(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
B29C 45/37 20060101AFI20220308BHJP
B29C 45/27 20060101ALI20220308BHJP
F21S 41/00 20180101ALI20220308BHJP
【FI】
B29C45/37
B29C45/27
F21S41/00
(21)【出願番号】P 2018023150
(22)【出願日】2018-02-13
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】杉山 健太
(72)【発明者】
【氏名】片山 征史
(72)【発明者】
【氏名】松原 永治
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-152202(JP,A)
【文献】特開2011-029059(JP,A)
【文献】特開平10-166400(JP,A)
【文献】特開2017-052105(JP,A)
【文献】特開2017-042983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形で製造された
車両用灯具のカバーである樹脂成形品であって、
非意匠面に形成されているゲート跡と、
ゲートから注入された樹脂の流れに対して交差するように設けられているステップと、を有し、
当該樹脂成形品は、
前記非意匠面を平面視した場合における、前記ゲート跡から最も遠い前記樹脂成形品の端部と前記ゲート跡との直線距離をL[mm]、当該樹脂成形品の厚みをt[mm]とすると、L/tが185以上となるように構成されており、
前記ステップの接線角は5~30°であ
り、
前記ステップは、前記カバーの透明な意匠面の裏面側に形成されていることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
射出成形で製造された樹脂成形品であって、
非意匠面に形成されているゲート跡と、
ゲートから注入された樹脂の流れに対して交差するように設けられているステップと、を有し、
当該樹脂成形品は、前記非意匠面を平面視した場合における、前記ゲート跡から最も遠い前記樹脂成形品の端部と前記ゲート跡との直線距離をL[mm]、当該樹脂成形品の厚みをt[mm]とすると、L/tが185以上となるように構成されており、
前記ステップの接線角は5~30°であり、
前記ステップは、凹部の底の曲率半径Rが0.2mm以上であることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項3】
射出成形で製造された樹脂成形品であって、
非意匠面に形成されているゲート跡と、
ゲートから注入された樹脂の流れに対して交差するように設けられているステップと、を有し、
当該樹脂成形品は、前記非意匠面を平面視した場合における、前記ゲート跡から最も遠い前記樹脂成形品の端部と前記ゲート跡との直線距離をL[mm]、当該樹脂成形品の厚みをt[mm]とすると、L/tが185以上となるように構成されており、
前記ステップの接線角は5~30°であり、
当該樹脂成形品の厚みtが1.0~2.7mmであることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項4】
前記ステップは、凹部の底の曲率半径Rが0.2mm以上であることを特徴とする請求項1
または3に記載の樹脂成形品。
【請求項5】
当該樹脂成形品の厚みtが1.0~2.7mmであることを特徴とする請求項1
または2に記載の樹脂成形品。
【請求項6】
長手方向が450mm以上の部品であることを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の樹脂成形品。
【請求項7】
前記ステップは、該ステップの長手方向と樹脂が流れる方向との成す角が60~90°となるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形を用いた樹脂成形品が知られている。樹脂成形品は、様々な分野で用いられており、例えば、車両用灯具の透明カバーやレンズ等の部品として採用されている。また、このような部品に対しては、軽量化や材料コスト低減の観点から薄肉化が求められている。
【0003】
しかしながら、薄肉な部品を射出成形で製造しようとすると、厚肉な部品と比較して冷却速度が速いため、金型内に樹脂材料を高速で充填する必要がある。そのため、金型の内面形状によっては高速で充填される樹脂が金型内面の凹凸に追従できずに、凹凸の部分に樹脂の未充填部分ができる場合がある。
【0004】
この未充填部分には、空気及び溶融樹脂に含まれていた水分や揮発成分がガスとして存在しており、樹脂の射出が進むと未充填部分が圧縮されて、ガスが成形面に沿って金型外に抜け出る。そして、このガスが抜け出る際の痕跡が、シルバーストリーク(銀条の筋)として成形品の表面に出現し、外観性を低下させることがある。
【0005】
そこで、このような筋の発生を抑えるために、透光性の前面カバーの一部の表面側にゲート痕が設けられるとともに、裏面側の前記ゲート痕に正対する位置に、ローレット状凹凸が形成されていない連続面が設けられている前面カバーが考案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本願発明者が鋭意検討したところ、前述の筋の発生には、樹脂成形品の表面に設けられている凹凸形状が大きく影響していることが分かってきており、樹脂成形品の凹凸形状を工夫することによって筋の発生を抑制できる可能性に想到した。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、射出成形を用いた樹脂成形品の見映えの悪化を抑制する新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の樹脂成形品は、射出成形で製造された樹脂成形品であって、非意匠面に形成されているゲート跡と、ゲートから注入された樹脂の流れに対して交差するように設けられているステップと、を有する。当該樹脂成形品は、ゲート跡から当該樹脂成形品の端部までの樹脂の流動距離をL[mm]、当該樹脂成形品の厚みをt[mm]とすると、L/tが185以上となるように構成されており、ステップの接線角は5~30°である。
【0010】
この態様によると、ステップに対して交差するように樹脂が流れる際に、樹脂がステップの形状に追従して充填されやすくなる。そのため、例えば、ステップの凹部に残ったエアが排出される際に痕跡となって樹脂成形品の意匠面の見映えを悪化させることを抑制できる。
【0011】
ステップは、透明な意匠面に形成されていてもよい。これにより、見映えの悪化が目立ちやすい透明な意匠面において、見映えの悪化を抑制できる。
【0012】
ステップは、凹部の底の曲率半径Rが0.2mm以上であってもよい。これにより、樹脂が充填される際に、ステップの形状に、より追従しやすくなる。
【0013】
当該樹脂成形品の厚みtが1.0~2.7mmであってもよい。これにより、射出成形の際に高速での充填が必要な薄肉の樹脂成形品に対して見映えの悪化を抑制できる。
【0014】
長手方向が450mm以上の部品であってもよい。これにより、射出成形の際に高速での充填が必要な大型の樹脂成形品に対して見映えの悪化を抑制できる。
【0015】
ステップは、該ステップの長手方向と樹脂が流れる方向との成す角が60~90°となるように形成されていてもよい。あるいは、ステップは、該ステップの長手方向と樹脂が流れる方向との成す角が75~90°となるように形成されていてもよい。これにより、見映えの悪化が生じやすいステップの配置であっても、見映えの悪化を抑制できるため、ステップの配置の自由度が向上する。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、射出成形を用いた樹脂成形品の見映えの悪化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施の形態に係る前面カバーの正面図である。
【
図2】
図1に示す前面カバーのA-A断面図である。
【
図3】
図2に示す前面カバーの領域Bの拡大断面図である。
【
図4】本実施の形態に係る前面カバーを射出成形する金型装置の縦断面図である。
【
図5】本実施の形態に係るステップを形成するための金型成形面の凹凸部の拡大図である。
【
図6】
図6(a)~
図6(d)は、高速で射出成形を行う際のキャビティ内の樹脂の追従性を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面等を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0020】
本実施の形態に係る樹脂成形品は、薄肉で大型の透光性部材に適しており、例えば、車両用灯具を構成する透明な前面カバーとして適用できる。以下では、車両用灯具の前面カバーを例として本実施の形態に係る樹脂成形品を説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態に係る前面カバーの正面図である。
図2は、
図1に示す前面カバーのA-A断面図である。
図3は、
図2に示す前面カバーの領域Bの拡大断面図である。
【0022】
前面カバー10は、射出成形で作製された樹脂成形品であり、軽量で強度にも優れる透明な合成樹脂(例えば、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂)で構成されている。
図1や
図2に示すように、前面カバー10は、意匠面領域である前面部12と、前面部12の外周から後方に屈曲して延出する環状の周縁部14と、を有する。
【0023】
周縁部14は、前面部12の外周から後方に屈曲して延出する環状の立壁16と、立壁16の後端部において外方に屈曲して延在するフランジ部18で構成されている。フランジ部18は、前面カバー10の左右の側面および上面での幅(立壁16からの延出長さ)が狭く、下面での幅が広く形成されている。そして、前面カバー10は、灯室の前面全体を覆うようにフランジ部18を介してランプボディに組み付けられる。
【0024】
前面部12の縁部12aの裏面12bおよび立壁16の前面部側の裏面16aには、
図2の符号Dで示す範囲に、ローレット状凹凸20(具体的には、前面部12の周方向に蒲鉾型のローレット山20aが等ピッチで連続する平目ローレット)が設けられており、非意匠面である立壁16やフランジ部18が素通し状態とならない(非素通し形態となる)ように構成されている。
【0025】
また、
図1に示す前面カバー10の正面視において、下方のフランジ部18の表面の左右方向中央部には、後述する金型(
図4参照)によって前面カバー10を成形する際に付着したゲート跡22が設けられている。なお、
図1に示すゲート跡22は、フランジ部18の表面の左右方向中央部に設けられているが、ゲート位置をフランジ部18の下端部に設けたサイドゲートとすれば、ゲート跡が意匠面の正面方向から視認されにくくなる。
【0026】
次に、
図4を参照して、本実施の形態に係る射出樹脂成形品である前面カバー10を成形する金型装置24を説明する。
図4は、本実施の形態に係る前面カバーを射出成形する金型装置の縦断面図である。
【0027】
金型装置24は、固定側のキャビティ側金型26と、キャビティ側金型26に対し接近離反方向に移動可能な可動側のコア側金型28で構成され、キャビティ側金型26とコア側金型28が型閉めされることで、キャビティ側金型26の成形面30およびコア側金型28の成形面32によって前面カバー10に対応するキャビティCが画成される。キャビティCの主要部の厚みtは、2~5mmの範囲、より好ましくは3.0mm未満である。
【0028】
キャビティ側金型26には、キャビティCにおける前面カバー10の所定位置(下方のフランジ部18の左右方向中央部に対応する位置)に開口するホットランナ34が配設されている。ホットランナ34のキャビティCへの開口部には、バルブゲート36が設けられている。バルブゲート36は、ホットランナ34内に挿通された軸方向に進退動作可能なバルブピン36aを備え、バルブピン36aを進退させることで、バルブゲート36が開閉する。
【0029】
キャビティCを画成するコア側金型28の成形面32のうち、前面部12の縁部12aの裏面12bに対応する領域および立壁16の前面部側の裏面16aに対応する領域(
図4の符号D’で示す範囲)には、前述のローレット状凹凸20を成形するための凹凸部が形成されている。
図5は、本実施の形態に係るステップを形成するための金型成形面の凹凸部の拡大図である。
【0030】
図5に示すように、コア側金型28の成形面32の一部には、ローレット状凹凸20を成形するための凹凸部38(凹溝38aおよび凸条38b)が形成されている。なお、凹溝38aは、ローレット山20aに対応しており、凹溝38aのピッチおよび深さは、ローレット山20aのピッチpおよび深さhに対応している。
【0031】
次に、金型内における樹脂の充填の様子を説明する。
図6(a)~
図6(d)は、高速で射出成形を行う際のキャビティ内の樹脂の追従性を説明するための模式図である。
【0032】
成形面32の一部に凹凸部38(38a,38b)が形成されていると、バルブゲート36からキャビティCに射出された樹脂40が凹凸部38(凸条38b)に対しスムーズに流動できず、凹溝38aに樹脂の未充填部分42ができる。未充填部分42に溜まっていたエアは、その後に充填されてくる樹脂40と供に、あるタイミングで凹溝38aから排出されると、痕跡としてシルバーストリークを発生させる。
【0033】
本実施の形態に係る前面カバー10は、バルブゲート36から注入された樹脂40の流れに対して交差するように設けられているステップとしてのローレット状凹凸20を有しており、ゲート跡22から前面カバー10の端部10aまでの樹脂の流動距離をL[mm](
図1参照)、前面カバー10の主要部の厚みをt[mm](
図2参照)とすると、L/tが185以上となるように構成されている。
【0034】
このような形状や寸法の前面カバー10において、本発明者らが鋭意検討したところ、
図5に示すように、ステップの接線角θが5~30°であることが好ましい点を見いだした。ここで、接線角θとは、
図5に示す紙面のように凹溝38aが延伸する方向に対して垂直な面において、凹凸部38の凸条38bの頂点を通り、凹溝38aの底面形状に沿った接線と成形面32との成す角である、と言うことができる。換言すれば、
図3に示す紙面のようにローレット山20aが延伸する方向に対して垂直な面において、ローレット山20a間の最深部20bを通り、ローレット山20aの表面形状に沿った接線と裏面12bとの成す角である、と言うことができる。
【0035】
本発明者らの検討によると、主要部の厚みtが2mm、L/tが240の薄肉樹脂成形品の成形において、接線角θが25°や30°のローレット状凹凸20(成形面32の凹凸部38)であれば、シルバーストリークが前面部12の意匠面に発生することが抑制された。一方、接線角θが35°の条件で薄肉樹脂成形品を成形した場合、シルバーストリークが発生しやすかった。
【0036】
このように、ステップの接線角を5~30°とすることで、成形面32の凹凸部38に対して交差するように樹脂40が流れる際に、樹脂40がステップの形状に追従して充填されやすくなる。そのため、例えば、ステップの凹溝38aに残ったエアが排出される際に痕跡となって前面カバー10の意匠面の見映えを悪化させることを抑制できる。
【0037】
また、ローレット山20aの一部は、
図3に示すように、透明な意匠面である前面部12の縁部12aの裏面12b側に形成されている。本実施の形態に係る前面カバー10は、このように見映えの悪化が目立ちやすい透明な意匠面においても、見映えの悪化を抑制できる。
【0038】
また、ローレット山20aは、凹部の底(最深部20b)の曲率半径Rが0.2mm以上である。より好ましくは、曲率半径Rが0.5mm以上である。これにより、樹脂40が充填される際に、コア側金型28の凹凸部38の形状に、より追従しやすくなる。
【0039】
また、本実施の形態に係る前面カバー10の主要部の厚みtは1.0~2.7mmである。好ましくは、厚みtは2~2.5mmであるとよい。これにより、射出成形の際に高速での充填が必要な薄肉の前面カバー10に対して見映えの悪化を抑制できる。また、薄肉とすることで、部品の軽量化、材料コストの低減、光線の透過率の向上等が図られる。
【0040】
また、本実施の形態に係る前面カバー10は、長手方向が450mm以上の部品である。これにより、射出成形の際に高速での充填が必要な大型の前面カバー10に対して見映えの悪化を抑制できる。
【0041】
また、ローレット状凹凸20は、ローレット状凹凸20の長手方向と樹脂40が流れる方向との成す角が60~90°となるように、好ましくは70~90°となるように形成されている。これにより、見映えの悪化が生じやすいステップの配置であっても、見映えの悪化を抑制できるため、ステップの配置や形状の自由度が向上する。
【0042】
また、ローレット状凹凸20(凹凸部38)のピッチpは1~2mm、山の高さ(溝の深さ)hは、0.1~0.3mmの範囲であってもよい。また、ローレット山20a(凹溝38a)の曲率R1は、1~2mmである。なお、ステップの形状は、ローレット状凹凸20(凹凸部38)に限らず、例えば、縦リブ、サイドステップといった凹凸のある形状も含まれる。
【0043】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0044】
R1 曲率、 10 前面カバー、 10a 端部、 12 前面部、 12a 縁部、 12b 裏面、 14 周縁部、 16 立壁、 16a 裏面、 18 フランジ部、 20 ローレット状凹凸、 20a ローレット山、 20b 最深部、 22 ゲート跡、 24 金型装置、 26 キャビティ側金型、 28 コア側金型、 30,32 成形面、 34 ホットランナ、 36 バルブゲート、 36a バルブピン、 38 凹凸部、 38a 凹溝、 38b 凸条、 40 樹脂。