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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】チャック
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/00 20060101AFI20220308BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20220308BHJP
   B23B 31/167 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B23B31/00 B
B23Q11/00 N
B23B31/167
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018551703
(86)(22)【出願日】2017-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2017041467
(87)【国際公開番号】W WO2018092879
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2016223707
(32)【優先日】2016-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】河北 祐輝
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-136603(JP,U)
【文献】特開2001-277012(JP,A)
【文献】実開昭60-157108(JP,U)
【文献】西独国特許出願公開第02003621(DE,A1)
【文献】実開昭49-089782(JP,U)
【文献】実開昭54-035485(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00
B23Q 11/00
B23Q 11/08
B23Q 3/06
B23B 31/167
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャックであって、径方向にスライドしてワークを支持する複数のジョーを正面に有し、
チャック本体と、センターカバーと、ダストカバーとを備え、
前記チャック本体は、正面において複数のスライド溝を備え、
前記スライド溝は、前記チャック本体の中央部から径方向外側に延び、これにより前記ジョーの各々がスライド可能に嵌合し、
前記センターカバーは、前記チャック本体の正面中央部を覆うように、当該チャック本体に取り付けられ、
前記ダストカバーは、前記スライド溝を覆うように前記ジョーの各々の中央側の端部に取り付けられて、前記チャック本体の正面に沿ってスライドするように構成され、
前記ジョーの各々がワークを支持する支持位置において、前記ダストカバーの突端部が、前記センターカバーの周縁部の裏側に入り込むように構成され、
前記ダストカバーは、傾斜部を備え、
前記傾斜部は、前記ダストカバーの突端部において、前記センターカバーの周縁部の裏側に入り込む方向に向かうに従って表面が前記チャック本体に近づくように設けられ、
前記センターカバーは、逆傾斜面を備え、
前記逆傾斜面は、前記センターカバーの周縁部の裏側において、周縁に向かうに従って前記チャック本体から離れるように設けられている、
チャック。
【請求項2】
請求項1に記載のチャックにおいて、
前記ジョーの各々がスライドして変位する全位置において、前記ダストカバーの突端部が、前記センターカバーの周縁部の裏側に入り込むように構成される、
チャック。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のチャックにおいて、
前記チャック本体が、流体供給通路と、噴出通路とを更に備え、
前記流体供給通路は、前記センターカバーの中心に流体を供給し、
前記噴出通路は、前記流体供給通路に連通して前記センターカバーの周縁部の裏側に開口し、
前記センターカバーの周縁部の裏側から外方に向かって流体を噴出可能に構成される、
チャック。
【請求項4】
請求項3に記載のチャックにおいて、
記傾斜部の表面と前記逆傾斜面との間の隙間を通じて流体が噴出可能に構成される、
チャック。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載のチャックにおいて、
前記噴出通路は、少なくとも1つの導出通路を有し、
前記導出通路は、前記チャック本体の中央部で前記流体供給通路に連通して前記ジョーに向かって径方向外側に延び、
前記チャックを正面から見たときに、前記導出通路が、前記ジョーの中心線に対し、前記チャックの回転方向の前方に所定の角度傾いて延びている、
チャック。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のチャックにおいて、
前記ダストカバーの突端部が前記チャック本体の正面に押し付けられている、
チャック。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のチャックにおいて、
前記ダストカバーが、張出部を有し、
前記張出部は、
前記ジョーの中央側の端部から側方に張り出し、
その表面が、前記チャックの回転方向の前方または後方に位置し且つ傾斜面を備え、
前記傾斜面は、前記側方に向かうに従って前記チャック本体に近づくように構成される、
チャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工するワークを支持するために工作機械に用いられているチャックの防塵構造に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、チャックの正面には、工作物(ワーク)を支持するために、径方向にスライドする複数のジョーが放射状に配置されている。ジョーは、チャックの本体に設けられて径方向にスライドするマスタージョーと、マスタージョーに着脱可能に取り付けられてワークを支持するトップジョーと、で構成されている。
【0003】
マスタージョーが径方向外側に位置したときには、マスタージョーが径方向内側にスライドするために必要なスペースが、チャックの本体の中央部に、隙間として発生する。その隙間に、ワークを加工することで発生する切粉等の細かい異物(塵埃)が侵入すると、ジョーの動作不良を招く。
【0004】
そこで、特許文献1のチャックでは、これらの隙間を覆うカバー16がボディの正面中央部に取り付けられている。カバー16の縁部は、トップジョーの中央側の端部の下側に入り込んでおり、トップジョーの中心側の端部は、カバー16の上面に沿ってスライドする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4913055号公報(国際公開番号:WO2007/018166)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ワークの加工時、特にワーク内部の加工時には、切粉がチャックの正面に飛び散るため、それらがトップジョーの周囲に付着して堆積する。通常、チャックは、ワークの加工時に所定方向に回転するため、トップジョーの周囲でも、特にその回転方向に臨む側に、切粉が堆積しやすい。
【0007】
そして、特許文献1のチャックのように、カバーで隙間を覆っていても、ワークの加工時には、ワークを支持しているジョーの中央側に強い力が作用するので、トップジョーの中央側は、カバーから浮き上がって隙間が形成されやすい。隙間が形成されると、その隙間から切粉がチャックの内部に侵入する。
【0008】
しかも、トップジョーの中央側の端部はカバー上をスライドする。そのため、隙間から侵入した切粉は、それに伴って擦れ動く。そうして、マスタージョーの動作領域に入り込むと、ジョーの動作不良を招いてしまう。
【0009】
そこで本発明の目的は、切粉等の塵埃の侵入が効果的に防止でき、長期にわたって安定した動作が保持できるチャックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、チャックであって、径方向にスライドしてワークを支持する複数のジョーを正面に有し、チャック本体と、センターカバーと、ダストカバーとを備え、
前記チャック本体は、正面において複数のスライド溝を備え、前記スライド溝は、前記チャック本体の中央部から径方向外側に延び、これにより前記ジョーの各々がスライド可能に嵌合し、前記センターカバーは、前記チャック本体の正面中央部を覆うように、当該チャック本体に取り付けられ、前記ダストカバーは、前記スライド溝を覆うように前記ジョーの各々の中央側の端部に取り付けられて、前記チャック本体の正面に沿ってスライドするように構成され、前記ジョーの各々がワークを支持する支持位置において、前記ダストカバーの突端部が、前記センターカバーの周縁部の裏側に入り込むように構成される、チャックが提供される。
【0011】
このチャックによれば、ワークを加工するときに切粉が飛び散っても、各スライド溝の中央側の隙間は、ダストカバーによって覆われているので、隙間への切粉の侵入は防止される。そして、ダストカバーの突端部が、センターカバーの周縁部の裏側に入り込んでいるので、切粉がダストカバーの突端部に付着したり、切粉がセンターカバーの裏側に入り込んだりするのが抑制できる。ジョーの中央側の端部が持ち上げられて、ダストカバーの突端部とチャック本体の正面との間に隙間が形成されても、その隙間に切粉が入り込むのが抑制できる。したがって、長期にわたって安定した動作が保持できるようになる。
【0012】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
【0013】
好ましくは、前記ジョーの各々がスライドして変位する全位置において、ダストカバーの突端部が、前記センターカバーの周縁部の裏側に入り込むように構成される。
好ましくは、前記チャック本体が、流体供給通路と、噴出通路とを更に備え、前記流体供給通路は、前記センターカバーの下側に流体を供給し、前記噴出通路は、前記流体供給通路に連通して前記センターカバーの周縁部の裏側に開口し、前記センターカバーの周縁部の裏側から外方に向かって流体を噴出可能に構成される。
好ましくは、尖った傾斜部と、逆傾斜部とを更に備え、前記傾斜部は、前記ダストカバーの突端部において、突端に向かうに従って表面が前記チャック本体に近づくように設けられ、前記逆傾斜面は、前記センターカバーの周縁部の裏側において、周縁に向かうに従って前記チャック本体から離れるように設けられ、前記傾斜部の表面と前記逆傾斜面との間の隙間を通じて流体が噴出可能に構成される。
好ましくは、前記噴出通路は、少なくとも1つの導出通路を有し、前記導出通路は、前記チャック本体の中央部で前記流体供給通路に連通して前記ジョーに向かって径方向外側に延び、前記チャックを正面から見たときに、前記導出通路が、前記ジョーの中心線に対し、前記チャックの回転方向の前方に所定の角度傾いて延びている。
好ましくは、前記ダストカバーの突端部が前記チャック本体の正面に押し付けられている。
好ましくは、前記ダストカバーが、張出部を有し、前記張出部は、前記ジョーの中央側の端部から側方に張り出し、その表面が、前記チャックの回転方向の前方に位置し且つ傾斜面を備え、前記傾斜面は、突端に向かうに従って前記チャック本体に近づくように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態のチャックの正面を斜め前方から見た概略斜視図である。
図2】本実施形態のチャックを正面から見た概略図である。
図3図2における矢印X-X線での概略断面図である。
図4】ジョーの位置が異なる図3に相当する図である。
図5A】ダストカバーを示す概略斜視図である。
図5B図5Aにおける矢印Y-Y線での概略断面図である。
図6図2の要部を拡大して示す概略図である。切粉パージ機構等を図示している。
図7図6における矢印Z-Z線での概略断面図である。
図8】変形例のチャックにおける図3に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
<チャック1の構造>
図1図3に、本実施形態のチャック1を示す。図1は、チャック1の正面を斜め前方から見た概略斜視図であり、図2は、チャック1を正面から見た概略図であり、図3は、図2における矢印X-X線での概略断面図である。チャック1は、工作機械100に取り付けられて、ワークの加工時には、回転軸Jを中心に所定の方向、本実施形態では、チャック1を正面から見て反時計回りに回転制御される。
【0017】
図1等に示すように、チャック1は、厚みの大きな円盤状の外観を有するチャック本体1aを備えており、その正面に、ワークを支持する複数(2つ以上あればよいが、本実施形態では3つ)のジョー10が放射状に等間隔で配置されている。各ジョー10は、チャック1を正面から見たとき、その径方向に延びる中心線Tが、チャック本体1aの中心を通るように配置されている。
【0018】
各ジョー10は、チャック本体1aに径方向にスライド可能に設けられたマスタージョー11と、マスタージョー11にボルト13によって着脱可能に取り付けられるトップジョー12と、で構成されている。トップジョー12は、用途に応じて様々な形状があるが、本実施形態では、直方体形状に形成されており、その長手方向がチャック本体1aの径方向と一致するように、マスタージョー11に取り付けられている。
【0019】
各トップジョー12の中央側の端面には、ワークを支持する平坦な支持面12aが形成されている。各ジョー10が径方向内側にスライドすることで、チャック本体1aの正面の中央部に回転軸Jを中心にして位置するワークに各支持面12aが接触し、3つのトップジョー12に挟まれてワークが支持されるようになっている。各ジョー10の中央側の端部には、ダストカバー70が取り付けられているが、これについては後述する。
【0020】
図3に示すように、チャック本体1aは、マスタージョー11に加え、ボディ20、プランジャー30、連結体40、アダプタ50、センターカバー60などで構成されている。
【0021】
ボディ20は、厚みの大きな円盤状の外観を有する金属部材からなり、複数の取付ボルト21によって工作機械100に固定されている。ボディ20の背面中央には、大径の円筒状の凹部22が形成されており、ボディ20の正面中央には、凹部22に連通する円筒状の円形開口23が形成されている。ボディ20の正面は、回転軸Jに直交する平坦面となっている。
【0022】
凹部22の正面側の中央部には、円形開口23を塞ぐように、円柱状のアダプタ50が、ボルト51によってボディ20に取り付けられている。チャック本体1aの正面の中央部には、円形開口23を覆うように、センターカバー60が、ボルト61によってアダプタ50に取り付けられている。これらセンターカバー60及びアダプタ50については別途後述する。
【0023】
そして、ボディ20の正面には、その中央部に位置する円形開口23の周囲から径方向外側に等間隔で放射状に延びる3つのスライド溝24が形成されており、これらスライド溝24の各々に、マスタージョー11が嵌め込まれている。
【0024】
マスタージョー11は、スライド溝24の幅と略同一の幅と、スライド溝24もよりも短い径方向の長さと、を有する略直方体形状の部材からなり、径方向にスライド可能な状態でスライド溝24に嵌合されている。マスタージョー11の中央側の端部の下側には、係合部11aが形成されている。
【0025】
プランジャー30は、略円筒状の部材であり、各スライド溝24に対応した3箇所に、被係合部31が形成されている。プランジャー30は、これら被係合部31に、各マスタージョー11の係合部11aが係合した状態で、凹部22に収容されている。
【0026】
連結体40は、円筒状の部材からなり、ボルト41でプランジャー30と一体に固定されている。プランジャー30及び連結体40は、回転軸Jに沿ってスライド可能な状態で、凹部22に収容されている。連結体40が工作機械100に接続されることにより、プランジャー30及び連結体40のスライドは、工作機械100で制御される。
【0027】
プランジャー30及び連結体40がスライドすることにより、各ジョー10は、径方向にスライドして変位する。すなわち、図3に示すように、各ジョー10が、径方向内側にスライドした位置(図3では、最も径方向内側に変位した位置である最内位置を表している)と、図4に示すように、各ジョー10が、径方向外側にスライドしてワークを支持せずに待機する位置(最も径方向外側に変位した最外位置)と、の間で変位する。
【0028】
なお、各ジョー10がワークを支持する位置は、ワークやトップジョー12の形状、その支持方法によって異なる。また、ワークは、その加工内容に応じて、各ジョー10によって外側から支持される場合、内側から支持される場合がある。
【0029】
<防塵構造>
各スライド溝24の中央側には、ジョー10が最内位置に変位したときに、マスタージョー11が、ボディ20やアダプタ50と接触しないように、一定の隙間24aが設けられている。そして、マスタージョー11が径方向外側にスライドしたときには、マスタージョー11が径方向内側にスライドするために必要なスペースがスライド溝24の中央側に発生するため、そのスペースが加わって隙間24aは更に拡大する。
【0030】
この隙間24aに、ワークの加工時に発生する切粉等の塵埃(以下、切粉で説明する)が侵入すると、その切粉がマスタージョー11の動作領域に入り込み、マスタージョー11の動作不良を招いてしまう。そこで、このチャック1では、その隙間24aへの切粉の侵入が効果的に防止でき、長期にわたって安定した動作が保持できるように工夫されている。
【0031】
第1の工夫として、ダストカバー70及びセンターカバー60がチャック1に取り付けられている。具体的には、各マスタージョー11の中央側の端部に、スライド溝24の隙間24aを覆うダストカバー70が取り付けられており、チャック本体1aの正面中央にセンターカバー60が取り付けられている。
【0032】
図5A及び図5Bに、ダストカバー70を示す。ダストカバー70は、バネ鋼材を用いて形成された長方形板状の部材からなる。ダストカバー70は、固定部71、傾斜部72、張出部73などで構成されている。固定部71は、ダストカバー70の、マスタージョー11に固定される部分であり、ダストカバー70の一方の長辺の中央部位に設けられている。固定部71には、マスタージョー11にネジ止めされるネジを挿通する一対のネジ穴71a,71aが設けられている。
【0033】
傾斜部72は、ダストカバー70の他方の長辺に設けられている。傾斜部72は、マスタージョー11に取り付けられたとき、マスタージョー11の突端部、つまりマスタージョー11の中央側の端部から内方に張り出す部分である。傾斜部72の表面は、突端に向かうに従ってチャック本体1aに近づく傾斜面となっており、傾斜部72の突端は尖っている。
【0034】
張出部73は、ダストカバー70の両短辺側に設けられている。張出部73は、マスタージョー11に取り付けられたとき、マスタージョー11の中央側の端部から側方に張り出す部分である。張出部73の表面には、突端に向かうに従ってチャック本体1aに近づく傾斜面が設けられていて、張出部73の突端は尖っている。
【0035】
なお、傾斜面は、チャック1の回転方向の前方に位置する張出部73の表面にのみ形成してあってもよいが、ダストカバー70の両側に形成しておけば、チャック1がいずれの回転方向に回転する場合にも適用できるため、汎用性に優れる。
【0036】
ダストカバー70の裏面は、ボディ20の正面に沿って隙間無くスライドするように、平坦に形成されている。そして、ダストカバー70の裏面におけるネジ穴71aを挟んで突端部とは反対側(基端部)には、縁部に沿って延びる細長い微小凸部74が設けられている。従って、ダストカバー70をマスタージョー11に取り付けたとき、微小凸部74により、ダストカバー70の基端部が持ち上がって突端部が押し下げられるため、突端部がチャック本体1aの正面に押し付けられた状態となる。それにより、ダストカバー70の突端部は、常時、ボディ20の正面に隙間無く密着し、切粉が入り込むのが阻止される。
【0037】
特に、ジョー10が支持したワークに加工が施されるときには、ジョー10の中央側の端部に強い力が作用して持ち上げられる傾向があるが、そのような場合でも、ダストカバー70とボディ20の正面との間に隙間が形成されるのを防ぐことができる。
【0038】
図6図7に拡大して示すように、センターカバー60は、円形開口23の嵌合する円柱状の嵌合部62と、嵌合部62の一端から外方に大きく張り出す鍔状のカバー部63とを有している。カバー部63は、正面側から見て、角部が円弧状に形成された略三角形状をしており、各辺が各ジョー10と対向するように配置されている。カバー部63の各辺は、ダストカバー70の幅(長辺側)と略同一の大きさに形成されている。
【0039】
ボディ20の正面とカバー部63の裏面とは、微小な隙間(後述する横環状通路95を構成)を隔てて対向している。そして、カバー部63の周縁部の裏側には、周縁に向かうに従ってボディ20の正面から離れる逆傾斜面63aが設けられている。逆傾斜面63aは、ダストカバー70の傾斜部72の傾斜面と略平行に形成されている。これにより、切粉が溜まり易い隅部等が無くなるので、切粉が付着しても堆積し難くできる。流体が噴出される場合(後述)には、流体で切粉を残さずに排除することができる。
【0040】
そうして、各ダストカバー70の突端部は、センターカバー60の周縁部の裏側に入り込んだ状態(正面から見て、センターカバー60とダストカバー70とが上下に重なっている状態)となっている。特にこのチャック1では、ジョー10の各々がスライドして変位する全位置(最内位置から最外位置まで)において、ダストカバー70の突端部が、センターカバー60の周縁部の裏側に入り込んだ状態となっている。
【0041】
ワークを加工するときに発生する切粉は、チャック1の正面の中央部の上方で発生して飛び散る。各スライド溝24の中央側の隙間24aとその周辺は、ダストカバー70で覆われているので、隙間24aへの切粉の侵入は防止される。
【0042】
そして、ダストカバー70の突端部が、センターカバー60の周縁部の裏側に入り込んでいるので、切粉がダストカバー70の突端部に付着したり、切粉がセンターカバー60の裏側に入り込んだりするのが抑制できる。ジョー10の中央側の端部が持ち上げられて、ダストカバー70の突端部とボディ20の正面との間に隙間が形成されても、その隙間に切粉が入り込むのが抑制できる。特に、ダストカバー70の突端部は、常に、センターカバー60の裏側に入り込んで、上下に重なり合った状態となるため、ワークを加工するときだけでなく、ワークを加工しないときにも切粉等の塵埃が、チャック1の内部に侵入するのを抑制できる。
【0043】
更に第2の工夫として、各ジョー10の周囲に付着する切粉が吹き飛ばせるように、センターカバー60の周縁部の裏側から外方に向かってクーラント(流体の一例)が噴出されるようになっている。これにより、切粉等の塵埃がチャック1の内部に侵入するのを抑制するだけでなく、積極的に、切粉が付着して蓄積しやすい各ジョーの周辺やチャック本体1aの正面から切粉を排除できるので、よりいっそうチャック1の内部に塵埃が侵入するのを抑制できる。切粉等の塵埃がセンターカバー60の裏側に入り込んでも、噴出する流体によって排出できる。
【0044】
具体的には、図3図6図7に示すように、チャック1には、ワークの加工時に、ワークに向けてクーラントを噴射できるように噴射機構が設けられている。すなわち、アダプタ50の中央部には、センターカバー60の下側にクーラントを供給する主通路81(流体供給通路)が貫通して形成されている。この主通路81には、配管101が接続されて、工作機械100から高圧のクーラントが供給されるようになっている。
【0045】
センターカバー60の表面中央には、3つの噴射口80aを有するノズル80が設けられている。各噴射口80aは周方向に等間隔で配置されている。嵌合部62の中央部には、主通路81に連通する副通路82(流体供給通路)が形成されており、副通路82は、傾斜して延びる3つの噴射通路83を介して噴射口80aに連通している。そして、主通路81に供給される高圧のクーラントは、副通路82及び噴射通路83を通じて3つの噴射口80aからワークに向けて拡がるように噴射される。そうすれば、切粉等の塵埃がセンターカバー60の裏側に入り込んでも、塵埃が滞る箇所が無くなるので、噴出する流体によって、塵埃を残存させること無く円滑に排出できる。
【0046】
チャック1では、このような噴射機構のクーラントを送る通路を利用して、切粉パージ機構を構成した。すなわち、チャック本体1aに、副通路82に連通してセンターカバー60の周縁部の裏側に開口する噴出通路90を形成した。
【0047】
具体的には、チャック本体1aの中央部に位置する副通路82から分岐し、各ジョー10に向かって径方向外側に延びる3つの導出通路91が、嵌合部62に形成されている。
【0048】
そして、カバー部63に連なる嵌合部62の外周には、円形開口23よりも僅かに小径の段差部62aが設けられており、その段差部62aと円形開口23を構成しているアダプタ50の内周面との間の隙間によって、これら導出通路91に連通する環状の通路(縦環状通路92)が形成されている。センターカバー60とアダプタ50との間、嵌合部62とアダプタ50との間には、クーラントの漏れ出しを防止するOリング93,94が装着されている。
【0049】
縦環状通路92は、ボディ20の正面とカバー部63の裏面との間の微小な隙間(横環状通路95)に連通しており、導出通路91、縦環状通路92、及び横環状通路95により、全周にわたってクーラントを噴出する噴出通路90が構成されている。従って、ワークの加工時等、クーラントがノズル80から噴射されるときには、同時に、センターカバー60の裏側から径方向外方にもクーラントが噴出される。その結果、各ジョー10の周囲に切粉が付着してもクーラントで吹き飛ばされるので、各ジョー10の周囲から切粉を排除できる。
【0050】
センターカバー60の裏側に切粉が入り込んでも、クーラントで排除できるので、チャック1の内部に切粉が侵入することを効果的に防止できる。しかも、傾斜部72の表面と逆傾斜面63aとの間の隙間を通じてクーラントが噴出されるので、クーラントが円滑に噴出され、侵入した切粉があっても引っ掛かることなく容易かつ確実に排出できる。
【0051】
更に、縦環状通路92及び横環状通路95の流路断面幅w1,w2は、主通路81や副通路82の流路の直径よりも小さく形成されており、クーラントの流出量を絞りながらクーラントがより強力に噴出されるようになっている。
【0052】
そして、各導出通路91は、チャック1を正面から見たときに、ジョー10の中心線Tに対し、チャック1の回転方向の前方に、所定の角度θ傾いて延びるように配置されている。
【0053】
すなわち、ワークの加工時に発生する切粉は、チャック1の中でも、特に、各ジョー10の中央側の端部の、回転方向の前側の部分に付着しやすい。そのため、このチャック1では、各導出通路91からのクーラントの流出方向が、その部分に向くように配置されている。そうすることで、特に強力な勢いのクーラントがその部分に吹き付けられるため、よりいっそう各ジョー10の周囲から切粉を効果的に除去できる。
【0054】
しかも、その切粉が付着しやすい部分には、ダストカバー70の傾斜した張出部73が位置しているため、容易かつ確実に切粉を排除できる。
【0055】
(変形例)
本発明が適用できるチャックは、前述した形態のチャック1に限らない。例えば、チャック本体1aの中央部に、各スライド溝24に直結した大きな円筒状の開口を有するタイプのチャックにも適用可能である。
【0056】
図8に、その一例を示す。基本的な構成は、実施形態のチャック1と同じであるため、同じ部材には同じ符号を用いてその説明は省略する。このチャック1'では、主に、アダプタ50の形状が異なっていて、アダプタ50が、開口を塞ぐように、ボディ20の正面にネジNで取り付けられている。そして、センターカバー60は、ボディ20ではなく、アダプタ50に取り付けられ、各ダストカバー70の突端部は、ボディ20の正面ではなく、アダプタ50の正面に沿ってスライドするようになっている。
【0057】
このチャック1'でも、前述したチャック1と同じ作用効果を得ることができるので、切粉の侵入が効果的に防止でき、長期にわたって安定した動作が保持できる。
【0058】
なお、本発明にかかるチャックは、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0059】
例えば、ダストカバー70、センターカバー60、アダプタ50等の形状は一例であり、所望の作用効果が得られる範囲で、仕様に応じて適宜変更できる。傾斜部72の傾斜面と逆傾斜面63aの角度は、略平行で無くてもよい。切粉の種類やその飛散状況に応じて、傾斜部72の傾斜面と逆傾斜面63aとの間の隙間は、外周側に向かって狭めるようにしても良いし、逆に拡がるようにしてもよい。
【0060】
少なくともワークを支持する支持位置で、ダストカバー70の突端部がセンターカバー60の周縁部の裏側に入り込んでいれば足りるので、ワークが支持されない待機位置では、ダストカバー70の突端はセンターカバー60の外側に位置していてもよい。
【0061】
本発明の実施形態やその変形例を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0062】
1 チャック
1a チャック本体
10 ジョー
11 マスタージョー
12 トップジョー
20 ボディ
24 スライド溝
24a 隙間
30 プランジャー
40 連結体
50 アダプタ
60 センターカバー
70 ダストカバー
80 ノズル
90 噴出通路
100 工作機械
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8