(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】テンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20220309BHJP
【FI】
F16H7/08 B
(21)【出願番号】P 2017151816
(22)【出願日】2017-08-04
【審査請求日】2020-07-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 大仁
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-48305(JP,A)
【文献】特開2011-226534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、
前記本体部に出没自在に設けられたプランジャと、
前記本体部および前記プランジャによって形成された高圧室と、
前記高圧室に連通する1または複数の開口部と、
前記プランジャの位置に応じて、前記高圧室と前記開口部との連通開度を変える開度可変機構と、
を備え、
前記開口部は、
第1の開口部と、
前記第1の開口部よりも開口面積が広い第2の開口部と、を含み、
前記開度可変機構は、
前記高圧室と前記第2の開口部との連通開度を変えるバルブ
と、
前記プランジャに設けられたラックと、
前記ラックに噛合され、前記プランジャの前進および後退に応じて揺動するラチェットカムと、を含み、
前記プランジャの突出度が、プランジャストロークの途中に設定された境界位置に対応する突出度よりも大きい場合、前記バルブを開いて主に前記第2の開口部からオイルをリークさせ、前記プランジャの突出度が、前記境界位置に対応する突出度よりも小さくなった場合、前記バルブを閉じて前記第1の開口部からオイルをリークさせ
、
前記ラチェットカムの姿勢に応じて前記バルブの開閉を制御するテンショナ。
【請求項2】
プランジャストロークの途中において、前記開度可変機構によって前記連通開度を変えることで、リークダウンタイムを可変とした請求項1に記載のテンショナ。
【請求項3】
前記開度可変機構は、
前記ラチェットカムと前記バルブとの間に設けられ、前記ラチェットカムの姿勢に応じて前記バルブを開閉させるプッシュロッドを含み、
前記ラチェットカムと前記プッシュロッドとの間に、プランジャストロークの底付き位置と前記境界位置との距離に応じた隙間を有する請求項
1または2に記載のテンショナ。
【請求項4】
前記ラチェットカムは、前記ラックにおける前記ラチェットカムに噛み合わされている歯を飛び越えて前記プランジャが前進するのを許容する一方、前記ラックにおける前記ラチェットカムに噛み合わされている歯を飛び越えて前記プランジャが後退するのを規制する請求項
1から3のいずれか1項に記載のテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトおよびカムシャフトに架け渡されたチェーン等の張力を調整するテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのクランクシャフトおよびカムシャフトには、クランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するチェーンが架け渡されている。エンジンには、チェーンの張力を調整するテンショナが設けられている。テンショナは、本体部に対して突出するプランジャが前進および後退することでチェーンの張力を調整する。また、テンショナには、プランジャの後退を規制するラチェットカムが設けられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンの動作状況などによってチェーンの張力が変化するため、テンショナのプランジャは、チェーンの張力変化に対応した安定した動作が望まれる。特に、近年では、チェーンの張力が増加方向に変化する要因が増えているため、プランジャがラチェットカムによって後退が規制される位置まで後退することが頻繁に起こり得る。このようなことが頻繁に起こると、プランジャやラチェットカムなどに損傷が生じ、テンショナの信頼性が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、プランジャの動作をより安定させたテンショナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のテンショナは、本体部と、前記本体部に出没自在に設けられたプランジャと、前記本体部および前記プランジャによって形成された高圧室と、前記高圧室に連通する1または複数の開口部と、前記プランジャの位置に応じて、前記高圧室と前記開口部との連通開度を変える開度可変機構と、を備え、前記開口部は、第1の開口部と、前記第1の開口部よりも開口面積が広い第2の開口部と、を含み、前記開度可変機構は、前記高圧室と前記第2の開口部との連通開度を変えるバルブと、前記プランジャに設けられたラックと、前記ラックに噛合され、前記プランジャの前進および後退に応じて揺動するラチェットカムと、を含み、前記プランジャの突出度が、プランジャストロークの途中に設定された境界位置に対応する突出度よりも大きい場合、前記バルブを開いて主に前記第2の開口部からオイルをリークさせ、前記プランジャの突出度が、前記境界位置に対応する突出度よりも小さくなった場合、前記バルブを閉じて前記第1の開口部からオイルをリークさせ、前記ラチェットカムの姿勢に応じて前記バルブの開閉を制御する。
【0007】
また、プランジャストロークの途中において、前記開度可変機構によって前記連通開度を変えることで、リークダウンタイムを可変としてもよい。
【0010】
また、前記開度可変機構は、前記ラチェットカムと前記バルブとの間に設けられ、前記ラチェットカムの姿勢に応じて前記バルブを開閉させるプッシュロッドを含み、前記ラチェットカムと前記プッシュロッドとの間に、プランジャストロークの底付き位置と前記境界位置との距離に応じた隙間を有してもよい。
【0011】
また、前記ラチェットカムは、前記ラックにおける前記ラチェットカムに噛み合わされている歯を飛び越えて前記プランジャが前進するのを許容する一方、前記ラックにおける前記ラチェットカムに噛み合わされている歯を飛び越えて前記プランジャが後退するのを規制してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プランジャの動作をより安定させたテンショナを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】チェーンカバーが取り外された状態のエンジンの構成の一部を示す部分正面図である。
【
図3】プランジャが天井位置付近まで前進した状態のテンショナの構成を示す断面図である。
【
図4】プランジャの先端が境界位置にある状態のテンショナの構成を示す断面図である。
【
図5】プランジャが底付き位置まで後退した状態のテンショナの構成を示す断面図である。
【
図6】プランジャストロークとリークダウンタイムの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、チェーンカバーが取り外された状態のエンジン1の構成の一部を示す部分正面図である。エンジン1は、水平対向型エンジンである。
図1では、エンジン1の左バンク側のチェーン室内が示されている。エンジン1の右バンク側については、左バンク側とほぼ同様であるため、説明を省略する。
【0016】
エンジン1は、シリンダブロック2と、シリンダヘッド3と、ヘッドカバー4と、を含んで構成される。シリンダブロック2は、右バンク側のシリンダブロック(図示略)に接合されている。シリンダブロック2には、右バンク側のシリンダブロックとは反対側にシリンダヘッド3が接合されている。シリンダヘッド3には、シリンダブロック2とは反対側にヘッドカバー4が接合されている。
【0017】
シリンダブロック2内には、シリンダボア(図示略)が形成されており、シリンダボアには、ピストン(図示略)が水平方向に摺動可能に配置されている。シリンダボア、ピストンの冠面およびシリンダヘッド3は、燃焼室を形成する。シリンダブロック2には、燃焼室に開口する吸気ポート(図示略)および排気ポート(図示略)が設けられている。吸気ポートは、シリンダヘッド3に設けられた吸気バルブ(図示略)によって開閉され、排気ポートは、シリンダヘッド3に設けられた排気バルブ(図示略)によって開閉される。
【0018】
シリンダブロック2と右バンク側のシリンダブロックとの間には、クランクシャフト5が回転自在に支持されている。クランクシャフト5は、ピストンに接続されており、ピストンの往復動作に従って回転する。クランクシャフト5には、駆動用スプロケット6が取り付けられている。
【0019】
シリンダヘッド3には、吸気用カムシャフト7と、排気用カムシャフト9とが回転自在に支持されている。吸気用カムシャフト7には、吸気バルブを駆動するカム(図示略)が設けられており、排気用カムシャフト9には、排気バルブを駆動するカム(図示略)が設けられている。吸気用カムシャフト7には、カムスプロケット8が取り付けられており、排気用カムシャフト9には、カムスプロケット10が取り付けられている。
【0020】
駆動用スプロケット6と、カムスプロケット8と、カムスプロケット10とには、チェーン11が架け渡されている。チェーン11は、複数の駒が連続して繋ぎ合わされることによってループ状に形成されたローラーチェーンである。
【0021】
クランクシャフト5に従って駆動用スプロケット6が、
図1において時計回りに回転すると、チェーン11は、時計回りに移動して、カムスプロケット8およびカムスプロケット10を回転させる。すなわち、クランクシャフト5が回転すると、チェーン11を介して吸気用カムシャフト7および排気用カムシャフト9が回転する。これにより、ピストンの往復動作と、吸気バルブの開閉動作と、排気バルブの開閉動作との同期が図られる。
【0022】
チェーン11の張り側である駆動用スプロケット6とカムスプロケット10との間には、チェーン11の移動を案内するチェーンガイド12が設けられている。
【0023】
チェーン11の緩み側である駆動用スプロケット6とカムスプロケット8との間には、チェーンレバー13が設けられている。チェーンレバー13は、細長い湾曲した板状に形成されている。チェーンレバー13のカムスプロケット8側の端部には、チェーンレバー13をシリンダヘッド3に軸支する支持部14が設けられている。チェーンレバー13は、支持部14を支点として、駆動用スプロケット6側が移動可能となっている。
【0024】
チェーンレバー13の駆動用スプロケット6側におけるチェーン11とは反対側には、テンショナ20が設けられている。テンショナ20は、後に詳述するが、本体部210およびプランジャ220を有する。本体部210は、シリンダブロック2に固定されている。プランジャ220は、本体部210に出没自在に設けられる。プランジャ220は、突出度が増加する向きに前進可能であるとともに、突出度が減少する向きに後退可能となっている。プランジャ220の突出した先端は、チェーンレバー13に接している。テンショナ20は、プランジャ220の前進および後退に従ってチェーンレバー13を移動させることで、チェーン11の張力を調整する。
【0025】
図2は、テンショナ20の構成を示す断面図である。テンショナ20は、本体部210、プランジャ220および開度可変機構200を含んで構成される。開度可変機構200は、バルブ250、プランジャ220に設けられたラック226、ラチェットカム260およびプッシュロッド270を含んで構成される。
【0026】
本体部210には、円筒状の窪み部211が設けられている。この窪み部211には、円筒状のプランジャ220が収容される。プランジャ220が窪み部211に収容された状態で、プランジャ220の先端221は、本体部210から突出する。
【0027】
プランジャ220には、先端221とは反対側の端部から先端221側へ向かって窪む窪み部222が設けられている。窪み部222には、スプリング225が収容されている。スプリング225は、本体部210の窪み部211の底部212からプランジャ220の窪み部222の底部223に至るように配置されている。プランジャ220は、窪み部211の深さ方向に摺動可能となっている。プランジャ220の突出度が増加する方向を前進方向または上方向と呼び、突出度が減少する方向を後退方向または下方向と呼ぶ。
【0028】
窪み部211の底部212には、通路214に開口する開口部215が設けられている。通路214は、エンジンおよびギアで使用されるオイルが蓄えられるオイルギャラリ(図示略)に繋がっている。開口部215の周りには、開口部215に向かって内径を小さくする台座216が設けられている。台座216には、チェックボール217が配置される。チェックボール217は、台座216と接することで開口部215を閉じ、台座216から離れることで開口部215を開く。開口部215が開かれると、本体部210の窪み部211およびプランジャ220の窪み部222によって形成される第1の空間231に、オイルギャラリから高圧のオイルが供給される。
【0029】
本体部210には、底部212近傍において窪み部211から横に延びる通路232と、通路232に繋がる横穴部233とが設けられている。横穴部233によって形成される第2の空間234は、通路232内の空間を介して、第1の空間231に連通する。第1の空間231および第2の空間234は、オイルギャラリから供給される高圧のオイルで満たされる高圧室240である。
【0030】
窪み部211の底部212とは反対側の端部には、プランジャ220と本体部210との隙間(具体的には、プランジャ220の側面と窪み部211の側面とによって形成される隙間)を外部空間に開口する第1の開口部241が形成される。第1の開口部241は、高圧室240に連通する。プランジャ220と本体部210との隙間は油膜程度であるため、第1の開口部241の開口面積は、非常に小さい。第1の開口部241は、高圧室240に満たされたオイルを外部空間にリークする。
【0031】
横穴部233には、バルブ250が設けられる。バルブ250は、略円錐台状のバルブ本体部251と、棒状部材252とを含んで構成される。バルブ本体部251は、上底部253がプランジャ220の先端221側に向き、上底部253よりも面積が広い下底部254が横穴部233の底部235に向くように配置される。棒状部材252は、下底部254から延び、横穴部233の底部235に設けられたバルブガイド255に挿入され、上下方向に摺動可能となっている。バルブ本体部251の下底部254と横穴部233の底部235との間には、バルブ250を底部235から離れる方向に付勢するスプリング256が設けられている。
【0032】
本体部210には、横穴部233におけるバルブ250の直上の位置に縦穴部236が設けられている。縦穴部236には、バルブ本体部251と組み合わされるバルブシート257が設けられている。バルブシート257には高圧室240に開口する開口部258が設けられている。バルブ250は、バルブシート257と接することで開口部258を閉じ、バルブシート257から離れることで開口部258を開く。
【0033】
本体部210には、縦穴部236から横に延びる通路237が設けられている。通路237内の空間は、バルブシート257の開口部258の開口に連通している。また、通路237における縦穴部236とは反対側の端部には、外部空間に開口する第2の開口部242が設けられている。第2の開口部242は、開口部258を介して高圧室240に連通する。第2の開口部242の開口面積は、第1の開口部241の開口面積に比べて大きい。第2の開口部242は、高圧室240に満たされたオイルを外部空間にリークする。
【0034】
プランジャ220の側面には、ラック226が設けられている。ラック226は、複数の歯がプランジャ220の長手方向(すなわち、摺動方向)に形成されたものである。
【0035】
本体部210には、ラチェットカム260が設けられている。ラチェットカム260は、ブロック状の本体部261と、歯部262と、歯部262とは反対側に突出するレバー部263とを含んで構成される。ラチェットカム260は、ラック226における隣り合う歯の間に形成される谷部に歯部262が挿入されることでラック226に噛み合わされる。本体部261には、ラチェットカム260を本体部210に軸支する支持部264が設けられている。ラチェットカム260は、歯部262がラック226に噛み合わされているため、プランジャ220の前進および後退に応じて、支持部264を支点として揺れ動く。
【0036】
また、ラチェットカム260は、ラック226におけるラチェットカム260に噛み合わされている歯を飛び越えてプランジャ220が前進するのを許容する一方、ラック226におけるラチェットカム260に噛み合わされている歯を飛び越えてプランジャ220が後退するのを規制する。
【0037】
ここで、ラチェットカム260によって後退が規制されたときのプランジャ220の先端221の位置を底付き位置と呼び、ラック226におけるラチェットカム260が噛み合わされている歯を飛び越えてプランジャ220が前進する直前のプランジャ220の先端221の位置を天井位置と呼ぶこととする。また、底付き位置から天井位置までのプランジャ220の移動範囲、換言すると、ラチェットカム260がラック226の歯を飛び越えないでプランジャ220が移動する範囲をプランジャストロークと呼ぶこととする。通常、このプランジャストローク内で、チェーン11の張力に応じてプランジャ220が前進および後退を繰り返し、ラチェットカム260が揺れ動く。そして、チェーン11が経年劣化等で緩むと、ラチェットカム260がラック226の歯を1つ飛び越えてプランジャ220が前進し、その飛び越えた後のプランジャストローク内で、ラチェットカム260が揺れ動く。
【0038】
本体部210には、縦穴部236からラチェットカム260に向かって貫通する貫通穴238が設けられている。貫通穴238内の空間は、バルブシート257の開口部258の開口に連通している。貫通穴238には、プッシュロッド270が摺動可能に挿入される。
【0039】
プッシュロッド270の下端部271は、バルブ250の上底部253に接する。プッシュロッド270の上端部272は、ラチェットカム260のレバー部263の直下に配される。プッシュロッド270は、ラチェットカム260の姿勢に応じて、上下方向に摺動し、バルブ250を開閉させる。具体的には、上端部272がレバー部263によって下方に押されると、下端部271がバルブ250を下方に押し、バルブ250は、バルブシート257から離れて開口部258を開く。一方、レバー部263が上方に移動すると、スプリング256の付勢力によってバルブ250およびプッシュロッド270が上方に移動し、バルブ250は、バルブシート257に接して開口部258を閉じる。
【0040】
ここで、バルブ250による開口部258の開閉が切り替わるときのプランジャ220の先端221の位置を境界位置と呼ぶこととする。境界位置は、プランジャストロークの途中(すなわち、天井位置と底付き位置との間)に設定されている。
【0041】
プランジャ220の先端221が底付き位置にある状態において、レバー部263とプッシュロッド270との間には、所定の隙間が設けられる。境界位置は、プランジャ220の先端221が底付き位置にあるときのレバー部263とプッシュロッド270との隙間の距離によって設定される。境界位置は、例えば、境界位置と底付き位置との距離が1mm程度となるように設定されている。
【0042】
バルブ250によって開口部258が開いている状態では、高圧室240のオイルは、主に第2の開口部242を介して外部空間にリークされる。一方、バルブ250によって開口部258が閉じている状態では、高圧室240のオイルは、第2の開口部242からはリークされず、第2の開口部242よりも開口面積が狭い第1の開口部241を介して外部空間にリークされる。すなわち、開度可変機構200は、プランジャ220の位置に応じて、高圧室240と第2の開口部242との連通開度を変える。
【0043】
次に、テンショナ20の動作を説明する。オイルギャラリのオイルの圧力が高圧室240のオイルの圧力よりも高くなると、チェックボール217が台座216から離れて開口部215が開き、オイルギャラリのオイルが高圧室240に供給される。高圧室240にオイルが供給されて高圧室240のオイルの圧力が高くなると、プランジャ220は、前進して、チェーンレバー13をチェーン11に押し付ける方向に移動させる。
【0044】
図3は、プランジャ220が天井位置付近まで前進した状態のテンショナ20の構成を示す断面図である。プランジャ220の先端221が天井位置付近にある状態では、ラチェットカム260は、レバー部263が大きく下がった姿勢となる。この場合、レバー部263は、プッシュロッド270を大きく押し下げることで、バルブ250を大きく押し下げる。これにより、バルブ250は、バルブシート257から離れた状態に維持され、開口部258が開いた状態に維持される。この場合、高圧室240のオイルは、バルブ250によって開かれた開口部258および第2の開口部242を通って外部空間にリークされる。第2の開口部242は第1の開口部241よりも開口面積が広いため、高圧室240のオイルは、第1の開口部241からはあまりリークされず、主に第2の開口部242から多くリークされることとなる。
【0045】
高圧室240のオイルが第2の開口部242からリークされる場合、リークダウンタイムは小さい。リークダウンタイムは、プランジャ220に所定の荷重をかけた時の、プランジャ220を所定距離だけ押し込むまでにかかる時間のことである。
【0046】
チェーン11の張力によるプランジャ220を押し込む力が、高圧室240におけるプランジャ220に作用する圧力(プランジャ220の受圧面に作用する押圧力)と、スプリング225の付勢力との合計に打ち勝つと、プランジャ220が後退する。一方、高圧室240におけるプランジャ220に作用する圧力と、スプリング225の付勢力との合計が、チェーン11の張力によるプランジャ220を押し込む力に打ち勝つようになると、プランジャ220が前進する。このように、プランジャ220は、高圧室240のオイルの圧力とスプリング225の付勢力に応じて前進および後退を繰り返す。また、高圧室240のオイルの圧力がオイルギャラリのオイルの圧力よりも大きくなると、チェックボール217が台座216に接して開口部215が閉じ、その状態でプランジャ220が前進および後退する。
【0047】
また、プランジャ220が後退すると、ラチェットカム260のレバー部263が上がっていき、バルブ250およびプッシュロッド270は、スプリング256の付勢力によって上方へ移動する。
【0048】
バルブ250がバルブシート257に接して開口部258を閉じるまでプランジャ220が後退すると、プランジャ220の先端221は、境界位置に至る。
図4は、プランジャ220の先端221が境界位置にある状態のテンショナ20の構成を示す断面図である。開口部258が閉じられると、高圧室240のオイルは、第2の開口部242からリークされず、第1の開口部241から外部空間にリークされる。第1の開口部241の開口面積が第2の開口部242の開口面積よりも狭いため、高圧室240のオイルが第1の開口部241からリークされる場合、第2の開口部242からリークされる場合に比べ、リークダウンタイムが大きい。
【0049】
図5は、プランジャ220が底付き位置まで後退した状態のテンショナ20の構成を示す断面図である。この場合、レバー部263が水平になるまで上がる一方、プッシュロッド270がバルブ250上に保持されるため、ラチェットカム260とプッシュロッド270との間に所定の隙間が生じる。また、この場合、バルブ250によって開口部258が閉じた状態に維持されるため、高圧室240のオイルは、第1の開口部241からのみリークされる。
【0050】
図6は、プランジャストロークとリークダウンタイムの関係を示す図である。なお、
図6では、リークダウンタイムをLDTと表記している。
【0051】
例えば、ラチェットカム260の歯部262(より具体的には、上下2つの歯部262のうちの上の歯部262)がラック226の上から3番目の谷部に挿入されているとする。この場合、プランジャ220は、この3番目の谷部に従った3番目のプランジャストローク内で前進および後退を繰り返す。
【0052】
プランジャストロークにおける天井位置と境界位置との間の範囲は、プランジャ220の突出度が境界位置に対応する突出度よりも大きい範囲である。一方、プランジャストロークにおける境界位置と底付き位置との間の範囲は、プランジャ220の突出度が境界位置に対応する突出度よりも小さい範囲である。
【0053】
プランジャ220の先端221が天井位置と境界位置との間にある場合、バルブ250によって開口部258が開いており、主に第2の開口部242からオイルがリークされるため、リークダウンタイムが小さい。一方、プランジャ220の先端221が境界位置と底付き位置との間にある場合、バルブ250によって開口部258が閉じており、第1の開口部241からのみオイルがリークされるため、天井位置と境界位置との間にある場合に比べ、リークダウンタイムが大きい。
【0054】
すなわち、テンショナ20は、プランジャ220の突出度が、プランジャストロークの途中に設定された境界位置に対応する突出度よりも小さくなった場合、境界位置に対応する突出度よりも大きい場合に比べ、バルブ250等の開度可変機構200によって連通開度を小さくすることで、リークダウンタイムを大きくする。
【0055】
プランジャ220の先端221が境界位置と底付き位置との間にある場合、天井位置と境界位置との間にある場合に比べ、リークダウンタイムが大きいため、高圧室240の圧力が高くなり、チェーン11の張力によるプランジャ220を押し込む力に抗する力が大きくなる。このため、プランジャ220の先端221が境界位置を超えて天井位置側から底付き位置側に移動すると、プランジャ220は、後退がより抑制される。そして、高圧室240におけるプランジャ220に作用する圧力と、スプリング225の付勢力との合計が、チェーン11の張力によるプランジャ220を押し込む力に打ち勝つようになると、プランジャ220が前進するようになり、プランジャ220の先端221は、底付き位置側から境界位置を超えて天井位置側へ戻る。これにより、プランジャ220の先端221が底付き位置に到達することが少なくなる。
【0056】
また、例えば、ラチェットカム260の歯部262がラック226の上から3番目の谷部に挿入されている状態から、ラチェットカム260の歯部262が、ラック226の歯を飛び越えて、ラック226の上から4番目の谷部に挿入されると、プランジャ220は、この4番目の谷部に従った4番目のプランジャストローク内で前進および後退を繰り返す。4番目のプランジャストロークは、3番目のプランジャストロークよりも前進側に所定距離だけシフトされた位置にある。4番目のプランジャストロークにおいても、3番目のプランジャストロークと同様、プランジャストロークの途中において境界位置があり、プランジャ220の突出度が境界位置に対応する突出度よりも小さくなった場合、境界位置に対応する突出度よりも大きい場合に比べ、リークダウンタイムが大きくなる。
【0057】
以上のように、テンショナ20は、プランジャストロークの途中において、開度可変機構200によって高圧室240と第1の開口部241および第2の開口部242との連通開度を変えることで、リークダウンタイムを可変とした。これにより、テンショナ20は、プランジャ220の動作がより安定する。そして、テンショナ20は、プランジャ220の先端221が底付き位置に到達することが少なくなるため、プランジャ220やラチェットカム260などに損傷が生じるのを抑制することができ、テンショナ20の信頼性の低下を抑制することができる。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0059】
上記実施形態において、クランクシャフト5、吸気用カムシャフト7および排気用カムシャフト9には、チェーン11が架け渡されており、テンショナ20は、チェーンレバー13を介してチェーン11の張力を調整していた。しかし、クランクシャフト5、吸気用カムシャフト7および排気用カムシャフト9にベルトが架け渡されており、テンショナ20は、そのベルトの張力を調整してもよい。
【0060】
また、上記実施形態において、ラチェットカム260は、プッシュロッド270を介してバルブ250を開閉していた。しかし、プッシュロッド270を省略し、ラチェットカム260が直接にバルブ250を開閉してもよい。例えば、第2の空間234をラチェットカム260に近い位置に設け、バルブシート257の開口部258をレバー部263の直下に配置し、レバー部263でバルブ250を押し下げるようにしてもよい。
【0061】
高圧室240のオイルをリークさせる開口部は、2個(第1の開口部241および第2の開口部242)に限らない。
【0062】
また、上記実施形態において、開度可変機構200は、主に第2の開口部242からオイルがリークする状態と第1の開口部241からオイルがリークする状態とを切り替えていた。しかし、開度可変機構200は、高圧室240から開口部を介して外部空間にリークされるオイルの流路の開度を変える構成であればよい。例えば、第1の開口部241からオイルをリークさせないようにしつつ、バルブ250に下底部254と上底部253との間を貫通する小さな貫通穴(例えば、開口面積が第1の開口部241の開口面積と同程度の貫通穴)を設けてもよい。この態様では、バルブ250によって開口部258が閉じられると、高圧室240のオイルは、バルブ250の貫通穴を介して開口部258を通り、第2の開口部242からリークされる。すなわち、この態様は、高圧室240のオイルが外部空間にリークする流路が1つであり、バルブ250の開閉に従って第2の開口部242からリークされるオイル量を変えることでリークダウンタイムを変えている。この態様によっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、クランクシャフトおよびカムシャフトに架け渡されたチェーン等の張力を調整するテンショナに利用できる。
【符号の説明】
【0064】
20 テンショナ
200 開度可変機構
210 本体部
220 プランジャ
226 ラック
240 高圧室
241 第1の開口部
242 第2の開口部
250 バルブ
258 開口部
260 ラチェットカム
270 プッシュロッド