(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】高電圧リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体及びその製造方法、並びに高電圧リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220308BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220308BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220308BHJP
C30B 29/16 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
C30B29/16
(21)【出願番号】P 2020531802
(86)(22)【出願日】2018-04-26
(86)【国際出願番号】 CN2018084678
(87)【国際公開番号】W WO2019037459
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2020-04-03
(31)【優先権主張番号】201710743672.5
(32)【優先日】2017-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520062661
【氏名又は名称】巴斯夫杉杉▲電▼池材料有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 九▲華▼
(72)【発明者】
【氏名】黄 ▲敏▼
(72)【発明者】
【氏名】彭 威
(72)【発明者】
【氏名】▲譚▼ 欣欣
(72)【発明者】
【氏名】李 旭
(72)【発明者】
【氏名】石 慧
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-011227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
C01G 53/00
C30B 29/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次粒子を含み、前記各二次粒子が一次粒子で構成されるリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体であって、
前記一次粒子が集簇している構造のシート状の花弁であり、前記花弁がシート状であり、前記二次粒子の内部が疎な球形構造であり、
シート状の前記花弁の長さが400~800nmであり、厚さが50~100nmであり、
タップ密度が1~1.5g/cm
3
、比表面積が8~20m
2
/g、嵩密度が0.6~1g/cm
3
、S含有量が0.12%~0.2%であることを特徴とするリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体。
【請求項2】
前記二次粒子の粒度D10が1.5μm以上であり、粒度D50が3~4μmであり、D90が8μm以下であり、前記二次粒子の粒度分布は、(D90-D10)/D50<1であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体。
【請求項3】
分子式がNi
xCo
yMn
z(OH)
2であり、ここで、x+y+z=1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.2、0<z≦0.2、Ni、Coの価数が+2価であり、Mnの
価数が+2価、+3価、+4価の混合状態であることを特徴とする、請求項1
または2に記載のリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体。
【請求項4】
Ni
xCo
yMn
z(OH)
2の化学量論比に応じて、金属イオンの総濃度が1~2mol/Lである可溶性混合塩水溶液を調製するステップ(1)と、
反応釜に反応基礎液としてアンモニア水を加え、反応基礎液中のアンモニアの濃度を2~6g/Lに制御し、反応基礎液のpH値を12.5~12.6に調節するステップ(2)と、
反応釜に高純度窒素ガスを導入しながら反応釜の撹拌装置を起動し、ステップ(1)で調製した可溶性混合塩水溶液と強アルカリ溶液、アンモニア水を同時に反応釜に加えて反応させ、ステップ(3)の反応の全過程において反応系のpH値が12~13であるように確保するステップ(3)と、
ステップ(3)において2~3h供給し続けた後に、強アルカリ溶液の添加と高純度窒素ガスの導入を停止し、続いて可溶性混合塩水溶液とアンモニア水を加えて、反応系のpH値を11~12に低下させ、反応を継続するステップ(4)と、
反応が終了した後に、反応釜から合格のオーバーフロースラリーを得ることによりリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体を得るステップ(5)と、
を含むことを特徴とする、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(3)において、アンモニア水の濃度は10~13mol/Lであり、強アルカリ溶液は濃度が6~8mol/Lの水酸化ナトリウム溶液であることを特徴とする、請求項
4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(3)において、高純度窒素ガスとは、純度が99.999%の窒素ガスを意味し、撹拌装置の撹拌周波数を40~50Hzに制御し、可溶性混合塩水溶液の供給流量を1.5~4L/hに制御し、アンモニア水の供給流量を0.4~0.8L/hに制御し、かつステップ(3)の反応の全過程において反応系のアンモニア濃度が4~6g/Lであるように確保し、反応温度が30℃~40℃であり、
前記ステップ(4)において反応を継続する時間が20h以上であることを特徴とする、請求項
4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ステップ(5)において、さらに反応釜から得られた合格のオーバーフロースラリーを熟成し、加圧濾過し、洗浄し、乾燥し、篩にかけることを含み、前記ステップ(5)において、洗浄工程は、まず、6~8mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に加えて60~70℃の洗浄温度で洗浄し、次に、洗浄水のpH<10になるまで、純水に加えて洗浄することであり、乾燥とは、材料の水分含有量が1%以下になるまで110℃で乾燥することを意味し、篩にかけることは、325メッシュの篩にかけることを意味することを特徴とする、請求項
4に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体又は請求項
4~
7のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体を、リチウム塩とを酸素ガス雰囲気で700℃~930℃で焼結して形成され、単結晶構造であることを含む、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池材料の分野に属し、特に特殊な形態の高電圧リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体及びその製造方法、並びに高電圧リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、メモリー効果がなく、比エネルギーが高く、サイクル寿命が長いなどの利点を有するため、電池産業界において新型のグリーン電池として広く用いられており、例えばデジタル分野、電気自動車分野、エネルギー貯蔵分野などにおいて広く用いられている。リチウムイオン電池の優れた性能は、先進的な電池材料の製造に依存し、電池の性能は正極材料の性能に大きく依存し、一般的な正極材料にはコバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムなどがある。三元材料は、放電容量が高く、サイクル寿命が長いなどの特徴を有するため、リチウム電池正極材料の応用に占める割合が高くなっている。近年、電気自動車の急速な発展に伴い、リチウム電池のエネルギー密度に対する要件がますます高くなっている。電気自動車の航続能力を向上させるために、高エネルギー密度の動力電池の開発は緊急に求められている。リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物材料は、プラトー電位が高く、放電容量が高いなどの特徴を有するため、リチウム電池産業界及び科学研究界から幅広く注目されて研究されている。三元材料の中のニッケル、コバルト、マンガンの比率が異なれば、得られる電池材料の型番も異なり、ニッケル含有量が高いほど放電容量が高くなるため、放電容量が高く、サイクル寿命が長い三元材料の開発は既にリチウムイオン電池産業界の合意となっている。三元材料の比容量を向上させることは、三元材料中のニッケル含有量を向上させるか又は三元材料の充電電圧を向上させることにより実現することができる。三元材料は、ニッケル含有量の向上に伴い、放電容量が徐々に高くなるが、サイクル性能も徐々に悪くなるため、中ニッケル含量の高電圧三元材料を開発して三元材料のエネルギー密度の向上を実現することは必然的な選択である。市場で一般的に使用されるのは一次粒子が凝集して形成された二次粒子球状三元材料であり、このような形態構成の三元材料は、電極シートの圧延時に二次粒子が割れやすく、電池充放電サイクル中に二次粒子にクラックが発生しやすいため、電池安全性能に劣り、サイクル寿命が短い。単結晶三元材料は、大きな一次粒子からなり、二次凝集体がほとんど存在しないため、上記欠点を回避することができ、また、単結晶三元材料は、個々の粒子内部に隙間がないため、充放電中にガスが発生しにくく、安全性がより高い。
【0003】
単結晶三元材料は、三元材料前駆体と炭酸リチウムとから一定の焼結条件で製造されるため、性能に優れた単結晶三元材料の開発は、性能に優れた前駆体の製造に大きく依存する。例えば、公開番号CN103746111Aの特許出願には、単結晶ニッケルコバルトマンガン電池正極材料の製造方法について言及しており、この出願では単結晶電池正極材料前駆体の製造方法について言及したが、該方法は産業化に適せず、公開番号CN103840151Aの特許出願には、特殊な単結晶構造の三元材料の製造方法が提供されており、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを塩液とし、アンモニア水を用いてpH値を調節し、反応釜をマッフル炉に入れ、その後に高温で加熱することが言及されており、方法は独特であるが、該出願による製造技術にリスクがあり、反応釜をマッフル炉に入れて加熱することには安全上の大きな問題があり、産業化技術では不可能であり、公開番号CN104979546出願には、単結晶前駆体の一次粒子組成、粒度、及び前駆体のBET範囲が提供されているが、該特許ではBETが100m2/gより大きく、炭酸リチウムのBETが10m2/g程度であり、BETの差が大きく、混合において炭酸リチウムが均一に混合しにくく、混合後に形態が嵩高になり、焼結過程中に匣鉢充填量が少なく、また、生産性が低く、焼結後の残留リチウムが多く、この特許ではニッケルコバルトマンガン元素の価数がいずれも正の二価に限定され、マンガン元素価の多様性の作用が制限されている。公開番号CN104201367Aの特許出願には、小粒子前駆体の製造方法及びその前駆体特性分析が提供されているが、該特許では、密濾過管を用いて反応釜内の固体含有量を制御し、流速と撹拌電力が一定の条件下では、反応系の固体含有量が高くなると、二次粒子間の凝集が激しくなり、一次粒子の結晶形が崩れやすくなり、均一な一次粒子が得られず、さらにシート状形態が得られず、そして、発明者らの複数回の試験によると、この特許に記載された発明方法により前駆体を製造する場合、系における固体含有量が高いため、得られる前駆体の内部は密であり、一次粒子の多くはブロック状であり、該特許におけるSEM画像の形態と類似しており、薄片状の一次粒子前駆体の取得には、反応雰囲気中の酸素ガス濃度が大きく関連するとともに、撹拌電力及び流量も大きく関連するため、単結晶三元前駆体の性質及びその製造プロセスを深く研究することは重要な現実的意義がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする技術的課題は、以上の背景技術に言及された不足及び欠陥を解消し、特殊な形態の高電圧リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体及びその製造方法、並びに高電圧リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記技術的課題を解決するために、本発明の提供する技術的解決手段は、
【0006】
高電圧リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体には、二次粒子が含まれている。各二次粒子は、一次粒子で構成されている。前記一次粒子が集簇している構造の花弁であり、前記花弁がシート状であり、該二次粒子の内部が疎な球形構造であり、前記二次粒子の内部が多孔質構造である高電圧リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体である。
【0007】
一実施形態では、前記シート状花弁の長さが400~800nmであり、厚さが50~100nmである。
【0008】
一実施形態では、前記二次粒子の粒度D10が1.5μm以上であり、粒度D50が3~4μmであり、D90が8μm以下であり、前記二次粒子の粒度分布は、(D90-D10)/D50<1である。
【0009】
一実施形態では、その分子式がNixCoyMnz(OH)2であり、ここで、x+y+z=1、0.5≦x≦0.9、0<y≦0.2、0<z≦0.2、Ni、Coの価数が+2価であり、Mnの価数が+2価、+3価、+4価の混合状態である。Mn元素価の変化は、焼結過程(リチオ化)に変化をもたらし、電池の電気化学的特性に影響を与える。
【0010】
一実施形態では、そのタップ密度が1~1.5g/cm3、比表面積が8~20m2/g、嵩密度が0.6~1g/cm3、S含有量が0.12%~0.2%である。
【0011】
本発明の前駆体の一次粒子は集簇している「花弁」構造であり、前記「花弁」がシート状であり、該「花弁」の長さが400~800nmであり、厚さが50~100nmであり、一次粒子の長さ、厚みがBETの大きさとは一定の対応関係があるように要求され、一次粒子のサイズ(長さ、厚さ)の独特な設計及び粒度、BETへの総合的な考慮により、本発明の前駆体は、炭酸リチウムとより均一に混合しやすく、焼結過程においてリチウム塩の浸透により有利である。
【0012】
総括的な発明構想として、本発明はさらに、
NixCoyMnz(OH)2の化学量論比に応じて、金属イオンの総濃度が1~2mol/Lである、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを混合して調製される可溶性混合塩水溶液を調製するステップ(1)と、
反応釜に反応基礎液として濃度2~6g/Lアンモニア水を加え、反応基礎液のpH値を12~13に調節するステップ(2)と、
反応釜に高純度窒素ガスを導入しながら反応釜の撹拌装置を起動し、ステップ(1)で調製した可溶性混合塩水溶液、強アルカリ溶液、アンモニア水を同時に反応釜に加えて反応させ、ステップ(3)の反応の全過程において反応系のpH値が12~13であるように確保するステップ(3)と、
強アルカリ溶液の添加と高純度窒素ガスの導入を停止し、続いて可溶性混合塩水溶液とアンモニア水を加えことにより、反応系のpH値を11~12に低下させ(さらに好ましくはpHを11.8~11.9に制御し)、反応を継続するステップ(4)と、
反応が終了した後(目標粒径粒度D50が3~4μmである場合に反応が終了)に、反応釜から合格のオーバーフロースラリーを得ることにより前記高電圧リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体を得るステップ(5)と、を含む高電圧リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、反応雰囲気の設計により、反応前期に保護ガスを充填することにより、最初に好ましいナノシートを形成し、様々な沈殿プロセスにより六角形の六方晶ナノシートの凝集の度合いを制御し、それによりシートの凝集方式を制御する。
【0014】
一実施形態では、反応基礎液中のアンモニアの濃度が2~4g/Lであり、反応基礎液のpH値が12.5~12.6であり、
一実施形態では、前記ステップ(3)において、アンモニア水の濃度は10~13mol/Lであり、強アルカリ溶液は濃度が6~8mol/Lの水酸化ナトリウム溶液である。
一実施形態では、前記ステップ(3)において、高純度窒素ガスとは、純度が99.999%の窒素ガスを意味し、撹拌装置の撹拌周波数を40~50Hzに制御し、可溶性混合塩水溶液の供給流量を2~4L/hに制御し、アンモニア水の供給流量を0.4~0.8L/hに制御し、かつステップ(3)の反応の全過程において反応系のアンモニア濃度が4~6g/Lであるように確保し、反応温度を30℃~40℃にし、例えば、35~40℃にし、ステップ(3)において2~3h供給し続けた後に、強アルカリ溶液の添加と高純度窒素ガスの導入を停止し、
一実施形態では、前記ステップ(4)において反応を20h以上継続する。
【0015】
一実施形態では、反応終了後に得られた不合格スラリー(D50<目標粒径のスラリーが不合格スラリーである)を、次回の反応釜起動時の種結晶として反応釜に循環させてポンピングする。
【0016】
一実施形態では、前記ステップ(5)において、さらに反応釜から得られた合格のオーバーフロースラリーを熟成し、加圧濾過し、洗浄し、乾燥し、篩にかけることを含む。
一実施形態では、前記ステップ(5)において、洗浄工程は、まず、6~8mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に加えて60~70℃の洗浄温度で洗浄し、次に、洗浄水のpH<10(例えば、pH<9.5)になるまで純水に加えて洗浄することであり、乾燥とは、110℃で、材料の水分含有量が1%以下になるまで乾燥することを指し、篩にかけることは、325メッシュの篩にかけることを指す。
【0017】
一つの総括的な発明構想として、本発明はさらに、上記リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体又は上記製造方法により製造されたリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体を、リチウム塩と、酸素ガス雰囲気で700℃~930℃で焼結して形成された、単結晶構造である高電圧リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料の製造方法を提供する。
【0018】
従来の技術に比べると、本発明は、以下のような利点を有する。
【0019】
(1)本発明の高電圧リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体は、一次粒子が「花弁」構造であり、薄片状であり、一次粒子の「優先配列」により二次粒子が球状で、多孔質であり、特殊構造の前駆体は、一定の焼結条件で単結晶三元材料として製造され、一次粒子がより均一であり、材料のサイクル性能及びレート性能により優れている。
【0020】
(2)本発明の製造方法は、マンガン元素の反応活性を利用して独特の反応雰囲気設計を組み合わせることにより、該前駆体のBETが大きく、内部が疎であり、一次粒子が薄片状であるようにし、出力電力と反応流量との適切な整合により、二次粒子の分散性能がよく、二次粒子間に凝集現象が存在しないようにする。
【0021】
(3)本発明のリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体は、特殊な構造の一次粒子形状及び二次粒子凝集体であり、その焼結プロセスが従来の焼結プロセスよりも優位であり、必要な焼成温度がより低い。
【0022】
(4)本発明の製造方法は、独特の反応雰囲気設計により、高低pHによる相分離プロセスの優位性と、出力電力及び流量の適切な整合とを組み合わせることにより、一次粒子が「花弁式」で薄片状であり、二次粒子が球状で、多孔質であるリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体を製造し、この前駆体は、従来の前駆体に対して一次粒子の構造が独特であり、二次粒子の内部が疎で多孔質であり、小粒径リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体の形態研究及び製造プロセス最適化に重要なガイドを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施例1で製造されたNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2粒子の粒度分布図である。
【
図2】本発明の実施例1で製造されたNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2粒子の50000倍電子顕微鏡下での概略図である。
【
図3】本発明の実施例1で製造されたNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2粒子の30000倍電子顕微鏡下での概略図である。
【
図4】本発明の実施例1で製造されたNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2粒子の5000倍電子顕微鏡下での概略図である。
【
図5】本発明の実施例1で製造されたリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料の形態図である。
【
図6】本発明の比較例1で製造されたNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2粒子の粒度分布図である。
【
図7】本発明の比較例1で製造されたNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2粒子の50000倍電子顕微鏡下での概略図である。
【
図8】本発明の比較例1で製造されたNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2粒子の20000倍電子顕微鏡下での概略図である。
【
図9】本発明の比較例1で製造されたNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2粒子の5000倍電子顕微鏡下での概略図である。
【
図10】本発明の比較例1で製造されたリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料の形態図である。
【
図11】本発明の実施例2で製造されたNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2粒子の粒度分布図である。
【
図12】本発明の実施例2で製造されたNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2粒子の50000倍電子顕微鏡下での概略図である。
【
図13】本発明の実施例2で製造されたNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2粒子の20000倍電子顕微鏡下での概略図である。
【
図14】本発明の実施例2で製造されたNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2粒子の5000倍電子顕微鏡下での概略図である。
【
図15】本発明の実施例2で製造されたリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料の形態図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の理解を容易にするために、以下に明細書の図面及び好ましい実施例を参照しながら本発明をより全面的かつ詳細に説明するが、本発明の保護範囲は以下の具体的な実施例に限定されるものではない。
【0025】
特に定義されない限り、以下に使用される全ての専門用語は当業者に一般的に理解される意味と同じである。本文において使用される専門用語は、具体的な実施例を説明するためのものであり、本発明の保護範囲を限定することを意図するものではない。
特に説明がない限り、本発明に用いられる様々な原材料、試薬、機器及び装置等はいずれも市場から購入でき、或いは従来の方法で製造することができる。
【0026】
実施例1
本発明の高電圧リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体は、分子式がNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2であり、ここで、Ni、Coの価数が+2価であり、Mnの価数が+2価、+3価、+4価の混合状態であり、一次粒子が集簇している「花弁」構造であり、「花弁」がシート状であり、一次粒子のシート(シート状の花弁)の長さが約500nmであり、厚さが約80nmであり(
図2を参照)、二次粒子の内部が疎な球状の構造であり(
図2~
図4を参照)、内部ミクロ構造から見れば一次粒子が花弁状であり、内部が疎であり、多孔質であり、二次粒子の粒度については、D10=2.537μm、D50=3.640μm、D90=5.221μm(
図1を参照)、二次粒子の粒度分布(D90-D10)/D50<1。該高電圧型リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体は、タップ密度が1.18g/cm
3で、比表面積が9.37m
2/gで、嵩密度が0.79g/cm
3で、S含有量が0.18%である。
【0027】
本実施例に係る高電圧型リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体の製造方法は、
Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2化学式中の金属元素のモル比に応じて硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンで金属イオンの総濃度が1.5mol/Lの可溶性金属混合塩水溶液を調製するとともに、
濃度8mol/Lの水酸化ナトリウム溶液と濃度10mol/Lのアンモニア水を調製するステップ(1)と、
50Lの反応釜に濃度10mol/Lのアンモニア水を反応釜基礎液として加え、反応釜基礎液中のアンモニア水の濃度を3.5g/Lに制御した後、反応釜基礎液のpHが12.6に調節されるとともに、反応釜撹拌装置の撹拌パドルが反応釜基礎液に完全に浸漬されるように、濃度8mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を臑動ポンプでポンピングして送入するステップ(2)と、
上記ステップ(2)後の反応釜に濃度99.999%の高純度窒素ガスを導入しながら、反応釜の撹拌装置を起動し、撹拌装置の撹拌回転速度を50Hzに設定するステップ(3)と、
蠕動ポンプを利用してステップ(1)で調製された可溶性金属混合塩水溶液、水酸化ナトリウム溶液、アンモニア水を反応釜に並流で加えて撹拌反応を行い、撹拌反応の全過程で反応釜の温度を40℃に制御し、可溶性混合金属塩水溶液の供給流量を1.8L/hに制御し、アンモニア水の供給流量を0.5L/hに制御し、反応過程で反応系のpHを12.6に制御し、反応系のpH値を確保するという基準で水酸化ナトリウム溶液の供給流量を制御するステップ(4)と、
連続的に3時間供給し、アルカリポンプの流量を減らすと同時に窒素ガスの吸入を停止し、反応系pHを11.9まで低下させ、続いて可溶性混合塩水溶液とアンモニア水を加えて反応させ(反応時間20h)、アンモニアポンプにより反応系のアンモニア含有量を向上させ、アンモニア含有量を4.5g/Lまで上昇させ、継続な反応及び供給に伴って、反応により生成された微粒子が段階的に成長し、微粒子の球形度が段階的に改善し、反応過程でレーザー式粒度測定装置で2hごとにスラリーの粒度を測定し、反応釜内の二次粒子凝集体の粒度が目標粒径D50=3~4μmに達したと検出すると、合格スラリーを回収し、オーバーフローした合格スラリーを熟成釜に流入して熟成処理し、不合格スラリーを次回の反応釜起動時(次回に高電圧型リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体を再調製する)の種結晶として処理するステップ(5)と、
2.5時間熟成した後、上澄み液を除去し、熟成が終了した後に、フィルタープレスで加圧ろ過すると同時に、濃度6mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を加え、洗浄液の温度を60℃~70℃に制御してアルカリ洗浄するステップ(6)と、
アルカリ洗浄が終了した後、洗浄液のpH<9.5になるまで純水で洗浄し、その後に洗浄後の材料を110℃で乾燥させ、乾燥された材料を325メッシュの篩にかけて、高電圧型リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体を取得するステップ(7)と、
炭酸リチウムとニッケルコバルトマンガン前駆体を、1.05:1のモル比に応じて高速混合機で均一に混合した後、酸素ガス雰囲気で930℃の温度で12時間焼結して、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料を取得するステップ(8)と、を含む。
【0028】
該リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料の形態は、
図5に示すように単結晶構造であり、該リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料を電池に製造すうと、その電気化学的特性が表1に示すとおりである。
【0029】
比較例1
本比較例に係る高電圧型リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体材料の製造方法は、
Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2化学式中の金属元素のモル比に応じて金属イオンの総濃度が1.5mol/Lの可溶性金属混合塩水溶液を調製するとともに、濃度8mol/Lの水酸化ナトリウム溶液と濃度10mol/Lのアンモニア水を調製するステップ(1)と、
50Lの反応釜にアンモニア水を反応釜基礎液として加え、反応釜基礎液中のアンモニア水の濃度を3.5g/Lに制御した後、反応釜基礎液のpHが12.6に調節されるとともに同時に反応釜撹拌装置の撹拌パドルが反応釜基礎液に完全に浸漬させるように、濃度8mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を臑動ポンプでポンピングして送入するステップ(2)と、
上記ステップ(2)後の反応釜に濃度99.999%の窒素ガスを導入しながら、反応釜の撹拌装置を起動し、撹拌装置の撹拌回転速度を50Hzに設定するステップ(3)と、
蠕動ポンプを利用して上記ステップ(1)で調製された可溶性金属混合塩水溶液、水酸化ナトリウム溶液、アンモニア水を反応釜に並流で加えて撹拌反応を行い、撹拌反応の全過程で反応釜の温度を40℃に制御し、可溶性混合金属塩水溶液の供給流量を1.8L/hに制御し、アンモニア水の供給流量を0.3L/hに制御し、反応過程で反応系のpHを11.9に制御し、反応系のpH値を確保するという基準で水酸化ナトリウム溶液の供給流量を制御するステップ(4)と、
継続的な反応及び供給に伴って、反応により生成された微粒子が段階的に成長し、微粒子の球形度が段階的に改善し、反応過程でレーザー式粒度測定装置で2hごとにスラリーの粒度を測定し、反応釜内の二次粒子凝集体の粒度が目標粒径D50=3~4μmに達したと検出すると、合格スラリーを回収し、オーバーフローした合格スラリーを熟成釜に流入して熟成処理し、不合格スラリーを次回の反応釜起動時の種結晶として処理するステップ(5)と、
2.5時間熟成した後、上澄み液を除去し、熟成が終了した後、フィルタープレスで加圧ろ過すると同時に、濃度6mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を加え、洗浄液の温度を60℃~70℃に制御してアルカリ洗浄するステップ(6)と、
アルカリ洗浄が終了した後、洗浄液のpH<9.5になるまで純水で洗浄し、その後に洗浄後の材料を110℃で乾燥させ、乾燥された材料を325メッシュの篩にかけて、本比較例のNi0.6Co0.2Mn0.2(OH)2を取得するステップ(7)と、
炭酸リチウムとニッケルコバルトマンガン前駆体を、1.05:1のモル比に応じて高速混合機で均一に混合した後、酸素ガス雰囲気で、950℃の温度で12時間焼結して、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料を取得するステップ(8)と、を含む。
【0030】
本比較例で製造されたNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2の粒径分布図は、
図6に示され、一次粒子は、平均粒径が600nmで、厚みが約200nmで、D10=2.111μm、D50=3.442μm、D90=5.610μm、タップ密度=1.56g/cm
3で、嵩密度が1.2g/cm
3で、S=0.16%、比表面が5.6m
2/gである。本比較例で製造されたNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2の電子顕微鏡写真は
図7~9に示され、
図7~9から明らかなように、該前駆体は、一次粒子がプレート状であり、二次粒子にこぶが現れて凝集が激しい。
【0031】
本比較例で製造されたリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料の形態は
図10に示され、該リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料を電池に製造すると、その電気化学的特性は表1に示すとおりである。
【0032】
実施例2
本発明の高電圧リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体は、分子式がNi
0.6Co
0.2Mn
0.2(OH)
2であり、ここで、Ni、Coの価数が+2価であり、Mnの価数が+2価、+3価、+4価の混合状態であり、一次粒子が集簇している「花弁」構造であり、「花弁」がシート状であり、一次粒子のシートの長さが約400nmであり、厚さが約100nmであり(
図12を参照)、二次粒子の内部が疎な球状の構造であり、内部ミクロ構造から見れば一次粒子が花弁状であり、二次粒子の内部が疎であり、多孔質であり(
図12~
図14を参照)、二次粒子の粒度については、D10=2.180μm、D50=3.472μm、D90=5.484μm(
図11を参照)、二次粒子の粒度分布(D90-D10)/D50<1。該高電圧型リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体は、タップ密度が1.15g/cm
3で、比表面積が12.69m
2/gで、嵩密度が0.9g/cm
3で、S含有量が0.17%である。
【0033】
本実施例に係る高電圧型リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体の製造方法は、
Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2化学式中の金属元素のモル比に応じて硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンで金属イオンの総濃度が1.8mol/Lの可溶性金属混合塩水溶液を調製するとともに、
濃度6mol/Lの水酸化ナトリウム溶液と濃度10mol/Lのアンモニア水を調製するステップ(1)と、
50Lの反応釜に10mol/Lのアンモニア水を反応釜基礎液として加え、反応釜基礎液中のアンモニア水の濃度を3g/Lに制御した後、反応釜基礎液のpHが12.5に調節されるとともに反応釜撹拌装置の撹拌パドルが反応釜基礎液に完全に浸漬されるように、濃度6mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を臑動ポンプでポンピングして送入するステップ(2)と、
上記ステップ(2)後の反応釜に純度99.999%の高純度窒素ガスを導入しながら、反応釜の撹拌装置を起動し、撹拌装置の撹拌回転速度を50Hzに設定するステップ(3)と、
蠕動ポンプを利用して上記ステップ(1)で調製された可溶性金属混合塩水溶液、水酸化ナトリウム溶液、アンモニア水を反応釜に並流で加えて撹拌反応を行い、撹拌反応の全過程で反応釜の温度を40℃に制御し、可溶性混合金属塩水溶液の供給流量を2L/hに制御し、アンモニア水の供給流量を0.6L/hに制御し、反応過程で反応系のpHを12.5に制御するステップ(4)と、
連続的に3時間供給し、アルカリポンプの流量を減らと同時に窒素ガスの吸入を停止し、反応系pHを11.8まで低下させ、アンモニアポンプにより反応系のアンモニア含有量を向上させ、アンモニア含有量を4g/Lまで上昇させ、継続的な反応及び供給に伴って、反応により生成された微粒子が段階的に成長し、微粒子の球形度が段階的に改善し、反応過程でレーザー式粒度測定装置で2hごとにスラリーの粒度を測定し、反応釜内の二次粒子凝集体の粒度が目標粒径D50=3~4μmに達したと検出すると、(16~18h反応)合格スラリーを回収し、オーバーフローした合格スラリーを熟成釜に流入して熟成処理し、不合格スラリーを次回の反応釜起動時の種結晶として処理するステップ(5)と、
2.5時間熟成した後、上澄み液を除去し、熟成が終了した後に、フィルタープレスで加圧ろ過すると同時に、濃度6mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を加え、洗浄液の温度を60℃~70℃に制御してアルカリ洗浄するステップ(6)と、
アルカリ洗浄が終了した後、洗浄液のpH<9.5になるまで純水で洗浄し、その後に洗浄後の材料を110℃で乾燥させ、乾燥された材料を325メッシュの篩にかけて、高電圧型リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物前駆体を取得するステップ(7)と、
炭酸リチウムとニッケルコバルトマンガン前駆体を、1.05:1のモル比に応じて高速混合機で均一に混合した後、酸素ガス雰囲気で、930℃の温度で12時間焼結して、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料を取得するステップ(8)と、を含む。
【0034】
該リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料の形態は、
図15に示すように単結晶構造であり、該リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物正極材料を電池に製造すれば、その電気化学的特性が表1に示すとおりである。
【0035】