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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】治療計画システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20220308BHJP
【FI】
A61N5/10 P
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018004955
(22)【出願日】2018-01-16
(65)【公開番号】P2019122555
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 喬
(72)【発明者】
【氏名】武川 哲也
【審査官】小河 了一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0220709(US,A1)
【文献】特開2017-225487(JP,A)
【文献】特開2017-093516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子線を被照射体に照射する中性子捕捉療法による治療を計画する治療計画システムであって、
前記被照射体の姿勢を調整して、前記中性子線の照射中の前記被照射体の姿勢を設定する姿勢調整装置と、
前記姿勢調整装置で設定された前記被照射体の姿勢に基づいて、前記中性子線の照射についての計画を作成する治療計画装置と、を備え、
前記姿勢調整装置は、
前記被照射体の仮想的なモデルを作成するモデル作成部と、
前記モデル作成部で作成された前記モデルの姿勢を仮想的に調整する、姿勢調整部と、を備え
前記モデル作成部は、前記モデルに対して関節を設定し、
前記姿勢調整部は、前記関節の可動範囲内で前記モデルの姿勢の調整を行う、治療計画システム。
【請求項2】
前記モデル作成部は、撮影装置で前記被照射体を撮影することによって取得された画像データと、予め取得されたCT画像データとの組み合わせによって前記モデルを作成する、請求項1に記載の治療計画システム。
【請求項3】
前記モデル作成部は、前記モデルに対して複数の関節を設定し、
前記姿勢調整部は、前記複数の関節のうち少なくとも一つの可動範囲内で前記モデルの姿勢の調整を行う、請求項1又は2に記載の治療計画システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療計画システムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を用いた治療方法として、中性子線を照射してがん細胞を死滅させる中性子捕捉療法であるホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)が知られている。ホウ素中性子捕捉療法では、がん細胞に予め取り込ませておいたホウ素に中性子線を照射し、これにより生じる重荷電粒子の飛散によってがん細胞を選択的に破壊する。このような中性子捕捉療法による治療方法として、特許文献1に記載されたものが知られている。このような治療方法では、被照射体(患者)に対して中性子線をどのように照射するかを予め計画しておく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-80161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中性子捕捉療法においては、被照射体の姿勢が固定された状態で治療が行われる。従って、被照射体の治療中の姿勢が、治療前に予め設定される。しかしながら、被照射体ごとに取り得る姿勢の制約条件が異なる。従って、被照射体の姿勢の設定に手間がかかるという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、治療中の被照射体の姿勢を容易に設定することができる治療計画システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る治療計画システムは、中性子線を被照射体に照射する中性子捕捉療法による治療を計画する治療計画システムであって、被照射体の姿勢を調整して、中性子線の照射中の被照射体の姿勢を設定する姿勢調整装置と、姿勢調整装置で設定された被照射体の姿勢に基づいて、中性子線の照射についての計画を作成する治療計画装置と、を備え、姿勢調整装置は、被照射体の仮想的なモデルを作成するモデル作成部と、モデル作成部で作成されたモデルの姿勢を仮想的に調整する、姿勢調整部と、を備える。
【0007】
本発明に係る治療計画システムにおいて、治療計画装置は、姿勢調整装置で設定された被照射体の姿勢に基づいて、中性子線の照射についての計画を作成する。ここで、姿勢調整装置は、被照射体の仮想的なモデルを作成するモデル作成部と、モデル作成部で作成されたモデルの姿勢を仮想的に調整する、姿勢調整部と、を備える。すなわち、姿勢調整装置は、被照射体の姿勢を設定する際には、実際に被照射体に様々な姿勢をとらせなくとも、仮想的なモデルを用いて姿勢を検討することができる。以上により、治療中の被照射体の姿勢を容易に設定することができる。
【0008】
治療計画システムにおいて、モデル作成部は、撮影装置で前記被照射体を撮影することによって取得された画像データと、予め取得されたCT画像データとの組み合わせによってモデルを作成してよい。CT画像データには、被照射体の治療対象部の位置や形状などの情報が含まれている。これにより、モデル作成部は、CT画像データを用いることにより、被照射体のモデルに対して、治療対象部を容易に組み込むことができる。
【0009】
治療計画システムにおいて、モデル作成部は、モデルに対して複数の関節を設定し、姿勢調整部は、関節の可動範囲内でモデルの姿勢の調整を行ってよい。これにより、姿勢調整部は、被照射体にとって無理のない姿勢を設定することができる。また、姿勢調整部は、モデルの中のいずれかの関節が可動範囲を超えた場合、当該姿勢を採用できないことを容易に判定することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、治療中の被照射体の姿勢を容易に設定することができる治療計画システムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る治療計画システムを備えた治療システムの概略構成図である。
図2】中性子捕捉療法装置の構成を示す図である。
図3図2の中性子捕捉療法装置における中性子線照射部近傍を示す図である。
図4】姿勢調整装置のブロック図である。
図5】患者モデルのモデル作成の様子を示す図である。
図6】患者モデルを用いた姿勢調整の様子を示す図である。
図7】本実施形態に係る治療計画システム200を用いた治療の手順を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る治療計画システムについて説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1を参照して、本実施形態に係る治療計画システム200を備えた治療システム100の概略構成について説明する。図1に示すように、治療システム100は、治療計画システム200と、CT装置150と、中性子捕捉療法装置120と、を備える。治療計画システム200は、中性子線Nを患者(被照射体)Sに照射する中性子捕捉療法による治療を計画するシステムである。中性子捕捉療法装置120は、治療計画システム200で設定された治療計画に基づいて、中性子捕捉療法による治療を行う装置である。治療計画システム200は、姿勢調整装置130と、治療計画装置140と、を備える。CT(Computed Tomography)装置150は、姿勢調整装置130で設定された姿勢の患者SのCT画像を取得する装置である。
【0014】
まず、図2及び図3を参照して、中性子捕捉療法装置120について説明する。図2及び図3に示すように、ホウ素中性子捕捉療法を用いたがん治療を行う中性子捕捉療法装置120は、ホウ素(10B)を含む薬剤が投与された患者S(被照射体)のホウ素が集積した部位に中性子線を照射してがん治療を行うシステムである。中性子捕捉療法装置1は、中性子捕捉療法用寝台3に拘束された患者Sに中性子線Nを照射して患者Sのがん治療を行う照射室2を有している。
【0015】
患者Sを中性子捕捉療法用寝台3に拘束する等の準備作業は、照射室2外の準備室(不図示)で実施され、患者Sが拘束された中性子捕捉療法用寝台3が準備室から照射室2に移動される。その後、中性子捕捉療法用寝台3は、照射室2の出射口の前の所定の位置に設置される。中性子捕捉療法用寝台3における患者Sの姿勢については後述する。また、中性子捕捉療法装置1は、患者Sが載置される中性子捕捉療法用寝台3と、治療用の中性子線Nを発生させる中性子線発生部10と、照射室2内で中性子捕捉療法用寝台3に載置されている患者Sに対して中性子線Nを照射する中性子線照射部20と、を備えている。なお、照射室2は遮蔽壁Wに覆われているが、患者や作業者等が通過するために通路及び扉45が設けられている。
【0016】
中性子線発生部10は、荷電粒子を加速して荷電粒子線Lを出射する加速器11と、加速器11が出射した荷電粒子線Lを輸送するビーム輸送路12と、荷電粒子線Lを走査してターゲット8に対する荷電粒子線Lの照射位置の制御を行う荷電粒子線走査部13と、荷電粒子線Lが照射されることで核反応を起こして中性子線Nを発生させるターゲット8と、荷電粒子線Lの電流を測定する電流モニタ16と、を備えている。加速器11及びビーム輸送路12は、略長方形状を成す荷電粒子線生成室14の室内に配置されており、この荷電粒子線生成室14は、コンクリート製の遮蔽壁Wで覆われた空間である。なお、荷電粒子線生成室14には、メンテナンスのための作業者が通過するための通路及び扉49が設けられている。なお、荷電粒子線生成室14は略長方形状に限定されず、他の形状であってもよい。例えば、加速器からターゲットまでの経路がL字状の場合には、荷電粒子線生成室14もL字状にしてよい。また、荷電粒子線走査部13は例えば荷電粒子線Lのターゲット8に対する照射位置を制御し、電流モニタ16はターゲット8に照射される荷電粒子線Lの電流を測定する。
【0017】
加速器11は、陽子等の荷電粒子を加速して陽子線等の荷電粒子線Lを生成するものである。本実施形態では、加速器11としてサイクロトロンが採用されている。なお、加速器11として、サイクロトロンに代えて、他の円形加速器(例えば、シンクロトロン)、線形加速器、又は静電加速器等の他の加速器を用いてもよい。
【0018】
ビーム輸送路12の一端(上流側の端部)は、加速器11に接続されている。ビーム輸送路12は、荷電粒子線Lを調整するビーム調整部15を備えている。ビーム調整部15は、荷電粒子線Lの軸を調整する水平型ステアリング電磁石及び水平垂直型ステアリング電磁石と、荷電粒子線Lの発散を抑制する四重極電磁石と、荷電粒子線Lを整形する四方スリット等を有している。なお、ビーム輸送路12は荷電粒子線Lを輸送する機能を有していればよく、ビーム調整部15は無くてもよい。
【0019】
ビーム輸送路12によって輸送された荷電粒子線Lは、荷電粒子線走査部13によって照射位置を制御されてターゲット8に照射される。なお、荷電粒子線走査部13を省略して、常にターゲット8の同じ箇所に荷電粒子線Lを照射するようにしてもよい。
【0020】
ターゲット8は、荷電粒子線Lが照射されることによって中性子線Nを発生させる。ターゲット8は、例えば、ベリリウム(Be)、リチウム(Li)、タンタル(Ta)又はタングステン(W)で構成されており、板状を成している。ただし、ターゲットは板状に限らず、液状等であってもよい。ターゲット8が発生させた中性子線Nは、中性子線照射部20によって照射室2内の患者Sに向かって照射される。
【0021】
中性子線照射部20は、ターゲット8から出射された中性子線Nを減速させる減速材21と、中性子線N及びガンマ線等の放射線が外部に放出されないように遮蔽する遮蔽体22とを備えており、この減速材21と遮蔽体22とでモデレータが構成されている。
【0022】
減速材21は例えば異なる複数の材料から成る積層構造とされており、減速材21の材料は荷電粒子線Lのエネルギー等の諸条件によって適宜選択される。具体的には、例えば加速器11からの出力が30MeVの陽子線でありターゲット8としてベリリウムターゲットを用いる場合には、減速材21の材料は鉛、鉄、アルミニウム又はフッ化カルシウムとすることができる。
【0023】
遮蔽体22は、減速材21を囲むように設けられており、中性子線N、及び中性子線Nの発生に伴って生じたガンマ線等の放射線が遮蔽体22の外部に放出されないように遮蔽する機能を有する。遮蔽体22は、荷電粒子線生成室14と照射室2とを隔てる壁W1に少なくともその一部が埋め込まれていてもよく、埋め込まれていなくてもよい。また、照射室2と遮蔽体22との間には、照射室2の側壁面の一部を成す壁体23が設けられている。壁体23には、中性子線Nの出力口となるコリメータ取付部23aが設けられている。このコリメータ取付部23aには、中性子線Nの照射野を規定するためのコリメータ31が固定されている。なお、コリメータ取付部23aを壁体23に設けずに、後述する中性子捕捉療法用寝台3にコリメータ31を取り付けてもよい。
【0024】
以上の中性子線照射部20では、荷電粒子線Lがターゲット8に照射され、これに伴いターゲット8が中性子線Nを発生させる。ターゲット8によって発生した中性子線Nは、減速材21内を通過している際に減速され、減速材21から出射された中性子線Nは、コリメータ31を通過して中性子捕捉療法用寝台3に載置されている患者Sに対して照射される。ここで、中性子線Nとしては、比較的エネルギーが低い熱中性子線又は熱外中性子線を用いることができる。
【0025】
次に、図4を参照して、姿勢調整装置130の構成について説明する。姿勢調整装置130は、患者Sの姿勢を調整して、中性子線Nの照射中の患者Sの姿勢を設定する装置である。姿勢調整装置130は、仮想的な患者Sの患者モデルを作成し、当該仮想的な患者モデルで姿勢の調整を行い、患者Sの姿勢を設定する。姿勢調整装置130は、モデル作成部101と、姿勢調整部102と、データ取得部103と、入力部104と、表示部106と、記憶部107と、を備える。また、姿勢調整装置130は、撮影装置110と電気的に接続されており、撮影装置110からの画像データを取得可能である。
【0026】
モデル作成部101は、図5(b)に示すような患者Sの仮想的なモデル(以降、患者モデルMと称する)を作成する。患者モデルMは、三次元のモデルである。モデル作成部101は、患者モデルMに対して複数の関節JTを設定する。関節JTは、人体の骨格における各関節に対応する部分に設定される。患者モデルMは、人体の各剛体パーツと、各剛体パーツを接続する関節JTと、を含んで構成される。モデル作成部101は、撮影装置110で取得された画像データに基づいて、患者モデルMを作成する。
【0027】
モデル作成部101は、撮影装置110による患者Sの撮影(図5(a)参照)によって取得された画像データを用い、キャプチャ技術を用いて患者モデルMを作成する。モデル作成部101は、例えば、撮影時に患者Sに特殊な機器を取り付けることなく、撮影装置110で取得された画像データを解析することによって、患者モデルMを作成してよい。なお、ここでの撮影装置110によって取得されて画像データには、CT画像のように、患者Sの内部構造を示すような画像までは含まないものとする。
【0028】
この場合、撮影装置110は、患者Sを検出するための検出領域を所定のフレームレートで撮影する光学カメラ(RGBカメラ)と、検出領域の患者Sの深度情報を検出する深度センサと、を備えてよい。深度センサは、例えば、検出領域の深度画像を撮影することにより、深度センサから検出領域の患者Sの各部位までの深度(距離)を検出し得る。このような撮影装置110として、例えばMicrosoft社製のKinect(登録商標)や、ASUS社製のXtion2(登録商標)等が採用されてよい。この例では、撮影装置110は、光学画像、及び深度画像を所定のフレームレートで連続的に出力する。なお、深度画像とは、深度センサによって取得各画素の濃淡値が当該各画素の深度に応じて定められたような画像である。
【0029】
モデル作成部101は、光学画像及び深度画像を含む画像データを用いて、例えば、次のような処理を行うことによって、患者モデルMを作成する。すなわち、モデル作成部101は、深度データから背景と患者を識別する。このとき、モデル作成部101は、機械学習などで光学画像のみで判別してもよい。モデル作成部101は、識別した患者データから輪郭を作成する。モデル作成部101は、複数角度(少なくとも前後方向を含む2つ以上の角度)から撮影された画像データを取得し、同様の処理で輪郭を作成する。モデル作成部101は、複数の輪郭を合成し、患者輪郭データを得る。モデル作成部101は、患者輪郭データを剛体パーツと関節(剛体部と可動部)に割り当てする。なお、最終的な患者モデルMは、輪郭データをそのまま画像処理で変形してもよいし、輪郭データを簡単な剛体パーツ(円筒、球体など)に置き換えてもよい。
【0030】
または、患者モデルMの作成のために、患者Sに特殊な機器を取り付けた上で、撮影装置110で撮影してもよい。例えば、患者Sの人体の各部位にマーカーを取り付け、当該状態の患者Sを撮影装置110で撮影してもよい。この場合、モデル作成部101は、複数フレームの画像データにおける各マーカーの動きを解析して、患者モデルMを作成してよい。その他、モデル作成部101は、Xtion2などの装置を用いて、患者モデルMを作成してよい。また、モデル作成部101は、測定によらず、予め準備しておいたモデルデータを用いて、患者モデルMを作成してよい。例えば、使用者が、入力部104を介して患者Sの年齢、性別、体型(細身、太目)などの患者情報を入力する。モデル作成部101は、患者情報と予め準備された複数のモデルデータとを照会し、最適なモデルデータを患者モデルMとして設定してよい。
【0031】
モデル作成部101は、各関節JTに対して可動範囲を設定する。可動範囲の設定方法は特に限定されず、医学文献などに記載されている公知の一般的な可動範囲を用いてよい。例えば、撮影装置110による撮影時に患者Sに様々な動作をさせ、モデル作成部101は、各動作の画像データから、患者モデルMの各関節JTの可動範囲を推定及び設定してよい。あるいは、撮影装置110による撮影とは異なるタイミングで、患者Sの各関節の可動範囲の検査を行い、モデル作成部101は、当該検査で得られた情報に基づいて、患者モデルMの各関節JTの可動範囲を設定してよい。または、モデル作成部101は、入力部104で入力された患者情報と、予め記憶しておいた関節可動範囲のデータとを照会することによって、患者Sの各関節JTの可動範囲を設定してよい。例えば、患者Sが動かない関節を有する場合、患者モデルMの対象となる関節JTは「不動」と設定されてよい。
【0032】
患者モデルMは、治療対象となる腫瘍などの治療対象部Tを有している。モデル作成部101は、撮影装置110で撮影することによって取得された画像データと、予め取得されたCT画像データとの組み合わせによってモデルを作成する。予め取得されたCT画像データは、他の病院から患者Sの紹介があった時に取得される紹介用CT画像データなどである。例えば、モデル作成部101は、治療対象部Tを有する剛体パーツをCT画像データに基づいて作成し、他の剛体パーツおよび関節JTを撮影された画像データに基づいて作成することによって、患者モデルMを作成してよい。または、モデル作成部101は、撮影された画像データによって形成された患者モデルMに対して、CT画像データの治療対象部Tを重ね合わせてよい。
【0033】
姿勢調整部102は、モデル作成部101で作成された患者モデルMの姿勢を仮想的に調整する。例えば、姿勢調整部102は、姿勢調整部102は、関節JTの可動範囲内で患者モデルMの姿勢の調整を行う。
【0034】
姿勢調整部102は、使用者の操作に基づいて、患者モデルMの姿勢を調整してよい。例えば、使用者は、入力部104を操作することによって、患者モデルMの剛体パーツを仮想的に移動させ、関節JTを仮想的に回転させることができる。姿勢調整部102は、使用者による入力部104の操作に基づいて、患者モデルMの姿勢を演算する。姿勢調整部102は、演算後の患者モデルMの姿勢を表示部106に出力することができる。これにより、使用者は、操作に基づいて変更された姿勢を表示部106で確認できる。また、姿勢調整部102は、演算後の患者モデルMのいずれかの関節JTが可動範囲を超えている場合、表示部106を介して使用者に対して警告を行ってよい。例えば、姿勢調整部102は、可動範囲を超えた関節JTがどれであるかを示してよい。
【0035】
例えば、図6(a)に示すように、使用者は、入力部104の操作により、患者モデルMの首、腕、足などの各剛体パーツを移動させる。これにより、各剛体パーツに対応する関節JTが回転する。図6(b)に示すように、患者モデルMの治療対象部Tが頭部に形成されている場合、患者モデルMは、中性子捕捉療法用寝台3に座った姿勢となる。この場合、使用者は、頭部をコリメータ31の開口部に合わせるように、患者モデルMの姿勢を操作する。このとき、使用者は、壁体23と患者モデルMの部位とが干渉することを避けるように、患者モデルMの姿勢を操作する。
【0036】
なお、治療対象部Tに対しては、基準線SLが設定される。この基準線SLは、治療対象部Tに対して、効率良く治療を行うことができる中性子線Nの照射軸を示す線である。基準線SLは、治療対象部Tの患者モデルMの位置、大きさなどから設定されるものである。例えば、基準線SLは、患者モデルMの表面から治療対象部Tまでの距離が小さくなるような方向へ設定される。使用者は、基準線SLと中性子線Nの照射軸RAとを一致させるように、患者モデルMの姿勢を操作する。従って、姿勢調整部102は、基準線SLと照射軸RAとが一致し、且つ、いずれの関節JRも可動範囲内におさまっているときに、患者モデルMの姿勢が決定された旨の判定を行う。このとき、姿勢調整部102は、表示部106に姿勢が決定した旨の通知を行う。
【0037】
姿勢調整部102は、採用可能な姿勢が決定しても、使用者の要求により、他の姿勢を再度決定してもよい。この場合、姿勢調整部102は、採用可能な姿勢を記憶部107に記憶させておく。姿勢調整部102は、複数の採用可能な姿勢を表示部106に表示し、最も患者に負担の少ない姿勢を使用者が選べるようにしてよい。
【0038】
姿勢調整部102は、患者モデルMの適切な姿勢を自動的に演算してもよい。姿勢調整部102は、基準線SLと照射軸RAとが一致し、且つ、いずれの関節JRも可動範囲内におさまるような患者モデルMの姿勢を演算によって導き出す。姿勢調整部102は、採用可能な姿勢を表示部106に表示することで、使用者に提案してよい。姿勢調整部102は、複数の姿勢を導き出すことが出来た場合は、複数の姿勢を使用者に提案してよい。姿勢調整部102は、使用者の姿勢調整の操作を支援するために、患者モデルの姿勢を提案してよい。例えば、使用者の操作によって調整した姿勢がNG(関節JTが可動範囲に収まらないような場合)であった場合、姿勢調整部102は、どの部分の関節JTをどの程度動かせば、OK(関節JTが可動範囲に収まる)となるかを演算し、使用者に提案してよい。
【0039】
図4に戻り、データ取得部103は、各種データを取得する。例えば、データ取得部103は、対象となる患者Sの紹介用CT画像データを取得することができる。また、データ取得部103は、撮影装置110から撮影による画像データを取得することができる。
【0040】
入力部104は、使用者が入力を行う部分である。入力部104は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等のインターフェース機器によって構成される。表示部106は、使用者に対して各種情報を表示する部分である。表示部106は、モニタ等の表示機器によって構成される。記憶部107は、姿勢調整に用いられる各種データを記憶する部分である。記憶部107は、例えばメモリやハードディスク等の記憶媒体によって構成される。
【0041】
図1に戻り、CT装置150は、患者SのCT画像データを取得する装置である。CT装置150は、患者SにX線を走査することで、患者Sの三次元の内部画像を撮影する装置である。使用者は、患者Sを姿勢調整装置130で設定した姿勢と同じ姿勢にした状態で、CT装置150で当該患者SのCT画像データを取得する。CT装置150は、縦型CT装置であってもよく、横型CT装置であってもよい。縦型CT装置は、X線の照射部及び検出部の回転軸が上下方向に延びる装置である。横型CT装置は、X線の照射部及び検出部の回転軸が水平に延びる装置である。図6(b)に示すように、患者Sの姿勢が座った状態に設定された場合、縦型CT装置は、座った状態の患者Sに対して、上下方向に照射部及び検出部を移動させながら撮影を行う。横型CT装置は、患者Sに座った状態と同様の姿勢を取らせ、当該状態で患者Sを寝かせ、水平方向に照射部及び検出部を移動させながら撮影を行う。
【0042】
治療計画装置140は、中性子捕捉療法装置120による治療計画を作成する装置である。治療計画装置140は、姿勢調整装置130で設定した姿勢の患者Sに対する治療計画を行う。治療計画装置140は、設定された姿勢における実際の患者SのCT画像データを用いて治療計画を行う。治療計画装置140は、患者Sに対する中性子線Nの線量分布を考慮して、中性子線Nの照射時間、線量等を計画する。
【0043】
次に、図7を参照して、本実施形態に係る治療計画システム200を用いた治療の手順について説明する。
【0044】
まず、姿勢調整装置130は、他の病院から提供された、治療対象となる患者Sの紹介用CT画像データを取得する(ステップS10)。次に、姿勢調整装置130は、患者Sの患者モデルMを作成する(ステップS20)。次に、姿勢調整装置130は、患者モデルMの姿勢調整を行う(ステップS30)。これによって、治療時における患者Sの姿勢が設定される。
【0045】
次に、使用者は、患者Sを実際にS30で設定した姿勢を取らせ、当該姿勢にてCT装置150で患者SのCT画像データを取得する(ステップS40)。これにより、S30で設定された姿勢における実際の患者SのCT画像データが取得される。治療計画装置140は、S40で取得されたCT画像データを用いて、中性子捕捉療法装置120による治療計画を作成する(ステップS50)。中性子捕捉療法装置120は、S50で作成された治療計画に基づいて、患者Sの治療を行う(ステップS60)。
【0046】
次に、本実施形態に係る治療計画システム200の作用・効果について説明する。
【0047】
本実施形態に係る治療計画システム200において、治療計画装置140は、姿勢調整装置130で設定された患者Sの姿勢に基づいて、中性子線Nの照射についての計画を作成する。ここで、姿勢調整装置130は、患者Sの仮想的な患者モデルMを作成するモデル作成部101と、モデル作成部101で作成された患者モデルMの姿勢を仮想的に調整する、姿勢調整部102と、を備える。すなわち、姿勢調整装置130は、患者Sの姿勢を設定する際には、実際に患者Sに様々な姿勢をとらせなくとも、仮想的な患者モデルMを用いて姿勢を検討することができる。以上により、治療中の患者Sの姿勢を容易に設定することができる。
【0048】
治療計画システム200において、モデル作成部101は、撮影装置110で患者Sを撮影することによって取得された画像データと、予め取得されたCT画像データとの組み合わせによって患者モデルMを作成してよい。CT画像データには、患者Sの治療対象部Tの位置や形状などの情報が含まれている。これにより、モデル作成部101は、CT画像データを用いることにより、患者Sの患者モデルMに対して、治療対象部Tを容易に組み込むことができる。
【0049】
治療計画システム200において、モデル作成部101は、患者モデルMに対して複数の関節JTを設定し、姿勢調整部102は、関節JTの可動範囲内で患者モデルMの姿勢の調整を行ってよい。これにより、姿勢調整部102は、患者Sにとって無理のない姿勢を設定することができる。また、姿勢調整部102は、患者モデルMの中のいずれかの関節JTが可動範囲を超えた場合、当該姿勢を採用できないことを容易に判定することができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本実施形態に係る治療計画システム200は上記に限定されず、種々の変更を行うことができる。
【0051】
例えば、中性子捕捉療法装置の構成は上述の実施形態に係る構成に限定されず、適宜構成を変更してもよい。
【符号の説明】
【0052】
101…モデル作成部、102…姿勢調整部、110…撮影装置、120…中性子捕捉療法装置、130…姿勢調整装置、140…治療計画装置、200…治療計画システム、S…患者(被照射体)、N…中性子線、M…患者モデル(モデル)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7