(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】ビタミンB12の安定性が優れたビタミンB12含有酸性組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 2/52 20060101AFI20220308BHJP
A23L 21/10 20160101ALI20220308BHJP
A23L 33/15 20160101ALI20220308BHJP
【FI】
A23L2/00 F
A23L21/10
A23L33/15
(21)【出願番号】P 2017247336
(22)【出願日】2017-12-25
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】306019030
【氏名又は名称】ハウスウェルネスフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】喜田 香織
(72)【発明者】
【氏名】朝武 宗明
(72)【発明者】
【氏名】石田 亮介
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-097141(JP,A)
【文献】1本にぎゅっとビタミン全13種類!「C1000 1日分のビタミン」「C1000 1日分のビタミンゼリー」3月9日から全国で発売,2015年03月02日,pp.1-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-2/84
A23L 21/00-21/25
A23L 33/00-33/29
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンB
12
及び香料製剤を含有する酸性組成物であって、
前記香料製剤が中鎖脂肪酸及び/又は乳化剤から選択される一又は複数を溶媒として含む香料製剤であり、エタノールの含有量が0.1重量%未満であることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
エタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸及びブチルアミンの含有量が合計で0.1重量%未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
プロトン性有機溶媒の含有量が合計で0.1重量%未満である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
容器詰め飲料又は容器詰めゼリー飲料である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ビタミンB
12
及び香料製剤を含有する酸性組成物の製造方法であって、
前記香料製剤として、中鎖脂肪酸及び/又は乳化剤から選択される一又は複数を溶媒として含む香料製剤を用い、エタノールの量が0.1重量%未満となるように原材料を配合することを含む、方法。
【請求項6】
エタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸及びブチルアミンの量が合計で0.1重量%未満となるように原材料を配合することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
プロトン性有機溶媒の量が合計で0.1重量%未満となるように原材料を配合することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が容器詰め飲料又は容器詰めゼリー飲料である、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ビタミンB
12
及び香料製剤を含有する酸性組成物中におけるビタミンB
12の安定性を向上させる方法であって、
前記香料製剤として、中鎖脂肪酸及び/又は乳化剤から選択される一又は複数を溶媒として含む香料製剤を用い、前記組成物中に含まれるエタノールの量を0.1重量%未満とすることを含む、方法。
【請求項10】
前記組成物中に含まれるエタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸及びブチルアミンの量を合計で0.1重量%未満とすることを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物中に含まれるプロトン性有機溶媒の量を合計で0.1重量%未満とすることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が容器詰め飲料又は容器詰めゼリー飲料である、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンB12の分解速度が低減されている、及び/又はビタミンB12の安定性が優れた、ビタミンB12含有酸性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンB12はビタミンB群の一種である。ビタミンB12は、神経機能と密接な関係があり、眼精疲労、筋肉痛、関節痛(肩こり、腰痛など)、神経痛、手足のしびれ等の神経症状の改善に効果があることから、ビタミンB12を配合した組成物が上市されている。
【0003】
特許文献1には、ビタミンB1とビタミンB12の両方を配合した液剤の保存安定性が悪いこと、その理由が、それぞれの安定pH領域が異なること、並びに、ビタミンB1の分解物がビタミンB12の安定性を低下させること、ビタミンB12がショ糖水溶液中で特に不安定であることが記載されている。そして、特許文献1では、ビタミンB1とビタミンB12両方の安定性向上のため、pHを5.8~7.5に調整した内服用液剤が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ビタミンB1とビタミンB12の両方の安定性を向上させるため、糖アルコールを添加し、pHを3.5~4.5に調整した、複合ビタミン内服液剤が開示されている。
【0005】
特許文献3には、ビタミンB12の1つのシアノコバラミンは、pH7.0~7.5の水溶液中で安定性が不安定であるが、タウリンを配合することにより安定化されることが開示されている。
【0006】
特許文献4には、ビタミンB12は、ビタミンB1、B2、B6、アスコルビン酸等の他のビタミン類と配合すると分解されて含量が低下するという課題が記載されている。そして、特許文献4ではこの課題を解決するための手段として、ビタミンB12を不活性担体に付着させ、その周囲を不活性糖類で被覆して成るビタミンB12含有組成物が開示されている。
【0007】
特許文献5には、安定なビタミンB12製剤として、ビタミンB12類を含有するビタミンE類粒子がデンプン類中に分散状態にある組成物を、さらにケイ酸カルシウム中に分散させることを特徴とする粉末状組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-72594号公報
【文献】特開平7-112933号公報
【文献】特公昭63-40168号公報
【文献】特開2016-27007号公報
【文献】特開2007-182386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1ではビタミンB12の安定化のために内服用液剤のpHを5.8~7.5の範囲に調節する必要がある。特許文献2~5では、組成物中にビタミンB12と共に、安定化のために他の成分を配合することを前提としており、サプリメントや飲料の用途・形態が限定されてしまう場合がある。当該分野においては依然として、酸性組成物中でのビタミンB12の安定性を向上させる技術が切望されている。
【0010】
本発明は、ビタミンB12の分解速度が低減されている、及び/又はビタミンB12の安定性が優れた、ビタミンB12含有酸性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、酸性組成物中におけるビタミンB12は、エタノールが存在することによって、その分解速度が増大すること、及び/又はその安定性が低下することを見出した。また、酸性組成物中に存在するエタノールの量を低減させることによって、ビタミンB12の分解速度が低減すること、及び/又はその安定性が向上することを見出した。
【0012】
本発明はこれらの知見に基づくものであり、以下の発明を包含する。
[1]ビタミンB12を含有する酸性組成物であって、エタノールの含有量が0.1重量%未満であることを特徴とする、組成物。
[2]エタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸及びブチルアミンの含有量が合計で0.1重量%未満である、[1]に記載の組成物。
[3]プロトン性有機溶媒の含有量が合計で0.1重量%未満である、[2]に記載の組成物。
[4]容器詰め飲料又は容器詰めゼリー飲料である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]ビタミンB12を含有する酸性組成物の製造方法であって、エタノールの量が0.1重量%未満となるように原材料を配合することを含む、方法。
[6]エタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸及びブチルアミンの量が合計で0.1重量%未満となるように原材料を配合することを含む、[5]に記載の方法。
[7]プロトン性有機溶媒の量が合計で0.1重量%未満となるように原材料を配合することを含む、[6]に記載の方法。
[8]前記組成物が容器詰め飲料又は容器詰めゼリー飲料である、[5]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]酸性組成物中におけるビタミンB12の安定性を向上させる方法であって、前記組成物中に含まれるエタノールの量を0.1重量%未満とすることを含む、方法。
[10]前記組成物中に含まれるエタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸及びブチルアミンの量を合計で0.1重量%未満とすることを含む、[9]に記載の方法。
[11]前記組成物中に含まれるプロトン性有機溶媒の量を合計で0.1重量%未満とすることを含む、[10]に記載の方法。
[12]前記組成物が容器詰め飲料又は容器詰めゼリー飲料である、[9]~[11]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ビタミンB12の分解速度が低減されている、及び/又はビタミンB12の安定性が優れた、ビタミンB12含有酸性組成物を提供することができる。本発明によれば、保存安定性に優れ、ビタミンB12を効率的に摂取することが可能な、ビタミンB12含有酸性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ビタミンB12を含有し、かつエタノールの含有量が低減されていることを特徴とする酸性組成物に関する。
【0015】
本発明において、「ビタミンB12」とは、ビタミンB複合体の水溶性ビタミンの一つであり、コバルトを含むビタミンの総称である。ビタミンB12は、ヒドロキソコバラミン、アデノシルコバラミン、メチルコバラミン、シアノコバラミン、スルフィトコバラミン、或いは、医薬品や飲食品において許容可能なその誘導体又はその塩を、具体的な化合物として包含する。
【0016】
ビタミンB12は食物から抽出又は精製されたものであってもよいし、微生物により生産されたものであってもよいし、化学的に合成されたものであってもよい。ビタミンB12を含有する食物としては、特に限定はされないが、牡蠣、しじみ、イクラ、さんま、にしん等の魚介類や、トリ、ウシ、ブタのレバー等の肉類を挙げることができる。
【0017】
ビタミンB12のうちシアノコバラミンは、放線菌(ストレプトマイセス属)又は細菌(アグロバクテリウム属、バシルス属、フラボバクテリウム属、プロピオニバクテリウム属、リゾビウム属)などの培養液より分離して得ることができる。
【0018】
本発明の組成物にはビタミンB12を、0.001ppm~5ppm、好ましくは0.005ppm~0.5ppm、より好ましくは、0.01ppm~0.05ppmの範囲より選択される量にて適宜含めることができる。例えば、本発明の組成物には一回の経口摂取量当たり、ビタミンB12を0.9μg以上、1.0μg以上、1.2μg以上、1.5μg以上、1.8μg以上、2.0μg以上、2.1μg以上、2.2μg以上、2.3μg以上、2.4μg以上、2.5μg以上、3.0μg以上、3.2μg以上の範囲で適宜含めることができる。例えば、厚生労働省が公表する「日本人の食事摂取基準(2015年版)」にて推奨されるビタミンB12の摂取量(日)が含まれる範囲が好ましい。「一回の経口摂取量」とは、上記組成物が一度に経口摂取される量、あるいは短い時間間隔(例えば10分以下、好ましくは5分以下の時間)をおいて連続的に複数回で経口摂取される総量を意味する。当該組成物が液状又は半固形状(ゲル状、ゾル状等)の形態である場合には、例えば50mL~500mL(典型的には50mL、100mL、150mL、180mL、200mL、250mL、300mL、350mL、400mL、450mL又は500mL)がその量である。一回の経口摂取量当たりに含まれるビタミンB12の量の上限は特に限定されず、例えば、10μg以下、9μg以下、8μg以下、7μg以下、5μg以下、4μg以下の範囲より適宜決定することができる。
【0019】
本発明において、「プロトン性有機溶媒」とは、自分自身で解離してプロトンを生じる有機溶媒を意味し、電気陰性度の大きな原子、すなわち、窒素原子や酸素原子に結合した水素原子を有するものを意味する。このようなプロトン性有機溶媒としては、例えば、低級アルコール(エタノール、メタノール)、グリセリン、酢酸、ギ酸、ブチルアミン等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0020】
下記実施例にて詳述されるとおり、エタノールは、酸性組成物中にてビタミンB12の分解速度を増大させる効果を有する。したがって、酸性組成物中に含まれるエタノールの量を低減することによって、酸性組成物中におけるビタミンB12の分解速度を低減することができ、酸性組成物中におけるビタミンB12の保存安定性を高めることができる。エタノールだけでなく、エタノールと同様にプロトン性有機溶媒であるグリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸及びブチルアミンもまた、ビタミンB12の分解速度を増大させる効果を有するため、好ましくは、酸性組成物中に含まれるエタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸及びブチルアミンの合計量を低減することによって、酸性組成物中におけるビタミンB12の分解速度を低減することができ、酸性組成物中におけるビタミンB12の保存安定性を高めることができる。特に好ましくは、酸性組成物中に含まれるプロトン性有機溶媒(エタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸、ブチルアミン等を含む)の合計量を低減することによって、酸性組成物中におけるビタミンB12の分解速度を低減することができ、酸性組成物中におけるビタミンB12の保存安定性を高めることができる。
【0021】
本発明の組成物に含まれるエタノールの量は、ビタミンB12の分解速度を低減し、及び/又は、保存安定性を高めるために、可能な限り低減させることが好ましく、組成物に含まれるエタノールの含有量を低減させるほど、組成物におけるビタミンB12の保存安定性を高めることができる。例えば、ビタミンB12を含有する従来の酸性組成物よりも、含まれるエタノールの量を低減することによって、従来の酸性組成物と比べて、ビタミンB12の分解速度が低減し、及び/又は、保存安定性の高い組成物を得ることができる。したがって、本発明の組成物に含まれるエタノールの量は、ビタミンB12を含有する従来の酸性組成物におけるエタノールの量と比べて少ない量であればよく、特に限定されるものではないが、具体的には0.1重量%未満、例えば、0.09重量%未満、0.08重量%未満、0.07重量%未満、又は0.06重量%未満の範囲とすることができる。特に好ましくは、0.05重量%以下、0.04重量%以下、0.03重量%以下、0.02重量%以下、又は0.01重量%以下の範囲とすることができる。
【0022】
本発明の組成物における、エタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸及びブチルアミンの合計量は、ビタミンB12の分解速度を更に低減し、及び/又は、保存安定性を更に高めるために、可能な限り低減させることが好ましい。本発明の組成物中のエタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸及びブチルアミンの合計量は、ビタミンB12を含有する従来の酸性組成物における前記合計量と比べて少ない量であればよく、特に限定されるものではないが、具体的には0.1重量%未満、例えば、0.09重量%未満、0.08重量%未満、0.07重量%未満、又は0.06重量%未満の範囲とすることができる。特に好ましくは、0.05重量%以下、0.04重量%以下、0.03重量%以下、0.02重量%以下、又は0.01重量%以下の範囲とすることができる。
【0023】
本発明の組成物における、エタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸、ブチルアミン等を含むプロトン性有機溶媒の合計量は、ビタミンB12の分解速度を更に低減し、及び/又は、保存安定性を更に高めるために、可能な限り低減させることが好ましい。本発明の組成物中のプロトン性有機溶媒の合計量は、ビタミンB12を含有する従来の酸性組成物における前記合計量と比べて少ない量であればよく、特に限定されるものではないが、具体的には0.1重量%未満、例えば、0.09重量%未満、0.08重量%未満、0.07重量%未満、又は0.06重量%未満の範囲とすることができる。特に好ましくは、0.05重量%以下、0.04重量%以下、0.03重量%以下、0.02重量%以下、又は0.01重量%以下の範囲とすることができる。
【0024】
本発明における「エタノール」、「エタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸及びブチルアミン」並びに「プロトン性有機溶媒」という用語は、それぞれ、本発明の酸性組成物の製造過程において配合されるものだけでなく、当該組成物の製造に用いられる原材料の製造過程において配合される/混入するものも包含する。例えば、今日、ほとんど全ての種類の香料製剤にはエタノールが含有される(植松ら、食衛誌、Vol.38,No.6,pp.452-459, December, 1997)。しかしながら、市販の香料製剤については、最終製品に配合した希釈剤は表示されるが、香料の抽出に用いた溶剤の場合には表示されない場合があり、また、香料製剤を調合する際に多種類の香料を混合することから、混合前の香料に含有されていた溶剤は表示されない場合がある。このため、香料製剤についてエタノールを含む旨の表示がない場合であっても、実際には含まれる場合があり、このような香料製剤を本発明の組成物に配合した場合には、組成物中のエタノールの含量を増大させ、ビタミンB12の分解速度を増大させ得る。
【0025】
なお、本発明の組成物中の「エタノール」、「エタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸及びブチルアミン」並びに「プロトン性有機溶媒」の量は、それぞれ、従来公知の一般的な手法により測定することが可能である。例えば、組成物中の各溶媒成分の含有量は、当該組成物を無水硫酸ナトリウム及びアセトニトリルと混合し、これをろ過し、得られたろ液をアセトニトリルに溶解した液を分析サンプルとして、ガスクロマトグラフィーに付すことにより求めることができる(一色賢司、食衛誌.Vol.26,No.1,pp.39-45,1985)。
【0026】
本発明において、「酸性組成物」とは、pH値が4.5以下である組成物を意味し、例えば、pH4.5未満、pH4.4未満、pH4.3未満、pH4.2未満、pH4.1未満、pH4.0未満、pH3.9未満、pH3.8未満、pH3.7未満、pH3.6未満、pH3.5未満、pH3.4未満、又は、pH3.3未満とすることができる。pH値の下限は特に限定されず、酸性組成物の形態に応じて適宜決定することが可能であり、例えば、pH2.5以上、pH2.6以上、pH2.7以上、pH2.8以上、pH2.9以上、pH3.0以上、pH3.1以上、又は、pH3.2以上とすることができる。
【0027】
本発明の酸性組成物が清涼飲料水の形態である場合には、当該pH値はpH4.0未満とすることが好ましい。食品衛生法の食品別規格基準によれば、清涼飲料水の殺菌・除菌の方法はpH4.0を境に大きく異なっており、pH4.0未満のものの殺菌は、中心部温度を65℃にて10分間加熱することが求められるのに対して、pH4.0以上のものの殺菌は、中心部温度を85℃にて30分間加熱することが求められる。故に、pH値の上限をpH4.0未満とすることによって、殺菌工程による負荷を小さくし、殺菌工程におけるビタミンB12の分解を小さくすることができ、好ましい。なお、本明細書において、pH値は品温20℃で測定された値を指す。
【0028】
本発明の酸性組成物のpH値は、加えられる酸味料の量を適宜調節することによって調節することができる。酸味料としては医薬や飲食品の製造に一般的に利用されるものが挙げられ、例えばクエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、酒石酸、乳酸、コハク酸、又はこれらの塩などがあり、これらのうちの1種又は2種以上の混合物を加えることができる。
【0029】
本発明の酸性組成物には、ビタミンB12に加えて、医薬又は飲食品として許容可能な賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶剤、溶解補助剤、等張化剤、安定化剤、矯味矯臭剤、pH調整剤、香料製剤、甘味料、増粘剤、防腐剤、ビタミン類、寒天等のその他の原材料を、当該組成物において所望される形態に応じて適宜選択、配合することができる。ただし、これらの成分は、エタノールを含まない、又はエタノールの含量が低いものを利用することが好ましく、エタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸及びブチルアミンを含まない、又はそれらの合計含量が低いものを利用することがより好ましく、プロトン性有機溶媒(エタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸、ブチルアミン等を含む)を含まない、又はプロトン性有機溶媒の合計含量が低いものを利用することが特に好ましい。例えば、上記のとおり、今日、ほとんど全ての種類の香料製剤にはエタノールが溶媒として含有される。本発明においては、このような香料製剤に代えて、溶媒としてエタノールではなく、中鎖脂肪酸及び/又は乳化剤から選択される一又は複数を利用する香料製剤を含めることができる。ここで特に限定されるものではないが、中鎖脂肪酸としては、C8,C10,C12トリグリセライド等を利用することが可能であり、乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を利用することができる。
【0030】
本発明の酸性組成物は、医薬品(医薬部外品を含む)又は飲食品の形態で提供することができる。これらの形態は、液状組成物又は半固形状組成物(ゲル状、ゾル状等)等の形態とすることができ、上記ビタミンB12に加えて、上記その他の原材料をその剤形に応じて、適宜配合し、常法に従って調製することができる。
【0031】
例えば、本発明の酸性組成物は、容器詰め飲料とすることができる。本発明の酸性組成物(液状組成物)を収容するための容器は、飲料用容器として使用される容器を適宜用いることができ、限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)製容器、所謂PETボトルや、金属缶容器等が挙げられる。容器の形態は特に限定されない。また、容器の容量は特に限定されないが、例えば50~500mL(典型的には50mL、100mL、150mL、180mL、200mL、250mL、300mL、350mL、400mL、450mL又は500mL)、好ましくは100~200mLとすることができる。
【0032】
あるいは、本発明の酸性組成物は、容器詰めゼリー飲料とすることができる。本発明の酸性組成物(半固形状(ゲル状、ゾル状等)組成物)を収容するための容器は、ゼリー飲料用容器として使用される容器を適宜用いることができ、限定されないが、樹脂フィルム、及び/又は、金属フィルム製容器、パウチ容器等が挙げられる。また、容器の容量は特に限定されないが、例えば50mL~200mL(典型的には50mL、100mL、150mL、180mL、200mL)とすることができる。
【0033】
本発明の酸性組成物は、食物から抽出もしくは精製されたビタミンB12、又は、化学的に合成されたビタミンB12、酸味料、必要に応じて上述のようなその他の原材料、並びに残部として水を混合し、エタノールの含有量がビタミンB12を含有する従来の酸性組成物におけるエタノールの含有量と比べて少ない量、具体的には0.1重量%未満、例えば、0.09重量%未満、0.08重量%未満、0.07重量%未満、又は0.06重量%未満の範囲、好ましくは、0.05重量%以下、0.04重量%以下、0.03重量%以下、0.02重量%以下、又は0.01重量%以下の範囲となるようにして製造することができる。本発明のより好ましい実施形態に係る酸性組成物は、食物から抽出もしくは精製されたビタミンB12、又は、化学的に合成されたビタミンB12、酸味料、必要に応じて上述のようなその他の原材料、並びに残部として水を混合し、エタノール、グリセリン、メタノール、酢酸、ギ酸及びブチルアミンの合計の含有量がビタミンB12を含有する従来の酸性組成物におけるエタノールの含有量と比べて少ない量、具体的には0.1重量%未満、例えば、0.09重量%未満、0.08重量%未満、0.07重量%未満、又は0.06重量%未満の範囲、好ましくは、0.05重量%以下、0.04重量%以下、0.03重量%以下、0.02重量%以下、又は0.01重量%以下の範囲となるようにして製造することができる。本発明の特に好ましい実施形態に係る酸性組成物は、食物から抽出もしくは精製されたビタミンB12、又は、化学的に合成されたビタミンB12、酸味料、必要に応じて上述のようなその他の原材料、並びに残部として水を混合し、プロトン性有機溶媒の合計の含有量がビタミンB12を含有する従来の酸性組成物におけるプロトン性有機溶媒の合計の含有量と比べて少ない量、具体的には0.1重量%未満、例えば、0.09重量%未満、0.08重量%未満、0.07重量%未満、又は0.06重量%未満の範囲、好ましくは、0.05重量%以下、0.04重量%以下、0.03重量%以下、0.02重量%以下、又は0.01重量%以下の範囲となるようにして製造することができる。本発明の酸性組成物の容器への収容、及び殺菌の手段は任意に選択することができる。
【0034】
以下に実施例及び試験例を示し、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0035】
<実施例>
(標品作成方法)
予め400μg/mLに調整したB12標準溶液5mgを褐色メスフラスコに精秤し、水で200mLに希釈定容した。さらに、希釈定容した溶液の4mLを褐色メスフラスコに精秤し、水で100mLに希釈定容し、HPLC測定における検量線作成のための標準溶液とした。
【0036】
(HPLC測定前処理方法)
ビタミンB12を含む溶液サンプル25gを褐色メスフラスコに精秤した。下記に記載する調整済み試薬を添加後、沸騰水中で30分間の加熱を行った。
水 :80mL
酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5):20mL
シアン化カリウム(0.05%) : 2mL
加熱終了後に水冷却を行い、水で200mLに定容後、PVDFフィルター(Whatman GD/X Syringe Filter;直径25mm、孔径0.45μm)を用いて溶液を濾過した。次に、コンディショニング済み固相カラム(アジレント・テクノロジー社製 Bond Elute MEGA BE-C18)に濾液を25mL通液した。試料液通液後の固相カラムに洗浄液100mLを通液した。洗浄は、酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)を水で10倍に希釈した溶液を通液することで行った。25mL容ナシ型フラスコ内に固相カラム吸着物を、メタノールを用いて溶出した。日本ビュッヒ社製ロータリーエバポレーター(Rotavapor(登録商標) R-210)を用いて濃縮乾固した後、水1mLを添加して残留物を再溶解した。溶解物をCAフィルター(MS CA Syringe Filter;直径13mm、孔径0.45μm)を用いて濾過し、試料溶液とした。
【0037】
(HPLC測定条件)
装置:日立ハイテクサイエンス製 LaChrom Elite
カラム:CAPCELLPAK C18 UG120 5μm(3.0mmφ×150mm)(資生堂)
温度:50℃
流量:1.0ml/min
注入量:200μL
検出:紫外可視分光検出器 550nm
移動相:
A:0.05mol/L KH2PO4(和光純薬工業株式会社)(pH2.1)
B:アセトニトリル(和光純薬工業株式会社)
A/B=93/7
【0038】
(ベース液調整方法)
イオン交換水にグラニュー糖2.5%、果糖1.2%、L-アスコルビン酸0.8%、クエン酸0.2%、クエン酸三ナトリウム0.2%、ビタミンB120.032ppmになるように添加し、1.0N塩酸(和光純薬工業株式会社)、1.0N水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社)を用いて目標pHに調整しベース液とした。
【0039】
(試験1)
表1に示す組成の各溶液を、ビタミンB12を含む溶液サンプルとしてHPLC測定前処理方法に記載の方法で前処理して試料溶液とし、得られた試料溶液をHPLC測定条件に従いHPLC測定した。標準溶液を用いて作成した検量線を用い、HPLC測定値からビタミンB12量を求め、0日目の値とし、これを100%とした。表1に示す組成の各溶液を遮光されたレトルトパウチに約100mL室温充填後、LAUDA製恒温水槽(D20KP)を使用して80℃10分間の湯殺菌を行った。殺菌後の各溶液を、ADVANTEC社製恒温庫(AGX-345)を使用して50℃で保存し同様に0日目、3日目のビタミンB12の測定を行った。
【0040】
【0041】
結果を表2に示す。表2の結果より、プロトン供与性有機溶媒であるエタノールを添加した比較例1EのみがビタミンB12の分解を促進した。溶解パラメーター(SP値、エタノール:12.7、アセトニトリル:11.9)がほぼ同等であるアセトニトリルを添加した比較例1Aはほぼ実施例と同様の分解率となった。このことからビタミンB12の溶解度の影響はほぼなく、ビタミンB12の分解促進はエタノール特有の現象でビタミンB12の分解機構からプロトン供与性が原因と推察された。
【0042】
【0043】
<参考実験>
I.材料・測定方法
1.標準原液
葉酸100mgを200mL褐色ビーカーに精秤し、0.1N水酸化ナトリウム溶液(和光純薬)を5mL添加して溶解した。次いで、特級エタノール(和光純薬)10mLを添加・混和後、イオン交換水100mLと0.1N塩酸(和光純薬)にて溶液のpHを7.0~8.0に調整した。200mL褐色メスフラスコとイオン交換水を用いて所定量に定容し、HPLC測定における検量線作成のための標準原液とした。
【0044】
2.HPLC測定
葉酸を含む溶液サンプルは、重量を測定後、1.0N水酸化ナトリウム溶液(和光純薬)を用いてpH12.0(HORIBA製pHメーター(F-72))に調整した。次いで、10分間撹拌後(AS ONE製マグネティックスターラー(RSH-1AN))、1.0N塩酸(和光純薬)を用いてpH7.0に調整し、ろ過し(AS ONE製0.45μmフィルター(SY25TF))、得られたろ液をHPLC測定に付した。
【0045】
HPLC測定は、以下の条件にて実施した。
装置:Waters ACQUITY H-Classシステム
カラム:Waters XBridge C18 5μm 6×250mm
温度:50℃
流量:1.2ml/min
移動相:12%メタノール(和光純薬)、0.3%酢酸(和光純薬)、1.08%オクタスルホン酸Na溶液(和光純薬)
【0046】
3.ベース液
イオン交換水にグラニュー糖2.5重量%、果糖1.2重量%、L-アスコルビン酸0.8重量%、クエン酸0.2重量%、クエン酸三ナトリウム0.2重量%、及び葉酸0.0003重量%を添加し、1.0N塩酸(和光純薬)、及び1.0N水酸化ナトリウム(和光純薬)を用いて、所定のpHに調整し、ベース液とした。
【0047】
II.参考試験1:エタノール添加の影響(1)
下記表3に示す組成に従って、ベース液、ならびに、エタノール、又は、アセトニトリルを含み、所定のpHを有する溶液(参考例1~7、参考比較例1E~7E(エタノール添加)、参考比較例1A~7A(アセトニトリル添加))をそれぞれ調製した(0日目)。
【0048】
【0049】
各溶液を遮光されたレトルトパウチに100mL室温充填し、その後80℃にて10分間湯殺菌(LAUDA製恒温水槽(D20KP))を行った。次いで、各溶液を50℃で所定の期間保存し(ADVANTEC社製恒温庫(AGX-345))、保存後の各溶液中の葉酸量をHPLCにより測定した。
【0050】
保存後の各溶液中の葉酸量の測定結果を下記表4に示す。なお、表中の葉酸量の数値は、0日目の溶液中の葉酸量を「100」とする相対値にて示す。
【0051】
表4に示すとおり、プロトン供与性有機溶媒であるエタノールを添加した参考比較例1E~7Eにおいて、葉酸の分解速度が顕著に増大したことが確認された。
【0052】
一方、溶解パラメーター(SP値)がエタノールと同程度であるアセトニトリル(SP値、エタノール:12.7、アセトニトリル:11.9)を添加した参考比較例1A~7Aにおいては、参考例と同程度の葉酸量が確認され、アセトニトリルの添加により葉酸の分解速度が顕著に増大することは認められなかった。
【0053】
これらの結果は、参考比較例1E~7Eにおいて認められる葉酸の分解速度の増大が、葉酸の溶媒に対する溶解度に由来するものではなく、エタノール添加に基づく、エタノールの存在に由来するものであることを示す。
【0054】
【0055】
III.参考試験2:エタノール添加の影響(2)
下記表5に示す組成にしたがって、ベース液、及びエタノールを含み、pHを3.5とする溶液(参考例8、9、参考比較例8E)をそれぞれ調製した(0日目)。
【0056】
【0057】
各溶液を上記参考試験1と同様に、レトルトパウチに充填、殺菌、保存し、保存後の各溶液中の葉酸量をHPLCにより測定した。
【0058】
保存後の各溶液中の葉酸量の測定結果を下記表6に示す。なお、表中の葉酸量の数値は、0日目の溶液中の葉酸量を「100」とする相対値にて示す。
【0059】
表6に示すとおり、エタノールの添加によって保存後の葉酸量の低下が認められたが(上記表4の参考例4と比較)、エタノールを0.03重量%及び0.05重量%含む参考例8及び9と比べて、エタノールを0.5重量%含む参考比較例8Eにおいては、保存後の葉酸量が顕著に低いことが確認された。一方、参考例8及び9との間で、保存後の葉酸量に大きな差は認められなかった。
【0060】
この結果より、エタノールの含量が多いほど葉酸の分解速度が大きいことが確認されるが、エタノールの含量が0.05重量%以下となる場合には、葉酸の分解速度があまり変化しないことが示唆される。
【0061】
【0062】
IV.参考試験3:エタノール添加の影響(3)
下記表7に示す組成にしたがって、葉酸を含む溶液(参考例10、参考比較例9E)をそれぞれ調製した(0日目)。なお、香料1はエタノールを含まず中鎖脂肪酸とグリセリン脂肪酸エステルを溶媒として用いて、溶液化した香料であり、香料2は溶媒としてエタノールを50重量%(最終製品濃度0.1重量%)含む香料である。
【0063】
【0064】
各溶液を上記参考試験1と同様に、殺菌、保存し、保存後の各溶液中の葉酸量をHPLCにより測定した。
【0065】
保存後の各溶液中の葉酸量の測定結果を下記表8に示す。なお、表中の葉酸量の数値は、0日目の溶液中の葉酸量を「100」とする相対値にて示す。
【0066】
表8に示すとおり、香料に含まれるという形にしてもエタノールが添加されることによって、溶液中の葉酸の分解速度は増大することが確認された。
【0067】
一般的に、飲料や水系食品においては、分散性を高めるために香料はエタノール含有製剤が用いられている。しかしながら、上記の結果より、葉酸の分解速度を低減し、安定化を図るためには、エタノールを含有しない香料を用いること、すなわち、エタノールを含有しない原材料を用いることが有利であることが示された。
【0068】