(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】ステント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/88 20060101AFI20220309BHJP
【FI】
A61F2/88
(21)【出願番号】P 2019506953
(86)(22)【出願日】2018-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2018011289
(87)【国際公開番号】W WO2018174127
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2017058032
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】秋本 孝次
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0097579(US,A1)
【文献】特表2011-502636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/88
A61F 2/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線部分と湾曲部分とが交互に連続することで軸方向に往復しながら周方向螺旋状に延びる線状体
からなるステントにおいて、
前記線状体における前記複数の直線部分がステント全体で実質的に一定の太さとされている一方、
前記線状体における前記複数の湾曲部分には太さを異ならせたものが設けられて
おり、最も数が多い基本太さの湾曲部分に対して、太くされた湾曲部分と、細くされた湾曲部分とが設けられていると共に、
ステント中央部分では前記直線部分が略一定の長さ寸法とされている一方、
ステント両側部分では該直線部分がステント中央部分の該直線部分よりも長くされた長大部が設けられており、該長大部につながる前記湾曲部分が前記太くされた湾曲部分とされていると共に、
ステント両側部分では該直線部分がステント中央部分の該直線部分よりも短くされた短小部が設けられており、該短小部につながる前記湾曲部分が前記細くされた湾曲部分とされていることを特徴とするステント。
【請求項2】
前記線状体における前記直線部分と前記湾曲部分の厚さ寸法が略一定とされており、幅寸法が異ならされることで該湾曲部分における太さが異ならされている請求項
1に記載のステント。
【請求項3】
前記線状体の先端からステント周方向に略一周回した位置に前記長大部が設けられており、該長大部につながる前記湾曲部分が太くされている請求項
1に記載のステント。
【請求項4】
前記線状体の長さ方向の先端に最も近い位置で、ステント長さ方向外方に向かって凸となる前記湾曲部分が細くされている請求項1~
3の何れか1項に記載のステント。
【請求項5】
ステント中心軸に対する前記線状体の螺旋の傾斜角度が端部になるにつれて次第に大きくなり、ステント中心軸に対して垂直に近づくようにされている請求項1~
4の何れか1項に記載のステント。
【請求項6】
前記線状体において、ステント長さ方向で隣り合う周回部分を互いに連結する連結部が設けられている請求項1~
5の何れか1項に記載のステント。
【請求項7】
ステント長さ方向の各端部において、前記線状体の長さ方向の端部をステント周方向における0度の基準位置とした場合に、該線状体の前記直線部分と前記湾曲部分との交互の連続によって構成される軸方向で往復する波形状の周期に対して、ステント周方向で+1.5周期から-3.5周期の範囲内に、前記太さを異ならせた湾曲部分が複数設けられている請求項1~
6の何れか1項に記載のステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管などの体内管腔内で拡張して留置されることにより、体内管腔の内径を拡張状態で維持するためなどに用いられる医療用のステントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば経皮的冠動脈形成術(PTCA)において、冠動脈の狭窄部分が、バルーンを用いて拡張された後、リコイルなどによって再狭窄するのを防ぐために、ステントが用いられている。ステントは、例えば軸方向に往復しながら周方向螺旋状に延びる線状体によって構成されている。すなわち、かかる線状体は、例えば特表2011-502636号公報(特許文献1)に記載されているように、直線部分と湾曲部分とが交互に連続して設けられることで軸方向に往復する波形の骨格構造を構成している。
【0003】
そして、径方向に収縮した状態で冠動脈などの体内管腔に挿入されたステントは、バルーンによって径方向に押し広げられて、あるいはステント自体の形状記憶効果を利用した自己拡張によって、体内管腔の内壁面に密着して留置される。これにより、リコイルなどに起因する再狭窄が防止されて、体内管腔の内径が拡張状態で維持されるようになっている。
【0004】
ところで、特許文献1に記載のステントでは、ステント両端縁の傾斜をなくすために、ステント両端部分を構成する波形線状体の振幅が次第に変化しており、波形線状体における直線部分の長さが先端に向かって次第に小さくなっている。なお、波形線状体の振幅が部分的に小さくなると、ステント拡張方向への変形剛性が増大するために、ステントの拡張形状がいびつになるおそれがある。そこで、かかる特許文献1に記載のステントでは、波形線状体の振幅が小さくなる線状体の先端に行くに従って、当該線状体の断面積を次第に小さくした態様が開示されている。
【0005】
しかしながら、本発明者が検討したところ、線状体の断面積を小さくすると、ステントの骨格構造における基本的強度が大幅に低下しやすく、例えば血管内留置後に及ぼされる曲げ変形や、軸方向の外力などによって、ステントが潰れてしまうおそれのあることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、拡張時におけるいびつな変形を抑えることができると共に、骨格構造における強度を確保することができる、新規な構造のステントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、直線部分と湾曲部分とが交互に連続することで軸方向に往復しながら周方向螺旋状に延びる線状体からなるステントにおいて、前記線状体における前記複数の直線部分がステント全体で実質的に一定の太さとされている一方、前記線状体における前記複数の湾曲部分には太さを異ならせたものが設けられており、最も数が多い基本太さの湾曲部分に対して、太くされた湾曲部分と、細くされた湾曲部分とが設けられていると共に、ステント中央部分では前記直線部分が略一定の長さ寸法とされている一方、ステント両側部分では該直線部分がステント中央部分の該直線部分よりも長くされた長大部が設けられており、該長大部につながる前記湾曲部分が前記太くされた湾曲部分とされていると共に、ステント両側部分では該直線部分がステント中央部分の該直線部分よりも短くされた短小部が設けられており、該短小部につながる前記湾曲部分が前記細くされた湾曲部分とされていることを特徴とするものである。
【0009】
本態様に従う構造とされたステントによれば、ステントを構成する線状体の湾曲部分の太さを異ならせることによりステントの拡径方向への変形剛性を周方向の適宜の箇所において部分的に調節することができる。それ故、例えばステントの拡張時におけるいびつな変形を抑えて、より均一に拡径させることも可能になる。
【0010】
特に、線状体に設けられた複数の湾曲部分のうちで適切な湾曲部分について太さを異ならせて、ステント拡張時における変形量を部分的に細かく調節することも可能になる。一方、線状体に設けられた複数の直線部分の太さはステント全体で略一定とされていることから、直線部分によって発揮される骨格構造の基本的強度も確保することができると共に、例えば他の直線部分に比して細くされた直線部分などによる応力や歪の集中も回避され得る。加えて、本態様に従う構造とされたステントによれば、基本太さの湾曲部分によって実現される骨格構造の基本的な拡張変形態様を基準として、局所的に大きい拡張変形量を太い湾曲部分で抑えたり、局所的に小さい拡張変形量を細い湾曲部分で増大させたりして、調節することができる。なお、基本太さの湾曲部分は、直線部分の太さと略同じにしても良いが、直線部分よりも太く設定することで、湾曲部分において拡張変形時に歪や応力が略一点に集中することによる耐久性や強度の低下を軽減することが可能になる。さらに、本態様に従う構造とされたステントによれば、拡張時の変形が大きくなり易い長大部付近の変形量を太い湾曲部分で抑えることにより、ステントの長大部付近における変化量が過大になることを回避できる。また、本態様に従う構造とされたステントによれば、拡張時の変形が小さくなり易い短小部付近の変形量を、細くされた湾曲部分によって大きくなるように調節することができる。
【0013】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係るステントにおいて、前記線状体における前記直線部分と前記湾曲部分の厚さ寸法が略一定とされており、幅寸法が異ならされることで該湾曲部分における太さが異ならされているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされたステントによれば、線状体における厚さ寸法が略一定とされることから、製造が容易となる。
【0017】
本発明の第3の態様は、前記第1の態様に係るステントにおいて、前記線状体の先端からステント周方向に略一周回した位置に前記長大部が設けられており、該長大部につながる前記湾曲部分が太くされているものである。
【0018】
例えばステントの端面の傾斜方向を中心軸の垂直面に近づける際に、線状体の先端からステント周方向に略一周回した部分に長大部を設けることで、線状体の先端に近い部分の直線部分が著しく短くなることを軽減等できる。ここにおいて、本態様に従う構造とされたステントでは、かかる長大部につながる湾曲部分を太くすることで、ステント拡張時における長大部の変形量を抑えることが可能になる。
【0021】
本発明の第4の態様は、前記第1~3の何れかの態様に係るステントにおいて、前記線状体の長さ方向の先端に最も近い位置で、ステント長さ方向外方に向かって凸となる前記湾曲部分が細くされているものである。
【0022】
例えばステントの端面の傾斜方向を中心軸の垂直面に近づけようとすると、線状体の先端に近い部分では、直線部分が短くなりがちで変形し難くなる。ここにおいて、本態様に従う構造とされたステントでは、線状体の長さ方向で先端に最も近い外方凸形の湾曲部分を細くすることで、直線部分が短くなりがちな線状体の先端に近い部分を、拡張時に変形し易くすることができる。
【0023】
本発明の第5の態様は、前記第1~第4の何れかの態様に係るステントにおいて、ステント中心軸に対する前記線状体の螺旋の傾斜角度が端部になるにつれて次第に大きくなり、ステント中心軸に対して垂直に近づくようにされているものである。
【0024】
本態様に従う構造とされたステントによれば、例えば血管の屈曲部を通過したり屈曲部に留置される場合にも、ステントの軸方向端部が大きく変形して外周側へ浮き上がるなどといった現象を抑えることが可能になる。なお、螺旋の傾斜角度は、例えばステント両側部分で直線部分の長さを少しずつ小さくして連続的に変化させる他、例えば周方向で部分的に直線部分を長くして段階的に変化させることも可能である。
【0025】
本発明の第6の態様は、前記第1~第5の何れかの態様に係るステントであって、前記線状体において、ステント長さ方向で隣り合う周回部分を互いに連結する連結部が設けられているものである。
【0026】
本態様に従う構造とされたステントによれば、線状体において、ステントの長さ方向で隣り合う周回部分を互いに連結する連結部が設けられていることから、ステントのデリバリ時または留置時に、線状体における長さ方向で隣り合う周回部分の離隔距離が、大きくなり過ぎたり小さくなり過ぎたりすることが回避され得る。なお、かかる連結部は、破断強度が適宜に設定されることにより、ステントの拡張状態において、一部又は全部が破断されるようにしても良い。
【0027】
本発明の第7の態様は、前記第1~第6の何れかの態様に係るステントであって、ステント長さ方向の各端部において、前記線状体の長さ方向の端部をステント周方向における0度の基準位置とした場合に、該線状体の前記直線部分と前記湾曲部分との交互の連続によって構成される軸方向で往復する波形状の周期に対して、ステント周方向で+1.5周期から-3.5周期の範囲内に、前記太さを異ならせた湾曲部分が複数設けられているものである。
【0028】
本態様に従う構造とされたステントによれば、ステント拡張時において局所的にいびつな変形を回避することができるように、線状体の端部の位置を考慮して太さが異ならされた湾曲部分を効率的に設定することが可能になる。なお、本態様では、線状体が端部からステント中央に向かって螺旋状に延びる方向をステント周方向のプラス側とし、線状体を端部から螺旋状に仮想的に延長する方向をステント周方向のマイナス側とする。また、本態様に係るステントにおいて、ステント周方向で+1.5周期から-3.5周期の範囲内を外れた領域では、太い湾曲部分と細い湾曲部分との何れもが設けられないことが望ましく、それによってステント構造や変形態様の簡略化が図られ得る。
【発明の効果】
【0029】
本発明に従う構造とされたステントによれば、線状体の直線部分による骨格構造の基本的強度を確保しつつ、線状体に設けた太さの異なる湾曲部分によって、ステント拡張時における変形量を部分的に調節することができるのであり、例えばステント拡張時におけるいびつな変形を改善することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1の実施形態としてのステントを周上の一部で切り開いて示す展開図。
【
図2】
図1に示されたステントにおける広幅部(太い湾曲部分)の具体的一例を説明するための説明図。
【
図3】
図1に示されたステントにおける狭幅部(細い湾曲部分)の具体的一例を説明するための説明図。
【
図4】
図1に示されたステントの拡張状態を説明するための説明図。
【
図5】
図1に示されたステントにおける連結部の具体的一例を説明するための説明図。
【
図6】
図1に示されたステントの拡張状態を説明するための説明図であって、(a)は実施例としての本発明構造のステントを示すと共に、(b)は比較例のステントを示す。
【
図7】本発明の第2の実施形態としてのステントを周上の一部で切り開いて示す展開図。
【
図8】本発明の第3の実施形態としてのステントを周上の一部で切り開いて示す展開図。
【
図9】本発明に係るステントにおける広幅部(広い湾曲部分)の別な具体的一例を説明するための説明図。
【
図10】本発明に係るステントにおける狭幅部(細い湾曲部分)の別な具体的一例を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0032】
先ず、
図1には、本発明の第1の実施形態としてのステント10が、周上の一部を中心軸方向に延びる1本の切断線で切り開かれた展開図として示されている。このステント10は、全体として略円筒形状とされた周壁部12を備えており、縮径状態で血管などの体内管腔における狭窄部位までデリバリされた後、径方向に拡張された拡径状態で留置されることで、当該狭窄部位を押し広げて拡張状態に維持するようになっている。なお、
図1では、ステント10が、縮径も拡径もされていない初期状態で示されている。また、以下の説明において、軸方向またはステント10の長さ方向とは、ステント10の中心軸11の延びる方向となる
図1中の左右方向をいう。
【0033】
より詳細には、ステント10の周壁部12は、軸方向に往復しながら周方向螺旋状に延びる1本の線状体14からなる基本骨格を有している。線状体14は、略ストレートに延びる直線部分16と、周方向で隣接する直線部分16,16を相互に接続する湾曲部分としての折返部18を備えている。そして、直線部分16の長さ方向両端に折返部18,18が設けられることで、これら直線部分16と折返部18とが交互に連続して、軸方向に波状に往復しながら周方向螺旋状に延びる、ステント10の基本骨格が構成されている。なお、説明のし易さのために、軸方向一方の側(
図1中の左側)に向かって凸となる折返部を折返部18aとすると共に、軸方向他方の側(
図1中の右側)に向かって凸となる折返部を折返部18bとすることで、それらを識別する。
【0034】
本実施形態では、折返部18a,18bが、略半円弧状の湾曲形状とされており、かかる折返部18a,18bが、何れも、線状体14における湾曲部分とされている。また、
図1に示される状態では、直線部分16が、軸方向と略平行か、軸方向に対して僅かに傾斜して延びている。特に本実施形態では、線状体14の往復振幅、即ち直線部分16の長さ寸法L
1 (
図1参照)が、少なくともステント10の軸方向中央部分において略一定とされて、線状体14が、ステント10の少なくとも軸方向中央部分に位置する複数周の領域において略一様な波状を呈している。なお、線状体14が軸方向に往復しながら周方向螺旋状に延びることで、線状体14の振幅、即ち直線部分16の長さ寸法に応じた幅で周方向螺旋状に延びる周回部分としての帯状体19が形成されており、軸方向で隣り合って配置された帯状体19,19が、軸方向に所定の距離(ピッチ)だけ離隔している。本実施形態では、ステント10の全体に亘って略一定のピッチをもって線状体14の往復振幅構造が形成されている。
【0035】
なお、かかる線状体14は、本実施形態では、略矩形の薄板断面形状をもって延びる長手状の部材とされている。すなわち、線状体14(直線部分16および折返部18)の厚さ寸法が、ステント10の全長に亘って略一定とされている。また、線状体14における直線部分16の幅寸法W
0 (
図1参照)は、ステント10の全長に亘って実質的に等しくされている。したがって、線状体14では、その直線部分16において、太さ(断面積)が、ステント10の略全長に亘って略等しくされている。なお、ステント10には、後述する連結部30や脆弱部32等が適宜に設けられるし、線状体14の両端には幅寸法W
0 より大径の円板状部20が必要に応じて設けられるが、それらによる幅寸法の変化などを許容して、全ての直線部分16の幅寸法W
0 が実質的に一定の太さとされている。
【0036】
また、折返部18の幅寸法は、少なくともステント10の軸方向中央部分に位置する、最も数が多い基本太さの折返部18において、直線部分16の幅寸法よりも僅かに大きな幅寸法W1 とされている。本実施形態では、折返部18の周方向両端における直線部分16との境界部では直線部分16と略同じ幅寸法とされており、折返部18の長さ方向中央の所定長さ領域で最も大きい幅寸法W1 となるようにされている。なお、基本太さの折返部18の幅寸法W1 は、直線部分16の幅寸法W0 に対して、1.0W0 <W1 ≦1.5W0 (100%を越えて且つ150%以下)の範囲内に設定されていることが好適であり、更に好適には、110%~140%(1.0W0 <W1 ≦1.4W0 )とされる。因みに本実施形態では、W1 /W0 =1.25とされている。
【0037】
このように折返部18の基本太さW1 が直線部分16の太さW0 よりも大きくされることで、ステント拡張時の曲げ応力や歪が折返部18の略中央の一点に集中作用してしまうことを抑えて、応力や歪を折返部18の長さ方向に分散させることにより、ステントの強度や耐久性の向上などが図られている。また、本実施形態では、直線部分16と折返部18との間で太さ変化が滑らかに変化していることで、線状体14の長さ方向で断面積が急激に変化することによる応力集中も回避されている。
【0038】
更にまた、1周における周方向の波数(ターン数)、即ち線状体14の1周における周期構造の繰り返し単位の数は何等限定されるものではないが、本実施形態のステント10では、全長に亘って略一定で12波とされている。
【0039】
また、線状体14の長さ方向の両端には、中間部分に比して拡幅されて略円板形状とされた円板状部20が設けられている。かかる円板状部20により、ステント留置状態で生体組織に及ぼされる、線状体14の先端による圧力の軽減や、線状体14の取扱いの容易化などが図られている。
【0040】
なお、線状体14は、生分解性樹脂、合成樹脂等によっても形成され得るが、好適には、ステンレス鋼、コバルトクロム合金やNi-Ti合金等の生体適合性に優れた金属(即ち、生体組織に対する毒性がなく、且つ生体不活性の金属)によって形成される。
【0041】
このように、線状体14が、軸方向に往復しながら周方向螺旋状に延びることにより、全体として軸方向に延びて略円筒形状を呈する周壁部12が形成されている。なお、ステント10(周壁部12)の軸方向寸法は何等限定されるものではないが、本実施形態では略18mmとされている。
【0042】
かかる周壁部12は、例えば、略円筒形状の金属部材などからなるスリーブ状の素管を用い、かかる素管の周壁をレーザーなどによって切り出して、所定形状の線状体14を形成することで、得ることができる。尤も、ステント10の製造方法は、上記の如きレーザーカットに限定されるものではなく、電鋳やエッチングなど従来公知のステントの製造方法が採用され得る。
【0043】
さらに、本実施形態のステント10では、線状体14の螺旋の傾斜角度α(
図1参照)が、軸方向で変化するようにされている。すなわち、ステント10の軸方向中央部分では、線状体14の螺旋が、略一定の傾斜角度を有して延びている一方、軸方向両側部分では、軸方向端になるにつれて次第に大きくなって垂直に近づいて、ステント10の軸方向両端部では、線状体14の螺旋の傾斜角度αが、中心軸11に対して略垂直(α≒90°)となるようにされている。
【0044】
これにより、ステント10の周壁部12における軸方向両端面が略軸直角方向に広がっており、換言すれば、線状体14においてステント軸方向両端で外方に凸となる態様で周方向に並んで位置する折返部18a,18bの頂部が、それぞれ軸直角方向に広がる同一平面上に略位置している。
【0045】
なお、螺旋の傾斜角度αは、例えば、
図1中の軸直角方向(上下方向)中央部分において、線状体14の隣り合う各直線部分16,16の軸方向中央をつないだ、図中に2点鎖線で示される螺旋において、その螺旋角をいい、「(90度)-(螺旋のリード角)」の値で表される。
図1中では、螺旋の傾斜角度αが、1点鎖線で示される中心軸11の方向線との成す角度として示されている。
【0046】
ここにおいて、上記のように螺旋の傾斜角度αを軸方向で異ならせるために、ステント10では、直線部分16の長さ寸法が、軸方向で異ならされている。すなわち、本実施形態では、ステント10の軸方向中央部分では、直線部分16の長さ寸法が略一定(L1 )とされており、螺旋の傾斜角度αも略一定とされている一方、ステント10の軸方向両側部分では、直線部分16の長さ寸法が、軸方向中央部分における直線部分16の長さ寸法(L1 )とは異ならされることで、螺旋の傾斜角度αが軸方向両端部になるにつれて次第に垂直に近づくようになっている。
【0047】
具体的には、ステント10の軸方向両側部分に位置する線状体14には、長さ寸法L2 が、軸方向中央部分における直線部分16よりも大きくされて(L1 <L2 )直線状に延びる長大部22と、長さ寸法L3 が、軸方向中央部分における直線部分16よりも短くされて(L1 >L3 )直線状に延びる短小部24とが設けられている。
【0048】
具体的には、線状体14の直線部分16は、[1]軸方向中央部分における略一定の基本的な長さ寸法(L1 )を有する部分と、[2]軸方向両側部分における該基本的な長さ寸法よりも大きな長さ寸法(L2 )を有する部分(長大部22)と、[3]軸方向両側部分における該基本的な長さ寸法よりも小さな長さ寸法(L3 )を有する部分(短小部24)とを含んで構成されている。
【0049】
そして、長大部22の長さ方向両端に設けられる折返部18a,18bのうち、少なくとも一方は、
図2に示されるように、その幅寸法W
2 が、ステント10の軸方向中央部分に設けられる基本太さの折返部18a,18b(
図2中に2点鎖線で図示)よりも幅寸法が大きく(W
1 <W
2 )された広幅部26とされている。本実施形態では、ステント10において長大部22が複数設けられており、当該複数の長大部22の長さ方向両端に設けられる複数の折返部18a,18bのうち、適数個が広幅部26とされている。
【0050】
なお、本実施形態では、線状体14において、直線部分16(長大部22)の幅寸法が、ステント10の全長に亘って略等しくW0 とされていると共に、折返部18a,18bの基本太さ(基本幅寸法)W1 が、W0 よりも大きくされており、更に、広幅部26の幅寸法W2 は、かかる基本太さW1 よりも大きな幅寸法とされているから、「W0 <W1 <W2 」の関係で表される。
【0051】
また、本実施形態では、広幅部26(折返部18a,18b)の幅寸法W2 が、長さ方向の略全長に亘って、基本太さW1 よりも大きくなるようにされており、特に本実施形態では、広幅部26が、基本的な太さ寸法W1 の折返部18a,18bに対して湾曲形状の内周側に増肉することで太さ寸法W2 をもって形成されている。すなわち、基本的な太さとされた折返部18a,18bの湾曲形状における内周面18cの曲率半径よりも、幅寸法が大きくされた広幅部26の湾曲形状における内周面26cの曲率半径の方が大きくされている。なお、基本的な太さとされた折返部18a,18bの湾曲形状における外周面の曲率半径と、幅寸法が大きくされた広幅部26の湾曲形状における外周面の曲率半径とは略等しい大きさとされている。なお、本実施形態における広幅部26の幅寸法W2 は、広幅部26の実質的に全長に亘って基本太さW1 より太くされており、特に本実施形態では広幅部26の長さ方向中央で最大幅寸法W2 となるようにされている。
【0052】
特に、本実施形態では、線状体14の厚さ寸法が、ステント10の略全長に亘って等しくされていることから、上記のように幅寸法が異ならされることで、線状体14において、広幅部26の形成部分が、線状体14の長さ方向で最も幅広で太く(断面積が大きく)されている。そして、本実施形態では、広幅部26により、線状体14においてその太さが、軸方向中央部分に設けられる基本太さの折返部18a,18bよりも太くされた太線部(太くされた湾曲部分)が構成されている。
【0053】
また、広幅部26の幅寸法W2 は、ステント10の軸方向中央部分における折返部18a,18bの基本幅寸法W1 に対して、1.0W1 <W2 ≦1.5W1 (100%を越えて且つ150%以下)の範囲内に設定されていることが好適であり、更に好適には、110%~130%(1.1W1 ≦W2 ≦1.3W1 )の範囲内に設定される。本実施形態では、広幅部26の幅寸法W2 が、ステント10の軸方向中央部分における折返部18a,18bの基本幅寸法W1 の120%(W2 =1.2W1 )とされている。広幅部26の幅寸法W2 が上記範囲内に設定されることにより、後述するように、ステント10の拡張時における局所的に大きな変形が抑制されている。
【0054】
一方、短小部24の長さ方向両端に設けられる折返部18a,18bのうち、少なくとも一方は、
図3に示されるように、その幅寸法W
3 が、ステント10の軸方向中央部分に設けられる基本太さの折返部18a,18b(
図3中に2点鎖線で図示)よりも幅寸法が小さく(W
3 <W
1 )された狭幅部28とされている。本実施形態では、ステント10において短小部24が複数設けられており、当該複数の短小部24の長さ方向両端に設けられる複数の折返部18a,18bのうち、適数個が狭幅部28とされている。
【0055】
なお、本実施形態では、線状体14において、直線部分16(長大部22)の幅寸法W0 に比して折返部18a,18bの基本太さ(基本幅寸法)W1 が大きくされているから、狭幅部28の幅寸法W3 は、折返部の基本幅寸法W1 より小さければ良いが、好適には、直線部分16の幅寸法W0 と同じかそれよりも大きく(W0 ≦W3 <W1 )設定されることが望ましい。狭幅部28の幅寸法W3 を直線部分16の幅寸法W0 以上の大きさとすることで、ステント拡張時に狭幅部28における応力や歪の一点集中による局所的に過度の変形が軽減又は回避され得る。
【0056】
すなわち、本実施形態では、狭幅部28が、基本的な太さ寸法W1 の折返部18a,18bに対して湾曲形状の内周側を減肉することで太さ寸法W3 をもって形成されており、特に本実施形態では、狭幅部28の幅寸法W3 が、直線部分16の幅寸法W0 と同じかそれよりも大きくされている。要するに、基本的な太さとされた折返部18a,18bの湾曲形状における内周面18cの曲率半径よりも、幅寸法が小さくされた狭幅部28の湾曲形状における内周面28cの曲率半径の方が小さくされている。なお、基本的な太さとされた折返部18a,18bの湾曲形状における外周面の曲率半径と、幅寸法が小さくされた狭幅部28の湾曲形状における外周面の曲率半径とは略等しい大きさとされている。
【0057】
特に、本実施形態では、線状体14の厚さ寸法が、ステント10の略全長に亘って等しくされていることから、上記のように幅寸法が異ならされることで、線状体14において、狭幅部28の形成部分が、複数設けられた折返部18a、18bのうち、最も狭幅で細く(断面積が小さく)されている。そして、本実施形態では、狭幅部28により、軸方向中央部分に設けられる基本太さの折返部18a,18bよりもその太さが細くされた細線部(細くされた湾曲部分)が構成されている。
【0058】
なお、本実施形態における狭幅部28の幅寸法W3 は、狭幅部28の実質的に全長に亘って基本太さW1 より細くされており、特に本実施形態では狭幅部28の長さ方向中央で最小幅寸法W3 となるようにされている。
【0059】
また、狭幅部28の幅寸法W3 は、ステント10の軸方向中央部分における基本太さの折返部18a,18bの幅寸法W1 に対して、0.5W1 ≦W3 <1.0W1 (50%以上で且つ100%未満)の範囲内に設定されていることが好適であり、更に好適には、70%~90%(0.7W1 ≦W3 ≦0.9W1 )の範囲内に設定される。本実施形態では、狭幅部28の幅寸法W3 が、基本太さの折返部18a,18bの幅寸法W1 の80%(W3 =0.8W1 )とされている。狭幅部28の幅寸法W3 が上記範囲内に設定されることにより、後述するように、ステント10の拡張時における局所的な変形不足が軽減されている。
【0060】
これら広幅部26および狭幅部28の形成位置は、ステント10の拡張時における変形態様や設定する幅寸法などを考慮して、変形の局所的ないびつさが緩和されるように適切に設定され得るものであって、何等限定されるものではないが、
図1中に、それぞれ黒丸および白丸で示される位置に形成されている。
【0061】
すなわち、本実施形態における広幅部26および狭幅部28は、直線部分16の長さ寸法が異ならされて(要するに、長大部22および短小部24が設けられて)、線状体14の螺旋の傾斜角度αが次第に変化する領域に設けられている。かかる領域の大きさは何等限定されるものではないが、ステント10の長さ方向の両側部分において周方向で1周以上とされていればよく、好適には2周以上とされて、更に好適には3周以上とされる。本実施形態では、軸方向両端部からステント10の周方向で略3周の領域に亘って、長大部22および短小部24ならびに広幅部26および狭幅部28が設けられている。これにより、線状体14の螺旋の傾斜角度αが急激に変化することを回避して、例えば1周あたりの傾斜角度の変化量を5度以下に設定して、ステント10の変形や拡張を、全体に亘って一層滑らかに生じさせることができる。
【0062】
そして、このように線状体14の螺旋の傾斜角度αを軸方向両側部分において軸方向端に向かって大きくするという構造を採用することにより、本実施形態では、線状体14の長さ方向の端部から、螺旋の延出方向(軸方向の一方である
図1中の左方では円板状部20から下方に向かう方向、軸方向の他方である
図1中の右方では円板状部20から上方に向かう方向)において、波(ターン数)およそ2つ分の領域において、直線部分16が、その長さ寸法が短くされた短小部24とされている。具体的には、円板状部20に対して、螺旋の延出方向に位置する2つまたは3つの直線部分16が短小部24とされることが好適であり、少なくとも円板状部20に対して、螺旋の延出方向で隣接する1つの直線部分16が短小部24aとされている。そして、かかる円板状部20に対して螺旋の延出方向で隣接する短小部24aにおいて、当該短小部24aにつながる折返部(湾曲部分)18のうち、軸方向外方に向かって凸となる湾曲部分(
図1中左方の短小部24aでは折返部18a、
図1中右方の短小部24aでは折返部18b)が、狭幅部28とされている。要するに、線状体14の先端(長さ方向端部)に最も近い位置で、ステント10の長さ方向外方に向かって凸となる湾曲部分(折返部)18a,18bが、狭幅部28とされている。
【0063】
一方、本実施形態では、線状体14の長さ方向の端部から、周方向で略1周回した部分において、波(ターン数)およそ2つ分の領域に亘って、直線部分16が、その長さ寸法が大きくされた長大部22とされている。具体的には、円板状部20に対して、螺旋の延出方向と反対側に位置する2つまたは3つの直線部分16が長大部22とされることが好適であり、少なくとも円板状部20に対して、螺旋の延出方向と反対側に隣接する1つの直線部分が長大部22aとされている。そして、かかる円板状部20に対して螺旋の延出方向と反対側に隣接する長大部22aにおいて、当該長大部22aにつながる折返部(湾曲部分)18のうち、軸方向外方に向かって凸となる湾曲部分(
図1中左方の長大部22aでは折返部18a、
図1中右方の長大部22aでは折返部18b)が、広幅部26とされている。要するに、線状体14の先端(長さ方向端部)から、ステント10の周方向に略1周回した位置に長大部22aが設けられており、当該長大部22aにつながる湾曲部分(折返部)18a,18bが、広幅部26とされている。特に、本実施形態では、線状体14の長さ方向端部(円板状部20)から周方向で略1周回した部分が、円板状部20に対して螺旋の延出方向と反対側に隣接する長大部22aとされて、当該長大部22aに広幅部26がつながっているが、例えば線状体14の長さ方向端部から周方向で略1周回した部分は、円板状部20に対して、例えば波(ターン数)2つまたは3つ分周方向で離隔していてもよい。
【0064】
また、
図4には、本実施形態のステント10の拡張状態を、コンピュータ上でシミュレートしたシミュレーション結果が示されている。ここで、
図4(a)は、ステント10の軸方向他方側の円板状部20を図中の正面に位置させた状態を示しており、
図4(b)~(d)は、それぞれ
図4(a)の状態から、
図4(b)~(d)の右側に記されている角度分(それぞれ90度、180度、270度)周方向に回転させた状態を示している。なお、
図4では、ステント10の軸方向他方の側の端部のみが示されているが、軸方向一方側の端部は、
図4(a)~(d)に対して回転対称となる。また、
図4中においても、広幅部26および狭幅部28が、それぞれ黒丸および白丸で示されている。
【0065】
図4(a)~(d)からも明らかなように、広幅部26および狭幅部28(即ち、長大部22および短小部24)は、
図4(a),(b)のみに示されるものである。すなわち、本実施形態では、
図1に示されているように、ステント10の初期状態において、軸方向の各端部に設けられる円板状部20の形成端(線状体14の長さ方向の先端)を周方向の基準位置である±0度として、周方向における線状体14の螺旋の延出方向を+方向、周方向における線状体14の螺旋の延出方向と反対の仮想的な延長方向を-方向とすると、±0度を挟んで周方向両側に位置する+45度~-105度の範囲内に広幅部26と狭幅部28が設けられている。なお、かかる数値範囲は、
図4中の右側に記されている数値とは対応するものでない。
【0066】
このことは、線状体14の直線部分16と湾曲部分18との交互の連続によって構成される軸方向で往復する波形状の周期(T)を単位とすると、基準位置である±0度の位置に対してステント周方向で+1.5周期から-3.5周期の範囲内に、実質的に全ての広幅部26と狭幅部28が設けられていることを意味する。即ち、本実施形態のステント10は、12波/周の骨格構造とされており、1波の周期(T)が30度とされている。なお、参考のために、
図1には、線状体14の螺旋方向における周方向での基準位置を示す±0度の直線に加えて、周方向で+45度および-105度を示す直線を、それぞれL
+45 およびL
-105として示す。
【0067】
要するに、本実施形態のステント10では、軸方向両端部における線状体14の螺旋の傾斜角度αを、中心軸11に対して略垂直とするために、ステント10の両端部における線状体14の直線部分16の長さ寸法が異ならされている。すなわち、線状体14の長さ方向の先端に対して、線状体14の螺旋方向で±0度から+45度の範囲内、且つ周方向で3周に亘る領域において、複数の短小部24が設けられている。そして、当該短小部24のうちの適数個について、長さ方向の少なくとも一方につながる折返部(湾曲部分)18が狭幅部28とされている。一方、線状体14の長さ方向の先端に対して、線状体14の螺旋方向で±0度から-105度の範囲内、且つ周方向で3周に亘る領域において、複数の長大部22が設けられている。そして、当該長大部22のうちの適数個について、長さ方向の少なくとも一方につながる折返部(湾曲部分)18が広幅部26とされている。
【0068】
また、本実施形態の線状体14には、長さ方向で複数の連結部30が設けられている。この連結部30は、軸方向で隣り合う周回部分としての帯状体19,19を相互に連結するように設けられており、特に、本実施形態では、軸方向で隣り合う折返部18aと折返部18bとを相互に連結するように設けられている。かかる連結部30は、所定数の折返部18a(18b)毎に形成されており、本実施形態では、
図1にも示されているように、連結部30が、折返部18a(18b)に対して、ステント10の軸方向中央部分では7つおき、軸方向両端部分では1つまたは2つおき、或いは連続して設けられている。なお、
図1中では、連結部30の形成位置が、二重丸で示されている。これにより、複数の連結部30が線状体14の長さ方向で略一定の間隔をもって均等に設けられている。
【0069】
かかる連結部30の構造は何等限定されるものではないが、本実施形態では、
図5に示されているように、ステント10の軸方向中央部分における連結部30に対して、脆弱部32が設けられている。脆弱部32は、線状体14に比して機械的な強度が小さい部分であって、本実施形態では、ステント10の軸方向中央部分に位置する連結部30の全体が脆弱部32で構成されている。これにより、ステント10が体内管腔の屈曲部などに留置されて長さ方向で屈曲せしめられた際などに、脆弱部32が優先的に破断されるようになっている。
【0070】
なお、本実施形態の脆弱部32は、幅寸法W
4 (
図5参照)が、線状体14における折返部18の幅寸法W
1 よりも小さくされているとともに、厚さ寸法も、線状体14よりも小さくされている。これら脆弱部32の幅寸法W
4 や厚さ寸法は、何等限定されるものではないが、例えば脆弱部32の幅寸法W
4 は、線状体14の折返部18の幅寸法W
1 の0.2倍~0.9倍とされることが好適であり、脆弱部32の厚さ寸法も、線状体14の折返部18の厚さ寸法の0.2倍~0.7倍とされることが好適である。
【0071】
このように、脆弱部32が線状体14に比して狭幅且つ薄肉とされていることにより、脆弱部32の断面積が、線状体14の断面積よりも小さくされており、これにより、脆弱部32の機械的強度が線状体14よりも小さくされている。なお、好適には、脆弱部32の断面積が、線状体14における基本太さの折返部18の断面積に対して、0.01倍~0.7倍とされる。
【0072】
かかる脆弱部32は、例えば線状体14における軸方向で隣接する湾曲部分18a,18bが、レーザーで相互に溶接されることにより、形成されている。これにより、脆弱部32を後加工によって容易に形成することができると共に、レーザーの照射時間や強度等を適当に制御することによって、脆弱部32を任意の形状とサイズで形成することが可能であって、脆弱部32の破断のタイミングを容易にコントロールすることができる。
【0073】
一方、ステント10の軸方向両端部における連結部30は、脆弱部32を有さないことが好ましい。すなわち、例えば連結部30の幅寸法や厚さ寸法が線状体14の折返部18と略等しくされて、線状体14と同程度の機械的強度を有することも可能である。これにより、ステント10の軸方向両端部における強度が向上されて、ステント10を長さ方向で屈曲せしめた際などの、ステント10の軸方向両端部におけるいびつな変形が抑制され得る。
【0074】
以上の如き構造とされたステント10は、図示しないステント拡張用バルーンカテーテルのバルーンに外挿されて、体内管腔(例えば、血管等)の狭窄部位に挿入される。そして、ステント拡張用バルーンカテーテルのバルーンが膨らまされることにより、バルーンに外挿されたステント10が拡径変形されて、血管壁に密着される。その後、バルーンを収縮させてステント10から抜き取ることにより、ステント10が血管の狭窄部位に留置されて、体内管腔が拡張状態で維持されるとともに、狭窄部位における再狭窄の発生などが防止される。
【0075】
かかる構造とされたステント10の拡張状態のシミュレーション結果を
図6(a)に示す一方、
図6(b)には、比較例のステントとして、太線部や細線部が設けられていないステントを示す。なお、
図6(a),(b)に示されるステントにおいて、太線部や細線部以外の構造は同一である。また、
図6(a),(b)において、4つの図は、
図4と同様に、一番上の図を正面(0°)とした場合から、下の図になるにつれて90°毎に回転させた図である。尤も、
図4とは、正面(0°)の位置が異なっている。
【0076】
すなわち、
図6(a),(b)において、丸Aで囲まれた領域を相互に比較することで、
図6(b)に比べて、
図6(a)の方が、線状体14の変形が促進されていることが理解される。かかる丸Aで囲まれた領域は、線状体において短小部が設けられる領域であり、ステントの軸方向両端を軸方向に対して垂直に近くすることを目的として短小部を設けた場合では、
図6(b)に示されるように、線状体が十分に広がらないおそれがあった。それに対して、
図6(a)では、短小部24に対して狭幅部28を設けることで、拡張変形の容易化を図り、狭幅部28につながる直線部分16(短小部24)の変位量を大きくすることができる。これにより、拡張変形が局所的に不十分であった丸Aで囲まれた領域について、他の部分に対する拡張変形の均一性が向上され得る。
【0077】
一方、
図6(a),(b)において、丸Bで囲まれた領域を相互に比較することで、
図6(b)に比べて、
図6(a)の方が、線状体14の変形が抑制されていることが理解される。かかる丸Bで囲まれた領域は、線状体において長大部が設けられる領域であり、ステントの軸方向両端を軸方向に対して垂直に近くすることを目的として長大部を設けるのみでは、
図6(b)に示されるように、線状体が広がり過ぎるおそれがあった。それに対して、
図6(a)では、長大部22に対して広幅部26を設けることで、拡張変形を抑制して、広幅部26につながる直線部分16(長大部22)の変位量を小さくすることができる。これにより、拡張変形が過剰であった丸Bで囲まれた領域について、他の部分に対する拡張変形の均一性が向上され得る。
【0078】
上記の如き構造とされた本実施形態のステント10では、線状体14における湾曲部分18a,18bに広幅部26および狭幅部28が設けられることで、上記のように、拡径の均一性が向上され得る。特に、かかる広幅部26や狭幅部28を設けるに際して、直線部分16の太さなどが変更されるものでないことから、ステント10の軸方向両側部分において基本的な骨格構造によって発揮される形状保持性や耐潰れ強度なども安定して確保され得ると共に、設計や拡張変形の調節も容易となる。
【0079】
また、広幅部26や狭幅部28のように太さが異なる部分が、直線部分16ではなく湾曲部分(折返部)18に設けられることで、ステント10の拡径時に、ステント10が、直線部分16で折れ曲がることが効果的に防止され得る。特に、かかる太さの変更が、厚さ寸法でなく、幅寸法を変更することで実現されていることから、レーザーカットなどによりステント10が容易に製造され得る。
【0080】
さらに、本実施形態では、線状体14の螺旋の傾斜角度αが、軸方向両端部では中心軸11に対して略垂直とされることから、ステント10の屈曲変形時における線状体14の浮き上がりなども効果的に防止され得る。特に、かかる線状体14の螺旋の傾斜角度αが、軸方向両端部になるにつれて次第に大きくされることから、直線部分16の急激な長さ変化が回避されて、拡径の均一性の更なる向上が図られ得る。
【0081】
また、上記のように、軸方向両端部を中心軸11に対して垂直な形状とすることで、線状体14の長さ方向両端部において、螺旋の延出方向で隣接する部分の直線部分16の長さ寸法が短くなったり、螺旋の延出方向と反対側で隣接する部分の直線部分16の長さ寸法が長くなったりし易いが、これら短小部24aや長大部22aに狭幅部28や広幅部26を設けることで、ステント10がより一層確実に均一に拡径され得る。
【0082】
特に、線状体14の長さ方向両端部に対して、周方向の所定の角度の範囲内に広幅部26や狭幅部28(長大部22や短小部24)を設けることで、それらを効率的に配置することができると共に、直線部分16の長さ寸法や折返部18の幅寸法の変化なども小さく抑えられ得る。
【0083】
更にまた、本実施形態では、軸方向で隣り合う帯状体19,19を相互に連結する連結部30が設けられていることから、ステント10の全体的な形状安定性の向上も図られうる。
【0084】
次に、
図7には、本発明の第2の実施形態としてのステント40が示されている。前記第1の実施形態では、ステント(10)の1周における周方向の波数(ターン数又は周期数)、即ち線状体14の1周における周期構造の繰り返し単位の数が12波(12周期)とされていたが、本実施形態のステント40では、1周における周方向の波数(ターン数又は周期数)が10波(10周期)とされている。本実施形態のステント40についても、前記第1の実施形態と同様の構成が採用されていることから、同様の効果が発揮され得る。
【0085】
図7に示されているように、本実施形態のステント40では、軸方向両側部分における線状体14の螺旋の傾斜角度αの変化領域において、線状体14の先端である0度の基準位置に対して、ステント周方向で+1.5周期から-3.5周期の範囲に相当する+54度から-126度の範囲内に、細い湾曲部分からなる狭幅部28と太い湾曲部分からなる広幅部26がそれぞれ設けられている。
【0086】
更に、
図8には、本発明の第3の実施形態としてのステント50が示されている。本実施形態のステント50は、1周における周方向の波数(ターン数)が、第1の実施形態と同じ12波とされている。一方、前記第1および第2の実施形態では、ステント(10,40)の軸方向全体の寸法(全長)が18mmとされていたが、本実施形態のステント50では、軸方向全体の寸法が8mmとされている。これに伴い、ステント50の軸方向両側部分における線状体14の螺旋の傾斜角度αの変化領域が第1及び第2の実施形態よりも軸方向で短くされていると共に、広幅部26が設けられる領域が、前記第1および第2の実施形態では、ステント軸方向の両側部分において線状体14の長さ方向端部から周方向で3周分であったのに対して、本実施形態では、線状体14の長さ方向端部から周方向で2周分とされている(狭幅部28は、線状体14の長さ方向端部から周方向で1周分の領域に亘って設けられている)。これにより、ステント50の軸方向中央部分における、直線部分16の長さ寸法が略一定とされた領域を十分に確保することができる。
【0087】
図8に示されているように、本実施形態のステント50においても、軸方向両側部分における線状体14の螺旋の傾斜角度αの変化領域において、線状体14の先端である0度の基準位置に対して、ステント周方向で+1.5周期から-3.5周期の範囲に、細い湾曲部分からなる狭幅部28と太い湾曲部分からなる広幅部26がそれぞれ設けられている。特に、本実施形態では、ステント全長および傾斜角度αの変化領域が第1の実施形態よりも軸方向で短くされていることから、ステント周方向で+1.5周期から-1.5周期の範囲に、狭幅部28と広幅部26がそれぞれ設けられており、0度~+45度の範囲に全ての狭幅部28が配置されている一方、0度~-45度の範囲に全ての広幅部26が配置されている。かかる構造とされた本実施形態のステント50においても、前記第1の実施形態と同様の構成が採用されていることから、同様の効果が発揮され得る。
【0088】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。
【0089】
たとえば、前記実施形態では、ステント10,40,50において、広幅部(太線部)26と狭幅部(細線部)28の両方が設けられていたが、太線部(太い湾曲部分)と細線部(細い湾曲部分)は、何れか一方が採用されるだけでよい。なお、かかる太線部は、長大部22が複数設けられる場合、全ての長大部22につながる折返部18に設けられる必要はなく、複数の長大部22のうちの少なくとも1つの長大部22につながる折返部18に設けられることが好適である。同様に、細線部は、短小部24が複数設けられる場合、複数の短小部24のうちの少なくとも1つの短小部24につながる折返部18に設けられることが好適である。要するに、ステント全体に対して、太線部及び/又は細線部を設ける位置は、ステントに要求される特性や留置される場所などを考慮して、適宜に設定され得るものであり、予め限定されるものでない。
【0090】
また、前記実施形態では、長大部22につながる折返部(湾曲部分)18の長さ方向全長に亘って、当該長大部22よりも幅寸法が大きくされて広幅部(太線部)26が形成されていたが、長さ方向の一部における幅寸法が大きくされることで広幅部(太線部)が構成されるようになっていてもよい。同様に、折返部(湾曲部分)の長さ方向の一部における幅寸法が小さくされることで狭幅部(細線部)が構成されてもよい。あるいは、幅寸法が大きくされた部分(太くされた部分)が、折返部(湾曲部分)を越えて、直線部分の端部にまで至っていてもよいし、幅寸法が短くされた部分(細くされた部分)が、折返部(湾曲部分)を越えて、直線部分の端部にまで至っていてもよい。
【0091】
尤も、前記実施形態では、軸方向中央部分の基本的な幅寸法W1 とされた折返部18a,18bに対して幅寸法が異ならされることで、太い湾曲部分としての広幅部26および細い湾曲部分としての狭幅部28が形成されていたが、軸方向中央部分の基本的な折返部に対して、幅寸法を略一定とするとともに、厚さ寸法を異ならせることで太い湾曲部分や細い湾曲部分を構成するようになっていてもよい。あるいは、軸方向中央部分の基本的な折返部に対して幅寸法と厚さ寸法の両方を異ならせてもよい。
【0092】
すなわち、広幅部26や狭幅部28の太さは、ステント10の軸方向中央部分に設けられる基本太さの折返部18に対して設定されるものであって、具体的な太さ(断面積や断面形状)を限定されるものでなく、例えば直線部分の太さに対する相対関係も限定されるものでない。
【0093】
また、前記実施形態では、ステント10,40,50の直線部分16は、ステント10,40,50の全体に亘って、略一定の幅寸法と厚さ寸法を有することで略一定の断面積とされていたが、かかる態様に限定されるものではない。すなわち、ステントにおける直線部分は、断面積が略一定とされるのであれば、長さ方向で幅寸法や厚さ寸法が変化していてもよい。
【0094】
さらに、本発明においては、ステントの屈曲時に優先的に破断される脆弱部は必須なものではない。すなわち、ステントに設けられる全ての連結部は、線状体と同程度の機械的強度を有していてもよい。また、連結部は、軸方向で隣接する折返部(湾曲部分)同士を連結するものに限定されるものではなく、周方向で離れた折返部同士を連結してもよいし、折返部と直線部分、あるいは直線部分同士を連結してもよい。尤も、本発明において、連結部は必須なものではない。
【0095】
更にまた、前記実施形態では、周方向で隣接する直線部分16,16を接続する折返部18a,18bが、略半円弧状の湾曲形状とされていたが、例えば略横向きのV字状とされた屈曲形状であったり、略コの字状などとされていてもよい。また、線状体の断面形状は略矩形状に限定されるものではなく、楕円や長円、半円を含む円形状や、多角形状など各種断面形状が採用され得る。
【0096】
さらに、折返部(湾曲部分)において太さを太くした部分(広幅部)や太さを細くした部分(狭幅部)の具体的な形状は、前記実施形態のものに限定されるものではない。すなわち、前記実施形態では、基本的な幅寸法W
1 を有する折返部18に対して湾曲形状の内周側に増肉または減肉することで広幅部26および狭幅部28を形成していたが、例えば
図9,10に示されるように、基本的な幅寸法W
1 を有する折返部18に対して湾曲形状の外周側に増肉または減肉することで広幅部26’および狭幅部28’を形成してもよい。
【0097】
また、ステントの軸方向寸法は、前記実施形態に例示の如き8mmや18mmに限定されるものではない。更に、ステントの軸方向寸法や要求特性などに応じて、ステントの軸方向中央部分において螺旋の傾斜角度αが一定とされた部分(直線部分の長さ寸法が略一定とされた部分)や次第に傾斜角度が変化する部分の周回数を適宜に増やしたり減らしたりすることも可能である。
【0098】
また、本発明の適用範囲は、バルーンによって拡張されるステント(バルーン拡張ステント)に限定されず、例えば、Ni-Ti合金等の形状記憶効果を発揮する材料で形成されることで、自己拡張機能を有するステント(自己拡張ステント)にも適用可能である。具体的には、例えば、拡張状態の形状を記憶したステントが、収縮状態で保護シースに挿入されて拘束されると共に、体内管腔の留置位置で保護シースがステントから取り外されることにより、保護シースによるステントの拘束が解除されて、ステントが形状記憶効果に基づいて拡張状態に復元するようにされていてもよい。このような自己拡張性を持ったステントにおいても、周方向で略均一に拡径され得る。
なお、本発明は、もともと以下(i)~(x)に記載の各発明を何れも含むものであり、その構成および作用効果に関して、付記しておく。
本発明は、
(i) 直線部分と湾曲部分とが交互に連続することで軸方向に往復しながら周方向螺旋状に延びる線状体を有するステントにおいて、前記線状体における前記複数の直線部分がステント全体で実質的に一定の太さとされている一方、前記線状体における前記複数の湾曲部分には太さを異ならせたものが設けられていることを特徴とするステント、
(ii) 前記複数の湾曲部分には、最も数が多い基本太さの湾曲部分に対して、太くされた湾曲部分と、細くされた湾曲部分との、少なくとも一方が設けられている(i)に記載のステント、
(iii) 前記線状体における前記直線部分と前記湾曲部分の厚さ寸法が略一定とされており、幅寸法が異ならされることで該湾曲部分における太さが異ならされている(i)又は(ii)に記載のステント、
(iv) ステント中央部分では前記直線部分が略一定の長さ寸法とされている一方、ステント両側部分では該直線部分が長くされた長大部が設けられており、該長大部につながる前記湾曲部分が太くされている(i)~(iii)の何れか1項に記載のステント、
(v) 前記線状体の先端からステント周方向に略一周回した位置に前記長大部が設けられており、該長大部につながる前記湾曲部分が太くされている(iv)に記載のステント、
(vi) ステント中央部分では前記直線部分が略一定の長さ寸法とされている一方、ステント両側部分では該直線部分が短くされた短小部が設けられており、該短小部につながる前記湾曲部分が細くされている(i)~(v)の何れか1項に記載のステント、
(vii) 前記線状体の長さ方向の先端に最も近い位置で、ステント長さ方向外方に向かって凸となる前記湾曲部分が細くされている(i)~(vi)の何れか1項に記載のステント、
(viii) ステント中心軸に対する前記線状体の螺旋の傾斜角度が端部になるにつれて次第に大きくなり、ステント中心軸に対して垂直に近づくようにされている(i)~(vii)の何れか1項に記載のステント、
(ix) 前記線状体において、ステント長さ方向で隣り合う周回部分を互いに連結する連結部が設けられている(i)~(viii)の何れか1項に記載のステント、
(x) ステント長さ方向の各端部において、前記線状体の長さ方向の端部をステント周方向における0度の基準位置とした場合に、該線状体の前記直線部分と前記湾曲部分との交互の連続によって構成される軸方向で往復する波形状の周期に対して、ステント周方向で+1.5周期から-3.5周期の範囲内に、前記太さを異ならせた湾曲部分が複数設けられている(i)~(ix)の何れか1項に記載のステント
に関する発明を含む。
上記(i)に記載の発明では、ステントを構成する線状体の湾曲部分の太さを異ならせることによりステントの拡径方向への変形剛性を周方向の適宜の箇所において部分的に調節することができる。それ故、例えばステントの拡張時におけるいびつな変形を抑えて、より均一に拡径させることも可能になる。特に、線状体に設けられた複数の湾曲部分のうちで適切な湾曲部分について太さを異ならせて、ステント拡張時における変形量を部分的に細かく調節することも可能になる。一方、線状体に設けられた複数の直線部分の太さはステント全体で略一定とされていることから、直線部分によって発揮される骨格構造の基本的強度も確保することができると共に、例えば他の直線部分に比して細くされた直線部分などによる応力や歪の集中も回避され得る。
上記(ii)に記載の発明では、基本太さの湾曲部分によって実現される骨格構造の基本的な拡張変形態様を基準として、局所的に大きい拡張変形量を太い湾曲部分で抑えたり、局所的に小さい拡張変形量を細い湾曲部分で増大させたりして、調節することができる。なお、基本太さの湾曲部分は、直線部分の太さと略同じにしても良いが、直線部分よりも太く設定することで、湾曲部分において拡張変形時に歪や応力が略一点に集中することによる耐久性や強度の低下を軽減することが可能になる。
上記(iii)に記載の発明では、線状体における厚さ寸法が略一定とされることから、製造が容易となる。
上記(iv)に記載の発明では、拡張時の変形が大きくなり易い長大部付近の変形量を太い湾曲部分で抑えることにより、ステントの長大部付近における変化量が過大になることを回避できる。
上記(v)に記載の発明では、例えばステントの端面の傾斜方向を中心軸の垂直面に近づける際に、線状体の先端からステント周方向に略一周回した部分に長大部を設けることで、線状体の先端に近い部分の直線部分が著しく短くなることを軽減等できる。ここにおいて、本態様に従う構造とされたステントでは、かかる長大部につながる湾曲部分を太くすることで、ステント拡張時における長大部の変形量を抑えることが可能になる。
上記(vi)に記載の発明では、拡張時の変形が小さくなり易い短小部付近の変形量を、細くされた湾曲部分によって大きくなるように調節することができる。
上記(vii)に記載の発明では、例えばステントの端面の傾斜方向を中心軸の垂直面に近づけようとすると、線状体の先端に近い部分では、直線部分が短くなりがちで変形し難くなる。ここにおいて、本態様に従う構造とされたステントでは、線状体の長さ方向で先端に最も近い外方凸形の湾曲部分を細くすることで、直線部分が短くなりがちな線状体の先端に近い部分を、拡張時に変形し易くすることができる。
上記(viii)に記載の発明では、例えば血管の屈曲部を通過したり屈曲部に留置される場合にも、ステントの軸方向端部が大きく変形して外周側へ浮き上がるなどといった現象を抑えることが可能になる。なお、螺旋の傾斜角度は、例えばステント両側部分で直線部分の長さを少しずつ小さくして連続的に変化させる他、例えば周方向で部分的に直線部分を長くして段階的に変化させることも可能である。
上記(ix)に記載の発明では、線状体において、ステントの長さ方向で隣り合う周回部分を互いに連結する連結部が設けられていることから、ステントのデリバリ時または留置時に、線状体における長さ方向で隣り合う周回部分の離隔距離が、大きくなり過ぎたり小さくなり過ぎたりすることが回避され得る。なお、かかる連結部は、破断強度が適宜に設定されることにより、ステントの拡張状態において、一部又は全部が破断されるようにしても良い。
上記(x)に記載の発明では、ステント拡張時において局所的にいびつな変形を回避することができるように、線状体の端部の位置を考慮して太さが異ならされた湾曲部分を効率的に設定することが可能になる。なお、本態様では、線状体が端部からステント中央に向かって螺旋状に延びる方向をステント周方向のプラス側とし、線状体を端部から螺旋状に仮想的に延長する方向をステント周方向のマイナス側とする。また、本態様に係るステントにおいて、ステント周方向で+1.5周期から-3.5周期の範囲内を外れた領域では、太い湾曲部分と細い湾曲部分との何れもが設けられないことが望ましく、それによってステント構造や変形態様の簡略化が図られ得る。
【符号の説明】
【0099】
10,40,50:ステント、11:中心軸、14:線状体、16:直線部分、18,18a,18b:折返部(湾曲部分)、19:帯状体(周回部分)、22:長大部、24:短小部、26,26’:広幅部(太線部)、28,28’:狭幅部(細線部)、30:連結部