(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】バチルス・サブチリス菌株を有効成分として含む急性肝膵臓壊死症(AHPND)またはホワイトスポット病症候群(WSS)の予防または治療用飼料組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/742 20150101AFI20220308BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20220308BHJP
A23K 50/80 20160101ALI20220308BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
A61K35/742
A23K10/16
A23K50/80
A61P31/12 171
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021030743
(22)【出願日】2021-02-26
(62)【分割の表示】P 2019520990の分割
【原出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】10-2017-0184265
(32)【優先日】2017-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0171279
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM KCCM11143P
(73)【特許権者】
【識別番号】514158497
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】キム・ジウン
(72)【発明者】
【氏名】ハン・ジウン
(72)【発明者】
【氏名】キム・ソンフン
(72)【発明者】
【氏名】ウ・ソヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ウン・ジョンス
(72)【発明者】
【氏名】チョ・ハユン
(72)【発明者】
【氏名】キム・ジェウォン
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特許第6812545(JP,B2)
【文献】国際公開第2012/105804(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/742
A23K 10/16
A23K 50/80
A61P 31/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
寄託番号KCCM11143Pで寄託されたバチルス・サブチリス菌株、その培養液、その濃縮液またはその乾燥物を有効成分として含む、ホワイトスポット病症候群(WSS)の予防または治療用飼料組成物。
【請求項2】
前記ホワイトスポット病症候群(WSS)が、ホワイトスポット病症候群ウイルス(WSSV)によって誘発されるものである、請求項1に記載の飼料組成物。
【請求項3】
前記バチルス・サブチリスが、有効成分の1g当たりに1×10
4~1×10
11 CFUの菌数を有するものである、請求項1または2に記載の飼料組成物。
【請求項4】
有効成分として、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)またはこれらの組み合わせをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の飼料組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の飼料組成物を個体に投与する段階を含む、ホワイトスポット病症候群の予防または治療方法。
【請求項6】
前記個体が、エビである、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バチルス・サブチリス菌株、その培養液、その濃縮液またはその乾燥物を有効成分として含む、急性肝膵臓壊死症(AHPND)またはホワイトスポット病症候群(WSS)の予防または治療用飼料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
EMS(Early mortality syndrome、早期死亡症候群)/AHPND(Acute hepatopancreatic necrosis disease、急性肝膵臓壊死症)/AHPNS(Acute hepatopancreatic necrosis syndrome、急性肝膵臓壊死症候群)は、エビ養殖において最近急増する病気であって、ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)細菌が原因体であり、昆虫毒素を生成して早くは6時間以内、または一週間以内に100%致死を起こす(非特許文献1)。昆虫毒素(すなわち、Photorhabdus insect-related toxins、Pir toxin)は、細菌内の特定のプラスミドに存在する特異遺伝子の発現により生成され、したがって、あちこちを簡単に移動する、すなわち、運動性を有するため、この疾病は、従来関心を持たれたホワイトスポット病ウイルス(WSSV)、タウラ症候群ウイルス(TSV)及び感染性筋壊死ウイルス(IMNV)などのウイルス性のエビの病気よりも速く伝播される。AHPNDは、2009年に中国で始まり、タイ、マレーシア、ベトナムで1年以内にアジア各国に急速に広がって、アジア以外の国としてはメキシコで発生し、他の中米諸国に伝播されて、エビの市場のほとんどが被害を受けている。韓国にも2015~2016年に最初に発生して大きな被害を負わせたことがあり、この疾病に対する予防及び管理のための研究が進められている。
【0003】
最近、安全な生産物に対する消費者のニーズと継続的な養殖のための生産戦略により、従来の病原菌を治療するために用いられた治療剤などは、養殖関連規定により制限されている。したがって、エビ養殖において、種苗の品質と飼育方法だけではなく、疾病を制御する重要な因子を考慮する必要がある。
【0004】
一方、プロバイオティクスは、抗生物質を意味する抗生剤(antibiotics)とは対立する語源的意味を有するもので、腸内の微生物のバランスを助ける微生物製剤または微生物成分として定義され、代表的に、ラクトバチルス菌とビフィズス菌などの乳酸菌がこれに該当する。また、プロバイオティクスは、ヒトや動物に対する毒性遺伝子を保有せず、病原性物質も生産しないためGRAS(generally recognized as safe)として分類される。したがって、安定性が証明されたプロバイオティクスを用いた飼料添加剤の開発が活発に行われている。
【0005】
一例として、特許文献1は、新規なバチルス属CMB L1及びラクトバチルス属CMB201の混合菌株及びこれを用いた抗がん及び免疫増強用食品組成物及び抗菌活性のある微生物製剤を開示しており、特許文献2は、動物の主要な貪食細胞である好中球の各種活性を増加させて、病原性細菌の攻撃接種に対する非特異的な防御能を増進させるザイゴサッカロミセス・ベイリー(Zygosaccharomyces bailii)の溶菌抽出物を含有する動物用免疫増強剤及び飼料添加剤を開示している。しかし、プロバイオティクスを用いた飼料添加剤の実際の免疫活性は不備で、まだ免疫活性に優れたプロバイオティクスを用いた飼料添加剤に対する研究が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国公開特許第10-2011‐035554号
【文献】韓国登録特許第10‐0977407号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Tran et.al.2013.Dis aquat Org 105:45-55
【文献】Trends Biochem. Sci, 2009, 34: 324-331
【文献】Cell, 2006, 124: 783-801
【文献】Folch et al. (1957)
【文献】Zhang et al. (2013)
【文献】Swain et al. (2007)
【文献】Hernandez-Lopez et al. (1996)
【文献】Ellis (1990)
【文献】Verdouw et al. (1978)
【文献】Divakaran et al. (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らはエビAHPND予防のためのプロバイオティクス(Bacillus sp.)を添加したエビ飼料を開発しようと鋭意努力した結果、バチルス・サブチリスが添加された飼料組成物をエビに給餌した場合、AHPND感染(2013年のベトナム被害地域から単離された菌株に起因する。非特許文献1)またはWSSV感染によるエビ生存率を改善し、エビの成長率及び非特異的免疫力を高めるだけでなく、水質が改善されて高タンパクのエビ生産が可能であることを確認することにより、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの目的は、バチルス・サブチリス菌株、その培養液、その濃縮液またはその乾燥物を有効成分として含む急性肝膵臓壊死症(AHPND)の予防または治療用飼料組成物を提供することにある。
【0010】
本発明のもう一つの目的は、前記飼料組成物を個体に投与する段階を含む急性肝膵臓壊死症の予防または治療方法を提供することにある。
【0011】
本発明の一つの目的は、バチルス・サブチリス菌株、その培養液、その濃縮液またはその乾燥物を有効成分として含むホワイトスポット病症候群(WSS)の予防または治療用飼料組成物を提供することにある。
【0012】
本発明のもう一つの目的は、前記飼料組成物を個体に投与する段階を含むホワイトスポット病症候群の予防または治療方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、バチルス・サブチリスKCCM11143P菌株は、これを有効成分として含む組成物がエビ養殖において問題となるAHPNDを誘発させる腸炎ビブリオ菌に対する抗菌活性、WSSを誘発させるホワイトスポット病症候群ウイルスに対する抗ウイルス活性、及びエビの肝膵臓の免疫増進効果を有するため、エビ飼料組成物または飼料添加剤として用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】腸炎ビブリオ菌に感染されたエビの生存率を示すグラフである。
【
図2】エビの肝膵臓中のAHPND含有分析を示すグラフである。
【
図3】エビの肝膵臓の病理学的特徴を示す図である。
【
図4】エビの成長率を示すグラフであり、(a)~(d)はそれぞれ、最終体重、増体率、日間成長率及び飼料変換率を示す。
【
図5】エビの非特異的免疫力を分析したグラフであり、(a)~(e)はそれぞれ、マクロファージ、フェノール酸化酵素、抗タンパク分解酵素、リゾチーム及びスーパーオキシドジスムターゼの活性を示す。
【
図6】無交換飼育水中の水質分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
これを具体的に説明すると、次の通りである。一方、本出願で開示された各説明及び実施形態は、それぞれの他の説明及び実施形態にも適用されうる。すなわち、本出願で開示された様々な要素の任意の組み合わせが本発明の範囲に属する。また、下記記述された具体的な叙述によって、本発明の範囲が限定されるべきではない。
【0016】
前記課題を解決するための一実施様態として、本発明は、バチルス・サブチリス菌株、その培養液、その濃縮液またはその乾燥物を有効成分として含む急性肝膵臓壊死症(AHPND)の予防または治療用飼料組成物を提供する。
【0017】
本発明の用語、「バチルス・サブチリス(Bacillus subtilus、枯草菌)」とは、好気性菌の一種であって、毒性がなく胞子を生成する細菌である。乾いた草、土、下水、空気中などの自然界に広く分布している。酵素を生産して牛乳を凝固させ、デンプンを糖化して油脂を分解するので、工業的な分野に多く用いられている。生育の最適な状態は、pH7~8.5、温度37~40℃である。バチルス属菌株の特性上、ヒトや動物に対する毒性遺伝子を保有せず、それ自体で非病原性であるというだけでなく、病原性物質を生産することもなく、生体内で早い成長率を表す。ブドウ糖などが存在する環境では、嫌気的な棲息をして、内生胞子はバチルスが高温や低温など極端に悪い環境でも生存可能にする。
【0018】
本発明において、前記バチルス・サブチリスは、寄託番号KCCM11143Pで寄託された菌株であってもよい。
【0019】
本発明では、前記バチルス・サブチリスKCCM11143Pを含む飼料組成物を製造した。
【0020】
本発明の前記組成物は、全体有効成分の1g当たりに1×104~1×1011 CFUの菌数を有するバチルス・サブチリスKCCM11143Pを含んでもよく、具体的には、1×104~1×1010 CFU/gであってもよく、より具体的には、1×108~1×1010 CFU/gのバチルス・サブチリスKCCM11143Pを含んでもよい。
【0021】
本発明の目的上、前記飼料組成物に有効成分として含まれるバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)は、バチルス・サブチリスKCCM11143Pのみを含みうる。
【0022】
本発明の用語、「急性肝膵臓壊死症(AHPND )」とは、早期死亡症候群(EMS、Early mortality syndrome)または急性肝膵臓壊死症候群(AHPNS、Acute hepatopancreatic necrosis syndrome)と命名される疾病であり、養殖場に入植 時30日以内に病原体によって発生する大量斃死を包括的に通称する。韓国の養殖エビの約96%程度を占めるシロアシエビでの感染例が多く、海水に常存している病原体である腸炎ビブリオ菌(Vibrio parahaemolyticus)に起因して発生する疾病である。幼い時期に致死率が高いため、エビに致命的な被害を与えるが、人体には無害である。
【0023】
前記「腸炎ビブリオ菌(Vibrio parahaemolyticus)」とは、ビブリオ属(Genus)に属するグラム陰性桿菌であって、人体には急性食中毒及び腸炎を起こし、魚類にはビブリオ病(Vibriosis)を起こす細菌である。最近では、エビ養殖産業における大量斃死を引き起こす急性肝膵臓壊死症(AHPND、Acute Hepatopancreatic Necrosis Disease)の原因菌として明らかになった。
【0024】
本発明の前記組成物は、有効成分としてバチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、またはこれらの組み合わせをさらに含んでもよい。前記バチルス・プミルスは寄託番号KCCM11144Pで寄託された菌株であってもよく、前記バチルス・リケニフォルミスは寄託番号KCCM11270Pで寄託された菌株であってもよい。
【0025】
本発明の用語、「予防」とは、本発明に係るバチルス・サブチリスを含む組成物の投与でエビの急性肝膵臓壊死症(AHPND)による症状を抑制または遅延させるすべての行為をいう。
【0026】
本発明の用語、「治療」とは、本発明に係るバチルス・サブチリスKCCM11143Pを含む組成物の投与でエビの急性肝膵臓壊死症(AHPND)による症状が好転したり、完治されるすべての行為を意味する。
【0027】
前記組成物には、有効成分として含む前記菌株に加えて、薬学的、食品学的または飼料用に許容される公知の担体または添加剤が含まれてもよい。本発明におけるバチルス・サブチリスKCCM11143Pを含む腸炎ビブリオ菌に対する抗菌活性を有するプロバイオティクス製剤として、品質の低下を防止するために添加する結着剤、乳化剤、保存剤などがあり、効用増大のために飼料に添加するアミノ酸剤、ビタミン剤、酵素剤、香味剤、非タンパク質態窒素化合物、ケイ酸塩剤、緩衝剤、抽出剤、オリゴ糖などがある。その他にも、飼料混合剤などをさらに含んでもよく、これに限定されるものではない。
【0028】
本発明の一実施例で、前記飼料組成物をエビに給餌した場合にAHPND病に対する免疫力を増加させ、疾患予防効果を示すことができるか確認した結果、本発明のバチルス・サブチリス(KCCM11143P、以下「BS」と呼ぶ)菌株を含む飼料組成物(実施例1及び2)を投与した群(BSグループ1及び2)は、比較例1(プロバイオティクスを含まない)及び比較例2(商業的に販売されているプロバイオティクス(バチルス3種混合製剤(B. subtilis、B. pumilus、B. licheniformis)を含む)を投与した群(対照群1及び2)に比べて、腸炎ビブリオ菌(Vibrio parahaemolyticus)感染に対するエビの疾病抵抗性を増進させうることのみならず、エビ肝膵臓内のAHPND毒素量を大きく下げることができる。
【0029】
本発明の他の一実施例では、前記菌株を含む飼料組成物の非特異的免疫力分析を行った結果、マクロファージ(NBT)活性、グルタチオンペルオキシダーゼ (GPx)活性、リゾチーム活性、フェノール酸化酵素(PO)活性、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性及び抗タンパク分解酵素の活性が比較例に比べて有意的に高いことを確認し、これにより、前記組成物はエビの非特異的免疫反応の増加または免疫力の向上に有用しうる。
【0030】
本発明は、前記で言及した飼料組成物を含むエビ養殖用の飼料添加剤を提供する。
【0031】
本発明の飼料添加剤は、前記有効成分に加えて、薬学的、食品学的または飼料用に許容される公知の担体または安定剤などを加えてもよく、必要に応じてビタミン、アミノ酸類、ミネラルなどの各種養分、抗酸化剤及び他の添加剤などを加えてもよく、その形状としては、粉体、顆粒、ペレット、懸濁液などの適当な状態であってもよい。本発明の飼料添加剤を供給する場合は、非反芻動物に対して単独で、または飼料に混合して供給してもよい。
【0032】
また、本発明は、前記言及した飼料添加剤を含むエビ養殖用の飼料を提供する。
【0033】
本発明のバチルス・サブチリスKCCM11143P菌株は、胞子形成が可能なグラム陽性菌であるため、胞子の形態で剤形化することが好ましいが、これに制限されるものではない。本発明の飼料は、特に限定されるものではなく、粉末飼料、固形飼料、モイストペレット飼料、ドライペレット飼料、EP(Extruder Pellet)飼料、生エサなどいかなる飼料であってもよい。
【0034】
前述したように、バチルス属は内生胞子を形成して熱に非常に安定した特徴を有している。したがって、本発明のバチルス・サブチリスKCCM11143Pは飼料添加剤の形態で別に製造して飼料に混合させたり、飼料製造時に直接添加して製造してもよい。本発明の飼料内のバチルス・サブチリスは液状または乾燥状態であってもよく、好ましくは、乾燥された粉末形態である。乾燥方法は、通風乾燥、自然乾燥、噴霧乾燥及び凍結乾燥が可能であるが、これに制限されるものではない。本発明のバチルス・サブチリスKCCM11143Pは、粉末形態で飼料重量の0.05~10重量%、好ましくは0.1%~1重量%の成分比で混合してもよい。また、前記飼料は水産養殖用であって、本発明のバチルス・サブチリスKCCM11143Pの他に飼料の保存性を向上させうる通常の添加剤をさらに含んでもよい。
【0035】
前記課題を解決するためのもう一つの実施様態として、本発明の飼料組成物を個体に投与する段階を含む急性肝膵臓壊死症の予防または治療方法を提供する。
【0036】
このとき、本発明の急性肝膵臓壊死症、予防及び治療は、前記で説明した通りである。
【0037】
本発明の用語、「個体」とは、急性肝膵臓壊死症が発症したり、発症する可能性がある養殖可能な魚類または甲殻類を意味してもよいが、本発明の目的上、エビを意味してもよい。
【0038】
前記飼料は、通常の飼料と同様の量及び給餌の間隔で供給されることが好ましく、前記病原菌は、エビ養殖においてAHPNDを誘発させることで、エビの大量斃死を引き起こす菌を指し、具体的には、腸炎ビブリオ菌(vibrio parahaemolyticus)を意味してもよい。
【0039】
前記エビ養殖における集団斃死を引き起こす原因としては、前記腸炎ビブリオ菌だけでなく、さまざまなウイルスによる感染及び飼育水中のアンモニア濃度も含まれる。エビ養殖中の飼育水内のアンモニアは、主にエビの排泄物、飼料かすなどのタンパク質の代謝産物で発生し、pH及び水温の上昇に応じて大きく変わる。高濃度のアンモニアは、エビの急性斃死の直接の原因となって、大量斃死につながり、低い濃度でも長期的にはエビの成長及び摂食能力などを低下させ、免疫力を低下させて結果的に様々な疾病の発生を誘発させうる。
【0040】
本発明の一実施例では、本発明の飼料組成物を給餌したエビの飼育水を採取してその水質分析を行った結果、対照区に比べて総アンモニア濃度が有意的に低いことを確認することにより、本発明のバチルス・サブチリスKCCM11143P菌株はエビ飼育水の水質を改善しうることを確認した。
【0041】
前述したように、本発明のバチルス・サブチリスKCCM11143Pはエビの疾病抵抗性を増進させることができるのみならず、エビ肝膵臓内のAHPND毒素量を抑制しうるため、前記菌株を用いると、前記疾病を誘発する腸炎ビブリオ菌を予防する効果を得ることができ、より安全にエビを養殖しうる。
【0042】
前記課題を解決するためのもう一つの実施様態として、本発明は、バチルス・サブチリス菌株、その培養液、その濃縮液またはその乾燥物を有効成分として含むホワイトスポット病症候群(WSS)の予防または治療用飼料組成物を提供する。
【0043】
本発明の用語バチルス・サブチリス(Bacillus subtilus、枯草菌)、予防及び治療は、前記で説明した通りである。
【0044】
本発明の前記組成物は、全体の有効成分の1g当たりに1×104~1×1011 CFUの菌数を有するバチルス・サブチリスKCCM11143Pを含んでもよく、具体的には、1×104~1×1010 CFU/gであってもよく、より具体的には、1×108~1×1010 CFU/gのバチルス・サブチリスKCCM11143Pを含んでもよい。
【0045】
前記「ホワイトスポット病症候群ウイルス(WSSV)」とは、全世界で幅広く分布しているウイルスであって、バイロン末端部位に尾に類似した付着物を有し、ロッド(rod)形態のキャプシド(capsid)及び被膜(envelop)が存在する卵形のバチルスと類似した形態を有しており、バキュロウイルスまたはバチルス様ウイルス(bacillus-like formed virus)と呼ばれたが、最近では、遺伝学的に新しいウイルスグループであるウィスポウイルス(whispovirus)と命名されている。このウイルスの長さは約275nmであり、直径が約120nmであり、約290kbの大きさを有する2重螺旋DNA(double-stranded DNA)で構成されている。
【0046】
前記組成物には、有効成分として含む前記菌株に加えて、薬学的、食品学的または飼料用に許容される公知の担体または添加剤が含まれてもよい。本発明でのバチルス・サブチリスKCCM11143Pを含むホワイトスポット病症候群ウイルスに対する抗ウイルス活性を有するプロバイオティクス製剤として、品質の低下を防止するために添加する結着剤、乳化剤、保存剤などがあり、効用増大のために飼料に添加する、アミノ酸剤、ビタミン剤、酵素剤、香味剤、非タンパク質態窒素化合物、ケイ酸塩剤、緩衝剤、抽出剤、オリゴ糖などがある。その他にも、飼料混合剤などをさらに含んでもよいが、これに限定されない。
【0047】
本発明の一実施例では、前記飼料組成物をエビに給餌した場合にホワイトスポット病症候群ウイルス(WSSV)に対する抵抗性を増加させて、疾患の予防効果を示すことができるかを確認した結果、本発明のバチルス・サブチリスKCCM11143P菌株を含む飼料組成物(実施例1)を投与した群(BSグループ1)は、比較例1(プロバイオティクスを含まない)を投与した群(対照群1)に比べてWSSV感染に対するエビの疾病抵抗性を増進させることができた。
【0048】
本発明の他の一実施例では、前記飼料組成物をエビに給餌した場合にホワイトスポット病症候群ウイルス(WSSV)及び急性肝膵臓壊死症(AHPND)の複合感染に対する抵抗性を増加させて、生存率の向上効果を示すことができるかどうかを確認した結果、本発明のバチルス・サブチリスKCCM11143P菌株を含む飼料組成物(実施例1)を投与した群(BSグループ1)は、比較例1(プロバイオティクスを含まない)を投与した群(対照群1)に比べて、WSSV及びAHPNDの複合感染に対するエビの疾病抵抗性を増進させることができた。
【0049】
本発明は、前記言及した飼料組成物を含むエビ養殖用の飼料添加剤を提供する。
【0050】
本発明の飼料添加剤は、前記有効成分に加えて、薬学的、食品学的または飼料用に許容される公知の担体または安定剤などを加えてもよく、必要に応じてビタミン、アミノ酸類、ミネラルなどの各種養分、抗酸化剤及び他の添加剤などを加えてもよく、その形状としては、粉体、顆粒、ペレット、懸濁液などの適当な状態であってもよい。本発明の飼料添加剤を供給する場合は、非反芻動物に対して単独で、または飼料に混合して供給してもよい。
【0051】
また、本発明は、前記言及した飼料添加剤を含むエビ養殖用の飼料を提供する。
【0052】
本発明のバチルス・サブチリスKCCM11143P菌株は胞子形成が可能なグラム陽性菌なので、胞子の形態で剤形化することが好ましいが、これに制限されるものではない。本発明の飼料は、特に限定されるものではなく、粉末飼料、固形飼料、モイストペレット飼料、ドライペレット飼料、EP(Extruder Pellet)飼料、生エサなどいかなる飼料であってもよい。
【0053】
前述したように、バチルス属は内生胞子を形成して熱に非常に安定的な特徴を有している。したがって、本発明のバチルス・サブチリスKCCM11143Pは飼料添加剤の形態で別に製造して飼料に混合したり、飼料製造時に直接添加して製造してもよい。本発明の飼料内バチルス・サブチリスは、液状または乾燥状態であってもよく、好ましくは、乾燥された粉末形態である。乾燥方法は、通風乾燥、自然乾燥、噴霧乾燥、及び凍結乾燥が可能であるが、これに制限されるものではない。本発明のバチルス・サブチリスKCCM11143Pは、粉末形態で飼料重量の0.05~10重量%、好ましくは0.1%~1重量%の成分比で混合してもよい。また、前記飼料は水産養殖用であって、本発明のバチルス・サブチリスKCCM11143Pの他に飼料の保存性を向上させうる通常の添加剤をさらに含んでもよい。
【0054】
前記課題を解決するためのもう一つの実施様態として、本発明の飼料組成物を個体に投与する段階を含むホワイトスポット病症候群の予防または治療方法を提供する。
【0055】
このとき、本発明の用語、ホワイトスポット病症候群、予防、治療、及び個体は、前記で説明した通りである。
【0056】
エビ養殖における集団斃死を引き起こす原因には、前記腸炎ビブリオ菌だけでなく、さまざまなウイルスによる感染も含まれる。具体的には、前記ウイルスはホワイトスポット病症候群ウイルス(WSSV)を意味してもよい。
【0057】
前述したように、本発明のバチルス・サブチリスKCCM11143Pは、ホワイトスポット病症候群ウイルスに対する耐性を増強させる効果を得ることができ、より安全にエビを養殖することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本発明を例示的に説明するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
製造例1.抗菌活性を有するプロバイオティクスの選別
エビにAHPNDを誘発する腸炎ビブリオ菌(Vibrio parahaemolyticus)に対する抗菌活性を有する菌株を選抜するために、生育阻害環分析を行った。0.5%寒天(agar)3mlと病原性細菌の振とう培養液(2.0×10
9 CFU/ml)100μlを混合してTSA+培地に分注してトップアガーを製造した。前記製造されたトップアガーの上に12種のバチルス・サブチリス(CJ自体保有菌株及び商業用菌株)微生物培養液をそれぞれ10μl滴下し、30℃で18時間培養した後に形成される生育阻害環の有無を観察した。商業的に入手可能なバチルス・サブチリスと複合ファージの抗菌力を一緒に評価した。
【表1】
【0060】
前記表1に示すように、インビトロ上AHPND誘発菌株である腸炎ビブリオ菌に対する抗菌効果は、バチルス・サブチリス1微生物(CJBS‐01)が最も優れていた。しかし、インビトロ上で特定の病原体に抗菌活性を示す微生物だとしても、これはインビトロ上の効果であるだけで、動物がこれを摂取するとしてもその病原体に関する免疫力または予防効果があると見ることはできない。
【0061】
したがって、以下の実験では前記バチルス・サブチリス1(CJBS‐01)微生物をエビに給餌した場合、AHPND病に対する免疫力の改善及び疾患の予防効果を示すかを確認した。また、前記バチルス・サブチリス1(CJBS‐01)がエビの増体及び消化率に影響があるかも確認した。
【0062】
前記バチルス・サブチリス1(CJBS‐01)は、寄託番号KCCM11143Pとして2010.12.14日付で韓国微生物保存センターに寄託された菌株である。
【0063】
製造例2.バチルス・サブチリスを含むエビ飼料組成物の製造
前記製造例1で選別されたバチルス・サブチリス1(Bacillus Subtilis:寄託番号KCCM11143P、以下「BS」と呼ぶ)を含む飼料組成物を製造した。
【0064】
具体的には、バチルス・サブチリスを含まない比較例1、商業的に販売されているバチルス属(Bacillus3種の混合製剤(B. subtilis、B. pumilus、B.licheniformis)を含む比較例2、前記選別されたバチルス・サブチリス1(BS)を10
10×0.2 CFU/ gを含む実施例1及び前記BSを10
9×0.2 CFU/gを含む実施例2の組成物を魚油(fish oil)及び水を添加して混合した後、ペレット形態で製造した。前記比較例1、2及び実施例1及び2の飼料組成物は、乾燥機を使用して約24時間、25℃で乾燥した後、実験前まで-20℃で保管した。
【表2】
【0065】
実験例1.AHPNDに対する飼料組成物の予防効果の評価
1-1.エビの準備及び成長率の評価
水槽当たり30匹ずつ、合計40個の水槽にシロアシエビを準備した。すべての試験水槽には溶存酸素を維持するためにエアストーンを設置し、全試験期間中の飼育水温は28~32℃の範囲に維持した。飼料は1日4回に限定的に供給した(魚体重の4~12%)。
【0066】
エビの重量は2週間ごとに測定し、成長率及び飼料効率に関連する評価項目と計算式は以下の通りである:
【数1】
【数2】
【数3】
【0067】
実験飼料の配置は完全確率計画法(Completely randomized design)を行い、成長及び分析の結果は、SPSS Version18.0プログラム用いて、一元配置分散分析(One-way ANOVA)で統計分析した。データ値の有意差はダンカンの新多重範囲検定(Duncan's multiple range test)で平均間の有意性(P<0.05)を比較した。データは、平均値±標準偏差(mean±SD)で示し、パーセントデータはarcsine変形値で計算して統計分析した。
【表3】
【0068】
表3に示すように、試験結果、比較例1及び2の飼料組成物が投与された対照群1及び2に比べて、製造例1で選別されたバチルス・サブチリスを含む実施例1の飼料組成物が提供されるBSグループ1で有意的に高い成長率が表されることを確認した。また、実施例1が投与された群は、比較例1及び2が投与された群に比べて有意的に高い日間成長率が表されることを確認した。
【0069】
1-2.腸炎ビブリオ菌の攻撃試験1
腸炎ビブリオ菌のエビに対する攻撃試験は、全2回に分けて行った。前記ビブリオ菌株の場合、2013年度のベトナム地域で分離したAHPND(EMS)誘発菌株を試験に用いた。攻撃試験の場合、実施例の飼料組成物をエビに2週間供給した後、同様の重量(平均重量:2.32g)のエビをグループごとに96匹ずつ4つ反復して配置した。前記細菌はTSB+培地を用いて30℃、150rpmで24時間培養し、タンク当たり3.1×10
5 CFU/mlの濃度で腸炎ビブリオ菌の懸濁液を浸漬した。浸漬後1時間ごとにエビの斃死及び遊泳状態を確認し、8時間後に95%の還水を行った。試験飼料は1日3回(8:30、13:30、及び18:30)に分けて制限供給(魚体重の10~12%)し、70時間の間、斃死程度を観察した。これに対する結果を下記の表4に示した。
【表4】
【0070】
表4に示すように、製造例1で選別されたバチルス・サブチリスを含む飼料組成物が提供されるBSグループ1は、腸炎ビブリオ菌のエビに対する攻撃試験において、対照群1及び2に比べて高い生存率を示した。
【0071】
また、
図1に示すように、2回の試験の両方に共通で腸炎ビブリオ菌を浸漬した直後にはエビの動きが鈍くなり、遊泳活動をせずに水槽の底に沈んでいる様子が観察され、飼料摂餌も活発でなかった。浸漬後8時間には急激な斃死が発生し始め、BSグループ1の生存率は、対照群1または2の生存率に比べて17%以上高いことを確認した。
【0072】
1-3.腸炎ビブリオ菌の攻撃試験2
腸炎ビブリオ菌のエビに対する攻撃試験は、1回行った。前記ビブリオ菌株の場合、2013年のベトナム地域で分離したAHPND(EMS)誘発菌株を試験に用いた。攻撃試験の場合、実施例の飼料組成物をエビに4週間供給した後、同様の重量(平均重量:2.30g)のエビをグループごとに96匹ずつ4つ反復して配置した。前記細菌はTSB+培地を用いて30℃、150rpmで24時間培養し、タンク当たり6.3×10
5 CFU/mlの濃度で腸炎ビブリオ菌の懸濁液を浸漬した。浸漬後1時間ごとにエビの斃死及び遊泳状態を確認し、8時間後に95%の還水を行った。試験飼料は1日3回(8:30、13:30、及び18:30)に分けて制限供給(魚体重の10~12%)し、70時間の間、斃死程度を観察した。これに対する結果を下記の表5に示した。
【表5】
【0073】
表5に示すように、腸炎ビブリオ菌のエビの攻撃試験において、製造例1で選別されたバチルス・サブチリスを含む実施例1及び2の飼料組成物が提供されたBSグループ1及び2は、比較例1の飼料組成物が提供された対照群1に比べて高い生存率を示した。
【0074】
1-4.サンプルの収集方法及び病理組織学的分析の方法
腸炎ビブリオ菌のエビに対する攻撃試験の開始(感染前)、中間(感染)、終了時にグループごとに2匹のエビをランダムに選別して肝膵臓を分離した。分離された肝膵臓の一部は、quantitative real‐time PCR(qPCR)分析のためにエチルアルコール(100%)にすぐに保管し、一部は病理組織学的検査のためにDavidson固定液に24時間固定した後、エチルアルコール(70%)に保管した。
【0075】
より具体的には、病理組織学的分析は、次のような方法で行われた。前記分離した肝膵臓組織の破壊を最小限に抑えるために、水槽からサンプリングした直後、1mlの注射器を用いてDavidson固定液をエビの肝膵臓に注入した後、分離した。その後、Davison固定液が含まれている1.5mlエッペンドルフチューブで24時間固定し、エチルアルコール(70%)に保管した後、分析に用いた。固定が完了した臓器を組織標本の製作に適したサイズの形態(約2~3mm)の厚さで削正した後、カセットに入れて13時間組織処理を行なった。約4μmの厚さで薄切して、発生した切片は筆を用いて採取し、スライドにしわがないように付着した後、空気中で約5分程度放置し、H&E染色を行なった。染色が終了したスライドは、位相差顕微鏡(BX50、Olympus)を用いて顕微鏡専用プログラム(TCapture、Tucen Photonics)で200倍撮影した。その後、サンプリングした肝膵臓内のAHPND毒素量に対するqPCR分析を行なった。
【0076】
その結果を
図2に示した。ここで、Ct値は低いほど毒素量が多いことを意味する。
【0077】
攻撃試験前(0h)のサンプリングした肝膵臓では、すべてのグループでAHPND毒素が検出されておらず、斃死個体が最も多かった10時間にサンプリングした肝膵臓ではすべての試験区でAHPND毒素が検出された。しかし、本出願によるバチルス・サブチリスを含む飼料組成物が提供されるBSグループ1は対照群1及び2に比べて有意的に高いCt値を示し、24時間にサンプリングした肝膵臓では、BSグループ1でAHPND毒素を最も少なく検出することが確認された。また、攻撃接種終了時点(193h)にはBSグループ2と対照群2でAHPND毒素が検出されなかった。
【0078】
また、肝膵臓の病理組織学的分析の結果を
図3に示した。
【0079】
攻撃試験前(0h)でサンプリングした肝膵臓は、すべてのグループで正常の組織形態が観察された。10時間後にサンプリングした肝膵臓は対照群1のグループで損傷度が最もひどく、対照群2及びBSグループ1でも組織壊死が進んでいることが観察された。24時間後にサンプリングした肝膵臓はAHPND毒素による組織壊死よりは炎症所見が観察された。攻撃接種終了時点(193h)には、対照群1で既に100%斃死が発生(37h)したためサンプリングが不可能であり、対照群2及びBSのグループでは、一部炎症細胞が観察された。
【0080】
前記結果から、本出願によるバチルス・サブチリスを含む飼料組成物は、腸炎ビブリオ菌(Vibrio parahaemolyticus)感染に対するエビの疾病抵抗性を増進させることができるのみならず、エビ肝膵臓内のAHPND毒素量を大きく下げうることを確認した。
【0081】
実験例2.バチルス・サブチリスの濃度による成長率及び免疫力の評価
前記製造例2を参考にして、製造例1で選別されたバチルス・サブチリス(KCCM11143P、以下「BS」と呼ぶ)の濃度を異にした飼料組成物(実施例1及び3)を製造した。これを表6に示した。
【表6-1】
【表6-2】
【0082】
前記表6の各グループの組成物は、魚油(fish oil)及び水を添加して混合した後、ペレットの形態で製造し、前記各グループの飼料組成物は、乾燥機を用いて約24時間、25℃で乾燥させた後、実験前まで-20℃で保管した。
【0083】
2-1.エビの準備及び成長率の評価
水槽当たり30匹ずつ、合計28個の水槽にシロアシエビを準備した。すべての試験水槽には溶存酸素を維持するためにエアストーンを設置し、全試験期間中の飼育水温は28~32℃の範囲に維持した。飼料は8週間、1日4回に限定的に供給した(魚体重の6~12%、初期平均重量:0.14g)。
【0084】
エビの重量は2週間ごとに測定し、成長率及び飼料効率関連の評価項目と計算式は以下の通りである;
【数4】
【数5】
【数6】
【0085】
【0086】
表7及び
図4に示すように、8週間飼料が供給されたすべてのグループのエビは、飼料供給前に比べて約7000%以上の成長率を示した。特に、BSグループ1とBSグループ3の最終平均重量は、対照群1の最終平均重量に比べて、それぞれ15.7%及び16.7%高かった。また、日間成長率でもBSグループ1とBSグループ3は、対照群1と比較して、それぞれ3.4%及び4.1%高かった。BSグループ1とBSグループ3の飼料効率は、対照群1の飼料効率と比較して、それぞれ27.5%及び26.1%向上した。ただし、エビの生存率は、すべてのグループで有意な差がなかった。
【0087】
2-2.サンプルの収集
試験エビの重量測定は、2週間ごとに実施し、測定18時間前に試験エビのストレスを軽減するために、すべての試験エビを絶食させた。最終重量測定後に水槽当たり7匹のエビをランダムに選別して氷水で麻酔した後、ALSEVER’S溶液が処理された注射器を用いてhemolympを採血した。採血したhemolympは、マクロファージ活性(NBT; nitroblue-tetrazolium activity)の分析に用い、遠心分離機で(800g、10分、4℃)血漿を分離したサンプルは、非特異的免疫力の分析に用いた。消化率の分析のためのエビの糞便(feces)の収集は飼料供給30分後、サイフォン(siphoning)及び還水を介して水槽に残った飼料と異物質をきれいに掃除して、その後3時間から排泄される糞便をサイフォンで収集した。収集された糞便は、蒸留水で洗浄した後、ろ紙を用いてフィルタした後、分析用サンプルとして使用するまで-40℃の低温冷凍庫に保管した。
【0088】
2-3.統計学的分析
実験飼料の配置は完全確率計画法(Completely randomized design)を行い、成長及び分析の結果は、SPSS Version18.0プログラム用いて、一元配置分散分析で統計分析した。データ値の有意差は ダンカンの新多重範囲検定(Duncan's multiple range test)で平均間の有意性(P<0.05)を比較した。データは、平均値±標準偏差(mean±SD)で示し、パーセントデータはarcsine変形値で計算して統計分析した。
【0089】
2-4.一般成分の分析
試験飼料及び前記分の一般成分の分析は、AOAC(2005)の方法に基づいて、水分は常圧加熱乾燥法(125℃、3h)、粗灰分は直接灰化炉法(550℃、4h)、粗タンパク質は自動粗タンパク分析機(Kejltec system 2300、Sweden)で分析し、粗脂肪は非特許文献4の方法に基づいて分析して表8に示した。
【表8】
【0090】
表8に示すように、粗灰分及び粗脂肪の含量は、グループ間の有意的な差を示さなかったが、BSグループ3の粗タンパク質含量は、対照群1及び対照群2に比べて有意的に高かった。すなわち、本出願による飼料組成物がエビに提供される場合、エビのタンパク含量を高めうるという点を確認した。
【0091】
2-5.非特異的免疫力の関連分析
2-5-1. NBT(Nitroblue tetrazolium)活性の分析
呼吸爆発中の好中球による酸化ラジカル生成量を測定するために、非特許文献5の分析方法を応用した。
【0092】
具体的には、まずhemolymph50μlを200μlHBSS(Hank's balanced salt solution)溶液と混合した後、25℃で反応させた。30分後、zymosan(0.1% Hank's solution)100μlを添加し、37℃で2時間反応させた。 NBT溶液(0.3%)を100μlずつ入れた後、37℃で2時間反応させた。600μlの100%メタノールを入れて10分間遠心分離(6500rpm)した後、上清液を捨てて、70%メタノール100μlで3回洗浄した後、5分間乾燥させた。その後、2M KOH 700μlとDMSO 800μlを添加した後、620nmで吸光度を測定した。
【0093】
2‐5‐2.グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx;Glutathione peroxidase)活性の分析
血清中のGPx活性を分析するために、GPx kit(Biovision、Inc. California)を用いた。
【0094】
具体的には、クメンヒドロペルオキシド(Cumenehydroperoxide)はペルオキシダーゼ基質(ROOH;peroxide substrate)、グルタチオンレダクターゼ(GSSG-R;glutathione reductas)及びNADPH(b-Nicotinamide Adenine Denucleotide Phosphate、Reduced)が混ざった反応混合物を用いた。まず、 hemolymphサンプル50μlをマイクロプレートに入れ、反応混合物40μlを添加して、15分間反応させた。その後クメンヒドロペルオキシド10μlを添加し、340nmで吸光度を測定した。5分後に340nmで再び吸光度を測定し、GPx活性はnmol/min/mlで計算した。
【0095】
2‐5‐3.リゾチーム活性の分析
リゾチーム活性の分析は、非特許文献6の方法を基に分析した。
【0096】
具体的には、リゾチームは非特異的(先天的)免疫反応に属する抗菌酵素の一つであって、特定細菌に対する特異的な抗菌作用ではなく、非特異的にさまざまな菌に対する抗菌作用を示す酵素である。病原菌に対する抗菌メカニズムは、細菌細胞壁の構成成分であるpeptidoglycanのβ‐1,4‐グルコシド結合を加水分解して細菌の細胞壁を破壊することにより抗菌作用を示す。リゾチームは、特にグラム陽性菌に対する抗菌効果が優れている。これらのメカニズムに起因してリゾチーム活性(lysozyme activity)は魚類を含むエビにおける非特異的免疫反応を測定する分析項目として広く用いられており、エビ飼料内の免疫活性因子(ascorbic acid、β-glucan、probioticsなど)の添加時のエビのhemolymph及び組織において増加したリゾチーム活性を確認することができ、これらの結果は、非特異的免疫反応の増加または魚類(エビ)の免疫力の向上を示す結果と解釈される。
【0097】
2‐5‐4.フェノールオキシダーゼ(PO;Phenoloxidase)活性の分析
PO活性の分析は、非特許文献7の方法を基に分析した。
【0098】
具体的には、フェノールオキシダーゼは甲殻類の防御メカニズムに非常に重要な役割をする酵素であって、血球細胞内のプロフェノールオキシダーゼ(prophenoloxidase)形態で存在している途中プロフェノールオキシダーゼ活性化システム(Prophenoloxidase activating system)によって活性化される。活性化されたフェノールオキシダーゼはオプソニンを生産して血球の食細胞活動と外来抗原に対する被覆作用を促進させ、血液凝固反応に参与する。したがってhemolymph内のフェノールオキシダーゼ活性はエビの先天性免疫の重要な指標として用いられる。
【0099】
2‐5‐5.スーパーオキシドジスムターゼ(SOD;Superoxide dismutases)活性の分析
SOD活性はSOD assay kit(Sigma-aldrich、19160、St. Louis、USA)を用いて分析した。
【0100】
具体的には、96ウェルプレートに20μlのradical detectorを添加した後、血液サンプルを10μlずつ入れた。その後、20μlキサンチンオキシダーゼ(xanthine oxidase)を添加して20分間反応させた後、マイクロプレートリーダー(Themo)を用いて、450nmで吸光度を測定した。
【0101】
2‐5‐6.アンチプロテアーゼ(Antiproteases)活性の分析
Hemolymph内のアンチプロテアーゼの活性は非特許文献8の分析方法に基づいて分析した。
【0102】
具体的には、Hemolymph 20μlとstandard trypsin solution(Type II-S、from porcine pancreas、Sigma-aldrich、A2765、St. Louis、USA)20μlを混合した後、10分間22℃で培養した。リン酸緩衝液 (0.1M、pH 7.0)200μlとazocasein(2%)(Sigma-Aldrich)250μlを添加し、22℃で1時間培養した後、トリクロロ酢酸 (10%)(TCA)500μlを再び添加し22℃で30分間培養した。前記培養された溶液を遠心分離(6000g、5分)し、100μlを96ウェルプレートに分注した後、100μlのNaOH(1N)を添加して、マイクロプレートリーダーを用いて430nmで吸光度を測定した。
【0103】
前記非特異的免疫力の分析を行った2‐5‐1~2‐5‐6の結果を下記表9に示した。
【表9-1】
【表9-2】
【0104】
表9及び
図5に示すように、NBT活性及びPO活性はBSグループ1及びBSグループ3の両方が対照群1及び対照群2に比べて有意的に高い数値を示し、特に、PO活性の場合、BSグループ1は対照群1より26.8%高い数値を示した。抗タンパク分解酵素活性は、BSグループ1及びBSグループ3の両方対照群1及び対照群2に比べて有意的に高い数値を示しており、特にBSグループ1は対照群1より15.8%高い数値を示した。リゾチーム活性及びSOD活性は、BSグループ1及びBSグループ3の両方は対照群1に比べて有意的に高かった。GPx活性はBSグループ1及びBSグループ3の両方が対照群1及び対照群2に比べて有意的に高い数値を示し、特に対照群1に比べて、それぞれ27.7%及び28.8%の高い値を示すことを確認した。
【0105】
2-6.水質分析及び飼育水無交換実験
8週間の飼養試験期間中に5日ごとに1回、各水槽で飼育水サンプルを採取して水質分析を行った。サンプルは、各タンクごとに同じ位置で収集し、溶存酸素(Dissolve oxygen;DO)、塩分、pH、アンモニア(Ammonium;NH4
+)の濃度を測定した。DOはThermo Scientific Orion Star A216 Benchtop Meter(Thermoscientific)、塩分はMaster Refractometer(ATAGO)を用いて測定した。pHはSeven Compact(METTLER TOLEDO)を用いて測定した。NH4
+は、非特許文献9の方法を用いて分析した。
【0106】
飼育水無交換(zero water change)の方式で、平均体重2.87(±0.08)gのシロアシエビ(L. vannamei)を合計14個の96Lの水槽に各水槽当り12匹ずつランダムに配置した。試験区当り2繰り返しを置き、1日4回(08:30、12:00、15:30及び19:00)に分けて、体重の12%の試験飼料を給餌した。非特許文献9の方法に基づいて、毎日1回採水して飼育水の総アンモニア濃度を10日間測定した。これに対する結果を表10に示した。
【表10】
【0107】
表10及び
図6に示すように、興味深いことに、7日目から対照区に比べてすべての試験区が総アンモニア濃度で低い結果を見せ始めており、10日目では、すべての試験区が対照区に比べて有意的に低いアンモニア濃度を示した。
【0108】
2-7.消化率の分析
2‐7‐1.指示剤(Cr2O3)分析
試験飼料と糞便サンプルにおける酸化クロム(chromium oxide)の含量を分析するために、非特許文献10の方法を用いた。
【0109】
具体的には、試験飼料及び糞便サンプルは、灰化炉で(550℃)で4時間灰化させた後に得られた試料を分析に用いた。まず、酸化クロムをmonochromate形態で酸化させるために、糞便サンプル5~10mgを測定してガラス試験管に移した。試料が入ったガラス試験管に過塩素化試薬(HClO4;perchloric reagent)4mlを添加した。過塩素化試薬(70%)は、100mlの蒸留水に200mlの硝酸を混合して冷却させた後、70%過塩素化試薬200mlを混合して作った。前記試料と過塩素化試薬が添加されたガラス試験管を加熱板に入れて、300℃で15分間加熱した後、室温で放冷させた。前処理が終了したサンプルは、50mlガラスフラスコに移し、3次蒸留水に25mlになるよう定量した。その後、分光光度計(Beckman DU-730)を用いて350nmで吸光度を測定した。測定した吸光度は、試料分析のように前処理されたstandard溶液で作られたstandard方程式を用いて、試料の酸化クロム含量を計算した。
【0110】
2‐7‐2.乾物及びタンパク質消化率の分析
試験飼料の乾物及びタンパク質の消化率は、次のような方法で計算した。
【数7】
【0111】
飼養実験終了後に行った消化率の分析結果は、表11に示した。
【表11】
【0112】
表11に示すように、乾物の消化率及びタンパク質の消化率では、すべての試験区は対照区に比べて有意に高い結果を示した。
【0113】
実験例3.WSSVに対する飼料組成物の予防効果の評価
バチルス・サブチリスを含有する飼料組成物の抗ウイルス効果を確認するために、ホワイトスポット病症候群ウイルス(WSSV)のエビに対する攻撃試験を行った。前記ホワイトスポット病症候群ウイルスの場合には、2017年に韓国の養殖場でWSSVに感染したシロアシエビ(Litopenaues vannamei)から分離したウイルスを用いた。攻撃試験の場合、実施例の飼料組成物をエビに6週間供給した後、同じ重量(平均重量:6.25g)のエビをグループごとに96匹ずつ4つ反復して配置した。ウイルスの接種濃度は4.1×105コピー/μlでエビ一匹あたり100μlを、注射器を用いてエビの筋肉に接種した。一匹あたり最終接種濃度は4.1×107コピー/μlである。
【0114】
接種後エビの斃死及び遊泳状態を確認した。試験飼料は1日3回(8:30、13:30及び18:30)に分けて制限供給(魚体重の10~12%)し、125時間斃死程度を観察した。これに対する結果を下記の表12に示した。
【表12】
【0115】
表12に示すように、バチルス・サブチリスを含む実施例2の飼料組成物が提供されるBSグループ1は、ホワイトスポット病症候群ウイルスのエビに対する攻撃試験において、比較例1の飼料組成物が投与された対照群1に比べて高い生存率を示した。
【0116】
実験例4.WSSV及びAHPNDの複合感染に対する飼料組成物の予防効果の評価
バチルス・サブチリスを含有する飼料組成物の抗菌及び抗ウイルス効果を確認するために、腸炎ビブリオ菌及びホワイトスポット病症候群ウイルスのエビに対する攻撃試験を行った。前記ビブリオ菌株の場合、2013年にベトナムの地域で分離したAHPND(EMS)誘発菌株を試験に用いた。前記ホワイトスポット病症候群ウイルスの場合、2017年に韓国の養殖場でWSSVに感染したシロアシエビ(Litopenaues vannamei)から分離したウイルスを用いた。攻撃試験の場合、実施例の飼料組成物をエビに6週間供給した後、同じ重量(平均重量:4.52g)のエビをグループごとに96匹ずつ4つ反復して配置した。ウイルスの接種濃度は8.3×103 コピー/μlでエビ1匹当り50μlを注射器を用いてエビ筋肉に接種した。1匹当り最終接種濃度は4.1×104 コピー/μlである。ウイルス接種して2日経過後、ビブリオ細菌感染を行った。
【0117】
前記細菌はTSB+培地を用いて30℃、150rpmで24時間培養し、タンクごとに1.3×10
5 CFU/mlの濃度で腸炎ビブリオ菌懸濁液を浸漬した。浸漬後1時間ごとにエビの斃死及び遊泳状態を確認した。試験飼料は1日3回(8:30、13:30及び18:30)に分けて制限供給(魚体重の10~12%)し、7日間の斃死の程度を観察した。これに対する結果を下記の表13に示した。
【表13】
【0118】
表13に示すように、バチルス・サブチリスを含む実施例1の飼料組成物が提供されたBSグループ1は、腸炎ビブリオ菌及びホワイトスポット病症候群ウイルスのエビに対する攻撃試験において、比較例1の飼料組成物が投与された対照群1に比べて高い生存率を示した。
【0119】
以上の実施例を介して、本出願に係るバチルス・サブチリスを含む飼料組成物は、シロアシエビの成長、飼料効率、消化率、飼育水質及び非特異的免疫力を高めることができ、また、高タンパクのシロアシエビの生産を可能にすることにより、エビの商品性を高めると期待できる。
【受託番号】
【0120】
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国外)
受託番号:KCCM11143P
受託日:20101214
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国外)
受託番号:KCCM11144P
受託日:20101214
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国外)
受託番号:KCCM11270P
受託日:20120322
【0121】
【0122】
【0123】