(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】金属管内面電解研磨方法、金属管内面電解研磨装置および金属管内面電解研磨装置の使用方法
(51)【国際特許分類】
C25F 3/16 20060101AFI20220308BHJP
C25F 7/00 20060101ALI20220308BHJP
B23H 3/10 20060101ALI20220308BHJP
B23H 9/00 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
C25F3/16 C
C25F7/00 W
C25F7/00 M
C25F7/00 S
C25F7/00 V
B23H3/10 A
B23H9/00 A
(21)【出願番号】P 2019173661
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2020-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000222336
【氏名又は名称】トーステ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【氏名又は名称】小林 均
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【氏名又は名称】林 司
(72)【発明者】
【氏名】岡部 義人
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-030900(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151102(WO,A1)
【文献】特許第5807938(JP,B2)
【文献】特公昭49-036097(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F 3/16
C25F 7/00
B23H 3/10
B23H 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属管内に電解液を循環させると共に、前記金属管内面と間隔を保ちながら電極を移動させる金属管内面電解研磨方法であって、
前記金属管を鉛直方向に立てた状態で電解研磨が行われ、
前記金属管を鉛直方向に立てた後に、前記金属管の下端部および上端部に閉鎖部材を装着し、
前記下端部に装着した前記閉鎖部材を通して前記電解液を前記金属管内に流入させ、前記上端部に装着した前記閉鎖部材を通して前記電解液を前記金属管内から排出さ
せ、
前記閉鎖部材が下記a)~d)の構造を有しており、前記金属管の両端部への前記閉鎖部材の装着が、前記閉鎖部材の開口部側を前記金属管の両端部の外側にはめ込んで行われる、金属管内面電解研磨方法。
a)円筒形の側部およびこの側部の一端に底部、他端に開口部を有する
b)前記底部の側には、前記金属管と同じ内径および外径を有するダミー管が内装されている
c)前記開口部の内径は、前記金属管の外径と同じである
d)前記底部には、前記電解液を通す貫通孔(電解液流入口または電解液排出口)が設けられている
【請求項2】
前記金属管を鉛直方向に立てた状態において、前記金属管の上端に装着される前記閉鎖部材の前記底部側には、装着前に前記電極が収納されている、請求項
1に記載の金属管内面電解研磨方法。
【請求項3】
前記金属管の両端部に前記閉鎖部材を装着し、前記閉鎖部材を通して前記金属管内に前記電解液を循環させ、前記電極を、一旦、前記金属管の上端に装着された前記閉鎖部材から、前記金属管の下端に装着された前記閉鎖部材に移動させた後に、前記電極を上昇させながら電解研磨を行う、請求項1
または2に記載の金属管内面電解研磨方法。
【請求項4】
前記電極は、表面に樹脂製の接触防止ガイドを有しており、上端に接続された電極棒によって支持され、前記電極棒の出し入れによって、前記金属管の内側を上下方向に移動する、請求項1~
3のいずれかに記載の金属管内面電解研磨方法。
【請求項5】
金属管内に電解液を循環させると共に、前記金属管内面と間隔を保ちながら電極を移動させる金属管内面電解研磨装置であって、
前記金属管を鉛直方向に立てる金属管移動機構、
前記金属管を鉛直方向に立てた後に、前記金属管の下端部および上端部に装着される閉鎖部材、および、
前記下端部に装着した前記閉鎖部材を通して前記電解液を前記金属管内に流入させ、前記上端部に装着した前記閉鎖部材を通して前記電解液を前記金属管内から排出させる電解液循環機構を備え、
前記閉鎖部材が下記a)~d)の構造を有しており、前記金属管の両端部への前記閉鎖部材の装着が、前記閉鎖部材の開口部側を前記金属管の両端部の外側にはめ込んで行われる、前記金属管を鉛直方向に立てた状態で電解研磨を行う金属管内面電解研磨装置。
a)円筒形の側部およびこの側部の一端に底部、他端に開口部を有する
b)前記底部の側には、前記金属管と同じ内径および外径を有するダミー管が内装されている
c)前記開口部の内径は、前記金属管の外径と同じである
d)前記底部には、前記電解液を通す貫通孔(電解液流入口または電解液排出口)が設けられている
【請求項6】
前記電極は、表面に樹脂製の接触防止ガイドを有しており、上端に接続された電極棒によって支持され、前記電極棒の出し入れによって、前記金属管の内側を上下方向に移動する、請求項5に記載の金属管内面電解研磨装置。
【請求項7】
前記金属管を鉛直方向に立てた状態において、前記金属管の上端に装着される前記閉鎖部材の前記底部側には、装着前に前記電極が収納されている、請求項
5または
6に記載の金属管内面電解研磨装置
の使用方法。
【請求項8】
前記金属管の両端部に前記閉鎖部材を装着し、前記閉鎖部材を通して前記金属管内に前記電解液を循環させ、前記電極を、一旦、前記金属管の上端に装着された前記閉鎖部材から、前記金属管の下端に装着された前記閉鎖部材に移動させた後に、前記電極を上昇させながら電解研磨を行う、請求項
5または6に記載の金属管内面電解研磨装置
の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、電解研磨の際に発生するガスによる悪影響を低減し、表面仕上げを良好なものとする金属管内面電解研磨方法、金属管内面電解研磨装置および金属管内面電解研磨装置の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品プラント、薬品プラント、化学プラント、半導体製造プラント等の配管に用いられるステンレス管等の金属管では、内面に雑菌、ゴミ等が付着残存すると、プラントによって製造しようとする製品の品質を悪化させることとなるため、ミクロン単位で平滑な光沢面が得られる電解研磨方法が、金属管内面の表面の仕上げのために広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、[
図3]に断面模式図で示すように、金属管11に支持体12、13で管内面と間隔を保って電極14を支持し、金属管11の長手方向にこの電極14を移動させると共に、金属管11内に電解液15を流動させる金属管11内面の電解研磨方法が記載されている。しかしながら、特許文献1記載の電解研磨方法では、電解研磨の際に発生するガス(以下、「発生ガス」ともいう。)が金属管11の内面上部に滞留するため、電解研磨を均一かつ良好に行うことは困難である。
【0004】
このような発生ガスを金属管外に逃がす手法が、特許文献2および3に記載されている。
【0005】
特許文献2には、[
図4]に断面模式図で示すように、金属管21の内周面に、電極管22の絶縁隔壁23を当接させながら所定位置まで挿入した後、電解研磨液を、接続用ホース24、電極管22内、および、電極管22の先端部に穿設されている電解研磨液供給孔25を通じて金属管22内に供給し、電極管22に通電して電解研磨を行うことが記載されている。しかしながら、特許文献2の電解研磨方法は、次のような理由で、通常の長い金属管の電解研磨には適さないものである。1)電極管22全体に通電することから、通常の長い金属管の電解研磨に適用すると大きな電力が必要となる。2)金属管21の内部の電解研磨液の流れが層流にならないため、長い金属管の内面を均一に電解研磨することが難しい。
【0006】
また、特許文献3には、[
図5]に外観模式図で示すように、電解槽31内に被研磨体である金属管32を縦置して電解研磨を行うことが記載されている。しかしながら、特許文献3の電解研磨方法は、電解槽31の高さを金属管32の高さ以上とする必要があり、多量の電解液を必要とする、電解槽31が不安定で転倒しやすい、作業性が低下する等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭61-236426号公報
【文献】特開平5-279900号公報
【文献】特開平7-266134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本件発明は、通常の長い金属管に対して、金属管内面の電解研磨を均一かつ良好に行うことができ、かつ、効率良く電解研磨を行うことのできる、金属管内面電解研磨方法、金属管内面電解研磨装置および金属管内面電解研磨装置の使用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明者等は、通常の長い金属管に対して、金属管内面の電解研磨を均一かつ良好に行うことができ、かつ、効率良く電解研磨を行うことのできる電解研磨について鋭意検討し、本件発明を成したものである。
【0010】
本件発明の要旨を以下に示す。
(1)金属管内に電解液を循環させると共に、前記金属管内面と間隔を保ちながら電極を移動させる金属管内面電解研磨方法であって、
前記金属管を鉛直方向に立てた状態で電解研磨が行われ、
前記金属管を鉛直方向に立てた後に、前記金属管の下端部および上端部に閉鎖部材を装着し、
前記下端部に装着した前記閉鎖部材を通して前記電解液を前記金属管内に流入させ、前記上端部に装着した前記閉鎖部材を通して前記電解液を前記金属管内から排出させ、
前記閉鎖部材が下記a)~d)の構造を有しており、前記金属管の両端部への前記閉鎖部材の装着が、前記閉鎖部材の開口部側を前記金属管の両端部の外側にはめ込んで行われる、金属管内面電解研磨方法。
a)円筒形の側部およびこの側部の一端に底部、他端に開口部を有する
b)前記底部の側には、前記金属管と同じ内径および外径を有するダミー管が内装されている
c)前記開口部の内径は、前記金属管の外径と同じである
d)前記底部には、前記電解液を通す貫通孔(電解液流入口または電解液排出口)が設けられている
(2)前記金属管を鉛直方向に立てた状態において、前記金属管の上端に装着される前記閉鎖部材の前記底部側には、装着前に前記電極が収納されている、(1)に記載の金属管内面電解研磨方法。
(3)前記金属管の両端部に前記閉鎖部材を装着し、前記閉鎖部材を通して前記金属管内に前記電解液を循環させ、前記電極を、一旦、前記金属管の上端に装着された前記閉鎖部材から、前記金属管の下端に装着された前記閉鎖部材に移動させた後に、前記電極を上昇させながら電解研磨を行う、(1)または(2)に記載の金属管内面電解研磨方法。
(4)前記電極は、表面に樹脂製の接触防止ガイドを有しており、上端に接続された電極棒によって支持され、前記電極棒の出し入れによって、前記金属管の内側を上下方向に移動する、(1)~(3)のいずれかに記載の金属管内面電解研磨方法。
(5)金属管内に電解液を循環させると共に、前記金属管内面と間隔を保ちながら電極を移動させる金属管内面電解研磨装置であって、
前記金属管を鉛直方向に立てる金属管移動機構、
前記金属管を鉛直方向に立てた後に、前記金属管の下端部および上端部に装着される閉鎖部材、および、
前記下端部に装着した前記閉鎖部材を通して前記電解液を前記金属管内に流入させ、前記上端部に装着した前記閉鎖部材を通して前記電解液を前記金属管内から排出させる電解液循環機構を備え、
前記閉鎖部材が下記a)~d)の構造を有しており、前記金属管の両端部への前記閉鎖部材の装着が、前記閉鎖部材の開口部側を前記金属管の両端部の外側にはめ込んで行われる、前記金属管を鉛直方向に立てた状態で電解研磨を行う金属管内面電解研磨装置。
a)円筒形の側部およびこの側部の一端に底部、他端に開口部を有する
b)前記底部の側には、前記金属管と同じ内径および外径を有するダミー管が内装されている
c)前記開口部の内径は、前記金属管の外径と同じである
d)前記底部には、前記電解液を通す貫通孔(電解液流入口または電解液排出口)が設けられている
(6)前記電極は、表面に樹脂製の接触防止ガイドを有しており、上端に接続された電極棒によって支持され、前記電極棒の出し入れによって、前記金属管の内側を上下方向に移動する、(5)に記載の金属管内面電解研磨装置。
(7)前記金属管を鉛直方向に立てた状態において、前記金属管の上端に装着される前記閉鎖部材の前記底部側には、装着前に前記電極が収納されている、(5)または(6)に記載の金属管内面電解研磨装置の使用方法。
(8)前記金属管の両端部に前記閉鎖部材を装着し、前記閉鎖部材を通して前記金属管内に前記電解液を循環させ、前記電極を、一旦、前記金属管の上端に装着された前記閉鎖部材から、前記金属管の下端に装着された前記閉鎖部材に移動させた後に、前記電極を上昇させながら電解研磨を行う、(5)または(6)に記載の金属管内面電解研磨装置の使用方法。
【発明の効果】
【0011】
本件発明の金属管内面電解研磨方法、金属管内面電解研磨装置および金属管内面電解研磨装置の使用方法では、金属管内面の電解研磨を、金属管を鉛直方向に立てた状態で行うことにより、通常の長い金属管の電解研磨においても、発生ガスを、発生ガスの浮力、および、金属管の下端部から流入し上端部から排出される電解液により、電解研磨が行われる箇所から除去でき、電解研磨を均一かつ良好に行うことができる。
【0012】
さらに、金属管を鉛直方向に立てた後に、金属管の下端部および上端部に閉鎖部材を装着して金属管内に電解液を循環させるため、高さの高い電解槽や多量の電解液を必要とせず、電解研磨を経済的・効率的に行うことができる。
【0013】
さらに、金属管を鉛直方向に立てた状態で、重力を利用して電解液の排出・回収を十分に行うことができ、電解液のロスが抑えられ経済的であり、また、電解液の外部への排出量を抑えられ環境にも優しい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本件発明の実施形態における、金属管を鉛直方向に立てた後に、金属管の両端部に閉鎖部材を装着した状態を示す縦断面図である。
【
図2】上記[
図1]の状態から、電極を、金属管の上端に装着された閉鎖部材から、金属管の下端に装着された閉鎖部材に移動させた状態を示す縦断面図である。
【
図3】従来技術を示す、特許文献1(特開昭61-236426号公報)の[第1図]である。
【
図4】従来技術を示す、特許文献2(特開平5-279900号公報)の[
図1]である。
【
図5】従来技術を示す、特許文献3(特開平7-266134号公報)の[
図4]である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本件発明の金属管内面電解研磨方法、金属管内面電解研磨装置および金属管内面電解研磨装置の使用方法の実施形態について、図面も参照しながら具体的に説明するが、これらにより本件発明が限定されるものではない。
【0016】
<電解研磨の一般的な説明>
まず、[
図3]を用いて、金属管内面の電解研磨の一般的な事項について説明する。
【0017】
金属管11の内面の電解研磨は、金属管11をプラス側、金属管11内の電極14をマイナス側にして電解液15を介して直流電流を流し、金属管11の内面を溶解させることで電解研磨が行われる。すなわち、金属管11の内面に存在する凹凸部では、電流が流れやすい凸部では溶解が比較的急速に進み、電流が流れにくい凹部では溶解が比較的ゆっくりと進むため、金属管11の内面が平滑化されることとなる。特に、金属管11の素材がステンレス鋼である場合には、主要な成分である鉄(Fe)とクロム(Cr)が溶け出し、Crは酸素と結合し表面に新たな酸化皮膜(不動態被膜)を生成するため、金属管11の内面に高い耐食性を付与できる。
【0018】
また、電極14については、通常の長い金属管11の内の電解研磨を同時に行うには大きな電力が必要となるため、通常は、電極14の一部を通電部とし([
図3]では、支持体12、13の間が通電部となっている)、この通電部を移動させることにより、金属管11の内面に順次電解研磨を行っていく。
【0019】
また、電解液15の循環については、金属管11の一端から電解液15を流入させ、他端から電解液15を排出させることにより電解液15を循環させ、金属管11の内面に発生ガスが付着することを防止する。
【0020】
<本件発明の主要な特長>
本件発明の金属管内面電解研磨方法、金属管内面電解研磨装置および金属管内面電解研磨装置の使用方法の大きな特長は、金属管を鉛直方向に立てた状態で電解研磨を行うことにある。
【0021】
[
図1]は、本件発明の実施形態における、金属管1を鉛直方向に立てた後に、金属管1の両端部に閉鎖部材3を装着した状態を示している。
【0022】
金属管1は水平方向に載置された状態から、金属管移動機構(図示せず)により、鉛直方向に立てられる。金属管移動機構としては公知の機構を用いることができるが、例えば、水平方向で金属管1を支持体に固定し、この支持体を端部に設けた回転軸を中心に90°回転させることにより金属管を鉛直方向に立てる機構を用いることができる。
【0023】
金属管1を鉛直方向に立てた後に、金属管1の下端部および上端部に閉鎖部材3が装着され、下端部に装着した閉鎖部材3を通して電解液を金属管1内に流入させ、上端部に装着した閉鎖部材3を通して電解液を金属管1内から排出させて、金属管1内に電解液を循環させる。
【0024】
電解液の循環が安定し、金属管1の温度が適切な温度となった後に、金属管1をプラス側、金属管1内の電極2をマイナス側にして電解液を介して直流電流を流すと共に、金属管1の内面と間隔を保ちながら電極2を移動させることにより、金属管1の内面の電解研磨が行われる。
【0025】
電解研磨を良好に行う観点から、金属管1内を循環させる電解液の温度は50℃~65℃が好ましく、電解液の流速は0.5m/sec~1.0m/secとするのが好ましい。また、直流電流の電流密度は8A/dm2~30A/dm2とするのが好ましい。
【0026】
このように、金属管1内面の電解研磨を、金属管1を鉛直方向に立てた状態で行うことにより、通常の長い金属管の電解研磨においても、発生ガスを、発生ガスの浮力、および、金属管1の下端部から流入させ上端部から排出させる電解液により、電解研磨が行われる箇所から除去でき、電解研磨を均一かつ良好に行うことができる。また、このように、発生ガスの除去に発生ガスの浮力を利用し電解液の流速を低く設定できるため、電解研磨を一層均一かつ良好に行うことができると共に電解研磨に要する動力費を低減できる。
【0027】
さらに、金属管1内面の電解研磨を、金属管1を鉛直方向に立てた状態で行うことにより、電極2と、金属管1の内面との間隔を一定に保持できるため、電解研磨をなお一層均一かつ良好に行うことができる。
【0028】
さらに、金属管1を鉛直方向に立てた後に、金属管1の下端部および上端部に閉鎖部材3を装着して金属管内に電解液を循環させるため、高さの高い電解槽や多量の電解液を必要とせず、電解研磨を経済的・効率的に行うことができる。
【0029】
<閉鎖部材の構造>
金属管1の下端部および上端部に装着される閉鎖部材3の構造は、下記a)~d)の構造を有することが好ましい。
a)円筒形の側部3-1およびこの側部3-1の一端に底部3-2、他端に開口部3-3を有する
b)底部3-2の側には、金属管1と同じ内径および外径を有するダミー管3-4が内装されている
c)開口部3-3の内径は、金属管1の外径と同じである
d)底部3-2には、電解液を通す貫通孔(電解液流入口3-5または電解液排出口3-6)が設けられている
そして、上記a)~d)の構造を有する閉鎖部材3の金属管1の両端部への装着は、閉鎖部材3の開口部3-3側を、金属管1の両端部の外側にはめ込んで行われる。
【0030】
上記のように、金属管1の下端部および上端部に装着される閉鎖部材3の底部3-2の側に、金属管1と同じ内径および外径を有するダミー管3-4を内装することにより、金属管1の端部に至るまで電解研磨を均一かつ良好に行うことができる。ダミー管3-4の長さは、[
図1]にも示すように、電極2の鉛直方向の長さよりも長くすることが好ましい。
【0031】
金属管1の下端部および上端部に装着される閉鎖部材3の底部3-2に、電解液を通す貫通孔(電解液流入口3-5または電解液排出口3-6)を設け、電解液流入口3-5を通して電解液を金属管1内に流入させ、電解液排出口3-6を通して電解液を金属管1内から排出することにより、金属管1内の電解研磨液の流れを層流にできるため、電解研磨を均一かつ良好に行うことができる。
【0032】
<電極の収納>
[
図1]にも示すように、金属管1の上端に装着される閉鎖部材3の底部3-2側には、装着前に電極2を収納しておくのが好ましい。これにより、電解研磨に使用する電極2を、簡単に金属管1内に導入することができる。
【0033】
<電解研磨の工程>
[
図1]~[
図2]に示す本件発明の実施形態では、次のような工程により電解研磨が行われる。
【0034】
[工程1]
[
図1]に示す、金属管1を鉛直方向に立てた後に、金属管1の両端部に閉鎖部材3を装着した状態から、電解液流入口3-5を通して電解液を金属管1内に流入させ、電解液排出口3-6を通して電解液を金属管1内から排出して、金属管1内に電解液を循環させる。
【0035】
電解液循環機構としては、[
図3]に記載されているような公知の電解液循環機構を採用することができる。すなわち、電解液タンクに貯留された電解液を、ポンプを用いて電解液流入口3-5に供給し、また、電解液排出口3-6から排出された電解液は電解液タンクに戻される。
【0036】
金属管1内を循環させる電解液の温度としては50℃~65℃程度が好ましいが、上記電解液タンクにおいて電解液の温度を好ましい温度に調整する。上記電解液タンクにおける温度調整は、金属管1に流入する電解液の温度を温度センサーで測定し、この温度が設定された温度となるよう、フィードバック制御することが好ましい。
【0037】
また、金属管1内を循環させる電解液の流速としては、0.5m/sec~1.0m/secとするのが好ましいが、上記ポンプにより電解液の流速を好ましい流速に調整する。上記ポンプによる流速調整は、金属管1に流入する電解液の流速を流量計で測定し、この流速が設定された流速となるよう、フィードバック制御することが好ましい。
【0038】
[工程2]
[
図1]に示すように、金属管1の上端に装着された閉鎖部材3の底部3-2側に収納された電極2を、[
図2]に示すように、金属管1の下端に装着された閉鎖部材3の底部3-2側に移動させる。この電極2の下方への移動は、電極2の上端に接続され、電極2を支持している電極棒2-2を送り出すことにより行われる。
【0039】
この電極2の移動は、電極2を鉛直方向下方から上方に移動させながら電解研磨を行うために行われる。このように電極2を上方に移動させながら電解研磨を行うことにより、発生ガスを、金属管1の下端部から流入し上端部から排出される電解液により、除去しやすくできる。
【0040】
[工程3]
電解液の循環が十分に行われ、金属管1の温度が電解研磨を行うに十分な温度に均一に加温された段階で、電極2を鉛直方向下方から上方に移動させながら電解研磨を行う。この電極2の上方への移動は、電極2の上端に接続され、電極2を支持している電極棒2-2を引き込むことにより行われる。
【0041】
金属管1内面の電解研磨を、金属管1を鉛直方向に立てた状態で行うことにより、基本的には、電極2と金属管1の内面と間隔を一定に保持できるが、安全対策も兼ねて、電極2の表面に樹脂製の接触防止ガイド2-1を設けることが好ましい。接触防止ガイド2-1の材質としては、絶縁性および電解液への耐食性を有する各種樹脂を使用できるが、これらの性質に優れるテフロン(登録商標)を好適に用いることができる。
【0042】
[工程4]
電極2を鉛直方向下方から上方に移動させながら電解研磨を行い、電極2が[
図1]に示すような、金属管1の上端に装着される閉鎖部材3の底部3-2側に戻った段階で電解研磨は完了し、その後、電解液の排出・回収および金属管1の内面の洗浄を行い、金属管1を金属管移動機構(図示せず)により、水平方向に戻す。
【0043】
本件発明では、金属管1を鉛直方向に立てていることから、重力を利用して電解液の排出・回収を十分に行うことができ、電解液のロスが抑えられ経済的であり、また、電解液の外部への排出量を抑えられ環境にも優しい。
【0044】
<その他>
金属管1の材質としては各種金属を用いることができるが、金属管1の材質がステンレス鋼である場合には、金属管1の内面にクロム(Cr)成分の含有率が高い酸化皮膜(不動態被膜)を生成でき、高い耐食性を付与できるため好ましい。
【0045】
<まとめ>
上記のように、本件発明の金属管内面電解研磨方法、金属管内面電解研磨装置および金属管内面電解研磨装置の使用方法は、金属管内面の電解研磨を、金属管を鉛直方向に立てた状態で行うことにより、通常の長い金属管の電解研磨においても、発生ガスを、発生ガスの浮力、および、金属管の下端部から流入し上端部から排出される電解液により、電解研磨が行われる箇所から除去でき、電解研磨を均一かつ良好に行うことができる優れたものである。
【0046】
さらに、本件発明の金属管内面電解研磨方法、金属管内面電解研磨装置および金属管内面電解研磨装置の使用方法は、金属管を鉛直方向に立てた後に、金属管の下端部および上端部に閉鎖部材を装着して金属管内に電解液を循環させるため、高さの高い電解槽や多量の電解液を必要とせず、電解研磨を経済的・効率的に行うことができる優れたものである。
【0047】
さらに、本件発明の金属管内面電解研磨方法、金属管内面電解研磨装置および金属管内面電解研磨装置の使用方法は、金属管を鉛直方向に立てた状態で、重力を利用して電解液の排出・回収を十分に行うことができ、電解液のロスが抑えられ経済的であり、また、電解液の外部への排出量を抑えられ環境にも優しい。
【符号の説明】
【0048】
1 金属管
2 電極
2-1 接触防止ガイド
2-2 電極棒
3 閉鎖部材
3-1 側部
3-2 底部
3-3 開口部
3-4 ダミー管
3-5 電解液流入口(貫通孔)
3-6 電解液排出口(貫通孔)
11 金属管
12、13 支持体
14 電極
15 電解液
21 金属管
22 電極管
23 絶縁隔壁
24 接続用ホース
25 電解研磨液供給孔
31 電解槽
32 金属管