(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】MEMS振動素子の製造方法およびMEMS振動素子
(51)【国際特許分類】
B81C 1/00 20060101AFI20220309BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20220309BHJP
H01G 7/02 20060101ALI20220309BHJP
H01G 5/013 20060101ALI20220309BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
B81C1/00
B81B3/00
H01G7/02
H01G5/013 380
H02N11/00 Z
(21)【出願番号】P 2017154474
(22)【出願日】2017-08-09
【審査請求日】2020-07-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト/超高効率データ抽出機能を有する学習型スマートセンシングシステムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋口 原
(72)【発明者】
【氏名】古賀 英明
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-171394(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034602(WO,A1)
【文献】特開2016-082836(JP,A)
【文献】特開2013-013256(JP,A)
【文献】特開2006-005731(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057317(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81C 1/00 ー 99/00
B81B 3/00 - 7/06
H02N 1/00 - 11/00
H01G 7/02
H01G 5/013
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定電極と、可動電極と、前記可動電極を前記固定電極に対して弾性支持する弾性支持部とを有するMEMS振動素子の製造方法において、
第1の厚さの基材をエッチング加工して、前記固定電極および前記可動電極を形成することと、
前記基材をエッチング加工して、前記弾性支持部を前記第1の厚さよりも薄い第2の厚さに形成することとを含
み
前記弾性支持部の第2の厚さ部分の延伸方向の長さは前記可動電極の延伸方向の長さよりも大きい、MEMS振動素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のMEMS振動素子の製造方法において、
前記固定電極および前記可動電極を形成した後に前記弾性支持部を形成する、MEMS振動素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のMEMS振動素子の製造方法において、
前記固定電極および前記可動電極は櫛歯構造の電極である、MEMS振動素子の製造方法。
【請求項4】
基材に形成される固定電極と、
前記基材に形成される可動電極と、
前記基材に形成され、前記可動電極を前記固定電極に対して弾性支持する弾性支持部とを備え、
前記弾性支持部の少なくとも一部は、基材厚さ方向の寸法が、前記固定電極および前記可動電極の基材厚さ方向の寸法よりも小さ
く、
前記弾性支持部の基材厚さ方向の寸法が前記固定電極および前記可動電極の基材厚さ方法の寸法より小さい部分の延伸方向の長さは、前記可動電極の延伸方向の長さより大きい、MEMS振動素子。
【請求項5】
請求項4に記載のMEMS振動素子において、
前記固定電極および前記可動電極は櫛歯構造の電極である、MEMS振動素子。
【請求項6】
請求項5に記載のMEMS振動素子において、
前記弾性支持部の前記一部の弾性支持部延在方向に沿った長さ寸法は、前記可動電極の櫛歯の長さ寸法よりも大きい、MEMS振動素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS振動素子の製造方法およびMEMS振動素子に関する。
【背景技術】
【0002】
環境振動からエネルギーを収穫するエナジーハーベスティング技術の一つとして、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動素子である振動発電素子を用いて環境振動から発電を行う手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。環境振動は様々な周波数帯を含んでいるが、振動発電を効果的に行うためには、振動発電素子の共振周波数を卓越周波数に合わせる必要がある。
【0003】
振動発電素子では可動電極をカンチレバーのような弾性支持部で支持し、可動電極が固定電極に対して振動することで発電を行っている。振動発電素子の共振周波数は弾性支持部のばね定数に依存しているので、共振周波数を卓越周波数に合わせるためには弾性支持部の太さや長さ等を調整する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、卓越周波数は振動検出対象である環境に応じてそれぞれ異なっており、従来の振動発電素子では対象環境に応じて弾性支持部の太さや長さ等を再設計しているので、種々の卓越周波数に容易に対応できず、対応にコストや手間がかかるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によるMEMS振動素子の製造方法は、固定電極と、可動電極と、前記可動電極を前記固定電極に対して弾性支持する弾性支持部とを有するMEMS振動素子の製造法において、第1の厚さの基材をエッチング加工して、前記固定電極および前記可動電極を形成することと、前記基材をエッチング加工して、前記弾性支持部を前記第1の厚さよりも薄い第2の厚さに形成することとを含む。
本発明の第2の態様によるMEMS振動素子は、基材に形成される固定電極と、前記基材に形成される可動電極と、前記基材に形成され、前記可動電極を前記固定電極に対して弾性支持する弾性支持部とを備え、前記弾性支持部の少なくとも一部は、基材厚さ方向の寸法が、前記固定電極および前記可動電極の基材厚さ方向の寸法よりも小さい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、種々の環境振動に対応したMEMS振動素子を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、振動発電素子の概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、振動発電素子の一部を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、振動発電素子の形成方法を説明する図である。
【
図6】
図6は、振動発電素子の形成方法の他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るMEMS振動素子の一例を示したものであり、振動発電素子1に適用した場合の概略構成を示す平面図である。また、
図2は、
図1の符号Aで示した部分の斜視図である。
【0010】
なお、本実施の形態のMEMS振動素子は、振動発電素子1に限らず、マイクロフォン等にも適用することができる。
【0011】
振動発電素子1は、ベース2、固定電極3、可動電極4、弾性支持部5を備えている。振動発電素子1には、負荷6が接続されている。本実施の形態では、
図1,2に示すように、固定電極3および可動電極4はそれぞれ櫛歯構造を有している。固定電極3には複数の櫛歯30が形成され、可動電極4には複数の櫛歯40が形成されている。固定電極3と可動電極4とは、櫛歯30と櫛歯40とが互いに隙間を介して歯合するように配置されている。
【0012】
このように、固定電極3は固定櫛歯電極を構成し、可動電極4は可動櫛歯電極を構成している。櫛歯電極とは、
図1の固定電極3や可動電極4のように、複数の櫛歯を並列配置したものである。なお、本発明における櫛歯の本数は、
図1に示したものに限定されない。
【0013】
本実施の形態の振動発電素子1は、シリコン基板やSOI(Silicon On Insulator)基板を用いて一般的なMEMS加工技術により形成される。
図1,2に示す例では、SOI基板により振動発電素子1を形成しているが、シリコン基板を用いた場合も同様に形成することができる。シリコン基板を用いる場合、例えば、導電率の小さな真性のシリコン基板の表面から所定厚さの領域にドーピングによりP型またはN型の導電層を形成し、導電層の下部の真性なシリコン層にベース2を形成し、導電層に固定電極3、可動電極4、弾性支持部5を形成すれば良い。
【0014】
図2に示すように、SOI基板はSiのハンドル層100、SiO
2のBOX層101、Siのデバイス層102から成り、ベース2はハンドル層100により形成され、固定電極3、可動電極4および弾性支持部5はデバイス層102により形成される。弾性支持部5の一端は、弾性支持部5の図示右側に設けられた固定部50によってベース2に固定されている。弾性支持部5の図示左側先端には可動電極4を構成する櫛歯40が設けられている。
【0015】
櫛歯30と櫛歯40の少なくとも一方には対向面の表面近傍にエレクトレットが形成されている。すなわち、固定電極3および可動電極4の少なくとも一方が帯電されている。振動発電素子1に外部から振動が加わると、弾性支持部5がz方向に撓んで可動電極4が矢印Rで示すようにz方向に振動する。その結果、固定電極3と可動電極4との対向面積が変化し、固定電極3と可動電極4との間の静電容量が変化する。このこととエレクトレットの誘導電荷とにより、固定電極3と可動電極4との間の電圧が変化して起電力が発生することで、振動発電素子1の発電が行われる。
【0016】
図1に示すように、負荷6は、導線7aにより固定電極3に設けられたパッド8aに接続されると共に、導線7bにより弾性支持部5の固定部50に設けられたパッド8bに接続されている。パッド8bは弾性支持部5を介して可動電極4と電気的に接続されている。振動発電素子1の発電によって得られた起電力は負荷6に印加され、負荷6が駆動される。
【0017】
図1,2に示す振動発電素子1における共振周波数f[Hz]は、弾性支持部5のばね定数kおよび可動電極4の質量m[kg]とすると次式(1)で表される。ばね定数kは、弾性支持部5のz方向の厚さをt[m]、支点から荷重点までの距離(すなわち、弾性支持部5のx方向の長さ)をL[m]、幅寸法(すなわち、弾性支持部5のy方向の幅寸法)をb[m]、ヤング率をE[Pa]とすると、次式(2)で表される。なお、可動電極4の質量が式(1)で必要とされる質量mに足らない場合には、質量調整用のおもりが可動電極4に付加される。
f=(1/2π)√(k/m) …(1)
k=(Eb/4L
3)t
3 …(2)
【0018】
(振動発電素子1の形成方法)
次に、
図3~5を参照して、振動発電素子1の形成方法の一例について説明する。ここでは、SOI基板を用いて形成する場合について説明するが、シリコン基板を用いた場合も同様に形成することができる。なお、
図3において、図示上段の図は平面図であって、図示下段の図はB-B断面図を示す。また、
図4,5において、図示上段の図は平面図であって、図示中段の図はC-C断面図で、図示下側の図はD-D断面図である。
【0019】
図3(a)に示す第1のステップでは、ハンドル層100,BOX層101およびデバイス層102から成るSOI基板の、デバイス層102の表面にアルミ(Al)層110を真空蒸着等により形成する。
【0020】
図3(b)に示す第2のステップでは、フォトマスクを用いたフォトリソ加工によりレジストパターン111を形成する。レジストパターン111には、弾性支持部5の平面形状に相当する矩形穴111aが形成されている。
【0021】
図3(c)に示す第3のステップでは、レジストパターン111をマスクとしてアルミ層110のエッチングを行う。これにより、矩形穴111aの領域にデバイス層102が露出することになる。
【0022】
図4(a)に示す第4のステップでは、
図3(c)に示したレジストパターン111を除去した後に、固定電極3、可動電極4および弾性支持部5の平面形状に相当するレジストパターン112が形成される。なお、第3のステップでアルミ層110に形成された矩形穴は、レジストパターン112によって覆われる。
【0023】
図4(b)に示す第5のステップでは、レジストパターン112をマスクとしてアルミ層110をエッチングする。その結果、固定電極3、可動電極4および弾性支持部5に相当する領域を除く隙間部分に相当する領域のアルミ層110が除去され、除去された領域にデバイス層102が露出することになる。
【0024】
図4(c)に示す第6のステップでは、レジストパターン112をマスクとして、デバイス層102をDRIE(Deep Reactive Ion Etching)加工する。エッチング加工はBOX層101に達するまで行われる。このエッチング加工により、デバイス層102に固定電極3および可動電極4が形成される。
【0025】
図5(a)に示す第7のステップでは、
図4(c)に示したレジストパターン112を除去する。その結果、弾性支持部5を形成すべき領域のデバイス層102が露出する。
【0026】
図5(b)に示す第8のステップでは、アルミ層110をマスクとして、デバイス層102を所定の深さまでDRIE加工する。このエッチング加工により、デバイス層102に所定厚さt2の弾性支持部5が形成される。
【0027】
図5(c)に示す第9のステップでは、ハンドル層100の表面に矩形枠形状のエッチングマスクとしてのアルミパターン(不図示)を形成し、ハンドル層100をDRIE加工することにより矩形枠形状のベース2を形成する。その後、アルミ層110を除去する。なお、固定電極3、可動電極4および弾性支持部5の下面側に露出するBOX層(SiO
2層)は、強フッ酸により除去する。
【0028】
その後、パッド8a,8bを形成した後に、公知の帯電処理(例えば、特開2014-049557号公報に記載の帯電処理)を施すことによって櫛歯30,40の少なくとも一方にエレクトレットを形成することで、振動発電素子1が形成される。
【0029】
(他の形成方法)
図6,7は、振動発電素子1の形成方法の他の例を説明する図である。
図3~5で説明した形成方法では、固定電極3および可動電極4を形成した後に弾性支持部5を形成したが、
図6,7に示す形成方法では、弾性支持部5を形成した後に固定電極3および可動電極4を形成するようにした。
【0030】
図6(a)に示す第1のステップでは、SOI基板のデバイス層102の表面に、フォトマスクを用いたフォトリソ加工によりレジストパターン120を形成する。レジストパターン120には、弾性支持部5の平面形状に相当する矩形穴120aが形成されている。矩形穴120aからはデバイス層102が露出している。
【0031】
図6(b)に示す第2のステップでは、レジストパターン120をマスクとしてデバイス層102を所定の深さまでDRIE加工する。このエッチング加工により、デバイス層102に所定厚さt2の弾性支持部5が形成される。
【0032】
図6(c)に示す第3のステップでは、
図6(b)に示すレジストパターン120を除去した後に、真空蒸着等によりアルミ層121を形成する。
【0033】
図7(a)に示す第4のステップでは、アルミ層121の上面に、固定電極3、可動電極4および弾性支持部5の平面形状に相当するレジストパターン122が形成される。レジストパターン122の、固定電極3、可動電極4および弾性支持部5に相当する領域を除く隙間部分に相当する領域には、アルミ層110が露出している。
【0034】
図7(b)に示す第5のステップでは、レジストパターン122をマスクとしてアルミ層121をエッチングする。その結果、固定電極3、可動電極4および弾性支持部5に相当する領域を除く隙間部分に相当する領域のアルミ層110が除去され、除去された領域にデバイス層102が露出することになる。
【0035】
図7(c)に示す第6のステップでは、レジストパターン122およびアルミ層121をマスクとしてデバイス層102をDRIE加工する。エッチング加工はBOX層101に達するまで行われる。このエッチング加工により、デバイス層102に固定電極3および可動電極4が形成される。
【0036】
図示は省略したが、第6のステップに続く次のステップでは、
図5(c)に示す場合と同様にエッチング加工によりハンドル層100にベース2を形成し、その後、アルミ層121およびレジストパターン122を除去する。その後、パッド8a,8bを形成した後に、公知の帯電処理(例えば、特開2014-049557号公報に記載の帯電処理)を施すことによって櫛歯30,40の少なくとも一方にエレクトレットを形成することで、振動発電素子1が形成される。
【0037】
なお、
図7(c)に示すステップでは、レジストパターン122およびアルミ層121をエッチングのマスクとして用いているが、アルミ層121を省略してレジストパターン122のみをマスクとしても良い。しかしながら、弾性支持部5の部分のような凹凸構造がある場合、凹部も含めてレジストを均一に塗布するのは難しい。一方、アルミ蒸着でアルミ層121を形成する場合には、
図6(c)に示すように均一にアルミ層121を形成することができる。そのため、
図7(c)に示すデバイス層102のエッチングを不安なく正確に行うためには、
図7(c)に示すように、レジストパターン122およびアルミ層121をエッチングマスクとして用いているのが好ましい。
【0038】
上述したように、MEMS振動素子である本実施形態の振動発電素子1では、固定電極3、可動電極4および弾性支持部5は同一の基材であるデバイス層102により形成される。そして、弾性支持部5の厚さ(すなわち、デバイス層102の厚さ方向の寸法)は、固定電極3および可動電極4の厚さよりも薄く形成される。
【0039】
振動発電素子1の発電出力を大きくするためには固定電極3および可動電極4の面積をより大きくする必要があり、そのためには固定電極3および可動電極4の厚さt1は大きい程よい。一方、環境振動においては数十Hzと低い卓越周波数を有する場合がある。そのような場合には、弾性支持部5の厚さt2を小さくして共振周波数を下げる必要がある。すなわち、厚さt1、t2を上述のような構成とし、エッチング深さを制御することにより厚さt2を調整することで、種々の卓越周波数に対して容易に対応することが可能となる。
【0040】
また、本実施の形態と異なり、固定電極3および可動電極4と弾性支持部5とをエッチング加工により同時に加工する場合には、それらは同一のエッチングレートでエッチングされるので、固定電極3、可動電極4および弾性支持部5の厚さ寸法は同一になる。そのため、振動発電素子1の共振周波数を環境振動の卓越周波数に合わせるためには、弾性支持部5の幅寸法(
図1の寸法b)や長さ寸法(
図2の寸法L)を調整することになる。その結果、卓越周波数が異なるたびに弾性支持部5を形成するためのマスクを作り直す必要があり、コストや手間がかかってしまうという問題がある。
【0041】
一方、本実施の形態では、
図2に示すように弾性支持部5の厚さt2を、可動電極4の厚さ寸法t1よりも小さく設定する構成としているので、固定電極3および可動電極4のエッチング加工と弾性支持部5のエッチング加工とを個別に行うことになる。その結果、隙間の狭い櫛歯構造の固定電極3および可動電極4と、比較的エッチング面積の広い弾性支持部5とを、それぞれに適したエッチング条件でエッチングを行うことが可能となり、弾性支持部5の厚さ調整を容易に行うことができる。
【0042】
すなわち、上述した製造方法のように、基材であるデバイス層102をエッチング加工して、固定電極3および可動電極4を厚さt1に形成することと、デバイス層102をエッチング加工して、弾性支持部5を厚さt1よりも薄い厚さt2に形成することとで、弾性支持部5を所望の厚さに精度よく形成することができる。そのため、マスク等を作り直さなくても、弾性支持部5の厚さt2を調整するだけで種々の卓越周波数に対応することができる。
【0043】
特に、上述した実施形態のように、固定電極3および可動電極4が櫛歯構造の電極の場合、櫛歯30と櫛歯40との隙間は、弾性支持部5の周囲の隙間に比べて狭い。このように条件の大きく異なる固定電極3および可動電極4のエッチング加工と弾性支持部5のエッチング加工とを個別に行うことで、それぞれに適した加工条件でエッチングを行うことができる。
【0044】
また、厚さ寸法t1の大きな固定電極3および可動電極4を形成した後に、厚さt2の小さな弾性支持部5を形成するのが好ましい。例えば、固定電極3および可動電極4の貫通部分における貫通状態が不十分な状態でエッチングを終了した場合でも、その後の弾性支持部5のエッチング加工を行った際に貫通部分の貫通状態が改善されるという効果が期待できる。
【0045】
(変形例1)
上述した実施形態では、弾性支持部5は片持ち梁構造で、櫛歯40が櫛歯30に対してz方向に振動する構成としたが、
図8に示す変形例1のように可動電極4を一対の弾性支持部200により支持する構成としてもよい。
図8に示す例では、可動電極4を弾性支持する弾性支持部200は矢印R2で示すx方向に撓むように変形し、x方向に振動する。弾性支持部200の厚さ(z方向の寸法)はt2に設定され、固定電極3および可動電極4の厚さはt1(>t2)に設定されている。このようにx方向に振動する場合、前述した式(2)の寸法tは弾性支持部200のx方向の寸法が対応し、寸法bは弾性支持部200のz方向の寸法が対応する。この場合も、弾性支持部200のz方向の寸法を調整することで、振動発電素子1の共振周波数を調整することができる。
【0046】
(変形例2)
また、固定電極3および可動電極4の形態としては上述したような櫛歯構造に限らず、例えば、
図9に示す変形例2のような平行平板型の電極構造であっても良い。この場合も、弾性支持部200の厚さt2は、固定電極3および可動電極4の厚さt1に対してt2<t1のように設定される。可動電極4はx方向に振動することで固定電極3と可動電極4とのギャップ寸法gが変化し、それによって発電が行われる。
【0047】
(変形例3)
さらに、
図10に示す変形例3のように、弾性支持部5を、厚さt2の変形部51と厚さt1の電極接続部52とで構成するようにしても良い。
【0048】
ところで、前述した式(1)、(2)から分かるように、弾性支持部5の厚さt2の部分の長さLは、長ければ長いほど共振周波数fが低くなる。また、長さLが短いと、同じ共振周波数を得るためには厚さt2をより薄くする必要があり、弾性支持部5の機械的強度が低下することになる。さらに、長さLが長い方が振動の振幅を大きく取れるという利点がある。すなわち、弾性支持部5の弾性支持部延在方向に沿った長さLは長い方が好ましい。例えば、厚さt2の部分の長さLを、可動電極4の櫛歯40の長さL4よりも大きく設定するのが良い。
【0049】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、各実施形態および変形例は、それぞれ単独で適用しても良いし、組み合わせて用いても良い。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1…振動発電素子、3…固定電極、4…可動電極、5,200…弾性支持部、30,40…櫛歯、51…変形部、102…デバイス層