(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】積層板及びその製造方法並びに積層板を用いた型成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/28 20060101AFI20220308BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20220308BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220308BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20220308BHJP
B29C 43/30 20060101ALI20220308BHJP
B29C 43/48 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B32B5/28 A
B32B5/02 B
B32B27/18 D
B32B27/12
B29C43/30
B29C43/48
(21)【出願番号】P 2018053730
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2020-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591182101
【氏名又は名称】三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】喜多 聖
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文治
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-047483(JP,U)
【文献】特開2017-071145(JP,A)
【文献】特開2014-101718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 39/00-39/24、39/38-39/44、
43/00-43/34、43/44-43/48、
43/52-43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維を含む繊維マットを有する本体層と、
前記本体層の少なくとも一方の表面に積層された帯電防止層と、
前記本体層内の空隙及び帯電防止層内に存在するとともに、本体層と帯電防止層を接着している熱可塑性樹脂とを備え、
前記帯電防止層は、
軟化状態の熱可塑性樹脂を通過させる空隙を有する不織布中に、熱可塑性樹脂及び帯電防止剤が含浸されており、
前記帯電防止層には、高分子型帯電防止剤を含む前記帯電防止剤が熱可塑性樹脂にて保持され
ている積層板。
【請求項2】
前記
高分子型帯電防止剤は、ポリエチレンオキシド鎖を有する高分子を含むものである請求項1に記載の積層板。
【請求項3】
型成形部位を有する型成形品であって、
前記型成形部位が、その厚み方向において、ガラス繊維を含む繊維マットを有する本体層と、前記本体層の少なくとも一方の表面に積層された帯電防止層と、
前記本体層内の空隙及び帯電防止層内に存在するとともに、本体層と帯電防止層を接着している熱可塑性樹脂とを備え、
前記帯電防止層は、
軟化状態の熱可塑性樹脂を通過させる空隙を有する不織布中に、熱可塑性樹脂及び帯電防止剤が含浸されており、
前記帯電防止層には、高分子型帯電防止剤を含む前記帯電防止剤が前記熱可塑性樹脂にて保持され
ている型成形品。
【請求項4】
ガラス繊維を含む繊維マットを有する本体と、帯電防止剤が混合された熱可塑性樹脂シートとを重ねて第一重合体を形成する工程と、
前記第一重合体に対して加熱処理及び加圧処理を施すことにより、熱可塑性樹脂を軟化させて本体内の空隙に熱可塑性樹脂の一部を含浸させるとともに、熱可塑性樹脂シート内に帯電防止剤を留置させた第二重合体を形成する工程と、
前記第二重合体に対してさらに冷却処理及び加圧処理を施すことにより、熱可塑性樹脂を固化させ、この固化により、本体の表面に熱可塑性樹脂シートを接着するとともに、前記留置させた帯電防止剤を固着して帯電防止層を有する第三重合体を形成する工程とを含む請求項1に記載の積層板の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス繊維を含む繊維マットはスプリングバック性を有しており、
前記第三重合体に加熱処理を施すことにより、本体内の空隙及び帯電防止層内でそれぞれ固化した熱可塑性樹脂を軟化して本体の繊維マットを膨らませる工程と、
前記本体内の空隙及び帯電防止層内でそれぞれ前記熱可塑性樹脂を固化させて第三重合体よりも厚みの大きい第四重合体を形成する工程を含む請求項
4に記載の積層板の製造方法。
【請求項6】
請求項
4に記載の製造方法で形成された積層板の一部又は全体に加熱処理を施し、前記加熱処理を施した積層板を金型内に投入し、加圧処理を施すことにより金型の型形状に追従した型成形品を成形する工程を含む型成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用部材、電気機器、土木・建築用部材等として使用され、帯電防止性能を発現できる積層板及びその製造方法並びに積層板を用いた型成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用部材、電気機器及び土木・建築用部材として強化樹脂材料等の複合材料を成形した成形品が多く使用されている。このような成形品は、ガラス繊維等の強化材と樹脂バインダー等のマトリックス材とを含む成形材料を使用して加熱、加圧するプレス成形法により所望形状に成形される。
【0003】
この種のシート成形材料が、例えば特許文献1に開示されている。このシート成形材料は、強化材とマトリックス材とを含むシート状の成形材料層と、その成形材料層の両面に配置された保護フィルム層とを備えている。該保護フィルム層は、低密度ポリエチレン樹脂層と高密度ポリエチレン樹脂層との積層フィルムからなり、高密度ポリエチレン樹脂層側が前記成形材料層と接している。また、前記シート成形材料の保護フィルム層が帯電防止処理されていてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した特許文献1に記載されている従来構成のシート成形材料は、保護フィルム層が高密度ポリエチレン樹脂層と低密度ポリエチレン樹脂層とで構成され、高密度ポリエチレン樹脂層側が成形材料層側に配置されている。このため、保護フィルム層は成形材料層に対して剥離しやすく、保護フィルム層が成形材料層から剥離された状態で成形品の製造が行われる。従って、保護フィルム層が帯電防止処理されていたとしても成形品は帯電防止性能を発現することができない。
【0006】
また、仮に成形材料層に帯電防止剤を配合して成形品が帯電防止性能を発現できるように構成すると、成形材料層に含まれる帯電防止剤の含有量が高くなるに従って成形品の機械的強度が低下する傾向を示し、成形品の性能が悪化して好ましくない。
【0007】
そこで、本発明の目的とするところは、少量の帯電防止剤で有効な帯電防止性能を発揮できるとともに、機械的強度を良好に維持することができる積層板及びその製造方法並びに積層板を用いた型成形品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の積層板は、ガラス繊維を含む繊維マットを有する本体層と、前記本体層の少なくとも一方の表面に積層された帯電防止層と、前記本体層内の空隙及び前記帯電防止層内に存するとともに、前記本体層と帯電防止層を接着している熱可塑性樹脂とを備え、前記帯電防止層は、帯電防止剤が前記熱可塑性樹脂にて保持されて構成されている。
【0009】
この積層板の帯電防止機能は、帯電防止層中の熱可塑性樹脂に保持されている帯電防止剤によって発現される。このため、帯電防止剤は帯電防止層を形成する熱可塑性樹脂に対して所定量配合すればよく、従って帯電防止剤を積層板全体に対して所定量配合する必要がない。その結果、帯電防止剤の使用量を低減させることができるとともに、帯電防止剤の添加による積層板の機械的強度の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層板によれば、少量の帯電防止剤で有効な帯電防止性能を発揮できるとともに、機械的強度を良好に維持することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態における積層板を示す断面図であって、(a)は第一重合体の概略を示す断面図、(b)は第二重合体の概略を示す断面図、(c)は第三重合体の概略を示す断面図及び(d)は第四重合体の概略を示す断面図。
【
図2】(a)は積層板を加工した第一重合体を有する成形体を示す概略斜視図及び(b)は積層板を加工した第一重合体を有する成形体を示す概略断面図。
【
図3】(a)は第1実施形態の繊維マットを製造する装置を示す正面図及び(b)は第1実施形態の積層板を製造する装置を示す正面図。
【
図4】(a)は第2実施形態における第一重合体の概略を示す断面図、(b)は第3実施形態における第一重合体の概略を示す断面図、(c)は第4実施形態における第一重合体の概略を示す断面図、(d)は第5実施形態における第一重合体の概略を示す断面図。
【
図5】(a)は第6実施形態における第一重合体の概略を示す断面図、(b)は第7実施形態における第一重合体の概略を示す断面図、(c)は第8実施形態における第一重合体の概略を示す断面図。
【
図6】(a)は第9実施形態における第一重合体の概略を示す断面図、(b)は第10実施形態における第一重合体の概略を示す断面図、(c)は第11実施形態における第一重合体の概略を示す断面図、(d)は第12実施形態における第一重合体の概略を示す断面図。
【
図7】実施例1における第一重合体を分解して示す断面図。
【
図8】実施例1と比較例1について、帯電防止剤の添加率(質量%)と表面固有抵抗値(Ω)との関係を示すグラフ。
【
図9】実施例1と比較例1について、帯電防止剤の添加率(質量%)と材料全体に対する帯電防止剤の添加量の割合(質量%)との関係を示すグラフ。
【
図10】実施例1と比較例1について、帯電防止剤の添加率(質量%)と引張強度の変化率(%)との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1(c)又は
図1(d)に示すように、第1実施形態の積層板11は、ガラス繊維を含む繊維マットを有する本体層12と、その本体層12の少なくとも一方の表面に積層された帯電防止層13と、本体層12内の空隙及び帯電防止層13内に存在し、本体層12と帯電防止層13を接着している熱可塑性樹脂とを備えている。前記帯電防止層13は、帯電防止剤が熱可塑性樹脂に保持されて構成されている。
【0013】
図1(a)又は
図1(b)に示すように、前記積層板11を構成する帯電防止層13は、熱可塑性樹脂シート14と不織布等の熱可塑性樹脂含浸用シート15(以下、含浸用シートともいう)を用いて形成されていてもよい。その場合、帯電防止層13は、含浸用シート15中に熱可塑性樹脂及び帯電防止剤が含浸されて構成される。
【0014】
前記繊維マットにて構成された本体層12は空隙を有しており、その空隙内には熱可塑性樹脂が存在している。前記帯電防止層13は、前述のように帯電防止剤を含む熱可塑性樹脂で構成されている。このため、本体層12と帯電防止層13は熱可塑性樹脂により接着固定される。また、含浸用シート15は、そのシート表裏面を貫通する空隙を有しており、その空隙内には熱可塑性樹脂が存在する。そのため、本体層12と含浸用シート15は熱可塑性樹脂により接着固定される。
【0015】
次に、前記本体層12、帯電防止層13及び含浸用シート15を形成する材料及び熱可塑性樹脂について順に説明する。
(本体層12)
繊維マットの材料としては、ガラス繊維単独又はガラス繊維に補強繊維を加えたもの、或いは樹脂繊維単独が用いられる。ガラス繊維としては、連続ガラス繊維単独又は連続ガラス繊維とチョップドガラス繊維との混合物が好ましい。補強繊維としては、樹脂繊維、玄武岩繊維、天然繊維、パルプ繊維等から選ばれた1種又は2種以上の混合物が用いられる。樹脂繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、ポリ乳酸繊維等が使用される。
【0016】
これらの繊維としては、後述する熱可塑性樹脂よりも融点が高く、加熱処理及び冷却加圧処理をした際に、不織布形態、織物形態或いは編物形態を保持できるものが好ましい。
繊維マットの形態としては、不織布の単独、或いは織物及び編物から選ばれた1種又は2種を不織布に重層状に積層してもよい。
【0017】
(帯電防止層13)
帯電防止剤は静電気による弊害、例えば電気機器の誤作動や損傷、電気ショック、ほこりの付着などを抑制するためのもので、永久型の帯電防止剤(高分子型帯電防止剤)と一時的な帯電防止剤(界面活性剤等)のいずれも使用できるが、積層板の帯電防止性能を長期に亘って維持する観点から永久型の帯電防止剤が好ましい。
【0018】
永久型の帯電防止剤としての高分子型帯電防止剤としては、アニオン性、カチオン性、両性及び非イオン性の高分子(重合体)が挙げられるが、イオン伝導性を有するポリエチレンオキシド(PEO)鎖を導電性ユニットとして用いた高分子が好ましい。そのような帯電防止剤として、ポリエーテル系ブロック共重合体を用いたもの、具体的には三洋化成工業(株)製のペレクトロンやペレスタットが挙げられる。前記ペレクトロンとしては、ペレクトロンHS、ペレクトロンAS及びペレクトロンPVLが挙げられる。
【0019】
前記ペレクトロンを使用し、帯電防止層13を構成する熱可塑性樹脂に対して10質量%以下の配合量で積層板11の表面固有抵抗値を106Ωまで低下させることが可能であり、半永久的に帯電防止性を付与することができる。また、前記ペレスタットを使用し、帯電防止層13を構成する熱可塑性樹脂に対して10質量%程度の配合量で積層板11の表面固有抵抗値を107~109Ωまで低下させることが可能であり、半永久的に帯電防止性を付与することができる。
【0020】
(熱可塑性樹脂含浸用シート15)
含浸用シート15の材料としては、樹脂繊維、ガラス繊維、天然繊維(植物繊維、動物繊維、鉱物繊維を含む)、パルプ繊維等が使用される。
【0021】
含浸用シートの材料として樹脂繊維を使用する場合、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、ポリ乳酸繊維等を含むことが好ましい。
【0022】
含浸用シート15の形態は、不織布の単層が好ましいが、不織布に限定されるものではなく、織物及び編物から選ばれた1種の単層、或いは前述した不織布、織物及び編物から選ばれた2種以上を重層状に構成してもよい。これらの含浸用シート15は、後述する軟化状態の熱可塑性樹脂を通過させる。すなわち、含浸用シート15は、表裏面を通過する多数の空隙を備えており、該空隙は軟化状態の熱可塑性樹脂を通過させる。
【0023】
(熱可塑性樹脂)
前記熱可塑性樹脂としては、例えばポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリ乳酸等が挙げられる。ここで、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、ナイロン及びポリ乳酸は結晶性樹脂であり、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート及びABS樹脂は非晶性樹脂である。
【0024】
なお、前記繊維マット及び含浸用シート15が熱可塑性樹脂で形成されている場合、繊維マットと含浸用シート15との間を接着固定する熱可塑性樹脂は、繊維マット及び含浸用シート15で使用されている熱可塑性樹脂よりも軟化温度が低い熱可塑性樹脂を用いる。
【0025】
また、この熱可塑性樹脂には、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、分散剤、界面活性剤、着色剤、可塑剤、難燃剤等の任意の添加剤を配合してもよい。
次に、上記のように構成された積層板11の製造方法について説明する。
【0026】
図3(a)に示すように、チョップガラス繊維容器16からは繰出し装置17を介してチョップドガラス繊維が引き出されるとともに、連続ガラス繊維容器18からは繰出し装置19を介して連続ガラス繊維がそれぞれ引き出される。それらのガラス繊維がネットコンベア20に供給された後に、ニードルパンチ装置21でニードルパンチ処理され、不織布の繊維マット22となって搬出される。
【0027】
図3(b)に示すように、熱可塑性樹脂シート14が重ね合された一対の不織布製の含浸用シート15と前記繊維マット22とがそれぞれ搬送されて、
図1(a)に示す第一重合体23となる。ここで、熱可塑性樹脂シート14は、所定量の永久型の帯電防止剤が混合されたものである。すなわち、前記第一重合体23においては、一枚の繊維マット22を有する本体12aの表側に一枚の含浸用シート15が両含浸用シート15間でその本体12aを挟むように重ね合されている。さらに、これらの両含浸用シート15の表側に一枚の熱可塑性樹脂シート14が繊維マット22との間でそれらの含浸用シート15を挟むように重ね合される。
【0028】
(加熱加圧処理)
図3(b)に示すように、第一重合体23が加熱加圧ゾーン24を通過する際に加熱処理及び加圧処理される。この加熱処理における加熱温度は、熱可塑性樹脂シート14を構成する熱可塑性樹脂の軟化温度以上が好ましい。なお、この加熱温度は、繊維マット22、含浸用シート15に、熱可塑性樹脂シート14とは異なる熱可塑性樹脂からなる繊維が含まれている場合には、この熱可塑性樹脂の軟化温度よりも低い温度に設定される。一方、加圧処理における圧力は、繊維マット22、含浸用シート15及び熱可塑性樹脂シート14が一体化されるに足る圧力であり、常法に従って適宜設定される。
【0029】
前記熱可塑性樹脂が、非晶性樹脂の場合には、前記軟化温度はガラス転位点の温度である。また、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合は、結晶性樹脂は100%結晶化することはなく、非晶質の部位を有する。このことから、結晶性樹脂は、ガラス転位点と該ガラス転位点よりも高い融点とを有することになる。従って、結晶性樹脂の軟化温度は、ガラス転位点又は融点を意味する。
【0030】
図1(b)に示すように、前記加熱温度で加熱されると、熱可塑性樹脂シート14が軟化してその繊維マット22内の空隙及び含浸用シート15内の空隙にそれぞれ熱可塑性樹脂が含浸された第二重合体25となる。前記加圧により、軟化した熱可塑性樹脂が含浸用シート15へ含浸される際、熱可塑性樹脂シート14に混入された帯電防止剤は、軟化状態の熱可塑性樹脂の一部とともに含浸用シート15から繊維マット22中へと移行するものと考えられる。
【0031】
(冷却加圧処理)
図3(b)に示すように、第二重合体25が冷却加圧ゾーン26を通過する際に冷却処理及び加圧処理されると、
図1(c)に示すように、繊維マット22内の空隙及び含浸用シート15内の空隙でそれぞれ熱可塑性樹脂が固化して繊維マット22の表側に両含浸用シート15が接着された第三重合体27である積層板11となる。ここで積層板11において、含浸用シート15の厚みは
図1(a)に示す第一重合体23の繊維マット22の厚みよりも小さくなっている。
【0032】
前記含浸用シート15が、樹脂繊維で形成されている場合、その樹脂繊維の軟化温度が熱可塑性樹脂シート14の軟化温度よりも高いため、熱可塑性樹脂シート14が軟化して繊維マット22内の空隙及び含浸用シート15内の空隙にそれぞれ熱可塑性樹脂が含浸される際にも、含浸用シート15の形態を保つことができる。
【0033】
(スプリングバック処理)
続いて、前記第三重合体27である積層板11に熱可塑性樹脂シート14の熱可塑性樹脂の軟化温度以上に加熱してスプリングバック処理を施す。すると、
図1(d)に示すように、繊維マット22内の空隙及び含浸用シート15内の空隙でそれぞれ固化した熱可塑性樹脂が軟化して繊維マット22がガラス繊維マットの性質に基づくスプリングバックにより膨張する。このスプリングバックにより、繊維マット22内の空隙率が含浸用シート15内の空隙率よりも大きくなる。
【0034】
その後、繊維マット22内の空隙及び含浸用シート15内の空隙でそれぞれ熱可塑性樹脂が自然冷却により固化し、前記第三重合体27よりも厚みの大きい例えば二倍以上の厚みの第四重合体28である積層板11となる。この積層板11において、含浸用シート15の厚みは、
図1(c)に示す繊維マット22の厚みよりも大きくなっている。
【0035】
次に、前述の製造方法で得られた積層板11を用いた型成形品について説明する。
図2(a)に示すように、第三重合体27又は第四重合体28である積層板11を金型にセットして成形すると、第五重合体29である型成形品30となる。
【0036】
図2(b)に示すように、第三重合体27(又は第四重合体28)である積層板11に成形枠をセットして、該積層板11の一部又は全体、例えば積層板11全体を熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱して加熱処理を施すと、積層板11は膨張する。次いで、この積層板11を金型内に投入して加圧処理を施すと、型成形部位である台板部としての積層板11の外周縁全体に第三重合体27がその台板部の縁板部として成形された第六重合体31である型成形品30aとなる。そして、積層板11は金型の型形状に追従した型成形品30aとなり、前記加圧処理が施された部位は使用された金型の形状によって任意の厚みになる。
【0037】
また、型成形部位は、積層板11と同様にその厚み方向において、本体層12と、含浸用シート15と、本体層12内の空隙及び含浸用シート15内の空隙に存在する熱可塑性樹脂とを備える。
【0038】
次に、前記第1実施形態の積層板11について作用を説明する。
さて、第1実施形態の積層板11は、繊維マット22による本体層12と、その表面に積層される帯電防止層13と、本体層12内の空隙及び帯電防止層13内に存在し、本体層12と帯電防止層13を接着している熱可塑性樹脂とにより構成される。そして、帯電防止層13は、帯電防止剤が前記熱可塑性樹脂にて保持されて構成されている。
【0039】
この積層板11の帯電防止機能は、表面側に位置する帯電防止層13中の熱可塑性樹脂に保持されている帯電防止剤によって発現される。この場合、帯電防止剤としてのイオン伝導性を持つポリエチレンオキシド鎖を有する高分子等は熱可塑性樹脂との相溶性が良く、熱可塑性樹脂中に均一に分散されて、帯電防止機能が均一かつ良好に発現される。このため、帯電防止剤は帯電防止層13を形成する熱可塑性樹脂に対して所定量配合すればよく、言い換えれば帯電防止剤を積層板11全体に対して所定量配合する必要がない。
【0040】
そして、一部の熱可塑性樹脂は帯電防止剤とともに繊維マット22内へ移行するが、帯電防止層13内には熱可塑性樹脂中の帯電防止剤が所期の含有率で残存することから、積層板11表面において良好な帯電防止作用が発現されるものと推測される。その結果、この積層板11では帯電防止剤の使用量を低減させることができる。
【0041】
なお、含浸用シート15が熱可塑性樹脂のみを移行させ、帯電防止剤の移行を妨げるようなフィルタ機能を発現するときには、帯電防止層13中に残存する帯電防止剤の含有率が高くなって帯電防止作用が高められるものと推測される。
【0042】
一方、帯電防止剤の添加量が増大するほど積層板11の機械的強度は低下するが、第1実施形態の積層板11では帯電防止剤の添加量が抑えられていることから、帯電防止剤の添加による積層板11の機械的強度の低下を抑制することができる。
【0043】
以上詳述した第1実施形態によって得られる効果を以下にまとめて記載する。
(1)この第1実施形態における積層板11は、繊維マット22を有する本体層12と、本体層12の少なくとも一方の表面に積層された帯電防止層13と、本体層12内の空隙及び帯電防止層13内に存するとともに、本体層12と帯電防止層13を接着している熱可塑性樹脂とを有している。前記帯電防止層13は、帯電防止剤が前記熱可塑性樹脂にて保持されて構成されている。
【0044】
このため、帯電防止剤は帯電防止層13を形成する熱可塑性樹脂に対して所定量配合すればよく、従って帯電防止剤を積層板11全体に対して所定量配合する必要がない。その結果、帯電防止剤の使用量を低減させることが可能であり、かつ帯電防止剤の添加による積層板11の機械的強度の低下を抑えることができ、自動車部品等の機械的強度が要求される部材に対しても適用することができる。
【0045】
従って、この第1実施形態における積層板11は、少量の帯電防止剤で有効な帯電防止性能を発揮できるとともに、機械的強度を良好に維持することができる。
(2)前記帯電防止剤は、ポリエチレンオキシド鎖を有する高分子を含むものである。そのため、帯電防止剤はイオン伝導性を有し、半永久的な帯電防止機能を発現でき、積層板11は長期に亘って優れた帯電防止性能を持続することができる。
【0046】
(3)前記帯電防止層13は、含浸用シート15中に熱可塑性樹脂及び帯電防止剤が含浸されて構成されることにより、含浸用シート15が熱可塑性樹脂を保持して所定厚みの帯電防止層13を形成できるとともに、その帯電防止層13中に存在する熱可塑性樹脂に保持された帯電防止剤により優れた帯電防止性能を発揮できる。
【0047】
(4)前記型成形部位を有する型成形品30、30aは、その型成形部位が、前記本体層12と、帯電防止層13と、本体層12内の空隙及び帯電防止層13に存する熱可塑性樹脂とを備え、帯電防止層13は帯電防止剤が熱可塑性樹脂にて保持されて構成されている。このため、型成形品30、30aは、その表面の帯電防止層13において帯電防止性能を発現することができる。
【0048】
(5)積層板11の製造方法は、前記第一重合体23を形成する工程と、第二重合体25を形成する工程と、第三重合体27を形成する工程とを含む。従って、積層板11は積層処理、加熱・加圧処理及び冷却・加圧処理を順に行うことにより容易に製造することができる。
【0049】
(6)前記帯電防止層13は、含浸用シート15中に熱可塑性樹脂及び帯電防止剤が含浸されて構成されるとともに、ガラス繊維を含む繊維マット22はスプリングバック性を有している。そして、第三重合体27に加熱処理を施すことにより、熱可塑性樹脂を軟化して本体12aの繊維マット22を膨らませる工程と、熱可塑性樹脂を固化させて第三重合体27よりも厚みの大きい第四重合体28を形成する工程を含む。このため、積層板11を厚みのあるものに成形できるとともに、その表面の帯電防止層13で帯電防止性能を発揮することができる。
【0050】
(7)前記型成形品30、30aの製造方法は、積層板11の一部又は全体に加熱処理を施し、前記加熱処理を施した積層板11を金型内に投入し、加圧処理を施すことにより金型の型形状に追従した型成形品30、30aを成形する工程を含む。従って、積層板11の加熱処理と金型内での加圧処理により型成形品30、30aを容易に製造することができる。
【0051】
(第2実施形態~第12実施形態)
次に、第2実施形態~第12実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0052】
図4(a)に示すように、この第2実施形態の第一重合体23においては、第1実施形態の第一重合体23における両含浸用シート15のうち一方の含浸用シート15が省略されている。
【0053】
図4(b)に示すように、この第3実施形態の第一重合体23においては、第1実施形態の第一重合体23における両含浸用シート15が省略されている。
図4(c)に示すように、この第4実施形態の第一重合体23においては、1枚の繊維マット22の両面に熱可塑性樹脂シート14が重ね合され、さらにそれらの熱可塑性樹脂シート14の両面に含浸用シート15が重ね合されている。すなわち、繊維マット22が2枚の熱可塑性樹脂シート14で挟まれ、それらの熱可塑性樹脂シート14が繊維マット22と含浸用シート15で挟まれている。
【0054】
図4(d)に示すように、この第5実施形態の第一重合体23においては、第4実施形態の第一重合体23における両含浸用シート15のうち一方の含浸用シート15が省略されている。
【0055】
図5(a)に示すように、この第6実施形態の第一重合体23においては、第1実施形態の第一重合体23における本体層12が、二枚の繊維マット22とそれらの間に挟まれた一枚の熱可塑性樹脂シート14とから構成されている。
【0056】
図5(b)に示すように、この第7実施形態の第一重合体23においては、第6実施形態の第一重合体23における両含浸用シート15のうち一方の含浸用シート15が省略されている。
【0057】
図5(c)に示すように、この第8実施形態の第一重合体23においては、第6実施形態の第一重合体23における両含浸用シート15が省略されている。
図6(a)に示すように、この第9実施形態の第一重合体23においては、第6実施形態の第一重合体23における熱可塑性樹脂シート14と含浸用シート15が入れ替えられるとともに、本体層12が互いに重ね合された三枚の繊維マット22を一組とするマット群からなっている。両繊維マット22の材質と両繊維マット22間の繊維マット22の材質とは互いに異なっている。例えば、繊維マット22は第1実施形態と同様にチョップドガラス繊維からなる不織布であり、繊維マット22はその不織布のガラス繊維に対しガラス繊維以外の例えば織物等を混合したもので構成されている。
【0058】
図6(b)に示すように、この第10実施形態の第一重合体23においては、第9実施形態の第一重合体23における両含浸用シート15が省略されている。
図6(c)に示すように、この第11実施形態の第一重合体23においては、第9実施形態の第一重合体23における本体層12が、互いに重ね合された二枚の繊維マット22を一組とする一対のマット群とその両マット群間に挟まれた一枚の熱可塑性樹脂シート14とから構成されている。前記一組の繊維マット22のうち熱可塑性樹脂シート14に重ねられた一方の繊維マット22の材質と他方の繊維マット22の材質とが互いに異なっている。
【0059】
図6(d)に示すように、この第12実施形態の第一重合体23においては、第11実施形態の第一重合体23における両含浸用シート15が省略されている。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
ポリプロピレンのペレットに永久型の帯電防止剤として三洋化成工業(株)製のペレクトロンHSを下記に示す添加率(ポリプロピレンのペレットに対する添加率、質量%)で配合して混合した。この混合物を押出成形機のホッパーに投入し、常法に従って押出成形してダイスから吐出させた。得られた押出成形物をローラで延伸し、厚み0.3~0.5mmの熱可塑性樹脂シート14を作製した。
【0061】
また、ガラス繊維製の繊維マット22は、常法に従ってガラス長繊維にニードルパンチ処理を施して成形されたもので、目付量は640g/cm2である。不織布は、ポリエステル繊維により形成されたもので、目付量が135g/cm2の不織布1と、目付量が80g/cm2の不織布2を用意した。
【0062】
そして、
図7に示すように、繊維マット22の表面側に不織布1製の含浸用シート15、その表面に帯電防止剤を含む熱可塑性樹脂シート14を積層し、繊維マット22の裏面側に不織布2製の含浸用シート15、その裏面に帯電防止剤を含まない熱可塑性樹脂シート14を配置し、それらを積層して第一重合体23を得た。この第一重合体23を温度230℃で圧力1.6MPaの条件下に105秒間加熱加圧処理を行った。その後、温度40℃で圧力1.6MPaの条件下に105秒間冷却加圧処理を行って第三重合体27である積層板11を作製した。
【0063】
この積層板11について、表面固有抵抗値(Ω)をシムコジャパン(株)製の表面抵抗計ST-4にて測定した。すなわち、表面抵抗計を積層板11の表面3箇所に置いて表面固有抵抗値の計測を行い、それら計測値の平均値を表1に示した。
【0064】
(比較例1)
前記実施例1において作製した熱可塑性樹脂シート14について、実施例1と同様にして表面固有抵抗値を計測し、それら平均値を表1に示した。帯電防止剤の添加率は、熱可塑性樹脂に対する添加率(質量%)である。
【0065】
また、実施例1と比較例1について、帯電防止剤の添加率(質量%)と表面固有抵抗値(Ω)との関係を
図8に示した。
【0066】
【表1】
表1及び
図8に示したように、実施例1の積層板11では比較例1の熱可塑性樹脂シート14に比べて表面固有抵抗値が2桁(10
2)程度低下する結果が得られた。
【0067】
ここで、実施例1と比較例1について、帯電防止剤の添加率(質量%)と材料全体に対する帯電防止剤の添加量の割合(質量%)との関係を棒グラフで
図9に示した。
この
図9に示したように、実施例1の積層板11では、比較例1の熱可塑性樹脂シート14に比べて材料全体に対する帯電防止剤の添加量を大幅に低減させることができた。
【0068】
次に、前記実施例1の積層板11のうち、帯電防止剤の添加率が0質量%、5質量%、10質量%及び15質量%のものについて、それぞれ5枚ずつ、ASTM-D638に準拠した試験方法で引張試験を行い、引張強度(MPa)を測定した。得られた引張強度の平均値を求め、表2に示した。
【0069】
(比較例2)
ポリプロピレンのペレットに永久型の帯電防止剤として三洋化成工業(株)製のペレクトロンHSを表2に示す添加率で配合して混合し、射出成形機で常法に従って射出成形を行って試験片を作製した。この試験片について、それぞれ5枚ずつ、JIS-K7113に準拠した試験方法で引張試験を行い、引張強度(MPa)を測定した。得られた引張強度の平均値を求め、表2に示した。また、帯電防止剤を添加しないときの引張強度を100としたとき、帯電防止剤の添加率による引張強度の相対変化を算出し、表3に示した。
【0070】
さらに、実施例1と比較例2について、帯電防止剤の添加率(質量%)と帯電防止剤を添加しない場合を100%としたときの引張強度の変化率(%)との関係を
図10に示した。
【0071】
【0072】
【表3】
表2、表3及び
図10に示したように、実施例1の積層板11では帯電防止剤の添加率が増大しても引張強度の変化率が100%前後で推移しているのに対し、比較例2のポリプロピレンの試験片では帯電防止剤の添加率が増大するに従って引張強度の変化率が次第に低下する傾向を示した。
【0073】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・前記熱可塑性樹脂シート14を2枚で構成してもよい。例えば、2枚の熱可塑性樹脂シート14のうち、内側の熱可塑性樹脂シート14には帯電防止剤の配合量を減少させたり、配合しないようにしたりしてもよい。
【0074】
・前記帯電防止層13を構成する熱可塑性樹脂に対する帯電防止剤の添加量を、要求される帯電防止性能、積層板11の機械的強度、さらには繊維マット22への熱可塑性樹脂の含浸量等を勘案して設定してもよい。
【0075】
・前記熱可塑性樹脂に対し、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマーを配合してもよい。
【符号の説明】
【0076】
11…積層板、12…本体層、12a…本体、13…帯電防止層、14…熱可塑性樹脂シート、15…熱可塑性樹脂含浸用シート、22…繊維マット、23…第一重合体、25…第二重合体、27…第三重合体、28…第四重合体、30、30a…型成形品。