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特許7037209回復遺伝子連鎖マーカーによりトウガラシ雄性不稔系統及びホモ接合型回復遺伝子系統を同時に育成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】回復遺伝子連鎖マーカーによりトウガラシ雄性不稔系統及びホモ接合型回復遺伝子系統を同時に育成する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20220309BHJP
   A01H 1/02 20060101ALI20220309BHJP
   A01H 6/82 20180101ALI20220309BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20220309BHJP
【FI】
C12N15/09 Z ZNA
A01H1/02 Z
A01H6/82
C12Q1/6844 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020101297
(22)【出願日】2020-06-11
(65)【公開番号】P2021000081
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】201910529565.1
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518193700
【氏名又は名称】青▲島▼▲農▼▲業▼大学
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(74)【代理人】
【識別番号】100205936
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 海龍
(74)【代理人】
【識別番号】100132805
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 貴之
(72)【発明者】
【氏名】林 多
(72)【発明者】
【氏名】付 翔
(72)【発明者】
【氏名】楊 延杰
(72)【発明者】
【氏名】馬 静
(72)【発明者】
【氏名】王 輝
(72)【発明者】
【氏名】朱 文瑩
【審査官】原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-084965(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108330208(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108411027(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
A01H
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
F:5’-TTCTCATCATAG CATTGCTGTGCAAACT-3’からなるプライマー及びR: 5’-CCATCAGGCTTCGGTTAGTCA-3’からなるプライマーで構成されるプライマーセットを用いた、回復遺伝子連鎖マーカーCapsicum-R-82CAPSによりトウガラシ雄性不稔系統及びホモ接合型回復遺伝子系統を同時に育成する方法であって、
トウガラシ雄性不稔三系雑種を出発材料とし、トウガラシF2世代集団を構築するステップ(1)と、
トウガラシF2世代個体に対して圃場稔性同定を行うステップ(2)と、
前記連鎖マーカーによりトウガラシF2集団中のホモ接合型回復遺伝子を有する個体の同定を行うステップ(3)と、
ホモ接合型回復遺伝子を有する系統を育成すると同時に、新しいトウガラシ不稔系統を創造するステップ(4)と、
を含み、
前記ステップ(3)は、
F2世代集団の開花期に、圃場稔性同定の結果に基づいて、10個の可稔個体のDNAをランダムに選択して可稔プールを構築し、10個の不稔個体のDNAをランダムに選択して不稔プールを構築し、F2世代個体、可稔プール、不稔プールに対してCTAB法によりDNAを抽出するステップ(3-1)と、
前記連鎖マーカーにより可稔プール及び不稔プールにおいて多型性スクリーニングを行い、分子量が82bpのバンドが1本しかない個体はホモ接合型回復遺伝子を有する個体であり選択され、他のバンド型の個体を淘汰するステップ(3-2)と、
前記連鎖マーカーによる同定結果に基づいて花期に回復遺伝子座ヘテロ接合型個体を取り除き、咲いている花に対して除去、自殖を行い、ホモ接合型回復遺伝子を有する株を構築するステップ(3-3)と、
を含み、
前記ステップ(4)は、
F2世代個体のうち、花期調査の結果が雄性不稔でありかつ前記連鎖マーカー同定の結果が分子量が108bpである1本のバンドのみを有する個体は、細胞質雄性不稔個体であり、札を掛けて番号を付け、花期に育種者が所有する同じ種類のトウガラシの維持系統と検定交雑を行うステップ(4-1)と、
検定交雑後の種子を育苗、定植し、盛花期に稔性同定を行うステップ(4-2)と、
交雑後世が花期に100%雄性不稔である場合、新たに創造された不稔系統であり、不稔率が51%-99%である場合、後世の不稔率100%に達するまで繰り返して戻し交雑を行うことにより、新たに創造された不稔系統が得られ、不稔率が50%未満である場合、対応する株を淘汰するステップ(4-3)と、
を含み、
F2世代個体の数は100-150株の範囲にある
ことを特徴とする、育成方法。
【請求項2】
前記ステップ(1)は、
育種者の育成目標を満たすトウガラシ細胞質雄性不稔三系雑種を選択するステップと、
雑種F1を育苗し、隔離網室内で雑種F1を定植するステップと、
隔離した状態で花期に自殖させ、果実が成熟した後に種子をF2世代種子として収穫するステップと、
F2世代種子を育苗し、隔離した状態で個体定植を行い、個体に番号を付けるステップと、
トウガラシF2世代集団を構築するステップと、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の育成方法。
【請求項3】
前記ステップ(2)は、
F2世代個体を日光温室内で基質ウェルプレートを用いて育苗し、6葉期に隔離室内で個体定植を行うF2世代個体植栽ステップ(2-1)と、
開花期にF2世代集団に対して稔性を調査し、各株の稔性を記録し、圃場における個体に札を掛けて標識し、花期の花粉量に基づいて稔性、即ち、可稔又は不稔を同定するF2集団稔性圃場調査ステップ(2-2)と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の育成方法。
【請求項4】
前記稔性の同定では、葯表面の花粉粒子が濃密である場合、稔性は可稔であり、葯に花粉粒子がない場合、不稔であることを特徴とする、請求項3に記載の育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育種の技術分野に属し、具体的には、回復遺伝子連鎖マーカーによりトウガラシ雄性不稔系統及びホモ接合型回復遺伝子系統を同時に育成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トウガラシはナス科のトウガラシ属の植物で、カプサンチンとカプサイシンが豊富なため、人気がある。現在、カプサンチンの需要は増加しており、飼料添加物、化粧品、製薬業界で広く使用されている。色素トウガラシはカプサンチンを抽出するための主な原料であり、新疆、甘粛省、内モンゴルおよび他の地域で広く普及されている。しかし、生産においては特殊用途の色素トウガラシの品種が少なく、品質にばらつきがあるため、カプサンチンの含有量が高い優良品種の雑種の育成が、トウガラシ産業の発展に欠かせない。
【0003】
トウガラシは、明らかな雑種強勢を伴う一般的な他家受粉作物であり、雄性不稔三系育種技術により種子生産プロセスを簡単化し、育種コストを削減し、雑種の純度を向上させることができる。雄性不稔三系育種系において、不稔系統及び回復系統の育成は非常に重要である。トウガラシの母本不稔系統の選択に関しては、100%の雄性不稔性を確保することに加えて、良好な結実性、高い果実数、高いカプサイシン含有量、及び強い耐性を持つ材料を選択することも必要である。色素トウガラシの回復系統には良質の材料はほとんどなく、ホモ接合型回復遺伝子を有する回復性が強い材料の育成は、最初世代雑種のリスクを減らすことができる。したがって、トウガラシ育種資源の豊富化、様々な優れた特性を備えた不稔系統及びホモ接合型回復遺伝子を備えた高品質の回復系統の育成は、トウガラシ雄性不稔三系育種作業において最優先事項となっている。
【0004】
現在、トウガラシ育種に関する3系交雑育種における不稔系統的育成は、主に、多世代の戻し交雑、自殖又は特殊なマーカー性状による材料のスクリーニングによって行われている。育成プログラムの1つは、雄性不稔源と複数のトウガラシ材料との検定交雑、戻し交雑法により雄性不稔系統を育種することである。しかしながら、この方法は、育成周期が長く、一般的に6世代以上を必要とし、遺伝資源の劣化を引き起こしやすい。別の育成プログラムは、マーカー性状として葉黄と緑変を使用し、維持系統と戻し交雑することで不稔系統を育成する。しかし、この方法は特別な材料を必要とし、育種のほとんどの材料には適していない。
【0005】
トウガラシ回復系統の育成方法には、主に通常の育種法及び分子マーカー補助スクリーニングが含まれる。1つの方法は、複数世代の戻し交雑又は複数世代の自殖を通じて優れた特性を達成することである。しかし、この方法は多くの人的資源と材料リソースを必要とするだけでなく、植物の劣化と商品価値の損失を引き起こす。別の方法は、緑変トウガラシ細胞質雄性不稔系統と自殖系トウガラシ父本とを交雑し、葉色マーカーに従って回復系統をスクリーニングすることである。しかし、この方法は、緑変を必要とするので、すべての育種に適しているわけではない。また、トウガラシ葯の栽培により倍加後に回復系統を栽培する方法がある。しかし、この方法は操作が難しく、厳密な技術システムと実験条件を必要とする。分子生物学の発展に伴い、分子マーカー支援育種はイネ、キャベツ、コショウで広く使用されている。トウガラシでは、回復遺伝子連鎖マーカーを使用して、トウガラシ回復系統のスクリーニングを補助することができる。この方法はスクリーニング効率が高いが、これらの研究では、回復系統補助スクリーニングに使用できる分子マーカーのみが選択されており、ホモ接合型回復遺伝子を有する個体を同定できるか否かが分かっていない。本発明は、育種目標を満たす雑種第一代を基本材料として使用することにより、ホモ接合型回復遺伝子を有する系統を育種するだけでなく、同時に雄性不稔系統を選択し、育種者の材料貯蔵量を拡大することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、回復遺伝子連鎖マーカーによりトウガラシ雄性不稔系統及びホモ接合型回復遺伝子系統を同時に育成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るトウガラシ雄性不稔系統及びホモ接合型回復遺伝子系統を同時に育成する回復遺伝子連鎖マーカーCapsicum-R-82CAPSであって、
前記回復遺伝子連鎖マーカーCapsicum-R-82CAPSの配列が、
F:5’-TTCTCATCATAGCATTGCTGTGCAAACT-3’、
R:5’-CCATCAGGCTTCGGTTAGTCA-3’、
である。
【0008】
また、上記目的を達成するための本発明に係る上述の回復遺伝子連鎖マーカーCapsicum-R-82CAPSによりトウガラシ雄性不稔系統及びホモ接合型回復遺伝子系統を同時に育成する方法であって、
トウガラシF2世代集団を構築するステップ(1)と、
トウガラシF2世代個体に対して圃場稔性同定を行うステップ(2)と、
上記連鎖マーカーによりトウガラシF2集団中のホモ接合型回復遺伝子を有する個体の同定を行うステップ(3)と、
ホモ接合型回復遺伝子を有する系統を育成すると同時に、新しいトウガラシ不稔系統を創造するステップ(4)と、
を含む。
【0009】
さらに、前記ステップ(1)は、
育種者の育成目標を満たすトウガラシ細胞質雄性不稔三系雑種を選択するステップと、
雑種F1を育苗し、隔離網室内で雑種F1を定植するステップと、
隔離した状態で花期に自殖させ、果実が成熟した後に種子をF2世代種子として収穫するステップと、
F2世代種子を育苗し、隔離した状態で個体定植を行い、個体に番号を付けるステップと、
トウガラシF2世代集団を構築するステップと、
を含む。
【0010】
さらに、前記ステップ(2)は、
F2個体を日光温室内で基質ウェルプレートを用いて育苗し、6葉期に隔離室内で個体定植を行うF2個体植栽ステップ(2-1)と、
開花期にF2集団に対して稔性を調査し、各株の稔性を記録し、圃場における個体に札を掛けて標識し、花期の花粉量に基づいて稔性、即ち、可稔又は不稔を同定するF2集団稔性圃場調査ステップ(2-2)と、
を含む。
【0011】
さらに、前記稔性の同定では、葯表面の花粉粒子が濃密である場合、稔性は可稔であり、葯に花粉粒子がない場合、不稔である。
【0012】
さらに、前記ステップ(3)は、
F2集団の開花期に、圃場稔性同定の結果に基づいて、10個の可稔個体のDNAをランダムに選択して可稔プールを構築し、10個の不稔個体のDNAをランダムに選択して不稔プールを構築し、F2個体、可稔プール、不稔プールに対してCTAB法によりDNAを抽出するステップ(3-1)と、
上記連鎖マーカーにより可稔プール及び不稔プールにおいて多型性スクリーニングを行い、分子量が82bpのバンドが1本しかない個体はホモ接合型回復遺伝子を有する個体であり選択され、他のバンド型の個体を淘汰するステップ(3-2)と、
上記連鎖マーカーによる同定結果に基づいて花期に回復遺伝子座ヘテロ接合型個体を取り除き、咲いている花に対して除去、自殖を行い、ホモ接合型回復遺伝子を有する株を構築するステップ(3-3)と、
を含む。
【0013】
さらに、F2集団個体の数は100-150株の範囲にある。
【0014】
さらに、前記ステップ(4)は、
F2集団個体のうち、花期調査の結果が雄性不稔でありかつ上記連鎖マーカー同定の結果が分子量が108bpである1本のバンドのみを有する個体は、細胞質雄性不稔個体であり、札を掛けて番号を付け、花期に育種者が所有する同じ種類のトウガラシの維持系統と検定交雑を行うステップ(4-1)と、
検定交雑後の種子を育苗、定植し、盛花期に稔性同定を行うステップ(4-2)と、
交雑後世が花期に100%雄性不稔である場合、新たに創造された不稔系統であり、不稔率が51%-99%である場合、後世の不稔率100%に達するまで繰り返して戻し交雑を行うことにより、新たに創造された不稔系統が得られ、不稔率が50%未満である場合、対応する株を淘汰するステップ(4-3)と、
を含む。
【発明の効果】
【0015】
従来技術と比べて、本発明は以下の利点及び技術的効果を有する。
1、本発明は、迅速で色素種類トウガラシ回復遺伝子座がホモ接合型である回復系統を育成し、雄性不稔系統を創造できる方法を提供することにより、多世代の戻し交雑及び多世代の自殖による退化及び育成のための交雑作業量が多い問題を解決することができる。
【0016】
2、本発明は、色素トウガラシがホモ接合型回復遺伝子系統を有するか否かを快速に同定できる連鎖マーカー:(1)Capsicum-R-82CAPS(5‘-3’,F:TTCTCATCATAGCATTGCTGTGCAAACT,R:CATCAGGCTTCGGTTAGTCA)を提供する。
【0017】
3、本発明は、F2世代集団において不稔プール及び可稔プールを構築し、ホモ接合型回復遺伝子を有する個体を同定する方法を提供する。不稔プール及び可稔プールにおける連鎖分子マーカーの電気泳動のバンド型が可稔プールにおいて2本のバンドがあり、そのうちの1本の分子量が不稔プールのバンドと異なり、もう1本が不稔プールのバンドの分子量と同じである場合、ホモ接合型回復遺伝子を有するか否かを同定できるマーカーである。次いで可稔プールにおいて個体を同定した結果、分子量が82bpのバンドが1本しかなく、ホモ接合型回復遺伝子を有する個体である。
【0018】
4、本発明の方法によりスクリーニングされたマーカーは、トウガラシがホモ接合型回復遺伝子系統を有するか否かを区別できるとともに、DNAレベルで雄性不稔系統個体を同定でき、環境要因の影響を低減できる。
【0019】
5、本発明が必要とするトウガラシ育種の出発材料は入手が容易であり、自殖世代数が減少され、育種時間が短縮され、育種者のトウガラシ三系育種材料の貯蔵が迅速に充実される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】回復遺伝子連鎖マーカー多型性のスクリーニング結果を示す図であり、Fは、可稔プール、Sは、不稔プールを示す。
図2】連鎖分子マーカーCapsicum-R-82CAPSを用いるF2集団における電気泳動の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面及び具体的な実施例により本発明の技術手段をさらに詳しく説明する。
〈実施例1〉
本発明は、トウガラシ雄性不稔三系雑種を出発材料とし、40メッシュの隔離網室内でF2世代分離集団を構築する。開花期稔性の調査結果に基づいて、不稔プール及び可稔プールを構築し、トウガラシ回復遺伝子連鎖マーカーにより多型性スクリーニングを行う。可稔プールに対して電気泳動を行い、分子量82bpに2本のバンドがあり、そのうちの1本の分子量が不稔プールの分子量と異なり、もう1本の分子量が不稔プールの分子量と同じである場合、この回復遺伝子連鎖マーカーによりF2集団において回復遺伝子座がホモ接合型個体の同定を行うことができる。次いで、F2集団において、全ての可稔個体に対して分子マーカーによりスクリーニングを行い、1本のバンドのみを有しかつ分子量が不稔プールと異なる個体をトウガラシ回復遺伝子座ホモ接合型個体としてスクリーニングする。スクリーニングされた個体を自殖させた後世は、ホモ接合型回復遺伝子を有するトウガラシ回復系統である。また、分子マーカー及び開花期の表現型により不稔個体を二重同定スクリーニングし、育種者が所有する同じ種類のトウガラシ性状が良好な維持系統を父本とし、検定交雑及び戻し交雑により、新しいトウガラシ不稔系統を育成。これによって、トウガラシ雄性不稔三系法による交雑育種のために、ホモ接合型回復遺伝子を有する系統及び新しいトウガラシ不稔系統が備蓄される。
【0022】
本実施例は、以下のステップを含む。
<1 トウガラシ不稔系統及びホモ接合型回復遺伝子を有する系統を育成するために必要なトウガラシF2世代集団の構築>
(1)収量、果形、カプサンチン含有量などの育種目標を満たすトウガラシ雄性不稔三系雑種を選択する。
(2)雑種を育苗棚内で育苗し、40メッシュの隔離網室内で雑種F1を定植する。隔離したままで花期に自殖させ、果実が成熟した後、種子をF2世代種子として収穫する。
(3)F2世代種子を育苗棚内で育苗し、40メッシュの隔離網室内で個体定植を行い、札を掛けて個体に番号を付ける。
(4)開花期での稔性同定のために記録する。
【0023】
<2 トウガラシF2世代個体の圃場稔性同定>
(2.1 F2個体植栽)
育苗棚内で基質ウェルプレートを用いて育苗し、6葉期に40メッシュの隔離網室内で個体定植を行う。F2集団個体の数は100-150の範囲内であればよい。以下の実施例では、F2世代個体の数は123である。
【0024】
(2.2 F2集団稔性の圃場調査)
開花期にF2集団に対して稔性を調査し、各株の稔性を記録し、圃場における個体に札を掛けて標識する。花期の花粉量に基づいて稔性を同定する。葯表面の花粉粒子が濃密である場合、稔性は可稔であり、葯に花粉粒子がない場合、不稔である。
【表1】
【0025】
<3 分子マーカーによるトウガラシF2集団におけるホモ接合型回復遺伝子を有する個体の同定>
(3.1 個体の圃場稔性の調査結果に基づいてF2集団の不稔プール及び可稔プールを構築し、DNAを抽出する)
F2集団の開花期に、圃場稔性の調査及び稔性同定の結果に基づいて、10個の可稔個体のDNAをランダムに選択して可稔プールを構築し、10個の不稔個体のDNAをランダムに選択して不稔プールを構築する。F2個体、可稔プール、不稔プールに対してCTAB法によりDNAを抽出する。
【0026】
(3.2 回復遺伝子連鎖マーカーを用いて可稔プール及び不稔プールにおいて適応性テストを行う)
回復遺伝子連鎖マーカーにより可稔プール及び不稔プールにおいて多型性スクリーニングを行った結果、Capsicum-R-82CAPSマーカーは多型性を有するので(図1)、回復系統の補助スクリーニングに適用できるとともに、この2つのマーカーは、いずれも共顕性マーカーに属するので、回復遺伝子座がホモ接合型であるか否かの判断に適用できる。これによって、回復遺伝子座ホモ接合型回復系統のスクリーニングを補助することができ、回復遺伝子座がホモ接合型であるか否かの判断にかかる作業量を減少させることができる。
【表2】
【0027】
マーカーはトウガラシF2集団で構築した可稔プール及び不稔プールが共顕性及び多型性を有して初めて、次の個体ホモ接合型回復遺伝子の同定及びスクリーニングに使用できる。つまり、マーカースクリーニングにおいて、マーカーAFRF3CAPS(図1-1)のようなマーカーは、不稔プール及び可稔プールのいずれにも分子量が同じなバンドを有するので、バンド型が材料間に多型性を有さず、同定すべきトウガラシ材料集団に適用されない。マーカーAFRF1CAPS(図1-2)のようなバンドを形成できないマーカーも適用できない。マーカー3336-last2-SCAR(図1-3)は、可稔プールにのみ1本のバンドがあり、不稔プールには目的バンドが現れないので、2つのプールに多型性を有するが、ホモ接合型回復遺伝子を有するか否かを判断できないため、このようなマーカーも使用できない。一方、マーカーCapsicum-R-82CAPS(図1-4)は、F2集団の可稔プールに2本のバンドがあり、その内の1本の分子量が不稔プールにおけるバンドと異なり、もう1本が不稔プールにおけるバンドの分子量と同じであるため、可稔プールを構築する個体からホモ接合型回復遺伝子を有する個体であるか否かを選別できるので、このようなバンド型のマーカーはホモ接合型回復遺伝子を同定するためのマーカーとして適用できる。
【0028】
(3.3 マーカーによりトウガラシF2世代個体においてホモ接合型回復遺伝子を有する個体をスクリーニング、同定する)
前記マーカーCapsicum-R-82CAPSによりF2世代集団において検出した結果を図2及び表3に示す。稔性同定結果と組み合わせて総合的に分析したところ、このマーカーは、回復系統のスクリーニングを補助することができる。このように、82bpバンドを有する個体のみはホモ接合型回復遺伝子を有する個体であり選択される。F2世代集団のうち、番号が3、16、27、30、31、32、36、37、39、49、60、64、67、70、72、81、88、97、105、110、112、113、116、119、120、123である合計26個の個体は回復遺伝子座ホモ接合型を有し、他のバンド型の個体を淘汰する。
他のトウガラシ材料で構築された集団では、同定作業量を減少させるために、このマーカーの適用性を改めてテストし、つまり、図1-4のバンド型を有することを確定した後、回復遺伝子座ホモ接合型個体の同定を行う必要がある。
【表3】
上表中、RRは、ホモ接合型回復遺伝子を有する材料を示し、rrは、細胞質雄性不稔材料を示し、Rrは、ヘテロ接合型回復遺伝子を有する材料を示し、-は、バンドが形成されていない材料を示す。
【0029】
(3.4 自殖によるホモ接合型回復遺伝子を有する株の構築)
隔離網室内で、分子マーカーによる同定結果に基づいて花期に回復遺伝子座ヘテロ接合型個体を取り除き、咲いている花に対して除去、自殖を行い、ホモ接合型回復遺伝子を有する株を構築する。次いで、育種目標及び経済性に応じて、ホモ接合型回復遺伝子を有する優れた回復系統を育成する。
【0030】
<4 ホモ接合型回復遺伝子を有する系統を育成すると同時に新しいトウガラシ雄性不稔系統を製造する>
(4.1)
F2集団個体のうち、花期の表現型が無花粉であり、かつ分子マーカー同定により分子量が108bpである1本のバンドのみを有する個体は細胞質雄性不稔個体である。分子マーカー同定結果と圃場同定結果の組み合わせにより、F2集団中の不稔株をより正確に同定でき、環境の変化により植株が不稔になることにより圃場稔性同定が正確ではないことを防止できる。F2集団における番号が8、9、14、17、20、23、24、33、44、48、52、61、62、68、69、76、82、83、86、89、92、98、99、102、103、104、108、111、121である個体は雄性不稔個体である。札を掛けて番号を付け、花期に育種者が所有する同じ種類のトウガラシの維持系統と検定交雑を行い、記録する。
【0031】
(4.2)
交雑した後の種子を育苗、定植し、盛花期に稔性同定を行う。
(4.2.1)
交雑後世が花期に100%雄性不稔である場合、新たに創造された不稔系統である。
(4.2.2)
雄性不稔率が51%-99%である場合、後世の不稔率100%に達するまで繰り返して戻し交雑を行うことにより、新たに創造された不稔系統を得る。
(4.2.3)
雄性不稔率が50%未満である場合、対応する株を淘汰する。
【0032】
(4.3)
新たに創造されたトウガラシ雄性不稔系統を母本とし、既存の同じ種類のトウガラシの回復系統を父本として交雑の組み合わせを作り、母本不稔系統の組合わせ能力を評価する。
【0033】
以上の実施例は、本発明の技術内容を説明するためのものに過ぎず、本発明の保護範囲を制限するものではない。上記の各実施例を参照しながら本発明を詳しく説明したが、当業者であれば、本発明の技術内容の趣旨及び範囲から逸脱しない限り、上記各実施例に記載の技術内容を修正し、又は一部若しくは全部の技術内容に同等の変更を行うことができる。
図1
図2