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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】脱窒装置および脱窒方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 63/04 20060101AFI20220308BHJP
【FI】
A01K63/04 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018075338
(22)【出願日】2018-04-10
(65)【公開番号】P2019180292
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】503221883
【氏名又は名称】株式会社環境技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】梅津 剛
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/046104(WO,A1)
【文献】特開2002-065106(JP,A)
【文献】特開2002-065107(JP,A)
【文献】特開2017-144402(JP,A)
【文献】特開2014-104416(JP,A)
【文献】特開2016-182556(JP,A)
【文献】特開2005-131455(JP,A)
【文献】特開2009-247255(JP,A)
【文献】特開2003-158953(JP,A)
【文献】特開2006-136775(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110296(WO,A1)
【文献】特開2018-019614(JP,A)
【文献】特開2007-215538(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0061737(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 63/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類を飼育するための養殖水槽に用いられる飼育水と、脱窒菌を含んだ活性汚泥と、が混合された汚泥水に水素供与体を供給して撹拌処理する第1の槽と、
前記第1の槽で、撹拌処理された前記汚泥水をさらに撹拌処理する第2の槽と、
前記第2の槽で撹拌処理された前記汚泥水を上澄み水と前記活性汚泥とに固液分離させ沈殿処理する第3の槽と、を備え、
前記第3の槽は、前記沈殿処理後の前記上澄み水を後処理槽へ移動させ、かつ、前記撹拌処理後に前記第2の槽へ前記汚泥水を全量移動させて槽内が空となった前記第1の槽に前記活性汚泥を全量移動させることを特徴とする脱窒装置。
【請求項2】
前記水素供与体として、前記飼育水中に含まれるタンパク質を主成分とする汚れ成分に対し微細気泡を反応させることで汚れ成分を分離する泡沫浮上分離装置により排出された泡沫浮上分離廃液を用いることを特徴とする請求項1に記載の脱窒装置。
【請求項3】
魚介類を飼育するための養殖水槽に用いられる飼育水と、脱窒菌を含んだ活性汚泥と、が混合された汚泥水に水素供与体を供給して第1の槽で撹拌処理する工程と、
前記第1の槽で、撹拌処理された前記汚泥水をさらに第2の槽で撹拌処理する工程と、
前記第2の槽で撹拌処理された前記汚泥水を第3の槽で上澄み水と前記活性汚泥とに固液分離させ沈殿処理する工程と、を備え、
前記沈殿処理後の前記上澄み水を前記第3の槽から後処理槽へ移動させ、かつ、前記撹拌処理後に前記第2の槽へ前記汚泥水を全量移動させて槽内が空となった前記第1の槽に前記活性汚泥を全量移動させる工程を有することを特徴とする脱窒の方法。
【請求項4】
前記水素供与体として、前記飼育水中に含まれるタンパク質を主成分とする汚れ成分に対し微細気泡を反応させることで汚れ成分を分離する泡沫浮上分離装置により排出された泡沫浮上分離廃液を用いその浄化を含めた工程を有することを特徴とする請求項3に記載の脱窒の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱窒菌を利用した脱窒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類の養殖は広く行われているが、一般に、魚介類等を水槽にて養殖する際、養殖水槽という閉鎖環境では、魚介類等の排泄物に含まれているアンモニア性の窒素の残留ないしは濃度の増大が問題となる。
【0003】
養殖水中のアンモニアに対しては、微生物を利用して分解処理する生物処理方法によるものがあり、好気性のアンモニア硝化細菌によりアンモニアを亜硝酸、硝酸へと変えるが硝酸は分解されず、硝酸は通性嫌気性の脱窒菌により窒素ガスへと変化させて空気中へと放出させる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に開示された水処理システムでは、養殖用の水槽に貯留されている水を曝気槽、硝化槽、脱窒槽、ナノバブル発生装置を有する循環経路にて循環させ、脱窒槽にて嫌気性バクテリアによる脱窒処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-019614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で開示された水処理システムにおける脱窒槽は、1つの脱窒槽で一括して脱窒処理を行うようになっており以下の問題点を有している。まず、水面には泡汚泥の脱水化集積による腐敗臭、底部では攪拌効果が弱いところに閉塞域が生じ動かない高濃度汚泥の腐敗臭が発生しやすい。これらの腐敗臭は硫酸還元菌による硫酸呼吸によるものであり、脱窒槽内の撹拌力不足によるものである。
【0007】
さらに、1つの脱窒槽で一括して脱窒処理を行おうとすると、水処理システムの循環系におけるポンプアップ槽は通常硝化槽と併用されるが、脱窒処理のため水位を著しく変動させることになる。この硝化槽からの水量移動が短時間に行なわれることになり、硝化槽の水位が急激に低下する。そのため、予備タンクの設置やポンプアップ槽の巨大化などの余分な対処が必要となる。このような問題を回避するためには、脱窒処理に伴う脱窒槽から下流側への1回当たりの移動水量を抑える必要がある。
【0008】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、攪拌しても生じる閉塞域の発生を防ぎ、また、脱窒処理に伴う脱窒槽から下流側への1回当たりの移動水量を抑えつつ、充分な脱窒量を確保できる脱窒装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る脱窒装置は、上記目的を達成するため、魚介類を飼育するための養殖水槽に用いられる飼育水と、脱窒菌を含んだ活性汚泥と、が混合された汚泥水に水素供与体を供給して撹拌処理する第1の槽と、前記第1の槽で所定の間、撹拌処理された前記汚泥水をさらに撹拌処理する第2の槽と、前記第2の槽で撹拌処理された前記汚泥水を上澄み水と前記活性汚泥とに固液分離させ沈殿処理する第3の槽と、を備え、前記第3の槽は、前記沈殿処理後の前記上澄み水を後処理槽へ移動させ、かつ、前記撹拌処理後に前記第2の槽へ前記汚泥水を全量移動させて槽内が空となった前記第1の槽に前記活性汚泥を全量移動させることを特徴とする。
【0010】
この構成により、本発明に係る脱窒装置は、脱窒槽として第1の槽と第2の槽と第3の槽の3つの槽を備えているので、1つの脱窒槽で脱窒処理する場合と比較して槽のサイズを小さくすることができるので槽内の撹拌力を容易に確保でき、また、脱窒槽から下流側への1回当たりの移動水量を抑えることができる。また、第1の槽による汚泥水の撹拌処理後に第3の槽内の活性汚泥を第1の槽へ全量移動するので、活性汚泥の全量移動による撹拌効果も得ることができ、槽の底部に活性汚泥による閉塞場が生じるのを防止できる。さらに、各槽における脱窒処理または沈殿処理の時間は、1つの脱窒槽で脱窒処理する場合と比較して短縮できるので、1つの脱窒槽で脱窒処理をする場合と比較して充分な脱窒量を確保できる。
【0011】
本発明に係る脱窒装置は、前記水素供与体として、前記飼育水中に含まれるタンパク質を主成分とする汚れ成分に対し微細気泡を反応させることで汚れ成分を分離する泡沫浮上分離装置により排出された泡沫浮上分離廃液を用いるようにしてもよい。
【0012】
この構成により、本発明に係る脱窒装置は、水素供与体として泡沫浮上分離装置により排出された泡沫浮上分離廃液を用いるので、飼育水中の高濃度の有機物成分を除去することで飼育水の透視度を向上させるとともに、泡沫浮上分離廃液以外の水素供与体の使用量を削減することができる。
【0013】
また、本発明に係る脱窒方法は、魚介類を飼育するための養殖水槽に用いられる飼育水と、脱窒菌を含んだ活性汚泥と、が混合された汚泥水に水素供与体を供給して第1の槽で撹拌処理する工程と、前記第1の槽で、撹拌処理された前記汚泥水をさらに第2の槽で撹拌処理する工程と、前記第2の槽で撹拌処理された前記汚泥水を第3の槽で上澄み水と前記活性汚泥とに固液分離させ沈殿処理する工程と、を備え、前記沈殿処理後の前記上澄み水を前記第3の槽から後処理槽へ移動させ、かつ、前記撹拌処理後に前記第2の槽へ前記汚泥水を全量移動させて槽内が空となった前記第1の槽に前記活性汚泥を全量移動させる工程を有するようにしてもよい。
【0014】
この構成により、本発明に係る脱窒の方法は、脱窒槽として第1の槽と第2の槽と第3の槽の3つの槽を備えて行われるので、1つの脱窒槽で脱窒処理する場合と比較して槽のサイズを小さくすることができるので槽内の撹拌力を容易に確保でき、また、脱窒槽から下流側への1回当たりの移動水量を抑えることができる。また、第1の槽による汚泥水の撹拌処理後に第3の槽内の活性汚泥を第1の槽へ全量移動するので、活性汚泥の全量移動による撹拌効果も得ることができ、槽の底部に活性汚泥による閉塞場が生じるのを防止できる。さらに、各槽における脱窒処理または沈殿処理の時間は、1つの脱窒槽で脱窒処理する場合と比較して短縮できるので、1つの脱窒槽で脱窒処理をする場合と比較して充分な脱窒量を確保できる。
【0015】
また、本発明に係る脱窒方法は、前記水素供与体として、前記飼育水中に含まれるタンパク質を主成分とする汚れ成分に対し微細気泡を反応させることで汚れ成分を分離する泡沫浮上分離装置により排出された泡沫浮上分離廃液を用いその浄化を含めた工程を有するようにしてもよい。
【0016】
この構成により、本発明に係る脱窒の方法は、水素供与体として泡沫浮上分離装置により排出された泡沫浮上分離廃液を用いるので、飼育水中の高濃度の有機物成分を除去することで飼育水の透視度を向上させるとともに、泡沫浮上分離廃液以外の水素供与体の使用量を削減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、脱窒槽内の閉塞場を作らず、また、脱窒処理に伴う脱窒槽から下流側への1回当たりの移動水量を抑えつつ、充分な脱窒量を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る水質浄化装置の概略構成を示す模式図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る脱窒装置を含む水質浄化装置の概略構成を示す模式図である。
図3】養殖水槽中の飼育水の窒素成分の推移を示すグラフである。
図4】本発明の第1の実施の形態に係る脱窒装置の脱窒工程を示す説明図である。
図5】本発明の第2の実施の形態に係る水質浄化装置の概略構成を示す模式図である。
図6】本発明の第2の実施の形態に係る脱窒装置を含む水質浄化装置の概略構成を示す模式図である。
図7】本発明の第2の実施の形態に係る脱窒装置の脱窒工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、図1を参照して、本発明の実施の一形態に係る脱窒装置10を含む水質浄化装置1の全体構成について説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
図1は水質浄化装置1の模式図である。水質浄化装置1は、養殖水槽2と好気処理装置3と脱窒装置10と泡沫浮上分離装置4とを備えている。養殖水槽2は、魚介類を飼育するための水槽であり、アクリル製で透明性を有しており直方体状の形状であり、寸法は例えば、縦900mm、横1800mm、高さ600mm程度であるが、必ずしもこれに限定されない。養殖水槽2は、コンクリート部材やプラスチック製部材との組合せであってもよいし、寸法についても、養殖する魚類の数や種類に応じて大サイズ化、或いは小サイズ化してもよい。
【0021】
養殖水槽2では、例えば、ヒラメ、フグ、タイ等の海水魚を飼育し、飼育水として人工海水を用いる。人工海水は魚介類の種類によるが、天然の海水に近い範囲となるよう塩分濃度が2.0~4.0%のものを用いる。勿論、養殖水槽2は、淡水魚に適用することも可能であり、その場合は飼育水の成分は淡水成分に近くなるようにする。
【0022】
養殖水槽2は、水温制御装置21を有している。水温制御装置21は、例えば、据置チラー型の冷却装置であり、養殖水槽2との間で飼育水を循環させ、所定の範囲に水温制御を行うようになっている。飼育水の水温は魚介類の種類に応じて適宜変更する。
【0023】
泡沫浮上分離装置4は、飼育水に含まれるタンパク質を中心とした汚れの成分を除去する装置である。より具体的には、泡沫浮上分離装置4は、移動経路6aを経由して養殖水槽2から流入した飼育水に対し、微細気泡を反応させ泡立ちの要因となるタンパク質や微細な糞カスを除去する。泡沫浮上分離装置4による処理後の液体は濁った茶褐色の生臭い高濃度の廃液である。
【0024】
泡沫浮上分離装置4にて処理された廃液は水質浄化装置1の系外に排出されるようになっている。泡沫浮上分離装置4にて処理された廃液を除去した飼育水は、移動経路6bを経て養殖水槽2へ戻されるようになっている。
【0025】
好気処理装置3は、移動用ポンプ33にて循環経路5aを経由して養殖水槽2より流入した飼育水中の溶存酸素を高めて好気性菌を用いて水処理を行う、すなわち、アンモニア成分の硝化と有機物の分解を行うようになっている。アンモニアは、魚介類から出る糞、体液、餌などから生成される。アンモニアは魚介類にとって毒性があり、特にアルカリ性では強い毒となる。酸性溶液中ではアンモニウムイオンNH となりやすく、毒性は緩和される。移動用ポンプ33は、タイマーを用いてプログラムされた時間に動作するようになっている。移動用ポンプ33は、タイマーを用いてプログラムされた時間に動作するようになっており、連続運転がなされている。移動用ポンプ34および移動用ポンプ38はタイマーを用いてプログラムされた時間に動作するようになっている。
【0026】
ここでいう硝化は、菌によるアンモニアの無害化であり、より具体的には、水中に生息する亜硝酸菌がアンモニアを亜硝酸とし、さらに硝酸菌が亜硝酸を硝酸にする生物反応である。亜硝酸菌と硝化菌は好気性菌に分類される。硝化には溶存酸素が必要であるため、好気処理装置3内の飼育水が所定の値の溶存酸素濃度を保つよう留意する。
【0027】
図2は、脱窒装置10のより詳細な構成を示す模式図である。脱窒装置10は3つの槽である脱窒槽11と脱窒槽12と脱窒槽13と後処理槽14と小型泡沫浮上分離装置15とを含んで構成されている。脱窒装置10は、水中に生息する嫌気性の脱窒菌を用いて、上流側の好気処理装置3で処理された飼育水中の硝酸イオンNO から窒素を分離し気体化除去するようになっている。脱窒菌は、溶存酸素が低下すると硝酸の酸素分子を奪って呼吸を行なうが、これを硝酸呼吸という。
【0028】
ここで、飼育水の脱窒の必要性について説明する。図3は、飼育開始からの飼育水の窒素成分の推移を示すグラフである。毒性のあるアンモニアNH3は、猛毒の亜硝酸NO を経て、毒性のない安定な硝酸NO になる。その連続によって硝酸は蓄積し続け、飼育水は酸性化する。硝酸は硫酸の次に強い酸イオンであり、飼育水のpHを低下させる。
【0029】
健全な飼育環境で大量の魚介類を飼育した場合、硝酸体窒素濃度は一日当たり5mg/L程度増加する。したがって無換水養殖では、一ヶ月で150mg/L程度増加することになり、水換えをしなければやがては1,000mg/L以上の濃度となる。
【0030】
そのような状態になるとpHはpH5から4程度にまで下降する。珊瑚石などの炭酸カルシウムが循環系に存在すれば、それが中和剤となってpHの低下を防ぐが、硝酸の除去にはならない。硝酸は依然として多量に存在し、その分だけカルシウムイオンが溶解しているに過ぎない。もし中和するものが無ければ、硝酸は魚介類のカルシウムを溶かすことになる。したがって魚介類にとっても飼育水の酸性化は障害である。
【0031】
飼育水にカルシウムが多量に溶けると二酸化炭素や硫酸イオンと反応し、炭酸カルシウムや硫酸カルシウムという凝結塩が発生しやすくなる。これらは、エアストーンなどの著しい目詰まりを招く。また、pHの低下は、アンモニアを分解しにくくする。PHが6を下回るとその兆候が出初め、pH5以下では、硝化反応がほぼ停止状態となる。この状態ではアンモニアはアンモニウムイオンとして安定な状態となるが、その濃度が上昇するため魚介類には悪影響がでる。
【0032】
以上のように、飼育水中に硝酸が蓄積するとpHを低下させ、アンモニアの分解を妨げ、カルシウムを溶かし、凝結塩を発生させる等魚介類に悪影響を与えるものとなり、また水換えも容易でないことから、硝酸成分の脱窒が必要となる。
【0033】
本実施の形態では、脱窒槽11、脱窒槽12、脱窒槽13として300リットルのタンクを用いたが、タンクの容量は必ずしもこれに限られない。脱窒槽11は本発明に係る第1の槽を、脱窒槽12は本発明に係る第2の槽を、脱窒槽13は本発明に係る第3の槽を構成する。
【0034】
従来より行われてきた微生物を使って行なう脱窒等の水質浄化は、一つの槽で行うバッチ式脱窒処理であり、飼育水投与から始まり、脱窒処理を経て、沈殿を行い、上澄みを飼育循環系に返送する過程をひとつの容器中で行なうものであった。槽の低層に堆積した活性汚泥は撹拌しにくくなり、やがて局所的に閉塞場が生じて不動の汚泥となって、悪臭を放つ。これらの現象は運用期間において蓄積しつづけ、やがては脱窒装置の機能を劣化させる。それを防止するには水平方向だけではなく低層にも影響を与えるような鉛直方向の強い攪拌が必要となるが、攪拌を強化するには高額な設備とそれに相応する消費電力が求められることになる。
【0035】
また、脱窒反応では、窒素ガスが微細気泡として発生する。微細気泡は菌群を核とする泡となって水表面に残留する。この泡は水表面に蓄積し続け、厚みのある泡の層は脱水症状を起こし閉塞場となり、水表面に嫌気層が形成される。底部では閉塞した完全嫌気状態の汚泥塊が硫化水素ガスを出し、上部では泡が弾けながら脱水状態となった浮上汚泥が閉塞場となって完全嫌気状態となり硫化水素ガスを発生させる。これらはいずれも、腐敗臭をもたらす。
【0036】
以上の、問題を回避すべく、本実施の形態に係る脱窒装置10は、3つの槽を用いた脱窒処理を行うようになっている。本実施の形態における脱窒処理は、飼育水と活性汚泥からなる汚泥水を3つの各槽の間で全量移動させる全量移動方式で行うようにしているが、そのようにした理由を以下で説明する。
【0037】
一槽による処理では常に高濃度の活性汚泥水が槽内底部に残り、沈殿、脱窒処理を繰り返すのみでは、どのような攪拌器を用いても閉塞場が底部に生じ水表面の泡は残留してしまう。しかし、槽内の泡を含めた全汚泥水を他の槽に全て移すようにすれば、槽底部の汚泥の腐敗も水面泡汚泥の腐敗も生じることはない。
【0038】
数時間に一度、攪拌では動かない槽内の汚泥を全量移動することができれば、硫化水素の発生を防ぐことができる。また、全量移動は、槽内の汚泥濃度の均一化をもたらし、汚泥中の脱窒菌による脱窒能力も向上する。さらに、汚泥水表面の泡汚泥も底部までの排出によって移動が行なわれ、泡ができる原因は菌の分解で発生した有機物であることから、浮遊する汚泥に混じれば、水素供与体として活用できる。
【0039】
以上の理由により、本実施の形態に係る脱窒装置10は、複数の槽を用いて脱窒を行い、脱窒プロセスの所定の段階において各槽間で槽内の汚泥水を全量移動させるようにした。全量移動の過程で槽の水深が低下すると攪拌効率は増大し、流動しなかった汚泥も混じることができなかった泡も全て別の槽に流れていくので撹拌効率が高い。なおこの全量移動によって混入する大気中酸素の溶解は脱窒反応を著しく阻害するほどのものとはならず、脱窒槽11で生じ始めた脱窒反応は、脱窒槽12においても継続される。
【0040】
脱窒槽11は、脱窒装置10内における最上流側の槽であり、好気処理装置3から移動用ポンプ34にて循環経路5bを経由して飼育水が流入するようになっている。また、脱窒槽11には、後述する脱窒槽13より、脱窒菌を含んだ活性汚泥が移動用ポンプ40にて移動経路16eを経由して流入するようになっている。脱窒槽11は飼育水と活性汚泥が流入されると脱窒処理を開始するようになっている。即ち、脱窒槽11は、魚介類を飼育するための養殖水槽に用いられる飼育水と脱窒菌を含んだ活性汚泥とが混合された汚泥水に後述する砂糖水を供給して撹拌処理する。
【0041】
ここでいう脱窒処理は、脱窒槽11内に設置された水中撹拌用ポンプ31により、飼育水と活性汚泥の混合体である汚泥水を撹拌し、活性汚泥中の脱窒菌が汚泥水中の硝酸イオンNO から窒素を分離することで行われる。移動用ポンプ34および移動用ポンプ40は、タイマーを用いてプログラムされた時間に動作するようになっている。
【0042】
活性汚泥(土壌菌群)の中に存在する脱窒菌は、有機物を食べて自己増殖を行なう従属栄養生物である。活性汚泥を用いた脱窒のプロセスは、1番目に溶存酸素を減少させる高濃度の活性汚泥と飼育水の準備、2番目に汚泥濃度を均一化し脱窒菌との接触性を向上させる攪拌、3番目に脱窒菌の餌となるアルコールや糖類の有機物(水素供与体)の添加、4番目に硝酸がなくなるまで所定時間の脱窒反応、5番目に活性汚泥と混和した飼育水を分離する沈殿による固液分離、の5つのプロセスで実行される。
【0043】
本実施の形態では各脱窒槽の1回当たりの飼育水の処理量は140リットルとし、活性汚泥の量は150リットルとし、硝酸塩50mg/Lの飼育水を3槽による全量移動式で脱窒処理を行なうようにしたが、これらの量は適宜変更するようにしてもよい。脱窒処理の1サイクルにかかる時間の例としては、例えば、脱窒処理時間を約7時間、沈殿処理時間を約3時間、水移動時間を2時間とすると12時間後に脱窒処理の1サイクルが完了する。
【0044】
本実施の形態のように脱窒菌を用いた脱窒には脱窒菌の餌となるアルコールや糖類の有機物(水素供与体)が必要である。本実施の形態では、水素供与体として上白糖を水で溶かした砂糖水を用いた。攪拌された汚泥中に水素供与体が混入すると脱窒菌は活発になり溶存酸素が急激に減少し、脱窒反応が始まる。
【0045】
水素供与体としては、砂糖水以外にも例えば、エチルアルコールが考えられるが、その定量投与には高額な定量薬液注入機が必要となる。揮発性の高いアルコールはメンテナンス性に難がある。したがって、本実施の形態では水素供与体として安価でメンテナンス性のよい砂糖水を用いている。
【0046】
脱窒槽11における汚泥水が所定の時間、水中撹拌用ポンプ31により撹拌されると、汚泥水は、移動用ポンプ35にて移動経路16aを経由して脱窒槽12へと全量移動される。水中撹拌用ポンプ31は小型のポンプであり、揚程0mでの噴出流量は20L/min程度である。また、移動用ポンプ35は、中型の水中ポンプであり、20分間で脱窒槽11内の汚泥水300Lを脱窒槽12へ全量移動させることができる。移動用ポンプ35としてより時間当たりの送量の多いものを用いてもよく、槽内の汚泥水の移動時間が短いほど脱窒反応時間を長くとることができる。水中撹拌用ポンプ31および移動用ポンプ35は、タイマーを用いてプログラムされた時間に動作するようになっている。
【0047】
脱窒槽12に流入した汚泥水は、脱窒槽12内に設けられた水中撹拌用ポンプ32により撹拌される。水中撹拌用ポンプ32は水中撹拌用ポンプ31と同様に小型のポンプであり、揚程0mでの噴出流量は20L/min程度である。そして、活性汚泥中の脱窒菌が汚泥水中の硝酸イオンNO から窒素を分離することで脱窒処理が行われる。
【0048】
脱窒槽12内での脱窒処理が所定時間行われ、窒素濃度が予め定めた値以下になると、槽内の汚泥水は、移動用ポンプ36にて移動経路16bを経由して脱窒槽13へと全量移動される。また、移動用ポンプ36は、移動用ポンプ35と同様の中型の水中ポンプであり、20分間で脱窒槽12内の汚泥水300Lを脱窒槽13へ全量移動させることができる。移動用ポンプ36としてより時間当たりの送量の多いものを用いてもよく、槽内の汚泥水の移動時間が短いほど脱窒反応時間を長くとることができる。水中撹拌用ポンプ32および移動用ポンプ36は、タイマーを用いてプログラムされた時間に動作するようになっている。
【0049】
脱窒槽13に流入した汚泥水は、所定の時間だけ沈殿処理されるようになっている。すなわち、脱窒槽13内の汚泥水は、脱窒槽11、脱窒槽12内の汚泥水のように撹拌処理はなされず、汚泥水が上澄み水と汚泥とに固液分離されるようになっている。
【0050】
脱窒槽13において固液分離された汚泥水のうち上澄み水は、移動用ポンプ37にて移動経路16cを経由して後処理槽14へ移動される。一方、固液分離された汚泥水のうち活性汚泥は、移動用ポンプ40にて移動経路16eを経由して脱窒槽11へ移動される。即ち、脱窒槽13は、沈殿処理後の上澄み水を後処理槽14へ移動させ、かつ、撹拌処理後に脱窒槽12へ汚泥水を全量移動させて槽内が空となった脱窒槽11に活性汚泥を全量移動させるようになっている。移動用ポンプ37は、タイマーを用いてプログラムされた時間に動作するようになっている。
【0051】
後処理槽14には、上澄み水に含まれるタンパク質と残留した汚泥を中心とした汚れの成分を除去する小型泡沫浮上分離装置15が設けられている。小型泡沫浮上分離装置15は、微細気泡を反応させ泡立ちの要因となる脱窒で生じた汚泥からのタンパク質を除去するものであり、その廃液は汚泥の混じった黄色の廃液である。
【0052】
小型泡沫浮上分離装置15にて処理された廃液は水質浄化装置1の系外に排出されるようになっている。小型泡沫浮上分離装置15にて処理された廃液を除去した上澄み水は、移動用ポンプ38にて循環経路5cを経て養殖水槽2へと移動されるようになっている。移動用ポンプ38は、タイマーを用いてプログラムされた時間に動作するようになっている。
【0053】
次に図4を用いて、脱窒装置10を用いた脱窒の工程について説明する。
【0054】
図4におけるステップ1の状態は脱窒槽11が空の状態であり、上流側の好気処理装置3で処理された飼育水の流入および脱窒槽13からの活性汚泥の流入を待っている状態である。脱窒槽12は水中撹拌用ポンプ32により、槽内の汚泥水が撹拌され、汚泥水に含まれる脱窒菌による脱窒処理がなされている。脱窒槽13は汚泥水の沈殿処理を行い汚泥水を上澄み水と活性汚泥とに分離した状態である。
【0055】
続いて、ステップ2において脱窒槽11は、好気処理装置3からの飼育水の流入および脱窒槽13からの活性汚泥の流入を開始する。この際、脱窒菌の餌となる水素供与体として、砂糖水も外部から投与させる。本実施の形態では100g/Lの濃度の砂糖水を用いたが、脱窒槽11の規模や汚泥水の量、及び硝酸濃度によって変更してもよい。
【0056】
砂糖水の投与量には上限下限があり、砂糖水の投与量が少ないと脱窒が未完了状態となって亜硝酸が発生するが、砂糖水の投与量が多いと硝酸がなくなって硫酸呼吸に移行し硫化水素ガスが発生する。硫化水素ガスの発生は高濃度汚泥による腐敗臭をもたらし、汚泥が劣化し多量の泡の発生を生む。
【0057】
ステップ2において、脱窒槽12は、ステップ1より引き続いて水中撹拌用ポンプ32による槽内の汚泥水の撹拌がなされ、汚泥水に含まれる脱窒菌による脱窒処理が進行している。
【0058】
ステップ2において、脱窒槽13は沈殿処理により固液分離された汚泥水の上澄み水を
移動用ポンプ37にて移動経路16cを経由して後処理槽14へ移動させる。脱窒槽13は、上澄み水の移動を終えると沈殿処理により固液分離された汚泥水の活性汚泥を移動用ポンプ40にて移動経路16eを経由して脱窒槽11へ移動させ、最終的に脱窒槽13を空の状態にする。
【0059】
続いて、ステップ3において脱窒槽11は、ステップ2において流入された飼育水と活性汚泥の混合体である汚泥水と砂糖水を水中撹拌用ポンプ31により撹拌し、溶存酸素を低下させ、脱窒処理を進行させる。脱窒処理は、活性汚泥中の脱窒菌が汚泥水中の硝酸イオンNO から窒素を分離することで行われる。
【0060】
ステップ3において、脱窒槽12は、ステップ2に引き続いて水中撹拌用ポンプ32による撹拌処理を進行させながら、移動用ポンプ36にて移動経路16bを経由して脱窒槽13への汚泥水の移動を開始する。なお、脱窒槽13への汚泥水の移動開始前において、脱窒槽13はステップ2での処理を完了し、空の状態である。脱窒槽12から脱窒槽13への汚泥水の移動は、脱窒槽12内の汚泥水が全てなくなるまで行われ、汚泥水の全量が移動される。
【0061】
ステップ3において、脱窒槽13は、空となった状態で脱窒槽12から移動経路16bを経由して汚泥水を流入する。汚泥水の流入は、脱窒槽12内の汚泥水の全量がなくなるまで行われる。
【0062】
ステップ4において、脱窒槽11は、ステップ3より引き続き、槽内の汚泥水を水中撹拌用ポンプ31により撹拌し、脱窒処理を進行させる。ステップ4において、脱窒槽12は、ステップ3における脱窒槽13への汚泥水の全量移動を完了して、空の状態となっている。ステップ4において、脱窒槽13は、ステップ3において脱窒槽12より流入した汚泥水の沈殿処理を開始する。
【0063】
ステップ5において、脱窒槽11は、ステップ4より引き続き槽内の汚泥水を水中撹拌用ポンプ31により撹拌させつつ、ステップ4において空の状態となった脱窒槽12へ汚泥水の移動を行うが、溶存酸素が十分に低下した汚泥水は、この処理によって脱窒反応を阻害ほどの酸素の混入には至らない。脱窒槽12への汚泥水の移動は、移動用ポンプ35により移動経路16aを経由して行われ、脱窒槽11の槽内が空の状態となるまで行われる。
【0064】
ステップ5において、脱窒槽12は、脱窒槽11より流入した汚泥水を水中撹拌用ポンプ32により撹拌する。ステップ5において、脱窒槽13は、ステップ4に引き続き、槽内の汚泥水の沈殿処理を行い、汚泥水を上澄み水と活性汚泥とに固液分離させる処理を進行させる。
【0065】
ステップ5における、脱窒槽11、脱窒槽12、脱窒槽13の各処理が完了すると各脱窒槽はステップ1における状態に戻る。即ち、脱窒槽11は空の状態であり、脱窒槽12は、槽内の汚泥水を撹拌させ脱窒処理を行っており、脱窒槽13は、槽内の汚泥水を上澄み水と活性汚泥とに固液分離させる沈殿処理を行っている。以上、説明したステップ1~ステップ5が脱窒装置10における脱窒処理の1サイクルである。
【0066】
以上のように、本実施の形態に係る脱窒装置10は、魚介類を飼育するための養殖水槽2に用いられる飼育水と脱窒菌を含んだ活性汚泥とが混合された汚泥水に砂糖水を供給して撹拌処理する脱窒槽11と、脱窒槽11で所定の間、撹拌処理された汚泥水をさらに撹拌処理する脱窒槽12と、脱窒槽12で撹拌処理された汚泥水を上澄み水と活性汚泥とに固液分離させ沈殿処理する脱窒槽13と、を備え、脱窒槽13は、沈殿処理後の上澄み水を後処理槽へ移動させ、かつ、撹拌処理後に脱窒槽12へ汚泥水を全量移動させて槽内が空となった脱窒槽11に活性汚泥を全量移動させるよう構成されている。
【0067】
この構成により、脱窒装置10は、脱窒槽11、脱窒槽12、脱窒槽13の3つの槽で汚泥水の脱窒処理を工程を分けて行うようになっており、1つの脱窒槽で脱窒処理を行う場合と比較して、各脱窒槽11、脱窒槽12、脱窒槽13のサイズを小さくすることができるので、槽内の撹拌力を確保できるとともに、脱窒装置10から下流側への1回当たりの移動水量を抑えることができる。また、脱窒装置10は、脱窒処理の工程を3つの脱窒槽で行っており、1つの工程にかかる時間は、1つの脱窒槽で脱窒処理を行う場合と比較して短いため、トータルでは一定時間当たりの脱窒量を確保できる。
【0068】
また、脱窒槽11から脱窒槽12へ、脱窒槽12から脱窒槽13へと汚泥水を全量移動させ、脱窒槽13から脱窒槽11へ活性汚泥を全量移動させるようになっているので、脱窒槽の底部に高濃度の活性汚泥水が常に残り閉塞域が生じることによる脱窒の阻害を回避し、硫化水素の発生を防ぐことができる。
【0069】
本実施の形態に係る水質浄化装置1は、魚介類を養殖するための養殖水槽2と、養殖水槽2中の飼育水中のアンモニアを分解する好気処理装置3と、好気処理装置3で処理した飼育水を処理し、処理後の飼育水を養殖水槽2へと移動させる脱窒装置10と、養殖水槽2中の飼育水中に含まれるタンパク質を主成分とする汚れ成分に対し微細気泡を反応させることで汚れ成分を分離し、汚れ成分を除去した飼育水を養殖水槽2へ移動させる泡沫浮上分離装置4と、を備える。
【0070】
(第2の実施の形態)
本実施の形態では、泡沫浮上分離装置4と小型泡沫浮上分離装置15から排出される廃液を脱窒槽11にて再利用するよう構成したが、他の構成は第1の実施の形態と略同一である。第2の実施の形態に係る脱窒装置において、第1の実施の形態におけるものと同一の構成要素については、図1ないし図4に示した第1の実施の形態と同一の符号を用いて説明し、特に相違点についてのみ詳述する。
【0071】
図5は、本実施の形態に係る水質浄化装置1の模式図である。泡沫浮上分離装置4と脱窒装置10は移動経路7aを介して連結されており、後述するように泡沫浮上分離装置4の廃液を脱窒装置10で利用できるようになっている。また、図6に示すように、小型泡沫浮上分離装置15と脱窒槽11は移動経路7bを介して連結されており、後述するように小型泡沫浮上分離装置15の廃液を脱窒装置10で利用できるようになっている。
【0072】
泡沫浮上分離装置4は、飼育水に含まれるタンパク質を中心とした汚れの成分を除去する装置である。より具体的には、泡沫浮上分離装置4は、移動経路6aを経由して養殖水槽2から流入した飼育水に対し、微細気泡を反応させ泡立ちの要因となるタンパク質や微細な糞カスを除去する。泡沫浮上分離装置4による処理後の液体は濁った茶褐色の生臭い高濃度の廃液である。小型泡沫浮上分離装置15も同様に、上澄み水に含まれるタンパク質を中心とした汚れの成分に微細気泡を反応させることで除去する装置である。即ち、ここでいう廃液は、飼育水中に含まれるタンパク質を主成分とする汚れ成分に対し微細気泡を反応させることで汚れ成分を分離する泡沫浮上分離装置4または、小型泡沫浮上分離装置15により排出された泡沫浮上分離廃液である。
【0073】
本実施の形態においては、泡沫浮上分離装置4にて処理された廃液は、第1の実施の形態とは異なり、脱窒槽11へ移動経路7aを経由して移動されるようになっている。廃液の移動のタイミングは後述する脱窒工程におけるステップ2のタイミングで行う。泡沫浮上分離装置4にて処理された廃液を除去した飼育水は、移動経路6bを経て養殖水槽2へ戻されるようになっている。
【0074】
また、本実施の形態においては、小型泡沫浮上分離装置15にて処理された廃液は、第1の実施の形態とは異なり、脱窒槽11へ移動経路7bを経由して移動されるようになっている。廃液の移動のタイミングは後述する脱窒工程におけるステップ2のタイミングで行う。
【0075】
ここで、泡沫浮上分離装置4と小型泡沫浮上分離装置15により廃液の処理を行う理由について説明する。水中の有機物濃度が増加すると飼育水はぬるぬるとした感じになる。それが魚介類の体皮に付着し、菌が生息する要因となり病気の大きな原因となる。また、有機物濃度の高い飼育水は、菌が水中に漂う結果となり、飼育水は濁って透視度が悪化する。この原因は、体皮から分泌される水中のたんぱく質成分と微細に溶けた糞である。泡沫浮上分離装置4と小型泡沫浮上分離装置15はこれらを泡水の廃液として排除し水質を向上させている。
【0076】
泡沫浮上分離装置4は、排出水位の調節によって、廃液の濃度と量をコントロールできる。本実施の形態では、泡沫浮上分離装置4の廃液の量を1日当たり400L程度とした。これにより養殖水槽2内の飼育水の透視度は2m程度となった。なお、泡沫浮上分離装置4の廃液の量を1日当たり10L程度とした場合の養殖水槽2内の飼育水の透視度は50cm程度であった。
【0077】
泡沫浮上分離装置4および小型泡沫浮上分離装置15の廃液は破棄してしかるべき高濃度の有機物を含み、その水分は飼育水であって水素供与体として利用可能であるので、脱窒装置10で水素供与体として用いられるようになり、さらにその廃液は脱窒過程で浄化され養殖水槽に戻される。
【0078】
次に図7を用いて、脱窒装置10を用いた脱窒の工程について説明する。
【0079】
図7におけるステップ1の状態は脱窒槽11が空の状態であり、上流側の好気処理装置3で処理された飼育水の流入および脱窒槽13からの活性汚泥の流入を待っている状態である。脱窒槽12は水中撹拌用ポンプ32により、槽内の汚泥水が撹拌され、汚泥水に含まれる脱窒菌による脱窒処理がなされている。脱窒槽13は汚泥水の沈殿処理を行い汚泥水を上澄み水と活性汚泥とに分離した状態である。
【0080】
続いて、ステップ2において脱窒槽11は、好気処理装置3からの飼育水の流入および脱窒槽13からの活性汚泥の流入を開始する。この際、脱窒菌の餌となる水素供与体として、砂糖水も外部から投与させるとともに、泡沫浮上分離装置4および小型泡沫浮上分離装置15より廃液を流入させる。高濃度の汚泥処理によって、砂糖水と泡沫浮上分離装置の廃液の成分分解が行われ、溶存酸素が低下していく。本実施の形態では100g/Lの濃度の砂糖水を用いたが、脱窒槽11の規模や汚泥水の量、及び硝酸濃度によって変更してもよい。
【0081】
砂糖水の投与量には上限下限があり、砂糖水の投与量が少ないと脱窒が未完了状態となって亜硝酸が発生するが、砂糖水の投与量が多いと硝酸がなくなって硫酸呼吸に移行し硫化水素ガスが発生する。硫化水素ガスの発生は高濃度汚泥による腐敗臭をもたらし、汚泥が劣化し多量の泡の発生を生む。
【0082】
ステップ2において、脱窒槽12は、ステップ1より引き続いて水中撹拌用ポンプ32による槽内の汚泥水の撹拌がなされ、汚泥水に含まれる脱窒菌による脱窒処理が進行している。
【0083】
ステップ2において、脱窒槽13は沈殿処理により固液分離された汚泥水の上澄み水を
移動用ポンプ37にて移動経路16cを経由して後処理槽14へ移動させる。脱窒槽13は、上澄み水の移動を終えると沈殿処理により固液分離された汚泥水の活性汚泥を移動用ポンプ40にて移動経路16eを経由して脱窒槽11へ移動させ、最終的に脱窒槽13を空の状態にする。
【0084】
続いて、ステップ3において脱窒槽11は、ステップ2において流入された飼育水と泡沫浮上分離装置4の廃液と砂糖水と活性汚泥の混合体である汚泥水を水中撹拌用ポンプ31により撹拌し、溶存酸素を低下させながら廃液の成分分解と共に脱窒処理を進行させる。脱窒処理は、活性汚泥中の脱窒菌が汚泥水中の硝酸イオンNO から窒素を分離することで行われる。
【0085】
ステップ3において、脱窒槽12は、ステップ2に引き続いて水中撹拌用ポンプ32による撹拌処理を進行させながら、移動用ポンプ36にて移動経路16bを経由して脱窒槽13への汚泥水の移動を開始する。なお、脱窒槽13への汚泥水の移動開始前において、脱窒槽13はステップ2での処理を完了し、空の状態である。脱窒槽12から脱窒槽13への汚泥水の移動は、脱窒槽12内の汚泥水が全てなくなるまで行われ、汚泥水の全量が移動される。
【0086】
ステップ3において、脱窒槽13は、空となった状態で脱窒槽12から移動経路16bを経由して汚泥水を流入する。汚泥水の流入は、脱窒槽12内の汚泥水の全量がなくなるまで行われる。
【0087】
ステップ4において、脱窒槽11は、ステップ3より引き続き、槽内の汚泥水を水中撹拌用ポンプ31により撹拌し、脱窒処理を進行させる。ステップ4において、脱窒槽12は、ステップ3における脱窒槽13への汚泥水の全量移動を完了して、空の状態となっている。ステップ4において、脱窒槽13は、ステップ3において脱窒槽12より流入した汚泥水の沈殿処理を開始する。
【0088】
ステップ5において、脱窒槽11は、ステップ4より引き続き槽内の汚泥水を水中撹拌用ポンプ31により撹拌させつつ、ステップ4において空の状態となった脱窒槽12へ汚泥水の移動を行う。脱窒槽12への汚泥水の移動は、移動用ポンプ35により移動経路16aを経由して行われ、脱窒槽11の槽内が空の状態となるまで行われる。
【0089】
ステップ5において、脱窒槽12は、脱窒槽11より流入した汚泥水を水中撹拌用ポンプ32により撹拌する。ステップ5において、脱窒槽13は、ステップ4に引き続き、槽内の汚泥水の沈殿処理を行い、汚泥水を上澄み水と活性汚泥とに固液分離させる処理を進行させる。
【0090】
ステップ5における、脱窒槽11、脱窒槽12、脱窒槽13の各処理が完了すると各脱窒槽はステップ1における状態に戻る。即ち、脱窒槽11は空の状態であり、脱窒槽12は、槽内の汚泥水を撹拌させ脱窒処理を行っており、脱窒槽13は、槽内の汚泥水を上澄み水と活性汚泥とに固液分離させる沈殿処理を行っている。以上、説明したステップ1~ステップ5が脱窒装置10における脱窒処理の1サイクルである。
【0091】
以下で、泡沫浮上分離装置4および小型泡沫浮上分離装置15の泡廃液を脱窒装置10に混入させる量を変化させた場合の相違点について説明する。
【0092】
(実施例1)
本実施例では、泡廃液を混入せずに脱窒装置10における脱窒処理を行った。脱窒装置10による脱窒処理開始前における養殖水槽2の飼育水の硝酸体窒素濃度は60mg/L程度であった。脱窒装置10は、1日当たり6サイクルの脱窒処理を行い、1サイクルで140リットルの飼育水の硝酸濃度を0まで下げた。3ヶ月間処理を継続し、養殖水槽2における全水量18mの硝酸体窒素濃度は、40mg/L程度にまで減少した。
【0093】
(実施例2)
本実施例では、脱窒処理の1サイクルの飼育水140リットルのうち30リットル程、泡廃液を脱窒処理水に混入させて全量移動式の脱窒処理を行った。泡廃液投与後は脱窒槽11で高速に溶存酸素が低下し飼育水の硝酸体窒素濃度がほぼ0となり脱窒処理が高速化した。脱窒槽11への砂糖水投与量を1サイクルで70gとした場合硫化水素ガスが発生した。脱窒槽11への砂糖水投与量を1サイクルで50gとすると硫化水素ガスは発生しなくなった。
【0094】
処理後の飼育水を再度泡沫浮上分離したところ泡廃液の排出は1リットル以下であり、泡成分の大部分は12時間の脱窒処理で分解された。脱窒処理後の泡廃液の色は飼育水よりも薄く、茶褐色の色素も取れた結果を得た。養殖水槽2の透視度は1m以上であった。養殖水槽2におけるヒラメの死亡数が、飼育数500匹のうち週1匹から月1匹に減少した。
【0095】
(実施例3)
本実施例では、脱窒処理の1サイクルの飼育水140リットルのうち80リットル程、泡廃液を脱窒処理水に混入させて全量移動式の脱窒処理を行った。脱窒槽11への砂糖水投与量は1サイクルで50gとした。泡沫浮上分離装置4および小型泡沫浮上分離装置15により1時間当たり20リットルの泡廃液の処理を行った。養殖水槽2の透視度は、3m以上となり、魚介類の排糞出が多い時間帯でも透視度は2m以上を維持するようになった。脱窒における硝酸の除去は実施例2と同様に脱窒槽11でほぼ完了した。
【0096】
養殖水槽2の飼育水の硝酸体窒素濃度は、30mg/Lまで減少した。養殖水槽2中のひらめの死亡数は3ヶ月間で1匹のみに減少した。
【0097】
以上のように、本実施の形態に係る脱窒装置10は、魚介類を飼育するための養殖水槽2に用いられる飼育水と脱窒菌を含んだ活性汚泥とが混合された汚泥水に砂糖水および飼育水中に含まれるタンパク質を主成分とする汚れ成分に対し微細気泡を反応させることで汚れ成分を分離する泡沫浮上分離装置により排出された泡沫浮上分離廃液を供給して撹拌処理する脱窒槽11と、脱窒槽11で所定の間、撹拌処理された汚泥水をさらに撹拌処理する脱窒槽12と、脱窒槽12で撹拌処理された汚泥水を上澄み水と活性汚泥とに固液分離させ沈殿処理する脱窒槽13と、を備え、脱窒槽13は、沈殿処理後の上澄み水を後処理槽へ移動させ、かつ、撹拌処理後に脱窒槽12へ汚泥水を全量移動させて槽内が空となった脱窒槽11に活性汚泥を全量移動させるよう構成されている。
【0098】
この構成により、脱窒装置10は、脱窒槽11、脱窒槽12、脱窒槽13の3つの槽で汚泥水の脱窒処理を工程を分けて行うようになっており、1つの脱窒槽で脱窒処理を行う場合と比較して、各脱窒槽11、脱窒槽12、脱窒槽13のサイズを小さくすることができるので、槽内の撹拌力を確保できるとともに、脱窒装置10から下流側への1回当たりの移動水量を抑えることができる。また、脱窒装置10は、脱窒処理の工程を3つの脱窒槽で行っており、1つの工程にかかる時間は、1つの脱窒槽で脱窒処理を行う場合と比較して短いため、トータルでは一定時間当たりの脱窒量を確保できる。
【0099】
また、脱窒槽11から脱窒槽12へ、脱窒槽12から脱窒槽13へと汚泥水を全量移動させ、脱窒槽13から脱窒槽11へ活性汚泥を全量移動させるようになっているので、脱窒槽の底部に高濃度の活性汚泥水が常に残り閉塞域が生じることによる脱窒の阻害を回避し、硫化水素の発生を防ぐことができる。
【0100】
また、水素供与体として泡沫浮上分離廃液を用いるので、水素供与体としての砂糖水の使用量を削減できる。また、泡沫浮上分離装置4の処理により排出される廃液の量を増やすことで、飼育水の透視度を向上させることができる。泡廃液は難分解性のたんぱく質を多量に含む茶褐色の臭気のある液体だが、それを脱窒の水素供与体の一部として活用すると共に、廃液自体の浄化となり再生させることができる。
【0101】
本発明によれば、長期運用に伴う槽内の閉塞域が生じることなく、また、1サイクル当たりの脱窒処理量を抑えつつ、一定の時間当たりの脱窒処理量を確保することができ脱窒装置全般に有用である。
【符号の説明】
【0102】
1 水質浄化装置
2 養殖水槽
3 好気処理装置
4 泡沫浮上分離装置
5a、5b、5c 循環経路
6a、6b 移動経路
7a、7b 移動経路
10 脱窒装置
11、12、13 脱窒槽
14 後処理槽
15 小型泡沫浮上分離装置
16a、16b、16c、16d、16e 移動経路
21 水温制御装置
31、32 水中撹拌用ポンプ
33、34、35、36、37、38、40 移動用ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7