IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニチカ株式会社の特許一覧

特許7037215脱臭材、その製造方法、脱臭方法、及び脱臭シート
<>
  • 特許-脱臭材、その製造方法、脱臭方法、及び脱臭シート 図1
  • 特許-脱臭材、その製造方法、脱臭方法、及び脱臭シート 図2
  • 特許-脱臭材、その製造方法、脱臭方法、及び脱臭シート 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】脱臭材、その製造方法、脱臭方法、及び脱臭シート
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20220309BHJP
   A61L 9/014 20060101ALI20220309BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20220309BHJP
   B01J 20/32 20060101ALI20220309BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20220309BHJP
   D01F 9/12 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
A61L9/01 B
A61L9/01 K
A61L9/014
B01J20/22 A
B01J20/32
B01J20/28 Z
D01F9/12 501
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020508782
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013519
(87)【国際公開番号】W WO2019186986
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】砂原 昌夫
(72)【発明者】
【氏名】藤木 博規
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/040577(WO,A1)
【文献】特開2011-072603(JP,A)
【文献】特開2005-152033(JP,A)
【文献】特開平5-023588(JP,A)
【文献】特開昭52-063882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00- 9/22
B01J 20/00- 20/28
B01J 20/30- 20/34
B01D 53/34- 53/73
B01D 53/74- 53/85
B01D 53/92
B01D 53/96
B01D 53/02- 53/12
D01F 9/08- 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状活性炭と、前記繊維状活性炭に担持された、(A)芳香族アミン及び該芳香族アミンの硫酸塩、又は、(B)芳香族アミン、該芳香族アミンの硫酸塩、及び硫酸とを含む、脱臭材であって、
前記繊維状活性炭1gに担持された、前記芳香族アミン及び前記芳香族アミンの硫酸塩の合計物質量が、0.85~1.35mmolであり、
前記繊維状活性炭1gに担持された、前記芳香族アミンの硫酸塩と前記硫酸との合計物質量(mmol)に対する、前記芳香族アミンと前記芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合([前記芳香族アミンと前記芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量]÷[前記芳香族アミンの硫酸塩と前記硫酸との合計物質量])が、5.0~7.5である、脱臭材。
【請求項2】
前記繊維状活性炭にp-アミノ安息香酸とp-アミノ安息香酸の硫酸塩が担持されている、請求項1に記載の脱臭材。
【請求項3】
芳香族アミンおよび/またはその塩と、硫酸および/またはその塩と、水とを含む処理液に対して繊維状活性炭を浸漬する工程を備える、請求項1または2に記載の脱臭材の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の脱臭材を用いる、アセトアルデヒド、アンモニア、及びトルエンからなる群から選択された少なくとも1種の臭いの脱臭方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の脱臭材を含む、脱臭シート。
【請求項6】
バインダーをさらに含む、請求項5に記載の脱臭シート。
【請求項7】
密度が0.05~0.20g/cm3、厚さが0.15~0.80mmである、請求項5または6に記載の脱臭シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱臭材、その製造方法、脱臭方法、及び脱臭シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気浄化に関する関心が高まっており、室内等において、より悪臭の少ない環境が求められている。また、シックハウス症候群の問題を発端として、住環境における揮発性有機化合物(VOC)への対策も求められている。
【0003】
例えば、自動車などの車室内においては、シートパッド、インストルメント・パネル、ドアトリムなどの内装樹脂部品、塗料、接着剤などからの揮発性有機化合物の悪臭、さらに、排気ガス、燃料臭、タバコ、人体、食品の腐敗物などの多くの悪臭が発生し得る。また、車室内は、住宅に比して空間が狭いため、密閉すると特に悪臭が充満しやすいという問題を有する。
【0004】
このような住環境における悪臭を除去する脱臭シートが知られている。例えば、特許文献1には、酸性ガス除去用繊維状活性炭、アルカリガス除去用繊維状活性炭、低級アルデヒド類除去用繊維状活性炭、及び炭化水素ガス吸着用繊維状活性炭のうち、少なくとも二種の繊維状活性炭を含有することを特徴とする、主として繊維状活性炭からなる脱臭用シートが開示されている。特許文献1に記載の脱臭用シートにおいては、脱臭用シートを構成する繊維状活性炭として、酸性ガス除去用、アルカリガス除去用、低級アルデヒド類除去用等に特殊加工した複数種類のものを用いることにより、多種類の臭気に対して効果的な除去効果が奏されるとされている。
【0005】
また、特許文献2は、特許文献1の脱臭シートが低級アルデヒド除去用繊維状活性炭を含む場合において、悪臭成分を高い効率で除去可能とし且つ貯蔵安定性をさらに高めるために、繊維状活性炭と芳香族アミノ酸と硫酸とを含んだ繊維状脱臭材であって、以下の工程を含む方法によって製造された繊維状脱臭材を開示している。
芳香族アミノ酸と硫酸とを含有した水溶液中に繊維状活性炭を浸漬させて繊維状活性炭に芳香族アミノ酸と硫酸とを担持させる工程であって、繊維状活性炭に対する芳香族アミノ酸の質量比を10質量%乃至20質量%の範囲内とし、繊維状活性炭に対する硫酸の質量比を5質量%乃至25質量%の範囲内とする工程と、
芳香族アミノ酸及び硫酸を担持させた繊維状活性炭から水溶液を除去する工程と、
水溶液を除去した繊維状活性炭を乾燥させる工程。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-126511号公報
【文献】特開2011-72603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば特許文献1に開示された脱臭シートにおいては、上記のような4種類の繊維状活性炭のうち少なくとも2種類を用いているため、多種類の臭気に対して効果的な除去効果が期待できる。しかしながら、本発明者が検討した結果、特許文献1に開示された脱臭シートでは、ある特定の臭気に対する脱臭効果が十分に発揮できない場合があることが明らかとなった。具体的には、特許文献1に開示された脱臭シートにおいて、アンモニア等のアルカリ系悪臭成分を除去する用途に使用するアルカリガス除去用繊維状活性炭を用いる場合、及び、特にたばこ臭を除去する場合に使用する低級アルデヒド類除去用繊維状活性炭を用いる場合において、アンモニア及びアルデヒドの脱臭効果が十分に発揮できない場合があることが明らかとなった。
【0008】
また、特許文献2に開示された繊維状脱臭材においては、繊維状活性炭に対する配合量が上記特定の範囲に設定された芳香族アミノ酸と硫酸とを含有した水溶液中に、繊維状活性炭を浸漬することによって、悪臭成分を高い効率で除去可能とし且つ貯蔵安定性をさらに高められた繊維状脱臭材が得られる。しかしながら、本発明者が検討した結果、特許文献2に開示された繊維状脱臭材では、特許文献1と同様、アンモニア及びアルデヒドの脱臭効果が十分に発揮できない場合があることが明らかとなった。
【0009】
さらに、近年、住環境における揮発性有機化合物(VOC)への対策が進められている観点から、脱臭材には、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのアルデヒド化合物などだけでなく、芳香族アミノ酸や硫酸によって除去できないトルエンなどの芳香族有機物に対する優れた脱臭能も求められている。また、特に、車室内環境においては、アルデヒド、芳香族有機物に加え、アンモニアが排気ガス中の窒素酸化物が排気ガス処理装置内で触媒による還元処理を受けて生成される。従って、住環境や車室内環境で使用される脱臭材は、アルデヒド、芳香族有機物及びアンモニアをバランス良く除去することが求められている。このような状況下、本発明は、アセトアルデヒド、トルエン及びアンモニアに対して特に優れた脱臭能を有する脱臭材を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、このような課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、繊維状活性炭と、当該繊維状活性炭に担持された、(A)芳香族アミン及び該芳香族アミンの硫酸塩、又は、(B)芳香族アミン、該芳香族アミンの硫酸塩、及び硫酸とを含む、脱臭材であって、繊維状活性炭1gに担持された、芳香族アミン及び芳香族アミンの硫酸塩の合計物質量が、0.85~1.35mmolであり、繊維状活性炭1gに担持された、芳香族アミンの硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、芳香族アミンと芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合([芳香族アミンと芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量]÷[芳香族アミンの硫酸塩と硫酸との合計物質量])が、5.0~7.5である脱臭材は、アセトアルデヒド、トルエン及びアンモニアに対して特に優れた脱臭能を有することを見出した。すなわち、本発明者は、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩とが担持された繊維状活性炭を備える脱臭材、又は、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と硫酸とが担持された繊維状活性炭を備える脱臭材とした上で、さらに、特許文献1または特許文献2では検討されていなかった繊維状活性炭に担持された芳香族アミン及び芳香族アミンの硫酸塩の合計物質量(mmol)、並びに、繊維状活性炭に担持された、芳香族アミンの硫酸塩と前記硫酸との合計物質量(mmol)に対する、前記芳香族アミンと前記芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合([芳香族アミンと芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量]÷[芳香族アミンの硫酸塩と硫酸との合計物質量])に着目して、これらを上記特定の範囲に設定することによって、アセトアルデヒド、トルエン及びアンモニアという3つの悪臭成分の全てに対して優れた脱臭能を有する脱臭材が得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0011】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 繊維状活性炭と、前記繊維状活性炭に担持された、(A)芳香族アミン及び該芳香族アミンの硫酸塩、又は、(B)芳香族アミン、該芳香族アミンの硫酸塩、及び硫酸とを含む、脱臭材であって、
前記繊維状活性炭1gに担持された、前記芳香族アミン及び前記芳香族アミンの硫酸塩の合計物質量が、0.85~1.35mmolであり、
前記繊維状活性炭1gに担持された、前記芳香族アミンの硫酸塩と前記硫酸との合計物質量(mmol)に対する、前記芳香族アミンと前記芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合([前記芳香族アミンと前記芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量]÷[前記芳香族アミンの硫酸塩と前記硫酸との合計物質量])が、5.0~7.5である、脱臭材。
項2. 前記繊維状活性炭にp-アミノ安息香酸とp-アミノ安息香酸の硫酸塩が担持されている、項1に記載の脱臭材。
項3. 芳香族アミンおよび/またはその塩と、硫酸および/またはその塩と、水とを含む処理液に対して繊維状活性炭を浸漬する工程を備える、項1または2に記載の脱臭材の製造方法。
項4. 項1または2に記載の脱臭材を用いる、アセトアルデヒド、アンモニア、及びトルエンからなる群から選択された少なくとも1種の臭いの脱臭方法。
項5. 項1または2に記載の脱臭材を含む、脱臭シート。
項6. バインダーをさらに含む、項5に記載の脱臭シート。
項7. 密度が0.05~0.20g/cm3、厚さが0.15~0.80mmである、項5または6に記載の脱臭シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アセトアルデヒド、トルエン及びアンモニアに対して特に優れた脱臭能を有する脱臭材、及びこれを用いた脱臭シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例におけるアセトアルデヒド濃度と時間との関係を示すグラフである。
図2】実施例におけるアンモニア濃度と時間との関係を示すグラフである。
図3】実施例におけるトルエン濃度と時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の脱臭材は、繊維状活性炭と、当該繊維状活性炭に担持された、(A)芳香族アミン及び該芳香族アミンの硫酸塩、又は、(B)芳香族アミン、該芳香族アミンの硫酸塩、及び硫酸とを含む脱臭材であって、本発明の脱臭材は、繊維状活性炭1gに担持された、芳香族アミン及び芳香族アミンの硫酸塩の合計物質量が、0.85~1.35mmolであり、繊維状活性炭1gに担持された、芳香族アミンの硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、芳香族アミンと芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合([芳香族アミンと芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量]÷[芳香族アミンの硫酸塩と硫酸との合計物質量])が、5.0~7.5であることを特徴とする。以下、本発明の脱臭材及びこれを用いた脱臭シートについて詳述する。
【0015】
本発明の脱臭材は、繊維状活性炭と、(A)芳香族アミン及び該芳香族アミンの硫酸塩、又は、(B)芳香族アミン、該芳香族アミンの硫酸塩、及び硫酸とを含む。本発明の脱臭材において、繊維状活性炭と、芳香族アミン及び該芳香族アミンの硫酸塩とが含まれる場合には、芳香族アミン及び該芳香族アミンの硫酸塩が、当該繊維状活性炭に担持されている。また、本発明の脱臭材において、繊維状活性炭と、芳香族アミン、該芳香族アミンの硫酸塩、及び硫酸とが含まれる場合には、芳香族アミン、該芳香族アミンの硫酸塩、及び硫酸が、当該繊維状活性炭に担持されている。
【0016】
本発明において、繊維状活性炭は、気体中または液体中において有機物などに対して高い吸着力を有する多孔質繊維状の活性炭をいい、例えばJIS K1477に記載されたような多孔質繊維状の活性炭をいう。繊維状活性炭は、例えば、レーヨン、アクリル繊維、フェノール樹脂、ピッチなどを原料とした繊維を炭化し、さらに高温で水蒸気、二酸化炭素などと反応(賦活)させることにより得られる。
【0017】
本発明において、繊維状活性炭の繊維径としては、特に制限されないが、好ましくは7~25μm程度、より好ましくは10~20μm程度が挙げられる。また、繊維状活性炭の平均繊維長さとしては、特に制限されないが、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは20~150mm程度が挙げられる。なお、繊維状活性炭の平均繊維長さは、JIS K1477に記載された方法により求めた値である。また、繊維状活性炭の比表面積は、特に制限されないが、好ましくは500~2000m2/g程度が挙げられる。繊維状活性炭の比表面積は、JIS K1477に記載されたBET法(1点法)により求めた値である。
【0018】
本発明において、芳香族アミンとしては特に制限されないがアセトアルデヒド、トルエン及びアンモニアに対する脱臭能をより効果的に高めるため、また製造上の取り扱い易さや安全上の観点から、ハロゲン、スルホ基、アセトアミド基、又はカルボニル基がベンゼン環に結合した芳香族アミンが好ましい。ハロゲン、スルホ基、アセトアミド基、又はカルボニル基がベンゼン環に結合した芳香族アミンとしては、アミノ安息香酸、アミノアセトアニリド、アミノサリチル酸、アミノスルファニル酸等が好ましく挙げられる。中でも、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩としてはアミノ安息香酸及びその硫酸塩が好ましい。すなわち、本発明の脱臭材においては、繊維状活性炭にアミノ安息香酸及びその硫酸塩が担持されていることが好ましい。本発明の脱臭材中において、芳香族アミンの少なくとも一部は、後述の硫酸と共に硫酸塩を形成する。芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
アミノ安息香酸としては、特に制限されず、p-アミノ安息香酸、m-アミノ安息香酸、及びo-アミノ安息香酸のうち少なくとも1種を用いることができる。アセトアルデヒド、トルエン及びアンモニアに対する脱臭能をより効果的に高める観点からは、本発明の脱臭材においては、繊維状活性炭にp-アミノ安息香酸が担持されていることが特に好ましい。
【0020】
本発明の脱臭材においては、上記の芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と共に、硫酸が担持されていてもよい。すなわち、本発明の脱臭材は、(A)芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩が担持された繊維状活性炭(硫酸が担持されていなくてもよい)、又は、(B)芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と硫酸とが担持された繊維状活性炭を備えている。
【0021】
硫酸は、沸点が比較的高く、揮発し難い。硫酸は、水へのアミノ安息香酸の溶解を促進するため、後述するような脱臭材の製造過程において、繊維状活性炭に芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩を均一に担持させることを可能とする。さらに、硫酸は、脱臭材において、芳香族アミン、芳香族アミンの硫酸塩同士が互いに重合することを抑制する効果を発揮する。
【0022】
上述の通り、例えば特許文献1に開示された脱臭シートにおいては、アンモニア等のアルカリ系悪臭成分を除去する用途に使用するアルカリガス除去用繊維状活性炭、特にたばこ臭を除去する場合に使用する低級アルデヒド類除去用繊維状活性炭、硫化水素等の酸系悪臭成分を除去する用途に使用する酸性ガス除去用繊維状活性炭、炭化水素ガス吸着用繊維状活性炭の4種類の繊維状活性炭を使い分けることによって、多種類の臭気に対して効果的な除去効果が期待できる。しかしながら、このような脱臭シートにおいて、例えば本発明が脱臭対象とするアンモニアを除去するアルカリガス除去用繊維状活性炭を用いる場合や、アルデヒドを除去する低級アルデヒド類除去用繊維状活性炭を用いる場合において、アンモニア及びアルデヒドの脱臭効果が十分に発揮できない場合がある。
【0023】
また、例えば特許文献2に開示された繊維状脱臭材においては、繊維状活性炭に対する配合量が特定の範囲に設定された芳香族アミノ酸と硫酸とを含有した水溶液を用い、この水溶液中に、繊維状活性炭を浸漬することによって繊維状脱臭材を得ているが、特許文献2の繊維状脱臭材についても、特許文献1と同様、アンモニア及びアルデヒドの脱臭効果が十分に発揮できない場合がある。
【0024】
これに対して、本発明の脱臭材においては、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩が担持された繊維状活性炭、又は、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と硫酸とが担持された繊維状活性炭を備える脱臭材とした上で、担持される芳香族アミン及び前記芳香族アミンの硫酸塩の合計物質量を、前記芳香族アミン、前記芳香族アミンの硫酸塩及び前記硫酸を除いた繊維状活性炭1gあたり、0.85~1.35mmol、好ましくは0.90~1.35mmolに設定しており、さらに、繊維状活性炭1gあたりに担持された芳香族アミンの硫酸塩と前記硫酸との合計物質量(mmol)に対する、繊維状活性炭1gあたりに担持された芳香族アミンと芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合([芳香族アミンと前記芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量]÷[芳香族アミンの硫酸塩と硫酸との合計物質量])を、5.0~7.5、好ましくは5.3~7.5の範囲に設定していることにより、アセトアルデヒド、トルエン及びアンモニアという3つの悪臭成分の全てに対して優れた脱臭能を奏する。
【0025】
本発明の脱臭材において、このような特定の構成を採用することによって上記の3つの悪臭成分の全てに対して優れた脱臭能が発揮される機構の詳細は明らかではないが、例えば、次のような要因が関連しているものと考えられる。芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩が担持された繊維状活性炭を備える脱臭材においては、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのアルデヒドは主に担持された芳香族アミンとのシッフ反応によって除去され、アンモニアは主に担持された芳香族アミンの硫酸塩又は硫酸との中和反応によって除去され、トルエンなどの芳香族有機物は主に繊維状活性炭の微細孔に物理的に吸着されて、それぞれが脱臭されていると考えられる。また、硫酸には芳香族アミンとアルデヒドの反応を促進する作用および、芳香族アミンの重合を抑制し、反応活性を保つ作用があると考えられる。一方で、芳香族アミンや硫酸といった薬剤の担持量が多くなると、活性炭の微細孔の閉塞が進み、芳香族有機物の脱臭効果に悪影響を及ぼす。これらのことを考慮すると、上記3種のガスに対してバランスの良い脱臭効果を実現するためには、担持量と混合割合の厳密なコントロールが必要であり、後述するような処理液における芳香族アミンや硫酸などの仕込み量ではなく、脱臭材に担持された芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩の合計物質量を特定の範囲に設定した上で、芳香族アミンの硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、芳香族アミンと芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合で規定することにより、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩の合計物質量に加えて、脱臭材における微細孔の閉塞、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩の重合などによる脱臭能の低下要因が制御され、結果として、本発明の脱臭材においては、上記の3つの悪臭成分に対して、優れた脱臭効果を発揮するものと考えられる。
【0026】
本発明の脱臭材において、硫酸(塩の形態も含む。ただし、芳香族アミンの硫酸塩は含まない)の合計物質量しては、芳香族アミンの硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、芳香族アミンと芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合が上記の範囲となれば、特に制限されず、繊維状活性炭1gあたり、0.10~0.50mmol程度、好ましくは0.10~0.20mmol程度が挙げられる。なお、本発明の脱臭材中における芳香族アミンと芳香族アミンの硫酸塩の合計物質量、芳香族アミンの硫酸塩と硫酸の合計物質量、及び芳香族アミンの硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、芳香族アミンと芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合は、例えば、以下のように測定することができる。
【0027】
(芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩の合計物質量、及び、芳香族アミンの硫酸塩と硫酸の合計物質量の測定)
繊維状活性炭に担持された芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩の合計物質量については、繊維状活性炭を浸漬する前の液(後述の処理液)と、繊維状活性炭を浸漬した後の液の有機物濃度を、それぞれ全有機物濃度(TOC)計を用い測定し、浸漬操作前後の有機物濃度の差から、これらの合計物質量を計算できる。具体的には、まず全有機物濃度(TOC)計(株式会社島津製作所製TOC-5000)を用いて、浸漬操作前後の処理液について、炭素(C)に換算された有機物濃度(mgC/L)を測定し、操作前後の濃度の差を求める。ここに処理液量(L)を乗じ、{芳香族アミン中の総炭素の合計原子量(g/mol)×1000(mg/g)}(例えば、p-アミノ安息香酸又はp-アミノ安息香酸の硫酸塩の場合は、炭素数が7個なので、総炭素の合計原子量は84077(mg/mol))で除することで得られる物質量の差(mol)が、繊維状活性炭に担持された芳香族アミンと、芳香族アミンの硫酸塩の合計物質量(mol)に相当する。なお、上記有機物濃度の測定について、全有機物濃度(TOC)計の検出限界の上限値を超える濃度の場合は適宜検出可能となるよう溶媒で希釈して測定することができる。また、上記有機物濃度(mgC/L)は、丸めの幅を0.1として、JIS Z 8401に準じて数値を丸める。そして、求めた芳香族アミンと、芳香族アミンの硫酸塩の合計担持量(mol)をmmolに換算し、これを処理液に浸漬する前の繊維状活性炭の質量(g)で除することにより、本発明で規定する、繊維状活性炭1gあたりの前記芳香族アミン及び前記芳香族アミンの硫酸塩の合計物質量(mmol)を求めることができる。なお、本発明において、物質量(mmol)は、丸めの幅が0.01となるように、JIS Z 8401に準じて数値を丸める。
【0028】
また、繊維状活性炭に担持された芳香族アミンの硫酸塩と硫酸の合計物質量についても同様に、繊維状活性炭を浸漬する前の液(後述の処理液)と、繊維状活性炭を浸漬した後の液について、JIS K 0101:1998 42.4に規定のイオンクロマトグラフ法に準じ硫酸イオンの濃度(mg/L)を測定することで、これらの合計物質量を計算することができる。具体的には浸漬操作前後の処理液の硫酸イオンの濃度(mg/L)を、検量線を用いてそれぞれ測定し、操作前後の濃度の差(mg/L)を求める。求めた操作前後の濃度の差(mg/L)に処理液量(L)を乗じ、{硫酸イオンの分子量96.06(g/mol)×1000(mg/g)}で除して得られる、浸漬操作前後の硫酸イオンの物質量の差(mol)が、繊維状活性炭に担持された芳香族アミンの硫酸塩と硫酸の合計物質量(mol)に相当する。なお、上記硫酸イオンの濃度(mg/L)は、丸めの幅を1として、JIS Z 8401に準じて数値を丸める。そして、求めた繊維状活性炭に担持された芳香族アミンの硫酸塩と硫酸の合計物質量(mol)をmmolに換算し、これを処理液に浸漬する前の繊維状活性炭の質量(g)で除することにより、繊維状活性炭1gあたりの芳香族アミンの硫酸塩と硫酸の合計物質量(mmol)を求めることができる。
【0029】
(芳香族アミンの硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、芳香族アミンと芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合)
上記測定、計算で得られた、繊維状活性炭1gあたりに担持された芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩の合計担持量(mmol)を、繊維状活性炭1gあたりに担持された芳香族アミンの硫酸塩と硫酸の合計担持量(mmol)で除して算出する。なお、上記割合は、丸めの幅を0.1として、JIS Z 8401に準じて数値を丸める。
【0030】
また、本発明の脱臭剤の比表面積((A)芳香族アミン及び該芳香族アミンの硫酸塩、又は、(B)芳香族アミン、該芳香族アミンの硫酸塩、及び硫酸の担持後)の比表面積としては、500~1000m2/g程度が挙げられ、600~850m2/g程度が好ましく挙げられる。なお、本発明の脱臭剤の比表面積は、JIS K1477に記載されたBET法(1点法)により求めた値である。
【0031】
本発明の脱臭材において、平衡濃度10ppmにおけるアセトアルデヒドの平衡吸着量(mg/gACF)としては、好ましくは45mg/gACF以上、より好ましくは45~70mg/gACF、特に好ましくは50~60mg/gACFが挙げられる。また、本発明の脱臭材において、平衡濃度10ppmにおけるアンモニアの平衡吸着量(mg/gACF)としては、好ましくは12mg/gACF以上、より好ましくは12~20mg/gACF、特に好ましくは12~15mg/gACFが挙げられる。本発明の脱臭材において、平衡濃度10ppmにおけるトルエンの平衡吸着量(mg/gACF)としては、好ましくは55mg/gACF以上、より好ましくは55~90mg/gACF、特に好ましくは55~80mg/gACFが挙げられる。なお、本発明の脱臭材の平衡濃度10ppmにおけるアセトアルデヒド、トルエン及びアンモニアの平衡吸着量は、測定方法は、それぞれ、以下の通りである。
【0032】
(アセトアルデヒドの平衡吸着量の測定)
任意重量の試料片と100ppmアセトアルデヒドガス3Lを密閉容器に封入し、25℃の環境下において静置する。24時間経過後、容器内のガス濃度を測定し、吸着量を計算する。複数の試料重量について測定を行い、それぞれの計算結果より、濃度と吸着量の相関をグラフにプロットし、得られた関係式より、任意の平衡濃度におけるアセトアルデヒドの平衡吸着量(mg/gACF)を導く。アセトアルデヒドの濃度測定には、ガスクロマトグラフィー、またはガス検知管を用いる。
【0033】
(アンモニアの平衡吸着量の測定)
アセトアルデヒドの代わりにアンモニアを用い、アセトアルデヒドの平衡吸着量の測定と同様にして、アンモニアの平衡吸着量(mg/gACF)を求める。アンモニアの濃度測定には、イオンクロマトグラフィー、またはガス検知管を用いる。
【0034】
(トルエンの平衡吸着量の測定)
アセトアルデヒドの代わりにトルエンを用い、アセトアルデヒドの平衡吸着量の測定と同様にして、トルエンの平衡吸着量(mg/gACF)を求める。トルエンの濃度測定には、ガスクロマトグラフィー、またはガス検知管を用いる。
【0035】
本発明の脱臭材は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、芳香族アミンおよび/またはその塩と、硫酸および/またはその塩と、水とを含有した処理液を調製する。芳香族アミンおよび/またはその塩は、水で十分に希釈した硫酸および/またはその塩の水溶液中に溶解させてもよく、硫酸および/またはその塩を比較的高い濃度で含んだ水溶液中に溶解させた後にこれを水で希釈して処理液としてもよい。硫酸としては、濃硫酸を用いてもよいし、希硫酸を用いてもよい。また、芳香族アミンおよび/またはその塩を水に溶解させるために、硫酸および/またはその塩の水溶液を、例えば50~80℃の範囲内の温度に加熱し、ここに芳香族アミンおよび/またはその塩を混合してもよい。また、芳香族アミンとしては、本発明の脱臭剤に担持させる前述のものを用いる。芳香族アミンの塩としては、特に制限されないが、例えば、当該芳香族アミンの塩酸塩、硫酸塩などが挙げられる。
【0036】
処理液における芳香族アミンおよび/またはその塩の仕込み量としては、本発明の脱臭材における芳香族アミンおよび/またはその塩の担持量が上記の範囲となるように設定すれば、特に制限されず、例えば、後に浸漬する繊維状活性炭100質量部に対して、12~18質量部程度とすればよい。また、処理液における硫酸および/またはその塩の仕込み量としては、本発明の脱臭材における芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩、又は、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と硫酸の含有量、割合が上記の範囲となるように設定すれば、特に制限されず、後に浸漬する繊維状活性炭100質量部に対して、12~18質量部程度とすればよい。
【0037】
次に、この処理液中に繊維状活性炭を浸漬して、繊維状活性炭に芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩、又は、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と硫酸を担持させる。例えば、繊維状活性炭を処理液中に均一に分散させ、その後、十分な時間に亘ってこの分散液を静置する。繊維状活性炭を処理液中に浸漬させる時間は、例えば約1時間以上とする。繊維状活性炭の質量と処理液の体積との比は、例えば5~50g/Lの範囲内とする。この比が小さすぎる場合、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩、又は、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と硫酸を繊維状活性炭に担持させるためにより長い時間を要する。一方、この比が大きすぎる場合、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩、又は、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と硫酸を繊維状活性炭に均一に担持させることが難しくなる。なお、繊維状活性炭を水溶液と接触させている時間が十分に長ければ、この比が繊維状活性炭に担持される芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩、又は、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と硫酸の量に及ぼす影響は無視することができる。なお、繊維状活性炭を浸漬する処理液は、上記の芳香族アミンおよび/またはその塩の仕込みの際に加熱された状態で使用してもよく、加熱した処理液を冷却した後に使用してもよい。
【0038】
次いで、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩、又は、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と硫酸とを担持させた繊維状活性炭から処理液を除去する。処理液を除去する方法としては、特に制限されず、例えば、繊維状活性炭を処理液から引き上げることにより行うことができる。芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩、又は、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と硫酸とを担持させた繊維状活性炭からの処理液の除去に先立って、処理液を水で希釈してもよい。
【0039】
その後、処理液を除去した繊維状活性炭を乾燥させる。この乾燥には、例えば、自然乾燥、通風乾燥、熱風乾燥、マイクロ波加熱乾燥、間接加熱乾燥などを利用することができる。乾燥は、繊維状活性炭の温度が、例えば130℃以下、好ましくは80℃以下に維持されるように行う。以上のようにして、本発明の脱臭材を製造することができる。
【0040】
次に、本発明の脱臭シートについて詳述する。本発明の脱臭シートは、上記の本発明の脱臭材を用いたものであり、本発明の脱臭材を含む。具体的には、本発明の脱臭シートは、例えば、上記の脱臭材がシート状に成形されたものである。シートの形態としては、特に限定されないが、不織布が好ましく挙げられる。本発明の脱臭シートは、上記の脱臭材をシート状に成形することなどを目的として、必要に応じてバインダーを含んでいてもよい。バインダーとしては、脱臭材を構成する繊維状活性炭同士を接着できるものであれば特に制限されず、例えば、(繊維状バインダーが挙げられ、繊維状バインダーの市販品としてはユニチカ株式会社製商品名メルティ)などを使用することができる。
【0041】
本発明の脱臭シートがバインダーを含む場合、バインダーと、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩、又は、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と硫酸が担持された繊維状活性炭との質量比(バインダー/繊維状活性炭)としては、好ましくは75/25~25/75程度が挙げられる。また、後述する、脱臭シートの密度を低いものとする場合には、アンモニア、アセトアルデヒド、及びトルエンに対する脱臭能をより一層優れたものとすることから、高価な繊維状活性炭の質量割合を少ないものとしやすくなり、例えば、バインダーと芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩、又は、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と硫酸が担持された繊維状活性炭との質量比(バインダー/繊維状活性炭)としては、75/25~65/35程度としやすくなる。
【0042】
本発明の脱臭シートの密度は、特に限定されるものではないが、アンモニア、アセトアルデヒド、及びトルエンに対する脱臭能をより一層優れたものとする観点から、例えば、0.05~0.3g/cm3が好ましく、0.05~0.20g/cm3がより好ましく、0.08~0.12g/cm3が特に好ましい。また、本発明の脱臭シートの厚さとしては、例えば、0.15~0.80mm、0.15~0.50mm、好ましくは0.15~0.25mmとすると、上記脱臭能に優れつつ、車室内の座席のカバー内に収容できやすくなる。上記のような密度が低い、および/または薄いシートを得る方法としては、例えば、目付け1~8g/m2程度の薄い不織布を製造し、該不織布を複数層重ねてニードルパンチ加工を施して一体化させることにより得ることができる。
【0043】
本発明の脱臭シートは、例えば、上記の脱臭材をシート状に成形することにより製造することもできるし、繊維状活性炭に芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩、又は、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と硫酸を担持させる前の繊維状活性炭をシート状に成形した後、当該シートを上記と同様にして処理液に浸漬して、繊維状活性炭に芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩、又は、芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩と硫酸を担持させることによっても製造することができる。
【0044】
本発明の脱臭シートを空気浄化用シートとして用いる場合は、エレクトレット化された不織布シート、HEPA(high efficiency particulate air)フィルタ、ULPA(ultra low penetration air)フィルタなどの除塵シートを脱臭シートに貼り合せることによって、除塵効果を付与した積層体とすることも可能である。そのような積層体は、空気浄化と除塵とを行う空気清浄器などにおいて好適に使用され得る。
【0045】
本発明の脱臭シートは、上記した本発明の脱臭材を含んでいるため、アンモニア、アセトアルデヒド、及びトルエンを、高い効率で気相から除去することができる。従って、本発明の脱臭シートは、住環境において広く使用することができ、自動車、電車、船舶、飛行機などの内装材にも好適に使用できる。中でも、本発明の脱臭シートは、アンモニア、アセトアルデヒド、及びトルエンを、高い効率で気相から除去自動車内装材として、車室内の座席のカバー内に収容して用いることができる。すなわち、本発明の脱臭シートを含む、車室内用座席とすることができる。また、本発明の脱臭材は、アセトアルデヒド以外にも、ホルムアルデヒド等の低級アルデヒド、トルエン以外にも、ベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、エチルベンゼン、スチレン等の芳香族有機物に対しても、脱臭能を有する。
【実施例
【0046】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0047】
(実施例1~3及び比較例1~6)
75質量%の濃度で硫酸を含有した硫酸水溶液を調製した。この硫酸水溶液を65℃以上の温度で撹拌して、p-アミノ安息香酸を水溶液に加え、完全に溶解させたのち、繊維状活性炭の質量と処理液の体積との比が20g/Lとなるように水を加え、処理液を得た。実施例1~3及び比較例1~6における硫酸及びp-アミノ安息香酸の仕込み量(質量部)は、それぞれ表1の通りである。表中の硫酸の仕込み量(質量部)は、75%硫酸水溶液中の、純水を除いた硫酸のみの量(質量部)を示す。
【0048】
次に、この処理液に、100質量部の繊維状活性炭を浸漬した。繊維状活性炭としては、比表面積が1260m2/gのピッチ系繊維状活性炭であるユニチカ株式会社製アドールA-10を使用した。続いて、この溶液を10分間に亘って撹拌して、繊維状活性炭を溶液中に均一に分散させた。その後、この分散液を静置した。8時間以上静置した後、繊維状活性炭を溶液から引き上げ、乾燥機を用いて80℃で3時間に亘って乾燥させ、実施例1~3及び比較例1~6の脱臭材を得た。これらの脱臭材におけるp-アミノ安息香酸及び硫酸の担持量、担持されたp-アミノ安息香酸及び硫酸のモル比、アセトアルデヒド、アンモニア、及びトルエンの平衡吸着量、並びに脱臭材の比表面積は、それぞれ以下のようにして測定した。
【0049】
(繊維状活性炭1gあたりに担持された芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩の合計担持量(mmol)、及び繊維状活性炭1gあたりに担持された芳香族アミンの硫酸塩と硫酸の合計担持量の測定(mmol))
実施例1~3及び比較例1~6で得られた各脱臭材について、それぞれ、前述の(芳香族アミンと該芳香族アミンの硫酸塩の合計担持量、及び、芳香族アミンの硫酸塩と硫酸の合計担持量の測定)に示した方法により、これらの合計担持量を測定した。結果を表1に示す。なお、上記測定については、活性炭量を2.0g、処理液量が100mlとなるように残部純水を添加して、測定をおこなった。
【0050】
(繊維状活性炭1gあたりに担持された芳香族アミンの硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、繊維状活性炭1gあたりに担持された芳香族アミンと芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合)
実施例1~3及び比較例1~6で得られた各脱臭材について、それぞれ、前述の(芳香族アミンの硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、芳香族アミンと芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合)に示した方法により、繊維状活性炭1gあたりに担持された芳香族アミンの硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、繊維状活性炭1gあたりに担持された芳香族アミンと芳香族アミンの硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合を測定した。結果を表1に示す。なお、上記測定については、活性炭量を2.0g、処理液量が100mlとなるように残部純水を添加して、測定をおこなった。
【0051】
(アセトアルデヒドの平衡吸着量)
実施例1~3及び比較例1~6で得られた各脱臭材について、それぞれ、平衡濃度10ppmにおけるアセトアルデヒドの平衡吸着量(mg/gACF)を前述の「アセトアルデヒドの平衡吸着量の測定」に示した方法により測定した。結果を表1に示す。
【0052】
(アンモニアの平衡吸着量)
アセトアルデヒドの代わりにアンモニアを用い、アセトアルデヒドの平衡吸着量の測定と同様にして、アンモニアの平衡吸着量(mg/gACF)を求めた。結果を表1に示す。
【0053】
(トルエンの平衡吸着量)
アセトアルデヒドの代わりにトルエンを用い、アセトアルデヒドの平衡吸着量の測定と同様にして、トルエンの平衡吸着量(mg/gACF)を求めた。結果を表1に示す。
【0054】
(脱臭材の比表面積)
BET法(1点法)により脱臭材の比表面積を求めた。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1において、PABAはp-アミノ安息香酸を意味する。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示されるように、繊維状活性炭1gあたりに担持されたp-アミノ安息香酸とp-アミノ安息香酸の硫酸塩の合計物質量が0.85~1.35mmolであり、かつ、繊維状活性炭1gあたりに担持されたp-アミノ安息香酸の硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、繊維状活性炭1gあたりに担持されたp-アミノ安息香酸とp-アミノ安息香酸の硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合が、5.0~7.5の範囲にある実施例1~3の脱臭材においては、アセトアルデヒド、アンモニア、及びトルエンの全てにおいて、10ppmの濃度において大きな平衡吸着量を有していた。
【0059】
一方、繊維状活性炭1gあたり、p-アミノ安息香酸とp-アミノ安息香酸の硫酸塩の合計物質量が0.73mmolと少なく、さらに、繊維状活性炭1gあたりに担持されたp-アミノ安息香酸の硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、繊維状活性炭1gあたりに担持されたp-アミノ安息香酸とp-アミノ安息香酸の硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合が4.6と小さい比較例1の脱臭材においては、アンモニア及びトルエンについては、10ppmの濃度において大きな平衡吸着量を有していたものの、アセトアルデヒドについては、10ppmの濃度における平衡吸着量が小さかった。
【0060】
また、繊維状活性炭1gあたりに担持されたp-アミノ安息香酸の硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、繊維状活性炭1gあたりに担持されたp-アミノ安息香酸とp-アミノ安息香酸の硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合が13.6と大きい比較例2の脱臭材においては、アセトアルデヒド及びトルエンについては、10ppmの濃度において大きな平衡吸着量を有していたものの、アンモニアについては、10ppmの濃度における平衡吸着量が小さかった。
【0061】
比較例1よりも、繊維状活性炭1gあたりに担持されたp-アミノ安息香酸の硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、繊維状活性炭1gあたりに担持されたp-アミノ安息香酸とp-アミノ安息香酸の硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合が2.4とさらに小さい比較例3の脱臭材においては、アンモニアについては、10ppmの濃度においてかなり大きな平衡吸着量を有していたものの、アセトアルデヒドについては、10ppmの濃度における平衡吸着量が小さかった。
【0062】
繊維状活性炭1gに対するp-アミノ安息香酸の仕込み量を15.0質量部、硫酸の仕込み量を11.3質量部とし、特許文献2の実施例10の配合と同様になるようにした比較例4の脱臭材においては、繊維状活性炭1gあたりに担持されたp-アミノ安息香酸の硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、繊維状活性炭1gあたりに担持されたp-アミノ安息香酸とp-アミノ安息香酸の硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合が8.4と大きくなり、10ppmの濃度におけるアンモニアの平衡吸着量が小さかった。
【0063】
繊維状活性炭1gに対するp-アミノ安息香酸の仕込み量を10.0質量部、硫酸の仕込み量を16.9質量部とし、特許文献2の実施例3の配合と同様になるようにした比較例5の脱臭材においては、p-アミノ安息香酸の担持量が10.0質量部と少なく、さらに、繊維状活性炭1gあたりに担持されたp-アミノ安息香酸の硫酸塩と硫酸との合計物質量(mmol)に対する、繊維状活性炭1gあたりに担持されたp-アミノ安息香酸とp-アミノ安息香酸の硫酸塩との合計物質量(mmol)の割合が4.1と小さくなり、10ppmの濃度におけるアセトアルデヒドの平衡吸着量が小さかった。
【0064】
繊維状活性炭100gに対するp-アミノ安息香酸の仕込み量を20.0質量部、硫酸の仕込み量を16.9質量部とし、特許文献2の実施例7の配合と同様になるようにした比較例6の脱臭材においては、p-アミノ安息香酸とp-アミノ安息香酸の硫酸塩の合計物質量が1.45mmol/gと多くなり、10ppmの濃度におけるアセトアルデヒド及びトルエンの平衡吸着量が小さかった。
【0065】
(脱臭シートの製造)
(実施例4)
実施例1で得た脱臭材と、バインダー繊維(ユニチカ株式会社製商品名メルティ4080)とを、質量比(バインダー/脱臭材)が70/30となるように混綿し、目付け2g/m2の不織布を製造した。得られた不織布を10枚重ね、さらにニードルパンチ加工を施し、温度110℃で加熱してバインダー繊維を溶融させ、バインダー繊維と脱臭材とを融着させて、厚さ0.2mm、密度0.1g/m3の脱臭シートを得た。なお、該評価用脱臭シート中の脱臭材の目付けは、6g/m2であった。
【0066】
(実施例5)
実施例1で得た脱臭材と、バインダー繊維(ユニチカ株式会社製商品名メルティ4080)とを、質量比(バインダー/脱臭材)が30/70となるように混綿し、目付け6g/m2の不織布を製造した。得られた不織布を10枚重ね、さらにニードルパンチ加工を施し、温度110℃で加熱してバインダー繊維を溶融させ、バインダー繊維と脱臭材とを融着させて、厚さ0.4mm、密度0.15g/m3の脱臭シートを得て、該脱臭シートをそのまま評価用の脱臭シートとした。なお、該評価用脱臭シート中の脱臭材の目付けは、42g/m2であった。
【0067】
(脱臭シートの性能評価)
実施例4及び5で得た脱臭シートを40mm×50mmのサイズにカットし、アセトアルデヒド濃度100ppm、相対湿度50%、温度40℃としたガスバック中に封入し、時間1分、10分、20分、30分、40分、50分、60分経過後のガスバック内のアセトアルデヒド濃度を測定し、脱臭シートのアセトアルデヒドの吸着性能を評価した。なお、アセトアルデヒドの測定はガスクロマトグラフ法を用いておこなった。また、実施例4については40mm×50mmのサイズにカットした脱臭シートを5枚、実施例5については40mm×50mmのサイズにカットした脱臭シートを1枚封入し、上記測定をおこなった。結果を表2に、また、アセトアルデヒド濃度と時間との関係を図1に示す。
【0068】
アセトアルデヒドの代わりにアンモニアを用い、脱臭シートのアセトアルデヒドの吸着性能の測定と同様にして、脱臭シートのアンモニアの吸着性能を評価した。結果を表2に、また、アンモニア濃度と時間との関係を図2に示す。
【0069】
アセトアルデヒドの代わりにトルエンを用い、脱臭シートのアセトアルデヒドの吸着性能の測定と同様にして、脱臭シートのトルエンの吸着性能を評価した。結果を表2に、トルエン濃度と時間との関係を図3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
表3及び図1~3に示されるように、実施例4及び5の脱臭シートは、ともに本発明の脱臭材を含むものであることから、アンモニア、アセトアルデヒド、及びトルエンに対して特に優れた脱臭能を有することが確認された。特に、実施例4の脱臭シートは、密度が0.08~0.12g/cm3、厚さが0.15~0.25mmであったことから、カットした実施例4の脱臭シート5枚中における本発明の脱臭材の目付け合計が30g/m2であり、実施例5の脱臭シート中の本発明の脱臭材の目付け42g/m2よりも少ないにも関わらず、同等の脱臭性能を示した。これにより、本発明の脱臭シートは、密度が0.08~0.12g/cm3、厚さが0.15~0.25mmであることが特に好ましいことが確認され、車室内用の座席、詳しくは該座席のカバー内に含まれるのに特に好適であることが判明した。
図1
図2
図3