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特許7036719高推力電力比マイクロカソードアークスラスタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】高推力電力比マイクロカソードアークスラスタ
(51)【国際特許分類】
   F03H 1/00 20060101AFI20220308BHJP
   B64G 1/40 20060101ALI20220308BHJP
   H05H 1/54 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
F03H1/00 Z
B64G1/40 500
H05H1/54
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2018526085
(86)(22)【出願日】2016-12-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-31
(86)【国際出願番号】 US2016065168
(87)【国際公開番号】W WO2017146797
(87)【国際公開日】2017-08-31
【審査請求日】2019-09-19
(31)【優先権主張番号】62/264,074
(32)【優先日】2015-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592005010
【氏名又は名称】ザ・ジョージ・ワシントン・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】THE GEORGE WASHINGTONUNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】キーダー,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ティール,ジョージ・ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス,ジョセフ・ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】コルベック,ジョナサン
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/127325(WO,A1)
【文献】特開平06-093958(JP,A)
【文献】米国特許第7518085(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03H 1/00
B64G 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ衛星用スラスタであって、:
推進剤材料からなるカソードと;
両端と両端の間に平坦な領域とを有するアノードであって、アブレーティブ材料からなるアノードと;
近位端と、放出端を有する推力チャネルを有する反対側の遠位端とを有し、アノードおよびカソードを保持するハウジングであって、アノードの平坦な領域を放出端に暴露するようにアノードが推力チャネルの放出端に近接し、アノードがカソードと放出端の間に位置するハウジングと;
アノードのアブレーションを生成するのに十分な電流を引き起こし、推力チャネルの放出端から放出されるアノードからのアブレートされた粒子を包含するプラズマジェットを引き起こす、カソードとアノードとの間に連結されたパルス電圧源と、
を含むスラスタ。
【請求項2】
アノードがはんだである、請求項1記載のスラスタ。
【請求項3】
カソードがチタン、ニッケルまたは鋼の一つである、請求項1記載のスラスタ。
【請求項4】
カソード、アノードおよびアブレーティブ材料からなるもう一つのアノードがハウジングの内側表面の間に取り付けられる、請求項1記載のスラスタ。
【請求項5】
ハウジングの内側表面とカソードとの間と接触している一対の付勢部材と、ハウジングの内側表面とアノードとの間と接触している第二の一対の付勢部材とをさらに含む、請求項4記載のスラスタ。
【請求項6】
付勢部材がばねである、請求項5記載のスラスタ。
【請求項7】
ハウジングの近位端上に磁石をさらに含み、磁石がプラズマジェットを方向付けるために磁場を放出する、請求項1記載のスラスタ。
【請求項8】
推進力を提供する方法であって、:
両端と両端の間に平坦な領域とを有するアノードであって、アブレーティブ材料のアノードを選択する工程と;
推進剤材料のカソードを選択する工程と;
アノードのアブレーティブ材料をアブレートするのに十分である電流であって、カソードとアノードとの間に電流を提供する工程と;
カソード上の電流により生成されたプラズマスポットによって発生したカソードとアノードとの間の電子流を介してアノードをアブレートする工程と;
カソードとアノードとの間のアークからのアブレートされたアノード材料を包含するプラズマジェットを放出端を有する推力チャネルで生成し、アノードの平坦な領域を放出端に暴露するようにアノードが推力チャネルの放出端に近接し、アノードがカソードと放出端の間に位置する工程と、
を含む方法。
【請求項9】
アノードがはんだである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
カソードがチタン、ニッケルまたは鋼の一つである、請求項8記載の方法。
【請求項11】
プラズマジェットを方向付けるために磁場を発生させる工程をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項12】
マイクロ衛星であって、:
ペイロードと;
推力チャネル、カソードおよびアブレーティブ材料のアノードを包含し、アノードが両端と両端の間に平坦な領域とを有するスラスタであって、推力チャネルが放出端を有し、アノードの平坦な領域を放出端に暴露するようにアノードが推力チャネルの放出端に近接し、アノードがカソードと放出端の間に位置するスラスタと;
スラスタに連結され、インダクタと、スラスタに連結されたスイッチング装置とを包含する、電力ユニットと;
アノードをアブレートしプラズマジェットを発生させるためのアノードとカソードとの間のアークを発生させるためにカソードおよびアノードに印加される電力ユニットからの電気パルスを引き起こすコントローラであって、スイッチング装置に連結されたコントローラと、
を含むマイクロ衛星。
【請求項13】
アノードがはんだである、請求項12記載のマイクロ衛星。
【請求項14】
カソードがチタン、ニッケルまたは鋼の一つである、請求項12記載のマイクロ衛星。
【請求項15】
カソード、アノードおよびアブレーティブ材料からなるもう一つのアノードがハウジングの内側表面の間に取り付けられる、請求項12記載のマイクロ衛星。
【請求項16】
スラスタがハウジングの内側表面とカソードとの間と接触している一対の付勢部材と、ハウジングの内側表面とアノードとの間と接触している第二の一対の付勢部材とを包含する、請求項15記載のマイクロ衛星。
【請求項17】
付勢部材がばねである、請求項16記載のマイクロ衛星。
【請求項18】
スラスタがプラズマジェットを方向付けるために磁場を放出する磁石を包含する、請求項12記載のマイクロ衛星。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
著作権
本特許文書の開示の一部は、著作権保護の対象である資料を含有する。著作権所有者は、特許商標庁の特許ファイルまたは記録に現れる形で、何人かによって特許開示が複製されることに対しては異論を唱えないが、それ以外にはいかなる著作権権利をも留保する。
【0002】
優先権
本出願は、全体を引用例として本明細書に取り込む2015年12月7日出願の米国特許仮出願第62/264,074号の優先権を主張する。
【0003】
技術分野
本発明は、一般的に、宇宙推進システム、より詳細には、マイクロカソードアークスラスタにアブレーティブアノードを使用することに関する。
【0004】
発明の背景
マイクロ宇宙機、例えば、マイクロおよびナノ衛星の開発は、構成要素のさらなる小型化と共に、過去10年間で有意に拡大してきた。衛星ユーザーコミュニティは、多くのマイクロまたはナノ衛星を必要とする再プログラム可能/再構成可能な自律システムのコンステレーションに向かって進んでいる。そのような衛星は、十分に小さいながら、そのようなコンステレーションの衛星を位置付けるに十分な電力を提供する推進システムを必要とする。
【0005】
そのようなマイクロ宇宙機の設計は、それ故に、電力、質量および燃料システムの複雑さに関連する限定に起因する推進システムの要件に影響を与える。高度な推進システムは、ステーション維持および軌道輸送にとって衛星の寿命を延ばすために必要であり、したがって、プログラム起動コストを最小化し、衛星の生涯価値を最大化する。10~20%の総推力効率および非常に低い(<1kg)スラスタ・電源ユニット(PPU)全質量を持つ、nNs~μNsの広範なインパルスビットを供する新しいタイプのマイクロおよびナノスラスタは、それ故に要望される。
【0006】
真空アークスラスタ(VAT)プラズマ源推進ユニットは、マイクロ衛星のための一つの選択しうる推進システムである。そのようなプラズマドライブは、絶縁体によって隔てられたカソードとアノードとを組み入れる。プラズマドライブは、インダクタに接続された電圧源を包含し、スイッチが有効にされるとインダクタに電流を提供する。インダクタの電流は、スイッチが開くまで増加し、アーク起動電位を引き起こし、カソードとアノードとの間にアークが生じる。プラズマドライブは、磁場によって遠位側に方向付けられるプラズマを外部カソード-絶縁体界面を中心に生み出す。カソードは、真空アークスラスタのための固形燃料源および推進剤としての機能を果たす。真空アークスラスタによって生成された推力は、低電圧エネルギー源により発生した拡大プラズマにより形成された圧力勾配によって支配される。真空アークスラスタの効率および寿命は、生み出された推力を方向付けるために使用される磁場によって高められることができる。そのような真空アークスラスタは、引用例として本明細書に取り込む米国特許公開番号第2011/0258981号に開示される。
【0007】
一つの公知のスラスタは、マイクロカソードアノードスラスタ(μCAT)である。このスラスタは、推進剤としてそれ自身のスラスタカソードを使用する外部磁場によって高められた、よく研究されている真空アークプロセスに基づく、電気推進装置である。カソード端子は、任意の導電材料であることができる。印加磁場が稼働寿命を延ばす一方で、推進剤のためのスラスタ要素の依存は、全てのCubeSat形態を包含する1~50Kg級衛星に適合するマイクロ推進のためのシステム質量を減らす。低電圧(電力管理セクションを通じて18V以下)は、システムに通電するために必要であり、50Aの瞬時ピークアーク放電および30以下~40VDCの持続アーク電圧は、準中性プラズマを生み出す。ニッケルおよびチタンカソードは、2200sおよび2800sの特定のインパルスで特徴付けられてきた。作動エネルギーは、2マイクロNsインパルスビットの場合0.1W/Hzであり、各々が50Hzで稼働し、600μNの推力を生み出す多様な六つのニッケルカソードスラスタチャネルを利用する予備評価は、およそ3540m/sのΔV全能力の場合約30Wの電力入力が必要とされることを示す。
【0008】
しかし、既存のスラスタ設計、例えば、μCATは、印加電力の最大15%までの効率で、およそ20μN/Wの推力電力比を有する。このシステムの主な非効率性の一つは、放電電流のおよそ10%のみが推力に寄与するイオン電流であるという事実と関係がある。放電電流の90%は、アノード加熱に寄与するが推力への寄与からは外れる電子によって伝導される。
【0009】
したがって、推力出力のための電力のより効率的な使用を提供することができる推進システムが要望されている。推力の効率を増加させるために、電子によって伝導される放電電流に起因するアノード加熱を低減させることができる推進システムがさらに要望されている。マイクロまたはナノ衛星のために、推進システム設計を可能な限りコンパクトに維持することも要望されている。
【0010】
発明の概要
一つの例によって、マイクロ衛星用スラスタが開示される。スラスタは、推進剤材料からなるカソードと、アブレーティブ材料からなるアノードとを包含する。ハウジングは、近位端と、推力チャネルを有する反対側の遠位端とを有する。ハウジングは、アノードおよびカソードを保持する。パルス電圧源は、カソードとアノードとの間に連結され、アノードのアブレーションを生成するのに十分な電流を引き起こし、推力チャネルから放出されるアノードからのアブレートされた粒子を包含するプラズマジェットを引き起こす。
【0011】
もう一つの例は、推進力を提供する方法である。アブレーティブ材料のアノードが選択される。推進剤材料のカソードが選択される。電流は、カソードとアノードとの間に提供される。電流は、アノードの材料をアブレートするのに十分である。アノードは、カソード上の電流により生成されたプラズマスポットによって発生したカソードとアノードとの間の電子流を介してアブレートされる。カソードとアノードとの間のアークからのアブレートされたアノード材料を包含するプラズマジェットは、推力チャネルで生成される。
【0012】
もう一つの例は、ペイロードと、カソードおよびアブレーティブ材料のアノードを有するスラスタとを包含するマイクロ衛星である。電力ユニットは、スラスタに連結される。電力ユニットは、インダクタと、スラスタに連結されたスイッチング装置とを包含する。コントローラは、アノードをアブレートしプラズマジェットを発生させるためのアノードとカソードとの間のアークを発生させるためにカソードおよびアノードに印加される電力ユニットからの電気パルスを引き起こすためのスイッチング装置に連結される。
【0013】
本発明の追加的な態様は、以下に簡単な説明が提供される図面を参照しながらの様々な実施態様の詳細な説明を考慮すると、当業者には自明である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】高推力電力比マイクロカソードアノードスラスタユニットを組み入れる立方体マイクロ衛星の斜視図である;
図2図1に示す衛星内の、高推力電力比を持つ、アブレーティブアノードを有するマイクロカソードアノードスラスタの一つの回路図である;
図3図2に示す高推力電力比を持つマイクロカソードアノードスラスタの拡大斜視図である;
図4図3の原理によるスラスタの回路図の実施例である;
図5図2のスラスタユニットから発生した推力を測定するための測定システムの回路図である;
図6】アブレーティブアノードと非アブレーティブアノードの場合の、比較可能な推力と電力のグラフである。
【0015】
本発明が様々な変形および代替形態を許す一方で、図面に例として特定の実施態様を示し、本明細書に詳細を記載する。しかし、本発明が開示された具体的な形態に限定されることを意図しないことが理解される。むしろ、本発明は、特許請求の範囲によって定義されるように、本発明の本質および範囲内である全ての変形、均等物および代替を網羅する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、立方体マイクロ衛星100の実施例の斜視図である。立方体マイクロ衛星100は、ペイロードを保持する筐体を提供する立方状のボディ102を包含する。そのような衛星は、ペイロードであり得る構成要素に基づいて異なる機能を実行する、衛星のコンステレーション内で使用されることができる。ボディ102は、フレームワーク106に付けられた側面パネル104を包含する。側面パネル104は、衛星100に電力を提供する太陽電池を包含する。ボディ102は、構成要素、例えば、高度制御システム、カメラシステム、伝送システムおよびアンテナシステム(図示せず)または他の構成要素を包含するペイロードを保持することができる。マイクロ衛星100は、フレームワーク106上に取り付けられる二つのマイクロカソードアノードスラスタ110の実施例および112によって操作される。スラスタ110および112の各々は、カソードとアノードとの間の電気アークによって発生したプラズマジェットを介して効率的に推力を生み出すことを支援するために、アブレーティブ材料のアノードを組み入れる。
【0017】
図2は、図1のスラスタ110の回路図である。スラスタ110は、カソード202と、アノードユニット204とを包含する。磁場源、例えば、磁石210は、アノードユニット204およびカソード202によって生成された発生したプラズマジェットを方向付けるために、印加磁場を生成する。電気回路は、カソード202とアノードユニット204との間に電源を付けることによって作り出される。電源の出力は、カソード202およびアノードユニット204へとパルス化され、電子流を生成する。
【0018】
パルスからの印加電流は、アノードユニット204とカソード202の間に電気アークを生成する。アークは、カソード202上に高温プラズマの局所的な領域または「カソードスポット」214を形成する。カソードスポット214は、カソード202の表面上の小さい区間である。電気アークは、効率的な低推力を提供する高速プラズマジェットを生成する。電力制御によって起動された電気アークの各充放電パルスは、プラズマ排気または「インパルスビット」を生成する。推力レベルは、各秒毎のパルス数を増加または低減させることによって制御されることができる。したがって、カソード202は、スラスタ110のための推進剤である導体材料である。アノードユニット204は、スラスタ110のための追加的な推進剤としての機能を果たす導電材料でもある。
【0019】
具体的には、電子流は、カソード202上のカソードスポット214の近くの矢印212によって表されるように生成される。電子流212は、カソード202を通る電流から発生したイオン220を包含する。中性原子222は、アノードユニット204を通過し、アノード材料をアブレートする電流によって生成される。以下に説明されるように、アノードユニット204は、主として電子によって搬送される十分な電流が印加される際にアブレートするアブレーティブ材料、例えば、すずはんだで作製される。中性原子222は、カソードスポット214とアノードユニット204との間の加速区間に搬送される。矢印216は、アノードユニット204とカソード202との間への電流の印加によって生成されたイオン電流を表す。イオン電流中のイオン220および中性原子222は、カソード202とアノードユニット204との間で加速される。アノードユニット204のアブレーションは、スラスタ110の増加した推力電力比をもたらす。
【0020】
図3は、マイクロカソードアノードスラスタユニット300、例えば、図1および2のスラスタ110または112の物理的構成要素の一つの例の斜視図である。マイクロカソードアノードスラスタ300は、上半分312および下半分314を有する長方形ハウジング310を包含する。上半分312は、スラスタユニット300によって生み出されたプラズマジェットの放出のための円形開口316を包含する。したがって、上半分312は、推力チャネルとしての機能を果たす円形開口316を持つ遠位端であり、下半分314は、近位端である。
【0021】
一対のアノード320および322は、ハウジング310の上半分312にわたって横方向に取り付けられる。アノード320および322は、図2のアノードユニット204を形成する。アノード320および322は、この例では一般的に長方形形状であるが、異なる形状で形成されることができる。当然ながら、任意の数の別個のアノードを使用することができる。アノード320および322は、開口316を介して暴露される区間324および326をそれぞれ包含する。アノード320および322の各端は、アノード320および322の端とハウジング310の上半分312の内側の側面との間に設置された付勢部材、例えば、ばね330と接触している。ばね330は、スラスタユニット300の稼働中にアノード材料がアノード320および322からアブレートされるにつれ、アノード320および322が所定位置に保持されることを確実にする。
【0022】
カソード340は、スラスタユニット300の下半分314に横方向に取り付けられる。カソード340は、この例では一般的に長方形形状であるが、異なる形状で形成されることができる。この例では単一のカソードが使用されているが、複数のカソードを使用できることが理解される。カソード340は、下半分314に形成されたもう一つの開口352を通じて開口316に暴露される区間342を包含する。この例では、カソード340は、導電材料、例えば、チタンから製造されるが、他の材料、例えば、ニッケル、カーボン、アルミニウム、クロム、鉄、イットリウム、モリブデン、タンタル、タングステン、鉛またはビスマスを使用することができる。電源は、カソード340とアノード320および322との間に連結され、したがって、カソードスポットは、アノード320および322に向かってプラズマジェットを生成するために、暴露された区間342上に形成される。この例では、アノード320および322は、アブレーティブ導電材料、例えば、Sn63/Pb37はんだから製造される。当然ながら、カソード材料の融点に対して比較的より低い溶融温度およびアノードのための電流密度の大きさを持つ他のアブレーティブ材料、例えば、銅、ニッケル、マンガンまたはベリリウムを使用することができる。例として、アノード320および322が銅から製造される場合、カソード340は、チタン、ニッケルまたはタングステンから製造されることができ、30~100Aの電流がアノードアブレーションのために印加される。
【0023】
一対の付勢部材、例えば、ばね344および346は、ハウジング310の下半分314の内側壁とカソード340のそれぞれの端との間に取り付けられる。カソード340の材料がスラスタ300の稼働によって消費されるにつれ、ばね344および346は、カソード340が所定位置に保持されることを確実にする。
【0024】
アノード320および322とカソード340とを接触させる付勢部材は、それぞれのアノード320および322ならびにカソード340を互いおよびハウジング310に対して一定の位置に維持する力を提供するのに十分な任意の付勢装置であることができる。例として、付勢部材は、圧縮ばね、定荷重ばね、ねじりばねおよび同種のものであることができる。あるいは、付勢部材は、アノード320および322ならびにカソード340を一定の位置に押す、引く、さもなければ付勢するための電気機械アクチュエータまたは同種のものであることができる。
【0025】
下半分314は、プラズマジェットを導くために磁場を発生させるために使用される円筒形磁石ユニット350も包含する。この例における磁石ユニット350は、カソード340の均一なエロージョンを生み出すようにカソード340上のアークスポットを誘導する磁場を生み出すソレノイドである。この例では、ハウジング310は、セラミック絶縁体、例えば、Teflonで形成される。
【0026】
開口352は、アノード320および322と、アノード320および322とカソード340との間のアークを促進するための導電コーティングを有するカソード340との間に形成された円形内側表面354から形成される。
【0027】
図4は、図3のマイクロカソードアノードスラスタ300と共に使用される電力・制御ユニット400の回路図である。図3の同じ要素は、図4でも同じ番号で標識される。電力・制御ユニット400は、この例ではバッテリーである電圧源410を包含する。電圧源410は、図1のマイクロ衛星100の外側の太陽パネルから再充電されることができる。電力・制御ユニット400は、電圧源410に連結されたエネルギー蓄積インダクタ412を包含する。エネルギー蓄積インダクタ412は、電圧源410に連結されたレジスタ416の一つに直列に連結されたスイッチング装置414に連結される。レジスタ416の他の端は、アースに連結される。スラスタユニット300は、スイッチング装置414およびレジスタ416に並列に連結される。
【0028】
スイッチング装置414は、スイッチング装置414に連結されたパルス出力422を有するコントローラ420によって制御される。この例におけるコントローラ420は、可変パルスおよび制御信号を発生させるに十分な計算能力を有する任意の論理デバイスである。コントローラ420は、異なるレベルの推力を供するための処理能力を包含することができる。ハウジング310内の第一のコネクタ430は、スイッチング装置414の一つの端子をアノード320および322に接続させる。第二のコネクタ432は、スイッチング装置414の他の端子をカソード340に接続させる。したがって、スイッチ414を開くことは、アノード320および322を通じたインダクタ412とカソード340との間の回路を閉じる。
【0029】
電圧源410は、バッテリー、一つのもしくは複数の太陽光電池または同種のものであることができる。電圧源410は、スイッチング装置414がコントローラ420からの制御信号を介して有効にされるとエネルギー蓄積インダクタ412に電流を提供する。インダクタ412の電流は、スイッチング装置414が開くまで増加する。スイッチング装置414が開くと、スラスタユニット300の出力電圧は、アーク起動電位を得て、スラスタユニット300でカソード340とアノード320および322との間にアークが生じるまで増加する。
【0030】
図4の回路は、アノード320および322とカソード340との間に連結されるパルス電圧源である、誘導性エネルギー蓄積システムである。トリガパルスは、スイッチング装置414を閉じさせるために、コントローラ420によって印加される。これは、電圧源410からのインダクタ412内のエネルギーを蓄積する。インダクタコイル412がフルに充電されると、スイッチング装置414は、コントローラ420からの信号を介して非常に速いスピード(数マイクロ秒)で開かれ、インダクタ412の端子間にサージ電圧、L*dI/dtが生み出される。これは、カソード340とアノード320および322との間に絶縁破壊およびアーク放電の発生をもたらす。サージ電圧は、内側表面354において比較的低い電圧レベル(≒200V)で薄い導電コーティングを絶縁破壊する。
【0031】
通常、放電プロセスは、全部でおおよそ数百マイクロ秒かかり、電流は、おおよそ60A(100~500μsの場合)であり、25~50Vの電圧で伝導される。電流は、アノード320および322のアブレーションを生成するのに十分であり、したがって、スラスタ300のための追加的な推進剤としての機能を果たす。スラスタ300の効率は、したがって、≧90%であることができる。その結果として、インダクタ412に蓄積された磁気エネルギーの大半は、プラズマパルスに堆積される。コントローラ420によってトリガ信号の長さを変動させることにより、スイッチング装置414の電流のレベル、およびそれにより、インダクタ412に蓄積されたエネルギーが調節されることもできる。これは、次に、アークに輸送されたエネルギーの量および個々のパルスのインパルスビットを変化させる。個々のパルスの繰り返し数も入力信号を変動させることによって変化させることができる。
【0032】
エネルギー蓄積インダクタ412は、鉄もしくはフェライトコアインダクタ、空芯インダクタ、磁気インダクタまたは任意の他の好適なインダクタであることができる。この例では、スイッチング装置414は、半導体絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)である。スイッチング装置414は、任意の適切なスイッチング装置、例えば、MOSFETであることもできる。
【0033】
内側表面354上の導電薄膜コーティング層は、およそ数百ボルトの低い印加電圧での放電の発生を有効にする。導電薄膜コーティング層は、この例では金属またはカーボンであることができる。導電薄膜コーティング層は、好ましくは1ミクロン厚未満であり、より好ましくはおよそ0.1ミクロン~およそ1ミクロン厚であり、アノード320および322とカソード340との間の導電薄コーティング層の抵抗がおよそ1~およそ40KΩであるようにする。アノード320および322とカソード340との間に生み出された高電界は、内側表面354上の導電薄膜コーティング層の絶縁破壊を引き起こす。この絶縁破壊は、マイクロプラズマが発生するように、内側表面354の導電性区間の絶縁体材料に沿って多孔または小さい間隙を引き起こす。この例では、これらのマイクロプラズマは、周囲の空間に拡大し、当初の導電薄膜表面放電路よりもおよそ0.01オーム~およそ0.1オームより低い低抵抗プラズマ放電路を形成することによって、電流をカソード340からアノード320および322に直接流させる。
【0034】
磁場は、磁気ユニット350を通じて生み出される。磁気ユニット350は、特定の分布磁場を提供する。この例では、磁気コアは、コイルと相互作用して、磁気ユニット350に磁場を生み出す。この例では、コイルは、最大700巻きまで巻かれた0.5mm径銅線(長さおよび外径は、それぞれ、およそ15および45mmである)を使用するように設計される。この例における磁気コアは、鋼1020から製作され、ワッシャの形状を有する。
【0035】
図2~4に示すスラスタは、アノードの材料に起因する増加した効率を有する。アノードとカソードとの間の電流からの電子束と関係があるエネルギーは、アノード加熱に突入する。図2のアノードユニット204のアブレーティブアノード材料を利用するまたはアノードアブレーションが有意になるようにアノード形状寸法を変更することにより、二倍の結果を生む。アノード温度は、アブレーティブ冷却に起因して低減される。さらに、アブレートされるアノード材料は、アノードユニット204から押し出され、したがって、流量を増加させる。流量は、流速を保つことができる場合、推力増加に直接寄与する。アブレートされたアノード材料は、加速領域に注入される。そのようにして、イオン220と中性原子222との間のイオン-中性粒子衝突は、中性粒子加速および推力の増加をもたらす。
【0036】
マイクロカソードアノードアークスラスタ200の推力電力比は、以下のように計算されることができる:
【数1】

ここで、Tは推力であり、Pは電力であり、fはイオン電流フラクションであり(通常0.08~0.1)、mはイオン質量であり、Vはイオン速度であり、Uは放電電圧である。有意なアノードアブレーションの場合には、推力電力比は、以下のように試算されることができる:
【数2】

この場合には、追加的な推力は、アノードアブレーションの結果として注入された中性原子に起因して発生する。アノードアブレーションに起因する推力電力比の増加は、以下のように試算されることができる:
【数3】

ここで、αはカソードのそれに対するアノードからの質量流束の比であり、σは断面積であり(1019m-2以下)、nはイオン密度であり(1021m-3)、Lは加速領域の長さである(0.01m)。αが1以下~2の場合、推力電力比は、2~3倍増加することができる。
【0037】
これらの条件下で同一の領域内で同時にイオン加速およびイオンから中性原子への運動量輸送衝突が生まれるため、運動量が中性ガスに輸送されるのみならず、電力によってイオン-中性粒子流に供給された全運動量も大いに増加する。一部の試算によると、推力は、以下によって高められることができる:
【数4】

ここで、Lは加速領域長さ(およそ1cm)であり、lはイオン-中性粒子衝突の平均自由行程である(およそ1mm)。したがって、推力電力比は、3倍増加することが想定される。加えて、磁場内の電子トラップは、中性粒子の電離をもたらし、したがって、流れの総電離度を増加させる。
【0038】
図5は、カソード512と、アブレーティブ材料を有するアノード514とを有するスラスタ510を試験するための実験的試験システム500の回路図である。スラスタ510は、プラズマ流を生成するために、カソード512とアノード514との間に電流を生成する電源516を包含する。
【0039】
試験システム500は、電源522に連結されるコレクタプレート520を包含する。電源522は、レジスタ524を介してアースに接続される。第二のレジスタ526は、カソード512とアースとの間に連結される。説明されるように、レジスタ524および526は、放電電流の測定を可能にする。
【0040】
試験システム500は、アブレーティブ材料を有するアノード514の使用から推力効率の増加を検証するために使用される。実験の予備セットは、アブレートするアノードの包含がスラスタ効率および推力レベルを高めることができることを検証するために設定された。第一の実験は、アノード514に使用される様々な周波数で、チタンアノードからのイオン対アーク電流を、Sn63/Pb37はんだからなるアノードのそれと比較することからなった。第二の実験は、一つは18-8ステンレス鋼アノードによる、一つはSn63/Pb37はんだアノードによる、スラスタ510の二つの17時間寿命試験を包含し、アノード質量損失が測定された。
【0041】
寿命試験中、銅プレートコレクタ520は、試験中にスラスタ510の前に設置され、その後で、アノード材料の任意の粒子が存在する否かを判定するために走査電子顕微鏡(SEM)で分析された。
【0042】
イオン電流を測定するために、コレクタプレート520は、マイナス82ボルトまでバイアスされ、スラスタ510に近接して設置された。スラスタ510およびプレート520は、真空チャンバに設置された。真空チャンバは、10-5トルの圧力にされた。スラスタ510がプラズマを吐き出すにつれ、イオンは、プレート520上に収集され、オシロスコープTektronix 2004Bは、スラスタ510からのアーク放電電圧と、銅プレート520からの収集されたイオン電圧の両方を記録した。
【0043】
アーク放電電流およびイオン電流を計算するために、それぞれのプローブは、レジスタ524(1オーム)およびレジスタ526(0.2オーム)上に設置され、オームの法則が使用された。オシロスコープは、4、16、64または128きざみでいくつかの波形を収集し、波形の平均を表示した、獲得モードを有した。この技術は、信号の無相関ノイズの除去を可能にし、単一の波形を別々に収集して後でそれらを平均するよりもより早い。この技術は、1、2、4、8、16、32、64および128Hzの割合のスラスタパルス数の場合の128波形の平均を収集するために使用された。イオン530がプレート520上で収集された一方で、電子532は偏向された。
【0044】
様々な周波数の場合のイオン収集実験の結果を図6に示す。一連の正方形602がアブレーティブアノードのプロットを表す一方で、一連の菱形604は、非アブレーティブアノードのプロットを表す。アブレーティブアノードを使用することで、はんだアノードの場合のイオン対アーク電流が1Hzおよび2Hzおいて、それぞれチタンアノードよりも45%および38%より高いことが証明されたことが見てとれる。パルス周波数が増加するにつれ、チタンアノードの場合のイオン対アーク電流は、はんだに近づいていき、最終的にはそれを上回る。この観測がはんだアノードにおけるマクロ粒子の生成に起因するものと推測される。マクロ粒子は、質量液滴であり、推進剤の大部分を消費すること、推力に非常にわずかしか寄与しないことを防ぎ、全体の総スラスタ効率を低くする。
【0045】
スラスタ510の寿命試験の開始前に、各タイプのアノードの五つの質量測定がなされ、はかりSartorius CPA225D Semi-Microを使用して平均した。試験は、各タイプのアノードに対して10Hzに1パルス数の割合で17時間行った。真空チャンバは、10-5トルの圧力にされた。各寿命稼働後、アノードは、ここでもまた五回測定され、最終的な平均質量が記録された。
【0046】
17時間のμCAT寿命試験中、任意のプラズマ粒子を収集するために、一片の銅箔がスラスタ510の頭部から19.4mm離れて設置された。銅箔上に想定された標準的な粒子は、銅(箔自体からの)、チタン(カソードからの)およびカーボン(アノードとカソードとの間に使用されたカーボン塗料からの)を包含する。しかし、理論化されたアノードアブレーションでは、はんだ粒子であるすずと鉛の両方も存在することも想定される。18-8ステンレス鋼アノードがアブレートされた場合、クロム、ニッケルおよび鉄粒子も存在することができる。
【0047】
はんだアノードが0.029566グラム失った一方で、ステンレス鋼アノードは、実際に質量を増大させた。質量損失および増大は、アノードがSEMで検査されたときに説明されることができる。SEMで見ると、未利用のはんだアノードが平滑と思われる一方で、燃焼後のはんだアノードは、摩滅およびくぼみを有する。ステンレス鋼アノードの場合の質量増大は、その最終的な質量に加えられたと思われるカーボンならびにチタンでコーティングされた。銅コレクタを分析すると、ステンレス鋼アノードは、銅、チタンおよびカーボンの想定された元素のみを示し、アノードアブレーションがなかったことを示した。はんだアノード銅コレクタは、すずおよび鉛に加えて、想定された元素(カーボン、銅、チタン、すずおよび鉛)を示した。これは、アブレートしているはんだがスラスタ510から吐き出され推力に変換されていたことを示す。
【0048】
本明細書で使用される専門用語は、具体的な実施態様を記載することのみを目的とし、本発明を限定することを意図しない。本明細書で使用される単数形「a」、「an」および「the」は、特に文脈が明確に記述しない限り、複数形も包含することを意図する。さらに、用語「包含している」、「包含する」、「有している」、「有する」、「持つ」またはそれらの異形が発明を実施するための形態および/または特許請求の範囲のいずれかで使用される限り、そのような用語は、用語「含む」と類似したやり方で包括的であることを意図する。
【0049】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術および学術用語を包含する)は、本発明が属する当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。さらに、用語、例えば、一般に使用される辞典で定義されるものは、従来の技術に関連したそれらの意味と一致する意味を有するものと解釈され、本明細書で明示的に定義されない限り、理想的または過度に形式的に解釈されないことが理解される。
【0050】
本発明の様々な実施態様が先に記載された一方で、それらが例としてのみ提示され、限定されるわけではないことが理解される。開示された実施態様への多くの変更は、本発明の本質および範囲を逸することなく、本明細書の開示に従ってなされることができる。したがって、本発明の幅および範囲は、先に記載された実施態様のいずれによっても限定されない。むしろ、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲およびそれらの均等物に従って定義される。
【0051】
本発明が一つまたは複数の実施態様に関して図示され記載されてきたものの、本明細書および付属図面を読み理解すれば、当業者は、同等の改変および変形に気付く。加えて、本発明の具体的なフィーチャがいくつかの実施態様の一つのみに関して開示されたことができる一方で、そのようなフィーチャは、所望された場合および任意の所与のまたは具体的な用途に有利である場合、他の実施態様の一つまたは複数の他のフィーチャと組み合わされることができる。
図1A
図2
図3
図4
図5
図6