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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用電極及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20220309BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220309BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20220309BHJP
   H01G 11/68 20130101ALN20220309BHJP
   H01G 11/50 20130101ALN20220309BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/66 A
H01M4/70 Z
H01G11/68
H01G11/50
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017181266
(22)【出願日】2017-09-21
(65)【公開番号】P2019057422
(43)【公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井戸 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】守屋 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 伸也
【審査官】菊地 リチャード平八郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/082153(WO,A1)
【文献】特開2013-051113(JP,A)
【文献】特開2013-101919(JP,A)
【文献】特開平07-153438(JP,A)
【文献】特開2015-222419(JP,A)
【文献】特開平05-255814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 4/64-4/84
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極部配置領域及び電極部非配置領域を有する集電板と、
前記電極部配置領域に配置された電極部とからなる蓄電デバイス用電極であって
記電極部は、活物質としてシリコンを含み、
前記集電板は、前記電極部非配置領域に曲げ部を備え、
前記曲げ部は、オーステナイト組織のみからなるステンレス鋼から形成されており、
前記集電板の前記曲げ部以外の部分は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト組織からなるステンレス鋼から形成されていることを特徴とする蓄電デバイス用電極。
【請求項2】
前記曲げ部以外の前記集電板を厚さ方向に沿って切断する断面において、前記マルテンサイト組織が、前記オーステナイト組織の中に島状に点在している請求項1に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項3】
前記電極部配置領域は複数あり、
前記曲げ部は、隣り合う前記電極部配置領域の間に位置している請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項4】
前記曲げ部には切れ込みが形成されている請求項1~3のいずれかに記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項5】
前記曲げ部にはミシン目が形成されている請求項1~4のいずれかに記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項6】
前記曲げ部には切欠いた部分がある請求項1~5のいずれかに記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項7】
前記活物質は、シリコンのみからなる請求項1~6のいずれかに記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の蓄電デバイス用電極を備えることを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用電極及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムなどイオン化傾向の大きな金属を用いた蓄電デバイスは、大容量のエネルギーを蓄えられるため、多くの分野で利用されている。
このような蓄電デバイスの製造方法として、特許文献1には、貫通孔を有する正極集電体上に形成された、アニオンを挿入、脱離し得る層状構造を有する炭素質材料を正極活物質として含む正極と、貫通孔を有する負極集電体上に形成された、リチウムイオンを挿入、脱離し得る層状構造を有する炭素質材料を負極活物質として含む負極と、リチウム塩を含む非水電解液と、を有する蓄電デバイスの製造方法であって、蓄電デバイス用セル内に、セパレータを介して前記正極および負極を積層してなる積層体とリチウムイオン供給源とを配置すると共に、前記非水電解液を注入する蓄電デバイス用セル作製工程と、正極とリチウムイオン供給源との間で充放電を行う充放電工程と、負極とリチウムイオン供給源との間で電気化学的接触を行い、負極にリチウムイオンを吸蔵させる吸蔵工程と、を含むことを特徴とする蓄電デバイスの製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の蓄電デバイスの製造方法では、リチウムイオン供給源として、金属リチウムが用いられている。このようなリチウムイオン供給源を用いて、正極とリチウムイオン供給源との間で充放電を行い、さらに、負極とリチウムイオン供給源との間で電気化学的接触を行い負極にリチウムイオンを吸蔵させている。
【0004】
このような特許文献1に記載された方法で蓄電デバイスを製造すると、蓄電デバイス内にリチウムイオン供給源である金属リチウムが残ることになる。
リチウムイオン供給源に含まれる金属リチウムは、発火しやすく危険な素材である。そのため、金属リチウムは、蓄電デバイス内に残らないことが好ましい。
【0005】
特許文献2には、このようなリチウムイオン供給源として、リチウムイオンのプレドープが施された炭素質材料を用いることが記載されている。
すなわち、集電体に炭素質材料を固定し、インターカレーションにより炭素質材料の層間にリチウムイオンを吸蔵し、これをリチウム含有極として用いることが記載されている。
このようなリチウムイオン含有極を用いることにより、リチウム金属を用いることなく正極とリチウムイオン供給源との間で充放電を行うことができ、さらに、負極とリチウムイオン供給源との間で電気化学的接触を行い負極にリチウムイオンを吸蔵させることができる。
【0006】
インターカレーションによりリチウムイオンを炭素質材料に吸蔵する場合、リチウムイオンの吸蔵量には372mAh/gという理論的な上限値があり、これを超えることができない。このため、炭素質材料よりも多くのリチウムイオンを吸蔵できる材料の検討が行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-211950号公報
【文献】特開2016-103609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シリコンは、リチウムイオンと化学結合して合金化し、リチウムイオンを吸蔵することができる物質として知られている。シリコンを用いてリチウムイオンを吸蔵する場合、理論的に4000mAh/g以上のリチウムイオンを吸蔵できるといわれている。
つまり、シリコンを用いてリチウムイオンを吸蔵する場合、単位体積あたりのリチウムイオンの吸蔵放出量が多く、蓄電デバイスを高容量にすることができる。
しかし、リチウムイオンが吸蔵放出される際に活物質自体の膨張収縮が大きくなるという問題があった。
そのため、シリコンを集電体に固定し、シリコンにリチウムイオンを吸蔵させてリチウム含有極とし、このリチウム含有極を、蓄電デバイスを製造する際のリチウムイオン供給源として用いた場合、集電体に大きな歪が発生し、集電体に反りやシワが発生するという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされた発明であり、本発明の目的は、大量の金属イオンを吸蔵放出しても、反りやシワが発生しにくい構造の蓄電デバイス用電極及びこれを用いた蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の蓄電デバイス用電極は、
電極部配置領域及び電極部非配置領域を有する集電板と、
上記電極部配置領域に配置された電極部とからなる蓄電デバイス用電極であって、
上記集電板は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト組織からなるステンレス鋼から形成されており、
上記電極部は、活物質としてシリコンを含み、
上記集電板は、上記電極部非配置領域に曲げ部を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の蓄電デバイス用電極では、集電板は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト組織からなるステンレス鋼から形成されている。
マルテンサイト組織は硬度が高い。そのため、集電板が、マルテンサイト組織を含むオーステナイト組織からなるステンレス鋼から形成されていると、集電板を硬く高強度にすることができる。そのため、集電板に、反りやシワが発生することを防止しやすくなる。
従って、電極部の活物質に金属イオンが吸蔵されたり、電極部の活物質に吸蔵されていた金属イオンが放出され、活物質の体積が変化したとしても、集電板に反りやシワが発生することを防止しやすくなる。
【0012】
また、本発明の蓄電デバイス用電極では集電板は、電極部非配置領域に曲げ部を備える。
このような曲げ部があると補強作用が生じ、集電板が反りにくくなる。
【0013】
また本発明の蓄電デバイス用電極は、次の態様であることが好ましい。
【0014】
(2)本発明の蓄電デバイス用電極では、上記曲げ部以外の上記集電板を厚さ方向に沿って切断する断面において、上記マルテンサイト組織が、上記オーステナイト組織の中に島状に点在していることが望ましい。
また、マルテンサイト組織がオーステナイト組織の中に島状に点在しているということは、マルテンサイト組織の含有量(質量)よりもオーステナイト組織の含有量(質量)の方が多いといえる。
オーステナイト組織は化学的に安定であるので、このような構成の集電板は、腐食や溶出されにくい。
【0015】
(3)本発明の蓄電デバイス用電極では、上記電極部配置領域は複数あり、上記曲げ部は、隣り合う上記電極部配置領域の間に位置していることが望ましい。
曲げ部が隣り合う電極部配置領域の間に備えられていると、集電板を効率よく折り曲げることができ、蓄電デバイス用電極を小型化することができる。
【0016】
(4)本発明の蓄電デバイス用電極では、上記曲げ部は、オーステナイト組織のみからなるステンレス鋼から形成されていることが望ましい。
マルテンサイト組織は硬度が高い。そのため、曲げ部にマルテンサイト組織があると、集電板が曲げ部のみでなく電極配置領域まで曲がり、電極が剥がれやすくなる。
一方、オーステナイト組織は靱性が充分に高い。そのため、曲げ部がオーステナイト組織のみからなるステンレス鋼から形成されていると、集電板が折れにくくなる。
【0017】
(5)本発明の蓄電デバイス用電極では、上記曲げ部には切れ込みが形成されていることが望ましい。
曲げ部に切れ込みが形成されていると集電板が曲がりやすくなる。そのため、集電板を曲げる際に、集電板の電極部配置領域に応力がかかりにくくなる。
そのため、電極部が集電板から剥がれることを防止することができる。
【0018】
(6)本発明の蓄電デバイス用電極では、上記曲げ部にはミシン目が形成されていることが望ましい。
曲げ部にミシン目が形成されていると集電板が曲がりやすくなる。そのため、集電板を曲げる際に、集電板の電極部配置領域に応力がかかりにくくなる。
そのため、電極部が集電板から剥がれることを防止することができる。
【0019】
(7)本発明の蓄電デバイス用電極では、上記曲げ部には切欠いた部分があることが望ましい。
曲げ部に切欠いた部分があると、集電板が曲がりやすくなる。そのため、集電板を曲げる際に、集電板の電極部配置領域に応力がかかりにくくなる。
そのため、電極部が集電板から剥がれることを防止することができる。
【0020】
(8)本発明の蓄電デバイス用電極では、上記活物質は、シリコンのみからなることが望ましい。
シリコンは、金属イオンと化学結合することにより金属イオンを吸蔵することができる。
そのため、例えば、炭素のように金属イオンをインターカレーションにより吸蔵する物質に比べ、多くの金属イオンを吸蔵することができる。特に、リチウムイオンであれば、4000mAh/g以上を吸蔵することができる。
そのため、電気容量が充分に大きくなる。
このようにシリコンが大量の金属イオンを吸蔵したり、シリコンから大量の金属イオンが放出されたりすると、活物質であるシリコンの体積が大きく変化する。このようにシリコンの体積が変化した場合、集電板にシワや反りが発生しやすくなる。
しかし、本発明の蓄電デバイス用電極では、集電板は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト組織からなるステンレス鋼から形成されている。そのため、シリコンの体積が変化した場合であっても、集電板に反りやシワが発生しにくい。
【0021】
(9)本発明の蓄電デバイスは、上記本発明の蓄電デバイス用電極を備えることを特徴とする。
そのため、本発明の蓄電デバイスでは、蓄電デバイス用電極の集電板にシワや反りが発生しにくい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の蓄電デバイス用電極では、集電板は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト組織からなるステンレス鋼から形成されている。
マルテンサイト組織は硬度が高い。そのため、集電板が、マルテンサイト組織を含むオーステナイト組織からなるステンレス鋼から形成されていると、集電板を硬く高強度にすることができる。そのため、集電板に、反りやシワが発生することを防止しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1(a)は、本発明の蓄電デバイス用電極の一例を模式的に示す平面図であり、図1(b)は、図1(a)のA-A線断面図である。
図2図2は、本発明の蓄電デバイス用電極における集電板を厚さ方向に沿って切断する断面の一例を模式的に示す断面図である。
図3図3(a)~(c)は、本発明の蓄電デバイス用電極における集電板の曲げ部の一例を模式的に示す斜視図である。
図4図4(a)は、本発明の蓄電デバイス用電極の一例を模式的に示す平面図である。図4(b)は、図4(a)のB-B線断面図である。
図5図5は、図4に示す蓄電デバイス用電極が折り曲げられた状態の一例を模式的に示す斜視図である。
図6図6(a)~(d)は、本発明の蓄電デバイスにおける正極、負極及びセパレータの収容態様の一例を模式的に示す模式図である。
図7図7は、本発明の蓄電デバイスの一例を模式的に示す断面図である。
【0024】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明の蓄電デバイス用電極について図面を用いながら説明するが、本発明の蓄電デバイス用電極は以下の記載に限定されない。
【0025】
図1(a)は、本発明の蓄電デバイス用電極の一例を模式的に示す平面図であり、図1(b)は、図1(a)のA-A線断面図である。
図1(a)に示すように、蓄電デバイス用電極10は、電極部配置領域21及び電極部非配置領域22を有する矩形の集電板20と、電極部配置領域21に配置された略正方形の電極部30とからなる。
電極部配置領域21は、集電板20の中心部に位置しており、その周囲が電極部非配置領域22である。
また、集電板20には、電極部配置領域21を挟んで、電極部非配置領域22に2つの曲げ部(曲げ部25a及び曲げ部25b)が形成されている。
さらに、図1(b)に示すように、集電板20は、曲げ部25a及び曲げ部25bにより凹形状となっている。
【0026】
また、集電板20は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト組織からなるステンレス鋼から形成されている。
また、電極部30は、活物質としてシリコンを含む。
【0027】
蓄電デバイス用電極10では、集電板20は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト組織からなるステンレス鋼から形成されている。
マルテンサイト組織は硬度が高い。そのため、集電板20が、マルテンサイト組織を含むオーステナイト組織からなるステンレス鋼から形成されていると、集電板20を硬く高強度にすることができる。そのため、集電板20に、反りやシワが発生することを防止しやすくなる。
従って、電極部30の活物質に金属イオンが吸蔵されたり、電極部の活物質に吸蔵されていた金属イオンが放出され、活物質の体積が変化したとしても、集電板20に反りやシワが発生することを防止しやすくなる。
【0028】
蓄電デバイス用電極10では、曲げ部25a及び曲げ部25b以外の集電板20を厚さ方向に沿って切断する断面において、マルテンサイト組織が、オーステナイト組織の中に島状に点在していることが望ましい。
マルテンサイト組織が、オーステナイト組織の中に島状に点在している状態を以下に図面を用いて説明する。
【0029】
図2は、本発明の蓄電デバイス用電極における集電板を厚さ方向に沿って切断する断面の一例を模式的に示す断面図である。
図2において、符号26はマルテンサイト組織を示し、符号27はオーステナイト組織を示している。
本明細書において「マルテンサイト組織が、オーステナイト組織の中に島状に点在している状態」とは、図2に示すように、マルテンサイト組織26が一箇所に偏在せず、オーステナイト組織内に斑に存在することを意味する。
【0030】
マルテンサイト組織がオーステナイト組織の中に島状に点在しているということは、マルテンサイト組織の含有量(質量)よりもオーステナイト組織の含有量(質量)の方が多いといえる。
オーステナイト組織は化学的に安定であるので、このような構成の集電板は、腐食や溶出されにくい。
【0031】
なお、マルテンサイト組織及びオーステナイト組織の存在は、以下の条件の電子後方散乱回折図測定法(EBSD法)により分析することができる。
【0032】
(EBSD法の条件)
<分析装置>
EF-SEM:日本電子株式会社製JSM-7000F/EBSDD:TSL Solution
<分析条件>
範囲 :14×36μm
ステップ :0.05μm/step
測定ポイント :233376
倍率 :5000倍
phase :γ-鉄、α-鉄
【0033】
蓄電デバイス用電極10では、集電板20の厚さは、5~50μmであることが望ましい。
集電板の厚さが5μm未満であると、薄すぎるので集電板が破れやすくなる。
集電板の厚さが50μmを超えると、厚すぎるので、このような厚さの集電板を含む蓄電デバイス用電極が用いられた蓄電デバイスのサイズが大きくなりやすくなる。
【0034】
集電板20の引張強度は特に限定されないが、300~1500MPaであることが好ましい。
【0035】
蓄電デバイス用電極10では、曲げ部25a及び曲げ部25b以外の集電板20の厚さ方向に沿って切断する断面において、マルテンサイト組織の面積は、断面全体の5~20%であることが好ましい。
マルテンサイト組織が占める面積が上記範囲内であると、集電板20が腐食しにくく、高強度になる。
マルテンサイト組織が占める面積が5%未満であると、マルテンサイト組織を含有することによる集電板の強度向上効果が得られにくくなる。
マルテンサイト組織が占める面積が20%を超えると、マルテンサイト組織が表面に露出しやすくなる上に、内部に存在するマルテンサイト組織まで連続的につながり、集電板全体が腐食しやすくなる。また、マルテンサイト組織の割合が大きくなるので、集電板の靱性が低下しやすくなる、その結果、集電板が折れやすくなる。
【0036】
蓄電デバイス用電極10では、集電板20は、電極部非配置領域22に曲げ部25a及び曲げ部25bを備える。
このような曲げ部があると補強作用が生じ、集電板20が反りにくくなる。
【0037】
蓄電デバイス用電極10では、曲げ部25a及び曲げ部25bは、オーステナイト組織のみからなるステンレス鋼から形成されていることが望ましい。
マルテンサイト組織は硬度が高い。そのため、曲げ部にマルテンサイト組織があると、集電板が曲げ部のみでなく電極部配置領域まで曲がり電極部が剥がれやすくなる。
一方、オーステナイト組織は靱性が充分に高い。そのため、曲げ部がオーステナイト組織のみからなるステンレス鋼から形成されていると、集電板20が折れにくくなる。
【0038】
曲げ部25a及び曲げ部25bを、オーステナイト組織のみからなるステンレス鋼から形成する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
まず、マルテンサイト組織を含むオーステナイト組織からなるステンレス鋼から形成された集電板を準備する。
次に、曲げ部となる部分の集電板を加熱する。マルテンサイト組織は、加熱されることによりオーステナイト組織に変質する。この際の加熱の条件は、1000~1200℃、0.1~10分であることが望ましい。
加熱の方法としては、加熱した熱源を接触させる方法や、高周波誘導加熱を行う方法が挙げられる。
このようにして、曲げ部25a及び曲げ部25bを、オーステナイト組織のみからなるステンレス鋼から形成することができる。
【0039】
蓄電デバイス用電極10では、曲げ部25a及び曲げ部25bには、切れ込みが形成されていてもよく、ミシン目が形成されていてもよく、切欠いた部分があってもよい。
このような曲げ部について以下に図面を用いて説明する。
図3(a)~(c)は、本発明の蓄電デバイス用電極における集電板の曲げ部の一例を模式的に示す斜視図である。
なお、図3(a)~(c)では、集電板を曲げる前の曲げ部の状態を示している。
【0040】
図3(a)に示すように、蓄電デバイス用電極10では、集電板20の曲げ部25a及び曲げ部25bには、切れ込み28aが形成されていてもよい。
図3(b)に示すように、蓄電デバイス用電極10では、集電板20の曲げ部25a及び曲げ部25bには、ミシン目28bが形成されていてもよい。
図3(c)に示すように。蓄電デバイス用電極10では、集電板20の曲げ部25a及び曲げ部25bに、切欠いた部分28cがあってもよい。
【0041】
このように、曲げ部25a及び曲げ部25bに、切れ込み28aや、ミシン目28bや、切欠いた部分28cがあると、集電板20が曲がりやすくなる。そのため、集電板20を曲げる際に、集電板20の電極部配置領域に応力がかかりにくくなる。電極部配置領域が湾曲すると、電極部配置領域に配置された電極部が剥がれやすくなる。
しかし、曲げ部25a及び曲げ部25bが切れ込みを有すると、このような応力がかかりにくくなる。
そのため、電極部が集電板から剥がれることを防止することができる。
【0042】
なお、切れ込みや、ミシン目や、切欠いた部分は1列だけ形成してもよく、複数列形成してもよい。
【0043】
切れ込みや、ミシン目や、切欠いた部分は、カッター、プレス等を用いることにより集電板に形成することができる。
【0044】
蓄電デバイス用電極10において、電極部30は、活物質及びバインダからなることが望ましい。
【0045】
活物質は、シリコンを含めば、他にカーボン等を含んでいてもよい。
【0046】
活物質の平均粒子径は、特に限定されないが1~10μmであることが好ましい。
活物質の平均粒子径が1μm以上であれば、活物質の平均粒子径を容易に調整することができる。
活物質の平均粒子径が10μm以下であれば、比表面積が充分に大きくなるので、充放電やドープに要する時間を短くすることができる。
【0047】
蓄電デバイス用電極10において、電極部30の活物質は、シリコンのみからなることが望ましい。
シリコンは、金属イオンと化学結合することにより金属イオンを吸蔵することができる。
そのため、例えば、炭素のように金属イオンをインターカレーションにより吸蔵する物質に比べ、多くの金属イオンを吸蔵することができる。特に、リチウムイオンであれば、4000mAh/g以上を吸蔵することができる。
そのため、活物質がシリコンのみからなると、電気容量が充分に大きくなる。
このようシリコンが大量の金属イオンを吸蔵したり、シリコンから大量の金属イオンが放出されたりすると、活物質であるシリコンの体積が大きく変化する。このようにシリコンの体積が変化した場合、集電板にシワや反りが発生しやすくなる。
しかし、本発明の蓄電デバイス用電極では、集電板は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト組織からなるステンレス鋼から形成されている。そのため、シリコンの体積が変化した場合であっても、集電板に反りやシワが発生しにくい。
【0048】
電極部30のバインダの材料は、特に限定されないが、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を挙げることができる。これらの中では、ポリイミド樹脂であることが好ましい。
ポリイミド樹脂は、耐熱性があり、強度がある化合物である。そのため、活物質がポリイミド樹脂からなるバインダで結合されていると、金属イオンの吸蔵放出により活物質の体積が変化したとしても、電極部30を集電板20から剥離しにくくすることができる。
【0049】
電極部30における活物質と、バインダとの重量割合は、活物質:バインダ=70:30~90:10であることが好ましい。
【0050】
また、電極部30のバインダには、導電助剤が含まれていてもよい。
導電助剤の材料は、特に限定されないが、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ等を挙げることができる。これらの中では、カーボンブラックからなることが好ましい。
バインダが導電助剤を含有していると、蓄電デバイス用電極10の導電性を高くすることができる。そのため、効率よく集電することができる。
特に、カーボンブラックは、少量で導電性を確保することができる。そのため、カーボンブラックが導電助剤であると、蓄電デバイス用電極10の導電性をより向上させることができる。
【0051】
導電助剤がカーボンブラックからなる場合、その平均粒子径は、3~500nmであることが好ましい。
電極部30において、バインダに占める導電助剤の重量割合は、20~50%であることが好ましい。
【0052】
蓄電デバイス用電極10において、電極部30の厚さは、特に限定されないが、5~50μmであることが好ましい。
電極部の厚さが5μm未満であると、集電板に比べて活物質の量が少なくなるので電気容量が低下しやすくなる。
電極部の厚さが50μmを超えると、蓄電デバイス用電極を用いて製造された蓄電デバイスのサイズが大きくなる。また、金属イオンが電極部を移動する距離が長くなり、充放電に時間がかかる。
【0053】
片面の電極部30の面密度は、特に限定されないが、0.1~10mg/cmであることが望ましい。
【0054】
次に、本発明の蓄電デバイス用電極の別の態様について説明する。
図4(a)は、本発明の蓄電デバイス用電極の一例を模式的に示す平面図である。図4(b)は、図4(a)のB-B線断面図である。
なお、図4(a)及び(b)では、折り曲げられる前の蓄電デバイスの状態を示している。
図5は、図4に示す蓄電デバイス用電極が折り曲げられた状態の一例を模式的に示す斜視図である。
【0055】
図4に示すように、蓄電デバイス用電極110は、複数の電極部配置領域121及び電極部非配置領域122を有する集電板120と、電極部配置領域121に配置された複数の電極部130とからなる。
電極部130は、集電板120の両面に配置されている。
【0056】
また、隣り合う電極部配置領域121の間には、曲げ部125が位置している。
【0057】
図5に示すように、蓄電デバイス用電極110は、折り曲げられて使用される。
曲げ部125が隣り合う電極部配置領域121の間に備えられていると、集電板120をコンパクトに折り曲げることができ、蓄電デバイス用電極を小型化することができる。
【0058】
蓄電デバイス用電極110において、集電板120の望ましい材料、形状等は、上記蓄電デバイス用電極10の集電板20の望ましい材料、形状等と同じである。
【0059】
蓄電デバイス用電極110において、曲げ部125の望ましい材料、形状等は、上記蓄電デバイス用電極10の曲げ部25a及び曲げ部25bの望ましい材料、形状等と同じである。
【0060】
蓄電デバイス用電極110において、電極部130の望ましい材料、形状等は、上記蓄電デバイス用電極10の電極部30の望ましい材料、形状等と同じである。
【0061】
本発明の蓄電デバイス用電極は、蓄電デバイスの正極、負極又は金属イオンをドープするための金属イオン供給極として使用することができる。
【0062】
次に、本発明の蓄電デバイス用電極の製造方法について説明する。
【0063】
(1)集電板の作製工程
まず、オーステナイト組織からなるステンレス鋼から形成された金属板を準備する。
次に、金属板を延展加工することにより集電板を作製する。この延展加工により、オーステナイト組織の一部がマルテンサイト組織に変質する。
このようにして、マルテンサイト組織を含むオーステナイト組織からなるステンレス鋼から形成された集電板を作製することができる。
【0064】
(2)曲げ部の位置決定工程
次に、集電板の電極部配置領域及び電極部非配置領域を決定する。
そして、集電板の電極部非配置領域に、曲げ部となる位置を決定する。
この際、集電板の電極部非配置領域を加工して、曲げ部となる位置をオーステナイト組織のみからなるステンレス鋼としてもよく、曲げ部となる位置に、切れ込み、ミシン目、切欠き等を形成してもよい。
加工の方法は、たとえば熱処理、機械加工、レーザー加工など利用することができる。
曲げ部となる位置は、製造される蓄電デバイス用電極の用途に応じて任意に決定することが望ましい。
【0065】
(3)活物質スラリーの作製工程
シリコンとバインダとを混合し、活物質スラリーを作製する。
活物質とバインダとの重量割合は、特に限定されないが、活物質:バインダ=70:30~90:10となるように調製することが望ましい。
【0066】
バインダとしては、特に限定されず、ポリイミド樹脂前駆体、ポリアミドイミド樹脂前駆体等があげられる。これらの中では、ポリイミド樹脂前駆体が望ましい。
【0067】
塗工性の観点から、活物質スラリーの粘度は、1~10Pa・sであることが好ましい。なお、スラリーの粘度はB型粘度計を用い、1~10rpmとなる条件で測定する。
活物質とバインダの割合を調整することにより活物質スラリーの粘度を調整することができる。また、必要に応じて増粘剤等により粘度を調整してもよい。
【0068】
(4)活物質スラリーの塗工工程
集電板の電極部配置領域に活物質スラリーを塗工する。
塗工する活物質スラリーの量は、特に限定されないが、加熱乾燥後に0.1~10mg/cmであることが好ましい。
【0069】
(5)プレス加工工程
次に、活物質スラリーが塗工された集電板をプレス加工する。
プレス加工の圧力は、特に限定されないが、活物質が平坦になるように押さえることができれば充分である。
【0070】
(6)加熱工程
次に、活物質スラリーが塗工された集電板を加熱し、活物質スラリーに含まれるバインダを硬化させる。
加熱条件は、使用するバインダの種類に応じて決定することが好ましい。
バインダがポリイミド樹脂前駆体を含む場合、加熱温度は、250~350℃であることが好ましい。また、加熱時の雰囲気は、窒素ガス雰囲気等の不活性雰囲気であることが好ましい。
【0071】
(7)曲げ部形成工程
次に、集電板を所定の形状に曲げ、曲げ部を形成する。
なお、本工程は、上記(2)曲げ部の位置決定工程の直後に行ってもよく、蓄電デバイス用電極を用いて蓄電デバイスを製造する際に行ってもよい。
【0072】
このような工程を経て、集電板が目的の形状に変形された本発明の蓄電デバイス用電極を製造することができる。
【0073】
次に、本発明の蓄電デバイス用電極が用いられた蓄電デバイスについて説明する。
なお、本発明の蓄電デバイス用電極が用いられた蓄電デバイスは、本発明の蓄電デバイスでもある。
【0074】
本発明の蓄電デバイスは、
正極と、
負極と、
上記正極と上記負極とを分離するセパレータと、
上記正極、上記負極及び上記セパレータを収容する蓄電パッケージと、
上記蓄電パッケージに封入された電解液とから構成されており、
正極又は負極が、上記本発明の蓄電デバイス用電極であってもよい。
【0075】
なお、上記本発明の蓄電デバイスでは、負極が本発明の蓄電デバイス用電極であることが望ましい。
以下、負極が本発明の蓄電デバイス用電極である本発明の蓄電デバイスについて説明する。
【0076】
本発明の蓄電デバイス用電極では、正極は、正極集電板と、正極集電板に備えられた正極活物質とから構成されていることが望ましい。
正極集電板は、特に限定されないが、アルミニウム、ニッケル、銅、銀及びこれらの合金からなることが好ましい。
正極活物質は、特に限定されないが、LiMnO、LiMn(0<x<2)、LiMnO、LiMn1.5Ni0.5(0<x<2)等の層状構造を持つマンガン酸リチウム又はスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoO、LiNiO又はこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;LiNi1/3Co1/3Mn1/3などの特定の遷移金属が半数を超えないリチウム遷移金属酸化物;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの;LiFePO等のオリビン構造を有するもの等があげられる。
また、これらの金属酸化物に、アルミニウム、鉄、リン、チタン、ケイ素、鉛、錫、インジウム、ビスマス、銀、バリウム、カルシウム、水銀、パラジウム、白金、テルル、ジルコニウム、亜鉛、ランタン等により一部置換した材料も使用することができる。特に、LiαNiβCoγAlδ(1≦α≦2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)又はLiαNiβCoγMnδ(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6、γ≦0.2)が好ましい。
正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
上記本発明の蓄電デバイスにおいて、セパレータは、特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等の多孔質フィルムや不織布を用いることができる。また、セパレータとしては、それらを積層したものを用いることもできる。また、耐熱性の高い、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、セルロース、ガラス繊維を用いることもできる。また、それらの繊維を束ねて糸状にし、織物とした織物セパレータを用いることもできる。
【0078】
上記本発明の蓄電デバイスにおいて、電解液は、特に限定されないが、溶媒に電解質として金属塩を溶解させた溶液を用いることができる。
溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ブチロラクトン等のγ-ラクトン類、1,2-ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3-プロパンスルトン、アニソール、N-メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステル等の非プロトン性有機溶媒等があげられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0079】
金属塩としては、特に限定されないが、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等を用いることができる。
金属塩として、リチウム塩を用いる場合、リチウム塩としては、LiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、LiCFSO、LiCCO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl、イミド類等があげられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0080】
電解液の電解質濃度は、特に限定されないが、0.5~1.5mol/Lであることが好ましい。
電解質濃度が0.5mol/L未満であれば、電解液の電気伝導率を充分にしにくくなる。
電解質濃度が1.5mol/Lを超えると、電解液の密度及び粘度が増加しやすくなる。
【0081】
次に、正極、負極及びセパレータの収容態様について図面を用いて説明する。
なお、以下の説明では、負極が本発明の蓄電デバイス用電極である場合について説明する。
図6(a)~(d)は、本発明の蓄電デバイスにおける正極、負極及びセパレータの収容態様の一例を模式的に示す模式図である。
【0082】
図6(a)に示すように、本発明の蓄電デバイスでは、正極150、セパレータ160及び負極である蓄電デバイス用電極110が順に積層された積層体170を、捲回して蓄電パッケージ(図示せず)に収容してもよい。
この際、蓄電デバイス用電極110の曲げ部が、捲回される際の角部に位置するようにする。
【0083】
図6(b)に示すように、本発明の蓄電デバイスでは、正極150、セパレータ160及び負極である蓄電デバイス用電極110が順に積層された積層体171を、九十九折して蓄電パッケージ(図示せず)に収容されていてもよい。
この際、蓄電デバイス用電極110の曲げ部が、九十九折される際の屈曲部に位置するようにする。
【0084】
図6(c)に示すように、本発明の蓄電デバイスでは、図6(b)に示す積層体171のうち正極150の九十九折の方向を90度回転させて積層体171aとし、積層体171aを蓄電パッケージ(図示せず)に収容してもよい。
【0085】
図6(d)に示すように、本発明の蓄電デバイスでは、図6(b)に示す積層体171のうち負極である蓄電デバイス用電極110の九十九折の方向を90度回転させて積層体171bとし、積層体171bを蓄電パッケージ(図示せず)に収容してもよい。
【0086】
次に、本発明の蓄電デバイスの別の態様について説明する。
【0087】
本発明の蓄電デバイスは、
正極と、
負極と、
上記正極と上記負極とを分離するセパレータと、
上記正極及び/又は上記負極に金属イオンをドープするための金属イオン供給極と、
上記正極、上記負極、上記セパレータ及び上記金属イオン供給極を収容する蓄電パッケージと、
上記蓄電パッケージに封入された電解液とから構成されており、
正極、負極又は金属イオン供給極が、上記本発明の蓄電デバイス用電極であってもよい。
【0088】
以下、本発明の蓄電デバイス用電極が、金属イオン供給極として用いられる場合について説明する。
【0089】
本発明の蓄電デバイス用電極を金属イオン供給極として用いる場合、本発明の蓄電デバイス用電極に金属イオンをドープする必要がある。
まず、本発明の蓄電デバイス用電極に金属イオンをドープする方法について説明する。
【0090】
(1)有機電解液塗布工程
まず、本発明の蓄電デバイス用電極における集電板の電極部に有機電解液を塗布する。
有機電解液は、特に限定されないが、有機溶媒に電解質として金属塩を溶解させた溶液を用いることができる。
有機溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ブチロラクトン等のγ-ラクトン類、1,2-ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3-プロパンスルトン、アニソール、N-メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステル等の非プロトン性有機溶媒等があげられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、金属イオン源としてリチウムを用いる場合、有機電解液は、リチウムイオン導電性を有することが好ましい。
(2)加熱工程
次に、有機電解液が塗布された、電極部と金属イオン源とを接触させて、加熱することにより金属イオンをドープする。
金属イオン源としては、特に限定されないが、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム等があげられる。これらの中では、リチウムであることが好ましい。
加熱の条件は、特に限定されないが、250~300℃、10~120分間加熱することが好ましい。
【0091】
(3)乾燥工程
ドープ後の蓄電デバイス用電極を溶媒で洗浄し自然乾燥させることによりドープが完了する。溶媒としてはDMC(ジメチルカーボネート)などが好適に利用できる。
【0092】
なお、ドープの方法はこのような金属イオン源に接触させる方法に限定されず、他の方法も利用できる。例えば、金属イオン源と蓄電デバイス用電極とをそれぞれ外部回路につなぎ、電気的にドープすることもできる。
【0093】
本発明の蓄電デバイス用電極を金属イオン供給極として用いる場合、本発明の蓄電デバイスにおける正極は、以下の構成であることが望ましい。
すなわち、正極は、正極集電板と、正極集電板に備えられた正極活物質とから構成されていることが望ましい。
正極集電板は、特に限定されないが、アルミニウム、ニッケル、銅、銀及びこれらの合金からなることが好ましい。
正極活物質は、特に限定されないが、LiMnO、LiMn(0<x<2)、LiMnO、LiMn1.5Ni0.5(0<x<2)等の層状構造を持つマンガン酸リチウム又はスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoO、LiNiO又はこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;LiNi1/3Co1/3Mn1/3などの特定の遷移金属が半数を超えないリチウム遷移金属酸化物;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの;LiFePO等のオリビン構造を有するもの等があげられる。
また、これらの金属酸化物に、アルミニウム、鉄、リン、チタン、ケイ素、鉛、錫、インジウム、ビスマス、銀、バリウム、カルシウム、水銀、パラジウム、白金、テルル、ジルコニウム、亜鉛、ランタン等により一部置換した材料も使用することができる。特に、LiαNiβCoγAlδ(1≦α≦2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)又はLiαNiβCoγMnδ(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6、γ≦0.2)が好ましい。
正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
本発明の蓄電デバイス用電極を金属イオン供給極として用いる場合、本発明の蓄電デバイスにおける負極は、以下の構成であることが望ましい。
すなわち、負極は、負極集電板と、負極集電板に備えられた負極活物質とから構成されていることが望ましい。
負極集電板は、特に限定されないが、アルミニウム、ニッケル、銅、銀及びこれらの合金等からなることが好ましい。
負極活物質は、特に限定されないが、シリコン、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素、炭素等からなることが好ましい。
【0095】
本発明の蓄電デバイス用電極を金属イオン供給極として用いる場合、上記本発明の蓄電デバイスにおいて、セパレータは、特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等の多孔質フィルムや不織布を用いることができる。また、セパレータとしては、それらを積層したものを用いることもできる。また、耐熱性の高い、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、セルロース、ガラス繊維を用いることもできる。また、それらの繊維を束ねて糸状にし、織物とした織物セパレータを用いることもできる。
【0096】
本発明の蓄電デバイス用電極を金属イオン供給極として用いる場合、上記本発明の蓄電デバイスにおいて、電解液は、特に限定されないが、溶媒に電解質として金属塩を溶解させた溶液を用いることができる。
溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ブチロラクトン等のγ-ラクトン類、1,2-ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3-プロパンスルトン、アニソール、N-メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステル等の非プロトン性有機溶媒等があげられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0097】
金属塩としては、特に限定されないが、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等を用いることができる。
金属塩として、リチウム塩を用いる場合、リチウム塩としては、LiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、LiCFSO、LiCCO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl、イミド類等があげられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0098】
電解液の電解質濃度は、特に限定されないが、0.5~1.5mol/Lであることが好ましい。
電解質濃度が0.5mol/L未満であれば、電解液の電気伝導率を充分にしにくくなる。
電解質濃度が1.5mol/Lを超えると、電解液の密度及び粘度が増加しやすくなる。
【0099】
本発明の蓄電デバイス用電極を金属イオン供給極として用いる場合の正極、負極、金属イオン供給極及びセパレータの収容態様について図面を用いて説明する。
図7は、本発明の蓄電デバイスの一例を模式的に示す断面図である。
【0100】
図7に示すように、蓄電デバイス201は、蓄電パッケージ290に正極250と、負極280と、正極250と負極280とを分離するセパレータ260と、金属イオンをドープするための金属イオン供給極である蓄電デバイス用電極210とが収容されてなる。
また、セパレータ260には、電解液が含浸されている。
【0101】
図7に示すように、蓄電デバイス201では、2つの蓄電デバイス用電極210が、蓄電パッケージ290の最外部に配置されている。
また、蓄電パッケージ290は、フィルムに封止されたラミネート型であり、蓄電パッケージ290の湾曲部に沿うように、蓄電デバイス用電極210の曲げ部225が位置している。
【0102】
図7に示すように、2つの蓄電デバイス用電極210の間には、正極250、セパレータ260及び負極280がこの順で複数個配置されている。各正極250はリード線251により電気的に接続されており、各負極280はリード線281により電気的に接続されている。
【0103】
蓄電デバイス201において、蓄電デバイス用電極210は、上記本発明の一例である蓄電デバイス用電極10と同じ構成であることが望ましい。
【0104】
このような構成の蓄電デバイス201では、蓄電パッケージ290の最外部に蓄電デバイス用電極210が位置している。
蓄電デバイス用電極210の集電板は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト組織からなるステンレス鋼からなるので強度が強い。そのため、蓄電デバイス201全体の強度も強くなる。
また、最外部が、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレスからなるので釘刺しなどに対する強度が強く、安全性も充分に向上する。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の蓄電デバイス用電極は、蓄電デバイスの正極、負極、又は、金属イオンをドープするため金属イオン供給極として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0106】
10、110、210 蓄電デバイス用電極
20、120 集電板
21、121 電極部配置領域
22、122 電極部非配置領域
25a、25b、125、225 曲げ部
26 マルテンサイト組織
27 オーステナイト組織
28a 切れ込み
28b ミシン目
28c 切欠いた部分
30、130 電極部
150、250 正極
160、260 セパレータ
170、171、172 積層体
201 蓄電デバイス
251、281 リード線
280 負極
290 蓄電パッケージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7