(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】光導波路素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/025 20060101AFI20220309BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20220309BHJP
G02B 6/132 20060101ALI20220309BHJP
G02B 6/134 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
G02F1/025
G02B6/12 361
G02B6/132
G02B6/134 321
(21)【出願番号】P 2017109243
(22)【出願日】2017-06-01
【審査請求日】2019-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小川 憲介
【審査官】井部 紗代子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208732(WO,A1)
【文献】特開平10-308555(JP,A)
【文献】特開2015-102844(JP,A)
【文献】特表2004-511820(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0188902(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12 - 6/14
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の高さを有するリブ領域と、第1方向に沿って該リブ領域を挟むように配置された、上記第1の高さよりも低い第2の高さを有する2つのスラブ領域とを有するリブ導波路をコア部として含み、
上記コア部は、互いに上記第1方向に対して垂直な第2方向に重ねて配置された、PN接合を形成する第1コア領域および
前記第1コア領域と導電性が異なる第2コア領域を有しており、
前記第1コア領域は、第1のドーパントがドープされた結晶性シリコンを備え、
前記第2コア領域は、前記第1のドーパントとは異なる第2のドーパントがドープされた結晶性シリコンを備え、
前記第2コア領域が前記第1コア領域の上側に配置され、
上記第1コア領域と上記第2コア領域との間に、上記リブ領域から2つの上記スラブ領域の両方にまで延伸する空乏層が形成され、
上記2つのスラブ領域のそれぞれにおける上記空乏層の上記第2方向の位置は、上記リブ領域における上記空乏層の上記第2方向の位置より低く、
上記リブ領域における第2コア領域の下端の幅が、上記リブ領域における上記第1コア領域の上端の幅よりも広
く、
上記リブ領域における第2コア領域の側壁は、上記第2方向に対して非傾斜である、ことを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
さらに、上記リブ領域における第1コア領域の側壁は、上記第2方向に対して非傾斜である、ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
上記コア部における導波光の電界ピーク値に対して、上記導波光の電界の減衰率が13dB以内になるように、上記空乏層の上記第1方向における端が定められていることを特徴とする請求項1
または2に記載の光導波路素子。
【請求項4】
少なくとも1つの上記スラブ領域において、上記第1コア領域の上記第2方向の厚みと、上記第2コア領域の上記第2方向の厚みとが等しいことを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の光導波路素子。
【請求項5】
上記光導波路素子は、
光の入射側および出射側の一方に近いほど上記第1方向に沿った各上記スラブ領域の幅が小さくなるようなテーパ形状を有する第1テーパ部と、
上記第1テーパ部における光の入射側および出射側の他方の端部と隣接して配置されており、光の入射側および出射側の一方に近いほど上記第1方向に沿った上記リブ領域の幅が小さくなるようなテーパ形状を有する第2テーパ部とを有していることを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の光導波路素子。
【請求項6】
上記第2方向に関し、
上記コア部の下面の高さを基準とした、少なくとも1つの上記スラブ領域における上記空乏層の高さは、
hs/2 (但し、hs:該スラブ領域の厚み)
であることを特徴とする請求項1から
5のいずれか1項に記載の光導波路素子。
【請求項7】
上記第2方向に関し、
上記コア部の下面の高さを基準とした、上記リブ領域における上記空乏層の高さは、
hs/2以上、かつ、hr-hs/2以下 (但し、hs:少なくとも1つの上記スラブ領域の厚み、hr:上記リブ領域の厚み)
であることを特徴とする請求項1から
6のいずれか1項に記載の光導波路素子。
【請求項8】
上記空乏層と導波光の電界との重なりが最大となる場合、
上記第2方向に関し、
上記コア部の下面の高さを基準とした、上記リブ領域における上記第1コア領域の下面の高さは、
hr/2-hs/2
であり、
上記コア部の下面の高さを基準とした、上記リブ領域における上記第2コア領域の上面の高さは、
hr/2+hs/2
であることを特徴とする請求項
7に記載の光導波路素子。
【請求項9】
上記リブ領域は、上記第1コア領域および上記第2コア領域の直上、ならびに、上記第1コア領域および上記第2コア領域の直下のうち少なくとも一方に、ドーパントが意図的に注入されていないアンドープ領域を有していることを特徴とする請求項
8に記載の光導波路素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光集積回路に用いられる光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光導波路素子を含む光集積回路を、光ファイバ通信用の各種デバイスに応用することが検討されている。光ファイバ通信用のデバイスとしては、例えば、長距離・メトロ系の波長多重光ファイバ通信で用いられる光トランスポート装置や、データセンタ等で用いられる光インタコネクト装置等が挙げられる。
【0003】
光集積回路に用いられる光導波路素子として、特許文献1には、相異なる導電性を有する2つのシリコン層と、これら2つのシリコン層に挟まれた誘電体層とを有するコアを備えたものが開示されている。特許文献1に記載の光導波路素子においては、2つのシリコン層としてP型シリコン層およびN型シリコン層を用い、誘電体層として二酸化シリコンを用いた、いわゆるSISCAP(シリコンキャパシタ)構造が採用されている。
【0004】
特許文献1に記載の光導波路素子では、各シリコン層の側壁(基板の面に沿う方向における該シリコン層の終端)とクラッドとの屈折率の差により光の閉じ込めが実現されており、コアを導波する光の電界は、上記2つのシリコン層と上記誘電体層とに拡がるように分布する。このため、上記2つのシリコン層のキャリア密度を変化させることにより、上記誘電体層を介して上記2つのシリコン層が重なりあったコアの中央部分において、コアを導波する光に対する屈折率を変化させることができる。
【0005】
また、特許文献1には、P型シリコン層またはN型シリコン層のいずれかをL字型に折り曲げたSISCAP構造が開示されている。このような構造を採用することにより、キャリア密度が変化する領域を、基板の面に対して平行な方向のみならず、基板の面に対して垂直な方向にも延設することができる。
【0006】
特許文献2に記載の光導波路素子は、リブ導波路において、リブ領域の直下で空乏層が水平方向にまたは水平方向から僅かに傾斜した構造である。
【0007】
また、特許文献3には、リブ領域と、水平方向に沿ってリブ領域を挟むように配置された、リブ領域よりも高さの低い2つのスラブ領域とを有するリブ導波路をコア部として含み、コア部は、互いに垂直方向に重ねて配置された、PN接合を形成する第1コア領域および第2コア領域を有しており、第1コア領域と第2コア領域との間に、リブ領域から2つのスラブ領域の少なくとも何れか一方にまで延伸する空乏層が形成される光導波路素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許公開2004/0208454号公報(2004年10月21日公開)
【文献】米国特許公開2011/0206313号公報(2011年8月25日公開)
【文献】特開2017-015773号公報(2017年1月19日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の光導波路素子では、上述したように、各シリコン層の側壁(基板の面に沿う方向における該シリコン層の終端)とクラッドとの屈折率の差により光の閉じ込めが実現される。このため、各シリコン層の側壁が荒れていると、その側壁にてコアを導波する光が散乱されてしまい、光損失が大きくなるという問題が発生する。
【0010】
また、特許文献1に記載の光導波路素子では、上述したように、キャリア密度が変化する領域が、誘電体層を介して2つのシリコン層が重なりあったコアの中央部分に限定され、コアを導波する光の電界が分布する領域全体には及ばない。したがって、屈折率変調の効率を高めて駆動電圧を低下させるためには、(1)各シリコン層のドーピング密度を高くするか、または、(2)素子長を長くする必要がある。各シリコン層のドーピング密度を高くした場合、キャリアがより多くの光を吸収してしまい、結果、光損失が大きくなるという問題が発生する。一方、素子長を長くした場合、光導波路素子の大型化を招くという問題が発生する。
【0011】
さらに、副次的な問題として、特許文献1に記載の光導波路素子では、その製造工程のうち、誘電体層にシリコン層を積層する工程が特殊なものとなるため、その製造工程が複雑となる。この結果、特許文献1に記載の光導波路素子は、その製造が難しく、また、他の光回路との間でデザインルールを統一することも困難であるため、他の光回路と共に集積することが困難であるという問題が発生する。例えば、光損失低減および光学特性のバラつきを抑えるため、積層膜厚の変動を1nm(ナノメートル)以下に低減する技術が必要になる。
【0012】
さらに、別の副次的な問題として、特許文献1に記載の光導波路素子では、各シリコン層に拡がるように、コアを導波する光の電界が分布する。このため、コアを導波する光のプロファイルは、基板面と平行な方向において非対称となり、コアを導波する光は、横電界(TE)成分と横磁界(TM)成分とを偏波成分として含むこととなる。この結果、特許文献1に開示されている光導波路素子と偏波多重光回路とを集積化すると偏波クロストークが生じ、偏波多重光信号伝送が困難になるという問題が発生する。
【0013】
特許文献2に記載の光導波路素子では、リブ導波路におけるリブ領域とスラブ領域とにおいて、空乏層の垂直方向の位置が同じまたはほぼ同じであるため、導波モードと空乏層との重なりを十分に高めることはできない。よって、特許文献2に記載の光導波路素子においては、駆動電圧を低減するためにリブ領域およびスラブ領域のドーピング密度を上げる必要が生じ、特許文献1に開示されている技術と同様に、光損失が増大するという問題が生ずる。
【0014】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主たる課題は、光損失の低減、低駆動電圧化、および小型化を可能とした光導波路素子を提供することにある。
【0015】
なお、特許文献3に記載の光導波路素子では、上記の主たる課題は解決することができるものの、スラブ領域の厚みが変動したときに、または、第1コア領域および第2コア領域の形成時においてドーパントの注入密度が変動したときに、第1コア領域および第2コア領域のそれぞれが、リブ領域とスラブ領域との境界にて電気的に切断されてしまう可能性がある。このため、特許文献3に記載の光導波路素子においては、製造誤差に対する許容性が低いという点で、換言すれば、歩留まりが低いという点で、改善の余地が残されている。本願明細書には、これらの点の改善を図るための発明も含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の主たる課題を解決するために、本発明の一態様に係る光導波路素子は、第1の高さを有するリブ領域と、第1方向に沿って該リブ領域を挟むように配置された、上記第1の高さよりも低い第2の高さを有する2つのスラブ領域とを有するリブ導波路をコア部として含み、上記コア部は、互いに上記第1方向に対して垂直な第2方向に重ねて配置された、PN接合を形成する第1コア領域および第2コア領域を有しており、上記第1コア領域と上記第2コア領域との間に、上記リブ領域から2つの上記スラブ領域の両方にまで延伸する空乏層が形成され、上記2つのスラブ領域のそれぞれにおける上記空乏層の上記第2方向の位置は、上記リブ領域における上記空乏層の上記第2方向の位置より低く、上記第2の高さにおける上記リブ領域の幅が、上記第1の高さにおける上記リブ領域の幅よりも広い、ことを特徴としている。
【0017】
上記の構成によれば、リブ導波路をコア部としているため、導波光(コア部を導波する光)がリブ領域およびその近傍に局在する。このため、コア部の側壁に荒れがあっても、側壁の粗さに起因する光の散乱が低減され、その結果、光損失が低減される。また、上記の構成によれば、第1コア領域と第2コア領域との間に、リブ領域から2つのスラブ領域の少なくとも何れか一方にまで延伸する空乏層が形成されているので、(1)第1コア領域および第2コア領域のドーピング密度を高くしたり、(2)素子長を長くしたりせずとも、屈折率変調の効率を高めて駆動電圧を低下させることが可能になる。すなわち、光損失の増大および光導波路素子の大型化を招来することなく、低駆動電圧化を実現することができる。
【0018】
また、上記の構成によれば、スラブ領域において、導波光の電界プロファイルと空乏層との空間的重なりを増すことができる。これにより、キャリア密度を変化させる効率を高め、さらなる低駆動電圧化が可能となる。
【0019】
また、上記の構成によれば、コア部の全領域において、導波光の電界プロファイルと空乏層との空間的重なりを増すことができる。これにより、キャリア密度を変化させる効率を高め、さらなる低駆動電圧化が可能となる。
【0020】
さらに、上記の構成によれば、第1コア領域および第2コア領域の厚みが一定又は略一定の場合、上記リブ領域における第2コア領域の下端の幅が、上記リブ領域における上記第1コア領域の上端の幅よりも広く、かつ、上記リブ領域における第1コア領域の下端の幅が、上記リブ領域において上記第1コア領域の下方に配置されたアンドープ領域の上端の幅よりも広くなる。したがって、第1コア領域および第2コア領域について、リブ領域とスラブ領域との間で狭窄が生じ難くなる。このため、第1コア領域および第2コア領域が、リブ領域とスラブ領域との境界にて電気的に切断され難くなる。この結果、製造誤差に対して許容性を有する光導波路素子を実現することができる。
【0021】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光導波路素子は、第1の高さを有するリブ領域と、第1方向に沿って該リブ領域を挟むように配置された、上記第1の高さよりも低い第2の高さを有する2つのスラブ領域とを有するリブ導波路をコア部として含み、上記コア部は、互いに上記第1方向に対して垂直な第2方向に重ねて配置された、PN接合を形成する第1コア領域および第2コア領域を有しており、上記第1コア領域と上記第2コア領域との間に、上記リブ領域から2つの上記スラブ領域の両方にまで延伸する空乏層が形成され、上記2つのスラブ領域のそれぞれにおける上記空乏層の上記第2方向の位置は、上記リブ領域における上記空乏層の上記第2方向の位置より低く、上記リブ領域における第2コア領域の下端の幅が、上記リブ領域における上記第1コア領域の上端の幅よりも広い、ことを特徴としている。
【0022】
上記の構成によれば、光損失の低減、低駆動電圧化、および小型化を可能とした光導波路素子を実現することができる。更に、上記リブ領域における第2コア領域の下端の幅が、上記リブ領域における上記第1コア領域の上端の幅よりも広いので、第2コア領域について、リブ領域とスラブ領域との間で狭窄が生じ難くなる。このため、第2コア領域が、リブ領域とスラブ領域との境界にて電気的に切断され難くなる。
【0023】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光導波路素子は、第1の高さを有するリブ領域と、第1方向に沿って該リブ領域を挟むように配置された、上記第1の高さよりも低い第2の高さを有する2つのスラブ領域とを有するリブ導波路をコア部として含み、上記コア部は、互いに上記第1方向に対して垂直な第2方向に重ねて配置された、PN接合を形成する第1コア領域および第2コア領域を有しており、上記第1コア領域と上記第2コア領域との間に、上記リブ領域から2つの上記スラブ領域の両方にまで延伸する空乏層が形成され、上記2つのスラブ領域のそれぞれにおける上記空乏層の上記第2方向の位置は、上記リブ領域における上記空乏層の上記第2方向の位置より低く、上記リブ領域における第1コア領域の下端の幅が、上記リブ領域において上記第1コア領域の下方に配置されたアンドープ領域の上端の幅よりも広い、ことを特徴とする。
【0024】
上記の構成によれば、光損失の低減、低駆動電圧化、および小型化を可能とした光導波路素子を実現することができる。更に、上記リブ領域における第1コア領域の下端の幅が、上記リブ領域において上記第1コア領域の下方に配置されたアンドープ領域の上端の幅よりも広いので、第1コア領域について、リブ領域とスラブ領域との間で狭窄が生じ難くなる。このため、第1コア領域が、リブ領域とスラブ領域との境界にて電気的に切断され難くなる。
【0025】
また、本発明の一態様に係る光導波路素子は、上記リブ領域の側壁の傾斜角が、45度以上80度以下であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の一態様に係る光導波路素子は、上記リブ領域における上記第1コア領域の側面の傾斜角が、45度以上80度以下であることが好ましい。
【0027】
また、本発明の一態様に係る光導波路素子は、上記リブ領域における上記アンドープ領域の側面の傾斜角が、45度以上80度以下であることが好ましい。
【0028】
上記傾斜角を45度以上とすることにより、リブ領域に存在する光のモードフィールドが両スラブ領域に拡がることを抑制することができるため、光損失を小さくすることができる。上記傾斜角を80度以下とすることにより、リブ領域とスラブ領域との接続領域を十分大きくすることが可能である。
【0029】
また、本発明の一態様に係る光導波路素子は、上記コア部における導波光の電界ピーク値に対して、上記導波光の電界の減衰率が13dB以内になるように、上記空乏層の上記第1方向における端が定められていることが好ましい。
【0030】
空乏層の第1方向の拡がりが導波光の電界ピーク値に対して約13dB減衰した点を越えると、第1コア領域および第2コア領域によるPN接合容量が増大し、RC時定数に起因する速度制限が顕著になる。これを避けるように、空乏層の第1方向における端を配置することが好ましい。
【0031】
また、本発明の一態様に係る光導波路素子は、少なくとも1つの上記スラブ領域において、上記第1コア領域の上記第2方向の厚みと、上記第2コア領域の上記第2方向の厚みとが等しいことが好ましい。
【0032】
また、本発明の一態様に係る光導波路素子において、上記光導波路素子は、光の入射側および出射側の一方に近いほど上記第1方向に沿った各上記スラブ領域の幅が小さくなるようなテーパ形状を有する第1テーパ部と、上記第1テーパ部における光の入射側および出射側の他方の端部と隣接して配置されており、光の入射側および出射側の一方に近いほど上記第1方向に沿った上記リブ領域の幅が小さくなるようなテーパ形状を有する第2テーパ部とを有していることが好ましい。
【0033】
上記の構成によれば、本発明の光導波路素子を、マッハ-ツェンダー干渉計の各アームの位相変調部として用いた場合に、光損失の増大および高次モード励起が引き起こされることを防ぐことができる。
【0034】
また、本発明の一態様に係る光導波路素子は、上記第2方向に関し、上記コア部の下面の高さを基準とした、少なくとも1つの上記スラブ領域における上記空乏層の高さは、hs/2(但し、hs:該スラブ領域の厚み)であることが好ましい。
【0035】
上記の構成によれば、スラブ領域での導波光の電界のプロファイルと空乏層との重なりが最大となる。
【0036】
また、本発明の一態様に係る光導波路素子は、上記第2方向に関し、上記コア部の下面の高さを基準とした、上記リブ領域における上記空乏層の高さは、hs/2以上、かつ、hr-hs/2以下(但し、hs:少なくとも1つの上記スラブ領域の厚み、hr:上記リブ領域の厚み)であることが好ましい。
【0037】
上記の構成によれば、リブ領域での導波光の電界のプロファイルと空乏層との重なりが最大となる。
【0038】
また、本発明の一態様に係る光導波路素子は、上記空乏層と導波光の電界との重なりが最大となる場合、上記第2方向に関し、上記コア部の下面の高さを基準とした、上記リブ領域における上記第1コア領域の下面の高さは、hr/2-hs/2であり、上記コア部の下面の高さを基準とした、上記リブ領域における上記第2コア領域の上面の高さは、hr/2+hs/2であることが好ましい。
【0039】
また、本発明の一態様に係る光導波路素子において、上記リブ領域は、上記第1コア領域および上記第2コア領域の直上、ならびに、上記第1コア領域および上記第2コア領域の直下のうち少なくとも一方に、ドーパントが意図的に注入されていないアンドープ領域を有していることが好ましい。
【0040】
上記の各構成によれば、コア部全体での導波光の電界のプロファイルと空乏層との重なりをさらに増すことができるとともに、光損失の低減が可能である。
【発明の効果】
【0041】
本発明の一態様によれば、光損失の低減、低駆動電圧化、および小型化が可能な光導波路素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る光導波路素子の断面図である。
【
図2】
図1に示す光導波路素子の第1変形例の断面図である。
【
図3】
図1に示す光導波路素子の第2変形例の断面図である。
【
図4】
図1に示す光導波路素子の第3変形例の断面図である。
【
図5】
図1に示す断面における導波光の電界プロファイルを簡便な数値解析により求めたものである。
【
図6】(a)はマッハ-ツェンダー干渉計のブロック図であり、(b)はマッハ-ツェンダー干渉計を備えた光変調器の斜視図である。
【
図7】本発明の実施の形態2に係る光導波路素子の上面図である。
【
図8】空乏層における導波光の電界プロファイルである。
【
図9】空乏層における導波光の別の電界プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明を実施するための形態について、
図1~
図9を参照して詳細に説明する。
【0044】
〔実施の形態1〕
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る光導波路素子100の断面図である。なお、
図1では、水平方向(第1方向)および垂直方向(第2方向)を併せて示している。
【0045】
光導波路素子100は、リブ導波路コア(コア部)101、基板102、下部クラッド103、および上部クラッド104を備えている。下部クラッド103は、基板102上に形成されている。リブ導波路コア101は、下部クラッド103上に形成されている。上部クラッド104は、リブ導波路コア101上に形成されている。
【0046】
光導波路素子100において、基板102と下部クラッド103との界面は平坦である。
図1に示す水平方向は、この界面と平行な方向であり、
図1に示す垂直方向は、この界面と直交する方向であると言える。また、垂直方向に関し、上部クラッド104側が上であり、基板102側が下である。
【0047】
リブ導波路コア101は、
図1に示す断面の水平方向における中央部分に形成されたリブ領域101rと、水平方向に沿ってリブ領域101rを挟むように配置された2つのスラブ領域101sとを有している。
図1では、リブ領域101rの幅(水平方向の長さ)をwrとし、リブ領域101rの厚み(垂直方向の長さ)をhrとし、両スラブ領域101sの厚みをhsとしている。また、以下、リブ導波路コア101の下端を基準としたリブ領域101rの上端の高さを高さhr(第1の高さ)と称し、リブ導波路コア101の下端を基準とした両スラブ領域101sの上端の高さを高さhs(第2の高さ)と称する場合がある。高さhsは、高さhrより低くなっている。
【0048】
以下、リブ領域101rのうち、両スラブ領域101sの上面よりも上方に位置する部分を、凸部と称する。つまり、リブ領域101rは、凸部と、この凸部の直下のリブ導波路コア101部分とを含む領域である。
【0049】
図1に示す断面において、リブ導波路コア101は、リブ領域101rの水平方向における中点101rcを通り垂直方向に伸びる軸(一点鎖線A-A´)に対して線対称である。また、凸部の側壁101rsは、水平方向と垂直方向とのそれぞれから傾斜している。以下、当該傾斜の方向を「斜め方向」と称する。なお、各実施の形態を通して、リブ領域101rの幅wrは、側壁101rsの垂直方向の中点101rscを端部としたときの幅(水平方向の長さ)として与えられる。後述する幅wd1および幅wd2についても同様である。
【0050】
導波光(リブ導波路コア101を導波する光)は、リブ領域101rおよびその近傍に局在し、
図1に示す断面と直交する方向(第3方向)に伝搬する。リブ導波路コア101を伝搬する導波光のモードがTE成分の基本モードのみとなるように、光導波路素子100は設計されている。ここで、導波光の波長は、光通信および光インタコネクトにおいて適用される波長帯にあり、1200nm~1700nmの範囲にある。
【0051】
リブ導波路コア101および基板102の材質は例えば、結晶性シリコンである。一方、下部クラッド103および上部クラッド104の材質は例えば、二酸化シリコン(シリカ)である。リブ導波路コア101、基板102、下部クラッド103、および上部クラッド104の材質を以上のようにすれば、SOI(Silicon-on-insulator)ウエファを用いて、光導波路素子100を構成することができる。リブ導波路コア101には、結晶性シリコンからなるSOI層を用いることができる。下部クラッド103には、埋め込みシリカ(BOX)層を用いることができる。上部クラッド104は、リブ導波路コア101にシリカを堆積することによって形成することができる。
【0052】
近年、厚みが概ね220nmであるSOI層を含むSOIウエファが普及している。そこで、光導波路素子100では、このSOIウエファを用いた構成を想定し、hrが220nmである。TE成分の高次モードの導波光およびTM成分の導波光の伝搬を避けるためには、hsが150nm以上であることが好ましい。また、TE成分の基本モードの導波光がリブ導波路コア101外へ放射され、導波光が減衰してしまうことを避けるためには、hsが180nm以下であり、かつ、wrが450nm以上であることが好ましい。wrが450nm以上であれば、側壁101rsの粗さに起因する光損失を低減することにおいても好適である。
【0053】
自由キャリア吸収により生じるキャリアプラズマ分散に基づいた屈折率変調を行うために、リブ導波路コア101にはPN接合が形成されている。つまり、光導波路素子100では、このPN接合においてキャリア密度を変化させることによって、屈折率を変化させている。本願発明者は、リブ導波路コア101内における、導電性を有する領域(空乏層を含む)のレイアウトを新たに案出し、この新たなレイアウトにより、光損失の低減、駆動電圧の低減、および変調周波数の上昇を実現した。
【0054】
図1に示すとおり、リブ導波路コア101は、(1)第1のドーパント(例えば、P型ドーパント)がドープされた、第1の導電性を有する第1コア領域(
図1においてクロスハッチングを施した部分)と、(2)第2のドーパント(例えば、N型ドーパント)がドープされた、第2の導電性を有する第2コア領域(
図1において濃いドットハッチングが施された部分)と、(3)ドーパントが意図的にドープされていないアンドープ領域(
図1においてハッチングが施されていない部分)とに大別される。
【0055】
第1コア領域は、中央領域(第1コア領域の一部)105、側方領域(第1コア領域の一部)106および107、ならびに接続領域(第1コア領域の一部)108を備えている。中央領域105、側方領域106および107、ならびに接続領域108は、いずれも第1の導電性を有しており、互いに電気的に接続されており、全体として第1コア領域を形成している。
【0056】
中央領域105は、第1コア領域のうち、リブ領域101rに属する領域である。側方領域106は、第1コア領域のうち、一方のスラブ領域101sに属する領域であり、側方領域107は、第1コア領域のうち、他方のスラブ領域101sに属する領域である。中央領域105の上面および下面の垂直方向の位置は、それぞれ、側方領域107~108の上面および下面の垂直方向の位置よりも高くなっている。中央領域105の下方において2つの側方領域107~108に挟まれた箇所には、アンドープ領域120が配置されている。中央領域105および側方領域106~107の厚みは、およそhs/2であり、中央領域105の下面(アンドープ領域120の上面)の垂直方向の位置は、側方領域106~107の上面の垂直方向の位置よりも低い。このため、側方領域106の右側の側面の上端は、中央領域105の左側の側面の下端と接しており、側方領域107の左側の側面の上端は、中央領域105の右側の側面の下端と接している。なお、側方領域106の左側の側面は、アンドープ領域121と接しており、側方領域107の右側の側面は、接続領域108と接している。この接続領域108の厚みはhsである。中央領域105の幅はwrであり、側方領域106の幅はwd2であり、側方領域107の幅はwd1である。
【0057】
第2コア領域は、中央領域(第2コア領域の一部)109、側方領域(第2コア領域の一部)110および111、ならびに接続領域(第2コア領域の一部)112を備えている。中央領域109、側方領域110および111、ならびに接続領域112は、いずれも第2の導電性を有しており、互いに電気的に接続されており、全体として第2コア領域を形成している。
【0058】
中央領域109は、第2コア領域のうち、リブ領域101rに属する領域である。側方領域111は、第2コア領域のうち、一方のスラブ領域101sに属する領域であり、側方領域110は、第2コア領域のうち、他方のスラブ領域101sに属する領域である。中央領域109の上面および下面の垂直方向の位置は、それぞれ、側方領域110~111の上面および下面の垂直方向の位置よりも高くなっている。中央領域109の下方において2つの側方領域110~111に挟まれた箇所には、上述した第1コア領域の中央領域105が配置されている。中央領域109および側方領域110~111の厚みは、およそhs/2であり、中央領域109の下面(第1コア領域の中央領域105の上面)の垂直方向の位置は、側方領域110~111の上面の垂直方向の位置よりも低い。このため、側方領域111の右側の側面の上端は、中央領域105の左側の側面の下端と接しており、側方領域110の左の側面の上端は、中央領域105の右側の側面の下端と接している。なお、側方領域110の右側の側面は、アンドープ領域122と接しており、側方領域107の左側の側面は、接続領域112と接している。この接続領域112の厚みはhsである。中央領域109の幅はwrであり、側方領域110の幅はwd2であり、側方領域111の幅はwd1である。
【0059】
なお、光導波路素子100において、第2コア領域の中央領域109は、リブ領域101rの頂上にまで達していない。しかしながら、光導波路素子における光損失の増大を招くことなく屈折率変調の効率をさらに向上させることができる場合等においては、第2コア領域の中央領域109を、リブ領域101rの頂上にまで達するように形成してもよい。
【0060】
光導波路素子100では、水平方向において、接続領域108および112とリブ領域101rとが離間されて配置されている。このような配置を採用した理由は、自由キャリア吸収による光損失を低減するためである。中点101rcから接続領域108までの距離、および、中点101rcから接続領域112までの距離はいずれも、光導波路素子100において要求される光損失の程度、および/または光導波路素子100の動作周波数等に応じて任意の長さに設定することができる。
【0061】
リブ導波路コア101のリブ領域101rにおいて、第1コア領域の中央領域105と第2コア領域の中央領域109とが、互いに垂直方向に重ねて配置されている。また、リブ導波路コア101の一方のスラブ領域101sにおいて、第1コア領域の側方領域106と第2コア領域の側方領域111とが、互いに垂直方向に重ねて配置されている。さらに、リブ導波路コア101の他方のスラブ領域101sにおいて、第1コア領域の側方領域107と第2コア領域の側方領域110とが、互いに垂直方向に重ねて配置されている。
【0062】
ここで、中央領域105、側方領域106および107、ならびに接続領域108により構成される第1コア領域が有する第1の導電性がP型であり、中央領域109、側方領域110および111、ならびに接続領域112により構成される第2コア領域が有する第2の導電性がN型である場合を考える。この場合、第1の導電性(P型)を有する第1コア領域と、第2の導電性(N型)を有する第2コア領域とによりPN接合が形成される。そして、このPN接合が形成された部分に対して、所定の逆バイアス電圧を印加することによって、このPN接合の境界には空乏層113が形成される。空乏層113は、リブ領域101rから両スラブ領域101sに延伸するように形成される。
【0063】
本実施形態に係る光導波路素子100においては、アンドープ領域120の上端の幅がアンドープ領域120の下端の幅よりも狭くなるように、アンドープ領域120の側壁120sを傾斜させる構成を採用している。アンドープ領域120の上に積層される第1コア領域の中央領域105の下端の幅(側方領域106~107の上面の高さで測った中央領域105の幅)は、通常、アンドープ領域120の下端の幅に一致する。このため、上記の構成を採用すれば、第1コア領域105の下端の幅が、アンドープ領域120の上端の幅よりも広くなる。したがって、アンドープ領域120の側壁120sを下部クラッド103の上面に直交させる構成を採用する場合と比べて、中央領域105と側方領域106との間、および、中央領域105と側方領域107との間において、第1コア領域の狭窄が生じ難くなる。このため、第1コア領域の厚みが変動した場合、又は、P型あるいはN型のドーパントの注入密度が変動した場合においても、中央領域105と側方領域106との間、および、中央領域105と側方領域107との間において、第1コア領域の電気的な切断が生じ難くなる。
【0064】
また、本実施形態に係る光導波路素子100においては、第1コア領域の中央領域105の上端の幅が第1コア領域の中央領域105の下端の幅(第1コア領域の側方領域106~107の上面の高さで測った第1コア領域の中央領域105の幅)よりも狭くなるように、第1コア領域の中央領域105の側壁105sを傾斜させる構成を採用している。第1コア領域の中央領域105の上に積層される第2コア領域の中央領域109の下端の幅(側方領域110~111の上面の高さで測った中央領域109の幅)は、通常、第1コア領域の中央領域105の下端の幅に一致する。このため、上記の構成を採用すれば、第2コア領域の中央領域109の下端の幅は、第1コア領域の中央領域105の上端の幅よりも広くなる。したがって、第1コア領域の中央領域105の側壁105sを下部クラッド103の上面に直交させる構成を採用する場合と比べて、中央領域109と側方領域110との間、および、中央領域109と側方領域111との間において、第2コア領域の狭窄が生じ難くなる。このため、第2コア領域の厚みが変動した場合、又は、P型あるいはN型のドーパントの注入密度が変動した場合においても、中央領域109と側方領域110との間、および、中央領域109と側方領域111との間において、第2コア領域の電気的な切断が生じ難くなる。
【0065】
なお、第1コア領域および第2コア領域の厚みが一定又は略一定である場合、スラブ領域101sの高さhsにおけるリブ領域101rの幅がリブ領域101rの高さhrにおけるリブ領域101rの幅よりも広くなるように、リブ領域101rの側壁101rsが傾斜していれば、アンドープ領域120の側壁120sおよび第1コア領域の中央領域105の側壁105sも上記のように傾斜することになる。これにより、第1コア領域105の下端の幅が、アンドープ領域120の上端の幅よりも広くなり、第2コア領域の中央領域109の下端の幅が、第1コア領域の中央領域105の上端の幅よりも広くなる。このため、中央領域105と側方領域106との間、および、中央領域105と側方領域107との間において、第1コア領域の電気的な切断が生じ難くなり、中央領域109と側方領域110との間、および、中央領域109と側方領域111との間において、第2コア領域の電気的な切断が生じ難くなる。
【0066】
ここで、リブ領域101rの側壁101rsの水平方向からの角度(側壁の傾斜角)θ1は、45度以上80度以下であることが好ましい。角度θ1を45度以上とすることにより、リブ領域101rに存在する光のモードフィールドが両スラブ領域101sに拡がることを抑制することができるため、光損失を小さくすることができる。また、角度θ1を80度以下とすることにより、第1コア領域における中央領域105と各側方領域106~107との間の接続領域、および、第2コア領域における中央領域109と各奏法領域110~111との間の接続領域を十分に拡げることができる。このため、両スラブ領域101sの厚みhs、または、P型あるいはN型のドーパントの注入密度のいずれかが例えば10%程度変動した場合に、第1コア領域および第2コア領域が上記接続領域において電気的に切断されることを防ぎ、歩留まりを改善することが可能である。中央領域105の側面105sの傾斜角θ2、および、アンドープ領域120の側壁120sの傾斜角θ3についても同様である。
【0067】
また、リブ導波路コア101において、側方領域106と側方領域111とによるPN接合の垂直方向の位置、および、側方領域107と側方領域110とによるPN接合の垂直方向の位置はいずれも、中央領域105と中央領域109とによるPN接合の垂直方向の位置に比べて低い。このため、両スラブ領域101sにおける空乏層113の垂直方向の位置は、リブ領域101rにおける空乏層113の垂直方向の位置より低くなる。これにより、リブ導波路コア101において、導波光の電界プロファイルと空乏層113との空間的重なりを増すことができる。これにより、キャリア密度を変化させる効率を高め、さらなる低駆動電圧化が可能となる。
【0068】
さらに、リブ導波路コア101では、中央領域105の右側の側部と側方領域110の左側の側部とが、互いに水平方向に並んで配置されており、これにより、PN接合が形成されている。同様に、リブ導波路コア101では、中央領域105の左側の側部と側方領域111の右側の側部とが、互いに水平方向に並んで配置されており、これにより、PN接合が形成されている。これらのPN接合についても、上述した逆バイアス電圧の印加によって空乏層113が形成される。中央領域105と側方領域110との間に形成される空乏層113、および、中央領域105と側方領域111との間に形成される空乏層113はいずれも、対応するリブ領域101rとスラブ領域101sとの境界にて、斜め方向に延伸している。その方向は、おのおのの直上にある側壁101rsの傾斜の方向と概ね平行である。
【0069】
なお、
図1に示す断面において、側壁101rsは斜め方向に直線状に延伸しているが、これに限定されない。すなわち、
図1に示す断面において、側壁101rsは、斜め方向に曲線状に延伸(
図2参照)していてもよいし、段差状に延伸(
図3参照)していてもよい。すなわち、高さhsにおけるリブ領域101rの幅が高さhrにおけるリブ領域101rの幅よりも広くなっていればよい。そしてこれにより、第1コア領域105の下端の幅が、アンドープ領域120の上端の幅よりも広く、かつ、第2コア領域の中央領域109の下端の幅が、第1コア領域の中央領域105の上端の幅よりも広くなっていればよい。
【0070】
また、本実施形態においては、
図1~
図3に示すように、アンドープ領域120の側壁120sおよび第1コア領域の中央領域105の側壁105sを傾斜させる構成を採用している。これにより、中央領域105と側方領域106との間、および、中央領域105と側方領域107との間において生じ得る第1コア領域の狭窄を防止している。しかしながら、本発明は、これに限定されない。すなわち、
図4に示すように、第1コア領域の中央領域105の幅をアンドープ領域120の幅よりも広くする構成を採用してもよい。これにより、アンドープ領域120の側壁120sおよび第1コア領域の中央領域105の側壁105sを傾斜させなくても、上述したような第1コア領域の狭窄を防止することができる。また、本実施形態においては、
図1~
図3に示すように、第1コア領域の中央領域105の側壁105sおよび第2コア領域の中央領域109の側壁(リブ領域101rの側壁101rs)を傾斜させる構成を採用している。これにより、中央領域109と側方領域110との間、および、中央領域109と側方領域111との間において生じ得る第2コア領域の狭窄を防止している。しかしながら、本発明は、これに限定されない。すなわち、
図4に示すように、第2コア領域の中央領域109の幅(リブ領域101rの幅)を第1コア領域の中央領域105の幅よりも広くする構成を採用してもよい。これにより、第1コア領域の中央領域105の側壁105sおよび第2コア領域の中央領域109の側壁を傾斜させなくとも、上述したような第2コア領域の狭窄を防止することができる。アンドープ領域120の側壁120sおよび第1コア領域の中央領域105の側壁105sを傾斜させる構成と、第1コア領域の中央領域105の幅をアンドープ領域120の幅よりも広くする構成とを組み合わせることにより、狭窄の防止効果はさらに高くなる。
【0071】
図1に示す断面における導波光の電界プロファイル(モードフィールド)を簡便な数値解析により求めるため、側壁101rsが垂直方向に沿った構造を用いてシミュレーションを行なった。その結果を
図5に示す。側壁101rsの水平方向からの角度は45度よりも大きいと、垂直方向に沿った構造での電界プロファイルと概ね同じである。よって、垂直方向に沿った構造での電界プロファイルを用いた解析のみによって、本発明での効果を見積もることが可能である。以下の議論において、電界プロファイルはすべて垂直方向に沿った構造での結果である。
図5に示すとおり、導波光のTE成分の基本モードにおける電界プロファイルは、両スラブ領域101sにも局在することとなる。
【0072】
なお、
図5において、導波光の電界は線形スケールによって表示されている。また、
図5では、wrが650nmであり、hrが220nmであり、hsが160nmであり、導波光の波長が1550nmであるものとしてプロファイルを導出している。両スラブ領域101sにおける空乏層113の垂直方向の位置を、リブ領域101rにおける空乏層113の垂直方向の位置より低くすることによって、リブ導波路コア101において、導波光の電界プロファイルと空乏層113との空間的重なりを増すことができる。
【0073】
図5に示した構造では、空乏層113が90°折れ曲がっている部分が存在している。但し、実際は、イオン注入時のドーパント元素の注入プロファイル、および、アニーリング時の熱拡散に影響されることによって、この折れ曲がり部分が丸みを帯びる場合がある。この折れ曲がり部分が丸みを帯びることは、空乏層113による効果にさほど影響を及ぼさない。
【0074】
上記PN接合が形成された部分に対する逆バイアス電圧が変化したとき、空乏層113における水平方向の拡がり(幅)は実質的に一定である。一方、このとき、空乏層113における垂直方向の拡がり(垂直方向の位置、または厚み)は変化する。リブ導波路コア101に局在する導波光のプロファイルによれば、この垂直方向の拡がりは、この水平方向の拡がりの概ね半分以下と小さい。従って、空乏層113の厚みを変化させるほうが、空乏層113の幅を変化させるよりも、屈折率変調の効率を向上させ、光導波路素子100の駆動電圧を低減することが容易である。
【0075】
以上の構成およびメカニズムによって、光導波路素子100により、下記の効果を奏する。
【0076】
凸部の存在のみにより、導波光がリブ領域101rおよびその近傍に局在されるため、側壁の粗さに起因する光の散乱が低減され、これにより、光導波路素子100では光損失が低減される。また、光導波路素子100では、その低駆動電圧化を実現するように、上述した第1の導電性を有する各領域および第2の導電性を有する各領域を最適化している。このとき、光導波路素子100の大型化とは異なる手段で、上記光損失の低減、および低駆動電圧化を図っているため、光導波路素子100の大型化を避けることができる。
【0077】
また、空乏層113が両スラブ領域101sに延伸されている。そして、両スラブ領域101sにおける空乏層113の垂直方向の位置は、リブ領域101rにおける空乏層113の垂直方向の位置と異なっている(具体的には、リブ領域101rにおける空乏層113の垂直方向の位置より低い)。これにより、リブ導波路コア101の全領域において、導波光の電界プロファイルと空乏層113との空間的重なりを増すことができる。これにより、キャリア密度を変化させる効率を高め、さらなる低駆動電圧化が可能となる。
【0078】
また、接続領域108および112の厚みはいずれもhsであり、対応するスラブ領域101sの厚みそのものである。これにより、直列抵抗(後述する低抵抗領域114から側方領域107との境界までの抵抗、および後述する低抵抗領域115から側方領域111との境界までの抵抗)が低減されるため、この直列抵抗と、上記PN接合による容量とから決まるRC時定数を小さくすることができる。この結果、光導波路素子100では、変調周波数の上昇を図ることができる。
【0079】
光導波路素子100では、
図1に示したリブ導波路コア101の断面形状によって、導波光の電界プロファイルが最適化される。一方、空乏層113の形状は、導波光の電界プロファイルと独立して、上述した第1の導電性を有する各領域および第2の導電性を有する各領域の配置、ひいてはドーパント分布によって最適化される。従って、光導波路素子100では、光損失の低減、および低駆動電圧化が容易である。
【0080】
なお、
図5では、光導波路素子100において、wrが650nmであり、hrが220nmであり、hsが160nmであるものとして説明を行ったが、wr、hr、およびhsの値はこれらに限定されない。すなわち、リブ導波路コア101を伝搬する導波光が理想的に単一のモードのみであり、かつ空乏層113が適切に形成される範囲で、光導波路素子100の各種寸法は適宜変更することができる。
【0081】
また、光導波路素子100では、第1の導電性がP型であり、第2の導電性がN型であるとしたが、第1の導電性がN型であり、第2の導電性がP型であってもよい。
【0082】
ここからは、光導波路素子100における上記PN接合の形成方法、および高周波電極が設けられた高速光変調素子について説明を行う。第1の導電性を有する各領域と、第2の導電性を有する各領域とを、互いに垂直方向に重ねて配置するためには、hsが100nm以上であることが好ましい。
【0083】
第1の導電性を有する各領域および第2の導電性を有する各領域は、ドーピングによって形成される。このドーピングを行う方法として例えば、イオン注入を採用することができる。光導波路素子100の上方から垂直方向に沿ってイオン注入を行う場合であって、リブ領域101rと両スラブ領域101sとに同時にイオン注入を行う際、リブ領域101rに対してイオンが侵入する距離と、両スラブ領域101sに対してイオンが侵入する距離とが概ね等しくなる。従って、リブ領域101rの上面と両スラブ領域101sの上面との空乏層113の垂直方向の位置を調節することによって、空乏層113を所望の位置に形成することが可能となる。また、リブ領域101rと両スラブ領域101sとに同時にイオン注入を行うことを可能とするためには、導波光の高次モードの伝搬を避けること、かつ、導波光の放射損失が増大しないことを条件として、hrおよびhsを最適値に調節することが必要である。
【0084】
ここで、
図5に示した導波光の電界プロファイルより、リブ領域101rでは、凸部の頂上から80nm~100nm程度下方に、空乏層113の垂直方向の中心を配置すると、導波光の電界が最大となる位置と垂直方向に概ね一致するため、導波光の電界プロファイルと空乏層113との重なりが概ね最大となる。また、各スラブ領域101sでは、対応するスラブ領域101sの垂直方向の中心付近に、空乏層113の垂直方向の中心を配置すると、導波光の電界が最大となる位置と垂直方向に概ね一致するため、導波光の電界プロファイルと空乏層113との重なりが概ね最大となる。
【0085】
側方領域106、側方領域107、側方領域110、および側方領域111は、垂直方向に互いに同じ厚みを有している。その結果、各スラブ領域101sにおける空乏層113の垂直方向の中心は、対応するスラブ領域101sの垂直方向の中心と一致する。側方領域106、側方領域107、側方領域110、および側方領域111の各々の厚みにおよそ5%以内のバラつきがあったとしても、光導波路素子100の光学特性および電気特性に対してほとんど影響を及ぼさない。よって、このバラつきの範囲内で、側方領域106、側方領域107、側方領域110、および側方領域111は同じ厚みとみなすことができる。
【0086】
リブ領域101rの上面と両スラブ領域101sの上面とのそれぞれの垂直方向の位置は、リブ領域101rと両スラブ領域101sとに同時にイオン注入を行うことによる上記PN接合の形成に概ね適合する。このようなイオン注入によって、光導波路素子100の製造プロセスを簡易化することができ、光導波路素子100の製造精度が向上する。従って、光導波路素子100を、他の回路と共に集積することが容易となる。このようなイオン注入に適合する条件を達成することが困難である場合、もしくは、リブ領域101rにおける空乏層113の垂直方向の中心と各スラブ領域101sにおける空乏層113の垂直方向の中心とを個別に調節する必要がある場合、リブ領域101rに対するイオン注入と、各スラブ領域101sに対するイオン注入とを個別に行えばよい。イオン注入された元素を活性化して導電性を向上させるため、必要に応じて各イオン注入段階において、アニール処理を行ってもよい。
【0087】
なお、光導波路素子100では、第1の導電性・第2の導電性が、P型・N型の組み合わせであってもよいし、N型・P型の組み合わせであってもよい旨上述した。これらの組み合わせのいずれを採用するかについては、注入する元素の拡散係数等の特性に応じて決定すればよい。
【0088】
中央領域105、側方領域106、側方領域107は、セルフアラインメントによって、1回のイオン注入により形成することができる。ここで、リブ導波路コア101の材質が結晶性シリコンであれば、注入するP型イオンとして例えば、ホウ素を用いることができる。イオン注入の加速電圧を調節することによって、中央領域105がリブ領域101rに形成され、側方領域106および107は、それぞれ対応するスラブ領域101sの概ね下半分に形成される。
【0089】
また、接続領域108を形成するためには、2段階のイオン注入が必要である。第1段階のイオン注入は、上述したセルフアラインメントによるイオン注入と共通である。これにより、接続領域108は、右側のスラブ領域101sの概ね下半分に形成される。また、第2段階のイオン注入では、光学マスク等を用いてイオンの注入領域を接続領域108の垂直方向に制限し、加速電圧を低減して、接続領域108を、右側のスラブ領域101sの概ね上半分に形成する。
【0090】
また、接続領域108におけるその上面を含む領域に対して、ドーズ量を増加させてイオン注入を行い、スラブ領域101sにおける接続領域108の内部に、第1の導電性を有する低抵抗領域114を形成する。
【0091】
また、光導波路素子100は、上部クラッド104に対して水平方向に設けられた垂直貫通配線116および117と、垂直貫通配線116の上方に設けられた表面電極118と、垂直貫通配線117の上方に設けられた表面電極119とをさらに備えている。ここでは、低抵抗領域114の上面に、垂直貫通配線116の一端を接続し、垂直貫通配線116の他端に、表面電極118を接続する。
【0092】
中央領域109、側方領域110、側方領域111は、セルフアラインメントによって、形成することができる。注入するN型イオンとして例えば、ヒ素を用いることができる。イオン注入の加速電圧を調節することによって、中央領域109がリブ領域101rにおける中央領域105の上に形成され、側方領域110および111は、それぞれ対応するスラブ領域101sの概ね上半分に形成される。
【0093】
また、接続領域112を形成するためには、接続領域108の形成と同様に、2段階のイオン注入が必要である。第1段階のイオン注入は、上述したセルフアラインメントによるイオン注入と共通である。これにより、接続領域112は、左側のスラブ領域101sの概ね下半分に形成される。また、第2段階のイオン注入では、光学マスク等を用いてイオンの注入領域を接続領域112の垂直方向に制限し、加速電圧を低減して、接続領域112を、左側のスラブ領域101sの概ね上半分に形成する。
【0094】
また、接続領域112におけるその上面を含む領域に対して、ドーズ量を増加させてイオン注入を行い、スラブ領域101sにおける接続領域112の内部に、第2の導電性を有する低抵抗領域115を形成する。
【0095】
ここでは、低抵抗領域115の上面に、垂直貫通配線117の一端を接続し、垂直貫通配線117の他端に、表面電極119を接続する。
【0096】
表面電極118および119は、高周波電極の一部である。垂直貫通配線116、垂直貫通配線117、表面電極118、および表面電極119の材質は例えば、金属アルミニウムまたは金属銅である。表面電極118および119の少なくとも一方に対して、DC(Direct current)ブロックとして機能するキャパシタ(図示しない)を介して、高周波電気信号を印加すると同時に、AC(Alternative current)ブロックとして機能するインダクタ(図示しない)を介して、DC逆バイアス電圧を印加することによって、高速光変調が可能である。
【0097】
ここで、空乏層113の幅は、導波光の水平方向における拡がりを実質的に全てカバーするような値に設定する。これにより、wd2は約300nm以上となる。導波光の水平方向における拡がりをカバーすることに関し、空乏層113の水平方向における両端は、リブ導波路コア101における導波光による電界のピーク値に対して、導波光による電界が約13dB減衰した点に位置することが好ましい。すなわち、空乏層113の水平方向の拡がりが導波光の電界ピーク値に対して約13dB減衰した点を越えると、上記PN接合による容量が増大し、RC時定数に起因する速度制限が顕著になる。これを避けるように、空乏層113の水平方向における端を配置することが好ましい。
【0098】
wd1は、700nm~1200nmであることが好ましい。これにより、中点101rcと接続領域108との水平方向の距離、および、中点101rcと接続領域112との水平方向の距離はいずれも、概ね1000nm~1500nmとなる。
【0099】
〔実施の形態2〕
図6の(a)はマッハ-ツェンダー干渉計のブロック図であり、
図6の(b)はマッハ-ツェンダー干渉計を備えた光変調器1の斜視図である。マッハ-ツェンダー干渉計は、外部からのノイズの影響を受けにくい、温度変化に対して変調動作の安定性が高い等の利点を有することから、光通信用の光変調器に多く採用されている。
【0100】
図6の(a)に示すマッハ-ツェンダー干渉計は、下記の構成を有している。入射側導波路305の入射端は、入射側の光ファイバ(図示しない)との光結合に用いられる。入射側導波路305の出射端は、光分岐部303の入射端と接続されている。光分岐部303の一方の出射端は、アーム導波路306の入射端と接続されており、光分岐部303の他方の出射端は、アーム導波路307の入射端と接続されている。アーム導波路306の出射端は、位相変調部301の入射端と接続されている。アーム導波路307の出射端は、位相変調部302の入射端と接続されている。位相変調部301の出射端は、アーム導波路308の入射端と接続されている。位相変調部302の出射端は、アーム導波路309の入射端と接続されている。アーム導波路308の出射端は、光合波部304の一方の入射端と接続されている。アーム導波路309の出射端は、光合波部304の他方の入射端と接続されている。光合波部304の出射端は、出射側導波路310の入射端と接続されている。出射側導波路310の出射端は、出射側の光ファイバ(図示しない)との光結合に用いられる。
【0101】
アーム導波路306、位相変調部301、およびアーム導波路308が、第1のアーム部を形成しており、アーム導波路307、位相変調部302、およびアーム導波路309が、第2のアーム部を形成している。
【0102】
位相変調部301および位相変調部302はそれぞれ、
図1に示した光導波路素子100を1つ含んでいる。より具体的に、
図6の(a)に示すD-D´断面が、
図1に示した断面と等しい。
【0103】
図6の(b)に示すとおり、光変調器1は、光通信に利用可能な光変調器であって、シリコン(Si)をベースとするPN接合に変調信号に応じた変調電界を印加することによって、入射した光を変調するシリコン光変調器である。光変調器1は、基板102と、下部クラッド103と、上部クラッド104とが、その順で積層された層状構造を有している。
【0104】
光変調器1には、マッハ-ツェンダー干渉計を構成する光導波路として、
図6の(a)に示した各部材が、下部クラッド103と上部クラッド104とに挟まれて設けられている。
【0105】
入射側導波路305、アーム導波路306、アーム導波路307、アーム導波路308、アーム導波路309、および出射側導波路310は、矩形コアを有する矩形導波路である。この矩形コアの材質は例えば、結晶性シリコンである。この矩形コアの幅および厚みは、それぞれwiおよびhrである。ここで、wiは500nmであり、TE成分の基本モードが導波光として、入射側導波路305、アーム導波路306、アーム導波路307、アーム導波路308、アーム導波路309、および出射側導波路310を伝搬する。光分岐部303および光合波部304は例えば、それぞれ、1×2多モード干渉計および2×2多モード干渉計によって構成されている。これらの各多モード干渉計の厚みはhrである。これらの各部材は、SOIウエファを用いて構成されている。
【0106】
位相変調部301および302の少なくとも一方に高周波電気信号を入力することによって、光強度変調が可能となる。また、位相変調部301および302に互いに相補的な高周波電気信号を入力し、プッシュプル駆動を行うことによって、光位相変調が可能となる。なお、高周波電気信号のシンボルレートは、10Gbaud以上である。
【0107】
アーム導波路306、位相変調部301、およびアーム導波路308間の接続では、光損失の増大および高次モード励起を避けるため、光導波路素子100部分において、リブ領域101rおよび両スラブ領域101sの幅を徐々に変化させるテーパ形状を形成することが好ましい。アーム導波路307、位相変調部302、およびアーム導波路309間の接続についても同様である。
【0108】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路素子100´の上面図である。なお、
図7では、水平方向および導波光伝搬方向を併せて示している。
図7において、導波光伝搬方向は、水平方向および垂直方向(
図1参照)の両方に対して垂直な方向である。
【0109】
光導波路素子100´は、リブ領域101rおよび両スラブ領域101sの水平方向の幅が、導波光伝搬方向の位置に依存して変化する点を除けば、
図1に示した光導波路素子100と同じ構成を有している。
図7に示す光導波路素子100´のD-D´断面が、
図1に示した光導波路素子100の断面と等しい。
【0110】
位相変調部301における入射端側において、光導波路素子100´は、アーム導波路306との接続のため、導波光伝搬方向に沿って、第1テーパ部401を有している。第1テーパ部401は、導波光の入射側に近いほど水平方向に沿った両スラブ領域101sの幅が小さくなるようなテーパ形状を有しており、その入射端における両スラブ領域101sの幅は概ね0である。第1テーパ部401におけるリブ領域101rの水平方向の幅は、第1テーパ部401の全域においてwiである。また、第1テーパ部401におけるリブ領域101rの断面形状は、アーム導波路306の矩形コアの断面形状と概ね合同である。第1テーパ部401の導波光伝搬方向における長さlaは、30μm(マイクロメートル)である。第1テーパ部401の出射端は、第2テーパ部402の入射端と接続されている。すなわち、第2テーパ部402は、第1テーパ部401における導波光の出射側の端部と隣接して配置されている。
【0111】
第2テーパ部402は、導波光の入射側に近いほど水平方向に沿ったリブ領域101rの幅が小さくなるようなテーパ形状を有している。第2テーパ部402の入射端におけるリブ領域101rの水平方向の幅は第1テーパ部401の同幅と同じwiであり、第2テーパ部402の出射端におけるリブ領域101rの水平方向の幅はwrである。第2テーパ部402の導波光伝搬方向における長さlbは、30μmである。
【0112】
なお、laおよびlbはいずれも、30μmに限定されず、光導波路素子100´における光損失の増大および高次モード励起を防ぐことができる限り短くしてもよい。
【0113】
アーム導波路306の矩形コアの幅(wi)が500nmより大きくなると、高次モード励起が生じる虞が高くなる。高次モード励起が生じると、光強度変調における消光比または光位相変調におけるQ値が低下する。
【0114】
一方、光導波路素子100´では、リブ領域101rの幅(wr)が700nm以上に大きくならない限りは、高次モード励起が生じない。よって、第1テーパ部401において、矩形コアと合同の断面形状を有しているリブ領域101rに両スラブ領域101sを追加すると共に、両スラブ領域101sの水平方向の幅を徐々に拡げる。また、第2テーパ部402において、リブ領域101rの水平方向の幅をwi(500nm)からwr(650nm)に徐々に拡げる。こうして、光損失が小さく、消光比またはQ値が高い光変調素子を構成することができる。そして、光導波路素子100´を、マッハ-ツェンダー干渉計の位相変調部301として用いた場合に、光損失の増大および高次モード励起が引き起こされることを防ぐことができる。
【0115】
なお、
図7では、アーム導波路306と位相変調部301との接続を例に説明を行ったが、アーム導波路307と位相変調部302との接続についても、光導波路素子100´の構成を適用することができる。
【0116】
さらに、位相変調部301とアーム導波路308との接続、ならびに、位相変調部302とアーム導波路309との接続についても、光導波路素子100´の構成を適用することができる。この場合、アーム導波路306と位相変調部301との接続の例に対して、入射端と出射端とを反対にすればよい。
【0117】
位相変調部301および302の、導波光伝搬方向における長さは例えば、3mm(ミリメートル)である。
【0118】
(空乏層および導電性を有する各領域のプロファイル)
図8および
図9はそれぞれ、
図5と同様に、側壁101rsが垂直方向に沿った構造における導波光の電界プロファイルである。
図8および
図9には、空乏層113のプロファイルの一例が、導波光(TEモード)の電界絶対値の等高線およびリブ導波路コア101の輪郭と共に表示されている。空乏層113のこれらのプロファイルは側壁101rsが垂直方向に沿った構造でのプロファイルである。但し、斜め方向に沿った場合のプロファイルとの相違は、リブ領域101rと両スラブ領域101sとの境界の直下での接続部分が直角に屈曲するか、非直角に屈曲するかの相違のみであり、モードフィールドとの重なりへの影響は無視できる。よって、側壁101rsが斜め方向に沿った構造でも、
図8および
図9の結果を適用することができる。
【0119】
なお、この等高線は、導波光の電界絶対値のピークを1に規格化し、電界絶対値が1dB間隔で描かれている。
図8および
図9において“0”と表示された点が、電界絶対値のピーク(0dB)を示している。
図8に示されたプロファイルを有する空乏層113によって、導波光電界プロファイルと空乏層113との重なりが最大となり、光導波路素子100の駆動電圧を低減するという効果が最大となる。
【0120】
図8および
図9において、空乏層113の水平方向の両端の位置は概ね、導波光電界の絶対値がピーク値より13dB減衰する点にある。この場合、空乏層113の水平方向の拡がりは、当該ピーク値の位置を中心として水平方向両側にそれぞれ約1μmである。この場合、
図6の(a)等に示した位相変調部301および302(それぞれ、長さ3mm)では、上述したPN接合による電気容量は約12pFである。このPN接合に接続される直列電気抵抗は、PN接合の両側に対して合計して約8オームであるので、RC時定数は約100psとなる。10Gbaud以上のシンボルレートで駆動するには、RC時定数が概ね100ps以下であることが必要とされ、このPN接合による電気容量は12pFであることが好ましい。電気容量は、空乏層113の水平方向の拡がりに概ね比例するので、空乏層113の水平方向における両端の位置は、導波光電界の絶対値がピーク値より概ね13dB減衰する点よりも、空乏層113の中心側に存在することが好ましい。
図8または
図9と異なる空乏層113のプロファイルを呈する場合であっても、同様のことが言える。
【0121】
リブ導波路コア101の両スラブ領域101sでは、空乏層113の垂直方向の位置(高さ)は、リブ導波路コア101の下面を基準として両スラブ領域101sの厚みの半分の位置、すなわち、hs/2とする。これにより、両スラブ領域101sでの導波光の電界プロファイルと空乏層113との重なりが最大となる。従って、リブ導波路コア101の下面の高さを基準とした、両スラブ領域101sにおける空乏層113の高さは、hs/2(但し、hs:両スラブ領域101sの厚み)であることが好ましい。
【0122】
ここで、リブ導波路コア101において、両スラブ領域101sの下面とリブ領域101rの下面とはいずれも、垂直方向の位置が同じであり、リブ導波路コア101の下面は平坦である。両スラブ領域101sでは、垂直方向に関し、下半分に側方領域106および側方領域107が形成されており、上半分に側方領域110および側方領域111が形成されていることにより、直列電気抵抗が低減されている。両スラブ領域101sにおいて、側方領域106、側方領域107、側方領域110、および側方領域111の厚みはそれぞれ、hs/2である。
【0123】
リブ領域101rにおいて、導波光の電界プロファイルと空乏層113との重なりを最大とするためには、リブ導波路コア101の下面の高さを基準とした、リブ領域101rにおける空乏層113の高さを、hr/2とする。
【0124】
リブ領域101rでは、直列電気抵抗を低減するという観点から、側方領域106および107より厚い中央領域105、ならびに、側方領域110および111より厚い中央領域109を形成することができる。一方、この場合、キャリア吸収による光損失は大きくなる。そこで、光導波路素子100では、中央領域105の厚みを側方領域106および107と同じとし、中央領域109の厚みを側方領域110および111と同じとする。リブ導波路コア101の下面の高さを基準とした場合、リブ領域101rにおける中央領域105の下面の高さは、hr/2-hs/2であり、リブ領域101rにおける中央領域109の上面の高さは、hr/2+hs/2である。
【0125】
また、リブ領域101rは、中央領域105および109の直上、ならびに、中央領域105および109の直下のうち少なくとも一方に、P型またはN型ドーパントが意図的に注入されていないアンドープ領域を有している。当該アンドープ領域では、わずかに拡散によるドーパント分布が生じるケースもあり得るが、このケースは光導波路素子100の光学的特性にほとんど影響を与えない。
【0126】
このような空乏層113を形成するためには、光学リソグラフィとドライエッチングとにより、リブ導波路コア101を形成し、その後、リブ領域101rと両スラブ領域101sとに、別々にイオン注入を行う。リブ領域101rにおけるイオン注入と両スラブ領域101sにおけるイオン注入とは、どちらを先に行っても構わない。直列抵抗の低減が必要である場合、中央領域105および109の厚みを大きくすればよい。
【0127】
図8に示したプロファイルでは、リブ領域101rと両スラブ領域101sとの境界において、空乏層113が垂直方向に延伸している。これにより、中央領域105と側方領域106との接続に伴う電気抵抗、中央領域105と側方領域107との接続に伴う電気抵抗、中央領域109と側方領域110との接続に伴う電気抵抗、ならびに、中央領域109と側方領域111との接続に伴う電気抵抗のうち少なくとも1つが大きくなり、これにより直列電気抵抗が大きくなる虞がある。これを避けるために、空乏層113は、
図9に示すように、水平方向に一直線に(垂直方向に延伸する部分が無いように)形成されてもよい。この場合、リブ領域101rにおける空乏層113の高さは、両スラブ領域101sにおける空乏層113の高さと同じくhs/2とする。またこのとき、リブ領域101rにおける中央領域109の上面の高さは、hsとなる。
【0128】
このような空乏層113を形成するためには、まず、リブ領域101rと両スラブ領域101sとに、同時にイオン注入を行う。この段階では、エッチング後において、リブ導波路コア101における将来両スラブ領域101sとなる位置の厚みは、リブ領域101rの厚みと等しく、hrである。その後、光学リソグラフィとドライエッチングとによりリブ導波路コア101が形成され、両スラブ領域101sの高さがhsとなる。
【0129】
他の回路との集積化を行うという目的のため、光学リソグラフィとドライエッチングとによるリブ導波路コア101の形成をイオン注入前に行い、かつ、イオン注入工程の簡便化のために、リブ領域101rと両スラブ領域101sとに同時にイオン注入を行い、空乏層113を形成することが可能である。この場合、空乏層113のプロファイルは、
図8および
図9に示したものとは異なる。リブ領域101rにおいて、空乏層113の垂直方向の位置はhr-hs/2であり、中央領域105の下面の高さはhr-hsである。
【0130】
以上より、導波光の電界プロファイルと空乏層113との重なりの増大による駆動電圧の低減、直列電気抵抗低減による高速屈折率変調、集積化のための加工プロセスの簡便化のいずれを第一優先に選択するかに応じて、空乏層113のプロファイルが異なる。これらに対して、リブ領域101rにおける空乏層113の垂直方向の位置(高さ)は、リブ導波路コア101の下面の高さから測って、基板102から離れる方向(上方向)に向かって、hs/2以上、かつ、hr-hs/2以下(但し、hs:両スラブ領域101sの厚み、hr:リブ領域101rの厚み)の範囲となる。
【0131】
なお、以上では、光導波路素子100について説明を行ったが、光導波路素子100´においても同様のことが言える。また、以上の説明は、第1の導電性・第2の導電性が、P型・N型の組み合わせであっても成立するし、N型・P型の組み合わせであっても成立する。
【0132】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0133】
100および100´ 光導波路素子
101 リブ導波路コア(コア部)
101r リブ領域
101rs 凸部の側壁
101s スラブ領域
105 中央領域(第1コア領域の一部)
106 側方領域(第1コア領域の一部)
107 側方領域(第1コア領域の一部)
108 接続領域(第1コア領域の一部)
109 中央領域(第2コア領域の一部)
110 側方領域(第2コア領域の一部)
111 側方領域(第2コア領域の一部)
112 接続領域(第2コア領域の一部)
113 空乏層
401 第1テーパ部
402 第2テーパ部