(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】気液反応装置
(51)【国際特許分類】
B01J 10/00 20060101AFI20220308BHJP
C07B 61/00 20060101ALI20220308BHJP
B01J 8/06 20060101ALI20220308BHJP
C07C 5/03 20060101ALI20220308BHJP
C07C 15/073 20060101ALI20220308BHJP
C07C 31/08 20060101ALI20220308BHJP
C07C 29/141 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B01J10/00 Z
C07B61/00 300
B01J8/06
C07C5/03
C07C15/073
C07C31/08
C07C29/141
(21)【出願番号】P 2018558022
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2017045640
(87)【国際公開番号】W WO2018117136
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】P 2016247137
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227087
【氏名又は名称】日曹エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】小林 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 高広
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-119811(JP,A)
【文献】国際公開第2005/067862(WO,A1)
【文献】特開平08-268921(JP,A)
【文献】特開2010-241689(JP,A)
【文献】特公昭49-048403(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00- 12/02
B01J 8/00- 8/06
B01J 14/00- 19/32
C07C 1/00-409/44
C07B 31/00- 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解性気体を一定流量で反応器入口に供給するための気体供給流路、
液体基質を一定流量で反応器入口に供給するための液体供給流路、
溶解性気体と液体基質とを反応させて生成物を得るための
触媒層を有する反応器、
反応器出口から排出される生成物含有液体に含まれていることがある気泡を検出するための気泡検出器、
反応器出口から排出される生成物含有液体のうちの一部を一定流量で抜き出すための生成物排出流路、
反応器出口から排出される生成物含有液体のうちの残りを反応器入口に供給するための返送流路、
気体供給流路、液体供給流路、反応器および返送流路を中におさめた恒温槽、および
生成物含有液体に含まれる気泡の量が所定値以下になるように、反応器内の圧力、反応器内の温度および返送流路における生成物含有液体の流量からなる群から選ばれる少なくとも一つを制御するための制御機器
を有する気液反応装置。
【請求項2】
恒温槽の中で、一定流量で供給される溶解性気体と一定流量で供給される液体基質と制御された流量で返送される生成物含有液体とを混合して反応物含有液体を調製し、
前記恒温槽の中で、調製された反応物含有液体を、
触媒層を有する反応器に連続的に供給し化学反応させ、得られた生成物含有液体を反応器から連続的に排出し、
排出された生成物含有液体に含まれていることがある気泡を検出し、
排出された生成物含有液体のうちの一部は一定流量で抜き出し、
前記恒温槽の中で、排出された生成物含有液体のうちの残りは返送し、
生成物含有液体に含まれる気泡の量が所定値以下になるように、反応物含有液体の圧力、反応物含有液体の温度および返送される生成物含有液体の流量からなる群から選ばれる少なくとも一つを制御することを含む
気液反応方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気液反応装置および気液反応方法に関する。より詳細に、本発明は、溶解性気体と液体基質との化学反応を効率的に行うことができる気液反応装置および気液反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気液反応においては、溶解性気体が液境膜内を物理拡散する過程と、溶解性気体が液相内で化学反応する過程とが順次起きる。触媒などによって化学反応を促進させると液相内の溶解性気体の量が減少するので、物理拡散過程が化学反応の律速段階になることがある。
気液反応装置または気液反応方法として、例えば、以下のようなものが提案されている。
【0003】
特許文献1は、反応器中で液体アンモニアの存在において不均一系触媒によりフタロジニトリルを連続的に水素化することによってキシリレンジアミンを製造する方法であって、その際、反応器流出物の一部を液体循環流として連続的に反応器入口に返送する(循環運転方式)製造法において、混合装置を用いてフタロジニトリルを溶融物としてまたは固体の形で液体アンモニアの流(流a)および少なくとも部分流として水素化反応器の周りの循環流から取り出されるさらに他の流(流b)、または流aおよびbからの混合物と混合しかつ結果生じる液体混合物を水素化反応器中に送り込むことを特徴とする、反応器中で液体アンモニアの存在において不均一系触媒によりフタロジニトリルを連続的に水素化することによってキシリレンジアミンを製造する方法を開示している。
【0004】
特許文献2は、液体フタロジニトリルを、不均一系触媒上で液体アンモニアの存在下で反応器内において連続的に水素化することによってキシリレンジアミンを製造する方法において、混合装置によってフタロジニトリル溶融物流を液状で液体アンモニア流と混合し、そしてこの液体混合物を水素化反応器内に導入すること、反応器排出物の一部を、液体の回流として反応器入口に連続的に返送し(循環式)、そしてアンモニアとフタロジニトリルとの液体混合物を、水素化反応器をめぐる回流中に給送し、その際、前記回流は、93質量%を上回るまで液体アンモニア及びキシリレンジアミンから構成されていることを特徴とする方法を開示している。
【0005】
特許文献3は、反応器中で、液体アンモニアの存在下で、不均一系触媒上で、液体フタロニトリルを連続的に水素化し、その際、反応器搬出物の一部を液体循環流として、連続的に反応器入口に再循環( 循環様式) させる、キシリレンジアミンの製造方法において、混合ユニットを用いて、フタロニトリル溶融物の流を液体の形で、水素化反応器周囲の循環流に導入し、その際、反応器中のフタロニトリル変換率はシングルパスで9 9 % を上廻り、かつ循環流は、9 3 質量% を上廻る液体アンモニアおよびキシリレンジアミンから成り、かつフタロニトリルのための他の溶剤を含有することはないことを特徴とする、キシリレンジアミンの製造方法を開示している。
【0006】
特許文献4は、触媒の存在下で、前記触媒が成形体として固定床中に配置されている反応器内で、水素を用いて有機ニトリルを水素化するための方法であって、前記成形体が球状またはストランド状の場合はそれぞれ2.5mm以下の直径、タブレット状の場合は2.5mm以下の高さ、および全ての他の形状の場合はそれぞれ、0.5mm以下の等価直径L=1/a’[式中、a’は単位体積あたりの外表面積(mms2/mmp3)であり、a’=Ap/Vpであり、前記Apは触媒粒子の外表面積(mms2)であり、且つ、前記Vpは触媒粒子の体積(mmp3)である]を有すること、および水素化反応器からの排出物の一部(部分排出物)を、返送流として反応器に戻し(循環流)、且つ、循環流と供給される出発材料流との比が0.5:1~250:1の範囲であることを特徴とする、方法を開示している。
【0007】
特許文献5は、触媒の存在下で、前記触媒が固定床中に配置されている反応器内で、水素を用いてニトリルを水素化するための方法であって、反応器内の断面積負荷量が5kg/(m2s)~50kg/(m2s)の範囲であり、水素化反応器からの排出物の一部(部分排出物)を、返送流として反応器に戻し(循環流)、且つ、循環流と供給される出発材料流との比が0.5:1~250:1の範囲である方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2009-503018号公報
【文献】特表2007-533616号公報
【文献】特表2007-505073号公報
【文献】特表2014-516342号公報
【文献】特表2014-516344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、溶解性気体の物理拡散速度を高めて、溶解性気体と液体基質との化学反応を効率的に行うことができる気液反応装置および気液反応方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために検討した結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0011】
〔1〕 溶解性気体を一定流量で反応器入口に供給するための気体供給流路、
液体基質を一定流量で反応器入口に供給するための液体供給流路、
溶解性気体と液体基質とを反応させて生成物を得るための反応器、
反応器出口から排出される生成物含有液体に含まれていることがある気泡を検出するための気泡検出器、
反応器出口から排出される生成物含有液体のうちの一部を一定流量で抜き出すための生成物排出流路、
反応器出口から排出される生成物含有液体のうちの残りを反応器入口に供給するための返送流路、および
生成物含有液体に含まれる気泡の量が所定値以下になるように、反応器内の圧力、反応器内の温度および返送流路における生成物含有液体の流量からなる群から選ばれる少なくとも一つを制御するための制御機器
を有する気液反応装置。
【0012】
〔2〕 一定流量で供給される溶解性気体と一定流量で供給される液体基質と制御された流量で返送される生成物含有液体とを混合して反応物含有液体を調製し、
調製された反応物含有液体を反応器に連続的に供給し化学反応させ、得られた生成物含有液体を反応器から連続的に排出し、
排出された生成物含有液体に含まれていることがある気泡を検出し、
排出された生成物含有液体のうちの一部は一定流量で抜き出し、
排出された生成物含有液体のうちの残りは返送し、
生成物含有液体に含まれる気泡の量が所定値以下になるように、反応物含有液体の圧力、反応物含有液体の温度および返送される生成物含有液体の流量からなる群から選ばれる少なくとも一つを制御することを含む
気液反応方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の気液反応装置および気液反応方法によれば、溶解性気体の物理拡散速度を高めて、溶解性気体と液体基質との化学反応を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の気液反応装置の一例を示す図である。
【
図2】本発明の気液反応装置の別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照しながら本発明の気液反応装置および気液反応方法を説明する。
図1に示される気液反応装置は、気体供給流路1、液体供給流路2、反応器3、気泡検出器4、生成物排出流路5、返送流路6、および制御機器を有する。
【0016】
溶解性気体容器14から気体供給流路1を通して混合器13を経て反応器3に溶解性気体を供給する。溶解性気体の供給流量は実質的に一定である。
液体基質容器15から液体供給流路2を通してポンプ9および混合器13を経て反応器3に液体基質を供給する。液体基質の供給流量は実質的に一定である。
溶解性気体および液体基質の供給流量は、溶解性気体と液体基質との化学反応に応じて設定する。例えば、アセトアルデヒドの水素還元反応の場合、アセトアルデヒド1モルに対して水素1モルとなる割合に設定することができる。
CH3CHO+H2 → CH3CH2OH
【0017】
液体基質としては、基質自体が反応温度において液体のもの、基質を溶媒に溶解させてなるものを用いることができる。
溶解性気体としては、酸素、水素、一酸化炭素などを用いることができる。
【0018】
図1に示される装置においては、一定流量で供給される液体基質に制御された流量で返送される生成物含有液体が先ず混ぜ合わせられ、次いで、それに一定流量で供給される溶解性気体が混合器13において混ぜ合わせられている。なお、混合の順序はこれに限られない。また、混合器13はミリリアクタまたはマイクロリアクタ(マイクロミキサ)であることが好ましい。このような混合によって、反応物含有液体が調製される。混合器には、スタティックミキサなどの撹拌するための装置が設置されていてもよい。
【0019】
調製された反応物含有液体を反応器3に連続的に供給し化学反応させる。反応器3には、反応物含有液体を撹拌するための装置が設けられていてもよい。撹拌装置としてはスタティックミキサ、スクリューミキサ、リボンミキサなどを挙げることができる。また、反応器3には、化学反応を促進させるために触媒層を設けてもよい。触媒層は、固定床式、流動床式、移動床式のいずれであってもよい。
図1に示される装置における反応器3は固定床式触媒層を有する。また、
図1に示される装置では反応物含有液体を反応器3の底部から頂部に向かって流している。
【0020】
次いで、この化学反応によって得られる生成物含有液体を反応器から連続的に排出する。反応器から排出された生成物含有液体のうちの一部は一定流量で抜き出し、生成物容器16に受け取る。受け取られた生成物含有液体は、必要に応じて、公知の手法によって、分離、精製などを行って目的物質を得ることができる。反応器から排出された生成物含有液体のうちの残りは返送流路6を通して反応器3に返送する。返送流量は後述する方法で制御する。
【0021】
反応物含有液体には溶解性気体が気泡状態で含まれていることがあるので、気液分離器や脱揮装置によって気泡状態の溶解性気体を除去することができる。水素などの可燃性ガスの気泡が含まれている場合は、窒素ガス11などで希釈して大気放出するか、フレアスタック等で焼却して大気放出する。
図1に示す装置では、返送流路6と生成物排出流路5との分岐部の手前に気液分離器12が設置されているが、分岐部の後流である生成物排出流路5に気液分離器を設置することもできる。
【0022】
本発明においては、反応器から排出された生成物含有液体に含まれていることがある気泡を検出する。気泡の量が所定値よりも多く検出される場合は、触媒劣化、気液接触不十分などの原因で化学反応が反応器3において十分に進んでいない可能性があることを示唆する。気泡が検出されない場合は、化学反応が反応器3において十分に進んでいるか、または溶解性気体の供給が止まっているか、少ないか若しくは気体が漏れているかなどの可能性があることを示唆する。溶解性気体の供給量は気体供給流路に設置した流量計で監視することができる。反応器3、返送流路6、気体供給流路1、液体供給流路2が収納された恒温槽17内のガス組成を監視することによってガス漏れを検知することができる。気体供給流路に設置した流量計および恒温槽17内のガス組成が正常値である場合、気泡が検出されないことは、化学反応が反応器3において十分に進んでいることを示唆する。
【0023】
本発明においては、生成物含有液体に含まれる気泡の量が所定値以下、好ましくはゼロになるように、反応物含有液体の圧力、反応物含有液体の温度および返送される生成物含有液体の流量からなる群から選ばれる少なくとも一つを制御する。
【0024】
反応物含有液体の圧力を高くするほどに溶解性気体の物理拡散速度(溶解速度)が高くなって気泡を減少させる傾向がある。反応物含有液体の温度を低くするほどに溶解性気体の物理拡散速度(溶解速度)が高くなって気泡を減少させる傾向がある。返送される生成物含有液体の流量を高くするほどに溶解性気体の物理拡散速度(溶解速度)が高くなって気泡を減少させる傾向がある。
【0025】
本発明に用いられる制御機器は、例えば、反応器3に取り付けた圧力計により反応器の圧力を計測し、その計測値に基いてポンプ8の吐出圧、窒素ガス供給圧、背圧弁10などを調節することによって、反応物含有液体又は反応器の圧力を制御することができる。本発明に用いられる制御機器は、例えば、少なくとも反応器3、返送流路6、気体供給流路1、液体供給流路2が収納された恒温槽17内の温度を温度計7で計測し、その計測値に基いて恒温槽17のヒータもしくはクーラの出力を調節することによって反応物含有液体又は反応器の温度を制御することができる。返送流路6に熱交換器を設置して返送流路6を流れる反応物含有液体の温度を熱交換器によって制御することができる。また、本発明に用いられる制御機器は、例えば、返送流路に設置した流量計で返送流量を計測し、その計測値に基いてポンプ8の吐出量を調節することによって返送される生成物含有液体の流量を制御することができる。
【0026】
図2を参照しながら、本発明の効果を説明する。
直径200μmの球状のパラジウムカーボン(Pd 5重量%)を充填した長さ50mm、内径6mmの管型反応器3に、
図2に示すように、混合器13(日曹エンジニアリング社製ミリリアクタ)、気泡検出器4(オムロン社製E3NX-FA[625nm])、気液分離器12、温度計7、温度計18、恒温槽17、気体供給流路1、液体供給流路2、返送流路6、およびポンプ8を取り付けた。その他、図示していないバルブ、計装機器なども取り付けて、反応装置を組み立てた。
液体供給流路2を通して5重量%スチレンのメタノール溶液を0.95ml/分で、気体供給流路1を通して水素ガスを8.47Nml/分で、混合器13に供給し、両者を混ぜ合わせた。得られた混合物を温度25℃に設定された管型反応器3の底部に供給し、スチレンと水素とを反応させた。管型反応器3の頂部から抜き出された液の一部を気液分離器に供給し、分離された液体を生成物排出流路5を通して0.95ml/minで抜き出した。
【0027】
ポンプ8の吐出量を調節して、管型反応器3の頂部から抜き出された液の残部を返送流路6を通して20ml/分で混合器13の入口側に戻した。この条件にて反応装置が定常状態になったとき、気泡検出量は0.072~0.103Nml/分であった。
【0028】
ポンプ8を制御して、返送流路6を通して戻す液の量を徐々に上昇させると、気泡検出量が徐々に低下し、エチルベンゼンの収率が徐々に上昇した。
返送流路6を通して戻す液の量を38ml/分にした。この条件にて反応装置が定常状態になったとき、気泡検出量は0~0.014Nml/分で、生成物排出流路5を通して抜き出された液にて測定したエチルベンゼンの収率は98.0%であった。
【符号の説明】
【0029】
1:気体供給流路; 2:液体供給流路; 3:反応器(触媒層); 4:気泡検出器; 5:生成物排出流路; 6:返送流路; 7:温度計; 8:ポンプ; 9:ポンプ; 10:背圧弁; 11:窒素ガス; 12:気液分離器; 13:混合器; 14:溶解性気体容器; 15:液体基質容器; 16:生成物容器; 17:恒温槽; 18:温度計