(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】DC-DCコンバータ
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20220308BHJP
【FI】
H02M3/28 Q
H02M3/28 H
(21)【出願番号】P 2018119551
(22)【出願日】2018-06-25
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000217491
【氏名又は名称】ダイヤゼブラ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】中原 将吾
(72)【発明者】
【氏名】中山 大禎
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-85785(JP,A)
【文献】国際公開第2012/144249(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
寄生容量であるキャパシタ、または、並列接続された外付けのキャパシタを含む、4つのスイッチング素子を有する第1フルブリッジ回路と、
寄生容量であるキャパシタ、または、並列接続された外付けのキャパシタを含む、4つのスイッチング素子を有する第2フルブリッジ回路と、
前記第1フルブリッジ回路に接続された第1巻線と、前記第2フルブリッジ回路に接続され、前記第1巻線と磁気結合する第2巻線とを有するトランスと、
前記第1巻線または前記第2巻線に直列接続されたインダクタンス成分と、
前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路それぞれの各スイッチング素子をソフトスイッチング制御する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路それぞれの電圧出力期間を調整する出力角変調モードと、スイッチング周波数を調整する周波数変調モードとで実行可能であり、出力すべき目標電力に応じて、前記出力角変調モード、または、前記周波数変調モード、を実行する、
DC-DCコンバータ。
【請求項2】
請求項1に記載のDC-DCコンバータであって、
スイッチング素子のターンオンとターンオフとの切り替えタイミングで、前記トランスおよび前記インダクタンス成分の等価インダクタに流れるインダクタ電流は、閾値電流以上である、
DC-DCコンバータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のDC-DCコンバータであって、
前記制御回路は、
前記目標電力が閾値電力未満である場合には、前記出力角変調モードを実行し、
前記目標電力が前記閾値電力以上である場合には、前記周波数変調モードを実行する、
DC-DCコンバータ。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のDC-DCコンバータであって、
前記制御回路は、
前記出力角変調モードと、前記周波数変調モードと、前記第1巻線側の電圧および前記第2巻線側の電圧の位相を変更する位相制御モードと、で実行可能であり、出力すべき目標電力に応じて、前記出力角変調モード、前記周波数変調モード、または、前記位相制御モード、を実行する、
DC-DCコンバータ。
【請求項5】
請求項4に記載のDC-DCコンバータであって、
前記制御回路は、
前記目標電力が第1閾値電力未満である場合には、前記出力角変調モードを実行し、
前記目標電力が前記第1閾値電力以上である場合には、前記周波数変調モードを実行し、
前記目標電力が、前記第1閾値電力より大きい第2閾値電力以上である場合には、前記位相制御モードを実行する、
DC-DCコンバータ。
【請求項6】
寄生容量であるキャパシタ、または、並列接続された外付けのキャパシタを含む、4つのスイッチング素子を有する第1フルブリッジ回路と、
寄生容量であるキャパシタ、または、並列接続された外付けのキャパシタを含む、4つのスイッチング素子を有する第2フルブリッジ回路と、
前記第1フルブリッジ回路に接続された第1巻線と、前記第2フルブリッジ回路に接続され、前記第1巻線と磁気結合する第2巻線とを有するトランスと、
前記第1巻線または前記第2巻線に直列接続されたインダクタンス成分と、
前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路それぞれの各スイッチング素子をソフトスイッチング制御する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路それぞれの電圧出力期間を調整する出力角変調モード、または、前記第1巻線側の電圧および前記第2巻線側の電圧の位相を変更する位相制御モード、を実行可能であり、出力すべき目標電力に応じて、前記出力角変調モード、または、前記位相制御モード、を実行する、
DC-DCコンバータ。
【請求項7】
請求項6に記載のDC-DCコンバータであって、
スイッチング素子のターンオンとターンオフとの切り替えタイミングで、前記トランスおよび前記インダクタンス成分の等価インダクタに流れるインダクタ電流は、閾値電流以上である、
DC-DCコンバータ。
【請求項8】
請求項
2または請求項7に記載のDC-DCコンバータであって、
前記閾値電流は、前記等価インダクタに蓄積されるエネルギーが、2つの前記キャパシタに蓄積されるエネルギー以上となるように、設定されている、
DC-DCコンバータ。
【請求項9】
請求項8に記載のDC-DCコンバータであって、
前記閾値電流をI
ref、前記第1フルブリッジ回路の入力電圧をVx、前記キャパシタのキャパシタンスをC、前記等価インダクタのインダクタンスをL、補正係数をαで表した場合、
I
ref=α・Vx√(2C/L)、
を満たす、DC-DCコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトスイッチングを行うDC-DCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
DC-DCコンバータなどの電力変換装置では、スイッチング損失を低減して、高効率で電力伝送を行うため、また、ノイズを低減して、スイッチングサージを抑えて、耐圧の低い安価な素子を用いるために、ゼロボルトスイッチング(以下、ZVSと言う)が用いられている。特許文献1には、1次側直流電圧と2次側直流電圧の電圧差が大きい場合に、ZVS動作を成立させて、高効率な電力伝送を可能としたDC-DCコンバータが開示されている。特許文献1に記載のDC-DCコンバータでは、1次側および2次側それぞれで電力を検出し、それら2つの電力差が最小となるように、1次側スイッチのデューティと2次側スイッチのデューティとを増減させている。これにより、ZVS動作が成立するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、ZVS動作を行うために、1次側および2次側それぞれで電力の検出、および、スイッチング制御を行う必要がある。このため、回路構成、および、その制御が複雑となり、生産性の向上およびコストダウンを図ることが難しい。
【0005】
そこで、本発明は、簡易な制御でZVS動作を行い、スイッチング損失を低減するDC-DCコンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本願の第1発明のDC-DCコンバータは、寄生容量であるキャパシタ、または、並列接続された外付けのキャパシタを含む、4つのスイッチング素子を有する第1フルブリッジ回路と、寄生容量であるキャパシタ、または、並列接続された外付けのキャパシタを含む、4つのスイッチング素子を有する第2フルブリッジ回路と、前記第1フルブリッジ回路に接続された第1巻線と、前記第2フルブリッジ回路に接続され、前記第1巻線と磁気結合する第2巻線とを有するトランスと、前記第1巻線または前記第2巻線に直列接続されたインダクタンス成分と、前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路それぞれの各スイッチング素子をソフトスイッチング制御する制御回路と、を備え、前記制御回路は、前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路それぞれの電圧出力期間を調整する出力角変調モードと、スイッチング周波数を調整する周波数変調モードとで実行可能であり、出力すべき目標電力に応じて、前記出力角変調モード、または、前記周波数変調モード、を実行する。
【0007】
本願の第2発明は、第1発明のDC-DCコンバータであって、スイッチング素子のターンオンとターンオフとの切り替えタイミングで、前記トランスおよび前記インダクタンス成分の等価インダクタに流れるインダクタ電流は、閾値電流以上である。
【0008】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明のDC-DCコンバータであって、前記制御回路は、前記目標電力が閾値電力未満である場合には、前記出力角変調モードを実行し、前記目標電力が前記閾値電力以上である場合には、前記周波数変調モードを実行する。
【0009】
本願の第4発明は、第1発明または第2発明のDC-DCコンバータであって、前記制御回路は、前記出力角変調モードと、前記周波数変調モードと、前記第1巻線側の電圧および前記第2巻線側の電圧の位相を変更する位相制御モードと、で実行可能であり、出力すべき目標電力に応じて、前記出力角変調モード、前記周波数変調モード、または、前記位相制御モード、を実行する。
【0010】
本願の第5発明は、第4発明のDC-DCコンバータであって、前記制御回路は、前記目標電力が第1閾値電力未満である場合には、前記出力角変調モードを実行し、前記目標電力が前記第1閾値電力以上である場合には、前記周波数変調モードを実行し、前記目標電力が、前記第1閾値電力より大きい第2閾値電力以上である場合には、前記位相制御モードを実行する。
【0011】
本願の第6発明のDC-DCコンバータは、寄生容量であるキャパシタ、または、並列接続された外付けのキャパシタを含む、4つのスイッチング素子を有する第1フルブリッジ回路と、寄生容量であるキャパシタ、または、並列接続された外付けのキャパシタを含む、4つのスイッチング素子を有する第2フルブリッジ回路と、前記第1フルブリッジ回路に接続された第1巻線と、前記第2フルブリッジ回路に接続され、前記第1巻線と磁気結合する第2巻線とを有するトランスと、前記第1巻線または前記第2巻線に直列接続されたインダクタンス成分と、前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路それぞれの各スイッチング素子をソフトスイッチング制御する制御回路と、を備え、前記制御回路は、前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路それぞれの電圧出力期間を調整する出力角変調モード、または、前記第1巻線側の電圧および前記第2巻線側の電圧の位相を変更する位相制御モード、を実行可能であり、出力すべき目標電力に応じて、前記出力角変調モード、または、前記位相制御モード、を実行する。
【0012】
本願の第7発明は、第6発明のDC-DCコンバータであって、スイッチング素子のターンオンとターンオフとの切り替えタイミングで、前記トランスおよび前記インダクタンス成分の等価インダクタに流れるインダクタ電流は、閾値電流以上である。
【0013】
本願の第8発明は、第2発明または第7発明のDC-DCコンバータであって、前記閾値電流は、前記等価インダクタに蓄積されるエネルギーが、2つの前記キャパシタに蓄積されるエネルギー以上となるように、設定されている。
【0014】
本願の第9発明は、第8発明のDC-DCコンバータであって、前記閾値電流をIref、前記第1フルブリッジ回路の入力電圧をVx、前記キャパシタのキャパシタンスをC、前記等価インダクタのインダクタンスをL、補正係数をαで表した場合、Iref=α・Vx√(2C/L)、を満たす。
【発明の効果】
【0015】
本願の第1発明~第9発明によれば、スイッチング周波数によって、出力角変調モードと、周波数変調モードとを切り替える。モードを適切に切り替えることで、スイッチング周波数が高くなることによるスイッチング損失の向上を抑制できる。つまり、出力すべき目標電力に応じて、各スイッチング素子をスイッチング制御するため、回路構成が複雑となることを防止して、簡易な制御でZVS動作を行い、スイッチング損失を低減することができる。
【0016】
特に第3発明によれば、低電力出力の際には、スイッチング周波数を変更しないため、スイッチング周波数が高くなることによるスイッチング損失向上を抑制できる。さらに、周波数が上昇することがないので、素子、特にインダクタの発熱を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係るDC-DCコンバータの回路図である。
【
図2】DC-DCコンバータのタイミングチャートを示す図である。
【
図3】DC-DCコンバータでの電流経路を説明するための図である。
【
図4】DC-DCコンバータでの電流経路を説明するための図である。
【
図5】DC-DCコンバータでの電流経路を説明するための図である。
【
図6】DC-DCコンバータでの電流経路を説明するための図である。
【
図7】DC-DCコンバータでの電流経路を説明するための図である。
【
図8】DC-DCコンバータでの電流経路を説明するための図である。
【
図9】出力角変調モードおよび周波数変調モードそれぞれの制御を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。以下では、本発明の「DC-DCコンバータ」について、デュアルアクティブブリッジ(DAB)コンバータ(以下、DC-DCコンバータと称す)を例に挙げて説明する。
【0019】
<1.DC-DCコンバータの回路構成>
図1は、本実施形態に係るDC-DCコンバータ1の回路図である。
【0020】
DC-DCコンバータ1は、一対の入出力端子IO11および入出力端子IO12と、一対の入出力端子IO21および入出力端子IO22と、を備えている。一対の入出力端子IO11、IO12には直流電源E1が接続されている。一対の入出力端子IO21、IO22には直流電源E2が接続されている。
【0021】
DC-DCコンバータ1は、入出力端子IO11、IO12から入力される直流電源E1の電源電圧を変圧し、入出力端子IO21、IO22から出力する。また、DC-DCコンバータ1は、入出力端子IO21、IO22から入力される、直流電源E2の電源電圧を変圧し、入出力端子IO11、IO12から出力する。つまり、DC-DCコンバータ1は、双方向に電力伝送が可能なコンバータである。
【0022】
DC-DCコンバータ1は、第1フルブリッジ回路10と、第2フルブリッジ回路20と、トランスTと、を備えている。
【0023】
トランスTは、第1巻線n1と、第2巻線n2とを備えている。第1巻線n1と第2巻線n2とは磁気結合する。第1巻線n1は、第1フルブリッジ回路10を介して、入出力端子IO11、IO12に接続されている。第2巻線n2は、第2フルブリッジ回路20を介して、入出力端子IO21、IO22に接続されている。
【0024】
第1フルブリッジ回路10は、スイッチング素子Q11とスイッチング素子Q12とが直列接続された第1レグと、スイッチング素子Q13とスイッチング素子Q14とが直列接続された第2レグと、を有している。スイッチング素子Q11、Q12、Q13、Q14には、ダイオードD11、D12、D13、D14、および、キャパシタC11、C12、C13、C14が並列に接続されている。スイッチング素子Q11~Q14はMOS-FETである。ただし、スイッチング素子Q11~Q14は、IGBTまたはJFET等であってもよい。ダイオードD11~D14は、実素子であってもよいし、寄生ダイオードであってもよい。また、キャパシタC11~C14は、実素子、寄生容量、または、寄生容量と実素子との組み合わせであってもよい。
【0025】
トランスTの第1巻線n1は、第1レグおよび第2レグそれぞれの中点に接続されている。トランスTの第1巻線n1と、第1レグの中点との間には、インダクタL1が設けられている。ただし、インダクタL1は、第1巻線n1または第2巻線n2に直列接続されていればよく、その配置場所は適宜変更可能である。例えば、インダクタL1は、第1巻線n1と第2レグの中点との間に設けられていてもよい。また、インダクタL1は、実素子、トランスTの漏れインダクタンス、または、実素子と漏れインダクタンスとの組み合わせであってもよい。
【0026】
第2フルブリッジ回路20は、スイッチング素子Q21とスイッチング素子Q22とが直列接続された第3レグと、スイッチング素子Q23とスイッチング素子Q24とが直列接続された第4レグと、を有している。スイッチング素子Q21、Q22、Q23、Q24には、ダイオードD21、D22、D23、D24、および、キャパシタC21、C22、C23、C24が並列に接続されている。スイッチング素子Q21~Q24はMOS-FETである。ただし、スイッチング素子Q21~Q24は、IGBTまたはJFET等であってもよい。ダイオードD21~D24は、実素子であってもよいし、寄生ダイオードであってもよい。また、キャパシタC21~C24は、実素子、寄生容量、または、寄生容量と実素子との組み合わせであってもよい。
【0027】
トランスTの第2巻線n2は、第3レグおよび第4レグそれぞれの中点に接続されている。前記のインダクタL1は、第2巻線n2と、第3レグまたは第4レグの中点との間に設けられていてもよい。
【0028】
スイッチング素子Q11~Q14およびスイッチング素子Q21~Q24それぞれのゲート端子は、制御回路30に接続されている。制御回路30は、DC-DCコンバータ1の出力電力が設定される目標電力となるように、スイッチング素子Q11~Q14、Q21~Q24それぞれをスイッチング制御する。本実施形態では、制御回路30は、スイッチング損失を低減するために、スイッチング素子Q11~Q14、Q21~Q24それぞれをソフトスイッチングする。
【0029】
<2.ソフトスイッチング動作について>
以下に、各スイッチング素子Q11~Q14、Q21~Q24のソフトスイッチング動作について説明する。なお、本実施の形態では、3-LEVEL方式のDAB制御が採用されている。
【0030】
DC-DCコンバータ1は、入出力端子IO11、IO12および入出力端子IO21、IO22の一方から他方、または、他方から一方への電力伝送を行う。以下では、入出力端子IO11、IO12を入力側(1次側)とし、入出力端子IO21、IO22を出力側(2次側)として説明する。
【0031】
図2は、DC-DCコンバータ1のタイミングチャートを示す図である。
図3、
図4、
図5、
図6、
図7および
図8は、DC-DCコンバータ1での電流経路を説明するための図である。
図3~
図8では、第2フルブリッジ回路20の図示は簡略し、
図1のインダクタL1およびトランスTは、等価的なインダクタLで表す。
【0032】
図2では、第1フルブリッジ回路10の各スイッチング素子Q11~Q14についてのみ、そのタイミングチャートを示す。また、
図2のV1は、
図1に示す、スイッチング素子Q11とスイッチング素子Q12との中点と、スイッチング素子Q13とスイッチング素子Q14との中点との間の電圧である。V2は、スイッチング素子Q21とスイッチング素子Q22との中点と、スイッチング素子Q23とスイッチング素子Q24との中点との間の電圧である。この例では、直流電源E1、E2それぞれが同じ電源電圧である。I
Lは、インダクタL(
図3~
図8参照)に流れるインダクタ電流である。
【0033】
制御回路30は、位相差を設けて、第1フルブリッジ回路10と、第2フルブリッジ回路20とをスイッチング制御する。以下では、第1フルブリッジ回路10と、第2フルブリッジ回路20との位相差を、δで表す。制御回路30は、第1フルブリッジ回路10および第2フルブリッジ回路20それぞれにおいて、スイッチング周波数f(周期1/f)で、フェーズシフトPWM制御を行う。
【0034】
また、以下では、第1フルブリッジ回路10の各スイッチング素子Q11~Q14についてのスイッチング制御について、説明する。第2フルブリッジ回路20については、電圧V2が、
図2に示す波形となるように、スイッチング制御され、その説明は、第1フルブリッジ回路10と同様に説明することができる。したがって、
図3~
図8では、説明を簡易にするために、第1フルブリッジ回路10側の電流経路についてのみ示す。なお、各図では、各スイッチング素子は簡略化した回路記号で示している。
【0035】
(t0~t1)
t0~t1期間では、スイッチング素子Q11、Q14がオン、スイッチング素子Q12、Q13がオフである。
【0036】
この場合、
図3に示すように、直流電源E1から、スイッチング素子Q11、インダクタL、第2フルブリッジ回路20、スイッチング素子Q14、直流電源E1の順に電流が流れる。この期間の電圧V1はHiである。
【0037】
タイミングt1では、スイッチング素子Q11がターンオフされた後、デッドタイムを挟んで、スイッチング素子Q12がターンオンされる。このデッドタイムでは、スイッチング素子Q11、Q12は共にオフとなる。このとき、インダクタLには、その性質上、インダクタ電流I
Lが流れ続けるため、
図4に示すように、キャパシタC11およびキャパシタC12それぞれから、インダクタLに電流が流れる。そして、キャパシタC11は
充電し、キャパシタC12は
放電される。キャパシタC12が
放電されると、スイッチング素子Q12のドレイン・ソース間電圧はゼロである。このときに、スイッチング素子Q12をターンオンすると、ZVSとなる。
【0038】
(t1~t2)
t1~t2期間では、スイッチング素子Q12、Q14がオン、スイッチング素子Q11、Q13がオフである。この場合、
図5に示すように、スイッチング素子Q14、スイッチング素子Q12からインダクタLの経路に電流が流れる。このときの電圧V1はゼロである。
【0039】
タイミングt2では、スイッチング素子Q14がターンオフされた後、デッドタイムを挟んで、スイッチング素子Q13がターンオンされる。このデッドタイムでは、
図4での説明と同様、キャパシタC14は
充電し、キャパシタC13は
放電される。キャパシタC13が
放電されることで、スイッチング素子Q13のドレイン・ソース間電圧はゼロである。このときに、スイッチング素子Q13をターンオンすると、ZVSとなる。
【0040】
(t2~t3)
t2~t3期間では、スイッチング素子Q12、Q13がオン、スイッチング素子Q11、Q14がオフである。タイミングt2で、スイッチング素子Q13をターンオンした直後は、
図6に示すように、直流電源E1、スイッチング素子Q12、インダクタL、第2フルブリッジ回路20、スイッチング素子Q13、直流電源E1の経路に電流が流れる。この電流は、直流電源E1に逆流することになり、その結果、
図7に示すように、直流電源E1、スイッチング素子Q13、第2フルブリッジ回路20、インダクタL、スイッチング素子Q12、直流電源E1の経路に電流が流れるようになる。この期間の電圧V1は、t0~t1期間と逆極性となる。
【0041】
また、タイミングt3では、スイッチング素子Q12がターンオフされた後、デッドタイムを挟んで、スイッチング素子Q11がターンオンされる。そして、
図4での説明と同様、キャパシタC12は
充電し、キャパシタC11は
放電される。そして、キャパシタC11が
放電されることで、スイッチング素子Q11のドレイン・ソース間電圧はゼロである。このときに、スイッチング素子Q11をターンオンすると、ZVSとなる。
【0042】
(t3~t0)
t3~t0期間では、スイッチング素子Q11、Q13がオン、スイッチング素子Q12、Q14がオフである。この場合、
図8に示すように、インダクタL、スイッチング素子Q11、スイッチング素子Q13の経路に電流が流れる。このときの電圧V1はゼロである。
【0043】
タイミングt0では、スイッチング素子Q13がターンオフされた後、デッドタイムが設けられて、スイッチング素子Q14がターンオンされる。そして、
図4での説明と同様、キャパシタC13は
充電し、キャパシタC14は
放電される。キャパシタC14が
放電されることで、スイッチング素子Q14のドレイン・ソース間電圧はゼロである。このときに、スイッチング素子Q14をターンオンすると、ZVSとなる。そして、
図3の状態に遷移する。
【0044】
上記のようにスイッチング制御することで、電圧V1は、
図2に示す波形のように、遷移する。また、制御回路30が、第2フルブリッジ回路20をスイッチング制御することで、電圧V2は、
図2に示す波形のように遷移する。上記のように、第1フルブリッジ回路10と、第2フルブリッジ回路20とは、位相差δでスイッチング制御されるため、電圧V1の立ち上がりと、電圧V2の立ち上がりとの位相差は、δである。
【0045】
<3.DC-DCコンバータの出力電力について>
制御回路30は、DC-DCコンバータ1の出力電力を制御する際、出力電力に応じて、出力角変調モード、または、周波数変調モードで制御を行う。以下、出力角変調モードと、周波数変調モードとについて説明する。
【0046】
図9は、出力角変調モードおよび周波数変調モードそれぞれの制御を説明するための図である。
【0047】
ここで、電圧V1と電圧V2とが、互いに逆極性となる極性反転期間を、τ
cで表す。また、第1フルブリッジ回路10の電圧出力期間を、τ
1で表す。第2フルブリッジ回路20の電圧出力期間を、τ
2で表す。τ
1、τ
2、τ
c(何れも
図2参照)は、時間を角度(ラジアン)表記したものである。この例では、τ
1=τ
2であり、τ
1=τ
2=τで表す。
図9の実線は、このτの変化を示す。また、
図9の一点鎖線は、スイッチング周波数fの変化を示す。さらに、
図9の横軸は出力電力である。
【0048】
まず、出力角変調モードについて説明する。
【0049】
制御回路30は、DC-DCコンバータ1が低電力出力のとき、出力角変調モードで、DC-DCコンバータ1の出力制御を行う。出力角変調モードでは、制御回路30は、スイッチング周波数f、および、極性反転期間τcを固定にし、τ1、τ2を変更して、DC-DCコンバータ1からの出力電力が目標値となるようにする。
【0050】
τ1は、第1フルブリッジ回路10の各スイッチング素子の位相を制御することで、変更される。また、τ2は、第2フルブリッジ回路20の各スイッチング素子のオン位相を制御することで、変更される。
【0051】
固定値であるτ
cは、各スイッチング素子をZVSできるように設定される。そのために、τ
cは、以下の式(1)の条件を満たす必要がある。
【数1】
【0052】
上記の式(1)において、Lは、
図3などのインダクタLのインダクタンスである。Vxは、直流電源E1の電源電圧を(
図1参照)である。
【0053】
また、I
refは、ZVSを実現するために必要なインダクタ電流I
Lの電流値である。上記のように、例えば、タイミングt1のデッドタイム(
図4)において、キャパシタC11が
充電し、キャパシタC12が
放電した後に、スイッチング素子Q12のドレイン・ソース間電圧がゼロであれば、スイッチング素子Q12のターンオンはZVSとなる。つまり、インダクタLのエネルギーは、少なくとも、キャパシタC11、C12それぞれに蓄積されるエネルギー以上であれば、スイッチング素子Q12をZVSできる。このためには、以下の式(2)が成り立つ必要がある。
【0054】
式(2)において、I
LはインダクタLに流れるインダクタ電流である。Cは、キャパシタC11~C14それぞれのキャパシタンスである。そして、式(2)は、以下の式(3)に変換される。なお、式(3)のαは補正係数であり、必要に応じて適宜値が設定される。ここでは、α=1とする。
【数3】
【0055】
インダクタ電流ILが、式(3)のα・Vx√(2C/L)以上であると、スイッチング素子Q12のZVSが可能となる。つまり、閾値電流Irefは、α・Vx√(2C/L)で表すことができる。そして、スイッチング素子をターンオンする各タイミングで、|IL|≧|Iref|の条件を満たせば、各スイッチング素子のZVSが可能となる。
【0056】
次に、DC-DCコンバータ1の出力電力をPで表し、τ
1=τ
2=τで表すと、電力Pは、以下の式(4)で表すことができる。
【数4】
ここで、Vyは、直流電源E2の電源電圧(
図1参照)である。
【0057】
式(4)において、Vx、Vyは既知である。τcは、上記の式(1)で表される。また、電力Pは、DC-DCコンバータ1から出力したい目標値であり、既知である。したがって、DC-DCコンバータ1から出力したい電力の目標値が与えられると、式(4)の逆関数から、τ(=τ1=τ2)を算出することができる。
【0058】
制御回路30は、τ1、τ2が、式(4)から得られたτとなるように、第1フルブリッジ回路10および第2フルブリッジ回路20それぞれを、スイッチング制御する。これにより、DC-DCコンバータ1からは、目標の電力Pが出力される。
【0059】
以上のように、出力角変調モードでは、スイッチング周波数fが一定であるため、スイッチング周波数が高くなることによるスイッチング損失の向上を抑制できる。さらに、スイッチング周波数が上昇することがないため、素子、特にインダクタLの発熱を低減できる。
【0060】
また、インダクタLに閾値電流Iref以上のインダクタ電流ILを流すことで、第1フルブリッジ回路10および第2フルブリッジ回路20それぞれの各スイッチング素子のZVSを実現できる。
【0061】
次に、周波数変調モードについて説明する。
【0062】
図9に示すように、出力角変調モードでは、τを大きくなると、出力電力は増加する。出力電力Pが閾値電力(以下、P
Tで表す)以上である場合、制御回路30は、周波数変調モードで、DC-DCコンバータ1の出力制御を行う。閾値電力P
Tは、本発明の「第1閾値電力」の一例である。
【0063】
まず、閾値電力PTについて説明する。
【0064】
上記の式(4)は、τに関して2次関数の形となっている。このため、電力Pに対してτは2つの解を持つ。そこで、所定のアルゴリズムで一つのτに特定する。例えば、2次関数の頂点近傍に解を求めるようにしてもよい。この場合、周波数を抑えることができ、発熱を抑えることができる。あるいは、2次関数の頂点近傍から離れた位置で解を求めるようにしてもよい。特に、以下の式(5)は、上述したアルゴリズムに適用し得る、好適なτの算定式が記されている。
【数5】
【0065】
周波数変調モードにおいて、DC-DCコンバータ1の出力電力をPで表し、τ
1とτ
2とが等しく、τ(=τ
1=τ
2)で表し、τ
cを時間で表したtcを用いると、電力Pは、以下の式(6)で表すことができる。
【数6】
【0066】
式(6)において、Vx、Vyは既知であり、τcは、上記の式(1)で表され、τfixは、式(5)で表されるτである。また、電力Pは、DC-DCコンバータ1から出力したい目標値であり、既知である。したがって、式(6)の逆関数により、ωを算出できる。そして、ωから、スイッチング周波数fを算出できる。
【0067】
制御回路30は、式(6)から得られたスイッチング周波数fで、第1フルブリッジ回路10および第2フルブリッジ回路20それぞれの各スイッチング素子を、スイッチング制御する。これにより、DC-DCコンバータ1からは、目標の電力Pが出力される。
【0068】
周波数変調モードでは、
図9に示すように、スイッチング周波数fを小さくすると、出力電力は大きくなる。つまり、周波数変調モードにおいてスイッチング周波数fが高くなることがない。このため、スイッチング周波数が高くなることによるスイッチング損失の向上を抑制できる。さらに、スイッチング周波数が上昇することがないため、素子、特にインダクタLの発熱を低減できる。
【0069】
また、出力角変調モードと同様に、インダクタLに閾値電流Iref以上のインダクタ電流ILを流すことで、第1フルブリッジ回路10および第2フルブリッジ回路20それぞれの各スイッチング素子のZVSを実現できる。
【0070】
以上のように、本実施形態では、スイッチング周波数が高くなることによるスイッチング損失の向上を抑制できる。さらに、スイッチング周波数が上昇することがないため、素子、特にインダクタLの発熱を低減できる。また、各スイッチング素子のZVSを実現できるため、高効率な電力変換が実現できる。この制御は、回路中に検出回路を設ける必要がなく、また、複雑な制御を必要としないため、簡易な制御でZVS動作を行い、スイッチング損失を低減することができる。
【0071】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0072】
上記の実施形態では、DC-DCコンバータ1の出力が低電力である場合に、出力角変調モードを実行し、出力が高電力である場合に、周波数変調モードを実行しているが、これに限らない。DC-DCコンバータ1の出力が低電力である場合に、周波数変調モードを実行し、出力が高電力である場合に、出力角変調モードを実行してもよい。
【0073】
また、DC-DCコンバータ1から出力する電力の目標値が、閾値電力PTよりも大きい閾値電力(第2閾値電力)以上である場合、制御回路30は、位相制御モードを実行するようにしてもよい。位相制御モードは、スイッチング周波数fを一定にしつつ、第1巻線n1側の電圧、および、第2巻線n2側の電圧の位相を変更する。つまり、V1と、V2との位相差δを変更する。位相差δの変更は、第1フルブリッジ回路10それぞれのスイッチング素子と、第2フルブリッジ回路20それぞれのスイッチング素子との位相差を変更することで、可能となる。
【0074】
位相制御モードの場合、出力電力Pは、以下の式(7)で表される。式(7)のnは、第1巻線n1と、第2巻線n2との巻線比である。
【数7】
【0075】
式(7)からわかるように、第1フルブリッジ回路10と第2フルブリッジ回路20との位相差δを変更させることで、出力電力Pを制御することができる。
【0076】
また、DC-DCコンバータ1の出力電力に応じて、出力角変調モードと、位相制御モードとを、切り替えて実行してもよい。
【0077】
さらに、上記の実施形態では、式(4)において、τ=τ
1=τ
2を条件としているが、τ
1と、τ
2とが異なっていてもよい。この場合、以下の式(8)を用いて、目標の電力Pを出力するための、τ
1と、τ
2とを算出することができる。
【数8】
【0078】
また、上記の実施形態では、入出力端子IO11、IO12を入力側とし、入出力端子IO21、IO22を出力側として説明した。しかしながら、DC-DCコンバータ1は双方向に電力伝送可能である。したがって、入出力端子IO11、IO12を出力側とし、入出力端子IO21、IO22を入出力側とすることが可能である。この場合、上記の実施形態と同様に説明することができため、その説明を省略する。なお、DC-DCコンバータ1は、双方向型でなくてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、極性反転期間τcは固定値としているが、可変値であってもよい。上記実施形態では、上記の固定値以上とされていれば、ZVS動作を実現させ得る。
【0080】
上記の実施形態または変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 :DC-DCコンバータ
10 :第1フルブリッジ回路
20 :第2フルブリッジ回路
30 :制御回路
C11、C12、C13、C14:キャパシタ
C21、C22、C23、C24:キャパシタ
D11、D12、D13、D14:ダイオード
D21、D22、D23、D24:ダイオード
E1、E2:直流電源
IL :インダクタ電流
IO11、IO12:入出力端子
IO21、IO22:入出力端子
L :インダクタ
L1 :インダクタ
Q11、Q12、Q13、Q14:スイッチング素子
Q21、Q22、Q23、Q24:スイッチング素子
T :トランス
V1 :電圧
V2 :電圧