(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16D 27/14 20060101AFI20220308BHJP
F16D 27/112 20060101ALI20220308BHJP
F16D 27/10 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
F16D27/14 A
F16D27/112 X
F16D27/10 D
(21)【出願番号】P 2017152889
(22)【出願日】2017-08-08
【審査請求日】2020-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】広田 功
(72)【発明者】
【氏名】丸山 豊史
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 哲史
(72)【発明者】
【氏名】谷 英樹
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-112447(JP,A)
【文献】特開2009-8232(JP,A)
【文献】特開2010-265999(JP,A)
【文献】特開昭59-13137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 27/00-29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側回転部材と、この内側回転部材の外周に相対回転可能に配置され内部に潤滑油が封入された外側回転部材と、この外側回転部材の内部に配置され前記内側回転部材と前記外側回転部材との間で動力伝達を断続する断続機構と、コアと電磁コイルとからなり前記外側回転部材の外部に隣接して回転不能に配置され前記断続機構を作動させる電磁石と、前記外側回転部材の外部に配置された温度センサとを備えた動力伝達装置であって、
前記外側回転部材は、軸方向一端側に第1透過部と第2透過部とを介して前記電磁石の磁力線が透過可能な磁性壁部を有し、
前記温度センサは、前記磁性壁部と前記コアと前記第1透過部と前記第2透過部とによって形成された空間内に
前記外側回転部材の内部の温度を推定するために配置されたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記温度センサは、前記磁性壁部に対向して配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の動力伝達装置であって、
前記温度センサは、前記電磁コイルの表面側に固定配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記電磁コイルは、リード線と共に樹脂によって形状保持され、
前記温度センサは、前記樹脂の一部に固定されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記磁性壁部には、高熱伝導部材が一体に設けられ、
前記温度センサは、前記高熱伝導部材と対向して配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記温度センサは、前記外側回転部材に封入された潤滑油の静的油面より下側に配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用される動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達装置としては、内側回転部材と、この内側回転部材の外周に相対回転可能に配置され内部に潤滑油が封入された外側回転部材と、この外側回転部材の内部に配置され内側回転部材と外側回転部材との間で動力伝達を断続する断続機構と、コアと電磁コイルとからなり外側回転部材の外部に隣接して回転不能に配置され断続機構を作動させる電磁石と、外側回転部材の外部に配置された温度センサとを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この動力伝達装置では、温度センサが、外側回転部材と対向するように外側回転部材を収容するケースに組付けられ、断続機構の周囲温度として外側回転部材の周囲温度を検出している。
【0004】
このような動力伝達装置では、温度センサが外側回転部材に近接して配置されているので、外側回転部材の内部の温度の検出精度が向上されているが、ケースに温度センサを組付けるための配置スペースが必要であり、装置が大型化していた。
【0005】
一方、他の動力伝達装置としては、温度センサが、回転不能な電磁石を構成するコアとしてのヨークに配置されたものが知られている(例えば、特許文献2)。
【0006】
この動力伝達装置では、外側回転部材とヨークとの間に電磁石の磁力線を透過可能なエアギャップが形成され、外側回転部材と対向する対向面と反対側に位置するヨークの背面側に温度センサを配置している。
【0007】
このような動力伝達装置では、エアギャップの大きさを判断し、エアギャップに基づいて温度センサによりヨーク温度を検出し、外側回転部材の内部の温度を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-8232号公報
【文献】特開2010-112447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献2のような動力伝達装置では、エアギャップとヨーク温度とにより外側回転部材の内部の温度を推定しているが、温度センサはヨークの軸方向外端側に取り付けられているので、ヨーク温度の変化が小さいばかりか、ヨークでの熱伝導中に放熱作用が大きく、外側回転部材の内部の温度が短時間で変化した場合の温度検出の追従性も含め、的確な温度検出が困難であった。従って、外側回転部材の内部の温度の推定精度が低下していた。
【0010】
そこで、この発明は、大型化を抑制し、外側回転部材の内部の温度の推定精度を向上することができる動力伝達装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、内側回転部材と、この内側回転部材の外周に相対回転可能に配置され内部に潤滑油が封入された外側回転部材と、この外側回転部材の内部に配置され前記内側回転部材と前記外側回転部材との間で動力伝達を断続する断続機構と、コアと電磁コイルとからなり前記外側回転部材の外部に隣接して回転不能に配置され前記断続機構を作動させる電磁石と、前記外側回転部材の外部に配置された温度センサとを備えた動力伝達装置であって、前記外側回転部材は、軸方向一端側に第1透過部と第2透過部とを介して前記電磁石の磁力線が透過可能な磁性壁部を有し、前記温度センサは、前記磁性壁部と前記コアと前記第1透過部と前記第2透過部とによって形成された空間内に前記外側回転部材の内部の温度を推定するために配置されたことを特徴とする。
【0012】
この動力伝達装置では、温度センサが、磁性壁部とコアと第1透過部と第2透過部とによって形成された空間内に配置されているので、外側回転部材の外側に温度センサの配置スペースを設ける必要がなく、装置の大型化を抑制することができる。
【0013】
また、温度センサは、磁性壁部とコアと第1透過部と第2透過部とによって形成された空間内に配置されているので、温度センサを外側回転部材に容易に近接して配置することができ、外側回転部材の内部の温度が短時間で変化しても、温度変化の追従性がよい。
【0014】
従って、このような動力伝達装置では、大型化を抑制し、外側回転部材の内部の温度の推定精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、大型化を抑制し、外側回転部材の内部の温度の推定精度を向上することができる動力伝達装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置の断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置の側面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置の要部拡大断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置の温度センサを異なる位置に配置したときの要部拡大断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置の温度センサを異なる位置に配置したときの要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1~
図5を用いて本発明の実施の形態に係る動力伝達装置について説明する。
【0018】
本実施の形態に係る動力伝達装置1は、内側回転部材3と、この内側回転部材3の外周に相対回転可能に配置され内部に潤滑油が封入された外側回転部材5と、この外側回転部材5の内部に配置され内側回転部材3と外側回転部材5との間で動力伝達を断続する断続機構7と、コア9と電磁コイル11とからなり外側回転部材5の外部に隣接して回転不能に配置され断続機構7を作動させる電磁石13と、外側回転部材5の外部に配置された温度センサ15とを備えている。
【0019】
また、外側回転部材5は、軸方向一端側に第1透過部17と第2透過部19とを介して電磁石13の磁力線が透過可能な磁性壁部21を有する。
【0020】
そして、温度センサ15は、磁性壁部21とコア9と第1透過部17と第2透過部19とによって形成された空間23内に配置されている。
【0021】
また、温度センサ15は、磁性壁部21に対向して配置されている。
【0022】
さらに、温度センサ15は、電磁コイル11の表面側に固定配置されている。
【0023】
また、電磁コイル11は、リード線25と共に樹脂27によって形状保持され、温度センサ15は、樹脂27の一部にその温度センサ15のリード線26と共に固定されている。
【0024】
さらに、磁性壁部21には、高熱伝導部材29が一体に設けられ、温度センサ15は、高熱伝導部材29と対向して配置されている。
【0025】
また、温度センサ15は、外側回転部材5に封入された潤滑油の静的油面Lより下側に配置されている。
【0026】
図1~
図3に示すように、動力伝達装置1は、内側回転部材3と、外側回転部材5と、断続機構7と、電磁石13などから構成されている。
【0027】
内側回転部材3は、中空状に形成され、摺動ブッシュ33、ベアリング35を介して外側回転部材5に回転可能に支持されている。
【0028】
なお、Xリング31は、外側回転部材5の内部に潤滑油を封入した後、外部に対して区画するシール手段となっている。
【0029】
また、内側回転部材3の外周には、スプライン形状の係合部37が形成され、メインクラッチ77の内側クラッチ板と、プレッシャリング85とが係合されている。
【0030】
さらに、内側回転部材3の軸心側の中央部には、区画壁39が内側回転部材3と連続する一部材で設けられ、中空状の内周側において外側回転部材5の内部と外部とを区画している。
【0031】
この内側回転部材3の内周には、スプライン形状の連結部41が形成され、入出力部材のうち一方の回転部材(不図示)が内側回転部材3と一体回転可能に連結される。
【0032】
このような内側回転部材3の外周には、外側回転部材5が内側回転部材3と相対回転可能に配置されている。
【0033】
外側回転部材5は、ベアリング43を介して静止系部材であるケース45に回転可能に支持され、ロータ47と、ハウジング49とから構成されている。
【0034】
ロータ47は、磁性材料からなり、軸方向の電磁石13側に延設された一側延設部51,53と壁部55とが電磁石13の周囲を覆うように配置された磁性壁部21を構成し、壁部55が電磁石13とパイロットクラッチ79との軸方向間に配置されている。
【0035】
また、壁部55には、磁束ループを形成させるための銅などの非磁性材料からなり、熱伝導性の高い環状の高熱伝導部材29が溶接などの固定手段によって壁部55と一体的に設けられている。
【0036】
さらに、一側延設部51,53は、電磁石13のコア9との径方向間に微小隙間を持って対向するエアギャップである第1透過部17と第2透過部19とが設けられており、電磁石13のコア9から磁性壁部21への磁力線の受け渡しが可能となっている。
【0037】
このロータ47のパイロットクラッチ79側は、軸方向に延設された他側延設部57となっており、この他側延設部57の内周には螺子形状の連結部59が設けられている。
【0038】
この連結部59には、ハウジング49が一体回転可能に結合されている。また、ハウジング49に設けられた凸部61と連結部59の端部が当接することによってロータ47の軸方向位置が位置決めされ、ロータ47はハウジング49と一体的に回転する。
【0039】
ハウジング49は、有底の筒状に形成され、ロータ47との径方向間に、外側回転部材5の内部を外部から区画するシールリング63が設けられている。
【0040】
また、ハウジング49の底壁部65には、外側回転部材5内に潤滑油を流入させる注入孔67が設けられ、潤滑油を注入させた後、チェックボール69によって閉塞される。
【0041】
さらに、ハウジング49の筒状の内周には、スプライン形状の係合部71が形成され、メインクラッチ77の外側クラッチ板と、アーマチャ81とが係合されている。
【0042】
また、係合部71と軸方向に隣り合うハウジング49の端部には、ロータ47側に向けて軸方向に開放されて周方向に凹凸形状の係合部73が形成され、パイロットクラッチ79の外側プレートが係合されている。
【0043】
このハウジング49の底壁部65には、スタッドボルトなどの連結部材75が設けられ、この連結部材75を介して入出力部材のうちいずれか他方の回転部材(不図示)が外側回転部材5と一体回転可能に連結される。
【0044】
このような外側回転部材5と内側回転部材3との間の動力伝達は、外側回転部材5の内部に配置された断続機構7によって断続される。
【0045】
断続機構7は、メインクラッチ77と、パイロットクラッチ79と、アーマチャ81と、カム機構83などから構成されている。
【0046】
メインクラッチ77は、複数の内側クラッチ板と、複数の外側クラッチ板とを備えている。
【0047】
複数の内側クラッチ板は、内側回転部材3の外周に形成された係合部37に軸方向移動可能で内側回転部材3と一体回転可能に係合されている。
【0048】
複数の外側クラッチ板は、複数の内側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され、ハウジング49の内周に形成された係合部71に軸方向移動可能で外側回転部材5と一体回転可能に係合されている。
【0049】
このメインクラッチ77は、複数の外側クラッチ板と複数の内側クラッチ板とで構成された多板クラッチであり、滑り摩擦を伴い伝達トルクを中間制御可能な制御型の摩擦クラッチとなっている。
【0050】
このようなメインクラッチ77は、パイロットクラッチ79の断続によって作動され、内側回転部材3と外側回転部材5との間に伝達される駆動トルクを断続する。
【0051】
パイロットクラッチ79は、外側回転部材5内でロータ47の壁部55とアーマチャ81との軸方向間に配置されている。
【0052】
このパイロットクラッチ79は、ハウジング49の係合部73に軸方向移動可能で外側回転部材5と一体回転可能に連結する複数の外側プレートと、カムリング87の外周に複数の外側プレートに対して軸方向間に交互に配置され軸方向移動可能でカムリング87と一体回転可能に連結する複数の内側プレートとで構成されている。
【0053】
このようなパイロットクラッチ79は、アーマチャ81が電磁石13の励磁によって吸引移動されることにより接続される。
【0054】
アーマチャ81は、磁性材料からなり、軸方向にパイロットクラッチ79を挟んでロータ47の壁部55と対向配置され、ハウジング49の係合部71に軸方向移動可能で外側回転部材5と一体回転可能に係合されている。
【0055】
このアーマチャ81は、電磁石13が励磁されたときに形成される磁束ループによって電磁石13側に吸引移動され、パイロットクラッチ79を接続させる。
【0056】
このようなアーマチャ81の電磁石13側への吸引移動によるパイロットクラッチ79の接続により、カム機構83でスラスト力が発生される。
【0057】
カム機構83は、プレッシャリング85と、カムリング87と、動力伝達装置1の軸心方向に向けて先細りのテーパ状の複数のローラからなるカム部材89とからなる。
【0058】
プレッシャリング85は、内側回転部材3の係合部37に軸方向移動可能で内側回転部材3と一体回転可能に配置されている。
【0059】
このプレッシャリング85は、カム機構83で生じるスラスト力によってメインクラッチ77の接続方向に軸方向移動され、メインクラッチ77に押圧力を付与して接続させる。
【0060】
カムリング87は、内側回転部材3の外周に軸方向移動可能に配置され、カムリング87の外径部に形成されたスプラインラグ部にパイロットクラッチ79の複数の内側プレートが一体回転可能に連結されている。
【0061】
このカムリング87とロータ47の軸方向間には、カム機構83で生じるスラスト反力を受けるスラストベアリング91が配置されている。
【0062】
カム部材89は、プレッシャリング85とカムリング87とに周方向に形成された複数のカム面を対向させ、これらのカム面間に介在されている。
【0063】
このカム部材89は、パイロットクラッチ79の接続によってカムリング87とプレッシャリング85との間に差回転が生じることにより、カム面間を転動してパイロットクラッチ79に生じる摩擦トルクに応じた強さでプレッシャリング85をメインクラッチ77側へ軸方向押圧移動させるカムスラスト力を発生させる。
【0064】
このようなカム機構83におけるカムスラスト力は、電磁石13の励磁によってパイロットクラッチ79が締結されることから発生される。
【0065】
電磁石13は、ベアリング93を介して外側回転部材5の外部で一側延設部53の端部外周に配置され、回り止め部材95を介してケース45に回り止めされ、コア9と電磁コイル11とを備えている。
【0066】
コア9は、磁性材料からなり、ロータ47の一側延設部51,53との径方向間に配置され、第1透過部17と第2透過部19とを介してロータ47と共に磁力線を透過してパイロットクラッチ79及びアーマチャ81を介して磁束ループを形成させる。
【0067】
このコア9に隣接してロータ47の壁部55側には、電磁コイル11が配置されている。
【0068】
電磁コイル11は、所定回数巻回され、樹脂27によってモールド成形されることにより形状保持され、コア9に一体形成された支持部10の外周面に対して支持されて一体に取り付けられている。
【0069】
この電磁コイル11は、同様に樹脂27によってモールド成形され制御電流を通電するリード線25に接続されており、コア9に形成された切欠き部12から外側回転部材5の外部に突出して配置された樹脂27の端部からリード線25が引き出されている。
【0070】
また、同様に、温度センサ15(実際に温度を検出するサーミスタ部分を含む)は、リード線26に接続され、樹脂27の一部に固定され、リード線25と共に樹脂27の端部から引き出されている。
【0071】
この樹脂27から引き出されたリード線25及びリード線26は、ケース45の外部に配置された通電を制御するコントローラ(不図示)に接続されている。
【0072】
このコントローラには、温度センサ15の入力情報を含め、必要となる他の検出情報が入力され、制御出力によってメインクラッチ77で必要な摩擦トルクを生じさせるようにリード線25から電磁コイル11に通電される。
【0073】
なお、電磁石13の軸方向外側には、コア9の軸方向端面と図示外のケース45の一壁面とに当接し、電磁石13に軸方向への付勢力を付与して、軸方向位置を位置決めさせる付勢部材97が配置されている。
【0074】
このように構成された動力伝達装置1では、電磁石13への通電により、コア9、ロータ47の磁性壁部21、パイロットクラッチ79、アーマチャ81を介した磁力線が循環されて磁束ループが形成され、アーマチャ81が電磁石13側に吸引移動されてパイロットクラッチ79が締結される。
【0075】
このパイロットクラッチ79の締結トルクは、カム機構83を介して軸方向推力に変換され、プレッシャリング85がメインクラッチ77を押圧してメインクラッチ77が接続される。
【0076】
このメインクラッチ77の接続により、内側回転部材3と外側回転部材5とが接続されて入出力部材間の動力伝達が可能となる。
【0077】
このような動力伝達装置1において、外側回転部材5内には、潤滑油が封入されており、断続機構7が収容されている。
【0078】
この外側回転部材5の内部の温度を検出することにより、メインクラッチ77における締結トルクを精度よく制御することができ、断続機構7の断続特性を向上することができる。
【0079】
そこで、回転部材である外側回転部材5の内部に温度センサを設けることは難しいので、外側回転部材5の外部には、外側回転部材5の内部の温度を推定するために温度センサ15が配置されている。
【0080】
温度センサ15は、ロータ47の磁性壁部21と、電磁石13のコア9と、第1透過部17と第2透過部19とで形成された空間23内に配置されている。
【0081】
この温度センサ15は、ロータ47の磁性壁部21と対向する電磁石13の電磁コイル11の表面側に樹脂27によって固定配置され、温度センサ15の先端で温度検出するサーミスタ部分は樹脂27から露出されている。
【0082】
このような温度センサ15は、電磁コイル11の樹脂27によってモールド成形されたリード線26が接続され、コントローラに接続されている。
【0083】
このように温度センサ15を磁性壁部21とコア9と第1透過部17と第2透過部19とによって形成された空間23内に配置することにより、外側回転部材5の外部に位置するケース45に温度センサ15を配置させるための配置スペースを外部に拡張して設ける必要がなく、装置が大型化することを抑制することができる。
【0084】
加えて、温度センサ15を空間23内に配置することにより、温度センサ15を外側回転部材5と容易に近接した位置に配置させることができ、外側回転部材5の内部の温度に追従して空間温度を検出でき、外側回転部材5の内部の温度推定を精度よく行うことができる。
【0085】
さらに、空間23は、エアギャップとなる第1透過部17と第2透過部19のみにて外部と連通するだけであり、粉塵などの侵入が防止され、温度センサ15の経時劣化が抑制され、検出機能の安定性を高めることができる。
【0086】
ここで、温度センサ15は、ロータ47の磁性壁部21と一体に設けられた高熱伝導部材29と対向して配置されている。
【0087】
この高熱伝導部材29は、外側回転部材5の内部側の端面が潤滑油と接触しており、外側回転部材5の内部の温度変化が短時間であっても、その温度変化を外側回転部材5の外部側の端面に伝達し易くなっている。
【0088】
このような高熱伝導部材29に対して温度センサ15を対向して配置することにより、空間23内で外側回転部材5の内部の温度変化をさらに追従性よく検出することができ、外側回転部材5の内部の温度の推定精度を向上することができる。
【0089】
なお、高熱伝導部材29の内部側に潤滑油が流入可能な溝を設けてもよく、この溝を設けることにより高熱伝導部材29と潤滑油との接触を確実に行うことができ、外側回転部材5の内部の温度をより精度よく追従させて検出することができる。
【0090】
一方、高熱伝導部材29の外部側に温度センサ15の端部を挿入可能で温度センサ15と非接触な溝を設けてもよく、この溝を設けることにより温度センサ15が外側回転部材5により近接して配置され、外側回転部材5の内部の温度をより精度よく追従させて検出することができる。
【0091】
ここで、温度センサ15は、外側回転部材5に封入された潤滑油の静的油面Lより下側に配置されている。
【0092】
このように温度センサ15を配置することにより、外側回転部材5の内部の温度変化が小さい車両の停車時における外側回転部材5の内部の温度も精度よく追従させて検出することができ、断続機構7の断続特性を向上することができる。
【0093】
なお、温度センサ15は、
図4に示すように、磁性壁部21の第1透過部17が設けられた一側延設部51と対向する電磁石13の電磁コイル11の表面側、或いは
図5に示すように、磁性壁部21の第2透過部19が設けられた一側延設部53と対向する電磁石13の電磁コイル11の表面側に配置してもよい。
【0094】
このように磁性壁部21とコア9と第1透過部17と第2透過部19とによって形成された空間23内であれば、どの位置に温度センサ15を配置してもよく、空間23内に温度センサ15を配置することにより、装置の大型化を抑制し、外側回転部材5の内部の温度の推定精度を向上することができる。
【0095】
このような動力伝達装置1では、温度センサ15が、磁性壁部21とコア9と第1透過部17と第2透過部19とによって形成された空間23内に配置されているので、外側回転部材5の外側に温度センサ15の配置スペースを設ける必要がなく、装置の大型化を抑制することができる。
【0096】
また、温度センサ15は、磁性壁部21とコア9と第1透過部17と第2透過部19とによって形成された空間23内に配置されているので、温度センサ15を外側回転部材5に容易に近接して配置することができ、外側回転部材5の内部の温度が短時間で変化しても、温度変化の追従性がよい。
【0097】
従って、このような動力伝達装置1では、大型化を抑制し、外側回転部材5の内部の温度の推定精度を向上することができる。
【0098】
また、温度センサ15は、磁性壁部21に対向して配置されているので、温度センサ15を外側回転部材5により近接して配置させることができ、外側回転部材5の内部の温度の推定精度をさらに向上することができる。
【0099】
さらに、温度センサ15は、電磁コイル11の表面側に固定配置されているので、温度センサ15を配置することによる磁力線を透過するコア9に影響を与えることがなく、断続機構7の断続特性を安定化することができる。
【0100】
また、温度センサ15は、樹脂27の一部に固定されているので、温度センサ15を外側回転部材5に近接させつつ、温度センサ15の固定構造を簡易化することができる。
【0101】
さらに、温度センサ15は、高熱伝導部材29と対向して配置されているので、外側回転部材5の内部の温度変化を精度よく追従させて検出することができ、外側回転部材5の内部の温度の推定精度をさらに向上することができる。
【0102】
また、温度センサ15は、外側回転部材5に封入された潤滑油の静的油面Lより下側に配置されているので、内側回転部材3や外側回転部材5が回転していないときであっても、外側回転部材5の内部の温度に安定して追従させて検出することができる。
【0103】
なお、本発明の実施の形態に係る動力伝達装置では、温度センサが電磁石の電磁コイルの表面側に配置されているが、これに限らず、磁性壁部とコアと第1透過部と第2透過部とによって形成された空間内であれば、温度センサを電磁石のコアの表面側に配置してもよい。
【0104】
また、内側回転部材と外側回転部材との入出力の関係は、いずれか一方が入力部材に一体回転可能に連結され、他方が出力部材に一体回転可能に連結される構造であれば、どちらであってもよい。
【符号の説明】
【0105】
1…動力伝達装置
3…内側回転部材
5…外側回転部材
7…断続機構
9…コア
11…電磁コイル
13…電磁石
15…温度センサ
17…第1透過部
19…第2透過部
21…磁性壁部
23…空間
26…リード線
27…樹脂
29…高熱伝導部材