(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】ドライエッチングガス組成物及びドライエッチング方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20220308BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
H01L21/302 301S
(21)【出願番号】P 2019511240
(86)(22)【出願日】2018-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2018014161
(87)【国際公開番号】W WO2018186364
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2017076019
(32)【優先日】2017-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 惟人
(72)【発明者】
【氏名】池谷 慶彦
(72)【発明者】
【氏名】澁澤 幸伸
(72)【発明者】
【氏名】清水 久志
【審査官】田中 崇大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/123038(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/104290(WO,A1)
【文献】特開昭60-115232(JP,A)
【文献】特表2011-528182(JP,A)
【文献】特開2017-050413(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194178(WO,A1)
【文献】特開2016-149451(JP,A)
【文献】特表2015-533029(JP,A)
【文献】特開2009-065087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライエッチングガス組成物を用いるドライエッチング方法であって、
前記ドライエッチングガス組成物が1,1,2-トリフルオロ-1,3-ブタジエン、3,3,4,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、1,1,1-トリフルオロエタン及び1,1,2-トリフルオロエタンから選ばれる少なくとも一種のハイドロ
フルオロカーボン化合物を含み、
(a1)シリコン酸化膜、(a2)非シリコン系マスク材料又は(a3)多結晶シリコン膜と、(b1)窒素を含むシリコン系膜とが積層された積層構造体であって、(b1)窒素を含むシリコン系膜の少なくとも一部が前記ドライエッチング
ガス組成物と接触可能である該積層構造体を、前記ドライエッチングガス組成物を用いてプラズマエッチングを行い、(a1)シリコン酸化膜、(a2)非シリコン系マスク材料又は(a3)多結晶シリコン膜に対して、(b1)窒素を含むシリコン系膜を選択的にエッチングする工程を有する、ドライエッチング方法。
【請求項2】
前記ドライエッチングガス組成物に前記ハイドロフルオロカーボン化合物が1体積%以上100体積%以下含まれる、請求項1に記載のドライエッチング方法。
【請求項3】
前記ドライエッチングガス組成物が、前記ハイドロフルオロカーボン化合物に加えて、O
2、O
3、CO、CO
2、NO、NO
2、SO
2及びSO
3からなる酸素原子を有する化合物群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1又は2に記載のドライエッチング方法。
【請求項4】
前記ドライエッチングガス組成物が、前記ハイドロフルオロカーボン化合物以外にN
2、He、Ar、Ne及びXeからなる不活性ガス群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項1~3の何れか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項5】
(b1)窒素を含むシリコン系膜が、窒化ケイ素膜である、請求項1~4の何れか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項6】
(a2)非シリコン系マスク材料が、アモルファスカーボン膜、フォトレジスト又は窒化チタン膜である、請求項1~5の何れか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項7】
前記ドライエッチングガス組成物が1,1,2-トリフルオロ-1,3-ブタジエン、3,3,4,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン及び3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンから選ばれる少なくとも一種のハイドロ
フルオロカーボン化合物を含む、請求項1~6の何れか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項8】
ドライエッチングガス組成物を用いるドライエッチング方法であって、
前記ドライエッチングガス組成物が、線状化合物でありC
4H
3F
3、C
4H
3F
5又はC
4H
4F
4で表される化合物を含むか、1,1,1,4,4-ペンタフルオロブタン又は1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタンを含み、
(a1)シリコン酸化膜と、(b1)窒素を含むシリコン系膜とが積層された積層構造体であって、(b1)窒素を含むシリコン系膜の少なくとも一部が前記ドライエッチング
ガス組成物と接触可能である該積層構造体を、前記ドライエッチングガス組成物を用いてプラズマエッチングを行い、(b1)窒素を含むシリコン系膜を(a1)シリコン酸化膜に対して選択的にエッチングする工程を有する、ドライエッチング方法。
【請求項9】
前記ドライエッチングガス組成物が1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタンを含む、請求項8に記載のドライエッチング方法。
【請求項10】
前記ドライエッチングガス組成物が1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタンを10~30体積%、酸素を10~30体積%及びアルゴンを45~75体積%含む、請求項9記載のドライエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロフルオロカーボンガスを含むドライエッチングガス組成物、及びそれを用いたドライエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今現在半導体デバイスは高速化、省電力化のために微細化と新規材料の利用などが積極的に試みられており、半導体デバイスの微細加工にはフルオロカーボン(以下「FC」ともいう。)ガスやハイドロフルオロカーボン(以下「HFC」ともいう。)ガスプラズマを用いたドライエッチングによって行われている。
【0003】
C4F8、C4F6、C5F8など炭素数2以上の環状構造若しくは不飽和結合を有するFCガスプラズマでは、シリコン窒化膜(以下「SiN」ともいう。)、多結晶シリコン(以下「Poly-Si」ともいう)又はレジストなどに対し、シリコン酸化膜(以下「(SiOm)(mは自然数を表す)」ともいう。)を選択的にエッチングできることが一般的に知られている(例えば特許文献1~3)。
【0004】
更に、HFCガスについても、シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜等に係るエッチング作用が知られている。
例えば、特許文献4には、CxHyFz(式中、xは3、4または5を表し、y、zはそれぞれ独立して、正の整数を表し、かつ、y>zである。)で表される飽和フッ素化炭化水素を含む処理ガスを用いたプラズマエッチング方法が記載されている。同文献には、この処理ガスにより、シリコン窒化膜をシリコン酸化膜に対して選択的にエッチングすると記載されている。同文献の実施例には、前記処理ガスの具体例として、2,2-ジフルオロ-n-ブタン(C4H8F2)が記載されている。
【0005】
また特許文献5には、CxHyFz(x=3、4又は5である。また、y+z≦2x、かつy>zである。)で表される不飽和フッ素化炭化水素を含有するエッチングガスが記載されており、これによりシリコン酸化膜又はシリコン膜に積層されたシリコン窒化膜を高度に選択的にエッチングすることができると記載されている。同文献の実施例では、前記エッチングガスの具体例として、4-フルオロ-1-ブテン(C4H7F1)、2-メチル-3-フルオロプロペン(C4H7F1)、1,1-ジフルオロ-2-メチルプロペン(C4H6F2)が記載されている。
【0006】
特許文献6には、式:CaFbHc(式中、a、b及びcは、それぞれ正の整数を表し、2≦a≦5、c<b≧1、2a+2>b+c、b≦a+cの関係を満たす。但し、a=3、b=4、c=2の場合を除く。)で表される含フッ素不飽和炭化水素が記載されており、これにより、二酸化シリコン及び窒化シリコンをエッチングすることが記載されている。実施例ではペンタフルオロプロペン(C3H1F5)が用いられている。
【0007】
特許文献7には、trans-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(C
4
H
2
F
6
)、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(C4H2F6)、ヘキサフルオロイソブテン(C4H2F6)、trans-1,1,2,2,3,4-ヘキサフルオロシクロブタン(C4H2F6)、1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタン、1,1,2,2-テトラフルオロシクロブタン、及びcis-1,1,2,2,3,4-ヘキサフルオロシクロブタン(C4H2F6)よりなる群から選択されるエッチングガスを用いることが記載されている。同文献には、これらのガスを用いることでケイ素含有薄膜がアモルファスカーボン層から選択的にエッチングされるとされている。
特許文献8にはCxHyFzで表され、xは3~5のうちの整数であって、y+z≦2x、y≦zを満たす、分子内に不飽和結合を有するハイドロフルオロカーボンガスを含有するドライエッチングガス組成物が記載されており、これをエッチングガスとして用いることでシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜を選択的にエッチングすると記載されている。同文献の実施例には、前記ハイドロフルオロカーボンガスの具体例として、1,1,4,4-テトラフルオロ-1,3-ブタジエン(C4H2F4)が記載されている。
特許文献9には、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(C3H2F4)からなるドライエッチングガスがシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜を選択的にエッチングすると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】US2004011763A1
【文献】特開2011-44740号公報
【文献】特開2011-86966号公報
【文献】US2011068086A1
【文献】US2014306146A1
【文献】US2014302683A1
【文献】WO2014070838A1
【文献】特開2016-149451号公報
【文献】特開2016-197713号公報
【発明の概要】
【0009】
以上の通り、従来、窒化ケイ素膜を、他の膜に対して選択的にエッチングする技術は知られていた。
しかしながら、近年の半導体製造における事情から、他の膜の中でも特にシリコン酸化膜や多結晶シリコン膜、又は、アモルファスカーボン膜(以下「ACL」ともいう)等の非シリコン系マスク材料にほとんどダメージを与えずに、窒化ケイ素膜を選択的にエッチングする技術が求められている。
【0010】
本発明者等は、上記問題点を解決するために鋭意検討した結果、特定のハイドロフルオロカーボンを含むエッチングガス組成物が有効であることを発見し本発明を完成するに至った。
【0011】
具体的には本発明は、HFCガスとして、一般式:CxHyFz(式中、x、y及びzは、2≦x≦4、y+z≦2x+2、及び0.5<z/y<2を満たす整数である)で表される飽和又は不飽和のハイドロフルオロカーボン化合物(但し、1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタン及び1,1,2,2-テトラフルオロシクロブタンを除く)を含有するドライエッチングガス組成物を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、ドライエッチングガス組成物を用いるドライエッチング方法であって、
(a1)シリコン酸化膜、(a2)非シリコン系マスク材料又は(a3)多結晶シリコン膜と、(b1)窒素を含むシリコン系膜とが積層された積層構造体であって、(b1)窒素を含むシリコン系膜の少なくとも一部が前記ドライエッチング組成物と接触可能である該積層構造体を、前記ドライエッチングガス組成物を用いてプラズマエッチングを行い、(b1)窒素を含むシリコン系膜を選択的にエッチングする工程を有する、ドライエッチング方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハイドロフルオロカーボンガス組成物を用いたプラズマエッチングは従来の問題点、課題点等を解消し、次の利点を有するものである。
【0014】
シリコン酸化膜、アモルファスカーボン膜又は多結晶シリコン膜に対して、窒化ケイ素膜を選択的にエッチングする。このため、プラズマエッチングによるアモルファスカーボンや多結晶シリコンなどのマスク材料やSiO2層に対するダメージを軽減することができるため、デバイスの特性劣化や歩留りの減少を抑えることができる。
【0015】
従来アモルファスカーボン膜、多結晶シリコン膜、シリコン酸化膜に対して高選択的にシリコン窒化膜をエッチングするには、エッチング対象にあわせて複数のFCガス、HFCガスを混合し、混合割合などを制御する必要があったが、本発明によれば特定のハイドロフルオロカーボンを単独、若しくはO2やArを添加したエッチングガス組成物として用いることで高選択的にシリコン窒化膜をエッチングすることを実現している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1(a)及び
図1(b)は、本発明に従いドライエッチングを行う方法を順次示す工程図である。
【
図2】
図2(a)ないし
図2(c)は、本発明に従いドライエッチングを行う別の方法を順次示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明におけるドライエッチングガス組成物、及びそれを用いたドライエッチング方法について詳細に説明する。本発明の範囲は以下に説明する範囲に拘束されることはなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で変更することが可能である。
【0018】
本発明のドライエッチングガス組成物は、以下の式(1)で表されるHFCガスを含有するものである。式中、x、y及びzは、2≦x≦4、y+z≦2x+2、及び0.5<z/y<2を満たす整数である。なお式(1)は組成式である。
CxHyFz (1)
式(1)で表されるHFCガスは分子内に不飽和結合を有していてもよく、有していなくてもよい。不飽和結合はC=C及び/又はC≡Cである。
【0019】
本発明においては、式(1)で表されるHFCガスを1種又は2種以上用いることができる。式(1)で表されるHFCガスは、鎖状構造のものであってもよく、あるいは環状構造のものであってもよい。式(1)で表されるHFCガスは鎖状構造のものであることが好ましく、該鎖状構造は直鎖状であってもよく、あるいは分岐鎖状であってもよい。鎖状構造を有する化合物を鎖状化合物ともいう。
【0020】
式(1)で表されるHFCガスが、その炭素数が4であって飽和化合物である場合、該HFCガスの好ましい基本骨格は以下の(4A)ないし(4C)に示すものである。
C-C-C-C (4A)
-C-C-C-C- (4員環構造を示す)(4B)
-C-C-(C)-C-(3員環構造を示す。以下()は分岐構造を示す)(4C)
【0021】
式(1)で表されるHFCガスが、その炭素数が4であって不飽和化合物である場合、該HFCガスの好ましい基本骨格は以下の(4a)ないし(4o)に示すものである。
C=C-C-C (4a)
C-C=C-C (4b)
C-C-(C)=C(4c)
C≡C-C-C (4d)
C-C≡C-C (4e)
C=C-C=C (4f)
C=C=C-C (4g)
-C-C=C-C- (4員環構造を示す)(4h)
-C=C-(C)-C- (3員環構造を示す)(4i)
-C-C-(C)-C= (3員環構造を示す)(4j)
-C-C=(C)-C- (3員環構造を示す)(4k)
C≡C-C=C (4l)
-C=C-C=C- (4員環構造を示す)(4m)
-C-C=(C)-C= (3員環構造を示す)(4n)
C≡C-C≡C (4o)
【0022】
式(1)で表されるHFCガスが、その炭素数が3であって飽和化合物である場合、該HFCガスの好ましい基本骨格は以下の(3A)及び(3B)に示すものである。
C-C-C (3A)
-C-C-C- (3員環構造を示す)(3B)
【0023】
式(1)で表されるHFCガスが、その炭素数が3であって不飽和化合物である場合、該HFCガスの好ましい基本骨格は以下の(3a)ないし(3d)に示すものである。
C=C-C (3a)
C≡C-C (3b)
C=C=C (3c)
-C=C-C- (3員環構造を示す) (3d)
【0024】
式(1)で表されるHFCガスが、その炭素数が2である場合、該HFCガスの好ましい基本骨格は以下の(2A)、(2a)及び(2b)に示すものである。
C-C (2A)
C=C (2a)
C≡C (2b)
【0025】
式(1)で表されるHFCガスとしては、y+z=2x-2、y+z=2x又はy+z=2x+2を満たすものが好ましい。また、xが4の場合は、yは3以上6以下であり、且つzは3以上6以下であることが好ましく、xが3の場合は、yが3以上5以下であり、且つzが3以上5以下であることが好ましく、xが2の場合は、yが2以上3以下であり、zが2以上3以下であることが好ましい。
【0026】
式(1)で表されるHFCガスとしては、以下のものが好ましく挙げられる。
炭素数が4のものとしては、式(1)がC4H3F3、C4H3F5、C4H4F4、C4H5F3、C4H4F6、C4H5F5又はC4H6F4であるものが好ましく挙げられる。
炭素数が3のものとしては、式(1)がC3H3F3、C3H3F5、C3H4F4又はC3H5F3であるものが好ましく挙げられる。
炭素数が2のものとしては、式(1)がC2H3F3又はC2H2F2であるものが好ましく挙げられる。
【0027】
例えば、式(1)がC4H3F3のものとしては、
1,1,2-トリフルオロ-1,3-ブタジエン、
1,1,3-トリフルオロ-1,3-ブタジエン、
1,1,4-トリフルオロ-1,3-ブタジエン、
その他環状構造のものが挙げられる。
【0028】
例えば、式(1)がC4H3F5のものとしては、
3,3,4,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、
2,3,4,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、
1,3,4,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、
1,2,4,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、
1,1,4,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、
2,3,3,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、
1,3,3,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、
1,2,3,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、
1,1,3,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、
1,2,3,3,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、
1,1,3,3,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、
1,1,2,3,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、
その他環状構造のもの(但し、1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタンを除く)が挙げられる。
【0029】
例えば、式(1)がC4H4F4又はC4H5F3のものとしては、各種鎖状構造のものや環状構造のもの(但し、1,1,2,2-テトラフルオロシクロブタンを除く)が挙げられる。
【0030】
例えば、式(1)がC4H4F6である具体的な化合物としては、
1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタン、
1,1,1,3,4,4-ヘキサフルオロブタン、
1,1,1,2,4,4-ヘキサフルオロブタン、
1,1,1,3,3,4-ヘキサフルオロブタン、
1,1,1,2,3,4-ヘキサフルオロブタン、
1,1,1,2,2,4-ヘキサフルオロブタン、
1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロブタン、
1,1,1,2,2,3-ヘキサフルオロブタン、
1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタン、
1,1,2,2,4,4-ヘキサフルオロブタン、
1,1,2,2,3,4-ヘキサフルオロブタン、
1,1,2,3,3,4-ヘキサフルオロブタン、
1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロブタン、
1,2,2,3,3,4-ヘキサフルオロブタンが挙げられる。
【0031】
式(1)がC4H5F5である具体的な化合物としては、
1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、
1,1,1,2,3-ペンタフルオロブタン、
1,1,1,2,2-ペンタフルオロブタン、
1,1,1,4,4-ペンタフルオロブタン、
1,1,2,3,4-ペンタフルオロブタン、
1,1,2,3,3-ペンタフルオロブタン、
1,1,2,2,3-ペンタフルオロブタン、
1,1,2,3,4-ペンタフルオロブタン、
1,2,2,3,4-ペンタフルオロブタン、
1,2,2,3,3-ペンタフルオロブタンが挙げられる。
【0032】
式(1)がC4H6F4である化合物としては、各種直鎖構造のものが挙げられる。
【0033】
式(1)がC3H3F3である具体的な化合物としては、
3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、
2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、
1,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、
1,2,3-トリフルオロ-1-プロペン、
1,1,3-トリフルオロ-1-プロペン、
1,1,2-トリフルオロ-1-プロペン、
その他環状構造のものが挙げられる。
【0034】
式(1)がC3H3F5及びC3H4F4である化合物としては、各種直鎖構造のものが挙げられる。
【0035】
式(1)がC3H5F3である具体的な化合物としては、
1,1,1-トリフルオロプロパン、
1,1,2-トリフルオロプロパン、
1,1,3-トリフルオロプロパン、
1,2,3-トリフルオロプロパン、
1,2,2-トリフルオロプロパンが挙げられる。
【0036】
式(1)がC2H3F3である具体的な化合物としては、
1,1,1-トリフルオロエタン、
1,1,2-トリフルオロエタンが挙げられる。
【0037】
式(1)がC2H2F2である具体的な化合物としては、
1,1-ジフルオロエテン、
(E)-1,2-ジフルオロエテン、
(Z)-1,2-ジフルオロエテンが挙げられる。
【0038】
上記の中でも、式(1)がC4H3F3、C4H3F5、C4H4F6、C4H5F5、C3H3F3、C3H5F3及びC2H3F3から選ばれる少なくとも一種であるものが、窒化ケイ素膜を選択的にエッチングするという本発明の効果が高い点や入手しやすさの点から好ましい。
【0039】
また、式(1)において好ましいz/yは3/5≦y≦5/3であるが、中でも、y≦zであるものは、各膜の表面に形成されるハイドロフルオロカーボン膜の耐プラズマ性が高く、目的の加工形状を得やすい点から好ましい。
更に式(1)で表される鎖状のものは、窒化ケイ素膜を選択的にエッチングするという本発明の効果が高い点で好ましく、特に、基本骨格が上記(4A)、(4a)、(4f)、(3A)、(3a)及び(2A)から選ばれる少なくとも一種であるものが好ましい。
【0040】
また、式(1)で表される化合物としては、末端にCF3基又はCF2=CF基を有する構造であることが、窒化ケイ素膜の選択的エッチングと加工速度を両立しやすい点で好ましい。
【0041】
特に好ましい化合物としては、1,1,2-トリフルオロ-1,3-ブタジエン、3,3,4,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、1,1,1,4,4-ペンタフルオロブタン、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタン、3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、1,1,1-トリフルオロエタン及び1,1,2-トリフルオロエタンから選ばれる少なくとも一種であり、とりわけ1,1,2-トリフルオロ-1,3-ブタジエンが窒化ケイ素膜の選択的エッチングと加工形状を両立しやすい点で好ましい。
【0042】
上述の種々の構造で表されるHFCガスの多くは公知物質であり、従来公知の方法で製造・入手することができる。例えば、Journal of the American Chemical Society,77,3640-2(1955)に記載された方法により製造し、入手することができる。また、市販品をそのままで、あるいは所望により精製した後に用いることもできる。
【0043】
本発明のエッチング方法はプラズマを用いたドライエッチング方法であり、式(1)で表されるHFCガスを1種又は2種以上含むドライエッチングガス組成物を用いて行われるものである。エッチングに用いられるドライエッチングガス組成物において、式(1)で表される化合物の含まれる割合は1~100体積%であることが好ましく、10~30体積%であることがより好ましい。特にドライエッチングガス組成物中のハイドロフルオロカーボン化合物及びフルオロカーボン化合物のうち、式(1)の化合物の割合は、90体積%以上が好ましく、99体積%以上がより好ましく、99.999体積%以上であることが特に好ましい。割合が先述の範囲にあることによって本発明の効果はより高まる。特に式(1)の化合物として、1,1,2-トリフルオロ-1,3-ブタジエン、3,3,4,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン、1,1,1,4,4-ペンタフルオロブタン、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタン、3,3,3‐トリフルオロ‐1‐プロペン、1,1,1-トリフルオロエタン及び1,1,2-トリフルオロエタンから選ばれる少なくとも一種の割合が上記のハイドロフルオロカーボン及びフルオロカーボンの総量に対する好ましい割合を満たすことが好ましい。
【0044】
本発明のプラズマエッチング方法で用いるエッチングガス組成物は、式(1)で表されるHFCガス以外にO2、O3、CO、CO2、NO、NO2、SO2及びSO3からなる酸素原子を持つ化合物群から選択される少なくとも1つが含まれることが好ましい。特に酸素原子を持つ化合物群の中でもO2を用いることがより好ましい。エッチングガス組成物に占める酸素原子を持つ化合物群の割合は、5体積%以上80体積%以下とすることが好ましく、5体積%以上60体積%以下とすることが更に好ましい。
【0045】
また、エッチングガス組成物には、式(1)で表されるHFCガスと、上記の酸素原子を持つ化合物に加えて、又はそれに代えて、N2、He、Ar、Ne及びXeからなる不活性ガス群から選択される少なくとも1つが含まれることが好ましい。特に不活性ガス群の中でもArを用いることがより好ましい。
【0046】
エッチングガス組成物において式(1)で表されるHFCガスを混合する割合は1~100体積%の範囲が好ましい。O2、O3、CO、CO2、NO、NO2、SO2及びSO3からなる酸素原子を持つ化合物群から選択されるガスの割合は1~80体積%の範囲が好ましい。また、N2、He、Ar、Ne及びXeからなる不活性ガス群から選択されるガスの割合は1~80体積%の範囲が好ましい。特にO2を用いた場合には式(1)で表されるHFCガスの割合を5~50体積%、O2の割合を5~80体積%の割合で混合することで本発明の効果はより高まる。
【0047】
本発明のプラズマエッチングは、圧力が0.01~100Paの範囲で実施することが好ましく特に0.1~10Paの範囲で実施することがより好ましい。
【0048】
プラズマエッチング装置としては、当該技術分野において知られているものを特に制限なく用いることができる。例えばヘリコン波方式、高周波誘導方式、平行平板タイプ方式、マグネトロン方式及びマイクロ波方式等の装置が使用できる。
【0049】
プラズマ密度は、特に限定はないが、108イオン/cm3以上、より好ましくは108~1013イオン/cm3の高密度プラズマ雰囲気下でエッチングを行うのが望ましい。
【0050】
プラズマエッチングの対象としては、例えば(a1)シリコン酸化膜、(a2)非シリコン系マスク材料又は(a3)多結晶シリコン膜と、(b1)窒素を含むシリコン系膜との積層構造体が挙げられる。(b1)窒素を含むシリコン系膜としては、窒化ケイ素膜、SiON膜、SiCN膜、SiOCN膜などが挙げられ、特に(a1)シリコン酸化膜、(a2)非シリコン系マスク材料又は(a3)多結晶シリコン膜に対するエッチングの選択性が高い点で窒化ケイ素膜が好ましい。また(a2)非シリコン系マスク材料としては、炭素を主体とする有機膜及び無機膜のいずれであってもよく、炭素を主体とする有機膜としては、アモルファスカーボン膜、フォトレジストが挙げられ、無機膜としては窒化チタン膜が挙げられる。
【0051】
図1(a)に示すとおり(b1)の膜(以下「第1層11」という)をエッチング面にしてもよく、あるいは
図2(a)に示すとおり(a1)ないし(a3)のうちのいずれかの膜(以下「第2層12」という)をエッチング面にしてもよい。
【0052】
図1(a)に示す形態の場合には、積層構造体10における第1層11の表面に、所定のパターンが形成されたマスク13を配置し、該マスク13側からドライエッチングを行う。この積層構造体においては、(b1)窒素を含むシリコン系膜である第1層11の少なくとも一部が式(1)で表されるHFCガスを含むドライエッチング組成物と接触可能である。式(1)で表されるHFCガスは、
図1(b)に示すとおり第1層11を選択的にエッチングし、その下側に位置する第2層12の表面までエッチングが進行する。式(1)で表されるHFCガスは第2層12をエッチングしないので、エッチングは第2層12の表面が露出した時点で停止する。
【0053】
図2(a)に示す形態の場合には、積層構造体10における第2層12の表面に、所定のパターンが形成されたマスク13を配置し、第2層12を選択的にエッチングすることが可能なガスを用いて、
図2(b)に示すとおり同層12をエッチングする。これにより第1層11の少なくとも一部が式(1)で表されるHFCガスを含むドライエッチング組成物と接触可能となる。引き続き、
図2(c)に示すとおり、式(1)で表されるHFCガスを用いて第1層11を選択的にエッチングする。このとき第2層12はエッチングされない。
図1及び
図2の形態において、マスク13は、(a1)~(a3)の何れかで構成されていてもよく、或いは、式(1)の化合物によりエッチングされない別の材料により形成されていてもよい。或いは、積層構造体は、(a1)~(a3)の何れかで形成されたマスク13と第1層11のみから構成されており、第2層12を有していなくてもよい。
【0054】
また
図1及び
図2の形態において、マスク13を、(a1)~(a3)の何れかで構成し、第2層12を(a1)~(a3)以外で式(1)の化合物によりエッチングされない別の材料により形成していてもよい。また、或いは
図1及び
図2に記載の構造積層体において、マスク13、第1層11及び第2層12以外の層が積層されていてもよい。
【0055】
図1又は図2のいずれの形態においても、エッチングガス組成物をプラズマ化し発生する炭素数2~4のイオンやラジカルをエッチングに用いることが、選択性の高いエッチングを行い得る点から好ましい。
【0056】
かかるイオンが生じ得るプラズマ条件としては、例えばHFCガスとして1,1,2-トリフルオロ-1,3-ブタジエンを用いた場合には、1,1,2-トリフルオロ-1,3-ブタジエン:10~20体積%、O2:20~60体積%、Ar:30~70体積%の範囲が挙げられる。
【0057】
また例えばHFCガスとして3,3,4,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテンを用いた場合には、3,3,4,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン:10~20体積%、O2:20~50体積%、Ar:40~70体積%の範囲が挙げられる。
【0058】
また例えばHFCガスとして1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタンを用いた場合には、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタン:10~30体積%、O2:10~30体積%、Ar:45~75体積%の範囲が挙げられる。
【0059】
また例えばHFCガスとして1,1,1,4,4-ペンタフルオロブタンを用いた場合には、1,1,1,4,4-ペンタフルオロブタン:10~30体積%、O2:5~30体積%、Ar:50~80体積%の範囲が挙げられる。
【0060】
また例えばHFCガスとして3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンを用いた場合には、3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン:10~30体積%、O2:5~35体積%、Ar:40~80体積%の範囲が挙げられる。
【0061】
また例えばHFCガスとして1,1,1-トリフルオロエタン又は1,1,2-トリフルオロエタンを用いた場合には、1,1,1-トリフルオロエタン又は1,1,2-トリフルオロエタン:10~30体積%、O2:0~30体積%、Ar:50~90体積%の範囲が挙げられる。
【0062】
上記のいずれのHFC化合物を用いた場合も、圧力及びRFパワーは、上記ガス組成下において、炭素数1~5、好ましくは炭素数2~4のイオンやラジカルの発生が可能な条件を採用すればよく、例えば圧力1~10Pa、RFパワー300Wの条件が挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
本実施例ではプラズマエッチング装置として平行平板タイプの容量結合プラズマエッチング装置を用いた。シリコン酸化膜(SiOm)(mは自然数を表す。)としては、プラズマCVDによってシリコンウエハ上にSiO2膜を1000nm堆積したものを使用した。窒素を含むシリコン系膜としては、シリコン窒化膜(SiN)として、熱CVDによってシリコンウエハ上にSiN膜を300nm堆積したものを使用した。多結晶シリコン膜としてはシリコンウエハ上に100nmのSiO2膜を堆積させたものに、プラズマCVDによってPoly-Si膜を300nm堆積したものを使用した。アモルファスカーボン膜としては、プラズマCVDによってシリコンウエハ上にACL膜を400nm堆積したものを使用した。
【0065】
プラズマエッチングにおけるエッチングレートの測定は以下の式に従い算出した。
【数1】
サンプルの膜厚は光干渉式膜厚測定器で測定した。
【0066】
〔実施例1~9、比較例1~5〕
表1に記載のエッチングガス、O2、Arを表1に記載の組成で混合したドライエッチングガス組成物を用いた。圧力10Pa、RFパワー300Wの条件でプラズマを発生させ、SiO2膜、SiN膜、Poly-Si膜、ACL膜それぞれのサンプルをエッチング処理した。各サンプルのエッチングレートは表1に記載の通りであった。各サンプルのエッチングレートを用い、以下の式によって算出した選択比を表1に示す。
【0067】
【0068】
各実施例で用いたエッチングガスの由来を下記に示すが、本発明は、下記の入手方法及び製造方法によって何ら限定されるものではない。
C4H3F3(1,1,2-トリフルオロ-1,3-ブタジエン)
:Journal ofthe American Chemical Society,77,3640-2(1955)に記載された方法により製造した。
C4H3F5(3,3,4,4,4-ペンタフルオロ-1-ブテン)
:SynQuest Labs,Inc.より購入した。
C4H5F5(1,1,1,4,4-ペンタフルオロブタン)
:SynQuest Labs,Inc.より購入した。
C4H4F6(1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタン)
:Polish Journal of Chemistry,52,71(1978)に記載された方法により製造した。
C3H3F3(3,3,3‐トリフルオロ‐1‐プロペン)
:SynQuest Labs,Inc.より購入した。
C2H3F3(1,1,1-トリフルオロエタン)
:SynQuest Labs,Inc.より購入した。
C2H3F3(1,1,2-トリフルオロエタン)
:SynQuest Labs,Inc.より購入した。
【0069】
【0070】
表1に示す通り、実施例1~8では、いずれもSiO2膜、SiN膜、poly-Si膜、ACL膜のうち、SiN膜のみがエッチングされ、その他の膜に対するSiN膜の選択性は無限大であった。従って、式(1)で表される化合物を含むエッチングガス組成物ではSiN膜をSiO2膜、Poly-Si膜、ACL膜に対して高選択的にエッチングできることが示された。
【0071】
また、実施例の結果と比較例1~5の結果とを比べることで、既存のエッチングガスと比べて、式(1)で表される化合物を含むエッチングガス組成物を用いたエッチングでは、(a1)シリコン酸化膜、(a2)非シリコン系マスク材料及び(a3)多結晶シリコン膜に対し、(b1)窒素を含むシリコン系膜をより選択的にエッチングできることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
式(1)で表されるHFCガスを含むエッチングガス組成物によれば、シリコン窒化膜を、その他の膜に対して高選択的にエッチングできる。このことから多結晶シリコンやアモルファスカーボンなどのマスク材料や、シリコン酸化膜等と、シリコン窒化膜との積層構造において、シリコン窒化膜を選択的にエッチングするような微細加工に利用できる。