(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】血液中の稀少細胞検査、該検査ための血液処理方法及び採血管
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20220308BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20220308BHJP
A61B 5/15 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
G01N33/48 B
G01N1/10 V
G01N33/48 K
G01N33/48 S
A61B5/15 100
(21)【出願番号】P 2018104309
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 英紀
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0027771(US,A1)
【文献】特表2015-506482(JP,A)
【文献】中国特許第104381245(CN,B)
【文献】米国特許出願公開第2006/0134073(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0190572(US,A1)
【文献】特表2005-517680(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0258096(US,A1)
【文献】特表2017-507328(JP,A)
【文献】米国特許第04994367(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0160523(US,A1)
【文献】特表2016-513472(JP,A)
【文献】G.Contant,Heparin inactivation during blood storage : Its prevention by blood collection in citric acid, theophylline, adenosine, dipyridamole -C.T.A.D. mixture-,Thrombosis Research,1983年07月15日,Vol.31 No.2,Page.365-374
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48
G01N 1/10
A61B 5/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液中の
腫瘍細胞及び/又はがん細胞の検査に使用するための採血血液の処理方法であって、
採血した血液が
、cAMP、ジブチリルcAMP(DBcAMP)、6-モノブチリルcAMP、8-(4-クロロフェニルチオ)-cAMP(8-pCPT-cAMP)、cGMP、ジブチリル-cGMP及び8-(4-クロロフェニルチオ)-cGMP(8-pCPT-cGMP)からなる群から選択される少なくとも一つと混合されることを含む、方法。
【請求項2】
採血した血液が、抗血液凝固剤と混合されることを含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗血液凝固剤は、クエン酸、及びEDTAからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
採血した血液が、
リポソーム、界面活性剤、溶剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも一つと混合されることを含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
採血した血液が、シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤と混合されることを含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
採血した血液が、グルコース、顆粒球エラスターゼ阻害剤、抗酸化剤、及びこれらの組み合わせ、並びに、これらを含む組成物からなる群から選択されるものと混合されることを含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
混合後の採血血液を、10℃以下で保存することを含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
混合後の採血血液を、4時間以上保存することを含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
血液中の
腫瘍細胞及び/又はがん細胞の検査する方法であって、
検査対象血液試料として請求項1から8のいずれかの方法で処理した血液を使用することを含む、方法。
【請求項10】
血液中の
腫瘍細胞及び/又はがん細胞の検査に使用するための採血管であって、
cAMP、ジブチリルcAMP(DBcAMP)、6-モノブチリルcAMP、8-(4-クロロフェニルチオ)-cAMP(8-pCPT-cAMP)、cGMP、ジブチリル-cGMP及び8-(4-クロロフェニルチオ)-cGMP(8-pCPT-cGMP)からなる群から選択される少なくとも一つを含む、採血管。
【請求項11】
さらに、抗血液凝固剤、シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤、グルコース、顆粒球エラスターゼ阻害剤、抗酸化剤、及びこれらの組み合わせ、並びに、これらを含む組成物からなる群から選択されるものを含む、請求項
10に記載の採血管。
【請求項12】
血液中の腫瘍細胞及び/又はがん細胞の検出又は回収のための採血血液の処理方法であって、
採血した血液が、
cAMP、ジブチリルcAMP(DBcAMP)、6-モノブチリルcAMP、8-(4-クロロフェニルチオ)-cAMP(8-pCPT-cAMP)、cGMP、ジブチリル-cGMP及び8-(4-クロロフェニルチオ)-cGMP(8-pCPT-cGMP)からなる群から選択される少なくとも一つ、及びシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤と混合されることを含む、方法。
【請求項13】
血液中の腫瘍細胞及び/又はがん細胞の検出又は回収のための採血血液の処理方法であって、
採血した血液が、cAMP
並びに、ジブチリルcAMP(DBcAMP)、6-モノブチリルcAMP、8-(4-クロロフェニルチオ)-cAMP(8-pCPT-cAMP)、cGMP、ジブチリル-cGMP及び8-(4-クロロフェニルチオ)-cGMP(8-pCPT-cGMP)からなる群から選択される少なくとも一つと混合されることを含む、方法。
【請求項14】
血液中の腫瘍細胞及び/又はがん細胞の検出又は回収のための採血管であって、
cAMP、ジブチリルcAMP(DBcAMP)、6-モノブチリルcAMP、8-(4-クロロフェニルチオ)-cAMP(8-pCPT-cAMP)、cGMP、ジブチリル-cGMP及び8-(4-クロロフェニルチオ)-cGMP(8-pCPT-cGMP)からなる群から選択される少なくとも一つ及びシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤を含む、採血管。
【請求項15】
血液中の腫瘍細胞及び/又はがん細胞の検出又は回収のための採血管であって、
cAMP、ジブチリルcAMP(DBcAMP)、6-モノブチリルcAMP、8-(4-クロロフェニルチオ)-cAMP(8-pCPT-cAMP)、cGMP、ジブチリル-cGMP及び8-(4-クロロフェニルチオ)-cGMP(8-pCPT-cGMP)からなる群から選択される少なくとも一つを含む、採血管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、血液中の稀少細胞検査、並びに、該検査ための血液処理方法及び採血管に関する。
【背景技術】
【0002】
全血は、医療における診断分析のために最も頻繁に収集される試料の1つである。
採血して未処理の全血は、時間が経過すると、赤血球、白血球、血小板及び血漿成分の凝固、代謝、分解などが起こる。よって、全血を使用する検査や分析は採取後速やかに行うことが望ましいが、現実的には困難な場合が多く、輸送や保存が必要となる。そのため、採取した血液に抗凝固剤などを加えることによって血液を安定に保存する手段がとられている。抗凝固剤には様々なタイプのものがある。検査に影響を与えないように、採血した血液の処理方法及び採血に使用する採血管の種類は、検査目的に応じて分類されている。
【0003】
例えば、採血管には、大きく分けて抗凝固剤が入っていないタイプ(プレーンタイプ)と、凝固剤入りのタイプに分類される。プレーンタイプの採血管は、生化学・内分泌・感染症・自己抗体・腫瘍マーカー検査などに使用される。一方、抗凝固剤入りの採血管の抗凝固剤は、複数種類あり、検査目的に適した抗凝固剤が入った採血管が使用される。
【0004】
EDTA入り採血管は、血球計数や血液塗抹標本等の血液学的検査に使用される。
クエン酸ナトリウム又はCTAD入り採血管は、凝固系検査に使用される。CTADとは、クエン酸塩、テオフィリン、アデノシン、ジピリダモールの組み合わせの薬剤をいう。
フッ化ナトリウム(NaF)入り採血管は、血糖検査に使用される。
ヘパリン入り採血管は、電解質、血液pH、染色体分析、リンパ球培養等の検査に使用される。
そして、血液中の稀少細胞の検査のための採血管としては、EDTA(EDTA-2K又はEDTA-3K)入りの採血管が市販されている。
【0005】
血液の固形成分は、主に赤血球、白血球、血小板であるが、血液中には稀少細胞とよばれる細胞が存在することがある。ヒトの末梢血液中の固形成分のうち、赤血球はミトコンドリア、リボゾーム、ゴルジ体、小胞体のない無核の細胞で存在している。また全血を希釈して塩化アンモニウム添加すると赤血球は溶血させることができる。白血球は核をもち、様々なケモカインやインターフェロンなどのタンパク質に応答する。血小板は無核の細胞であり、巨核球の細胞質断片されたものである。血小板はADPによって活性化される。このように全血中の成分は骨格や中身や構造が大きく異なり、各成分において異なる特徴的な反応が生じ、複雑な挙動を示す。稀少細胞としては、血中循環腫瘍細胞/Circulating Tumor Cell(CTC)や免疫細胞などが挙げられる。稀少細胞は、医学的に重要な細胞であるとされている。CTCは、原発腫瘍組織又は転移腫瘍組織から遊離して血流に沿って循環するがん細胞(腫瘍細胞)である。CTCが、この血流に沿って循環することによりその他の臓器等に運ばれることによって転移を起こすといわれている。このため、血液中のCTCは、転移性のがんの治療効果の判定や予後予測の因子としての有用であると認められていることから、CTCの解析が積極的に行われている。
【0006】
特許文献1は、全血にがん細胞を混合して常温で48時間保存したのちにがん細胞を検出するという実験系において、検出の効率を向上するために、凝固剤としてEDTA又はクエン酸塩を使用することを開示する。同文献は、また、クエン酸塩を含む血液の安定化剤としてCPDA(クエン酸塩、リン酸塩、グルコース、アデニン)が使用できることを開示する。さらに、同文献は、EDTA、クエン酸塩又はCPDAに加え、Sivelestat(好中球エラスターゼ阻害剤)、Pefabloc(商標)SC(セリンプロテアーゼ阻害剤)、並びに、グルタチオン、SkQ1、MitoQなどの抗酸化剤も検出の効率を向上することを開示する。
【0007】
特許文献2及び3は、CTC検査に用いる血液を長期保存する場合にはホルムアルデヒド固定をすることを提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2017-507328号公報
【文献】WO2013/16867
【文献】特開2005-501236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
10mlの全血には、赤血球なら数百億個、白血球なら数千万個、血小板なら数十億個含まれる。一方、CTCは、10mlの全血に対して数個~数千個程度である。全血を保存したのちに稀少細胞を検出する場合、希少細胞のみならず、赤血球、白血球、血小板の状態も検査結果に影響を与えうる。例えば、10mlの血液のうち0.1体積%(容積で10μL)で凝集が発生しただけで、たとえば血漿、約3~6千万個の赤血球、約3~10万個の白血球、約百~3千万個の血小板及び血漿成分が凝集に関与する。全血を使用した稀少細胞の検査においてこれらの凝集物は処理性能を低下させうる。
【0010】
とりわけ、CTC検査の場合、たとえば、1~2日保存したEDTA2Kの抗凝固剤が入った全血を使用すると、CTCの検出結果や回収率に影響がある。
例えば、抗原を利用した分離方法や密度勾配法を利用した分離では、赤血球や白血球が、保存時に経時的に変化して密度が変化することがある。また、一部の免疫細胞が保存時に経時的に死細胞となり内容物の漏出や核酸の凝集などが問題になる。サイズや粘弾性を利用した分離においては、血液が保存時に経時的に変化した結果、例えば新鮮血に比べ、同流量での処理において分離部の差圧が上昇して、変形能の高いがん細胞や小型のがん細胞など一部のCTCのフィルターの通り抜け易さ(狭い流路の通過し易さ)などが変化する。
また血液だけでなく、CTCそれ自体も保存時に経時的に状態が変化し、細胞死やDNAやRNAの分解によって、新鮮血でできていた検査が保存によって検査できない場合がある。CTCをホルムアルデヒドで固定化する方法もあるが分離に影響が出たり、検査用途が限定されたりする。
一方で、採血した病院等以外の施設(例えば、検査センター)での検査をする場合には採血した血液の保存が必要となる。
【0011】
そこで、本開示は、一態様において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、一態様において、採血した血液が、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤と混合されることを含む、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法に関する。
【0013】
本開示は、その他の態様において、血液中の稀少細胞検査する方法であって、検査対象血液試料として本開示に係る処理方法で処理した血液を使用することを含む、稀少細胞検査方法に関する。
本開示は、その他の態様において、血液中の希少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤を含む採血管に関する。
【0014】
本開示は、その他の態様において、採血した血液がcAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及びシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤と混合されること、あるいは、採血した血液がcAMP及びその類似化合物と混合されることを含む、採血血液の処理方法に関する。
本開示は、その他の態様において、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及びシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤を含む、あるいは、cAMP又はその類似化合物を含む、採血管に関する。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、採血後に保存した血液を使用する稀少細胞検査をより効果的にすることができる。
また本開示によれば、一又は複数の実施形態において、細胞の固定化をしても固定化しなくても採血後に保存した血液を使用する稀少細胞検査をより効果的にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、採血した血液と実施例9-18又は比較例8の添加剤とを混合して4℃72時間保存して調製した試料のCTC検査の結果(捕捉率)の一例を示すグラフである。
【
図2】
図2は、本開示に係る採血処理方法で調製された試料から回収されたCTCのDNA-FISH(左図)及びRNA-FISH(右図)の結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、稀少細胞検査用途の血液を保存する際、該血液にcAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤を混合させると、検査が効果的になるという知見に基づく。
【0018】
[稀少細胞]
本開示において、血液中又は血液検体中に含まれうる「稀少細胞」とは、ヒト又はヒト以外の動物の血液中に含まれ得る細胞成分(赤血球、白血球、及び血小板)以外の細胞をいい、腫瘍細胞及び/又はがん細胞を含む。一般に血液中に循環する腫瘍細胞やがん細胞をCTCという。血液中の稀少細胞数としては、検体にもよるが血液10ml中に数個から数十個、多くて数百~千個含まれている場合がある。「稀少細胞」は、一又は複数の実施形態において、がん細胞、循環腫瘍細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、がん幹細胞、上皮細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、胎児細胞、幹細胞及びこれらの組み合わせからなる群から選択される細胞である。
【0019】
[稀少細胞検査]
本開示において稀少細胞検査とは、稀少細胞の検出、稀少細胞の分離、稀少細胞の濃縮、稀少細胞の測定、稀少細胞の観察、稀少細胞の回収、稀少細胞の培養、又は稀少細胞中のDNA、RNA、タンパク質等の検査を含みうる。
稀少細胞検査の方法は特に限定されず、フィルター分離などサイズや粘弾性を用いる方法、流路や流体力学的な分離などのサイズ差や粘弾性を用いる方法、遠心分離方法、抗体などの免疫学的手法を用いる方法、染色を用いる方法、顕微鏡を用いる方法、又はこれらの組み合わせを含みうる。
稀少細胞検査の効率化は、検査精度の向上、検出感度の向上、分離精度の向上、濃縮度の向上、測定精度の向上、観察しやすさの向上、回収率の向上、又は、稀少細胞の生存率の向上等が挙げられる。
本開示において、稀少細胞検査は、細胞をホルマリン等で固定化する方法であってもよく、細胞を固定化しない方法であってもよい。稀少細胞を生きたまま観察、測定、培養する観点からは、細胞を固定化しない方法であることが好ましい。
【0020】
[血液]
本開示において、血液は、ヒトの血液でもよく、あるいは、ヒト以外の動物の血液であってもよい。本開示に係る処理方法の対象が白血球成分を含有する血液の場合、白血球及び/又は他の有核細胞を安定化による効果が顕著に現れうる。
【0021】
[cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤]
本開示において、cAMP(環状アデノシン一リン酸、サイクリックAMP)又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤としては、cAMP及びその類似化合物、細胞内でcAMPの分解を抑制するもの、並びに、細胞内でcAMPの合成を促進するものが挙げられる。
【0022】
[cAMP及びその類似化合物]
cAMPは、環状ヌクレオチドの1つであり、細胞内情報伝達物質(セカンドメッセンジャー)として知られている。例えばcAMP依存性タンパクキナーゼ(PKA)を活性化し、有核細胞の特異的遺伝子発現などの様々な細胞応答を調節していることが知られている。cAMPは、細胞によって様々な効果や機能を示す。
本開示においてcAMPの類似化合物には、cAMPアナログ、cGMP(環状グアノシン一リン酸、サイクリックGMP)、及びcGMPアナログが含まれる。
本開示において、cAMPアナログとは、cAMPと類似する構造を持ち、細胞内で分解されてそれぞれcAMPを供給するもの、又は、そのままでcAMPと同様な機能を有するものをいう。
cGMPは、cAMPと同様に、環状ヌクレオチドの1つであり、セカンドメッセンジャーとして知られている。
本開示において、cGMPアナログとは、cGMPと類似する構造を持ち、細胞内で分解されてそれぞれcGMPを供給するもの、又は、そのままでcGMPと同様な機能を有するものをいう。
cAMPアナログ及びcGMPアナログとしては、細胞内に導入可能な物質や細胞内に取り込まれ易い物質、又は細胞膜を透過しやすいものがより好ましい。
【0023】
cAMPアナログとしては、8-ブロモ-cAMPナトリウム塩(8-Br-cAMP、CAS番号76939-46-3)、6-モノブチリルcAMP(6MB-cAMP、CAS番号70253-67-7)、ジブチリルcAMPナトリウム(DBcAMP、CAS番号16980-89-5)、8-(4-クロロフェニルチオ)-cAMPナトリウム(8-pCPT-cAMP、CAS番号93882-12-3)、8-(4-クロロフェニルチオ)-2′-O-メチルcAMPナトリウム塩(8-CPT-2’-O-Me-cAMP、CAS番号510774-50-2)、2-クロロ-8メチルアミノcAMP(2-Cl-8-MA-cAMP、CAS番号96990-16-8)、N-[6-(N-メチルアントラニロイルアミノ)ヘキシル]-cAMP (6-MAH-cAMP、CAS番号723313-27-7)、8-(6-アミノヘキシル)アミノ-cAMP:8-AHA-cAMP(CAS番号39824-30-1)が挙げられる。
【0024】
cGMPアナログとしては、8-ブロモ-cGMP(8-Br-GMP、CAS番号51116-01-9)、ジブチリル-cGMP(BDcAMP、CAS番号51116-00-8)、8-(4-クロロフェニルチオ)グアノシン3′,5′-(環状)一リン酸ナトリウム(8-pCPT-cGMP、CAS番号51239-26-0)などが挙げられる。
【0025】
cAMP及びその類似化合物の中でも、細胞膜の透過性の高さ及び稀少細胞検査の効率化の点から、cAMPアナログ及びcGMPアナログが好ましく、cAMPアナログがより好ましい。
cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤としてcAMP及びその類似化合物を使用する場合、とりわけ、cAMP又はcGMPを使用する場合は、必要に応じてcAMP及びその類似化合物細胞内へ導入のするための試薬を併用してもよい。例えば、リポソーム等の脂質に包んだり、界面活性剤によって細胞膜に孔を開けたり、溶剤を使ったり、エンドサイトーシスを促す試薬を利用したり等の方法により、細胞膜を通過しやすくすることができる。これらの試薬は、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤に含めてもよく、あるいは、前記剤とは別に血液と混合してもよい。
cAMP又はその類似化合物を血液との混合に用いる場合、その最終濃度は、例えば、1pM~1Mであって、1nM~100mMが好ましい。
【0026】
[細胞内でcAMPの分解を抑制するもの]
cAMPは、細胞内において、ホスホジエステラーゼ(PDE)という酵素により分解される。ホスホジエステラーゼ(PDE)を使用することによって、cAMPが分解されず細胞内に蓄積され、細胞内のcAMPを上昇しやすくできる。したがって、細胞内でcAMPの分解を抑制するものとしては、一又は複数の実施形態において、ホスホジエステラーゼ阻害剤が挙げられる。
ホスホジエステラーゼ阻害剤としては、キサンチン類(キサンチン誘導体類)、又は血液成分の血小板のPDE3、PDE5に対する阻害剤、免疫細胞のPDE4、PDE7、PDE8に対する阻害剤が挙げられる。
ホスホジエステラーゼ阻害剤としては、稀少細胞検査の効率化の点から、血小板及び/又は免疫細胞のホスホジエステラーゼを阻害できるものが好ましい。例えば、血小板のPDE3、PDE5に対する阻害剤や、免疫細胞のPDE4、PDE7、PDE8に対する阻害剤が挙げられる。ホスホジエステラーゼを阻害するものを添加する場合、添加剤として好ましくは、免疫細胞のホスホジエステラーゼを阻害するものを少なくとも含む。より好ましくは、免疫細胞のホスホジエステラーゼを特異的に阻害するものを少なくとも含む。より好ましくは、血小板のホスホジエステラーゼを阻害するものと免疫細胞のホスホジエステラーゼを特異的に阻害するものを含むものが望ましい。
キサンチン類のホスホジエステラーゼ阻害剤としては、アミノフィリン(CAS番号317-34-0)、カフェイン(CAS番号58-08-2)、キサンチン(CAS番号69-89-6)、テオフィリン(CAS番号58-55-9)、コリンテオフィリン(CAS番号4499-40-5)テオフィリン-7-酢酸(CAS番号652-37-9)、8-ブロモテオフィリン(CAS番号10381-75-6)、テオブロミン(CAS番号83-67-0)、ジプロフィリン(CAS479-18-5)、エトフィリン(CAS番号519-37-9)など特異性が低いPDE阻害剤が挙げられる。
PDE3に特異的な阻害剤としては、シロスタゾール(CAS番号73963-72-1)、ミルリノン(CAS番号78415-72-2)、アムリノン(CAS番号60719-84-8)、ピモベンダン(CAS番号74150-27-9)、アナグレリド塩酸塩水和物(CAS番号823178-43-4)、Cilostamide(CAS番号68550-75-4)、Enoximone(CAS番号77671-31-9)、Trequinsin hydrochloride(CAS番号78416-81-6)が挙げられる。
PDE5に特異的な阻害剤としては、ザプリナスト(CAS番号37762-06-4)、シルデナフィル(CAS番号171599-83-0)、バルデナフィル塩酸塩(CAS番号224789-15-5)、タダラフィル(CAS番号171596-29-5)、MY-5445(CAS番号78351-75-4)、アバナフィル(CAS番号330784-47-9)ウデナフィル(CAS番号268203-93-6)、ギザデナフィル(CAS番号334827-98-4)、SI-461(CAS番号227619-96-7)、ジピリダモール(CAS番号58-32-2)、PDE5 inhibitor 42(CAS番号936449-28-4)が挙げられる。
PDE4に特異的な阻害剤としては、ロリプラム(CAS番号61413-54-5)、ロフルミラスト(CAS番号162401-32-3)、シロミラスト(CAS番号153259-65-5)、Ro-20-1724(CAS番号29925-17-5)、OPC6535(CAS番号145739-56-6)、Etazolate hydrochloride(CAS番号35838-58-5)、Denbufylline(CAS番号57076-71-8)ドキソフィリン(CAS番号69975-86-6)、アロフィリン(CAS番号136145-07-8)、アプレミラスト(CAS番号608141-41-9)、BAY 19-8004(CAS番号329306-27-6)、L 454560(CAS番号346629-30-9)が挙げられる。
PDE7又は8に特異的な阻害剤としては、イミダゾピリジン誘導体、ジヒドロプリン誘導体(特許文献2)、ピロール誘導体、ベンゾチオピラノイミダゾロン誘導体、複素環化合物、キナゾリンおよびピリドピリミジン誘導体、スピロ三環系誘導体、チアゾールおよびオキサヂアゾール誘導体、スルホンアミド誘導体、ヘテロビアリルスルホンアミド誘導体、ジヒドロイソキノリン誘導体、グアニン誘導体、ベンゾチアジアジン、ベンゾチエノチアジアジン誘導体があげられる。具体的には、BRL 50481(CAS433695-36-4)、ASB-16165 (CAS番号873541-45-8)、ジピリダモール(CAS番号58-32-2)が挙げられる。ジピリダモールはPDE5も阻害するため、血小板の凝集の抑制にも効果を発揮する。
上記ホスホジエステラーゼ阻害剤のうち、ジピリダモール及びテオフィリンを含む組成物としては、クエン酸塩、テオフィリン、アデノシン、ジピリダモールの組み合わせ(CTAD)が挙げられる。なお、CTAD入りの採血管は市販されているが、その用途は凝固系検査であって、稀少細胞検査用ではない。
細胞内でcAMPの分解を抑制するものを血液との混合に用いる場合、その最終濃度は、例えば、ジピリダモールの場合、例えば1pM~100mMであって、1nM~1mMが好ましい。テオフィリンの場合、例えば1pM~1Mであって、1μM~100mMが好ましい。
【0027】
[細胞内でcAMPの合成を促進するもの]
cAMP及びcGMPは、細胞内において、アデニル酸シクラーゼやグアニル酸シクラーゼを介してATP及びGTPから合成される。したがって、細胞内でcAMPの合成を促進するものとしては、ATPからcAMPを増加させるために必要な受容体(例えばアデノシン受容体やプロスタサイクリン受容体)を介して、又はADP受容体を阻害して、アデニル酸シクラーゼやグアニル酸シクラーゼを活性化、維持し、細胞内でcAMPの合成を促進させるものを用いてもよい。このような形態の細胞内でcAMPの合成を促進するものとしては、血小板や免疫細胞でcAMPを増加させる活性化剤が望ましく、例えば、アデノシン(CAS番号58-61-7)、2-クロロアデノシン(CAS番号146-77-0)、ベラプロストナトリウム(CAS番号88475-69-8)、プロスタサイクリン(CAS番号35121-78-9)、チクロピジン(CAS番号55142-85-3)、クロピドグレル(CAS番号113665-84-2)、フォルスコリン(CAS番号66575-29-9)、NKH 447(CAS番号138605-00-2)などが挙げられる。
なお、CTADは、アデノシンに加えてテオフィリン、ジピリダモール(ホスホジエステラーゼ阻害剤)を含むから、細胞内でcAMPの合成を促進するもの及び細胞内でcAMPの分解を抑制するもの、すなわちcAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤の組み合わせとして使用できる。
細胞内でcAMPの合成を促進するものを血液との混合に用いる場合、その最終濃度は、例えば、アデノシンの場合、例えば、1pM~1Mであって、1nM~100mMが好ましい。
【0028】
cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤は、1種類でもよく、複数種類の組み合わせであってもよい。例えば、cAMP又はその類似化合物と細胞内でcAMPの分解を抑制するものとの組み合わせであってもよく、cAMP又はその類似化合物と細胞内でcAMPの合成を促進するものの組み合わせであってもよく、細胞内でcAMPの分解を抑制するものと細胞内でcAMPの合成を促進するものの組み合わせであってもよい。さらにcAMP又はその類似化合物と、細胞内でcAMPの分解を抑制するものと、細胞内でcAMPの合成を促進するものとの組み合わせであってもよい。
具体的には、cAMP又はその類似化合物とCTADとの組み合わせなどが挙げられる。
【0029】
[採血血液の処理方法]
本開示に係る処理方法は、一態様において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤とを混合することを含む方法である。
「cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤」は、本開示において上記で説明するものを説明したように使用できる。
採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤との混合は、一又は複数の実施形態において、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤を含む採血管で採血することにより行うことができる。また、その他の一又は複数の実施形態において、採血後にcAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤を添加してもよい。cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤と混合する血液には、抗血液凝固剤などの後述する他の成分がすでに混合されていてもよい。
【0030】
本開示に係る処理方法を施した血液は、血小板及び白血球、希少細胞を安定化し、稀少細胞検査に対する保存安定性が向上し、稀少細胞検査を効率化しうる。この効果は、細胞を固定化しなくても発揮されうる。
本開示に係る処理方法を施した血液の稀少細胞検査までの保存期間は、一又は複数の実施形態において、4時間以上、6時間以上、12時間以上、1~7日間、1~5日間、又は1~3日間である。
本開示に係る処理方法を施した血液の稀少細胞検査までの保存は、一又は複数の実施形態において、常温又は低温があげられる。また低温で保存した場合は、希少細胞検査前に室温に戻してもよく、また29℃~40℃に温めてもよい。
本開示において、常温としては、例えば、15~28℃が挙げられる。本開示において、低温としては、例えば、10℃以下、1~10℃、2~8℃、2~5℃、又は4℃が挙げられる。稀少細胞検査を効率化の観点から、保存は低温が好ましい。
保存は、一又は複数の実施形態において、撹拌、転倒混和、静置にて行われることが挙げられる。保存は、一又は複数の実施形態において、輸送を含みうる。
【0031】
[抗血液凝固剤]
本開示に係る処理方法においては、一又は複数の実施形態において、稀少細胞検査の効率化の観点から、抗血液凝固剤又はそれを含む組成物が血液と混合されることが好ましい。
抗血液凝固剤が混合されることで、血漿成分や血小板や細胞が安定性し、フィルターによる稀少細胞の捕捉率が向上するなど、稀少細胞検査の効率化が図られると考えられる。
よって、本開示は、一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及び抗血液凝固剤とを混合することを含む方法である。
なお、本開示に係る処理方法において、採血した血液と複数の剤とが混合される場合、複数の剤は同時に混合されてもよく、順番に混合されてもよい。例えば、抗血液凝固剤を添加した後にcAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤を添加してもよく、又はcAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤を添加した後に抗血液凝固剤を添加しても良い。
【0032】
本開示に係る処理方法において使用される抗血液凝固剤としては、ヘパリン、ワーファリン、キレート剤が挙げられ、キレート剤としては、例えば、クエン酸、EDTA、等が挙げられる。抗血液凝固剤を添加する場合は好ましくはクエン酸が望ましい。
本開示において、「クエン酸」は、クエン酸塩を含む。また、本開示においてEDTAは、EDTA-2K及びEDTA-3Kを含みうる。
なお、CTADは、クエン酸及びテオフィリン、アデノシン、ジピリダモールを含むから、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及び抗血液凝固剤として使用できる。
【0033】
抗血液凝固剤を血液と混合する場合、その最終濃度は、例えば、クエン酸の場合、例えば、1nM~1Mであって、1mM~100mMが好ましい。
【0034】
[シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤]
本開示に係る処理方法においては、一又は複数の実施形態において、処理後の血液を低温保存した場合における稀少細胞検査の効率化の観点から、シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤又はそれを含む組成物が血液と混合されることが好ましい。
COX阻害剤が混合されることで、そのメカニズムの詳細は不明であるが、血液を低温保存したときの凝集や、血液中の炎症反応が抑制され、フィルターによる稀少細胞の捕捉率が向上するなど、稀少細胞検査の効率化が図られると考えられる。
よって、本開示は、一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及びCOX阻害剤とを混合することを含む方法である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、及びCOX阻害剤とを混合することを含む方法である。
【0035】
本開示に係る処理方法において使用されるCOX阻害剤としては、例えば非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が挙げられ、サリチル酸系、アリール酢酸誘導体、ピラノ酢酸系、プロピオン酸系、インドール酢酸系、オキシカム系、アリル酢酸系などがあげられ、具体的には、サリチル酸ナトリウム(CAS番号54-21-7)、アスピリン(CAS番号493-53-8)、ジクロフェナクナトリウム(CAS番号15307-79-6)、エトドラク(CAS番号41340-25-4)イブプロフェン(CAS番号15687-27-1)、ロキソプロフェンナトリウム二水和物(CAS番号226721-96-6)、オキサプロジン(CAS番号21256-18-8)、ナプロキセン(CAS番号22204-53-1)、メロキシカム(CAS番号71125-38-7)、ピロキシカム(CAS番号36322-90-4)、インドメタシン(CAS番号53-86-1)、SC560(CAS番号188817-13-2)、Sulindac(CAS番号38194-50-2)、レスベラトール(CAS番号501-36-0)、ニフルミン酸(CAS番号4394-00-7)、NS-398(CAS番号123653-11-2)ニメスリド(51803-78-2)、メクロフェナム酸ナトリウム塩(CAS番号6385-02-0)等が挙げられる。
COX阻害剤を血液と混合する場合、その最終濃度は、例えば、アスピリンの場合、例えば、1pM~100mMであって、10nM~10mMが好ましい。
【0036】
[グルコース]
本開示に係る処理方法においては、一又は複数の実施形態において、稀少細胞検査の効率化の観点から、グルコース又はそれを含む組成物が血液と混合されることが好ましい。
またグルコースが混合されることで、そのメカニズムの詳細は不明であるが、細胞内でグルコースからATPが合成され、cAMPの材料のATPの供給を増やすことで、cAMPを増やすことができると考えられる。また赤血球の変形能や形状が安定化し、また細胞の生存性が向上し、密度勾配分離や流路分離、フィルターによる稀少細胞の回収率や捕捉率が向上するなど、稀少細胞検査の効率化が図られると考えられる。より効果を得るためにクエン酸塩、リン酸、アデニン、イノシン、マンニトールやフルクトースなどを添加してもよい。
よって、本開示は、一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及びグルコースとを混合することを含む方法である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、及びグルコースとを混合することを含む方法である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、COX阻害剤、及びグルコースとを混合することを含む方法である。
【0037】
グルコースを含む組成物としては、クエン酸塩、リン酸塩、グルコース、アデニンの組み合わせ(CPDA)、マンニトール、グルコース、アデニンの組み合わせ(MDA)、マンニトール、グルコース、アデニン、イノシンの組み合わせ(MDAI)が挙げられる。
なお、CPDAは、クエン酸及びグルコースを含むから、抗血液凝固剤及びグルコースとして使用できる。
グルコースを血液と混合する場合、その最終濃度は、例えば、1nM~1Mであって、1μM~400mMが好ましい。
【0038】
[顆粒球エラスターゼ阻害剤]
本開示に係る処理方法においては、一又は複数の実施形態において、稀少細胞検査の効率化の観点から、顆粒球エラスターゼ阻害剤又はそれを含む組成物が血液と混合されることが好ましい。
顆粒球エラスターゼ阻害剤が混合されることで、そのメカニズムの詳細は不明であるが、顆粒球エラスターゼを阻害することで細胞へのダメージ、細胞の凝集が抑制され、フィルターによる稀少細胞の捕捉率が向上するなど、稀少細胞検査の効率化が図られると考えられる。
よって、本開示は、一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及び顆粒球エラスターゼ阻害剤とを混合することを含む方法である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、及び顆粒球エラスターゼ阻害剤とを混合することを含む方法である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、COX阻害剤、及び顆粒球エラスターゼ阻害剤とを混合することを含む方法である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、COX阻害剤、グルコース、及び顆粒球エラスターゼ阻害剤とを混合することを含む方法である。
【0039】
顆粒球エラスターゼ阻害剤としては、シベレスタット使用される顆粒球エラスターゼの阻害剤としては、シベレスタット(CAS番号127373-66-4)、DMP-777(CAS番号157341-41-8)、SSR 69071(CAS番号 344930-95-6)、Elastatinal(CAS番号51798-45-9)、N-(メトキシスクシニル)-Ala-Ala-Pro-Val-クロロメチルケトン(CAS番号65144-34-5)、ケラシアニンクロライド(CAS番号18719-76-1)、トリプシンインヒビター, 大豆由来(CAS番号9035-81-8)、3,4ジクロロイソクマリン(CAS番号51050-59-0)、GW 311616(CAS番号198062-54-3)、BAY678(CAS番号675103-36-3)、1-(3-メチルベンゾイル)-1H-インダゾール-3-カルボニトリル(CAS番号1448314-31-5)、MR-889(94149-41-4)、CE-1037(150493-09-7)、AE-3763(CAS番号291778-77-3)等が挙げられる。
顆粒球エラスターゼ阻害剤を血液と混合する場合、その最終濃度は、例えば、シベレスタットの場合、例えば1pM~1Mであって、10p~10mMが好ましい。
【0040】
[抗酸化剤]
本開示に係る処理方法においては、一又は複数の実施形態において、稀少細胞検査の効率化の観点から、抗酸化剤又はそれを含む組成物が血液と混合されることが好ましい。
抗酸化剤が混合されることで、そのメカニズムの詳細は不明であるが、細胞の生存性が向上し、フィルターによる稀少細胞の捕捉率が向上するなど、稀少細胞検査の効率化が図られると考えられる。
よって、本開示は、一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及び抗酸化剤とを混合することを含む方法である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、及び抗酸化剤とを混合することを含む方法である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、COX阻害剤、及び抗酸化剤とを混合することを含む方法である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、COX阻害剤、グルコース、及び抗酸化剤とを混合することを含む方法である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、採血した血液と、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、COX阻害剤、グルコース、顆粒球エラスターゼ阻害剤、及び抗酸化剤とを混合することを含む方法である。
【0041】
抗酸化剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸2-グルコシド、テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコビル、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Na、メラトニン、カフェイン酸が上げられる。
抗酸化剤としては、また、ミトコンドリアを標的とした抗酸化剤が挙げられ、具体的には、SkQ1、MitoQ、SS-31が挙げられる。
SkQ1は、10-(6’-プラストキノニル)デシルトリフェニルホスホニウムを含む塩としても知られ、とりわけ、神経防御特性に関して知られる。SkQ1はミトコンドリアにおける活性酸素種によって引き起こされる酸化ストレスを阻害することが示されてきている。
MitoQはミトキノール(還元型)およびミトキノン(酸化型)の混合物であり、これらは、(10-(2,5-ジヒドロキシ-3,4-ジメトキシ-6-メチルフェニル)デシル)トリフェニルホスホニウム及び(10-(4,5-ジメトキシ-2-メチル-3,6-ジオキソシクロヘキサ-1,4-ジエニル)デシル)トリフェニルホスホニウムとしても知られる。MitoQは、ユビキノール部分を含み、該部分は脂肪族炭素鎖を通じて親油性トリフェニルホスホニウムカチオンに共有結合する。MitoQの抗酸化反応は、主に、リン脂質二重層内で起こる。
SS-31(d-Arg-Dmt-Lys-Phe-NH2;Dmt=2’,6’-ジメチルチロシン)は、細胞内フリーラジカルを減少させるいくつかの細胞浸透性抗酸化ペプチドのファミリーのメンバーである。ファミリー中の他のメンバー同様、SS-31ペプチドは、ミトコンドリアを標的とし、そしてミトコンドリア浸透性遷移、膨張、およびチトクロームc放出に対してミトコンドリアを保護し、そしてt-ブチルヒドロペルオキシド誘導性アポトーシスを防止することが知られる。
抗酸化剤を血液と混合する場合、その最終濃度は、例えば、1pM~1Mであって、10p~10mMが好ましい。
【0042】
[その他の成分]
本開示に係る処理方法においては、一又は複数の実施形態において、稀少細胞検査が大きく損なわれない範囲で、上記の成分以外の成分が血液と混合されてもよい。例えば、抗体試薬、酵素試薬、界面活性剤、色素試薬、高分子試薬、化学試薬、阻害試薬、DNA及び/又はRNAプローブ、緩衝液、希釈液、粒子が挙げられる。
【0043】
[稀少細胞検査方法]
本開示は、その他の態様において、本開示係る処理方法を行った血液を使用して稀少細胞検査を行うことを含む、稀少細胞検査方法に関する。
稀少細胞検査の方法は特に限定されず、フィルター分離などサイズや粘弾性を用いる方法、流路や流体力学的な分離などのサイズ差や粘弾性を用いる方法、遠心分離方法、抗体などの免疫学的手法を用いる方法、染色を用いる方法、顕微鏡を用いる方法、又はこれらの組み合わせを含みうる。
【0044】
本態様の稀少細胞検査方法は、本開示に係る処理方法を施した血液試料を、稀少細胞検査を行うまで保存することを含んでもよい。
本開示に係る処理方法を施した血液の稀少細胞検査までの保存期間は、一又は複数の実施形態において、4時間以上、6時間以上、12時間以上、1~7日間、1~5日間、又は1~3日間である。
保存は、一又は複数の実施形態において、常温又は低温で行うことができるが、稀少細胞検査を効率化の観点から、保存は低温が好ましい。保存後、希少細胞検査前に血液を温めてもよく、常温に戻してから使用してもよく、29℃~40℃まで温めてから処理してもよい。
本開示において、常温としては、例えば、15~28℃が挙げられる。本開示において、低温としては、例えば、10℃以下、1~10℃、2~8℃、2~5℃、又は4℃が挙げられる。
保存は、一又は複数の実施形態において、静置及び/又は輸送にて行うことが挙げられる。
【0045】
[採血血液の処理方法(第2態様)]
本開示に係る処理方法は、その他の態様において、稀少細胞検査以外の血液成分検査にも使用してもよい。血液成分が安定化するからである。よって、本開示は、その他の態様において、採血血液の処理方法(第2態様)であって、採血した血液が、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤と混合されることを含む方法に関する。
cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、及び、その他の血液と混合する剤(抗血液凝固剤、COX阻害剤、グルコース、顆粒球エラスターゼ阻害剤、抗酸化剤、及びその他)については、上述した本開示に係る処理方法におけるそれらを参照できる。
本開示に係る採血血液の処理方法(第2態様)の一又は複数の実施形態としては、採血した血液が、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及びシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤と混合されることを含む方法が挙げられる。
本開示に係る採血血液の処理方法(第2態様)のその他の一又は複数の実施形態としては、採血した血液が、cAMP又はその類似化合物と混合されることを含む方法が挙げられる。
【0046】
[血液成分検査方法]
本開示は、さらにその他の態様において、その他の態様において、本開示に係る採血血液の処理方法(第2態様)を行った血液を使用して血液成分検査を行うことを含む、血液成分検査方法に関する。
血液成分検査の方法は特に限定されず、通常行われている検査目的に応じた方法が採用されうる。
【0047】
[採血管]
本開示は、その他の態様において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤を含む採血管に関する。
本開示において、採血管が「剤を含む」とは、採血により採血管内に導入される血液が剤と接触可能なように採血管内に剤が存在していることを意味しうる。
本開示に係る採血管は、稀少細胞検査という用途と、採血管に含まれる剤との組み合わせに技術的特徴があり、採血管の材料、大きさなどは特に限定されない。
【0048】
本開示係る採血管に含まれるcAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤としては、cAMP又はその類似化合物、細胞内でcAMPの分解を抑制するもの、及び、細胞内でcAMPの合成を促進するものが挙げられ、それぞれについては、上述のとおりである。また、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤の含有量としては、所定の採血量が導入された場合に、上記最終濃度となる量が挙げられる。
【0049】
本開示係る採血管に含まれるcAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤は、1種類でもよく、複数種類の組み合わせであってもよい。例えば、cAMP又はその類似化合物と細胞内でcAMPの分解を抑制するものとの組み合わせであってもよく、cAMP又はその類似化合物と細胞内でcAMPの合成を促進するものの組み合わせであってもよく、細胞内でcAMPの分解を抑制するものと細胞内でcAMPの合成を促進するものの組み合わせであってもよく、cAMP又はその類似化合物と細胞内でcAMPの分解を抑制するものとの組み合わせであってもよく、cAMP又はその類似化合物と細胞内でcAMPの合成を促進するものと細胞内でcAMPの分解を抑制するものの組み合わせであってもよい。
具体的には、cAMP又はその類似化合物とCTADとの組み合わせなどが挙げられる。
【0050】
本開示係る採血管は、稀少細胞の捕捉率の向上の観点から、さらに、抗血液凝固剤又はそれを含む組成物を含んでいてもよい。抗血液凝固剤については、上述のとおりであり、抗血液凝固剤の含有量は、所定の採血量が導入された場合に、上記最終濃度となる量が挙げられる。
よって、本開示は、一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及び抗血液凝固剤を含む採血管である。
【0051】
本開示係る採血管は、稀少細胞の捕捉率の向上の観点から、さらに、COX阻害剤又はそれを含む組成物を含んでいてもよい。COX阻害剤については、上述のとおりであり、COX阻害剤の含有量は、所定の採血量が導入された場合に、上記最終濃度となる量が挙げられる。
よって、本開示は、一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及びCOX阻害剤を含む採血管である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、及びCOX阻害剤を含む採血管である。
【0052】
本開示係る採血管は、稀少細胞の捕捉率の向上の観点から、さらに、グルコース又はそれを含む組成物を含んでいてもよい。グルコース又はそれを含む組成物については、上述のとおりであり、グルコース剤の含有量は、所定の採血量が導入された場合に、上記最終濃度となる量が挙げられる。
よって、本開示は、一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及びグルコースを含む採血管である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、及びグルコースを含む採血管である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、COX阻害剤、及びグルコースを含む採血管である。
【0053】
本開示係る採血管は、稀少細胞の捕捉率の向上の観点から、さらに、顆粒球エラスターゼ阻害剤又はそれを含む組成物を含んでいてもよい。顆粒球エラスターゼ阻害剤又はそれを含む組成物については、上述のとおりであり、顆粒球エラスターゼ阻害剤の含有量は、所定の採血量が導入された場合に、上記最終濃度となる量が挙げられる。
よって、本開示は、一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及び顆粒球エラスターゼ阻害剤を含む採血管である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、及び顆粒球エラスターゼ阻害剤を含む採血管である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、COX阻害剤、及び顆粒球エラスターゼ阻害剤を含む採血管である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、COX阻害剤、グルコース、及び顆粒球エラスターゼ阻害剤を含む採血管である。
【0054】
本開示係る採血管は、稀少細胞検査の効率化の観点から、抗酸化剤又はそれを含む組成物を含んでいてもよい。抗酸化剤又はそれを含む組成物については、上述のとおりであり、抗酸化剤の含有量は、所定の採血量が導入された場合に、上記最終濃度となる量が挙げられる。
よって、本開示は、一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及び抗酸化剤を含む採血管である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、及び抗酸化剤を含む採血管である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、COX阻害剤、及び抗酸化剤を含む採血管である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、COX阻害剤、グルコース、及び抗酸化剤を含む採血管である。
また、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、抗血液凝固剤、COX阻害剤、グルコース、顆粒球エラスターゼ阻害剤、及び抗酸化剤を含む採血管である。
【0055】
本開示係る採血管は、一又は複数の実施形態において、稀少細胞検査が大きく損なわれない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。
【0056】
[採血管(第2態様)]
本開示に係る採血管は、その他の態様において、稀少細胞検査以外の血液成分検査にも使用してもよい。血液成分が安定化するからである。よって、本開示は、その他の態様において、採血管(第2態様)であって、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤を含む採血管に関する。本態様の採血管によれば、cAMP又はcAMP類似化合物により血液が安定化しうる。
cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤、及び、その他の血液と混合する剤(抗血液凝固剤、COX阻害剤、グルコース、顆粒球エラスターゼ阻害剤、抗酸化剤、及びその他)については、上述した本開示に係る採血管におけるそれらを参照できる。
本開示に係る採血管(第2態様)の一又は複数の実施形態としては、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及びシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤を含む採血管が挙げられる。
本開示に係る採血管(第2態様)のその他の一又は複数の実施形態としては、cAMP又はその類似化合物を含む採血管が挙げられる。
本開示に係る採血管(第2態様)は、採血パックの形態であってもよい。
【0057】
本開示はさらに以下の限定されない一又は複数の実施形態に関する。
〔1〕 血液中の稀少細胞検査に使用するための採血血液の処理方法であって、
採血した血液が、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤と混合されることを含む、方法。
〔2〕 cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤が、cAMP及びその類似化合物、細胞内でcAMPの分解を抑制するもの、細胞内のcAMPの合成を促進するもの、及びこれらの組み合わせ、並びに、これらを含む組成物からなる群から選択される、〔1〕に記載の方法。
〔3〕 採血した血液が、抗血液凝固剤と混合されることを含む、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕 採血した血液が、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤の細胞内への導入促進剤と混合されることを含む、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕 採血した血液が、シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤と混合されることを含む、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕 採血した血液が、グルコース、顆粒球エラスターゼ阻害剤、抗酸化剤、及びこれらの組み合わせ、並びに、これらを含む組成物からなる群から選択されるものと混合されることを含む、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕 混合後の採血血液を、10℃以下で保存することを含む、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕 混合後の採血血液を、4時間以上保存することを含む、〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕 血液中の稀少細胞検査する方法であって、
検査対象血液試料として〔1〕から〔8〕のいずれかの方法で処理した血液を使用することを含む、方法。
〔10〕 血液中の稀少細胞検査に使用するための採血管であって、
cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤を含む、採血管。
〔11〕 前記cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤が、cAMP及びその類似化合物、細胞内でcAMPの分解を抑制するもの、細胞内のcAMPの合成を促進するもの、及びこれらの組み合わせ、並びに、これらを含む組成物からなる群から選択される、〔10〕に記載の採血管。
〔12〕 さらに、抗血液凝固剤、シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤、グルコース、顆粒球エラスターゼ阻害剤、抗酸化剤、及びこれらの組み合わせ、並びに、これらを含む組成物からなる群から選択されるものを含む、〔10〕又は〔11〕に記載の採血管。
〔13〕 採血血液の処理方法であって、
採血した血液が、cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及びシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤と混合されることを含む、方法。
〔14〕 採血血液の処理方法であって、
採血した血液が、cAMP及びその類似化合物と混合されることを含む、方法。
〔15〕 cAMP又はその類似化合物の細胞内濃度を上昇させる剤及びシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤を含む、採血管。
〔16〕 cAMP又はその類似化合物を含む、採血管。
【実施例】
【0058】
以下に実施例及び比較例を用いて本開示をさらに説明するが、これらは例示的なものであって、本開示は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0059】
ヒトから採血した全血とがん細胞とを用いてCTC含有血液のモデル試料を調製し、その後フィルターで前記試料中のがん細胞を捕捉し、顕微鏡でフィルター上のCTCを計測して捕捉率を算出した。下記実験1-4におけるCTCの分離は、下記フィルターを用いて下記フィルター条件にて、特開2016-180753に開示される方法に準拠して行った。CTCのモデル細胞としては、小型のがん細胞試料としてSW620を、変形能の高いがん細胞試料としてSNU1を使用した。なお保存血においても適宜血液量をコントロールすることで、高い捕捉率がえられるようになる。孔面積あたり血液換算で適切な容量を設定すればよい。
【0060】
フィルター
CTC(がん細胞)の捕捉に用いたフィルターは下記のものを使用した。
孔の形状:スリット
短径(μm)x長径(μm)=6.5x88
孔面積(μm2)=572
孔の中心間のピッチ(短径側x長径側)(μm)=14x100
孔密度(個/mm2)=714
開口率(%)=41
膜厚(μm)=5
材質:ニッケル
ろ過面積(mm2)=20
総孔数=14025
【0061】
フィルター条件
1.ろ過速度100μl/分で血液試料をチューブポンプからフィルターに送液。
2.1回目の洗浄 EDTA含有PBS(―)液 2ml 100μl/分
3.2回目の洗浄 EDTA含有PBS(―)液 2ml1000μl/分
4.3回目の洗浄 EDTA含有PBS(―)液 2ml1000μl/分
5.洗浄後にフィルター面を顕微鏡で観察する。
【0062】
小型のがん細胞試料の調製
[SW620試料]
常法に従い、シャーレに培養した接着細胞であるヒト結腸癌(細胞株名 SW620)培地を除去後、PBS(-)で添加し洗浄して培地成分を除去後、トリプシン(インビトロジェン社)処理(37℃、3分)を行った。これに血清入り培地を加えて1.5mlエッペンチューブ回収した。これを小型遠心機で300 x g、常温(24℃)、3分間遠心し、上清を除去した。これを再度血清入り培地に懸濁して回収した。調製したがん細胞懸濁液を培養液から回収した後、小型遠心機で300xg、常温(24℃)、3分間遠心した。上清を除去し、PBS(-)を添加して細胞を懸濁する。このPBS(-)に懸濁した細胞を、染色試薬CellTracker(インビトロジェン)を用いて蛍光染色した。CellTrackerは、10mMとなるようにDMSOに溶解させた後、反応時の濃度が最終濃度0.5~0.25μMになるように細胞懸濁液に添加した。そして37℃、30分反応後、細胞懸濁液を遠心して上清の除去し、再度PBSに懸濁した。この操作を繰り返して、未反応液の除去と細胞を洗浄した。その後細胞の懸濁液の濃度を任意の濃度(103個/mL~5x104個/mL程度)になるように培地またはPBS(-)を用いて懸濁した。
【0063】
変形能の高いがん細胞試料の調製
[SNU1試料]
浮遊系であるヒト胃癌細胞株(細胞株名 SNU1)は、トリプシン処理を行うことなく、1.5mlのエッペンチューブに回収した。回収したがん細胞懸濁液を用いた以外は、SW620試料の調製と同様に、蛍光染色を行って調製した。なお、SNU1の細胞径は16.8μmであるが、SW620に比べ、直径6.5μmの孔に対して容易に抜けやすかった。
【0064】
採血管
採血管として、下記の市販採血管を使用した。
CTAD採血管:クエン酸塩、テオフィリン、アデノシン、及びジピリダモールが封入された採血管(日本ベクトン・デッキンソン社製)
クエン酸塩採血管:終濃度0.32%となるクエン酸ナトリウムが封入された採血管(テルモ社製)
EDTA2K採血管:(テルモ社製)
ヘパリンNa採血管:(テルモ社製)
ACD採血管:(日本ベクトン・デッキンソン社製)
【0065】
採血管に添加する試薬
DBcAMP:(ジブチルcAMP、東京化成社製、100mM)(cAMPアナログ)
8-pCPT-cAMP:(8-(4-クロロフェニルチオ)-cAMP、和光純薬社製、50mM)(cAMPアナログ)
CFC:(溶媒は、エタノール:水=2:1)
カフェイン(和光純薬社製、101mM)(キサンチン類のPED阻害剤)
フォルスコリン(東京化成社製、24.8mM)(cAMP合成の促進)
シロスタゾール(和光純薬社製、13.2mM)(PDE3特異的阻害剤)
R:(ロリプラム、東京化成社製、20mM in EtOH)(PDE4特異的阻害剤)
D:(ジピリダモール、和光純薬、19.8mM、in EtOH)(PDE5.7,8特異的阻害剤)
ASP(1):(アスピリン、和光純薬社製、1.1 M in EtOH)(COX阻害剤)
ASP(2):(アスピリン、和光純薬社製、111mM in EtOH)(COX阻害剤)
CPDA:
クエン酸ナトリウム水和物(ナカライテスク社製、109mM)
クエン酸一水和物(ナカライテスク社製、20mM)
リン酸二水素ナトリウム(ナカライテスク社製、2mM)
D-(+)-グルコース(ナカライテスク社製、188mM)
アデニン(ナカライテスク社製、2mM)
MADI:
D-マンニトール(ナカライテスク社製、197mM)
アデニン(和光純薬社製、2.95mM)
D-(+)-グルコース(ナカライテスク社製、100mM)
イノシン-5-1リン酸二ナトリウム塩(和光純薬社製、40mM)
Silvestat:(シグマアルドリッチ社製、約23mM)(顆粒球エラスターゼ阻害剤)
SS-31:(製品名HY-P125、Medchemexpress社製、10mM in DMSO)(抗酸化剤)
NaCl(1):(1.8% in Water)
NaCl(2):(0.9% in Water)
【0066】
[実験1]
がん細胞の経時劣化を考慮せずにすむよう、常温で24又は48時間保存した全血に対し、フィルターに送液して分離する当日に調製したがん細胞試料を加えてモデル試料を調製した。これにより新鮮血を常温で24又は48時間保存することによる血液の変化の影響を評価した。
採血管(市販採血管)にヒトから採血をし、全血9~10mlを15ml遠沈管に分注し、モデル試料の調製に利用した。分注した血液に下記表1に示す試薬を添加したものを用いて、常温で24又は48時間保存し、その後、血液を処理する前に調製したがん細胞(SNU1及びSW620)を300個程度添加してモデル試料を調製した(実施例1~3、比較例1~5)。
調製したモデル試料のうち8ml相当(モデル試料の調製における試薬添加は合計約10mlとなるように血液と試薬を添加し、濾過時に濾過量を調整した。例えば、採血管から遠沈管に分注した9mlの全血に合計1mlの試薬の添加剤を入れたモデル試料の場合、8.9mlを使用する。又は血液10mlに合計200μLの試薬の添加剤を入れたモデル試料の場合、8.2mlを使用する。)を用いて上記条件でがん細胞をフィルター捕捉して捕捉率を算出した。その結果を下記表1に示す。
【0067】
【0068】
採血した血液を常温で長時間保存すると、例えば、赤血球の変形能の低下、白血球の死細胞化による凝集物の発生、及び、血小板等の凝集の発生などにより、血液が、フィルターに詰まりやすい状態になる。新鮮血ではSNU-1やSW620を添加した血液試料をフィルターに通液させた後、フィルター上には90%以上のSNU-1やSW620が残るが、このような保存後の血液試料では、フィルター上下の差圧が高まりやすい状態となり、その結果、がん細胞が抜け易くなり、直前に調製したがん細胞であっても捕捉率が下がる。この現象は、従来の抗血液凝固剤を使用した比較例1~5の結果からも認められる。
これに対し、DBcAMPを添加した実施例1、及び、CTAD採血管を用いた実施例2,3では、比較例1~5と比べて捕捉率が向上した。DBcAMPは、細胞内で分解されてcAMPを供給し、またDBcAMP自体もホスホジエステラーゼも阻害するとの報告もある。すなわち、血球の細胞内cAMPが上昇する環境になると、新鮮血の常温保存による血液成分の変化、例えば血球の変化に起因する(すなわち、分離対象のCTCの変化に起因しない)捕捉率の低下を抑制できることが確認された。同様に、CTADの添加でも血小板だけでなく、白血球等の細胞内のcAMP上昇が作用していると考えられる。CTAD採血管が稀少細胞検査に好適に用いられることが見出された。特に、血液を長時間(例えば、4時間以上又は24時間以上)保存した後に稀少細胞検査を実施した場合に、CTAD採血管を使用した効果が顕著に認められる。血液成分の変化の抑制は、特に白血球を測定する場合コールター式血球計数機、例えばSB1440による測定による、白血球の裸核化されたヒストグラムが安定していることを確認することができる。
ATPを供給するMADIを添加した実施例3は、添加していない実施例2に比べ、48時間保存後の捕捉率が向上した。
なお、SNU1及びSW620はフィルターでの捕捉が難しいがん細胞であるから、これらのがん細胞が捕捉できれば、さまざまながん細胞が捕捉できると期待できる。
【0069】
[実験2]
全血にがん細胞を加えた後に常温で24又は48時間保存してモデル試料を調製し、フィルターを用いて分離し、捕捉率を評価した。
実験2では、上記実験1とは異なり、常温24又は48時間保存による血液成分の変化に加え、常温24又は48時間保存によるがん細胞の変化が与える捕捉率への影響を評価した。
採血管(クエン酸塩採血管又はCTAD採血管)にヒトから採血(計10ml)をして15ml遠沈管に分注した。分注した血液に下記表2に示す試薬を添加したものを用いて、調製したがん細胞(SNU1及びSW620)を300個程度添加した後、常温で24又は48時間保存しモデル試料を調製した(実施例4~6、比較例6~7)。これによりがん細胞を含む新鮮血を保存することによる影響を評価した。
調製したモデル試料のうち8ml相当を用いて上記条件でがん細胞をフィルター捕捉して捕捉率を算出した。その結果を下記表2に示す。
【0070】
【0071】
薬剤を添加しない比較例6に比べ、DBcAMPを添加した実施例4及び5、並びに、CTAD採血管を用いた実施例6では捕捉率が向上した。すなわち、細胞内でcAMPが増加する条件下での捕捉率の向上が認められた。24h後においては、比較例7と実施例4と実施例5との比較において、BDcAMPの添加でSNU-1の捕捉率が向上し、さらにBDcAMPとCPDAとを両方添加することでSNU-1の捕捉率が約2倍の向上が得られた。48h後においては、フィルター濾過直前に調製した劣化の少ないがん細胞を添加する保存血液試料(表1 実施例2)に比べて、血液にがん細胞を添加して保存後の保存血液試料(表2 実施例6)にがん細胞の捕捉率の捕捉低下が観察された。捕捉率低下の詳しいメカニズムは分からないが、血液にがん細胞を含有した状態で保存した場合、がん細胞が経時変化して捕捉率が下がったと考えられる。実施例5において、細胞内のcAMP及びcAMPアナログが増加する条件下でCPDAを添加したものは、48h時間後のがん細胞の捕捉率が比較例7と比較して向上した。
また、CPDAのみを添加した比較例7は、比較例6と同様の捕捉率であった。
【0072】
[実験3]
がん細胞の経時劣化を考慮せずにすむよう、4℃で72時間保存した全血に対し、フィルター分離する当日に調製したがん細胞試料を加えてモデル試料を調製した。これにより新鮮血を4℃で72時間保存することによる影響を評価した。
CTAD採血管にヒトから採血(計10ml)をし、15ml遠沈管に分注した。分注した血液に、下記表3に示す試薬を添加したものを用いて4℃で72時間保存し、その後、血液を処理する前に常温に戻し、調製したがん細胞(SNU1及びSW620)を300個程度添加してモデル試料を調製した(実施例7~8)。
調製したモデル試料のうち8mlを用いて上記条件でがん細胞をフィルター捕捉して捕捉率を算出した。その結果を下記表3に示す。
【0073】
【0074】
表3のとおり、アスピリン(ASP)を使用した実施例8では、ASPを添加しない実施例7に比べSNU1及びSW620の捕捉率はともに向上した。また、目視観察において、実施例7ではフィルター上に大きな凝集物の発生が観察されたが、実施例8では大きな凝集物の抑制が観察された。
なお、CTAD採血管(表1実施例2)の室温24時間保存に比べて、冷蔵で24時間保存した後室温に戻してがん細胞をフィルター捕捉すると、SNU-1の捕捉率は72%から32%、SW620の捕捉率は92%から54%に低下した。
詳しいメカニズムは不明だが、低温保存によって血液に対して影響を与えるが、CTADにさらにASPを添加することにより、低温保存時の血液の変化の影響が抑制され、室温に戻して処理した後も高い捕捉率が得られたと考えられる。
【0075】
[実験4]
実験4では、上記実験3とは異なり、4℃で72時間保存による血液成分の変化に加え、4℃で72時間保存によるがん細胞の変化が与える捕捉率への影響を評価した。
採血管(クエン酸塩採血管又はCTAD採血管)にヒトから採血(計10ml)をし、15ml遠沈管に分注した。分注した血液9mlに下記表4に示す試薬を添加したものを用いて、調製したがん細胞(SNU1及びSW620)を300個程度添加した後、4℃で72時間保存しモデル試料を調製した(実施例9~18、比較例8)。
常温に戻した後、調製したモデル試料のうち9mlを用いて上記条件でがん細胞をフィルター捕捉して捕捉率を算出した。その結果を下記表4及び
図1に示す。
【0076】
【0077】
表4及び
図1のとおり、血液の安定化剤、ATP供給剤/栄養化剤として使用されるCPDAを添加することにより、捕捉率の向上がみとめられた(実施例9vs10)。また、好中球エラスターゼ阻害剤シルベレスタットを添加することにより捕捉率の向上がみとめられた(実施例10vs11)。さらに、抗酸化剤SS31を添加することにより、接着して増殖するSW620の捕捉率の向上が観察された(実施例11vs12)。なお、実施例12と13とを比較すると、捕捉率が向上するとともに、DBcAMPを添加した実施例13ではフィルター後のフィルター表面に凝集物が少なく、きれいな状態であり解析が容易であった。
比較例8と実施例14-18とを比較すると、血中の稀少細胞検査において、細胞内cAMPが上昇する剤の添加が重要であることが確認できる。またフィルターからの回収したサンプルについては、比較例8の組成では血液細胞の小さな凝集が多く観察されたが、実施例14の組成で小さな凝集が抑制されていた。またホスホジエステラーゼの阻害剤の添加では、血小板のホスホジエステラーゼの特異的阻害剤に、さらに免疫細胞に特異的なホスホジエステラーゼを阻害するものを添加することでさらに捕捉率の顕著に向上したことが確認できる(実施例16、実施例17、実施例18)。
【0078】
[実験5]
[稀少細胞中のRNA解析]
採血管(CTAD採血管)にヒトから採血をし、全血9mlを15ml遠沈管に分注し、モデル試料の調製に利用した。分注した血液9mlに前記実施例11及び12と同様の添加試薬を混合し、前述のSNU-1やSW620と同様に事前に染色して調製したがん細胞(SKBR3)を血液に添加した後、4℃で72時間保存しモデル試料を調製した。モデル試料9mlをろ過面積(フィルター面積)20mm2から28mm2のフィルターに変えて濾過し洗浄した。濾過及び洗浄ともに1000μL/minで行った。濾過、洗浄後に市販の溶血剤を送液した。10min反応させフィルター上に残った赤血球を溶血後、再度PBS(―)液を送液し洗浄した。SKBR3を逆流によってフィルター上から回収し、回収したサンプルの一部を用いて、顕微鏡で計数して回収された細胞数を推定した。SKBR3のフィルターからの逆流による回収率はどちらも71%であった。残りの回収したサンプルをRNA精製キットのRNeasy Mini Kit(Cat No./ID: 74104/キアゲン)で精製後、ABI7500を用い、One-Step qRT-PCR Kit w/ROX(製品番号:11745100/サーモフィッシャー)とERBB2の市販のプローブ(Assay ID:Hs01001580_m1/サーモフィッシャー)を用いて、SKBR3のERBB2のmRNAについてRT―PCR解析を行った。
解析では2種類の参照を準備した。培養後のシャーレから常法に従いSKBR3をはがし、1時間以内に任意の数になるよう調整処理したもの(参照A)と、RPMI培地単独(参照B)。これらの参照を用いて上述と同様にRNAを抽出し、SKBR3のERBB2のmRNAについてRT_PCR解析を行った。
RT―PCRは、RNAを鋳型としてDNAを合成後、PCRで1サイクルごとにDNA が2倍、2倍と指数関数的に増幅される。CT値とはPCR 増幅産物がある一定量に達したときのサイクル数のことを示す。早いサイクル、つまりCT値が小さいものほど、RT-PCR開始時にサンプル中のmRNAが多く存在すること意味する。また同細胞数において、培養直後の参照AのCT値に近いほど、回収サンプル中のSKBR3内にはmRNAが多く残っていることを示す。
RT_PCRの解析の結果、参照B(RPMI培地のみ)ではCT値は得られず、ERBB2のmRNAは検出されなかった。参照AではSKBR3が460個程度でCT値=25.22であった。
実施例11及び12と同様に調製された血液から回収されたSKBR3のうち、460個程度のSKBR3で、実施例11がCT値=25.98、実施例12がCT値=26.56であった。また血液のみをろ過して回収したサンプル(SKBR3無添加)については、CT値=35.77で、ERBB2のmRNAが血液にも少量ながら存在することが分かった。
SKBR3を血液に添加した回収サンプルは、SKBR3無添加の血液の回収サンプルに比べ、明らかにCT値が小さく、SKBR3のERBB2のmRNAを検出できた。4℃で72h保存後であっても、SKBR3内のERBB2のmRNAが残存しており検出可能であることが示された。
【0079】
[稀少細胞中のFISH解析]
採血管(クエン酸塩採血管)にヒトから採血をし、全血9mlを15ml遠沈管に分注し、モデル試料の調製に利用した。分注した血液9mlに前記実施例14と同様の添加試薬を混合し、事前に染色しなかったこと以外は前述のSNU-1やSW620と同様に調製したがん細胞(SKBR3)を血液に数千個程度添加した後、4℃で72時間保存しモデル試料を調製した。モデル試料9mlを、前記フィルター条件と同様にして濾過し洗浄した。濾過及び洗浄ともに1000μL/minで行った。濾過、洗浄後に市販の溶血剤を送液した。10min反応させ溶血後、再度PBS(―)液を送液し洗浄した。フィルター上のSKBR3(乳がん細胞)を逆流によって回収し、スライドに塗布した。DNA-FISHの場合はカルノア液でスライドに固定した。RNA-FISHの場合はスライドに付着させた後、細胞を4%ホルムアルデヒド が入ったPBS(―)で固定した。
DNA-FISHは、前記同様にモデル試料を処理後、回収したサンプルについて、その後DNA-FISHの常法に従い、zytolightspecerbb2/cen17plobe (ZYV社)を用いて染色し、蛍光顕微鏡によってERBB2の遺伝子の増幅を観察できた(
図2左)。RNA-FISHは、ViewRNA Cell Assay Kit(TFA-QVC0001/ベリタス)を用い、そのプロトコルと試薬組成に従い、PAN-KRT(VA1-19147/affymetrix)を用いてサイトケラチンのmRNAの染色を確認できた(
図2右)。本処方によって、72h4℃保存後のサンプルにおいて遺伝子の解析ができる。