(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】アリ類防除剤
(51)【国際特許分類】
A01N 43/54 20060101AFI20220309BHJP
A01N 55/10 20060101ALI20220309BHJP
A01N 43/40 20060101ALI20220309BHJP
A01N 51/00 20060101ALI20220309BHJP
A01N 47/34 20060101ALI20220309BHJP
A01N 25/12 20060101ALI20220309BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
A01N43/54 F
A01N55/10 300
A01N43/40 101E
A01N51/00
A01N47/34 C
A01N25/12
A01P7/04
(21)【出願番号】P 2017194276
(22)【出願日】2017-10-04
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 弘基
(72)【発明者】
【氏名】田村 悠記子
(72)【発明者】
【氏名】引土 知幸
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-139611(JP,A)
【文献】特開昭61-106505(JP,A)
【文献】特開2007-169266(JP,A)
【文献】Journal of Economic Entomology,2006年,Vol.99, No.5,p.1739-1748
【文献】Journal of Entomological Science,1991年,Vol.26, No.3,p.331-338
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/
A01N 55/
A01N 43/
A01N 51/
A01N 47/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遅効性のアリ類防除成分(a)を0.05~10質量%と、アリ類に対する誘引もしくは摂食刺激成分(b)を5.0~70質量%と、ベイト剤基材(c)を含有するベイト剤であって、
前記遅効性のアリ類防除成分(a)は、ヒドラメチルノン、シラフルオフェン、ピリプロキシフェン、ジノテフラン、及びビストリフルロンから選ばれる少なくとも1種であり、
前記アリ類に対する誘引もしくは摂食刺激成分(b)は、ベイト剤全体量に対して1.5~15質量%の液状もしくはペースト状成分(b-1)と、ベイト剤全体量に対して10~45質量%の固形状成分(b-2)とで構成され、その(b-1)/(b-2)比率は1/5~1/40であり、しかも、前記ベイト剤の平均粒径を0.5~2.0mmとなし、採餌アリによる前記ベイト剤の巣への運搬効率を高め、かつ、巣内の働きアリによる前記アリ類防除成分の巣内伝播効率をも高めたアリ類防除剤。
【請求項2】
前記液状もしくはペースト状成分(b-1)は、植物油及び/又は糖蜜である請求項1に記載のアリ類防除剤。
【請求項3】
前記液状もしくはペースト状成分(b-1)は、植物油及び糖蜜である請求項2に記載のアリ類防除剤。
【請求項4】
前記植物油は、大豆油、米糠油、ピーナッツ油、オリーブ油、コーン油、ゴマ油、ヤシ油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ナタネ油、落花生油及びトウモロコシ油から選ばれる少なくとも1種である請求項2又は3に記載のアリ類防除剤。
【請求項5】
前記固形状成分(b-2)は、蛋白質粉である請求項1ないし4のいずれか1項に記載のアリ類防除剤。
【請求項6】
前記アリ類は、ヒアリ又はカミアリである請求項1ないし7のいずれか1項に記載のアリ類防除剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリ類のなかでも特にヒアリ類を対象としたアリ類防除剤に関し、具体的には、採餌アリによるベイト剤の巣への運搬効率を高め、かつ、巣内の働きアリによるアリ類防除成分の巣内伝播効率をも高めたアリ類防除剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、屋外から家屋内に侵入するアリ類の被害や苦情が増加し、アリ類は重要な不快害虫の一つにあげられている。従来、これらアリ類の防除方法として、大きくは、(1)殺虫成分を含有する液剤やエアゾール等を散布する、(2)ベイト剤等を喫食させて巣に持ち帰らせ巣ごと退治する、(3)人体や家屋の入り口あるいは周辺等に予めアリ忌避剤を施用してアリ類を忌避させる方法があり、このうち、(2)の方法が巣ごと撲滅でき効率的であるとされてきた。このため、ベイト剤の喫食性もしくは運搬性を高めるために誘引成分やベイト処方等に関して、これまで数多くの発明や改良が提案されている。
例えば、特開2017-8015号公報(特許文献1)には、落花生油および炭素数3~4の多価アルコールを含有するアリ用誘引剤が記載され、各種アリ類に対して高い誘引性を発揮するとしている。また、特表2012-509854号公報(特許文献2)は、殺虫剤および餌組成物を含む固体蟻餌であって、餌組成物が、a)5~95重量%の植物粉、b)1~60重量%のタンパク質源、c)5~60重量%の砂糖、および、d)0.1~10重量%のポリマーバインダー(各重量%は餌組成物に関する)を含む、前記固体蟻餌を開示し、当該蟻餌は0.2~2mmの長さおよび0.2~2mmの直径を有する円筒形状を有する顆粒が好ましい旨述べているが、この粒径は顆粒の製造性の観点から言及されたものであるなど、いずれの提案においてもアリ類の習性が十分研究されているわけではなく、防除効果も満足のいくものではない。
【0003】
ところで、アリ類は、一般に、巣の外で餌を採集する働きアリ(以降、採餌アリと称する)と、巣内で巣造り、子育て、巣の防衛を担当する働きアリが分業特化し、女王アリを中心とした集団は、栄養交換やグルーミングを介したケミカルコミュニケーションによって同類であることを認識しながら社会生活を営んでいる。アリ類の社会行動を観察すると、採餌アリは、液状もしくはペースト状の餌を体内に吸い取り素嚢に蓄えて持ち帰る一方、固形状の餌については運べる大きさに細かくして巣内に運び込む。そして、こうした固形状の餌は巣内の幼虫だけが消化することができ、その吐き戻し液は成虫の働きアリの餌となり、更に栄養交換によって女王アリに受け渡されることが知られている。
【0004】
最近、特定外来生物に指定されている「ヒアリ」や「カミアリ」等(以降、ヒアリ類と称する)が日本数箇所で発見され、強い毒を持ち、繁殖力が高いことから大きな社会問題になっている。このヒアリ類は、地中深くコロニーを造り、一つのコロニーの中に1匹の女王アリからなる単女王制であるものと、複数の女王アリからなる多女王制の2種類が存在する。そして、多女王制の場合、女王アリの数が多ければ多いほど繁殖力が強く、最大で4000万匹も生活するコロニーが存在するなど、その生態は在来アリ類とは大きく異なっている。このため、前記(2)のベイト剤による防除方法を、多女王制の「ヒアリ類」のコロニーに適用しても、一部の女王アリはそのベイト剤の存在をいち早く察知し、作用効果を免れて離散することも知られている。このように、ヒアリ類の防除は在来アリ類に比べて難しいと言われており、的確な防除対策の構築が急務となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-8015号公報
【文献】特表2012-509854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる現状を踏まえ、ベイト剤を施用してアリ類、特に「ヒアリ類」を防除するにあたっては、採餌アリにベイト剤を巣に効率的に運搬させることはもちろんのこと、ベイト剤に含まれる遅効性のアリ類防除成分を働きアリによって速やかに巣内のコロニー全体に伝播させることがより一層肝要となる。
上述したアリ類の習性を考慮すると、ベイト剤に配合する誘引もしくは摂食刺激成分としては、固形状のものに比べると運搬性や伝播性の点で有利な、液状もしくはペースト状の餌を主体に用いる方が合理的と考えられる。しかるに、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、そのメカニズムは不明ながら、液状もしくはペースト状成分と固形状成分を特定比率で混用して誘引もしくは摂食刺激成分の組成を決定するとともに、ベイト剤の平均粒径を特定することによって、ベイト剤の巣への運搬効率を高め、かつ、アリ類防除成分の巣内伝播効率をも高め得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、アリ類のなかでも特にヒアリ類に対して有効なベイト剤であって、効果的な防除が可能なアリ類防除剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)遅効性のアリ類防除成分(a)を0.05~10質量%と、アリ類に対する誘引もしくは摂食刺激成分(b)を5.0~70質量%と、ベイト剤基材(c)を含有するベイト剤であって、
前記アリ類に対する誘引もしくは摂食刺激成分(b)は、ベイト剤全体量に対して1.0~20質量%の液状もしくはペースト状成分(b-1)と、ベイト剤全体量に対して4.0~50質量%の固形状成分(b-2)とで構成され、その(b-1)/(b-2)比率は1/2~1/40であり、しかも、前記ベイト剤の平均粒径を0.02~3.0mmとなし、採餌アリによる前記ベイト剤の巣への運搬効率を高め、かつ、巣内の働きアリによる前記アリ類防除成分の巣内伝播効率をも高めたアリ類防除剤。
(2)前記アリ類に対する誘引もしくは摂食刺激成分(b)は、ベイト剤全体量に対して1.5~15質量%の液状もしくはペースト状成分(b-1)と、ベイト剤全体量に対して10~45質量%の固形状成分(b-2)とで構成され、その(b-1)/(b-2)比率は1/5~1/30であり、しかも、前記ベイト剤の平均粒径は0.5~2.0mmである(1)に記載のアリ類防除剤。
(3)前記液状もしくはペースト状成分(b-1)は、植物油及び/又は糖蜜である(1)又は(2)に記載のアリ類防除剤。
(4)前記液状もしくはペースト状成分(b-1)は、植物油及び糖蜜である(3)に記載のアリ類防除剤。
(5)前記植物油は、大豆油、米糠油、ピーナッツ油、オリーブ油、コーン油、ゴマ油、ヤシ油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ナタネ油、落花生油及びトウモロコシ油から選ばれる少なくとも1種である(3)又は(4)に記載のアリ類防除剤。
(6)前記固形状成分(b-2)は、蛋白質粉である(1)ないし(5)のいずれか1に記載のアリ類防除剤。
(7)前記遅効性のアリ類防除成分(a)は、ヒドラメチルノン、シラフルオフェン、ピリプロキシフェン、ジノテフラン、及びビストリフルロンから選ばれる少なくとも1種である(1)ないし(6)のいずれか1に記載のアリ類防除剤。
(8)前記アリ類は、ヒアリ又はカミアリである(1)ないし(7)のいずれか1に記載のアリ類防除剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアリ類防除剤は、ベイト剤に配合する誘引もしくは摂食刺激成分として、液状もしくはペースト状成分と固形状成分を特定比率で混用して処方化するとともに、ベイト剤の平均粒径を特定することによって、ベイト剤の巣への運搬効率を高め、かつ、アリ類防除成分の巣内伝播効率をも高め得るので、アリ類、特にヒアリ類に対して極めて実用的な防除効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のアリ類防除剤は、遅効性のアリ類防除成分(a)を0.05~10質量%と、アリ類に対する誘引もしくは摂食刺激成分(b)を5.0~70質量%と、ベイト剤基材(c)を含有するベイト剤である。
ここで、遅効性のアリ類防除成分を用いるのは、採餌アリにベイト剤を巣に持ち帰らせた後、巣内のコロニー全体にアリ類防除成分を伝播させて巣全体の撲滅を図るためで、採餌アリを速効的に殺してはこのような作用効果が得られないからである。
かかる遅効性のアリ類防除成分(a)としては、ピレスロイド剤に見られるような速効性を呈しない防除成分を包含し、例えば、アミノヒドラジン系殺虫剤のヒドラメチルノン、ケイ素系殺虫剤のシラフルオフェン、オキサジアゾン系殺虫剤のインドキサカルブ、幼若ホルモン様活性物質のピリプロキシフェンやメトプレン、ネオニコチノイド系殺虫剤のジノテフランやアセタミプリド、キチン合成阻害剤のビストリフルロン、テフルベンズロン、クロルフルアズロンやフルフェノクスロン等を例示できるがこれらに限定されない。
なかでも、ヒドラメチルノン、シラフルオフェン、ピリプロキシフェン、ジノテフラン及びビストリフルロンが好適に用いられる。
アリ類防除成分(a)のベイト剤全体量に対する配合量は0.05~10質量%の範囲が適当である。0.05質量%未満ではアリ類に対する防除効果が期待できないし、一方、10質量%を越えると、遅効性の防除成分とはいえ、速効的な作用も幾分呈しえるので本発明の趣旨に合致しない懸念を有する。
【0010】
本発明のベイト剤は、アリ類に対する誘引もしくは摂食刺激成分(b)をベイト剤全体量に対して5.0~70質量%含有し、この成分(b)は、ベイト剤全体量に対して1.0~20質量%、好ましくは1.5~15質量%の液状もしくはペースト状成分(b-1)と、ベイト剤全体量に対して4.0~50質量%、好ましくは10~45質量%の固形状成分(b-2)とから構成される。そして、ベイト剤の平均粒径を0.02~3.0mm、好ましくは0.5~2.0mmとなし、採餌アリによるベイト剤の巣への運搬効率を高め、かつ、巣内の働きアリによるアリ類防除成分の巣内伝播効率をも高めたことに特徴を有するものである。
ここで、成分(b)が5.0質量%未満であるとアリ類に対する誘引もしくは摂食刺激作用が不足し、一方、70質量%を越えて配合すると忌避的な作用を生じる恐れがあるので好ましくない。
【0011】
従来の技術によれば、成分(b)を構成するにあたり、液状もしくはペースト状成分(b-1)主体が有利と考えられたが、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、成分(b-1)よりも成分(b-2)の構成比率を高くし、具体的には、その(b-1)/(b-2)比率を1/2~1/40、好ましくは、1/5~1/30に特定することによって、最適な結果が得られることを知見したのである。
すなわち、液状もしくはペースト状成分(b-1)は、採餌アリが小さな素嚢に蓄えて巣に持ち帰り、巣内の働きアリ成虫に移され栄養交換に供される。一方、採餌アリが持ち抱えて巣内に運び込んだ固形状成分(b-2)は、働きアリの幼虫によって吐き戻し液に消化された後、働きアリ成虫に移され、前述の成分(b-1)とブレンドされた形で栄養交換に供される。その明確なメカニズムは不明であるが、成分(b-1)と吐き戻し液が協働して、アリ類防除成分の巣内伝播効率向上に大きく貢献するものと考えられる。
なお、本発明では、液状もしくはペースト状成分(b-1)は、固形状成分(b-2)と均一状に混和されてもよいし、固形状成分(b-2)を覆うようにしてベイト剤を形成してもよく、いずれであっても、高い運搬効率とアリ類防除成分の優れた巣内伝播効率が達成される。
【0012】
液状もしくはペースト状成分(b-1)としては、植物油及び/又は糖蜜が代表的である。植物油には、例えば、大豆油、米糠油、ピーナッツ油、オリーブ油、コーン油、ゴマ油、ヤシ油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ナタネ油、落花生油及びトウモロコシ油等があり、アリ類に対する誘引もしくは摂食刺激作用は、主としてこれらに含まれるオレイン酸、リノール酸、パルミチン酸等に起因するものと考えられている。
一方、本発明で言う糖蜜には、糖分を含んだ液体、シロップ、糖蜜、蜂蜜、砂糖を原料から精製するときに現れる副産物、モラセス、廃糖蜜などが含まれる。
アリ類の種によって誘引もしくは摂食刺激成分(b)に対する嗜好性に差が見られるので、本発明では、植物油及び糖蜜を混用して液状もしくはペースト状(b-1)成分を構成するのが好ましい。
【0013】
これに対し、誘引もしくは摂食刺激成分(b)の固形状成分(b-2)としては、蛋白質粉が代表的にあげられる。蛋白質粉のうち動物性蛋白質粉として、例えば、昆虫の粉(乾燥アカムシ粉、サナギ粉など)、鶏卵末、魚粉、エビ粉等があり、また、グロブリン、グルテン等の植物性蛋白質粉も使用可能である。
なお、後述する砂糖、三温糖、ショ糖のような糖質粉に、誘引もしくは摂食刺激成分(b)の固形状成分(b-2)としての作用が幾分か認められる場合もある得るが、これらはベイト剤成形上の役割が大きいので、本発明ではベイト剤基材(c)に含めるものとする。
【0014】
本発明のアリ類防除剤は、更にベイト剤基材(c)を含有し、ベイト剤を構成する。このような基材としては、小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、きな粉のような穀物粉、砂糖、三温糖、黒砂糖、ショ糖、グラニュー糖のような糖質粉、粘土類(カオリン、ベントナイト類等)、タルク類等の鉱物質粉末、ソルビタン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、アラビアゴム、キサンタンガム等の固着剤、結合剤、増粘剤や分散剤があげられる。また、本発明の趣旨に支障を来たさない限りにおいて、BHT,アスコルビン酸等の酸化防止剤、安息香酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム等の保存安定化剤、安息香酸デナトニウム、トウガラシ末等の誤食防止剤、色素等を適宜添加してもよいことは勿論である。
【0015】
本発明のアリ類防除剤は、構成成分の各々を混合、必要により水を加えて、粉末状、顆粒状、塊状ベイト剤に成形される。その平均粒径は、採餌アリが巣に持ち帰りやすいように0.02~3.0mmに設定する必要があるが、採餌アリがより効率的に運搬できるとともに、アリ類防除剤を施用する際の作業性をも考慮すると、平均粒径が0.5~2.0mm程度の顆粒剤が好ましい。
【0016】
こうして得られた本発明のアリ類防除剤は、アリの巣の存在が発見された付近一帯に1m2あたり5~30g程度散布することによって、クロヤマアリ、アミメアリ、トビイロケアリ、トビイロシワアリ、ルリアリ、クロオオアリ、イエヒメアリ、アルゼンチンアリ、ヒアリ、カミアリ等の広範囲なアリ類に対して実用的な防除効果を示すが、従来のアリ類防除剤では防除困難なヒアリやカミアリに対して特に有用性が高いものである。
【実施例】
【0017】
次に具体的な実施例に基づき、本発明のアリ類防除剤について更に詳細に説明する。
【0018】
<実施例1>
遅効性のアリ類防除成分(a)としてのシラフルオフェンを1.0質量%と、誘引もしくは摂食刺激成分(b)のうちの液状もしくはペースト状成分(b-1)としての大豆油を1.5質量%及び蜂蜜を2.5質量%と、固形状成分(b-2)としての乾燥アカムシ粉を40質量%とに、ベイト剤基材(c)としてのきな粉を32質量%及び三温糖を20質量%と、固着剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)を2.0質量%と、更に保存安定化剤としてのソルビン酸カリウムを1.0質量%加えて均一混合した。これらに水を加えて混練後、平均粒径が2.0mmである顆粒状の本発明のアリ類防除剤(約3mg/個)を得た。なお、この製剤の(b-1)/(b-2)比率は10であった。
【0019】
発見されたヒアリの巣の周囲一帯に、このアリ類防除剤を1m2あたり20g散布したところ、30分後あたりから採餌アリがベイト剤を巣に持ち運び始め、1日後には殆どがなくなった。その後、2週間後にかけて巣に出入りする採餌アリを見かけなくなり、巣を掘り返して調査した結果、女王アリを含め無数の働きアリの死亡が確認された。すなわち、本発明のアリ類防除剤が、採餌アリに対して高い運搬効率を有し、更に、巣内の働きアリによるシラフルオフェンの巣内コロニー全体への伝播効率を高めた結果、ヒアリの巣に壊滅的な効果を与えるに至ったのであり、本発明のアリ類防除剤の優れた実用性と有用性が実証された。
【0020】
<実施例2~12、比較例1~10>
実施例1に準じて表1に示す実施例2~12の各種アリ類防除剤を調製した。なお、他成分としては、実施例7の粉剤タイプ以外は固着剤としてのCMCを2.0質量%と保存安定化剤としてのソルビン酸カリウムを1.0質量%配合し、実施例7の粉剤タイプはソルビン酸カリウム1.0質量%のみを添加した。これらの各種アリ類防除剤につき、下記に示す(1)ベイト剤の運搬性試験及び(2)アリ類防除成分の伝播効率性試験を行った。また、比較のため、表1に示す比較例1~10の各種アリ類防除剤についても、実施例と同様の試験を行った。
【0021】
(1)ベイト剤の運搬性試験
各供試アリ類防除剤20個を直径7cmの濾紙上に載せ、クロヤマアリ、アルゼンチンアリ又はヒアリの各巣から20cm離れた箇所に置いた。アリが全てのベイト剤を運搬するのに要した時間(分)を記録した。試験はアリの巣及びベイト剤の置き場所を無作為に変えて4回反復し、その平均運搬時間(分)を求めた。結果を表2に示す。
【0022】
(2)アリ類防除成分の伝播効率性試験
プラスチック製容器(縦50cm、横70cm、高さ20cm)の中に、石膏を敷いたアクリル製シェルター(縦10cm、横20cm、高さ5cmの直方体状ボックスでその4側面にそれぞれ直径1cmの孔を設置)を1個置いたものをいくつか準備した。クロオオアリ、トビイロシワアリ及びヒアリの各巣から働きアリを採取し、それぞれ約50匹を前述の容器に移し馴化させた。容器あたりのアリ類防除成分の合計量が約1mgになるように所定数の供試各アリ類防除剤を容器に入れた。2時間後、各ベイト剤が食餌され尽くされたのを確認し、それぞれの容器に同種のアリを新たに150匹追加した。この処理から3日後、5日後、及び7日後に供試アリ合計200匹の死虫率(%)を求め、アリ類防除成分の伝播効率を評価した。なお、アリ類防除成分の種類や特性によってアリ類に対する殺虫効力の発現に差があるため、伝播効率の評価は供試した各アリ類防除成分ごとに行った。結果を表3に示す。
【0023】
【0024】
【0025】
試験の結果、本発明のアリ類防除剤、即ち、アリ類に対する誘引もしくは摂食刺激成分(b)は、ベイト剤全体量に対して1.0~20質量%の液状もしくはペースト状成分(b-1)と、ベイト剤全体量に対して4.0~50質量%の固形状成分(b-2)とで構成され、その(b-1)/(b-2)比率は1/2~1/40であり、しかも、前記ベイト剤の平均粒径を0.02~3.0mmとなしたベイト剤は、いずれのアリ種に対しても比較例のベイト剤より平均運搬時間が短く、高い運搬効率を示した。特に、ヒアリに対しては、比較例で見られるように、一般にアルゼンチンアリに対する場合より平均運搬時間が長くなる傾向があるにも関わらず、実施例のベイト剤はアルゼンチンアリに対するのとほぼ同等の平均運搬時間を示し、実用性ならびに有用性の高いことが実証された。
なお、液状もしくはペースト状成分(b-1)としては、植物油と糖蜜成分の併用が好ましかった。
【0026】
一方、比較例1に示すように、速効性のピレスロイド系殺虫成分であるシペルメトリンを用いた場合、採餌アリに対する速やかな殺虫作用が警報フェロモンの放出を伴うなどの理由からアリが離散してしまい、全てのベイト剤が運搬されるに至らなかった。
また、比較例2及び3に示す如く、誘引もしくは摂食刺激成分(b)は、液状もしくはペースト状成分(b-1)と固形状成分(b-2)で構成されることが必須であり、平均粒径が3.0mmを超える比較例6は不適であることも確認された。なお、平均粒径が0.2mm未満の粉剤タイプについては、液状もしくはペースト状成分(b-1)の配合量を高めるとベタツキ等の製剤上の問題を生じやすい傾向が認められた。
【0027】
【0028】
試験の結果、本発明のアリ類防除剤、即ち、即ち、アリ類に対する誘引もしくは摂食刺激成分(b)は、ベイト剤全体量に対して1.0~20質量%の液状もしくはペースト状成分(b-1)と、ベイト剤全体量に対して4.0~50質量%の固形状成分(b-2)とで構成され、その(b-1)/(b-2)比率は1/2~1/40であり、しかも、前記ベイト剤の平均粒径を0.02~3.0mmとなしたベイト剤は、いずれのアリ種に対しても高い死虫率を示し、アリ類防除成分の栄養交換行動が効率的に行われたものと推察された。
なお、実施例における液状もしくはペースト状成分(b-1)としては、植物油と糖蜜成分の併用が好ましく、その伝播効率は、クロオオアリやトビイロシワアリに対するよりヒアリに対して高くなる傾向が認められた。また、アリ類防除成分としてピリプロキシフェンを用いたベイト剤(実施例11及び12、比較例9及び10)では殺虫効力の発現が遅かったが、これはピリプロキシフェンの作用機作に基づくものと考えられる。
【0029】
一方、比較例1に示すように、速効性のピレスロイド系殺虫成分であるシペルメトリンを用いた場合、食餌したアリが初期の段階で死んでしまうため栄養交換行動がスムーズに行われず、全体の死虫率が伸びなかった可能性が考えられる。
また、比較例2及び3に示す如く、誘引もしくは摂食刺激成分(b)は、液状もしくはペースト状成分(b-1)と固形状成分(b-2)で構成されることが必須であり、平均粒径が3.0mmを超える比較例6は不適であることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のアリ類防除剤は、アリ用だけでなく広範な害虫駆除を目的として利用することが可能である。