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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】フラーレン誘導体、及びn型半導体材料
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20220309BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20220309BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20220309BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
C07D487/04 137
C07D487/04 CSP
H01L31/04 154F
H01L29/28 100A
H01L29/28 250E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017213202
(22)【出願日】2017-11-02
(65)【公開番号】P2019085356
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 隆文
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光信
(72)【発明者】
【氏名】辛川 誠
(72)【発明者】
【氏名】桑原 貴之
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-089538(JP,A)
【文献】特開2011-181719(JP,A)
【文献】Angew.Chem.Int.Ed.,2013年,Vol.52,pp.12928-12931
【文献】J.Mater.Chem.A,2017年03月25日,Vol.5,pp.8044-8050
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 487/04
H01L 51/46
H01L 51/05
H01L 51/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
[式中、
Xは、単結合であり、
1aは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
1bは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
は、単結合、又はアルカンジイル基を表し、
は、単結合、又はアルカンジイル基を表し、
2a1は、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
2a2は、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
2b1は、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、R2b2は、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
但し、R2a1、R2a2、R2b1、及びR2b2の全てが同時に水素原子になることはなく、
3aは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
3bは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基を表し、及び
環Aは、フラーレン環
を表す。]
で表されるフラーレン誘導体。
【請求項2】
1aは、フェニル基であり、
1bは、フェニル基であり、
は、単結合、又はメチレン基であり、及び
は、単結合、又はメチレン基である、
請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【請求項3】
2a、及びR2bは、同一又は異なって、炭素数5~8のアルキル基である、
請求項1又は2に記載のフラーレン誘導体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体を含有するn型半導体材料。
【請求項5】
有機薄膜太陽電池用である請求項4に記載のn型半導体材料。
【請求項6】
請求項5に記載のn型半導体材料を含有する有機発電層。
【請求項7】
請求項6に記載の有機発電層を備える光電変換素子。
【請求項8】
請求項6に記載の有機発電層、又は請求項7に記載の光電変換素子を備える有機薄膜太陽電池。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体を含有するペロブスカイト太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体、及びn型半導体材料等に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜太陽電池は、光電変換材料として有機化合物を用い、溶液からの塗布法によって形成されるものであり、1)デバイス作製時のコストが低い、2)大面積化が容易である、3)シリコン等の無機材料と比較してフレキシブルであり使用できる場所が広がる、4)資源枯渇の心配が少ない、等の各種の利点を有するものである。このため、近年、有機薄膜太陽電池の開発が進められており、特に、バルクヘテロジャンクション構造を採用することによって変換効率を大きく向上させることが可能となり、広く注目を集めるに至っている。
【0003】
有機薄膜太陽電池に用いる光電変換素地用材料の内で、p型半導体については、特に、ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)が優れた性能を有する有機p型半導体材料として知られている。最近では、より高機能を目指して、太陽光の広域の波長を吸収できる構造やエネルギー準位を調節した構造を有する化合物が開発され(ドナーアクセプター型π共役高分子)、性能向上に大きく貢献している。このような化合物の例としては、ポリ-p-フェニレンビニレン、ポリ[[4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル][3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4-b]チオフェンジイル]](PTB7)が例示される。
【0004】
一方、n型半導体についても、フラーレン誘導体が盛んに検討されており、優れた光電変換性能を有する材料として、[6,6]-フェニルC61-酪酸メチルエステル(PCBM)が報告されている(後記特許文献1,2等参照)。しかしながら、PCBM以外のフラーレン誘導体に関しては、安定して良好な変換効率を達成できることが実証された例は殆どない。
【0005】
PCBMは、3員環部分を有するフラーレン誘導体であり、従来報告されているフラーレン誘導体のほとんども、PCBMと同様に3員環部分を有するフラーレン誘導体である。
【0006】
一方、3員環部分を有するフラーレン誘導体以外のフラーレン誘導体として、5員環部分を有するフラーレン誘導体も知られているが、その報告例は少ない。非特許文献1では、ピロリジン環を有し、その1位、及び2位にのみ置換基を有するフラーレン誘導体が開示されている。特許文献3には、ピロリジン環を有し、その1位、及び2位にのみ置換基を有するフラーレン誘導体のなかでも、特に、その1位に、置換、又は無置換のフェニル基を有するフラーレン誘導体が太陽電池のn型半導体として用いた場合に高い変換効率を有することが記載されている。特許文献4にはピロリジン環を有し、その1位、及び2位にのみ置換基を有するフラーレン誘導体が開示されている。特許文献5には、2個以上のピロリジン環を有するフラーレン誘導体が開示されている。非特許文献2には、ピロリジン環を有し、その1位にフェニル基を有するフラーレン誘導体が有機薄膜太陽電池用のn型半導体として有効であることが開示されている。
【0007】
近年、更に高性能の有機薄膜太陽電池の提供を目指して、ビスアダクトのフラーレン誘導体が報告されている(例えば、非特許文献3、及び非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-84264号公報
【文献】特開2010―92964号公報
【文献】特開2012-089538号公報
【文献】国際公開第2014/185536号
【文献】特開2011-181719号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】T. Itohら、Journal of Materials Chemistry, 2010年, 20, 9226頁
【文献】M. Karakawaら、Journal of Material Chemistry A, 2014年, 2, 20889頁
【文献】Y. Heら、J. AM. CHEM. SOC. 2010年, 132, 1377頁
【文献】Y. Matsuoら、Adv. Mater. 2013年, 25, 6266頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1に記載のフラーレン誘導体を用いたデバイスでは、PCBMを用いたデバイスよりも高い変換効率が達成されているが、これは、陽極(ITO電極)の集電材料を取り除いた特殊なデバイス構成での比較である。
このように、フラーレン誘導体を用いた実用的な有機薄膜太陽電池はいまだ開発されておらず、現在もなお、有機薄膜太陽電池のn型半導体材料等の用途に使用可能な、新たなフラーレン誘導体の開発が求められている。
【0011】
通常、電気機器を作動させるためには、一定以上の駆動電圧が必要である。このため、太陽電池の一つのセルの出力電圧が低い場合、多数のセルが必要になる。ここで、高い電圧を発生させることを可能にするn型半導体が提供されれば、必要なセルの数を少なくすることが可能になり、従って、太陽電池の省スペース化が可能になる。
一方で、太陽電池の製造プロセスにおいて、溶液塗布法を用いることにより、大面積なデバイスを低コストで作製できることが、有機薄膜太陽電池の特徴である。従って、ここで用いられる材料の溶解度は本技術において重要な性能として位置づけられる。
即ち、デバイス作製において溶液塗布を可能にする適度な溶解度を有し、且つ高い発電効率を発現できる材料が求められている。
従って、本発明の目的の一つは、デバイス作製が容易で高い電圧の出力を可能にする、新たなフラーレン誘導体の提供である。
【0012】
このような目的に関して、近年、ビスダダクト、又はマルチアダクトのフラーレン誘導体が提案されている。
【0013】
しかし、前述の目的を達成するためには、立体的に単一種類であるフラーレン誘導体を用いる必要がある。
【0014】
例えば、非特許文献3では、複数種類のビスアダクトのフラーレン誘導体が提案されているが、これらは非特許文献3に記載の製造方法では、実際には多くの異性体の混合物としてのフラーレン誘導体しか得られない。当該混合物から、1種類のフラーレン誘導体を得ることは非常に困難であり、コスト的に不利である。
一方、非特許文献4では、フラーレン誘導体に立体的なシクロプロパン環の導入することにより、フラーレン誘導体の異性体の混合物を用いた場合でも、高い変換効率を達成する技術が提案されている。しかし、当該フラーレン誘導体は、合成が困難であり、これもコスト的に不利である。
【0015】
本発明の主な目的は、n型半導体、特に有機薄膜太陽電池等の光電変換素子用のn型半導体として優れた性能を有する材料を提供することである。
【0016】
本発明の目的の一つは、デバイス作製が容易で高い電圧の出力を可能にする、新たなフラーレン誘導体の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、次の態様を含む。
【0018】
項1.
式(1):
【化1】
[式中、
Xは、
-(CH-(当該式中、n=0~2)、又は
-(CR-(当該式中、Rはアルキル基である。)
であり、
1aは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
1bは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
は、単結合、又はアルカンジイル基を表し、
は、単結合、又はアルカンジイル基を表し、
2a1は、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
2a2は、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
2b1は、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、R2b2は、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
但し、R2a1、R2a2、R2b1、及びR2b2の全てが同時に水素原子になることはなく、
3aは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
3bは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基を表し、及び
環Aは、フラーレン環
を表す。]
で表されるフラーレン誘導体。
項2.
1aは、フェニル基であり、
1bは、フェニル基であり、
は、単結合、又はメチレン基であり、及び
は、単結合、又はメチレン基である、
項1に記載のフラーレン誘導体。
項3.
2a、及びR2bは、同一又は異なって、炭素数5~8のアルキル基である、
項1又は2に記載のフラーレン誘導体。
項4.
項1~3のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体を含有するn型半導体材料。
項5.
有機薄膜太陽電池用である項4に記載のn型半導体材料。
項6.
項5に記載のn型半導体材料を含有する有機発電層。
項7.
項6に記載の有機発電層を備える光電変換素子。
項8.
項6に記載の有機発電層、又は項7に記載の光電変換素子を備える有機薄膜太陽電池。
項9.
項1~3のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体を含有するペロブスカイト太陽電池。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高い電圧の出力を可能にする、フラーレン誘導体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
用語
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本発明が属する技術分野において通常用いられる意味に理解できる。
本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含することを意図して用いられる。
特に限定されない限り、本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、室温で実施され得る。
本明細書中、室温は、10~40℃の範囲内の温度を意味する。
【0021】
本明細書中、特に断りのない限り、「アルカンジイル基」(すなわち、アルキレン鎖)として、具体的は、例えば、-CH-(すなわち、メチレン)、-(CH-(すなわち、エタン-1,2-ジイル)、-(CH-、-(CH-、-(CH-、-(CH-、-CH(CH)-、-CH(C)-、-CH(C)-、-CH(i-C)-、-CH(CH)CH-、-CHCH(CH)-、-CH(CH)(CH-、-(CHCH(CH)-、-CH-CH(CH)-CH-、-C(CH-、-(CH(CH))-、-(CHC(CH-、-(CHC(CH-、-CH-CH(CH)-、及び-CH-C(CH-等の炭素数1~10のアルカンジイル基が挙げられる。
【0022】
本明細書中、特に断りのない限り、「アレーンジイル基」(すなわち、アリーレン基)としては、具体的は、例えば、ベンゼンジイル基(例、ベンゼン-1,2-ジイル、ベンゼン-1,3-ジイル、ベンゼン-1,4-ジイル)、ナフタレンジイル(例、ナフタレン-1,2-ジイル、ナフタレン-1,3-ジイル、ナフタレン-1,4-ジイル、ナフタレン-1,6-ジイル、ナフタレン-2,3-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、及びナフタレン-2,7-ジイル)、及びアントラセンジイル等の炭素数6~14のアレーンジイル基が挙げられる。
【0023】
本明細書中、特に断りのない限り、「アリール基」は、単環性、2環性、3環性、又は4環性であることができる。
本明細書中、特に断りのない限り、「アリール基」は、炭素数6~18のアリール基であることができる。
本明細書中、特に断りのない限り、「アリール基」としては、例えば、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、2-ビフェニル、3-ビフェニル、4-ビフェニル、及び2-アンスリルが挙げられる。
【0024】
本明細書中、特に限定のない限り、「アルキル基」としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、及びヘキシル等の、直鎖状又は分岐状状の、炭素数1~18のアルキル基(好ましくは炭素数4~18、及びより好ましくは炭素数6~12)が例示される。
【0025】
本明細書中、特に限定のない限り、「アルキルエーテル基」は、1個以上のエーテル結合を有するアルキルを意味する。「1個以上のエーテル結合を有するアルキル基」は、言い換えれば、1個以上のエーテル結合が内部又は末端に挿入されているアルキル基であることができる。その例は、ポリエーテル基、及びアルコキシ基を包含する。
「1個以上のエーテル結合を有する炭化水素基」の例は、1個以上のエーテル結合を有するアルキル基を包含する。「1個以上のエーテル結合を有するアルキル基」は、1個以上のエーテル結合が挿入されているアルキル基であることができる。本明細書中、このような基をアルキルエーテル基と称する場合がある。
【0026】
本明細書中、特に限定のない限り、「アルコキシ基」は、例えば、RO-(当該式中、Rはアルキル基である。)で表される基である。
【0027】
本明細書中、特に限定のない限り、「エステル基」は、エステル結合(すなわち、-C(=O)-O-、または-O-C(=O)-)を有する有機基を意味する。その例は、式:RCO-(当該式中、Rはアルキル基である。)で表される基、および式:R-CO-R-(当該式中、Rはアルキル基であり、及びRはアルカンジイル基である。)で表される基を包含する。
【0028】
以下、本発明の実施態様のフラーレン誘導体、及びそれを含有するn型半導体材料等について具体的に説明する。
【0029】
フラーレン誘導体
実施態様ののフラーレン誘導体は、後記式(1)で表されるフラーレン誘導体である。
【0030】
式(1):
【化1】
[式中、
Xは、
-(CH-(当該式中、n=0~2)、又は
-(CR-(当該式中、Rはアルキル基である。)
であり、
1aは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
1bは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
は、単結合、又はアルカンジイル基を表し、
は、単結合、又はアルカンジイル基を表し、
2a1は、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
2a2は、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
2b1は、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、R2b2は、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
但し、R2a1、R2a2、R2b1、及びR2b2の全てが同時に水素原子になることはなく、
3aは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
3bは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基を表し、及び
環Aは、フラーレン環
を表す。]
【0031】
1aで表される「1個以上の置換基を有していてもよいアリール基における置換基の例は、
炭素数1~18の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、
炭素数1~18の直鎖状若しくは分岐状アルキルエーテル基、
フッ素、
塩素、
炭素数1~18のフルオロアルキル基、
炭素数1~18のアルコキシカルボニル基、
アミド基、
炭素数1~18のアルキルアミノ基、及び
シアノ基
を包含する。
【0032】
当該置換基の数は、独立して、例えば、0個(無置換)、1個、2個、3個、4個、又は5個である。
【0033】
1aが、それぞれ、1個以上の置換基を有するフェニル基である場合、当該置換基の位置は、独立して、例えば、オルト位、メタ位、又はパラ位であることができる。
【0034】
1aは、好ましくは、1個以上の置換基を有していてもよいフェニル基である。
【0035】
1aは、より好ましくは、フェニル基である。
【0036】
1bで表される「1個以上の置換基を有していてもよいアリール基における置換基の例は、
炭素数1~18の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、
炭素数1~18の直鎖状若しくは分岐状アルキルエーテル基、
フッ素、
塩素、
炭素数1~18のフルオロアルキル基、
炭素数1~18のアルコキシカルボニル基、
アミド基、
炭素数1~18のアルキルアミノ基、及び
シアノ基
を包含する。
【0037】
当該置換基の数は、独立して、例えば、0個(無置換)、1個、2個、3個、4個、又は5個である。
【0038】
1bが、それぞれ、1個以上の置換基を有するフェニル基である場合、当該置換基の位置は、独立して、例えば、オルト位、メタ位、又はパラ位であることができる。
【0039】
1bは、好ましくは、1個以上の置換基を有していてもよいフェニル基である。
【0040】
1bは、好ましくは、フェニル基である。
【0041】
1aとR1bとは、同一又は異なっていることができ、好ましくは同一であることができる。
【0042】
は、好ましくは単結合、又はメチレン基であり、より好ましくはメチレン基である。
【0043】
は、好ましくは単結合、又はメチレン基であり、より好ましくはメチレン基である。
【0044】
とLとは、同一又は異なっていることができ、好ましくは同一であることができる。
【0045】
Xは、好ましくは、単結合、メチレン、又はエタン-1,2-ジイルである。
【0046】
本発明の好適な一態様において、
1aは、フェニル基であり、
1bは、フェニル基であり、
は、単結合、又はメチレン基であり、及び
は、単結合、又はメチレン基である。
【0047】
本発明の好適な一態様において、R2a1は、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、であり、及び
2a2は、水素原子である。
本発明の好適な一態様において、
2b1は、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、であり、及び
2b2は、水素原子である。
【0048】
2a1は、好ましくは、炭素数5~8のアルキル基である。
【0049】
2b1は、好ましくは、炭素数5~8のアルキル基である。
【0050】
2a1で表される「1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基」
における置換基の例は、
(a)フッ素原子、
(b)1個以上のフッ素原子で置換されていてもよいアルコキシ基、
(c)エステル基、及び
(d)シアノ基
を包含する。
【0051】
2a1で表される「1個以上の置換基を有していてもよいアリール基」
における置換基の例は、
(a)フッ素原子、
(b)1個以上のフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、
(c)1個以上のフッ素原子で置換されていてもよいアルコキシ基、
(d)エステル基、及び
(e)シアノ基
を包含する。
【0052】
2b1で表される「1個以上の置換基を有していてもよいアリール基」
における置換基の例は、
(a)フッ素原子、
(b)1個以上のフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、
(c)1個以上のフッ素原子で置換されていてもよいアルコキシ基、
(d)エステル基、及び
(e)シアノ基
を包含する。
【0053】
2b1で表される「1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基」
における置換基の例は、
(a)フッ素原子、
(b)1個以上のフッ素原子で置換されていてもよいアルコキシ基、
(c)エステル基、及び
(d)シアノ基
を包含する。
【0054】
より好ましくは、R2a、及びR2bは、同一又は異なって、炭素数5~8のアルキル基である。
【0055】
2aとR2bとは、同一又は異なっていることができ、好ましくは同一であることができる。
【0056】
3aは、好ましくは水素又はメチル基、より好ましくは水素又はアルキル基、及びより好ましくは水素である。
3bは、好ましくは水素又はメチル基、より好ましくは水素又はアルキル基、及びより好ましくは水素である。
3a及びR3bは、好ましくは、同一であって、好ましくは水素又はメチル基、より好ましくは水素又はアルキル基、及びより好ましくは水素である。
【0057】
本発明の更に好適な一態様では
Xは、-(CH-(当該式中、n=0~2)であり、
1aは、フェニル基であり、
1bは、フェニル基であり、
は、結合手であり、
は、結合手であり
2a1は、アルキル基(好ましくは炭素数1~18のアルキル基、より好ましくは炭素数4~18のアルキル基、及び更に好ましくは炭素数6~12のアルキル基)であり、
2a2は、水素原子であり、
2b1は、アルキル基であり、
2b2は、水素原子であり、
3aは、水素原子又はメチル基であり、及び
3bは、水素原子又はメチル基である。
【0058】
環Aは、好ましくは、C60フラーレン、又はC70フラーレン、より好ましくはC60フラーレンである。
式(1)のフラーレン誘導体は、環AがC60フラーレンであるフラーレン誘導体(以下、C60フラーレン誘導体ともいう。)、及び環AがC70フラーレンであるフラーレン誘導体(以下、C70フラーレン誘導体ともいう。)の混合物であってもよい。
【0059】
当該混合物における、C60フラーレン誘導体及びC70フラーレン誘導体の含有量の比は、例えば、モル比で、99.999:0.001~0.001:99.999、99.99:0.01~0.01:99.99、99.9:0.1~0.1:99.9、99:1~1:99、95:5~5:95、90:10~10:90、又は80:20~20:80であることができる。
当該C60フラーレン誘導体及びC70フラーレン誘導体の含有量の比は、好ましくは、80:20~50:50、より好ましくは、80:20~60:40であることができる。
当該混合物における、C60フラーレン誘導体の含有量は、例えば、0.001~99.999質量%、0.01~99.99質量%、0.1~99.9質量%、1~99質量%、5~95質量%、10~90質量%、又は20~80質量%であることができる。
当該C60フラーレン誘導体の含有量は、好ましくは、50~80質量%、及び
より好ましくは、60~80質量%であることができる。
当該混合物における、C70フラーレン誘導体の含有量は、例えば、0.001~99.999質量%、0.01~99.99質量%、0.1~99.9質量%、1~99質量%、5~95質量%、10~90質量%、又は20~80質量%であることができる。
当該C70フラーレン誘導体の含有量は、好ましくは、20~50質量%、及び
より好ましくは、20~40質量%であることができる。
当該混合物は、C60フラーレン誘導体、及びC70フラーレン誘導体から実質的になることができる。
当該混合物は、C60フラーレン誘導体、及びC70フラーレン誘導体からなることができる。
当該混合物は、C60フラーレン誘導体、及びC70フラーレン誘導体の混合物であることができる。
【0060】
なお、本明細書中、C60フラーレンを、当該技術分野において、しばしば行われるように、次のような構造式:
【化2】
で表す場合がある。
【0061】
従って、環AがC60フラーレンである場合、式(1)のフラーレン誘導体は、次の一般式:
【化3】
で表すことができる。
【0062】
本発明の好適な一態様において、
1aは、フェニル基であり、
1bは、フェニル基であり、
は、単結合、又はメチレン基であり、
は、単結合、又はメチレン基であり、
2a1は、水素、又は炭素数6~12のアルキル基であり、
2b1は、水素、又は炭素数6~12のアルキル基であり、及び
環Aは、C60フラーレン環である。
【0063】
本発明の好適な一態様において、
1a及びR1bは、同一であって、及びフェニル基であり、
及びLは、同一であって、単結合、又はメチレン基であり、
2a1及びR2b1は、同一であって、水素、又は炭素数6~12のアルキル基であり、
2a2及びR2b2は、同一であって、水素、又は炭素数6~12のアルキル基であり、
3a及びR3bは、同一であって、水素、又はメチル基であり、且つ
環Aは、C60フラーレン環である
【0064】
本発明の実施態様のフラーレン誘導体は、各種の有機溶媒に対して良好な溶解性を示すので、塗布法による薄膜の形成が容易である。
更に、本発明の実施態様のフラーレン誘導体は、n型半導体材料として、有機p型半導体材料と共に用いて有機発電層を調製した際に、バルクヘテロジャンクション構造を容易に形成できる。
本発明の実施態様のフラーレン誘導体は、高い電圧の出力を可能にする。
【0065】
本発明の実施態様のフラーレン誘導体は、好ましくは、LUMO準位の値が-3.65eV以上である。
LUMO準位は、KarakawaらJournal of Materials Chemistry A, 2014年, 2巻, 20889頁に記載の方法により、測定できる。
【0066】
本発明の実施態様のフラーレン誘導体は、好ましくは、溶解度が0.5%以上である。
室温におけるトルエンへの溶解度は、ランベルト・ベールの法則を用いて、吸光度から求めることができる。初めに、濃度既知のフラーレン誘導体のトルエン溶液を用いてモル吸光係数を求める。フラーレン誘導体の過飽和トルエン溶液の上澄み溶液を一定量秤量し、これの吸光度を測定する。次式に従って濃度が算出できる。
C=A/εd
[式中、C:濃度; A:吸光度; ε:モル吸光係数; d:吸光度測定用セル長(1cm)]
【0067】
フラーレン誘導体の製造方法
本発明の実施態様のフラーレン誘導体は、公知のフラーレン誘導体の製造方法、又はこれに準じた方法によって製造することができる。
製造方法1
本発明の実施態様のフラーレン誘導体は、具体的には、例えば、下記のスキームの方法に従って、合成できる。スキーム中の記号は前記と同意義を表し、及び、当業者に明らかなように、式(a)、及び式(b)における各記号は、式(1)における各記号に対応する。
【0068】
【化4】
【0069】
<工程A1>
工程A1では、2,3-ジアミノコハク酸誘導体(化合物(b1))をアルデヒド化合物(化合物(a1))及びフラーレン(化合物(c1))と反応させて、式(1)で表されるフラーレン誘導体(化合物(1)を得る。
当該式中、R、R2a及びR2bは、同一である。
が水素原子である場合、原料アルデヒド化合物[化合物(a)]は、パラホルムアルデヒドであってもよい。
当該スキームに示す通り、2分子の化合物(a1)、1分子の化合物(b1)、及び1分子の化合物(c)から、1分子の化合物(1)が得られる。
【0070】
アルデヒド化合物(化合物(a1))、2,3-ジアミノコハク酸誘導体(化合物(b1))及びフラーレン(化合物(c))の量比は任意だが、収率を高くする観点から、通常、フラーレン(化合物(c))1モルに対して、アルデヒド化合物(化合物(a))を0.2~20モル、好ましくは1~4モルの量で用い、及び2,3-ジアミノコハク酸誘導体(化合物(b))を0.1~10モル、好ましくは0.5~2モルの量で用いる。
【0071】
副生成物量を低下させる観点から、2,3-ジアミノコハク酸誘導体(化合物(b1)の1モルに対して、好ましくはアルデヒド化合物(化合物(a))を2モル以上の量で用いる。
【0072】
当該反応は、無溶媒又は溶媒中で行われる。
当該溶媒としては、例えば、二硫化炭素、クロロホルム、ジクロロエタン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が例示される。なかでも、クロロホルム、トルエン、キシレン、及びクロロベンゼン等が好ましい。これらの溶媒は、適当な割合で混合して用いてもよい。
【0073】
反応温度は、通常、室温~およそ150℃の範囲内であり、好ましくはおよそ80~およそ120℃の範囲内である。本明細書中、室温は、15~30℃の範囲内である。
【0074】
反応時間は、通常およそ1時間~およそ4日間の範囲内であり、好ましくはおよそ10~およそ48時間の範囲内である。
【0075】
得られた化合物(1)を、必要に応じて慣用の精製方法で精製できる。
例えば、得られた化合物(1)を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒としては、例えば、ヘキサン-クロロホルム、ヘキサン-トルエン、又はヘキサン-二硫化炭素が好ましい。)で精製し、その後、更にHPLC(分取GPC)(展開溶媒としては、例えば、クロロホルム、又はトルエンが好ましい。)で精製できる。
【0076】
当該工程A1で用いられる、アルデヒド化合物(化合物(a1))、2,3-ジアミノコハク酸誘導体(化合物(b1))及びフラーレン(化合物(c))は、それぞれ公知の化合物であり、公知の方法、又はこれに準じた方法によって合成するか、商業的に入手可能である。
【0077】
<原料アルデヒド化合物[化合物(a)]の合成方法>
アルデヒド化合物(化合物(a))は、具体的には、例えば、後記の方法(a1)、(a2)又は(a3)で合成することができる。
これらの方法を示す反応式において、Rは前記式(1)におけるRと同義であり、目的とするフラーレン誘導体のRに対応する。
【0078】
方法(a1):R -CH OHで表されるアルコールの酸化
この方法における酸化には、公知の方法、例えば、(i)酸化剤としてクロム酸、酸化マンガン等を用いる方法、(ii)ジメチルスルホキシドを酸化剤として用いるスワーン(swern)酸化、又は(iii)触媒共存下に過酸化水素、酸素、空気等を用いて酸化する方法などを適用できる。
【0079】
方法(a2):R -COOHで表されるカルボン酸、その酸ハライド、そのエステル、又はその酸アミドなどの還元
この方法における還元には、公知の方法、例えば、(i)還元剤として金属水素化物を用いる方法、(ii)触媒存在下に水素還元する方法、又は(iii)ヒドラジンを還元剤とする方法などを適用できる。
【0080】
方法(a3):R -Xh(当該式中、Xhは、ハロゲンを表す。)で表されるハロゲン化物のカルボニル化
この方法におけるカルボニル化には、例えば、n-BuLiを用いて前記ハロゲン化物からアニオンを形成させ、これにカルボニル基を導入化する方法を適用できる。ここでのカルボニル基導入試薬としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF);又はピペリジン、モルホリン、ピペラジン若しくはピロリジンのN-ホルミル誘導体等のアミド化合物が用いられる。
【0081】
<原料2,3-ジアミノコハク酸誘導体[化合物(b)]の合成方法>
2,3-ジアミノコハク酸誘導体(化合物(b))は、以下のスキームに従い合成することができる。
即ち、ジブロモコハク酸誘導体に過剰量のアミンを加えて加熱撹拌する。
ここで用いられる溶媒はエタノール或いはDMFのような極性溶媒であり、炭酸カリウムなどの無機塩基を加えると反応が加速される。
反応の進行により生成物が結晶として析出するので、濾過、エタノール洗浄により精製し、フラーレン誘導体の合成に用いることができる。
【化5】
【0082】
製造方法2
【化6】
<工程A2>
【0083】
工程A2では、ジケトン化合物(化合物(b2))をアミノ酸化合物(化合物(a2))及びフラーレン(化合物(c2))と反応させて、式(1)で表されるフラーレン誘導体(化合物(1))を得る。
当該式中、R、R2a及びR2bは、同一である。
が水素原子である場合、原料ジケトン化合物[化合物(b2)]は、ジアルデヒド(グリオキサール又は多量体)であることができる。
当該スキームに示す通り、2分子の化合物(a2)、1分子の化合物(b2)、及び1分子の化合物(c)から、1分子の化合物(1)が得られる。
【0084】
収率の高さと生成物の選択性の高さ観点から、
アミノ酸化合物(化合物(a2)1モルに対して、ジケトン化合物(化合物(b2))を好ましくは1.5~2.5モル、及びより好ましくは約2モルの量で用いることができる。
フラーレン(化合物(c2))1モルに対して、
アミノ酸化合物(化合物(a2)を、好ましくは1~10モルの量で用いることができる。
フラーレン(化合物(c2))1モルに対して、
ジケトン化合物(化合物(b2))を、好ましくは1~10モルの量で用いることができる。
【0085】
当該反応は、無溶媒又は溶媒中で行われる。
当該溶媒としては、例えば、二硫化炭素、クロロホルム、ジクロロエタン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が例示される。なかでも、クロロホルム、トルエン、キシレン、及びクロロベンゼン等が好ましい。これらの溶媒は、適当な割合で混合して用いてもよい。
【0086】
反応温度は、通常、室温~およそ150℃の範囲内であり、好ましくはおよそ80~およそ120℃の範囲内である。本明細書中、室温は、15~30℃の範囲内である。
【0087】
反応時間は、通常およそ1時間~およそ4日間の範囲内であり、好ましくはおよそ10~およそ48時間の範囲内である。
【0088】
得られた化合物(1)を、必要に応じて慣用の精製方法で精製できる。
例えば、得られた化合物(1)を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒としては、例えば、ヘキサン-クロロホルム、ヘキサン-トルエン、又はヘキサン-二硫化炭素が好ましい。)で精製し、その後、更にHPLC(分取GPC)(展開溶媒としては、例えば、クロロホルム、又はトルエンが好ましい。)で精製できる。
【0089】
当該工程A2で用いられる、ジケトン化合物(化合物(a1))、2,3-ジアミノコハク酸誘導体(化合物(b1))及びフラーレン(化合物(c))は、それぞれ公知の化合物であり、公知の方法、又はこれに準じた方法によって合成するか、商業的に入手可能である。
【0090】
フラーレン誘導体の用途
本発明の実施態様のフラーレン誘導体は、n型半導体材料、特に有機薄膜太陽電池等の光電変換素子用のn型半導体材料として好適に使用できる。
本発明の実施態様のフラーレン誘導体は、また、電子輸送材料として、トランジスタ、及びペロブスカイト太陽電池などにも用いることができる。
これらの使用は、技術常識に基づいて実施できる。
【0091】
本発明の実施態様のフラーレン誘導体をn型半導体材料として使用する場合、通常、有機p型半導体材料(有機p型半導体化合物)と組み合わせて用いられる。
当該有機p型半導体材料としては、例えば、ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)、ポリ-p-フェニレンビニレン、ポリ-アルコキシ-p-フェニレンビニレン、ポリ-9,9-ジアルキルフルオレン、ポリ-p-フェニレンビニレンなどが例示される。
これらは太陽電池としての検討例が多く、かつ入手が容易であるので、容易に安定した性能のデバイスを得ることができる。
また、より高い変換効率を得るためには、バンドギャップを狭くすることで(ローバンドギャップ)長波長光の吸収を可能にした、ドナーアクセプター型π共役高分子が有効である。
これらドナーアクセプター型π共役高分子は、ドナーユニットとアクセプターユニットとを有し、これらが交互に配置された構造を有する。
ここで用いられるドナーユニットとしては、ベンゾジチオフェン、ジチエノシロール、N-アルキルカルバゾールが、またアクセプターユニットとしては、ベンゾチアジアゾール、チエノチオフェン、チオフェンピロールジオンなどが例示される。
具体的には、これらのユニットを組み合わせた、ポリ(チエノ[3,4-b]チオフェン-co-ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]チオフェン)(PTBxシリーズ)、ポリ(ジチエノ[1,2-b:4,5-b’][3,2-b:2’,3’-d]シロール-alt-(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)類などの高分子化合物が例示される。
これらのうちでも、好ましいものとしては、
(1)ポリ({4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル}{3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4-b]チオフェンジイル})(PTB7、構造式を以下に示す)、
(2)ポリ[(4,8-ジ(2-エチルヘキシルオキシ)ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン)-2,6-ジイル-alt-((5-オクチルチエノ[3,4-c]ピロール-4,6-ジオン)-1,3-ジイル)(PBDTTPD、構造式を以下に示す)、
(3)ポリ[(4,4’-ビス(2-エチルヘキシル)ジチエノ[3,2-b:2’,3’-d]シロール)-2,6-ジイル-alt-(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)-4,7-ジイル](PSBTBT、構造式を以下に示す)、
(4)ポリ[N-9’’-ヘプタデカニル-2,7-カルバゾール-アルト-5,5-(4’,7’-ジ-2-チエニル-2’,1’,3’-ベンゾチアジアゾール)](PCDTBT、構造式を以下に示す)、及び
(5)ポリ[1-(6-{4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]-6-メチルベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2-イル}{3-フルオロ-4-メチルチエノ[3,4-b]チオフェン-2-イル}-1-オクタノン)(PBDTTT-CF、構造式を以下に示す)
などが例示される。
なかでも、より好ましい例としては、アクセプターユニットとしてチエノ[3,4-b]チオフェンの3位にフッ素原子を有するPTB系化合物が挙げられ、特に好ましい例としては、PBDTTT-CF及びPTB7が例示される。
【0092】
【化7】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【化8】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【化9】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【化10】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【化11】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【0093】
本発明の実施態様のフラーレン誘導体を、有機p型半導体材料との組み合わせにおいて、n型半導体材料として用いて調製された有機発電層は、高い電圧の出力を可能にする。
本発明の実施態様のフラーレン誘導体は、各種の有機溶媒に対して良好な溶解性を示すので、これをn型半導体材料として使用した場合、塗布法による有機発電層の調製が可能であり、大面積の有機発電層の調製も容易である。
【0094】
また、本発明の実施態様のフラーレン誘導体は、有機p型半導体材料との相溶性が良好であって、且つ適度な自己凝集性を有する化合物である。このため、当該フラーレン誘導体をn型半導体材料(有機n型半導体材料)としてバルクジャンクション構造の有機発電層を容易に形成する。この有機発電層を用いることによって、高い電圧の出力が可能な有機薄膜太陽電池、或いは光センサーを得ることができる。
【0095】
よって、本発明の実施態様のフラーレン誘導体をn型半導体材料として用いることによって、低コストで優れた性能を有する有機薄膜太陽電池を作製することが可能となる。
また、本発明の実施態様のn型半導体材料を含有する(又は、からなる)有機発電層の別の応用として、デジタルカメラ用イメージセンサーがある。デジタルカメラの高機能化(高精細化)の要求に対して、既存のシリコン半導体からなるイメージセンサーには、感度低下の課題が指摘されている。これに対して、光感度の高い有機材料からなるイメージセンサーにより、高感度と高精細化が可能になると期待されている。このようなセンサーの受光部を構築する材料には、光を感度良く吸収し、ここから電気信号を高効率で発生させることが求められる。このような要求に対して、本発明の実施態様のn型半導体材料を含有する(又は、からなる)有機発電層は、可視光を効率良く電気エネルギーに変換できるので、前記イメージセンサー受光部材料としても、高い機能を発現できる。
【0096】
n型半導体材料
本発明の実施態様のn型半導体材料は、本発明の実施態様のフラーレン誘導体からなる。
【0097】
有機発電層
本発明の実施態様の有機発電層は、n型半導体材料(n型半導体化合物)として、本発明の実施態様のフラーレン誘導体を含有する。
本発明の実施態様の有機発電層は、光変換層(光電変換層)であることができる。
また、本発明の実施態様の有機発電層は、通常、本発明の実施態様のフラーレン誘導体、すなわち本発明の実施態様のn型半導体材料との組み合わせにおいて、前記有機p型半導体材料(有機p型半導体化合物)を含有する。
また、本発明の実施態様の有機発電層は、通常、本発明の実施態様のn型半導体材料及び前記有機p型半導体からなる。
本発明の実施態様の有機発電層においては、好ましくは、本発明の実施態様のn型半導体材料と前記有機p型半導体材料とがバルクヘテロジャンクション構造を形成している。
【0098】
本発明の実施態様の有機発電層は、例えば、本発明の実施態様のn型半導体材料及び前記有機p型半導体材料を有機溶媒に溶解させ、得られた溶液から、スピンコート法、キャスト法、ディッピング法、インクジェット法、及びスクリーン印刷法等の公知の薄膜形成方法を採用して、基板上に薄膜を形成することにより、調製できる。
【0099】
当該有機発電層の薄膜形成において、本発明の実施態様のフラーレン誘導体は、有機p型半導体材料(好ましくは、P3HT、又はPTB7)との相溶性が良好であって、且つ適度な自己凝集性を有するので、n型半導体材料としての本発明の実施態様のフラーレン誘導体及び有機p型半導体材料を含有し、かつバルクヘテロジャンクション構造を有する有機発電層を容易に得ることができる。
【0100】
前述の通り、本発明の実施態様の有機発電層は、光電変換素子に使用できる。すなわち、本発明は、本発明の実施態様の有機発電層もまた提供する。当該光電変換素子は、本発明の実施態様の有機発電層を用いていること以外、公知の光電変換素子と同様の構造であることができ、及び本発明の実施態様の光電変換素子は、公知の光電変換素子の製造方法に従って製造できる。
【0101】
有機薄膜太陽電池
本発明の実施態様の有機薄膜太陽電池は、前記で説明した本発明の実施態様の有機発電層、又は当該有機発電層を備える光電変換素子を、備える。
このため、本発明の実施態様の有機薄膜太陽電池は、高い電圧の出力が可能である。
当該有機薄膜太陽電池の構造は特に限定されず、公知の有機薄膜太陽電池と同様の構造であることができ、及び本発明の実施態様の有機薄膜太陽電池は、公知の有機薄膜太陽電池の製造方法に従って製造できる。
【0102】
当該フラーレン誘導体を含む有機薄膜太陽電池の一例としては、例えば、基板上に、透明電極(陰極)、陰極側電荷輸送層、有機発電層、陽極側電荷輸送層及び対極(陽極)が順次積層された構造の太陽電池を例示できる。当該有機発電層は、好ましくは、有機p型半導体材料、及びn型半導体材料としての本発明の実施態様のフラーレン誘導体を含有し、バルクヘテロジャンクション構造を有する半導体薄膜層(すなわち、光電変換層)である。
このような構造の太陽電池において、有機発電層以外の各層の材料としては、公知の材料を適宜使用できる。具体的には、電極の材料としては、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、及び酸化インジウム(ITO)等が例示される。電荷輸送層の材料としては、例えば、PFN(ポリ[9,9-ビス(3’-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル-2,7-フルオレン)-alt-2,7-(9,9-ジオクチルフルオレン)])及びMoO(酸化モリブデン)等が例示される。
【0103】
光センサー
前記のように、本発明で得られる光電変換層は、デジタルカメラの高機能製品における、イメージセンサー用受光部として有効に機能する。従来のシリコンフォトダイオードを用いた光センサーに比較して、明るいところで白トビが起こらず、また暗いところでもはっきりした映像を得ることができる。このため、従来のカメラより高品位の映像を得ることができる。光センサーは、シリコン基板、電極、光電変換層からなる光受光部、カラーフィルター、及びマイクロレンズから構築される。当該受光部の厚さは数100nm程度であることができ、従来のシリコンフォトダイオードの数分の1の厚さで構成され得る。
【0104】
ペロブスカイト太陽電池
本発明は、またペロブスカイト太陽電池を提供する。
本発明の実施態様のペロブスカイト太陽電池は、本発明の実施態様のフラーレン誘導体を含有する。
本発明の実施態様のペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト層を含有でき、これとの組合せにおいて、本発明の実施態様のフラーレン誘導体を電子輸送層用に使用できる。
当該ペロブスカイト太陽電池の構造は特に限定されず、公知のペロブスカイト太陽電池と同様の構造であることができ、及び本発明の実施態様のペロブスカイト太陽電池は、公知のペロブスカイト太陽電池の製造方法に従って製造できる。
【0105】
以上、種々の実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
これらの種々の実施形態における構成要素は、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、組合せ又は代替が可能である。
【実施例
【0106】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0107】
実施例中の記号及び略号は、以下の意味で用いられる。この他にも、本明細書中、本発明が属する技術分野において、通常用いられる記号及び略号が用いられ得る。
【0108】
実施例1
【化12】
2,3-ビス(ベンジルアミノ)コハク酸(170mg, 0.5mmol)、ペンタナール(2mL)、フラーレンC60(360mg, 0.5mmol)のクロロベンゼン溶液(200mL)を、120℃で72時間加熱撹拌した。冷後、溶媒を減圧下に溜去し、得られた反応物をシリカゲルカラムクロマト(n-hexane-toluene=2:1)で精製、さらにHPLC(COSMOSIL-Buckyprep、toluene)で精製し、目的物を得た(31mg, 5%)。
1H-NMR(CDCl3):δ 0.88 (3H, t, J=7.4Hz), 0.92 (3H, t, J=6.9Hz), 1.22-1.58 (12H, m), 1.69-1.93 (4H, m), 2.15-2.28 (1H, m), 2.61-2.73 (1H, m), 3.36 (1H, d-d, J=13.7, 6.0Hz), 3.93 (1H, d, J=13.1Hz), 4.01 (1H, d, J=13.1Hz), 4.18-4.36 (2H, m), 4.36-4.48 (1h, m), 4.79 (1H, t, J=13.3Hz), 4.87 (1H, d-d, J=9.2, 2.8Hz), 7.10-7.50 (10H, m)。
MS (FAB) m/z 1153 (M+). HRMS calcd for C90H45N2 1152.3583; found 1053.3543.
【0109】
実施例2
【化13】
2,3-ビス(ベンジルアミノ)コハク酸(726mg, 2mmol)、パラホルムアルデヒド(720mg, 24mmol)、フラーレンC60(360mg, 0.5mmol)のトルエン溶液(500mL)を、60℃で72時間加熱撹拌した。冷後、溶媒を減圧下に溜去し、得られた反応物をシリカゲルカラムクロマト(n-hexane-toluene=1:1)で精製し、目的物を得た(143mg, 29%)。
1H-NMR(CDCl3):δ 4.13 (2H, d, J=13.7Hz), 4.22 (2H, d, J=10.1Hz), 4.54 (2H, s), 4.54 (1H, d, J=13.7Hz), 4.80 (1H, d, J=10.1Hz), 7.36 (2H, t, J=7.3Hz), 7.43 (6H, d-d, J=7.3, 7.3Hz), 7.65 (4H, d, J=7.3Hz)。
MS (FAB) m/z 985 (M+). HRMS calcd for C78H21N2 985.1705; found 985.1680.
【0110】
実施例3
【化14】
N-フェニルグリシン(150mg, 1mmol)、2,3-ブタンジオン(50mg, 0.6mmol)、フラーレンC60(360mg, 0.5mmol)のトルエン溶液(200mL)を、120℃で72時間加熱撹拌した。冷後、溶媒を減圧下に溜去し、得られた反応物をシリカゲルカラムクロマト(n-hexane-toluene=2:1)で精製し、目的物を得た(24mg, 5%)。
1H-NMR(CDCl3):δ 2.39 (3H, s), 2.67 (3H, s), 5.28 (1H, s), 4.79 (1H, d, J=10.1Hz), 4.90 (1H, d, J=10.1Hz), 5.09 (1H, t, J=10.1Hz), 5.80 (1H, d, J=10.1Hz), 6.95-7.30 (6H, m), 7.46-7.55 (4H, m)。
【0111】
実施例4
【化15】
N-フェニルグリシン(150mg, 1mmol)、グリオキサール(40%水溶液、40mg, 0.5mmol)、フラーレンC60(360mg, 0.5mmol)のトルエン溶液(200mL)を、80℃で72時間加熱撹拌した。冷後、溶媒を減圧下に溜去し、得られた反応物をシリカゲルカラムクロマト(n-hexane-toluene=2:1)で精製し、目的物を得た(20mg, 4%)。
1H-NMR(CDCl3):δ 5.28 (1H, s), 5.70 (1H, d, J=14.8Hz), 5.80 (1H, d, J=14.2Hz), 5.95 (1H, t, J=14.8Hz), 6.10 (1H, d, J=14.2Hz), 6.14 (1H, s), 6.86-7.04 (2H, m), 7.10-7.30 (6H, m), 7.35-7.50 (2H, m)。
【0112】
合成例(対照化合物)
N-ベンジルグリシン塩酸塩 (100 mg, 0.5 mmol)、ヘプタナール (28.5 mg, 0.25 mmol)、フラーレンC60 (175 mg, 0.25 mmol) のクロロベンゼン溶液 (60 mL) を120℃で64時間加熱撹拌した。冷後、溶媒を減圧下に溜去し、得られた反応物をシリカゲルカラムクロマト(n-hexane-toluene=20:1 - 5:1)で精製し目的物を得た(93.7 mg, 40.0 %)。
1H-NMR(CDCl3):δ 0.91 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.22 -1.64 (6H, m), 1.86-2.04 (2H, m), 2.46-2.70 (2H, m), 3.98 (1H, d, J = 13.2 Hz), 4.13 (1H, d, J = 10.2 Hz), 4.31 (1H, t, J = 5.5 Hz), 4.70 (1H, d, J = 10.2 Hz), 4.85 (1H, d, J = 13.2 Hz), 7.39 (1H, t, J = 7.3 Hz), 7.49 (2H, dd, J = 7.7, 7.3 Hz), 7.70 (2H, d, J = 7.7 Hz)。
元素分析Calcd. C 96.47, H 2.47, N 1.49; found C 96.16, H 2.58, N 1.53.
【0113】
試験例
(1)試験用太陽電池の作製
以下の手順により試験用太陽電池を作製した。
1)基板の前処理
ITOパターニングガラス板をプラズマ洗浄機中に入れて、酸素ガスを流入しながら発生したプラズマにより基板表面を10分間洗浄処理した。
2)PFN薄膜(陰極側電荷輸送層)の作製
ABLE/ASS-301型のスピンコート法製膜装置を用い、PFNメタノール溶液(2%w/v)を用いて、前記で前処理を施したITOガラス板上にPFN薄膜を形成した。形成されたPFN薄膜の膜厚は約10nmであった。
3)有機半導体膜(有機発電層)の作製
前記基板をグローブボックス中でMIKASA/MS-100型のスピンコート法製膜装置を用い、事前にクロロベンゼンに溶かしたPTB7とフラーレン誘導体、およびジヨードオクタン(クロロベンゼンに対して3%v/v)を含有する溶液をPFN薄膜の上にスピンコート(1000rpm、2分間)し、厚さ約90~110nmの有機半導体薄膜(有機発電層)を形成させて、積層体を得た。
4)陽極側電荷輸送層及び金属電極の真空蒸着
小型高真空蒸着装置を用い、前記で作製した積層体を高真空蒸着装置中のマスクの上に置き、陽極側電荷輸送層としてのMoO層(10nm)、及び金属電極としてのアルミニウム層(80nm)を順次蒸着した。
【0114】
(2)擬似太陽光照射による電流測定
擬似太陽光照射による電流測定には、ソースメーター、電流電圧計測ソフト及び疑似太陽光照射装置を用いた。
前記(1)で作製した各試験用太陽電池に対して100mWの疑似太陽光を照射して、発生した電流と電圧を測定した。
短絡電流、開放電圧、及び曲線因子(FF)の測定結果を表1に示す。
結果を表1に示す。
【表1】