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特許7036807ハロゲン化物含有量が低減されたカチオン性ポリマーの調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】ハロゲン化物含有量が低減されたカチオン性ポリマーの調製方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/07 20060101AFI20220308BHJP
   C08F 6/06 20060101ALI20220308BHJP
   C08F 26/04 20060101ALI20220308BHJP
   C08G 73/02 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
C08J3/07 CER
C08J3/07 CEZ
C08F6/06
C08F26/04
C08G73/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019516398
(86)(22)【出願日】2017-09-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2017073804
(87)【国際公開番号】W WO2018054991
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】1658855
(32)【優先日】2016-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】519100103
【氏名又は名称】エス.ペ.セ.エム.ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】ジョアン キエフェ
(72)【発明者】
【氏名】セドリック ファブロ
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ルー
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-035677(JP,A)
【文献】特開2005-002196(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0125863(US,A1)
【文献】特表2015-513515(JP,A)
【文献】特開平08-134113(JP,A)
【文献】特開平04-258608(JP,A)
【文献】特開平03-186391(JP,A)
【文献】特開2015-166463(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102505564(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28、 99/00
C04B 2/00- 32/02、 40/00- 40/06
C08C 19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00、301/00
C08G 59/00- 59/72、 73/00- 73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化物含有量がポリマーの10質量%未満であり、25℃での粘度が200cps未満であり、ここで、前記粘度は50質量%に濃縮されたポリマーP1の水溶液について決定され、そしてカチオン電荷密度がmeq.g-1以上である、水溶性カチオン性ポリマーP1の水溶液を調製するための方法であって、
下記の順次の工程:
a)混合物を得るために、0℃~120℃の温度で少なくとも1種の式(I)の化合物を少なくとも1種の水溶性カチオン性ポリマーP2の水溶液に加えること、ここで、ハロゲン化物含有量はポリマーの10質量%を超え、25℃での粘度は200cps未満であり、ここで、前記粘度は50質量%に濃縮されたポリマーP2の水溶液について決定され、そして、カチオン電荷密度はmeq.g-1以上であり、式(I)の化合物は、式:R1-COO-Y1 +によって規定され、
上式中、R1は、水素原子、又は、1~8個の炭素原子を含む直鎖又は枝分かれ鎖のいずれかの飽和アルキル鎖を表し、少なくとも1個の窒素原子及び/又は酸素原子を含むことができ、前記鎖は1~4個の式-CORのカルボキシレート官能基により置換されていてもよく、
1 +はアルカリ金属カチオン、式R2-NH3 +のアンモニウムイオン、又は、式R3-N+(R4)(R5)(R6)の第四級アンモニウムを表し、
Rは、OH基又はO-2 +基を表し、
2 +はアルカリ金属カチオン又は式R2-NH3 +のアンモニウムイオンを表し、
2は、水素原子又は1~4個の炭素原子を含む直鎖又は枝分かれ鎖のいずれかである飽和アルキル鎖を表し、そして
3、R4、R5及びR6は、互いに独立して、1~4個の炭素原子を含む直鎖又は枝分かれ鎖のいずれかである飽和アルキル鎖を表す、
b)攪拌混合物を得るために、工程a)で得られた混合物を少なくとも5分間攪拌すること、
c)冷却混合物を得るために、工程b)の最後に得られた攪拌混合物の温度を-10℃~50℃の温度に低下させること、及び、
d)カチオン性ポリマーP1の水溶液を得るために、工程c)の最後に得られた冷却混合物を液体/固体分離すること、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記水溶性カチオン性ポリマーP1の水溶液は、ポリマーの全質量に対して2質量%未満の不溶性化合物の質量含有量であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程a)において、式(I)の化合物のアニオン電荷数/水溶性カチオン性ポリマーP2のカチオン電荷数の比は0.2:1~5:1である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
式(I)の化合物はギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムの中から選ばれる、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記液体/固体分離工程d)はデカンテーション又はろ過プロセスである、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記水溶性カチオン性ポリマーP2はジアリルジアルキルアンモニウムハライドなどの種類の少なくとも1種のモノマーの重合から得られる、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記水溶性カチオン性ポリマーP2は少なくともジアリルジメチルアンモニウムクロリドの重合から得られる、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記水溶性カチオン性ポリマーP2は少なくとも1種のエピハロヒドリンと少なくとも1種の第二級アミンとの重縮合から得られるポリマーである、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記水溶性カチオン性ポリマーP2はエピクロロヒドリンとジメチルアミンとの重縮合から得られるポリマーである、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
ジメチルアミンとエピクロロヒドリンとの間の化学量論比は1:0.99~1:0.80である、請求項記載の方法。
【請求項11】
無機鉱物バインダ又は石膏誘導体をベースとする組成物中の添加剤としての、又は、開放、半閉鎖もしくは閉鎖水性回路の処理における、請求項1~10のいずれか1項記載の方法によって得られる水溶性カチオン性ポリマーP1の使用。
【請求項12】
無機鉱物バインダ又は石膏誘導体をベースとする組成物中の粘土の影響を緩和するための緩和剤としての、請求項記載の方法によって得られる水溶性カチオン性ポリマーP1の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、ハロゲン化物含有量が低減された、高いカチオン電荷密度を有する水溶性カチオン性ポリマーを調製するためのポリマー調製方法に関する。
【0002】
本発明の目的はまた、無機鉱物バインダ又は石膏誘導体をベースとする組成物中の添加剤としての、又は、開放、半閉鎖もしくは閉鎖水性回路の処理における上記の水溶性カチオン性ポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
高い電荷密度及び低い粘度を有する水溶性カチオン性ポリマーは当業者に知られておりそして種々の方法により得ることができる。
【0004】
例えば、アルキレンアミンなどの二官能性アミン化合物、又は、第一級もしくは第二級モノアミンと、ジエポキシド、エピハロヒドリンもしくはジハロゲン化合物の中から選ばれる二官能性化合物との重縮合の反応を挙げることができる。
【0005】
高いカチオン電荷密度の基準を満たすために、できるだけ小さい分子量を有するモノマー物質を使用することが米国特許第3,738,945号及び同第3,725,312号明細書から知られた慣例であり、アンモニア又はモノもしくはジアルキル化アミンは好ましい物質である。
【0006】
しかしながら、アンモニア又はモノアルキル化アミンの使用は構造化ポリマー(分岐)を生じさせ、その粘度は200cps未満であるが、カチオン電荷は立体的に非常にわずかにしかアクセス可能でなく、これらの分岐構造を最も好ましくないものとしている。
【0007】
したがって、低分子量の線状ポリマーを得るためには、当業者は、好ましくはジアルキル化アミンを使用し、その中でジメチルアミンが好ましいものである。
【0008】
重縮合反応のためには、エピハロヒドリン、そして好ましくは、エピクロロヒドリンは、より低い分子量を有しそしてそれゆえに高いカチオン電荷密度を有するカチオン性ポリマーの調製を可能にするので、一般にジエポキシドよりも好ましい。しかしながら、このようにして得られたカチオン性ポリマーは、高いハロゲン化物含有量を特徴としている。
【0009】
非常に高いカチオン性ハロゲン化物含有量を特徴とするポリマーの調製のためのジクロロエタンなどのジハロゲン化化合物の使用も米国特許第4,057,580号明細書から知られている。
【0010】
アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)、ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)又はジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の中から選択できる第四級アンモニウム官能基を有する少なくとも1種のエチレン系モノマーのラジカル重合反応もまた当業者に知られており、これらの化合物の全てはハロゲン化アルキル誘導体又は硫酸ジアルキルによって第四級化されている。
【0011】
当業者に知られている、高いカチオン電荷密度及び低い粘度を有する水溶性カチオン性ポリマーの別の調製方法は、ジアリルジアルキルアンモニウムハロゲン化物などの少なくとも1種のアリルモノマーのラジカル重合反応である。アリルモノマーのうち、ジアリルジメチルアンモニウムハロゲン化物は、最も高い電荷密度のポリマーを得ることを可能にし、市場で最も入手しやすいアリルモノマーはジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)である。 DADMACを含有するポリマーは高い塩化物含有量を特徴とする。特に、DADMACホモポリマーは、ポリマーの10質量%を超える、典型的には20%を超える塩化物含有量を特徴とする。
【0012】
高い電荷密度を有するこれらの水溶性カチオン性ポリマーは全て、無機バインダ(セメント、しっくい、石膏又は無水石膏などの多少水和形態の硫酸カルシウム)をベースとする組成物における添加剤として、又は、閉回路又は半閉回路(例えば、製紙、鉱業部門の方法及びプロセス)における凝固剤として一般に使用されている。
【0013】
より正確には、建設の分野において、セメント、骨材、石灰、しっくい、スラグを含有する組成物、例えば、コンクリート、モルタル、コーティング、したがって水硬性及び空気(非水硬性)バインダとしても知られている無機鉱物バインダをベースとする組成物は、しばしば、油及びガスの抽出の観点から井戸のセメンティングに使用される掘削泥水のように、粘土を含む。しかしながら、これらの粘土は水又は特定の添加剤を吸収することができ、それによって建設/掘削材料の劣った性能(粘土の膨潤による亀裂、流動の問題、ゲル化の問題など)を誘発することがあるラメラ構造を有する。
【0014】
次いで、粘土の影響を緩和するための緩和剤(粘土用不活性化剤又はイナート化剤とも呼ばれる)として、高いカチオン電荷密度を有する水溶性カチオン性ポリマーを使用することが知られている。したがって、米国特許第6352952号明細書、米国特許出願公開第2013/0035417号明細書及び欧州特許第2 414 460号明細書は、セメント質組成物における粘土の影響を緩和するためのカチオン性ポリマーの使用を開示している。
【0015】
粘土が非膨潤性粘土であるときに、それは建築材料の性能に有害な影響を及ぼす可能性がある。米国特許出願公開第2013/0035417号明細書からも知られている方法は、これらの非膨潤性粘土の影響を緩和するための緩和剤としてのカチオン性ポリマーの使用である。
【0016】
加えて、水硬性バインダをベースとする組成物中の粘土の存在、そしてより特には石膏(無水形、半水和物又は二水和物形の硫酸カルシウム)から誘導される建築材料のための組成物中の粘土の存在はこれらの材料の性能の劣化を誘発しうる。これを改善するために、配合物中に含まれる流動化剤の性能レベルを維持するために粘土を緩和するための緩和剤として第四級アミンを使用することは、米国特許第8,906,986号明細書から知られている方法である。
【0017】
最後に、骨材に対する粘土の影響を緩和するための、エピハロヒドリンとジアルキルアミンとの間の重縮合から生じる官能化カチオン性ポリマーの使用は、米国特許出願公開第2015/0065614号明細書から知られている。
【0018】
しかしながら、そのような使用のための現状技術において記載されている全ての水溶性カチオン性ポリマーは高いハロゲン化物含有量を特徴とし、これは問題である。実際、組成物中のハロゲン化物の存在、そして特に塩化物の存在は、それらが接触している金属枠組及び付属品などの金属材料の腐食をもたらす(Corrosion of Steel in Concrete: Prevention, Diagnosis, Repair, 2nd Edition, Luca Bertolini)。
【0019】
さらに、これらの水溶性カチオン性ポリマーを閉回路又は半閉回路システムで使用すると、回路内のハロゲン化物の蓄積に直面し、したがって回路に存在する塩の導電性及び/又は沈殿に関する問題が生じる可能性がある。
【発明の概要】
【0020】
したがって、現時点では、高いカチオン電荷密度、低い粘度及び低減されたハロゲン化物含有量を有する水溶性カチオン性ポリマーであって、その使用の間に遭遇する腐食及び/又は沈殿の現象を低減すること、又はさらにはなくすことを可能にする水溶性カチオン性ポリマーを調製する必要性がある。
【0021】
それゆえ、本発明の1つの目的は、高いカチオン電荷密度、低い粘度を有し、かつハロゲン化物含有量が低減されたカチオン性ポリマーを調製するためのポリマー調製方法を提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、使用中に遭遇する腐食及び/又は沈殿の現象を低減し、又はさらにはなくすためのこれらの水溶性カチオン性ポリマーの入手性を確保することである。
【0023】
したがって、本発明は、ポリマーの10質量%未満のハロゲン化物含有量、200cps未満の25℃での粘度、ここで、この粘度は50質量%に濃縮されたポリマーP1の水溶液について決定される、及び、4meq.g-1以上のカチオン電荷密度を特徴とする、水溶性カチオン性ポリマーP1の水溶液を調製するためのポリマー調製方法であって、前記方法は以下の工程:
a)混合物を得るために、0℃~120℃の温度で少なくとも1種の式(I)の化合物を少なくとも1種の水溶性カチオン性ポリマーP2の水溶液に加えること、ここで、ハロゲン化物含有量はポリマーの10質量%を超え、25℃での粘度は200cps未満であり、ここで、この粘度は50質量%に濃縮されたポリマーP2の水溶液について決定され、そしてカチオン電荷密度は4meq.g-1以上であり、ここで、式(I)の化合物は、式:R1-COO- Y1 +によって規定され、
上式中、R1は、水素原子、又は、1~8個の炭素原子を含む直鎖又は枝分かれ鎖のいずれかの飽和アルキル鎖を表し、少なくとも1個の窒素原子及び/又は酸素原子を含むことができ、前記鎖は1~4個の式-CORのカルボキシレート官能基により置換されていてもよく、
1 +はアルカリ金属カチオン、式R2-NH3 +のアンモニウム、又は、式R3-N+(R4)(R5)(R6)の第四級アンモニウムを表し、
Rは、OH基又はO2 +基を表し、
2 +はアルカリ金属カチオン又は式R2-NH3 +のアンモニウムを表し、
2は、水素原子又は1~4個の炭素原子を含む直鎖又は枝分かれ鎖のいずれかである飽和アルキル鎖を表し、そして
3、R4、R5及びR6は、互いに独立して、1~4個の炭素原子を含む直鎖又は枝分かれ鎖のいずれかである飽和アルキル鎖を表す、
b)攪拌混合物を得るために、工程a)で得られた混合物を少なくとも5分間攪拌すること、
c)冷却混合物を得るために、工程b)の最後に得られた攪拌混合物の温度を-10℃~50℃の温度に低下させること、及び、
d)カチオン性ポリマーP1の水溶液を得るために、工程c)の最後に得られた冷却混合物を液体/固体分離すること、
を含む方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明によれば、ポリマーは、それが少なくとも1つのカチオン性基を有するときに「カチオン性」と呼ばれる。カチオン性基としては、例えばアンモニウム基又はホスホニウム基を挙げることができる。
【0025】
本発明によれば、50g.L-1に濃縮したときに、攪拌の結果として溶解後に不溶性粒子を全く含まない水溶液を得ることができるポリマーは「水溶性」と呼ばれる。
【0026】
本発明によれば、「ハロゲン化物含有量」は、カチオン性ポリマーのモル質量に対するハロゲン化物の総モル質量の比として定義される。
【0027】
例えば、ハロゲン化物含有量は、イオンクロマトグラフィー又は元素分析によって測定することができる。
【0028】
好ましくは、本発明によれば、ハロゲン化物含有量は塩化物の含有量である。
【0029】
例えば、本発明によれば、水溶性カチオン性ポリマーP1又はP2の塩化物の含有量はイオンクロマトグラフィーによって定量化される。使用される装置は、896導電率検出器及びMetrosep A Supp5 250/4.0カラムを備えたMetrohm Ion Chromatography 850 Professional ICである。分析条件は、流速0.7mL/分、分析時間35分、カラム温度35℃、注入体積25μL及び3.2mMの炭酸ナトリウム及び1mMの重炭酸ナトリウムの水溶液からなる移動相からなる。内部標準は重炭酸ナトリウムである。
【0030】
本発明によれば、「粘度」は25℃で7.34s-1の剪断に対して測定された動的粘度である。
【0031】
本発明によれば、水溶性カチオン性ポリマーP1又はP2の粘度は、50質量%のポリマーP1又はP2を含有する水溶液について、Malvern(登録商標)製のKinexus Pro2などの種類の装置により決定することができる。装置は2°コーンプレートモジュールを備える。2.3mLのポリマーP1又はP2の溶液を25℃に制御された測定セルに入れ、その剪断作用は7.34s-1である。粘度は20秒毎に行われた10回の粘度測定の平均である。
【0032】
本発明によれば、ポリマーのカチオン電荷密度は、前記ポリマーの正電荷の総数のその分子量に対する比として定義される。
【0033】
本発明によれば、水溶性カチオン性ポリマーのカチオン電荷密度は、着色指示薬(トルイジンブルー)の存在下で、ポリビニル硫酸カリウム(KPVS)を用いた比色アッセイによって以下のプロトコルに従って決定することができる。
【0034】
カチオン性ポリマー溶液を、脱イオン水中に5g.L-1の濃度で調製する(原液)。この原液1gをサンプリングし、次いで100mLの脱イオン水で希釈する(溶液1)。pHを4に調整するために、0.1Nの塩酸を溶液1に添加する。続いて、0.1%濃度のトルイジンブルーの水溶液を3滴添加する。こうして溶液2が得られる。
【0035】
並行して、(既知の補正係数fを有する)N/400のKPVSの溶液の目盛り付きビュレットを調製し、次いで溶液2に一滴ずつ添加する。溶液2が青から紫に色が変わったら投与を終わりにし、そして紫色は数秒間持続する。KPVS溶液のミリリットル単位の体積はVで示される。
【0036】
ポリマーのカチオン電荷密度は以下の式によって決定される。
【0037】
【数1】
【0038】
カチオン電荷密度は、meq.g-1で表される。
【0039】
本発明によれば、「液体/固体分離」は、ポリマーP1の溶液の不溶性化合物を分離することからなる工程である。
【0040】
本発明によれば、「不溶性化合物」は、水に可溶性ではなくそして本発明の方法から生じる化合物である。
【0041】
例えば、水溶性カチオン性ポリマーP1の溶液に含まれる不溶性化合物の含有量は、空隙率が6μm以下のフィルタでポリマーP1の溶液をろ過することによって決定される。このろ過後、不溶性粒子を集めたフィルタを500℃のオーブンに2時間入れた。ポリマーP1の溶液中に含まれる不溶性化合物の百分率は、乾燥後にフィルタ上に集められた粒子の質量を、ろ過前のポリマーP1溶液の質量で割った比として定義される。
【0042】
好ましくは、本発明のポリマーP1は、ポリマーの10質量%未満の塩化物含有量、25℃で200cps未満の粘度、ここで、前記粘度は50質量%に濃縮されたポリマーP1の水溶液について決定される、及び、4meq.g-1以上のカチオン電荷密度を特徴とする水溶性カチオン性ポリマーである。
【0043】
好ましくは、本発明のポリマーP1は、ポリマーの10質量%未満の塩化物含有量、25℃で200cps未満の粘度、ここで、前記粘度は50質量%に濃縮されたポリマーP1の水溶液について決定される、4meq・g-1以上のカチオン電荷密度、及び、ポリマーの合計質量に対して2%未満の不溶性化合物の質量含有量を特徴とする水溶性カチオン性ポリマーである。
【0044】
好ましくは、本発明のポリマーP1は、ポリマーの10質量%未満の塩化物含有量、25℃で200cps未満の粘度、ここで、前記粘度は50質量%に濃縮されたポリマーP1の水溶液について決定される、及び、5meq・g-1以上のカチオン電荷密度を特徴とする水溶性カチオン性ポリマーである。好ましくは、本発明のポリマーP1は、ポリマーの10質量%未満の塩化物含有量、25℃で200cps未満の粘度、ここで、前記粘度は50質量%に濃縮されたポリマーP1の水溶液について決定される、5meq・g-1以上のカチオン電荷密度、及び、ポリマーの合計質量に対して2%未満の不溶性化合物の質量含有量を特徴とする水溶性カチオン性ポリマーである。
【0045】
好ましい1つの実施形態によれば、本発明のポリマーP1は、6meq.g-1以上のカチオン電荷密度を特徴とする水溶性カチオン性ポリマーである。
【0046】
本発明の方法によって得られるポリマーP1の25℃での粘度は200cps未満であり、前記粘度は50質量%に濃縮されたポリマーP1の水溶液について測定される。好ましくは、ポリマーP1の25℃での粘度は150cps未満、好ましくは100cps未満であり、前記粘度は溶液中50%活性水溶性ポリマー濃度のために50質量%に濃縮されたポリマーP1の水溶液について決定される。
【0047】
本発明の方法で使用されるポリマーP2は、ポリマーの10質量%を超える塩化物含有量、200cps未満の25℃での粘度、前記粘度は、50質量%に濃縮されたポリマーP2の水溶液について決定される、及び、4meq.g-1以上のカチオン電荷密度を特徴とする水溶性カチオン性ポリマーである。
【0048】
好ましくは、本発明の方法の工程a)で使用される少なくとも1種の水溶性カチオン性ポリマーP2の水溶液は、溶液の合計質量に対して最大で80質量%まで濃縮される。 80質量%に濃縮された少なくとも1種の水溶性カチオン性ポリマーP2の水溶液の25℃での粘度は2000cpsを超えることができる。
【0049】
本発明の方法の工程a)において使用されるポリマーP2のカチオン電荷密度は4meq.g-1以上である。好ましくは、ポリマーP2のカチオン電荷密度は6meq.g-1以上である。
【0050】
本発明の方法の工程a)で使用されるポリマーP2の25℃での粘度は200cps未満である。好ましくは、ポリマーP2の25℃での粘度は100cps未満、さらにより好ましくは50cps未満であり、前記粘度は50質量%に濃縮されたポリマーP2の水溶液について決定される。
【0051】
本発明による好ましい態様において、工程a)の間に、式(I)の化合物のアニオン電荷数/水溶性カチオン性ポリマーP2のカチオン電荷数の比は0.2:1~5:1であり、好ましくは0.6:1~2:1である。
【0052】
式(I)の化合物のアニオン電荷数は、官能基-COO-Y1 +及び-COO-Y2 +の合計数として定義される。
【0053】
本発明による有利な態様において、工程a)の間の温度は0℃~120℃、好ましくは10℃~95℃、さらにより好ましくは15℃~80℃である。
【0054】
本発明による優先的な態様において、工程a)で使用される式(I)の化合物は、R 1が水素原子又はメチル基を表すようなものである。
【0055】
好ましくは、上記式(I)において、Y1 +はアルカリ金属カチオンの中から、そして特にナトリウム、カリウム又はリチウムから選ばれる。
【0056】
好ましくは、上記式(I)において、Y1 +はNH4 +である。
【0057】
本発明による有利な態様において、式(I)の化合物はギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムの中から選ばれる。好ましくは、式(I)の化合物はギ酸カリウム及び酢酸カリウムから選ばれる。
【0058】
また、本発明による有利な態様において、本発明の方法の工程a)で使用される水溶性カチオン性ポリマーP2は、ハロゲン化アルキル誘導体で第四級化されたアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)、ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)又はジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)などの第四級アンモニウム官能基を有する少なくとも1種のエチレン系モノマーのラジカル重合の生成物の中から選ばれる。
【0059】
本発明による優先的な態様において、本発明の方法の工程a)で使用される水溶性カチオン性ポリマーP2は、ジアリルジアルキルアンモニウムハライドなどのアリルモノマーのラジカル重合の生成物の中から選ぶことができる。
【0060】
本発明による優先的な態様において、本方法の工程a)で使用されるラジカル重合によって得られるポリマーP2は、ジアリルジアルキルアンモニウムハライドなどの種類の少なくとも1種のモノマーの重合から得られる。優先的には、工程a)において使用されるポリマーP2は、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)のラジカル重合によって得られる。
【0061】
有利な態様において、本発明による方法の工程a)で使用される水溶性カチオン性ポリマーP2は、(メタ)アクリルアミド、N, N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、ポリエチレングリコール又はプロピレングリコールのメタクリレート、ポリエチレングリコール又はプロピレングリコールのイソプレニル、ポリエチレングリコール及びビニルオキシブチルのエーテル、ポリエチレングリコール又はプロピレングリコールのアリルエーテルの中から選ばれる少なくとも1種の非イオン性モノマーとのラジカル共重合によって得ることができる。本発明による優先的な態様において、本発明による方法の工程a)で使用される水溶性ポリマーP2は、アクリルアミドなどの少なくとも1種の非イオン性モノマーのラジカル重合によって得ることができる。
【0062】
有利な態様において、水溶性カチオン性ポリマーP2は、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸及びそれらの塩などの少なくとも1つのカルボキシル官能基を含むモノマー、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸及びそれらの塩などのスルホン酸官能基を含むモノマーの中から選ばれる少なくとも1種のアニオン性モノマーとのラジカル共重合によって得られる。好ましくは、本発明によれば、本発明による方法の工程a)で使用される水溶性ポリマーP2は、アクリル酸及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びそれらの塩の中から選ばれる少なくとも1種のアニオン性モノマーのラジカル重合によって得ることができる。
【0063】
水溶性カチオン性ポリマーP2を得ることができるラジカル重合は、当業者に知られている様々な技術によって開始することができる。第一の技術は、過酸化物、過硫酸塩、アゾ誘導体又は酸化/還元対などの開始剤の使用である。光開始、制御ラジカル重合、原子移動ラジカル重合(ATRP)、ニトロキシド存在下でのラジカル重合(NMP)、又は、可逆的付加-フラグメンテーション連鎖移動(RAFT)による制御ラジカル重合などの他の技術を使用することができる。
【0064】
国際特許出願WO2008/000766号明細書は、RAFT型制御ラジカル重合に使用される制御剤を記載している。本発明による優先的な態様において、このタイプの重合が選択されるときに、RAFT重合のための制御剤は、キサンテート、ジチオエステル、トリチオカーボネート、ジチオカルバメート、ジチオカーバゼート及びジチオホスホロエステルから選ぶことができる。
【0065】
本発明による有利な態様において、RAFT型重合によって水溶性カチオン性ポリマーP2を調製するために使用される好ましい制御剤は、O-エチル-S-(1-メトキシカルボニル-エチル)キサンテートである。
【0066】
本発明による有利な態様において、工程a)において操作的に適用される水溶性カチオン性ポリマーP2は、少なくとも1種のエピハロヒドリンと少なくとも1種の第二級アミンとの重縮合の生成物であり、好ましくはエピクロロヒドリンとジメチルアミンとの重縮合の生成物である。
【0067】
好ましくは、この反応を用いてP2を調製する場合には、ジメチルアミンとエピクロロヒドリンとの間の化学量論比は1:0.99~1:0.80、好ましくは1:0.95~1:0.85である。この比率は、米国特許第4,569,991号明細書にも記載されている。
【0068】
本発明による優先的な態様において、本発明の方法の工程b)の間に、工程a)の終わりに得られた混合物を少なくとも5分間、好ましくは5分間~360分間、より有利には30分間~360分の間、撹拌下に置いておく。
【0069】
本発明による優先的な態様において、本発明の方法の工程b)の間に、工程a)の終わりに得られた混合物を機械的又は磁気的手段によって撹拌する。
【0070】
本発明による優先的な態様において、本発明の方法の工程c)の間に、工程b)の終了時に生じる撹拌混合物の温度は、有利には-10℃~50℃、好ましくは0℃~40℃に低下される。
【0071】
好ましくは、本発明の方法の液体/固体分離の工程d)はデカンテーション又はろ過プロセスである。好ましくは、この液体/固体分離がろ過により行われる場合に、それは遠心分離機、ベルトフィルタ、プレスフィルタ又はプレートフィルタにより行われる。
【0072】
好ましくは、本発明によれば、工程d)の液体/固体分離は、2質量%未満、より好ましくは1質量%未満の不溶性化合物を含む水溶性カチオン性ポリマーP1の水溶液を得ることを可能にする。
【0073】
不溶性化合物の量は、ポリマーP1の水溶液中に含まれるハロゲン化物の量に直接関係している。したがって、不溶性化合物の含有量が少ないほど、このポリマー中のハロゲン化物の含有量は少なくなる。
【0074】
有利な態様において、本発明による方法は、本発明の方法の工程d)の後に工程e)を含むことができる。好ましくは、本発明による方法は、工程d)の終わりに得られた水溶性カチオン性ポリマーP1の水溶液を乾燥する工程e)を含む。
【0075】
好ましくは、工程e)の終了時に、水溶性カチオン性ポリマーP1は固体形態である。当業者に知られる任意の適切な乾燥方法は本発明の方法の工程e)を実施するために使用することができる。好ましくは、乾燥方法は以下の乾燥方法から選ばれる:ドラム乾燥機上での噴霧乾燥、又は、マイクロ波、赤外線又は高周波などの電磁波。
【0076】
一旦乾燥すると、本発明による方法の工程e)の終わりに得られた固体形態の不溶性カチオン性ポリマーP1は、その後のその使用のために所望の濃度に水溶液中に溶解させることができる。水溶性カチオン性ポリマーP1は粉末形態であってもよい。粉末形態で使用される場合には、ポリマーP1は、その使用の間に、部分的に又は全体的に溶解されるか、又は、固体形態のままであることができる。
【0077】
本発明はまた、本発明による方法によって得られると思われる、ハロゲン化物含有量がポリマーの10質量%未満であり、25℃での粘度が200cps未満であり、ここで、前記粘度は50質量%に濃縮されたポリマーP1の水溶液について測定され、電荷密度が4meq.g-1以上でありそして不溶性化合物の質量含有量が2質量%未満である、水溶性カチオン性ポリマーP1の使用に関する。
【0078】
好ましい1つの実施形態によれば、本発明はまた、本発明による方法によって得られると思われ、そして電荷密度が6meq.g-1以上である水溶性カチオン性ポリマーP1の使用にも関する。
【0079】
本発明による優先的な態様において、本発明の方法によって得られる水溶性カチオン性ポリマーP1は、無機鉱物バインダ又は石膏誘導体をベースとする組成物中の添加剤として使用される。
【0080】
特に、本発明は、上記に規定されるとおりの、6meq.g-1以上の電荷密度を有するポリマーP1の、無機鉱物バインダ又は石膏誘導体をベースとする組成物中の粘土の影響を緩和するための緩和剤としての使用に関する。
【0081】
本発明によれば、鉱物バインダをベースとする組成物は、多少水和形態(セメント、しっくい、石膏又は無水石膏)であることができる硫酸カルシウムなどの少なくとも1種の無機鉱物バインダを含む組成物として定義される。本発明によれば、そのような組成物は建設分野で使用することができる。本発明によれば、そのような組成物は少なくとも1種の粘土も含むことができる。
【0082】
本発明によれば、石膏誘導体は、無水形態、半水和物又は二水和物形態の硫酸カルシウムであると定義される。したがって、本発明によれば、石膏誘導体をベースとする組成物は、建設分野で使用され、無水形態、半水和物又は二水和物形態の硫酸カルシウムを含む組成物として定義される。また優先的には、本発明の方法によって得られる水溶性カチオン性ポリマーP1は、開放、半閉鎖又は閉鎖水性回路の処理に使用される。好ましくは、本発明の方法によって得られる水溶性カチオン性ポリマーP1は、閉回路又は半閉回路及びシステムの処理に使用される。
【0083】
本発明によれば、本発明の方法によって得られる水溶性カチオン性ポリマーP1は、骨材(砂、砂利、石及び小石、セメント)、コンクリート又はモルタル(コーティング、しっくい)中の添加剤として建設分野で使用することができる。
【0084】
本発明によれば、閉回路又は半閉回路は、金属元素(導管)を含むことができる回路であって、流出流の少なくとも一部が流入流に再循環されるような任意の回路である。閉回路又は半閉回路として、降雨水、家庭用又は工業用の廃水を処理するための設備、製紙又は鉱業関連プロセスに関連する設備、掘削装置及び設備ならびに金属加工設備を挙げることができる。
【0085】
本発明によれば、開回路は金属元素を含むことができる回路であって、流出流が流入流に再循環されないような任意の回路である。開回路として、建設、電子工学及び木材処理(オートクレーブ処理)の分野で使用されるプロセスに関連する設備を挙げることができる。
【0086】
本発明の方法によって得られる水溶性カチオン性ポリマーP1は、ハロゲン化物含有量が低減されていることを特徴とする。したがって、水性開回路、閉回路又は半閉回路におけるそれらの使用に関する利点は、金属、特に強化コンクリート鉄などのポリマーを含む配合物に囲まれたスチールに対する腐食性が低減されることである。本発明の方法により得られる水溶性カチオン性ポリマーP1を閉回路又は半閉回路に使用することのさらなる利点は、これらのポリマー中のハロゲン化物の含有量が低減されているために、これらの回路中のハロゲン化物の蓄積が低減されることである。
【0087】
本発明による有利な態様において、本発明の方法から得られるポリマーが無機鉱物バインダ又は石膏誘導体をベースとする組成物中の添加剤として使用される場合に、ポリマーは粘土の影響を緩和するための緩和剤としての役割を有する。
【0088】
本発明によれば、用語「粘土の影響を緩和するための緩和剤」は、使用される薬剤が建設材料に対する粘土の有害な影響を低減する目的を果たすことを示すと理解される。
【0089】
したがって、本発明はまた、本発明の方法によって得られると思われる水溶性カチオン性ポリマーP1であって、ここで、ハロゲン化物含有量がポリマーの10質量%未満であり、25℃での粘度が200cps未満であり、ここで、前記粘度は50質量%に濃縮されたポリマーP1の水溶液について決定される、及び、電荷密度が4meq.g-1以上であることを特徴とするポリマーの、無機鉱物バインダ又は石膏誘導体をベースとする組成物中の粘土の影響を緩和するための緩和剤としての使用である。好ましくは、本発明は、セメント質組成物中の粘土の影響を緩和するための緩和剤としての水溶性カチオン性ポリマーP1の使用に関する。
【0090】
本発明による優先的な態様において、本発明の方法によって得られると思われる水溶性カチオン性ポリマーP1は、以下の粘土を含む組成物中の粘土の影響を緩和するための緩和剤として特に有効である。
-スメクタイトなどのタイプ2:1、又は、カオリンなどのタイプ1:1又は亜塩素酸塩などのタイプ2:1:1の膨潤性粘土、
-マグネシウム及び/又はアルミニウムのケイ酸塩。
-ラメラ構造を有するフィロシリケート、
-アモルファス粘土。
【0091】
特定のリストに限定されるものではないが、本発明はまた、モンモリロナイト、イライト、カオリナイト又はさらに白雲母(ムスコバイト)などの、一般に砂の中に存在する粘土にも関する。
【0092】
粘土は、他の挙動の中でも、水分を吸収し、建築材料の性能を低下させることがある。本発明の方法によって得られると思われるカチオン性かつ水溶性ポリマーP1が、他の示される特性及び挙動の中でも、粘土の影響を緩和するための緩和剤として使用される場合に、ポリマーは、ひび割れを誘発し、それによって構造を弱めることがある粘度の膨潤を防止することができる。これらのポリマーP1はまた、粘土による流動化剤及び/又は水の吸着から生じ得る配合物中の流動学的問題を防止することもできる。
【0093】
本発明による優先的な態様において、本発明の方法によって得られると思われる水溶性カチオン性ポリマーP1は粘土を含む組成物中に使用され、これらの粘土の影響を緩和するための緩和剤として作用する。そのような組成物中のポリマーP1の濃度は、処理されるべき水硬性組成物中に含まれる粘土の乾燥質量に対して0.1質量%~100質量%である。好ましくは、ポリマーP1の濃度は、0.5%~50%、より有利には1%~30%である。
【0094】
場合により、無機鉱物バインダ又は石膏誘導体をベースとし、その中に本発明の方法によって得られると思われるポリマーP1を添加したセメント質組成物は他の添加剤を含み、該他の添加剤は、水の寄与を制限する薬剤(リグノスルホネート、ナフタレンスルホネートホルムアルデヒド付加物、メラミンスルホネートホルムアルデヒド付加物)、流動化剤(エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド基を含有するポリカルボキシレート単位を有するくし形ポリマー)、グルコン酸塩、硬化遅延剤、硬化促進剤、消泡剤、表面 活性剤又は界面活性剤、又は、重金属キレート剤から選ばれる。
【0095】
本発明による優先的な態様において、本発明の方法によって得られると思われる水溶性カチオン性ポリマーP1を建設分野で使用する場合には、ワッシャーベルト又はミキサー上にある骨材に対してポリマーP1の溶液を噴霧することによって直接適用される。あるいは、本発明によれば、本発明の方法から得られたポリマーが無機バインダをベースとする組成物のための添加剤として使用される場合には、該ポリマーは中央コンクリート混合施設、コンクリート混合プラント又は材料の予備製造プラント内で組成物に直接添加されるか、又は、組成物を調製するために使用される無機バインダによって供給される。
【0096】
本発明はまた、エラストマーの凝固のための凝固剤としての、本発明の方法によって得られると思われる水溶性かつカチオン性ポリマーP1の使用に関する。
【0097】
本発明の方法及び前記方法から得られるポリマーの使用の有効性は、以下の実施例に照らして説明されるが、それらに限定されない。
【実施例
【0098】

例1:ポリマーの10質量%未満の塩化物含有量を特徴とし、エピクロロヒドリンとジメチルアミンの重縮合の結果として得られるポリマーP1の調製
ジャケット、凝縮器、機械的攪拌機構及び温度センサープローブを備えた1リットル反応器に以下のものを添加した:272gの60質量%濃度のジメチルアミン(供給源:Sigma Aldrich)及び331gの水。その後、温度を70℃~80℃に維持しながら、319gのエピクロロヒドリン(供給源:Sigma Aldrich)を3時間かけて滴下して加えた。次いで、形成されるポリマーの濃度を50質量%に調整するために、50℃の水約80gを混合物に添加した。
【0099】
得られる重縮合生成物-ポリマーAとして知られる-は、7meq.g-1に等しいカチオン電荷密度、30cpsの25℃での粘度、この粘度は50質量%に濃縮されたポリマーAの水溶液について決定される、及び、ポリマーの25質量%の塩化物含有量を特徴とする。これらの値は、上記に規定されたプロトコルに従って測定される。
【0100】
500gのポリマーAを、183gの酢酸カリウム(供給源:Sigma Aldrich)を導入する前に、ジャケット、磁気攪拌機、凝縮器及び温度センサープローブを備えたサーモスタット制御の1リットル反応器に導入した。反応混合物を80℃に加熱し、2時間攪拌下に維持し、次いで25℃に冷却し、そしてポリプロピレンから作られた、6μmの多孔度のフィルタを備えた遠心抽出器RC30(供給者:Robatel)でろ過し、これにより、0.5%の不溶物を含有する重縮合生成物-ポリマーBとして知られる-を得ることが可能になる。
【0101】
ポリマーBは25℃での粘度が35cps、この粘度は、49.6質量%に濃縮されたポリマーBの水溶液について決定される、6.2meq・g-1のカチオン電荷密度、及び、ポリマーの8質量%に等しい塩化物含有量であることを特徴とし、これらの値は、上記で先に定義したとおりのプロトコルによって測定される。
【0102】
例2:ポリマーの10質量%未満の塩化物含有量を特徴とするジアリルジメチルアンモニウムクロリドのポリマーP1の調製
ジャケット、コンデンサー、機械的攪拌機構及び温度センサープローブを備えた1リットルの反応器において、以下のものを加えた:水95g、水中で64%濃度のジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)(供給源:SNF(登録商標))135gを及び水中50質量%の濃度の次亜リン酸ナトリウム17g。次亜リン酸ナトリウムの溶液及び過硫酸ナトリウムの溶液を、それぞれ13gの水と13gの次亜リン酸ナトリウム(供給源:Sigma Aldrich)及び100gの水と13gの過硫酸ナトリウム(供給源:Sigma Aldrich)と混合することによって調製した。536gのDADMAC(水中64質量%濃度)ならびに次亜リン酸ナトリウムの溶液及び過硫酸ナトリウムの溶液を2時間かけて1リットル反応器に徐々に添加した。
【0103】
得られたDADMACのホモポリマー-ポリマーCとして知られる-は、6meq.g -1の電荷密度、52cpsの25℃での粘度、ここで、この粘度は51%に濃縮されたポリマーCの水溶液について決定される、及び、ポリマーの22質量%の塩化物含有量を特徴とする。これらの値は、上記で先に定義したとおりのプロトコルに従って測定される。
【0104】
次に、152gの酢酸カリウムを添加した、ジャケット、磁気撹拌機、凝縮器及び温度センサープローブを備えたサーモスタット制御の1リットル反応器に500gのポリマーCを導入した。反応混合物を85℃に加熱し、次いで4時間撹拌下に維持し、その後に30℃に冷却した。結果的に得られた混合物を、6μm多孔度のフィルタを備えた、ポリプロピレンから作られた遠心抽出器RC30(供給者:Robatel)でろ過し、1%の不溶物を含む、ポリマーDとして知られるDADMACのポリマー生成物を得ることを可能にする。
【0105】
ポリマーDは、25℃で53cpsに等しい粘度、ここで、この粘度は、50質量%に濃縮されたポリマーDの水溶液について決定される、5.4meq.g-1のカチオン電荷密度、及び、ポリマーの7質量%に等しい塩化物含有量を特徴とする。これら値は上記で先に定義したとおりのプロトコルに従って測定される。
【0106】
例3:流動試験コンクリートにおける粘土緩和剤としての水溶性カチオン性ポリマーの使用(スランプ試験)
本発明の水溶性カチオン性ポリマーP1の性能は(標準ASTM C1611による)セメント質組成物の流動性において評価される。
【0107】
「スランプ試験」は、円が描かれているプレートの中心に円錐を配置し、流動性が測定される組成物で円錐(その2つの基部で開いている)を充填し、スクリーディングし、そして脱型することからなる。このようにして、コンクリートは多かれ少なかれそのレオロジーに基づいて流動する。広がりは、円の中心と、流し込まれたコンクリートによって形成された位置の端との間の垂直な2つの軸に沿った距離の平均である。
【0108】
セメント質配合物は、
445kg/m3の割合で投入されたセメント(供給源:Lafarge)、
885kg/m3の割合で投入された砂(正規化、密度1485kg/m3)、
ベントナイト粘土、
水、
ポリカルボン酸系流動化剤(SNF社製のFloset(商標)SH7)
からなる。
【0109】
砂、セメント、粘土、水、流動化剤及び水溶性カチオン性ポリマーを5分間混合することによって幾つかの組成物(1~4)を調製した。様々な成分の割合、ならびに組成物の流動試験の結果を表1にまとめる。
【0110】
【表1】
【0111】
表1に基づいて、水溶性カチオン性ポリマーは、コンクリートの流動性に関して約30%の増加を可能にする。本発明の方法から誘導されたハロゲン化物の含有量が低減されたカチオン性ポリマー(ポリマーB及びD)は、文献US 2015/0065614に反映されているような現状技術のカチオン性ポリマーと同等又はそれ以上の性能レベルを有する。
【0112】
US2015/0065614の例によれば、ポリマーCMA-2は、7.2meq /gのカチオン電荷密度、ポリマーの25質量%の塩化物含有量及び8.4cpsの粘度を特徴とし、ここで、この粘度は50質量%に濃縮されたポリマー水溶液について決定される。
【0113】
したがって、カチオン性水溶性ポリマー中のハロゲン化物含有量の減少は、このポリマーの活性の損失をもたらさない。
【0114】
例4:種々のカチオン性ポリマーによって誘発される腐食の試験
試験は、カチオン性ポリマーの溶液中に種々の異なるグレード/合金の金属切削片を浸漬することからなる。腐食の定性的評価は、0から10の範囲の尺度に基づいて行われる。
0=腐食なし
3 =腐食点(点食タイプ)がいくつか観察された
5=金属切削片全体の中程度の攻撃
7=金属切削片全体の激しい攻撃
10=金属切削片全体の完全な攻撃
【0115】
金属切削片は以下の寸法を有する:長さ:100mm、幅:30mm、厚さ:1mm。使用前に、金属切削片は、あらゆる固形分を除去するためにクリーニングされ、その表面上のあらゆる油残留物を除去するためにアセトンで洗浄した。次に、これらをカチオン性ポリマーの水溶液を50質量%の濃度で含む容器に浸漬し、30℃で14日間浸漬した。
【0116】
2つの異なるスチールに対して、4つの異なる水溶性カチオン性ポリマー(比較及び本発明による)の存在下で行われたこの腐食試験の結果を表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
表2は、炭素鋼等級では、本発明による方法から誘導された水溶性カチオン性ポリマーP1(ポリマーB及びD)が低減された腐食レベルを誘発し、比較して、より高いハロゲン化物含有量を示すポリマー(ポリマーC及びCMA-2)よりも2倍少ないことを示している。
【0119】
したがって、本発明によるポリマーP1の使用は、明らかに、現状技術のポリマーの使用と比較して低減された腐食レベルを誘発する。
【0120】
ステンレススチール304Lグレード上でのカチオン性ポリマーの使用に関しても同じことが観察されうる。
本開示は以下の態様も包含する。
[1] ハロゲン化物含有量がポリマーの10質量%未満であり、25℃での粘度が200cps未満であり、ここで、前記粘度は50質量%に濃縮されたポリマーP1の水溶液について決定され、そしてカチオン電荷密度が4meq.g -1 以上である、水溶性カチオン性ポリマーP1の水溶液を調製するためのポリマー調製方法であって、
下記の順次の工程:
a)混合物を得るために、0℃~120℃の温度で少なくとも1種の式(I)の化合物を少なくとも1種の水溶性カチオン性ポリマーP2の水溶液に加えること、ここで、ハロゲン化物含有量はポリマーの10質量%を超え、25℃での粘度は200cps未満であり、ここで、前記粘度は50質量%に濃縮されたポリマーP2の水溶液について決定され、そして、カチオン電荷密度は4meq.g -1 以上であり、式(I)の化合物は、式:R 1 -COO-Y 1 + によって規定され、
上式中、R 1 は、水素原子、又は、1~8個の炭素原子を含む直鎖又は枝分かれ鎖のいずれかの飽和アルキル鎖を表し、少なくとも1個の窒素原子及び/又は酸素原子を含むことができ、前記鎖は1~4個の式-CORのカルボキシレート官能基により置換されていてもよく、
1 + はアルカリ金属カチオン、式R 2 -NH 3 + のアンモニウムイオン、又は、式R 3 -N + (R 4 )(R 5 )(R 6 )の第四級アンモニウムを表し、
Rは、OH基又はO - 2 + 基を表し、
2 + はアルカリ金属カチオン又は式R 2 -NH 3 + のアンモニウムイオンを表し、
2 は、水素原子又は1~4個の炭素原子を含む直鎖又は枝分かれ鎖のいずれかである飽和アルキル鎖を表し、そして
3 、R 4 、R 5 及びR 6 は、互いに独立して、1~4個の炭素原子を含む直鎖又は枝分かれ鎖のいずれかである飽和アルキル鎖を表す、
b)攪拌混合物を得るために、工程a)で得られた混合物を少なくとも5分間攪拌すること、
c)冷却混合物を得るために、工程b)の最後に得られた攪拌混合物の温度を-10℃~50℃の温度に低下させること、及び、
d)カチオン性ポリマーP1の水溶液を得るために、工程c)の最後に得られた冷却混合物を液体/固体分離すること、
を含むことを特徴とする、方法。
[2] 前記水溶性カチオン性ポリマーP1は5meq.g -1 以上のカチオン電荷密度を特徴とする、上記態様1に記載の方法。
[3] 前記水溶性カチオン性ポリマーP1は、ポリマーの全質量に対して2質量%未満の不溶性化合物の質量含有量であることを特徴とする、上記態様1又は2に記載の方法。
[4] 工程a)において、式(I)の化合物のアニオン電荷数/水溶性カチオン性ポリマーP2のカチオン電荷数の比は0.2:1~5:1、好ましくは0.6:1~2:1である、上記態様1~3のいずれかに記載の方法。
[5] 前記水溶性カチオン性ポリマーP2は6meq.g -1 以上のカチオン電荷密度を特徴とする、上記態様1~4のいずれかに記載の方法。
[6] 式(I)の化合物はギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムの中から選ばれ、好ましくはギ酸カリウム及び酢酸カリウムから選ばれる、上記態様1~5のいずれかに記載の方法。
[7] 前記液体/固体分離工程d)はデカンテーション又はろ過プロセスであり、好ましくはろ過プロセスである、上記態様1~6のいずれかに記載の方法。
[8] 前記水溶性カチオン性ポリマーP2はジアリルジアルキルアンモニウムハライドなどの種類の少なくとも1種のモノマーの重合から得られる、上記態様1~7のいずれかに記載の方法。
[9] 前記水溶性カチオン性ポリマーP2は少なくともジアリルジメチルアンモニウムクロリドの重合から得られる、上記態様1~8のいずれかに記載の方法。
[10] 前記水溶性カチオン性ポリマーP2は少なくとも1種のエピハロヒドリンと少なくとも1種の第二級アミンとの重縮合から得られるポリマーである、上記態様1~7のいずれかに記載の方法。
[11] 前記水溶性カチオン性ポリマーP2はエピクロロヒドリンとジメチルアミンとの重縮合から得られるポリマーである、上記態様1~7のいずれかに記載の方法。
[12] ジメチルアミンとエピクロロヒドリンとの間の化学量論比は1:0.99~1:0.80、好ましくは1:0.95~1:0.85である、上記態様11に記載の方法。
[13] 前記水溶性カチオン性ポリマーP1は6meq.g -1 以上のカチオン電荷密度を特徴とする、上記態様1~12のいずれかに記載の方法。
[14] 無機鉱物バインダ又は石膏誘導体をベースとする組成物中の添加剤としての、又は、開放、半閉鎖もしくは閉鎖水性回路の処理における、上記態様1~13のいずれかに記載の方法によって得られると思われる水溶性カチオン性ポリマーP1の使用。
[15] 無機鉱物バインダ又は石膏誘導体をベースとする組成物中の粘土の影響を緩和するための緩和剤としての、上記態様13に記載の方法によって得られると思われる水溶性カチオン性ポリマーP1の使用。