(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】細胞塊分割器、細胞塊分割器の製造方法、及び細胞塊の分割方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220309BHJP
【FI】
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2021526999
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2020024542
(87)【国際公開番号】W WO2020262351
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-12-28
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517123221
【氏名又は名称】アイ ピース,インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田邊 剛士
(72)【発明者】
【氏名】平出 亮二
(72)【発明者】
【氏名】伴 一訓
(72)【発明者】
【氏名】木下 聡
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/154791(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0355950(US,A1)
【文献】国際公開第2017/191775(WO,A1)
【文献】QIU, Xiaolong et al.,Microfluidic channel optimization to improve hydrodynamic dissociation of cell aggregates and tissue,Scientific Reports,2018年,Vol.8,p. 1-10
【文献】QIU, Xiaolong et al.,Microfluidic device for mechanical dissociation of cancer cell aggregates into single cells,Lab on a Chip,2015年,Vol. 15,p. 339-350
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞塊が流れる流路であって、一定の幅を有し蛇行する流路を備える、細胞塊分割器。
【請求項2】
前記流路を流れる流体において潜流が生じる、請求項1に記載の細胞塊分割器。
【請求項3】
前記流路が、基板に設けられた溝と、前記溝を覆う蓋と、によって構成される、請求項1又は2に記載の細胞塊分割器。
【請求項4】
前記流路が包埋部材で包埋されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞塊分割器。
【請求項5】
前記流路が固体部材内に設けられた孔である、請求項1又は2に記載の細胞塊分割器。
【請求項6】
前記流路が外気から閉鎖可能である、請求項1から5のいずれか1項に記載の細胞塊分割器。
【請求項7】
前記流路内の前記細胞塊を流すための流体機械をさらに備える、請求項1から6のいずれか1項に記載の細胞塊分割器。
【請求項8】
細胞塊が流れる流路を備える細胞塊分割器であって、
前記流路が、狭幅部と、前記狭幅部より幅が広い広幅部と、
前記流路の幅広部に配置された、前記流路内の流体の流動を部分的に妨げる部材(フィルタ及びメッシュを除く)と、
を有し、
前記流路が外気から閉鎖可能である、
細胞塊分割器。
【請求項9】
前記流路を流れる流体において潜流が生じる、請求項8に記載の細胞塊分割器。
【請求項10】
前記流路が、基板に設けられた溝と、前記溝を覆う蓋と、によって構成される、請求項8又は9に記載の細胞塊分割器。
【請求項11】
前記流路が包埋部材で包埋されている、請求項8又は9に記載の細胞塊分割器。
【請求項12】
前記流路が固体部材内に設けられた孔である、請求項8又は9に記載の細胞塊分割器。
【請求項13】
前記流路内の前記細胞塊を流すための流体機械をさらに備える、請求項
8から12のいずれか1項に記載の細胞塊分割器。
【請求項14】
細胞塊を流すための一定の幅を有し蛇行する流路を形成することを含む、細胞塊分割器の製造方法。
【請求項15】
基板に溝を設けて前記流路を形成する、請求項
14に記載の細胞塊分割器の製造方法。
【請求項16】
前記流路を包埋部材で包埋することをさらに含む、請求項
14又は
15に記載の細胞塊分割器の製造方法。
【請求項17】
固体部材内に孔を設けて、前記流路を形成する、請求項
14に記載の細胞塊分割器の製造方法。
【請求項18】
光造形法により前記流路を形成する、請求項
14から
17のいずれか1項に記載の細胞塊分割器の製造方法。
【請求項19】
細胞塊を流すための流路であって、狭幅部と、前記狭幅部より幅が広い広幅部と、を有する流路を形成することと、
前記流路を外気から閉鎖することと、
を含み、
前記流路を形成することにおいて、前記流路の幅広部に、前記流路内の流体の流動を部分的に妨げる部材(フィルタ及びメッシュを除く)を設ける、
細胞塊分割器の製造方法。
【請求項20】
前記流路が、基板に設けられた溝と、前記溝を覆う蓋と、によって構成される、請求項
19に記載の細胞塊分割器の製造方法。
【請求項21】
基板に溝を設けて前記流路を形成する、請求項
19又は
20に記載の細胞塊分割器の製造方法。
【請求項22】
前記流路を包埋部材で包埋することをさらに含む、請求項
19又は
20に記載の細胞塊分割器の製造方法。
【請求項23】
固体部材内に孔を設けて、前記流路を形成する、請求項
19又は
20に記載の細胞塊分割器の製造方法。
【請求項24】
光造形法により前記流路を形成する、請求項
19から
23のいずれか1項に記載の細胞塊分割器の製造方法。
【請求項25】
一定の幅を有し蛇行する流路に細胞塊を流し、前記細胞塊を分割することを含む、細胞塊の分割方法。
【請求項26】
前記流路において、前記細胞塊を含む流体に潜流を生じさせる、請求項
25に記載の細胞塊の分割方法。
【請求項27】
前記流路を流れる細胞塊が凍結保存液に含まれている、請求項
25又は
26に記載の方法。
【請求項28】
前記蛇行する流路に細胞塊を流す前に、前記細胞塊を細胞剥離液に接触させることをさらに含む、請求項
25から
27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
細胞塊が流れる流路を備える細胞塊分割器であって、前記流路が、狭幅部と、前記狭幅部より幅が広い広幅部と、を有し、前記流路が外気から閉鎖可能である細胞塊分割器の前記流路に細胞塊を流し、前記細胞塊を分割することを含み、
前記流路の幅広部に、前記流路内の流体の流動を部分的に妨げる部材(フィルタ及びメッシュを除く)が設けられている、
細胞塊の分割方法。
【請求項30】
前記流路において、前記細胞塊を含む流体に潜流を生じさせる、請求項
29に記載の細胞塊の分割方法。
【請求項31】
前記流路を流れる細胞塊が凍結保存液に含まれている、請求項
29又は
30に記載の方法。
【請求項32】
前記流路に細胞塊を流す前に、前記細胞塊を細胞剥離液に接触させることをさらに含む、請求項
29から31のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞技術に関し、細胞塊分割器、細胞塊分割器の製造方法、及び細胞塊の分割方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)は、ヒトやマウスの初期胚から樹立された幹細胞である。ES細胞は、生体に存在する全ての細胞へと分化できる多能性を有する。現在、ヒトES細胞は、パーキンソン病、若年性糖尿病、及び白血病等、多くの疾患に対する細胞移植療法に利用可能である。しかし、ES細胞の移植には障害もある。特に、ES細胞の移植は、不成功な臓器移植に続いて起こる拒絶反応と同様の免疫拒絶反応を惹起しうる。また、ヒト胚を破壊して樹立されるES細胞の利用に対しては、倫理的見地から批判や反対意見が多い。
【0003】
このような背景の状況の下、京都大学の山中伸弥教授は、4種の遺伝子:OCT3/4、KLF4、c-MYC、及びSOX2を体細胞に導入することにより、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を樹立することに成功した。これにより、山中教授は、2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞した(例えば、特許文献1、2参照。)。iPS細胞は、拒絶反応や倫理的問題のない理想的な多能性細胞である。したがって、iPS細胞は、細胞移植療法への利用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4183742号公報
【文献】特開2014-114997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
iPS細胞を培養する際には、細胞塊を分割する場合がある。また、iPS細胞に限らず、細胞を培養する際には、細胞塊を分割する場合がある。そこで、本発明は、細胞塊を効率的に分割することが可能な細胞塊分割器、細胞塊分割器の製造方法、及び細胞塊の分割方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様によれば、細胞塊が流れる流路であって、蛇行する流路を備える、細胞塊分割器が提供される。
【0007】
上記の細胞塊分割器において、流路を流れる流体において潜流が生じてもよい。
【0008】
上記の細胞塊分割器において、流路が、基板に設けられた溝と、溝を覆う蓋と、によって構成されてもよい。
【0009】
上記の細胞塊分割器において、流路が包埋部材で包埋されていてもよい。
【0010】
上記の細胞塊分割器において、流路が固体部材内に設けられた孔であってもよい。
【0011】
上記の細胞塊分割器において、流路が外気から閉鎖可能であってもよい。
【0012】
上記の細胞塊分割器が、流路内の細胞塊を流すための流体機械をさらに備えていてもよい。
【0013】
また、本発明の態様によれば、細胞塊が流れる流路を備える細胞塊分割器であって、流路が、狭幅部と、狭幅部より幅が広い広幅部と、を有し、流路が外気から閉鎖可能である、細胞塊分割器が提供される。
【0014】
上記の細胞塊分割器において、流路を流れる流体において潜流が生じてもよい。
【0015】
上記の細胞塊分割器において、流路の幅広部に配置された、流路内の流体の流動を部分的に妨げる部材をさらに備えていてもよい。
【0016】
上記の細胞塊分割器において、広幅部が略円形であってもよい。
【0017】
上記の細胞塊分割器において、広幅部が略多角形であってもよい。
【0018】
上記の細胞塊分割器において、広幅部が略六角形であってもよい。
【0019】
上記の細胞塊分割器において、流路が、基板に設けられた溝と、溝を覆う蓋と、によって構成されていてもよい。
【0020】
上記の細胞塊分割器において、流路が包埋部材で包埋されていてもよい。
【0021】
上記の細胞塊分割器において、流路が固体部材内に設けられた孔であってもよい。
【0022】
上記の細胞塊分割器が、流路内の細胞塊を流すための流体機械をさらに備えていてもよい。
【0023】
また、本発明の態様によれば、細胞塊を流すための蛇行する流路を形成することを含む、細胞塊分割器の製造方法が提供される。
【0024】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、基板に溝を設けて流路を形成してもよい。
【0025】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、溝を蓋で覆い、流路を形成してもよい。
【0026】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、流路を包埋部材で包埋することをさらに含んでもよい。
【0027】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、固体部材内に孔を設けて、流路を形成してもよい。
【0028】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、リソグラフィー法により流路を形成してもよい。
【0029】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、アブレーション法により流路を形成してもよい。
【0030】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、3Dプリンターにより流路を形成してもよい。
【0031】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、光造形法により流路を形成してもよい。
【0032】
また、本発明の態様によれば、細胞塊を流すための流路であって、狭幅部と、狭幅部より幅が広い広幅部と、を有する流路を形成することと、流路を外気から閉鎖することと、を含む、細胞塊分割器の製造方法が提供される。
【0033】
上記の細胞塊分割器の製造方法が、流路の幅広部に、流路内の流体の流動を部分的に妨げる部材を設けることをさらに含んでいてもよい。
【0034】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、広幅部が略円形であってもよい。
【0035】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、広幅部が略多角形であってもよい。
【0036】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、広幅部が略六角形であってもよい。
【0037】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、流路が、基板に設けられた溝と、溝を覆う蓋と、によって構成されていてもよい。
【0038】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、基板に溝を設けて流路を形成してもよい。
【0039】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、溝を蓋で覆い、流路を形成してもよい。
【0040】
上記の細胞塊分割器の製造方法が、流路を包埋部材で包埋することをさらに含んでいてもよい。
【0041】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、固体部材内に孔を設けて、流路を形成してもよい。
【0042】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、リソグラフィー法により流路を形成してもよい。
【0043】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、アブレーション法により流路を形成してもよい。
【0044】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、3Dプリンターにより流路を形成してもよい。
【0045】
上記の細胞塊分割器の製造方法において、光造形法により流路を形成してもよい。
【0046】
また、本発明の態様によれば、蛇行する流路に細胞塊を流し、細胞塊を分割することを含む、細胞塊の分割方法が提供される。
【0047】
上記の細胞塊の分割方法において、流路において、細胞塊を含む流体に潜流を生じさせてもよい。
【0048】
上記の細胞塊の分割方法において、流路に細胞塊を循環させてもよい。
【0049】
上記の細胞塊の分割方法において、流路に細胞塊を往復させてもよい。
【0050】
上記の細胞塊の分割方法において、流路を流れる細胞塊が凍結保存液に含まれていてもよい。
【0051】
上記の細胞塊の分割方法において、分割された細胞塊が凍結保存されてもよい。
【0052】
上記の細胞塊の分割方法が、蛇行する流路に細胞塊を流す前に、細胞塊を細胞剥離液に接触させることをさらに含んでいてもよい。
【0053】
また、本発明の態様によれば、細胞塊が流れる流路を備える細胞塊分割器であって、流路が、狭幅部と、狭幅部より幅が広い広幅部と、を有し、流路が外気から閉鎖可能である細胞塊分割器の流路に細胞塊を流し、細胞塊を分割することを含む、細胞塊の分割方法が提供される。
【0054】
上記の細胞塊の分割方法において、流路において、細胞塊を含む流体に潜流を生じさせてもよい。
【0055】
上記の細胞塊の分割方法において、流路の幅広部に、流路内の流体の流動を部分的に妨げる部材が設けられていてもよい。
【0056】
上記の細胞塊の分割方法において、流路に細胞塊を循環させてもよい。
【0057】
上記の細胞塊の分割方法において、流路に細胞塊を往復させてもよい。
【0058】
上記の細胞塊の分割方法において、流路を流れる細胞塊が凍結保存液に含まれていてもよい。
【0059】
上記の細胞塊の分割方法において、分割された細胞塊が凍結保存されてもよい。
【0060】
上記の細胞塊の分割方法が、流路に細胞塊を流す前に、細胞塊を細胞剥離液に接触させることをさらに含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0061】
本発明によれば、細胞塊を効率的に分割することが可能な細胞塊分割器、細胞塊分割器の製造方法、及び細胞塊の分割方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】第1実施形態に係る細胞塊分割器を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態の第1実施例に係るシミュレーション結果を示す図である。
【
図3】第1実施形態の第2実施例に係る細胞塊分割器を示す写真である。
【
図4】第1実施形態の第2実施例に係る細胞塊分割器を通す前後の細胞塊の写真である。
【
図5】第1実施形態の第2実施例に係る細胞塊分割器の流路における潜流を示すトレース図である。
【
図6】第1実施形態の第3実施例に係る細胞塊分割器を示す写真である。
【
図7】第1実施形態の第3実施例に係る細胞塊分割器の流路における潜流を示すトレース図である。
【
図8】第1実施形態の第4実施例に係る細胞塊分割器を示す写真である。
【
図9】第1実施形態の第4実施例に係る細胞塊分割器の流路における潜流を示すトレース図である。
【
図10】第2実施形態に係る細胞塊分割器を示す模式図である。
【
図11】第2実施形態に係る細胞塊分割器を示す模式図である。
【
図12】第2実施形態に係る細胞塊分割器を示す模式図である。
【
図13】第2実施形態に係る細胞塊分割器を示す模式図である。
【
図14】第2実施形態の第1実施例に係るシミュレーション結果を示す図である。
【
図15】第2実施形態の第2実施例に係る細胞塊分割器を示す写真である。
【
図16】第2実施形態の第2実施例に係る細胞塊分割器の流路における潜流を示すトレース図である。
【
図17】第2実施形態の第3実施例に係る細胞塊分割器を示す写真である。
【
図18】第2実施形態の第3実施例に係る細胞塊分割器の流路における潜流を示すトレース図である。
【
図19】第2実施形態の第4実施例に係る細胞塊分割器を示す写真である。
【
図20】第2実施形態の第4実施例に係る細胞塊分割器の流路における潜流を示すトレース図である。
【
図21】第2実施形態の第5実施例に係る細胞塊分割器を示す写真である。
【
図22】第2実施形態の第5実施例に係る細胞塊分割器の流路における潜流を示すトレース図である。
【
図23】第2実施形態の第6実施例に係る細胞塊分割器を示す写真である。
【
図24】第2実施形態の第6実施例に係る細胞塊分割器の流路における潜流を示すトレース図である。
【
図25】第2実施形態の第7実施例に係る細胞塊分割器を示す写真である。
【
図26】第2実施形態の第7実施例に係る細胞塊分割器の流路における潜流を示すトレース図である。
【
図27】第2実施形態の第8実施例に係る細胞塊分割器を示す写真である。
【
図28】第2実施形態の第8実施例に係る細胞塊分割器の流路における潜流を示すトレース図である。
【
図29】第2実施形態の第9実施例に係る細胞塊分割器を示す写真である。
【
図30】第2実施形態の第9実施例に係る細胞塊分割器の流路における潜流を示すトレース図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。ただし、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0064】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る細胞塊分割器は、
図1に示すように、細胞塊が流れる流路10であって、蛇行する流路10を備える。第1実施形態に係る細胞塊分割器において、蛇行する流路10の幅は一定である。
【0065】
流路10は、内部を外気から閉鎖可能な構造を有し得る。流路10の内部を含む閉鎖空間は、外部と気体の交換をしないよう構成され得る。
【0066】
流路10は、基板に設けられた溝によって形成されていてもよい。流路10は、平らな基板に溝を設け、当該溝を蓋で覆って形成されてもよい。あるいは、流路10は、溝が設けられた基板どうしを溝の位置が一致するように貼りあわせて形成されてもよい。流路10を形成する溝は、例えば、エッチング法、リソグラフィー法、及びレーザーアブレーション法により形成される。
【0067】
あるいは、流路10は、チューブからなっていてもよい。流路10は、ガス非透過性物質に埋め込まれ、包埋されていてもよい。
【0068】
また、あるいは、流路10は、固体部材内に設けられた孔であってもよい。当該孔は、3Dプリンター法により、固体部材内に設けられてもよい。3Dプリンター法としては、材料押出堆積法、マテリアルジェッティング法、バインダージェッティング法、及び光造形法が挙げられる。
【0069】
第1実施形態に係る細胞塊分割器は、流路内の細胞塊を流すためのポンプ等の流体機械40をさらに備えていてもよい。流体機械としては、容積式ポンプが使用可能である。容積式ポンプの例としては、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、及びダイヤフラムポンプを含む往復ポンプ、あるいは、ギアポンプ、ベーンポンプ、及びネジポンプを含む回転ポンプが挙げられる。ダイヤフラムポンプの例としては、チュービングポンプ及び圧電(ピエゾ)ポンプが挙げられる。チュービングポンプは、ペリスタルティックポンプと呼ばれる場合もある。また、様々な種類のポンプを組み合わせたマイクロ流体チップモジュールを用いてもよい。ペリスタルティックポンプ、チュービングポンプ、及びダイヤフラムポンプ等の密閉型ポンプを用いると、流路内部の流体にポンプが直接接触することなく、流体を送ることが可能である。
【0070】
流路10に細胞塊を循環させてもよいし、流路10に細胞塊を往復させてもよい。流路10に細胞塊を流す前に、細胞塊を細胞剥離液に接触させてもよい。細胞剥離液の例としては、トリプシン、トリプルセレクト、アキュテース、及びEDTAが挙げられる。流路10を流れる細胞塊が凍結保存液に含まれていてもよい。この場合、流路10を流れたことによって分割された細胞塊が、凍結保存されてもよい。流路10が、凍結保存容器に接続されていてもよい。
【0071】
第1実施形態に係る細胞塊分割器によれば、一定の幅を有し、蛇行する流路10によって、流路10内を流れる流体に潜流が生じるため、流路10を流れる培地等の流体内の細胞塊を効率的に分割することが可能である。ここで、潜流とは、例えば、渦巻きを生じさせる流れ、乱流、逆流、流れの速さの異なる部分を生じさせる流れ、せん断力を生じさせる流れ、摩擦力を生じさせる流れ、物に擦れる流れ、及び進行方向の異なる流れが衝突する部分を生じさせる流れのいずれかをいう。また、実施形態に係る細胞塊分割器によれば、例えば、流路10を完全に閉鎖することが可能であるため、流路10からの細胞の漏れ出しによるクロスコンタミネーションのリスクを低減することが可能である。また、例えば、細胞がHIV肝炎ウイルス等のウイルスに感染している場合であっても、流路10からの細胞の漏れ出しによるオペレーターへの感染のリスクを低減することが可能である。さらに、細胞塊分割器内の流体が、細胞塊分割器外の空気中の細菌、ウイルス及びカビ等にコンタミネーションするリスクを低減することが可能である。
【0072】
第1実施形態に係る細胞塊分割器で分割される細胞塊を形成する細胞の種類は特に限定されない。細胞塊を形成する細胞は、幹細胞であってもよいし、分化細胞であってもよい。幹細胞の例としては、ES細胞及び多能性幹細胞(iPS細胞)が挙げられる。分化細胞の例としては、神経細胞、網膜上皮細胞、肝細胞、腎細胞、間葉系幹細胞、血液細胞、メガカリオサイト、軟骨細胞、心筋細胞、血管細胞、及び上皮細胞が挙げられる。また、細胞塊は、分化誘導工程において生じる細胞塊、エンブリオイドボディー、オルガノイド、スフェロイド、細胞株の細胞塊、及び癌細胞の細胞塊であってもよい。
【0073】
(第1実施形態の第1実施例)
図2に示すように、一定の幅を有し、蛇行する流路内を流れる流体で発生するせん断力を物理シミュレーションにより算出した。
図2において、色が明るい部分ほど強いせん断力が発生している。
図2に示す結果から、流路の側壁近傍に大きなせん断力が発生することが示された。また、流路の直線状の箇所と比較して、蛇行する箇所において、広い範囲で大きなせん断力が発生することが示された。
【0074】
(第1実施形態の第2実施例)
図3に示すように、一定の幅を有し、蛇行する流路を備える細胞塊分割器を製造した。流路をなす溝はレーザーアブレーション法により基板に形成した。溝が設けられた基板にガラス板を貼り合わせ、流路を形成した。その後、流路にiPS細胞からなる細胞塊を含む培地を流した。その結果、
図4に示すように、iPS細胞からなる細胞塊が、効率よく分割された。
【0075】
また、
図3に示す細胞分割器にビーズを含む液体を流し、ビーズの動きを撮影した。撮影されたビーズの動きをトレースした図面を
図5に示す。ビーズの動きから、一定の幅を有し、蛇行する流路内において潜流が生じていることが示された。
【0076】
(第1実施形態の第3実施例)
図6に示すように、一定の幅を有し、蛇行する流路を備える細胞塊分割器を製造した。
図6に示す細胞分割器にビーズを含む液体を流し、ビーズの動きを撮影した。撮影されたビーズの動きをトレースした図面を
図7に示す。ビーズの動きから、一定の幅を有し、蛇行する流路内において潜流が生じていることが示された。
【0077】
(第1実施形態の第4実施例)
図8に示すように、一定の幅を有し、蛇行する流路を備える細胞塊分割器を製造した。
図8に示す細胞分割器にビーズを含む液体を流し、ビーズの動きを撮影した。撮影されたビーズの動きをトレースした図面を
図9に示す。ビーズの動きから、一定の幅を有し、蛇行する流路内において潜流が生じていることが示された。
【0078】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る細胞塊分割器は、
図10から
図13のそれぞれに示すように、細胞塊が流れる流路20を備え、流路20が、狭幅部と、狭幅部より幅が広い広幅部と、を有し、流路20が外気から閉鎖可能である。流路20の内部を含む閉鎖空間は、外部と気体の交換をしないよう構成され得る。
【0079】
広幅部が略円形であってもよいし、略多角形であってもよい。略多角形が略六角形であってもよい。第2実施形態に係る細胞塊分割器は、
図10(b)、
図11(b)、
図13(b)に示すように、流路20の幅広部に配置された、流路20内の流体の流動を部分的に妨げる部材30をさらに備えていてもよい。例えば、部材30は、流路20内を流れる流体の進行方向に対向するように配置される。例えば、部材30の少なくとも一部が、流路20内を流れる流体の進行方向に対して略垂直である。
【0080】
流路20は、基板に設けられた溝によって形成されていてもよい。流路20は、平らな基板に溝を設け、当該溝を蓋で覆って形成されてもよい。あるいは、流路20は、溝が設けられた基板どうしを溝の位置が一致するように貼りあわせて形成されてもよい。流路20を形成する溝は、例えば、エッチング法、リソグラフィー法、及びレーザーアブレーション法により形成される。
【0081】
あるいは、流路20は、チューブからなっていてもよい。流路20は、ガス非透過性物質に埋め込まれ、包埋されていてもよい。
【0082】
また、あるいは、流路20は、固体部材内に設けられた孔であってもよい。当該孔は、3Dプリンター法により、固体部材内に設けられてもよい。3Dプリンター法としては、材料押出堆積法、マテリアルジェッティング法、バインダージェッティング法、及び光造形法が挙げられる。
【0083】
第2実施形態に係る細胞塊分割器は、第1実施形態と同様に、流路内の細胞塊を流すためのポンプ等の流体機械50をさらに備えていてもよい。
【0084】
流路20に細胞塊を循環させてもよいし、流路20に細胞塊を往復させてもよい。流路20に細胞塊を流す前に、細胞塊を細胞剥離液に接触させてもよい。流路20を流れる細胞塊が凍結保存液に含まれていてもよい。この場合、流路20を流れたことによって分割された細胞塊が、凍結保存されてもよい。流路20が、凍結保存容器に接続されていてもよい。
【0085】
第2実施形態に係る細胞塊分割器によれば、狭幅部と広幅部を有する流路20によって、流路20内を流れる流体に潜流が生じ、せん断力が発生するため、流路20を流れる培地等の流体内の細胞塊を効率的に分割することが可能である。また、実施形態に係る細胞塊分割器によれば、例えば、流路20を完全に閉鎖することが可能であるため、流路20からの細胞の漏れ出しによるクロスコンタミネーションのリスクを低減することが可能である。また、例えば、細胞がHIV肝炎ウイルス等のウイルスに感染している場合であっても、流路20からの細胞の漏れ出しによるオペレーターへの感染のリスクを低減することが可能である。さらに、細胞塊分割器内の流体が、細胞塊分割器外の空気中の細菌、ウイルス及びカビ等にコンタミネーションするリスクを低減することが可能である。
【0086】
第2実施形態に係る細胞塊分割器が分割する細胞は、第1実施形態と同様に特に限定されない。第2実施形態に係る細胞塊分割器が分割する細胞の例は、第1実施形態と同様である。
【0087】
(第2実施形態の第1実施例)
図14に示すように、狭幅部と広幅部を有する流路内を流れる流体で発生するせん断力を物理シミュレーションにより算出した。
図14において、色が明るい部分ほど強いせん断力が発生している。
図14に示す結果から、流路の側壁近傍に大きなせん断力が発生することが示された。また、流路内の流体の流動を部分的に妨げる部材の近傍において、大きなせん断力が発生することが示された。さらに、流路内の流体の進行方向に対して、部材の背面において流体が合流し、せん断力が発生することが示された。
【0088】
(第2実施形態の第2実施例)
図15に示すように、狭幅部と広幅部を有し、広幅部に流路内の流体の流動を部分的に妨げる部材が設けられた流路を備える細胞塊分割器を製造した。流路をなす溝はレーザーアブレーション法により基板に形成した。溝が設けられた基板にガラス板を貼り合わせ、流路を形成した。その後、流路にiPS細胞からなる細胞塊を含む培地を流した。その結果、iPS細胞からなる細胞塊は、効率よく分割された。
【0089】
また、
図15に示す細胞分割器にビーズを含む液体を流し、ビーズの動きを撮影した。撮影されたビーズの動きをトレースした図面を
図16に示す。ビーズの動きから、一定の幅を有し、蛇行する流路内において潜流が生じていることが示された。
【0090】
(第2実施形態の第3実施例)
図17に示すように、狭幅部と広幅部を有する流路を備える細胞塊分割器を製造した。
図17に示す細胞分割器にビーズを含む液体を流し、ビーズの動きを撮影した。撮影されたビーズの動きをトレースした図面を
図18に示す。ビーズの動きから、流路の広幅部内において潜流が生じていることが示された。
【0091】
(第2実施形態の第4実施例)
図19に示すように、狭幅部と広幅部を有し、広幅部に流路内の流体の流動を部分的に妨げる部材が設けられた流路を備える細胞塊分割器を製造した。
図19に示す細胞分割器にビーズを含む液体を流し、ビーズの動きを撮影した。撮影されたビーズの動きをトレースした図面を
図20に示す。ビーズの動きから、流路の広幅部内において潜流が生じていることが示された。
【0092】
(第2実施形態の第5実施例)
図21に示すように、狭幅部と広幅部を有し、広幅部に流路内の流体の流動を部分的に妨げる部材が設けられた流路を備える細胞塊分割器を製造した。
図21に示す細胞分割器にビーズを含む液体を流し、ビーズの動きを撮影した。撮影されたビーズの動きをトレースした図面を
図22に示す。ビーズの動きから、流路の広幅部内において潜流が生じていることが示された。
【0093】
(第2実施形態の第6実施例)
図23に示すように、狭幅部と広幅部を有する流路を備える細胞塊分割器を製造した。
図23に示す細胞分割器にビーズを含む液体を流し、ビーズの動きを撮影した。撮影されたビーズの動きをトレースした図面を
図24に示す。ビーズの動きから、流路の広幅部内において潜流が生じていることが示された。
【0094】
(第2実施形態の第7実施例)
図25に示すように、狭幅部と広幅部を有する流路を備える細胞塊分割器を製造した。
図25に示す細胞分割器にビーズを含む液体を流し、ビーズの動きを撮影した。撮影されたビーズの動きをトレースした図面を
図26に示す。ビーズの動きから、流路の広幅部内において潜流が生じていることが示された。
【0095】
(第2実施形態の第8実施例)
図27に示すように、狭幅部と広幅部を有する流路を備える細胞塊分割器を製造した。
図27に示す細胞分割器にビーズを含む液体を流し、ビーズの動きを撮影した。撮影されたビーズの動きをトレースした図面を
図28に示す。ビーズの動きから、流路の広幅部内において潜流が生じていることが示された。
【0096】
(第2実施形態の第9実施例)
図29に示すように、狭幅部と広幅部を有し、広幅部に流路内の流体の流動を部分的に妨げる部材が設けられた流路を備える細胞塊分割器を製造した。
図29に示す細胞分割器にビーズを含む液体を流し、ビーズの動きを撮影した。撮影されたビーズの動きをトレースした図面を
図30に示す。ビーズの動きから、流路の広幅部内において潜流が生じていることが示された。
【0097】
(他の実施の形態)
上記のように、本発明を実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施の形態及び運用技術が明らかになるはずである。例えば、細胞塊分割器の流路に、細胞塊の分割を補助するフィルターを配置してもよい。あるいは、細胞塊分割器の流路に、分割された所定の大きさ未満の細胞塊を通すためのフィルターを配置してもよい。フィルターは、流路の任意の場所に配置可能である。フィルターは、流路の蛇行部分に配置してよいし、流路の直進部分に配置してもよいし、流路の狭幅部に配置してもよいし、流路の広幅部に配置してもよいし、流路の狭幅部と広幅部の境界に配置してもよい。このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。
【符号の説明】
【0098】
10、20・・・流路