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特許7037162VEGF遺伝子発現促進剤及びFGF7遺伝子発現促進剤
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  • 特許-VEGF遺伝子発現促進剤及びFGF7遺伝子発現促進剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】VEGF遺伝子発現促進剤及びFGF7遺伝子発現促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/03 20060101AFI20220309BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220309BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
A61K36/03
A61P43/00 111
A61P1/02
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2016228476
(22)【出願日】2016-11-25
(65)【公開番号】P2017128562
(43)【公開日】2017-07-27
【審査請求日】2019-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2016006746
(32)【優先日】2016-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166959
【氏名又は名称】御木本製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】濱口 雅則
(72)【発明者】
【氏名】阪井田 和則
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-035806(JP,A)
【文献】特開2013-234140(JP,A)
【文献】特開平07-278003(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0135743(KR,A)
【文献】国際公開第2013/111924(WO,A1)
【文献】Biomol Ther., 2012, Vol.20 No.6, p.520-525
【文献】生化学, 2009, Vol.81 No.7, p.592-597
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
A61P 17/00
A61K 8/00
A61Q 7/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イシゲ(Ishige okamurae)の抽出物を有効成分とするFGF7遺伝子発現促進剤(但し、育毛・養毛剤の用途を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なVEGF遺伝子発現促進剤及びFGF7遺伝子発現促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
毛髪は、成長期、退行期及び休止期からなる周期的なヘアサイクル(毛周期)に従って成長及び脱落を繰り返している。このヘアサイクルのうち、休止期から成長期にかけての新たな毛包が形成されるステージが、発毛に最も重要であると考えられており、このステージにおける毛包上皮系細胞の増殖・分化に重要な役割を果たしているのが、毛乳頭細胞であると考えられている。毛乳頭細胞は、毛根近傍にある外毛根鞘細胞とマトリックス細胞とからなる毛包上皮系細胞の内側にあって、基底膜に包まれている毛根の根幹部分に位置する細胞であり、毛包上皮系細胞に働きかけてその増殖を促進する等、毛包上皮系細胞の増殖・分化及び毛髪の形成において重要な役割を担っている(非特許文献1参照)。
【0003】
このように、毛乳頭細胞は、毛包上皮系細胞の増殖・分化及び毛髪の形成において最も重要な役割を果たしており、従来、培養毛乳頭細胞に対象物質を接触させて、その細胞の増殖活性の有無及び/又は強弱を特定することで、その対象物質の育毛効果を検定する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
線維芽細胞増殖因子-7(FGF-7)は、線維芽細胞増殖因子(FGF)のファミリーのうちの1つであり、KGF(keratinocytegrowth factor)とも呼ばれる。FGFには、20種類以上のファミリーが存在することが知られている。FGFは、中胚葉と神経外胚葉から発生した幅広い細胞の増殖を促進する因子であり、例えば、線維芽細胞、血管内皮細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、グリア細胞、骨芽細胞等の分裂・成長を誘導する。FGFは、血管新生作用、コラーゲンやフィブロネクチンの合成抑制作用等を有することや、ヘパリンに対して強い親和性を有することが知られている。
【0005】
また、毛包の毛乳頭細胞において、FGF-7が発現していることが示され(例えば、非特許文献2参照)、FGF-7が毛根の活発化を介した育毛効果を有することが明らかになった。また、ノックアウトマウスを用いた研究により、FGF-7は、毛の伸びる方向に関与することが示唆されている。これまでに、FGF-7産生の促進作用を有する植物エキスとして、クララ等が知られている(非特許文献3参照)。
さらには歯周組織においてこれらの成長因子の産生を促進することにより、歯周組織の再生が可能になり、歯周組織再生促進剤として有効である。(特許文献2参照)
【0006】
一方、血管内皮増殖因子(VEGF、vascular endothelial growth factor)は、下垂体星状濾胞細胞の培養液より単離された、血管内皮細胞に特異的に作用する増殖因子である。そして、VEGFは、毛乳頭をはじめとして下垂体星状濾胞細胞、マクロファージ、平滑筋細胞、胚線維芽細胞等の多様な細胞に発現をしている。
【0007】
VEGFの動きを阻害する特異抗体をマウス腹腔に注射すると、成長期が遅れるとともに毛包のサイズが小さくなり、毛包の発達や再生に血管新生が重要であることが報告されている。反対に、外毛根鞘でのVEGF合成量を増加させた場合、毛包のサイズが増大し、作られる毛の直径も太くなることが報告されている。更に、毛乳頭細胞から産生されるVEGFは発毛を促進することや、医薬品の育毛剤に用いられているミノキシジルの作用に関与すること等が知られている。
【0008】
以上のことから、脱毛や薄毛といった症状の予防・改善のために、優れたFGF7並びにVEGFの産生促進が誘導される発毛促進剤の開発が期待されており、これら作用を有する育毛剤に対する需要は極めて高い。
また、VEGFの産生促進は末梢動脈疾患の治療又は予防を行う。(特許文献3参照)
【0009】
イシゲ(Ishige okamurae)は、主に潮間帯中部の岩上に生息し、本州太平洋側では茨城以南、日本海沿岸から南部、瀬戸内海、九州、朝鮮半島、中国と幅広く分布している。
【0010】
イシゲには、デンドライト伸長抑制作用(特許文献4参照)や皮膚バリアの強化作用(特許文献5参照)が、見出されているがFGF7やVEGFを対象とした有効な発毛促進作用については知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平10-229978号公報
【文献】特開2016-124797号公報
【文献】特開2015-108024号公報
【文献】特開2014-133708号公報
【文献】特開2014-101309号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】「Trends Genet 」,1992年, 第8巻, p.56-61
【文献】アンチエイジングシリーズ(1)、白髪・脱毛・育毛の実際,NTS,p.1-18,2005年
【文献】J.Derm.Sci.,30,p43-49,2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
VEGF及びFGF7遺伝子の発現を促進し、発毛促進剤を得ること、さらには歯周組織再生促進剤や末梢動脈疾患の治療又は予防に有効な製剤を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような背景の下、鋭意検討した結果、イシゲ抽出物において有効なFGF7遺伝子の発現を促進する作用を見出し、本発明を完成させた。
イシゲの抽出効率を考え、細切、乾燥、粉砕等の処理を行った後に抽出を行うことが好ましい。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。前記抽出に用いる溶媒としては、水若しくは親水性有機溶媒又はこれらの混合液を用いる。
前記抽出溶媒として使用し得る水としては、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、ろ過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。従って、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
前記親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコールなどが挙げられ、これら親水性有機溶媒と水との混合溶媒などを用いることができる。
なお、前記水と親水性有機溶媒との混合溶媒を使用する場合には、低級アルコールの場合は水10質量部に対して1~20質量部、低級脂肪族ケトンの場合は水10質量部に対して1~15質量部添加することが好ましい。多価アルコールの場合は水10質量部に対して1~20質量部添加することが好ましい。
抽出に使用する有機溶媒の量は、原料となる植物(海藻)に対して望ましくは5~100倍量程度、さらに望ましくは10~50倍量程度が良い。さらに抽出効率を上げるため、抽出溶媒中で撹拌やホモジナイズしてもよい。抽出温度としては、5℃程度から抽出溶媒の沸点以下の温度とするのが適切である。抽出時間は抽出溶媒の種類や抽出温度によっても異なるが、1時間~14日間程度とするのが適切である。
尚、抽出操作は1回のみの操作に限定されるものではない。抽出後の残渣に再度新鮮な溶媒を添加し、抽出操作を施すこともできるし、抽出溶媒を複数回抽出原料に接触させることも可能である。必要ならば、その効果に影響のない範囲で更に脱臭、脱色等の精製処理を加えても良く、エバポレーターのような減圧濃縮装置や加熱による溶媒除去などにより、濃縮することができる。また、この抽出物を合成吸着剤(ダイアイオンHP20やセファビースSP825、アンバーライトXAD4、MCIgelCHP20P等)やデキストラン樹脂(セファデックスLH-20など)、限外濾過等を用いてさらに精製することも可能である。
【0015】
本発明の製剤は、経口、注射、外用のいずれでも薬効を発現するが、皮膚外用剤として用いるのが好ましい。皮膚外用剤には、皮膚化粧料、外用医薬部外品、医療用皮膚外用剤が含まれる。
【0016】
また、本発明の製剤には、上記成分の他に医薬品や化粧品の各種製剤において使用されている界面活性剤、油性成分、保湿剤、高分子化合物、紫外線吸収剤、抗炎症剤、殺菌剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、防腐剤、ビタミン類、色素、香料、水等を配合することができる。
【0017】
上記界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、非イオン性、天然、合成のいずれの界面活性剤も使用できるが、皮膚に対する刺激性を考慮すると非イオン性のものを使用することが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルグリコシド等が挙げられる。
【0018】
油性成分としては、油脂類、ロウ類、炭化水素類、高級脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、精油類、シリコーン油類などを挙げることができる。油脂類としては、例えば大豆油、ヌカ油、ホホバ油、アボガド油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ油、ゴマ油、パーシック油、ヒマシ油、ヤシ油、ミンク油、牛脂、豚脂等の天然油脂、これらの天然油脂を水素添加して得られる硬化油及びミリスチン酸グリセリド、2-エチルヘキサン酸トリグリセリド等の合成トリグリセリド等が;ロウ類としては、例えばカルナバロウ、鯨ロウ、ミツロウ、ラノリン等が;炭化水素類としては、例えば流動パラフィン、ワセリン、パラフィンマイクロクリスタリンワックス、セレシン、スクワラン、ブリスタン等が;高級脂肪酸類としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラノリン酸、イソステアリン酸等が;高級アルコール類としては、例えばラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、2-ヘキシルデカノール等が;エステル類としては、例えばオクタン酸セチル、オクタン酸トリグリセライド、乳酸ミリスチル、乳酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸デシル、イソステアリン酸コレステロール、POEソルビット脂肪酸エステル等が;精油類としては、例えばハッカ油、ジャスミン油、ショウ脳油、ヒノキ油、トウヒ油、リュウ油、テレピン油、ケイ皮油、ベルガモット油、ミカン油、ショウブ油、パイン油、ラベンダー油、ベイ油、クローブ油、ヒバ油、バラ油、ユーカリ油、レモン油、タイム油、ペパーミント油、ローズ油、セージ油、メントール、シネオール、オイゲノール、シトラール、シトロネラール、ボルネオール、リナロール、ゲラニオール、カンファー、チモール、スピラントール、ピネン、リモネン、テルペン系化合物等が;シリコーン油類としては、例えばジメチルポリシロキサン等が挙げられる。これら上述の油性成分は一種又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明においては、このうち特にミリスチン酸グリセリド、2-エチルヘキサン酸トリグリセリド、ラノリン、流動パラフィン、ワセリン、パラフィンマイクロクリスタリンワックス、スクワラン、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、コレステロール、オクタン酸セチル、オクタン酸トリグリセライド、ミリスチレン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸コレステロール、POEソルビット脂肪酸エステル、ハッカ油、トウヒ油、ケイ皮油、ローズ油、メントール、シネオール、オイゲノール、シトラール、シトロネラール、ゲラニオール、ピネン、リモネン、ジメチルポリシロキサンを使用することが好ましい。
【0019】
本発明の製剤には、さらに下記のような成分を配合することができるが、その成分もこれらに限定されるものではない。色素類;黄色4号、青色1号、黄色202号等の厚生省令に定められたタール色素別表I及びIIの色素、クロロフィル、リボフラビン、クロシン、紅花、アントラキノン等の食品添加物として認められている天然色素等。
ビタミン類;ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE等。その他;殺菌剤、防腐剤、その他製剤上必要な成分等。
【0020】
本発明の製剤は、前記必須成分に必要に応じて前記任意成分を加え、常法に従って製造することができ、クリーム、乳液、化粧水等の形態とすることができる。
【実施例
【0021】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0022】
実施例1
イシゲ50g(湿重量)に精製水500gを加え、ミキサーを用いてホモジナイズした。これを遠心分離し濾液を得た。この濾液に4倍量のエタノール2Lを加え、ときどき撹拌しながら、24時間後に濾過(No5C)し、これを凍結乾燥した。
【0023】
確認試験(FGF7およびVEGF遺伝子発現促進試験)
ヒト毛乳頭細胞(PromoCell)を6ウェルプレートに播種し、3日間培養した。3日後に、FBSを含まないDMEM培地へ、実施例にて製造したイシゲ抽出物を1mg/mLに調整したものを、先のヒト毛乳頭細胞へ添加し2時間培養した。培養後、以下の方法に従い、RNAを抽出しRT反応後、リアルタイムPCRを実施した。
【0024】
RNAの抽出
細胞からのTotal RNAの抽出は、PureLink(登録商標)RNA Mini Kit(ライフテクノロジーズ・ジャパン)を用い、添付マニュアルに従い調整した。RNA濃度は、NanoDop1000(Thermo Fisher scientific)を用いて算出した。
【0025】
RT反応およびリアルタイムPCR
抽出したTotal RNAを使い、High-Capacity RNA-to-cDNA Kit(ライフテクノロジーズ・ジャパン)を用いて、添付マニュアルに従いRT反応を行った。
リアルタイムPCRは、7500 Real-Time PCR System(ライフテクノロジーズ・ジャパン)を用いて実施した。
詳細には、前述のRT産物と、VEGF、FGF7および内在性コントロールとしてGAPDHのTaqMan(登録商標) プライマー(ライフテクノロジーズ・ジャパン)、TaqMan(登録商標) Gene Expression Master Mix(ライフテクノロジーズ・ジャパン)を用いて、ΔΔCT法により遺伝子発現量の比較を行った。
【0026】
結果を図1に示す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施例1の確認試験結果でVEGF及びFGF7の遺伝子発現量変化を示す図である。 縦軸は実施例を添加していない場合の遺伝子発現量を1としてときの遺伝子発現量である。 なお、いずれも危険率1%でコントロールと有意な差があった。
図1