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  • 特許-昆布ペーストの製造方法。 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】昆布ペーストの製造方法。
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/60 20160101AFI20220308BHJP
【FI】
A23L17/60 102
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019068638
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020162546
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591183625
【氏名又は名称】フジッコ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 達美
(72)【発明者】
【氏名】新田 文祐
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-163852(JP,A)
【文献】特開平7-250654(JP,A)
【文献】特開平3-103157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆布を一次水煮処理する工程と、粉砕処理する工程と、二次水煮処理をする工程と、煮熟処理する工程を、順に含むことを特徴とする昆布ペーストの製造方法。
【請求項2】
昆布を一次水煮処理する工程と、粉砕処理する工程と、煮熟処理する工程を、順に含む昆布ペーストの製造方法により得られた昆布ペーストと、煮熟後昆布を混合することを特徴とする昆布佃煮の製造方法
【請求項3】
二次水煮処理をする工程を、前記粉砕処理した後、且つ、前記煮熟処理する前に含むことを特徴とする請求項2に記載する昆布佃煮の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆布佃煮に用いる昆布ペーストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に市販されている昆布佃煮は、調味液で煮熟した昆布に、さらにまぶし液と呼ばれる増粘多糖類や寒天を含む調味液を表面に付着させることにより、調味を増し、昆布表面の照り(艶)を増すと共に、保存中の照りの消失、昆布表面の乾燥を防止している。
【0003】
昆布佃煮を、おにぎりの具芯として使用した場合には、まぶし液がご飯の水分を吸収し、まぶし液が希釈化され保水力が低下することで離水(液垂れ)が生じて、おにぎりの外側までまぶし液が液垂れしておにぎりの見栄えを損なうこととなり、従来より液垂れしないまぶし液が所望されていた。
【0004】
上記課題を解決するために、様々な離水抑制剤や離水の抑制方法が提案されている。特許文献1では、海苔等の佃煮類や、おにぎりの具材を製造するときに、こんにゃく粉、糖質およびでん粉を含む乾燥こんにゃく加工品を用いた離水を防止する方法が、特許文献2では、おにぎりやサンドウィッチの具材などにスクシノグリカンを用いた離水を防止する方法が報告されているが、さらなる離水防止効果が高いものが求められている。
【0005】
ところで、昆布を原料としたペースト状の加工食品としては、昆布ペースト状食品の製造法(特許文献3)、食用海藻ペーストの製造方法(特許文献4)に開示されているが、昆布佃煮のまぶし液として昆布ペーストを用いることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-215646号公報
【文献】特開2016-131509号公報
【文献】特公H4-76655号公報
【文献】特公H7-14332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来のまぶし液のように液垂れせず、且つ、昆布佃煮の歩留り向上させことができる、まぶし液に代わる新たな昆布ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意努力した結果、水煮処理した昆布を粉砕し、再度水煮処理した後、調味液で煮熟処理して得られた昆布ペーストが、高い保水力を有し、これを昆布佃煮のまぶし液として使用したときに、液垂れが抑制され、さらに、歩留りが増加、向上されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関するものである。
[1]昆布を一次水煮処理する工程と、粉砕処理する工程と、二次水煮処理をする工程と、煮熟処理する工程を、順に含むことを特徴とする昆布ペーストの製造方法に関する。
[2]昆布を一次水煮処理する工程と、粉砕処理する工程と、煮熟処理する工程を、順に含む昆布ペーストの製造方法により得られた昆布ペーストと、煮熟後昆布を混合することを特徴とする昆布佃煮の製造方法に関する。
[3]二次水煮処理をする工程を、前記粉砕処理した後、且つ、前記煮熟処理する前に含むことを特徴とする[2]に記載する昆布佃煮の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、本発明の方法により得られる昆布ペーストを、昆布佃煮のまぶし液として用いることにより、昆布佃煮の液垂れが抑制され、且つ、昆布佃煮の歩留りを増加、向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の製法の一実施例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、昆布ペーストに用いる原料は、昆布であればよく特に限定されない。原料産地は、北海道、青森などの国産の他、中国産、ロシア産でもよく、特に限定されず、いずれの昆布でも用いることができる。
【0013】
昆布の種類は、真昆布、利尻昆布、日高昆布、長昆布、猫足昆布、ラウス昆布などいずれの種類であってもよく、その種類は問わない。また、使用部位についても、葉昆布、根昆布のいずれの部位であってもよい。
【0014】
原料となる昆布の状態は、乾燥昆布、生昆布、冷凍昆布、または、塩蔵昆布のいずれの状態であってもよい。塩蔵昆布を用いる場合は、後述する前処理の前に水にさらし脱塩してから用いる。
【0015】
以下、本発明を実施するための形態として、乾燥昆布を用いた昆布ペーストの一実施形態について説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。図1は、昆布ペーストの製造方法の一実施例を示すフローチャートである。
【0016】
使用する昆布の形状は、原藻のままでも使用できるが、予め破砕、細断してもよく、その形状は特に限定されない。
【0017】
〔前処理〕
昆布を軟化させるために、乾燥昆布を適当な濃度の酢酸溶液に漬け引き上げた後、数日寝かせて養生する前処理(St1)を行う。酢酸溶液の濃度は1~10%(V/V)でもよく、酢酸溶液の量も昆布全体に酢酸溶液が馴染めばよく、特に限定されない。
なお、前処理(St1)は、必須の工程ではなく必要に応じて行えばよく、使用する原料が乾燥昆布のように固い場合には、昆布の切断を容易にするために前処理(St1)をすることが好ましい。
【0018】
〔一次水煮処理〕
前処理(St1)で用いた酢酸や昆布に付着する異物を取り除き、昆布に含まれるヨウ素を減らすために、一次水煮処理(St2)を行う。一次水煮処理(St2)によって昆布をさらに軟化させ、歩留りを大きくすることができる。
一次水煮処理(St2)の処理条件は、昆布を軟化させるために60℃以上100℃以下で行い、好ましくは、70℃以上100℃以下で1~60分間であり、さらに好ましくは80℃以上100℃以下で1~30分間行うことで、昆布を軟化させ、膨潤させることができる。
【0019】
〔粉砕処理〕
一次水煮処理(St2)された昆布を、特定範囲以下の大きさにするために粉砕処理(St3)を行う。粉砕処理(St3)は、昆布を粉砕することで昆布の表面積を増やすことができ、これにより昆布が保水力を高めることができ、離水を抑制することができる。また、後述する二次水煮処理(St4)において昆布が水分を多く吸収することができ、歩留りが向上された昆布ペーストを得ることができる。
粉砕処理(St3)においては、昆布の粉砕程度は特に限定されないが、粉砕した昆布の片側一面積が、大きいものでおよそ60mm2以下となる程度まで粉砕することがよく、好ましくは40mm2未満、さらに好ましくは20mm2未満となる程度まで粉砕することが好ましく、昆布のサイズが小さくなるほど離水を抑制することができ、昆布ペーストの歩留りを向上させることができる。
【0020】
〔二次水煮処理〕
粉砕処理(St3)された昆布を、さらに十分に軟化させ、膨潤させるために水煮による二次水煮処理(St4)を行う。二次水煮処理(St4)において、昆布を十分に軟化、膨潤させた後、後述する煮熟処理(St5)により昆布中の水分を調味料に置換し、濃縮することで、さらに離水が抑制され、且つ、歩留りが向上された昆布ペーストを得ることができる。
なお、二次水煮処理(St4)をせずに、水以外の溶液、例えば、糖液や醤油などの濃度が高い調味料を用いて後述する煮熟処理(St5)をした場合には、二次水煮処理(St4)をした場合と比べて、昆布の膨潤が十分に進まず、保水性が低下するため、離水が生じやすくなり、また、歩留りが劣るものとなるため、二次水煮処理(St4)することが好ましい。
二次水煮処理(St4)の加熱条件は、特に限定されないが、80℃以上100℃以下で3~60分行うことができる。使用する加熱設備により条件は異なるが、好ましくは80~100℃で5~30分加熱することがよい。
なお、加熱温度が高い状態で長時間加熱した場合には、昆布ペーストの粘性が低下して離水が生じるため、目的とする昆布ペーストを得ることができない。
二次水煮処理(St4)で用いる加熱設備は、特に限定されず、例えば、蒸気釜を用いて水煮してもよく、ジュール式加熱装置を用いて連続的加熱してもよい。
【0021】
〔煮熟処理〕
二次水煮処理(St4)された昆布に調味液を加えて加熱する煮熟処理(St5)を行い、本発明の昆布ペーストが完成する。
煮熟処理(St5)においては、二次水煮処理(St4)された昆布と、醤油および糖質を含む調味液とを合わせてBxが40以上、水分活性がAw0.9未満となるように煮熟処理(St5)を行うことで昆布佃煮に適した保存性を有する昆布ペーストにすることができる。より保存性を高める場合には水分活性をAw0.88未満となるように煮熟処理(St5)すればよく、さらに好ましくは水分活性をAw0.86未満となるように煮熟処理(St5)すればよい。
【0022】
煮熟処理(St5)に使用する調味液は、醤油および糖質を必須の調味料として含み、その他に使用する調味料は特に制限されず、酸味料、増粘剤、保存料などの添加物を使用することができる。
本発明の方法においては、増粘多糖類を含む増粘剤、ゲル化剤および安定剤、寒天、でん粉、加工でん粉を使用することで、さらに保水性を高めて液垂れを抑制することができるが、本発明の昆布ペーストは保水力が高いため、増粘多糖類等を添加しなくても液垂れを抑制することができる。
【0023】
本発明の方法により得られた昆布ペーストは、昆布を醤油および糖質を含む調味液で煮熟して得られた昆布(以下、「煮熟昆布」という)と混合することで、液垂れが抑制され、歩留りが増加、向上された昆布佃煮を製造することができる。
【0024】
また、昆布ペーストは、粉砕処理(St3)において昆布の粉砕程度を大きくすることで、昆布形状を残した昆布ペーストにすることができ、昆布形状を残した昆布ペーストと、細切の煮熟昆布を混合する場合には、細切の煮熟昆布に対して、昆布形状を残した昆布ペーストの混合比率を大きく高めても、従来のまぶし液を用いた昆布佃煮と比べて見た目に遜色ないため、歩留りが改善された昆布佃煮を製造することができる。
煮熟昆布と昆布ペーストの混合比率は、特に限定されないが、煮熟昆布100重量部に対して、昆布ペーストを10重量部以上、150重量部以下の範囲で混合することができる。なお、昆布ペーストの比率が、150重量部を超える場合には、昆布ペーストの中に煮熟昆布が分散している状態となり、見た目が悪いため昆布佃煮として不適となる。
【実施例
【0025】
次に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
〔材料および方法〕
下記の実施例および比較例は、特記しない限り、下記の材料および条件を用いて行った。
長昆布の乾燥昆布を酢酸溶液に漬けて前処理(St1)した後、軟化した昆布を幅4mm長さ20mmの細切りに切断し、切断後の昆布を90℃10分間一次水煮処理(St2)した。なお、前処理(St1)後の昆布の歩留りは、乾燥昆布に対して150%、一次水煮処理(St2)後の昆布の歩留りは、前処理(St1)後の昆布に対して250%であった。
次に、一次水煮処理(St2)後の昆布を、フードカッターを用いて粉砕処理(St3)し、処理時間を調整することで、表3に記載の3種類のサイズが異なる粉砕処理(St3)後の昆布を得た。
次に、上記粉砕処理(St3)後の各昆布を、90℃で15分間、二次水煮処理(St4)し、網上で水切りして二次水煮処理(St4)後の昆布を得た。
次に、上記二次水煮処理(St4)後の各昆布100gに対して、表1に記載の調味液A(寒天なし)または調味液B(寒天入り)を240g加え、煮熟終了時にBx52となるよう煮熟処理(St5)して昆布ペースト(実施例:1~3(寒天なし)、4(寒天入り))を得た。
なお、比較のために、一次水煮処理(St2)後の昆布(粉砕処理(St3)および二次水煮処理(St4)をしない、比較例1)と、一次水煮処理(St2)後に粉砕処理(St3)した昆布(二次水煮処理(St4)をしない、実施例5)を、表1に記載の調味液Aを加えて煮熟処理(St5)して同Bxの昆布ペーストを得た。
また、昆布ペーストを使用しない従来の昆布佃煮のまぶし液を比較対照とするため、表2に記載の調味料を加熱溶解して同Bxの従来まぶし液(比較例2)を得た。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
〔実施例1~3、5、比較例1〕: 昆布ペーストの歩留り評価
調味液Aを用いて得られた昆布ペーストの重量を測定し、乾燥昆布からの重量増加量を歩留りとして算出した。結果を表3に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
〔実施例1,4,5、比較例2〕: 液垂れの評価
細切の煮熟昆布(Bx52、Aw=0.86、切断サイズ3×60mm)と、上記で得られた各昆布ペースト、または、従来まぶし液とを混合して、混合比率を変えて得られた昆布佃煮について、混合直後の見栄えと保存中の液垂れ量について評価した。なお、混合比率については、細切の煮熟昆布1重量部に対して、昆布ペースト、または、従来まぶし液を、0.2重量部、1重量部、1.5重量部、または2重量部となるように混合した。
結果を表4,表5に示す。
【0032】
〔保存中の液垂れ量の測定〕
昆布佃煮の保存中の液垂れ量は以下の方法により行った。得られた昆布佃煮の各サンプル60gを蓋付容器の半分に詰め、昆布佃煮のある方を上になるようにして水平面から約60度に傾けて静置し、液垂れが下方に落ちるような状態にして30℃で24時間保存した。24時間後に容器下部に溜まった液垂れ量の質量を測定し、液垂れ量の質量(g)÷各サンプル量60g×100%を液垂れ率(%)として評価した。また、液垂れ率について下記評価基準で評価した。
〔液垂れ量の評価基準〕
○:液垂れ率が、5%未満である。
×:液垂れ率が、5%以上である。
【0033】
【表4】
【0034】
【表5】
【0035】
表3~5の結果より、一次水煮処理(St2)後の昆布を、特定範囲以下の大きさに粉砕処理(St3)し、二次水煮処理(St4)してから煮熟処理(St5)した昆布ペーストは、液垂れが抑制され、煮熟昆布に昆布ペーストを多く混ぜることができるため歩留りが増加、向上され、見栄えにも優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の方法によって製造される昆布ペーストは、液垂れを抑制することができるため、おにぎりの具芯に用いたときに液垂れがなく、見栄えに優れたおにぎりを提供することができる。
また、本発明による方法は、煮熟昆布に昆布ペーストを多く混ぜることができるため佃煮の歩留りを向上させることができる。
図1