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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】PLL回路およびCDR装置
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/093 20060101AFI20220309BHJP
   H04L 7/033 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
H03L7/093
H04L7/033
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018038726
(22)【出願日】2018-03-05
(65)【公開番号】P2019153962
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】399011195
【氏名又は名称】ザインエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】久保 俊一
(72)【発明者】
【氏名】菅原 光俊
(72)【発明者】
【氏名】三浦 賢
(72)【発明者】
【氏名】本 昭宏
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-144608(JP,A)
【文献】特開2002-330067(JP,A)
【文献】実開平05-050821(JP,U)
【文献】特開昭52-059557(JP,A)
【文献】特開平10-112648(JP,A)
【文献】特開2004-153433(JP,A)
【文献】国際公開第2011/010581(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03L 7/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御電圧値を入力し、この制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力する電圧制御発振器と、
前記電圧制御発振器から出力される発振信号または該発振信号を分周した信号を帰還発振信号として入力するとともに、入力信号をも入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較器から出力される位相差信号を入力して、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流を出力するチャージポンプと、
前記チャージポンプから出力される充放電電流を入力し、この充放電量に応じて増減される前記制御電圧値を前記電圧制御発振器へ出力するループフィルタと、
前記チャージポンプに対して並列に設けられ、オープンループ伝達関数に微分項を付与する位相補償部と、
を備え、
前記ループフィルタは、前記チャージポンプから出力される充放電電流を第1端に入力する抵抗器と、前記抵抗器の第2端に接続された第1容量素子と、前記抵抗器の前記第1端に接続された第2容量素子とを含み、
前記位相補償部は、前記位相比較器から出力される位相差信号を入力するバッファと、前記バッファの出力端と前記抵抗器の前記第1端との間に設けられた第3容量素子とを含み、
前記チャージポンプのコンダクタンスg 、前記抵抗器の抵抗値R、前記第2容量素子の容量値C 、前記第3容量素子の容量値C および前記バッファのゲインAの間に、
AC /g =(C +AC )R なる関係を有する、
PLL回路。
【請求項2】
制御電圧値を入力し、この制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力する電圧制御発振器と、
前記電圧制御発振器から出力される発振信号または該発振信号を分周した信号を帰還発振信号として入力するとともに、入力信号をも入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較器から出力される位相差信号を入力して、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流を出力するチャージポンプと、
前記チャージポンプから出力される充放電電流を入力し、この充放電量に応じて増減される前記制御電圧値を前記電圧制御発振器へ出力するループフィルタと、
前記チャージポンプに対して並列に設けられ、オープンループ伝達関数に微分項を付与する位相補償部と、
を備え、
前記ループフィルタは、前記チャージポンプから出力される充放電電流を第1端に入力する抵抗器と、前記抵抗器の第2端に接続された第1容量素子と、前記抵抗器の前記第1端に接続された第2容量素子とを含み、
前記位相補償部は、前記位相比較器から出力される位相差信号を入力するバッファと、前記バッファの出力端と前記抵抗器の前記第1端との間に設けられた第3容量素子とを含み、
前記チャージポンプのコンダクタンスg 、前記抵抗器の抵抗値R、前記第1容量素子の容量値C 、前記第3容量素子の容量値C および前記バッファのゲインAの間に、
1/C R<AC /g なる関係を有する、
PLL回路。
【請求項3】
前記第2容量素子および前記第3容量素子それぞれの温度特性は互いに同じである、
請求項1または2に記載のPLL回路。
【請求項4】
前記位相補償部は、前記バッファおよび前記第3容量素子を各々含むM個の組が互いに並列に接続されてなる、
請求項1~3の何れか1項に記載のPLL回路。
【請求項5】
前記位相補償部は、前記M個の組のうちの何れかの1または複数の組において、前記バッファと前記第3容量素子との間または前記第3容量素子と前記ループフィルタとの間に設けられたスイッチを含む、
請求項に記載のPLL回路。
【請求項6】
前記位相補償部は、前記M個の組のうちの何れかの1または複数の組において、前記バッファと前記第3容量素子との間または前記第3容量素子と前記ループフィルタとの間に設けられた第1スイッチと、前記第3容量素子と前記第1スイッチとの接続点とバイアス電位端との間に設けられた第2スイッチと、を含む、
請求項に記載のPLL回路。
【請求項7】
前記バッファは、MOSトランジスタおよび負荷を含み、前記MOSトランジスタのゲートが前記位相差信号を入力し、前記MOSトランジスタのドレインが第1基準電位端に接続され、前記MOSトランジスタのソースが前記第3容量素子に接続され、前記MOSトランジスタのソースと第2基準電位端との間に前記負荷が設けられている、
請求項1~6の何れか1項に記載のPLL回路。
【請求項8】
前記バッファは、偶数個のインバータ回路が縦続接続されてなる、
請求項1~6の何れか1項に記載のPLL回路。
【請求項9】
前記偶数個のインバータ回路のうちの何れかの1または複数のインバータ回路は、PMOSトランジスタおよびNMOSトランジスタを含み、前記PMOSトランジスタおよび前記NMOSトランジスタそれぞれのドレインが互いに接続されてなる出力端を有し、前記PMOSトランジスタおよび前記NMOSトランジスタそれぞれのゲートに共通に入力される信号の論理反転信号を前記出力端から出力する、
請求項に記載のPLL回路。
【請求項10】
前記偶数個のインバータ回路のうちの何れかの1または複数のインバータ回路は、MOSトランジスタおよび負荷を含み、前記MOSトランジスタのドレインと第1基準電位端との間に前記負荷が設けられ、前記MOSトランジスタのソースが第2基準電位端に接続され、前記MOSトランジスタのゲートに入力される信号の論理反転信号を前記MOSトランジスタのドレインから出力する、
請求項に記載のPLL回路。
【請求項11】
前記偶数個のインバータ回路のうちの何れかの1または複数のインバータ回路は、MOSトランジスタ、負荷および電流源を含み、前記MOSトランジスタのドレインと第1基準電位端との間に前記負荷が設けられ、前記MOSトランジスタのソースと第2基準電位端との間に前記電流源が設けられ、前記MOSトランジスタのゲートに入力される信号の論理反転信号を前記MOSトランジスタのドレインから出力する、
請求項に記載のPLL回路。
【請求項12】
クロックが埋め込まれたデジタル信号を入力し、このデジタル信号に基づいてデータおよびクロックを復元して、その復元データおよび復元クロックを出力するCDR装置であって、
前記復元クロックが指示するタイミングで前記デジタル信号のデータをサンプリングして、そのサンプリングしたデータを前記復元データとして前記復元クロックに同期して出力するサンプラと、
前記入力信号として前記復元データを前記位相比較器に入力し、前記電圧制御発振器から前記発振信号として前記復元クロックを出力するともに、前記復元クロックを前記サンプラに与える請求項1~11の何れか1項に記載のPLL回路と、
を備えるCDR装置。
【請求項13】
クロックが埋め込まれたデジタル信号を入力し、このデジタル信号に基づいてデータおよびクロックを復元して、その復元データおよび復元クロックを出力するCDR装置であって、
前記復元クロックが指示するタイミングで前記デジタル信号のデータをサンプリングして、そのサンプリングしたデータを前記復元データとして前記復元クロックに同期して出力するサンプラと、
前記位相比較器として第1位相比較器および第2位相比較器を備え、前記電圧制御発振器から前記発振信号として前記復元クロックを出力するともに、前記復元クロックを前記サンプラに与える請求項1~11の何れか1項に記載のPLL回路と、
前記第1位相比較器に入力される前記帰還発振信号と基準クロックとの間で周波数が同期しているか否かを検出する周波数同期検出部と、
前記周波数同期検出部により周波数同期が検出されない第1期間では、前記入力信号として基準発振信号を入力する前記第1位相比較器から出力される位相差信号を選択して前記チャージポンプへ出力し、前記周波数同期検出部により周波数同期が検出されている第2期間では、前記入力信号として前記復元データを入力する前記第2位相比較器から出力される位相差信号を選択して前記チャージポンプへ出力する選択部と、
を備えるCDR装置。
【請求項14】
前記チャージポンプ、前記ループフィルタ、前記電圧制御発振器および前記位相補償部のうちの何れかは、前記第1期間と前記第2期間とで互いに異なるパラメータ値を有する、
請求項13に記載のCDR装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL回路およびCDR装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、PLL(Phase Locked Loop)回路は、位相比較器、チャージポンプ、ループフィルタおよび電圧制御発振器(Voltage Controlled Oscillator、VCO)を備え、これらによりループが構成されている(特許文献1参照)。PLL回路は、入力される発振信号の周波数を定数倍した周波数を有する発振信号を出力する周波数シンセサイザとして用いられる。また、PLL回路は、CDR(Clock Data Recovery)装置において入力されるデジタル信号に埋め込まれたクロックを復元することができる。
【0003】
PLL回路は以下のように動作する。電圧制御発振器に制御電圧値が入力されると、この制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号が電圧制御発振器から出力される。電圧制御発振器から出力される発振信号、または、この発振信号を分周した信号が、帰還発振信号として位相比較器に入力される。また、この帰還発振信号に加えて他の入力信号(発振信号またはデジタル信号)も位相比較器に入力される。位相比較器において、入力信号と帰還発振信号との間の位相差が検出されて、この検出された位相差を表す位相差信号がチャージポンプへ出力される。
【0004】
この位相差信号を入力するチャージポンプから、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流が出力される。この充放電電流はループフィルタに入力される。ループフィルタは、互いに直列的に接続された抵抗器および第1容量素子を含み、これらに対して並列的に設けられた第2容量素子をも含む。ループフィルタは、この充放電量に応じて増減される制御電圧値を電圧制御発振器へ出力する。ループフィルタから出力される制御電圧値が電圧制御発振器に入力されて、この制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号が電圧制御発振器から出力される。
【0005】
このようなループを有するPLL回路において、位相比較器により検出される位相差が小さくなるように、ループフィルタから出力されて電圧制御発振器に入力される制御電圧値が或る値に収束していく。そして、電圧制御発振器から、入力される発振信号の周波数を定数倍した周波数を有する発振信号が出力され、或いは、入力されるデジタル信号に埋め込まれたクロックが復元されて出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4089030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PLL回路において、ループフィルタと電圧制御発振器との間の配線または電圧制御発振器の構成に起因する寄生容量があると、その寄生容量がループフィルタの第2容量素子に付加されることになる。その結果、PLL回路の動作が不安定になる場合があり、また、PLL回路を備えるCDR装置のクロックおよびデータの復元動作も不安定になる場合がある。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、寄生容量に因る動作不安定を抑制することができるPLL回路およびCDR装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のPLL回路は、(1) 制御電圧値を入力し、この制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力する電圧制御発振器と、(2) 電圧制御発振器から出力される発振信号または該発振信号を分周した信号を帰還発振信号として入力するとともに、入力信号をも入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号を出力する位相比較器と、(3) 位相比較器から出力される位相差信号を入力して、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流を出力するチャージポンプと、(4) チャージポンプから出力される充放電電流を入力し、この充放電量に応じて増減される制御電圧値を電圧制御発振器へ出力するループフィルタと、(5) チャージポンプに対して並列に設けられ、オープンループ伝達関数に微分項を付与する位相補償部と、を備える。
【0010】
本発明のPLL回路において、好適には、ループフィルタは、チャージポンプから出力される充放電電流を第1端に入力する抵抗器と、抵抗器の第2端に接続された第1容量素子と、抵抗器の第1端に接続された第2容量素子とを含み、位相補償部は、位相比較器から出力される位相差信号を入力するバッファと、バッファの出力端と抵抗器の第1端との間に設けられた第3容量素子とを含む。
【0011】
本発明のPLL回路は、チャージポンプのコンダクタンスg、抵抗器の抵抗値R、第2容量素子の容量値C、第3容量素子の容量値CおよびバッファのゲインAの間に、AC/g=(C+AC)Rなる関係を有するのが好適である。また、第2容量素子と第3容量素子とは同一構成の素子であるのが好適である。
【0012】
本発明のPLL回路において、好適には、位相補償部は、バッファおよび第3容量素子を各々含むM個の組が互いに並列に接続されてなる。位相補償部は、M個の組のうちの何れかの1または複数の組において、バッファと第3容量素子との間または第3容量素子とループフィルタとの間に設けられたスイッチを含むのが好適である。また、位相補償部は、M個の組のうちの何れかの1または複数の組において、バッファと第3容量素子との間または第3容量素子とループフィルタとの間に設けられた第1スイッチと、第3容量素子と第1スイッチとの接続点とバイアス電位端との間に設けられた第2スイッチとを含むのも好適である。
【0013】
本発明のPLL回路において、好適には、バッファは、MOSトランジスタおよび負荷を含み、MOSトランジスタのゲートが位相差信号を入力し、MOSトランジスタのドレインが第1基準電位端に接続され、MOSトランジスタのソースが第3容量素子に接続され、MOSトランジスタのソースと第2基準電位端との間に負荷が設けられている。
【0014】
本発明のPLL回路において、好適には、バッファは、偶数個のインバータ回路が縦続接続されてなる。偶数個のインバータ回路のうちの何れかの1または複数のインバータ回路は、PMOSトランジスタおよびNMOSトランジスタを含み、PMOSトランジスタおよびNMOSトランジスタそれぞれのドレインが互いに接続されてなる出力端を有し、PMOSトランジスタおよびNMOSトランジスタそれぞれのゲートに共通に入力される信号の論理反転信号を出力端から出力する構成とすることができる。或いは、偶数個のインバータ回路のうちの何れかの1または複数のインバータ回路は、MOSトランジスタおよび負荷を含み、MOSトランジスタのドレインと第1基準電位端との間に負荷が設けられ、MOSトランジスタのソースが第2基準電位端に接続され、MOSトランジスタのゲートに入力される信号の論理反転信号をMOSトランジスタのドレインから出力する構成とすることができる。或いは、偶数個のインバータ回路のうちの何れかの1または複数のインバータ回路は、MOSトランジスタ、負荷および電流源を含み、MOSトランジスタのドレインと第1基準電位端との間に負荷が設けられ、MOSトランジスタのソースと第2基準電位端との間に電流源が設けられ、MOSトランジスタのゲートに入力される信号の論理反転信号をMOSトランジスタのドレインから出力する構成とすることができる。
【0015】
本発明のCDR装置は、クロックが埋め込まれたデジタル信号を入力し、このデジタル信号に基づいてデータおよびクロックを復元して、その復元データおよび復元クロックを出力するCDR装置であって、(1) 復元クロックが指示するタイミングでデジタル信号のデータをサンプリングして、そのサンプリングしたデータを復元データとして復元クロックに同期して出力するサンプラと、(2) 入力信号として復元データを位相比較器に入力し、電圧制御発振器から発振信号として復元クロックを出力するともに、復元クロックをサンプラに与える上記の本発明のPLL回路と、を備える。
【0016】
本発明のCDR装置は、クロックが埋め込まれたデジタル信号を入力し、このデジタル信号に基づいてデータおよびクロックを復元して、その復元データおよび復元クロックを出力するCDR装置であって、(1) 復元クロックが指示するタイミングでデジタル信号のデータをサンプリングして、そのサンプリングしたデータを復元データとして復元クロックに同期して出力するサンプラと、(2) 位相比較器として第1位相比較器および第2位相比較器を備え、電圧制御発振器から発振信号として復元クロックを出力するともに、復元クロックをサンプラに与える上記の本発明のPLL回路と、(3) 第1位相比較器に入力される帰還発振信号と基準クロックとの間で周波数が同期しているか否かを検出する周波数同期検出部と、(4) 周波数同期検出部により周波数同期が検出されない第1期間では、入力信号として基準発振信号を入力する第1位相比較器から出力される位相差信号を選択してチャージポンプへ出力し、周波数同期検出部により周波数同期が検出されている第2期間では、入力信号として復元データを入力する第2位相比較器から出力される位相差信号を選択してチャージポンプへ出力する選択部と、を備える。チャージポンプ、ループフィルタ、電圧制御発振器および位相補償部のうちの何れかは、第1期間と第2期間とで互いに異なるパラメータ値を有するのが好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のPLL回路およびCDR装置は、寄生容量に因る動作不安定を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、第1比較例のPLL回路1Aの構成を示す図である。
図2図2は、第1比較例のPLL回路1Aのループフィルタ30等の構成例を示す図である。
図3図3は、第1比較例のPLL回路1Aの位相領域モデルを示す図である。
図4図4は、第1比較例のPLL回路1Aの周波数特性(ゲインおよび位相)を示す図である。
図5図5は、見掛け上の容量値Cが大きくなったときの第1比較例のPLL回路1Aの周波数特性(ゲインおよび位相)を示す図である。
図6図6は、第2比較例のPLL回路1Bの構成を示す図である。
図7図7は、第2比較例のPLL回路1Bの周波数特性(ゲインおよび位相)を示す図である。
図8図8は、本実施形態のPLL回路1Cの構成を示す図である。
図9図9は、本実施形態のPLL回路1Cのループフィルタ30および位相補償部70等の構成例を示す図である。
図10図10は、本実施形態のPLL回路1Cの位相領域モデルを示す図である。
図11図11は、本実施形態のPLL回路1Cの周波数特性(ゲインおよび位相)を示す図である。
図12図12は、位相補償部70の第2構成例の構成を示す図である。
図13図13は、位相補償部70の第3構成例の構成を示す図である。
図14図14は、位相補償部70の第4構成例の構成を示す図である。
図15図15は、位相補償部70の第5構成例の構成を示す図である。
図16図16は、バッファ71の第1構成例を示す図である。
図17図17は、バッファ71の第2構成例を示す図である。
図18図18は、バッファ71の第3構成例を示す図である。
図19図19は、インバータ回路の第1構成例を示す図である。
図20図20は、インバータ回路の第2構成例を示す図である。
図21図21は、インバータ回路の第3構成例を示す図である。
図22図22は、インバータ回路の第4構成例を示す図である。
図23図23は、インバータ回路の第5構成例を示す図である。
図24図24は、本実施形態のCDR装置2Aの構成を示す図である。
図25図25は、本実施形態のCDR装置2Aの第1期間および第2期間それぞれにおける各パラメータ値の一例を示す表である。
図26図26は、他の実施形態のCDR装置2Bの構成を示す図である。
図27図27は、送信器3および受信器4を備える送受信システムの構成を示す図である。
図28図28は、送信器3と受信器4との間におけるデータおよび周波数同期信号の送受を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0020】
図1は、第1比較例のPLL回路1Aの構成を示す図である。PLL回路1Aは、位相比較器10、チャージポンプ20、ループフィルタ30、電圧制御発振器40および分周器50を備える。図2は、ループフィルタ30等の構成例を示す図である。ループフィルタ30は、抵抗器31、第1容量素子32および第2容量素子33を含む。
【0021】
位相比較器10は、分周器50から出力される帰還発振信号を入力するとともに、入力信号をも入力する。入力信号は、周波数が一定である基準発振信号であってもよいし、各ビットの期間が一定であるデジタル信号であってもよい。位相比較器10は、これら帰還発振信号と入力信号との間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号をチャージポンプ20へ出力する。位相差信号は、帰還発振信号および入力信号のうち何れの信号の位相が進んでいるかを表す。
【0022】
チャージポンプ20は、位相比較器10から出力される位相差信号を入力して、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流をループフィルタ30へ出力する。チャージポンプ20からループフィルタ30へ出力される充放電電流は、基準発振信号および入力信号のうち何れの信号の位相が進んでいるかに応じて極性が異なる。ループフィルタ30は、チャージポンプ20から出力される充放電電流を入力し、この充放電量に応じて増減される制御電圧値を電圧制御発振器40へ出力する。
【0023】
ループフィルタ30は、図2に示されるように、チャージポンプ20から出力される充放電電流を第1端に入力する抵抗器31と、抵抗器31の第2端と接地電位端との間に設けられた第1容量素子32と、抵抗器31の第1端と接地電位端との間に設けられた第2容量素子33と、を含む。チャージポンプ20の出力端および電圧制御発振器40の入力端は、ループフィルタ30の抵抗器31の第1端と接続されている。
【0024】
電圧制御発振器40は、ループフィルタ30から出力される制御電圧値を入力し、この制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力する。分周器50は、電圧制御発振器40から出力される発振信号を入力し、この発振信号をN分周して帰還発振信号を生成し、この帰還発振信号を位相比較器10へ出力する。
【0025】
位相比較器10、チャージポンプ20、ループフィルタ30、電圧制御発振器40および分周器50はループを構成している。このループにおいて、位相比較器10に入力される帰還発振信号と入力信号との間の位相差が小さくなるように、チャージポンプ20からループフィルタ30へ充放電電流が入力される。そして、このループの動作が安定した状態では、電圧制御発振器40から出力される発振信号は、入力信号の周波数をN倍した周波数を有する。なお、分周器50は設けられなくてもよく、この場合には、電圧制御発振器40から出力される発振信号は基準発振信号の周波数と同じ周波数を有し、分周比N=1とする。
【0026】
位相比較器10に入力される入力信号はCLKIN(t)=cos(ωt) で表される。ωtは位相を表す。Φ=ωtとおくと、位相Φの時間微分は入力信号CLKIN(t)の周波数ωであり、位相Φは周波数ωの時間積分である。したがって、位相に対する応答を調べることPLL回路の安定性を確認することができる。PLL回路の周波数特性は位相領域モデル(phase domain model)で表され、PLL回路の伝達関数H(s)は入力φinと出力φoutとの比で示される。ここで、s=jωであり、jは虚数単位である。ωは、位相の変調周波数であり、入力信号CLKINの周波数とは異なる。
【0027】
チャージポンプ20のコンダクタンスをgとする。ループフィルタ30の抵抗器31の抵抗値をRとし、第1容量素子32の容量値をCとし、第2容量素子33の容量値をCとする。電圧制御発振器40の特性(制御電圧値に対する発振信号の周波数の依存性)をKVCOとする。
【0028】
チャージポンプ20およびループフィルタ30の伝達関数Hlpf(s)は下記(1)式で表される。PLL回路1Aのオープンループ伝達関数Hopen(s)は下記(2)式で表される。ωは、伝達関数におけるゼロ点の変調周波数であり、下記(3)式で表される。ωは、伝達関数における極の変調周波数であり、下記(4)式で表される。図3は、第1比較例のPLL回路1Aの位相領域モデルを示す図である。
【0029】
【数1】
【0030】
【数2】
【0031】
【数3】
【0032】
【数4】
【0033】
図4は、第1比較例のPLL回路1Aの周波数特性(ゲインおよび位相)を示す図である。ゲインが0dBになるωにおいて位相が180°であると、PLL回路は不安定になる。ゲインが0dBになるωにおいて位相が90°に近いほど、PLL回路は安定になる。ゲインが0dBになるωにおいて位相が180°からどの程度離れているかを位相余裕という。例えば、ゲインが0dBになるωにおいて位相が90°である場合、位相余裕は90°(=180-90)となる。
【0034】
PLL回路を設計する際には、ゲインが0dBになるωがωとωとの間にあるのが好ましい。このような条件を満たすことで、位相余裕が90°に近い値となり、PLL回路の特性が安定する。また、経験的に、ωは、ωの10~50倍程度であるのが好ましいとされている(下記(5)式)。このことから、第1容量素子32の容量値Cと第2容量素子33の容量値Cとは下記(6)式を満たすのが好ましい。
【0035】
【数5】
【0036】
【数6】
【0037】
しかしながら、ループフィルタ30と電圧制御発振器40との間の配線に寄生容量が存在する場合があり、また、電圧制御発振器40の構成に起因する寄生容量が存在する場合がある。このような寄生容量は、ループフィルタ30の第2容量素子33に付加されることになる。その結果、第2容量素子33の見掛け上の容量値Cは大きくなる。そして、見掛け上の容量値Cが大きくなると、上記(5)式,(6)式が満たされなくなり、PLL回路は不安定となる。
【0038】
図5は、見掛け上の容量値Cが大きくなったときの第1比較例のPLL回路1Aの周波数特性(ゲインおよび位相)を示す図である。この図に示されるように、見掛け上の容量値Cが大きくなると、ωは変化しない一方で、ωは小さくなり、ωとωとの間隔は狭くなる。そして、ゲインが0dBになるωにおいて位相は180°に近くなり、位相余裕は小さくなる。また、ゲインを0dBに設定可能な範囲が狭くなるので、素子の特性のバラツキによっては不安定になる。よって、PLL回路は、不安的になり、意図した周波数の発振信号を出力することができない。不安定とは、位相が180°となるωにおいてゲインが0dBでない場合、PLL回路がそのωにおいて発振、リンギングまたはリンギングの兆候を示すことである。
【0039】
このような問題を解消するため、第2容量素子33の見掛け上の容量値Cが大きくなってωが小さくなるのに応じて、ωを小さくすることが考えられる。ωを小さくするには、上記(3)式から分かるように、CRを大きくする必要がある。また、上記(6)を満たすように、第1容量素子32のCを大きくする必要がある。ただし、オープンループ伝達関数Hopen(s)の安定性に影響を与えないように、Cを大きくするのに応じて、他のパラメータの値を変更するのが望ましい。上記(2)式から、CをK倍にするのに応じて、gをK倍にするとともにRをK分の1にする第1の方法、および、KVCOをK倍にするとともにRをK分の1にする第2の方法、の2とおりが考えられる。
【0040】
しかし、これらの方法では次のような問題が生じる。CをK倍にするためには、第1容量素子32の面積をK倍にする必要がある。gをK倍にする第1の方法では、チャージポンプから出力される電流量をK倍にする必要があり、消費電力が大きくなる。KVCOをK倍にする第2の方法では、電圧制御発振器の消費電力が大きくなり、ランダムノイズに対する電圧制御発振器の感度が高くなる。また、電圧制御発振器のKVCOを大きくするには限界がある。LC-VCOのKVCOの一般的な値としては1~2GHz/Vである。高いKVCOを持つ電圧制御発振器はインバータを多段に接続したリングオシレータで実現できる。しかし、前述したとおりランダムノイズが大きくなり高速のデータレート(数十Gbps)のシステムではランダムノイズの影響(数ps)が大きく現実的でない。一般的には高速のデータレートを持つシステムではランダムノイズが小さいLC-VCOが使用される。
【0041】
したがって、第2容量素子33の見掛け上の容量値Cが大きくなるのに応じて第1容量素子32のCを大きくすることは、面積が増大するだけでなく消費電力も増大するので、好ましくない。
【0042】
特許文献1には、このような問題を解消することを意図した発明が開示されている。特許文献1に開示された発明のPLL回路は、図6に示される構成を有する。
【0043】
図6は、第2比較例のPLL回路1Bの構成を示す図である。図1に示された第1比較例のPLL回路1Aの構成と比較すると、図2に示される第2比較例のPLL回路1Bは、アンプ60を更に備える点で相違する。
【0044】
アンプ60は、ループフィルタ30と電圧制御発振器40との間に挿入されている。アンプ60を設けることにより、電圧制御発振器40の構成に起因する寄生容量と、ループフィルタ30の第2容量素子33とを、互いに分離することができる。これにより、電圧制御発振器40の構成に起因する寄生容量がループフィルタ30の第2容量素子33に付加されることを抑制して、第2容量素子33の見掛け上の容量値Cが大きくなることを抑制することができる。
【0045】
第2比較例のPLL回路1Bのオープンループ伝達関数Hopen(s)は下記(7)式で表される。ω=1/τ である。この式に示されるように、アンプ60の周波数特性を表す因子(1/(sτ+1))がオープンループ伝達関数Hopen(s)に追加される。図7は、第2比較例のPLL回路1Bの周波数特性(ゲインおよび位相)を示す図である。アンプ60による容量分離効果を得るには、ω>ωとすることが必要である。その為には、アンプ60は、高速である必要があるので、面積が増大するだけでなく消費電力も増大するので、好ましくない。
【0046】
【数7】
【0047】
以下に説明する実施形態のPLL回路1Cは、寄生容量に因る動作不安定を抑制することができ、また、面積の増大および消費電力の増大を抑制することができる。
【0048】
図8は、本実施形態のPLL回路1Cの構成を示す図である。PLL回路1Cは、位相比較器10、チャージポンプ20、ループフィルタ30、電圧制御発振器40、分周器50および位相補償部70を備える。図9は、ループフィルタ30および位相補償部70等の構成例を示す図である。図1に示された第1比較例のPLL回路1Aの構成と比較すると、図8に示される本実施形態のPLL回路1Cは、位相補償部70を更に備える点で相違する。なお、分周器50は設けられなくてもよく、この場合には、電圧制御発振器40から出力される発振信号は基準発振信号の周波数と同じ周波数を有し、分周比N=1とする。
【0049】
位相補償部70は、チャージポンプ20に対して並列に設けられ、オープンループ伝達関数に微分項を付与する。位相補償部70は、位相比較器10から出力される位相差信号を入力するバッファ71と、バッファ71の出力端とループフィルタ30の入力端(抵抗器31の第1端)との間に設けられた第3容量素子72と、を含む。バッファ71のゲインAは正値である。バッファ71のゲインAは、固定であってもよいし、可変であってもよい。第3容量素子72の容量値Cも、固定であってもよいし、可変であってもよい。
【0050】
第3容量素子72と第2容量素子33とは、同一構成の素子であるのが好適である。これにより、第3容量素子72および第2容量素子33それぞれの温度特性を互いに同じにすることができる。例えば、第3容量素子72および第2容量素子33は、共にMIM(Metal Insulator Metal)構成であってもよいし、或いは、共にMOSトランジスタにおいてソースとドレインとを互いに電気的に接続した構成であってもよい。
【0051】
チャージポンプ20、ループフィルタ30および位相補償部70の伝達関数Hlpf(s)は下記(8)式で表される。PLL回路1Cのオープンループ伝達関数Hopen(s)は下記(9)式で表される。図10は、本実施形態のPLL回路1Cの位相領域モデルを示す図である。このように、位相補償部70は、PLL回路1Cのオープンループ伝達関数Hopen(s)に微分項(sACR)を付与している。
【0052】
【数8】
【0053】
【数9】
【0054】
上記(9)式を変形すると下記(10)式になる。前の(2)式と比較すると、この(10)式は、右辺の4つの因子のうち第1因子の点で相違する。この第1因子の分子にあるsAC/g+1 は、伝達関数にゼロ点が追加されていることを表す。
【0055】
【数10】
【0056】
一般に、CはCより十分に大きい(上記(6)式)。また、CはACより十分に大きくすることができる。例えば、Cは数十pFであり、Cは数pFであり、Cは数百fFである。したがって、CはC+AC より十分に大きくすることができる。この場合、(10)式は下記(11)式になる。
【0057】
【数11】
【0058】
さらに、下記(12)式の関係を満たすように各パラメータ値を設定すると、(11)式の右辺の第1因子を値1にすることができる。この場合、(11)式は下記(13)式になる。なお、第3容量素子72と第2容量素子33とが同一構成の素子であって、第3容量素子72および第2容量素子33それぞれの温度特性が互いに同じであれば、温度の変動があっても(11)式の関係は満たされることになる。
【0059】
【数12】
【0060】
【数13】
【0061】
このように、チャージポンプ20に対して並列に位相補償部70を設けることで、寄生容量が見掛け上の容量値Cに与える影響を抑制することができ、寄生容量に因る動作不安定を抑制することができる。
【0062】
ただし、上記(12)式の関係が満たされない場合には、位相余裕が若干損なわれることになる。この場合、上記(11)式は下記(14)式で表される。この(14)式中のωは下記(15)式で表され、ωは下記(16)式で表され、ωは下記(17)式で表される。図11は、本実施形態のPLL回路1Cの周波数特性(ゲインおよび位相)を示す図である。この場合、ω<ωとなるように各パラメータ値を設定する必要がある。
【0063】
【数14】
【0064】
【数15】
【0065】
【数16】
【0066】
【数17】
【0067】
第2比較例のPLL回路1Bは、アンプ60を備える構成であることから、このアンプ60の面積および消費電力の増大が問題となる。これに対して、本実施形態のPLL回路1Cは、バッファ71および第3容量素子72を含む位相補償部70を備える構成である。第3容量素子72の容量値Cは数百fFであり、位相補償部70の面積はアンプ60の面積の10分の1程度にすることができる。また、位相補償部70はDC電流が流れない(または、DC電流が流れるとしても僅かである)ので、位相補償部70の消費電力はアンプ60の消費電力の10分の1程度にすることができる。
【0068】
次に、本実施形態のPLL回路1Cの位相補償部70の構成例について更に説明する。位相補償部70は、図9に示されるように、バッファ71および第3容量素子72を1組のみ含む第1構成例であってもよいが、図12図15に示されるように、バッファ71および第3容量素子72を各々含むM個の組が互いに並列に接続されてなる構成例であってもよい。Mは2以上の整数である。
【0069】
図12は、位相補償部70の第2構成例の構成を示す図である。この図に示される第2構成例の位相補償部70Aは、バッファ71~71および容量素子72~72を含む。バッファ71~71のうちのバッファ71と容量素子72~72のうちの容量素子72とを含む組を第m組として、第1~第Mの組が互いに並列に接続されている。
【0070】
図13は、位相補償部70の第3構成例の構成を示す図である。この図に示される第3構成例の位相補償部70Bは、バッファ71~71、容量素子72~72およびスイッチ73~73を含む。バッファ71、容量素子72およびスイッチ73を含む組を第m組として、第1~第Mの組が互いに並列に接続されている。この第3構成例の位相補償部70Bでは、スイッチ73は、容量素子72の後段に設けられている。
【0071】
図14は、位相補償部70の第4構成例の構成を示す図である。この図に示される第4構成例の位相補償部70Cは、バッファ71~71、容量素子72~72およびスイッチ73~73を含む。バッファ71、容量素子72およびスイッチ73を含む組を第m組として、第1~第Mの組が互いに並列に接続されている。この第4構成例の位相補償部70Cでは、スイッチ73は、バッファ71と容量素子72との間に設けられている。
【0072】
第3構成例(図13)および第4構成例(図14)では、第1~第Mの組の全てにスイッチ73が設けられてもよいし、第1~第Mの組のうちの何れかの1または複数の組にスイッチ73が設けられてもよい。第3構成例および第4構成例では、スイッチ73~73それぞれのオン/オフの設定に応じて、位相補償の程度を調整することができる。
【0073】
図15は、位相補償部70の第5構成例の構成を示す図である。この図に示される第5構成例の位相補償部70Dは、バッファ71~71、容量素子72~72,スイッチ73~73およびスイッチ74~74を含む。バッファ71、容量素子72、スイッチ73およびスイッチ74を含む組を第m組として、第1~第Mの組が互いに並列に接続されている。この第5構成例の位相補償部70Dでは、スイッチ73は、バッファ71と容量素子72との間に設けられている。また、スイッチ74は、容量素子72とスイッチ73との接続点と、バイアス電位Vが入力されるバイアス電位端との間に設けられている。同じ組に含まれるスイッチ73およびスイッチ74のうち一方がオンに設定されるとき他方はオフに設定される。
【0074】
第5構成例(図15)では、第1~第Mの組の全てにスイッチ73,74が設けられてもよいし、第1~第Mの組のうちの何れかの1または複数の組にスイッチ73,74が設けられてもよい。この第5構成例でも、スイッチ73~73それぞれのオン/オフの設定に応じて、位相補償の程度を調整することができる。
【0075】
また、第5構成例では、或る第m組において、スイッチ73がオフであるとき、スイッチ74がオンに設定されるので、容量素子72とスイッチ73との接続点の電位はバイアス電位Vで安定している。したがって、第5構成例では、第m組のスイッチ73をオフからオンに転じたときの位相補償動作の不安定性を回避することができる。
【0076】
なお、第5構成例(図15)は第4構成例(図14)に対してスイッチ74~74を追加したものであるが、第3構成例(図13)に対してもスイッチ74~74を追加してもよい。
【0077】
次に、位相補償部70(70A~70D)に含まれるバッファ71(71~71)の構成例について、図16図23を用いて説明する。
【0078】
図16は、バッファ71の第1構成例を示す図である。この図に示される第1構成例のバッファ71Aは、NMOSトランジスタ201および負荷202を含む。NMOSトランジスタ201のゲートは、位相比較器10から出力される位相差信号を入力する。NMOSトランジスタ201のドレインは電源電位端(第1基準電位端)に接続される。NMOSトランジスタ201のソースは第3容量素子72に接続される。NMOSトランジスタ201のソースと接地電位端(第2基準電位端)との間に負荷202が設けられている。
【0079】
図17は、バッファ71の第2構成例を示す図である。この図に示される第2構成例のバッファ71Bは、PMOSトランジスタ211および負荷212を含む。PMOSトランジスタ211のゲートは、位相比較器10から出力される位相差信号を入力する。PMOSトランジスタ211のドレインは接地電位端(第1基準電位端)に接続される。PMOSトランジスタ211のソースは第3容量素子72に接続される。PMOSトランジスタ211のソースと電源電位端(第2基準電位端)との間に負荷212が設けられている。
【0080】
第1構成例(図16)および第2構成例(図17)では、MOSトランジスタのソースから第3容量素子72へ出力される信号の論理レベルは、MOSトランジスタのゲートに入力される位相差信号の論理レベルと同じである。すなわち、バッファ71A,71Bのゲインは正値である。バッファ71Aまたはバッファ71Bを多段に縦続接続してもよい。
【0081】
図18は、バッファ71の第3構成例を示す図である。この図に示される第3構成例のバッファ71Cは、2個のインバータ回路221,222が縦続接続された構成を有する。縦続接続されるインバータ回路の個数は、2個であってもよいし、一般に偶数個であってもよい。これにより、バッファ71Cのゲインは正値となる。これら偶数個のインバータ回路のうちの何れかの1または複数のインバータ回路は、図19図23に示される構成を有するものであってよい。また、異なる構成を有するインバータ回路が縦続接続されてもよい。
【0082】
図19は、インバータ回路の第1構成例を示す図である。この図に示される第1構成例のインバータ回路220Aは、PMOSトランジスタ301およびNMOSトランジスタ302を含む。PMOSトランジスタ301のソースは電源電位端に接続される。NMOSトランジスタ302のソースは接地電位端に接続される。このインバータ回路220Aは、PMOSトランジスタ301およびNMOSトランジスタ302それぞれのドレインが互いに接続されてなる出力端を有し、PMOSトランジスタ301およびNMOSトランジスタ302それぞれのゲートに共通に入力される信号の論理反転信号を出力端から出力する。
【0083】
図20は、インバータ回路の第2構成例を示す図である。この図に示される第2構成例のインバータ回路220Bは、NMOSトランジスタ311および負荷312を含む。NMOSトランジスタ311のドレインと電源電位端(第1基準電位端)との間に負荷312が設けられている。NMOSトランジスタ311のソースは接地電位端(第2基準電位端)に接続されている。このインバータ回路220Bは、NMOSトランジスタ311のゲートに入力される信号の論理反転信号を、NMOSトランジスタ311のドレインから出力する。
【0084】
図21は、インバータ回路の第3構成例を示す図である。この図に示される第3構成例のインバータ回路220Cは、PMOSトランジスタ321および負荷322を含む。PMOSトランジスタ321のドレインと接地電位端(第1基準電位端)との間に負荷322が設けられている。PMOSトランジスタ321のソースは電源電位端(第2基準電位端)に接続されている。このインバータ回路220Cは、PMOSトランジスタ321のゲートに入力される信号の論理反転信号を、PMOSトランジスタ321のドレインから出力する。
【0085】
図22は、インバータ回路の第4構成例を示す図である。この図に示される第4構成例のインバータ回路220Dは、NMOSトランジスタ331、負荷332および電流源333を含む。NMOSトランジスタ331のドレインと電源電位端(第1基準電位端)との間に負荷332が設けられている。NMOSトランジスタ331のソースと接地電位端(第2基準電位端)との間に電流源333が設けられている。このインバータ回路220Dは、NMOSトランジスタ331のゲートに入力される信号の論理反転信号を、NMOSトランジスタ331のドレインから出力する。
【0086】
図23は、インバータ回路の第5構成例を示す図である。この図に示される第5構成例のインバータ回路220Eは、PMOSトランジスタ341、負荷342および電流源343を含む。PMOSトランジスタ341のドレインと接地電位端(第1基準電位端)との間に負荷342が設けられている。PMOSトランジスタ341のソースと電源電位端(第2基準電位端)との間に電流源343が設けられている。このインバータ回路220Eは、PMOSトランジスタ341のゲートに入力される信号の論理反転信号を、PMOSトランジスタ341のドレインから出力する。
【0087】
次に、PLL回路を備えるCDR装置について説明する。CDR装置は、クロックが埋め込まれたデジタル信号(例えば8B10B又は128B130Bのコーディングデータ)を入力し、このデジタル信号に基づいてデータおよびクロックを復元して、その復元データおよび復元クロックを出力するものである。CDR装置は、PLL回路およびサンプラを備えて構成される。CDR装置において、サンプラは、復元クロックが指示するタイミングでデジタル信号のデータをサンプリングして、そのサンプリングしたデータを復元データとして復元クロックに同期して出力する。PLL回路は、入力信号として復元データを位相比較器に入力し、電圧制御発振器から発振信号として復元クロックを出力するともに、復元クロックをサンプラに与える。CDR装置は、図8に示される位相補償部70を含むPLL回路1Cを備えることにより、寄生容量に因る動作不安定を抑制することができる。位相比較器10はBang-Bang型のものであるのが好適である。
【0088】
CDR装置は図24に示される構成を有するのが好適である。図24は、本実施形態のCDR装置2Aの構成を示す図である。CDR装置2Aは、第1位相比較器10A、第2位相比較器10B、チャージポンプ20、ループフィルタ30、電圧制御発振器40、分周器50、位相補償部70、サンプラ80、周波数同期検出部90および選択部100を備える。
【0089】
これらのうち、第1位相比較器10A、チャージポンプ20、ループフィルタ30、電圧制御発振器40、分周器50および位相補償部70を含むループは、第1のPLL回路を構成している。第2位相比較器10B、チャージポンプ20、ループフィルタ30、電圧制御発振器40および位相補償部70を含むループは、第2のPLL回路を構成している。これら第1および第2のPLL回路において、チャージポンプ20、ループフィルタ30、電圧制御発振器40および位相補償部70は共通に設けられている。これら第1および第2のPLL回路は、図8に示される位相補償部70を含むPLL回路1Cと同等の構成である。ただし、第2のPLL回路は、分周器50を含まない。
【0090】
サンプラ80は、クロックが埋め込まれたデジタル信号を入力し、電圧制御発振器40から発振信号として出力される復元クロックが指示するタイミングでデジタル信号のデータをサンプリングして、そのサンプリングしたデータを復元データとして復元クロックに同期して第2位相比較器10Bへ出力する。
【0091】
第2位相比較器10Bは、入力信号として復元データを入力するとともに、電圧制御発振器40から発振信号として出力される復元クロックを入力する。そして、第2位相比較器10Bは、これら復元クロックと復元データとの間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号を選択部100へ出力する。第2位相比較器10BはBang-Bang型のものであるのが好適である。
【0092】
第1位相比較器10Aは、入力信号として基準クロックを入力するとともに、分周器50から出力される帰還発振信号を入力する。そして、第1位相比較器10Aは、これら帰還発振信号と基準クロックとの間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号を選択部100へ出力する。
【0093】
周波数同期検出部90は、第1位相比較器10Aに入力される帰還発振信号と基準クロックとの間で周波数が同期しているか否かを検出する。選択部100は、周波数同期検出部90により周波数同期が検出されない第1期間では、入力信号として基準発振信号を入力する第1位相比較器10Aから出力される位相差信号を選択してチャージポンプへ出力する。選択部100は、周波数同期検出部90により周波数同期が検出されている第2期間では、入力信号として復元データを入力する第2位相比較器10Bから出力される位相差信号を選択してチャージポンプへ出力する。チャージポンプ20は、選択部100により選択されて出力された位相差信号を入力する。
【0094】
このCDR装置2Aでは、周波数同期がとれていない第1期間では、基準クロックを入力する第1位相比較器10Aを含む第1のPLL回路が動作する。一方、周波数同期がとれている第2期間では、サンプラ80から出力される復元データを入力する第2位相比較器10Bを含む第2のPLL回路が動作する。したがって、基準クロックを用いた第1のPLL回路の動作を短時間で安定化することができて、入力されるデジタル信号に基づくデータおよびクロックの復元を早期に開始することができる。
【0095】
また、このCDR装置2Aでは、チャージポンプ20、ループフィルタ30、電圧制御発振器40および位相補償部70のうちの何れかは、第1期間と第2期間とで互いに異なるパラメータ値を有するのが好適である。例えば、第1期間と第2期間とでは、分周比Nが互いに異なり、要求される帯域幅も互いに異なる。これに応じて、チャージポンプ20のコンダクタンスg、抵抗器31の抵抗値R、第1容量素子32の容量値C、第2容量素子33の容量値C、電圧制御発振器40の特性KVCO、バッファ71のゲインAおよび第3容量素子72の容量値Cのうちの何れかを調整することで、第1期間および第2期間の双方において好適なオープンループ伝達関数Hopen(s)を実現することができる。
【0096】
図25は、本実施形態のCDR装置2Aの第1期間および第2期間それぞれにおける各パラメータ値の一例を示す表である。この例では、分周比Nは、第1期間では200であるのに対して、第2期間では1である。要求される帯域幅は、第1期間では1MHzであるのに対して、第2期間では10MHzである。これに応じて、gは、第1期間では50μAであったところ、第2期間では10μAとする。Rは、第1期間では20kΩであったところ、第2期間では1kΩとする。また、Cは、第1期間では1pFであったところ、第2期間では0.5pFとする。なお、第1期間および第2期間の何れにおいても、Cは10pFであり、KVCOは2GHz/Vであり、Cは5pFである。このように各パラメータ値を調整することで、第1期間および第2期間の双方において好適なオープンループ伝達関数Hopen(s)を実現することができる。
【0097】
図26は、他の実施形態のCDR装置2Bの構成を示す図である。図24に示されたCDR装置2Aの構成と比較すると、この図26に示されるCDR装置2Bは、分周器51を更に備える点で相違する。図27は、送信器3および受信器4を備える送受信システムの構成を示す図である。CDR装置2Bは受信器4に含まれる。図28は、送信器3と受信器4との間におけるデータおよび周波数同期信号の送受を説明する図である。送信器3から受信器4へ、デジタル信号のデータが送られる。受信器4から送信器3へ、周波数同期検出部90による検出結果を表す周波数同期信号が送られる。
【0098】
送信器3から受信器4へ送られるデジタル信号が101010・・・のように一定周期の繰り返しパターンのデータである場合に、分周器51は、そのデジタル信号を分周して基準クロックを生成し、その基準クロックを第1位相比較器10Aへ出力する。第1位相比較器10Aは、その基準クロックを入力するとともに、分周器50から出力される帰還発振信号を入力する。そして、第1位相比較器10Aは、これら帰還発振信号と基準クロックとの間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号を選択部100へ出力する。
【0099】
周波数同期検出部90は、第1位相比較器10Aに入力される帰還発振信号と基準クロックとの間で周波数が同期しているか否かを検出する。送信器3から受信器4へ送られるデジタル信号が一定周期の繰り返しパターンのデータであって、周波数同期検出部90により周波数同期が検出されない第1期間では、受信器4から送信器3へ送られる周波数同期信号はローレベルである。周波数同期検出部90により周波数同期が検出されている第2期間になると、受信器4から送信器3へ送られる周波数同期信号はハイレベルに転じる。送信器3は、周波数同期信号がハイレベルに転じたことを受けて、例えば8B10B等でコーディングされたデータを受信器4へ送信開始する。
【0100】
選択部100は、周波数同期検出部90により周波数同期が検出されない第1期間では、入力信号として基準発振信号を入力する第1位相比較器10Aから出力される位相差信号を選択してチャージポンプへ出力する。選択部100は、周波数同期検出部90により周波数同期が検出されている第2期間では、入力信号として復元データを入力する第2位相比較器10Bから出力される位相差信号を選択してチャージポンプへ出力する。チャージポンプ20は、選択部100により選択されて出力された位相差信号を入力する。
【0101】
このCDR装置2Bは、送信器3から送られて来た一定周期の繰り返しパターンのデータに基づいて、基準クロックを用いた第1のPLL回路の動作を短時間で安定化することができて、入力されるデジタル信号に基づくデータおよびクロックの復元を早期に開始することができる。
【符号の説明】
【0102】
1A~1C…PLL回路、2A,2B…CDR装置、3…送信器、4…受信器、10…位相比較器、10A…第1位相比較器、10B…第2位相比較器、20…チャージポンプ、30…ループフィルタ、31…抵抗器、32…第1容量素子、33…第2容量素子、40…電圧制御発振器、50,51…分周器、60…アンプ、70,70A~70D…位相補償部、71,71~71…バッファ、72,72~72…第3容量素子、73~73,74~74…スイッチ、80…サンプラ、90…周波数同期検出部、100…選択部。
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