(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆TiN基サーメット製切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20220309BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20220309BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20220309BHJP
C22C 29/16 20060101ALN20220309BHJP
C22C 1/05 20060101ALN20220309BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23B27/14 B
B23C5/16
C23C16/34
C22C29/16 H
C22C1/05 L
(21)【出願番号】P 2018185621
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和崇
【審査官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-071809(JP,A)
【文献】特開昭53-037113(JP,A)
【文献】特開平08-176695(JP,A)
【文献】特開2004-285463(JP,A)
【文献】特開2000-308907(JP,A)
【文献】特開平09-071856(JP,A)
【文献】特開2012-101288(JP,A)
【文献】特開2013-202753(JP,A)
【文献】米国特許第04935057(US,A)
【文献】特開2020-033597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23C 5/16
C23C 16/34
C22C 29/16
C22C 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiN基サーメットを基体とし、その表面に硬質被覆層が被覆されている表面被覆TiN基サーメット製切削工具において、
(a)前記TiN基サーメットは、その断面を観察した時、平均面積割合が70~94面積%のTiN相と、平均面積割合が1~25面積%のMo
2C相を含み、残部が結合相からなる焼結組織を有し、
(b)前記TiN基サーメットは、基体表面からその内部に向かって、平均面積割合で0.5~20面積%のグラファイト相を含有するグラファイト含有層が、2~20μmの平均層厚で存在し、
(c)前記硬質被覆層は、TiN層、TiC層、TiCN層及びAl
2O
3層の内から選ばれた1層または2層以上からなることを特徴とする表面被覆TiN基サーメット製切削工具。
【請求項2】
前記TiN基サーメットの表面直上には、TiN層、TiC層及びTiCN層の内から選ばれた1層または2層以上の Ti化合物層が5μm以上の平均層厚で形成され、前記TiN基サーメットの表面直上のTi化合物層には、2~10原子%のMoを含有し、平均粒径が1~50nmであるMo含有Ti化合物層が1~5μmの平均層厚で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆TiN基サーメット製切削工具。
【請求項3】
前記グラファイト含有層の平均微小硬さは、前記TiN基サーメットの内部の平均微小硬さの50~80%の硬さであることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆TiN基サーメット製切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐チッピング性にすぐれた表面被覆TiN基サーメット製切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメット等で構成された基体の表面に、化学蒸着で形成されたTiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなるTi化合物層を下部層とし、また、化学蒸着で形成された酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層を上部層とする硬質被覆層を形成した表面被覆サーメット製切削工具が良く知られている。
ただ、上記の従来の表面被覆サーメット製切削工具は、切れ刃に高負荷が作用する切削加工条件では、チッピング、欠損等の異常損耗を発生しやすく、工具寿命が短命となるため、これを改善すべく、種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、サーメット(Ti,Zr,Hr,Ta,Nb,W,Mo,Crの炭化物、窒化物、炭窒化物の1種または2種以上の硬質分散相形成成分:70~95重量%と、Co,Ni,Alの1種または2種以上の結合相形成成分:5~30重量%とからなるサーメット)からなる基体上にTiN層あるいはTiCN層を化学蒸着で形成した表面被覆サーメット製切削工具の作製にあたり、TiN層を形成する際には、NH3を含有する混合ガスを用い、TiCN層を形成する際には、CH3CNを含有する混合ガスを用いることによって、TiN層あるいはTiCN層中に、サーメット基体中の結合相形成成分が拡散し混入することがないようにすることによって、表面被覆サーメット製切削工具の耐摩耗性向上を図ることが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、CoおよびNiを主体とする結合相形成成分を12~20重量%含有するTiCN基サーメット基体の表面に、化学蒸着法または物理蒸着法を用いて、Tiの炭化物、窒化物、および炭窒化物、並びに酸化アルミニウムのうちの2種以上で構成された複層の硬質被覆層を形成してなる表面被覆サーメット製切削工具において、前記基体の表面部を、0.5~1.5μmの平均層厚を有し、かつ結合相構成成分からなる軟質の溶出合金層で構成すると共に、前記基体表面部の溶出合金層に接する硬質被覆層を、0.5~5μmの平均層厚を有する窒化チタンからなる結合相構成成分拡散防止層で構成することが提案されており、そしてこの表面被覆サーメット製切削工具は、基体表面部に形成された溶出合金層によってすぐれた靭性をもつようになるため、切刃に欠けやチッピングが発生することを抑制し得るとされている。
【0005】
また、特許文献3には、W、Moを含有するTiCN基サーメット基体表面に、第一層として、Ti化合物層を蒸着形成した表面被覆サーメット製切削工具において、基体のTiCN相と硬質被覆層との界面に、0.5~10nmの平均厚さのMo濃化層あるいはさらにW濃化層が形成され、該濃化層のMo含有量、W含有量は5~50原子%であり、好ましくは、基体のTiCN相と硬質被覆層との界面の長さの60%以上の界面には、濃化層が形成されている表面被覆サーメット製切削工具が提案されている。
そして、この表面被覆サーメット製切削工具は、TiCN基サーメット基体と硬質被覆層のケミカルボンドが高められるため、硬質被覆層と基体との付着強度が優れ、切刃に高負荷が作用する高速断続切削加工に用いた場合であっても、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するとされている。
【0006】
非特許文献1には、サーメット基体に対してCVD法で被膜を形成した際の、基体と被膜との界面近傍組織の影響についての考察がなされており、TiC-Mo2C-Ni系サーメット基体表面に、TiCをCVD法によって被覆した場合には、CVD初期段階では、基体と被膜の界面近傍の基体側にはミクロポアが形成されること、また、Niは被膜中に取り込まれ、基体と被膜の界面近傍の被膜側にはNiTi化合物相が形成されること、また、被膜の成長とともに、NiTi化合物相は被膜表面近傍へ移動するが、その抜け殻として、基体と被膜の界面近傍の被膜側にはミクロポアが形成されることが記載されている。
そして、被覆サーメットの強度の低下は被膜の厚さ増加とともに低下したが、この強度低下は、被膜厚さと、界面部近傍に生じるミクロポアの生成領域厚さとの合計が、破壊の応力集中源として作用することによると考えられると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平3-226576号公報
【文献】特開平4-289003号公報
【文献】特開2015-178172号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】「粉体および粉末冶金」第33巻第5号(1986年7月)p.274-279
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化、高効率化の傾向にあり、表面被覆サーメット製切削工具には、より一層、耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性等の耐異常損傷性が求められるとともに、長期の使用に亘ってのすぐれた耐摩耗性が求められている。
【0010】
例えば、前記特許文献1で提案されている表面被覆サーメット製切削工具では、サーメット基体上にTiN層あるいはTiCN層を化学蒸着する際に、TiN層あるいはTiCN層中に、サーメット基体中の結合相形成成分が拡散・混入することがないように成膜することによって、表面被覆サーメット製切削工具の耐摩耗性の向上を図っており、また、前記特許文献2では、サーメット基体の表面部にはサーメットの結合相の主要成分であるCo、Niからなる溶出合金層を形成して靱性を高め、その一方、CoやNiを主体とする結合相成分が硬質被覆層に拡散移動するのを防止するように硬質被覆層を形成することで、表面被覆サーメット製切削工具の欠け発生、チッピング発生を抑制しており、さらに、前記特許文献3で提案されたW、Moを含有するTiCN基サーメットを基体とする表面被覆サーメット製切削工具では、基体のTiCN相と硬質被覆層との界面にMo濃化層あるいはさらにW濃化層を形成することによって、TiCN基サーメット基体と硬質被覆層の付着強度を高め、耐チッピング性、耐摩耗性を向上させている。
しかし、サーメット基体表面にTi化合物からなる硬質被覆層を蒸着形成した前記特許文献1~3で提案される表面被覆サーメット製切削工具は、通常条件の切削加工においてはある程度の切削性能が発揮されるとしても、合金鋼の湿式高速フライス切削加工等のように、刃先に断続的・衝撃的な高負荷が作用する切削条件に供した場合には、サーメット基体自体の靱性が十分ではなく、しかも、サーメット基体と硬質被覆層の密着性も十分でないために、チッピングを発生しやすく、その結果、工具寿命は短命であった。
したがって、サーメット基体表面にTi化合物からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆サーメット製切削工具においては、刃先に高負荷が作用する切削条件下での耐チッピング性の向上が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく、合金鋼の湿式高速フライス切削加工等の刃先に高負荷が作用する切削加工に供した場合であっても、すぐれた耐チッピング性を発揮するとともに、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具を提供すべく、鋭意研究を進めたところ、次のような知見を得た。
【0012】
前記非特許文献1は、TiC-Mo2C-Ni系サーメット基体表面に、TiCをCVD法によって被覆した場合の基体と被膜の経時的組織変化を述べるものであって、サーメット基体表面に硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆サーメット製切削工具の一般的な特性について開示するものではないが、基体と被膜の界面近傍に形成されるミクロポアが基体の強度低下の一つの要因として挙げられている。
さらに、基体と被膜の界面近傍に形成されるミクロポアは、基体の強度低下に加え、基体と被膜の密着性を劣化させることは明らかであるから、表面被覆サーメット製切削工具の耐チッピング性低下の一因となることを示唆するものであるといえる。
【0013】
そこで、本発明者らは、TiN基サーメットを基体とし、その表面に硬質被覆層(具体的には、チタンの窒化物(以下、「TiN」で示す)、チタンの炭化物(以下、「TiC」で示す)、チタンの炭窒化物(以下、「TiCN」で示す)及び酸化アルミニウム(以下、「Al2O3」で示す)のうちの1層又は2層以上)を化学蒸着法で被覆形成した表面被覆TiN基サーメット製切削工具において、TiN基サーメットの成分組成の調整とともに、焼結条件を調整することで、ミクロポアの形成を避け、また、TiN基サーメット基体と硬質被覆層との界面近傍に特異な組織を形成することで、TiN基サーメット基体自体の靱性向上を図ると同時に、TiN基サーメット基体と硬質被覆層との密着性を向上させ得ることを見出した。
そして、靱性向上が図られた前記TiN基サーメット基体の表面に、TiN基サーメット基体との密着性にすぐれた硬質被覆層が化学蒸着法で被覆形成された表面被覆TiN基サーメット製切削工具は、刃先に断続的・衝撃的な高負荷が作用する合金鋼の湿式高速フライス切削加工等の切削加工に供した場合であっても、チッピングの発生が抑制されるとともにすぐれた耐摩耗性を発揮するため、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮することを見出したのである。
【0014】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1)TiN基サーメットを基体とし、その表面に硬質被覆層が被覆されている表面被覆TiN基サーメット製切削工具において、
(a)前記TiN基サーメットは、その断面を観察した時、平均面積割合が70~94面積%のTiN相と、平均面積割合が1~25面積%のMo2C相を含み、残部が結合相からなる焼結組織を有し、
(b)前記TiN基サーメットは、基体表面からその内部に向かって、面積割合で0.5~20面積%のグラファイト相を含有するグラファイト含有層が、2~20μmの平均層厚で存在し、
(c)前記硬質被覆層は、TiN層、TiC層、TiCN層及びAl2O3層の内から選ばれた1層または2層以上からなることを特徴とする表面被覆TiN基サーメット製切削工具。
(2)前記TiN基サーメットの表面直上には、TiN層、TiC層及びTiCN層の内から選ばれた1層または2層以上のTi化合物層が5μm以上の平均層厚で形成され、前記TiN基サーメットの表面直上のTi化合物層には、2~10原子%のMoを含有し、平均粒径が1~50nmであるMo含有Ti化合物層が1~5μmの平均層厚で形成されていることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆TiN基サーメット製切削工具。
(3)前記グラファイト含有層の平均微小硬さは、前記TiN基サーメットの内部の平均微小硬さの50~80%の硬さであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆TiN基サーメット製切削工具。」
に特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の表面被覆TiN基サーメット製切削工具は、TiN基サーメット基体の成分組成を特定することにより、焼結体組織中のミクロポアの形成が抑制され、基体は所定の硬さとすぐれた靱性を備えるようになり、特に、TiN基サーメット基体表面の所定の層厚(深さ領域)にのみ、低硬度のグラファイト含有層が存在することによって、基体表面の靱性向上が図られることから、合金鋼の湿式高速フライス切削加工等のように、刃先に断続的・衝撃的な高負荷が作用する切削加工において、すぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する。
【0016】
さらに、本発明の表面被覆TiN基サーメット製切削工具は、基体表面直上の硬質被覆層の所定の厚さ領域に、所定のMo含有量で、かつ、所定の平均粒径のMo含有Ti化合物層が形成されていることから、基体と硬質被覆層の密着性が向上し、これが表面被覆TiN基サーメット製切削工具の耐チッピング性向上に大きく貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の表面被覆TiN基サーメット製切削工具の縦断面SEM像(倍率:2000倍)の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明の表面被覆TiN基サーメット製切削工具(以下、「被覆TiN基サーメット工具」ということもある)について、より具体的に説明する。
【0019】
図1に、本発明の被覆TiN基サーメット工具の断面構造の一例を示すが、本発明の被覆TiN基サーメット工具は、TiN相とMo
2C相と結合相からなるTiN基サーメットの表面に、化学蒸着法で硬質被覆層(
図1では、TiCN層とAl
2O
3層)が形成されているが、さらに、TiN基サーメットの表面から内部に向かう特定領域にはグラファイト含有層が形成され、また、TiN基サーメット直上の硬質被覆層(TiCN層)の特定領域には、Mo含有Ti化合物層が形成されている。
【0020】
まず、TiN基サーメットを構成するTiN相、Mo2C相、結合相、グラファイト含有層について説明し、ついで、TiN基サーメット直上の硬質被覆層に形成されるMo含有Ti化合物層について説明する。
【0021】
TiN相:
本発明の被覆TiN基サーメット工具において、その縦断面を観察した時、TiN基サーメット基体に占めるTiN相の平均面積割合が70面積%未満になると、基体としての硬さが十分ではなく、一方、TiN相の平均面積割合が94面積%を超えると、焼結組織にミクロポア(微細な空隙)が形成されやすくなり、これが原因で靱性が低下することから、TiN基サーメット基体中のTiN相の平均面積割合は70~94面積%とする。
TiN相の好ましい平均面積割合は75~90面積%であり、より好ましい平均面積割合は、85~90面積%である。
本発明では、TiN基サーメット基体の縦断面を、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、得られた二次電子像内の領域(例えば、40×50μm2の領域)における含有元素量を測定し、TiN相、Mo2C相及び結合相成分(例えば、Fe相、Ni相あるいはFe-Ni合金相)を特定し、各相が前記領域に占める面積比率を算出し、少なくとも、5領域以上の複数の領域で面積比率を算出し、これらの平均値を、各相の面積%とした。
本発明のTiN基サーメット基体においては、製造工程等から不可避的に混入する不可避不純物成分については、本発明の目的を損なわない範囲内(即ち、TiN基サーメット基体の硬さと靱性を低下せしめない範囲内)において、微量の含有(混入)が許容される。
【0022】
Mo2C相:
TiN基サーメット基体中のMo2C相の平均面積割合が1面積%未満では、TiN相と結合相との間でのぬれ性が不足し、焼結組織にミクロポアを生じるため、靱性が低下する。
一方、Mo2C相の平均面積割合が25面積%を超えると、Fe3Mo3C相等の複炭化物、Fe3Mo3N相等の複窒化物を生じやすくなり、これが靱性低下の要因となることから、TiN基サーメット基体中のMo2C相の平均面積割合は1~25面積%とする。
Mo2C相の好ましい平均面積割合は1~15面積%であり、より好ましい平均面積割合は、1 ~10面積%である。
【0023】
結合相:
本発明の被覆TiN基サーメット工具では、TiN基サーメットを構成する結合相成分及びその平均面積割合について特段の制限はないが、TiN基サーメットの靱性を高めるという観点からは、FeとNiを結合相成分として含有し、かつ、TiN基サーメット基体中に占める結合相の平均面積割合(Fe相、Ni相、Fe-Ni合金相の合計平均面積割合)は5~15面積%とすることが好ましい。
ここで、結合相の平均面積割合が、5面積%未満であると、結合相量が少ないためにTiN基サーメット基体の靱性が低下し、一方、結合相の平均面積割合が15面積%を超えると、硬質相成分であるTiN相の量が相対的に減少するため、基体として必要とされる硬度を確保することができないからである。
【0024】
さらに、前記結合相において、結合相を構成するFeとNiの合計含有量に対するNiの含有割合(=Ni/(Fe+Ni)×100)を、15~35質量%とすることによって、TiN基サーメット基体の靱性及び硬さを一段と高めることができる。
これは、FeとNiの合計含有量に対するNiの含有割合(=Ni/(Fe+Ni)×100)が15質量%未満の場合には、NiはFe中に固溶するが、結合相を固溶強化するほどの効果は発揮されないため結合相の硬さが不足し、また、FeとNiの合計含有量に対するNiの含有割合(=Ni/(Fe+Ni)×100)が35質量%を超える場合には、金属間化合物FeNi3を生じやすくなるため、結合相の靱性が低下するという理由による。
【0025】
グラファイト含有層:
本発明の被覆TiN基サーメット工具について、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、TiN基サーメット基体の表面を含み、かつ、基体内部に向かって500μmの深さにわたってTiN基サーメット基体の縦断面を観察した場合、基体表面から基体内部へ向かってグラファイト相を含有する領域の存在が確認される。
そして、該領域において、グラファイト相の面積割合が観察領域の0.5~20面積%を占める領域をグラファイト含有層と定義した場合、本発明のTiN基サーメット基体は、基体表面から基体内部へ向かって、2~20μmの平均層厚でグラファイト含有層が形成されている。
前記グラファイト含有層の存在は、基体表面の靱性を向上させることで、被覆TiN基サーメット工具の耐チッピング性を向上させるが、グラファイト含有層の平均層厚が2μm未満の場合もしくはグラファイト相の平均面積割合が0.5面積%未満の場合には、TiN基サーメット基体の表面強靭化の効果が十分ではない。
一方、前記グラファイト含有層におけるグラファイト含有層の平均層厚が20μmを超える場合もしくはグラファイト相の平均面積割合が20面積%を超える場合には、グラファイト含有層の硬さが過度に低下することによって、TiN基サーメット基体の変形あるいは硬質被覆層の剥離を生じやすくなる。
よって、本発明では、TiN基サーメット基体の表面には、基体表面から基体内部へ向かって、2~20μmの平均層厚で、平均面積割合で0.5~20面積%のグラファイト相を含有するグラファイト含有層を形成する。
【0026】
グラファイト含有層の硬さ:
TiN基サーメット基体の前記グラファイト含有層を含む縦断面について、サーメット基体表面からその内部方向の500μmの深さにわたって10μm間隔で微小硬さを測定した場合、グラファイトを0.5~20面積%含有するグラファイト含有層における平均微小硬さは、サーメット基体表面から500μmを超えるサーメット基体内部(以下、単に「サーメット基体内部」という)の平均微小硬さの50~80%の範囲内の硬さとなることが好ましい。
ここで、グラファイト含有層における平均微小硬さが、サーメット基体内部の平均微小硬さの50%未満の場合には、グラファイト含有層が塑性変形を生じやすくなり、また、グラファイト含有層表面に被覆された硬質被覆層が剥離しやすくなる。
一方、前記グラファイト含有層における平均微小硬さが、サーメット基体内部の平均微小硬さの80%を超える硬さとなった場合には、TiN基サーメット基体の靱性向上効果が低下し、被覆TiN基サーメット工具の耐チッピング性の向上を期待できない。
したがって、サーメット基体表面からその内部方向に向かって形成されているグラファイト含有層の硬さは、サーメット基体内部(例えば、サーメット基体表面から500μmを超える深さの内部領域)の平均微小硬さの50~80%であることが好ましい。
【0027】
Mo含有Ti化合物層:
本発明の被覆TiN基サーメット工具において、サーメット基体表面直上に被覆形成される硬質被覆層がTi化合物層の場合、サーメット基体表面と前記Ti化合物層との界面を含む硬質被覆層の縦断面を、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、得られた二次電子像内の領域(例えば、40×50μm2の領域)における含有元素量を測定した場合、基体表面直上のTi化合物層には、微量のMoを含有するMo含有領域の形成が確認される。
そして、前記Mo含有領域に含有されるMo成分は、TiN基サーメットの表面から、化学蒸着に際しTi化合物層へMoが拡散することによって形成されたものであるが、Ti化合物層中へMoが拡散することによって、TiN基サーメット基体とTi化合物層との密着性が向上する。
前記Mo含有領域において、2~10原子%のMoが含有される領域を、Mo含有Ti化合物層と定義した場合、Mo含有Ti化合物層の平均層厚は1~5μmであることが好ましく、さらに、Mo含有Ti化合物層におけるMo含有Ti化合物粒子の平均粒径(TiN基サーメット基体表面に平行な方向に測定した粒径の平均値)は1~50nmであることが好ましい。
【0028】
ここで、前記Mo含有Ti化合物層におけるMo含有量が2原子%未満、あるいは、Mo含有Ti化合物層の平均層厚が1μm未満であると、TiN基サーメット基体と硬質被覆層の密着性向上を期待することはできず、一方、Mo含有Ti化合物層におけるMo含有量が10原子%を超える場合、あるいは、Mo含有Ti化合物層の平均層厚が5μmを超える場合には、TiN基サーメット基体からのMoの流出が過多となり、TiN基サーメット基体中に空隙を生じやすくなるため、Mo含有Ti化合物層におけるMo含有量は、2~10原子%であり、また、Mo含有Ti化合物層の平均層厚は1~5μmであることが好ましい。
また、Mo含有Ti化合物粒子は、粗粒となると被覆層付着強度が低下することから、平均粒径が1~50nmの微粒であることが好ましい。
【0029】
ここで、Mo含有Ti化合物層におけるMo含有量の測定、Mo含有Ti化合物層の平均層厚の測定及びMo含有Ti化合物層におけるMo含有Ti化合物粒子の粒径の測定は、例えば、以下のように行うことができる。
走査型電子顕微鏡(SEM)及びエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて、TiN基サーメット基体の表面と硬質被覆層との界面を含む被覆TiN基サーメット工具の縦断面について、5000倍の視野で、硬質被覆層の厚さ方向(即ち、TiN基サーメット基体の表面に垂直な方向)に、MoとTiについて組成分析を行う。
その結果から、Mo含有量(即ち、Mo×100/(Mo+Ti))が2~10原子%である層厚方向の領域を特定し、これをMo含有Ti化合物層の層厚であるとして求める。
さらに、この測定を5視野において行い、その平均値をMo含有Ti化合物層の平均層厚とする。
また、前記で特定したMo含有Ti化合物層の領域において、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、基体表面と平行な方向にMo含有Ti化合物粒子の粒径を測定し、この測定を5視野において行い、その平均値をMo含有Ti化合物粒子の平均粒径として求める。
【0030】
被覆TiN基サーメット工具の作製:
本発明の被覆TiN基サーメット工具を作製するに際して、例えば、その原料粉末として、TiN:55~92質量%、Mo2C:1~40質量%、Fe:5~18質量%、Ni:1~5質量%であり、かつ、NiとFeの合量に対するNiの質量%(=Ni×100/(Fe+Ni))が15~35質量%という関係を満たす成分及び組成の原料粉末を用いることが好適である。
そして、前記条件を満足する原料粉末をボールミルで混合し、該混合粉末をプレス成形して圧粉成形体を作製する。
ついで、前記圧粉成形体を、水素濃度1~3%、窒素濃度97~99%の混合ガスをフローしながら(窒素希釈水素雰囲気)、1350~1450℃の温度範囲で30分~120分焼結し、その後、Arガス雰囲気に切り替え、室温まで自然冷却することによって、すぐれた靱性と硬さを相兼ね備える本発明のTiN基焼結体を作製することができる。
なお、圧粉成形体を、窒素希釈水素雰囲気にて焼結するのは、TiN粉末と結合相(主として、Fe成分)との濡れ性を高めると同時に焼結性を高めるためである。
次いで、前記TiN基サーメット基体を化学蒸着装置に装入し、硬質被覆層を蒸着形成する。
硬質被覆層としては、TiN層、TiC層、TiCN層及びAl2O3層の内から選ばれた1層または2層以上を被覆するが、TiN基サーメットの基体表面直上には、TiN層、TiC層及びTiCN層の内から選ばれた1層または2層以上のTi化合物層を、まず、蒸着形成することが好ましい。
なお、硬質被覆層の全層厚は、3~20μmであることが好ましい。
硬質被覆層の蒸着条件について特段の制限はないが、例えば、TiCN層については、
反応ガス(容量%):
TiCl4 2%、CH3CN 0.7%、N2 10%、H2 残,
反応圧力:7 kPa,
反応温度:900 ℃
という蒸着条件で形成することができる。
また、酸化アルミニウム層については、
反応ガス(容量%):
AlCl3 2.2%、CO2 5.5%、HCl 2.2%、
H2S 0.2%、H2 残,
反応圧力:7 kPa,
反応温度:1000 ℃
という蒸着条件で形成することができる。
硬質被覆層を蒸着形成後、所定形状に機械加工することによって、被覆TiN基サーメット工具を作製することができる。
そして、前記工程で被覆TiN基サーメット工具を作製することにより、特定の面積割合のTiN相とMo2C相からなりミクロポアが低減された焼結組織を有し、また、TiN基サーメット基体のその表面から内部に向かって所定の層厚のグラファイト含有層を有する靱性にすぐれかつ耐チッピング性にすぐれた被覆TiN基サーメット工具を作製することができる。
また、サーメット基体表面の直上に蒸着形成された第1層が、TiN層、TiC層及びTiCN層の内から選ばれた1層または2層以上のTi化合物層である場合には、少なくとも第1層には、所定量のMo含有量、所定の平均粒径及び所定の平均粒径を有するMo含有Ti化合物層が形成され、これによって、TiN基サーメット基体と硬質被覆層の密着性が向上し、より一段と耐チッピング性にすぐれた被覆TiN基サーメット工具を得ることができる。
【実施例】
【0031】
つぎに、本発明の被覆TiN基サーメット工具を、実施例により具体的に説明する。
なお、本発明の実施例としては、TiN基サーメット基体の表面直上に、第1層としてTi化合物層を化学蒸着で被覆形成した例を示す。
【0032】
TiN基サーメット基体を作製するための粉末として、平均粒径10μmのTiN粉末、平均粒径2μmのMo2C粉末、平均粒径2μmのFe粉末及び平均粒径1μmのNi粉末を用意し、表1に示す配合割合となるように配合し、かつ、Fe粉末及びNi粉末の配合量を、表1に示す配合比となるように配合することにより原料粉末1~8を用意した。
なお、ここでいう平均粒径は、メジアン径(d50)を意味する。
【0033】
次いで、前記の原料粉末1~8を、ボールミル中に充填して混合し、混合粉末1~8を作製し、該混合粉末1~8を乾燥した後、100~500MPaの圧力でプレス成形し、圧粉成形体1~8を作製した。
【0034】
次いで、この圧粉成形体1~8を、表2に示す条件で焼結した後、室温まで冷却することで、表3に示す本発明のTiN基サーメット基体(以下、「本発明基体」という)1~8を作製した。
【0035】
比較のため、本発明工具と同等の平均粒径を有する各種粉末を、表4に示す配合組成となるように配合して原料粉末11~18を用意し、次いで、原料粉末11~18を、ボールミル中に充填して混合し、混合粉末11~18を作製し、該混合粉末11~18を乾燥した後、100~500MPaの圧力でプレス成形し、圧粉成形体11~18を作製した。
次いで、この圧粉成形体11~18を、表2および表5に示す条件で焼結した後、室温まで冷却することで、表6に示す比較例のサーメット基体(以下、「比較例基体」という)11~18を作製した。
【0036】
次いで、前記本発明基体1~8、比較例基体11~18を化学蒸着装置に装入し、表7、表8に示す膜種の硬質被覆層を、複層の積層構造として、表7、表8に示す平均層厚で蒸着形成した。
なお、ここでは、4層までの積層構造として硬質被覆層を蒸着形成したが、この層数に制限されるものではなく、より多数の層の積層構造であっても良い。
また、硬質被覆層の蒸着条件について特段の制限はないが、本発明基体1~8、比較例基体11~18におけるTiN、TiC、TiCN、Al2O3の化学蒸着条件は、以下のとおりである。
[TiNの化学蒸着条件]
反応ガス(容量%):
TiCl4 2%、N2 30%、H2 残,
反応圧力:7 kPa,
反応温度:1000 ℃
[TiCの化学蒸着条件]
反応ガス(容量%):
TiCl4 2%、CH4 7%、H2 残,
反応圧力:7 kPa,
反応温度:1000 ℃
[TiCNの化学蒸着条件]
反応ガス(容量%):
TiCl4 2%、CH3CN 0.7%、N2 10%、H2 残,
反応圧力:7 kPa,
反応温度:900 ℃
[Al2O3の化学蒸着条件]
反応ガス(容量%):
AlCl3 2.2%、CO2 5.5%、HCl 2.2%、
H2S 0.2%、H2 残,
反応圧力:7 kPa,
反応温度:1000 ℃
【0037】
硬質被覆層を蒸着形成後、研削加工を施すことにより、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもった表7に示す本発明の被覆TiN基サーメット工具(以下、「本発明工具」という)1~8及び表8に示す比較例の被覆サーメット工具(以下、「比較例工具」という)11~18を作製した。
【0038】
ついで、本発明工具1~8と比較例工具11~18について、その縦断面を、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、得られた二次電子像内の測定領域(例えば、100μm×100μmの測定領域)における含有元素量を測定し、TiN相、Mo2C相及びFe-Ni相を特定し、各相が前記測定領域に占める面積比率を算出し、5視野の測定領域で面積比率を算出し、これらの算出値を平均した値を、焼結組織中の各相の面積%として求めた。
また、Fe-Ni相について、該相におけるNiの含有量とFeの含有量を、オージェ電子分光装置を用い、Fe-Ni相上で10点の測定を行い、得られた算出値を平均した値からFeとNiの合計含有量に対するNiの含有割合(=Ni×100/(Fe+Ni))を質量%として求めた。
表3、表6に、これらの値を示す。
【0039】
次に、本発明工具1~8と比較例工具11~18について、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、TiN基サーメット基体の表面を含み、かつ、基体内部に向かって500μmの深さにわたってグラファイト相の面積を測定し、グラファイト相の平均面積割合が0.5~20面積%となる領域をグラファイト含有層と特定し、グラファイト含有層の層厚を求め、5視野で測定したグラファイト含有層の層厚を平均し、これをグラファイト含有層の平均層厚として求めた。
表3、表6に、これらの値を示す。
【0040】
次に、本発明工具1~8と比較例工具11~18について、TiN基サーメット基体の表面を含み、かつ、基体内部に向かって500μmの深さにわたって10μm間隔で微小硬さを測定し、異なる5箇所で測定した平均値を、グラファイト含有層における平均微小硬さとした。
また、サーメット基体内部についても微小硬さを測定し、異なる5箇所で測定した平均値を、サーメット基体内部の平均微小硬さとし、サーメット基体内部の平均微小硬さに対するグラファイト含有層における平均微小硬さの割合(%)を求めた。
表3、表6に、これらの値を示す。
【0041】
次に、本発明工具1~8と比較例工具11~18について、Mo含有Ti化合物層におけるMo含有量の測定、Mo含有Ti化合物層の平均層厚の測定及びMo含有Ti化合物層におけるMo含有Ti化合物粒子の粒径の測定を行った。
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)及びエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて、TiN基サーメット基体の表面と硬質被覆層との界面を含む被覆TiN基サーメット工具の縦断面について、5000倍の視野で、硬質被覆層の厚さ方向(即ち、TiN基サーメット基体の表面に垂直な方向)に、MoとTiについて組成分析を行った。
その結果から、Mo含有量(即ち、Mo×100/(Mo+Ti))が2~10原子%である層厚方向の領域を特定し、これをMo含有Ti化合物層の層厚であるとして求め、この測定を5視野において行い、その平均値をMo含有Ti化合物層の平均層厚とした。
ついで、前記で特定したMo含有Ti化合物層の領域において、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、基体表面と平行な方向にMo含有Ti化合物粒子の粒径を測定し、この測定を5視野において行い、その平均値をMo含有Ti化合物粒子の平均粒径として求める。
表7、表8に、これらの値を示す。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
次いで、前記本発明工具1~8、比較例工具11~18を、いずれも工具鋼製カッターの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、以下に示す、合金鋼の湿式フライス切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定するとともに、刃先の損耗状態を観察した。
切削条件:
被削材:JIS・SCM440のブロック、
切削速度:750 m/min、
切り込み:1.0 mm、
送り:0.11 mm/rev、
切削時間:13 分、
表9に、切削試験の結果を示す。
【0051】
【0052】
表3、表6~9に示されるように、本発明工具1~8は、TiN基サーメット基体が所定の成分及び組成で形成されるとともに、基体表面からその内部の所定深さ(層厚)に、グラファイト含有層が形成されていること、あるいはさらに、基体直上にMo含有Ti化合物層が形成されていることによって、刃先に断続的・衝撃的な機械的負荷と急熱急冷の熱サイクルによる熱負荷(熱衝撃)が作用する切削加工においても、刃先に異常を生じない、もしくは切削寿命に影響を与えない軽度のチッピングしか生じず、比較例工具に見られる切削寿命に影響を与えるようなチッピングを発生することなく、長期の使用にわたって優れた耐摩耗性を示した。
これに対して、比較例工具11~18は、TiN基サーメット基体が、本発明で規定する成分組成から外れていること、あるいは、基体にグラファイト含有層が形成されていないため、耐摩耗性が十分でないばかりか、熱亀裂の発生・伝播を主たる原因とする刃先のチッピングによって、工具寿命が短命となった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
この発明の表面被覆TiN基サーメット製切削工具は、耐チッピング性、耐摩耗性にすぐれることから、高速湿式断続切削ばかりでなく、その他の切削条件下での切削工具としても適用することができ、長期の使用にわたって、すぐれた切削性能を発揮し、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。