(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】高電圧直流送電の監視
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220308BHJP
H02M 7/49 20070101ALI20220308BHJP
H02J 1/00 20060101ALI20220308BHJP
H02H 3/16 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/49
H02J1/00 301D
H02H3/16 A
(21)【出願番号】P 2020564653
(86)(22)【出願日】2018-05-18
(86)【国際出願番号】 EP2018063212
(87)【国際公開番号】W WO2019219217
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】カラチャイ,ムスタファ バルシュ
(72)【発明者】
【氏名】ロレンツ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】シュターシック,エフゲニー
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-11992(JP,A)
【文献】特開平8-19168(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010388(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/49
H02J 1/00
H02H 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの変換器ステーション(1,2)間のHVDC変換器の監視方法であって、
前記HVDC変換器の電流強度(I
1,I
2)に対して電流強度閾値(L1)が設定され、
時間間隔に対して少なくとも1つの間隔長(T
1,T
2)が設定され、設定された間隔長(T
1,T
2)ごとに、前記間隔長(T
1,T
2)の時間間隔にわたって平均化されたHVDC変換器の電流強度(I
1,I
2)の電流強度変化に対して変化閾値(L2,L3)が設定され、
前記HVDC変換器の各極(7,8)について、前記電流強度(I
1,I
2)が検出され、前記設定された間隔長(T
1,T
2)ごとに、前記間隔長(T
1,T
2)の時間間隔にわたって平均化された前記電流強度(I
1,I
2)の電流強度変化が検出され、
前記HVDC変換器の各極(7,8)について、前記電流強度(I
1,I
2)の大きさが前記設定された電流強度閾値(L1)と比較され、かつ前記設定された間隔長(T
1,T
2)ごとに、前記平均化された電流強度変化の大きさが前記間隔長(T
1,T
2)に対して設定された前記変化閾値(L2,L3)と比較され、
少なくとも1つの極(7,8)の電流強度(I
1,I
2)の大きさが前記電流強度閾値(L1)よりも大きい場合、又は1つの間隔長(T
1,T
2)について、少なくとも1つの極(7,8)の電流強度(I
1,I
2)の前記平均化された電流強度変化の大きさが前記間隔長(T
1,T
2)について前記設定された変化閾値(L2,L3)よりも大きい場合、直流故障と判定される、HVDC変換器の監視方法。
【請求項2】
直流故障と判定された際に、各極(7,8)の電流が、変換器ステーション(1,2)における前記極(7,8)に割り当てられた変換器を制御することによって、零に調節される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
対称単極式のHVDC変換器の場合に、前記極(7,8)の電流の零への調節後に、直流故障によって充電された極(7,8)が放電される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記極(7,8)の電流の零への調節のための調節時間が設定され、直流故障によって充電された極(7,8)が前記調節時間の経過後に放電される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記調節時間が100msと500msとの間にある、請求項4記載の方法。
【請求項6】
時間間隔に対して2つの異なる間隔長(T
1,T
2)が設定される、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
第1の間隔長(T
1)が100μsと500μsとの間にあり、第2の間隔長(T
2)が500μsと2msとの間にある、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
HVDC変換器の変換器ステーション(1,2)であって、
前記変換器ステーション(1,2)が、
前記HVDC変換器の各極(7,8)について、電流強度(I
1,I
2)と、前記電流強度(I
1,I
2)の電流強度変化(I
1(ドット),I
2(ドット))とを繰り返し検出するように構成された測定装置(13)と、
各極(7,8)について、前記電流強度(I
1,I
2)の大きさを、設定された電流強度閾値(L1)と比較し、少なくとも1つの設定された間隔長(T
1,T
2)について、前記極(7,8)の前記電流強度(I
1,I
2)の電流強度変化(I
1(ドット),I
2(ドット))から、前記間隔長(T
1,T
2)の時間間隔にわたって平均化された電流強度変化を形成し、前記平均化された電流強度変化の大きさを、前記間隔長(T
1,T
2)に対して設定された変化閾値(L2,L3)と比較し、かつ少なくとも1つの極(7,8)の電流強度(I
1,I
2)の大きさが前記電流強度閾値(L1)よりも大きい場合、又は1つの間隔長(T
1,T
2)について、少なくとも1つの極(7,8)の電流強度(I
1,I
2)の前記平均化された電流強度変化の大きさが前記間隔長(T
1,T
2)に対して設定された変化閾値(L2,L3)よりも大きい場合、直流故障と判定するように構成された制御ユニット(15)と、
を有する、HVDC変換器の変換器ステーション(1,2)。
【請求項9】
前記変換器ステーション(1,2)の各変換器が、前記変換器が割り当てられた極の充電に反対に作用する逆電圧を発生するように構成されている、請求項8記載の変換器ステーション(1,2)。
【請求項10】
前記制御ユニット(15)が、直流故障と判定された際に、各極(7,8)の電流を、前記変換器ステーション(1,2)における前記極(7,8)に割り当てられた変換器を制御することによって、零に調節するように構成されている、請求項9記載の変換器ステーション(1,2)。
【請求項11】
対称単極式のHVDC変換器の場合に、前記制御ユニット(15)が、前記極(7,8)の電流の零への調節後に、直流故障によって充電された極(7,8)の放電をひき起こすように構成されている、請求項10記載の変換器ステーション(1,2)。
【請求項12】
前記制御ユニット(15)が、前記極(7,8)の電流を設定された調節時間の間に零に調節するとともに、その調節時間の経過後に、直流故障によって充電された極(7,8)の放電をひき起こす、ように構成されている、請求項11記載の変換器ステーション(1,2)。
【請求項13】
前記変換器ステーション(1,2)の各変換器が自励変換器として構成されている、請求項8から12のいずれか1項に記載の変換器ステーション(1,2)。
【請求項14】
前記変換器ステーション(1,2)の各変換器がモジュール式のマルチレベル変換器として構成されている、請求項8から13のいずれか1項に記載の変換器ステーション(1,2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの変換器ステーション間の高電圧直流送電を監視するための方法と、その方法を実施するよう構成された高電圧直流送電の変換器ステーションに関する。
【背景技術】
【0002】
交流系統間の電気エネルギーは、長距離にわたって高い直流電圧で伝送されることが多い。その理由は、長距離にわたる直流電圧によるエネルギー伝送の方が交流電圧によるエネルギー伝送に比べて損失が少なく、費用対効果が高いからである。この種のエネルギー伝送は、高電圧直流送電区間(HVDC変換器区間)を介する高電圧直流送電(HVDC変換器)と呼ばれる。
【0003】
1つのHVDC変換器区間を1つの交流系統に接続するために、その交流系統とHVDC変換器区間の一端との間に変換器ステーションが配置され、その変換器ステーションにおいて、交流系統の交流電流および交流電圧と、HVDC変換器の直流電流および直流電圧との間で、変換が行われる。交流系統とHVDC変換器区間との間のエネルギー伝送は、単極式、対称単極式、又は双極式にて行われる。対称単極式のエネルギー伝送の場合および双極式のエネルギー伝送の場合には、2つの極が使用され、一方の極に、大地電位に対して正の高電圧が印加され、他方の極に、大地電位に対して負の高電圧が印加される。対称単極式のエネルギー伝送の場合には、両極が同一の変換器ステーションによって交流系統に接続され、双極式のエネルギー伝送の場合には、両極が異なる変換器ステーションによって交流系統に接続される。
【0004】
HVDC変換器は、直流故障によって悪影響を及ぼされ得る。例えば、HVDC変換器の1つの極が大地電位に接続される地絡故障が発生し得る。さらに、対称単極式のHVDC変換器の場合には、両極が短絡される極間故障が発生し得る。いずれにしても、変換器ステーションが従来のハーフブリッジ技術で実施されている場合、HVDC変換器の変換器ステーションは遮断され、それぞれの交流系統から切り離される。このような故障時において、変換器ステーションおよびHVDC変換器の他の構成要素、特に送電線路の負担を軽減するためには、直流故障による損傷を回避又は制限することができるように、このような直流故障を迅速に検出することが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、特に直流故障の検出に関して改善されたHVDC変換器の監視方法およびHVDC変換器の変換ステーションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、本発明によれば、請求項1記載の特徴事項を有する方法ならびに請求項8記載の特徴事項を有する変換器ステーションよって解決される。
【0007】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0008】
2つの変換器ステーション間のHVDC変換器を監視する本発明による方法では、HVDC変換器の電流強度に対して電流強度閾値が設定され、時間間隔に対して少なくとも1つの間隔長が設定され、設定された間隔長ごとに、当該間隔長の時間間隔にわたって平均化されたHVDC変換器の電流強度の電流強度変化に対して変化閾値が設定される。HVDC変換器の各極について、前記電流強度が検出され、前記設定された間隔長ごとに、当該間隔長の時間間隔にわたって平均化された前記電流強度の電流強度変化が検出される。HVDC変換器の各極について、前記電流強度の大きさが前記設定された電流強度閾値と比較され、かつ前記設定された間隔長ごとに、前記平均化された電流強度変化の大きさが当該間隔長に対して設定された変化閾値と比較される。少なくとも1つの極の電流強度の大きさが前記電流強度閾値よりも大きい場合、又は1つの間隔長について、少なくとも1つの極の電流強度の前記平均化された電流強度変化の大きさが当該間隔長について前記設定された変化閾値よりも大きい場合、直流故障と判定される。
【0009】
1つの極の電流強度とは、HVDC変換器におけるこの極に属する送電線路内に流れる直流電流の電流強度である。従って、以下において、1つの極の電流とは、HVDC変換器における当該極に属する送電線路に流れる直流電流である。
【0010】
本発明による、HVDC変換器の各極の電流強度および電流強度変化の検出および評価は、有利なことに、地絡故障又は極間故障のような直流故障を非常に迅速に検出することを可能にする。それにより、直流故障に対して非常に迅速に応答して、直流故障による損傷を回避又は低減し、直流故障によるHVDC変換器の中断時間を低減することができる。特に、系統安定化のための無効電力は、遮断することなく利用することができ、HVDC変換器に使用される構成要素、特にHVDC変換器の送電線路に使用される構成要素に対する直流故障に起因した電圧負担を軽減することができ、それによって、当該構成要素の耐用年数が延長される。本発明は、例えば、一時的な直流故障が発生した場合、800ms未満の遮断時間後に、有効電力の送電を再開することを可能にする。さらに、電圧負担を軽減することにより、HVDC変換器の送電線路の電気絶縁のための絶縁距離も縮小することができる。
【0011】
本発明の一実施形態では、直流故障と判定された際に、各極の電流が、変換器ステーションにおける当該極に割り当てられた変換器を制御することによって、零に調節される。換言すれば、直流故障の検出時には、直流故障がHVDC変換器の各極について、変換ステーションにおける当該極に割り当てられた変換器の制御が、当該極の電流を零に調節する電流制御に切り換えられる。それによって、有利に、直流故障時に故障電流の迅速な低減が可能にされる。
【0012】
本発明の別の実施形態では、対称単極式のHVDC変換器の場合に、極の電流の零への調節後に、直流故障によって充電された極が放電される。この本発明の実施形態は、対称単極式のHVDC変換器の場合に、一方の極の地絡故障が発生した際に、他方の極が充電されること、即ち、この極に印加される高電圧の大きさが、例えば故障のない動作時での両極間の電圧差の値にまで上昇することを考慮している。従って、本発明は、特に、対称単極式のHVDC変換器の非対称地絡故障の検出および処置を可能にする。例えば、極の電流を零に調節するための調節時間が設定され、直流故障によって充電された極は、その調節時間の経過後に放電される。その調節時間は、100msと500msとの間にある。極の電流の零への調節後における充電された極の本発明による放電は、有利なことに、充電された極に接続されているHVDC変換器構成要素の電圧負担を軽減させる。
【0013】
本発明の別の実施形態では、時間間隔に対して2つの異なる間隔長が設定される。例えば、第1の間隔長は100μsと500μsとの間にあり、第2の間隔長は500μsと2msとの間にある。従って、本発明のこの実施形態では、各極の電流強度変化が、2つの異なる間隔長の時間間隔にわたって別々に平均化されて、評価される。それによって、直流故障が異なる時間スケールで電流強度変化を引き起こし得ることが考慮されている。100μsと500μsとの間の時間間隔にわたって平均化された電流強度変化の評価は、HVDC変換器の直流故障時に一般的に発生する急激な電流強度変化の検出を可能にする。500μsと2msとの間の時間間隔にわたって平均化された電流強度変化の評価は、HVDC変換器の直流故障時に一般的に発生する、特に符号変化を伴う電流強度変化時に発生する、より遅い電流強度変化の検出を可能にする。
【0014】
本発明によるHVDC変換器の変換器ステーションは、HVDC変換器の各極について、電流強度および該電流強度の電流強度変化を繰り返し検出するように構成された測定装置と、各極について、電流強度の大きさを、設定された電流強度閾値と比較し、少なくとも1つの設定された間隔長について、当該極の電流強度の電流強度変化から、当該間隔長の時間間隔にわたって平均化された電流強度変化を形成し、前記平均化された電流強度変化の大きさを、当該間隔長に対して設定された変化閾値と比較し、かつ少なくとも1つの極の電流強度の大きさが前記電流強度閾値よりも大きい場合、又は1つの間隔長について、少なくとも1つの電流強度の前記平均化された電流強度変化の大きさが当該間隔長に対して設定された変化閾値よりも大きい場合、直流故障と判定するように構成された制御ユニットとを含む。
【0015】
本発明による変換器ステーションの一実施形態において、変換器ステーションの各変換器は、該変換器が割り当てられた極の充電に反対に作用する逆電圧を発生するように構成されている。例えば、前記変換器は、そのためにフルブリッジ変換器として構成された、又はフルブリッジとして構成された十分な個数の変換器モジュールを有する。この場合、制御ユニットは、特に、直流故障と判定された際に、各極の電流を、変換器ステーションにおける当該極に割り当てられた変換器の制御によって、零に調節するように構成されている。
【0016】
本発明による変換器ステーションの別の実施形態では、対称単極式のHVDC変換器の場合に、前記制御ユニットは、直流故障によって充電された極が当該極の電流を零に調節した後に放電するように構成されている。前記制御ユニットは、設定された調節時間中に極の電流を零に調節し、その調節時間経過後に、直流故障によって充電された極を放電させるように構成されているとよい。
【0017】
さらに、変換ステーションの各変換器は、例えば、自励式変換器(VSC=電圧源変換器)及び/又はモジュール式マルチレベル変換器として構成されている。
【0018】
本発明による変換ステーションは、本発明による方法を実施することを可能にする。従って、本発明による変換ステーションの利点は、本発明による方法の上述の利点に対応し、ここでは再び別個に説明することはしない。
【0019】
以下において、図面を参照して実施例を説明することにより、本発明の上述の特性、特徴および利点ならびにそれらを達成する方法を明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は2つの交流系統間のHVDC変換器の2つの変換器ステーションとHVDC変換器区間とを示す概略図である。
【
図2】
図2はHVDC変換器の監視方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3はHVDC変換器の1つの極の電流強度および電流強度変化を評価するためのブロック図である。
【
図4】
図4は直流故障時における第1の変換器ステーションの位置でのHVDC変換器の電流強度および第1の変換器ステーションのトリガ信号の経過を示す曲線図である。
【
図5】
図5は直流故障時における第2の変換器ステーションの位置でのHVDC変換器の電流強度および第2の変換器ステーションのトリガ信号の経過を示す曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
これらの図において、互いに対応する部分には同一の参照符号が付されている。
【0022】
図1は、HVDC変換器の2つの変換器ステーション1,2を概略的に示しており、両変換器ステーション1,2の直流側は、HVDC変換器区間3を介して、互いに接続されている。第1の変換器ステーション1の交流側は、交流系統5に接続されている。第2の変換器ステーション2の交流側は、交流系統6に接続されている。
【0023】
HVDC変換器は、第1の極7および第2の極8による対称単極式構成を有する。HVDC変換器区間3は、第1の極7用に第1の送電線路9を有し、第2の極8用に第2の送電線路10を有する。
【0024】
各変換器ステーション1,2は、変換器ユニット11と、測定装置13と、制御ユニット15とを有する。
【0025】
各変換器ユニット11は、各極7,8ごとに自励変換器を有し、該自励変換器は、エネルギー伝送方向に応じて、当該交流系統5,6の交流電流および交流電圧をHVDC変換器の直流電流および直流電圧に変換するための整流器として、又はHVDC変換器の直流電流および直流電圧を当該交流系統の交流電流および交流電圧に変換するためのインバータとして使用可能であり、例えばモジュール構造のマルチレベル変換器として構成されている。
【0026】
各変換器ステーション1,2の測定装置13は、HVDC変換器の第1の極7については、第1の電流強度I1と第1の電流強度I1の電流強度変化I1(ドット)とを検出するように構成されており、HVDC変換器の第2の極8については、第2の電流強度I2と第2の電流強度I2の電流強度変化I2(ドット)とを検出するように構成されている。
【0027】
各制御ユニット15は、
図2に基づいて説明する方法の方法ステップS3~S6を実行するように構成されている。
【0028】
図2は、方法ステップS1~S6により両変換器ステーション1,2間のHVDC変換器を監視するための本発明による方法の実施例のフローチャートを示す。この方法は、各変換器ステーション1,2によって、他方の変換器ステーションから独立して実行され、即ち、以下に説明する方法ステップS1~S6は、それぞれ、1つの変換器ステーション1,2と、当該変換器ステーション1,2の変換器ユニット11、測定装置13および制御ユニット15とに関係する。
【0029】
第1の方法ステップS1において、極7,8の電流強度I1,I2に対して電流強度閾値L1が設定され、時間間隔に対して2つの異なる間隔長T1,T2が設定され、そして設定された間隔長T1,T2ごとに、当該間隔長T1,T2の時間間隔にわたって平均化された各電流強度I1,I2の電流強度変化に対して変化閾値L2,L3が設定される。例えば、第1の間隔長T1は100μsと500μsとの間にあり、第2の間隔長T2は500μsと2msとの間にある。
【0030】
第2の方法ステップS2において、測定装置13によって、HVDC変換器の各極7,8について電流強度I1,I2と、電流強度I1,I2の電流強度変化I1(ドット),I2(ドット)が検出される。
【0031】
第3の方法ステップS3において、制御ユニット15によって、第2の方法ステップにおいて測定装置13により検出された各極7,8の電流強度I1,I2の電流強度変化I1(ドット),I2(ドット)から、当該間隔長T1,T2の時間間隔にわたって平均化された電流強度変化が形成される。
【0032】
第4の方法ステップS4において、制御ユニット15によって、各極7,8ついて、第2の方法ステップにおいて測定装置13により検出された電流強度I1,I2の大きさが、第1の方法ステップS1において設定された電流強度閾値L1と比較される。さらに、この第4の方法ステップS4においては、制御ユニット15によって、各極7,8について、かつ各設定された間隔長T1,T2ごとに、第3の方法ステップS3において形成された前記平均化された電流強度変化の大きさが、第1の方法ステップS1において各間隔長T1,T2ごとに設定された変化閾値L2,L3と比較される。少なくとも1つの極7,8の電流強度I1,I2の大きさが電流強度閾値L1よりも大きい場合に、又は1つの間隔長T1,T2について少なくとも1つの極7,8の電流強度I1,I2の前記平均化された電流強度変化の大きさが当該間隔長T1,T2に対して設定された変化閾値L2,L3よりも大きい場合に、直流故障と判定され、第5の方法ステップで本方法が継続される。さもなければ、第2の方法ステップS2で本方法が継続される。
【0033】
図3は、第1の極7について方法ステップS3およびS4を実施するためのブロック図を概略的に示す。第2の方法ステップS2で検出された第1の電流強度I
1が絶対値形成器20に供給され、絶対値形成器20は第1の電流強度I
1の大きさを形成する。第1の電流強度I
1の大きさは、比較器22によって電流強度閾値L1と比較される。第1電流強度I
1の大きさが電流強度閾値L1より大きい場合には、比較器22は出力信号として「1」を第1のOR要素24へ出力し、そうでない場合には、比較器22は出力信号として「0」を第1のOR要素24へ出力する。
【0034】
第2の方法ステップS2で検出された第1の電流強度変化I1(ドット)はそれぞれ第1の評価器26および第2の評価器28に供給される。第1の評価器26は、第1の電流強度変化I1(ドット)を第1の間隔長T1の時間間隔にわたって平均化し、その平均化された第1の電流強度変化の大きさを第1の変化閾値L2と比較する。その平均化された第1の電流強度変化の大きさが第1の変化閾値L2よりも大きい場合には、第1の評価部26は、出力信号として「1」を第2のOR要素30へ出力し、そうでない場合には出力信号として「0」を第2のOR要素30へ出力する。
【0035】
それに対応して、第2の評価器28は、第1の電流強度変化I1(ドット)を第2の間隔長T2の時間間隔にわたって平均化し、その平均化された第1の電流強度変化の大きさを第2の変化閾値L3と比較する。その平均化された第1の電流強度変化の大きさが第2の変化閾値L3よりも大きい場合には、第2の評価器28は出力信号として「1」を第2のOR要素30へ出力し、そうでない場合には出力信号として「0」を第2の要素30へ出力する。
【0036】
第2のOR要素30の出力信号は、第1のOR要素24に供給される。従って、第1のOR要素24は、第1の電流強度I1の大きさが電流強度閾値L1よりも大きい場合、又は第1の間隔長T1の時間間隔にわたって平均化された第1の電流強度変化の大きさが第1の変化閾値L2よりも大きい場合、又は第2の間隔長T2の時間間隔にわたって平均化された第1の電流強度変化の大きさが第2の変化閾値L3の大きさよりも大きい場合に、トリガ信号Sとして「1」を出力する。そうでない場合には、第1のOR要素24はトリガ信号Sとして「0」を出力する。
【0037】
絶対値形成器20、比較器22、OR要素24,30および評価器26,28は、制御ユニット15のハードウェア構成要素又は制御ユニット15によって実行されるソフトウェアのプログラムステップとして実施することができる。
【0038】
第5の方法ステップS5においては、各極7,8の電流が、制御ユニット15によって、変換器ステーション1,2の当該極7,8に割り当てられた変換器の制御により零に調節される。この調節は、制御ユニット15のトリガ信号Sが「1」の値をとるときに作動される。
【0039】
図4および
図5は、第1の極7の地絡故障時における変換器ステーション1,2の位置での第1の電流強度I
1ならびに変換器ステーション1,2のトリガ信号Sの経過例を示す。ここでは、第1の変換器ステーション1の変換器ユニット11の変換器が整流器として動作し、第2の変換器ステーション2の変換器ユニット11の変換器がインバータとして動作し、かつ地絡故障が第2の変換器ステーション2の近傍で発生したものと仮定している。
【0040】
図4は、第1の変換器ステーション1の位置における第1の電流強度I
1の経過と、第1の変換器ステーション1のトリガ信号Sの経過を示す。地絡故障は、第1の変換器ステーション1の位置において、第1の時点t
1から第1の電流強度I
1の増大を生じさせる。第1の変換器ステーション1は、この増大を検出し、方法ステップS2~S5に従って、この増大に応答する。第5の方法ステップS5に応じた第1の変換器ステーション1による第1の電流強度I
1の零への調節が、第1の変換器ステーション1のトリガ信号Sが「1」の値をとった時点t
2で始まる。第1の時点t
1と第2の時点t
2との間に、例えば500μsの応答時間が存在する。第1の電流強度I
1は、第2の時点t
2後に、前記調節によって先ず減少して、その際に符号が変化し、その後に再びゆっくりと増大して値0に近づく。
【0041】
図5は、第2の変換器ステーション2の位置における第1の電流強度I
1の経過と、第2の変換器ステーション2のトリガ信号Sの経過を示す。地絡故障は、第2の変換器ステーション2の位置において、第3の時点t
3で第1の電流強度I
1の低下を生じさせ、この第3の時点t
3は、第1の時点t
1の前にある。なぜならば、地絡故障は、第2の変換器ステーション2の近くで発生し、それゆえ第2の変換器ステーション2の位置には第1の変換器ステーション1の位置よりも早く作用を及ぼすからである。従って、第2の変換器ステーション2は、第4の時点t
4で応答し、この時点は、第2の時点t
2の前にあって、第3の時点t
3から例えば500μs後にある。
【0042】
直流故障によって極1,2の1つが充電された場合には、制御ユニット15が、第6方法ステップS6において、充電された極1,2を放電させる。そのために、例えば、第5の方法ステップS5において、極7,8の電流の調節のための整定時間が設定され、その整定時間経過後に第6の方法ステップS6が実行される。整定時間は、例えば100msから500msの間にある。
【0043】
本発明を細部にわたり好適な実施例によって詳しく例示し記述したが、本発明は開示された実施例によって制限されるものではなく、当業者は、本発明の保護範囲から逸脱することなく、他の変形例を導き出すことができる。
【符号の説明】
【0044】
1,2 変換器ステーション
3 HVDC変換器区間(高電圧直流送電区間)
5,6 交流系統
7,8 極
9,10 送電線路
11 変換器ユニット
13 測定装置
15 制御ユニット
20 絶対値形成器
22 比較器
24,30 OR要素
26,28 評価器
I1,I2 電流強度
I1(ドット),I2(ドット) 電流強度変化
L1 電流強度閾値
L2,L3 変化閾値
S トリガ信号
S1~S6 方法ステップ
t 時間
t1~t4 時点
T1,T2 間隔長