IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ウエスト ファーマスーティカル サービシーズ インコーポレイテッドの特許一覧

<>
  • 特許-タガントを含むエラストマー部品 図1
  • 特許-タガントを含むエラストマー部品 図2A
  • 特許-タガントを含むエラストマー部品 図2B
  • 特許-タガントを含むエラストマー部品 図2C
  • 特許-タガントを含むエラストマー部品 図3A
  • 特許-タガントを含むエラストマー部品 図3B
  • 特許-タガントを含むエラストマー部品 図3C
  • 特許-タガントを含むエラストマー部品 図4A
  • 特許-タガントを含むエラストマー部品 図4B
  • 特許-タガントを含むエラストマー部品 図5
  • 特許-タガントを含むエラストマー部品 図6
  • 特許-タガントを含むエラストマー部品 図7
  • 特許-タガントを含むエラストマー部品 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】タガントを含むエラストマー部品
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/05 20060101AFI20220308BHJP
【FI】
A61J1/05 315A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021521806
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 US2019050186
(87)【国際公開番号】W WO2020055737
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-04-20
(31)【優先権主張番号】62/729,814
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517229774
【氏名又は名称】ウエスト ファーマスーティカル サービシーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】クリザン・ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】サリヴァン・マイケル
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-62564(JP,A)
【文献】特表2015-507028(JP,A)
【文献】特開2003-37730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調合薬品を含む器具に用いられるエラストマー部品であって、
外面に薬剤との接触面を含み、
少なくとも1つのタガントと第1エラストマー材とを含む第1部分と、
前記第1部分と前記接触面との間に第2エラストマー材を含む第2部分と
を備え、
前記タガントが、前記第1エラストマー材に対しては第1拡散率を示し、前記第2エラストマー材に対しては、前記第1拡散率よりも低い第2拡散率を示す
ことを特徴とするエラストマー部品。
【請求項2】
前記第1部分が前記第2部分に隣接している、請求項1に記載のエラストマー部品。
【請求項3】
前記第1部分がエラストマーマトリックスを含み、
前記第1エラストマー材が前記エラストマーマトリックスの連続相を含み、
前記タガントが前記エラストマーマトリックスの不連続相を含む、
請求項1に記載のエラストマー部品。
【請求項4】
前記第1エラストマー材と前記第2エラストマー材とのそれぞれが、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、フッ素系エラストマー、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレン-プロピレン三元重合体、シリコンゴム、およびそれらの組み合わせで構成される群の中から独立に選択された重合体を含む、請求項1に記載のエラストマー部品。
【請求項5】
前記第1エラストマー材の重合体が前記タガントの表面に共有結合している、請求項4に記載のエラストマー部品。
【請求項6】
前記タガントが磁気を帯びている、請求項1に記載のエラストマー部品。
【請求項7】
前記タガントが蛍光を放つ、請求項1に記載のエラストマー部品。
【請求項8】
前記タガントが、前記第1エラストマー材に対する1以上の識別可能な性質を持ち、
前記識別可能な性質が、粒度、粒度分布、粒形、粒形分布、色、同位体組成、およびそれらの組み合わせで構成される群の中から選択されている、
請求項1に記載のエラストマー部品。
【請求項9】
前記タガントが、セラミック材、炭化水素油、フッ化炭素油、磁性体、表面が機能化された微粒子、同位体比が特異な微粒子、複合粒子、およびRFIDマイクロチップで構成される群の中から選択されている、請求項1に記載のエラストマー部品。
【請求項10】
前記第2部分の表面の少なくとも一部に、バリア膜を備えている、請求項1に記載のエラストマー部品。
【請求項11】
前記バリア膜が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレンの単独重合体と共重合体(TFE)、パーフルオロアルコキシ重合樹脂(PFA)、ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリエチレンテトラフルオロエチレン(PETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、フッ化エチレンプロピレン共重合体(FEP)、ポリエチレンクロロトリフルオロエチレン(PECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、およびそれらの誘導体で構成される群の中から選択された材料を含む、請求項10に記載のエラストマー部品。
【請求項12】
前記タガントの平均的な粒度が、前記バリア膜の平均的な穴径よりも大きい、請求項10に記載のエラストマー部品。
【請求項13】
調合薬品を収容し、少なくとも1つの開口部を含む容器と、
前記開口部を塞ぐ、請求項1に記載のエラストマー部品と
を備えた封入システム。
【請求項14】
前記第2部分が前記第1部分と前記調合薬品との間に位置するように、前記エラストマー部品が前記開口部に挿入されている、請求項13に記載の封入システム。
【請求項15】
前記エラストマー部品が、瓶の栓、注射器のプランジャー、カートリッジのピストン、針シールド、および注射器の先端のキャップで構成される群の中から選択されている、請求項13に記載の封入システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2018年9月11日を出願日とする米国特許仮出願第62/729,814号に対する優先権主張を伴うものであり、その開示内容の全体がここには参照によって組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
本発明の様々な実施形態は、タガントを含むエラストマー部品に関し、特に、医療器具用の栓、プランジャー、針シールド、先端のキャップ等の部品、特に封入システムに使用される、タガントを含むエラストマーに関する。
【0003】
特に医療器具の分野では、製品の偽造防止を目的として、ラベルと製品のパッケージとに印、またはその他の識別可能な特徴が付与され、製造元の特定、または製品の出所の確認に利用されている。しかし、1つの製品を組み立てている部品の1つ1つに、識別可能な印または性質を付与する試みは、ほとんど為されていない。
【0004】
従来の試みはパッケージの全体、すなわち組み立てられてパッケージに収められた製品の全体に利用されているので、その製品の各部を形成する部品のそれぞれに関する製造工程では、早い段階で偽造を特定することができない。したがって、製品が使用される前に部品の製造元が確認されるように、部品を改良し、かつ、部品に抗偽造性を付与する方法を改良する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
1つの側面では、本発明は、第1部分と第2部分とを備えた医療用部品に関する。第1部分は少なくとも1つのタガントと第1エラストマー材とを含み、第2部分は第2エラストマー材を含む。タガントは、第1エラストマー材に対しては第1拡散率を示し、第2エラストマー材に対しては、第1拡散率よりも低い第2拡散率を示す。
【0006】
別の側面では、本発明は、エラストマーとバリア膜とを備えた医療用部品に関する。エラストマーは少なくとも1つのタガントを含み、バリア膜は医療用部品の表面の少なくとも一部に設置されている。バリア膜には平均的な穴径があり、タガントの平均的な粒度がバリア膜の平均的な穴径よりも大きい。
【0007】
別の側面では、本発明は医療用部品の製造方法に関する。この方法は次のステップを備えている。エラストマー材から成る第1シートを用意するステップ。型を用意し、その型に、1以上のタガントを含む液体を塗布するステップ。用意された型の中に第1シートを配置して第1シートを成型し、エラストマー材を硬化させて医療用部品の形に整えるステップ。これにより、液体の中のタガントが医療用部品の中に組み込まれる。
【0008】
別の側面では、本発明は医療用部品の別の製造方法に関する。この方法は次のステップを備えている。エラストマー材から成る第1シートを用意するステップ。第1シートの少なくとも一部に塗布すべきバリア膜を用意するステップ。1以上のタガントを含む液体を第1シートの第1面、またはバリア膜の第1面に塗布するステップ。バリア膜の第2面が型に接触し、かつバリア膜の第1面が第1シートの第1面に接触するように、型の中に第1シートとバリア膜とを配置するステップ。第1シートを成型し、エラストマー材を硬化させて医療用部品の形に整えるステップ。これにより、液体の中のタガントが、硬化したエラストマー材の中に組み込まれる。
【0009】
別の側面では、本発明は医療用部品の別の製造方法に関する。この方法は次のステップを備えている。少なくとも1つのタガントが中に、または表面に組み込まれた第1エラストマー材から、医療用部品の第1部分の少なくとも一部を成型するステップ。タガントを含まない第2エラストマー材で第1部分を外側被覆するステップ。第1エラストマー材と第2エラストマー材とを硬化させて医療用部品の形に整えるステップ。
【0010】
本発明のこれらの側面は、他の側面と共に、以下の説明を考慮すれば明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の様々な側面と実施形態とは、以下の図面を参照しながら説明される。これらの図面が必ずしも寸法どおりには描かれていないことは、理解されるべきである。これらの図面には、本発明の概念に従って1以上の実施形態が描かれているが、これらは例示のみを目的とし、限定を目的としてはいない。これらの図面では、同様な参照番号が同じ、または同様な構成要素を示す。
【0012】
図1】ある瓶の上面図である。この瓶は、本発明のある実施形態によるエラストマー材を含む栓で閉じられている。
図2A図1に描かれている栓の模式的な縦断面図である。
図2B図2Aの領域2Bの拡大図である。
図2C】本発明の別の実施形態による栓の模式的な縦断面図である。
図3A】ある薬剤充填済み注射器の上面斜視図である。この注射器は、本発明の別の実施形態によるエラストマー材を含むプランジャーと針シールドとを備えている。
図3B図3Aに描かれているプランジャーの模式的な縦断面図である。
図3C図3Aに描かれている針シールドの模式的な縦断面図である。
図4A】ある薬剤充填済みルアーロック式注射器の上面斜視図である。この注射器が含む先端のキャップは、本発明の更に別の実施形態によるエラストマー材を含む。
図4B図4Aに描かれているキャップの模式的な縦断面図である。
図5】本発明の別の実施形態によるエラストマー材の重合体に共有結合しているタガントの模式図である。
図6】本発明のある実施形態による1段階成型処理を示す図である。
図7】本発明の別の実施形態による2段階成型処理を示す図である。
図8】本発明の別の実施形態による2段階成型処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の様々な実施形態は、全体としては重合による合成物を対象とし、特に、1種類以上のタガントを含むエラストマー合成物を対象とする。各タガントはその物理的、または化学的性質により、明確に識別可能である。エラストマー合成物は、好ましくは医療器具の部品、特に、エラストマー製の栓、キャップ、プランジャー、針シールド、針キャップ、注射器のカートリッジ、瓶等のエラストマー部品の製造に利用される。好ましくは、タガントはエラストマー部品の表面、またはその近傍に設置される。医療用部品のエラストマー合成物の中に含まれるタガントが明確に識別されることにより、その部品の出所を特定することができるので、医療器具、特に、瓶、注射器等の封入器具の供給網における早い段階で、偽造部品の使用が防止される。さらに、正規の瓶に偽薬品、または粗悪な薬品を再封入するのに、偽造されたエラストマー/シールが使用されるのを防ぐことは、患者/介護者にとっても有益である。
【0014】
使用可能なエラストマー材の例には次のものが含まれる。ポリイソプレン;ポリブタジエン;スチレン-ブタジエン共重合体;エチレン-プロピレン共重合体;エチレン-プロピレン-ジエン共重合体;クロロスルホン化ポリエチレン;エチレン-酢酸ビニル共重合体;スチレン-イソプレン共重合体;FKM、パーフルオロエラストマー(FFKM)、テトラフルオロエチレン/プロピレンゴム(FEPM)等のフッ素系エラストマー;ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ハロゲン化ブチルゴム(たとえば臭化ブチルゴム)、エチレン-プロピレン三元重合体、シリコンゴム等の合成ゴム、または天然ゴム;および、それらの組み合わせ。ただし、これらに限られるわけではない。好ましくは、エラストマー材はブチルエラストマーまたはハロブチルエラストマーである。さらに、エラストマー材は、その性質を向上させ、または高める目的で、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加工助剤、充填剤、および補強剤等、1以上の添加剤を含んでいてもよい。
【0015】
本発明の様々な実施形態によれば、エラストマー材に含まれ、または塗布されている1以上のタガントは、1以上の識別可能な性質を持つ様々な物質の中から選択可能である。そのような性質には、粒度、粒度分布、粒形、粒形分布、色、および、同位体濃縮/標識の結果として特異的に得られる化学組成が含まれる。ただし、これらに限られるわけではない。たとえば、熱水合成された結晶物質は作製が難しく、粒度分布が狭いことが知られている。したがって、そのような結晶物質をタガントとしてエラストマー材に組み込むことにより、結晶性タガントの粒度分布を、そのエラストマー材に固有の識別子として使用することができる。
【0016】
本発明の実施形態によれば、エラストマー部品に組み込み、または塗布することが可能なタガントの例には次のものが含まれる。希土類金属が注入されたセラミックス;分光学的検出(たとえば、赤外線検出、または紫外線-可視光検出)に用いられる炭化水素油、またはフッ化炭素油;分光学的検出(たとえば、赤外線検出、または紫外線-可視光検出)に用いられる、蛍光を発する有機化合物、または無機化合物;強磁性セラミックス、低保磁力材等の磁性体;表面が機能化された微粒子;および、複合粒子(たとえば、有機物または反応物質のシェルで覆われたセラミックスのコア)。ただし、これらに限られるわけではない。実施形態の中には、タガントがRFIDマイクロチップを含むものがあってもよい。
【0017】
本発明のある好ましい実施形態ではタガントが、サイズ、形、またはスペクトル特性によって区別可能なセラミックス製のタガントである。本発明の別の好ましい実施形態ではタガントが、同位体比が特異なエラストマー材用充填剤である。そのような充填剤の例には、重水素化された有機分子、臭素に富んだセラミックスがある。本発明の別の実施形態では、エラストマーマトリックスの中に複数のタガントが様々な濃度で組み込まれ、そのエラストマーマトリックスの組成を更に複雑にし、偽造部品の製造、またはタグ付けされたエラストマー部品の改竄を更に困難にしている。封入システム(たとえば、注射器、または瓶)に使用されるべきエラストマー部品の表面、または内部にタガントを組み込むことにより、そのエラストマー部品を特定のロットまで遡ることも可能であろう。
【0018】
本発明の他の実施形態では、タガントが充填剤を含む。これらの充填剤は典型的には、医療用部品の作製に利用されるエラストマー材に含まれるが、固有の特性が得られるように前処理を受けている。たとえば、充填剤の少なくとも一部が表面機能化され、またはそれらに同位体が濃縮されることにより、その充填剤には、質量分析、赤外線分光分析、またはラマン分光分析等の解析方法によって測定可能な固有の化学組成、および/または固有の濃度が与えられている。充填剤の表面機能化はまた、修飾された充填剤がエラストマーマトリックスに、より容易に組み込まれることをも可能にするものであってもよい。
【0019】
たとえば、図5を参照すると、タガント粒子50は表面に官能基Mを含む。その他に、タガント粒子50が、表面に官能基Mを含むシェル52で被覆されていてもよい。官能基Mは、エラストマー材Eの官能基Zと容易に反応して共有結合を形成するものである。当業者には周知であろうように、官能基M、Zは、様々な反応物質の対(たとえば、ヒドロキシル基、カルボン酸、ビニル基、ハロゲン化合物、エポキシ基)の中から選択可能である。その他に、官能基M、Zが重合可能な官能基(たとえば、アクリレート、メタクリレート、スチリル、またはその他のビニル基)を含むことにより、タガントの表面がエラストマーと共重合してもよい。
【0020】
先に述べたとおり、本発明の実施形態に従って作製されたエラストマー部品は、好ましくは、瓶の栓、注射器のプランジャー、針シールド、先端のキャップ、または容器のキャップ/シール(たとえば、瓶のフリップオフキャップ)の形をしている。しかし、本発明はそのような形状に限られるものではなく、任意の医療用部品を含み得ることは理解されるであろう。それらの医療用部品には、たとえば、カートリッジのピストン(プランジャー、栓、または閉塞具)、注射器のピストン(プランジャー、栓、または閉塞具)、瓶のピストン(プランジャー、栓、または閉塞具)、シール、ガスケット、薬剤充填済み注射器の部品、スリーブまたは容器の栓、フラッシュバックバルブ、キャップ、ライナー、ワッシャー、その他、薬学的に純粋な物質または薬物に触れ得る部品/器具が含まれる。
【0021】
好ましい実施形態では、エラストマー部品の使用の対象となり得る調合薬がインスリン(または、その誘導体、配合成分、またはアナログ薬)である。たとえば、「インスリン」という語は、以下で使用されるように、インスリン、インスリンアナログ、インスリン誘導体、またはその混合物を意味し、ヒトインスリン、ヒトインスリンアナログ、または誘導体を含む。インスリンアナログの例には、Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)ヒトインスリン;Lys(B3)、Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28)、Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;B28位のプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaに置換され、B29位のLysがProに置換されたヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリン;または、Des(B30)ヒトインスリンが含まれる。ただし、これらに限られるわけではない。インスリン誘導体の例には、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイル ヒトインスリン;B29-N-パルミトイル ヒトインスリン;B28-N-ミリストイル LysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N(N-パルミトイル-Y-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N(N-リソコリル-Y-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(w-カルボキシヘプタデカノール)-des(B30)ヒトインスリン;および、B29-N-(w-カルボキシヘプタデカノール)ヒトインスリンが含まれる。ただし、これらに限られるわけではない。エラストマー部品の使用の対象となり得る調合薬は、一般に、生物学的な価値が高い薬、または個人で注入可能な薬であり、特に、非経口投与の薬物である。
【0022】
図1図2A図2Bを参照すると、本発明の1つの実施形態によるエラストマー部品22が示されている。エラストマー部品22は栓の形をしており、瓶20の開口部に挿入されている。エラストマー部品22はエラストマー材16と複数のタガント粒子18a、18b、18c(以下、タガント18と総称する。)とを含む。タガント18はエラストマー材に組み込まれ、または塗布されている。好ましい実施形態では、エラストマー材16がエラストマーマトリックスの連続相を形成する一方、タガント18がエラストマーマトリックスの不連続相を形成している。図2Bに示されているタガント粒子18a、18b、18cが単一の種類であっても、複数の異なる種類であってもよいことは、当業者には理解されるであろう。タガント18は、好ましくは、エラストマー部品の少なくとも表面に、またはその近傍に埋め込まれているが、エラストマー部品の本体の全体に埋め込まれていてもよい。
【0023】
ある実施形態ではエラストマー部品22が、好ましくは、バリア膜12を更に備えている。バリア膜12は、エラストマー部品22の外面の少なくとも一部に塗布されている。好ましくは、バリア膜12は、エラストマー部品22の外面のうち、瓶20の内部空間に位置するように構成された部分に塗布されている。この部分は、瓶20に収められた製品と接触する可能性が高い。バリア膜は、好ましくは、エラストマー部品22のエラストマーマトリックスからタガントが瓶20の中身へ拡散するのを防ぎ、または、少なくともその可能性を低減させるように構成されている。たとえば、瓶20の中身が調合薬品である場合、タガントと調合薬との間の相互作用は望ましくない。調合薬の安全性、および/または有効性に、タガントが影響を与えかねないからである。タガントと調合薬品との間の接触を防ぐことは、特に、人または動物に皮下注射し、または静脈注射することを目的とする調合薬に対しては、重要である。
【0024】
図2Bを参照すると、バリア膜12は、その材料にタガント18a、18b、18cが溶け込まないように構成されている。ある実施形態では、バリア膜12が連続体、および/または無孔材である。別の実施形態では、バリア膜12が複数の穴14を含む。これらの穴14の平均径は、タガント18a、18b、18cの平均的な粒径よりも小さいサイズに設定されている。これにより、バリア膜12は、タガント18の透過を防ぐ物理的な障壁になっている。粒度は、それに応じた様々な既知の顕微鏡検査技術、または動的光散乱によって測定可能である。バリア膜の平均的な穴径は75nm以上、20μm以下である。しかし、エラストマーに組み込まれる特定のタガント18に応じて適切な穴径のバリア膜12が選択されることは、当業者には理解されるであろう。
【0025】
バリア膜12は1以上の重合体を含む。好ましい実施形態では、バリア膜12がフッ素重合体膜である。フッ素重合体は、当該技術分野では容易に理解されるものであり、それらの詳細な説明は本発明の完全な理解には不要である。フッ素重合体の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン(ETFE)、テトラフルオロエチレンの単独重合体と共重合体(TFE)、パーフルオロアルコキシ重合樹脂(PFA)、ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリエチレンテトラフルオロエチレン(PETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、フッ化エチレンプロピレン共重合体(FEP)、ポリエチレンクロロトリフルオロエチレン(PECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、および、これらの誘導体が含まれる。ただし、これらに限られるわけではない。好ましくは、バリア膜12はPTFEまたはETFEで形成されている。
【0026】
上記のエラストマー部品22を含め、この明細書で説明されるエラストマー部品はすべて、好ましくは、成型処理によって作製される。この明細書で開示される実施形態のすべてにおいて、各成型段階の時間、熱、圧力は、使用されるエラストマー材とタガントとの種類、エラストマー材の部分的な硬化と全体的な硬化とのいずれの結果を望むか等、様々な要因に依存する。このようなエラストマー材とその成型処理(たとえば、圧縮成型、射出成型、外側被覆)とは当該技術分野ではよく知られており、各成型段階の時間、温度、圧力の設定についての詳細な説明は本発明の完全な理解には不要である。たとえば、この明細書で開示される実施形態における各成型段階は、好ましくは、約120℃-310℃の温度、約40kg/cm2-350kg/cm2の圧力で数秒間(たとえば10秒未満)-30分間行われ、更に好ましくは、約120℃-220℃の温度、約40kg/cm2-70kg/cm2の圧力で約30秒間-30分間行われ、更に好ましくは、約140℃-220℃の温度、約40kg/cm2-70kg/cm2の圧力で約2分間-15分間行われる。
【0027】
図6を参照すると、医療用部品の製造方法の実施形態が示されている。この方法では、型114とエラストマーシート116とが1段階成型処理、特に1段階圧縮成型処理で利用される。しかし、型114が、図6に示されている形態には限られず、瓶の栓、注射器のピストン、針シールド、先端のキャップ、キャップ等、エラストマー部品を望ましい形態に仕上げるのに必要ないかなる形態と寸法とでもあり得ることは、当業者には理解されるであろう。
【0028】
図6を参照すると、型114は上半部115と下半部117とを含む。上半部115には、開口部のあるキャビティ115aがあり、下半部117には、開口部のあるキャビティ117aがある。各キャビティ115a、117aは、好ましくは、熱成型用のキャビティ115である。好ましい実施形態では、型114が複数の上半部115と下半部117とを含み、それらのキャビティ115a、117aが1つの配列に並べられている。図6が示す実施形態では、下半部117のキャビティ117aの底面が平面123を形成している。平面123はまた、下半部117の内側の底面でもある。
【0029】
エラストマーシート116は、好ましくは、部分的な硬化段階において1以上のエラストマー材(すなわち、上記のエラストマー材)から形成される。この成型段階の処理条件は、120℃-310℃、約40kg/cm2-350kg/cm2で数秒間-30分間であり、好ましくは、約120℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約30秒間-30分間であり、更に好ましくは、約140℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約2分間-15分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-165℃、約50kg/cm2で約15分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約8分間である。このように、エラストマーシート116は、基本的には、エラストマーの予備成型品である。エラストマーシート116は第1面119と反対側の第2面121とを含む。
【0030】
好ましい実施形態では、まず、エラストマー材に組み込まれるべきタガントを含むスラリー液、懸濁液、または溶液(以下、「タガント液」と略称する。)が形成される。タガント液は、好ましくは、完成したエラストマー部品の清浄度を維持できるほど、十分にきれいである。たとえば、タガント液は、pHシフトを生じさせ得るいかなる残留物も含むべきではなく、完成したエラストマー部品からの抽出物/浸出物を増加させるべきでもない。好ましくは、タガントが純水中に分散してタガント液を形成し、その水分が成型前には完全に消失する。成型前には完全に揮発させることが可能であり、かつ満足な性質も備えている、他の一般には安全な溶液には、低分子量シリコーン、エタノール、イソプロピルアルコール、またはヘプタンが含まれる。ただし、これらに限られるわけではない。タガント液にはまた、ポリソルベート(すなわち、ポリソルベート20)等の界面活性剤が組み込まれ、分散を促してもよい。
【0031】
ある実施形態では、1以上のタガント、またはタガント液がエラストマーマトリックスの中に、またはエラストマーシート116の形成に使用される組成物の中に、直に組み込まれる。別の実施形態では、タガント液が、エラストマーシート116、バリア膜12、または型114のいずれかに、直に塗布される。そうすることにより、タガントが成型品の表面、および/またはその近傍に埋め込まれる。好ましくは、タガント液がスプレーで塗布される。スプレー噴射には、塗料のスプレー噴射に利用される技術と同じ技術、すなわち、無気噴霧、または圧縮空気(たとえば、<60psi)を使用する技術のいずれかが利用されてもよい。型114にタガント液をスプレーで吹き付けることにより、より多量のタガントを塗布することができる。スプレー噴射の条件の詳細が、使用されるタガントの種類に依存することは、タガント液の他の性質(たとえば、粘度)に依存することと共に、当業者には理解されるであろう。
【0032】
タガント液の塗布が必ずしもスプレー噴射によるものでなくてもよく、様々な既知の被覆方法のいずれによるものであってもよいことは、当業者には理解されるであろう。たとえば、塗装(たとえば、ブラシとの接触を利用するもの)、浸漬被覆(たとえば、溶液もしくは分散液のいずれかの中で行われるもの、または、乾燥粉末に接触させることによるもの)、蒸着、または昇華により、タガント液が塗布されてもよい。
【0033】
図6の実施形態による製造方法はバリア膜12を利用するものであるが、その方法ではエラストマーシート116とバリア膜12とが型の下半部117の上方に設置される。組み合わされる位置では、バリア膜12の片面128が平面123と接触し、特に、直に接触する。上記のとおり、1以上のタガント、またはタガント液が、エラストマーシート116の形成に利用されるエラストマーマトリックスの中に、すでに組み込まれている。その他に、好ましくは、エラストマーシート116の第1面119もしくは第2面121のいずれか、または、エラストマーシートの第2面121に接触するように構成されたバリア膜12の表面126に、タガント液が(たとえば、スプレーにより)塗布される。その後、タガント液が乾くように、組み合わされた物が所定時間放置される。これにより、搬送液/溶媒の全体、または実質的な全体が、成型前に消失する。たとえば、タガント液を乾燥させる目的で、組み合わされた物が約0.05秒から900秒までの時間、好ましくは、約1秒間-60秒間、放置されてもよい。この乾燥処理には既知の乾燥機構または乾燥方法のいずれが利用されてもよい。好ましい実施形態では、タガント液がバリア膜12に塗布されることにより、エラストマーの表面構造にいかなる液体も捕らわれないようになっている。
【0034】
その後、組み合わされた物が圧縮成型を受けることにより、エラストマー材の全体が硬化する。特に、型114が閉じられて各上半部115が各下半部117を覆い、熱と圧力とが加えられてエラストマーシート116のエラストマー材を流動化させる。これにより流動化したエラストマー材が型の各キャビティ115a、117aのすべての領域に押圧される。この押圧は、エラストマー材が硬化して医療用部品22の形に整えられるまで続けられる。
【0035】
この成型段階における処理条件は、120℃-310℃、約40kg/cm2-350kg/cm2で数秒間-30分間であり、好ましくは、約120℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約30秒間-30分間であり、更に好ましくは、約140℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約2分間-15分間である。ある実施形態では処理条件が、150℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約10分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-165℃、約50kg/cm2で約15分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約8分間である。
【0036】
ある実施形態(図示せず。)では、バリア膜12が図6の方法には使用されない。このような実施形態では、タガント液が、エラストマーマトリックスの中に組み込まれても、エラストマーシート116の表面121に直に塗布されても、型114に直に塗布されてもよい。好ましくは、バリア膜が使用されない場合は、タガント液が型114に塗布される。型のキャビティ115a、117aには、離型液が塗布された後、タガント液が(たとえば、スプレーで)塗布されてもよい。その他に、タガント液が離型液に組み込まれ、その後、キャビティ115a、117aに(たとえば、スプレーで)塗布されてもよい。
【0037】
本発明の別の実施形態では、図2Cに示されているように、エラストマー部品23が第1部分15と第2部分19とを備えている。第1部分15は、少なくとも1種類のタガント18が中に組み込まれた第1エラストマー材16を含む。第2部分19は、いかなるタガントも含まない第2エラストマー材17を含む。第2部分19は、好ましくは、第1部分15の少なくとも一部を覆うように構成され、タグ付けされた第1部分15と、エラストマー部品を使って容器の中に収められた調合薬品との間の障壁の役割を果たす。したがって、第2部分19の外面は、好ましくは、容器に収められた状態の調合薬品と接触しがちなエラストマー部品23の表面を形成している。図2Cに示されているエラストマー部品23は瓶の栓の形をしているが、その部品が上記の形状(たとえば、キャップ、プランジャー、針シールド、針キャップ、注射器のカートリッジ、瓶)のいずれであってもよいことは理解されるであろう。
【0038】
好ましい実施形態では、第2エラストマー材17の選択により、タガント18が第2エラストマー材17の中を拡散する速度、すなわち拡散率は、タガント18が第1エラストマー材16の中を拡散する速度よりも遅い。タガント18をエラストマー部品23の第1部分15の中(薬品との接触面からは離れている。)に組み込み、かつ、タグ付けされた第1部分15をエラストマー部品23の第2部分19で囲み、または覆うことにより、薬品がタガントと相互作用する可能性を低減させ、または排除することができる。そのような構成では、バリア膜12が第2部分19の外面に塗布されても、されなくてもよい。
【0039】
エラストマー部品23の製造には、第1エラストマー材16に1以上のタガント18を混合する工程と、第1部分15を成型する工程とがある。その後、成型された第1部分15は第2部分19の第2エラストマー材17で外側被覆され、エラストマー部品23として仕上げられる。その他に、2つの部分15、19が別々に成型されてから1つに組み合わされることにより、エラストマー部品23が仕上げられてもよい。場合によっては、栓23のフランジの部分の下に位置する第2部分19の外面に、バリア膜12が塗布されてもよい。
【0040】
図2Cが示すエラストマー部品23のように、2つの異なるエラストマー材で形成されるエラストマー部品は、たとえば、次のような2段階成型処理で形成されてもよい。図7図8を参照すると、エラストマー部品を2段階成型処理で製造する方法の実施形態が示されている。図7図8では、例示を目的として、エラストマー部品が瓶の栓、特に図2Cに示されている瓶の栓23として描かれている。ただし、以下で説明される方法のすべてが任意の医療用部品の形成に使用可能であることは、理解されるであろう。
【0041】
図7を参照すると、上記の方法は、第1エラストマー材16の成型により瓶の栓23の第1部分15を形成する工程を含む。タガント18を含む第1部分15は、好ましくは、図6について先に説明された成型処理によって形成される。すなわち、タガントまたはタガント液がエラストマーマトリックスの中に組み込まれ、または、エラストマーシート116の表面121に直に塗布され、または、離型液が塗布された後の型114に直に塗布され、または、型に塗布される離型液の中に組み込まれる。その後、エラストマーシート116が圧縮成型を受けることによって第1部分15が、好ましくは、部分的に硬化した状態に形成される。この成型段階における処理条件は、120℃-310℃以上、約40kg/cm2-350kg/cm2で数秒間-30分間であり、好ましくは、約120℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約30秒間-30分間であり、更に好ましくは、約140℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約2分間-15分間である。ある実施形態では処理条件が、150℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約10分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-165℃、約50kg/cm2で約15分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約8分間である。
【0042】
その後、第2成型段階では、第2エラストマー材17が第1部分15に対して外側被覆されて硬化させられ、エラストマー部品が完成する。この第2成型段階における処理条件は、120℃-310℃、約40kg/cm2-350kg/cm2で数秒間-30分間であり、好ましくは、約120℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約30秒間-30分間であり、更に好ましくは、約140℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約2分間-15分間である。ある実施形態では処理条件が、150℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約10分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-165℃、約50kg/cm2で約15分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約8分間である。
【0043】
別の実施形態では、外側被覆処理に代えて、まず、図8に示されているように、第1部分15と第2部分19とが別々に、既知の成型方法により、以下に述べられる時間、熱、圧力に関する所定の条件下で、部分的に硬化した状態に形成される。これらの成型段階における処理条件は、120℃-310℃、約40kg/cm2-350kg/cm2で数秒間-30分間であり、好ましくは、約120℃-70℃、約40kg/cm2-220kg/cm2で約30秒間-30分間であり、更に好ましくは、約140℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約2分間-15分間である。ある実施形態では処理条件が、150℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約10分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-165℃、約50kg/cm2で約15分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約8分間である。
【0044】
次に、型の中で第2部分19が第1部分15に組み合わされ、両部分15、19が互いに、ある接触面で接触する。組み合わされた第1部分15と第2部分19との全体が型の中で加熱され、時間、熱、圧力に関する所定の条件下で第1エラストマー材16と第2エラストマー材17との全体が硬化する。これにより、第1部分15と第2部分19とが接着され、または溶着されて一体化する。この成型段階における処理条件は、120℃-310℃、約40kg/cm2-350kg/cm2で数秒間-30分間であり、好ましくは、約120℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約30秒間-30分間であり、更に好ましくは、約140℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約2分間-15分間である。ある実施形態では処理条件が、150℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約10分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-165℃、約50kg/cm2で約15分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約8分間である。
【0045】
その他に、別の実施形態によれば、局所的な硬化処理が行われる。特に、第1部分15と第2部分19とが、最初に、全体的に硬化した状態に成型される。これらの成型段階における処理条件は、120℃-310℃、約40kg/cm2-350kg/cm2で数秒間-30分間であり、好ましくは、約120℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約30秒間-30分間であり、更に好ましくは、約140℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約2分間-15分間である。ある実施形態では処理条件が、150℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約10分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-165℃、約50kg/cm2で約15分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約8分間である。
【0046】
次に、第1部分15と第2部分19とが上記のように組み合わされ、指向性エネルギー源を用いた処理により、互いの接触面で接着され、または溶着されて一体化する。この処理は、接触面で第1エラストマー材16と第2エラストマー材17とを局所的に硬化させる効果を発揮するものであり、たとえば、超音波溶着、マイクロ波加熱/硬化、レーザー加熱/硬化を含むが、これらに限られるわけではない。
【0047】
この局所的な硬化段階における処理条件は、120℃-310℃、約40kg/cm2-350kg/cm2で数秒間-30分間であり、好ましくは、約120℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約30秒間-30分間であり、更に好ましくは、約140℃-220℃、約40kg/cm2-70kg/cm2で約2分間-15分間である。ある実施形態では処理条件が、150℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約10分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-165℃、約50kg/cm2で約15分間である。別の実施形態では処理条件が、160℃-175℃、40kg/cm2-70kg/cm2で約8分間である。
【0048】
別の実施形態では、図3A図3B図3Cを参照すると、薬品33を収容した薬剤充填済み注射器30がプランジャー32と針シールド34とを含む。プランジャー32は、1以上のタガント18が組み込まれたエラストマー材16を含む。プランジャー32は、タガント18がプランジャー32の第1端32aに集中するように構成されている。プランジャー32が注射器30のシリンダーの中に挿入された場合、好ましくは、プランジャー32の第1端32aが薬品33に対して先端側に位置する。プランジャー32の反対側の端32bにはバリア膜12が塗布され、薬品33と、タガント18を含むエラストマー材16との間に配置されてもよい。タガント18がプランジャー内に集中し、薬品と接触するプランジャー32の表面から離れていることにより、タガント18と薬品との間に相互作用が生じる可能性が最小化され、または排除される。
【0049】
タガント18をプランジャー32の一部に集中させるのには、様々な方法が使用可能である。たとえば、上記のとおり、プランジャーの部品が多段階で成型されてもよい。その部品の第1部分に、タガントを含む第1エラストマー材が成型され、第1部分の外側に、タガントを含まない第2エラストマー材が成型されることにより、その部品が完成する。その他に、離型液の中にタガントが分散させられ、型の中にエラストマー材が導入される前に、その型の中に離型液がスプレーで吹き付けられてもよい(その詳細は上記の説明のとおりである)。その結果、タガントが成型部品の表面、および/またはその近傍に埋め込まれる。
【0050】
タガントを成型部品の特定の表面、または部分に確実に閉じ込める目的で、多数の離型成分が用意され、型に塗布されてもよい。たとえば、プランジャー32が形成される際、型のキャビティーの表面のうち、プランジャー32の先端面32aに相当する部分には、タガントを含む第1離型液が塗布される一方、プランジャー32の反対側の端面32bに相当する部分と、プランジャー32の周面に相当する部分とには、タガントを含まない第2離型液がスプレーで吹き付けられてもよい。これにより、タガントは、成型されたプランジャー32の先端32aにのみ集中する。
【0051】
ある実施形態では、好ましくは、タガント18が、プランジャー32の表面に組み込まれ、または埋め込まれた化学的タガントであり、その内部反射特性がプランジャー32の位置の特定に利用されてもよい。たとえば、プランジャー32が注射器(図示せず。)の内部に配置された状態において、その注射器の内部にその長軸に沿って光が照射され、その注射器のシリンダーの壁の中に捕らわれる。全体的な内部反射が、基本的には、プランジャー32のリブによって損なわれ、または乱されるので、光はプランジャー32と注射器のシリンダーとの接触面を照らす。プランジャー32の表面にはタガントの層が存在するので、接触面を照らす光は、プランジャー32の移動に伴い、表面間の相互作用を探査することと共に、改竄の跡を浮き立たせることに利用可能である。
【0052】
別の実施形態では、プランジャー32の動きを検出する目的で、化学的タガント液がプランジャー32の下に塗布される。このような実施形態では、タガント液を撹乱させることなく、注射器のシリンダー内に収容された調合薬品を投与することも、詰め替えることもできない。これは、いかなる改竄行動をも浮き立たせることに役立つ。
【0053】
図3Cを参照すると、本発明の別の実施形態による針シールド34が示されている。針シールド34は複数の部分16a、16bを備えている。各部分16a、16bは、1以上のタガント18が組み込まれた第1エラストマー材16を含む。たとえば、第1部分16aは針シールド34の基部のまわりの環状部分の中に形成され、第2部分16bは針シールド34の先端の一部として形成されている。針シールド34の残りの部分、すなわち本体17は、いかなるタガントも含まない第2エラストマー材を含む。第1部分16aと第2部分16bとのそれぞれに含まれるタガント18は、同じであっても異なっていてもよい。同様に、第1部分16a、第2部分16b、および本体17のそれぞれに含まれるエラストマー材は、同じであっても異なっていてもよい。針シールド34は更に、内部空洞の表面に塗布されたバリア膜12を含んでいてもよい。図3Aに示されているように、針シールド34が注射器に取り付けられた状態では、針シールド34の内部空洞には注射器の針(図示せず。)が収納される。
【0054】
本発明の様々な実施形態に従って作製された部品は、図4A図4Bに示されている実施形態のように、ルアーロックシステムを備えた注射器用の先端のキャップの形をしていてもよい。キャップ44は、その頭部の端に封入された第1部分を含む。第1部分は第1エラストマー材16と1以上のタガント18とを含む。キャップ44の本体の大部分は、いかなるタガントも含まない第2エラストマー材17で形成されている。この本体は内部に空洞も含む。図4Aに示されているように、キャップ44が注射器に取り付けられた状態では、キャップ44の本体の空洞には雄型のルアーロック継手(図示せず。)が収納される。キャップ44の空洞の表面、および/または、第1部分とは反対側の端には、必要に応じ、バリア膜12が設けられてもよい。
【0055】
本発明によれば、エラストマー部品にタガントが組み込まれることにより、その部品をコンピューター制御の器具に統合することが可能になる。たとえば、コンピューター制御の医療器具が特定の色のプランジャーを光学的に識別し、その情報により、薬剤を投与する速度を特定してもよい。別の実施形態では、磁気を帯びたタガントがプランジャーの位置の測定(および、その結果を用いた投薬)に利用される。その測定には、誘導検知機構等、様々な方法が使用される。磁気を帯びたタガントの利用は、光に敏感な調合薬を収容した不透明な注射器に対して有効である。また、磁気を帯びたプランジャーが、コンピューター制御の器具の設置/実装に利用されてもよい。たとえば、タガントが磁性体である場合、非接触検知が可能であるので、プランジャーの改竄を、そのプランジャーの取り外しが未遂であっても、そのプランジャーを目視することなく、離れた位置から検出することができる。
【0056】
発明の広い概念から逸脱することなく、上記の実施形態に変更を加えることが可能であることは、当業者には理解されるであろう。したがって、この発明の範囲が、開示された特定の実施形態には限定されず、添付の請求の範囲で定義されたような本発明の精神と範囲との中で行われる修正にも及ぶことが意図されていることは、理解されるであろう。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8