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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】レーザ投影用高性能スクリーン
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/60 20140101AFI20220308BHJP
【FI】
G03B21/60
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019234334
(22)【出願日】2019-12-25
(62)【分割の表示】P 2016548692の分割
【原出願日】2015-03-10
(65)【公開番号】P2020060786
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2020-01-10
(31)【優先権主張番号】61/950,521
(32)【優先日】2014-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507236292
【氏名又は名称】ドルビー ラボラトリーズ ライセンシング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ゴーニー、ダグラス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】リチャーズ、マーティン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】クンケル、ティモ
(72)【発明者】
【氏名】スクヌエル、デイビッド ロイド
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05696625(US,A)
【文献】特開2003-248108(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0310478(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0133089(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0063600(US,A1)
【文献】特開2010-266563(JP,A)
【文献】特開平06-138549(JP,A)
【文献】特開2013-152288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 21/00-21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シネマスクリーンであって、
前記シネマスクリーンの中心の上方から前記シネマスクリーンに投影された光を、シアタの観客位置に向かって反射するように構成された複数の反射構造体を備え、
各反射構造体は、平坦な反射面を有し、
複数の前記平坦な反射面は、前記シネマスクリーンの少なくとも1つの縁から反射される光のより多くを、シアタの側壁、天井、または床から離れて且つ前記シアタの観客位置に向けさせるように、前記シネマスクリーンの少なくとも1つの縁に向かって増加するスクリーンの垂線に対するそれぞれの傾斜角度を有し、
前記シネマスクリーンは、第1の寸法において少なくとも10メートルにわたって延在している、シネマスクリーン。
【請求項2】
スクリーン映像のコントラストに対する周辺光の影響を低減するために非投影光の反射率を低減させる波長に基づいて反射を変化させるように構成されたスペクトルコーティングをさらに備える請求項1に記載のシネマスクリーン。
【請求項3】
スペックル低減コーティングをさらに備える請求項1に記載のシネマスクリーン。
【請求項4】
前記それぞれの傾斜角度は、スクリーンの曲率に応じて修正されるように構成されている、請求項1に記載のシネマスクリーン。
【請求項5】
前記シネマスクリーンは、投影角が該シネマスクリーンの中央に対して垂直ではないように少なくとも構成されており、より垂直な照射を受けるスクリーン領域は、該シネマスクリーンに対して垂直な光を前記観客位置の中央に向けて誘導するように構成された複数の傾斜角度を有する前記複数の反射構造体をより多く含み、より垂直ではない照射を受けるスクリーン領域は、前記照射からの斜め光を前記観客位置の中央に向けて誘導するように構成された複数の傾斜角度を有する前記複数の反射構造体をより多く含む、請求項1に記載のシネマスクリーン。
【請求項6】
前記シネマスクリーンは、約10度の下向き角度で投影するように構成されており、該シネマスクリーンの最上部は、主に下方向に反射するように構成された複数の傾斜角度を有する複数の反射構造体をより多く含み、該シネマスクリーンの最下部は、主に上方向に反射するように構成された複数の傾斜角度を有する複数の反射構造体を含み、該スクリーンの複数の縁は、主に内向きおよび前記観客位置に向けて反射する、請求項5に記載のシネマスクリーン。
【請求項7】
前記シネマスクリーンは、約10度の下向き角度で投影するように構成されており、該シネマスクリーンの最上部は、主に下方向に反射するように構成された複数の傾斜角度を有する反射構造体をより多く含み、該シネマスクリーンの最下部は、主に上方向に反射するように構成された複数の傾斜角度を有する複数の反射構造体を含み、該シネマスクリーンの複数の縁は、主に内向きおよび前記観客位置に向けて反射する、請求項1に記載のシネマスクリーン。
【請求項8】
機械的振動を伝播する物質をさらに備える請求項1に記載のシネマスクリーン。
【請求項9】
高弾性率の基材を含む、請求項1に記載のシネマスクリーン。
【請求項10】
前記シネマスクリーンの一区画から他の区画へと変化する光学特性を有する基材コーティングをさらに備える請求項9に記載のシネマスクリーン。
【請求項11】
前記複数の反射構造体は、前記シネマスクリーンの実質的に全てにわたって配置され、前記シネマスクリーンは、前記第1の寸法において少なくとも20メートルにわたって延在している、請求項1に記載のシネマスクリーン。
【請求項12】
前記複数の反射構造体の傾斜角度は、前記シネマスクリーンの下端に向かって増加し、前記シネマスクリーンの上端に向かって増加する、請求項1に記載のシネマスクリーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像を表示するために使用されるスクリーンおよび他の映像装置に関し、より具体的には、シネマスクリーンに関するものである。本発明は、さらに、周辺光の取り込みを最小限に抑えるとともに、そのような投影がレーザ式投影装置によってなされる場合のスペックルのような視覚的アーティファクトを低減しつつ、投影映像を観客席に向けて効率的に反射するスクリーンの特性および構造に関する。
【背景技術】
【0002】
シネマ投影では、一般的に、観客席の観客に対して投影映像を表示するために、スクリーンを利用する。現在は、プレミアムシアタで大型スクリーンを提供する傾向にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、次世代のシネマは、人間の視覚システム(HVS:Human Visual System)の能力に適合または匹敵する高ダイナミックレンジ、広色域、かつ高輝度のものであると実感している。このような品質の映像は、視覚的ダイナミックレンジすなわちVDR(Visual Dynamic Range)の映像として知られている。本発明は、特に商業プレミアムシアタかつ動画シネマの設定において、高性能レーザプロジェクタの使用を補助して、効果的かつ効率的なVDR映像化の実現を助ける高性能スクリーンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
種々の実施形態において、本発明は、高輝度、高ダイナミックレンジ、かつ広色域の映像を生成するために、個々に、または組み合わせて用いることができる仕様、構造、および(スクリーンを含む)装置を提供する。
【0005】
種々の実施形態において、本発明は、例えばプレミアムシアタで、追加の照明コストなしで、観客の輝度知覚を向上させるシネマスクリーンを提供する。スクリーンは、さらにレーザ照射によるスペックルを軽減することを助ける材料で製造される。スクリーンは、その投影システムの固有の能力、シアタおよび/またはプロジェクタの配置、に合わせて調整することができる特性を有するとともに、構造体を含む。例えば、スタジアム型座席のシアタでは、最上列上方のプロジェクタを備える。
【0006】
一実施形態では、本発明は、オーディトリアムまたはシアタの構造体に向けて反射される光は最小限となるようにして、スクリーンからの反射光を観客席の観客に向ける物理的構造を有するスクリーンを提供する。投影映像は、投影映像からの光が観客席のすべての観客(または少なくとも大部分の観客)に均等に分散される方向に反射される。
【0007】
種々の実施形態において、スクリーンからの反射(すなわち、スクリーンに表示されている映像)を観客席の観客に向けて誘導し、側壁、天井などのシアタ構造体に到達する光量を低減することで、観客に対して表示される映像の輝度を向上させるとともに、いくらかの映像光がシアタ内の周辺光に加わることによるスクリーン上のコントラストの低下を防ぐように、スクリーンの構造体は配置される。
【0008】
種々の実施形態において、スクリーン上の構造体は、例えば、拡散材、反射体、偏光子、プリズム、球状構造体、ビーズ、液体封入ビーズ、結晶、液晶、マイクロドット、量子ドット、ブラウン運動を示す材料、高周波音または物理的振動のような振動に対して柔軟に反応する(動く)材料、音波を受けて振動するときにランダム運動を示す材料、偏光保存材料、のうちの1つ以上を含む種々のコーティングを有する。
【0009】
スクリーン上の構造体は、概して、スクリーン上に表示される画素よりも小さいサイズのものである。例えば、構造体は、画素サイズよりもわずかに小さいもの、画素の1/2のもの、画素の1/4のもの、または画素サイズよりも1桁以上小さいもの、のいずれかであり得る。他のファクタはすべて等しいとして、4Kまたは8K映像を表示するスクリーンは、2K映像を表示するスクリーン上の構造体と比較して、それぞれ2倍または4倍小さい構造体を有することになる。2K~8Kのすべての標準的な映像での互換性を得るためには、より小さい構造体サイズのほうが、より望ましい。
【0010】
種々の構造体は、スクリーン材にエッチングまたはエンボス加工することができる。種々の材料またはコーティングは、例えば、塗料、アクリル、またはエポキシのような透明媒質または透光媒質中にランダムに混合されて、スクリーン基材上に吹き付けられた構造体を含むことができる。そのような基材は、例えば、プラスチック、PVC、ポリマとすることができる。基材は、例えば、高弾性率を有し得る。構造体は、微細切削器具または印刷器具を備えた大型CNCルータ盤のようなコンピュータ数値制御(CNC)機械によって、基材にエッチングまたは印刷することができる。微細(例えば、マイクロ)3D印刷を用いて、構造体を生成することができる。
【0011】
本発明は、現地(例えば、スクリーンが設置されるシアタ、または設置される予定のシアタ)でのスクリーンの組み立ておよび/またはスクリーン上の構造体の印刷を含む。
種々の実施形態において、構造体の配向は、スクリーン上の位置または領域によって変化している。一実施形態では、それらの配向は、スクリーン全体にわたって変化している。構造体の配向の変化は、表示される映像によるものではないスクリーン上に投影される照射パターンに関連している。照射パターンは、オーディトリアムのジオメトリ、プロジェクタ(群)の配置、スクリーンの位置および観客席の位置、に関連した角度パターンであり、すなわち、スクリーン全体にわたる照射方向の変化である。例示的な照射パターンを、図3および7に示している(図では、実線で、スクリーンから観客席への角度を示しており、破線で、プロジェクタから曲面スクリーンへの角度を示している)。配向の変化によって、例えばホットスポットとして観察されることがよくある不均一な照射を補正し、スクリーンからの光が、側壁、天井、および他のシアタ構造体にではなく、観客席に対してより多く維持されるように補正する。
【0012】
種々の実施形態において、スクリーンは、スクリーンシェーカを備えることができる。スクリーンシェーカは、特に、スクリーンコーティングに含まれる粒子の運動の増加または最大運動を示す周波数に同調させることができる。そのような粒子として、組み立て時に基材上に吹き付けられたビーズに封入された液体を含むことができる。そのような液体として、ミルク、またはブラウン運動をすることが知られているもしくはそのようにエンジニアリングされた他の液体、を含むことができる。そのような液体は、水と花粉粒または他のデブリ(debri)のような混合物であり得る。
【0013】
一実施形態では、反射光を、シアタの最高画質向けの特定のエリアに重点的に向ける。そのような最高画質向けエリアは、使用できる座席の中央エリアとすることができ、シアタの(側壁のような)構造部品に向かう反射は、さらに最小限に抑えられる。本発明は、プレミアム座席としての最高画質向けエリアの座席のマーケティング(さらに場合によっては、関連するプレミアム価格設定、VIP指定、広々座席または他のアップグレード)を含む。
【0014】
本発明は、次世代デュアル変調レーザプロジェクタによって実現されるような高ダイナミックレンジ映像を受けるためのスクリーンセットアップとして具現化することができる。本発明は、シネマまたは他の設定においてVDRまたは準VDR映像を表示する方法を含み、このとき、変調器または一連の変調器に照射する高コリメート光源の1つ以上を有するレーザプロジェクタであって、映像を生成して、その映像をスクリーン上に投影するレーザプロジェクタによって、映像は準備される。スクリーンは、例えば、スタジアム型座席を備えるプレミアムシアタに設置されたスクリーンである。プロジェクタは、スクリーンの最高点の高さまたはそれに近い高さのスタジアム型シアタの最上列上方から投影することができ、そして下方向に投影することができる。本方法は、従来の市販のスクリーンで見られる正反射を修正することを含む。スクリーン上の構造体によって、スタジアム型座席を網羅するとともに側壁および他のシアタ構造体を除外する、より限られた反射範囲に反射光を修正し、そして例えば、ホットスポットを補正し、反射光を全体に均等に分散させる。それらの構造体は、プロジェクタの角度、プロジェクタに対するスクリーンの向き、およびスクリーンのジオメトリ(曲面、平面、凹面など)に少なくとも部分的に基づいて、配向または調整される。
【0015】
種々の実施形態において、本発明は、スクリーンの能力または特性に基づいて、プロジェクタの性能特性を、効率または輝度について調整することを含む。そのような能力および特性として、例えば、スクリーンのゲイン性能を少なくとも部分的に規定するコーティングおよび/またはスクリーン基材の材料が含まれる。構造体は、使用されるコーティングおよび/または基材の材料を考慮して開発される。
【0016】
本発明、および/または本発明を具現化する方法のうち、いくつかの部分は、汎用コンピュータまたはネットワークコンピュータでのプログラミングで好適に実現することができ、その結果は、汎用コンピュータ、ネットワークコンピュータのいずれかに接続された出力装置で表示するか、または遠隔装置に出力もしくは表示するために伝送することができる。そのようなコンピュータは、例えば、シネマサーバ、高速データ接続、記憶装置を含む。プロジェクタへの信号を取得することには、衛星、ファイバ、または類似の伝送によって、暗号化物理メディアおよび暗号化メディアを用いてDCPファイル(シネマコンテンツ)が送信されることが含まれる。
【0017】
また、コンピュータプログラム、データまたは映像シーケンス、および/または制御信号で表現される本発明のコンポーネントは、いずれも、任意の媒体で、任意の周波数でブロードキャスト(または伝送)される電子信号として具現化することができ、それには、無線ブロードキャスト、および銅線、光ファイバケーブル、同軸ケーブルを介した伝送などが含まれるが、ただし、これらに限定されない。
【0018】
本発明およびそれに伴う効果の多くは、以下の詳細な説明を添付の図面と関連させて検討し参照することで、さらによく理解されるようになり、より完全な理解が容易に得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】垂直投影照射に関する、水平視野角に対するスクリーンゲインのグラフである。
図2】スクリーンに対して垂直から8度の下向き角度まで、垂直方向に照射を移したときの、水平ゲインの変化を示すグラフである。
図3】下向き角度の投影が、知覚される輝度に及ぼす効果を示す図である。
図4】スクリーン基材に、エンボス加工、エッチング、または印刷することができる例示的な構造体である。
図5A】スクリーンの反射性の変化についての例示的なマップである。
図5B】スクリーンの反射性の変化についての例示的なマップである。
図5C】スクリーンの反射性の変化についての例示的なマップである。
図5D】スクリーンの反射性の変化についての例示的なマップである。
図6】スクリーンの主な反射領域のマップである。
図7】スクリーンの曲率に対応する構造体を備えた中央領域とサイド領域における反射角を示す、シアタの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、現在のスクリーンについての様々な問題を実感しており、それらは、レーザ照射投影とスタジアム型座席とを備えたオーディトリアム(auditorium)に対して適切な仕様に構成された改良構造スクリーンを用いて解決することができる。スペックルを軽減する必要がある。
【0021】
a.スペックルは、スペックルの発生がより少ない表面特性を有するスクリーンを使用することによって抑えることができる。表面粗さ、および表面に光が侵入する深さは、スペックル発生量の大きなファクタである。
【0022】
b.スペックルは、スクリーンを揺動させる(shaking)ことによって軽減することができる。機械的シェーカで発生させる表面撹乱(surface disruption)が、いかに良好に表面全体に広がるかは、スクリーンの材料および張力によって決まり、そしてこれによって、所望の軽減レベルを達成するために必要なスクリーンシェーカ(screen shaker)の数および位置が決まる。
【0023】
以下、同等の部材または対応する部材を同様の参照符号で示す図面を参照し、より具体的にはその図1を参照すると、そこに、一群のスクリーンについて、垂直投影照射に関して、水平視野角に対するスクリーンゲイン(screen gain)のグラフを示している。このような測定値は、投影照射および観客は共にスクリーンに対して垂直で、取得される。1のゲインは、ランバート面(Lambertian surface)から反射されるレベルを表している。
【0024】
スタジアム型座席を備えるオーディトリアムにおけるプロジェクタは、典型的には、スクリーンの最上部に対して垂直に配置される。これは、スクリーンの大部分は、下向き角度で(すなわち、スクリーンに対して垂直ではなく)照射されることを意味する。ゲインを有するスクリーンは、最大量の光を照射源に反射し返すように設計されている。観察点が照射の垂直軸から離れるように移るにつれて、反射される光は少なくなる。
【0025】
仮定されたのは、照射はスクリーンに対して垂直であるということであり、これは、下向き角度の投影の場合には当てはまらない。図2は、スクリーンに対して垂直から8度の下向き角度まで、垂直方向に照射を移したときの、水平ゲインの変化を示すグラフである。図2は、照射を、スクリーンに対して垂直から8度の下向き角度の照射まで垂直方向に移した場合にプロットされた、水平ゲインにおける変化を示している。以下で、青線は、スクリーンに対して垂直な照射の場合のゲインを示しており、緑線は、8度の下向き角度の照射の場合のゲインを示している。紫線は、スクリーンに対して垂直な照射の場合のゲイン割合を示しており、赤線は、8度の下向き角度の照射の場合のゲイン割合を示している。
【0026】
この用途で使用されるほとんどのスクリーンでは、プラスチック、ビニル、PVC、および/または類似の材料などの基材に、反射コーティングを施している。反射コーティングは、ゲイン性能およびスペックル発生量を決めるものである。基材によって、いかに良好にシェーカが機能するかが決まる。コーティングは、基材の比較的滑らかな均一表面に施されるので、ゲイン性能は、垂直方向と水平方向の視野軸で同様に上下する。つまり、スクリーン性能は、スクリーンに垂直な照射からいずれの方向にX度外れて鑑賞した場合でも同じである。
【0027】
改良構造スクリーンでは、基材に3Dパターンをエンボス加工する。これらの構造体(structure)を非対称に構築することで、垂直照射から視角が水平方向に外れるか、垂直方向に外れるかに応じて異なるゲイン性能を実現することができる。さらに、構造体は、垂線のどちら側から鑑賞するかに応じてゲイン性能が異なるように構成することができる。
【0028】
図4は、スクリーン基材に、エンボス加工、エッチング、または印刷することができる例示的な構造体である。図4は、それぞれに反射面を有する(例えば、三角形の)構造体を含んでいる。この実施形態における各構造体の非垂直面は、主反射面であって、プロジェクタ(例えば、シネマプロジェクタ、レーザプロジェクタ、DLP方式プロジェクタ、デュアル変調プロジェクタなど)からの光を直接反射し、さらに垂直面からの二次反射および隣接構造体からの反射をいずれも反射する。
【0029】
図4に示すように、それらの主反射面の傾斜は異なり得る。これは、スクリーンからの主反射角が様々に異なることを示している。そのような異なりは、スクリーン全体にわたっており、通常の反射が向けられるところとは異なる領域に光を反射または誘導する必要がある場合には、より急峻な傾斜面がスクリーンの領域に配置される。反射面のよりフラットな領域は、通常のスクリーン面により近い挙動を示し、概して、プロジェクタに向けて反射し返すか、または反射される光の入射角に基づいた角度で反射する。
【0030】
上述のように、(スクリーンの垂線に対する)傾斜および反射角の大きさは様々に異なる。スクリーンは、例えば、特定の反射性を有する領域を含むことができ、ほとんどの場合、主に傾斜量によるものである。好ましくは、傾斜は、概ね第1の傾斜量を有する領域から、第2の傾斜量を有する他の領域へと、滑らかに変化する。同じく図4に示すように、構造体間の間隔は様々に異なり得る。例えば、より傾斜が大きい反射面の間の間隔ほど、短く、反射面がよりフラットになるにつれて、間隔は大きくなり得る。好ましくは、構造体間の間隔が変化する場合の変動は、滑らかに変化する。
【0031】
図4に示す構造体は、一方向に反射を示すという意味で一次元であるが、スクリーン全体にわたっては、反射を任意の方向または方向の組み合わせに向けることができる。例えば、スクリーンのある領域内の構造体は、主に下方向に反射することができ、スクリーンの他の領域における反射体は、他の方向に(例えば、スクリーンに垂直に)反射することができ、これら2つの領域の間の反射体は、下方向と垂直方向との間で増加する量で反射することができる。同様に、反射方向は、中心に向かって、または中心からスクリーンの縁へと、スクリーンを横切る方向であってもよい。より単純な反射体として図示しているものの、プリズムのような他の光学素子を用いてもよく、また、レンズ、拡散体、コーティングなどのような他の要素と組み合わせてもよい。
【0032】
図5Aは、スクリーンの反射性の変化についての例示的なマップを提示している。スクリーンのトップ領域は、主に下方向に反射する構造体を主に有し、サイド領域は、下方向およびスクリーンの中心に向かって主に反射し、スクリーンのボトム領域は、上方向に主に反射する。図5Bは、スクリーンの最上部に、より大きな下方向反射領域を有する代替案を提示している。図5Cは、垂線方向およびスクリーンの縁に向かって外向きに、主に反射するスクリーンの中央領域の一例を提示している。図5Dは、図5Aと5Cを組み合わせた一例を提示している。
【0033】
スクリーンからの反射(すなわち、スクリーンに表示されている映像)を観客席の観客に向けて誘導し、側壁、天井などのシアタ構造体に到達する光量を低減することで、観客に対して表示される映像の輝度を向上させるとともに、いくらかの映像光がシアタ内の周辺光に加わることによるスクリーン上のコントラストの低下を防ぐように、スクリーンの構造体は配置される。さらに、これによって、観客の疎外感を減らし、また、照明コスト(電球、レーザ、ワット数など)を低減する。
【0034】
種々の実施形態において、スクリーン上の構造体は、例えば、拡散材、反射体、偏光子、プリズム、球状構造体、ビーズ、液体封入ビーズ、結晶、液晶、マイクロドット、量子ドット、ブラウン運動を示す材料、高周波音または物理的振動のような振動に対して柔軟に反応する(動く)材料、音波を受けて振動するときにランダム運動を示す材料、偏光保存材料、のうちの1つ以上を含む種々のコーティングを有する。
【0035】
スクリーン上の構造体は、概して、スクリーン上に表示される画素よりも小さいサイズのものである。例えば、構造体は、画素サイズよりもわずかに小さいもの、画素の1/2のもの、画素の1/4のもの、または画素サイズよりも1桁以上小さいもの、のいずれかであり得る。他のファクタはすべて等しいとして、4Kまたは8K映像を表示するスクリーンは、2K映像を表示するスクリーン上の構造体と比較して、それぞれ2倍または4倍小さい構造体を有することになる。2K~8Kのすべての標準的な映像での互換性を得るためには、より小さい構造体サイズのほうが、より望ましい。
【0036】
種々の構造体は、スクリーン材にエッチングまたはエンボス加工することができる。種々の材料またはコーティングは、例えば、塗料、アクリル、またはエポキシのような透明媒質または透光媒質中にランダムまたは均等に混合されて、スクリーン基材上に吹き付けられた構造体を含むことができる。そのような基材は、例えば、プラスチック、PVC、ポリマとすることができる。基材は、例えば、現在使用されている通常のシネマスクリーンと比較して高弾性率を有することができ、これは、スペックルを低減するためのスクリーン揺動と組み合わせて用いる場合に有用であり得る。
【0037】
構造体および/または構造体上のコーティングは、独特な始めから終わりまでのパターンを有するローラを用いて、エンボス加工することができる。それらは、例えば以下のようであり得る。
【0038】
a.高さ10mのスクリーンを垂直方向に処理する場合は、ローラは外周10mまたは直径3.2mということになる。
b.より小さい独特のいくつかのローラの場合は、垂直方向の継ぎ合わせを用いるか、または同じ基材に対して複数の独特のローラを用いることができる。
【0039】
c.幅20mのスクリーンを水平方向に処理する場合は、ローラは外周20mまたは直径6.4mということになる。
d.より小さい独特のいくつかのローラの場合は、水平方向の継ぎ合わせを用いるか、または同じ基材に対して複数の独特のローラを用いることができる。
【0040】
e.単一の基材または相互に継ぎ合わせた複数の基材としての1つのスクリーンをエンボス加工するために、例えば15個の独特なローラを使用することができる。以下の表1は、15個の独特なローラによるスクリーンの受持ち範囲を示している(例えば、各ローラは、表1のローラID番号の物理的位置に対応する区画に主に適用される)。
【0041】
【表1】
各ローラは、例えば、異なる構造のローラ体を有するものであり得る。ローラ構造は、例えば、スクリーンに施される構造の逆のものである。ローラは、例えば、いくつかの基材の区画に適用することができ、その後、それらを、溶接(例えば、プラスチック溶接)するか、または他の方法で相互に継ぎ合わせる。隣接する区画間でスクリーンが遷移する場合の異なる区画間でいくらかの融合が生じるように、基材の区画をオーバラップさせてもよい。
【0042】
ローラ1の構造は、例えば、スクリーンの反射性を主に下向きおよび(主にシアタの壁から離れる)内向きにさせる構造を主に施すものであり得る。内向きの反射性を、例えば、図7において、図示のスクリーンの縁から発する濃色の反射矢印で示している。ローラ15は、主に上向きおよび内向きのものとすることができ、内向きの成分を同じく図7の濃色の反射矢印で示している。ローラ8は、例えば、図7にスクリーンからの中央反射で示すように、例えば、反射光をより均等に分散させる構造を有し得る。また、図5A~5D、6、およびその他を参照して、本明細書で図示および/または記載されるもののような反射性パターンを実現することもできる。
【0043】
加熱された可鍛状態にある基材上に、ローラを走らせることができ、その後、冷却または他の方法で硬化させることで、スクリーン上に構造体を形成することができる。転圧前に、硬化性液体またはペースト、アクリル、エポキシなどのような基礎材料を基材に塗布してもよい。基礎材料は、例えば、粒子、光学粒子、および/または本明細書の他の箇所で記載されるような他の材料などを含むことができ、それらは、基礎材料と共に全体として、硬化されると、基材上で構造体を形成する。
【0044】
一実施形態では、ローラはオリフィス(orifice)を有し、その中で、転圧工程中に、光学粒子を含み得る基礎材料がローラ上に浸出される。ローラがスクリーン(基材)上を横切ると、基礎材料の構成は、スクリーンの対応する位置で求められる光学的品質に相当するように変化し得る。異なる光学特性を有するスクリーンの領域間で滑らかな変化が得られるように、ローラを取り替えることができ、さらに/または基材/スクリーンのいくつかの部分(例えば、区画間の遷移領域)を、ある区画を最初にあるローラによって、そして次に隣接区画からのローラによって、二重に転圧することができる。ローラがその対応する区画の縁に近づくにつれて、ローラに付与する圧力を減少させることができる。隣接区画のローラを、軽い圧力で、区画間の遷移領域で開始させることができ、その圧力を、遷移領域の外でフル標準圧力まで増加させて、その対応する区画ではフル圧力とする。
【0045】
構造体は、微細切削器具または印刷器具を備えた大型CNCルータ盤のようなコンピュータ数値制御(CNC)機械によって、基材にエッチングまたは印刷してもよい。微細(例えば、マイクロ)3D印刷を用いて、構造体を生成することができる。
【0046】
構造体は、スペックル低減、拡散、または鏡面性のいずれかの改善のためなど、様々な目的の種々の材料でコーティングすることができる。また、コーティングは、結晶(例えば、液晶)、不透明物質、透明物質、または透光物質の小粒子のような構造体を含むこともできる。コーティングは、追加の構造体を含む、アクリル、または透明物質もしくは透光物質の塗料状混合物のものとすることができる。コーティングは、スクリーン上に吹き付けて、硬化させることができる。硬化は、コーティング材料に応じて、空気接触、光(例えば、UVもしくはIR(熱))の照射、または他の硬化プロセスによるものとすることができる。
【0047】
コーティングは、色素材またはフィルタ材を含むことができる。コーティングは、スクリーン映像のコントラストに対する周辺光の影響を低減するために非投影光の反射率を低減させるべき波長に基づいて反射を変化させるように設計されたスペクトルコーティングを含むことができる。一実施形態では、コーティングは、プロジェクタによる出射光の波長(例えば、赤色、緑色、および青色レーザ波長)の反射率が高く、かつ他の波長の反射率は低い色素材を含む。スクリーンの反射感度は、好ましくは、レーザプロジェクタの広色域原色および/またはスペクトル分離された3D映像(例えば、2組のRGBレーザ)の第1(R1G1B1)と第2(R2G2B2)のチャネルに対応する少なくとも6つの主要波長に合わせて調整される。
【0048】
一部の実施形態では、反射体(および、コーティング)は、偏光保存型のものであり、スクリーン面は、偏光保存面を含む。このような実施形態は、従来のレーザ照射偏光方式3Dプロジェクションシステム(例えば、Z-Screenの実装、デュアルプロジェクタによる左右直交偏光投影など)と互換性がある。
【0049】
反射性は、特定のジオメトリまたは投影角に合わせて調整することができる。この調整は、スクリーン全体にわたって提供することができ、これにより、スクリーンの一領域を、他の領域とわずかにまたは大きく異なるように調整することができる。
【0050】
下向き角度の照射(すなわち、スタジアム型座席を備えるオーディトリアム)用の改良構造スクリーンを構築するための設計パラメータについて以下で解説する。構造体は、10度(または投影角に相当する他の角度)の下向き角度の照射用に最適化される(これはコンセプトAである)。この構造体は、光が垂線から10度外れてスクリーンに到達すると仮定して、反射光の分散を、観客席に向けて下向きにバイアスする。
【0051】
スクリーンの構造体は、例えば、図6に示すように、スクリーンの最上部から最下部へと変化している(これはコンセプトBである)。
a.最上部は、その表面に対して垂直である(または応用によっては、垂線から+/-数度外れる)と想定される照射を受けて、垂線から上向きの反射はほとんどなく、その分散を観客席に向けて下向きにバイアスするように設計される。
【0052】
b.最下部は、その表面に対して20度(応用によっては、+/-数度)の下向き角度であると想定される照射を受けて、下向きの反射はほとんどなく、その分散を観客席に向けて上向きにバイアスするように設計される。
【0053】
c.スクリーンの残り部分は、最上部と最下部のパラメータの間で遷移するように設計される。最上部から最下部に移るにつれて、下向き角度の投影の想定角度は増加する。最上部から最下部に移るにつれて、反射性によるバイアスは、下向きから上向きになり、その中央で上向きと下向きの光のバイアスは同等となる。
【0054】
これらの設計パラメータは、スペックルを低減するための改良構造スクリーンとは独立な品質のもの、および/またはそれと連係した品質のものであるべきである(これはコンセプトCである)。これは、例えば、基材として、エンボス加工およびコーティングされた後にスクリーンバイブレータによる表面撹乱の強化された伝播が得られるものを選択することを含む。これは、例えば、スペックル低減材料、またはスペックルを低減するためのスクリーン揺動(例えば、機械的振動または音波振動)との組み合わせで反応する材料、でコーティングされた(例えば、有孔)PVC基材によって得ることができる。
【0055】
エンボス構造体および/またはコーティング自体は、観客が知覚するスペックルを低減する特性で選択される(これはコンセプトDである)。これらの設計パラメータおよびコンセプトは、任意の組み合わせで併用することが可能である。いくつかの例示的な組み合わせとして、多様な効果が得られるスクリーンを生成するためのコンセプトAC、AD、ACD、BC、BD、BCD、CDが含まれる。
【0056】
一実施形態では、高角度で(極めて低く)設計されたスクリーンゲインを用いることによって、曲面スクリーンの場合のコントラスト比を向上させることが可能である。この考えによって、スクリーンの縁で、構造体は(急な水平角度で入射する)光を受けて、それを、より多く観客席に向けて誘導するだけではなく、より重要なことに、壁からスクリーンへ反射し返すことによるコントラストの低下を避けるために、壁から離れる方向に誘導するように設計される。同様に重要なのは、光を天井から離れるように維持することであり、従って、最上部の垂直構造では、このことを、その仕様で考慮することが必要となる。例えば、図5Aでは、トップ領域は、(天井から離れるように)主に下向きに誘導し、サイド領域は、(壁から離れるように)主に内向きに誘導する。床による反射も、同様に最小限とされなければならない。また、スクリーン構造は、カーブした状態で良好に機能するように設計することが可能である。望ましいスクリーンの曲率は、例えば、20:1とすることができ、スクリーンの水平方向の構造決定では、この曲率を考慮して、より多くの光を観客席で得られるとともに、光を壁から離れるように維持するように設計されなければならない。例えば、スクリーンがフラットである場合とは異なる、スクリーンがカーブしているときの所望の方向に、反射が発せられるように、構造体は設計される。例えば、他のファクタはすべて等しいとして、フラットスクリーンと比較すると、水平方向の曲率が20:1のスクリーンは、反射体の位置でのスクリーンの曲率に比例した大きさの角度で傾斜した反射体を有することになる。そのような反射体における構造は、提示したようにスクリーンの曲率を考慮したものである。
【0057】
図面に示す本発明の好ましい実施形態についての説明では、明確にするために具体的な用語を用いている。しかしながら、本発明は、そのように選択された特定の用語に限定されるものではなく、具体的要素のそれぞれは、同様に機能するあらゆる技術的均等物を含むものと理解されるべきである。例えば、反射体について記載している場合、本明細書で列挙しているか否かにかかわらず、適切に構成されたミラー、プリズム、ガラス、もしくはシリケート(例えば、粉砕シリケート)のような他の等価なデバイス、または類似もしくは等価な機能もしくは能力を有する他のデバイスもしくは材料で、それを置き換えることができる。また、記載の部材を、現時点では周知ではない新たに開発された技術で置き換えることもでき、それでも本発明の範囲から逸脱することはないと、本発明者らは認識している。限定するものではないが、構造体、コーティング、基材、プロジェクタ、座席配置などを含む他のすべての記載のアイテムについても、同じく、適用可能なあらゆる均等物に照らして考慮されるべきである。
【0058】
本発明は、適宜、本明細書に記載のような任意の要素(本発明の様々な部材または特徴である、例えば、[部材/構成要素の列挙])およびそれらの均等物を備え、それらにより構成され、それらにより基本的に構成されることができる。また、本明細書において例示的に開示された本発明は、本明細書において具体的に開示されているかどうかにかかわらず、いずれかの要素を省いて実施することができる。言うまでもなく、上記の教示に照らして、本発明の数多くの変更および変形が可能である。よって、本発明は、添付の請求項の範囲内で、本明細書に具体的に記載しているのとは別の方法で実施することができるものと理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7