(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】配列変異体の検出
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6858 20180101AFI20220308BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
C12Q1/6858 Z
C12M1/34 Z
(21)【出願番号】P 2019523005
(86)(22)【出願日】2017-11-09
(86)【国際出願番号】 EP2017078707
(87)【国際公開番号】W WO2018087205
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-10-28
(32)【優先日】2016-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーナ ボーマン チャング
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-512787(JP,A)
【文献】特開2010-081937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q1/00-3/00
C12M1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の少なくとも2つの核酸配列変異体を検出する方法であって、以下のステップ:
(a)少なくとも2つの配列変異体を増幅して、第1の変異体アンプリコン及び第2の変異体アンプリコンを含む少なくとも2つの増幅産物を製造し、
ここで増幅ステップは第1及び第2のアンプリコンについてそれぞれ第1及び第2の増幅曲線を生じるステップ;
(b)プロセッサを用いて、第1の増幅曲線の直線性からの第1の偏差及び第2の増幅曲線の直線性からの第2の偏差を作り、且つ直線性からの第1及び第2の偏差を比較して直線性からの偏差の比を作ることによって、第1及び第2の増幅曲線の直線性からの相対偏差を分析するステップ
、ここで第1増幅曲線についてのデルタB
1
を算出し、第2増幅曲線についてのデルタB
2
を算出することを含み、ここで
【数1】
且つ、前記直線性からの相対偏差=デルタB
1
/デルタB
2
;
(c)プロセッサを用いて、閾値マトリックスに対する直線性からの相対偏差を比較するステップ
、ここで前記閾値マトリックスが、複数の既知の特異的核酸配列の個別の増幅曲線を分析することにより決定され、そして評価中の各変異体に対する直線性からの偏差の比の許容可能な範囲のセットを含み;並びに、
(d)プロセッサを用いて、前記比較ステップ(c)の結果に基づく2つ以上の配列変異体を同定するステップ;
を含む、方法。
【請求項2】
前記直線性からの相対偏差が、log
10(デルタB
1/デルタB
2)を含む、請求項1
に記載の方法。
【請求項3】
【数2】
である、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記ベースライン切片が、y中央値、幾何平均、調和平均、又は一般化平均を含む、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記ベースライン切片が、y中央値を含む、請求項
3~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
【数3】
である、請求項
1~
2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
直線性からの偏差がサイクルm~pより評価され、0<m<pである、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
試料中の2つ以上の核酸配列変異体を検出するシステムであって、システムは、メモリ、プロセッサ、及びディスプレイと動作可能に接続された核酸増幅モジュールを含み、プロセッサは、2つ以上の配列変異体を検出するコンピュータ実施方法を実行するように構成され、方法は、以下:
(a)核酸増幅モジュールを用いて、少なくとも2つの配列変異体を増幅して、第1の変異体アンプリコン及び第2の変異体アンプリコンを含む少なくとも2つの増幅産物を製造するステップ;
(b)プロセッサを用いて、第1及び第2の増幅曲線を、それぞれ第1及び第2のアンプリコンについて作成するステップ;
(c)プロセッサを用いて、第1の増幅曲線の直線性からの第1の偏差及び第2の増幅曲線の直線性からの第2の偏差を作り、且つ直線性からの第1及び第2の偏差を比較して直線性からの偏差比を作ることによって、第1及び第2の増幅曲線の直線性からの相対偏差を分析するステップ
、ここで第1増幅曲線についてのデルタB
1
を算出し、第2増幅曲線についてのデルタB
2
を算出することを含み、ここで
【数4】
且つ、前記直線性からの相対偏差=デルタB
1
/デルタB
2
;
(d)プロセッサを用いて、閾値マトリックスに対する直線性からの相対偏差を比較するステップ
、ここで前記閾値マトリックスが、複数の既知の特異的核酸配列の個別の増幅曲線を分析することにより決定され、そして評価中の各変異体に対する直線性からの偏差の比の許容可能な範囲のセットを含み;並びに、
(e)プロセッサを用いて、前記比較ステップ(d)の結果に基づく2つ以上の配列変異体を同定するステップ;
を含む、システム。
【請求項9】
前記直線性からの相対偏差が、log10(デルタB1/デルタB2)を含む、請求項
8に記載のシステム。
【請求項10】
【数5】
である、請求項
8又は9に記載のシステム。
【請求項11】
前記ベースライン切片が、y中央値、幾何平均、調和平均、又は一般化平均を含む、請求項1
0に記載のシステム。
【請求項12】
前記ベースライン切片が、y中央値を含む、請求項1
0~1
1のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
【数6】
である、請求項
8又は9に記載のシステム。
【請求項14】
直線性からの偏差がサイクルm~pより評価され、0<m<pである、請求項
8~1
3のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して核酸増幅によって配列変異体を検出するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
すべての生物(例えば、動物、植物、及び微生物)の遺伝情報はデオキシリボ核酸(DNA)にコードされている。ヒトでは、全ゲノムは24本の染色体上に約100,000個の遺伝子を含有する(The Human Genome, T. Strachan, BIOS Scientific Publishers, 1992)。各遺伝子は特定のたんぱく質をコードしており、そのたんぱく質は転写及び翻訳によって発現した後、生細胞内で特定の生化学的機能を果たす。遺伝暗号の変化又は変異は、mRNAの配列又は発現レベルを変化させ、潜在的にはmRNAにコードされたたんぱく質における配列又は発現レベルを変化させる可能性がある。多型又は突然変異として知られるこれらの変化は、疾患をもたらすmRNA又はたんぱく質の生物学的活性に重大な有害作用を及ぼし得る。突然変異には、ヌクレオチドの欠失、挿入、置換、又は他の変化(すなわち、点突然変異)が含まれる。
【0003】
遺伝子多型に起因する多くの疾患が知られており、血友病、サラセミア、デュシェンヌ筋ジストロフィー(DMD)、ハンチントン病(HD)、アルツハイマー病、及び嚢胞性線維症(CF)が含まれる(Human Genome Mutations, D. N. Cooper and M. Krawczak, BIOS Publishers, 1993)。これらのような遺伝性疾患は、特定の遺伝子を形成するDNA中における、単一ヌクレオチドの単一の付加、置換、又は欠失から生じ得る。特定の先天異常には、遺伝性疾患を引き起こす変異遺伝子に加え、21トリソミー(ダウン症候群)、13トリソミー(パトー症候群)、18トリソミー(エドワード症候群)、Xモノソミー(ターナー症候群)といった染色体異常、及びクラインフェルター症候群(XXY)といった他の性染色体異数体が原因となるものがある。さらに、特定のDNA配列が、糖尿病、動脈硬化症、肥満、種々の自己免疫疾患、及びがん(例えば、結腸直腸、乳房、卵巣、肺)などの多くの疾患のいずれかの素因となり得るという証拠が増加している。
【0004】
ある種の多型は、個人によっては疾患の素因となるか、又はある種の疾患の罹病率と関連していると考えられている。アテローム性動脈硬化症、肥満、糖尿病、自己免疫障害、及びがんは、多型と相関すると考えられるこのような疾患のいくつかである。疾患との相関に加えて、多型はまた、疾患を治療するために投与される治療薬に対する患者の反応においても役割を果たすと考えられている。例えば、多型は、薬物、放射線療法、及び他の治療形態に反応する患者の能力において役割を果たすと考えられている。
【0005】
多型の同定によって、特定の疾患のより良い理解、及びそのような疾患に対する潜在的により効果的な治療を導くことができる。実際、患者の同定された多型に基づいて個別化された治療レジメンにより、救命医療介入をもたらすことができる。多型が同定され単離されると、特異的な多型の産物と相互作用するような新規の薬物又は化合物が発見され得る。ウイルス、バクテリア、プリオン、及び真菌を含む感染性微生物の同定もまた、多型に基づいて達成することができ、且つ適切な治療応答を感染宿主へ投与することができる。
【0006】
約16ヌクレオチドの配列は、ヒトゲノムのサイズに対してさえも統計的根拠に基づいて特異的であるため、比較的短い核酸配列を用いて、高等生物における正常及び欠陥遺伝子を検出し、感染性微生物(例えば、バクテリア、真菌、原生生物、及び酵母)並びにウイルスを検出することができる。DNA配列はまた、同一種内の異なる個体を検出するためのフィンガープリントとしても機能する(Thompson, J. S. and M. W. Thompson, eds., Genetics in Medicine, W.B. Saunders Co., Philadelphia, Pa. (1991)を参照されたい)。
【0007】
核酸配列を検出及び分析するための多数の方法が開発されている。例えば、核酸配列は、増幅された核酸分子の移動度をゲル電気泳動によって既知の標準と比較するか、又は同定される配列に相補的なプローブとのハイブリダイゼーションによって、同定することができる。核酸配列を分析する当技術分野で既知の方法は、規定された核酸配列を酵素的に合成又は増幅するためのインビトロ法であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる。この反応は、典型的には、反対の鎖にハイブリダイズする2つのオリゴヌクレオチドプライマーを使用し、増幅すべき鋳型又は標的DNA配列に隣接する。プライマーの伸長は熱安定性DNAポリメラーゼによって触媒される。鋳型変性、プライマーアニーリング、及びポリメラーゼによるアニーリングされたプライマーの伸長を含む一連の反復サイクルは、特異的DNA断片の指数関数的蓄積を提供する。蛍光プローブ又はマーカーは、典型的には、増幅プロセスの検出及び定量を容易にするためにプロセスにおいて使用される。
【0008】
典型的な動態PCR分析において、蛍光強度値は、典型的なPCRプロセスについてサイクル数に対してプロットされ、PCR産物の形成はPCRプロセスの各サイクルでモニターされる。増幅は通常、増幅反応中の蛍光シグナルを測定するための成分及びデバイスを含むサーモサイクラーで測定される。そのようなサーモサイクラーの例は、Roche Diagnostics LightCycler(カタログ番号第20110468番)である。増幅産物はまた、例えば、標的核酸に結合したときのみ蛍光シグナルを発する蛍光標識ハイブリダイゼーションプローブによって、又は特定の場合には、二本鎖DNAに結合する蛍光色素によっても検出される。
【0009】
しかしながら、増幅反応の結果として得られるデータに誤差が生じる可能性があり、それによって、データの分析における誤差が引き起こされ、且つ分析から得られるような物理的特性(例えば、出発物質の同定及び/又は定量)が生じる。さらに、核酸の大きな集団における比較的小さな配列変動を分析する場合、これらの誤差は複合され得る。したがって、核酸増幅方法の結果を用いて配列変異体情報を分析するための改善されたプロセスを同定することが有益であろう。
【発明の概要】
【0010】
一態様において、試料中の少なくとも2つの核酸配列変異体を検出する方法であって、以下のステップ:(a)少なくとも2つの配列変異体を増幅して、第1の変異体アンプリコン及び第2の変異体アンプリコンを含む少なくとも2つの増幅産物を製造し、増幅ステップは第1及び第2のアンプリコンについてそれぞれ第1及び第2の増幅曲線を生じるステップ;(b)プロセッサを用いて、第1の増幅曲線の直線性からの第1の偏差及び第2の増幅曲線の直線性からの第2の偏差を作り、且つ直線性からの第1及び第2の偏差を比較して直線性比から偏差を作ることによって、第1及び第2の増幅曲線の直線性からの相対偏差を分析するステップ;(c)プロセッサを用いて、閾値マトリックスに対する直線性からの相対偏差を比較するステップ;並びに、(d)プロセッサを用いて、比較ステップ(c)の結果に基づく2つ以上の配列変異体を同定するステップ;を含む、方法が提供される。いくつかの実施形態において、該分析ステップ(b)は、第1の増幅曲線についてデルタB1を算出すること、及び第2の増幅曲線についてデルタB2を算出することを含み、
【数1】
且つ、直線性からの相対偏差=デルタB1/デルタB2である。いくつかの実施形態において、直線性からの相対偏差が、log10(デルタB1/デルタB2)を含む。いくつかの実施形態において、
【数2】
である。本明細書において、いくつかの実施形態では、ベースライン切片は、y中央値、幾何平均、調和平均、又は一般化平均を含む。ある実施形態において、ベースライン切片は、y中央値を含む。いくつかの実施形態において、
【数3】
である。いくつかの実施形態において、直線性からの偏差はサイクルm~pより評価され、0<m<pである。ある実施形態において、m>2である。ある実施形態において、3<m<7である、ある実施形態において、m=6である。
【0011】
別の態様において、試料中の2つ以上の核酸配列変異体を検出するシステムであって、システムは、メモリ、プロセッサ、及びディスプレイと動作可能に接続された核酸増幅モジュールを含み、プロセッサは、2つ以上の配列変異体を検出するコンピュータ実施方法を実行するように構成され、方法は、以下:(a)核酸増幅モジュールを用いて、少なくとも2つの配列変異体を増幅して、第1の変異体アンプリコン及び第2の変異体アンプリコンを含む少なくとも2つの増幅産物を製造するステップ;(b)プロセッサを用いて、第1及び第2の増幅曲線を、それぞれ第1及び第2のアンプリコンについて作成するステップ;(c)プロセッサを用いて、第1の増幅曲線の直線性からの第1の偏差及び第2の増幅曲線の直線性からの第2の偏差を作り、且つ直線性からの第1及び第2の偏差を比較して直線性からの偏差比を作ることによって、第1及び第2の増幅曲線の直線性からの相対偏差を分析するステップ;(d)プロセッサを用いて、閾値マトリックスに対する直線性からの相対偏差を比較するステップ;並びに、(e)プロセッサを用いて、該比較ステップ(d)の結果に基づく2つ以上の配列変異体を同定するステップ;を含む、システムが提供される。いくつかの実施形態において、該分析ステップ(c)は、第1の増幅曲線についてデルタB1を算出すること、及び第2の増幅曲線についてデルタB2を算出することを含み、
【数4】
且つ、直線性からの相対偏差=デルタB1/デルタB2である。いくつかの実施形態において、直線性からの相対偏差は、log10(デルタB1/デルタB2)を含む。いくつかの実施形態では、
【数5】
。本明細書において、いくつかの実施形態では、ベースライン切片は、y中央値、幾何平均、調和平均、又は一般化平均を含む。ある実施形態において、ベースライン切片は、y中央値を含む。いくつかの実施形態において、
【数6】
である。いくつかの実施形態において、直線性からの偏差はサイクルm~pより評価され、0<m<pである。ある実施形態において、m>2である。ある実施形態において、3<m<7である。ある実施形態において、m=6である。
【0012】
さらに、本開示は、試料中の2つ以上の核酸配列変異体を検出するシステムを提供し、このシステムは、メモリ、プロセッサ、及びディスプレイと動作可能に接続された核酸増幅モジュールを含む。システムは、核酸増幅モジュールを用いて、少なくとも2つの配列変異体を増幅して、第1の変異体アンプリコン及び第2の変異体アンプリコンを含む少なくとも2つの増幅産物を製造し、プロセッサを用いて、第1及び第2の増幅曲線を、それぞれ第1及び第2のアンプリコンについて作成することによって、2つ以上の配列変異体を検出する方法を実行するように構成される。増幅曲線を、プロセッサを用いて分析し、第1の増幅曲線の直線性からの第1の偏差及び第2の増幅曲線の直線性からの第2の偏差を作り、且つ第1及び第2の偏差を比較して直線性からの偏差比を作ることによって、第1及び第2の増幅曲線の直線性からの相対偏差を決定する。プロセッサを用いて、本システムは、次いで閾値マトリックスに対する直線性からの相対偏差を比較し、それによって2つ以上の配列変異体を同定する。
【0013】
試料中の2つ以上の核酸配列変異体を検出するためのシステムであって、メモリ、プロセッサ、及びディスプレイと動作可能に接続された核酸増幅モジュールを含むシステムもまた、提供される。核酸増幅モジュールは、少なくとも2つの配列変異体を増幅して、第1の変異体アンプリコン及び第2の変異体アンプリコンを含む少なくとも2つの増幅産物を製造し、プロセッサを用いて、第1及び第2の増幅曲線を、それぞれ第1及び第2のアンプリコンについて作成する。その後、プロセッサは、第1の核酸変異体の増幅のための増幅曲線を表す第1のデータセットを受け取る;さらなる核酸変異体の増幅のための増幅曲線を表す第2のデータセットを受け取り、ここで、該さらなる核酸変異体は、第1の核酸変異体に対する多型部位における該少なくとも1つの配列改変を含んでなる;該第1のデータセットに適合する第1の曲線及び該第2のデータセットに適合する第2の曲線を作成する;第1の曲線の直線性からの第1の偏差及び第2の曲線の直線性からの第2の偏差を生成する;直線性からの第1の偏差と直線性からの第2の偏差とを比較して、直線性からの偏差比を同定する;直線性からの偏差比を閾値マトリックスと比較する;並びに、閾値マトリックスとの比較に基づいて2つ以上の配列変異体を同定する;ように構成される。
【0014】
さらに、試料中の少なくとも2つの核酸配列変異体を検出する方法であって、以下のステップ:少なくとも2つの配列変異体を増幅して、第1の変異体アンプリコン及び第2の変異体アンプリコンを含む少なくとも2つの増幅産物を製造し、増幅ステップは第1及び第2のアンプリコンについてそれぞれ第1及び第2の増幅曲線を生じるステップ;プロセッサを用いて、第1の増幅曲線の直線性からの第1の偏差及び第2の増幅曲線の直線性からの第2の偏差を作り、且つ直線性からの第1及び第2の偏差を比較して直線性比から偏差を作ることによって、第1及び第2の増幅曲線の直線性からの相対偏差を分析するステップ;プロセッサを用いて、閾値マトリックスに対する直線性からの相対偏差を比較するステップ;並びに、プロセッサを用いて、比較ステップの結果に基づく2つ以上の配列変異体を同定するステップ;を含む、方法が提供される。
【0015】
また、2つ以上の配列変異体を検出するコンピュータ実施方法であって、コンピュータシステムにおいて、以下:第1の核酸変異体の増幅に関する増幅曲線を表す第1のデータセットを受け取ること;さらなる核酸変異体の増幅に関する増幅曲線を表す第2のデータセットを受け取ることであって、ここで、該さらなる核酸変異体は、第1の核酸変異体に関する多型部位における該少なくとも1つの配列改変を含んでなる;該第1のデータセットに適合する第1の曲線及び該第2のデータセットに適合する第2の曲線を作成すること;第1の曲線の直線性からの第1の偏差及び第2の曲線の直線性からの第2の偏差を作成すること;直線性からの第1の偏差を直線性からの第2の偏差と比較して、直線性からの偏差比を同定すること;直線性からの偏差比を閾値マトリックスと比較すること;並びに、該比較ステップに基づいて2つ以上の配列変異体を同定することを含む、方法も提供される。
【0016】
本開示の性質及び利点のより良い理解は、以下の詳細な説明及び添付の図面を参照して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本明細書に記載するシステムのブロック図である。
【
図2(a)】
図2(a)は、システムによって使用される方法の概略図である。
【
図2(b)】
図2(b)は、本方法のデータ処理部分の概略図である。
【
図3】
図3は、配列特異的閾値マトリックスの使用の具体例の説明図である。
【
図4】
図4は、従来の配列変異体理論の具体例を示す図である。
【
図5】
図5は、核酸増幅曲線に関するデルタBのグラフ表示である。
【
図7】
図7は、新規の方法を用いて得られた結果を示す。
【
図8】
図8は、従来の配列変体異理論を用いた偽GG対立遺伝子の同定を示す。
【
図9】
図9は、従来の配列変異体理論を使用すると、特定の試料が、カットオフを下回ったCY5.5又はFAM RFI(AAのみ)のために無効化されたことを示す。
【
図10】
図10は、従来の配列変異体理論を使用すると、特定のGA検体が、デルタCT値が範囲外であるために無効化されたことを示す。
【
図11】
図11は、HEX RFI値がカットオフ値を超えていたため、AA検体がどのように無効化されたかを示している。全てのチャネル(FAM、HEX、及びCY5.5)CTが存在したが、ΔCTカットオフに失敗したので、試料をGA試料として処理した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施形態は、核酸増幅反応に基づいて配列変異体を検出することができる。従来の方法は配列変異体を不正確に同定するが、本明細書に記載する改善された方法は、従来の方法を用いて正しく検出されなかった変異体を一貫して正確に同定する機構を提供する。さらに、改善された方法は、挑戦的な試料が、例えば潜在的な阻害成分の存在下において評価される場合に、よりロバストであることが見出されている。
【0019】
本明細書で特に定義しない限り、本明細書で使用される科学的用語及び技術的用語は、当業者によって一般に理解される意味を有する。さらに、文脈によって特に要求されない限り、単数形の用語は複数形を含み、且つ複数形の用語は単数形を含む。冠詞「ひとつの(a)」及び「ひとつの(an)」が本明細書にて使用される場合、冠詞の文法的目的の1つ、又は1つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指す。例として、「要素(an element)」とは、1つの要素又は1つ以上の要素を意味する。
【0020】
「検出する(detect)」、「検出すること(detecting)」、「検出(detection)」、及び同様の用語は、本出願において、プロセス、又はある物の存在若しくは非存在、及び程度、量、又はレベル、又は発生確率を発見若しくは決定することを広範に指すために使用される。例えば、用語「検出すること(detecting)」とは、標的核酸配列に関して使用される場合、その配列の存在、存在、レベル、若しくは量、及び確率若しくは尤度の発見又は決定を示すことがある。「存在又は非存在を検出すること(detecting presence or absence)」、「存在又は非存在の検出(detection of presence or absence)」、及び関連する表現は、定性的且つ定量的検出を含むことを理解されたい。
【0021】
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」、及び「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチド(例えば、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチド)のポリマーを指し、天然に存在する(アデノシン、グアニジン、シトシン、ウラシル、及びチミジン)、天然に存在しない、並びに修飾された核酸を含む。この用語は、ポリマーの長さ(例えば、モノマーの数)によって制限されない。核酸は一本鎖であっても又は二本鎖であってもよく、概して5’-3’ホスホジエステル結合を含有し得るが、いくつかの場合において、ヌクレオチド類似体は他の結合を有してもよい。モノマーは、典型的にはヌクレオチドと呼ばれる。用語「非天然ヌクレオチド」又は「修飾ヌクレオチド」とは、修飾された窒素塩基、糖、若しくはリン酸基を含有するヌクレオチド、又はその構造中に非天然部分を組み込むヌクレオチドを指す。非天然ヌクレオチドの例には、ジデオキシヌクレオチド、ビオチン化ヌクレオチド、アミノ化ヌクレオチド、脱アミノ化ヌクレオチド、アルキル化ヌクレオチド、ベンジル化ヌクレオチド、及び蛍光体標識ヌクレオチドが含まれる。
【0022】
本明細書に記載の標準仕様を含み得る好適な核酸増幅方法としては、これらに限定されないが、the Ligase Chain Reaction (LCR; Wu D. Y. and Wallace R. B., Genomics 4 (1989) 560-69; and Barany F., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88 (1991)189-193); Polymerase Ligase Chain Reaction (Barany F., PCR Methods and Applic. 1 (1991) 5-16); Gap-LCR (WO 90/01069);Repair Chain Reaction (EP 0439182 A2), 3SR (Kwoh D.Y. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 1173-1177;Guatelli J.C., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87 (1990) 1874-1878; WO 92/08808)、及びNASBA (米国特許第5,130,238号明細書)が挙げられる。さらに、以下の方法のうち1つ以上はまた、鎖置換増幅(SDA、strand displacement amplification)、転写媒介増幅(TMA、transcription mediated amplification)、及びQb増幅(例えば、Whelen A. C. and Persing D. H., Annu. Rev. Microbiol. 50(1996) 349-373; Abramson R. D. and Myers T. W., Curr Opin Biotechnol 4 (1993) 41-47を概説のために参照されたい)を使用することもできる。
【0023】
上記のように、特定の実施形態では、とりわけ米国特許第4,683,202号明細書、同第4,683,195号明細書、同第4,800,159号明細書、及び同第4,965,188号明細書に開示されているように、核酸配列はPCRによって分析される。PCRは、典型的には、選択された核酸鋳型(例えば、DNA又はRNA)に結合する二つ以上のオリゴヌクレオチドプライマーを使用する。核酸分析に有用なプライマーには、標的核酸の核酸配列内で核酸合成の開始点として作用することができるオリゴヌクレオチドが含まれる。プライマーは、従来の方法によって制限消化物から精製することができるか、又は合成的に生産することができる。プライマーは、増幅の最大効率のために好ましくは一本鎖であるが、プライマーは二本鎖であってもよい。二本鎖プライマーは、最初に変性、すなわち鎖を分離するために処理される。二本鎖核酸を変性する1つの方法は、加熱によるものである。「耐熱性ポリメラーゼ」は、熱安定性であるポリメラーゼ酵素、すなわち、鋳型に相補的なプライマー伸長産物の形成を触媒する酵素であり、二本鎖鋳型核酸の変性を行うのに必要な時間、高温に曝されたときに不可逆的に変性しない。一般に、合成は各プライマーの3’末端で開始され、鋳型鎖に沿って5’から3’方向に進行する。熱安定性ポリメラーゼは、例えば、Thermus flavus、T.ruber、T.thermophilus、T.aquaticus、T.lacteus、T.rubens、Bacillus stearothermophilus、及びMethanothermus fervidusから単離されている。それにもかかわらず酵素が補充されるならば、熱安定性でないポリメラーゼをPCRアッセイに用いることもできる。
【0024】
鋳型核酸が二本鎖である場合、PCRにおいて鋳型として使用し得る前に、二本鎖を分離する必要がある。鎖の分離は、物理的、化学的、又は酵素的手段を含むあらゆる適切な変性方法によって達成することができる。核酸鎖を分離する1つの方法は、主に変性するまで核酸を加熱することを含む。鋳型核酸を変性させるために必要な加熱条件は、例えば、緩衝塩濃度、変性される核酸の長さ及びヌクレオチド組成に依存するが、典型的には、温度及び核酸長などの反応の特徴に応じて、一度に約90℃~約105℃の範囲である。変性は典型的には約5秒~9分間行われる。
【0025】
二本鎖鋳型核酸が熱によって変性される場合、反応混合物を、各プライマーの標的核酸上のその標的配列へのアニーリングを促進する温度まで冷却させる。アニーリング温度は、好ましくは約35℃~約70℃、さらに好ましくは約45℃~約65℃である。さらに好ましくは約50℃~約60℃、さらに好ましくは約55~約58℃である。アニーリング時間は約10秒~約1分(例えば、約20~約50秒;約30~約40秒)であり得る。次いで、反応混合物を、ポリメラーゼの活性が促進又は最適化される温度、すなわち、分析すべき核酸に相補的な産物を生成するためにアニーリングされたプライマーから伸長が起こるのに充分な温度へ調節する。温度は、核酸鋳型にアニーリングされる各プライマーから伸長生成物を合成するのに充分であるべきであるが、その相補的鋳型から伸長生成物を変性させるほど高くすべきではない(例えば、伸長のための温度は、一般に約40~80℃(例えば、約50℃~約70℃;約60℃)の範囲である)。伸長時間は、約10秒~約5分、好ましくは約15秒~2分、さらに好ましくは約20秒~約1分、さらに好ましくは約25~約35秒であり得る。
【0026】
新たに合成された鎖は二本鎖分子を形成し、反応の次のステップで利用できる。ストランド分離、アニーリング、及び伸長のステップは、標的核酸に対応する所望の量の増幅産物を生成するのに必要な回数だけ繰り返すことができる。反応の制限因子は、反応に存在するプライマー、熱安定性酵素、及びヌクレオシド三リン酸の量である。サイクリングステップ(すなわち、変性、アニーリング及び伸長)は、好ましくは少なくとも一回繰り返される。検出における使用のために、サイクリングステップの数は、例えば、試料の性質に依存する。試料が核酸の複雑な混合物である場合、検出に充分な標的配列を増幅するためにより多くのサイクルステップが必要とされる。一般的に、サイクリングステップは約20回繰り返されるが、20回未満、又は40回、60回、若しくは100回でも繰り返されてもよい。さらに、アニーリング及び伸長のステップを同じステップ(1ステップPCR)で行うか、又は別々のステップ(2ステップPCR)で行うPCRアッセイを行うことができる。
【0027】
用語「試料」とは、個体由来の核酸を含有するか、又は含有すると推定されるあらゆる組成物を指す。この用語は、細胞、組織、又は血液及び血液成分の精製又は分離された成分、例えば、DNA、RNA、たんぱく質、無細胞部分、細胞溶解物、血漿、血小板、血清、軟膜、及び乾燥血液スポットを含む。試料はまた、細胞株を含む個体から得られた細胞のインビトロ培養物の成分及び成分を含み得る。試料の特定のさらなる例は、糞便、粘膜スワブ、組織吸引物、組織ホモジネート、細胞培養物及び細胞培養上清(真核細胞及び原核細胞の培養を含む)、尿、唾液、痰、及び脳脊髄試料を含む。
【0028】
本願明細書に記載される方法は、核酸配列変異体を同定するために使用することができる。対立遺伝子、多型、ハプロタイプ、及び/又は遺伝子型を含むがこれらに限定されない、種々の型の配列変異体を同定することができる。用語「対立遺伝子」は、遺伝子の配列変異体を指す。1つ以上の遺伝的差異が対立遺伝子を構成することができる。用語「多型」は、特定のヌクレオチド配列の複数の変異体が集団中に見出され得る状態を指す。多型位置は、変異体を区別する多型ヌクレオチドが存在する核酸配列中の部位を指す。「一塩基多型」又はSNPは、単一ヌクレオチドからなる多型部位を指す。用語「ハプロタイプ」は、個体中の同一染色体上の異なる場所(遺伝子座)にある対立遺伝子の組合せを指し、用語「遺伝子型」は、個体又は試料に含まれる遺伝子の対立遺伝子の合計を指す。
【0029】
本明細書に記載される方法において、配列変異体は、1つ以上の多型部位に存在するヌクレオチドを検出することによって同定することができる。対象核酸を含有するあらゆるタイプの組織を使用することができる。配列の異常を識別するための多くの方法が当該技術分野で知られており、使用される特定の方法は本開示の重要な側面ではない。例示的な方法は、増幅された核酸の対立遺伝子特異的増幅又はプローブベースの検出を含む。
【0030】
1つの実施形態において、対立遺伝子は、対立遺伝子特異的増幅又はプライマー伸長方法を用いて同定することができる。対立遺伝子は、プライマーを伸長するDNAポリメラーゼの能力に対する末端プライマーミスマッチの阻害効果に基づく。対立遺伝子特異的増幅又は伸長ベースの方法を用いて対立遺伝子配列を検出するために、対立遺伝子遺伝子のそれぞれに相補的なプライマーは、3’末端ヌクレオチドが多型位置でハイブリダイズするように選択される。標的対立遺伝子の存在下では、プライマーは3’末端の標的配列と一致し、伸長される。別の対立遺伝子の存在下では、プライマーは標的配列に対して3’ミスマッチを有し、プライマー伸長は除去されるか、又は有意に減少する。対立遺伝子特異的増幅ベース方法又は伸長ベース方法は、例えば、米国特許第5,137,806号明細書、同第5,595,890号明細書、同第5,639,611号明細書、及び同第4,851,331号明細書に記載されている。対立遺伝子特異的増幅ベースの遺伝子型決定方法は、ハプロタイプの同定を容易にすることができる。本質的に、対立遺伝子特異的増幅は、ヘテロ接合試料中の2つの対立遺伝子のうちの1つから複数の多型部位を含む領域を増幅するために使用される。次いで、増幅された配列内に存在するSNP変異体を、プローブハイブリダイゼーション又は配列決定などによって同定する。
【0031】
別の実施形態では、プローブと複数の標的対立遺伝子を含むその対応する標的配列との間に形成されるハイブリダイゼーション二本鎖の安定性の差に依存するプローブベースの方法が使用される。充分に厳密なハイブリダイゼーション条件下では、安定な二本鎖はプローブとその標的対立遺伝子配列の間でのみ形成され、他の対立遺伝子配列とは形成されない。安定なハイブリダイゼーション二本鎖の存在は、多くの周知の方法のいずれかによって検出することができる。特定の実施形態において、多型部位を含む標的対立遺伝子由来の複数の核酸配列は、充分に厳密なハイブリダイゼーション条件下で増幅され、プローブのセットにハイブリダイズされる。存在する対立遺伝子は、増幅された標的配列へのプローブの結合パターンから推測される。この態様において、増幅は、プローブハイブリダイゼーションによる分析のために充分な核酸を提供するために行われる。したがって、プライマーは、多型部位を含む種々の対立遺伝子の領域が、試料中に存在する対立遺伝子に関係なく増幅されるように設計される。対立遺伝子非依存性増幅は、対立遺伝子の保存領域にハイブリダイズするプライマーを用いて達成される。当業者は、典型的には、増幅システムの実験的最適化が有用であることを認識するであろう。
【0032】
プローブベースの遺伝子型同定は、「TaqMan」又は「5’ヌクレアーゼアッセイ」を用いて、米国特許第5,210,015号明細書、同第5,487,972号明細書、及び同第5,804,375号明細書、並びにHolland et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:7276 7280に記載される通り、実行することができる。TaqManアッセイにおいて、増幅された領域内でハイブリダイズする標識検出プローブは、増幅反応混合物中に添加される。プローブは、DNA合成のためのプライマーとして作用しないように修飾される。増幅は、5’から3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼ、例えばTth DNAポリメラーゼを用いて行われる。増幅の各合成段階の間に、伸長されるプライマーから下流の標的核酸にハイブリダイズするあらゆるプローブは、DNAポリメラーゼの5’から3’へのエキソヌクレアーゼ活性によって分解される。このように、新しい標的鎖の合成もプローブの分解をもたらし、分解産物の蓄積が標的配列の合成の尺度となる。
【0033】
特定の態様において、検出プローブは2つの蛍光色素で標識され、そのうちの1つは、他の色素の蛍光を消光することができる。色素は、好ましくは5’末端に付着された1つのプローブ及び内部部位に付着され、その結果、プローブがハイブリダイズしていない状態にあるときに消光が起こり、DNAポリメラーゼの5’から3’へのエキソヌクレアーゼ活性によるプローブの切断が2つの色素の間で起こる。増幅の結果、色素間でプローブが切断され、同時に消光が除去され、最初に消光された色素から観察できる蛍光が増加する。分解生成物の蓄積は、反応蛍光の増加を測定することによってモニターされる。米国特許第5,491,063号明細書及び同第5,571,673号明細書は、増幅と同時に起こるプローブの分解を検出するための代替方法を記載している。
【0034】
TaqManアッセイは、プローブが増幅産物の存在を検出するためにのみ使用されるように、対立遺伝子特異的増幅プライマーと共に使用することができる。このようなアッセイは、上述した動態PCRベースの方法について記載したように実施する。或いは、TaqManアッセイを標的特異的プローブと共に用いることができる。
【0035】
基礎となるアッセイ法にかかわらず、本明細書中に記載されるシステム及び方法は、分析された各配列についてのPCR増幅曲線の直線性からの相対偏差を比較し、その値を、試料中に存在し得る配列変異体について規定された閾値マトリックスと比較することによって、試料中に存在する特異的な配列変異体を同定する。
【0036】
図1は、核酸増幅モジュール100、メモリ101、プロセッサ102、及びディスプレイ103を含む標的核酸配列中の少なくとも1つの配列変異体を検出するためのシステム104のブロック図を示す。核酸増幅モジュール101は、1つ以上の試料処理モジュール105を含む。各試料処理モジュール105は、分析のための1つ以上の核酸配列を含む試料を処理するために必要な種々のステップを実施するための1つ以上のユニット又はステーションを含む。試料処理モジュール105は、例えば温度サイクラーといった、反応チャンバ106及び熱電冷却装置107、並びに随意には、試料分注ステーション、分離ステーション、及び1つ以上の消耗品及び/又は試薬貯蔵ステーションのうちの1つ以上(示さず)を含む。反応チャンバは、1つ以上の核酸増幅反応ステップ中に試料を収容するように構成される。さらに、核酸増幅モジュール101は、1つ以上の試料処理モジュールに電気的に接続された少なくとも1つの制御ユニット108も含む。制御ユニット108はまた、検出可能なシグナルを得るために核酸を分析するように構成された分析モジュール109を含む。
【0037】
メモリ102は、あらゆるタイプの揮発性又は不揮発性メモリ、例えばランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ、例えば電気消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EEPROM)、フラッシュメモリ、ハードドライブ、ソリッドステートドライブ、光学ディスク、及び同種のものといったあらゆる組み合わせを含むことができる。簡潔にするために、メモリ102は、
図1において単一のデバイスとして示されているが、メモリ102は、複数のデバイスに分散されてもよいことが理解される。プロセッサ103は、中央処理装置(CPU)、グラフィックス処理装置(GPU)、特殊目的信号又は画像プロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、テンソル処理装置(TPU)、及び同種のものなど、あらゆるタイプの1つ以上のプロセッサを含むことができる。
図1では、プロセッサ103は単一のデバイスとして示されているが、プロセッサ103はまた、あらゆる数のデバイスに分散されてもよい。ディスプレイ104は、LCD、LED、OLED、TFT、プラズマなどのあらゆる好適な技術を使用して実装され得る。いくつかの実装において、ディスプレイ104は、タッチセンシティブディスプレイ(タッチスクリーン)であり得る。
【0038】
また、システム100は、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、タブレット、スマートフォン、サーバ、特定用途向けコンピューティングデバイス、又は本明細書に記載する技術及び動作を実行することができるあらゆる他のタイプの電子デバイスなどの、1つ以上のコンピューティングデバイス(示さず)に動作可能に接続することもできる。いくつかの実施形態では、システムの要素及び各要素のサブコンポーネントは、本明細書で説明する様々な機能を実現する、単一のデバイス又は2つ以上のデバイスの組み合わせとして提供することができる。例えば、核酸増幅モジュール101は、1つ以上のローカルエリアネットワーク及び/又はワイドエリアネットワークを介して互いに通信可能に結合された、1つ以上のサーバコンピュータ及び1つ以上のクライアントコンピュータを含むことができる。そして、システム100はまた、1つ以上の周辺装置110(例えば、
図1に示すようなプリンタ111及びキーボード112)を含むことができ、コンピュータサブシステムはシステムバスを介して相互接続することができる。I/Oコントローラに結合する周辺装置及び入出力(I/O)装置は、シリアルポートなどの当技術分野で公知の任意の手段によってシステム100に接続することができる。例えば、シリアルポート又は外部インターフェース(例えば、Ethernet、Wi-Fiなど)を使用して、システム100をインターネット、マウス入力装置、又はスキャナなどの広域ネットワークに接続することができる。システムバスを介した相互接続により、中央プロセッサ103は、各サブシステムと通信し、システムメモリ102又は記憶装置(示さず)からの命令の実行、並びにサブシステム間の情報交換を制御することができる。システムメモリ及び/又は記憶装置は、コンピュータ可読媒体を具現することができる。本明細書に記載のあらゆる値は、1つのコンポーネントから別のコンポーネントに出力することができ、ユーザに出力することができる。
【0039】
コンピュータシステムは、例えば、外部インターフェース又は内部インターフェースによって互いに接続された、複数の同じ構成要素又はサブシステムを含むことができる。いくつかの実施形態では、コンピュータシステム、サブシステム、又は装置は、ネットワークを介して通信することができる。このような場合、1台のコンピュータをクライアント、もう1台のコンピュータをサーバと見なすことができ、各コンピュータを同じコンピュータシステムの一部とすることができる。クライアントとサーバはそれぞれ、複数のシステム、サブシステム、又はコンポーネントを含むことができる。
【0040】
当然のことながら、本開示の実施形態のいずれも、ハードウェア(例えば、特定用途向け集積回路又はフィールドプログラマブルゲートアレイ)を使用する制御ロジックの形態、及び/又はモジュラ方式若しくは統合方式で一般にプログラム可能なプロセッサを備えたコンピュータソフトウェアを使用する制御ロジックの形態で実施することができる。本明細書中のユーザとして、プロセッサは、同一の集積チップ上のマルチコアプロセッサ、又は単一の回路基板若しくはネットワーク上の複数の処理ユニットを含む。本明細書で提供される開示及び教示に基づいて、当業者は、ハードウェア及びハードウェアとソフトウェアの組み合わせを使用して、本開示の実施形態を実施するための他の方法及び/又は方法を知っており、かつ理解するであろう。
【0041】
本出願に記載されたソフトウェア構成要素又は機能のいずれも、例えば従来の又はオブジェクト指向技術を用いて、例えばJava、C++、又はPerlのようなあらゆる好適なコンピュータ言語を用いてプロセッサによって実行されるソフトウェアコードとして実装することができる。ソフトウェアコードは、記憶及び/又は伝送のため、コンピュータ可読媒体上に一連の命令又はコマンドとして記憶することができ、適切な媒体には、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、ハードドライブ、若しくはフロッピーディスクなどの磁気媒体、又はコンパクトディスク(CD)若しくはDVD(デジタル汎用ディスク)などの光学媒体、フラッシュメモリ及び同種のものがある。コンピュータ可読媒体は、このような記憶装置又は送信装置の任意の組み合わせであってよい。
【0042】
このようなプログラムはまた、インターネットを含む様々なプロトコルに準拠する有線、光、及び/又は無線ネットワークを介して送信するように構成されたキャリア信号を用いて符号化及び送信することもできる。したがって、本開示の一実施形態によるコンピュータ可読媒体は、そのようなプログラムで符号化されたデータ信号を使用して生成されてもよい。プログラムコードでコード化されたコンピュータ可読媒体は、互換性のある装置と共にパッケージ化されてもよいか、又は他の装置(例えば、インターネットからのダウンロード)とは別に提供されてもよい。このようなコンピュータ可読媒体は、単一のコンピュータプログラム製品(例えば、ハードドライブ、CD、又はコンピュータシステム全体など)上又は内部に存在してもよく、システム又はネットワーク内の異なるコンピュータプログラム製品上又は内部に存在してもよい。コンピュータシステムは、本明細書に記載するあらゆる結果をユーザに提供するためのモニタ、プリンタ、又は他の適切なディスプレイを含むことができる。
【0043】
本明細書に記載の方法のいずれも、ステップを実行するように構成することができる1つ以上のプロセッサを含むコンピュータシステムを用いて、全体的に又は部分的に実行することができる。したがって、実施形態は、本明細書に記載される方法のいずれかのステップを実行するように構成されたコンピュータシステムに向けられ、場合によっては、異なる構成要素がそれぞれのステップ又はそれぞれのステップのグループを実行する。番号を付したステップとして示されているが、本明細書における方法のステップは、同時に、又は異なる順序で実施することができる。さらに、これらのステップの一部は、他の方法からの他のステップの一部と共に使用されてもよい。また、ステップの全部又は一部は随意であってもよい。さらに、あらゆる方法のあらゆるステップを、これらのステップを実行するためのモジュール、回路、又は他の手段を用いて実行することができる。
【0044】
図2(a)は、標的核酸配列の配列変異体を検出するために
図1のシステムによって使用される方法を示す。試料が受け取られ、適切に処理されると、例えば、試料中に存在する種々の核酸を、核酸増幅反応(201)を行うために必要な1つ以上のプライマー及びプローブ並びに付加的反応成分と組み合わせると、試料中の核酸は増幅反応に供され、各核酸は、検出可能な部分、例えば、異なる蛍光色素(202)を用いて同定される。特定の実施形態では、少なくとも2つの核酸、例えば、第1の変異体及び第2の変異体が試料中に存在し、それぞれは、異なる検出可能な部分を用いて増幅反応において一意的に同定可能である。随意に、この方法は、増幅反応において差次的に検出することができるようにユニークに標識された対照物質、例えばハウスキーピング遺伝子も含む。システムは、各増幅反応について増幅曲線(GC;203)を生成し、次いで、プロセッサは、各増幅曲線の直線性(DL;204)からの偏差を決定する。直線性からの偏差を互いに比較して直線性からの偏差比(DLR;205)、すなわち各データセットの直線性からの相対的偏差の比較を同定し、次いで直線性からの偏差比を標的核酸配列に特異的な予め規定された閾値マトリックス(206)と比較して、試料中に存在する特異的配列変異体を同定する(207)。
【0045】
ステップ203~207は、本方法のデータ解析構成要素(208)を含み、これらのステップは
図2(b)により詳細に示される。プロセッサは、第1の変異体(V1)の第1の核酸増幅反応に関する第1のデータセット(209)、及び第2の変異体(210)の第2の核酸増幅反応に関する第2のデータセット(V2)を受け取る。各データセットは、各増幅反応(211及び212)についての増幅曲線を生成するためにプロセッサによって使用され、その後、各増幅曲線についての直線性からの偏差がプロセッサによって生成される(213及び214)。増幅曲線の直線性からの偏差を比較することによって、プロセッサは、直線性からの偏差比(215)を生成し、次いで、これを(216)配列特異的閾値マトリックス(TM)(217)と比較して(218)、試料中に存在する配列変異体を同定する。
【0046】
配列特異的閾値マトリックス(217)は、複数の既知の特異的核酸配列の個々の増幅曲線を分析することによって決定される。例えば、2つの変異体を評価する場合、各変異体の試料のプールを分析して、これらの配列について期待される増幅曲線を同定する。次いで、他のものに対するそれぞれの可能な対象の変異体についての直線性からの偏差比が決定され、このデータが配列特異的閾値マトリックスを生成するために使用される。さらに、閾値マトリックスは、限定されるものではないが、デルタCTR又はデルタCTなどの、増幅曲線の他の特徴の評価も含むことができる。サイクル閾値(CT)は、検出可能な信号が閾値を超え、バックグラウンドレベルを超え、増幅が開始したことを示すのに必要なサイクル数である。CTは反応に存在する核酸の量に特異的である。デルタCTは、評価される核酸のCTと参照配列のCTとの間の差に対応する。増幅曲線の形状は、対象とする特定の配列、プライマー、プローブ、及び熱サイクル条件に特異的であり得る。閾値マトリックスは、評価中の各変異体に対する直線性からの偏差比の許容可能な範囲のセットを含む。
【0047】
例えば、以下の実施例においてより詳細に記載されるように、閾値マトリックスは、
図3に示されるように、配列、例えば、GG、GA及びAAにおける異なる対立遺伝子の間を区別するために使用され得る。核酸増幅は、核酸増幅モジュールにおける3つのチャネルにおいて行われ、各チャネルは、異なる検出可能な標識を使用して異なる対立遺伝子を検出するように構成される。例えば、第1のチャネルは、例としてCy5.5を用いて識別される制御を含むことができ、第2のチャネルは、Gの存在を評価するために使用され、HEXで検出可能に標識され、第3のチャネルは、Aの存在を評価するために使用され、FAMで検出可能に標識される。(特異的対立遺伝子及び検出可能な標識の選択は、限定的なものではなく、例示目的のためにのみ本明細書に提供される。)閾値マトリックスは、各対立遺伝子の直線性からの偏差比に対する許容範囲のセットを含むので、この例において評価される3つの対立遺伝子について、マトリックスは、GG範囲、GA範囲、及びAA範囲を含む。2つの範囲の間の接合部において、直線性からの偏差比がその範囲内にある場合、対立遺伝子の同一性をさらに確認するために1つ以上のさらなる計算を使用することができる、マトリックスの領域である緩衝帯と呼ばれる範囲があり得る。
【0048】
各チャネル(301)における増幅の後に経験的に有効な結果が得られる場合、例えば、制御チャネルに対する増幅曲線CTが特定の範囲外にないか又は存在しない場合、FAM及びHEXに対するCTは両方とも存在しない場合、及びFAM及びHEXに対する個々のCTが特定の範囲外にない場合、直線性比は以下のように評価される:
●直線性比が1.0以上(302)であれば、対立遺伝子はGGである;
●直線性比が-0.2~0.6の間で、デルタCTが存在する場合(303)、対立遺伝子はGAである;
●GA緩衝地帯における直線性比が0.6~1.0の間であり、デルタCTが-4.0~1.0の間である場合(304)、対立遺伝子はGAである;
●AA緩衝地帯における直線性比が-0.6~-0.2の間にあり、デルタCTが3.0以上であるか、又は欠落している(305)場合、対立遺伝子はAAである;又は、
●直線性比が-0.6(306)以下の場合、対立遺伝子はAAである。
【0049】
特定の実施形態では、方法は、一定範囲のサイクル数にわたる核酸増幅データからの直線
【数7】
の直線性からの相対最大偏差として定義されるデルタBの計算を含む。したがって、デルタBを使用して、例えば以下の通りに、核酸nについての増幅曲線の直線性からの偏差を計算することができる;
【数8】
式中、nは分析される核酸に対応し、ベースラインの一般化された平均は、y中央値、幾何平均、調和平均、又は一般化された平均を含み、特定の実施形態では、ベースラインの一般化された平均はy中央値である。したがって、デルタBは次のように表すことができる;
【数9】
【0050】
直線性からの偏差は、好ましくは、サイクル数の範囲、例えばサイクルm~pまでで評価され、0<m<pである。一実施形態では、m≧2、特に3≦m≦7、好ましくはm=6である。
【0051】
したがって、この実施形態では、第1及び第2の核酸の増幅を表す2つの増幅曲線の直線性からの相対的近似偏差を反映する直線性からの偏差比は、以下のように計算することができる;
直線性からの偏差比=デルタB1/デルタB2。
【0052】
特定の実施形態において、直線性からの偏差比は、次を含む:
log10(デルタB1/デルタB2)。
【0053】
したがって、直線性からの偏差比の一例は、LogデルタB率(LDBR、Log DeltaB Ratio)である。驚くべきことに、LDBRのような直線性からの偏差比の使用は、RFI(相対蛍光強度)を従来のアルゴリズムと比較して低下させることを可能にし、Sanger配列決定との比較に基づいて従来の方法よりも高い感度で配列変異体を同定する。LDBRは、従来のロジックを使用して遺伝子型決定エラーを導入することが分かっている、1つ又は複数の材料若しくは条件で試料を調べる場合に、無効又は不正確な結果ではなく正しい遺伝子型を同定する上でより頑健であることが分かった。
【0054】
したがって、本願明細書に記載されるシステム及び方法において、方法は、以下のステップ:(a)第1の核酸変異体の増幅のための増幅曲線を表す第1のデータセットを受信するステップ;(b)さらなる核酸変異体の増幅のための増幅曲線を表す第2のデータセットを受け取るステップあって、該さらなる核酸変異体が、第1の核酸変異体に対する多型部位における該少なくとも1つの配列改変を備えるステップ;(c)該第1のデータセットに適合する第1の曲線及び該第2のデータセットに適合する第2の曲線を生成するステップ;(d)第1の曲線のデルタB及び第2の曲線のデルタBを生成すること;(e)LDBRを導出するために、第1及び第2の曲線についてのデルタBの比のlog10を取ることによって、第1及び第2の曲線についてのデルタBを比較するステップ;(f)LDBRを閾値マトリックスと比較するステップ;並びに、(g)該比較ステップ(f)に基づいて、2つ以上の配列変異体を同定するステップ;を含むプロセッサによって実行される。
【0055】
特定の実施形態の特定の詳細は、あらゆる好適な方法で組み合わせることができる。しかしながら、本開示の他の実施形態は、各個々の態様に関する特定の実施形態、又はこれらの個々の態様の特定の組み合わせを対象とすることができる。
【0056】
本開示の好ましい実施形態の上記の説明は、例示及び説明の目的で提示されている。これは、網羅的であること、又は開示を記載された正確な形態に限定することを意図しておらず、多くの修正及び変形が、上記の教示に照らして可能である。実施形態は、本開示の原理及びその実用的な用途を最もよく説明するために選択及び説明され、それによって、当業者が、考えられる特定の用途に適しているような様々な実施形態及び様々な修正で本開示を最もよく利用することを可能にした。
【実施例】
【0057】
遺伝子型決定アッセイのためのアルゴリズム選択及びカットオフ決定
従来の遺伝子型論理はストレス条件下で不正確な遺伝子型を同定することが分かった(例えば、PCR阻害剤を試料に添加した場合)。これらの不正確な結果は、cobas(商標)4800システムにおけるFAM(トレオニンリンカーを有する6-カルボキシフルオレセイン)又はHEX(トレオニンリンカーを有するヘキサクロロ-フルオレセイン)チャネルのいずれかにおけるRFI(相対蛍光強度)値の変動に起因し、RFIカットオフを越える結果となった。従来の方法を使用して、RFI値がカットオフを下回る場合、CT値はこのチャネルについて除去された。続いて、遺伝子型をチャンネルのサブセット(例えば、
図4参照)のみに存在するCT値で決定した。例えば、FAM RFI値がヘテロ接合標本GAのカットオフ値を下回った場合、HEX及びCY5.5CTのみが存在することになり、他のすべての値が仕様の範囲内であれば、GG遺伝子型を誤って同定することになる。
【0058】
よりロバストなアルゴリズムを開発するために、他のアルゴリズムを評価した。
図5に示すように、実時間PCRデータからの直線
【数10】
の直線性からの相対最大偏差をサイクル数の範囲にわたって定義したデルタBに基づいて、新しいアルゴリズムを開発した。改良されたアルゴリズムは、LogデルタB率(LDBR)を使用し、
図6にアルゴリズムを概略的に示す。改良されたアルゴリズムを使用して得られた結果を
図7に示し、新しいアルゴリズムは、表1に示すように、従来のアルゴリズムに対するRFIの低下を可能にする。
【0059】
【表1】
CTは、RFI値がカットオフ値未満の試料では存在しないように設定される。
【0060】
試料調製のためにcobas(商標)x480を用いた試料スクリーニング中に、古いアルゴリズム及び新しいアルゴリズムの両方は、>99%の検体についてSanger配列決定と比較して一致した結果をもたらした(表2)。
【0061】
【0062】
1つの検体は、Sanger配列決定を有するGGと比較して、遺伝子型不一致GA/無効(新旧アルゴリズム)であり、1つの検体は、Sanger配列決定を有するGAと比較して、遺伝子型無効/GA(新旧アルゴリズム)であった。これらの検体の両方は、他の対立遺伝子のいくつかの背景のみを示し、典型的にはホモ接合性又はヘテロ接合性ではなかったので、Sanger遺伝子型トレースについては決定的ではなかった。さらなる調査は、これら2つの検体が検体収集中に交差汚染された可能性を示した。従来の方法を使用すると、そのような決定的でない結果は、使用者に実験を繰り返すことを強いることになり、検体収集中に検体が交差汚染された場合、使用者は、実験を繰り返すために新鮮な試料を収集しなければならない可能性がある。
【0063】
異なる試料調製をSanger配列決定と比較すると、古いアルゴリズムと新しいアルゴリズムは、Sanger配列決定(表3)と100%の一致した結果を示した。しかし、従来のアルゴリズムでは、FAM CTR値がDNA収率の高い試料調製法のカットオフ範囲外であるため、3つの検体を無効としていた。
【0064】
【0065】
内部統制(集積回路)は、DNAの質と量の統制として機能した。貧弱な試料調製をシミュレートするために、PCR阻害剤のスパイクイン、試料希釈、異なる溶出緩衝液のシミュレーションなどを含む一連の挑戦的条件を実行し、これらのストレス条件下で、新しいアルゴリズムはSanger配列決定と比較して100%の一致した結果を示したか、又は貧弱なDNA量又は質(表4)のために試料を無効化した。しかし、古いアルゴリズムはサンガー配列決定法と比較して97%の一致した結果しか示さず、新しいアルゴリズムと比較して46以上の試料(又は17%)が無効と呼ばれた(表4)。
【0066】
【0067】
PCR阻害剤(血液、エタノール)のスパイクイン時に、19のGA試料は古いアルゴリズム(表4)で誤ってGGと呼ばれた。これは、FAM RFI値がRFI
最小カットオフを下回り、FAMチャネルからCT値が削除されたためである。このように、試料はHEX及びCY5.5CT値のみを示し、GG(
図8)として遺伝子型決定した。新しいアルゴリズムを用いて、これらの試料の遺伝子型を正確に決定した。
【0068】
さらに多くの資料が、以下の種々の理由により旧遺伝子型アルゴリズムでは無効となった:
●RFI
最小を高くすると、CY5.5又はFAM(AAのみ)がカットオフ値を下回ったために一部の試料が無効になった(
図9);
●ΔCT値が範囲外であったためGA検体を無効とした(
図10);
●HEX RFI値がカットオフ値以上であったため、AA検体は無効となった。すべてのチャネル(FAM、HEX、CY5.5)CTが存在したが、ΔCTカットオフに失敗したので、試料をGA試料として処理した(
図11)。
【0069】
したがって、LDBRを用いた新しい遺伝子型アルゴリズムは、PCR阻害剤、交差汚染、高及び低DNA濃度、及びある種のマスターミックス成分変化(ここに示されていないデータ)で試料を攻撃するとき、無効又は不正確な結果の代わりに正しい遺伝子型を同定する上でよりロバストであることが分かった。古いアルゴリズムを使用すると無効な結果となり、ユーザは実験を繰り返す必要があるが、これはしばしば不可能である。しかしながら、新しいアルゴリズムは、従来の方法を用いて無効であることが見出されたであろう試料を正しく遺伝子型決定した。