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特許7036928溶融塩化物中において使用済み窒化物核燃料を再処理する方法
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  • 特許-溶融塩化物中において使用済み窒化物核燃料を再処理する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】溶融塩化物中において使用済み窒化物核燃料を再処理する方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 19/44 20060101AFI20220308BHJP
   C01B 21/06 20060101ALI20220308BHJP
   C01G 43/08 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
G21C19/44 240
C01B21/06 Z
C01G43/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020536137
(86)(22)【出願日】2017-12-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 RU2017001020
(87)【国際公開番号】W WO2019132710
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】516219347
【氏名又は名称】ステート・アトミック・エナジー・コーポレーション・ロスアトム・オン・ビハーフ・オブ・ザ・ロシアン・フェデレーション
【氏名又は名称原語表記】STATE ATOMIC ENERGY CORPORATION ‘ROSATOM’ ON BEHALF OF THE RUSSIAN FEDERATION
【住所又は居所原語表記】B. Ordynka st., 24 Moscow, 119017 Russia
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ザイコフ ユリ パブロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】シーシキン ウラジーミル ユレビッチ
(72)【発明者】
【氏名】コヴロフ ヴァディム アナトレビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ポタポヴ アレクセイ ミハイロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】スツダルツェフ アンドレイ ヴィクトロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】スハーノフ レオニド ペトロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ゲラシメンコ マキシム ニコラエビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ツィコトフ アレクサンドル セルゲエビッチ
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-094888(JP,A)
【文献】特開平10-010285(JP,A)
【文献】特開2000-284090(JP,A)
【文献】米国特許第09428401(US,B1)
【文献】韓国登録特許第10-1310106(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 19/44
C01B 21/06
C01G 43/00-43/12
C01B 15/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物溶融物中において使用済み窒化物核燃料を再処理する方法であって、
二塩化カドミウムを含み、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物の混合物の溶融物中で塩化することを含み、
前記塩化は、使用済み窒化物核燃料を再処理するための装置において、不活性ガス雰囲気を使用して行われ、
以下を特徴とする:
前記塩化は、塩化物溶融物(4)及びその中に浸漬された使用済み窒化物核燃料(5)を有する反応器が位置する加熱ゾーン(I)、並びに前記反応器の下に位置する低温ゾーン(II)を有する前記装置中で行われ、
前記塩化の過程において、前記反応器(3)を有する前記装置の前記ゾーン(I)は、700°Cより高い温度まで加熱され、
使用済み窒化物核燃料(5)は、完全に塩化されるまで溶融物(4)中に保持され、
前記装置の前記低温ゾーン(II)は、塩化中に形成される金属カドミウムの結晶化のために使用される
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物として、リチウム、カリウム、ナトリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムの塩化物を使用する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力工学、特に使用済み核燃料(SNF:spent nuclear fuel)を再処理する方法に関するものであり、閉鎖型核燃料サイクル(CNFC:closed nuclear fuel cycle)を運用する際に、燃料要素から抽出された使用済み核燃料の再処理技術において使用することができる。
【背景技術】
【0002】
現代の原子力工学の最も重要な課題は、高速中性子による原子炉のためのCNFCを作り出すことである。CNFCは、原子力エネルギー生産の運転技術のエネルギー効率をかなり高めること、天然資源の消費を減らすこと、放射性廃棄物(RW:radioactive wastes)の容積を最大限に減らすこと、従って、そのような廃棄物の輸送、貯蔵又は再処理に関連する問題を平準化することを可能にする。
【0003】
現在、原子力エネルギーは、酸化物又は金属燃料を用いて生産されることが望ましいが(Olander D., Theoretical foundations of fuel elements of nuclear reactors, M., 1982)、この再処理は、既存の方法では、放熱要素(燃料要素)の予備的な延長貯蔵(3-7年)を意味する。さらに、再処理は、水化学の方法によって行われる。このような技術の欠点は、非常に多量の液体放射性廃棄物(放射性水)である。
【0004】
CNFCの創成の最大の見通しは、溶融塩化物中に比較的短期間貯蔵されたSNFの再処理に関係する。特に、これは、原子炉からの回収直後に実用的に再処理段階に供給することができる窒化物燃料に関係し、とりわけ、原子炉におけるその消費(burn-out)の程度がより大きくなった結果である(RU2524681C2、公開日:2014年8月10日)。SNFを再処理する既存の水化学的(hydro-chemical)方法は、窒化物SNFが属する、短期間貯蔵されたSNFを再処理するために使用することができない。これは、放射性水の蒸発をもたらす大量のエネルギーの発生と関係がある。
【0005】
塩化(chlorination)によって窒化物SNFを再処理する方法が知られており、これは、塩化物溶融物の電気分解において、その導電性成分を陽極溶解することからなる(RU2079909、公開日:1997年5月20日)。この公知の方法は、450-700°Cの温度範囲で、0.3A/cmまでのアノード電流密度及び0.4A/cmまでのカソード電流密度で実施され、ここで、窒化物SNFは、アノードとして使用され、低融点合金又は金属(例えば、カドミウム)は、カソードとして使用され、これらは、窒化物SNFの塩化のための電気分解装置を代表する装置中の塩化物溶融物中に浸漬される。窒化物燃料の成分(例えば、窒化物UN及びPuN)の陽極溶解中に、窒素ガスが放出され、アクチニドが塩化物溶融物中に溶解される(例えば、塩化物UCl及びPuClの形態で)。後者は、カソード上のウラン及びプルトニウムの電解採取源である。
【0006】
この方法の利点は、塩化物溶融物の安定性であり、より正確には、放射線照射の影響下でのそれらの物理化学的性質の安定性であり、並びに燃料サイクルに戻される窒化物SNFの成分の高い分離要因を達成するための電気分解のパラメータの選択の可能性である。
【0007】
この方法の欠点は、塩化物溶融物中の窒化物SNFのアノード分極における化合物UO^Cl及びUNClの形成に関する(Journal of Nuclear Materials 344(2005),128-135)。これらの化合物の形成は、塩化物溶融物中の窒化物SNFの完全な陽極溶解を妨げ、未反応SNFの濾過及び水化学溶解の追加の工程をもたらし、燃料転化の完全性を制限する。
【0008】
請求項に記載の方法に最も近いのは、使用済み窒化物核燃料を塩化物溶融物で再処理する方法である(RU2603844、公開日:2016年12月10日)。上記方法には、その連続的な陽極溶解に続き、500°C以下の温度でLiCl-KCl-CdCの塩化物溶融物中の液体金属負極での電気化学的還元からなる燃料の塩化法が含まれる。この方法は、電気分解装置を代表する、窒化物SNFの塩化のための装置中の不活性ガス雰囲気中で実施される。5質量%までのCdClの溶融物中のこの存在は、窒化SNFの化学塩化を開始し、陽極溶解は、LiCl-KClの溶融物中のUNの溶解速度をさらに増加させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この方法の欠点は、陽極溶解及び比較的低い温度が、塩化窒化物SNFの表面上の難溶性化合物UNClの形成を促進することである。これは、不動態化現象、低度の燃料転化、未反応SNFの濾過及び水化学溶解の追加の操作をもたらし、これはプロセスのエネルギー効率をかなり低下させる。
【0010】
既知の方法の上述の欠点は、閉鎖型核燃料サイクルの枠組みの中で技術運用を実施するエネルギー効率の良い、そして廃棄物の少ない方法の開発に関連する問題を完全に解決するものではない。
【0011】
本発明の目的は、閉鎖型核燃料サイクルのスキームに組み込むのに適した、窒化物SNFを再処理するためのエネルギー効率の良い方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のために、プロトタイプとして、二塩化カドミウムを含有し、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物の混合物の溶融物中における使用済み窒化物核燃料の塩化を含む方法が提案される。この塩化は、不活性ガス雰囲気を使用して使用済み窒化物核燃料を再処理するための装置中で実施される。本発明の方法は、塩化物溶融物及びその中に浸漬された使用済み窒化物核燃料を有する反応器が置かれる加熱ゾーン、並びに、前記反応器の下に置かれる低温ゾーンを有する装置において、塩化が実施されるという点において、また、塩化プロセスにおいて、反応器を有する装置のゾーンが700°Cを超える温度に加熱され、使用済み窒化物核燃料が、完全塩化まで溶融物中に保持され、装置の低温ゾーンが、塩化において形成される金属カドミウムの結晶化のために使用されるという点で、プロトタイプとは異なる。また、この方法は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物として、リチウム、カリウム、ナトリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムの塩化物が使用されることを特徴とする。
【0013】
請求項に記載された方法の本質は、以下にある。LiCl-KCl溶融物中において、窒化物SNF(例えば、窒化物UN)と塩化剤である二塩化カドミウムとの接触において、交換反応が起こる。例えば、
UN + 1.5 CdCl = UC1 + 1.5 Cd + N(Γ) (1)
UN + 0.5 CdCl = 0.5 UNC1 + 0.5Cd (2)
LiCl-KCl溶融物は、反応開始時のCdClと、その結果得られるUCl(他のアクチニドと同様)の両方の溶剤として機能する。
【0014】
熱力学モデリングのデータ、すなわち、図2に示す標準ギブスエネルギー(ΔG0 )の負の値は、反応(1)及び(2)が任意の温度で並行して進行し、したがって、ウランの一部がUNC1の不溶性相に脱出することが避けられないように思われることを実証する。しかしながら、また、計算は、700°C以上で、UNC1が反応(3)に従って過剰のCdClに溶解されることを示す(図2参照):
UNCl + CdCl = UC1 + Cd + 0.5 N(Γ) (3)
これにより、UNC1及び他の不溶性アクチニド化合物の形態の不純物を含まないUC1を含有する溶融物が得られる。
【0015】
このように、基本塩化物製品は、アクチニド塩化物を含有するLiCl-KCl溶融物であり、固体又は液体カソード上のアクチニドの更なる電解採取に使用される。
【0016】
この方法は、不活性雰囲気を有する装置中で実施され、ここで、窒化物SNFは、装置のゾーンに位置する塩化物溶融物を有する反応器中に浸漬され、このゾーンは、700°Cを超える塩化温度まで加熱される。塩化温度は、900°Cを超えないことが推奨され、これは、沸点が960°CであるCdClの蒸気圧が急激に上昇するためである。950°Cを超える温度に上昇させることは、塩化装置において、CdClの蒸発によるCdClのより大きな消費、プロセスの効率の低下及びCdCl蒸気を捕捉する必要性を意味する。
【0017】
請求項に記載の方法の独特の特徴は、反応(1)及び(2)による金属カドミウムの形成であり、金属カドミウムは、この方法の温度で溶融物から完全に蒸散する。金属カドミウムを補足するために、窒化物SNFを再処理する装置は、形成されたカドミウムが結晶化する低温ゾーンを有する。プロトタイプとは異なり、本発明の方法は、窒化物SNFの一次陽極溶解を必要とせず、これは、再処理されたサンプルの表面上の不動態化現象を増強し、また、初期溶融物中にUClのいくらかの含有量の存在を必要としない。
【0018】
本発明の上記の説明は、SNFのパイロケミカル(高温度化学変化の)再処理のための最も一般的な溶融物として、塩化物LiCl-KClの混合物中でプロセスを実施するために提供される。しかしながら、リチウム、カリウム、ナトリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムの塩化物のような、窒化物SNFと相互作用しないアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物の混合物を使用することによっても、技術的な結果が達成される。上記に記載した塩化物の混合物は、塩化物LiCl-KClの混合物として、塩化物CdCl及びUC1の溶剤として請求項に記載したプロセスで使用することができる。窒化物SNFの塩化の技術的結果に対する混合物の組成の影響は、確定されなかった。
【0019】
請求項に記載の方法によって達成される技術的な結果は、塩化物溶融物中の窒化物SNFの転化率を100%に増加させることからなり、その結果、再濾過及び再処理の追加の段階の必要性が低減されるか、又はSNFが完全に除去される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明を図面によって説明する:
図1図1は、本発明の方法に従って窒化物SNFを塩化するための装置の概略図である。
図2図2は、700°Cを超える温度でプロセスを実施するための熱力学的理由のための図である。
図3図3は、窒化SNF(UN窒化物)が浸漬している場合のLiCl-KCl溶融物におけるUC1とCdClの濃度の典型的な変化を示している。
図4図4は、プロトタイプ及び請求項に記載の方法における利用のパラメータ及び結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本方法による窒化物SNFの塩化の実験的確認は、水分を含まないアルゴンが使用される不活性雰囲気を有する密閉装置内で実施される。この装置は、ハウジング1、ヒーター2、反応器3、塩化物溶融物4、使用済み窒化物核燃料5、金属コレクター6、カドミウム7を含む。この装置は、加熱ゾーンI及び低温ゾーンIIを有する。
【0022】
装置の加熱ゾーンに、酸化物MgOからなるセラミックるつぼの形態の反応器3を、塩化物KCl、LiCl、CdClの予め調製した混合物と共に配置した。LiCl-KClの共晶(eutectic)混合物が、酸素不純物を最大限除去するため、ゾーン再結晶化により、調製され、「ドライボックス」において、精製されたCdClと混合された。反応器を有する装置のゾーンを750°Cの温度に加熱し、その後、LiCl-KCl-CdCl溶融物中に、窒化物SNFの主成分としてUN窒化物のサンプルを浸漬し、化学分析に従って反応が完了するまで溶融物中に保持した。
【0023】
実験中、溶融物のサンプルを特別なロック装置に通して採取し、CdCl及び得られたUClの含有量を分析した。得られたデータに基づいて、塩化における窒化物UNのUClへの転化度を算出する。主要パラメータと実験結果を図4に示す表に与え、LiCl-KClの溶融物におけるCdClとUClの含有量の相互依存性の典型的な曲線を図3に示した。図3では、塩化の過程で、LiCl-KCl溶融物中のCdClの濃度が減少し、一方、UClの濃度が増加することが分かる。これは、反応(1)、(2)及び(3)の直接的な進行を実証する。500°Cの実験温度で、反応(1)及び(2)に従って形成された金属カドミウムを反応器の底部で濃縮し、750°Cでカドミウムを特別な金属コレクターに集めた(図2参照)。図4に示す表から分かるように、700°C以上の温度で、窒化物SNF(UN窒化物)の転化度は、100%であるが、それより低い温度では、転化率は20-60%に過ぎない。
【0024】
工業的使用のためには、装置は、低温ゾーンが、塩化が実施される反応器の下にあるように設計されなければならない。特定の場合には、るつぼの形態の金属コレクターが、塩化の間に形成される金属カドミウムの結晶化のためにこのゾーンに配置され、カドミウムの蒸気が凝縮される。その結果、この装置の反応器は、アクチニド塩化物を含むLiCl-KCl溶融物と、分離して回収されたカドミウムを生産する。
【0025】
塩化完了後、カドミウムのみならずアクチニド塩化物を含むLiCl-KCl溶融物を装置から回収し、アクチニドの電解採取ステップに送る。特定の実施形態では、アクチニドの電解採取は、塩化が行われる反応器中で直接行うことができる。
【0026】
窒化物SNFと相互作用しないアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物(リチウム、カリウム、ナトリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムの塩化物)の混合物を使用して、塩化カドミウムを含有する塩化物溶融物としての方法の技術的パラメータを最適化することができる。
【0027】
したがって、使用済み窒化物核燃料を再処理する請求項に記載の方法は、塩化物溶融物中の窒化物SNFの転化率を100%に増加させることを可能にし、これは、SNFの繰り返しの濾過及び再処理の追加の段階の必要性を低減又は完全に除去する。
図1
図2
図3
図4