IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シチズンホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ シチズンマシナリーミヤノ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ネジ切り加工装置及びネジ切り加工方法 図1
  • 特許-ネジ切り加工装置及びネジ切り加工方法 図2
  • 特許-ネジ切り加工装置及びネジ切り加工方法 図3
  • 特許-ネジ切り加工装置及びネジ切り加工方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】ネジ切り加工装置及びネジ切り加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23G 3/00 20060101AFI20220308BHJP
   B23B 5/48 20060101ALI20220308BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20220308BHJP
   B23Q 15/013 20060101ALI20220308BHJP
   G05B 19/4093 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B23G3/00 B
B23B5/48
B23Q15/00 301J
B23Q15/013
G05B19/4093 N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019529018
(86)(22)【出願日】2018-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2018023581
(87)【国際公開番号】W WO2019012937
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2017137346
(32)【優先日】2017-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000137856
【氏名又は名称】シチズンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光
(72)【発明者】
【氏名】勝田 保
【審査官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/067371(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/056526(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0304920(US,A1)
【文献】特許第5937891(JP,B2)
【文献】特公昭59-039250(JP,B2)
【文献】特開2010-247246(JP,A)
【文献】特開2017-102630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23G 3/00
B23B 5/48
B23Q 15/00
B23Q 15/013
G05B 19/4093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを回転可能に支持する主軸と、前記ワークに対する工具の相対移動を制御する制御部と、を備え、前記制御部が前記ワークと前記工具とを所定の旋削工程に沿って移動制御して前記ワークにネジ溝を形成するネジ切り加工装置であって、
前記旋削工程が、前記工具を前記ワークの軸方向に相対移動させて回転する前記ワークを一定の切込み深さで切り込み、次いで前記工具を前記軸方向及び径方向外側に相対移動させて前記ワークを斜めに切り上げると定められ、前記制御部が、前記旋削工程を前記ワークの切上げを開始する軸方向位置を前の旋削工程による前記ワークの切上げを開始した軸方向位置に対して順に変更させながら繰り返し行うことで、前記ワークにネジ溝を形成することを特徴とするネジ切り加工装置。
【請求項2】
前記工具の前記ワークに対する前記一定の切込み深さが、前記ワークに形成するネジのネジ底に対応する深さである、請求項1に記載のネジ切り加工装置。
【請求項3】
前記ワークに前記ネジ溝を形成した後、工具により前記ワークの最初のネジ山の頂部の少なくとも一部を切削加工するバリ取り工程を行う、請求項1または2に記載のネジ切り加工装置。
【請求項4】
前記バリ取り工程が、前記工具を前記ワークの軸方向に相対移動させて回転する前記ワークの前記ネジ山の頂部を一定の切込み深さで切り込み、次いで前記工具を前記軸方向及び径方向外側に相対移動させて前記ネジ山の頂部を斜めに切り上げると定められ、前記制御部が、前記バリ取り工程を前記ネジ山の頂部の切上げを開始する軸方向位置を前のバリ取り工程による前記ネジ山の頂部の切上げを開始した軸方向位置に対して順に変更させながら繰り返し行うことで、前記ネジ山の頂部の少なくとも一部を切削加工する、請求項3に記載のネジ切り加工装置。
【請求項5】
ワークにネジ溝を形成するネジ切り加工方法であって、
工具を前記ワークの軸方向に相対移動させて回転する前記ワークを一定の切込み深さで切り込み、次いで前記工具を前記軸方向及び径方向外側に相対移動させて前記ワークを斜めに切り上げる旋削工程を、前記ワークの切上げを開始する軸方向位置を前の旋削工程による前記ワークの切上げを開始した軸方向位置に対して順に変更させながら繰り返し行うことで、前記ワークにネジ溝を形成することを特徴とするネジ切り加工方法。
【請求項6】
前記工具の前記ワークに対する前記一定の切込み深さが、前記ワークに形成するネジのネジ底に対応する深さである、請求項5に記載のネジ切り加工方法。
【請求項7】
前記ワークに前記ネジ溝を形成した後、工具により前記ワークの最初のネジ山の頂部の少なくとも一部を切削加工するバリ取り工程を行う、請求項5または6に記載のネジ切り加工方法。
【請求項8】
前記工具を前記ワークの軸方向に相対移動させて回転する前記ワークの前記ネジ山の頂部を一定の切込み深さで切り込み、次いで前記工具を前記軸方向及び径方向外側に相対移動させて前記ネジ山の頂部を斜めに切り上げる前記バリ取り工程を、前記ネジ山の頂部の切上げを開始する軸方向位置を前の前記バリ取り工程による前記ネジ山の頂部の切上げを開始した軸方向位置に対して順に変更させながら繰り返し行うことで、前記ネジ山の頂部の少なくとも一部を切削加工する、請求項7に記載のネジ切り加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークにネジ溝を形成するネジ切り加工装置及びネジ切り加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークにネジ溝を形成するネジ切り加工装置ないしネジ切り加工方法として、旋盤の主軸に固定されて主軸とともに回転するワークの外周面を、ワークに対して軸方向に相対移動する工具によって、ネジ底よりも浅い一定の切込み深さで螺旋状に旋削加工するとともに、当該旋削加工を切込み深さを徐々に深くしながら当該ワークのネジ切りが必要な軸方向の全範囲に亘って繰り返し行うことで、ワークにネジを形成するようにしたネジ切り加工装置ないしネジ切り加工方法が知られている(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5937891号公報
【文献】特公昭59-39250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のネジ切り加工装置ないしネジ切り加工方法では、繰り返し行うそれぞれの旋削加工において、ワークのネジ切りが必要な軸方向の全範囲に亘って連続して工具による旋削加工を行うようにしているので、形成しようとするネジの長さが有る程度長くなると、切込み加工の際に生じる切粉も長くなり、切粉が工具に絡まったり、切粉によってワークの表面に傷が付いたりするという問題が生じる虞があった。
【0005】
本発明は、上記課題を鑑みて成されたものであり、その目的は、切粉を分断しながらネジ切り加工を行うことが可能なネジ切り加工装置及びネジ切り加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のネジ切り加工装置は、ワークを回転可能に支持する主軸と、前記ワークに対する工具の相対移動を制御する制御部と、を備え、前記制御部が前記ワークと前記工具とを所定の旋削工程に沿って移動制御して前記ワークにネジ溝を形成するネジ切り加工装置であって、前記旋削工程が、前記工具を前記ワークの軸方向に相対移動させて回転する前記ワークを一定の切込み深さで切り込み、次いで前記工具を前記軸方向及び径方向外側に相対移動させて前記ワークを斜めに切り上げると定められ、前記制御部が、前記旋削工程を前記ワークの切上げを開始する軸方向位置を前の旋削工程による前記ワークの切上げを開始した軸方向位置に対して順に変更させながら繰り返し行うことで、前記ワークにネジ溝を形成することを特徴とする。
【0007】
本発明のネジ切り加工装置は、上記構成において、前記工具の前記ワークに対する前記一定の切込み深さが、前記ワークに形成するネジのネジ底に対応する深さであるのが好ましい。
【0008】
本発明のネジ切り加工装置は、上記構成において、前記ワークに前記ネジ溝を形成した後、工具により前記ワークの最初のネジ山の頂部の少なくとも一部を切削加工するバリ取り工程を行うのが好ましい。
【0009】
本発明のネジ切り加工装置は、上記構成において、前記バリ取り工程が、前記工具を前記ワークの軸方向に相対移動させて回転する前記ワークの前記ネジ山の頂部を一定の切込み深さで切り込み、次いで前記工具を前記軸方向及び径方向外側に相対移動させて前記ネジ山の頂部を斜めに切り上げると定められ、前記制御部が、前記バリ取り工程を前記ネジ山の頂部の切上げを開始する軸方向位置を前のバリ取り工程による前記ネジ山の頂部の切上げを開始した軸方向位置に対して順に変更させながら繰り返し行うことで、前記ネジ山の頂部の少なくとも一部を切削加工するのが好ましい。
【0010】
本発明のネジ切り加工方法は、ワークにネジ溝を形成するネジ切り加工方法であって、工具を前記ワークの軸方向に相対移動させて回転する前記ワークを一定の切込み深さで切り込み、次いで前記工具を前記軸方向及び径方向外側に相対移動させて前記ワークを斜めに切り上げる旋削工程を、前記ワークの切上げを開始する軸方向位置を前の旋削工程による前記ワークの切上げを開始した軸方向位置に対して順に変更させながら繰り返し行うことで、前記ワークにネジ溝を形成することを特徴とする。
【0011】
本発明のネジ切り加工方法は、上記構成において、前記工具の前記ワークに対する前記一定の切込み深さが、前記ワークに形成するネジのネジ底に対応する深さであるのが好ましい。
【0012】
本発明のネジ切り加工方法は、上記構成において、前記ワークに前記ネジ溝を形成した後、工具により前記ワークの最初のネジ山の頂部の少なくとも一部を切削加工するバリ取り工程を行うのが好ましい。
【0013】
本発明のネジ切り加工方法は、上記構成において、前記工具を前記ワークの軸方向に相対移動させて回転する前記ワークの前記ネジ山の頂部を一定の切込み深さで切り込み、次いで前記工具を前記軸方向及び径方向外側に相対移動させて前記ネジ山の頂部を斜めに切り上げる前記バリ取り工程を、前記ネジ山の頂部の切上げを開始する軸方向位置を前の前記バリ取り工程による前記ネジ山の頂部の切上げを開始した軸方向位置に対して順に変更させながら繰り返し行うことで、前記ネジ山の頂部の少なくとも一部を切削加工するのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、切粉を分断しながらネジ切り加工を行うことが可能なネジ切り加工装置及びネジ切り加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態であるネジ切り加工装置を用いたネジ切り加工方法の概念を示す説明図である。
図2図1に示すネジ切り加工装置及びネジ切り加工方法の変形例を示す説明図である。
図3図1に示すネジ切り加工装置及びネジ切り加工方法の他の変形例を示す説明図である。
図4】(a)~(d)は、工具によるバリ取り工程の手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施の形態であるネジ切り加工装置1は、ワークWを回転可能に支持する主軸2と、ワークWに対する工具3の相対移動を制御する制御部4とを備え、制御部4がワークWと工具3とを所定の旋削工程に沿って移動制御することでワークWにネジ溝を形成するものである。ネジ切り加工装置1は、例えば旋盤として構成することができる。ネジ切り加工装置1を用いることで、以下に示す本発明の一実施の形態であるワークWのネジ切り加工方法を行うことができる。
【0017】
図1に示すように、ワークWとしては、例えば鋼材等の金属材料によって断面円形の棒状に形成された部材を用いることができる。
【0018】
ワークWはチャック(不図示)等の把持手段によりネジ切り加工装置1のワークWを回転可能で軸方向(Z軸方向)に移動可能な主軸2に同軸状に固定され、主軸2により回転駆動されて回転中心軸Cを中心として回転する。
【0019】
工具3は、駆動機構5によって駆動されて、ワークWに対して軸方向(Z軸方向)及び径方向(X軸方向)に自動的に相対移動することができる。図1においては工具3の形状を模式的に示すが、工具3としては、形成しようとするネジのネジ溝に対応した形状の刃先部分を有するものが用いられる。
【0020】
主軸2の回転及び工具3の作動の制御は、制御部4によって行われる。
【0021】
本実施の形態では、ワークWに対して、工具3を移動させることでネジ切り加工を行う例として説明する。本実施の形態のネジ切り加工装置1は、制御部4により工具3(駆動機構5)の作動を制御して、図1に示す工具経路Pに沿って工具3の刃先部分を移動させることで、主軸2によって回転したワークWの外周面を所定のネジ切り加工条件(ピッチ間隔、切り込み深さ等)でネジ切り加工を行う。
【0022】
工具経路Pは、工具3がワークWをネジ切り加工するときの移動経路を示している。本実施の形態における工具経路Pは、従来技術のネジ切り加工と同様に最初のワークWの軸方向の切り込み位置から、ネジ底Bの寸法位置に向かって少しずつ加工を進める工具3の移動経路に相当する複数の副経路p1~pn(nは自然数)を有する。図1には、工具経路Pによるネジ切り加工の途中状態として、4つの副経路p1~p4を例示的に示す。4つの副経路p1~p4においては、副経路p1、副経路p2、副経路p3、副経路p4・・・副経路pnの順序で連続的にネジ切り加工が進むように、工具3の刃先部分が移動する。
【0023】
副経路p1は、所定(一定)の切込み深さDとなる径方向位置において、工具3の刃先部分を、ワークWに対して当該ワークWの先端側から基端側(主軸2の側)に向けて軸方向に移動させる切込み経路paと、切込み経路paに対して主軸2の側で連なるとともに工具3の刃先部分をワークWに対して主軸2の側に向けて軸方向に移動させつつ径方向外側に移動させる傾斜した切上げ経路pbとを有している。本実施の形態では、工具3のワークWに対する所定の切込み深さDは、ワークWに形成するネジのネジ底Bに対応する深さである。工具3は、切込み経路paに沿って移動し、ワークWを所定の切込み深さDで切り込むことができ、切上げ経路pbに沿って移動することで回転するワークWの外周に所定のネジ切り加工条件で斜めに切り上げながら旋削によるネジ溝を形成することができる。副経路p1を移動する工具3によって旋削工程が施される軸方向の加工長は、従来のネジ切り加工による一度の軸方向の加工長に対して短く設定されている。
【0024】
副経路p1に沿って移動する工具3によるワークWの旋削工程が完了すると、工具3はワークWの外周面よりも径方向外側にまで移動した後、軸方向に沿って主軸2から離れる方向に移動し、副経路p1よりも主軸2の側にずれた副経路p2に沿って移動してワークWに対する次の旋削工程を行う。
【0025】
副経路p2も、副経路p1の切込み経路paと同一の切込み深さD及び軸方向長さを有する切込み経路と、副経路p1の切上げ経路pbと同一の傾斜角度及び軸方向長さを有する切上げ経路とを有している。副経路p2は、ワークWの切上げを開始する軸方向位置(切上げ経路を開始する軸方向位置)が、副経路p1に沿って移動する工具3による前の旋削工程においてワークWの切上げを開始した軸方向位置(切上げ経路pbが開始された軸方向位置)とワークWの切上げを終了した軸方向位置(切上げ経路pbが終了した軸方向位置)との間に位置するように、前の旋削工程を行った副経路p1に対して主軸2の側に向けて所定距離だけ軸方向にずれている。副経路p2に沿って移動する工具3によるワークWの旋削工程においては、ワークWを一定の切込み深さDで切り込む切込み加工は、前の旋削工程において切込み加工が開始された軸方向位置よりも主軸2寄りの位置から開始され、ワークWを切り上げる切上げ加工は、前の旋削工程においてワークWの切上げを開始した軸方向位置と切上げを終了した軸方向位置との間から開始される。
【0026】
副経路p2に沿って移動する工具3による旋削工程が完了すると、再度、工具3は、次の旋削工程を行うために、軸方向に沿って主軸2から離れる方向に移動し、前の副経路p2よりも主軸2の側にずれた副経路p3に沿って移動し、ワークWに対して次の旋削工程を行う。副経路p3も、副経路p1及び副経路p2の切込み経路paと同一の切込み深さ及び軸方向長さを有する切込み経路と、副経路p1及び副経路p2の切上げ経路pbと同一の傾斜角度及び軸方向長さを有する切上げ経路とを有している。副経路p3に沿って移動する工具3によるワークWの旋削工程も、ワークWを所定の切込み深さDで切り込む切込み加工は、副経路p2に沿う前の旋削工程において切込み加工が開始された軸方向位置よりも主軸2寄りの位置から開始され、ワークWを切り上げる切上げ加工は、前の旋削工程においてワークWの切上げを開始した軸方向位置と切上げを終了した軸方向位置との間から開始される。
【0027】
以下同様に、ワークWの切上げを開始する軸方向位置が、前の旋削工程おいてワークWの切上げを開始した軸方向位置とワークWの切上げを終了した軸方向位置との間に移動されるように副経路p4・・・副経路pnの順序で工具3の移動経路を設定し、ワークWの切上げを開始する軸方向位置を前の旋削工程によるワークWの切上げを開始した軸方向位置に対して順に変更させながら旋削工程を繰り返し行うことで、ワークWの外周面を徐々にネジ切り加工する。
【0028】
各副経路p2~pnにおいて次の旋削工程を開始する際には、制御部4により、主軸2の回転と工具3のワークWへの切込み開始位置との位相が同期されるように調整され、工具3は前の旋削工程において切り込まれたワークWの切込み部分に沿って所定の切り込み深さでネジ溝に侵入するとともに未加工部分に到達し、その位置から前の旋削工程に継続してワークWの切込み加工及び切り上げ加工を行う。
【0029】
各副経路p1~pnのネジ切り加工が進むと切り込み位置がネジ底Bの位置に近くなり、所定の副経路pn(本実施の形態ではp3)のときにワークWの端面においてネジ底Bに達した深さに仕上げられる。各副経路p1~pnにおいては切上げ加工における工具3のワークWへの切込み深さは、前の切上げ経路と次の切上げ経路との間の距離となる。
【0030】
図1において一番左側の矢印により引き出して示すように、副経路p1~p4の順序で工具3によるワークWの旋削工程が行われた部分は、徐々にネジ溝が深く形成されている。図1における一番左側の矢印の例においては、副経路p4で所望のネジ底Bに達するようなネジ切り加工の条件になっているので、副経路p4の旋削工程によりネジ底Bを有するネジに仕上げられている。図1において左から2番目の矢印により引き出して示すように、ワークWの副経路p2~p4の3つの旋削工程のみが完了した部分は、ワークWの副経路p2~p4の順序で工具3が通過して徐々にネジ溝が深くされているが、未だネジ底Bに沿った深さには達していない状態となっており、次の旋削作工程が行われることでネジに仕上げられる。図1において一番右側の矢印により引き出して示すように、ワークWの副経路p3、p4の旋削工程のみが完了した部分は、ワークWの副経路p3、p4の順序で工具3が通過して徐々にネジ溝が深くされているが、未だネジ溝は浅い状態であり、あと2回旋削作工程が行われることでネジに仕上げられる。規定の回数の旋削工程が行われるとネジ切り加工が完了し、ワークWの外周面に所望のネジ溝が形成される。
【0031】
上記したネジ切り加工装置1によるネジ切り加工方法では、各副経路p1~pnを移動する工具3によって行われる旋削工程の軸方向の加工長は、何れも、ワークWのネジ切り加工寸法よりも短くなるので、工具3が副経路p1~pnに沿って移動することにより行われるそれぞれの旋削工程において、工具3によりワークWが旋削されることにより生じる切粉は、各旋削工程が完了する度に分断され、従来のネジ切り加工でワークWのネジ切り加工寸法とほぼ同じ長さで発生していた切粉よりも短くなる。よって、ネジ切り加工により生じる切粉を短くして、切粉が工具3に絡まったり、切粉によってワークWの表面に傷が付いたりすることを防止することができる。また、丈長のネジ切り加工が切粉を短くしながら行うことが可能となる。さらに、ワークのたわみ、ビビりなどを防止して、高精度のネジ切り加工が可能となる。
【0032】
各副経路p1~pnを移動する工具3によって行われる旋削工程において、切り込み位置がネジ底Bの位置に達した後の副経路Pnでは切込み経路に沿って移動する工具3による切込み加工の前半部分は一度加工した工具経路Pを沿うように加工するゼロカットとなり、当該ゼロカットの後にワークWのネジ切り加工が行われることになるので、仮に加工残りがあってもこのゼロカットで除去がされるため、ネジ溝に段差を生じさせることなくネジ切り加工を行うことができる。
【0033】
それぞれの副経路p1~pnにおける切上げ経路pbの切り上げの角度を変更等することで、切上げ経路pbの軸方向長さLの変更や、ネジ切り加工を完了するまでに必要な旋削工程の回数を調整することができる。
【0034】
図2は、図1に示すネジ切り加工装置及びネジ切り加工方法の変形例を示す説明図である。図2においては、前述した部材ないし経路に対応する部材ないし経路には同一の符号を付してある。
【0035】
図1に示す場合では、各副経路p1~pnにおける切上げ経路pbを直線としているが、図2に示すように、各副経路p1~pnにおける切上げ経路pbを曲線とすることもできる。各副経路p1~pnにおける切上げ経路pbを曲線とすることで、図2において矢印により引き出して示すように、最初の副経路p1におけるワークWへの切込み深さが一番大きく、副経路p2、p3となるに従って徐々にワークWへの切込み深さが小さくなり、副経路p4でワークWへの切込み深さが一番小さくなるように、1山のネジ切りに必要となる副経路p1~p4における工具3のワークWへの切込み深さを当該経路毎に相違させることができる。この場合、ネジの最後の仕上げとなる副経路p4の切込み深さを一番小さくすることができるので、切削抵抗を小さくすることができ、ネジを精度よく仕上げることが可能となる。
【0036】
各副経路p1~pnにおける切上げ経路pbを曲線とする場合には、当該切上げ経路pbを、放物線状、円弧状等の種々の曲線とすることができる。
【0037】
図3は、図1に示すネジ切り加工装置及びネジ切り加工方法の他の変形例を示す説明図である。図3においても、前述した部材ないし経路に対応する部材ないし経路には同一の符号を付してある。
【0038】
図1に示す場合では、工具3によるワークWの切上げを開始する軸方向位置が、前の旋削工程によるワークWの切上げを開始する軸方向位置に対して軸方向に変更されるように各副経路p1~pnを設定しているが、図3に示すように、工具3によるワークWの切上げを開始する軸方向位置を変更することなく、工具3によるワークWの切上げを開始する径方向位置を、前の旋削工程によるワークWの切上げを開始する径方向位置に対して順に径方向内側に変更するように各副経路p1~p4を設定した構成とすることもできる。特に、工具3がワークWの端部の旋削を行う範囲において上記構成を採用することにより、図1に示す場合に比べて、ワークWの端部により近い位置で工具3を移動させてワークWの端部の旋削を行うことができる。上記副経路p1~p4に沿って工具3を移動させてワークWの端部の旋削を行った後は、以降の旋削工程を、図1に示す場合のように、ワークWの切上げを開始する軸方向位置が、前の旋削工程によるワークWの切上げを開始する軸方向位置に対して軸方向に順に変更されるようにして繰り返し行うようにしてもよく、あるいは、図3に示す副経路p1~p4を順に軸方向にずらしながら繰り返し行うようにしてもよい。
【0039】
図4(a)~(d)は、工具によるバリ取り工程の手順を示す説明図である。
【0040】
本実施の形態のネジ切り加工装置1ないしネジ切り加工方法は、上記方法によりワークWの外周面に所望のネジ溝を形成した後、工具3によりワークWの外周面に形成された最初のネジ山の頂部の少なくとも一部を切削加工するバリ取り工程を行う構成とすることができる。バリ取り工程において、ネジ山の頂部の少なくとも一部を切削加工することで、ネジ切り加工において最初のネジ山の頂部に生じたバリを削り取ってネジ山の形状を良くすることができる。
【0041】
上記の最初のネジ山は、ワークWの外周面に形成されたネジ溝を軸方向の一端側から切削加工する際に最初に形成されるワークWの外周面を1周する分のネジ山のことである。
【0042】
上記したバリ取り工程は、例えば、ワークWを工具3に対して相対回転させながら、制御部4によって工具3の移動を制御して、当該工具3を図4(a)~(d)に示す通りの工具経路を通るように移動させることで実施することができる。
【0043】
すなわち、図4(a)に示すように、工具3をワークWに対して軸方向に相対移動させて、回転するワークWの最初のネジ山の頂部に所定の切込み深さで切り込ませる。次いで、図4(b)に示すように、工具3を軸方向及び径方向外側に相対移動させ、すなわち工具3を傾斜した切上げ経路に沿って移動させて工具3によってネジ山の頂部の一部を斜めに切り上げる。次いで、工具3を、ワークWの外周面よりも径方向外側にまで移動させ、軸方向に沿って主軸2から離れる方向に移動させた後、前のバリ取り工程と同一の切込み深さで、工具3を回転するワークWの最初のネジ山の頂部の残り部分に切り込ませる。次いで、図4(c)に示すように、前のバリ取り工程によるネジ山の頂部の切上げを開始した軸方向位置に対して主軸2の側にずれた軸方向位置において、工具3を軸方向及び径方向外側に相対移動させ、前のバリ取り工程よりも主軸2の側においてネジ山の頂部を工具3によって切り上げる。以下同様に、工具3をバリ取り工程を開始した元の位置にまで戻した後に、最初のネジ山の頂部の残り部分を前のバリ取り工程と同一の切込み深さで軸方向に切り込むとともに、ネジ山の頂部の切上げを開始する位置を前のバリ取り工程においてネジ山の頂部の切上げを開始した軸方向位置に対して主軸2の側に順に変更しながら繰り返し切削加工を行うことで、図4(d)に示すように、最初のネジ山の頂部を切削加工してバリを削り取ることができる。
【0044】
当該バリ取り工程においては、工具3により、最初のネジ山の頂部の全てを切削するのが好ましいが、バリが最初のネジ山の一部にのみ生じている場合などにおいては、少なくとも最初のネジ山の頂部の一部のみを切削するようにしてもよい。また、最初のネジ山の頂部だけでなく、2つ目以降のネジ山の頂部にまで切削加工を施すようにしてもよい。
【0045】
バリ取り工程は、上記のように工具3を移動させて行う方法に限らず、例えば、溝切バイト等の工具を用い、当該工具を一定の切り込み深さで軸方向に移動させることで、最初のネジ山の頂部の全体を工具により切削加工する方法により行うなど、最初のネジ山の頂部の少なくとも一部を切削加工することができれば、種々の方法を採用することができる。
【0046】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0047】
前記実施の形態では、切込み経路paに沿って移動する工具3がワークWに切り込む所定の切込み深さDをネジ底Bに対応した深さとしているが、ネジ底Bよりも浅い深さとすることもできる。この場合、切込み経路paの切込み深さDを徐々に深くして工具3の工具経路Pに沿った移動を繰り返し行うことで、所定の深さのネジ底Bを有するネジのネジ切り加工を行うことができる。
【0048】
前記実施の形態では、次の旋削工程を行うために工具3を軸方向に沿って主軸2から離れる方向に移動させる戻し経路を、便宜上、副経路p4・・・副経路pnにおいて互いに異なるように記載しているが、実際には、副経路p4・・・副経路pnにおける工具3の戻し経路は、何れも同一の高さに設定するのが好ましい。
【0049】
前記実施の形態では、副経路p1~pnにおける切上げ経路pbを同一の傾斜角度としているが、副経路p1~pnにおける切上げ経路pbの傾斜角度を互いに相違させるようにしてもよい。例えば、ネジ切り加工の最終段階において、切上げ経路pbの傾斜角度を徐々に大きくすることで、ワークWの主軸2に近い根元側の部分にまで完全なネジを形成することができる。さらに、一つの副経路における切り上げ加工の途中において、傾斜角度に変化(一例として傾斜角度の大小を交互に繰り返す)を付けるようにしてもよい。これにより、切り上げの途中で切粉が分断できるので、さらに切粉を短くすることが可能になる。
【0050】
前記実施の形態では、ワークWの切上げを開始する軸方向位置が、前の旋削工程によるワークWの切上げを開始した軸方向位置とワークWの切上げを終了した軸方向位置との間に位置するように、副経路p1~pnの軸方向位置を順に変更するようにしているが、ワークWの切上げを開始する軸方向位置が、前の旋削工程によるワークWの切上げを終了した軸方向位置よりも主軸2の側に位置するように、副経路p1~pnの軸方向位置を順に変更するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 ネジ切り加工装置
2 主軸
3 工具
4 制御部
5 駆動機構
W ワーク
C 回転中心軸
D 切込み深さ
P 工具経路
p1 副経路
p2 副経路
p3 副経路
p4 副経路
pn 副経路
pa 切込み経路
pb 切上げ経路
B ネジ底
L 切上げ経路の軸方向長さ
図1
図2
図3
図4