(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20220308BHJP
F16C 17/04 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
F16J15/34 G
F16C17/04 A
(21)【出願番号】P 2018564477
(86)(22)【出願日】2018-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2018000776
(87)【国際公開番号】W WO2018139231
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2020-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2017014711
(32)【優先日】2017-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100201259
【氏名又は名称】天坂 康種
(74)【代理人】
【識別番号】100116506
【氏名又は名称】櫻井 義宏
(72)【発明者】
【氏名】木村 航
(72)【発明者】
【氏名】徳永 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】根岸 雄大
(72)【発明者】
【氏名】細江 猛
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀行
(72)【発明者】
【氏名】井口 徹哉
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/186015(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/103631(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/203878(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34-15/38
F16C 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品は固定側密封環であり、他方の摺動部品は回転側密封環であり、これらの密封環は半径方向に形成された摺動面を有し、被密封流体である液体又はミスト状の流体が漏洩するのをシールするものであって、
前記摺動面の少なくとも一方に、前記摺動面の被密封流体側の周縁に連通し、漏れ側の周縁には連通しないように構成された正圧発生溝を有する正圧発生機構、及び、
上流側の端部が前記漏れ側に位置すると共に下流側の端部が前記被密封流体側に位置するように傾斜して配設された吐出し溝を備え
、
前記吐出し溝は前記正圧発生機構の周方向の間に配置され、前記吐出し溝の前記下流側の端部の径方向位置は、前記正圧発生溝の下流側端部の径方向位置と同一である、又は、前記正圧発生溝の下流側端部の径方向位置よりも前記被密封流体側にあることを特徴とする摺動部品。
【請求項2】
前記吐出し溝は、
前記上流側の端部が前記漏れ側と非連通であって、
前記下流側の端部が前記被密封流体側と連通され
ていることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記吐出し溝は、
前記上流側の端部が前記漏れ側と連通され、
前記下流側の端部が前記被密封流体側と非連
通であることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品。
【請求項4】
前記吐出し溝は、
前記上流側の端部が前記漏れ側と非連通であって、前記下流側の端部が前記被密封流体側と連通される溝
、及び
、前記上流側の端部が前記漏れ側と連通され、前記下流側の端部が前記被密封流体側と非連通の溝
からなることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品。
【請求項5】
前記摺動面には、上流側の端部が前記漏れ側と連通され、下流側の端部が前記被密封流体側の周縁には非連通であって、上流側から下流側に向けて傾斜するように配設されたスパイラル溝が設けられることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の摺動部品。
【請求項6】
前記吐出し溝の溝深さは、前記正圧発生溝又は前記スパイラル溝の溝深さよりも深いことを特徴とする請求項5に記載の摺動部品。
【請求項7】
前記正圧発生溝は、レイリーステップ機構のグルーブ部から構成されることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品。
【請求項8】
前記グルーブ部は、下流側の幅又は深さが上流側の幅又は深さに比べて小さく設定されることを特徴とする請求項7に記載の摺動部品。
【請求項9】
前記摺動面のランド部には、ディンプルが設けられることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、メカニカルシール、軸受、その他、摺動部に適した摺動部品に関する。特に、摺動面に流体を介在させて摩擦を低減させるとともに、摺動面から流体が漏洩するのを防止する必要のある密封環、例えば、ターボチャージャー用あるいは航空エンジン用のギアボックスに使用されるオイルシール、または軸受などの摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部品の一例である、メカニカルシールにおいて、その性能は、漏れ量、摩耗量、及びトルクによって評価される。従来技術ではメカニカルシールの摺動材質や摺動面粗さを最適化することにより性能を高め、低漏れ、高寿命、低トルクを実現している。しかし、近年の環境問題に対する意識の高まりから、メカニカルシールの更なる性能向上が求められており、従来技術の枠を超える技術開発が必要となっている。
そのような中で、例えば、ターボチャージャーのような回転部品のオイルシール装置に利用されるものとして、ハウジングに回転可能に収納された回転軸と、回転軸とともに回転する円盤状の回転体と、ハウジングに固定され、回転体の端面に当接して外周側から内周側へオイルの漏れるのを防止する円盤状の固定体とを備え、固定体の当接面には流体の遠心力により正圧を発生する環状の溝が設けられ、オイルが外周側から内周側へ漏れるのを防止するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、例えば、有毒の流体をシールする回転軸の軸封装置において、回転軸とともに回転リングとケーシングに取付けられた静止リングとを備え、回転リング及び静止リングのいずれかの摺動面に回転リングの回転により低圧側の液体を高圧側に向かって巻き込むスパイラル溝が高圧側の端部が行止まり形状であるように設けられ、高圧側の被密封流体が低圧側へ漏れるのを防止するようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
また、例えば、ターボチャージャーの駆動軸を圧縮機ハウジングに対してシールするのに適した面シール構造として、協働する1対のシールリングのうち、その一方は回転構成要素に設けられ、他方は静止構成要素に設けられ、これらのシールリングは、作動中に実質的に半径方向に形成されたシール面を有して、シール面同士の間に、シール面の外側区域をシール面の内側区域に対してシールするためのシールギャップが形成され、シール面の少なくとも一方に、ガスを送り込むのに有効な周方向に離間した複数の凹部が設けられ、該凹部はシール面の一方の周縁から他方の周縁に向かって延びているとともに、凹部の内端は前記シール面の他方の周縁から半径方向に離間して設けられ、非ガス成分を含むガス媒体中の非ガス成分がシールされるようにしたものが知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭62-117360号公報
【文献】特開昭62-31775号公報
【文献】特開2001-12610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1ないし3に記載の従来技術においては、相対摺動する1対の摺動部品の摺動面に設けられたスパイラル溝等の溝により流体の流れが摺動面内に集中し、摺動面内に摩耗粉やコンタミ等の異物が堆積し、摺動面の摩耗及び漏れが発生するという問題があった。
【0006】
本発明は、相対摺動する1対の摺動部品の少なくとも一方の摺動面に表面テクスチャを施し、起動時から定常運転状態において摺動面に積極的に流体を導入して潤滑性を向上させるとともに、摺動面内に摩耗粉やコンタミ等の異物が堆積するのを防止し、摺動面の摩耗及び漏れの発生を防止できる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の摺動部品は、第1に、
互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品は固定側密封環であり、他方の摺動部品は回転側密封環であり、これらの密封環は半径方向に形成された摺動面を有し、被密封流体である液体又はミスト状の流体が漏洩するのをシールするものであって、
前記摺動面の少なくとも一方に、前記摺動面の被密封流体側の周縁に連通し、漏れ側の周縁には連通しないように構成された正圧発生溝を有する正圧発生機構、及び、
上流側の端部が前記漏れ側に位置すると共に下流側の端部が前記被密封流体側に位置するように傾斜して配設された吐出し溝を備え、
前記吐出し溝は前記正圧発生機構の周方向の間に配置され、前記吐出し溝の前記下流側の端部の径方向位置は、前記正圧発生溝の下流側端部の径方向位置と同一である、又は、前記正圧発生溝の下流側端部の径方向位置よりも前記被密封流体側にあることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面間の流体膜を増加させ、摺動面の潤滑性能を向上させると共に、摺動面に存在する摩耗粉やコンタミ等の異物を摺動面内から被密封流体側に排出することができ、摺動面の摩耗及び漏れの発生を防止することができる。
【0008】
また、本発明の摺動部品は、第2に、第1の特徴において、
前記吐出し溝は、前記上流側の端部が前記漏れ側と非連通であって、前記下流側の端部が前記被密封流体側と連通されていることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面内部からの流体の流れが外周側まで形成され、確実に異物を摺動面内から被密封流体側に排出することができる。
【0009】
また、本発明の摺動部品は、第3に、第1の特徴において、
前記吐出し溝は、前記上流側の端部が前記漏れ側と連通され、前記下流側の端部が前記被密封流体側と非連通であることを特徴としている。
この特徴によれば、漏れ側の流体を積極的に摺動面にポンピングすることができ、内周から摺動面への流体の流れを促進し、遠心力を利用して摺動面に存在する摩耗粉やコンタミ等の異物を外周側に排出することができる。
【0010】
また、本発明の摺動部品は、第4に、第1の特徴において、
前記吐出し溝は、前記上流側の端部が前記漏れ側と非連通であって、前記下流側の端部が前記被密封流体側と連通される溝、及び、前記上流側の端部が前記漏れ側と連通され、前記下流側の端部が前記被密封流体側と非連通の溝からなることを特徴としている。
この特徴によれば、内周吐出し溝タイプの吐出し溝により漏れ側の流体を積極的に摺動面Sにポンピングすることができ、内周から摺動面への流体の流れを促進することができると共に、外周吐出し溝タイプの吐出し溝により摺動面内部からの流体の流れを外周側まで形成することができるので、より一層、確実に異物を摺動面内から被密封流体側に排出することができる。
【0011】
また、本発明の摺動部品は、第5に、第1ないし第4のいずれかの特徴において、前記摺動面には、上流側の端部が前記漏れ側と連通され、下流側の端部が前記被密封流体側の周縁には非連通であって、上流側から下流側に向けて傾斜するように配設されたスパイラル溝が設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面の漏れ側から正圧発生機構付近にかけて気体潤滑の状態となり非常に低摩擦にできると共に、漏れ側の気体が非密封流体側に向けてポンピングされるため、被密封流体が漏れ側へ漏洩することを防止できる。
【0012】
また、本発明の摺動部品は、第6に、第5の特徴において、前記吐出し溝の溝深さは、前記正圧発生溝又は前記スパイラル溝の溝深さよりも深いことを特徴としている。
この特徴によれば、摩耗粉やコンタミ等の異物の排出を確実にすると共に、負圧の発生を防止し、摺動面全体の浮上力の低下を防止することができる。
【0013】
また、本発明の摺動部品は、第7に、第1の特徴において、正圧発生溝は、レイリーステップ機構のグルーブ部から構成されることを特徴としている。
この特徴によれば、起動時などの回転側密封環の低速回転状態においても正圧(動圧)を発生するため、摺動面における低速時の液膜が増大され、低速時における潤滑性能を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の摺動部品は、第8に、第7の特徴において、前記グルーブ部は、下流側の幅又は深さが上流側の幅又は深さに比べて小さく設定されることを特徴としている。
この特徴によれば、正圧の発生効果を高めることができる。
【0015】
また、本発明の摺動部品は、第9に、第1ないし第8のいずれかの特徴において、前記摺動面のランド部には、ディンプルが設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面全体に流体を蓄積することができると共に摺動面間に正圧を発生して摺動面の潤滑性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)摺動面の少なくとも一方に、摺動面の被密封流体側の周縁に連通し、漏れ側の周縁には連通しないように構成された正圧発生溝を有する正圧発生機構、及び、上流側の端部が漏れ側に位置すると共に下流側の端部が被密封流体側に位置するように傾斜して配設された吐出し溝を備えることにより、摺動面間の流体膜を増加させ、摺動面の潤滑性能を向上させると共に、摺動面に存在する摩耗粉やコンタミ等の異物を摺動面内から被密封流体側に排出することができ、摺動面の摩耗及び漏れの発生を防止することができる。
【0017】
(2)吐出し溝は、上流側の端部が漏れ側と非連通であって、下流側の端部が前記被密封流体側と連通された外周吐出し溝タイプであることにより、摺動面内部からの流体の流れが外周側まで形成され、確実に異物を摺動面内から被密封流体側に排出することができる。
【0018】
(3)吐出し溝は、上流側の端部が漏れ側と連通され、下流側の端部が被密封流体側と非連通の内周吐出し溝タイプであることにより、漏れ側の流体を積極的に摺動面にポンピングすることができ、内周から摺動面への流体の流れを促進し、遠心力を利用して摺動面に存在する摩耗粉やコンタミ等の異物を外周側に排出することができる。
【0019】
(4)吐出し溝は、外周吐出し溝タイプ及び前記内周吐出し溝タイプであることにより、内周吐出し溝タイプの吐出し溝により漏れ側の流体を積極的に摺動面にポンピングすることができ、内周から摺動面への流体の流れを促進することができると共に、外周吐出し溝タイプの吐出し溝により摺動面内部からの流体の流れを外周側まで形成することができるので、より一層、確実に異物を摺動面内から被密封流体側に排出することができる。
【0020】
(5)摺動面には、上流側の端部が漏れ側と連通され、下流側の端部が被密封流体側の周縁には非連通であって、上流側から下流側に向けて傾斜するように配設されたスパイラル溝が設けられることにより、摺動面の漏れ側から正圧発生機構付近にかけて気体潤滑の状態となり非常に低摩擦にできると共に、漏れ側の気体が非密封流体側に向けてポンピングされるため、被密封流体が漏れ側へ漏洩することを防止できる。
【0021】
(6)吐出し溝の溝深さは、正圧発生溝又はスパイラル溝の溝深さよりも深いことにより、摩耗粉やコンタミ等の異物の排出を確実にすると共に、負圧の発生を防止し、摺動面全体の浮上力の低下を防止することができる。
【0022】
(7)正圧発生溝は、レイリーステップ機構のグルーブ部から構成されることにより、起動時などの回転側密封環の低速回転状態においても正圧(動圧)を発生するため、摺動面における低速時の液膜が増大され、低速時における潤滑性能を向上させることができる。
【0023】
(8)グルーブ部は、下流側の幅又は深さが上流側の幅又は深さに比べて小さく設定されることにより、正圧の発生効果を高めることができる。
【0024】
(9)摺動面のランド部には、ディンプルが設けられることにより、摺動面全体に流体を蓄積することができると共に摺動面間に正圧を発生して摺動面の潤滑性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施例1に係るメカニカルシールの一例を示す縦断面図である。
【
図2】本発明の実施例1に係る摺動部品の摺動面を示したものであって、固定側密封環の摺動面に表面テクスチャ(正圧発生機構及び吐出し溝)が設けられている。
【
図3】本発明の実施例2に係る摺動部品の摺動面を示したものであって、固定側密封環の摺動面に表面テクスチャ(正圧発生機構及び吐出し溝)が設けられている。
【
図4】本発明の実施例3に係る摺動部品の摺動面を示したものであって、固定側密封環の摺動面に表面テクスチャ(正圧発生機構及び吐出し溝)が設けられている。
【
図5】本発明の実施例4に係る摺動部品の摺動面を示したものであって、固定側密封環の摺動面に表面テクスチャ(正圧発生機構、吐出し溝及びポンピング溝)が設けられている。
【
図6】本発明の実施例5に係る摺動部品の摺動面を示したものであって、固定側密封環の摺動面に表面テクスチャ(正圧発生機構、吐出し溝及びポンピング溝)が設けられている。
【
図7】本発明の実施例6に係る摺動部品の摺動面を示したものであって、固定側密封環の摺動面に表面テクスチャ(正圧発生機構、吐出し溝及びポンピング溝)が設けられている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置などは、特に明示的な記載がない限り、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0027】
図1及び
図2を参照して、本発明の実施例1に係る摺動部品について説明する。
なお、以下の実施例においては、摺動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明する。また、メカニカルシールを構成する摺動部品の外周側を被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)、内周側を漏れ側(気体側)として説明するが、本発明はこれに限定されることなく、外周側が漏れ側(気体側)、内周側が被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)である場合も適用可能である。また、被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)と漏れ側(気体側)との圧力の大小関係については、例えば、被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)が高圧、漏れ側(気体側)が低圧、あるいは、その逆のいずれでもよく、また、両方の圧力が同一であってもよい。
【0028】
図1は、メカニカルシールの一例を示す縦断面図であって、摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする被密封流体、例えば、軸受部に使用された潤滑油を密封する形式のインサイド形式のものであり、ターボチャージャに備えられたコンプレッサのインペラー1を駆動させる回転軸2側にスリーブ3を介してこの回転軸2と一体的に回転可能な状態に設けられた一方の摺動部品である円環状の回転側密封環4と、ハウジング5にカートリッジ6を介して非回転状態で、かつ、軸方向移動可能な状態で設けられた他方の摺動部品である円環状の固定側密封環7とが設けられ、固定側密封環7を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング8によって摺動面S同士で密接摺動するようになっている。
すなわち、このメカニカルシールは、回転側密封環4及び固定側密封環7は半径方向に形成された摺動面Sを有し、互いの摺動面Sにおいて、被密封流体、例えば、液体あるいはミスト状の流体(以下、単に「液体」ということがある。)が摺動面Sの外周から内周側の漏れ側へ流出するのを防止するものである。
なお、符号9はOリングを示しており、カートリッジ6と固定側密封環7との間をシールするものである。
また、本例では、スリーブ3と回転側密封環4とは別体の場合について説明しているが、これに限らず、スリーブ3と回転側密封環4とを一体に形成してもよい。
また、固定側密封環7の外径は回転側密封環4の外径より大きい場合を示しているが、これに限定されることなく、逆であってもよい。
【0029】
回転側密封環4及び固定側密封環7の材質は、耐摩耗性に優れた炭化ケイ素(SiC)及び自己潤滑性に優れたカーボンなどから選定されるが、例えば、両者がSiC、あるいは、いずれか一方がSiCであって他方がカーボンの組合せが可能である。
【0030】
図2は、本発明の実施例1に係る摺動部品の摺動面Sを示したものであって、本例では、
図1の固定側密封環7の摺動面Sに表面テクスチャである吐出し溝10及び正圧発生機構11が設けられる場合について説明する。
なお、本例では、固定側密封環7の外径が回転側密封環4の外径より大きく設定されているため、吐出し溝10及び正圧発生機構11は固定側密封環7の摺動面Sの外周側端部
まで設けられる必要はなく、破線で示す回転側密封環4の外周側端部まで設けられていればよい。
また、本例においては、固定側密封環7の摺動面Sに吐出し溝10及び正圧発生機構11の加工が行われるため、固定側密封環7はカーボンから形成され、回転側密封環4は炭化ケイ素(SiC)から形成されている。
【0031】
図2において、固定側密封環7の摺動面Sの外周側が被密封流体側、例えば液体側であり、また、内周側が漏れ側、例えば気体側であり、相手側摺動面は矢印に示すように反時計方向に回転するものとする。
固定側密封環7の摺動面Sには、該摺動面Sの被密封流体側、すなわち、外周側の周縁に連通し、漏れ側、すなわち、内周側の周縁には連通しないように構成された正圧発生溝12を備えた正圧発生機構11が設けられる。
【0032】
図2の場合、正圧発生機構11はレイリーステップ機構から構成され、また、正圧発生溝12は、レイリーステップ機構のグルーブ部から構成されている。正圧発生溝であるグルーブ部12の上流側の端部12aは半径方向深溝13により被密封流体側と連通され、下流側の端部12bにおいてレイリーステップを構成し、レイリーステップにおいて正圧を発生する。正圧の発生により摺動面間の流体膜は増加され、摺動面Sの潤滑性能を向上させるものである。この正圧発生機構11は、特に、起動時などの回転側密封環4の低速回転状態においても正圧(動圧)を発生するため、摺動面Sにおける低速時の液膜が増大され、低速時における潤滑性能を向上させることができる。
【0033】
グルーブ部12は、下流側の幅又は深さを上流側の幅又は深さに比べて小さくなるように形成して正圧の発生を増大させるようにすることも有効である。
本例では、正圧発生機構11は、周方向に12等配に設けられているが、1以上あればよく、また、等配に限らない。
【0034】
また、摺動面Sには、上流側の端部10aが漏れ側に位置すると共に下流側の端部10bが被密封流体側に位置するように傾斜して配設された吐出し溝10が設けられる。
吐出し溝10は、一定の幅を有し、径方向に延びており、相対摺動により、上流側の端部10aから下流側の端部10bに向けて流体が流れ易いように傾斜して設けられるものであって、たとえば、スパイラル状あるいは矩形状をなしている。
吐出し溝10の溝深さは正圧発生溝12の溝深さに比較して十分に深く設定され、例えば、25μm~500μm程度に設定される。このため、摩耗粉やコンタミ等の異物の排出を確実にすると共に、負圧の発生を防止し、摺動面全体の浮上力を低下させることがない。
【0035】
図2の場合、吐出し溝10は、上流側の端部10aが漏れ側と非連通であって、下流側の端部10bが被密封流体側と連通された「外周吐出し溝タイプ」である。
吐出し溝10は正圧発生機構11の周方向の間に配設され、その下流側の端部10bは、正圧発生溝12よりも外周側に延びており、外周側への流体の排出を確実にしている。
【0036】
吐出し溝10は、摺動面Sに存在する摩耗粉やコンタミ等の異物を摺動面内から摺動面外に排出させ、摺動面Sにおける摩耗を抑制するものである。
図2に示す、外周吐出し溝タイプの吐出し溝10は、外周への流体の流れを促進し、遠心力を利用して摺動面Sに存在する摩耗粉やコンタミ等の異物を外周側に排出する機能を奏する。
【0037】
なお、摺動面Sのランド部R(摺動面の溝加工がされていない平滑部を意味する。)には、図示を省略するディンプル(円形溝等からなる溝)が適切な密度で複数設けられてもよい。このディンプルは、内部に流体を蓄積する機能、及び、摺動面間に正圧を発生する機能を有するものである。
【0038】
今、コンプレッサのインペラー1が駆動され、回転軸2を介して回転側密封環4が回転されると、摺動面S間の相対摺動により、正圧発生機構11において正圧が発生されて摺動面Sの間がわずかに離間され、外周側の液体が徐々に摺動面Sの間に導入されて流体潤滑作用により摺動面Sが非接触状態に保持される。その際、摺動面Sにおいて、吐出し溝10の上流側の端部10a付近から下流側の端部10b(非密封流体側)にかけて外周へ向かう流れが促進され、摺動面Sに存在する摩耗粉やコンタミ等の異物は摺動面内から被密封流体側に排出される。
本例では、特に、吐出し溝10は、下流側の端部10bが被密封流体側と連通された外周吐出し溝タイプであって、下流側の端部10bが正圧発生溝12よりも外周側に延びているため、流体の流れが外周側まで形成され、確実に異物を摺動面内から被密封流体側に排出することができる。
【0039】
以上説明した実施例1の構成によれば、以下のような効果を奏する。
(1)摺動面の少なくとも一方に、摺動面の被密封流体側の周縁に連通し、漏れ側の周縁には連通しないように構成された正圧発生溝12を有する正圧発生機構11、及び、上流側の端部10aが漏れ側に位置すると共に下流側の端部10bが被密封流体側に位置するように傾斜して配設された吐出し溝10を備えることにより、摺動面S間の流体膜を増加させ、摺動面Sの潤滑性能を向上させると共に、摺動面Sに存在する摩耗粉やコンタミ等の異物を摺動面内から被密封流体側に排出することができ、摺動面の摩耗及び漏れの発生を防止することができる。
(2)吐出し溝10は、上流側の端部10aが漏れ側と非連通であって、下流側の端部10bが被密封流体側と連通された外周吐出し溝タイプであることにより、摺動面S内部からの流体の流れが外周側まで形成され、確実に異物を摺動面内から被密封流体側に排出することができる。
(3)吐出し溝10の溝深さは、正圧発生溝12の溝深さよりも深いことにより、摩耗粉やコンタミ等の異物の排出を確実にすると共に、負圧の発生を防止し、摺動面全体の浮上力の低下を防止することができる。
(4)正圧発生溝は、レイリーステップ機構のグルーブ部から構成されることにより、起動時などの回転側密封環4の低速回転状態においても正圧(動圧)を発生するため、摺動面Sにおける低速時の液膜が増大され、低速時における潤滑性能を向上させることができる。
(5)グルーブ部は、下流側の幅又は深さが上流側の幅又は深さに比べて小さく設定されることにより、正圧の発生効果を高めることができる。
(6)摺動面のランド部にはディンプルが設けられることにより、摺動面S全体に流体を蓄積することができると共に摺動面間に正圧を発生して摺動面Sの潤滑性能を高めることができる。
【実施例2】
【0040】
図3を参照して、本発明の実施例2に係る摺動部品について説明する。
実施例2に係る摺動部品は、吐出し溝が内周吐出し溝タイプである点で実施例1の摺動部品と相違するが、その他の基本構成は実施例1と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0041】
図3において、摺動面Sには、上流側の端部14aが漏れ側に位置すると共に下流側の端部14bが被密封流体側に位置するように傾斜して配設された吐出し溝14が設けられる。
吐出し溝14は、一定の幅を有し、径方向に延びており、相対摺動により、上流側の端部14aから下流側の端部14bに向けて流体が流れ易いように傾斜して設けられるものであって、たとえば、スパイラル状あるいは矩形状をなしている。
吐出し溝14の溝深さは正圧発生溝12の溝深さに比べて深く設定される。
【0042】
図3の場合、吐出し溝14は、上流側の端部14aが漏れ側と連通され、下流側の端部14bが被密封流体側と非連通の「内周吐出し溝タイプ」である。
吐出し溝14は正圧発生機構11の周方向の間に配設され、その下流側の端部14bは、正圧発生溝12と径方向において重なる位置に設定されている。
【0043】
図3に示す、内周吐出し溝タイプの吐出し溝14は、上流側の端部14aが漏れ側と連通されているため、漏れ側の流体を積極的に摺動面Sにポンピングすることができ、内周から摺動面Sへの流体の流れを促進し、遠心力を利用して摺動面Sに存在する摩耗粉やコンタミ等の異物を外周側に排出する機能を奏することができる。
また、吐出し溝14の下流側の端部14bが正圧発生溝12と径方向においてほぼ重なる位置に設定されているため、正圧発生溝12の付近において正圧を発生させる効果も奏することができる。
【0044】
以上説明した実施例2の構成によれば、特に、以下のような効果を奏する。
(1)吐出し溝14は、上流側の端部14aが漏れ側と連通され、下流側の端部14bが被密封流体側と非連通の内周吐出し溝タイプであることにより、漏れ側の流体を積極的に摺動面Sにポンピングすることができ、内周から摺動面Sへの流体の流れを促進し、遠心力を利用して摺動面Sに存在する摩耗粉やコンタミ等の異物を外周側に排出することができる。
(2)吐出し溝14の下流側の端部14bが正圧発生溝12と径方向においてほぼ重なる位置に設定されていることにより、正圧発生溝12の付近において正圧を重畳的に発生させることができる。
【実施例3】
【0045】
図4を参照して、本発明の実施例3に係る摺動部品について説明する。
実施例3に係る摺動部品は、吐出し溝として外周吐出し溝タイプと内周吐出し溝タイプとの両者を備える点で実施例1の摺動部品と相違するが、その他の基本構成は実施例1と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0046】
図4において、摺動面Sには、外周吐出し溝タイプの吐出し溝10と、内周吐出し溝タイプの吐出し溝14との両者が設けられている。
【0047】
図4の場合、外周吐出し溝タイプの吐出し溝10と内周吐出し溝タイプの吐出し溝14とがペアを構成するようにして正圧発生機構11の周方向の間に12等配で配設され、外周吐出し溝タイプの吐出し溝10が上流側に、内周吐出し溝タイプの吐出し溝14が下流側に位置して配設されているが、これに限定されるものではない。
たとえば、内周吐出し溝タイプの吐出し溝14が上流側に、外周吐出し溝タイプの吐出し溝10が下流側に位置して配設されてもよい。
【0048】
以上説明した実施例3の構成によれば、特に、内周吐出し溝タイプの吐出し溝14により漏れ側の流体を積極的に摺動面Sにポンピングすることができ、内周から摺動面Sへの流体の流れを促進することができると共に、外周吐出し溝タイプの吐出し溝10により摺動面S内部からの流体の流れを外周側まで形成することができるので、より一層、確実に異物を摺動面内から被密封流体側に排出することができる。
【実施例4】
【0049】
図5を参照して、本発明の実施例4に係る摺動部品について説明する。
実施例4に係る摺動部品は、摺動面に正圧発生機構及び外周吐出し溝タイプの吐出し溝に加えてスパイラル溝を備える点で実施例1(
図2)の摺動部品と相違するが、その他の基本構成は実施例1と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0050】
図5において、摺動面Sには、正圧発生機構11及び外周吐出し溝タイプの吐出し溝10に加えてスパイラル溝15が設けられる。スパイラル溝15は、上流側の端部15aが漏れ側と連通され、下流側の端部15bが被密封流体側の周縁には非連通であって、上流側から下流側に向けて傾斜するように配設される。スパイラル溝15は、外周吐出し溝タイプの吐出し溝10の周方向の間に配設され、外周吐出し溝タイプの吐出し溝10の内周側部分とスパイラル溝15の外周側部分とが重複するように配設される。また、スパイラル溝15の下流側の端部15bは、正圧発生機構11の内側付近まで延びている。
【0051】
スパイラル溝15は、一定の幅を有し、径方向に延びており、相対摺動により、上流側の端部15aから下流側の端部15bに向けて流体が流れ易いように傾斜して設けられるものであって、スパイラル形状(螺旋形状)に限らず、たとえば、上流側の端部15aと下流側の端部15bを結ぶ両側の線が直線状であってスパイラル形状と同様に傾斜して配設されたものも含む。
本例では、スパイラル溝15は、周方向に適宜の間隔で4個を1組として12等配にに設けられているが、1以上あればよく、また、等配に限らない。
なお、外周吐出し溝タイプの吐出し溝10の溝深さは、正圧発生溝12及びスパイラル溝15の溝深さよりも深い。
【0052】
スパイラル溝15は、起動時から定常運転等の回転側密封環4の高速回転状態において、上流側の端部15aから気体を吸い込み、下流側の端部15b付近で動圧(正圧)を発生する。このため、回転側密封環4と固定側密封環7との摺動面Sに僅かな間隙が形成され、摺動面Sの内周側から下流側の端部15bである正圧発生機構11付近にかけて気体潤滑の状態となり非常に低摩擦となる。同時に、スパイラル形状であるため内周側の気体が外周側に向けてポンピングされ、外周側の液体が内周側へ漏洩することを防止できる。また、スパイラル溝15は外周側とはランド部Rにより隔離されているため、静止時において漏れが発生することがない。
【0053】
上記のように、正圧発生機構11及びスパイラル溝15が配列された場合、正圧発生機構11のレイリーステップ12b及びスパイラル溝15の外周側の端部15bの付近では高い圧力値を示すことが本発明者により確認されており、この高い圧力値を示す部分には流れが集中し、摩耗粉やコンタミ等の異物も集中する。
図5に示された外周吐出し溝タイプの吐出し溝10は、外周側の端部10aが被密封流体側の周縁に連通し、内周側の端部10aが漏れ側の周縁には連通せず、摺動面の高い圧力値を示す部分より内周側まで延びているから、集中的に存在する摩耗粉やコンタミ等の異物を摺動面内から外周側に排出することができる。
【実施例5】
【0054】
図6を参照して、本発明の実施例5に係る摺動部品について説明する。
実施例5に係る摺動部品は、摺動面に正圧発生機構及び内周吐出し溝タイプの吐出し溝に加えてスパイラル溝を備える点で実施例2(
図3)の摺動部品と相違するが、その他の基本構成は実施例2と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0055】
図6において、摺動面Sには、正圧発生機構11及び内周吐出し溝タイプの吐出し溝14に加えて正圧発生機能を有するスパイラル溝15が設けられる。スパイラル溝15は、上流側の端部15aが漏れ側と連通され、下流側の端部15bが被密封流体側の周縁には非連通であって、上流側から下流側に向けて傾斜するように配設される。スパイラル溝15は、内周吐出し溝タイプの吐出し溝14の周方向の間に配設され、内周吐出し溝タイプの吐出し溝14の先端部分より内周側の部分と重複するように配設される。また、スパイラル溝15の下流側の端部15bは、正圧発生機構11より径方向の内周側まで延びている。
なお、内周吐出し溝タイプの吐出し溝14の下流側の端部14bはスパイラル溝15の下流側の端部15bより外周側に延びている。
【0056】
スパイラル溝15は、一定の幅を有し、径方向に延びており、相対摺動により、上流側の端部15aから下流側の端部15bに向けて流体が流れ易いように傾斜して設けられるものであって、スパイラル状に限らず、たとえば、矩形状でもよい。。
本例では、スパイラル溝15は、周方向に適宜の間隔で4個を1組として12等配にに設けられているが、1以上あればよく、また、等配に限らない。
なお、内周吐出し溝タイプの吐出し溝14の溝深さは、正圧発生溝12及びスパイラル溝15の溝深さよりも深い。
【0057】
スパイラル溝15は、起動時から定常運転等の回転側密封環4の高速回転状態において、内周側の入口15aから気体を吸い込み、外周側の端部15b付近で動圧(正圧)を発生する。このため、回転側密封環4と固定側密封環7との摺動面Sに僅かな間隙が形成され、摺動面Sの内周側から外周側の端部15b付近にかけて気体潤滑の状態となり非常に低摩擦となる。同時に、スパイラル形状であるため内周側の気体が外周側に向けてポンピングされ、外周側の液体が内周側へ漏洩することが防止される。また、スパイラル溝15は外周側とはランド部Rにより隔離されているため、静止時において漏れが発生することがない。
【0058】
上記のように、正圧発生機構11及びスパイラル溝15が配列された場合、正圧発生機構11のレイリーステップ12b及びスパイラル溝15の外周側の端部15bの付近では高い圧力値を示すことが本発明者により確認されており、この高い圧力値を示す部分には流れが集中し、摩耗粉やコンタミ等の異物も集中する。
図6に示された内外周吐出し溝タイプの吐出し溝14は、上流側の端部14aが漏れ側と連通され、下流側の端部14bが被密封流体側と非連通であって摺動面の高い圧力値を示す部分より外周側まで延びているから、漏れ側の流体を積極的に摺動面Sにポンピングすることができ、内周から摺動面Sへの流体の流れを促進し、集中的に存在する摩耗粉やコンタミ等の異物を摺動面内から外周側に排出することができる。
【実施例6】
【0059】
図7を参照して、本発明の実施例5に係る摺動部品について説明する。
実施例6に係る摺動部品は、摺動面に正圧発生機構、外周吐出し溝タイプの吐出し溝及び内周吐出し溝タイプの吐出し溝に加えてスパイラル溝を備える点で実施例3(
図4)の摺動部品と相違するが、その他の基本構成は実施例3と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0060】
図7において、摺動面Sには、正圧発生機構11、外周吐出し溝タイプの吐出し溝10及び内周吐出し溝タイプの吐出し溝14に加えて正圧発生機能を有するスパイラル溝15が設けられる。スパイラル溝15は、上流側の端部15aが漏れ側と連通され、下流側の端部15bが被密封流体側の周縁には非連通であって、上流側から下流側に向けて傾斜するように配設される。スパイラル溝15は、外周吐出し溝タイプの吐出し溝10と内周吐出し溝タイプの吐出し溝14との間に配設され、外周吐出し溝タイプの吐出し溝10の内周側部分とスパイラル溝15の外周側部分とが重複され、内周吐出し溝タイプの吐出し溝14の先端部分より内周側の部分と重複するように配設される。また、スパイラル溝15の下流側の端部15bは、正圧発生機構11より径方向の内周側まで延びている。
【0061】
スパイラル溝15は、一定の幅を有し、径方向に延びており、相対摺動により、上流側の端部15aから下流側の端部15bに向けて流体が流れ易いように傾斜して設けられるものであって、スパイラル状に限らず、たとえば、矩形状でもよい。。
本例では、スパイラル溝15は、周方向に適宜の間隔で3個を1組として12等配にに設けられているが、1以上あればよく、また、等配に限らない。
なお、外周吐出し溝タイプの吐出し溝10及び内周吐出し溝タイプの吐出し溝14の溝深さは、正圧発生溝12及びスパイラル溝15の溝深さよりも深い。
【0062】
スパイラル溝15は、起動時から定常運転等の回転側密封環4の高速回転状態において、内周側の入口15aから気体を吸い込み、外周側の端部15b付近で動圧(正圧)を発生する。このため、回転側密封環4と固定側密封環7との摺動面Sに僅かな間隙が形成され、摺動面Sの内周側から外周側の端部15b付近にかけて気体潤滑の状態となり非常に低摩擦となる。同時に、スパイラル形状であるため内周側の気体が外周側に向けてポンピングされ、外周側の液体が内周側へ漏洩することが防止される。また、スパイラル溝15は外周側とはランド部Rにより隔離されているため、静止時において漏れが発生することがない。
【0063】
上記のように、正圧発生機構11及びスパイラル溝15が配列された場合、正圧発生機構11のレイリーステップ12b及びスパイラル溝15の外周側の端部15bの付近では高い圧力値を示すことが本発明者により確認されており、この高い圧力値を示す部分には流れが集中し、摩耗粉やコンタミ等の異物も集中する。
図7に示された外周吐出し溝タイプの吐出し溝10は、外周側の端部10aが被密封流体側の周縁に連通し、内周側の端部10aが漏れ側の周縁には連通せず、摺動面の高い圧力値を示す部分より内周側まで延びており、また、内外周吐出し溝タイプの吐出し溝14は、上流側の端部14aが漏れ側と連通され、下流側の端部14bが被密封流体側と非連通であって摺動面の高い圧力値を示す部分より外周側まで延びているから、内外周吐出し溝タイプの吐出し溝14で漏れ側の流体を積極的に摺動面Sにポンピングし、外周吐出し溝タイプの吐出し溝10により外周側に排出し、内周から外周への流体の流れを促進し、集中的に存在する摩耗粉やコンタミ等の異物を摺動面内から外周側に排出することができる。
【0064】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0065】
例えば、前記実施例では、摺動部品をメカニカルシール装置における一対の回転用密封環及び固定用密封環のいずれかに用いる例について説明したが、円筒状摺動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸と摺動する軸受の摺動部品として利用することも可能である。
【0066】
また、例えば、前記実施例では、摺動部品の外周側を被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)、内周側を漏れ側(気体側)として説明したが、本発明はこれに限定されることなく、外周側が漏れ側(気体側)、内周側が被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)である場合も適用可能である。また、被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)と漏れ側(気体側)との圧力の大小関係については、例えば、被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)が高圧、漏れ側(気体側)が低圧、あるいは、その逆のいずれでもよく、また、両方の圧力が同一であってもよい。
【0067】
また、例えば、前記実施例では、正圧発生機構11は、半径方向深溝13を介して外周側の周縁に連通する正圧発生溝12、たとえばレイリーステップを備えたレイリーステップ機構のグルーブ部から構成される場合について説明したが、これに限定されることなく、スパイラル溝から構成される正圧発生機構でもよく、要は、正圧を発生する機構であればよい。
【符号の説明】
【0068】
1 インペラー
2 回転軸
3 スリーブ
4 回転側密封環
5 ハウジング
6 カートリッジ
7 回転側密封環
8 コイルドウェーブスプリング
10 吐出し溝(外周吐出し溝タイプ)
10a 上流側の端部
10b 下流側の端部
11 正圧発生機構(レイリーステップ機構)
12 正圧発生溝(レイリーステップを有するグルーブ部)
12a 上流側の端部
12b 下流側の端部
13 半径方向深溝
14 吐出し溝(内周吐出し溝タイプ)
14a 上流側の端部
14b 下流側の端部
15 スパイラル溝
15a 上流側の端部
15b 下流側の端部
S 摺動面
R ランド部