワックス;オイル、例えば落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーンオイルおよび大豆油;グリコール、例えばプロピレングリコールまたはポリエチレングリコール;エステル、例えばオレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;アルギン酸、パイロジェンフリー水、等張食塩水、リンゲル液、エチルアルコールおよびリン酸緩衝液溶液が含まれるのはもちろん、他の無毒の適合性滑沢剤、例えばラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムだけでなく、着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、風味剤および香料、防腐剤および抗酸化剤もまた、製剤者の判断に従って組成物に含まれることができる。
【0036】
「薬学的に許容される塩」とは、比較的無毒の、本発明の化合物の無機酸および有機酸付加塩ならびに塩基付加塩のことをいう。これらの塩は、化合物の最終分離精製時に原位置で調製することができる。具体的には、酸付加塩は、その遊離塩基型で精製された化合物と適切な有機または無機酸とを個々に反応させ、それによって形成される塩を単離をすることによって調製することができる。例示的な酸付加塩は、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、燐酸塩、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、燐酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩、メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩、スルファミン酸塩、マロン酸塩、サリチル酸塩、プロピオン酸塩、メチレン-ビス-β-ヒドロキシナフトエ酸塩、ゲンチジン酸塩、イセチオン酸塩、ジ-p-トルオイル酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シクロヘキシルスルファミン酸塩およびラウリルスルホン酸塩などを含む。例えばS.M.Bergeらの「医薬塩」、J. Pharm. Sci., 66, 1-19 (1977)(参照によって本願に組み込まれる)を参照のこと。塩基付加塩もまた、その精製された酸型の化合物と適切な有機または無機塩基とを個々に反応させ、それによって形成される塩を単離することによって調製することができる。塩基付加塩は薬学的に許容される金属塩およびアミン塩を含む。適切な金属塩はナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩およびアルミニウム塩を含む。ナトリウム塩およびカリウム塩が好ましい。適切な無機塩基付加塩は金属塩基から調製され、それらは水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛などを含む。適切なアミン塩基付加塩は、安定な塩を形成するのに十分な塩基性を有するアミンから調製され、好ましくは、その低毒性および、医療用途への許容性のために医薬化学で頻繁に使用されるアミンである、アンモニア、エチレンジアミン、N-メチル-グルカミン、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、ジエタノールアミン、プロカイン、N-ベンジルフェネチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、水酸化テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミン、ジベンジルアミン、エフェナミン、デヒドロアビエチルアミン、N-エチルピペリジン、ベンジルアミン、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、塩基性アミノ酸(例:リジンおよびアルギニン)およびジシクロヘキシルアミンなどを含む。
【0037】
本組成物は、接種または注射(例:静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、耳内、関節内、乳房内、腫瘍内など)、局所投与および、上皮細胞または皮膚粘膜被覆細胞を通じての吸収(例:経鼻、経口、膣内、直腸内、消化管粘膜内など)を含むがこれに限定されない任意の適切な経路を介して生体内に投与されてもよい。他の適切な処置は、限定するものではないが、(例えばミストまたはスプレーなどの)吸入処置、(例えば丸薬、カプセル、液体などの)経口処置、腟内処置、鼻腔内処置、直腸内処置などを含む。好ましい実施形態において、投与方法は経口投与または注射投与である。加えて、本組成物は、他の治療法、例えば免疫系を高める物質、種々の化学療法薬、抗生剤などと組み合わせて投与されてもよい。
【0038】
投与される抗体の用量は、例えば疾患の正確な種類、投与方法、患者の全般的な健康などの要素に応じて様々であるが、一般に、その範囲内にあるすべての整数およびその小数を含めて、約1~100mg/kg体重または約2.5~75mg/kg体重または5~50mg/kg体重の範囲である。
【0039】
診断法
いくつかの側面において、本明細書に記載の抗体は、IGFBP-3R(TMEM219)の発現レベルを検出して、癌を診断し予後を判定するために用いられる。この場合において、抗体は検出可能なレポーター分子で標識されていてもよい。本明細書において、レポーター分子は、アッセイを用いて検出されてもよい任意の一部分として定義される。抗体に結合されてもよいレポーター分子の限定されない例は、限定するものではないが酵素、放射性標識、ハプテン、蛍光標識、燐光分子、化学発光分子、発色団、発光性分子、光親和性分子、二次抗体、三次抗体および有色粒子またはリガンド(例:ビオチン)を含む。当該技術分野で公知のように、抗体にレポーター分子を結合させるために連結分子が用いられてもよい。さらなる側面において、抗体は、例えばビーズ上またはアッセイプレートのウェル内などでのアッセイに使用するために固体担体に固定されてもよい。
【0040】
診断剤のための組成物は、組成物のための上記の成分のいずれも含むことができるが、生理学的適合性を高めるための注意をあまり必要としない。一般に、アッセイ溶液は水性であり、緩衝化されており、防腐剤、種々の塩などを含んでもよい。抗体を含む容器を含むキットもまた提供される。キットは、他の試薬(例:検出可能な標識を検出するための試薬)、使用説明書、陽性および/または陰性参照標準などを含んでもよい。
【0041】
診断アッセイは一般に、対象者から対象の生物学的試料(例:血液または血漿試料、組織試料、生検試料など)を入手し、対象の標的分子、例えばTMEM219分子への抗体の結合を可能にする条件下で、本明細書に記載の1以上の抗体に試料を暴露することを含む。抗体は一般に、検出可能な標識を含み、これは、対象の分子への結合後、当該技術分野で公知であり、異なる各標識に特異的な方法によって検出され、標識抗体の量は、下記のように、例えば1以上の基準値の使用によって、試料中に存在する対象の分子の量に関連付けられる。
【0042】
癌の予後判定および治療
本明細書に記載の方法は、癌の診断および/または癌の診断の確認のために用いられ、および/または癌患者の予後判定、例えば転移能、再発の可能性および生存の可能性の1以上の予測のために用いられる。いくつかの側面において、患者の治療は、この方法の結果に合わせて行われる(調整、選択など)。このようにして評価されてもよい癌は、限定するものではないが、乳癌、結腸癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、肝臓癌および白血病を含む。
【0043】
このように、本発明は、癌を有する対象者の予後を判定し、それに応じて対象者を治療する方法であって、i)対象者からの腫瘍試料(例:生検試料)におけるTMEM219発現のレベルを測定し、ii)ステップi)で得られるTMEM219発現のレベルと、TMEM219発現の参照レベルとを比較し、iii)TMEM219発現のレベルが、TMEM219発現の参照レベルと同じであるか、または参照レベルよりも低い場合は、iv)患者の予後は不良であると判定して患者に積極的抗癌治療(この例はTMEM219アゴニスト抗体と化学療法、放射線療法、アジュバント療法またはホルモン療法との併用療法を含む)を行い、v)TMEM219発現のレベルが、TMEM219発現の参照レベルよりも高い場合は、iv)患者の予後は良好であると判定して患者に非積極的抗癌治療(この例はTMEM219アゴニスト抗体と化学療法または放射線療法との併用療法を含む)を行う、ことを含む方法を提供する。腫瘍試料におけるTMEM219発現のレベルは、例えば抗体(一般に検出可能な標識で標識されている)などを用いてタンパク質自体を測定すること、例えばプライマーを用いるPCRなどにより、タンパク質をコードする(一般に検出可能な標識で標識されている)mRNAを測定すること、を含むがこれに限定されないタンパク質発現を測定するための多くの公知の方法のいずれかによって測定される。
【0044】
TMEM219発現のレベルが測定されたら、そのレベルは少なくとも1つの基準値と比較される。適切な基準値の設定は当該技術分野で公知である。一般に、健康な比較個体、すなわち本例においては癌を有していない個体の1以上の適切な対照群におけるTMEM219発現の量を示すこのような値は、対象の物質(タンパク質、mRNAなど)を測定することによって設定される。しかしながら、さらなる基準値、例えば高レベルおよび/または低レベルのTMEM219発現を有する他の癌患者からの組織を用いて作成した基準値および、患者自身からの癌および/または非癌組織に基づく基準値を用いてもよい。基準値は、癌を有しているか、または癌を有していた患者で、癌を治療されていたか、または癌を治療されていなかった患者、例えば寛解期の患者、癌を積極的に治療されている患者などから得られてもよい。対照は、必要に応じて、例えば年齢、性別、民族性、全般的健康、生活様式などに合致させてもよいし、させなくてもよい。
【0045】
本明細書において、基準値と比較して「同じ」、「高い」または「低い」TMEM219発現のレベルは、それぞれ、基準値と同じ(例:基準値の+/-約5~10%)か、または基準値より高い、例えば基準値より少なくとも約10%高いか、または基準値より低い、例えば基準値より少なくとも約10%以上低い。いくつかの側面において、「同じ」mRNAの量は、大腸癌に対して6.06、卵巣癌に対して5.80、膵臓癌に対して5.93、肝細胞癌に対して5.43、NSCLCに対して5.77、TNBCに対して5.91であるLog[1Kb長さあたり、百万リードあたりのリード数(RPKM)+1]の約1~5%以内である。「高」レベルは、前記のLog(RPKM+1)値よりも少なくとも約5%高い値である。「低い」レベルは、前記のLog(RPKM+1)値よりも少なくとも約5%低い値である。例えば、大腸癌に関しては、「同じ」値は、約6.363~約5.757の範囲内にあり、高い値は6.363より高く、低い値は5.757より低い。あるいは、「同じ」範囲は、示された値の1~10%以内であり、低い値は少なくとも1~10%低く、高い値は示された基準値よりも少なくとも1~10%高くてもよい。TMEM219の発現レベルが、適切な対応する基準値と比較して同じかまたはそれより低いことが認められる患者は予後不良であり、例えば転移、再発および短い全生存期間の1以上の高い可能性を有するとみなされる。このような患者は、下記のように積極的治療レジメンで治療される。基準値よりも高いTMEM219の発現レベルを有することが認められる患者は、予後良好であり、例えば転移、再発の1以上の低い可能性、全体的に高い生存率の期待値を有するとみなされる。このような患者は、下記のように非積極的治療レジメンで治療され、積極的治療の好ましくない有害な副作用に苦しむことを避けることができる。このような患者は実際、治療(すでに治療を受けている場合は、さらなる治療)を受けなくてもよいが、継続的にTMEM219の発現レベルを監視することによって利益を得る可能性がある。
【0046】
適切な治療レジメンを選択することは熟練した医師の範疇である。治療レジメンは、癌化学療法薬および/または放射線および/または手術の使用で構成されてもよい。癌化学療法薬は、癌の増殖を妨げるか、遅延させるか、または止める化学化合物または生物学的製剤であり、または米国食品医薬品局によって癌を治療することが認可された化学化合物もしくは生物学的製剤である。癌化学療法薬の例は、限定するものではないが、パクリタキセル、ドセタキセル、イマチニブメシル酸塩、スニチニブリンゴ酸塩、シスプラチン、エトポシド、ビンブラスチン、メトトレキサート、アドリアマイシン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ダウノマイシン、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、エンドスタチン、アンギオスタチン、ベバシズマブおよびリツキシマブを含む。他の癌治療剤の例は放射線である。このように、癌治療は、放射線療法、分割放射線療法、化学療法または化学放射線療法(1以上の化学療法薬および放射線の組み合わせ)を含んでもよい。「生物学的」抗癌剤は、例えば抗体、タンパク質、RNA、siRNA、シングルガイドRNA(sgRNA)、DNAなどを含む。
【0047】
本明細書においては、「積極的癌治療」または「積極的癌治療レジメン」は、一般に医療専門家、例えば医師および/または放射線科医によって決められ、各患者に個別に行うことができる。いくつかの側面において、積極的癌治療レジメンは、全米総合癌センターネットワーク(NCCN)によって定義されている通りであり、NCCNガイドライン(登録商標)では、1)増強されたイメージング(CTスキャン、PET/CT、MRI、胸部X線)、2)センチネルリンパ節生検とその後の部分的または完全なリンパ節郭清の検討および/または提案、3)進行中の臨床試験への組み入れおよび、4)インターフェロンα治療およびリンパ節領域への放射線による治療介入、の1以上を含むと定義されている。一般に、「積極的癌治療」という語句は、標的癌腫瘍または細胞の治療に有効ではあるが、他のタイプの特定の癌治療よりも高い毒性と副作用を引き起こすことに関連しているか、または引き起こすことが知られている癌治療または治療の組み合わせおよび/または化学療法レジメンのことをいう。積極的治療は、外科的介入、化学療法、放射線療法、アジュバント療法、ホルモン療法、綿密な臨床的監視などの1以上を含んでもよい。積極的治療は、遠隔転移または多発性転移を含む転移を抑制または予防するために、例えば全身化学療法を用いるプロアクティブ療法を含んでもよい。積極的治療のために、非常に毒性の高い化学療法薬は、高用量および/または高頻度の1以上の抗癌剤および/または長期間の療法(化学療法、放射線など)および/または療法の反復などと同様に好ましい場合がある。例えば乳癌患者には、リンパ節郭清、化学療法および放射線とともに、根治的乳房切断が推奨されてもよい。
【0048】
非積極的治療は、外科的介入、化学療法、放射線療法、アジュバント療法、ホルモン療法または綿密な臨床的監視などを含んでもよい。局所、器官特異的、組織特異的または部位特異的転移を抑制または予防するためのプロアクティブ療法もまた含んでもよい。しかしながら、一般に、この治療は、例えば切除後に標的薬治療、例えば特定の腫瘍型を標的とする抗体または埋め込み放射線源などを用いる治療を用いて、原発腫瘍により限局させ、それに焦点を当ててもよい。乳癌については、根治的乳房切断ではなく、術前に腫瘍を縮小させるためのネオアジュバント治療の後に癌性胸部腫瘍を切除する腫瘍摘出術が推奨されてもよい。放射線コースが処方される場合、それは積極的治療に推奨されるコースよりも短いおよび/または弱いコースであってもよい。
【0049】
一般に、当業者は癌治療、治療の組み合わせまたは化学療法レジメンが過少であるか過剰であるかを決定することができ、これは、患者の癌種、年齢、全身健康状等によって異なっていてもよい。例えば、非積極的治療は、原発腫瘍の外科的切除を含むアジュバント化学療法ならびに5-FU、ロイコボリンおよびベバシズマブを含む化学療法レジメンを含んでもよいが、より積極的な癌治療は、外科的切除を含むアジュバント化学療法ならびにFOLFOXおよびBVを含む化学療法レジメンを含んでもよく、最も積極的な癌治療は、外科的切除ならびにイリノテカンおよびセツキシマブを含む化学療法レジメンを含んでもよい。
【0050】
加えて、癌を有するとは診断されされていないが、癌を発症するリスクが高い対象者は、継続的にTMEM219発現を監視することによって利益を得る可能性がある。このような対象者の例は、限定するものではないが、癌を発症する遺伝的素因を有する対象者(例:BRCA1およびBRCA2遺伝子の1つまたは両方における変異を有する女性)、または癌を引き起こす可能性のある環境障害を経験した対象者(例:放射線への暴露、毒性粒子の吸入、発癌性化学物質との接触など)、または喫煙などの癌に対してリスクの高い活動をしたことがある、またはしている対象者を含む。このような対象者は、長期間(数ヶ月間または数年間)にわたってTMEM219発現レベルを測定し、対象の組織(例:乳房または肺組織)における初期の無症候性レベルと、経時的に測定されたレベルまたは関連性がある基準値とを比較することによって継続的に監視されてもよい。このようにすれば、癌組織の成長が検出され、早期治療を開始することができる。
【0051】
癌治療
他の側面において、本開示は、癌の治療に使用するIGFBP-3Rアゴニストも提供する。患者は、前節に記載された方法を用いて診断されていてもよく、診断されていなくてもよい。本アゴニストは、癌細胞の死を引き起こすが、正常な非腫瘍細胞は殺さないので有利である。一般に、IGFBP-3Rアゴニストは、本明細書に記載のmAbであり、本方法は、IGFBP-3Rの少なくとも1つアゴニスト、例えば本明細書に開示されたmAbの治療的有効量を投与することによって癌を予防または治療することを含む。
【0052】
いくつかの側面において、抗体は単剤療法に用いられる。他の側面において、抗体は、限定するものではないが、イニパリブ、ゲムシタビン、オナルツズマブ カルボプラチン、シスプラチン、パクリタキセル、ボルテゾミブ、エルロチニブ、エベロリムス、シンリボ、エトポシド、ドキソルビシン、ベネトクラックス、ナビトクラックス、ニボルマブおよびペムブロリズマブを含む他の化学療法薬とのコンビナトリアル抗腫瘍活性(相加的または相乗的結果をもたらす可能性がある)に用いられる。加えて、アゴニストは他の癌治療、例えば放射線、手術/切除と組み合わせて用いられてもよい。いくつかの側面において、治療される癌は、乳癌(例:TNBC)、結腸癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、頭頸部癌、前立腺癌、肝臓癌または液性腫瘍(例:白血病)などである。
【0053】
癌の治療のために投与される抗体の量は、一般に約1~100mg/kgであり、好ましくは約5~50mg/kgであり、例えば約5、10、15、20、25、30、35、40、45または50mg/kgである。
【0054】
メタボリックシンドローム
同時に生じる状態のクラスターである「メタボリックシンドローム」は、心疾患、脳卒中および2型糖尿病のリスクを高めることが公知である。実際、2型糖尿病はメタボリックシンドロームの「合併症」ともみなされ、「糖尿病前症」とメタボリックシンドロームは同じ疾患であると見なされる場合もある。例えばアメリカ心臓協会、世界保健機関および他の施設間で診断ガイドラインは異なるが、例えば以下の状態:血圧上昇または高血圧、高血糖、腰回りの余分な体脂肪、異常に低いHDLコレステロールおよび高いトリグリセリドレベル、のうち少なくとも3つが存在する場合に、一般に対象者はメタボリックシンドロームと診断される。
【0055】
「高血圧」は一般に、収縮期血圧が140以上および/または拡張期血圧が90以上であり、持続的に高いまま維持される血圧のことをいう。いくつかの側面において、例えば少なくとも2つの他の関連性がある症状と総合して考えて、130/85以上の血圧がメタボリックシンドロームの徴候として採用される。
【0056】
「高血糖」とは一般に、少なくとも8時間飲食を控えた後に130mg/dL(ミリグラム/デシリットル)よりも高い血糖のことをいうが、いくつかの側面において、他の関連性がある症状と総合して考えて、100mg/dl以上の空腹時血糖レベルがメタボリックシンドロームの徴候として採用される。高血糖は、一般にインスリン抵抗性によって引き起こされるが、インスリン抵抗性は、代謝性疾患の顕著な特徴として含めてもよい。
【0057】
中心性肥満症(腹部、内臓、男性型またはリンゴ型脂肪としても知られる)および/または異所性脂肪の存在はメタボリックシンドロームの診断基準である。中心性肥満症は、一般に大きな胴囲のことをいい、例えば男性では少なくとも40インチ(102センチメートル)の胴囲のことをいい、女性では少なくとも35インチ(89センチメートル)の胴囲のことをいう。アジア系アメリカ人に関しては、カットオフ値は、男性では90cm(35インチ)以上であり、女性では80cm(32インチ)以上である。異所性脂肪とは、通常は脂肪を蓄積しない臓器/組織における脂肪沈着のことをいう。
【0058】
男性における40mg/dl以下および、女性における50mg/dl以下の空腹時HDLコレステロールレベル(脂質異常症)は、代謝障害の顕著な特徴である。これはまた、異常(高)コレステロール、脂質異常、脂質異常症、高脂血症または高コレステロール血症などとも呼ばれる。全(HDLおよびLDL)コレステロール値を用いる医者もおり、200mg/dLを超えるレベルで高いと見なされる。例えば200~239mg/dLは「境界域」と呼び、240mg/dL以上は「高い」とみなしてもよい。
【0059】
「高トリグリセリドレベル」(脂質異常症)は一般に、少なくとも100ミリグラム/デシリットル(mg/dL)の血液よりも高いトリグリセリドレベルのことをいい、境界域レベルは150~199mg/dLであり、高いレベルは200~499mg/dLであり、大変高いレベルは500mg/dL以上である。ガイドラインによっては、少なくとも2つの他の関連性がある症状と総合して考えて、150mg/dl以上の血清トリグリセリドを徴候とみなす場合もある。
【0060】
アメリカ国立心肺血液研究所(NHLBI) およびアメリカ心臓協会(AHA)のガイドラインによれば、同じ個体における前述の形質のいずれか3つがメタボリックシンドロームの診断基準を満たす。加えて、インスリン抵抗性、メタボリックシンドロームおよび糖尿病前症は互いに密接に関連しており、重複する側面を有し、これらのいずれも本明細書に記載の方法の実施によって治療または予防されてもよいことに注意が必要である。
【0061】
特に、インスリン抵抗性は、メタボリックシンドロームと呼ばれるより大きな1群の症状の一部でもある症候群(一連の徴候および症状)である。インスリン抵抗性(IR)は、細胞がインスリンホルモンに正常に反応することができない病的状態である。身体は通常、食物中の炭水化物の消化によって血流中にグルコースが放出され始めるとインスリンを産生するが、このインスリン反応によって、エネルギーとして使うために体細胞にグルコースを取り込ませ、身体がエネルギーのために脂肪を用いることを抑制する。これにより血液中のグルコースの濃度は減少し、大量の炭水化物が消費された場合でも正常範囲内にとどまる。インスリン抵抗性の状態で身体がインスリンを産生する場合、細胞はインスリンに抵抗性を示し、それを効果的に使用することができず、高血糖となる。続いて、膵臓中のβ細胞がインスリン産生を増加させ、さらに高血中インスリン濃度に寄与する。2型糖尿病を発症する人は、通例、インスリン抵抗性および糖尿病前症の初期段階を通過する。インスリン抵抗性は、近時に腹部または肥満手術を受けた患者において発症する場合もあるが、術後インスリン抵抗性のこの急性型は短期間の傾向がある。
【0062】
本開示は、メタボリックシンドロームの予防および治療に使用するためのIGFBP-3Rアゴニストを提供する。すなわち、メタボリックシンドロームを診断するために使用される症状、徴候または基準の1以上は、インスリン抵抗性を含めて、本明細書に記載のアゴニストの1以上を投与することによって予防または治療される。いくつかの側面において、アゴニストは、本明細書に記載の受容体「IGFBP-3R」に特異的に結合するモノクローナル抗体(mAb)である。このように、アゴニストは、メタボリックシンドロームおよび/またはその合併症および/またはメタボリックシンドロームによって引き起こされる疾患を予防または治療するために、例えば症状を悪化させ、および/またはより重篤な状態、例えば心疾患、脳卒中および2型糖尿病引き起こすことを予防するために用いられる。
【0063】
メタボリックシンドロームの治療のために投与される抗体の量は、一般に約1~100mg/kgであり、好ましくは約5~50mg/kgであり、例えば約5、10、15、20、25、30、35、40、45または50mg/kgである。
【0064】
閉塞性呼吸器疾患
閉塞性肺疾患は、気道閉塞を特徴とする呼吸器疾患のカテゴリーである。肺の閉塞性疾患の多くは、多くの場合平滑筋自身の過剰な収縮による比較的小さな気管支および比較的大きな細気管支の狭小化によって生じる。閉塞性呼吸器疾患は一般に、炎症を起こし容易に押し潰される気道、気流閉塞、呼気障害ならびに頻繁な医療機関への通院および入院を特徴とする。閉塞性肺疾患のタイプは、喘息、気管支拡張症、気管支炎および慢性閉塞性肺疾患(COPD)を含む。COPDは、すべての他の閉塞性肺疾患と同様な特徴、例えば咳および喘鳴の徴候があるが、疾患の発症、症状の頻度および気道閉塞の可逆性に関しては異なる状態である。嚢胞性線維症が閉塞性肺疾患に含まれる場合もある。
【0065】
閉塞性呼吸障害は、限定するものではないが、喘息(運動誘発喘息、職業喘息および夜間性喘息)を含む。喘息は、炎症を起こし、過剰な粘液を産生する過敏性気管支(気道)を特徴とする。気道周囲の筋肉は緊縮し、気道を狭くする。喘息は、通例、アレルギー反応を引き起こす塵または花粉などによって引き起こされるが、上気道感染、冷気、運動または煙によって引き起こされる場合もある。喘息は、喘鳴、息切れ、胸部絞扼感および咳の再発エピソードの原因となる。気管支の異常な不可逆的拡張である気管支拡張症は、気道壁の破壊的変化および炎症性変化によって引き起こされる。気管支拡張症は、3つの主要な解剖学的パターン:円柱状気管支拡張症、結節状気管支拡張症および嚢状気管支拡張症、を有する。
【0066】
慢性閉塞性肺疾患は、肺気腫および慢性気管支炎の状態を含む用語である。COPDを有する患者の大部分は、程度の差はあれ両方の状態の特徴を有し、一般的にはその症状は不可逆性である。しかしながら、多くのCOPD患者はその気道にある程度の可逆性を有する。
【0067】
本明細書に記載の方法を用いて治療される対象者は一般に、1以上の閉塞性呼吸器疾患を有すると診断されている。このような対象者の特定は、いくつかの要素および、疾患が的確に診断されたことに左右される。しかしながら、患者の共通の特徴の1つは、FEV1/FVC比が0.7未満、すなわち1秒以内に1回の呼気の70%を吐き出すことができないことである。
【0068】
閉塞性呼吸器疾患の治療のために投与される抗体の量は、一般に約1~100mg/kgであり、好ましくは約5~50mg/kgであり、例えば約5、10、15、20、25、30、35、40、45または50mg/kgである。
【0069】
炎症性疾患
他の側面において、本明細書に記載の組成物および方法は、炎症性疾患を予防または治療するために用いられる。炎症性疾患は一般に、免疫系が自身の細胞または組織を攻撃する場合に生じ(自己炎症性疾患)、異常な慢性炎症を引き起こし、慢性疼痛、発赤、腫れ、こわばりおよび正常組織への損傷をもたらす。
【0070】
予防/治療されてもよい例示的な炎症性疾患は、限定するものではないが、潰瘍性大腸炎、大腸炎、クローン病、アテローム性動脈硬化症、慢性消化性潰瘍、慢性閉塞性肺疾患、特発性肺線維症、結核、関節炎(変形性関節症、関節リウマチ(RA)、乾癬性関節炎)、慢性副鼻腔炎、喘息、肝炎、強直性脊椎炎、肝線維症、非アルコール性脂肪性肝炎および慢性歯周炎を含む。
【0071】
炎症および/または炎症性疾患の治療のために投与される抗体の量は、一般に約1~100mg/kgであり、好ましくは約5~50mg/kgであり、例えば約5、10、15、20、25、30、35、40、45または50mg/kgである。
【実施例】
【0072】
実施例1.診断法:癌における再発および生存率を予測するための分子マーカーとしてのTMEM219
【0073】
がんゲノムアトラス(TCGA)データのバイオインフォマティクス解析は、乳癌においてIGFBP-3は顕著に低いが、TMEM219の発現は、正常組織と比較して乳癌、結腸癌および肺癌において同じかまたは高いことを示した。この所見は、腫瘍形成/癌の進行時に、抗腫瘍IGFBP-3/TMEM219軸がIGFBP-3の発現抑制によって障害を受けているが、その受容体であるTMEM219は障害を受けていないことを示している(
図1)。METABRIC研究(Curtisら, Nature. 2012:486(7403):346-52)および SynTargetツール[Pub Med PMID: 26915292]からのデータを用いたさらなる評価は、TMEM219発現が乳癌の生存率に強い相関があることを示した(下記表1)。
【表6】
【0074】
これらの結果はカプランマイヤー生存分析を用いて確認されたが、この分析は、TMEM219の高発現を有する患者群(n=423)とTMEM219の低発現を有する患者群(n=1237)と間の生存率の有意な差[P値=4.9E-6、ハザード比(HR)=0.63、信頼区間(CI)0.52~0.77)](
図2)を検出した。この強い相関は結腸癌および肺癌においても見られた(下記表2、
図3)。
【表7】
【0075】
これらの所見は、乳癌、結腸癌および肺癌における再発および生存率を予測するための分子マーカーとしてのTMEM219の確かな証拠を提供する。オンコタイプDXは、大変高価な遺伝子検査であるが、乳癌患者、結腸癌患者および前立腺癌患者における化学療法の有効性および再発リスクを予測するために病院でルーチンに用いられている。本TMEM219アッセイは、オンコタイプDX検査を補完するかまたはそれに取って代わる優れたツールである。
【0076】
図4は、癌におけるIGFBP-3/TMEM219軸の作用メカニズムの模式図である。
【0077】
実施例2.アゴニスト抗体および癌
天然に存在するTMEM219アゴニストは、著しい翻訳後修飾のため、それ自体は有用な治療薬ではない。また腫瘍で活性化されるプロテアーゼによって誘導されるタンパク質分解は、TMEM219抗腫瘍シグナル伝達を弱める。かくして、TMEM219を活性化するモノクローナル抗体(mAb)、すなわち「アゴニスト抗体」が作製された。mAbを製造するプロセスは当該技術分野で標準化されており、mAbは、有害な影響を与える主な副作用を引き起こすことなく、体内で強い安定性を示すことが公知である。この「アゴニストmAb」アプローチは、癌細胞を殺すために毒性化合物を使用する必要がないので有利である。
【0078】
一群のTMEM219特異的モノクローナル抗体を作製し、2つの例示的な抗体を配列決定した(#245および#274、
図5Aおよび
図5B)。さらにまた、TMEM219天然アゴニストと同様に機能するTMEM219#274-ヒトIgG1キメラもまた作製した(
図5C)。
図6A~Cに示すように、ハイブリドーマ細胞によって産生されたTMEM219アゴニストmAbの1つ[TMEM219 mAb#2(#274)]を用いる処理によって、MCF-7エストロゲン応答性乳癌細胞の増殖ばかりでなく、MDA-MB231 TNBC細胞の増殖もまた顕著に抑制された。しかしながら、mRNAおよびタンパク質レベルにおいて同レベルのTMEM219を発現しているにもかかわらず、MCF-10A不死化正常乳腺上皮細胞の増殖は抑制されなかった。TMEM219 mAb#2 (#274)は、用量依存的に、30nMの濃度では70%増殖抑制で、両方の乳癌細胞株の増殖を抑制することがさらに観察された(p<0.001)。
【0079】
下記のように、TMEM219アゴニストmAbは、培養癌細胞だけでなく、ヒト癌の動物モデル(非小細胞肺癌、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)、結腸癌および前立腺癌のモデル)に対しても腫瘍抑制活性を有する。加えて、TMEM219アゴニストmAbは、腫瘍血管新生、転移および放射線療法/化学療法抵抗性に極めて重要な腫瘍で活性化されるシグナル伝達もまた抑制する。強い抗癌細胞活性にもかかわらずTMEM219アゴニスト抗体が正常な非腫瘍細胞に対して有害な細胞致死作用を示さないことは非常に重要な事実である。
【0080】
乳癌
生物発光同所性MDA-MB231トリプルネガティブ乳癌(TNBC)マウスモデルを用いて、TMEM219アゴニストmAbの抗腫瘍効果および転移抑制効果を調べた。dtTomato-ルシフェラーゼを発現するMDA-MB231細胞を用いる試験管内データは、TMEM219アゴニストmAb#2(#274)での処理は、カスパーゼ3の顕著な活性化に示されるように、カスパーゼ依存アポトーシスの誘導を引き起こし、ホスホ-および全p65NF-κBの減少によって示されるように、それに続く全PARPの減少および腫瘍で活性化されるNF-κBシグナル伝達の抑制を引き起こすことを明確に示している(
図7A)。30nMのアゴニストmAb#2(#274)での4日間の処理は、生物発光MDA-MB231細胞の顕著な細胞死を引き起こした(
図7B)。TMEM219#274mAbで観察されたのと同様に、TMEM219#274-hIgG1キメラはMCF-7細胞溶解物中にTMEM219が検出され(
図7C、左パネル)、また、カスパーゼ3を活性化し、生物発光MDA-MB-231細胞における腫瘍で活性化されるNF-κBシグナル伝達を抑制する(
図7C、右パネル)。さらに、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術を用いるTMEM219ノックダウンは、TMEM219アゴニストmAb誘発細胞増殖抑制の完全な消失をもたらした(
図7D)。2つの異なる配列を標的とするシングルガイドRNA(sgRNA)構築物を生物発光MDA-MB231細胞にトランスフェクトしたとき、TMEM219発現は個々の構築物によって95%まで抑制された(上パネルのsgRNA-1およびsgRNA-2)。100nMのTMEM219アゴニストmAbでの処理は、対照における顕著な増殖抑制(68%抑制)をもたらしたが、TMEM219アゴニストmAb処理後に、sgRNA-1およびsgRNA-2でトランスフェクトされた細胞において、それぞれ10%および6%の増殖抑制しかもたらさなかった(下部パネル)。TMEM219アゴニストmAb誘発抗癌効果は、ヒト癌においてTMEM219抗腫瘍シグナル伝達を介していることをこれらのデータは示している(
図7D)。
【0081】
生物発光同所性胸部腫瘍マウスモデルを用いて、TMEM219アゴニストmAbの抗腫瘍効果および転移抑制効果を調べた。dtTomato-ルシフェラーゼを発現しているMDA-MB231細胞を、8週齢のNOD-SCID-IL2γR-/-マウスの第4乳房脂肪体に注入した。
図8A~Cに示すように、低用量TMEM219 mAb(1mg/体重(kg))の投与は、腫瘍細胞注入後29日目において25%までの腫瘍縮小(p<0.01)をもたらした。体重変化および、主要臓器、例えば肝臓、腎臓および脾臓における肉眼的損傷などから判定して、検出可能な副作用は見られなかった。
【0082】
患者由来異種移植片(PDX)TNBC細胞において、TMEM219の発現プロフィールおよびTMEM219アゴニストmAbの抗腫瘍効果を検査した。
図9に示すように、TMEM219は、タンパク質レベルおよびmRNAレベルで、試験したすべてのTNBC PDX細胞において容易に検出可能である(
図9Aおよび
図9B)。これらの発現レベルは、樹立されたTNBC細胞であるMDA-MB231およびMDA-MB468と同様であった。加えて、免疫組織化学データは、TMEM219が両方のPDXで発現され、主に細胞膜および細胞質領域に存在するが核には存在しないことを明確に示している(
図9C)。さらに、TMEM219アゴニストmAb#2(#274)処理は、化学療法感受性WHIM30細胞ばかりでなく、化学療法抵抗性WHIM2 PDX TNBC細胞においても顕著な増殖抑制をもたらした(
図9D)。
【0083】
加えて、生物発光同所性WHIM30 PDXマウスにおいて、低用量TMEM219アゴニストmAb#274(1mg/体重(kg))の投与は、腫瘍細胞注入後30日目において29%までの腫瘍縮小をもたらすことが示された(
図10A)。TMEM219アゴニストmAbが投与されたマウスにおいて、明らかな体重も主要臓器における損傷も見られなかった(
図10B)。TMEM219アゴニストmAbが投与されたマウスから分離された腫瘍のサイズおよび重量は、マウスIgGが投与されたマウスから分離された腫瘍のサイズおよび重量と比較して著しく小さかったが、これは腫瘍体積データと矛盾しなかった(
図10C)。mAbが投与されたマウスに見られる25%の腫瘍重量の減少は、
図8Aに示す29%の腫瘍縮小に相当する。これらの有望な抗腫瘍データは、1回の最小限の用量から得られたことに注意されたい。TMEM219抗腫瘍シグナル伝達経路はTNBCにおいても機能し、TMEM219 mAbは、高い死亡率のTNBCに対する新たな治療介入であることをこれらの結果は明確に示している。
【0084】
結腸癌(CAC)
CAC動物モデルとして一般に認められているデキストラン硫酸ナトリウム-アゾキシメタン(DSS-AOM)マウスモデルを用いて生体内研究を行った。末期CACにおける好中球プロテアーゼインヒビター、α1-アンチトリプシン(AAT)処理は、樹立されたCACを有するマウスにおける腫瘍の頻度およびサイズを著しく減少させたことを結果は明確に示した。(
図13A~E)。さらなる免疫組織化学(IHC)データは、粘膜内癌(TIS)形成だけでなく、結腸組織におけるIL-6、細胞増殖マーカーPCNAおよび好中球アズール顆粒ミエロペルオキシダーゼ(MPO)の主要構成成分の顕著な抑制を明確に示した。加えて、AAT処理は、結腸組織はもちろん循環においてもTMEM219アゴニストの有意な増加をもたらした。AATの抗腫瘍効果は、TMEM219天然アゴニストのタンパク質分解が減少し、それによってTMEM219天然アゴニスト/TMEM219媒介抗腫瘍/抗炎症を促進し、好中球活性化サイトカイン機能、例えばCACにおけるIL-1β/IL-6軸の活性化をさらに改善することに起因する可能性があることをこれらのデータは強く示唆している。
【0085】
AOM/DSS CACマウスモデルを用いて、大腸癌について、TMEM219アゴニストmAbの治療効果の可能性をさらに試験した。TMEM219アゴニストmAb#2(#274)で処理されたマウスは、腫瘍の数およびサイズの劇的な減少を示したことが生体内前臨床データで明確に示されている(
図14A)。TMEM219天然アゴニスト処理で見られたのと同様に、TMEM219アゴニストmAbでの処理は、HT-29結腸癌の細胞増殖を抑制し(
図14B)、腫瘍で活性化されるNF-κBシグナル伝達は、示されているようにリン酸化されたNF-κBおよびIκBαを減少させる(
図14C)。
【0086】
肺癌
喫煙は、女性および男性における肺癌死のそれぞれ80パーセントおよび90パーセントに寄与している。今日まで、肺腫瘍形成におけるタバコ発癌物質、例えばNNKの関与を裏付ける多くの証拠が存在する。最も強力なタバコ発癌物質であるNNKは、正常肺上皮細胞であるBEAS-2Bの細胞増殖を促進し、同時にTMEM219天然アゴニストを抑制するが、DNAメチル化を通じてTMEM219発現を抑制しないことが公知である。BEAS-2Bのタバコ発癌物質誘発腫瘍形成性派生株において、TMEM219天然アゴニスト発現の低下および高レベルのホスホ-AKT、ホスホ-p65-NF-κBおよびサイクリンD1が検出された。派生株の1つであるNNKAにおけるTMEM219天然アゴニストの過剰発現は、NF-κB活性を抑制し、アポトーシスを誘発したが、その特異的shRNAでのTMEM219の抑制は、NF-kBのTMEM219天然アゴニスト誘発抑制および細胞死の誘導を妨げた。TMEM219天然アゴニストの観察された抗腫瘍作用は、主にNNKA細胞におけるTMEM219によって媒介されることをこれらの観察は示している。総合すれば、IGFBP-3/TMEM219軸のこの特有の腫瘍特異的抗増殖性およびアポトーシス促進性は、肺癌に対するその治療的価値の有力な証拠を提供する。しかしながら、IGFBP-3自身は、腫瘍誘発プロテアーゼ、例えばMMPおよびADAM28によって顕著に分解され、それによってIGFBP-3の抗腫瘍機能が弱められるため、肺癌の優れた標的療法を構成しない(
図11)。2つのTMEM219 mAb#245および#274は肺癌細胞には抗腫瘍効果を有するが、正常肺上皮細胞には効果を有さない(
図12)。加えて、これらの所見は、NSCLCにおいて、TMEM219が重要な抗腫瘍シグナル伝達および治療標的であることを示している。
【0087】
実施例3
世界保健機関の推定によれば、過体重および肥満は、今では早期死亡の重大な原因として低体重および栄養失調症にまさっている。アメリカ合衆国の成人のほぼ3分の2が過体重または肥満であり、肥満は、高血圧、2型糖尿病(T2DM)、心血管疾患(CVD)および他の代謝障害を含む無数の重篤な併存疾患の主要な危険因子である。さらに、小児および若年成人の肥満率の急速な増加が見られ、それは現在および生涯の代謝性疾患リスクをもたらしつつある。T2DMへの進行に対する防御の第1選択として肥満および運動不足を解消する生活習慣の変更が強調されてきた。しかしながら、肥満の発生率の有意な減少は見られていない。肥満および関連代謝性合併症を妨げるために、より有効な予防及び治療戦略が求められている。
【0088】
インスリン抵抗性(IR)は、T2DMを含む多くの肥満関連併存疾患の発症に寄与する共通の代謝障害である。軽度の脂肪組織炎症がIRの負荷に実質的に寄与することは一般に認められているが、IRの発症の基礎をなす病態生理学は複雑であり多因子的である。したがって、T2DMなどのIRがもたらす多くの状態の予防および治療のための新たな標的を特定するために、肥満関連IRをもたらすメカニズムのより明確な理解が必要である。主として脂肪細胞からなる肥満の内臓脂肪は、局所事象の状態とそれによる進行性事象の状態をもたらし、全身IR、T2DMおよびメタボリックシンドロームをもたらす種々の炎症促進性アディポカイン、例えば腫瘍壊死因子(TNF)、レプチン、ビスファチン、レジスチンおよびインターロイキン(IL)-6を分泌することを内分泌パラダイムは示唆している。最近の研究は、肥満誘発性炎症性アディポカイン/サイトカインは、オートクリン/パラクリンの影響によってIRの状態をもたらすインスリン受容体基質-1(IRS-1)、グルコース輸送体-4(GLUT4)およびアディポネクチンのレベルを減少させることによって内臓脂肪細胞におけるインスリンシグナル伝達を妨げることをさらに特定した。
【0089】
IGFBP-3はIGFBP-3Rを通じてTNF-α誘発NF-κB活性を抑制し、それによってインスリンシグナル伝達を復帰させ、ヒト初期脂肪細胞へのグルコース取り込みのTNF-α誘発抑制を無効化するが、これはIGFBP-3/IGFBP-3Rが、内臓脂肪細胞におけるサイトカイン/アディポカイン誘発IRに重要な役割を果たしていることを示唆している。さらに、過体重および肥満の若者の循環血液中において、非肥満カウンターパートと比較した場合、機能性で無傷のIGFBP-3レベルの減少とIGFBP-3分解(タンパク質分解)の増加が認められる。さらに、機能性IGFBP-3と肥満パラメータ、例えば胴囲、ボディマス指数およびインスリン抵抗性のホメオスタシスモデル評価(HOMA-IR)との間で有意な逆相関がみられる。これらの所見は、IGFBP-3産生低下による無傷のIGFBP-3の炎症誘発性減少だけでなく、過体重および肥満集団におけるIGFBP-3分解(タンパク質分解)の増加は、循環中の機能性IGFBP-3のレベル低下をもたらし、脂肪組織におけるIGFBP-3/IGFBP-3R系の抗炎症およびインスリン感受性改善機能を効果的に鈍化させる可能性があることを示唆している。それはさらに、グルコース恒常性におけるIGFBP-3/IGFBP-3R系の調節的役割を示唆している。
【0090】
食餌性肥満(DIO)マウスモデルを用い、アララスト(ヒトα1プロテイナーゼインヒビターの臨床製剤、「AAT」)を用いた生体内研究によって、高脂肪食(HFD)を15週間与えたマウスは顕著なインスリン抵抗性(IR)を生じることがITTで示されたが、AATで処理されたHFDマウスはIRの顕著な改善が見られることが示された(
図15A)。加えて、肝臓および内臓脂肪組織のHE染色は、AATが肝脂肪症および内臓脂肪炎症を抑制したことを示した(
図15B)。さらに、AATを投与されたHFDマウスにおいて血清IGFBP-3タンパク質分解の有意な減少が見られた(
図15C)。これらの生体内研究データは、AATおよびTMEM219アゴニスト(IGFBP-3およびTMEM219アゴニスト抗体)の治療効果の可能性を明確に示している。
【0091】
IGFBP-3誘発抗炎症効果およびインスリン感受性改善効果におけるIGFBP-3Rアゴニスト抗体の機能的意義および治療効果の可能性を確認するために、完全に分化した脂肪細胞において、インスリンおよびTNF-αの存在下でIGFBP-3RアゴニストmAb#245および#274ならびに非アゴニストIGFBP-3Rモノクローナル抗体(#C314)を用いる研究を行った。
図16に示すように、IGFBP-3RアゴニストmAb#245および#274は、初期脂肪細胞におけるグルコース取り込みのTNF-α誘発抑制を復帰させるが、非アゴニストmAbはそれを復帰させなかった。これらの結果は、IGFBP-3RアゴニストmAbが、脂肪細胞におけるTNF-α誘発NF-κB活性を抑制することによってTNF-α誘発インスリン抵抗性を抑制することを示している。
【0092】
本発明を、その好ましい実施形態に関して説明してきたが、本発明は、添付の特許請求の範囲の精神と範囲内で変更を行うことができることは当業者には明らかであろう。よって、本発明は、前述の実施形態に限定されるべきではなく、本明細書で提供される説明の精神と範囲内のすべての変更とその等価物をさらに含むものとする。
【配列表】